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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60C
管理番号 1323330
審判番号 不服2016-4960  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-05 
確定日 2017-01-05 
事件の表示 特願2011-181598号「タイヤロードノイズ低減装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月 4日出願公開、特開2013- 43515号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年8月23日に出願されたものであって、平成27年6月16日付けで拒絶理由が通知され、同年8月21日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月18日付けで拒絶査定がされ、平成28年4月5日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年4月5日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年4月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成28年4月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をすることを含むものであって、補正前の請求項1と、補正後の請求項1の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(補正前の請求項1)
「タイヤが発生するロードノイズを打ち消す振動を出力することで前記ロードノイズを低減するタイヤロードノイズ低減装置において、
タイヤが装着されたホイールの周方向における振動を計測するホイール振動計測装置と、
前記ホイール振動計測装置が計測したホイール振動を打ち消す打消し振動を生成する打消し振動生成装置と、
前記打消し振動生成装置が生成した打消し振動を出力する打消し振動出力装置と、
を備えることを特徴とするタイヤロードノイズ低減装置。」

(補正後の請求項1)
「タイヤが発生するロードノイズを打ち消す振動を出力することで前記ロードノイズを低減するタイヤロードノイズ低減装置において、
タイヤが装着されたホイールの周方向における振動を計測するホイール振動計測装置と、
前記ホイール振動計測装置が計測したホイール振動を打ち消す打消し振動を生成する打消し振動生成装置と、
前記打消し振動生成装置が生成した打消し振動を出力する打消し振動出力装置と、
を備え、
前記打消し振動生成装置が位相調整装置を有し、前記位相調整装置は、振動の強度が予め設定された閾値より大きい場合でないとき、または、振動の強度が所定時間以上高いレベルにないとき、位相調整を行わない、
ことを特徴とするタイヤロードノイズ低減装置。」

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無、特別な技術的特徴の変更の有無及び補正の目的の適否について
上記補正において、「前記打消し振動生成装置が位相調整装置を有し、前記位相調整装置は、振動の強度が予め設定された閾値より大きい場合でないとき、または、振動の強度が所定時間以上高いレベルにないとき、位相調整を行わない、」という事項は、願書に最初に添付された明細書の段落【0042】の記載に基いて「打ち消し振動生成装置」に係る発明特定事項を限定するものであって新規事項を追加するものではない。また、本件補正は、特別な技術的特徴を変更(シフト補正)をしようとするものではないことも明らかである。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に適合するものであり、また、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

(2)独立特許要件
ア 刊行物の記載事項並びに刊行物に記載された発明及び技術的事項
(ア)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、本願の出願日前に頒布された特開2005-254918号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同様。)

a 「【請求項1】
タイヤ本体にてホイールのリムに組み付けられて車両に装着される空気入りタイヤにおいて、
前記タイヤ本体もしくは前記ホイールに設置されて振動または騒音の少なくとも一方を検出する振動・騒音検出部と、検出された前記振動または騒音の少なくとも一方に基づき相殺信号を生成する制御部と、前記相殺信号に基づき振動または音波の少なくとも一方を発生する発振部とを含み、且つ前記発振部の振動または音波の少なくとも一方により、前記タイヤ本体もしくは前記ホイールから発生する振動または騒音の少なくとも一方を相殺させることを特徴とする空気入りタイヤ。」

b 「【0002】
空気入りタイヤでは、その基本的構造やトレッドパターンにより振動や騒音が発生し、これを可能な限り抑制したいという課題がある。・・・」

c 「【0027】
図1および図2は、この発明の実施例1にかかる空気入りタイヤを示す構成図(図1)およびフローチャート(図2)である。この空気入りタイヤ1は、タイヤ本体2と、振動・騒音抑制手段3とを含み構成され、ホイールWのリムに組み付けられて(ホイール組立体として)車両Cに装着される(図1参照)。この空気入りタイヤ1は、振動および騒音(以下、振動・騒音という。)を抑制する振動・騒音抑制手段3を有することにより、タイヤ本体2の構造(例えば、タイヤ気室E内の構造やトレッドパターン)を制約することなく振動もしくは騒音または両者の発生を抑制できる点に特徴を有する。・・・」

