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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03G
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03G
管理番号 1323475
異議申立番号 異議2016-700091  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-05 
確定日 2016-11-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5759256号発明「発泡シリコーンゴムの製造方法及びゴム被覆ローラの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5759256号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5759256号の請求項1、3に係る特許を維持する。 特許第5759256号の請求項2に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第5759256号の請求項1乃至3に係る特許は、平成23年5月16日の出願であって、平成27年6月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成28年2月5日に特許異議申立人 一條 淳により特許異議の申立てがなされ、同年4月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年6月17日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という)がなされ、同年6月27日付けで特許法第120条の5第5項に規定された通知書を特許異議申立人に送付したところ、その指定期間内に何ら応答がされなかったものである。


第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「発泡剤と同等の分解温度を有する分解成分を配合してなるコンパウンドを、加硫並びに前記発泡剤及び前記分解成分の分解が生じるように」を、「発泡剤と同等の分解温度を有し熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子を配合してなるコンパウンドを、加硫並びに前記発泡剤及び前記ポリメチルメタアクリレート粒子の分解が生じるように」に訂正する。(下線は、訂正箇所を示す。以下、同じ。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の「前記発泡剤と同等の分解温度を有する分解成分を配合してなるコンパウンドを、加硫並びに前記発泡剤及び前記分解成分の分解が生じるように」を、「前記発泡剤と同等の分解温度を有し熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子を配合してなるコンパウンドを、加硫並びに前記発泡剤及び前記ポリメチルメタアクリレート粒子の分解が生じるように」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無の適否
(1)訂正事項1について
ア.訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載の「発泡剤と同等の分解温度を有する分解成分」について、「発泡剤と同等の分解温度を有し熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子」と具体的に限定し、「前記分解成分の分解が生じる」ことについて、「ポリメチルメタアクリレート粒子の分解が生じる」と具体的に限定しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
上記ア.で述べたとおり限定しようとするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ.新規事項追加の有無
当該訂正事項1に関連する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0060】には、分解成分の具体例として、テクポリマーIMB-2(PMMA(ポリメチルメタアクリレート)粒子、熱分解温度約250℃)、テクポリマーMB-8(PMMA(ポリメチルメタアクリレート)粒子、熱分解温度約300℃)、テクポリマーEMA-35(PMMA(ポリメチルメタアクリレート)粒子、熱分解温度約250℃)が記載され、また、段落【0064】【表1】の実施例には、分解成分として「テクポリマーMB-8」が分解温度230℃及び300℃で用いられていること、段落【0065】【表2】の実施例には、分解成分として「テクポリマーIMB-2」が分解温度300℃で用いられていること、段落【0066】【表3】の実施例には、分解成分として「テクポリマーIMB-2」及び「テクポリマーEMA-35」が分解温度300℃で用いられていること、また、段落【0027】に「分解成分が、熱分解温度が350℃以下の有機ポリマーであること」と記載されていること、及び段落【0028】に「熱分解温度が350℃以下の有機ポリマー(熱分解樹脂)粒子が分解成分として好ましく用いられる。熱分解温度が350℃を越える分解成分を用いると、十分に分解が進まず目的とした連泡度(気泡間が通気可能に連続している程度)が得られない。」と記載されていることから、分解成分として、熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子を用いることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア.訂正の目的の適否
訂正事項2は、請求項2を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項2は、請求項2を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ.新規事項追加の有無
訂正事項2は、請求項2を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア.訂正の目的の適否
訂正事項3は、訂正前の請求項3の記載の「発泡剤と同等の分解温度を有する分解成分」について、「発泡剤と同等の分解温度を有し熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子」と具体的に限定し、「前記分解成分の分解が生じる」ことについて、「ポリメチルメタアクリレート粒子の分解が生じる」と具体的に限定しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
上記2.(1)ア.で述べたとおり限定しようとするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ.新規事項追加の有無
当該訂正事項3に関連する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0060】には、分解成分の具体例として、テクポリマーIMB-2(PMMA(ポリメチルメタアクリレート)粒子、熱分解温度約250℃)、テクポリマーMB-8(PMMA(ポリメチルメタアクリレート)粒子、熱分解温度約300℃)、テクポリマーEMA-35(PMMA(ポリメチルメタアクリレート)粒子、熱分解温度約250℃)が記載され、また、段落【0064】【表1】の実施例には、分解成分として「テクポリマーMB-8」が分解温度230℃及び300℃で用いられていること、段落【0065】【表2】の実施例には、分解成分として「テクポリマーIMB-2」が分解温度300℃で用いられていること、段落【0066】【表3】の実施例には、分解成分として「テクポリマーIMB-2」及び「テクポリマーEMA-35」が分解温度300℃で用いられていること、また、段落【0027】に「分解成分が、熱分解温度が350℃以下の有機ポリマーであること」と記載されていること、及び段落【0028】に「熱分解温度が350℃以下の有機ポリマー(熱分解樹脂)粒子が分解成分として好ましく用いられる。熱分解温度が350℃を越える分解成分を用いると、十分に分解が進まず目的とした連泡度(気泡間が通気可能に連続している程度)が得られない。」と記載されていることから、分解成分として、熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子を用いることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1乃至3について訂正を認める。


