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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1323502
異議申立番号 異議2016-700530  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-09 
確定日 2016-12-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5830600号発明「太陽電池封止材および太陽電池モジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5830600号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第5830600号の請求項2ないし8、11ないし13に係る特許を維持する。 特許第5830600号の請求項1、請求項9及び請求項10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5830600号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、2013年(平成25年)3月13日(パリ条約による優先権主張 平成24年3月28日、日本国、平成24年3月28日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年10月30日に特許の設定登録がされ、平成28年6月9日にその特許に対し、特許異議申立人日本ポリエチレン株式会社により特許異議の申立てがなされたものである。
その後、当審において、同年8月29日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、同年10月28日付けで、訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)及び意見書を提出したものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「燃焼法およびイオンクロマトグラフ法により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中の前記フッ素元素の含有量が3.0ppm以下であり、ICP発光分析により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中のアルミニウム元素の含有量が20ppm以下である、請求項1に記載の太陽電池封止材。」と記載されているのを、「エチレン・α-オレフィン共重合体を含む太陽電池封止材であって、前記エチレン・α-オレフィン共重合体がフッ素元素を必須成分として含み、燃焼法およびイオンクロマトグラフ法により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中の前記フッ素元素の含有量が3.0ppm以下であり、ICP発光分析により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中のアルミニウム元素の含有量が20ppm以下である、太陽電池封止材。」に訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載の太陽電池封止材。」と記載されているのを、「請求項2に記載の太陽電池封止材。」に訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1乃至5いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」と記載されているのを、「請求項2乃至5いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」に訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1乃至6いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」と記載されているのを、「請求項2乃至6いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」に訂正する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1乃至7いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」と記載されているのを、「請求項2乃至7のいずれか一項に記載の太陽電池封止材。」に訂正する。

キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1乃至10いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」と記載されているのを、「請求項2乃至8および11のいずれか一項に記載の太陽電池封止材。」に訂正する。

コ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1乃至11いずれか一項に記載の太陽電池封止材。」と記載されているのを、「請求項2乃至8および11のいずれか一項に記載の太陽電池封止材。」に訂正する。

サ 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項13に「請求項1乃至12いずれか一項に記載の太陽電池封止材を架橋させて形成された、」と記載されているのを、「請求項2乃至8、11および12のいずれか一項に記載の太陽電池封止材を架橋させて形成された、」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無、及び一群の請求項の適否
(1)訂正事項1、7及び8について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1、7及び8は、請求項1、9及び10をそれぞれ削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項1、7及び8は、請求項1、9及び10をそれぞれ削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項1、7及び8は、請求項1、9及び10をそれぞれ削除する訂正であるから、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係をそれぞれ解消し、請求項1を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項2は、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)訂正事項3ないし6について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3ないし6は、訂正前の請求項3及び6?8が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係をそれぞれ解消し、請求項1を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項3ないし6は、請求項1の削除に伴い、請求項1を引用しないものとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項3ないし6は、請求項1の削除に伴い、請求項1を引用しないものとするものであるから、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(4)訂正事項9ないし11について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項9ないし11は、訂正前の請求項11?13が訂正前の請求項1、9及び10を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係をそれぞれ解消し、請求項1、9及び10を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項9ないし11は、請求項1、9及び10の削除に伴い、請求項1、9及び10を引用しないものとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項9ないし11は、請求項1、9及び10の削除に伴い、請求項1、9及び10を引用しないものとするものであるから、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(5)一群の請求項の適否
訂正事項1?11に係る訂正前の請求項1?13について、請求項2?13はすべて直接的又は間接的に「請求項1」を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?13に対応する訂正後の請求項1?13は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして、訂正事項1?11による訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項ごとに」適法に請求されたものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正を認める。

第3 本件訂正発明について
本件訂正請求により訂正された請求項1?13に係る発明(削除された請求項を含む、以下、「本件訂正発明1?13」という)は、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】 (削除)
【請求項2】
エチレン・α-オレフィン共重合体を含む太陽電池封止材であって、
前記エチレン・α-オレフィン共重合体がフッ素元素を必須成分として含み、
燃焼法およびイオンクロマトグラフ法により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中の前記フッ素元素の含有量が3.0ppm以下であり、
ICP発光分析により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中のアルミニウム元素の含有量が20ppm以下である、太陽電池封止材。
【請求項3】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体が、以下の要件a1)?a4)を満たす請求項2に記載の太陽電池封止材。
a1)エチレンに由来する構成単位の含有割合が80?90mol%であり、炭素数3?20のα-オレフィンに由来する構成単位の含有割合が10?20mol%である。
a2)ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるMFRが0.1?50g/10分である。
a3)ASTM D1505に準拠して測定される密度が0.865?0.884g/cm^(3)である。
a4)ASTM D2240に準拠して測定されるショアA硬度が60?85である。
【請求項4】
ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定される前記エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRが、10?50g/10分である、請求項3に記載の太陽電池封止材。
【請求項5】
ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定される前記エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRが、0.1g/10分以上10g/10分未満である、請求項3に記載の太陽電池封止材。
【請求項6】
有機過酸化物をさらに含み、
前記有機過酸化物の1分間半減期温度が100?170℃であり、
当該太陽電池封止材中の前記有機過酸化物の含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.1?3重量部である、請求項2乃至5いずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項7】
シランカップリング剤をさらに含み、
当該太陽電池封止材中の前記シランカップリング剤の含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.1?5重量部である、請求項2乃至6いずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項8】
ヒンダードフェノール系安定剤、ヒンダードアミン系光安定剤、リン系安定剤、紫外線吸収剤、架橋助剤からなる群から選ばれる添加剤を一種または二種以上さらに含む、請求項2乃至7のいずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項9】 (削除)
【請求項10】 (削除)
【請求項11】
シート状である、請求項2乃至8いずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項12】
燃焼法およびイオンクロマトグラフ法により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中の前記フッ素元素の含有量が0.1ppm以上である、請求項2乃至8および11のいずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項13】
表面側透明保護部材と、
裏面側保護部材と、
太陽電池素子と、
請求項2乃至8、11および12のいずれか一項に記載の太陽電池封止材を架橋させて形成された、前記太陽電池素子を前記表面側透明保護部材と前記裏面側保護部材との間に封止する封止層と、
を備えた太陽電池モジュール。」

第4 取消理由および申立て理由の概要
1 取消理由の概要
当審において平成28年8月29日付けで通知した取消理由は、概略以下のとおりである。
(1)理由1 (新規性)
本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)理由2 (進歩性)
本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

