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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
管理番号 1323445
異議申立番号 異議2016-700164  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-24 
確定日 2016-10-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5770395号発明「繊維強化プラスチック接合体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5770395号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[5-16]について、一群の請求項ごとに訂正することを認める。 特許第5770395号の請求項5ないし16に係る特許を維持する。 特許第5770395号の請求項1ないし4に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第5770395号(設定登録時の請求項の数は9。以下、「本件特許」という。)は、平成26年7月24日(優先権主張 平成25年7月24日)を国際出願日とする特願2014-560182号に係るものであって、平成27年7月3日に設定登録された。
特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成28年2月24日、本件特許の請求項1ないし9に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当審において、平成28年4月21日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、同年6月24日付けで、訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)及び意見書を提出したので、異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、異議申立人は、同年8月1日付けで意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

本件訂正の内容は以下のア?セのとおりである。なお、下線については訂正箇所に合議体が付したものである。

訂正事項ア
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

訂正事項イ
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

訂正事項ウ
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

訂正事項エ
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

訂正事項オ
本件訂正前の請求項5に、
「少なくとも2つの繊維強化樹脂成形体の表面同士を接触させ、当該接触させた面とは反対側の少なくとも1つの繊維強化樹脂成形体の表面に、超音波溶着用のホーンに加圧力をかけて押し当て、超音波を印加して繊維強化樹脂成形体同士を溶着させる、請求項1?4のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体を製造する方法であって、
ホーンにかかる溶着前の加圧力が、溶着中のホーンにかかる加圧力の20?100%の範囲である、繊維強化プラスチック接合体の製造方法。」
とあったのを、請求項1を引用するものについて独立形式に改め、
「少なくとも2つの繊維強化樹脂成形体の表面同士を接触させ、当該接触させた面とは反対側の少なくとも1つの繊維強化樹脂成形体の表面に、超音波溶着用のホーンに加圧力をかけて押し当て、超音波を印加して繊維強化樹脂成形体同士を溶着させる、
炭素繊維と、マトリクスとして熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂成形体同士が超音波溶着により固定されてなる接合部(BP1)を有する繊維強化プラスチック接合体であって、当該熱可塑性樹脂から実質的になる樹脂成形体同士が当該接合部(BP1)における超音波溶着と同一の条件による超音波溶着により固定されてなる接合部(BP2)を有する樹脂接合体を基準としたとき、
(i)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における引張せん断荷重が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における引張せん断荷重の3?5.4倍の範囲であり、
(ii)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における十字引張荷重が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における十字引張荷重の2?3.5倍の範囲であり、かつ
(iii)前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における溶着面積が、前記樹脂接合体の接合部(BP2)における溶着面積の2?10倍の範囲である、
繊維強化プラスチック接合体を製造する方法であって、
ホーンにかかる溶着前の加圧力が、溶着中のホーンにかかる加圧力の20?100%の範囲である、繊維強化プラスチック接合体の製造方法。」
に訂正する。

訂正事項カ
本件訂正前の請求項5に、「請求項1?4いずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体を製造する方法」とあったのを、請求項1を引用する請求項2を引用するものについて、訂正後の請求項5(訂正事項オ)を引用するものとし、訂正後の請求項10として、
「前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)の引張せん断荷重が1.5?5.0kNの範囲であり、十字引張荷重が0.8?2.5kNの範囲である、請求項5に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。」に訂正する。

訂正事項キ
本件訂正前の請求項5に、「請求項1?4いずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体を製造する方法」とあったのを、請求項1または2を引用する請求項3を引用するものについて、訂正後の請求項5(訂正事項オ)または訂正後の請求項10(訂正事項カ)を引用するものとし、訂正後の請求項11として、
「前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)の引張せん断荷重が2.5?3.8kNの範囲であり、十字引張荷重が0.8?1.4kNの範囲である、請求項5又は請求項10に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。」に訂正する。

訂正事項ク
本件訂正前の請求項5に、「請求項1?4いずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体を製造する方法」とあったのを、請求項1?3のいずれか1項を引用する請求項4を引用するものについて、訂正後の請求項5、10、11を引用するものとし、訂正後の請求項12として、
「前記繊維強化樹脂成形体が炭素繊維の等方性ランダムマットと熱可塑性樹脂とから構成され、前記等方性ランダムマットにおける下記式(a)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束の前記等方性ランダムマット中の炭素繊維全量に対する割合が20Vol%以上99Vol%未満であり、前記炭素繊維束中の平均繊維数(N)が下記式(b)を満たす、請求項5、10または11に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
臨界単糸数=600/D (a)
0.6×10^(4)/D^(2)<N<1×10^(5)/D^(2) (b)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である。)」に訂正する。

訂正事項ケ
本件訂正前の請求項6に、「前記溶着前のホーンと繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力が50MPa以上である、請求項5に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。」とあったのを、訂正後の請求項10?12のいずれか1項を引用するものとし、訂正後の請求項13として、
「前記溶着前のホーンと繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力が50MPa以上である、請求項10?12のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。」に訂正する。

訂正事項コ
本件訂正前の請求項7に、「前記繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率が10?40GPaである請求項5または6に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。」とあったのを、訂正後の請求項10?13のいずれか1項を引用するものとし、訂正後の請求項14として、
「前記繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率が10?40GPaである請求項10?13のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。」に訂正する。

訂正事項サ
本件訂正前の請求項8に、「前記繊維強化樹脂成形体の表面Raが0.2?5μmである請求項5?7のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。」とあったのを、訂正後の請求項10?14のいずれか1項を引用するものとし、訂正後の請求項15として、
「前記繊維強化樹脂成形体の表面Raが0.2?5μmである請求項10?14のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。」に訂正する。

訂正事項シ
本件訂正前の請求項9に、「前記ホーンが先端部に向けて傾斜を有している請求項5?8のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。」とあったのを、訂正後の請求項10?15のいずれか1項を引用するものとし、訂正後の請求項16として、
「前記ホーンが先端部に向けて傾斜を有している請求項10?15のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。」に訂正する。

訂正事項ス
本件訂正前の【発明の名称】である「繊維強化プラスチック接合体及びその製造方法」を、
「繊維強化プラスチック接合体の製造方法」に訂正する。

訂正事項セ
本件補正前の明細書の段落【0009】に記載された
「すなわち本発明は、下記<1>?<9>に記載された事項に関する。
<1>
炭素繊維と、マトリクスとして熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂成形体同士が超音波溶着により固定されてなる接合部(BP1)を有する繊維強化プラスチック接合体であって、当該熱可塑性樹脂から実質的になる樹脂成形体同士が当該接合部(BP1)における超音波溶着と同一の条件による超音波溶着により固定されてなる接合部(BP2)を有する樹脂接合体を基準としたとき、
(i)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における引張せん断荷重が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における引張せん断荷重の3?5.4倍の範囲であり、
(ii)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における十字引張荷重が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における十字引張荷重の2?3.5倍の範囲であり、かつ
(iii)前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における溶着面積が、前記樹脂接合体の接合部(BP2)における溶着面積の2?10倍の範囲である、
ことを特徴とする繊維強化プラスチック接合体。
<2>
前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)の引張せん断荷重が1.5?5.0kNの範囲であり、十字引張荷重が0.8?2.5kNの範囲である、<1>に記載の繊維強化プラスチック接合体。
<3>
前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)の引張せん断荷重が2.5?3.8kNの範囲であり、十字引張荷重が0.8?1.4kNの範囲である、<1>または<2>に記載の繊維強化プラスチック接合体。
<4>
前記繊維強化樹脂成形体が炭素繊維の等方性ランダムマットと熱可塑性樹脂とから構成され、前記等方性ランダムマットにおける下記式(a)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束の前記等方性ランダムマット中の炭素繊維全量に対する割合が20Vol%以上99Vol%未満であり、前記炭素繊維束中の平均繊維数(N)が下記式(b)を満たす、<1>?<3>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体。
臨界単糸数=600/D (a)
0.6×10^(4)/D^(2)<N<1×10^(5)/D^(2) (b)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である。)
<5>
少なくとも2つの繊維強化樹脂成形体の表面同士を接触させ、当該接触させた面とは反対側の少なくとも1つの繊維強化樹脂成形体の表面に、超音波溶着用のホーンに加圧力をかけて押し当て、超音波を印加して繊維強化樹脂成形体同士を溶着させる、<1>?<4>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体を製造する方法であって、
ホーンにかかる溶着前の加圧力が、溶着中のホーンにかかる加圧力の20?100%の範囲である、繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<6>
前記溶着前のホーンと繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力が50MPa以上である、<5>に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<7>
前記繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率が10?40GPaである<5>または<6>に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<8>
前記繊維強化樹脂成形体の表面Raが0.2?5μmである<5>?<7>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<9>
前記ホーンが先端部に向けて傾斜を有している<5>?<8>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
なお、本発明は上記<1>?<9>に記載された事項に関するものであるが、参考のためその他の事項(たとえば下記[1]?[6])についても記載する。」を、
「すなわち本発明は、下記<5>?<16>に記載された事項に関する。
<5>
少なくとも2つの繊維強化樹脂成形体の表面同士を接触させ、当該接触させた面とは反対側の少なくとも1つの繊維強化樹脂成形体の表面に、超音波溶着用のホーンに加圧力をかけて押し当て、超音波を印加して繊維強化樹脂成形体同士を溶着させる、
炭素繊維と、マトリクスとして熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂成形体同士が超音波溶着により固定されてなる接合部(BP1)を有する繊維強化プラスチック接合体であって、当該熱可塑性樹脂から実質的になる樹脂成形体同士が当該接合部(BP1)における超音波溶着と同一の条件による超音波溶着により固定されてなる接合部(BP2)を有する樹脂接合体を基準としたとき、
(i)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における引張せん断荷重が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における引張せん断荷重の3?5.4倍の範囲であり、
(ii)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における十字引張荷重が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における十字引張荷重の2?3.5倍の範囲であり、かつ
(iii)前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における溶着面積が、前記樹脂接合体の接合部(BP2)における溶着面積の2?10倍の範囲である、
繊維強化プラスチック接合体を製造する方法であって、
ホーンにかかる溶着前の加圧力が、溶着中のホーンにかかる加圧力の20?100%の範囲である、繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<6>
前記溶着前のホーンと繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力が50MPa以上である、<5>に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<7>
前記繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率が10?40GPaである<5>または<6>に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<8>
前記繊維強化樹脂成形体の表面Raが0.2?5μmである<5>?<7>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<9>
前記ホーンが先端部に向けて傾斜を有している<5>?<8>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<10>
前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)の引張せん断荷重が1.5?5.0kNの範囲であり、十字引張荷重が0.8?2.5kNの範囲である、<5>に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<11>
前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)の引張せん断荷重が2.5?3.8kNの範囲であり、十字引張荷重が0.8?1.4kNの範囲である、<5>又は<10>に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<12>
前記繊維強化樹脂成形体が炭素繊維の等方性ランダムマットと熱可塑性樹脂とから構成され、前記等方性ランダムマットにおける下記式(a)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束の前記等方性ランダムマット中の炭素繊維全量に対する割合が20Vol%以上99Vol%未満であり、前記炭素繊維束中の平均繊維数(N)が下記式(b)を満たす、請求項5、10または11に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
臨界単糸数=600/D (a)
0.6×10^(4)/D^(2)<N<1×10^(5)/D^(2) (b)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である。)
<13>
前記溶着前のホーンと繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力が50MPa以上である、<10>?<12>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<14>
前記繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率が10?40GPaである<10>?<13>いずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<15>
前記繊維強化樹脂成形体の表面Raが0.2?5μmである<10>?<14>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<16>
前記ホーンが先端部に向けて傾斜を有している<10>?<15>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
なお、本発明は上記<5>?<16>に記載された事項に関するものであるが、参考のためその他の事項(たとえば下記[1]?[6])についても記載する。」
に訂正する。(なお、下線は、訂正された箇所である。)