d 「【0030】
回転検出部31は、タイヤ本体2の回転を検出するセンサーである。この回転検出部31は、例えば、タイヤ本体2もしくはホイールWに設置されて遠心力により回転を検出する遠心スイッチでも良いし、車両CのABS(anti-lock braking system)に含まれる回転検出用のセンサーと共用されても良い。振動・騒音検出部32は、タイヤ本体2からの振動または騒音の少なくとも一方を検出するセンサーである。この振動・騒音検出部32は、例えば、検出対象が振動である場合には加速度計等の振動センサーにより構成され、検出対象が騒音である場合にはマイクロフォンにより構成される。制御部33は、所定の処理を行うICチップ(integrated circuit chip)である。この制御部33は、検出された振動・騒音のデジタル信号に基づき振動・騒音波形の逆位相ならびに出力レベルを演算し、振動・騒音を相殺させる相殺信号を生成する。発振部34は、振動または音波の少なくとも一方を発生する振動体であり、例えば、バイブレーターやスピーカーにより構成される。電源部35は、振動・騒音抑制手段3に電源を供給する。
【0031】
この振動・騒音抑制手段3において、回転検出部31がタイヤ本体2の回転を検出すると(ST1)、振動・騒音検出部32が起動されてタイヤ本体2の振動・騒音をデジタル信号として検出して制御部33に送る(ST2)。当該信号に基づき、制御部33が振動・騒音を相殺させる相殺信号を生成して発振部34に送る(ST3)。そして、この相殺信号に基づき、発振部34が駆動されて振動もしくは音波を発することにより(ST4)、タイヤ本体2からの振動または騒音の少なくとも一方が相殺されて低減される。振動・騒音抑制手段3は、タイヤ本体2の回転中にこの処理(ST1?ST4)を繰り返し、タイヤ本体2の回転停止によりその処理を中断する(ST1)。
【0032】
この空気入りタイヤ1によれば、振動・騒音抑制手段3により、タイヤ本体2の基本的構造(例えば、タイヤ気室E内構造やトレッドパターン)に制約を及ぼすことなく、タイヤ本体2から発生する振動もしくは騒音または両者を効果的に抑制できる利点がある。
【0033】
なお、この空気入りタイヤ1において、振動・騒音抑制手段3の構成要素31?35は、すべてタイヤ本体2もしくはホイールW内に設置されることが好ましい。これにより、製品(空気入りタイヤ1もしくはホイール組立体1、W)をコンパクト化できる利点がある。」

e 「【0036】
また、この空気入りタイヤ1において、発振部34は、タイヤ本体2(もしくはホイールW)に設置されることが好ましい。これにより、振動・騒音の発生源であるタイヤ本体2(もしくはホイールW)にて振動・騒音を抑制できるので、車室内への振動・騒音の伝達のみならず車室外への伝達をも抑制できる利点がある。」

(イ)刊行物1に記載された発明
上記(ア)a、d、eより、「振動・騒音発生部32」は、「ホイールW」の「振動」を検出する場合を含むことが把握できる。また、上記(ア)aには「ホイールに設置されて振動・・・を検出」、「ホイールから発生する振動・・・相殺させる」との記載があり、上記(ア)eには「振動・騒音の発生源であるタイヤ本体2(もしくはホイールW)にて振動・騒音を抑制できる」との記載があるが、ホイールWにはタイヤ本体2が組み付けられるものであるから、「ホイールW」単体ではなく、「タイヤ本体2が組み付けられたホイールW」の振動を検出し、その振動を相殺させるものであることは明らかである。
以上のことから、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「空気入りタイヤ1が発生する振動を相殺する振動を出力することで前記振動を低減する振動・騒音抑制手段3において、
ホイールWに設置されてタイヤ本体2が組み付けられたホイールWの振動を検出する振動・騒音検出部32と、
前記振動・騒音検出部32が検出した振動を相殺させる相殺信号を生成する制御部33と、
前記制御部33が生成した相殺信号に基づき振動を発生する発信部34と、
を備えた振動・騒音抑制手段3。」

(ウ)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献4として示され、本願の出願日前に頒布された特開2006-64822号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
a 「【請求項1】
タイヤの空気室内の空洞共鳴音を打ち消す打消し音を前記空気室内に出力することにより、前記空洞共鳴音を低減するタイヤ空洞共鳴音低減装置であって、
前記空気室内の音を収集する集音手段と、
前記集音手段で収集した音を解析して空洞共鳴の原因となる音の周波数及びその強度を求める共鳴音解析手段と、
前記共鳴音解析手段で求めた周波数と同じ周波数で同じ強度の音を合成するためのデータを生成する合成音データ生成手段と、
前記合成音データ生成手段で生成したデータに基づき音を出力する際の位相を調整して打消し音とする位相調整手段と、
前記位相調整手段で調整した打消し音を出力する打消し音出力手段を含んで構成されることを特徴とするタイヤ空洞共鳴音低減装置。」

b 「【0015】
ロードノイズは、前記したとおり車両Cの走行により発生する。このロードノイズのうち、乗員に不快感を与える要因の一つとして、タイヤTの内部にある空気室で発生するタイヤ空洞共鳴音があげられる。本実施形態では、車両Cの走行により発生するロードノイズ(空洞共鳴音)を、タイヤ空洞共鳴音低減装置1により打ち消すことで低減(消滅)させる。」