甲1:国際公開第2010/114028号
甲2:特開2012-9688号公報
甲3:特開2011-12243号公報
甲4:特開2012-38856号公報
甲5:フッ素元素含有量測定の実験報告書
報告日:平成25年12月26日
報告者:三菱化学株式会社 四日市事業所開発研究分析技術室
甲7:ポリエチレン中のアルミおよび塩化物イオン定量の実験報告書
報告日:平成25年6月27日
報告者:三菱化学株式会社 四日市事業所開発研究分析技術室
甲11:ENGAGE 8200、ENGAGE 8400及び、ENGAGE 8407の製品カタログ並びに抄訳文
印刷発行日:2008年9月
発行者:ダウ・ケミカル株式会社

甲1には、「エチレン・1-オクテン共重合体であるダウ・ケミカル社製ENGAGE8400と、シランカップリング剤を1重量部と、有機過酸化物を1.5重量部と、ヒンダードアミン系光安定化剤を0.2重量部配合し、溶融混合して得た樹脂組成物を使用しT-ダイ押出やカレンダー成形によりシート成形した太陽電池封止材。」の発明(以下、「甲1(ENGAGE8400)発明」という。)が記載され(下記3(1)イ(イ)参照。)、甲2には、「エチレン・1-オクテン共重合体であるダウ社製ENGAGE8400と、ヒンダードアミン系光安定化剤を含む太陽電池封止材。」の発明(以下、「甲2(ENGAGE8400)発明」という。)が記載されている(下記3(2)イ(イ)参照。)。
そして、本件特許の請求項1?3、5、7?12に係る発明は、甲1(ENGAGE8400)発明であり、また本件特許の請求項1?3、5、8、12に係る発明は、甲2(ENGAGE8400)発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
また、本件特許の請求項4、6に係る発明は、甲1(ENGAGE8400)発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、また本件特許の請求項13に係る発明は、甲1(ENGAGE8400)発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(3)特許法第36条第6項第2号(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
ア 請求項9について
本件発明9は、「太陽電池封止材」という物の発明であるが、「溶融混錬後、シート状に押出成形して得られた」との記載は、製造に関して経時的な要素の記載がある場合及び製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。
したがって、本件発明9は明確でない。

イ 請求項10について
本件発明10は、「太陽電池封止材」という物の発明であるが、「溶融混錬後、シート状にカレンダー成形して得られた」との記載は、製造に関して経時的な要素の記載がある場合及び製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
したがって、本件発明10は、本件発明9と同様に明確でない。

ウ 請求項11ないし13について
請求項11ないし13は、請求項9、10を引用している。
よって、本件発明11ないし13も、本件発明9、10と同様に明確でない。

2 取消理由以外の申立て理由の概要
特許異議申立人は、上記取消理由に関連しないものとして、以下の理由を申立てていた。
(1)新規性
甲1には、「エチレン・1-オクテン共重合体であるダウ・ケミカル社製ENGAGE8200と、シランカップリング剤を1重量部と、有機過酸化物を1.5重量部と、ヒンダードアミン系光安定化剤を0.2重量部配合し、溶融混合して得た樹脂組成物を使用しT-ダイ押出やカレンダー成形によりシート成形した太陽電池封止材。」の発明(以下、「甲1(ENGAGE8200)発明」という。)が記載され(下記3(1)イ(ア)参照。)、甲2には、「エチレン・α-オレフィン共重合体である三井化学社製タフマーA35070Sと、有機過酸化物を含む太陽電池封止材。」の発明(以下、「甲2(タフマーA35070S)発明」という。)が記載され(下記3(2)イ(ア)参照。)、甲3には、「エチレン系樹脂組成物として、エチレンと少なくとも1種のエチレン以外の炭素原子数が3?20のα-オレフィンとの共重合体を用いた太陽電池封止用シート。」の発明が記載され(下記3(3)イ参照。)、甲4には、「エチレン系重合体として、エチレン・α-オレフィン共重合体を含む、太陽電池用封止膜。」の発明が記載されている(下記3(4)イ参照。)。
そして、本件特許の請求項1?13に係る発明は、甲1(ENGAGE8200)発明、甲2(タフマーA35070S)発明、甲3発明又は甲4発明であり、また、取消理由で指摘した請求項以外の請求項に係る発明は、甲1(ENGAGE8400)発明又は甲2(ENGAGE8400)発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2)進歩性
本件特許の請求項1?13に係る発明は、甲1(ENGAGE8200)発明、甲2(タフマーA35070S)発明、甲2(ENGAGE8400)発明、甲3発明又は甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、取消理由で指摘した請求項以外の請求項に係る発明は、甲1(ENGAGE8400)発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

3 甲号証の記載
(1)甲1について
ア 甲1(国際公開第2010/114028号)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。以下同様。
(ア)
「[0001] 本発明は、太陽電池封止材用樹脂組成物、太陽電池封止材及びそれを用いた太陽電池モジュールに関し、より詳しくは、エチレン・α-オレフィン共重合体と有機過酸化物又はシランカップリング剤などを含有し、耐熱性、透明性、柔軟性、及びガラス基板への接着性に優れ、剛性と架橋効率とのバランスもよい太陽電池封止材用樹脂組成物、太陽電池封止材及びそれを用いた太陽電池モジュールに関するものである。」
(イ)
「[0054] シート状太陽電池封止材は、T-ダイ押出機、カレンダー成形機などを使用する公知のシート成形法によって製造することができる。例えばエチレン・α-オレフィン共重合体に、架橋剤を添加し、必要に応じて、ヒンダードアミン系光安定化剤、さらには架橋助剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の添加剤を予めドライブレンドしてT-ダイ押出機のホッパーから供給し、80?150℃の押出温度において、シート状に押出成形することによって得ることができる。これらドライブレンドに際して、一部又は全部の添加剤は、マスターバッチの形で使用することができる。またT-ダイ押出やカレンダー成形において、予めエチレン・α-オレフィン共重合体に一部又は全部の添加剤を、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーなどを用いて溶融混合して得た樹脂組成物を使用することもできる。
[0055] 太陽電池モジュールを製造するに当たっては、本発明の封止材のシートを予め作っておき、封止材の樹脂組成物が溶融する温度、例えば150?200℃で圧着するという方法によって、前記のような構成のモジュールを形成することができる。また本発明の封止材を押出コーティングすることによって太陽電池素子や上部保護材あるいは下部保護材と積層する方法を採用すれば、わざわざシート成形することなく一段階で太陽電池モジュールを製造することが可能である。したがって本発明の封止材を使用すれば、モジュールの生産性を格段に改良することができる。」
(ウ)
「[0071][表1]