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1) 訂正事項ア?エについて
訂正事項ア?エは、特許請求の範囲の請求項1ないし4を削除するというものであるから、当該訂正事項ア?エは、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項ア?エは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項オについて
訂正事項オは、訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれか1項を引用する記載であったものを、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして、当該訂正事項オは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3) 訂正事項カについて
訂正事項カは、訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれか1項を引用する記載であったものを、請求項1を引用する請求項2を引用するものとし、それ以外を引用しないものとしたものであって、請求項間の引用関係を一部解消し、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして、当該訂正事項カは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4) 訂正事項キについて
訂正事項キは、訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれか1項を引用する記載であったものを、請求項1又は請求項2を引用する請求項3を引用するものとし、それ以外を引用しないものとしたものであって、請求項間の引用関係を一部解消し、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして、当該訂正事項キは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5) 訂正事項クについて
訂正事項クは、訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれか1項を引用する記載であったものを、請求項1?3のいずれか1項を引用する請求項4を引用するものとし、それ以外を引用しないものとしたものであって、請求項間の引用関係を一部解消し、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして、当該訂正事項クは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6) 訂正事項ケについて
訂正事項ケは、訂正前の請求項6が請求項1?4のいずれか1項を引用する請求項5を引用する記載であったものを、請求項2?4のいずれか1項を引用する請求項5を引用するものとし、それ以外を引用しないものとしたものであって、請求項間の引用関係を一部解消し、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして、当該訂正事項クは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7) 訂正事項コについて
訂正事項コは、訂正前の請求項7が請求項1?4のいずれか1項を引用する請求項5又は請求項6を引用する記載であったものを、請求項2?4のいずれか1項を引用する請求項5又は6を引用するものとし、それ以外を引用しないものとしたものであって、請求項間の引用関係を一部解消し、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして、当該訂正事項コは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(8) 訂正事項サについて
訂正事項サは、訂正前の請求項8が請求項1?4のいずれか1項を引用する請求項5?7のいずれか1項を引用する記載であったものを、請求項2?4のいずれか1項を引用する請求項5?7のいずれか1項を引用するものとし、それ以外を引用しないものとしたものであって、請求項間の引用関係を一部解消し、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして、当該訂正事項サは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(9) 訂正事項シについて
訂正事項シは、訂正前の請求項9が請求項1?4のいずれか1項を引用する請求項5?8のいずれか1項を引用する記載であったものを、請求項2?4のいずれか1項を引用する請求項5?8のいずれか1項を引用するものとし、それ以外を引用しないものとしたものであって、請求項間の引用関係を一部解消し、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして、当該訂正事項シは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(10) 訂正事項スについて
訂正事項スは、訂正前の発明の名称が「繊維強化プラスチック接合体及びその製造方法」であったもののうち「繊維強化プラスチック接合体」を削除し、「繊維強化プラスチック接合体の製造方法」にしたものであるから、上記訂正事項ア?シに係る訂正に伴い特許請求の範囲と明細書の記載を整合を図るための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号を目的とする訂正である。
そして、当該訂正事項スは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(11) 訂正事項セについて
訂正事項セは、上記訂正事項ア?シに係る訂正に伴い特許請求の範囲と明細書の記載を整合を図るための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号を目的とする訂正である。
そして、当該訂正事項スは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(12) 一群の請求項について

上記訂正事項ア?セの訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

3 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[5-16]について、一群の請求項ごとに訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項5ないし16に係る発明(以下、それぞれ「本件発明5」ないし「本件発明16」という。)は、平成28年6月24日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項5ないし16に記載された事項により特定される以下に記載のとおりのものである。

「【請求項5】
少なくとも2つの繊維強化樹脂成形体の表面同士を接触させ、当該接触させた面とは反対側の少なくとも1つの繊維強化樹脂成形体の表面に、超音波溶着用のホーンに加圧力をかけて押し当て、超音波を印加して繊維強化樹脂成形体同士を溶着させる、
炭素繊維と、マトリクスとして熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂成形体同士が超音波溶着により固定されてなる接合部(BP1)を有する繊維強化プラスチック接合体であって、当該熱可塑性樹脂から実質的になる樹脂成形体同士が当該接合部(BP1)における超音波溶着と同一の条件による超音波溶着により固定されてなる接合部(BP2)を有する樹脂接合体を基準としたとき、
(i)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における引張せん断荷重が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における引張せん断荷重の3?5.4倍の範囲であり、
(ii)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における十字引張荷重が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における十字引張荷重の2?3.5倍の範囲であり、かつ
(iii)前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における溶着面積が、前記樹脂接合体の接合部(BP2)における溶着面積の2?10倍の範囲である、
繊維強化プラスチック接合体を製造する方法であって、
ホーンにかかる溶着前の加圧力が、溶着中のホーンにかかる加圧力の20?100%の範囲である、繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項6】
前記溶着前のホーンと繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力が50MPa以上である、請求項5に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項7】
前記繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率が10?40GPaである請求項5または6に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項8】
前記繊維強化樹脂成形体の表面Raが0.2?5μmである請求項5?7のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項9】
前記ホーンが先端部に向けて傾斜を有している請求項5?8のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項10】
前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)の引張せん断荷重が1.5?5.0kNの範囲であり、十字引張荷重が0.8?2.5kNの範囲である、請求項5に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項11】
前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)の引張せん断荷重が2.5?3.8kNの範囲であり、十字引張荷重が0.8?1.4kNの範囲である、請求項5又は請求項10に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項12】
前記繊維強化樹脂成形体が炭素繊維の等方性ランダムマットと熱可塑性樹脂とから構成され、前記等方性ランダムマットにおける下記式(a)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束の前記等方性ランダムマット中の炭素繊維全量に対する割合が20Vol%以上99Vol%未満であり、前記炭素繊維束中の平均繊維数(N)が下記式(b)を満たす、請求項5、10または11に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
臨界単糸数=600/D (a)
0.6×10^(4)/D^(2)<N<1×10^(5)/D^(2) (b)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である。)
【請求項13】
前記溶着前のホーンと繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力が50MPa以上である、請求項10?12のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項14】
前記繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率が10?40GPaである請求項10?13のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項15】
前記繊維強化樹脂成形体の表面Raが0.2?5μmである請求項10?14のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項16】
前記ホーンが先端部に向けて傾斜を有している請求項10?15のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。」

第4 取消理由の概要

平成28年4月21日付けで通知した取消理由は、本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の請求項1の「引張せん断荷重」及び「十字引張荷重」が、いかなる技術的な意味を有しているのかわからず、明確でないため、また、本件特許の請求項1ないし4についての特許は、製造方法により特定されている物であるから明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(取消理由1)というもの、本件特許の請求項1?4についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきもの(取消理由2)というものと、本件特許の請求項1?9についての特許は、具体的な実施例の記載において、重ね合わされる成形板(I’)は、厚さ2.3mmプラスチック成形板(I)を2枚重ねてプレス成形したものであるから、当該接合体の厚みは、上記の測定方法の厚みと異なっており、実施例において、どのように引張せん断荷重と十字せん断荷重を測定したのかがわからず、当業者においても、実施例さえ追試できないものであり、上記発明特定事項を有する本件発明1の繊維強化プラスチック接合体であって、本願の課題を解決した接合体を得るには、当業者においても、過度の試行錯誤を要するものといえ、発明の詳細な説明は、当業者においても、本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、本件発明1を引用する本件発明2ないし9も同様であって、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(取消理由3)というものである。

第5 取消理由に対する当審の判断

当審は、上記取消理由1ないし3につき、いずれも理由がないものであるから、訂正後の請求項5ないし16に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものでなく、また、訂正後の請求項1ないし4については、いずれも削除されたことにより、請求項1ないし4についての特許異議申立は、いずれも不適法なものとして却下すべきもの、と判断する。以下、詳述する。

1 取消理由1(特許法第36条第6項第2項)について
本件訂正後の請求項5における「引張せん断荷重」及び「十字引張荷重」について、本件特許の明細書の段落【0030】には、「繊維強化プラスチック接合体の引張せん断荷重および十字引張荷重は、自動車技術会1987年 No.406-87に従って測定した。具体的には、引張せん断荷重は、試験片のサイズが25mm×100mm×2.5mm、引張速度5mm/s、十字引張荷重は、試験片のサイズが25mm×75mm×2.5mm、引張速度5mm/sで行った。」と記載されている。
そして、当該記載における「自動車技術会1987年 No.406-87」を確認すると、「参考 成形品の接着性能試験方法」(13頁)に、3.1として「引張りせん断接着強さ試験」、3.2として「クロスピール接着強さ試験」(14頁)の項があり、参考図1(13頁)として引張りせん断接着強さ試験に使用する試験片、参考図2(14頁)にクロスピール接着試験に使用する試験片が図示されていて、上記段落【0030】の記載の試験片サイズと一致している。
そうすると、本件訂正後の請求項5における「引張せん断荷重」及び「十字引張荷重」は、当業者において、「自動車技術会1987年 No.406-87」に記載されている「引張りせん断接着強さ試験」及び「クロスピール接着強さ試験」における試験片が破壊するまでの最大荷重を表していると理解できるから、明確である。
以上のとおりであるから、取消理由1には理由がない。