第3 取消理由及び特許異議の申立て理由について
1.本件特許発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1乃至3に係る発明(以下「本件特許発明1」乃至「本件特許発明3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
熱硬化型シリコーンゴム、加硫剤、発泡剤及び前記発泡剤と同等の分解温度を有し熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子を配合してなるコンパウンドを、加硫並びに前記発泡剤及び前記ポリメチルメタアクリレート粒子の分解が生じるように加熱する工程を有することを特徴とする発泡シリコーンゴムの製造方法。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
熱硬化型シリコーンゴム、加硫剤、発泡剤及び前記発泡剤と同等の分解温度を有し熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子を配合してなるコンパウンドを、加硫並びに前記発泡剤及び前記ポリメチルメタアクリレート粒子の分解が生じるように加熱してゴム弾性層を形成する工程、並びに、芯体の周面に前記ゴム弾性層を設ける工程を有するゴム被覆ローラの製造方法。」

2.取消理由及び申立て理由の概要
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1乃至3に係る特許に対して平成28年4月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。

ア.本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第2号証(特開2002-12696号公報)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。(以下、「取消理由1」という。)

イ.本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された上記項第2号証に記載された発明に基づいて、もしくは、甲第1号証(特開2006-307008号公報)、上記甲第2号証及び甲第3号証(特許第3344270号公報)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。(以下、それぞれ「取消理由2-1」、「取消理由2-2」という。)

ウ.本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
請求項1及び請求項3には、「発泡剤と同等の分解温度を有する分解成分」なる特定事項がある。
しかし、発明の詳細な説明には、「分解成分を構成する有機ポリマー」の具体例は記載されているが(【0031】)、それ以外の分解成分については記載も示唆もされていない。(以下、「取消理由3」という。)

エ.本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
請求項2の「前記分解成分が、熱分解温度が350℃以下の有機ポリマー粒子である」との特定は、「分解成分」と「有機ポリマー粒子」とは、物質の特性を特定したものと物質の名称を特定したものとの異なるカテゴリーの特定事項を、上位下位の関係で特定するもので、不明確な記載である。(以下、「取消理由4」という。)

(2)取消理由以外の申立て理由の概要
特許異議申立人は、上記取消理由に関連しないものとして、以下の理由を申立てていた。
ア.特許法第36条第4項第1号
特許請求の範囲の請求項1及び3に「熱硬化型シリコーンゴム、加硫剤、発泡剤及び前記発泡剤と同等の分解温度を有し熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子を配合してなるコンパウンドを、加硫並びに前記発泡剤及び前記分解成分の分解が生じるように加熱する」と記載されているが、これら各成分の配合割合、特に具体的な分解成分毎の配合割合及び具体的な分解成分毎の加熱温度については記載がなく、本件特許明細書の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1及び3に記載の発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。(以下、「取消理由5」という。)


第4 当合議体の判断
1.本件特許の請求項2は、上記「第2 1.(2)」のように、本件訂正請求により削除されたので、請求項2に係る特許に対する特許異議の申立ては却下する。