(エ)
「[0085](実施例9)
エチレンとヘキセン-1の共重合体(PE-1)100重量部に対して、シランカップリング剤としてγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM503)を1重量部と、有機過酸化物として、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(アルケマ吉富社製、ルペロックス101)を1.5重量部と、ヒンダードアミン系光安定化剤(a)として、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(チバ・ジャパン社製、CHIMASSORB 2020FDL)0.2重量部配合した。これを十分に混合し、40mmφ単軸押出機を用いて設定温度130℃、押出量(17kg/時)の条件でペレット化した。
得られたペレットを、160℃-0kg/cm^(3) 3分予熱、160℃-100kg/cm^(3) 27分加圧(160℃で30分間プレス成形)、その後、30℃に設定された冷却プレスに100kg/cm^(3) の条件で、10分間冷却することで、厚み0.7mmのシートを作製した。シートのHAZE、光線透過率、引張弾性率、耐熱性、接着性を測定、評価した。評価結果を表3に示す。」
(オ)
「[0095](比較例7)
PE-1の代わりに、PE-6(エチレン・1-オクテン共重合体、ダウ・ケミカル社製 ENGAGE8200)を用いた以外は、実施例9と同様のペレット化を試みた。ところが、樹脂温度がせん断発熱により上昇して有機過酸化物の分解速度が速くなり、架橋が進行してペレットが得られなかった。
[0096](比較例8)
PE-1の代わりに、PE-7(エチレン・1-オクテン共重合体、ダウ・ケミカル社製 ENGAGE8400)を用いた以外は、実施例9と同様にシートを作製した。シートのHAZE、光線透過率、引張弾性率、耐熱性、接着性を測定、評価した。評価結果を表3に示す。架橋効率が悪く耐熱性が劣る結果となった。」

イ 上記記載から、甲1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
(ア)甲1(ENGAGE8200)発明
「エチレン・1-オクテン共重合体であるダウ・ケミカル社製ENGAGE8200と、
シランカップリング剤を1重量部と、有機過酸化物を1.5重量部と、ヒンダードアミン系光安定化剤を0.2重量部配合し、
溶融混合して得た樹脂組成物を使用しT-ダイ押出やカレンダー成形によりシート成形した太陽電池封止材。」
(イ)甲1(ENGAGE8400)発明
「エチレン・1-オクテン共重合体であるダウ・ケミカル社製ENGAGE8400と、
シランカップリング剤を1重量部と、有機過酸化物を1.5重量部と、ヒンダードアミン系光安定化剤を0.2重量部配合し、
溶融混合して得た樹脂組成物を使用しT-ダイ押出やカレンダー成形によりシート成形した太陽電池封止材。」

(2)甲2について
ア 甲2(特開2012-9688号公報)には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、太陽電池封止材用樹脂組成物、及びそれを用いた太陽電池封止材、太陽電池モジュールに関し、より詳しくは、エチレン・α-オレフィン共重合体と有機過酸化物などを含有し、架橋特性、耐熱性、透明性に優れた太陽電池封止材用樹脂組成物、及びそれを用いた太陽電池封止材、太陽電池モジュールに関するものである。」

「【0064】
(比較例1)
エチレンと1-ヘキセンの共重合体(PE-1)の代わりに、PE-3(エチレン・1-ブテン共重合体、三井化学社製 タフマーA35070S)を用いた以外は、実施例1と同様にシートを作製した。シートのHAZE、光線透過率、引張弾性率、耐熱性を測定、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0065】
(比較例2)
PE-1の代わりに、PE-4(エチレン・1-オクテン共重合体、ダウ社製 エンゲージ8400)を用いた以外は、実施例1と同様にシートを作製した。シートのHAZE、光線透過率、引張弾性率、耐熱性を測定、評価を行った。評価結果を表2に示す。」

イ 上記記載から、甲2には、以下の発明が記載されているものと認められる。
(ア)甲2(タフマーA35070S)発明
「エチレン・α-オレフィン共重合体である三井化学社製タフマーA35070Sと、有機過酸化物を含む太陽電池封止材。」
(イ)甲2(ENGAGE8400)発明
「エチレン・α-オレフィン共重合体であるダウ社製エンゲージ8400と、有機過酸化物を含む太陽電池封止材。」

(3)甲3について
ア 甲3(特開2011-12243号公報)には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、ガラス、バックシート、薄膜電極との接着性、電気絶縁性、透明性、成形性およびプロセス安定性に優れるエチレン系樹脂組成物に関し、さらにこれを用いた太陽電池封止材に関する。
本発明は、さらに、この様なエチレン系樹脂組成物を用いた太陽電池封止用シート、および、該封止材および/または封止用シートを用いた太陽電池モジュールに関する。」
「【0022】
本発明のエチレン系樹脂組成物に用いられるエチレン系重合体(A)は、例えば、エチレン単独重合体またはエチレンと少なくとも1種のエチレン以外の炭素原子数が3?20のα-オレフィンとの共重合体を挙げることができる。ここで、エチレン以外の炭素原子数が3?20のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられるが、炭素原子数が4?10のα-オレフィンが好ましい。」
「【0035】
〔要件e)〕
本発明のエチレン系樹脂組成物に用いられるエチレン系重合体(A)の金属残渣が0.1?50ppmであり、好ましくは0.1?45ppm、さらに好ましくは0.1?40
ppmである。金属残渣が0.1ppm未満であると、重合触媒の脱灰操作が必須となり、プラント固定費、用役費等が高くなり製品コストが高くなり、さらに、脱灰処理に用いる酸あるいはアルカリも多量必要となり、残存する可能性が高くなり、残存した酸またはアルカリにより電極等の腐食を起こす可能性がある。金属残渣が50ppm超過であると、金属残渣により体積固有抵抗、絶縁破壊抵抗の低下が起こる。
【0036】
金属残渣は、重合触媒の活性種となる例えばメタロセン化合物の遷移金属の重合活性に依存しており、重合活性が高い重合触媒であると自ずと金属残渣を小さくすることができる。そのため、重合活性の高い重合触媒を用いること好適な手法の一つとなる。また、用いる重合触媒の最適重合温度で重合することや、重合圧力をできる限り高くし、重合触媒当たりのモノマー濃度を高くすることも、重合活性を上げ金属残渣を小さくする好適な手法の一つである。また、例えば上記メタロセン化合物には、有機アルミニウムオキシ化合物、メタロセン化合物と反応してイオン対を形成する化合物、および有機アルミニウム化合物を用いることがあるが、これらの添加量をできる限り抑制することも、金属残渣を小さくする好適な手法の一つである。その他、様々な手法を用いて重合活性を向上させることも金属残渣を小さくする好適な手法となり得る。しかしながら、酸及びアルカリまたはアセト酢酸メチル等のキレート化剤を用いて、金属残渣を脱灰処理にて減少させる手法もあるが、エチレン重合体(A)中に酸及びアルカリまたはキレート化剤が残留すると薄膜電極の腐食を促進するため、本発明においては好適な手法の一つとはなり難い手法である。」
「【0042】
ラジカル重合性不飽和化合物(B1)の配合量は、上記エチレン系重合体(A)もしくは、エチレン系重合体(A)とエチレン・α-オレフィン共重合体(C)の混合物100重量部に対してラジカル重合性不飽和化合物(B1)が通常0.1?5重量部、好ましくは0.1?4重量部である。ラジカル重合性不飽和化合物(B1)の配合量が上記範囲にあると、エチレン系樹脂組成物の接着性を十分に改善しながら、エチレン系樹脂組成物の透明性、柔軟性等に悪影響を与えないため好ましい。」

