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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B63B |
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管理番号 | 1323465 |
異議申立番号 | 異議2015-700328 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-12-18 |
確定日 | 2016-11-01 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5738985号発明「甲板上部に燃料タンクを有する浮遊式構造物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5738985号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第5738985号の請求項1?8に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5738985号の請求項1?8に係る特許についての出願は、2010年10月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年5月19日 (KR)大韓民国)を国際出願日とする出願あって、平成27年5月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人帖佐隆により特許異議の申立てがされ、平成28年2月29日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年6月1日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成28年8月1日付けで意見書が提出がされたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 平成28年6月1日の訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のア、イ及びウのとおりである。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「前記カバーを支持するカバー支持体を含む」とあるのを、「前記カバーを支持するカバー支持体を含み、前記カバー支持体は、前記甲板上部にある複数のパイプ及び各種設備の干渉を回避する所定の高さで前記カバーを支持する、当該甲板上部に間隔を在して立設した複数本の柱で構成される」に訂正する。 イ 訂正事項2 明細書の発明の詳細な説明の段落【0017】の記載を、「上記目的を達成するため、燃料として使用するための液化燃料ガスを貯蔵する燃料タンクを有する本発明の浮遊式構造物は、前記燃料タンクは前記甲板上部で支持手段によって支持され、前記燃料タンクの上下左右面を含む全ての面がカバーで覆われ、前記支持手段は、前記燃料タンクと前記カバーのと間に介在して前記燃料タンクを支持するタンク支持体及び前記カバーと前記甲板上部との間に介在して前記カバーを支持するカバー支持体を含み、前記カバー支持体は、前記甲板上部にある複数のパイプ及び各種設備の干渉を回避する所定の高さで前記カバーを支持する、当該甲板上部に間隔を在して立設した複数本の柱で構成されることを特徴とする。」に訂正する。 ウ 訂正事項3 明細書の発明の詳細な説明の【0018】及び【0019】の記載を削除する。 (2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1 訂正事項1は、「カバーを支持するカバー支持体」について、「前記カバー支持体は、前記甲板上部にある複数のパイプ及び各種設備の干渉を回避する所定の高さで前記カバーを支持する、当該甲板上部に間隔を在して立設した複数本の柱で構成される」ことを特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。 また、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】には、「燃料タンク11は甲板3上部で支持手段によって支持され得る。さらに詳しくは、燃料タンク11は燃料タンク11とカバー15との間に介在されるタンク支持体13によって支持され、燃料タンク11を覆うカバー15はカバー15と甲板3上部との間に介在されるカバー支持体17によって支持され得る。