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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G01N 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G01N |
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管理番号 | 1323507 |
異議申立番号 | 異議2015-700284 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-12-10 |
確定日 | 2016-12-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5730318号発明「排ガスセンサの駆動制御のための装置及び方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5730318号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕、〔3?8〕について、訂正することを認める。 特許第5730318号の請求項1ないし請求項8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5730318号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成22年10月20日(パリ条約による優先権主張 2009年10月22日(ドイツ(DE))に特許出願され、平成27年4月17日に特許の設定登録がされ、その後、その請求項1?8に係る特許に対し、特許異議申立人平林恭子(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされたものである。 その後、当審より、平成28年2月4日付けで取消理由を通知したところ、その指定期間内である同年4月27日に被申立人から意見書の提出がなされ、さらに、当審より、同年6月10日付けで取消理由を通知したところ、その指定期間内である同年9月12日に被申立人から意見書及び訂正の請求がなされ、同年10月28日に申立人から意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりであり、訂正前の請求項の引用関係からみて、(i)第1訂正単位(請求項1?請求項2)、(ii)第2訂正単位(請求項3?請求項8)の2つの訂正単位がある。なお、下線は訂正箇所を示す。 (1) 第1訂正単位についての訂正 ア 請求項1についての訂正事項 (ア) 訂正事項1 請求項1に「限界電流式プローブ(10)として構成された排ガスセンサの駆動制御のための装置は、前記制御器(36)の入力量の1つが、供給された電流(Ip)に基づき前記限界電流式プローブ(10)の内部抵抗における電圧降下分だけ補正されるように構成され、前記供給された電流(Ip)がラムダ値に対する尺度となるようにしたことを特徴とする装置。」とあるのを、「限界電流式プローブ(10)として構成された排ガスセンサの駆動制御のための装置は、前記制御器(36)の入力量の1つが、供給された電流(Ip)に基づき前記限界電流式プローブ(10)の内部抵抗における電圧降下分だけ補正されるように構成され、前記供給された電流(Ip)がラムダ値に対する尺度となるようにし、 尚、前記内部抵抗の抵抗値は周期的に測定される、ことを特徴とする装置。」に訂正する。 (2) 第2訂正単位についての訂正 ア 請求項3についての訂正事項 (ア) 訂正事項2 請求項3に「前記制御器(36)の入力量の1つが、供給された電流(Ip)に基づき前記限界電流式プローブ(10)の内部抵抗における電圧降下分だけ補正され、前記供給された電流(Ip)がラムダ値に対する尺度となるようにしたことを特徴とする方法。」とあるのを、「前記制御器(36)の入力量の1つが、供給された電流(Ip)に基づき前記限界電流式プローブ(10)の内部抵抗における電圧降下分だけ補正され、前記供給された電流(Ip)がラムダ値に対する尺度となるようにし、 尚、前記内部抵抗の抵抗値は周期的に測定される、ことを特徴とする方法。」に訂正する。 2 訂正事項についての判断 (1) 第1訂正単位についての訂正の判断 ア 訂正事項1 (ア) 新規事項の有無 本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の【0032】には、「この電圧Vsはさらに、周期的かつ永続的に実施されるインピーダンス測定に基づく交流電圧成分を備えた混合信号であってもよいし、その他の実施形式であってもよい。この交流電圧成分は例えば2セル式プローブ20又は1セル式プローブ10のインピーダンス測定によって引き起こされ、それによって温度測定が行われる。そのため、前記入力増幅器31には、さらに電圧Vsを直流電圧成分と交流電圧成分に信号分離させる回路装置32が接続されていてもよい。直流電圧成分Vs′は補償装置33に供給される。交流電圧成分Vacはインピーダンス測定装置34に供給される。この装置は補償装置33に内部抵抗値Rを供給している。」(下線は当審において付与した。)