イ 上記記載から、甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「エチレン系樹脂組成物として、エチレンと少なくとも1種のエチレン以外の炭素原子数が3?20のα-オレフィンとの共重合体を用いた太陽電池封止用シート。」

(4)甲4について
ア 甲4(特開2012-38856号公報)には、次の記載がある。
「【0012】
[1]23℃、90%RHにおける水蒸気透過率が0.1?1g・mm/(m^(2)・24h)のエチレン系重合体と、下記一般式(1)で表される光安定化剤と、を含み、JIS K-7210に準拠し、190℃、2.16kg荷重にて測定されるメルトフローレ-ト(MFR)が0.1?100g/10分である、太陽電池用封止膜。」
「【0026】
エチレン系重合体は、エチレンに由来する構成単位と、エチレンと共重合可能な単量体に由来する構成単位とを含む共重合体である。エチレン系重合体の具体例としては、(i)エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体、(ii)エチレン・α-オレフィン共重合体、及び(iii)エチレン・環状オレフィン共重合体を挙げることができる。これらのうち、(i)エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体、(ii)エチレン・α-オレフィン共重合体が好ましい。これらのエチレン系重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。また、これらのエチレン系重合体は、一種単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。」
「【0060】
本発明の太陽電池用封止膜中の金属残渣は0.1?50重量ppmであることが好ましく、0.1?45重量ppmであることが更に好ましく、0.1?40重量ppmであることが特に好ましい。金属残渣が0.1重量ppm未満であると、エチレン系重合体の合成時に用いた重合触媒の脱灰操作が必要となる場合がある。このため、プラント固定費、用役費等が高くなり、製品コストが高くなる傾向にある。更に、脱灰処理に用いる酸又はアルカリも多量になるため、エチレン系重合体に酸やアルカリが残存する可能性が高くなる。このため、残存した酸やアルカリの影響で電極等が腐食してしまう可能性がある。一方、金属残渣が50重量ppm超であると、一概には言えないが、金属残渣の影響で硬化物の体積固有抵抗及び絶縁破壊抵抗が低下する場合がある。
【0061】
太陽電池用封止膜中の金属残渣は、主材として含まれるエチレン系重合体の合成時に用いた重合触媒(例えば、メタロセン化合物)の重合活性に依存する。重合活性の高い重合触媒を用いた場合には、モノマーに対する重合触媒の量を減らすことができるので、得られるエチレン系重合体中の金属残渣を低減することができる。このため、重合活性の高い重合触媒を用いることが、金属残渣の少ないエチレン系重合体及び太陽電池用封止膜を得るための好適な手法の一つであるといえる。また、重合触媒の最適重合温度で重合すること、重合圧力をできる限り高くすること、又は重合触媒当たりのモノマー濃度を高くすること等も、重合触媒の重合活性を上げ、得られるエチレン系重合体中及び太陽電池用封止膜中の金属残渣を低減する好適な手法である。
【0062】
また、重合触媒として有機アルミニウムオキシ化合物、メタロセン化合物と反応してイオン対を形成する化合物、又は有機アルミニウム化合物を用いる場合には、これらの重合触媒の添加量をできる限り低減することも、得られるエチレン系重合体中及び太陽電池用封止膜中の金属残渣を低減する好適な手法である。その他、様々な手法を用いて重合活性を向上させることも金属残渣を低減する好適な手法となりうる。なお、酸、アルカリ、又はアセト酢酸メチル等のキレート化剤を使用して脱灰処理することで金属残渣を低減させる手法もある。しかしながら、エチレン系重合体中に酸、アルカリ、又はキレート化剤が残留した場合には、薄膜電極の腐食が促進される場合がある。このため、このような脱灰処理によって金属残渣を低減する手法は好適であるとはいえない。」

イ 上記記載から、甲4には、以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。
「エチレン系重合体として、エチレン・α-オレフィン共重合体を含む、太陽電池用封止膜。」

(5)甲5について
「フッ素元素含有量測定の実験報告書」
報告日:2013年12月26日
報告者:三菱化学株式会社 四日市事業所開発研究所分析技術室

甲5の「フッ素元素含有量測定の実験報告書」には、「3.分析方法 試料を磁製ボードに採取して、石英製管状炉で過熱し、燃料ガス中のF分を25mM-NaOH水溶液で吸収し」、「吸収液中のF-をイオンクロマトグラフで測定した」こと、
「4.分析結果」として、
「タフマーA-35070S <1μg/g
ENGAGE8407 3μg/g
ENGAGE8200 <1μg/g
※定量下限:1μg/g」
が記載されている。

(6)甲6について
「ポリエチレン中のアルミ定量の実験報告書」
報告日:2013年1月25日
報告者:三菱化学株式会社 四日市事業所開発研究所分析技術室

(7)甲7について
「ポリエチレン中のアルミおよび塩化物イオン定量の実験報告書」
報告日:2013年6月27日
報告者:三菱化学株式会社 四日市事業所開発研究所分析技術室

(8)甲8について
「ポリエチレンシートの体積抵抗率測定の実験報告書」
報告日:2013年6月18日
報告者:株式会社DJK 千葉テクニカルセンター

(9)甲9について
「実験・分析に関する宣誓証明書」
報告日:平成28年5月18日
報告者:日本ポリエチレン株式会社 研究開発部2グループ 副主席研究員 上野真寛

(10)甲10について
「TAFMER A-35070Sの製品カタログ」並びに抄訳文
発行者:ダウ・ケミカル株式会社
URL: (省略)
印刷日:2016年5月13日

(11)甲11について
「ENGAGE 8200、ENGAGE 8400及び、ENGAGE 8407の製品カタログ」並びに抄訳文 印刷発行日:2008年9月
発行者:ダウ・ケミカル株式会社

