• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1323269
審判番号 不服2015-7735  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-24 
確定日 2017-01-04 
事件の表示 特願2012-126984「型締装置及び型締方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月30日出願公開、特開2012-162092〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、国際出願日である平成17年3月18日(優先権主張 平成16年3月19日)にされたとみなされる特願2006-511238号(以下、「原出願」という。)の一部を新たな特許出願とした特願2010-112822号の一部をさらに新たな特許出願としたものであって、平成25年7月1日付けで拒絶理由が通知され、同年9月5日に意見書及び特許請求の範囲並びに明細書についての手続補正書が提出され、平成26年5月13日付けで拒絶理由が通知され、同年7月18日に意見書が提出されたが、平成27年1月15日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年4月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲及び明細書についての手続補正書が提出されたので、特許法第162条所定の審査がされた結果、同年7月22日付けで同法第164条第3項所定の報告がされ、同年8月25日に上申書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]
平成27年4月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成27年4月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容

本件補正は、特許請求の範囲及び明細書についての補正である。そして、本件補正の前後における特許請求の範囲の記載は、それぞれ以下のとおりである。

・ 本件補正前(請求項2の記載省略)

「【請求項1】
(a)固定金型が取り付けられた第1の固定部材と、
(b)該第1の固定部材と対向させて配設され、可動金型が取り付けられた第1の可動部材と、
(c)該第1の可動部材と共に進退させられる第2の可動部材と、
(d)前記第1、第2の可動部材間に配設された第2の固定部材と、
(e)前記第1、第2の可動部材を進退させるリニアモータと、
(f)前記第2の可動部材と第2の固定部材とで、電磁石による型締力を発生させる型締力発生機構と、
(g)前記リニアモータ及び型締力発生機構を制御する制御部とを有するとともに、
(h)該制御部は、前記リニアモータのコイルに電流を供給して前記第1、第2の可動部材を型閉じ方向に移動させて可動金型を固定金型に当接させ、可動金型が固定金型に当接すると、リニアモータのコイルへの電流の供給を停止し、型締力発生機構の電磁石のコイルに電流を供給することによって型締力を発生させることを特徴とする型締装置。」

・ 本件補正後(請求項2の記載省略)

「【請求項1】
(a)固定金型が取り付けられた第1の固定部材と、
(b)該第1の固定部材と対向させて配設され、可動金型が取り付けられた第1の可動部材と、
(c)該第1の可動部材と共に進退させられる第2の可動部材と、
(d)前記第1、第2の可動部材間に配設された第2の固定部材と、
(e)前記第1、第2の可動部材を進退させるリニアモータと、
(f)前記第2の可動部材と第2の固定部材とで、電磁石による型締力を発生させる型締力発生機構と、
(g)前記リニアモータ及び型締力発生機構を制御する制御部とを有するとともに、
(h)該制御部は、前記リニアモータのコイルに電流を供給して前記第1、第2の可動部材を型閉じ方向に移動させて可動金型を固定金型に当接させ、可動金型が固定金型に当接すると、リニアモータのコイルへの電流の供給を停止してリニアモータを非駆動の状態にし、型締力発生機構の電磁石のコイルに電流を供給することによって型締力を発生させることを特徴とする型締装置。」(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の目的

本件補正の内、特許請求の範囲についての補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「制御部」について、訂正前の「リニアモータのコイルへの電流の供給を停止し、型締力発生機構の電磁石のコイルに電流を供給する」を、訂正後の「リニアモータのコイルへの電流の供給を停止してリニアモータを非駆動の状態にし、型締力発生機構の電磁石のコイルに電流を供給する」へ補正するものであって、これは、リニアモータの位置制御の終了後に電磁石による型締力の制御を行うことを特定するものであるから、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものである。
しかも、補正の前後で、請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらないから、当該補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

なお、本件補正の請求項1についてする補正は、いわゆる新規事項を追加するものではないと判断される。

3 独立特許要件違反の有無について

上記2のとおりであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。下記4参照)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討するところ、下記5において詳述するように、本件補正は当該要件に違反すると判断される。