2 取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について
取消理由2に係る請求項1ないし4は、本件訂正により削除されたので、訂正前の請求項1ないし4に対する特許法第36条第6項第1号に関する取消理由2は、採用する余地がない。

3 取消理由3(特許法第36条第4項第1号)について
特許権者の平成28年4月21日付け意見書を踏まえて、改めて本願明細書の記載をみれば、段落【0030】の記載から、引張せん断荷重、十字引張荷重の測定は、厚み2.5mmの試験片で行ったことが明記されていて、製造例1において製造されている成形板(I)の厚みは記載されていないが、重ねられた成形板をその厚みにさらに加工することは通常考えられないことを踏まえれば、得られた成形板(I)の厚みは2.5mmと当業者は理解できる。そして、用いる金型等は当業者の技術常識から理解できるから、実施に当たり過度の試行錯誤を要するものとまではいえない。
異議申立人の平成28年8月1日付け意見書における実施できないとの主張は、特定の含浸率のFRPの曲げ剛性の算出方法が不明であるため採用できないし、仮に、その算出が正しいとしても、実施例の記載に誤りがあることとなるだけであって、直ちに、製造方法の発明である本件特許発明が当業者において実施できないことにはならない。
よって、上記取消理由3には、理由がない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由1ないし3によっては、本件特許の請求項5ないし16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項5ないし16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項1ないし4は、本件訂正により削除されたので、本件特許の請求項1ないし4に係る特許についての特許異議申立は不適法なものであり、却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
繊維強化プラスチック接合体の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維と熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチックの接合体に関わるものである。さらに詳しくは、接合荷重が良好な繊維強化プラスチック接合体及びその製造方法に関わるものであり、自動車に代表される構造部材として好適に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、機械分野において、マトリクスとして熱可塑性樹脂と、炭素繊維などの強化繊維を含む、いわゆる繊維強化樹脂成形体(以下、繊維強化プラスチックともいう)が注目されている。例えば、自動車用の部品や構造部材を製造するために必要となる、繊維強化プラスチック同士の接合において、閉断面を作ることで剛性を高める方法が提案されている。マトリクスとして熱可塑性樹脂を用いた繊維強化プラスチック同士を接合する際には、ボルト・ナット、リベット等を用いた機械的な接合や、接着剤を用いた化学的な接合、超音波溶着、振動溶着などを用いた熱的な接合が提案されている。なかでも、超音波溶着は第3の材料を必要としない他、サイクルタイムが短いなどの理由で、各種の産業分野で広く用いられている。
超音波溶着とは、ホーンと呼ばれる共振体を被加熱体に押し付けると共に、この共振体から高周波の機械的振動を加え、被加熱体に伝えられた機械的振動を摩擦熱に変換し、被加熱体を溶融する事で、被加熱体とそれと接合するための被接合体を溶着する方法である。
【0003】
しかしながら、繊維強化プラスチックの超音波溶着にもいくつかの問題がある。例えば、繊維強化プラスチックを超音波溶着する際に、熱可塑性樹脂が溶融するが、溶融樹脂の粘度が低下する事により強化繊維を保持する力が低下して強化繊維がスプリングバックし、接合体の強度が低下する恐れがある。そのため、繊維強化プラスチックの超音波溶着の際、溶着部分を十分に冷却する事でスプリングバックを抑える事が提案されているが、それでも十分な強度が得られているとは言い難い。
【0004】
一般的に、超音波溶着で得られた接合体の接合強度は、接合部の面積当たりの溶着強度と溶着面積の積で決まる。これらを制御するのに、超音波溶着時の各種条件、例えば超音波の振幅、溶着時間、溶着時の加圧力を操作するが、繊維強化プラスチックの接合強度を高めるのに、どのパラメータを制御するのが有効か明確になっていなかった。
【0005】
例えば特許文献1には繊維強化プラスチックの接合面にあらかじめ熱可塑性樹脂を配置させる方法が提案されているが、溶着のために別途他の材料を要するので必ずしも優れた方法とは言えない。また、特許文献2には繊維強化プラスチックを超音波溶着し、曲げ強度に優れた接合体を製造している例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2013-43321号公報
【特許文献2】日本国特開2012-158141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、接合荷重に優れる繊維強化プラスチック接合体を提供することである。
本発明の他の目的は、接合荷重に優れる、繊維強化樹脂成形体同士が接合した繊維強化プラスチック接合体を効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、接合荷重に優れる、繊維強化樹脂成形体同士が接合した繊維強化プラスチック接合体を得るべく鋭意検討を重ねた結果、超音波溶着の溶着前にホーンにかかる加圧力と溶着中にホーンにかかる加圧力を制御することで、目的とする繊維強化プラスチック接合体を得ることが可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、下記<5>?<16>に記載された事項に関する。
<5>
少なくとも2つの繊維強化樹脂成形体の表面同士を接触させ、当該接触させた面とは反対側の少なくとも1つの繊維強化樹脂成形体の表面に、超音波溶着用のホーンに加圧力をかけて押し当て、超音波を印加して繊維強化樹脂成形体同士を溶着させる、
炭素繊維と、マトリクスとして熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂成形体同士が超音波溶着により固定されてなる接合部(BP1)を有する繊維強化プラスチック接合体であって、当該熱可塑性樹脂から実質的になる樹脂成形体同士が当該接合部(BP1)における超音波溶着と同一の条件による超音波溶着により固定されてなる接合部(BP2)を有する樹脂接合体を基準としたとき、
(i)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における引張せん断荷重が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における引張せん断荷重の3?5.4倍の範囲であり、
(ii)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における十字引張荷重が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における十字引張荷重の2?3.5倍の範囲であり、かつ
(iii)前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における溶着面積が、前記樹脂接合体の接合部(BP2)における溶着面積の2?10倍の範囲である、
繊維強化プラスチック接合体を製造する方法であって、
ホーンにかかる溶着前の加圧力が、溶着中のホーンにかかる加圧力の20?100%の範囲である、繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<6>
前記溶着前のホーンと繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力が50MPa以上である、<5>に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<7>
前記繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率が10?40GPaである<5>または<6>に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<8>
前記繊維強化樹脂成形体の表面Raが0.2?5μmである<5>?<7>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<9>
前記ホーンが先端部に向けて傾斜を有している<5>?<8>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<10>
前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)の引張せん断荷重が1.5?5.0kNの範囲であり、十字引張荷重が0.8?2.5kNの範囲である、<5>に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<11>
前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)の引張せん断荷重が2.5?3.8kNの範囲であり、十字引張荷重が0.8?1.4kNの範囲である、<5>または<10>に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<12>
前記繊維強化樹脂成形体が炭素繊維の等方性ランダムマットと熱可塑性樹脂とから構成され、前記等方性ランダムマットにおける下記式(a)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束の前記等方性ランダムマット中の炭素繊維全量に対する割合が20Vol%以上99Vol%未満であり、前記炭素繊維束中の平均繊維数(N)が下記式(b)を満たす、<5>、<10>または<11>に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
臨界単糸数=600/D (a)
0.6×10^(4)/D^(2)<N<1×10^(5)/D^(2) (b)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である。)
<13>
前記溶着前のホーンと繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力が50MPa以上である、<10>?<12>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<14>
前記繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率が10?40GPaである<10>?<13>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<15>
前記繊維強化樹脂成形体の表面Raが0.2?5μmである<10>?<14>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
<16>
前記ホーンが先端部に向けて傾斜を有している<10>?<15>のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
なお、本発明は上記<5>?<16>に記載された事項に関するものであるが、参考のためその他の事項(たとえば下記[1]?[6])についても記載する。
[1]
炭素繊維と、マトリクスとして熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂成形体同士が超音波溶着により固定してなる接合部(BP1)を有する繊維強化プラスチック接合体であって、当該熱可塑性樹脂から実質的になる樹脂成形体同士が超音波溶着により固定してなる接合部(BP2)を有する樹脂接合体を基準としたとき、
(i)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における引張せん断強度が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における引張せん断強度の3?8倍の範囲であり、かつ
(ii)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における十字引張強度が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における十字引張強度の2?5倍の範囲である、