甲11に、ENGAGE8400とENGAGE8407を同一の列とする特性データの表が以下のとおり記載されている。
「Density,g/cm^(3) ASTM D792」(密度)0.870、
「Melt Index,dg/min ASTM D1238 190℃,2.16kg」(メルト・インデックス)30、
「Durometer Hardness,ShoreA ASTM D2240」(デュロメータ硬さ、ショアA)72
また、ENGAGE8407について「This grade is talc dusted for improved product handling: properties may be measured before the addition of talc.](本グレードには、製品の取扱い性を改善するためにタルクを振りかけてある。特性はタルクの添加前に測定できる。)の注釈が記載されている。

第5 当審の判断
1 取消理由についての検討
本件特許の請求項1、9、10は本件訂正請求により削除されたので、請求項1、9、10に係る特許に対する特許異議の申立ては却下する。

そして、本件訂正発明2?8、11?13について以下に検討する。
(1)特許法第29条第1項第3号(新規性)
ア 本件訂正発明2について
(ア)本件訂正発明2と甲1(ENGAGE8400)発明との対比、判断について
a 対比
甲1(ENGAGE8400)発明の「エチレン・1-オクテン共重合体」は、エチレン・α-オレフィン共重合体の一つであるから、甲1(ENGAGE8400)発明の「エチレン・1-オクテン共重合体・・・を含む太陽電池封止材」は、本件訂正発明2の「エチレン・α-オレフィン共重合体を含む太陽電池封止材」に相当する。
よって、本件訂正発明2と甲1(ENGAGE8400)発明は、「エチレン・α-オレフィン共重合体を含む太陽電池封止材」である点で一致する。
そして、本件訂正発明2は、「燃焼法およびイオンクロマトグラフ法により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中の前記フッ素元素の含有量が3.0ppm以下であ」るのに対し、甲1(ENGAGE8400)発明は、フッ素元素の含有量が特定されていない点で相違し(以下、「相違点1」という。)、また、本件訂正発明2は、「ICP発光分析により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中のアルミニウム元素の含有量が20ppm以下である」のに対し、甲1(ENGAGE8400)発明は、アルミニウム元素の含有量が特定されていない点で相違する(以下、「相違点2」という。)。

b 判断
事案に鑑み、相違点1について検討する。
甲1(ENGAGE8400)発明の「ダウ・ケミカル社製ENGAGE8400」について、甲11のダウ・ケミカル株式会社の製品カタログに、ENGAGE8400とENGAGE8407を同一の列とする特性データの表が記載され、また、ENGAGE8407について「This grade is talc dusted for improved product handling: properties may be measured before the addition of talc.](本グレードには、製品の取扱い性を改善するためにタルクを振りかけてある。特性はタルクの添加前に測定できる。)の注釈が記載されている。
このことから、ENGAGE8407は、ENGAGE8400にタルクを振りかけた点に違いがあることが分かる。
そして、甲5の「フッ素元素含有量測定の実験報告書」には、「試料を磁製ボードに採取して、石英製管状炉で過熱し、燃料ガス中のF分を25mM-NaOH水溶液で吸収し」、「吸収液中のF^(-)をイオンクロマトグラフで測定した」ENGAGE8407の分析結果として3μg/g(=3ppm)が得られることが記載されている。
ここで、ENGAGE8407中のENGAGE8400の含有量をX_(1)(g)、タルクの含有量をX_(2)(g)としたとき、ENGAGE8400中のフッ素含有量「3/(X_(1)/(X_(1)+X_(2)))」は3ppmを超えることは明らかであり、タルクの含有量が不明であるから、やはり、ENGAGE8400中の具体的なフッ素元素の含有量は「3ppmを超える」こと以外は特定することはできない。
以上のとおり、甲5及び甲11を参酌しても、ENGAGE8400のフッ素元素の含有量はフッ素元素の含有量は3ppmを超えるものであって具体的に特定できない。そして、本件訂正発明2と甲1(ENGAGE8400)発明は、本件訂正発明2の「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるのに対し、甲1(ENGAGE8400)発明は、その点が特定されていない点で少なくとも相違するから、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲1(ENGAGE8400)発明ではない。

(イ)本件訂正発明2と甲2(ENGAGE8400)発明との対比、判断について
a 対比
本件訂正発明2と甲2(ENGAGE8400)発明は、「エチレン・α-オレフィン共重合体を含む太陽電池封止材」である点で一致する。
そして、本件訂正発明2は、「燃焼法およびイオンクロマトグラフ法により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中の前記フッ素元素の含有量が3.0ppm以下であ」るのに対し、甲2(ENGAGE8400)発明は、その点が特定されていない点で相違し(以下、「相違点1’」という。)、また、本件訂正発明2は、「ICP発光分析により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中のアルミニウム元素の含有量が20ppm以下である」のに対し、甲2(ENGAGE8400)発明は、その点が特定されていない点で相違する(以下、「相違点2’」という。)。

b 判断
事案に鑑み、相違点1’について検討する。
甲2(ENGAGE8400)発明の「ダウ社製エンゲージ8400」(ENGAGE8400)については、上記(ア)で検討したとおり、フッ素元素の含有量は3ppmを超えるものであって具体的に特定できない。
そして、ENGAGE8400のフッ素元素の含有量は特定できないから、本件訂正発明2と甲2(ENGAGE8400)発明は、本件訂正発明2の「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるのに対し、甲2発明は、その点が特定されていない点で少なくとも相違するから、相違点2’について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲2(ENGAGE8400)発明ではない。

イ 本件訂正発明3、5、7、8、11、12について
本件訂正発明3、5、7、8、11、12は、本件訂正発明2の発明特定事項の全てを有し、さらに限定した発明であるから、本件訂正発明2と同様に、本件訂正発明3、5、7、8、11、12は、甲1(ENGAGE8400)発明ではない。また、本件訂正発明3、5、8、12は、甲2(ENGAGE8400)発明ではない。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正発明2、3、5、7、8、11、12は、甲1(ENGAGE8400)発明でななく、また、本件訂正発明2、3、5、8、12は、甲2(ENGAGE8400)発明でもない。

