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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B60R |
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管理番号 | 1323482 |
異議申立番号 | 異議2016-700289 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-04-08 |
確定日 | 2016-11-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5793201号発明「シート巻取装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5793201号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、〔3、4〕ついて、訂正することを認める。 特許第5793201号の請求項1-4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5793201号の請求項1-4に係る特許についての出願は、平成24年11月30日(優先権主張平成23年12月9日)に特許出願され、平成27年8月14日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人弘永淳二により特許異議の申立てがされ、平成28年6月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年8月8日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人弘永淳二から平成28年10月3日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである(下線部は訂正後の変更部分を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「防音チューブと、を有する」と記載されているのを、 「防音チューブと、を有し、 前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rbの関係は、 Rout<Rb となる、」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、前記防音チューブの前記第一の凸部を含めない外径をRsur、前記防音チューブの内径をRin、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rsur、Rin、Rbの関係は、 Rsur<Rb Rb-Rout≦Rout-Rin となる、請求項1に記載のシート巻取装置。」と記載されているのを、 「シートと、 前記シートの一端が固定された管状の巻取軸と、 前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばねと、 外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブと、を有し、 前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、前記防音チューブの前記第一の凸部を含めない外径をRsur、前記防音チューブの内径をRin、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rsur、Rin、Rbの関係は、 Rsur<Rb 0<Rb-Rout≦Rout-Rin となる、シート巻取装置。」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「前記巻取軸は、内周から内側へ出た第二の凸部を有し、 前記防音チューブの前記第一の凸部は、前記第二の凸部に当接している、請求項1に記載のシート巻取装置。」と記載されているのを、 「シートと、 前記シートの一端が固定された管状の巻取軸と、 前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばねと、 外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブと、を有し、 前記巻取軸は、内周から内側へ出た第二の凸部を有し、 前記防音チューブの前記第一の凸部は、前記第二の凸部に当接している、シート巻取装置。」に訂正する。 (4)訂正事項4 願書に添付した明細書の段落【0007】に「上記目的の少なくとも1つを達成するために、本発明では、前記シートの一端が固定された管状の巻取軸と、前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばねと、外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブと、を有する。」と記載されているのを、 「上記目的の少なくとも1つを達成するために、本発明では、シートと、前記シートの一端が固定された管状の巻取軸と、前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばねと、外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブと、を有する。 手段の一つは、前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rbの関係がRout<Rbとなっている。 また、手段の別の一つは、前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、前記防音チューブの前記第一の凸部を含めない外径をRsur、前記防音チューブの内径をRin、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rsur、Rin、Rbの関係がRsur<Rb、及び、0<Rb-Rout≦Rout-Rinとなっている。 さらに、手段の別の一つは、前記巻取軸が内周から内側へ出た第二の凸部を有し、前記防音チューブの前記第一の凸部が前記第二の凸部に当接している。」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1の「前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rbの関係は、Rout<Rbとなる」は、願書に添付した明細書の段落【0024】の「このとき、防音チューブ20の外周には凸部21が形成されているため、凸部21先端とバレル11内周とが当接する場合があるが」との記載及び図3から導かれる事項であるから、新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2の「前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、前記防音チューブの前記第一の凸部を含めない外径をRsur、前記防音チューブの内径をRin、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rsur、Rin、Rbの関係は・・・0<Rb-Rout≦Rout-Rinとなる」は、願書に添付した明細書の段落【0024】の「このとき、防音チューブ20の外周には凸部21が形成されているため、凸部21先端とバレル11内周とが当接する場合があるが」との記載及び図3から導かれる事項であるから、新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、訂正事項2は、訂正前の請求項1の記載を含む形で書き下すことにより請求項1との引用関係を解消するものである。 (3)訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、訂正事項3は、訂正前の請求項1の記載を含む形で書き下すことにより請求項1との引用関係を解消するものである。 (4)訂正事項4の「上記目的の少なくとも1つを達成するために、本発明では、シートと、前記シートの一端が固定された管状の巻取軸と、前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばねと、外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブと、を有する。手段の一つは、前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rbの関係がRout<Rbとなっている。また、手段の別の一つは、前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、前記防音チューブの前記第一の凸部を含めない外径をRsur、前記防音チューブの内径をRin、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rsur、Rin、Rbの関係がRsur<Rb、及び、0<Rb-Rout≦Rout-Rinとなっている。