c 「【0019】
図4(a)は、図3に示すタイヤ空洞共鳴音低減装置の内部構成を示すブロック構成図である。この図4(a)に示すように、タイヤ空洞共鳴音低減装置1は、ロードノイズを収集するマイク1a、マイク1aがロードノイズを集音した際に出力するアナログ信号をデジタル信号化して音データとするAD変換器1b、演算処理手段10、演算処理手段10が出力する打消し音のデジタル信号をアナログ信号化するDA変換器1c、打消し音を音源(空気室内)に向けて出力するスピーカ1d等を含んで構成される。
【0020】
前記した各構成のうち、演算処理手段10は、入力インタフェース11、データ記憶手段12、FFT(Fast Fourier Transform)解析手段13、合成音データ生成手段14、位相調整手段15、出力インタフェース16等を含んで構成される。」

d 「【0032】
次に、位相調整の必要があるか否かを判断し(S18)、必要がない場合は(No)、位相調整を行わない、つまり前回値と同じ位相のままである。ちなみに、位相の初期値は0であるとする。一方、位相調整の必要がある場合は(Yes)、位相調整手段15で波長周期の所定角度(位相調整量)分、位相調整する。ちなみに図4(b)の例でいえば、位相調整は、周波数A、Bそれぞれ独立に行われるものとする。このため、位相調整手段15は、複数の合成音データの位相調整を独立して行える構成をしているものとする。なお、この実施形態では、位相調整量は5度とか10度とか、予め設定されるものとする。
【0033】
なお、位相調整が必要な場合とは、例えば、FFT解析手段13で解析した音の強度が、前回値よりも増加(閾値以上増加)した場合や、音の強度が所定時間以上(所定の演算処理回数以上)高いレベルにある場合である。もちろんこのような場合は、強度が低減する方向に位相を調整する。」

(エ)刊行物2に記載された技術的事項
上記(ウ)dの段落【0033】には「位相調整が必要な場合」の例示の条件の記載があるが、逆にいえば、当該条件を満たさないとき、すなわち「音の強度が、前回値よりも増加(閾値以上増加)していない場合」や、「音の強度が所定時間以上(所定の演算処理回数以上)高いレベルにない場合」は、「位相調整を行わない」といえるものである。
以上のことから、刊行物2には、次の技術的事項が記載されているものと認める。
「タイヤTの空気室内の空洞共鳴音(ロードノイズ)を打ち消す打消音を前記空気室内に出力することにより、空洞共鳴音(ロードノイズ)を低減するタイヤ空洞共鳴音低減装置1であって、
前記空気室内の音を収集するマイク1aと、
前記マイク1aで収集した音を解析して空洞共鳴の原因となる音の周波数及びその強度を求め、打消し音の信号を出力する演算処理手段10と、
前記演算処理手段10が出力した打消し音を出力するスピーカ1dと、
を備え、
前記演算処理手段10が位相調整手段15を含んで構成され、前記位相調整手段15は、音の強度が、前回値よりも増加(閾値以上増加)していない場合や、音の強度が所定時間以上(所定の演算処理回数以上)高いレベルにない場合、位相調整を行わないタイヤ空洞共鳴音低減装置1。」

イ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「タイヤ本体2」は本願補正発明の「タイヤ」に相当し、以下同様に、「ホイールW」は「ホイール」に、「組み付けられた」は「装着された」に、「検出」は「計測」に、「相殺させる相殺信号」は「打ち消す打消し振動」に、「制御部33」は「打消し振動出力装置」にそれぞれ相当する。また、引用発明の「振動・騒音検出手段32」は振動を検出する手段を含むものであるから、本願補正発明の「ホイール振動計測装置」に相当する。

(イ)引用発明の「空気入りタイヤ1が発生する振動を相殺する振動を出力することで前記振動を低減する振動・騒音抑制手段3」という事項と、本願補正発明の「タイヤのロードノイズを打ち消す振動を出力することで前記ロードノイズを低減するタイヤロードノイズ低減装置」という事項について検討する。
まず、引用発明の「空気入りタイヤ1」は、本願補正発明の「タイヤ」を充足するといえる。
また、本願補正発明における「ロードノイズ」について検討するに、本願明細書の段落【0002】には「タイヤロードノイズ(タイヤ空洞共鳴音)」と記載されており、同【0006】には「即ち、騒音は、タイヤの振動がホイールからサスペンションやボディに伝達して最終的に車室内のパネルが振動して音になる固体伝播音(間接音)と、・・・この場合、固体伝播音は、ロードノイズなどであり」と記載されていることより、振動を伴うものであることは明らかである。そして、振動にはロードノイズが含まれるから、引用発明の「空気入りタイヤ1が発生する振動」は、本願補正発明の「タイヤが発生するロードノイズ」に相当する。