(2)特許法第29条第2項(進歩性)
ア 本件訂正発明2と甲1(ENGAGE8400)発明との相違点について
上記(1)ア(ア)に記載のとおり、本件訂正発明2と甲1(ENGAGE8400)発明は、本件訂正発明2の「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるのに対し、甲1(ENGAGE8400)発明は、その点が特定されていない点(相違点1)で相違する。
ここで、甲1(ENGAGE8400)発明において、ENGAGE8400に関し、甲1には、以下の記載がある。
「[0096](比較例8)
PE-1の代わりに、PE-7(エチレン・1-オクテン共重合体、ダウ・ケミカル社製 ENGAGE8400)を用いた以外は、実施例9と同様にシートを作製した。シートのHAZE、光線透過率、引張弾性率、耐熱性、接着性を測定、評価した。評価結果を表3に示す。架橋効率が悪く耐熱性が劣る結果となった。」
つまり、甲1(ENGAGE8400)発明は、エチレン・1-オクテン共重合体として、市販の材料をそのまま使用したものであり、甲1には、市販の材料のフッ素元素の含有量を調整して用いるとの記載はないから、市販の材料の「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」となるようにする動機付けはない。
また、甲3の段落【0035】及び【0036】、甲4の段落【0060】ないし【0062】には、太陽電池封止膜中の金属残渣を低減することが記載されている。しかしながら、金属残渣の低減と、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であることの関連については記載も示唆もされておらず、甲1(ENGAGE8400)発明に、甲3,4に記載される金属残渣の低減の技術事項を適用しても、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるとの技術思想を導くことにはならない。また、他の甲号証にも、太陽電池封止材に含まれるエチレン・α-オレフィン共重合体において、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であることが記載されておらず、他に公知又は周知の技術であることを示す証拠もない。
よって、上記相違点1に係る構成は、甲1(ENGAGE8400)発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。
したがって、本件訂正発明2は、相違点2について検討するまでもなく、甲1(ENGAGE8400)発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。

イ 本件訂正発明4、6及び13について
本件訂正発明4、6及び13は、本件訂正発明2の発明特定事項の全てを有し、さらに限定した発明であるから、本件訂正発明2と同様に、本件訂正発明4、6及び13は、甲1(ENGAGE8400)発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正発明2、4、6及び13は、甲1(ENGAGE8400)発明に基づいて当業者が容易に想到できたものということはできない。

(3)特許法第36条第6項第2号(明確性)
本件特許の請求項9ないし13に対する、(3)特許法第36条第6項第2号(明確性) の取消理由は、本件特許の請求項9及び10が本件訂正請求により削除されたので、請求項9及び10を引用していた請求項11ないし13に対する取消理由はなくなった。

(4)小括
よって、当審が通知した取消理由はいずれも理由がない。

2 取消理由以外の申立ての理由についての検討
(1)特許法第29条第1項3号(新規性)
ア 本件訂正発明2について
(ア)本件訂正発明2と甲1(ENGAGE8200)発明について
a 本件訂正発明2と甲1(ENGAGE8200)発明とを対比する。
甲1(ENGAGE8200)発明の「エチレン・1-オクテン共重合体」は、エチレン・α-オレフィン共重合体の一つであるから、甲1(ENGAGE8200)発明の「エチレン・1-オクテン共重合体・・・を含む太陽電池封止材」は、本件訂正発明2の「エチレン・α-オレフィン共重合体を含む太陽電池封止材」に相当する。
よって、本件訂正発明2と甲1(ENGAGE8200)発明は、「エチレン・α-オレフィン共重合体を含む太陽電池封止材」である点で一致する。
そして、本件訂正発明2は、「燃焼法およびイオンクロマトグラフ法により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中の前記フッ素元素の含有量が3.0ppm以下であ」るのに対し、甲1(ENGAGE8200)発明は、フッ素元素の含有量が特定されていない点で相違し(以下、「相違点3」という。)、また、本件訂正発明2は、「ICP発光分析により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中のアルミニウム元素の含有量が20ppm以下である」のに対し、甲1(ENGAGE8200)発明は、アルミニウム元素の含有量が特定されていない点で相違する(以下、「相違点4」という。)。

b 事案に鑑み相違点3について検討する。
甲1(ENGAGE8200)発明の「ダウ・ケミカル社製ENGAGE8200」について、甲5の「フッ素元素含有量測定の実験報告書」には、「試料を磁製ボードに採取して、石英製管状炉で過熱し、燃料ガス中のF分を25mM-NaOH水溶液で吸収し」、「吸収液中のF-をイオンクロマトグラフで測定した」ENGAGE8200の分析結果として<1μg/g(※定量下限:1μg/g)が記載されている。
ここで、<1μg/g(※定量下限:1μg/g)との分析結果は、F分が定量下限を下回っており、F分として検出されているのか否か特定できない。すなわち、F分が含有されていないという可能性も否定できない。
以上のとおり、ENGAGE8200のフッ素元素の含有量は特定できないから、本件訂正発明2と甲2(ENGAGE8200)発明は、本件訂正発明2の「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるのに対し、甲2(ENGAGE8200)発明は、その点が特定されていない点で少なくとも相違するから、相違点4について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲2(ENGAGE8200)発明ではない。

(イ)本件訂正発明2と甲2(タフマーA35070S)発明について
a 本件訂正発明2と甲2(タフマーA35070S)発明とを対比する。
甲2(タフマーA35070S)発明の「タフマーA35070S」はエチレン・α-オレフィン共重合体の一つであるから、本件訂正発明2と甲2(タフマーA35070S)発明は、「エチレン・α-オレフィン共重合体を含む太陽電池封止材」である点で一致する。
そして、本件訂正発明2は、「燃焼法およびイオンクロマトグラフ法により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中の前記フッ素元素の含有量が3.0ppm以下であ」るのに対し、甲2(タフマーA35070S)発明は、フッ素元素の含有量が特定されていない点で相違し(以下、「相違点5」という。)、また、本件訂正発明2は、「ICP発光分析により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中のアルミニウム元素の含有量が20ppm以下である」のに対し、甲2(タフマーA35070S)発明、アルミニウム元素の含有量が特定されていない点で相違する(以下、「相違点6」という。)。

b 事案に鑑み相違点5について検討する。
甲2発明の「三井化学社製タフマーA35070S」について、甲5の「フッ素元素含有量測定の実験報告書」には、「試料を磁製ボードに採取して、石英製管状炉で過熱し、燃料ガス中のF分を25mM-NaOH水溶液で吸収し」、「吸収液中のF^(-)をイオンクロマトグラフで測定した」タフマーA-35070Sの分析結果として<1μg/g(※定量下限:1μg/g)が記載されている。
ここで、<1μg/g(※定量下限:1μg/g)との分析結果は、F分が定量下限を下回っており、F分として検出されているのか否か特定できない。すなわち、F分が含有されていないという可能性も否定できない。
以上のとおり、タフマーA35070Sのフッ素元素の含有量は特定できないから、本件訂正発明2と甲2(タフマーA35070S)発明は、本件訂正発明2の「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるのに対し、甲2(タフマーA35070S)発明は、その点が特定されていない点で少なくとも相違するから、相違点6について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲2(タフマーA35070S)発明ではない。