さらに、手段の別の一つは、前記巻取軸が内周から内側へ出た第二の凸部を有し、前記防音チューブの前記第一の凸部が前記第二の凸部に当接している。」は、願書に添付した明細書の段落【0024】の「このとき、防音チューブ20の外周には凸部21が形成されているため、凸部21先端とバレル11内周とが当接する場合があるが」との記載、段落【0042】の「防音チューブ20の凸部21は、防音チューブ20の長手方向Ltに延設しており、又、防音チューブ20の凸部21を含めた外径Routと、バレル11の凸部30を含めた内径Boutとは、Bout<Routの関係性を有する。そのため、防音チューブ20をバレル11に挿入後、防音チューブ20を周方向Cに回転させることで、バレル11の内部で凸部21と凸部30とが複数個所で当接する(図6、図7)。」との記載、及び、図3、図6から導かれる事項であるから、新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、訂正事項4と関係する請求項は一群の請求項である請求項1-4のすべてであり、請求項1-4が訂正事項4の対象である。 3 小括 したがって、上記訂正請求による訂正事項1-4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2、3、4〕について訂正を認める。 訂正後の請求項2に係る訂正事項2、訂正後の請求項3に係る訂正事項3は、引用関係の解消を目的とする訂正を含むものであって、その訂正は認められるものである。そして、特許権者から、訂正後の請求項2について訂正が認められるときは請求項1、3、4とは別の訂正単位として、訂正後の請求項3について訂正が認められるときは請求項3を引用する請求項4と合わせて、請求項1、2とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項1、2、〔3、4〕について請求項ごと又は一群の請求項ごとに訂正することを認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件特許発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び2に係る発明(以下「本件特許発明1及び2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 シートと、 前記シートの一端が固定された管状の巻取軸と、 前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばねと、 外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブと、を有し、 前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rbの関係は、 Rout<Rb となる、シート巻取装置。」 「【請求項2】 シートと、 前記シートの一端が固定された管状の巻取軸と、 前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばねと、 外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブと、を有し、 前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、前記防音チューブの前記第一の凸部を含めない外径をRsur、前記防音チューブの内径をRin、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rsur、Rin、Rbの関係は、 Rsur<Rb 0<Rb-Rout≦Rout-Rin となる、シート巻取装置。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して平成28年6月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 刊行物:特開2008-82158号公報 3 刊行物の記載事項及び刊行物発明 本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2008-82158号公報)には、「ローラーブラインド装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている(下線部は当審で付与した。以下同様。)。 (1)「【0004】 本発明の課題は、運転中にローラーブラインド装置の内部で発生しかつ外部へ達する音響が低減されるローラーブラインド装置を提供することである。」 (2)「【0006】 分類区分に従ったローラーブラインド装置は、特に使用状態から非使用状態へ移行するために非使用中の可撓性の平面構成体の保管と、可撓性の平面構成体の引込みとに用いられる。この平面構成体は、引込状態では巻取シャフト上に多層に巻き上げられるのが好ましい。平面構成体の手動引出し時に巻取ばねが捩じられ、その結果、巻取ばねが平面構成体の引き出された部分に巻き戻し力をかける。巻取ばねの捩り状態における変化、つまり特に平面構成体の手動引出しならびに平面構成体の自動引戻し、ならびにローラーブラインド装置の振動は、巻取ばねをその出発位置から捩り出す巻取ばねに対して半径方向に作用する力を発生することがある。さらに外部から取り込まれた振動によっても巻取ばねの振り出しが生ずることがある。巻取ばねの振り出しは、特に巻取シャフトの内側で巻取ばねの外側の打つ付け時およびスプリングロッドの外側での巻取ばねの内側の打ち付け時に発生する有害な騒音を生じる。本発明により考慮した遊びなしにまたは広範囲に遊びなしに内部および外部に当接するそれぞれの適用目的に応じて巻取ばねと巻取シャフトとの間の環状空間の中に、および/または巻取ばねとスプリングロッドとの間の環状空間の中に設けた減衰プロフィールによって、巻取シャフトの内側またはスプリングロッドの外側への巻取ばねの激しい打ち付けが阻止される。この減衰プロフィールは、まず一方で巻取ばねと他方で巻取シャフトまたはスプリングロッドとの間の直接的な接触を阻止する。他方では、この減衰プロフィールは、自由な制動されない巻取ばねの振り出しと、それに伴って現れる巻取シャフトの内側またはスプリングロッドの外側での激しい打ちつけを阻止する。」 (3)「【0029】 図示した本発明に係るローラーブラインド装置の実施形態は、それぞれ、巻取シャフトのみを巻取ばね、減衰要素と共に、および一部はスプリングロッドと共に示す。例えば可撓性の平面構成体または取り囲むハウジングのようなローラーブラインド装置の通常のコンポーネントは、見易くするため図示していない。 【0030】 図1aは、本発明に係るローラーブラインド装置の巻取シャフトの第1実施形態の例で基本的な構造を示す:巻取シャフト10の内部に巻取ばね12が配設されており、巻取シャフト10および巻取ばね12は共通の主延伸方向2を有する。巻取シャフト10と内部に置かれる巻取ばね12との間の環状の中空空間16の中に内部接触区間22により巻取ばねに、かつ外部接触区間24により巻取シャフト12にそれぞれ遊びなしに当接する減衰プロフィール20が挿入されている。」 (4)「【0039】 図3?7は、巻取シャフト210、310、410、510及び610と巻取ばね212、312、412、512及び612との間に配設された別の減衰プロフィールの断面を示す。しかしながら同一のまたは対応して適合された形態において、減衰プロフィールはスプリングロッドと巻取ばねとの間で使用することもできる。別様に表示されていない限り、減衰プロフィールは、その全長にわたってそれぞれ図示した断面を有する。」 (5)「【0042】 図5aおよび5bに示した減衰プロフィール420は、図2a?2cの実施形態の減衰プロフィール140に類似している。同様にそれぞれ互いに120°で離間した3箇所に肥厚部432を有する円形のホース区間430を有する。この肥厚部432はホース430の円形断面から内側および外側へ延伸する。内側へ向く肥厚部432の区間は内部接触区間422を形成する。外側へ向く肥厚部432の区間は外部接触区間424を形成する。図2a?2cの実施形態と異なり肥厚部432の中に中空管を設けており、これが弾性変形に対して有利である。出発位置からの巻取ばね412の振り出しは、図5bに示したように、この実施形態において、2つの肥厚部432aと432bが半径方向へ圧縮され、これがホース430の内壁430を介して第3肥厚部432cの圧縮を円周方向に、かつそれによって結果的に肥厚部432cの半径方向への拡張を生じさせる。従って図5aおよび5bの実施形態の場合も、少なくともより小さい巻取ばね412の振り出しが、巻取ばね412の外側の内部接触区間422の接触損失なしに可能であることを保証する。」 以上の記載事項から次の事項が認定できる。 (6)上記(3)(段落【0030】)には、第1実施形態の巻取ばね12について、「巻取シャフト10の内部に巻取ばね12が配設されており」と記載されており、併せて図5aを参照すると、他の実施形態の巻取ばね412についても、巻取シャフト410の内部に配設されているものと認められる。 (7)上記(3)(段落【0030】)には、第1実施形態の減衰プロフィール20について、「巻取シャフト10と内部に置かれる巻取ばね12との間の環状の中空空間16の中に内部接触区間22により巻取ばねに、かつ外部接触区間24により巻取シャフト12にそれぞれ遊びなしに当接する減衰プロフィール20が挿入されている。」(当審注:「巻取シャフト12」は「巻取シャフト10」の誤記であると判断した。)と記載されており、併せて図5aを参照すると、他の実施形態の減衰プロフィール420についても、巻取シャフト410と内部に置かれる巻取ばね412との間の環状の中空空間の中に、内部接触区間422により巻取ばね412に、かつ外部接触区間424により巻取シャフト410にそれぞれ遊びなしに当接する減衰プロフィール420が挿入されているものと認められる。 (8)図5aを参照すると、円形のホース区間430の外径、すなわち、減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432を含めない外径は、巻取シャフト410の内径よりも小さいものと認められる。 (9)上記(3)(段落【0030】)には、第1実施形態の減衰プロフィール20について、「巻取シャフト10と内部に置かれる巻取ばね12との間の環状の中空空間16の中に内部接触区間22により巻取ばねに、かつ外部接触区間24により巻取シャフト12にそれぞれ遊びなしに当接する減衰プロフィール20が挿入されている。」(当審注:「巻取シャフト12」は「巻取シャフト10」の誤記であると判断した。)と記載されており、併せて図5aを参照すると、他の実施形態の減衰プロフィール420についても、減衰プロフィール420は、外部接触区間24により巻取シャフト410に遊びなしに当接しているものと認められる。 したがって、巻取シャフト410の内径と減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432の先端までの外径との差は、実質的に0であるといえる。 そして、減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432の先端までの外径と減衰プロフィール420の円形のホース区間430の内径との差が、0よりも大きいことは明らかである。 そうすると、巻取シャフト410の内径と減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432の先端までの外径との差(実質的に0)は、減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432の先端までの外径と減衰プロフィール420の円形のホース区間430の内径との差(0よりも大きい)よりも小さいものと認められる。 (10)上記(5)の「同様にそれぞれ互いに120°で離間した3箇所に肥厚部432を有する円形のホース区間430を有する。この肥厚部432はホース430の円形断面から内側および外側へ延伸する。内側へ向く肥厚部432の区間は内部接触区間422を形成する。」との記載及び図5aを参照すると、「ホース区間430」と「ホース430」とは、同じものであると認められる。 これらの記載事項(1)?(5)、上記認定事項(6)?(10)及び図面内容を総合し、本件特許発明1、2の発明特定事項に倣って整理すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「刊行物1発明」という。)。 「可撓性の平面構成体と、 前記可撓性の平面構成体が引込状態では巻取シャフト410上に多層に巻き上げられる、巻取シャフト410と、 前記巻取シャフト410の内部に配設され、前記可撓性の平面構成体の手動引出し時に捩じられ、その結果、前記平面構成体の引き出された部分に巻き戻し力をかける、巻取ばね412と、 ホース430の円形断面から外側へ延伸して外部接触区間424を形成する肥厚部432を有し、前記巻取シャフト410と前記巻取ばね412との間の環状の中空空間の中に挿入されている減衰プロフィール420と、を有し、 減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432を含めない外径は、巻取シャフト410の内径よりも小さく、巻取シャフト410の内径と減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432の先端までの外径との差(実質的に0)は、減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432の先端までの外径と減衰プロフィール420の円形のホース430の内径との差(0よりも大きい)よりも小さい、ローラーブラインド装置。」 4 判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由について ア.本件特許発明1について (ア)本件特許発明1と刊行物1発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて刊行物1発明の「可撓性の平面構成体」は本件特許発明1の「シート」に相当し、以下同様に、「巻取シャフト410」は「管状の巻取軸」に、「巻取ばね412」は「ばね」にそれぞれ相当する。 また、刊行物1発明の「ローラーブラインド装置」は、可撓性の平面構成体を引込状態では巻取シャフト410上に巻き上げるものであるから、本件特許発明1の「シート巻取装置」に相当する。 加えて、刊行物1発明の「減衰プロフィール420」は、自由な制動されない巻取ばねの振り出しと、それに伴って現れる巻取シャフトの内側での激しい打ちつけを阻止する(段落【0006】参照)、すなわち、騒音の低減を図るものであるから、本件特許発明1の「防音チューブ」に相当する。 (イ)刊行物1発明において、「可撓性の平面構成体」は、「引込状態では巻取シャフト上に多層に巻き上げられる」ものであるところ、ローラーブラインド装置において、通常、可撓性の平面構成体が、引込状態で巻取シャフト上に多層に巻き上げられるようにすべく、可撓性の平面構成体の一端を巻取シャフトに固定するのが技術常識であるから、刊行物1発明においても、可撓性の平面構成体の一端は巻取シャフトに固定されているものと認められる。 そうすると、刊行物1発明の「前記可撓性の平面構成体が引込状態では巻取シャフト410上に多層に巻き上げられる、巻取シャフト410」は、本件特許発明1の「前記シートの一端が固定された管状の巻取軸」に相当する。 (ウ)刊行物1発明の「巻取ばね412」は、「可撓性の平面構成体の手動引出し時に捩じられ、その結果、平面構成体の引き出された部分に巻き戻し力をかける」ものであるから、巻取シャフト410に対して可撓性の平面構成体の引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるものといえる。 したがって、刊行物1発明の「前記巻取シャフト410の内部に配設され、前記可撓性の平面構成体の手動引出し時に捩じられ、その結果、前記平面構成体の引き出された部分に巻き戻し力をかける、巻取ばね412」は、本件特許発明1の「前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばね」に相当する。 (エ)刊行物1発明の「ホース430の円形断面から外側へ延伸して外部接触区間424を形成する肥厚部432」は、図5aも併せて参照すると、本件特許発明1の「外周から外側へ出た第一の凸部」に相当するといえる。 また、刊行物1発明の「前記巻取シャフト410と前記巻取ばね412との間の環状の中空空間の中に挿入されている」は、本件特許発明1の「前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する」に相当するといえる。 したがって、上記(ア)も踏まえると、刊行物1発明の「ホース430の円形断面から外側へ延伸して外部接触区間424を形成する肥厚部432を有し、前記巻取シャフト410と前記巻取ばね412との間の環状の中空空間の中に挿入されている減衰プロフィール420」は、本件特許発明1の「外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブ」に相当する。 (オ)刊行物1発明の「巻取シャフト410の内径」、「減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432の先端までの外径」は、それぞれ、本件特許発明1の「前記巻取軸の内径(Rb)」、「前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径(Rout)」に相当する。 したがって、本件特許発明1と刊行物1発明とは、以下の点で一致している。 <一致点> 「シートと、 前記シートの一端が固定された管状の巻取軸と、 前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばねと、 外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブと、を有するシート巻取装置。」 そして、本件特許発明1と刊行物1発明とは、以下の点で相違している。 <相違点1> 本件特許発明1では、「前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rbの関係は、Rout<Rbとなる」のに対し、 刊行物1発明では、「巻取シャフト410の内径(「Rb」に相当)と減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432の先端までの外径(「Rout」に相当)との差」が「実質的に0」である点。 上記のとおり、本件特許発明1は、刊行物1発明とは相違するから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 イ.本件特許発明2について (ア)本件特許発明2と刊行物1発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて刊行物1発明の「可撓性の平面構成体」は本件特許発明2の「シート」に相当し、以下同様に、「巻取シャフト410」は「管状の巻取軸」に、「巻取ばね412」は「ばね」にそれぞれ相当する。 また、刊行物1発明の「ローラーブラインド装置」は、可撓性の平面構成体を引込状態では巻取シャフト410上に巻き上げるものであるから、本件特許発明2の「シート巻取装置」に相当する。 加えて、刊行物1発明の「減衰プロフィール420」は、自由な制動されない巻取ばねの振り出しと、それに伴って現れる巻取シャフトの内側での激しい打ちつけを阻止する(段落【0006】参照)、すなわち、騒音の低減を図るものであるから、本件特許発明2の「防音チューブ」に相当する。 (イ)刊行物1発明において、「可撓性の平面構成体」は、「引込状態では巻取シャフト上に多層に巻き上げられる」ものであるところ、ローラーブラインド装置において、通常、可撓性の平面構成体が、引込状態で巻取シャフト上に多層に巻き上げられるようにすべく、可撓性の平面構成体の一端を巻取シャフトに固定するのが技術常識であるから、刊行物1発明においても、可撓性の平面構成体の一端は巻取シャフトに固定されているものと認められる。 そうすると、刊行物1発明の「前記可撓性の平面構成体が引込状態では巻取シャフト410上に多層に巻き上げられる、巻取シャフト410」は、本件特許発明2の「前記シートの一端が固定された管状の巻取軸」に相当する。 (ウ)刊行物1発明の「巻取ばね412」は、「可撓性の平面構成体の手動引出し時に捩じられ、その結果、平面構成体の引き出された部分に巻き戻し力をかける」ものであるから、巻取シャフト410に対して可撓性の平面構成体の引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるものといえる。 したがって、刊行物1発明の「前記巻取シャフト410の内部に配設され、前記可撓性の平面構成体の手動引出し時に捩じられ、その結果、前記平面構成体の引き出された部分に巻き戻し力をかける、巻取ばね412」は、本件特許発明2の「前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばね」に相当する。 (エ)刊行物1発明の「ホース430の円形断面から外側へ延伸して外部接触区間424を形成する肥厚部432」は、図5aも併せて参照すると、本件特許発明2の「外周から外側へ出た第一の凸部」に相当するといえる。 また、刊行物1発明の「前記巻取シャフト410と前記巻取ばね412との間の環状の中空空間の中に挿入されている」は、本件特許発明2の「前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する」に相当するといえる。 したがって、上記(ア)も踏まえると、刊行物1発明の「ホース430の円形断面から外側へ延伸して外部接触区間424を形成する肥厚部432を有し、前記巻取シャフト410と前記巻取ばね412との間の環状の中空空間の中に挿入されている減衰プロフィール420」は、本件特許発明2の「外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブ」に相当する。 (オ)刊行物1発明の「減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432を含めない外径」は本件特許発明2の「前記防音チューブの前記第一の凸部を含めない外径(Rsur)」に相当し、以下同様に、「巻取シャフト410の内径」は「前記巻取軸の内径(Rb)」に、「減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432の先端までの外径」は「前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径(Rout)」に、「減衰プロフィール420の円形のホース430の内径」は「防音チューブの内径(Rin)」にそれぞれ相当する。 してみれば、刊行物1発明の「減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432を含めない外径は、巻取シャフト410の内径よりも小さく」は、本件特許発明2の「前記防音チューブの前記第一の凸部を含めない外径をRsur、前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rsur、Rbの関係は、Rsur<Rbとなる」に相当する。 また、刊行物1発明の「巻取シャフト410の内径と減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432の先端までの外径との差(実質的に0)は、減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432の先端までの外径と減衰プロフィール420の円形のホース区間430の内径との差(0よりも大きい)よりも小さい」と、本件特許発明2の「前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、前記防音チューブの内径をRin、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rin、Rbの関係は、0<Rb-Rout≦Rout-Rinとなる」は、「前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、前記防音チューブの内径をRin、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rin、Rbの関係は、Rb-Rout≦Rout-Rinとなる」という限度で一致する。 したがって、本件特許発明2と刊行物1発明とは、以下の点で一致している。 <一致点> 「シートと、 前記シートの一端が固定された管状の巻取軸と、 前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばねと、 外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブと、を有し、 前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、前記防音チューブの前記第一の凸部を含めない外径をRsur、前記防音チューブの内径をRin、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rsur、Rin、Rbの関係は、 Rsur<Rb Rb-Rout≦Rout-Rin となる、シート巻取装置。」 そして、本件特許発明2と刊行物1発明とは、以下の点で相違している。 <相違点2> 本件特許発明2では、「前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、前記防音チューブの前記第一の凸部を含めない外径をRsur、前記防音チューブの内径をRin、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rsur、Rin、Rbの関係は、Rsur<Rb 0<Rb-Rout≦Rout-Rinとなる」のに対し、 刊行物1発明では、「巻取シャフト410の内径(「Rb」に相当)と減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432の先端までの外径(「Rout」に相当)との差」が「実質的に0」である点。 上記のとおり、本件特許発明2は、刊行物1発明とは相違するから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 ウ.特許異議申立人の意見について (ア)本件特許発明1について 特許異議申立人弘永淳二は訂正事項1により追加された「前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rbの関係は、Rout<Rbとなる」という構成は、要するに、「巻取軸と防音チューブとの間に、その全周に亙って隙間を有し得る」というものであり、かかる構成は、参考資料1(特開昭55-55030号公報)に記載されているように、本件出願前に周知の構成であるから、当該周知の構成を刊行物1発明に付加して、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者にとって格別の困難性を要するものではない旨主張している。 