2.刊行物の記載
(1)甲第1号証
本件特許の出願日前の平成18年11月9日に頒布された特開2006-307008号公報には、以下の記載がある。
「【請求項1】
(A) 下記(A-1) 、(A-2) からなる混合物;100重量部
(A-1) アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン;100重量部
(A-2) 充填剤;5?100重量部
(B) 有機過酸化物加硫剤;ゴムを硬化させるのに必要な量であって、且つ(C) 熱分解型発泡剤と(D) 連通化剤を配合しない状態での熱分解型発泡剤の分解温度におけるスコーチタイム(初期加硫時間)が10分以上となる量
(C) 熱分解型発泡剤;0.1?10重量部
(D) 非イオン系界面活性剤及びエポキシ基を有するシランカップリング剤より選ばれる連通化剤;0.01?10重量部
を含む連続気泡を有するシリコーンゴム発泡体用組成物。」
「【0013】
本発明は、このような問題を解決し、特殊な製造装置、プロセスを用いることなく、連泡率が高く、柔軟性、復元性、寸法安定性に優れた発泡体を効率良く製造する技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく検討を重ねた結果、特定の連通化剤を組成物中に配合することにより、連泡率が高いシリコーンゴム発泡体を効率良く製造することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。」
「【0026】
次に、本発明で用いる(D) 連通化剤とは、非イオン系界面活性剤及びエポキシ基を有するシランカップリング剤より選ばれるものであって、単独気泡を連通させ連続気泡を有する発泡体へと変化させる作用を有する。」
「【0042】
このような連泡率50%以上の発泡体は、ロール、断熱材、クッション材、等として有用であり、特に複写機、プリンター用の各種ロール(例えば定着ロール、クリーニングロール、カーボンブラックを配合した導電性の帯電ロール、現像ロール、トナー供給ロール、静電除去ロールなど)として好適に用いられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の部は重量部を表す。
調製例1;ベースコンパウンド1の調製
ポリジメチルシロキサン(両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位0.13モル%含有。平均重合度6000)100部に補強用充填剤(表面処理ヒュームドシリカ、トクヤマ製表面処理シリカDM-10)40部を加え、ニーダーで均一に混合後、さらに150℃で2時間加熱混練してベースコンパウンド1を調製した。
調製例2;ベースコンパウンド2の調製
上記ベースコンパウンド1の100部に、2,5-ジクミルパーオキサイド0.6部を加え、二本ロールで混合して、ベースコンパウンド2を調製した。」
「【0045】
このベースコンパウンド3の107℃(実施例で使用のアゾビスイソブチロニトリルの分解温度)におけるスコーチタイムは6分であった。
実施例1?6、比較例1?6
表1に示すように、ベースコンパウンド2あるいは3にアゾビスイソブチロニトリル、連通化剤を加え、二本ロールで混合し、5mm厚に分出しし、未加硫のコンパウンドを200℃の熱風循環式オーブンで4時間加熱して発泡硬化させ発泡体を得た。」

以上の記載によれば、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる。(以下「引用発明1」という。)
「(A-1) アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン、(A-2) 充填剤、(B) 有機過酸化物加硫剤、(C) 熱分解型発泡剤、(D) 非イオン系界面活性剤及びエポキシ基を有するシランカップリング剤より選ばれる連通化剤、を二本ロールで混合し、5mm厚に分出し、未加硫のコンパウンドを200℃の熱風循環式オーブンで4時間加熱して発泡硬化させた発泡体であって、連続気泡を有するシリコーンゴム発泡体用組成物の製造技術。」

(2)甲第2号証
本件特許の出願日前の平成14年1月15日に頒布された特開2002-12696号公報には、以下の記載がある。
「【請求項1】 (A)硬化性オルガノポリシロキサン組成物、(B)有機樹脂製中空フィラーの1種又は2種以上を含有するシリコーンゴム組成物を硬化させることによって得られ、上記フィラーから得られる気泡が連泡状態で存在することを特徴とするシリコーンゴム。
【請求項2】 (B)成分の有機樹脂製中空フィラーが、比重0.01?0.3、平均粒子径10?200μmのものであることを特徴とする請求項1記載のシリコーンゴム。
【請求項3】 (B)成分の有機樹脂製中空フィラーが、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルから選ばれるモノマーの重合物並びにこれらのモノマーのうちの2種類以上の共重合物から選ばれるものである請求項1又は2記載のシリコーンゴム。
【請求項4】 シリコーンゴム組成物が、更に(C)多価アルコール又はその誘導体を含有する請求項1乃至3のいずれか1項記載のシリコーンゴム。
【請求項5】 シリコーンゴム組成物が、更に(D)発泡剤を含有する請求項1乃至4のいずれか1項記載のシリコーンゴム。