この時、カバー支持体17によって燃料タンク11は甲板3上部にある複数のパイプ及び各種設備などの干渉を回避して甲板3上部に設置されることができる。」との記載があり、図1は、甲板上部に燃料タンクを有する浮遊式構造物の断面図であり、図2は、燃料タンクが甲板上部に複数個設置された状態を示す図であるところ、カバーを示す符号15及びカバー支持体を示す符号17を併せ見ると、「カバー支持体17が、カバー15を支持する、甲板上部に間隔を在して立設した複数本の柱で構成される」ことが明らかである。 そうすると、訂正事項1は、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明及び図面(以下、「特許明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてするものと認められ、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 訂正事項2 訂正事項2は、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0017】に記載されていた【課題を解決するための手段】を、訂正事項1により訂正された請求項1の記載に整合するように訂正されたものであり、明瞭でない記載の釈明を目的としたものといえる。 そして、訂正事項2は、訂正事項1と同様に、特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 訂正事項3 訂正事項3は、訂正事項2によって訂正された段落【0017】の記載中に、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0018】及び【0019】の記載を含むこととなったため、重複する記載を削除するための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的としたものといえる。 そして、訂正事項3は、特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 エ 一群の請求項に対する請求 訂正前の請求項1の記載を請求項2?8が直接又は間接的に引用する関係にあるから、上記訂正事項1?3よりなる本件訂正請求は、一群の請求項(請求項1?8)に対して請求されたものである。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正(訂正事項1?3)は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に規定された事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?8に係る発明(以下「本件発明1?8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 燃料として使用するための液化燃料ガスを貯蔵する燃料タンクを有する浮遊式構造物であって、 前記燃料タンクは前記浮遊式構造物の甲板上部で支持手段によって支持され、前記燃料タンクの上下左右面を含む全ての面がカバーで覆われ、 前記支持手段は、前記燃料タンクと前記カバーとの間に介在して前記燃料タンクを支持するタンク支持体及び前記カバーと前記甲板上部との間に介在して前記カバーを支持するカバー支持体を含み、前記カバー支持体は、前記甲板上部にある複数のパイプ及び各種設備の干渉を回避する所定の高さで前記カバーを支持する、当該甲板上部に間隔を在して立設した複数本の柱で構成されることを特徴とする浮遊式構造物。 【請求項2】 前記タンク支持体及び前記カバー支持体の中心軸線は一致することを特徴とする請求項1に記載の浮遊式構造物。 【請求項3】 前記タンク支持体及び前記カバー支持体は複数個であり、そのうち1つ以上の前記タンク支持体及び前記カバー支持体の中心軸線は前記燃料タンクの幅方向の中心軸線上に位置することを特徴とする請求項2に記載の浮遊式構造物。 【請求項4】 前記燃料タンクと前記カバーとの間には、前記燃料タンクの幅方向への振動を吸収できるロール舵及び前記燃料タンクの長さ方向への振動を吸収できるピッチ舵が介在することを特徴とする請求項1に記載の浮遊式構造物。 【請求項5】 前記燃料タンクは独立型タンクのうちIMO Type Bであることを特徴とする請求項1に記載の浮遊式構造物。 【請求項6】 前記燃料タンクと前記カバーとの間の空間には窒素などの不活性気体が充填されることを特徴とする請求項1に記載の浮遊式構造物。 