ことを特徴とする繊維強化プラスチック接合体。
[2]
前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における溶着面積が、前記樹脂接合体の接合部(BP2)における溶着面積の2?10倍の範囲である、[1]に記載の繊維強化プラスチック接合体。
[3]
少なくとも2つの繊維強化樹脂成形体の表面同士を接触させ、当該接触させた面とは反対側の少なくとも1つの繊維強化樹脂成形体の表面に、超音波溶着用のホーンに加圧力をかけて押し当て、超音波を印加して繊維強化樹脂成形体同士を溶着させる、[1]または[2]に記載の繊維強化プラスチック接合体を製造する方法であって、
ホーンにかかる溶着前の加圧力が、溶着中のホーンにかかる加圧力の20?100%の範囲である、繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
[4]
前記溶着前のホーンと繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力が50MPa以上である、[3]に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
[5]
前記繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率が10?40GPaである[3]または[4]に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
[6]
前記繊維強化樹脂成形体の表面Raが0.2?5μmである[3]?[5]のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、接合荷重に優れる、繊維強化樹脂成形体同士が接合した繊維強化プラスチック接合体を提供することができる。
また、本発明によれば、接合荷重に優れる、繊維強化樹脂成形体同士が接合した繊維強化プラスチック接合体を効率的に製造する方法を提供することができる。
本発明の炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含んでなる繊維強化樹脂成形体同士が超音波溶着により固定してなる接合部(BP1)を有する繊維強化プラスチック接合体は、炭素繊維を含有せず、樹脂成形体同士が超音波溶着により固定してなる接合部(BP2)を有する樹脂接合体に比べて優れた接合荷重を有しており、例えば、自動車に代表される車両の構造部材として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。
本発明は、炭素繊維と、マトリクスとして熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂成形体同士が超音波溶着により固定されてなる接合部(BP1)を有する繊維強化プラスチック接合体であって、当該熱可塑性樹脂から実質的になる樹脂成形体同士が当該接合部(BP1)における超音波溶着と同一の条件による超音波溶着により固定されてなる接合部(BP2)を有する樹脂接合体を基準としたとき、
(i)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における引張せん断荷重が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における引張せん断荷重の3?5.4倍の範囲であり、
(ii)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における十字引張荷重が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における十字引張荷重の2?3.5倍の範囲であり、かつ
(iii)前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における溶着面積が、前記樹脂接合体の接合部(BP2)における溶着面積の2?10倍の範囲である、
ことを特徴とする繊維強化プラスチック接合体である。
【0012】
ここで、「当該熱可塑性樹脂から実質的になる樹脂成形体」とは、マトリクスである熱可塑性樹脂から実質的になる成形体をいい、炭素繊維は含有していない。また、「樹脂成形体同士が超音波溶着により固定してなる接合部(BP2)を有する樹脂接合体を基準としたとき」とは、「繊維強化樹脂成形体同士が超音波溶着により固定されてなる接合部(BP1)を有する繊維強化プラスチック接合体」における超音波溶着と同一の条件による超音波溶着により固定された樹脂接合体における接合部(BP2)と比較した場合をいう。
【0013】
すなわち、本発明は、炭素繊維がマトリクス中に分散、含有された繊維強化樹脂成形体の少なくとも2つを、ある条件で超音波溶着した接合部(BP1)を有する繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における接合荷重、具体的には引張せん断荷重および十字引張荷重が、マトリクスとして用いた熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体の少なくとも2つを上記と同じ条件で超音波溶着した接合部(BP2)を有する樹脂接合体の接合部(BP2)における引張せん断荷重および十字引張荷重に比べて優れた荷重を示すというものである。
なお、本発明でいう接合部(BP1、BP2)とは、繊維強化樹脂成形体又は樹脂成形体に含まれる熱可塑性樹脂が溶融し、ついで冷却されて固化することによって繊維強化樹脂成形体同士又は樹脂成形体同士が溶着した部分(以下、溶着面ということもある)または当該溶着面を含む部分である。接合部(BP1、BP2)は、超音波溶着機から発振した機械的振動を加えた部分とほぼ同一かこの部分を包含する。後述する実施例1及び比較例1においては、溶着した部分の形状はともにリング状であるが、実施例1の方が比較例1よりも太いリング状であった。なお先端がピン形状のホーンを用いた場合、通常接合部の中心部分は溶着は起こらない。したがって、本発明における接合部(BP1)の面積は溶着面積より大きい。つまり、当該接合部は溶着した部分を包含する。
【0014】
繊維強化プラスチック接合体を構成する熱可塑性樹脂と同じ熱可塑性樹脂から実質的になる樹脂成形体同士が超音波溶着により固定されてなる接合部(BP2)に対して、接合部(BP1)の、引張せん断荷重が3倍未満である場合、もしくは、十字引張荷重が2倍未満である場合、構造部材として用いるのに十分な接合荷重を持っているとは言いがたい。また、接合部(BP2)に対して、接合部(BP1)の、引張せん断荷重が8倍を超えるか、あるいは、十字引張荷重が5倍を超えるものは、後述するように超音波溶着に用いるホーンの摩耗などの観点から実質的にありえない。
【0015】
熱可塑性樹脂として、例えばナイロン6を用いた場合、本発明の繊維強化プラスチック接合体の引張せん断荷重は、炭素繊維の含有割合によって異なるが、超音波溶着に用いるホーンを押し当てる部位が直径約10mmの円形(約Φ10mm)である場合、おおよそ1.5?5.0kN(20?80MPa)の範囲になる傾向がある。また、本発明の繊維強化プラスチック接合体の十字引張荷重は、ホーンを押し当てる部位が約Φ10mmである場合、おおよそ0.8?2.5kN(10?30MPa)の範囲になる傾向がある。なお、本発明の繊維強化プラスチック接合体の引張せん断荷重及び十字引張荷重は上記範囲に限定されるものではない。
【0016】
引張せん断荷重および十字引張荷重が上記の関係を有するには、超音波溶着を行うにあたり、驚くべきことに、2つの繊維強化プラスチックの接合部分にかかる溶着前の加圧力、および当該加圧力と溶着中の加圧力とを制御することが極めて有効であることを突き止めた。
超音波溶着においては、一般的には溶着される部材同士が直接接触する部位を起点として溶着が開始する。繊維強化プラスチックは強化繊維を含有していない熱可塑性樹脂と比較して剛性が高い。そのため、当該繊維強化プラスチック同士を接触させ、互いに押しあうように接触部位に加圧力を印加すると、強化繊維を含有していない熱可塑性樹脂から実質的になる樹脂成形体同士に同様にして同じ加圧力を印加した場合よりも繊維強化プラスチック同士は強く押し付けられる。このように、繊維強化プラスチック同士が強く押し付けられるため、広い範囲で接触部位の面積が増加する。つまり、加圧力を印加する前に接触していた部位を起点として、接触する部位の面積が増加し、より広い面積で溶着が行われる。繊維強化プラスチックと比較すると前記強化繊維を含有しない熱可塑性樹脂は剛性が低いため、当該強化繊維を含有しない熱可塑性樹脂同士の接触部位に高い加圧力を印加しても加圧力の大部分は当該熱可塑性樹脂が吸収してしまい、接触部位の面積の増加への寄与度が小さい。
2つの繊維強化プラスチックの接合部分にかかる溶着前の加圧力、および当該加圧力と溶着中の加圧力とを制御する方法として、具体的には、超音波溶着の溶着前に溶着ホーン(単に「ホーン」ともいう)にかかる加圧力を溶着中に溶着ホーンにかかる加圧力の20?100%の範囲とし、かつ、好ましくは溶着前のホーンと繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力を50MPa以上にする方法が好ましい。溶着前に溶着ホーンにかかる加圧力が溶着中に溶着ホーンにかかる加圧力の20%未満の場合、溶着の初期段階で溶着ホーンにかかる加圧力が不十分なためか、2つの繊維強化プラスチック同士が接触する面積が小さくなる。その結果、効果的な超音波溶着を実施することができず、接合体の溶着荷重(接合荷重)が低下するものと考えられる。加圧力が高ければ高いほど、接触面積が増加するため、溶着荷重の向上には効果がある。ただし、加圧力が高すぎると溶着ホーン(特にホーンの先端部分)の摩耗が激しくなる恐れがある。ホーンにかかる溶着前の加圧力が、溶着中のホーンにかかる加圧力の30?80%であることがより好ましく、更に好ましくは30?75%である。また、溶着前のホーンと繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力が50MPa未満の場合も、溶着面の接触部位の面積を増加させる効果が小さい場合があり、好ましくない。
【0017】
繊維強化プラスチック接合体に用いる繊維強化プラスチックは高い剛性を持つことが好ましく、曲げ弾性率が10?40GPaであることが好ましい。繊維強化プラスチックの曲げ弾性率が10GPaを下回る場合、接触部位の面積を増加させる効果が十分でない可能性がある。繊維強化プラスチックの曲げ弾性率が40GPaを超える場合、剛性が高すぎて溶着ホーンの先端が摩耗しやすくなる可能性がある。繊維強化プラスチックの曲げ弾性率は、好ましくは15?35GPaであり、より好ましくは15?30GPaである。
繊維強化プラスチックの曲げ弾性率を制御する手法として特に限定は無いが、具体的には、炭素繊維のアスペクト比、炭素繊維の含有量、炭素繊維束の状態などを制御する事で達成できる。炭素繊維のアスペクト比が高くなるほど、炭素繊維の含有量が多くなるほど、炭素繊維束の構成本数が少なくなるほど、繊維強化プラスチックの曲げ弾性率は高くなる傾向にある。
【0018】
更に、溶着面の接触部位の面積を増加させるためには、溶着前の繊維強化プラスチックの表面は微細な凹凸を有することが好ましい。すなわち、少なくとも、接合部(BP1)における繊維強化プラスチックの表面Ra(算術平均粗さ)は0.2?5μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは1?5μmである。
繊維強化プラスチックの表面Raを上記の範囲に制御する手法として特に限定は無いが、具体的には、炭素繊維のアスペクト比、炭素繊維の含有量、炭素繊維束の状態などを制御する事で達成できる。炭素繊維のアスペクト比が高くなるほど、炭素繊維の含有量が多くなるほど、炭素繊維束の構成本数が少なくなるほど、繊維強化プラスチックの表面Raは高くなる傾向にある。
【0019】
(繊維強化樹脂成形体(繊維強化プラスチック))
本発明の繊維強化プラスチック接合体は、少なくとも2つの繊維強化樹脂成形体が超音波溶着により接合されたものである。
本発明で使用する少なくとも2つの繊維強化樹脂成形体(「繊維強化プラスチック」ということがある)は、その少なくとも1つが炭素繊維とマトリクスとしての熱可塑性樹脂とを含むシート形態の成形体であることが好ましい。すなわち、実質的に炭素繊維と熱可塑性樹脂とが一体化したシート状物が好ましく用いられる。このシート状の繊維強化プラスチック(イ)は、超音波溶着を行うためにホーンと接触し加熱され、その熱を、接合させる他の繊維強化プラスチック(ロ)に十分に伝える必要があるため、厚みが10mm以下であることが好ましく、0.5?10mmの範囲であることがより好ましく、0.5?5mmの範囲であることが更に好ましい。