【請求項7】 (A)成分のオルガノポリシロキサン組成物が、(イ)一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン、(ロ)有機過酸化物からなる有機過酸化物硬化型オルガノポリシロキサン組成物である請求項1乃至5のいずれか1項記載のシリコーンゴム。

【請求項9】 (A)硬化性オルガノポリシロキサン組成物、(B)軟化点の相違する少なくとも2種の有機樹脂製中空フィラーを含有するシリコーンゴム組成物を、軟化点の低い中空フィラーが破壊し、軟化点の高い中空フィラーが実質的にその形状を維持する温度で硬化させることを特徴とする請求項1記載のシリコーンゴムの製造方法。」
「【0021】また、(ロ)成分の有機過酸化物としては、従来公知のものを使用することができ、例えばベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p-メチルベンゾイルパーオキサイド、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-ビス(2,5-t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーベンゾエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボキシ)ヘキサン等が挙げられる。」
「【0024】上記硬化性オルガノポリシロキサン組成物に配合される(B)成分の有機樹脂製中空フィラーは、有機樹脂、好ましくは熱可塑性樹脂製のフィラー内に気体部分を持つことで、スポンジゴムのように比重を低下させるものであり、このような材料としては、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルから選ばれるモノマーの重合物並びにこれらのモノマーのうち2種類以上の共重合物から選ばれるものが好ましく、また中空フィラーの強度を持たせるため等の理由でそれらの表面に無機フィラー等を付着させたものでもよい。…」
「【0026】また、上記中空フィラーはその1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよいが、その軟化点は50?200℃、特に80?180℃の範囲とすることが好ましく、2種以上の中空フィラーを使用する場合、軟化点の最も大きい(軟化温度が最も高い)中空フィラーと軟化点の最も小さい(軟化温度が最も低い)中空フィラーとの軟化点の差は5?100℃、特に10?80℃、とりわけ20?60℃とすることが好ましく、これによってシリコーンゴム組成物の加熱硬化時に少なくとも軟化点の最も小さい中空フィラーを破壊して得られるシリコーンゴムを確実に連泡化させることができる。
【0027】上記(A)、(B)成分を含有するシリコーンゴム組成物には、(C)成分として多価アルコール又はその誘導体を配合することが好ましい。これは、中空フィラーを添加したシリコーンゴム組成物の加熱硬化時に独立気泡構造から連通気泡構造化を生成、促進させる連泡化添加剤として作用するものである。」
「【0030】更に、シリコーンゴム組成物には、(D)成分として発泡剤を配合することができる。これは、ゴム硬化時に発泡剤が気体を発生して、この気体が中空フィラーにより形成される気泡を連泡化するもので、用いられる発泡剤は通常シリコーンゴムに使用可能なものであればいかなるものでもかまわないが、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、1,1-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、アゾジカルボンアミド等の有機アゾ化合物、ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、パラトルエンスルホニルヒドラジン等のヒドラジン誘導体などが挙げられる。」
「【0041】[実施例1]両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された25℃での粘度が5,000ポイズであるジメチルポリシロキサン(1)68部、比表面積が200m^(2)/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル200)32部、ヘキサメチルジシラザン5部、ジビニルテトラメチルジシラザン0.5部、水2.0部を室温で30分混合後、150℃に昇温し、3時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。このシリコーンゴムベース50部に、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された25℃での粘度が1,000ポイズであるジメチルポリシロキサン(2)50部、比重0.04、軟化点が130?150℃である平均粒径40μmの熱可塑性樹脂製中空フィラー(エクスパンセル社,Expance551DE)2部(35vol%に相当)、トリエチレングリコール4部をプラネタリーミキサーに入れ、30分撹拌を続けた後、更に架橋剤として両末端及び側鎖にSi-H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(3)(重合度17、Si-H量0.0060mol/g)を3.5部、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05部を添加し、15分撹拌を続けて、シリコーンゴム組成物を得た。このシリコーンゴム組成物に白金触媒(Pt濃度1%)0.1部を混合し、120℃/15分のプレスキュア、その後更に200℃のオーブン内で4時間ポストキュアさせた後、JIS K6249に基づき、比重、硬さ、圧縮永久歪(150℃×22時間、180℃×22時間)、メタノール浸漬重量増加率を測定した。結果を表1に示す。
【0042】[実施例2]実施例1のジメチルポリシロキサン(1)65部、比表面積が300m^(2)/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル300)35部、ヘキサメチルジシラザン6部、ジビニルテトラメチルジシラザン0.5部、水2.0部を室温で30分混合後、150℃に昇温し、3時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。このシリコーンゴムベース50部に、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された25℃での粘度が10万ポイズであるジメチルポリシロキサン(4)50部、比重0.02、軟化点が140?160℃である平均粒径90μmの熱可塑性樹脂製中空フィラー(松本油脂社,マイクロスフィアーF-80ED)2.8部(60vol%に相当)、グリセリン10部をプラネタリーミキサーに入れ、30分撹拌を続けた後、更に架橋剤として両末端及び側鎖にSi-H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(3)(重合度17、Si-H量0.0060mol/g)を2.0部、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05部を添加し、15分撹拌を続けて、シリコーンゴム組成物を得た。このシリコーンゴム組成物に白金触媒(Pt濃度1%)0.1部を混合し、実施例1と同様の条件で硬化し、同様に比重、硬さ、圧縮永久歪(150℃×22時間、180℃×22時間)、メタノール浸漬重量増加率を測定した。結果を表1に示す。」
上記【0026】及び【0027】より、シリコーンゴム組成物は、熱硬化型といえる。
硬化処理の具体的内容は、[実施例1]より、120℃/15分のプレスキュア、その後更に200℃のオーブン内で4時間ポストキュアであることがわかる。そして、上記【0030】より、ゴム硬化時のキュア(加熱)により、発泡剤の分解が生じて気体が発生して、この気体が中空フィラーにより形成される気泡を連泡化するものであることがわかる。