しかしながら、参考資料1において、管90(「防音チューブ」に相当)は、本件特許発明の「外周から外側へ出た第一の凸部」に相当する構成を有しておらず、単に、管90(「防音チューブ」に相当)とローラ20(「巻取軸」に相当)との間の全周に亙って隙間を設けることが記載されているだけであって、本件特許発明1の「前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rbの関係は、Rout<Rbとなる」という構成は記載されていない。 また、仮に、「防音チューブの第一の凸部の先端までの外径をRout、及び巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rbの関係は、Rout<Rbとなる」という構成が周知の構成であったとしても、甲第1号証の段落【0030】の「巻取シャフト10と内部に置かれる巻取ばね12との間の環状の中空空間16の中に内部接触区間22により巻取ばねに、かつ外部接触区間24により巻取シャフト12にそれぞれ遊びなしに当接する減衰プロフィール20が挿入されている。」(「巻取シャフト12」は「巻取シャフト10」の誤記であると思われる)との記載、及び、段落【0034】の「 図1a?1cの実施形態において、外部接触区間24a、24bおよび24cによって規定された減衰プロフィール20の外径は、非組込状態で、巻取シャフト10の内径よりも大きい減衰プロフィール20の寸法に決定することが特に有利である。それによって組込状態で達成可能の弾性的な弛緩状態は、上記追従を付加的に支援する。」との記載を参酌すれば、刊行物1発明では、減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432を巻取シャフト410に遊びなしに当接させる構成を積極的に採用していると認められるから、刊行物1発明において、減衰プロフィール420の外部接触区間424を形成する肥厚部432と巻取シャフト410との間に隙間を設ける、すなわち、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることには、阻害要因があるものと認められる。 したがって、刊行物1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者にとって容易とはいえない。 (イ)本件特許発明2について 訂正事項2により追加された「前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout・・・及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout・・・Rbの関係は、0<Rb-Routとなる」という構成は、上記(ア)で検討した、訂正事項1により追加された「前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rbの関係は、Rout<Rbとなる」という構成と同一の構成であるから、上記(ア)で示した理由と同様の理由により、刊行物1発明において、相違点2に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることは当業者にとって容易とはいえない。 (2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について ア.特許異議申立人弘永淳二は、訂正前の請求項3、4に係る特許について、甲第1号証及び甲第2号証(実願昭57-73855号(実開昭58-177494号)のマイクロフィルム)を提出し、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから特許を取り消すべきである旨主張している。 しかしながら、訂正後の請求項3に係る特許の「前記巻取軸は、内周から内側へ出た第二の凸部を有し、前記防音チューブの前記第一の凸部は、前記第二の凸部に当接している」という構成は、甲第1号証及び甲第2号証のいずれにも記載されておらず、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 したがって、訂正後の請求項3に係る特許、及び、当該訂正後の請求項3に係る特許を引用する訂正後の請求項4に係る特許は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 イ.特許異議申立人弘永淳二は、訂正前の請求項3、4に係る特許について、甲第3号証(特願2011-96173号(特開2012-224311号公報))を提出し、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから特許を取り消すべきである旨主張している。 しかしながら、訂正後の請求項3に係る特許の「外周から外側へ出た第一の凸部を有し」、「前記巻取軸は、内周から内側へ出た第二の凸部を有し、前記防音チューブの前記第一の凸部は、前記第二の凸部に当接している」という構成は、甲第3号証には記載されていない。 したがって、訂正後の請求項3に係る特許、及び、当該訂正後の請求項3に係る特許を引用する訂正後の請求項4に係る特許は、甲第3号証に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定に違反するものではない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1-4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1-4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 シート巻取装置 【技術分野】 【0001】 本発明は、シートを引き出し及び収容可能なシート巻取装置に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、車室の一部や窓等を覆うためにシートを引き出したり、引き出したシートを巻き取ったりできるシート巻取装置が知られている。このようなシート巻取装置の中には、シートと、このシートの一端を固定する円筒状の巻取軸と、前記巻取軸に収容されるシャフトと、前記巻取軸と前記シャフトとの間に収容され一端が巻取軸に固定され、且つ他端がシャフトに固定される捩りばねと、を有するものが知られている。そのため、巻取り軸に巻き取られたシートを引き出すと、巻取軸が回転することで捩りばねに捩れが生じ、シートの引き出し方向とは反対方向に巻取り力を生じさせることができる。 【0003】 また、シャフトを有するシート巻取装置において、シートの引き出し又は巻取りの際に、シャフトと捩りばねとが接触し異音を生じさせる場合がある。そのため、シャフトと捩りばねとの間に、捩じりばねに向けて突出する突条を有する防音チューブを介在させ、この突条により捩じりばねの振幅を抑制することで異音を抑制するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2004-250225号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 軽量化やコスト低減等を理由にシャフトを抹消したシート巻取装置が開発されている。しかし、捩りばねを貫通するシャフトを抹消すると捩じりばねの振幅が大きくなり巻取り軸と捩りばねとの接触による異音を生じさせる可能性がある。一方、特許文献1に記載された発明は、巻取軸にシャフトを備えるものに特化しており、シャフトを備えない装置には適用が難しい。また、防音チューブの突条が捩じりばねに向けて出ている場合、防音チューブに捩じりばねを挿入する際、突条が捩じりばねと干渉して、挿入性が悪くなることも想定される。 【0006】 本発明は、上記課題にかんがみてなされたもので、異音の発生を抑制した組み付け容易なシート巻取装置の提供を目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 上記目的の少なくとも1つを達成するために、本発明では、シートと、前記シートの一端が固定された管状の巻取軸と、前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばねと、外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブと、を有する。 手段の一つは、前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rbの関係がRout<Rbとなっている。 また、手段の別の一つは、前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、前記防音チューブの前記第一の凸部を含めない外径をRsur、前記防音チューブの内径をRin、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rsur、Rin、Rbの関係がRsur<Rb、及び、0<Rb-Rout≦Rout-Rinとなっている。 