【請求項7】 前記燃料タンクと前記カバーとの間の空間には前記燃料タンクから液化燃料ガスが漏れた場合、これを感知できるセンサが設けられることを特徴とする請求項6に記載の浮遊式構造物。 【請求項8】 前記燃料タンクは複数個であり、複数個の前記燃料タンクのうち前記浮遊式構造物の船首側にある燃料タンクの高さが前記浮遊式構造物の船尾側にある燃料タンクの高さより低いことを特徴とする請求項1に記載の浮遊式構造物。」 (2)取消理由の概要 訂正前の請求項1?8に係る特許に対して平成28年2月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 本件特許の請求項1?8に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。 記 甲1 :「REPORT OF THE MARITIME SAFETY COMMITTEE ON ITS EIGHTY-SIXTH SESSION (MSC 86/26/Add.1)」 IMO(国際海事機関)MSC(事務局)25 June 2009 の本文1?3頁並びに ANNEX11 の1?3、6?8、17、18 及び29頁の写し 甲1-1:特開2008-105448号公報 甲1-2:特開2008-126829号公報 甲1-3:特表2009-541113号公報 甲2 :特開平7-269160号公報 甲2-1:特開平8-142976号公報 甲2-2:特開昭50-21316号公報 甲2-3:実願昭60-159310号(実開昭62-68099号) のマイクロフィルム 甲3 :「ガスキャリアーコード」 昭和57年3月(財)日本造船振興財団 MAY.21.1982 甲3-1:特開2001-251875号公報 甲4 :特開平8-295394号公報 甲4-1:特開昭53-146311号公報 甲5 :特開平9-24891号公報 甲5-1:特開昭61-241293号公報 甲6 :「REPORT OF THE MARITIME SAFETY COMMITTEE ON ITS EIGHTY-SIXTH SESSION (MSC 86/26/)」 IMO(国際海事機関)MSC(事務局)12 June 2009 の本文1?7及び64頁の写し 甲7 :IMO(国際海事機関)が開設している 以下のウェブサイト(甲7-1?7-6として示す。) の写し 甲7-1:http://www.imo.org/en/KnowledgeCentre/Pages/Default.aspx 甲7-2:http://webaccounts.imo.org/Common /PublicRegistration.aspx?=IMODO 甲7-3:http://webaccounts.imo.org/Common /WebLogin.aspx?App=IMODOCS&ReturnUrl 甲7-4:http://webaccounts.imo.org/Public/Default.aspx 甲7-5:http://www.imo.org/Category.aspx?cid=49&session=86 甲7-6:http://webaccounts.imo.org/Public/Default.aspx の文書番号127を選択した場合に表示される画面 甲8 :「TECHNICAL INFORMATION NO.2009016/IMO」 KOREAN REGISTER OF SHIPPING 22 July 2009 の1及び4頁の写し 請求項1?8に係る発明は、甲1(甲1-1?1-3)発明及び甲2ないし8に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)甲号証の記載 甲1には、甲1のANNEX11(特に、CHAPTER1(1.1.1及び1.3.23)、CHAPTER2(2.8.1.1及び2.8.3.4)))及び甲3(39頁の4.2.4、甲1のタンクの定義といえる。この定義から、甲1の「独立型タンク」は、「自己支持型タンク」であり、甲板と当該タンクとの間に何らかの支持手段が介在することは自明である。)の記載からみて、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 〔甲1発明〕 「燃料として使用するための液化燃料ガスを貯蔵する燃料タンクを有する浮遊式構造物であって、 前記燃料タンクは前記浮遊式構造物の甲板上部で支持手段によって支持される浮遊式構造物。」 なお、取消理由通知で述べたとおり、甲1-1、甲1-2及び甲3-1にも、甲1発明と同様の発明が記載されていると認められる。 (4)判断 ア 取消理由通知に記載した取消理由(特許法第29条第2項)について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「燃料として使用するための液化燃料ガスを貯蔵する燃料タンクを有する浮遊式構造物であって、 記燃料タンクは前記浮遊式構造物の甲板上部で支持手段によって支持される浮遊式構造物。」 <相違点1> 「燃料タンクは前記浮遊式構造物の甲板上部で支持手段によって支持される」ことに関して、本件発明1では、「前記燃料タンクの上下左右面を含む全ての面がカバーで覆われ、前記支持手段は、前記燃料タンクと前記カバーとの間に介在して前記燃料タンクを支持するタンク支持体及び前記カバーと前記甲板上部との間に介在して前記カバーを支持するカバー支持体を含む」のに対して、甲1発明では、そのように特定されていない点。 <相違点2> 本件発明1は、「前記カバー支持体は、前記甲板上部にある複数のパイプ及び各種設備の干渉を回避する所定の高さで前記カバーを支持する、当該甲板上部に間隔を在して立設した複数本の柱で構成される」のに対して、甲1発明では、そのように特定されていない点。 (イ)判断 以下、相違点について検討する。 <相違点1について> 甲2には、段落【0014】、【0017】、【0019】及び図1?2を参照すると、燃料タンクの支持手段に関して、「燃料タンクの上下左右面を含む全ての面がカバーで覆われ、支持手段は、前記燃料タンクと前記カバーとの間に介在して前記燃料タンクを支持するタンク支持体及び前記カバーと燃料タンクを設置する据付部分との間に介在して前記カバーを支持するカバー支持体を含む」技術事項が記載されている。 また、甲2-1(段落【0003】、【0009】、【0019】、【0020】及び図1?3を参照)にも、甲2の技術事項と同様の技術事項が記載されている。 甲1発明も甲2及び甲2-1に記載された技術事項も燃料タンクを支持するものであり技術分野が共通するから、甲1発明に当該技術事項を適用する動機付けは充分にあり、当該技術事項を甲1発明の燃料タンクの支持手段として用いることで、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成に到ることは、当業者が容易になし得えたといえる。 <相違点2について> 「燃料タンクの上下左右面を含む全ての面を覆うカバーを支持する、カバー支持体が、甲板上部にある複数のパイプ及び各種設備の干渉を回避する所定の高さで前記カバーを支持する、当該甲板上部に間隔を在して立設した複数本の柱で構成される」という上記相違点2に係る本件発明1の構成は、甲1?8(枝番も含む)には記載されておらず、当該構成が公知ないし周知であるという根拠も無い。 したがって、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成に到ることは、当業者が容易になし得えたとはいえない。 (ウ)取消理由についてのまとめ 上記(イ)の<相違点2について>のとおりであるから、本件発明1は、甲1(甲1-1?1-3)発明及び甲2ないし8に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?8についてもこれと同様であるといえる。 したがって、本件発明1?8は、甲1(甲1-1?1-3)発明及び甲2ないし8に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 特許異議申立人の意見について 特許異議申立人は、平成28年8月1日付けの意見書において、「本件の請求項1についてした訂正は、周知技術あるいは慣用手段を追加するものに過ぎない」旨(2頁18?25行)及び「参考資料3の図5から、『艤装品11』を支柱の上に搭載することによって、『艤装品11』と『荷油管5』の干渉が回避されていることが看取できる」旨(6頁1?7行)主張するが、特許異議申立書には、その主張の根拠となる具体的な証拠(周知技術あるいは慣用手段であることを示す刊行物など)は示されておらず、当該意見書とともに提出された参考資料3の図5では、艤装品11の下に荷油管5が設置されているのか、艤装品11から離れた位置に荷油管5が設置されているのかを判断することができず、当該意見書には、艤装品11の下に荷油管5が設置され、かつ、干渉が回避されていることが、図5から看取できるといえる具体的な根拠が示されているとはいえない。また、特許異議申立書及び意見書には、「燃料タンク」及び「干渉を回避する所定の高さ」についての記載及び示唆は無い。 よって、当該主張は採用できない。 