以上の記載によれば、甲第2号証には以下の発明が記載されていると認められる。(以下「引用発明2」という。)
「(A)ベンゾイルパーオキサイドからなる硬化性オルガノポリシロキサン組成物、(B)有機樹脂製中空フィラーの1種又は2種以上、(D)発泡剤を含有する熱硬化型シリコーンゴム組成物を、120℃/15分のプレスキュア、その後更に200℃のオーブン内で4時間ポストキュアし硬化させることによって得られ、キュアにより、発泡剤の分解が生じて気体が発生して、この気体により、上記フィラーから得られる気泡が連泡状態で存在するシリコーンゴムの製造方法。」

(3)甲第3号証
本件特許の出願日前の平成14年11月11日に発行された特許第3344270号公報には、以下の記載がある。
「【請求項1】(a)ポリシロキサン前駆体中に熱分解性ポリマー粒子を分散させる段階と、(b)前記ポリシロキサン前駆体を重合させて前記粒子を分解せずに硬質ポリシロキサンを形成する段階と、(c)前記ポリシロキサンを加熱して前記ポリシロキサンを膨張させずに前記粒子を分解しポリシロキサン発泡体を形成する段階とを含む発泡ポリマーを製造する方法。」
「【0015】実施例1 熱分解性PMMA粒子の調製
ポリメタクリル酸メチル粒子を分散重合法によって形成した。この合成方法では、出発原料、モノマー、界面活性剤等が溶媒中で混和できる。ところがこの溶媒はポリマーの非溶媒で、形成の際にポリマーの微小粒子が溶媒から析出する。メタクリル酸メチル(20g)、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィンコバルト(II)、AIBN(α,α'-アゾビスイソブチロニトリル)(0.2g)、ヘキサン(300ml)をフラスコに入れた。速く撹拌しながら反応物を65℃に加熱した。その結果得られた粉末をろ過によって分離したが、その粒径は約3ミクロン、分子量は約73,000g/molであった。
【0016】実施例2 ポリシロキサン発泡体の調製
実施例1のPMMA粉末(1g)を硬化剤(9g)と共にポリジメチルシロキサン液(シルガード18L)と混合し、65℃で4時間硬化させた後、150℃で2時間、後硬化させた。PMMAの分解は300℃2時間の後硬化によってポリマーを膨張させずに達成された。この発泡ポリマーは孔径が約3ミクロンであった。」
「【0018】(1)(a)ポリシロキサン前駆体中に熱分解性ポリマー粒子を分散させる段階と、(b)前記ポリシロキサン前駆体を重合させて前記粒子を分解せずに硬質ポリシロキサンを形成する段階と、(c)前記ポリシロキサンを加熱して前記ポリシロキサンを膨張させずに前記粒子を分解しポリシロキサン発泡体を形成する段階とを含む発泡ポリマーを製造する方法。
(2)前記段階(b)においての前記ポリシロキサンが架橋されることを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(3)前記粒子がポリメタクリル酸メチルを含むことを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(4)前記ポリシロキサン発泡体の孔径が約1?10ミクロンであることを特徴とする上記(1)に記載の方法。」