4 本願補正発明

本願補正発明は、平成27年4月24日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

本願補正発明
「(a)固定金型が取り付けられた第1の固定部材と、
(b)該第1の固定部材と対向させて配設され、可動金型が取り付けられた第1の可動部材と、
(c)該第1の可動部材と共に進退させられる第2の可動部材と、
(d)前記第1、第2の可動部材間に配設された第2の固定部材と、
(e)前記第1、第2の可動部材を進退させるリニアモータと、
(f)前記第2の可動部材と第2の固定部材とで、電磁石による型締力を発生させる型締力発生機構と、
(g)前記リニアモータ及び型締力発生機構を制御する制御部とを有するとともに、
(h)該制御部は、前記リニアモータのコイルに電流を供給して前記第1、第2の可動部材を型閉じ方向に移動させて可動金型を固定金型に当接させ、可動金型が固定金型に当接すると、リニアモータのコイルへの電流の供給を停止してリニアモータを非駆動の状態にし、型締力発生機構の電磁石のコイルに電流を供給することによって型締力を発生させることを特徴とする型締装置。」

5 本願補正発明が特許を受けることができない理由

(1) 刊行物
刊行物1:特開平10-151649号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、以下、単に「引用文献1」という。)
刊行物2:特開平11-58472号公報(原査定の拒絶の理由において、周知技術の例示として示された引用文献2、以下、単に「引用文献2」という。)
刊行物3:特開2002-292708号公報(原査定の拒絶の理由において、周知技術の例示として示された引用文献3、以下、単に「引用文献3」という。)
刊行物4:特開昭61-154823号公報(原査定において、周知技術の例示として示された文献、以下、単に「引用文献4」という。)
刊行物5:特開平2-172715号公報(原査定において、周知技術の例示として示された文献、以下、単に「引用文献5」という。)
刊行物6:特開平3-215号公報(原査定において、周知技術の例示として示された文献、以下、単に「引用文献6」という。)

(2) 引用文献の記載事項
本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物であることが明らかな引用文献1には、以下の事項が記載されている。

ア 「(a)固定プラテンと、(b)該固定プラテンに取り付けられた固定金型と、(c)前記固定プラテンと所定の間隔を置いて配設されたリヤプラテンと、(d)前記固定プラテンとリヤプラテンとの間に架設されたタイバーに沿って進退自在に配設された可動プラテンと、(e)該可動プラテンに取り付けられた可動金型と、(f)電磁石及び吸着板から成り、電磁石及び吸着板のうちの一方の部材が前記リヤプラテンの背面に固定され、他方の部材が移動自在に配設された電磁石・吸着板ユニットと、(g)一端が前記他方の部材に、他端が前記可動プラテンにそれぞれ固定された加圧ピストンと、(h)正方向及び逆方向に駆動することができる電動機と、(i)該電動機の回転運動を直線運動に変換して加圧ピストンに伝達する運動方向変換手段と、(j)前記一方の部材と他方の部材との間に配設され、他方の部材が傾くのを防止する案内手段とを有することを特徴とする型締装置。」(特許請求の範囲)

イ 「・・・次に、前記構成の型締装置の動作について説明する。図1の状態において、サーボモータ27を正方向に駆動してボールねじ26を正回転させると、該ボールねじ26と螺合させられたボールナット56が前進させられ、ボールナット56の前進に伴って、加圧ピストン17及び吸着板22が前進させられ、更に可動プラテン12が前進させられる。そして、図2に示すように、固定金型15と可動金型16とが接触させられ、型閉じが行われる。・・・」(段落 【0018】)

ウ 「・・・次に、図2の状態において、コイル21に電流を供給すると、吸着板22が電磁石18の吸引力によって吸引され、このとき、電磁石18の吸引力は、電磁積層鋼板52、吸着板フレーム23、型厚調整ナット24、加圧ピストン17及び可動プラテン12に順に伝達され、型締力となって可動金型16を固定金型15に押し付け、型締めが行われる。・・・」(段落 【0019】)

エ 「また、型締力はもっぱら電磁石18の吸引力によって発生させられるので、サーボモータ27にトルクリップルが発生しても、型締力が変動することはない。さらに、型締め時においてサーボモータ27を停止させておくことができるので、サーボモータ27に電流を常時供給する必要がなくなる。したがって、サーボモータ27の消費電力量及び発熱量を少なくすることができ、サーボモータ27の定格出力を小さくすることができ、型締装置のコストを低くすることができる。」(段落 【0021】)