ウ 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について 特許異議申立理由は、上記アと実質的に同じ理由であるから、上記アにおいて検討したとおり、本件発明1?8は、甲1発明及び甲2ないし8に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 甲板上部に燃料タンクを有する浮遊式構造物 【技術分野】 【0001】 本発明は、甲板上部に燃料タンクを有する浮遊式構造物に関し、さらに詳しくは甲板上部に設置された燃料タンクをカバーで覆うことで燃料タンクを空気中に露出させず密閉して安全性を確保できる浮遊式構造物に関する。 【背景技術】 【0002】 昨今、地球温暖化、環境汚染などの環境問題を解決するために全世界的に炭素排出量の規制についての協議が活発に行われており、韓国でも政府による低炭素化・環境親和的成長(長続き可能な開発)などの環境保全的な産業政策が進められてきている。 【0003】 造船業においても既存の化石燃料の使用による二酸化炭素の排出量が多かったため、昨今それを減らすための努力がなされている。 【0004】 すなわち、一般にバルク貨物船、コンテナ船、石油タンカー、旅客船などの各種船舶では推進燃料として液体燃料であるバンカーC油などの重油(HFO)やディーゼル油(MDO)を使用する燃料供給システムを採用している。 【0005】 このような従来の燃料供給システムで燃料として使用している重油などを燃焼させた場合、排気ガスに含まれる各種有害物質による環境汚染が深刻である。環境汚染の防止の要求は世界的に次第に強まっているため、重油を燃料として使用する推進装置についての規制も強化されており、このような規制を満たすための費用が次第に増加している。 【0006】 また、化石燃料の枯渇や局地的な情勢不安などの要因で原油価格が高騰した場合、重油を燃料として使用する船舶の燃料費が急増するなど様々な運営上の問題点が存在する。 【0007】 したがって、昨今、環境保全的な燃料である液化燃料ガスを船舶の燃料として使用する技術が脚光を浴びている。本明細書における液化燃料ガスとは、LNG、LPG、CNG、DMEなどのガス燃料で、燃料タンクに貯蔵している状態では液体又は気体であるが、推進装置に供給される時は気体であるものをいう。 【0008】 LNG、すなわち液化天然ガス(Liquefied Natural Gas)はガス田から採取した天然ガスを液化させたもので、メタンを主成分とする。LNGは温度を下げるか圧力を加えて液化させると体積が約1/600に減少して空間効率上有利であるが、沸点が約-162℃と低く、運送、貯蔵時には特殊断熱を施したタンクや容器に充填して温度を沸点以下に維持させなければならない。 【0009】 LPG、すなわち液化石油ガス(Liquefied Petroleum Gas)は油田から原油を採取するか原油の精製時に出てくる重炭化水素(炭素原子が2つ以上)成分、又は天然ガスの採取時に共に採取される重炭化水素成分に比較的低い圧力(6?7kg/cm2)を加えて冷却、液化させたものである。液化させると体積が約1/250に減少するので貯蔵や運送に適しており、主成分はプロパンとブタンで、少量のエタン、プロピレン、ブチレンなどが含まれることがある。 【0010】 CNG、すなわち圧縮天然ガス(Compressed Natural Gas)は天然ガスを燃料として使用するために約200気圧程度に圧縮したものである。 【0011】 DME、すなわちジメチルエーテル(Dimethyl Ether)はエーテルの一種であって、LPGより引火性が低く無毒性で、酸素含有率が高いため、燃焼時に煤煙の発生が少なく環境負荷が少ない。 【0012】 上述した液化燃料ガスのうち、特にLNGは船舶の燃料として使用する場合、二酸化炭素の排出量が軽油、バンカーC油など石油系燃料に比べて20%以上少ない。さらに、大気汚染の主因である窒素酸化物や硫酸化物はほとんど排出されないため、環境保全的な燃料になることができる。 【0013】 LNG輸送船においては、BOG(Boil off Gas)を利用した多種燃料エンジンに対する技術について昨今多くの議論が行われている。また、LNGなどを含む液化燃料ガス自体のみを船舶の推進燃料として使用する技術については現在研究初期段階にあり、今後これについて多くの議論が求められているのが実情である。 【0014】 一般に、LNGなどの液化燃料ガスはHFOなどの液体燃料に比べ密度が低いため、相対的に密度の高い液体燃料のみを使用する場合に比べて燃料タンクの体積が大きくならざるを得ない。したがって、船体が液化燃料ガス用燃料タンクを有する場合、HFOなどの液体燃料用燃料タンクを有する場合に比べ貨物積載用空間が小さくならざるを得ない。 