接合される他の繊維強化プラスチック(ロ)の形状としては、特に限定はないが、接合部が上記繊維強化プラスチック(イ)の接合部と十分に接触する形状(例えば平面同士であるとか、同じ形状の曲面である場合)であれば特に制限はなく、例えば、上記(イ)と同じシート状であったり、厚みが5mm以上の角柱体、円柱を半分にカットした形状などが挙げられる。
【0020】
(炭素繊維)
繊維強化プラスチックに含まれる炭素繊維については特に限定は無いが、具体的にはPAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維を挙げることができる。中でもPAN系炭素繊維は軽量であるため構造材料の軽量化などに好適に用いることができる。なお、炭素繊維は単独で用いても、2種以上の炭素繊維を併用して使用しても構わない。炭素繊維の形態はとくに限定されず、連続繊維、不連続繊維のいずれでもよい。
炭素繊維が連続繊維の場合は、編物、織物の形態であっても、一方向に配列させてシート状にした、いわゆるUDシートであってもよい。UDシートの場合は、各層の繊維配列方向が互いに交差するよう多層に積層(例えば直交方向に交互に積層)したものを使用することもできる。連続繊維の平均繊維径は、通常、5?20μmが適当である。
また、不連続の炭素繊維の場合には、炭素繊維はマトリクス中の特定方向に配向していてもよく、平面内に2次元的に無秩序に分散していてもよく、3次元的に無秩序に分散した状態のいずれでもよい。不連続の炭素繊維は、その平均繊維径としては5?20μm、平均繊維長としては3?100mmのものを用いることが好ましい。
炭素繊維は、一つの繊維強化プラスチック中に、連続繊維のものと不連続繊維のものとを組み合わせて用いてもよい。また、連続繊維を含む一つの繊維強化プラスチックと、不連続繊維を含む他の繊維強化プラスチックとを積層するなどして組合せられていてもよい。
炭素繊維が不連続であって、2次元的に無秩序に分散している場合、湿式抄造してシート状にしたものでもよく、不連続の炭素繊維が分散して重なるように配置させてシート状あるいはマット状(以下、あわせてマットということがある)にしたものであってもよい。この場合の平均繊維径は好ましくは5?20μm、平均繊維長は好ましくは3?100mm、より好ましくは10?100mm、中でも12?50mmがさらに好ましい。後者のマットでは、マット中に含まれる炭素繊維の平均繊維長が重要であり、平均繊維長が3mm以上であれば、炭素繊維としての役割を十分に果たせ、十分な接合荷重が得られやすい。また、平均繊維長が100mm以下であれば、成形する時の流動性が高く、望む成形体が得られやすい。
本発明における繊維強化プラスチックは、炭素繊維が上記平均繊維長の範囲のものであって、実質的に2次元ランダムに配向しているマット(以下、ランダムマットという)が好ましい。ここで、実質的に2次元ランダムに配向しているとは、炭素繊維が、繊維強化プラスチックの面内方向において一方向のような特定方向ではなく無秩序に配向しており、全体的には特定の方向性を示すことなくシート面内に配置されている状態を言う。このランダムマットを用いて得られる繊維強化プラスチックは、面内に異方性を有しない、実質的に等方性の材料である。
【0021】
上記ランダムマットでは、炭素繊維の全部またはほとんどが単糸状に開繊した状態で存在していてもよいが、ある本数以上の単糸が集束した繊維束と単糸またはそれに近い状態の繊維束が所定割合で混在している等方性ランダムマットとしたものが特に好ましい。このような等方性ランダムマットおよびその製造法については、国際公開第2012/105080号パンフレット、日本国特開2013-49208号公報の明細書に詳しく記載されている。
上述した好適なランダムマットは、下記式(a)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)と臨界単糸数未満の炭素繊維束(B_(1))および/または炭素繊維単糸(B_(2))とが混在する等方性ランダムマットであって、該等方性ランダムマットにおける炭素繊維束(A)の繊維全量に対する割合が20?99Vol%、好ましくは30?90Vol%、であり、さらに、上記炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が、下記式(b)を満たすものである。
臨界単糸数=600/D (a)
0.6×10^(4)/D^(2)<N<1×10^(5)/D^(2) (b)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である。)
炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が0.6×10^(4)/D^(2)以下の場合、高い炭素繊維体積含有率(Vf)のものを得ることが困難となり、優れた強度を有する繊維強化プラスチックを得るのが困難になる。また、炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が1×10^(5)/D^(2)以上の場合、局部的に厚い部分が生じ、ボイドの原因となりやすい。さらに、このようなランダムマットを用いた繊維強化プラスチックは、その表面に繊維束の形状に由来する微細な凹凸部を形成することが容易であるという利点を有する。
【0022】
(好適なランダムマットおよびその製造法)
このような等方性ランダムマットの好ましい製造法について説明する。
好ましい製造法としては、例えば、複数の炭素繊維からなるストランドを、必要に応じ繊維長方向に沿って連続的にスリットして幅0.05?5mmの複数の細幅ストランドにした後、平均繊維長3?100mmに連続的にカットし、カットした炭素繊維束に気体を吹付けて開繊させた状態で、通気性コンベヤーネット等の上に層状に堆積させることによりマットを得ることができる。この際、粒体状もしくは短繊維状の熱可塑性樹脂を炭素繊維とともに通気性コンベヤーネット上に堆積させるか、マット状の炭素繊維層に溶融した熱可塑性樹脂を膜状に供給し浸透させることにより熱可塑性樹脂を包含する等方性ランダムマットを製造する方法により製造することもできる。これらの方法において、開繊条件を調整することで、炭素繊維束を上記式(a)で定義される臨界単糸数以上の単糸が集束している炭素繊維束(A)と臨界単糸数未満の単糸が集束している炭素繊維束(B_(1))および/または炭素繊維単糸(B_(2))とが混在するように開繊し、等方性ランダムマットにおける炭素繊維束(A)の炭素繊維全量に対する割合を20?99Vol%、好ましくは30?90Vol%、特に好ましくは50?90Vol%となし、かつ該炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が、上記式(b)を満たす等方性ランダムマットとするのがよい。
なお、炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)を上記範囲とするには、上述した好適なランダムマットの製造法において、カット工程に供する繊維束の大きさ、例えば束の幅や幅当りの繊維数を調整することでコントロールすることができる。具体的には開繊するなどして繊維束の幅を広げてカット工程に供すること、カット工程の前にスリット工程を設ける方法が挙げられる。また繊維束をカットと同時に、スリットしてもよい。
上記の等方性ランダムマットは、炭素繊維の目付けが25?4500g/m^(2)の範囲であって、上記式(a)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)について、炭素繊維全量に対する割合が上記範囲にあり、かつ炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が上記式(b)を満たすことにより、繊維強化プラスチック接合体の複合材料としての成形性と機械強度のバランスが良好となる。
上述のような等方性ランダムマットを使用した繊維強化プラスチックは、その面内において、炭素繊維が特定の方向に配向しておらず、無作為な方向に分散して配置されている。すなわち、この様な繊維強化プラスチックは面内等方性の材料である。このような繊維強化プラスチック同士を接合した本発明の繊維強化プラスチック接合体などの成形体は、ランダムマットが有する、炭素繊維の等方性が維持される。互いに直交する2方向の引張弾性率の比を求めることで、繊維強化プラスチックの等方性を定量的に評価できる。直交する2方向の弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比が2を超えないときに等方性であるとされ、この比が1.3を超えないときは等方性に優れていると評価される。
繊維強化プラスチック中の炭素繊維の長さは、得られた繊維強化プラスチックにおける炭素繊維の平均繊維長で表現される。平均繊維長の測定方法としては、例えば、無作為に抽出した100本の繊維の繊維長をノギス等により1mm単位まで測定し、その平均を求める方法が採用される。炭素繊維の好ましい平均繊維長は3mm?100mmである。ランダムマットは単一の繊維長の炭素繊維で構成してもよく、異なる繊維長の炭素繊維が混在しても構わない。
【0023】
本発明に用いる繊維強化プラスチックにおいて、炭素繊維の平均繊維径は5?20μm、中でも5?12μmが好ましく、炭素繊維とマトリクスである熱可塑性樹脂との密着強度は、ストランド引張せん断試験における強度が5MPa以上であることが望ましい。この強度は、マトリクスの選択に加え、炭素繊維の表面酸素濃度比(O/C)を変更する方法や、炭素繊維にサイジング剤を付与して、炭素繊維とマトリクスとの密着強度を高める方法などで改善することができる。
具体的には、繊維強化プラスチックを構成する炭素繊維の平均繊維径が5?7μmの場合、上記式(a)定義される臨界単糸数は86?120本となる。そして、炭素繊維の平均繊維径が5μmの場合、炭素繊維束(A)中の平均繊維数は240?4000本未満の範囲となるが、なかでも300?2500本であることが好ましい。より好ましくは400?1600本である。また、炭素繊維の平均繊維径が7μmの場合、炭素繊維束(A)中の平均繊維数は122?2040本の範囲となるが、中でも150?1500本であることが好ましく、より好ましくは200?800本である。
さらに、炭素繊維束(A)の形態としては、厚さが100μm以上である炭素繊維束の割合が、全炭素繊維束(A)数の3%未満であることが好ましい。厚さが100μm以上である炭素繊維束が3%未満であれば、熱可塑性樹脂が繊維束内部に含浸しやすくなるので好ましい。より好ましくは厚さが100μm以上である炭素繊維束の割合は1%未満である。厚さが100μm以上である炭素繊維束の割合を3%未満とするには、使用する繊維を拡幅し、薄肉にした繊維を用いる等によりコントロールすることができる。
【0024】
(マトリクス)
繊維強化プラスチックのマトリクスとなる熱可塑性樹脂の種類としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-スチレン系樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂(ABS樹脂)、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、各種の熱可塑性ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリブチレンナフタレート系樹脂、ボリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂などが挙げられる。なかでも、ナイロン(熱溶融性ポリアミド)、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂等が好ましく挙げられる。