さらに、手段の別の一つは、前記巻取軸が内周から内側へ出た第二の凸部を有し、前記防音チューブの前記第一の凸部が前記第二の凸部に当接している。 【0008】 上記のように構成された発明では、シートの一端が固定された管状の巻取軸と、この巻取軸の内側に配置され、巻取軸に対してシートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばねとを備えるシート巻取装置において、外周から外側へ出た第一の凸部を有する防音チューブを、ばねの外周と巻取軸の内周との間に位置させている。 そのため、防音チューブが巻取軸の内周とばねの外周との間に位置することで、ばねと巻取軸とが干渉して生じる異音の発生を抑制することができる。また、防音チューブの凸部は、ばね側に向けて出ていないため、ばねを防音チューブに挿入する際、この凸部がばねと干渉することなく防音チューブを挿入することができ、組み付けを容易にすることができる。 【発明の効果】 【0009】 以上説明したように、本発明によれば、異音の発生を抑制することができ、且つ、組み付けを容易にすることができる。 【図面の簡単な説明】 【0010】 【図1】車室内部に取り付けられたトノカバー装置を示す斜視図である。 【図2】トノカバー装置1の要部を示す長手方向での断面図である。 【図3】トノカバー装置1の要部を示す厚み方向での断面図である。 【図4】第2の実施形態に係るトノカバー装置の厚み方向での断面図である。 【図5】第3の実施形態に係るバレル11の形状を説明する図である。 【図6】バレル11の内側に収容されたばね16及び防音チューブ20を示す横断面図である。 【図7】バレル11の内側に収容された防音チューブ20を示す斜視図である。 【図8】バレル11の内側に収容された防音チューブ20を示す斜視図である。 【発明を実施するための形態】 【0011】 以下、本発明の実施形態を説明する。なお、以下に示す実施形態は一例でありこれに限定されない。 【0012】 (1)トノカバー装置の構成 図1は、車室内部に取り付けられたトノカバー装置を示す斜視図である。また、図2は、トノカバー装置1の要部を示す長手方向での断面図である。そして、図3は、トノカバー装置1の要部を示す厚み方向での断面図である。 【0013】 図1に示すトノカバー装置1は、車室後方に形成されたラゲージルームを覆うものである。このトノカバー装置1は、長手方向Ltを車室の幅方向に向けて固定されている。また、トノカバー装置1は、ハウジング2のスリット3から引き出し可能なシート4を備えており、このシート4は車室後方に向けてハウジング2から引き出される。そして、シート4の先端には、ボード材5が取り付けられている。このボード材5には、車室側壁に形成された係合部に係合する係合フック6が取り付けられている。そのため、シート4をハウジング2から引き出し、係合フック6により車室側壁と係合させることでラゲージルームを覆うことができる。また、ハウジング2から引き出されたシート4には、引き出し方向と反対方向に付勢力(巻取り力)が付与されており、シートをハウジング2に収容する場合は、この付勢力によりシートをハウジング2内部に固定されたバレル(後述)に巻き取らせることができる。以下、このようなトノカバー装置1の構成を説明する。 【0014】 図2、図3に示すように、トノカバー装置1は、ハウジング2の内部に、バレル(巻取軸)11がシート4の引き出しに応じて回転可能に固定されている。バレル11は、円管状であり、外周側にシート4の一端が固定されることで、該バレル11の回転に合わせてシート4を巻き取ったり、巻き取られたシートを引き出したりすることが可能である。また、バレル11の一端は、回転軸12を介してハウジング2に回転可能に固定され、他端が掛止部13を介してハウジング2に係合されている。そして、バレル11は、例えば、アルミニウムを管状に押し出し成形して形成される。また、バレル11の一端及び内部には、管状の掛止部13、14が設けられている。 【0015】 掛止部13は、一端側にバレル11の内径よりも径の大きな径で形成された係合歯13aを備えるとともに、この係合歯13aが形成されている端部と反対側の端部に径が小さいテーパー部13bを備えている。そして、掛止部13の端部は、軸受け15を介してバレル11の内部に回転可能に挿入されている。一方、掛止部13の係合歯13aは、ハウジング2の爪部2aと係合して固定されている。ここで、掛止部13、14は、ハウジング2と直接係合及び固定されるものに限定されない。例えば、掛止部13、14が、図示しないホルダ部材を介してハウジング2と固定及び係合されるものであってもよい。 【0016】 一方、掛止部14は、一端にバレル11の内径よりも小さなフランジ14aを備えるとともに、他端に径が小さいテーパー部14bを備えている。そして、掛止部14は、掛止部13に対してテーパー部側の端部をそれぞれ対向させるようにバレル11の内部に収容されている。そして、掛止部14は、バレル11とカシメ処理により圧着されている。なお、掛止部14とバレル11とをカシメ処理して固定することは一例に過ぎず、掛止部14の径方向での回転を規制できる構成であればどのような構成であってもよい。例えば、バレル11の中空の断面形状を変化させて、内部に収容される掛止部14の回転を規制する構成としてもよい。 ここで、掛止部13、14は、例えば、樹脂素材をインジェクション成形して形成される。 【0017】 また、バレル11の内部には、掛止部13、14と係合した捩りばね(以下、ばねとも記載する。)16が収容されている。本実施形態では、ばね16は伸縮方向の両端に係合用のフックを有するつるまきばねにより構成される。そのため、ばね16の一端に形成されたフックが掛止部13のテーパー部側に係合され、他端に形成されたフックが掛止部14のテーパー部側に係合され、バレル11の内部に収容されている。また、ばね16の長さはバレル11の長さよりも短く、例えばSWC鋼により形成される。 【0018】 そして、バレル11の内周とばね16の外周との間には、スチレン系エラストマー(TPSとも記載する。)やオレフィン系エラストマー(TPOとも記載する。)等の熱可塑性樹脂により形成された防音チューブ20が収容されている。本実施形態では、図2、3に示すように、中空管状の防音チューブ20の内部に、ばね16が収容されることで、防音チューブ20はバレル11の内周とばね16の外周との間に介在している。そして、防音チューブ20の外周には複数の凸部(第一の凸部)21が形成されている。 【0019】 防音チューブ20の凸部21は、例えば、断面形状が防音チューブ20の径方向外側へ短く突出した形状に形成される。図3では、6個の凸部21が防音チューブ20の中心に対して60度毎に形成され、長手方向Ltで直線状に連続して形成されている。無論、凸部21の形状を直線状に連続して形成することは一例に過ぎない。また、凸部21の個数を6個とすることは一例にすぎない。 【0020】 また、防音チューブ20は、ばね16の延設方向の長さよりも長く、内部にばね16が収容された際、ばね16の外周が露出しない長さであることが望ましい。そして、防音チューブ20における内径Rinは、ばね16の外径よりも大きいことが好ましい。防音チューブ20の内径Rinをばね16の外径よりも大きくすれば、ばね16を防音チューブ20に挿入する際の挿入性を高めることができる。 また、防音チューブ20における凸部21を含めた外径Routは、バレル11の内径Rbよりも大きくてもよいが、より好ましくは、凸部21を除いた外径Rsurがバレル11の内径Rbよりも小さいことが望ましい。即ち、下記式(1)の関係を有することが望ましい。 【数1】 Rsur<Rb … (1) 防音チューブ20の外径Rsurをバレル11の内径Rbより小さい構成とすれば、防音チューブ20をバレル11の内部に挿入する際、防音チューブ20とバレル11が面接触し摩擦力が増大することを防止でき、防音チューブ20が変形し易くなり、防音チューブ20の挿入性を高めることができる。 【0021】 そして、バレル11の内径Rbと防音チューブ20の外径Routとの間の隙の大きさ(即ち、Rb-Rout)が、防音チューブ20の全体の厚み(即ち、Rout-Rin)を超える場合、ばね16の振幅による力を防音チューブ20で吸収しきれず異音を生じさせる場合がある。そのため、バレル11の内径Rb、防音チューブ20の外径Rout、及び内径Rinの関係は、下記式(2)の関係を有することが望ましい。 【数2】 Rb-Rout≦Rout-Rin … (2) 【0022】 さらに、防音チューブ20はTPSやTPO等の熱可塑性樹脂を押し出し成形して形成される。防音チューブ20の硬度としては、60度から80度(ショアA硬度)であることが好ましい。防音チューブ20の硬度が60度以上であれば、防音チューブ20をバレル11の内部に挿入する際、防音チューブ20の捲れや引っ掛かりを防止でき、防音チューブ20の挿入性を高めることができる。また、防音チューブ20の硬度が80度以下であれば、防音チューブ20と、ばね16又はバレル11とが当接した際、異音を抑制することができる。また、本実施形態では、凸部21は防音チューブ20の外周に対して一体で形成されるが、これに限定されない。 【0023】 (2)トノカバー装置の組み付け方法 上記のように構成されたトノカバー装置1の組み付け方法について説明する。