オ 「

」(図1、2)

本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物であることが明らかな引用文献2には、以下の事項が記載されている。

カ 「【請求項1】 支持フレームの一端側に固定金型を取付けた固定プレートを結合固定し、この固定プレートに対しタイバーを使用することなく移動金型を取付けた移動プレートを対向配置すると共に、前記移動プレートを前記支持フレームの他端側に移動手段を介して固定プレートに対して進退自在に構成してなる射出成形機の型締装置において、
支持フレームの他端側に移動手段としてリニアモータを一体的に設け、このリニアモータによって移動する移動部材に移動プレートを連結して、前記移動プレートを固定プレートに対して進退自在に構成することを特徴とする射出成形機の型締装置。」(特許請求の範囲の請求項1)

キ 「・・・リニアモータの特性によって移動プレートの固定プレートに対する移動を円滑に達成することができると共に、型締時の両金型の密着およびズレ防止も簡便かつ容易に達成することができ、装置構成をより簡単に製造することができる・・・」(段落【0008】

本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物であることが明らかな引用文献3には、以下の事項が記載されている。

ク 「【請求項1】 リニアモータを利用した射出成形機の駆動装置において、コイル部又はシャフト部のいずれか一方を固定側とし、かつ他方を可動側として可動部に結合したリニアモータを備えるとともに、前記可動部の位置を直接検出するリニアエンコーダ及びこのリニアエンコーダの検出値と予め設定した指令値により前記可動部に対するフィードバック制御を行う制御部を備えることを特徴とする射出成形機の駆動装置。」(特許請求の範囲の請求項1)

ケ 「・・・可動盤をリニアモータにより駆動するとともに、リニアモータを、二次導体を兼ねるタイバーと、このタイバーを貫通せしめる可動盤に設けられたステータとにより構成したものであり、別途の二次導体を不要にし、型締装置の小型化と製造コストの低減、さらにはメンテナンスの容易化を意図している。」(段落【0003】)

本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物であることが明らかな引用文献4には、以下の事項が記載されている。

コ 「(1)第1段階の型締をリニアモータの可動鉄芯を構成するロッドに連結した可動金型を直線移動して行ない、第2段階の型締を電磁石でロッド端部に設けた吸引部を吸引して所定の圧力で行なうことを特徴とする射出成形機の型締力制御方法。
(2)金型が閉じた第2段階の型締状態で電磁石とロッド端部に設けた吸引部との間にギャップを形成させ、電磁石用コントローラで型締力検出器により検出した検出値と、予め設定した設定値とを比較し、その差に応じた電流を前記電磁石に流すことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の射出成形機の型締力制御方法。」(特許請求の範囲)

本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物であることが明らかな引用文献5には、以下の事項が記載されている。

サ 「(第6実施例)
第8図に本発明の第6実施例を示す。この第6実施例は、型開閉用駆動装置としてリニアモータ49を用いたものである。この第6実施例によっても第1実施例と同様の作用を得ることができる。」(4頁右下欄5行?10行)

本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物であることが明らかな引用文献6には、以下の事項が記載されている。

シ 「これら金型32,36は、たとえば反応射出成形に用いられる金型であるが、射出成形あるいはプレス成形または他の加圧成形等に用いられる金型であっても良い。・・・固定ユニット34は、たとえば共通ベース42の右端上に固定しである。これに対して、移動ユニット38は、共通ベース42上に設けられた案内用レール44上に、この案内用レール44に沿って固定ユニット34ば対して水平方向に前進後退移動可能に装着しである。図示する実施例では、移動ユニット38の底部にリニアベアリング46を取付け、このリニアベアリング46が案内用レール44上を摺接するようにすることで、摩擦力を低下させ、低駆動力で移動ユニット38を移動させることができるようにしである。このような移動ユニット38を案内用レールに沿って移動させるための移動手段としては、圧力シリンダ、リニアモータ等の種々の手段が採用され得るが、・・・」(3頁右上欄下から4行?右下欄6行)