【0015】 これを解決するためには、燃料の使用量が少ない場合は複数の燃料タンクのうち一部を除去できる着脱式燃料タンクを使用するか、又は浮遊式構造物の甲板上に燃料タンクを設置する方法を考慮することができる。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0016】 本発明は、液化燃料ガスを貯蔵できる燃料タンクを甲板の上部に設置して貨物積載用空間の減少を最小化するともに、甲板の上部に設置された燃料タンクをカバーで覆うことで燃料タンクを空気中に露出させず密閉して安全性を確保できる浮遊式構造物を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0017】 上記目的を達成するため、燃料として使用するための液化燃料ガスを貯蔵する燃料タンクを有する本発明の浮遊式構造物は、前記燃料タンクは前記浮遊式構造物の甲板上部で支持手段によって支持され、前記燃料タンクの上下左右面を含む全ての面がカバーで覆われ、前記支持手段は、前記燃料タンクと前記カバーとの間に介在して前記燃料タンクを支持するタンク支持体及び前記カバーと前記甲板上部との間に介在して前記カバーを支持するカバー支持体を含み、前記カバ?支持体は、前記甲板上部にある複数のパイプ及び各種設備の干渉を回避する所定の高さで前記カバーを支持する、当該甲板上部に間隔を存して立設した複数本の柱で構成されることを特徴とする。 【0018】(削除) 【0019】(削除) 【0020】 ここで、前記タンク支持体及び前記カバー支持体の中心軸線が一致することが好ましい。 【0021】 ここで、前記タンク支持体及び前記カバー支持体は複数個であり、そのうち1つ以上の前記タンク支持体及び前記カバー支持体の中心軸線は前記燃料タンクの幅方向の中心軸線上に位置することが好ましい。 【0022】 前記燃料タンクと前記カバーとの間には、前記燃料タンクの幅方向への振動を吸収できるロール舵及び前記燃料タンクの長さ方向への振動を吸収できるピッチ舵が介在することが好ましい。 【0023】 前記燃料タンクは独立型タンクのうちIMO Type Bであることが好ましい。 【0024】 前記燃料タンクと前記カバーとの間の空間には窒素などの不活性気体が充填されることが好ましい。 【0025】 ここで、前記燃料タンクと前記カバーとの間の空間には前記燃料タンクから液化燃料ガスが漏れた場合、これを感知できるセンサが設けられることが好ましい。 【0026】 前記燃料タンクは複数個であり、複数個の前記燃料タンクのうち前記浮遊式構造物の船首側にある燃料タンクの高さが前記浮遊式構造物の船尾側にある燃料タンクの高さより低いことが好ましい。 【発明の効果】 【0027】 上述した本発明によれば、液化燃料ガスを貯蔵できる燃料タンクを甲板の上部に設置してカバーで覆うことで燃料タンクを空気中に露出させず密閉して安全性を確保できる浮遊式構造物が提供され得る。 【0028】 したがって、本発明によれば、燃料タンクとカバーとの間の密閉された空間に窒素などの不活性気体が充填して液化燃料ガスが非常時に燃料タンクから漏れても爆発の危険を回避できる。 【図面の簡単な説明】 【0029】 【図1】甲板上部に燃料タンクを有する浮遊式構造物の断面図である。 【図2】燃料タンクが甲板上部に複数個設置された状態を示す図である。 【発明を実施するための形態】 【0030】 以下、本発明の好ましい実施の形態による甲板上部に燃料タンクを有する浮遊式構造物について、図面を参照して詳しく説明する。 【0031】 図1は甲板上部に燃料タンクを搭載した浮遊式構造物の断面図を示している。 【0032】 本明細書における浮遊式構造物とは、バルク貨物船、コンテナ船、石油タンカー、旅客船などの各種船舶をはじめとして、通常は海上の一地点に係留されたまま使用されるオイルFPSO(Oil-Floating Production Storage Offloading)、LNGFPSO(Liquefied Natural Gas-Floating Production Storage Offloading)、LNGFSRU(Liquefied Natural Gas-Floating Storage and Regasification Unit)、FPU(Floating Production Unit)などの海上プラントなどをすべて含む概念である。 【0033】 図1に示すように、浮遊式構造物の甲板3上部には燃料タンク11が設置されることができ、燃料タンク11を空気中に露出させないようにするために燃料タンク11の外部をカバー15で覆う(囲む)ことができる。