コストと物性との兼ね合いから、ナイロン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。また、ナイロン(以下「PA」と略記することがある)としては、PA6(ポリカプロアミド、ポリカプロラクタム、ポリε-カプロラクタムとも称される)、PA26(ポリエチレンアジパミド)、PA46(ポリテトラメチレンアジパミド)、PA66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、PA69(ポリヘキサメチレンアゼパミド)、PA610(ポリヘキサメチレンセバカミド)、PA611(ポリヘキサメチレンウンデカミド)、PA612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、PA11(ポリウンデカンアミド)、PA12(ポリドデカンアミド)、PA1212(ポリドデカメチレンドデカミド)、PA6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、PA6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、PA912(ポリノナメチレンドデカミド)、PA1012(ポリデカメチレンドデカミド)、PA9T(ポリノナメチレンテレフタラミド)、PA9I(ポリノナメチレンイソフタルアミド)、PA10T(ポリデカメチレンテレフタラミド)、PA10I(ポリデカメチレンイソフタルアミド)、PA11T(ポリウンデカメチレンテレフタルアミド)、PA11I(ポリウンデカメチレンイソフタルアミド)、PA12T(ポリドデカメチレンテレフタラミド)、PA12I(ポリドデカメチレンイソフタルアミド)、ポリアミドMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、必要に応じて、安定剤、難燃剤、顔料、充填剤等の添加剤を含んでも差し支えない。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
繊維強化プラスチックにおけるマトリクスの含有量としては、炭素繊維100重量部に対し、30?200重量部であることが好ましい。より好ましくは、炭素繊維100重量部に対し、マトリクス30?150重量部、さらに好ましくは炭素繊維100重量部に対し、マトリクス35?100重量部である。熱可塑性樹脂が炭素繊維100重量部に対し30重量部未満では含浸が不十分なドライの炭素繊維が増加してしまうことがある。また200重量部を超えると炭素繊維が少なすぎて構造材料として不適切となることが多い。
該繊維強化プラスチックの厚みとしては、成形性、特に金型との賦形性を考慮すると、0.5?10mmの範囲のものが好適であり、なかでも厚み1?5mmのものが最適である。また、かかる繊維強化プラスチックは、2枚以上積層して使用することができる。
また、本発明で用いる繊維強化プラスチック中には、本発明の目的を損なわない範囲で、有機繊維または無機繊維の各種繊維状または非繊維状のフィラー、難燃剤、耐UV剤、安定剤、離型剤、顔料、軟化剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。
本発明で使用する特に好適な繊維強化プラスチックとしては、平均繊維長が3?100mm、とりわけ10?100mmの炭素繊維と熱可塑性樹脂とを炭素繊維100重量部に対し熱可塑性樹脂を30?200重量部の割合で含んでなる繊維強化プラスチックであって、当該繊維強化プラスチックは、
(i)厚さ0.5?5mmのシート状であり、
(ii)炭素繊維が面内方向にランダムに配置されており、
(iii)全体の炭素繊維の目付けが25?4500g/m^(2)の範囲であり、
(iv)全炭素繊維に対する下記式(a)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)の割合が50?90Vol%であり、しかも、
(v)炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)が下記式(c)を満たす、
臨界単糸数=600/D (a)
0.7×10^(4)/D^(2)<N<1×10^(5)/D^(2) (c)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)
ものが挙げられる。
【0025】
(繊維強化プラスチックの製造方法)
本発明における繊維強化プラスチックを製造する具体的な方法としては、射出成形、押出成形、プレス成形などが挙げられる。繊維強化プラスチックは成形直前に加熱して可塑化し、金型へ導入する。加熱する方法としては、射出成形の場合はエクストルーダーなどが用いられ、プレス成形の場合は熱風乾燥機や赤外線加熱機などが用いられる。
用いる熱可塑性樹脂が吸水性を示す場合にはあらかじめ乾燥しておくことが好ましい。加熱する熱可塑性樹脂の温度は溶融温度+15℃以上かつ分解温度-30℃であることが好ましい。加熱温度がその範囲未満であると、樹脂が溶融しないため成形しにくく、またその範囲を超えると樹脂の分解が進むことがある。
射出成形の場合には、従来公知の方法を用いることができるが、例えば、長繊維ペレット、すなわち溶融した熱可塑性樹脂を所定の粘度に調整し連続繊維状の炭素繊維に含浸させた後切断する工程で得られたペレット、を用いて射出成形機で所定の形状に製造する方法が挙げられる。
本発明で用いる繊維強化プラスチックをプレス成形により製造するには、例えば、連続繊維が一方向配列したUDシートあるいは不連続繊維からなる抄造シート、上記ランダムマット等を、いずれも、熱可塑性樹脂を含む状態で、単層または複数積層して加熱加圧し、それらのシートまたはマット中に存在する熱可塑性樹脂を溶融させ繊維間に含浸させることで熱可塑性樹脂をマトリクスとする繊維強化プラスチックを製造することができる。この場合の熱可塑性樹脂は、炭素繊維のシートまたはマットの製造時に供給したものでもよいが、炭素繊維からなるシートまたはマットの製造後に、シートまたはマットの少なくとも一方の面に熱可塑性樹脂からなる層(フィルム、不織布、シート等)を積層し、これらを加熱加圧し、シートまたはマット中に熱可塑性樹脂を含浸させることによっても製造することができる。
より具体的には、本発明に用いる繊維強化プラスチックをプレス成形により製造する場合、例えば金型内に、連続繊維のストランドを並行に引き揃えた一方向配列シート(UDシート)、織物、上述した等方性のランダムマットを設置し、ついで熱可塑性樹脂を注入し溶融含浸させたり加熱溶融した熱可塑性樹脂を注入し含浸させたのち、冷却する方法が挙げられる。また、熱可塑性樹脂として、そのフィルム等を炭素繊維と一緒に金型内に配置して加熱し、プレスする方法も挙げられる。また、前記したような、熱可塑性樹脂を包含する等方性ランダムマットを所定の温度に設定した金型内に入れ、プレスする方法も好ましい。加熱温度としては熱可塑性樹脂の溶融温度+15℃以上かつ分解温度-30℃の範囲がよい。
本発明では、熱可塑性樹脂を含む等方性ランダムマットをプレス成形することにより、繊維強化プラスチックを製造すると生産性、等方性に優れるので好ましい。等方性ランダムマットを用いて得られた繊維強化プラスチックは、所望の形状に形成したり、表面性が維持向上される。
具体的には、上記成形体を熱可塑性樹脂の軟化点+30℃以上の温度に加熱してやわらかくしたのち、金型内に配置して加圧する。その際、加圧条件としては0.1?20MPa、好ましくは0.2?15MPa、さらに0.5?10MPaの圧力をかけることが好ましい。圧力が0.1MPa未満の場合、等方性ランダムマットを十分に押し切れず、スプリングバックなどが発生し素材強度が低下することがある。また圧力が20MPaを超える場合、例えば等方性ランダムマットが大きい場合、きわめて大きなプレス機が必要となり、経済的に好ましくない場合がある。また加圧中の加熱条件としては、金型内の温度としては、熱可塑性樹脂の種類によるが、溶融した熱可塑性樹脂が冷却されて固化し、繊維強化プラスチックが形作られるために、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は結晶溶解温度、非晶性の場合はガラス転移温度、それぞれより20℃以下であることが好ましい。例えばナイロンの場合には、通常120?180℃であり、好ましくは125?170℃であり、さらにより好ましくは130?160℃である。
【0026】
(超音波溶着工程)
本発明の繊維強化プラスチック接合体は、少なくとも2つの前記繊維強化樹脂成形体(繊維強化プラスチック)の少なくとも一部の表面同士を接触させ、その接触している部分に超音波を発振(印加)させ溶着させたものである。ここで超音波溶着においては、超音波を印加するためのホーンを少なくとも1つの繊維強化プラスチックの表面であって、前記接触している部分とは反対側の表面に押し当てて(すなわち加圧力をかけ)、超音波を印加することが好ましい。ホーンを押し当てる位置は、繊維強化プラスチック同士が接触している部分の少なくとも一部が溶着面となるように調節することが好ましい。例えば、当該接触している部分の中心点を通り当該接触している面に垂直な線と繊維強化プラスチックの当該接触している面とは反対側の表面とが交わる点にホーンの先端を押し当てることが好ましい。
上記のように超音波を印加することで熱可塑性樹脂は溶融し、ついで超音波の発振を止め、加圧状態を保持したままで冷却することによって熱可塑性樹脂は固化し繊維強化プラスチック同士は固定され接合が完了する。本発明における超音波溶着とは、溶着ホーンと呼ばれる共振体を被加熱体(繊維強化樹脂成形体)に押し付けると共に、この共振体から高周波の機械的振動を加え、被加熱体に伝えられた機械的振動を摩擦熱に変換し、被加熱体を溶融する事で、被加熱体と被接合体(前記繊維強化樹脂成形体とは異なる繊維強化樹脂成形体)を溶着する方法であり、公知の超音波溶着機を用いて行うことができる。この時、被接合体の位置を固定して溶着させる位置を固定する場合、アンビルという治具を用いる事が多い。
本発明においては、繊維強化プラスチックの表面同士の接合部を向い合せて接触させ、その接触した部分と反対側の一方の繊維強化プラスチックの表面部分にホーンを接触させ、加圧力をかけ始める。所定の加圧力に達したところで加圧力をかけ続けたままで(本発明では、ここまでが「溶着前」に相当する)、ついで超音波を発振(印加)させる。そうすると、少なくとも接合部を含む被加熱体に含まれる熱可塑性樹脂は溶融し、少なくともホーンの先端は当該被加熱体中に押し込まれる。ホーン全体は当該被加熱体中に押し込まれるくらい当該被加熱体に接触して押圧してもよいが、接触しなくてもよい。その後、超音波の印加を止め、当該被加熱体が冷却される。上記熱可塑性樹脂は固化し、溶着が完了する。当該ホーンは印加が終了したのち上記熱可塑性樹脂が固化した後に被加熱体から離す。このように、被加熱体中の熱可塑性樹脂が溶融し、最終的に冷却により固化することで、被加熱体と被接合体とが接合部内で溶着する。本発明では、超音波を発振(印加)している時が「溶着中」に相当する。
上記のごとく得られた繊維強化プラスチック接合体は、少なくともホーンの上記先端か、あるいは好ましくは上記先端を含むホーン全体が被加熱体(本発明では一方の繊維強化樹脂成形体)に押し込まれるので、押し込まれた表面は、通常、平坦ではなくくぼみが形成される。くぼみの大きさや形状は当該ホーンの先端部分またはホーンの大きさおよび形状によって異なる。くぼみの深さとしては特に限定は無いが、ホーンがピン形状の場合、接触する側の繊維強化プラスチックの厚みより深くなる事が好ましい。ただし、繊維強化プラスチック接合体の強度を損なわない様に、もう一方の繊維強化プラスチックの厚みを考慮せねばならない。ホーンがナール構造の場合は、接触する側の繊維強化プラスチックの厚みより大きくする必要はない。
【0027】
すなわち、本発明の繊維強化プラスチック成形体の製造方法は、
少なくとも2つの繊維強化樹脂成形体の表面同士を接触させ、当該接触させた面とは反対側の少なくとも1つの繊維強化樹脂成形体の表面に、超音波溶着用のホーンに加圧力をかけて押し当て、超音波を印加して繊維強化樹脂成形体同士を溶着させる、繊維強化プラスチック接合体を製造する方法であって、
ホーンにかかる溶着前(超音波を印加する前)の加圧力が、溶着中(超音波を印加している間)のホーンにかかる加圧力の20?100%の範囲である、繊維強化プラスチック接合体の製造方法であることが好ましい。
【0028】
本発明の繊維強化プラスチック接合体を得る場合の、引張荷重などの強度を制御する超音波溶着時の条件としては、例えば溶着時間(超音波を発振している印加時間)、超音波の振幅、ホーンにかかる加圧力が挙げられる。本発明における超音波溶着時の条件として、溶着時間は好ましくは0.5?5秒、振幅は好ましくは30?100μmである。加圧力としては、溶着前の加圧力と溶着中の加圧力とがあるが、溶着前の加圧力は好ましくは0.4?2.0kN、より好ましくは0.6?1.8kNの範囲内である。溶着前のホーンと繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力としては25MPa以上であることが好ましく、中でも50MPa以上である事が接合荷重が良好であり好ましい。溶着中の加圧力は一定であってもよいし、連続的または段階的に変化していてもよく、また、溶着前よりも溶着中の方が加圧力が大きいことが接合荷重に優れるので好ましい。溶着中の加圧力は、好ましくは1.0?3.0kN、より好ましくは1.0?2.5kNの範囲である。溶着前と溶着中の加圧力の関係で言えば、超音波溶着に用いるホーンにかかる溶着前の加圧力は、溶着中にかかる加圧力の20?100%の範囲であることが好ましく、30?80%がより好ましく、30?75%が更に好ましい。これらの条件は接合点の深さ、大きさ、求める強度に応じて、適切な条件を選択することができる。