と記載されており、インピーダンス測定装置34は、周期的に測定される電圧Vsから算出された交流成分Vacを入力し、内部抵抗の抵抗値Rを周期的に測定しているといえることから、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (イ) 訂正の目的の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、訂正前の「内部抵抗」について、その抵抗値について周期的に測定されるという限定を設けるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえ、加えて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 イ 一群の請求項についての判断 訂正前の請求項1は、請求項2において直接的に引用されているから、請求項1?2は一群の請求項を構成するものである。 ウ 小括 以上のとおりであるから、訂正事項1による訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正を認める。 (2) 第2訂正単位(請求項3?請求項8)についての訂正の判断 ア 訂正事項2 (ア) 新規事項の有無 訂正事項2は、訂正事項1と同じ技術的事項であるから、上記(1)ア(ア)で説示したように、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (イ) 訂正の目的の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項2は、上記(1)ア(イ)で説示したように、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえ、加えて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 イ 一群の請求項についての判断 訂正前の請求項3は、請求項4?請求項8において直接または間接的に引用されているから、請求項3?8は一群の請求項を構成するものである。 ウ 小括 以上のとおりであるから、訂正事項2による訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔3?8〕について訂正を認める。 3 訂正請求についてのまとめ 以上のとおり、特許第5730318号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕、〔3?8〕について、訂正することを認める。 第3 本件発明 上記「第2」に記したように、訂正は認められることとなったので、訂正後の本件特許の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」?「本件訂正発明8」という。)は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される発明であると認められるところ、そのうち、本件訂正発明1について抜粋すると以下のとおりである。 「【請求項1】 排ガスセンサの駆動制御のための装置であって、 前記排ガスセンサは限界電流式プローブ(10)として構成されており、 前記プローブは排ガスを受け入れる少なくとも1つの基準空洞部と酸素イオン導電性材料からなるセルとを有しており、 前記装置は、少なくとも1つの制御器(36)を有し、前記制御器の入力量は測定されたセンサ電圧(Vs)であり、 前記測定されたセンサ電圧は、基準空洞部内の酸素濃度に依存しており、前記制御器の別の入力量は基準電圧であり、 前記制御器の出力量は排ガスセンサのセルに供給される電流(Ip)であり、該電流によって前記センサ電圧(Vs)が所定の値に制御可能であり、 限界電流式プローブ(10)として構成された排ガスセンサの駆動制御のための装置は、前記制御器(36)の入力量の1つが、供給された電流(Ip)に基づき前記限界電流式プローブ(10)の内部抵抗における電圧降下分だけ補正されるように構成され、前記供給された電流(Ip)がラムダ値に対する尺度となるようにし、 尚、前記内部抵抗の抵抗値は周期的に測定される、ことを特徴とする装置。」 第4 申立理由の概要 1 申立理由1及び2 申立人は、証拠として、次の甲第1号証?甲第3号証(以下、「甲1」?「甲3」という。)を提出し、請求項1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである旨主張している。 甲1:特開平2-223856号公報 甲2:特公平1-28905号公報 甲3:特開平10-19841号公報 具体的には、本件特許発明1?8について、甲1に記載されている発明(申立書では装置の発明「甲1A発明」、方法の発明「甲1B発明」を認定しており、以下そのどちらかを示す発明をまとめて「甲1AB発明」という。)及び甲2に記載されている事項に基づいて(申立理由1)、あるいは、甲1AB発明及び甲3に記載されている事項に基づいて(申立理由2)、当業者が容易に発明をすることができたものであるということを主張している。 2 申立理由3及び4 請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである旨主張している。 