カバー15は燃料タンク11の上下左右面を含む燃料タンク11の全ての面を覆うことができる構造物のことであって、カバー15と燃料タンク11との間には密閉された空間部19が形成され得る。したがって、燃料タンク11が空気中に直接露出されないので船体1の甲板3上部で燃料タンク11に対する安全性が確保できる。 【0034】 カバー15は金属、プラスチックなどの材質からなることがあり、船体と同じ材質からなることが好ましい。 【0035】 燃料タンク11は収容される燃料の種類によって適切な水準の断熱及び密封システムを採用している。特にLNG、LPGなどの液化燃料ガスを収容する燃料タンクとして、液化ガス貯蔵タンク分野で使われているメンブレン型又は独立型タンクを使うことができる。本発明の好ましい実施形態では独立型タンクのうちIMO Type Bが使用された場合を例示する。 【0036】 船体1内部には貨物を貯蔵して輸送するための貯蔵タンク2が設置されることができる。 【0037】 燃料タンク11は甲板3上部で支持手段によって支持され得る。さらに詳しくは、燃料タンク11は燃料タンク11とカバー15との間に介在されるタンク支持体13によって支持され、燃料タンク11を覆うカバー15はカバー15と甲板3上部との間に介在されるカバー支持体17によって支持され得る。この時、カバー支持体17によって燃料タンク11は甲板3上部にある複数のパイプ及び各種設備などの干渉を回避して甲板3上部に設置されることができる。 【0038】 タンク支持体13及びカバー支持体17の中心軸線が一致する時、支持手段が燃料タンク11をより堅固に支持することができる。尚、これに限定するものではなく、燃料タンク11の荷重、甲板3上部に設置する方法などの状況に応じてカバー支持体17及びタンク支持体13の中心軸が一致しない範囲で設置することもできる。 【0039】 燃料タンク11とカバー15のと間にはタンク支持体13のみでなく燃料タンク11に伝達される振動を吸収できる上部ロール舵12、下部ロール舵14及びピッチ舵(図示せず)も介在され得る。上部ロール舵12と下部ロール舵14とは燃料タンク11の幅方向への振動を吸収でき、ピッチ舵(図示せず)は燃料タンクの長さ方向への振動を吸収できる。 【0040】 ただし、図面には上部ロール舵12及び下部ロール舵14が燃料タンク11とカバー15との間で燃料タンク11の幅方向に沿って設置される場合を示しているが、上部ロール舵12及び下部ロール舵14が設置される位置はこれに限定されるものでなく状況に応じて適切な位置に設置されることができる。 【0041】 燃料タンク11とカバー15との間に形成された密閉された空間部19には窒素などの不活性気体が充填されることができる。非常状況時に燃料タンク11から液化燃料ガスが漏れてもカバー15によって液化燃料ガスがカバー15の外部に漏れる虞がなく、漏れた場合であっても燃料タンク11とカバー15との間の不活性気体によって液化燃料ガスが爆発する危険を回避できる。 【0042】 図面には示していないが、前記空間部19には液化燃料ガスの漏れを感知できるセンサを設けることもできる。センサを設けることで燃料タンク11の中で液化燃料ガスが漏れている部分がどこであるかを事前に感知することができ、海上で直ちに適切な措置を行なうことができるようになる。 【0043】 図2は本発明の好ましい実施形態による燃料タンクが甲板上部に複数個設置された状態を示している。 【0044】 図2に示すように、船体1の甲板3上部に複数個の燃料タンクを設置する場合、船尾部31側にある第1燃料タンク部21の高さを船首部32側にある第2燃料タンク部22の高さより高くすることができる。第1燃料タンク部21は第2燃料タンク部22より高さが高くなった分、大きい貯蔵容量を有し得る。 【0045】 ここで第1燃料タンク部21及び第2燃料タンク部22の構造は上述と同様であるので詳細な説明は省略する。 【0046】 操縦室23では浮遊式構造物の運航のために常に視野を確保する必要がある。したがって、操縦室23で確保できる視野を妨げない範囲内で燃料タンクを甲板3上部に設置しなければならないが、図2に点線で示す部分の下方の部分が燃料タンクを設置できる空間となる。第1燃料タンク部21を第2燃料タンク部22の高さと同じ高さとした場合に比べ、第1燃料タンク部21の高さを図示したように操縦室23の視野を妨げない点線部分までにした場合の方が、燃料タンクの貯蔵空間を最大限に増やすことができる。 【0047】 本発明の好ましい実施形態では2つの燃料タンク部を例示しているが、3つ以上の複数の燃料タンク部が甲板上部に設置される場合も船尾部側に行くほど燃料タンク部の高さを大きくなるようにして操縦室23の視野を確保可能な範囲内で空間を効率的に活用することができる。 