【0029】
本発明の繊維強化プラスチック接合体における接合部(BP1)の大きさ(面積)としては、熱可塑性樹脂から実質的になる樹脂成形体同士が超音波溶着により固定してなる樹脂成形体の接合部(BP2)における溶着面積を基準としたとき、接合部(BP1)を有する繊維強化プラスチック接合体の接合部における溶着面積が、2?10倍の範囲であることが好ましく、2?5倍の範囲であることがより好ましい。接合面積が2倍未満である場合、繊維強化プラスチック接合体の溶着面積が増加することによる補強効果が期待できず、優れた溶着荷重を得るのが困難になる。逆に10倍を超えるには溶着ホーンの先端にかかる加圧力が高すぎるため、溶着ホーンの先端の摩耗が激しくなる恐れがある。好ましくは2.5?5倍の範囲であり、更に好ましくは3?5倍の範囲である。
溶着ホーンの形状として特に限定はないが、前述に示す高い加圧力を印加するために、先端部に向けて傾斜を有している事が好ましい。具体的には、ピン構造、ナール構造などが挙げられる。これらの構造は一点であっても良いし、複数点あっても構わない。
本発明の繊維強化プラスチック接合体は、少なくとも2つの繊維強化プラスチックが接合してなるものである。接合形態は、1つの繊維強化プラスチックに他の1つの繊維強化プラスチックが接合されていてもよく、他の2以上の繊維強化プラスチックが接合されていてもよい。複数の繊維強化プラスチックに他の複数の繊維強化プラスチックが接合されていてもよい。接合部を含む繊維強化プラスチック接合体の形状としては、例えば一直線型、T型、L型、V型、X型、F型、E型、H型、A型、Y型、コの字型等を挙げることができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)炭素繊維の平均繊維長の測定は、成形板から無作為に抽出した100本の繊維の繊維長をノギスにより1mm単位まで測定し、その平均を求めた。
(2)成形板の繊維束分析は、WO2012/105080号パンフレットに記載の方法に準じて実施した。
(3)繊維強化プラスチック接合体の引張せん断荷重および十字引張荷重は、自動車技術会1987年 No.406-87に従って測定した。具体的には、引張せん断荷重は、試験片のサイズが25mm×100mm×2.5mm、引張速度5mm/s、十字引張荷重は、試験片のサイズが25mm×75mm×2.5mm、引張速度5mm/sで行った。
(4)繊維強化プラスチック接合体とマトリクスである熱可塑性樹脂接合体の溶着面積の比率は、各接合体の引張試験後の表面を、ノギスにより測定して求めた。
(5)繊維強化プラスチックの曲げ弾性率はJIS K 7074(1988年度)に準じて測定した。なお、JIS K 7074(1988年度)の内容はここに参照として取り込まれる。
(6)繊維強化プラスチックの表面Raはレーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK-X100)を用いて、付属の画像処理ソフトを用い、1mm×1mmでの面における平均値を測定した。
【0031】
[製造例1] ランダムマットを用いた繊維強化プラスチック成形板の製造
炭素繊維として、平均繊維長20mmにカットした東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40-24KS(平均繊維径7μm)を使用し、マトリクスとして、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、WO2012/105080号パンフレットに記載された方法に基づき、炭素繊維目付け1800g/m^(2)、ナイロン樹脂目付け1500g/m^(2)であるランダムに炭素繊維が配向したマットを作成した。
具体的には、炭素繊維の分繊装置には、超硬合金を用いて円盤状の刃を作成し、0.5mm間隔に配置したスリッターを用いた。カット装置には、超硬合金を用いて螺旋状ナイフを表面に配置したロータリーカッターを用いた。このとき、刃のピッチを20mmとし、炭素繊維を繊維長20mmにカットするようにした。
カッターを通過したストランドをロータリーカッターの直下に配置したフレキシブルな輸送配管に導入し、引き続き、これを開繊装置に導入した。開繊装置としては、径の異なるSUS304製のニップルを溶接し、二重管を製作して使用した。二重管の内側の管に小孔を設け、外側の管との間にコンプレッサーを用いて圧縮空気を送気した。この時、小孔からの風速は、100m/secであった。この管の下部には下方に向けて径が拡大するテーパ管を溶接した。
上記テーパ管の側面より、マトリクスを供給した。そして、テ?パ管出口の下部に、一定方向に移動する通気性の支持体(以後、定着ネットと呼ぶ)を設置し、その下方よりブロワにて吸引を行い、その定着ネット上に、該フレキシブルな輸送配管とテーパ管を幅方向に往復運動させながら、カットした炭素繊維とナイロン樹脂の混合体を帯状に堆積させた。そして、強化繊維の供給量を500g/min、マトリックス樹脂の供給量を530g/min、にセットして装置を稼動し、支持体上に強化繊維と熱可塑性樹脂が混合されたランダムマットを得た。このマットを、上部に凹部を有する金型を用いて260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、厚さ2.3mmの成形板(I)を得た。
得られた成形板(I)について、それに含まれる炭素繊維の解析を行ったところ、前記式(a)で定義される臨界単糸数は86本、臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)中の平均単糸数(N)は420本であり、臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)の割合は全炭素繊維量の85Vol%であった。また、炭素繊維体積含有率は43%(質量基準の炭素繊維含有率54%)であった。
上記成形板(I)を400mm×400mmの大きさに切り出し、120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、赤外線加熱機により300℃まで昇温した。400mm×400mm平板用金型を140℃に設定し、上記成形板(I)を加熱させた後、二枚を重ねて同金型内に導入した。ついで、プレス圧力2MPaで1分間加圧し、繊維強化プラスチックからなる成形板(I’)を得た。得られた繊維強化プラスチック成形板の曲げ弾性率は26GPa、表面Raは3.8μmであった。これを、各評価に応じたサイズにカットした。
【0032】
[製造例2]
炭素繊維目付け1200g/m^(2)、ナイロン樹脂目付け1500g/m^(2)にした以外は、製造例1と同様の手法で、繊維強化プラスチック成形板(I’-2)を得た。得られた繊維強化プラスチック成形板(I’-2)の曲げ弾性率は20GPa、表面Raは2.0μmであった。
【0033】
[製造例3] 炭素繊維を含有しないナイロン成形板の製造
ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用い、260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、ナイロン6からなる、厚さ2.3mmプラスチック成形板(II)を得た。
得られたプラスチック成形板(II)を400mm×400mmに切り出し、120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、赤外線加熱機により300℃まで昇温した。400mm×400mm平板用金型を140℃に設定し、上記プラスチック成形板(II)を加熱した後、二枚を重ねて同金型内に導入した。ついで、プレス圧力2MPaで1分間加圧し、プラスチック成形板(II’)を得た。得られたプラスチック成形板の曲げ弾性率は9GPa、表面Raは0.1μmであった。これを、各評価に応じたサイズにカットした。
【0034】
[実施例1]
製造例1で得られた所定の大きさの成形板(I’)の2枚を重ね合わせ、当該重ね合わせた面の反対側の一方の成形板(I’)の表面に、溶着ホーン(軸径Φ4mm、先端径Φ0.2mm、最終接触部Φ10mm)を用いて加圧力をかけながら超音波を印加することによってスポット溶着した。次に超音波の印加を止め、加圧力をかけた状態を維持しながら自然冷却した。その後、ホーンを上記成形板(I’)から遠ざけて、繊維強化プラスチック接合体を得た。超音波溶着機は、BRANSON製 2000XDtを用い、溶着時の条件は、超音波印加時間1秒、溶着前(溶着(超音波の印加)を開始する直前)の加圧力を0.5kN(ホーン先端と繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力50MPa)、溶着中(印加開始後)の加圧力を1.5kN、溶着中のホーンにかかる加圧力に対する溶着前のホーンにかかる加圧力の比を33%、超音波の振幅50μm、用いたホーン(スポット溶着用チップ)は軸径Φ4mm、先端径Φ0.2mmとした。製造例3で得られたプラスチック成形板(II’)を用いて同じ条件で超音波溶着を行い、得られた接合体同士の強度(引張せん断荷重および十字引張荷重)と比較した。結果を表1に示す。なお、樹脂接合体の接合部(BP2)における引張せん断荷重及び十字引張荷重に対する、繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における引張せん断荷重及び十字引張荷重の比は、表中の「マトリクス対比」欄に記載した。
得られた接合体について、上記ホーンが接触し加圧された一方の成形板(I’)の表面には、凹形状のくぼみが形成された。くぼみは深さが約3.0mm、直径が約4mmの略円柱形であった。
繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における溶着面積は66mm^(2)であり、マトリクスである熱可塑性樹脂からなる樹脂接合体の接合部(BP2)における溶着面積は21mm^(2)であった。つまり、接合部(BP1)における溶着面積は、接合部(BP2)における溶着面積の3.2倍であった。
【0035】
[実施例2]
製造例1で得られた成形板(I’)の2枚を超音波溶着機(BRANSON製 2000XDt)を用いて実施例1と同様に溶着を行った。溶着条件として、超音波印加時間1秒、溶着前加圧力を1.0kN(ホーン先端と繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力100MPa、溶着中(印加開始後)の加圧力を1.5kN、溶着中の加圧力に対する溶着前の加圧力の比67%、超音波の振幅50μmとし、スポット溶着用チップは実施例1と同じものを用いた。製造例3で得られたプラスチック成形板(II’)を同じ条件で超音波溶着し、ここで得られた強度と比較した。結果を表1に示す。
接合部(BP1)における溶着面積は、接合部(BP2)における溶着面積の4.9倍であった。
【0036】
[実施例3]
製造例1で得られた成形板(I’)の2枚を超音波溶着機(BRANSON製 2000XDt)を用いて実施例1と同様に溶着を行った。溶着条件として、超音波印加時間1秒、溶着前加圧力を1.5kN(ホーン先端にかかる加圧力150MPa)、溶着中(印加開始後)の加圧力を2.0kN、溶着中の加圧力に対する溶着前の加圧力の比75%、超音波の振幅50μmとし、スポット溶着用チップは実施例1と同じものを用いた。製造例3で得られたプラスチック成形板(II’)を同じ条件で超音波溶着し、実施例1と同様に強度を比較した。結果を表1に示す。
接合部(BP1)における溶着面積は、接合部(BP2)における溶着面積の6.8倍であった。
【0037】
[実施例4]
製造例1で得られた成形板(I’)の2枚を超音波溶着機(BRANSON製 2000XDt)を用いて実施例1と同様に溶着を行った。溶着条件として、超音波印加時間1秒、溶着前加圧力を1.35kN(ホーン先端にかかる加圧力135MPa)、溶着中(印加開始後)の加圧力を1.5kN、溶着中の加圧力に対する溶着前の加圧力の比90%、超音波の振幅50μmとし、スポット溶着用チップは実施例1と同じものを用いた。製造例3で得られたプラスチック成形板(II’)を同じ条件で超音波溶着し、実施例1と同様に強度を比較した。結果を表1に示す。