まず、掛止部13を、軸受け15を貫通させた状態で、テーパー部13bをばね16の一端に形成されたフックと係合させる。そして、防音チューブ20の内部にばね16を収容する。さらに、掛止部が係合されていないばね16のフックに掛止部14を係合させる。 【0024】 そして、掛止部14、及び防音チューブ20(ばね16)をバレル11の内部に収容する。このとき、防音チューブ20の外周には凸部21が形成されているため、凸部21先端とバレル11内周とが当接する場合があるが、線接触を維持しながら防音チューブ20又は凸部21が弾性変形することで、凸部21とバレル11との干渉を緩和し、防音チューブ20(ばね16)の挿入を容易にする。特に、本実施形態のトノカバー装置1では、ばね16を挿入するガイドとなるシャフト軸を有さないが、防音チューブ20が弾性変形することで、ばね16の挿入を容易にしている。 【0025】 そして、バレル11にシート4の一端を固定する。なお、シート4のバレル11に固定されない端部にはボード材5がすでに固定されている。そして、バレル11と掛止部14とをカシメ機を用いてカシメ、圧着させる。さらに、バレル11の掛止部13が挿入されない側の端部と回転軸12とを組み付ける。そして、回転軸12をハウジング2の凹部に挿入する。また、掛止部13の係合歯13aをハウジング2に形成された爪部2aと係合させて固定する。 【0026】 上記構成により、シート4をハウジング2から引き出すと、バレル11は掛止部13と回転軸12とを軸にシートの引き出し方向に沿って回転する。このとき、ばね16は、一端が掛止部14を介してバレル11に固定され、他端が掛止部13を介してハウジング2に固定されているため、バレル11の回転に応じて捩れを生じ、バレル11にシートの引き出し方向と反対方向の付勢力(巻取り力)を生じさせる。 【0027】 一方、シート4をハウジング2に収容する場合は、シート4を巻き取る方向に応じたバレル11の回転方向とばね16の付勢方向とが一致するため、バレル11はばね16により回転し、シート4を巻き取ることができる。 【0028】 また、上記したシート4の引き出し及び巻取りにおいて、ばね16の外周とバレル11の内周との間には、常に凸部21を有する防音チューブ20が介在するため、ばね16の振幅による力を防音チューブ20又は凸部21が弾性変形して吸収し、ばね16の外周とバレル11の内周とが接触するのを防止し、異音の発生を抑制することができる。 【0029】 ここで、防音チューブ20にばね16を挿入する場合、防音チューブ20の内周側に凸部21が存在すると、ばね16と凸部21とが干渉し合い挿入性を損なわせる。しかし、本発明では防音チューブ20の凸部21は外周から外向きに突出するため、ばね16を防音チューブ20に挿入する場合でも、ばね16と防音チューブ20とが干渉せず、ばね16の挿入性を損なわせず、組み付けを容易にすることができる。一方、ある程度の硬度を有するバレル11に、防音チューブ20(ばね16)を挿入する場合は、凸部21がバレル11の内周に接することで、防音チューブに当接する場合があるが、線接触を維持しながら防音チューブ20又は凸部21が弾性変形し、挿入により生じる摩擦力を低減することができる。また、防音チューブ20の凸部21がばね16側に向けて出ていないため、ばね16が凸部21を噛みこみ、シート4の巻取り不良を生じさせることもない。 【0030】 (3)第2の実施形態 図4は、第2の実施形態に係るトノカバー装置1の厚み方向での断面図である。第2の実施形態に係るトノカバー装置1は、防音チューブ20の凸部が、外周に加えて内周からも内側に出ている構成において、第1の実施形態と異なる。 【0031】 図4に示すように、防音チューブ20は、外周から外向きに出る6個の凸部(第一の凸部)21に加えて、内周から内向きに出る6個の凸部(第三の凸部)22を有する。また、凸部21と凸部22とは内外に重なって出ないよう、位置をずらして形成されている。即ち、防音チューブ20において、凸部21に対向する内周には凸部22が形成されておらず、凸部22に対向する外周には凸部21が形成されていない。 【0032】 上記構成において、第1の実施形態に係る効果に加えて更に、以下の効果を奏する。防音チューブ20の内周側に凸部22を有する場合、ばね16の挿入時において凸部22がばね16と干渉することも想定される。しかしながら、各凸部21、22が内外に重ならないよう形成することで、防音チューブ20の変形量を確保することができるため、凸部22とばね16とが接触しても、防音チューブ20が変形しばね16の挿入性を低減しない。更に、防音チューブ20の変形量を確保することで、ばね16が凸部22を噛み込むことを予防でき、シート4の巻取り不良を抑制することができる。 【0033】 (4)第3の実施形態 図5は、第3の実施形態に係るバレル11の形状を説明する図である。また、図6は、バレル11の内側に収容されたばね16及び防音チューブ20を示す横断面図である。そして、図7は、バレル11の内側に収容された防音チューブ20を示す斜視図である。 【0034】 第3の実施形態でも他の実施形態同様、トノカバー装置1はバレル11、回転軸12、掛止部13、14、ばね16、防音チューブ20を備える。また、各部の配置も他の実施形態同様であるため説明を省略する。一方、図5-7に示すように、この実施形態では、バレル11の内周にこの内周から内向に出る凸部(第二の凸部)30が形成されている。また、掛止部14はバレル11と圧着されておらず、軸方向にスライド可能にバレル11内部に保持される。 【0035】 図5(a)は、バレル11を示す斜視図である。また、図5(b)は、バレル11の側面図である。図5(a)(b)に示すように、バレル11の内周にはこの内周から内向きに出る凸部30が形成されている。そして、凸部30は、バレル11の長手方向Ltに連続する形状となっている。さらに、凸部30が形成されないバレル11の内周の部位と凸部30の側壁とは溝部31として機能する(以下、バレル11の該当部位を、単に溝部31とも記載する。)。 【0036】 バレル11を、アルミニウム等の金属で形成する場合、押出成形により凸部30をバレル11と一体で形成する。また、バレル11をプレス加工して凸部30を形成するものであってもよい。この場合、凸部30は必ずしもバレル11の軸方向に連続するのではなく、軸方向に断続的に形成されていてもよい。また、バレル11が備える凸部30の数は、防音チューブ20の凸部21の数と同数であることが望ましいが、これに限定されない。防音チューブ20の動きを規制できれば、凸部21の数は1個でも良い。 【0037】 防音チューブ20は、図6、7に示すように、外周から外向に出る凸部21を有する。また、凸部21は防音チューブ20の長手方向に設けられている。そして、図6に示すように、防音チューブ20は、凸部21の少なくとも1つがバレル11の凸部30と当接して、バレル11に収容されている。バレル11の凸部30と防音チューブ20の凸部21とが当接する状態は、図6(a)に示す、凸部30と凸部21とが互いの側部で当接する場合の他、図6(b)に示す、凸部30と凸部21とが互いの先端付近で当接する場合も含まれる。更に、凸部30と凸部21との当接は、図6(a)(b)を組み合わせた状態であってもよい。 【0038】 防音チューブ20は、他の実施形態同様、TPSやTPO等の熱可塑性樹脂を押し出し成形して形成される。また、この実施形態においても、防音チューブ20の硬度としては、60度から80度(ショアA硬度)であることが好ましい。なお、防音チューブ20は、第2の実施形態に示すように、内周に内側に出る凸部22を有するものであってもよい。 【0039】 更に、防音チューブ20とバレル11とは以下の関係を備えることが望ましい。即ち、図6(a)に示すように、バレル11の内径の内、凸部30の先端までの内径をBoutとし、凸部30を含まないバレル11の内径をBsurと定義する。ここで、凸部30の先端までの内径とは、各凸部30の先端30aを結んで規定される円状の軌跡における径である。また、凸部30を含まないバレル11の内径とは、バレル11の各溝部31の底面31aの点を結んで規定される円状の軌跡における径である。そして、防音チューブ20の凸部21の先端までの外径をRout、防音チューブ20の凸部21を含めない外径をRsurと定義した場合に、以下式(3)の関係性を有することが望ましい。 【数3】 Rout≦Bsur、Rsur≦Bout Bout<Rout … (3) 【0040】 次に、第3の実施形態に係るトノカバー装置1の組み付けを説明する。 第1、第2の実施形態同様、まず、掛止部13を、軸受け15を貫通させた状態で、テーパー部13bをばね16の一端に形成されたフックと係合させる。そして、防音チューブ20の内部にばね16を収容する。さらに、掛止部が係合されていないばね16のフックに掛止部14を係合させる。 【0041】 そして、掛止部14、及び防音チューブ20(ばね16)をバレル11の内部に収容する。このとき、防音チューブ20の凸部21がバレル11の溝部31に挿入されるよう、防音チューブ20をバレル11の内部に収容する。