【0048】 上述のような本発明の甲板上部に燃料タンクを有する浮遊式構造物によれば、燃料タンク11の外部をカバー15で覆うため、燃料タンク11を直接空気中に露出させず、運航中の安全を確保できる。 【0049】 また、本発明の甲板上部に燃料タンクを有する浮遊式構造物によれば、燃料タンク11の高さを異なるようにして甲板上部に設置するので視野を妨げることなく、甲板の限定された空間で燃料タンク11により多くの燃料を収容できる。 【0050】 以上のように本発明による甲板上部に燃料タンクを有する浮遊式構造物について、本発明の好ましい実施形態を参照して説明した。しかし、本発明は以上で説明された実施形態と図面によって限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された要旨を逸脱しない範囲内で本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって様々な修正及び変形がなされ得ることは言うまでもない。 【符号の説明】 【0051】 1:船体 2:貯蔵タンク 3:甲板 11:燃料タンク 12:上部ロール舵 13:タンク支持体 14:下部ロール舵 15:カバー 17:カバー支持体 19:空間部 21:第1燃料タンク部 22:第2燃料タンク部 23:操縦室 31:船尾部 32:船首部 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 燃料として使用するための液化燃料ガスを貯蔵する燃料タンクを有する浮遊式構造物であって、 前記燃料タンクは前記浮遊式構造物の甲板上部で支持手段によって支持され、前記燃料タンクの上下左右面を含む全ての面がカバーで覆われ、 前記支持手段は、前記燃料タンクと前記カバーとの間に介在して前記燃料タンクを支持するタンク支持体及び前記カバーと前記甲板上部との間に介在して前記カバーを支持するカバー支持体を含み、前記カバ?支持体は、前記甲板上部にある複数のパイプ及び各種設備の干渉を回避する所定の高さで前記カバーを支持する、当該甲板上部に間隔を存して立設した複数本の柱で構成されることを特徴とする浮遊式構造物。 【請求項2】 前記タンク支持体及び前記カバー支持体の中心軸線は一致することを特徴とする請求項1に記載の浮遊式構造物。 【請求項3】 前記タンク支持体及び前記カバー支持体は複数個であり、そのうち1つ以上の前記タンク支持体及び前記カバー支持体の中心軸線は前記燃料タンクの幅方向の中心軸線上に位置することを特徴とする請求項2に記載の浮遊式構造物。 【請求項4】 前記燃料タンクと前記カバーとの間には、前記燃料タンクの幅方向への振動を吸収できるロール舵及び前記燃料タンクの長さ方向への振動を吸収できるピッチ舵が介在することを特徴とする請求項1に記載の浮遊式構造物。 【請求項5】 前記燃料タンクは独立型タンクのうちIMO Type Bであることを特徴とする請求項1に記載の浮遊式構造物。 【請求項6】 前記燃料タンクと前記カバーとの間の空間には窒素などの不活性気体が充填されることを特徴とする請求項1に記載の浮遊式構造物。 【請求項7】 前記燃料タンクと前記カバーとの間の空間には前記燃料タンクから液化燃料ガスが漏れた場合、これを感知できるセンサが設けられることを特徴とする請求項6に記載の浮遊式構造物。 【請求項8】 前記燃料タンクは複数個であり、複数個の前記燃料タンクのうち前記浮遊式構造物の船首側にある燃料タンクの高さが前記浮遊式構造物の船尾側にある燃料タンクの高さより低いことを特徴とする請求項1に記載の浮遊式構造物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-10-19 |
出願番号 | 特願2013-511095(P2013-511095) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B63B)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 須山 直紀、谷治 和文 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
和田 雄二 出口 昌哉 |
登録日 | 2015-05-01 |
登録番号 | 特許第5738985号(P5738985) |
権利者 | デウ シップビルディング アンド マリーン エンジニアリング カンパニー リミテッド |
発明の名称 | 甲板上部に燃料タンクを有する浮遊式構造物 |
代理人 | 特許業務法人青莪 |
代理人 | 特許業務法人青莪 |