以上の記載によれば、甲第3号証には以下の発明が記載されていると認められる。(以下「引用発明3」という。)
「(a)ポリシロキサン前駆体中に熱分解性ポリマー粒子を分散させる段階と、(b)前記ポリシロキサン前駆体を重合させて前記粒子を分解せずに硬質ポリシロキサンを形成する段階と、(c)前記ポリシロキサンを加熱して前記ポリシロキサンを膨張させずに前記粒子を分解しポリシロキサン発泡体を形成する段階とを含む発泡ポリマーを製造する方法。」

3.取消理由1について
(1)対比
本件特許発明1と引用発明2とを対比すると、
後者の「熱硬化型シリコーンゴム組成物」及び「発泡剤」は、前者の「熱硬化型シリコーンゴム」及び「発泡剤」に相当する。
また、後者の「ベンゾイルパーオキサイドからなる硬化性オルガノポリシロキサン組成物」は、本件特許明細書の段落【0016】に加硫剤として例示されているものであるから、前者の「加硫剤」に相当する。
後者の「熱硬化型シリコーンゴム組成物」は、「(A)ベンゾイルパーオキサイドからなる硬化性オルガノポリシロキサン組成物、(B)有機樹脂製中空フィラーの1種又は2種以上、(D)発泡剤」を含有するものであるから、配合してなるコンパウンドといえる。
後者は、シリコーンゴム組成物を、120℃/15分のプレスキュア、その後更に200℃のオーブン内で4時間ポストキュアし硬化させるものであるから、配合してなるコンパウンドを、加硫並びに加熱する工程を有するといえる。そして、後者は、「キュアにより、発泡剤の分解が生じて気体が発生」するものであるから、発泡剤の分解が生じるように加熱する工程を有するといえる。
後者の「シリコーンゴムの製造方法」は、「発泡シリコーンゴムの製造方法」といえる。

したがって、両者は、
「熱硬化型シリコーンゴム、加硫剤、発泡剤を配合してなるコンパウンドを、加硫並びに前記発泡剤の分解が生じるように加熱する工程を有する発泡シリコーンゴムの製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点2-1]
本件特許発明1が、「発泡剤と同等の分解温度を有し熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子」を配合してなるコンパウンドであるのに対し、引用発明1が、「有機樹脂製中空フィラーの1種又は2種以上」を含有するシリコーンゴム組成物である点。

[相違点2-2]
本件特許発明1が、「ポリメチルメタアクリレート粒子の分解が生じるように加熱する工程を有する」のに対し、引用発明1が、120℃/15分のプレスキュア、その後更に200℃のオーブン内で4時間ポストキュアし硬化させることによって、キュアにより、発泡剤の分解が生じて気体が発生して、この気体により、フィラーから得られる気泡が連泡状態で存在する点。

(2)相違点についての判断
引用発明2は、上記相違点2-1及び相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を具備していない。
したがって、本件特許発明1が、引用発明2であるとすることはできない。
また、本件特許発明3は、本件特許発明1の「発泡シリコーンゴムの製造方法」を「ゴム被覆ローラの製造方法」とカテゴリーを変えたものであって、実質的に本件特許発明1と相違しない。
よって、本件特許発明3が、引用発明2であるとすることはできない。