(ウ)本件訂正発明2と甲3発明について
本件訂正発明2と甲3発明とを対比すると、本件訂正発明2と甲3発明は、「エチレン・α-オレフィン共重合体を含む太陽電池封止材」である点で一致する。
そして、本件訂正発明2は、「燃焼法およびイオンクロマトグラフ法により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中の前記フッ素元素の含有量が3.0ppm以下であ」るのに対し、甲3発明は、その点が特定されていない点で相違し(以下、「相違点7」という。)、また、本件訂正発明2は、「ICP発光分析により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中のアルミニウム元素の含有量が20ppm以下である」のに対し、甲3発明は、その点が特定されていない点で相違する(以下、「相違点8」という。)。
したがって、本件訂正発明2と甲3発明は、相違点を有するから、本件訂正発明2は、甲3発明ではない。

(エ)本件訂正発明2と甲4発明について
本件訂正発明2と甲4発明とを対比すると、本件訂正発明2と甲4発明は、「エチレン・α-オレフィン共重合体を含む太陽電池封止材」である点で一致する。
そして、本件訂正発明2は、「燃焼法およびイオンクロマトグラフ法により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中の前記フッ素元素の含有量が3.0ppm以下であ」るのに対し、甲4発明は、その点が特定されていない点で相違し(以下、「相違点9」という。)、また、本件訂正発明2は、「ICP発光分析により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中のアルミニウム元素の含有量が20ppm以下である」のに対し、甲4発明は、その点が特定されていない点で相違する(以下、「相違点10」という。)。
したがって、本件訂正発明2と甲4発明は、相違点を有するから、本件訂正発明2は、甲4発明ではない。

イ 本件訂正発明3ないし8及び11ないし13について
本件訂正発明3ないし8及び11ないし13は、本件訂正発明2の発明特定事項の全てを有し、さらに限定した発明であるから、本件訂正発明2と同様に、本件訂正発明3ないし8及び11ないし13は、甲1(ENGAGE8200)発明、甲2(タフマーA35070S)発明、甲3発明又は甲4発明ではない。

ウ 取消理由で指摘した以外の請求項に係る発明と、甲1(ENGAGE8400)発明又は甲2(ENGAGE8400)発明について
上記のとおり、本件訂正発明2は、甲1(ENGAGE8400)発明でなく、また、甲2(ENGAGE8400)発明でもない。
取消理由で指摘した以外の請求項に係る発明は、本件訂正発明2の発明特定事項の全てを有し、さらに限定した発明であるから、本件訂正発明2と同様に、取消理由で指摘した以外の請求項に係る発明は、甲1(ENGAGE8400)発明又は甲2(ENGAGE8400)発明ではない。

エ 小括
以上のとおり、本件訂正発明2ないし8及び11ないし13は、甲1(ENGAGE8200)発明、甲2(タフマーA35070S)発明、甲3発明でななく、また、甲4発明でもない。また、取消理由で指摘した以外の請求項に係る発明は、甲1(ENGAGE8400)発明又は甲2(ENGAGE8400)発明ではない。

(2)特許法第29条第2項(進歩性)
ア 本件訂正発明2について
(ア)本件訂正発明2と甲1(ENGAGE8200)発明との相違点について
上記(1)ア(ア)に記載のとおり、本件訂正発明2と甲1(ENGAGE8200)発明は、本件訂正発明2の「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるのに対し、甲1(ENGAGE8200)発明は、その点が特定されていない点で相違する。(相違点7)
ここで、甲3の段落【0035】及び【0036】、甲4の段落【0060】ないし【0062】には、太陽電池封止膜中の金属残渣を低減することが記載されている。しかしながら、金属残渣の低減と、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であることの関連については記載も示唆もされておらず、甲1(ENGAGE8200)発明に、甲3,4に記載される金属残渣の低減の技術事項を適用しても、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるとの技術思想を導くことにはならない。また、他の甲号証にも記載されておらず、他に、太陽電池封止材に含まれるエチレン・α-オレフィン共重合体において、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であることが公知又は周知の技術であることを示す証拠もない。
よって、上記相違点3に係る構成は、甲1(ENGAGE8200)発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。
したがって、本件訂正発明2は、相違点4について検討するまでもなく、甲1(ENGAGE8200)発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。

(イ)本件訂正発明2と甲2(タフマーA35070S)発明との相違点について
上記(1)ア(イ)に記載のとおり、本件訂正発明2と甲2(タフマーA35070S)発明は、本件訂正発明2の「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるのに対し、甲2(タフマーA35070S)発明は、その点が特定されていない点で相違する。(相違点5)
ここで、甲3の段落【0035】及び【0036】、甲4の段落【0060】ないし【0062】には、太陽電池封止膜中の金属残渣を低減することが記載されている。しかしながら、金属残渣の低減と、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であることの関連については記載も示唆もされておらず、甲2(タフマーA35070S)発明に、甲3,4に記載される金属残渣の低減の技術事項を適用しても、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるとの技術思想を導くことにはならない。また、他の甲号証にも記載されておらず、他に、太陽電池封止材に含まれるエチレン・α-オレフィン共重合体において、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であることが公知又は周知の技術であることを示す証拠もない。
よって、上記相違点5に係る構成は、甲2(タフマーA35070S)発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。
したがって、本件訂正発明2は、相違点6について検討するまでもなく、甲2(タフマーA35070S)発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。

(ウ)本件訂正発明2と甲2(ENGAGE8400)発明との相違点について
上記1(1)ア(イ)に記載のとおり、本件訂正発明2と甲2(ENGAGE8400)発明は、本件訂正発明2の「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるのに対し、甲2(ENGAGE8400)発明は、その点が特定されていない点(相違点1’)で相違する。
ここで、甲2(ENGAGE8400)発明において、ENGAGE8400に関し、甲2には、以下の記載がある。
「【0065】
(比較例2)
PE-1の代わりに、PE-4(エチレン・1-オクテン共重合体、ダウ社製 エンゲージ8400)を用いた以外は、実施例1と同様にシートを作製した。シートのHAZE、光線透過率、引張弾性率、耐熱性を測定、評価を行った。評価結果を表2に示す。」
つまり、甲2(ENGAGE8400)発明は、エチレン・α-オレフィン共重合体として、市販の材料をそのまま使用したものであり、甲2(ENGAGE8400)には、市販の材料のフッ素元素の含有量を調整して用いるとの記載はないから、市販の材料の「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」となるようにする動機付けはない。
また、甲3、甲4及び他の甲号証にも記載も示唆もされておらず、他に、太陽電池封止材に含まれるエチレン・α-オレフィン共重合体において、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であることが公知又は周知の技術であることを示す証拠もない。
よって、上記相違点1’に係る構成は、甲2(ENGAGE8400)発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。
したがって、本件訂正発明2は、相違点2’について検討するまでもなく、甲2(ENGAGE8400)発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。