接合部(BP1)における溶着面積は、接合部(BP2)における溶着面積の6.8倍であった。ただし、スポット溶着用チップの先端に若干の傷が見られた。
【0038】
[実施例5]
製造例1で得られた成形板(I’)の2枚を超音波溶着機(BRANSON製 2000XDt)を用いて実施例1と同様に溶着を行った。溶着条件として、超音波印加時間1秒、溶着前加圧力を0.35kN(ホーン先端と繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力35MPa)、溶着中(印加開始後)の加圧力を1.5kN、溶着中の加圧力に対する溶着前の加圧力の比23%、超音波の振幅50μmとし、スポット溶着用チップは実施例1と同じものを用いた。製造例3で得られたプラスチック成形板(II’)を同じ条件で超音波溶着し、実施例1と同様に強度を比較した。結果を表1に示す。
接合部(BP1)における溶着面積は、接合部(BP2)における溶着面積の3.0倍であった。ただし、スポット溶着用チップの先端に若干の傷が見られた。
【0039】
[実施例6]
製造例2で得られた成形板(I’-2)の2枚を超音波溶着機(BRANSON製 2000XDt)を用いて溶着を行った。溶着条件として、超音波印加時間1秒、溶着前加圧力を0.5kN(ホーン先端と繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力50MPa)溶着中加圧力1.5kN、溶着中の加圧力に対する溶着前の加圧力の比33%、超音波の振幅50μmとし、スポット溶着用チップは実施例1と同じものを用いた。製造例3で得られたプラスチック成形板(II’)を同じ条件で超音波溶着し、実施例1と同様に強度と比較した。結果を表1に示す。
接合部(BP1)における溶着面積は、接合部(BP2)における溶着面積の2.8倍であった。
【0040】
[実施例7]
製造例2で得られた成形板(I’-2)の2枚を超音波溶着機(BRANSON製 2000XDt)を用いて溶着を行った。溶着条件として、超音波印加時間1秒、溶着前加圧力を0.5kN(ホーン先端と繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力5MPa)溶着中加圧力1.0kN、溶着中の加圧力に対する溶着前の加圧力の比50%、超音波の振幅50μmとし、ホーンとしてナール型チップ(径Φ10mm、ナール幅0.1mm、ナール間隔1.2mm)を用いた。製造例3で得られたプラスチック成形板(II’)をこれと同じ条件で超音波溶着し、実施例1と同様に強度と比較した。結果を表1に示す。
接合部(BP1)における溶着面積は、接合部(BP2)における溶着面積の3.7倍であった。
【0041】
[比較例1]
製造例1で得られた成形板(I’)の2枚を超音波溶着機(BRANSON製 2000XDt)を用いて溶着した。溶着条件として、超音波印加時間1秒、溶着前加圧力を0.05kN(ホーン先端と繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力5MPa)、溶着中(印加開始後)の加圧力を1.5kN、溶着中の加圧力に対する溶着前の加圧力の比3%、超音波の振幅50μmとし、用いたホーン(スポット溶着用チップ)は軸径Φ4mm、先端径Φ0.2mmとした。製造例3で得られたプラスチック成形板(II’)を同じ条件で超音波溶着し、実施例1と同様に強度と比較した。結果を表1に示す。
繊維強化プラスチック接合体の接合部(B1)における溶着面積は36mm^(2)であり、マトリクスである樹脂接合体の接合部(B2)における溶着面積は21mm^(2)であった。つまり、接合部(BP1)における溶着面積は、接合部(BP2)における溶着面積の1.7倍であった。
【0042】
[比較例2]
製造例1で得られた成形板(I’)の2枚を超音波溶着機(BRANSON製 2000XDt)を用いて溶着した。溶着条件として、超音波印加時間1秒、溶着前加圧力を0.1kN(ホーン先端と繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力10MPa)、溶着中(印加開始後)の加圧力を1.5kN、溶着中の加圧力に対する溶着前の加圧力の比7%、超音波の振幅50μmとし、用いたホーン(スポット溶着用チップ)は軸径Φ4mm、先端径Φ0.2mmとした。製造例3で得られたプラスチック成形板(II’)を同じ条件で超音波溶着し、実施例1と同様に強度と比較した。結果を表1に示す。
接合部(BP1)における溶着面積は、接合部(BP2)における溶着面積の1.9倍であった。
【0043】
[比較例3]
製造例1で得られた成形板(I’)の2枚を超音波溶着機(BRANSON製 2000XDt)を用いて溶着した。溶着条件として、超音波印加時間1秒、溶着前加圧力を0.2kN(ホーン先端と繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力20MPa)、溶着中(印加開始後)の加圧力を1.5kN、溶着中の加圧力に対する溶着前の加圧力の比13%、超音波の振幅50μmとし、用いたホーン(スポット溶着用チップ)は軸径Φ4mm、先端径Φ0.2mmとした。製造例3で得られたプラスチック成形板(II’)を同じ条件で超音波溶着し、実施例1と同様に強度と比較した。結果を表1に示す。
接合部(BP1)における溶着面積は、接合部(BP2)における溶着面積の2.1倍であった。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の繊維強化プラスチック接合体は、優れた接合荷重を有しており、例えば、自動車の構造部材や部品等の優れた溶着荷重が要求される用途に用いることが可能であり、車体の軽量化などを確実なものとする。
【0046】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2013年7月24日出願の日本特許出願(特願2013-153585)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
少なくとも2つの繊維強化樹脂成形体の表面同士を接触させ、当該接触させた面とは反対側の少なくとも1つの繊維強化樹脂成形体の表面に、超音波溶着用のホーンに加圧力をかけて押し当て、超音波を印加して繊維強化樹脂成形体同士を溶着させる、
炭素繊維と、マトリクスとして熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂成形体同士が超音波溶着により固定されてなる接合部(BP1)を有する繊維強化プラスチック接合体であって、当該熱可塑性樹脂から実質的になる樹脂成形体同士が当該接合部(BP1)における超音波溶着と同一の条件による超音波溶着により固定されてなる接合部(BP2)を有する樹脂接合体を基準としたとき、
(i)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における引張せん断荷重が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における引張せん断荷重の3?5.4倍の範囲であり、
(ii)当該繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における十字引張荷重が、当該樹脂接合体の接合部(BP2)における十字引張荷重の2?3.5倍の範囲であり、かつ
(iii)前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)における溶着面積が、前記樹脂接合体の接合部(BP2)における溶着面積の2?10倍の範囲である、
繊維強化プラスチック接合体を製造する方法であって、
ホーンにかかる溶着前の加圧力が、溶着中のホーンにかかる加圧力の20?100%の範囲である、繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項6】
前記溶着前のホーンと繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力が50MPa以上である、請求項5に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項7】
前記繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率が10?40GPaである請求項5または6に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項8】
前記繊維強化樹脂成形体の表面Raが0.2?5μmである請求項5?7のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項9】
前記ホーンが先端部に向けて傾斜を有している請求項5?8のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項10】
前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)の引張せん断荷重が1.5?5.0kNの範囲であり、十字引張荷重が0.8?2.5kNの範囲である、請求項5に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項11】
前記繊維強化プラスチック接合体の接合部(BP1)の引張せん断荷重が2.5?3.8kNの範囲であり、十字引張荷重が0.8?1.4kNの範囲である、請求項5または10に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項12】
前記繊維強化樹脂成形体が炭素繊維の等方性ランダムマットと熱可塑性樹脂とから構成され、前記等方性ランダムマットにおける下記式(a)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束の前記等方性ランダムマット中の炭素繊維全量に対する割合が20Vol%以上99Vol%未満であり、前記炭素繊維束中の平均繊維数(N)が下記式(b)を満たす、請求項5、10または11に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
臨界単糸数=600/D (a)
0.6×10^(4)/D^(2)<N<1×10^(5)/D^(2) (b)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である。)
【請求項13】
前記溶着前のホーンと、繊維強化樹脂成形体とが接触している部分の単位面積当たりの圧力が50MPa以上である、請求項10?12のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項14】
前記繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率が10?40GPaである請求項10?13のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項15】
前記繊維強化樹脂成形体の表面Raが0.2?5μmである請求項10?14のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
【請求項16】
前記ホーンが先端部に向けて傾斜を有している請求項10?15のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック接合体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-10-04 
出願番号 特願2014-560182(P2014-560182)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B29C)
P 1 651・ 536- YAA (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菊地 則義関根 崇  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 大島 祥吾
橋本 栄和
登録日 2015-07-03 
登録番号 特許第5770395号(P5770395)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 繊維強化プラスチック接合体の製造方法  
代理人 高松 猛  
代理人 長谷川 博道  
代理人 高松 猛  
代理人 長谷川 博道  
代理人 尾澤 俊之  
代理人 尾澤 俊之  

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