4.取消理由2-1について
上記相違点2-1及び相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項とする根拠はない。
そして、本件特許発明1は、上記相違点2-1及び相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を具備することにより、本件特許明細書に記載の「本発明の発泡シリコーンゴムは、優れた機械的強度や耐久性を有するとともに、又加熱による体積の増大も生じにくいものである。又、本発明のゴム被覆ローラは、カラー機用の加圧ローラとしての十分な機械的強度、耐久性を有し、熱定着時の加熱によるローラ径の変化も生じにくく画像形成装置における定着器の加圧ローラとして好適に使用できる。」(段落【0038】)という作用効果を奏するものである。
また、引用発明1及び引用発明3のいずれを見ても、上記相違点2-1及び相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項は記載されていない。
したがって、本件特許発明1は、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本件特許発明3は、本件特許発明1の「発泡シリコーンゴムの製造方法」を「ゴム被覆ローラの製造方法」とカテゴリーを変えたものであって、実質的に本件特許発明1と相違しない。
よって、本件特許発明3が、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

5.取消理由2-2について
(1)対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、
後者の「アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン」、「有機過酸化物加硫剤」、「熱分解型発泡剤」及び「コンパウンド」、は、それぞれ、前者の「熱硬化型シリコーンゴム」、「加硫剤」、「発泡剤」及び「コンパウンド」に相当する。
後者は、有機過酸化物加硫剤及び熱分解型発泡剤を混合したコンパウンドを加熱して発泡硬化させるものであるから、加硫並びに発泡剤の分解が生じるように加熱する工程を有するといえる。
後者の「コンパウンド」は、「(A-1) アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン、(A-2) 充填剤、(B) 有機過酸化物加硫剤、(C) 熱分解型発泡剤、(D) 非イオン系界面活性剤及びエポキシ基を有するシランカップリング剤より選ばれる連通化剤」、を二本ロールで混合し、5mm厚に分出したものであるから、配合してなる物といえる。
後者の「シリコーンゴム発泡体用組成物の製造技術」は、実質的に工程を含むものであるから、発泡シリコーンゴムの製造方法といえる。

したがって、両者は、
「熱硬化型シリコーンゴム、加硫剤、発泡剤を配合してなるコンパウンドを、加硫並びに前記発泡剤の分解が生じるように加熱する工程を有する発泡シリコーンゴムの製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1-1]
本件特許発明1が、「発泡剤と同等の分解温度を有し熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子」を配合してなるコンパウンドであるのに対し、引用発明1は、非イオン系界面活性剤及びエポキシ基を有するシランカップリング剤より選ばれる連通化剤である点

[相違点1-2]
本件特許発明1が、ポリメチルメタアクリレート粒子の分解が生じるように加熱する工程を有するのに対し、引用発明1は、その点が、明らかでない点。

(2)相違点についての判断
上記「3.(1)」のように、引用発明2は、相違点1-1及び相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えていない。
また、引用発明3を見ても、上記相違点1-1及び相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項は記載されていない。
さらに、上記相違点1-1及び相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項とする根拠もない。
そして、本件特許発明1は、上記相違点1-1及び相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を具備することにより、本件特許明細書に記載の「本発明の発泡シリコーンゴムは、優れた機械的強度や耐久性を有するとともに、又加熱による体積の増大も生じにくいものである。又、本発明のゴム被覆ローラは、カラー機用の加圧ローラとしての十分な機械的強度、耐久性を有し、熱定着時の加熱によるローラ径の変化も生じにくく画像形成装置における定着器の加圧ローラとして好適に使用できる。」(段落【0038】)という作用効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、引用発明1乃至3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本件特許発明3は、本件特許発明1の「発泡シリコーンゴムの製造方法」を「ゴム被覆ローラの製造方法」とカテゴリーを変えたものであって、実質的に本件特許発明1と相違しない。
よって、本件特許発明3が、引用発明1乃至3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