具体的には、申立理由3として、申立書で「本件特許発明の課題は、『一方の排ガスセンサと他方の排ガスセンサの間で択一的な作動が可能な、排ガスセンサの駆動制御のための装置並びに方法を提供すること』(明細書段落[0009])である。すなわち、タイプの異なる複数の排ガスセンサ(例えば1セル式プローブと2セル式プローブ)を備え、それらの排ガスセンサを択一的に作動可能であることを前提とするものである。しかしながら、本件特許発明は、排ガスセンサが限界電流式プローブ(1セル式プローブ)として構成されており、タイプの異なる複数の排ガスセンサを択一的に作動可能であることを前提とするものではない。」「よって、本件特許発明は、『一方の排ガスセンサと他方の排ガスセンサの間で択一的な作動が可能な、排ガスセンサの駆動制御のための装置並びに方法を提供すること』という本件特許発明の課題を解決することができない。」と記載し、本件特許発明1?8は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないこと、 さらに、申立理由4として、申立書で「本件特許における特許請求の範囲において、請求項2には『計算によって求められたネルンストセル電圧』と記載されている。請求項2の『計算』とは、いかなる計算も含むと解釈できる一方、発明の詳細な説明には、計算式が2種類記載されているのみである(明細書段落[0028])。したがって、請求項2に記載されている『計算』には、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない『計算』が含まれることになる。」と記載し、本件特許発明2及び4?8は、発明の詳細な説明に記載したものでないことを主張している。 3 申立理由5 請求項2及び4?8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである旨主張している。 具体的には、申立書で「請求項2には『制御器の入力量は、計算によって求められたネルンストセル電圧である』と記載されている。一方、請求項1には、制御器の入力量として『センサ電圧』及び『基準電圧』が記載されている。これは、制御器の入力量として『センサ電圧』、『基準電圧』、『計算によって求められたネルンストセル電圧』の3つがあることを意味するのか、『センサ電圧』が『計算によって求められたネルンストセル電圧』であり、制御器の入力量が2つなのか不明確である。」「また、上述したとおり、制御器の入力量が何であるのかが不明確であるため、『前記制御器の入力量の1つが、供給された電流(Ip)に基づき前記限界電流式プローブ(10)の内部抵抗における電圧降下分だけ補正される』(請求項1)との内容をどのように実現するのか当業者が理解できず、発明が不明確である。」と記載し、本件特許発明2及び4?8は、不明確であることを主張している。 第5 当審の取消理由の概要 平成28年6月10日付け取消理由の概要は、次のとおりである。 本件特許発明1及び3は、甲1に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)であるから、特許法第29条第1号第3号に該当し、または、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 本件特許発明2及び4?8は、甲1発明及び甲2号証の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 なお、申立書における甲1に記載されている発明すなわち甲1AB発明と平成28年2月4日付けの取消理由における甲1に記載されている発明は、いずれも、甲1の「第1図」をもとに認定した発明であるが、上記平成28年6月10日付け取消理由においては、甲1に記載されている発明は、甲1の「第8図」をもとに認定した発明である。 第6 取消理由について 1 刊行物等記載の事項 (1) 甲1記載の事項 なお、下線は当審にて付記したものである。以下、同様である。 (甲1ア)「第1図は内燃機関の吸気管に設置されるこの発明の酸素センサを概略的に示す。10は安定化ジルコニア等の固体電解質より構成される本体で、その上にスペーサ12を介してオリフィスプレート14が固定され、これらの本体10と、スペーサ12と、プレート14との間に拡散空間16が形成される。この実施例では電極手段は2対の電極18a、18bと、20a、20bとによって構成され、固体電解質本体10の両面に形成される。後述のように電極18a、18bがセンサセルを構成し、電極20a、20bとがポンプセルを構成する。オリフィスプレート14の中央にピンホール22が穿設される。この発明の実施例によれば、後述のように、オリフィスプレート14は焼結アルミナを焼結してなる多孔構造をなしている。」(第2頁左下欄20行?右下欄14行) (甲1イ)「第8図の実施例は第1図の実施例と、第6図又は第7図の実施例の組合せであり、圧力均衡のために多孔板314と細孔330とを併用したものである。また、この実施例は電極手段として1組の電極340a、340bだけを具備し、この一組の電極によりセンサセルとポンプセルとの機能を兼用させたものへこの発明を応用したものである。一組の電極にセンサセルとポンプセルとの双方の機能を兼用させたもの自体は公知であり、かつ公知の制御回路に接続される。