(エ)本件訂正発明2と甲3発明との相違点について
上記(1)ア(ウ)に記載のとおり、本件訂正発明2と甲3発明は、本件訂正発明2の「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるのに対し、甲3発明は、その点が特定されていない点で相違する。(相違点7)
ここで、甲3の段落【0035】及び【0036】、甲4の段落【0060】ないし【0062】には、太陽電池封止膜中の金属残渣を低減することが記載されている。しかしながら、金属残渣の低減と、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であることの関連については記載も示唆もされておらず、甲3発明に、甲3,4に記載される金属残渣の低減の技術事項を適用しても、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるとの技術思想を導くことにはならない。また、他の甲号証にも記載されておらず、他に、太陽電池封止材に含まれるエチレン・α-オレフィン共重合体において、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であることが公知又は周知の技術であることを示す証拠もない。
よって、上記相違点7に係る構成は、甲3発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。
したがって、本件訂正発明2は、相違点8について検討するまでもなく、甲3発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。

(オ)本件訂正発明2と甲4発明との相違点について
上記(1)ア(エ)に記載のとおり、本件訂正発明2と甲4発明は、本件訂正発明2の「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるのに対し、甲4発明は、その点が特定されていない点で相違する。(相違点9)
ここで、甲3の段落【0035】及び【0036】、甲4の段落【0060】ないし【0062】には、太陽電池封止膜中の金属残渣を低減することが記載されている。しかしながら、金属残渣の低減と、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であることの関連については記載も示唆もされておらず、甲4発明に、甲3,4に記載される金属残渣の低減の技術事項を適用しても、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であるとの技術思想を導くことにはならない。また、他の甲号証にも記載されておらず、他に、太陽電池封止材に含まれるエチレン・α-オレフィン共重合体において、「フッ素元素の含有量が3.0ppm以下」であることが公知又は周知の技術であることを示す証拠もない。
よって、上記相違点9に係る構成は、甲4発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。
したがって、本件訂正発明2は、相違点10について検討するまでもなく、甲4発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。

イ 本件訂正発明3ないし8及び11ないし13について
本件訂正発明3ないし8及び11ないし13は、本件訂正発明2の発明特定事項の全てを有し、さらに限定した発明であるから、本件訂正発明2と同様に、本件訂正発明3ないし8及び11ないし13は、甲1(ENGAGE8200)発明、甲2(タフマーA35070S)発明、甲2(ENGAGE8400)発明、甲3発明又は甲4発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。

ウ 取消理由で指摘した以外の請求項に係る発明と、甲1(ENGAGE8400)発明について
上記1(2)アのとおり、本件訂正発明2は、甲1(ENGAGE8400)発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。
取消理由で指摘した以外の請求項に係る発明は、本件訂正発明2の発明特定事項の全てを有し、さらに限定した発明であるから、本件訂正発明2と同様に、取消理由で指摘した以外の請求項に係る発明は、甲1(ENGAGE8400)発明に基づいて当業者が容易に想到できたものということはできない。

エ 小括
以上のとおり、本件訂正発明2ないし8及び11ないし13は、甲1(ENGAGE8200)発明、甲2(タフマーA35070S)発明、甲2(ENGAGE8400)発明、甲3発明又は甲4発明に基づいて当業者が容易に想到できたものということはできない。また、取消理由で指摘した以外の請求項に係る発明は、甲1(ENGAGE8400)発明に基づいて当業者が容易に想到できたものということはできない。

(3)小括
よって、取消理由以外の申立ての理由及び証拠によっては、本件訂正発明2?8、11?13に係る特許を取り消すことはできない。

第6 結び
以上のとおりであるから、取消理由及び申立ての理由によっては、本件訂正発明2?8、11?13に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件訂正発明2?8、11?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

そして、本件特許の請求項1、9及び10は、本件訂正請求により削除されたので、請求項1、9及び10に係る特許に対する申立てを却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
エチレン・α-オレフィン共重合体を含む太陽電池封止材であって、
前記エチレン・α-オレフィン共重合体がフッ素元素を必須成分として含み、
燃焼法およびイオンクロマトグラフ法により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中の前記フッ素元素の含有量が3.0ppm以下であり、
ICP発光分析により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中のアルミニウム元素の含有量が20ppm以下である、太陽電池封止材。
【請求項3】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体が、以下の要件a1)?a4)を満たす請求項2に記載の太陽電池封止材。
a1)エチレンに由来する構成単位の含有割合が80?90mol%であり、炭素数3?20のα-オレフィンに由来する構成単位の含有割合が10?20mol%である。
a2)ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるMFRが0.1?50g/10分である。
a3)ASTM D1505に準拠して測定される密度が0.865?0.884g/cm^(3)である。
a4)ASTM D2240に準拠して測定されるショアA硬度が60?85である。
【請求項4】
ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定される前記エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRが、10?50g/10分である、請求項3に記載の太陽電池封止材。
【請求項5】
ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定される前記エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRが、0.1g/10分以上10g/10分未満である、請求項3に記載の太陽電池封止材。
【請求項6】
有機過酸化物をさらに含み、
前記有機過酸化物の1分間半減期温度が100?170℃であり、
当該太陽電池封止材中の前記有機過酸化物の含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.1?3重量部である、請求項2乃至5いずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項7】
シランカップリング剤をさらに含み、
当該太陽電池封止材中の前記シランカップリング剤の含有量が、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100重量部に対して0.1?5重量部である、請求項2乃至6いずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項8】
ヒンダードフェノール系安定剤、ヒンダードアミン系光安定剤、リン系安定剤、紫外線吸収剤、架橋助剤からなる群から選ばれる添加剤を一種または二種以上さらに含む、請求項2乃至7いずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】
シート状である、請求項2乃至8いずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項12】
燃焼法およびイオンクロマトグラフ法により定量される、前記エチレン・α-オレフィン共重合体中の前記フッ素元素の含有量が0.1ppm以上である、請求項2乃至8および11のいずれか一項に記載の太陽電池封止材。
【請求項13】
表面側透明保護部材と、
裏面側保護部材と、
太陽電池素子と、
請求項2乃至8、11および12のいずれか一項に記載の太陽電池封止材を架橋させて形成された、前記太陽電池素子を前記表面側透明保護部材と前記裏面側保護部材との間に封止する封止層と、
を備えた太陽電池モジュール。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-11-30 
出願番号 特願2014-507384(P2014-507384)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森江 健蔵  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 森 竜介
伊藤 昌哉
登録日 2015-10-30 
登録番号 特許第5830600号(P5830600)
権利者 三井化学東セロ株式会社 三井化学株式会社
発明の名称 太陽電池封止材および太陽電池モジュール  
代理人 速水 進治  
代理人 速水 進治  
代理人 速水 進治  

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