6.取消理由3について
本件特許明細書には、
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような熱硬化型シリコーンゴム組成物からこのような押出し機を使用して得られる発泡シリコーンゴム(マイクロスポンジゴム)を加圧ローラに用いた場合、マイクロスポンジゴムからなる弾性層は独立気泡で形成されているため空気透過性が悪く、使用時のローラ昇温によって外径が変化し、プロセススピードに変動を生じ、画像の伸縮が起こるといった問題が生じる場合がある。
【0010】
本発明は、加圧ローラの弾性層として使用したとき、既存の膨張性樹脂マイクロバルーンを配合したシリコーンゴムからなる加圧ローラと同等以上の強度や耐久性を有する弾性層を形成できるとともに、熱定着時の昇温による加圧ローラの外径変化を小さくすることができる発泡シリコーンゴム及びその製造方法を提供することを目的としたものである。本発明は、又、この発泡シリコーンゴムを使用したゴム被覆ローラであって、安定したプロセススピードを維持できる加熱定着装置に使用することができるゴム被覆ローラを提供する。」
と記載され、本件特許発明1は、熱定着時の昇温による加圧ローラの外径変化を小さくすることができる発泡シリコーンゴム及びその製造方法を提供することを目的(課題)とするものである。
そして、本件特許発明1は、上記「第2 1.(1)」のように、本件訂正前の請求項1の「分解成分」を、「熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子」と具体的に限定する訂正がなされたものである。
ここで、「熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子」との特定事項は、本件特許明細書の【0060】、【0064】乃至【0066】に記載されているものである。
よって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
また、【0064】の【表1】、【0065】の【表2】及び【0066】の【表3】に記載されているように、「熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子」を分解成分として配合することにより、加熱によるローラ径の変形が生じにくいことが示されている。
してみると、本件特許発明1は、「熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子」を分解成分として配合することにより、上記課題を解決するものである。
そうすると、本件特許発明1が、発明の詳細な説明に記載されたものでないとすることはできない。

また、本件特許発明3は、上記「第2 1.(3)」のように、本件訂正前の請求項3の「分解成分」を、「熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子」と具体的に限定する訂正がなされたものであって、本件特許発明3は、本件特許発明1の「発泡シリコーンゴムの製造方法」を「ゴム被覆ローラの製造方法」とカテゴリーを変えたものであって、実質的に本件特許発明1と相違しない。
そうすると、本件特許発明3は本件特許発明1と同様に、発明の詳細な説明に記載されたものでないとすることはできない。

7.取消理由5について
本件特許発明1の「コンパウンド」に配合される「熱硬化型シリコーンゴム」、「加硫剤」、「発泡剤」及び「前記発泡剤と同等の分解温度を有し熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子」の具体的な配合割合及び加熱温度については、本件特許明細書の【0050】乃至【0054】及び【0058】乃至【0066】に具体的に記載されている。
そして、本件特許発明1は、上記「第2 1.(1)」のように、本件訂正前の請求項1の「分解成分」を、「熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子」と具体的に限定する訂正がなされたものであるから、上記のように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子」という具体的物質についてその配合割合及び加熱温度が記載されている。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとすることはできない。

また、本件特許発明3は、上記「第2 1.(3)」のように、本件訂正前の請求項3の「分解成分」を、「熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子」と具体的に限定する訂正がなされたものであって、本件特許発明3は、本件特許発明1の「発泡シリコーンゴムの製造方法」を「ゴム被覆ローラの製造方法」とカテゴリーを変えたものであって、実質的に本件特許発明1と相違しない。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明3を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとすることはできない。

8.むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件特許発明1乃至3を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1乃至3を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項2は、本件訂正請求により削除されたので、請求項2に係る特許に対する申立てを却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化型シリコーンゴム、加硫剤、発泡剤及び前記発泡剤と同等の分解温度を有し熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子を配合してなるコンパウンドを、加硫並びに前記発泡剤及び前記ポリメチルメタアクリレート粒子の分解が生じるように加熱する工程を有することを特徴とする発泡シリコーンゴムの製造方法。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
熱硬化型シリコーンゴム、加硫剤、発泡剤及び前記発泡剤と同等の分解温度を有し熱分解温度が230℃以上350℃以下のポリメチルメタアクリレート粒子を配合してなるコンパウンドを、加硫並びに前記発泡剤及び前記ポリメチルメタアクリレート粒子の分解が生じるように加熱してゴム弾性層を形成する工程、並びに、芯体の周面に前記ゴム弾性層を設ける工程を有するゴム被覆ローラの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-10-27 
出願番号 特願2011-109657(P2011-109657)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G03G)
P 1 651・ 113- YAA (G03G)
P 1 651・ 537- YAA (G03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 八木 智規  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 藤本 義仁
吉村 尚
登録日 2015-06-12 
登録番号 特許第5759256号(P5759256)
権利者 住友電工ファインポリマー株式会社 住友電気工業株式会社
発明の名称 発泡シリコーンゴムの製造方法及びゴム被覆ローラの製造方法  
代理人 神野 直美  
代理人 上代 哲司  
代理人 上代 哲司  
代理人 神野 直美  
代理人 上代 哲司  
代理人 神野 直美  

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