(ウ)引用発明の「ホイールWに設置されて、タイヤ本体2が組み付けられたタイヤホイールWの振動を検出する振動・騒音検出部32と」という事項と、本願補正発明の「タイヤが装着されたホイールの周方向における振動を計測するホイール振動計測装置と」という事項とは、「タイヤが装着されたホイールの振動を計測するホイール振動計測装置と」の限度で一致するといえる。

(エ)引用発明の「前記制御部33が生成した相殺信号に基づき振動を発生する発信部34と」という事項と、本願補正発明の「前記打消し振動生成装置が生成した打消し振動を出力する打消し振動出力装置と」という事項について検討するに、前者の「相殺信号に基づき振動を発生させる」ということは、後者の「打消し振動を出力する」ということに相当するといえる。
したがって、前者の事項は後者の事項に相当するといえる。

(オ)以上のことから、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「タイヤが発生するロードノイズを打ち消す振動を出力することで前記ロードノイズを低減するタイヤロードノイズ低減装置において、
タイヤが装着されたホイールの振動を計測するホイール振動計測装置と、
前記ホイール振動計測装置が計測したホイール振動を打ち消す打消し振動を生成する打消し振動生成装置と、
前記打消し振動生成装置が生成した打消し振動を出力する打消し振動出力装置と、
を備えたタイヤロードノイズ低減装置。」

[相違点1]
「計測」対象としての「振動」の方向に関し、本願補正発明は、「タイヤが装着されたホイールの周方向」であるのに対し、引用発明は、当該方向について明らかでない点。

[相違点2]
「打消し振動生成装置」に関し、本願補正発明が「位相調整装置を有し、前記位相調整装置は、振動の強度が予め設定された閾値より大きい場合でないとき、または、振動の強度が所定時間以上高いレベルにないとき、位相調整を行わない」というものであるのに対し、引用発明は当該位相調整装置を有していない点。

相違点の判断
[相違点1]について
ロードノイズの原因となる振動は、タイヤが装着されたホイールの周方向の成分が含まれており、ロードノイズ低減のため、その周方向の振動に対処するようにすることは、原査定において引用文献5として示された特開2007-223425号公報の段落【0018】に記載されるように、本願出願前の周知の技術的事項である。そして、上記周知の技術的事項に鑑み、引用発明においてもタイヤ本体2が組み付けられたホイールWの周方向における振動を計測の対象として設定することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本願補正発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

[相違点2]について
上記ア(エ)で述べた刊行物2に記載された技術的事項は、本願補正発明とは異なり、「振動」ではなく「音」を計測し「打消し音」により「タイヤ空洞共鳴音(ロードノイズ)」を低減させるものではあるが、「演算処理手段10」が「位相調整手段15」を含むものであり、当該「位相調整手段15」は「音の強度が、前回値よりも増加(閾値以上増加)していない場合や、音の強度が所定時間以上(所定の演算処理回数以上)高いレベルにない場合、位相調整を行わない」という事項を有するものである。
ここで、振動であっても音であっても、実際の走行時には、その波形が常に一定となるわけではないことは明らかであって、引用発明においてもそのような状況に対応しようとすることは、当業者にとって自然な発想といえる。そして、そのような状況に対応すべく、刊行物2に記載された技術的事項のうち、少なくとも「音の強度が所定時間以上(所定の演算処理回数以上)高いレベルにない場合、位相調整を行わない」という技術を参酌し、引用発明の「打消し振動生成装置」においても「位相調整装置を有し、前記位相調整装置は、振動の強度が所定時間以上高いレベルにないとき、位相調整を行わない」ものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
したがって、引用発明において、相違点2に係る本願補正発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明の作用効果について検討しても、引用発明、刊行物2に記載された技術的事項及び周知の技術的事項から当業者が予測できる範囲のものといえる。

エ まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項並びに周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成27年8月21日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 1(補正前の請求項1)」に記載されたとおりである。

第4 刊行物とその記載事項等
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物とその記載事項は、上記「第2 2(2)ア(ア)、(ウ)」に記載したとおりであり、その刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、上記「第2 2(2)ア(イ)、(エ)」に記載したとおりである。

第5 当審の判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から「前記打消し振動生成装置が位相調整装置を有し、前記位相調整装置は、振動の強度が予め設定された閾値より大きい場合でないとき、または、振動の強度が所定時間以上高いレベルにないとき、位相調整を行わない」という限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2(2)イ?エ」で述べたとおり、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項並びに周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものといえる。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-02 
結審通知日 2016-11-08 
審決日 2016-11-22 
出願番号 特願2011-181598(P2011-181598)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60C)
P 1 8・ 121- Z (B60C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高島 壮基  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 小原 一郎
一ノ瀬 覚
発明の名称 タイヤロードノイズ低減装置  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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