(3)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、上記5(2)アの型締装置が記載されている。ここで、上記5(2)アの型締装置における「電磁石・吸着板ユニット」の電磁石及び吸着板は、そのうちの一方の部材がリアプラテンの背面に固定されるのであるから、「電磁石・吸着ユニット」の一態様として、電磁石がリアプラテンに固定され、吸着板が移動自在に配設されている図1及び図2に示されている態様のものが記載されている。
また、上記5(2)イには「サーボモータ27を正方向に駆動して・・・可動プラテン12が前進させられ・・・固定金型15と可動金型16とが接触させられ、型閉じが行われる」ことが記載され、上記5(2)ウには「コイル21に電流を供給すると、吸着板22が電磁石18の吸引力によって吸引され・・・型締力となって可動金型16を固定金型15に押し付け、型締めが行われる。」と記載されており、当業者の技術常識からみて、サーボモータ(電動機)の駆動及びコイル(電磁石・吸着板ユニット)への電流の供給は、制御部により行われているといえる。
そして、上記5(2)エには、「型締力はもっぱら電磁石18の吸引力によって発生させられる」こと、「型締め時においてサーボモータ27を停止させておくことができるので、サーボモータ27に電流を常時供給する必要がなく」、「サーボモータ27の消費電力量及び発熱量を少なくすることができ」ることが記載されているから、上記5(2)イ及びウの記載も併せみれば、上記5(2)アの型締装置においても、制御部が、電動機を駆動して可動プラテンを前進させて固定金型と可動金型とが接触させて型閉じを行い、型締め時には、電動機を停止させ、電磁石のコイルに電流を供給するように制御しているものが記載されているといえる。
よって、これらの記載を併せ総合すると、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。

「(a)固定プラテンと、(b)該固定プラテンに取り付けられた固定金型と、(c)前記固定プラテンと所定の間隔を置いて配設されたリヤプラテンと、(d)前記固定プラテンとリヤプラテンとの間に架設されたタイバーに沿って進退自在に配設された可動プラテンと、(e)該可動プラテンに取り付けられた可動金型と、(f)電磁石及び吸着板から成り、電磁石が前記リヤプラテンの背面に固定され、吸着板が移動自在に配設された電磁石・吸着板ユニットと、(g)一端が前記他方の部材に、他端が前記可動プラテンにそれぞれ固定された加圧ピストンと、(h)正方向及び逆方向に駆動することができる電動機と、(i)該電動機の回転運動を直線運動に変換して加圧ピストンに伝達する運動方向変換手段と、(j)前記一方の部材と他方の部材との間に配設され、他方の部材が傾くのを防止する案内手段とを有し、
さらに、電動機と電磁石・吸着板ユニットを制御する制御部を有し、制御部は、電動機を駆動して可動プラテンを前進させて固定金型と可動金型とが接触させて型閉じが行われ、型締め時には、電動機を停止させ、電磁石のコイルに電流を供給するように制御する、型締装置。」

(4)本願補正発明と引用発明との対比・判断
引用発明の「固定プラテン」、「可動プラテン」、「リヤプラテン」、「吸着板」は、それぞれ、本願補正発明における「第1の固定部材」、「第1の可動部材」、「第2の固定部材」、「第2の可動部材」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明の「電磁石・吸着板ユニット」は、上記5(2)ウ及びエの記載から、本願補正発明における「型締力発生機構」に相当することは明らかである。
引用発明の「電動機」は、可動プラテンを前進させて固定金型と可動金型とが接触させて型閉じを行うのであるから、本願補正発明の「リニアモータ」と、「前記第1、第2の可動部材を進退させる」という機能を有する駆動部である点で一致している。
そうすると、両者は、