上記のように、防音チューブ20と、バレル11とは、Rout≦Bsur、Rsur≦Boutの関係性を有するため、防音チューブ20の凸部21がバレル11内周に干渉することなく防音チューブ20がバレル11の内側に収容される。 【0042】 防音チューブ20の凸部21は、防音チューブ20の長手方向Ltに延設しており、又、防音チューブ20の凸部21を含めた外径Routと、バレル11の凸部30を含めた内径Boutとは、Bout<Routの関係性を有する。そのため、防音チューブ20をバレル11に挿入後、防音チューブ20を周方向Cに回転させることで、バレル11の内部で凸部21と凸部30とが複数個所で当接する(図6、図7)。 【0043】 そして、バレル11にシート4の一端を固定する。さらに、バレル11の掛止部13が挿入されない側の端部と回転軸12とを組み付ける。そして、回転軸12をハウジング2の凹部に挿入する。また、掛止部13の係合歯13aをハウジング2に形成された爪部2aと係合させて固定する。 【0044】 本実施形態では、他の実施形態が奏する効果に加えて、以下の効果を奏する。トノカバー装置1は、ばね16を貫通するシャフトを有していないため、ばね16を覆った防音チューブ20をバレル11に挿入する場合、防音チューブ20とバレル11との間の摩擦抵抗が挿入性を低下させることがある。しかし、凸部21をバレル11の内周の溝部31に挿入するよう防音チューブ20をバレル11に挿入でき、挿入性を高めることができる。そのため、バレル11の内周に摩擦抵抗を低減させる不織布等の部材を接合する必要がない。また、トノカバー装置1を車室に搭載した後にトノカバー装置1に振動が加えられても、防音チューブ20は、バレル11の内部で凸部30、21を介してこのバレル11と当接しているため、防音チューブ20とバレル11とが衝突して起きる異音を防止することができる。即ち、組み付けの際の作業性の向上と、車室に搭載さえた後の異音の発生の防止とを両立させることができる。 【0045】 加えて、凸部30と凸部21との当接により、バレル11の内部に挿入されたばね16及びこのばね16を覆う防音チューブ20の回転をバレル11と掛止部14とを圧着させることなく規制することができる。即ち、ばね16の一端が固定された掛止部14を周方向の回転を規制しつつバレル11の軸方向にスライド可能に保持させることができる。ここで、ばね16の軸方向長さは、シート4を引き出した際のばね16の巻き締まりにより一時的に短くなり、シート4が巻き取られた際のばね16の巻き緩みにより一時的に長くなる。そこで、掛止部14をバレル11の内部で軸方向にスライド可能に保持することで、ばね16の長さの変化を掛止部14のスライドにより許容し、ばね16の端部がスライドできない場合に起こるばね16の波打ちを防止することができる。ばね16の波打ちを防止することができれば、それによるばね16の動作不良や防音チューブ20へのばね16の噛み込み、更には異音の発生を抑制することができる。 【0046】 (5)変形例 図8は、バレル11の内側に収容された防音チューブ20を示す斜視図である。 第3の実施形態に係るバレル11と防音チューブ20において、防音チューブ20が周方向Cに捩じられた状態で、バレル11に収容されてもよい。防音チューブ20の凸部21が周方向Cに捩じれた状態でバレル11に収容されることで、1つの凸部21が複数の凸部30と当接し、バレル11と防音チューブ20との当接をより強くすることができる。そのため、バレル11内部での防音チューブ20の動きを規制し、異音を抑制することができる。 【0047】 防音チューブ20の捩じれは、以下のようにして生じさせれば良い。掛止部14と防音チューブ20の先端を固定した状態で掛止部14ならびに防音チューブ20をバレル11に挿入した後、防音チューブ20の挿入した側とは反対の他端を周方向Cに回転させる。掛止部14はその外形形状がバレル11の凸部30と噛み合うことで回転しない。そのため、防音チューブ20のみが先端を固定された状態で他端が回転し、防音チューブ20の全長にわたって捩じれが生じる。この状態で防音チューブ20の他端を掛止部13と固定することで、防音チューブ20が捩じれた状態でバレル11内部に保持される。 なお、防音チューブ20をバレル11への挿入後に捩じることは一例であり、防音チューブ20を周方向Cに捩じりつつバレル11に挿入してもよい。 【0048】 (5)その他の適用例 シート巻取装置としてトノカバー装置を用いて説明したことは一例にすぎず、車室に配置される窓部を遮蔽するブラインド等であってもよい。 防音チューブの凸部の形状は、どのような形であってもよい。例えば、凸部の突出量を長くしてフィン形状としてもよい。凸部をフィン形状とすれば、凸部がより変形し易くなるため、異音の抑制と、組み付けの容易化をより高いレベルにすることができる。 【0049】 また、凸部を防音チューブの長手方向に連続して延設させることは一例であり、これ以外の形状であってもよい。 例えば、凸部を長手方向の一部領域のみに形成することで不連続に形成するものであってもよい。 また、凸部を防音チューブの長手方向に延設して形成する場合でも、長手方向に直線的に形成する以外に、折れ線的に延設したり、防音チューブの長手方向に対して所定角度で傾斜して延設するものであってもよい。 【0050】 以上、説明したように、本発明では、異音の発生を抑制するとともに、組み付けを容易にすることができる。 なお、実施例の中で開示した相互に置換可能な部材および構成等を適宜その組み合わせを変更して適用することや、公知技術であって実施例の中で開示した部材および構成等と相互に置換可能な部材および構成等を適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用することや、公知技術等に基づいて当業者が実施例の中で開示した部材および構成等の代用として想定し得る部材および構成等と適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用することは本発明の一実施例として開示されるものである。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 シートと、 前記シートの一端が固定された管状の巻取軸と、 前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばねと、 外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブと、を有し、 前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rbの関係は、 Rout<Rb となる、シート巻取装置。 【請求項2】 シートと、 前記シートの一端が固定された管状の巻取軸と、 前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばねと、 外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブと、を有し、 前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、前記防音チューブの前記第一の凸部を含めない外径をRsur、前記防音チューブの内径をRin、及び前記巻取軸の内径をRbとする場合、前記Rout、Rsur、Rin、Rbの関係は、 Rsur<Rb 0<Rb-Rout≦Rout-Rin となる、シート巻取装置。 【請求項3】 シートと、 前記シートの一端が固定された管状の巻取軸と、 前記巻取軸の内側に配置され、前記巻取軸に対して前記シートの引き出し方向と反対方向に付勢力を与えるばねと、 外周から外側へ出た第一の凸部を有し、前記ばねの外周と前記巻取軸の内側との間に位置する防音チューブと、を有し、 前記巻取軸は、内周から内側へ出た第二の凸部を有し、 前記防音チューブの前記第一の凸部は、前記第二の凸部に当接している、シート巻取装置。 【請求項4】 前記防音チューブの前記第一の凸部の先端までの外径をRout、前記防音チューブの前記第一の凸部を含めない外径をRsur、前記巻取軸の前記第二の凸部の先端までの内径をBout、前記巻取軸の前記第二の凸部を含めない内径をBsur、とした場合に、 Rout≦Bsur、Rsur≦Bout、且つ Bout<Rout の関係となる、請求項3に記載のシート巻取装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-11-04 |
出願番号 | 特願2013-548204(P2013-548204) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B60R)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 須山 直紀 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
和田 雄二 森林 宏和 |
登録日 | 2015-08-14 |
登録番号 | 特許第5793201号(P5793201) |
権利者 | 林テレンプ株式会社 |
発明の名称 | シート巻取装置 |
代理人 | 横井 俊之 |
代理人 | 池田 建志 |
代理人 | 池田 建志 |
代理人 | 横井 俊之 |