「(a)固定金型が取り付けられた第1の固定部材と、
(b)該第1の固定部材と対向させて配設され、可動金型が取り付けられた第1の可動部材と、
(c)該第1の可動部材と共に進退させられる第2の可動部材と、
(d)前記第1、第2の可動部材間に配設された第2の固定部材と、
(e)前記第1、第2の可動部材を進退させる駆動部と、
(f)前記第2の可動部材と第2の固定部材とで、電磁石による型締力を発生させる型締力発生機構と、
(g)前記駆動部及び型締力発生機構を制御する制御部とを有するとともに、
(h)該制御部は、前記駆動部に電流を供給して前記第1、第2の可動部材を型閉じ方向に移動させて可動金型を固定金型に当接させ、型締め時には、駆動部を停止させ、型締力発生機構の電磁石のコイルに電流を供給することによって型締力を発生させる、型締装置。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
前記第1、第2の可動部材を進退させる駆動部に関し、本願補正発明は「リニアモータ」と特定するのに対し、引用発明は電動機である点。
<相違点2>
制御部による制御に関し、本願補正発明は、「制御部は、可動金型が固定金型に当接すると、」駆動部「への電流の供給を停止して」駆動部「を非駆動の状態に」と特定するのに対し、引用発明は、型締め時には、駆動部を停止させると特定する点。

以下、相違点について検討する。
相違点1について
型開閉動作をリニアモータを利用して行うことは周知(上記(2)における引用文献2ないし6とそれぞれの摘示カないしシ参照)であって、型締め装置に関する本願の原出願の優先日前の当業者において、型締め装置の小型化や製造コストの低減、メンテナンスの容易化は常に考慮している事項であるから、引用発明を採用する具体的な型締装置に応じて、小型化や製造コストの低減、メンテナンスの容易化を目的として、型開閉に利用する電動機として、小型化ができ、製造コストも安く、メンテナンスの容易なリニアモータを利用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
相違点2について
引用発明においても、型開閉のための駆動部である電動機は、消費電力量及び発熱量を少なくするために停止させられているのであるから、引用発明の制御部は、可動金型が固定金型に当接すると、駆動部への電流の供給を停止して、非駆動状態にしているといえるから、相違点2は、実質的な相違点でない。
仮に、実質的な相違点であるとしても、電力消費量及び発熱量を最も効率的に少なくするのは、可動金型が固定金型に当接する位置となったタイミングで駆動部を停止することであることは明らかであるから、駆動部の停止のタイミングを、可動金型が固定金型に当接したタイミングで駆動部への電流の供給を停止して、非駆動状態にすることは当業者が容易に想到し得たことである。
そして、そのことにより、引用発明及び引用文献2ないし6に記載された周知の事項からみて、格別な効果が奏されるとも認められない。

(5)まとめ
本願補正発明は、引用発明及び引用文献2ないし6に記載された周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 補正の却下の決定のむすび

以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

平成26年12月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし2に係る発明は、平成25年9月5日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「(a)固定金型が取り付けられた第1の固定部材と、
(b)該第1の固定部材と対向させて配設され、可動金型が取り付けられた第1の可動部材と、
(c)該第1の可動部材と共に進退させられる第2の可動部材と、
(d)前記第1、第2の可動部材間に配設された第2の固定部材と、
(e)前記第1、第2の可動部材を進退させるリニアモータと、
(f)前記第2の可動部材と第2の固定部材とで、電磁石による型締力を発生させる型締力発生機構と、
(g)前記リニアモータ及び型締力発生機構を制御する制御部とを有するとともに、
(h)該制御部は、前記リニアモータのコイルに電流を供給して前記第1、第2の可動部材を型閉じ方向に移動させて可動金型を固定金型に当接させ、可動金型が固定金型に当接すると、リニアモータのコイルへの電流の供給を停止し、型締力発生機構の電磁石のコイルに電流を供給することによって型締力を発生させることを特徴とする型締装置。」

2 引用文献とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物であることが明らかな特開平10-151649号公報(引用文献1)の記載事項及び引用発明は、上記第2 5(2)及び(3)に記載したとおりである。

3 対比・判断

本願発明は、上記第2 2で述べたとおり、本願補正発明における「リニアモータを非駆動の状態にし」との限定をなくしたものである。
そして、本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が、上述のとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明も、同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-24 
結審通知日 2016-11-01 
審決日 2016-11-14 
出願番号 特願2012-126984(P2012-126984)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
P 1 8・ 575- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深谷 陽子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 上坊寺 宏枝
大島 祥吾
発明の名称 型締装置及び型締方法  
代理人 小島 誠  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