この制御回路はオペアンプ350を具備しており、その非反転入力は電極340aに接続され、反転入力は直列接続された抵抗r及び電源V_(E)を介して電極340bに接続される。オペアンプ350の出力は帰還抵抗R1、R2によってオペアンプ350の非反転入力、反転入力に接続される。オペアンプ350はセンサに加わる電圧をV_(E)となるように制御し、帰還抵抗R1はポンプ電流に応じた電流を取出し、一方帰還抵抗R2はポンプ電流に応じた電流を抵抗rに印加し、これにより電源V_(E)により設定される電圧をr×電流だけ増加し、センサ電流の変化に係わらず限界電流の計測を可能としたものである。尚、抵抗r+電源V_(E)はセンサの等価回路とみることもできる。」(第4頁右下欄7行?第5頁左上欄9行) (甲1ウ) [図8] ![]() ア 甲1記載の発明について 第8図の実施例((甲1イ)参照)は、第1図の実施例における記載((甲1ア)参照))を引用していることから、第8図の実施例においても、安定化ジルコニア等の固体電解質より構成される本体10(第8図では310)、その上にスペーサを介してオリフィスプレート14(第8図では314)が固定され、これらの本体と、スペーサと、プレートとの間に拡散空間が形成され、電極(第8図では340a、340b)手段は固体電解質本体の両面に形成され、ピンホール22(第8図では322)が穿設される、オリフィスプレートは多孔構造をなしたものである。以下、図面番号は、第8図の番号を用いることとする。 したがって、上記(甲1ア)?(甲1ウ)の記載事項によれば、甲1には、つぎの発明が記載されているものと認められる。 「安定化ジルコニア等の固体電解質より構成される本体310で、その上にスペーサを介してオリフィスプレート314が固定され、これらの本体310と、スペーサと、プレート314との間に拡散空間が形成され、 電極手段は固体電解質本体310の両面に形成され ピンホール322が穿設される、オリフィスプレート314は多孔構造をなし、細孔330とを併用したものであり、電極手段として1組の電極340a、340bだけを具備した、内燃機関の吸気管に設置される酸素センサに接続される制御回路であって、 オペアンプ350を具備しており、その非反転入力は電極340aに接続され、反転入力は直列接続された抵抗r及び電源V_(E)を介して電極340bに接続され、オペアンプ350の出力は帰還抵抗R1、R2によってオペアンプ350の非反転入力、反転入力に接続され、オペアンプ350はセンサに加わる電圧をV_(E)となるように制御し、 帰還抵抗R1はポンプ電流に応じた電流を取出し、一方帰還抵抗R2はポンプ電流に応じた電流を抵抗rに印加し、これにより電源V_(E)により設定される電圧をr×電流だけ増加し、センサ電流の変化に係わらず限界電流の計測を可能とした制御回路。」(以下、「甲1発明」という。) (2)甲2記載の事項 甲2には「内部抵抗補償を行なつた限界電流式酸素濃度検出装置」に関する発明が記載されており、「固体限界電流式酸素センサの、環境温度の変化に迅速に追従して変化する内部抵抗により生ずる電圧降下分(V_(1))に特定電圧(△V)を加えて前記限界電流検出用電圧を補償する」技術事項が記載されている。 (3)甲3記載の事項 甲3には「ガスセンサ及びガス濃度制御器」に関する発明が記載されており、「酸素ポンプ22のインピーダンスによる電圧降下分が補正電圧として基準電圧に反映(重畳)することとなり、これによって、ポンプ電圧Vpに対する酸素ポンプ22のインピーダンスによる誤差が有効に吸収される」技術事項が記載されている。 2 本件訂正発明1に対して (1) 対比 本件訂正発明1と甲1発明を対比する。 ア 甲1発明の「内燃機関の吸気管に設置される酸素センサに接続される制御回路」は、本件訂正発明1の「排ガスセンサの駆動制御のための装置」に相当する。 イ 甲1発明の「安定化ジルコニア等の固体電解質より構成される本体310で、その上にスペーサを介してオリフィスプレート314が固定され、これらの本体310と、スペーサと、プレート314との間に拡散空間が形成され」るものは、本件訂正発明1の「排ガスを受け入れる少なくとも1つの基準空洞部と酸素イオン導電性材料からなるセルとを有」する「プローブ」に相当する。 ウ 甲1発明の「帰還抵抗R1はポンプ電流に応じた電流を取出し、一方帰還抵抗R2はポンプ電流に応じた電流を抵抗rに印加し、これにより電源V_(E)により設定される電圧をr×電流だけ増加し、センサ電流の変化に係わらず限界電流の計測を可能とした」ものと、本件訂正発明1の「限界電流式プローブ(10)として構成され」たものとは、「限界電流式プローブ(10)として構成され」たものという点で共通するといえる。 エ 甲1発明の「オペアンプ350」は、本件訂正発明1の「制御器」とは、共に、「制御器」と言い得る限りにおいて共通するといえる。 そして、甲1発明の「オペアンプ350」の「反転入力」は「直列接続された抵抗r及び電源V_(E)を介して電極340bに接続され」ており、「非反転入力」は「電極340aに接続され」ているところ、この電極340aの電位は、拡散空間の酸素濃度に依存するものであり、本件訂正発明1の「センサ電圧(Vs)」に相当するものである。 してみれば、甲1発明の「オペアンプ350」の「反転入力」は「直列接続された抵抗r及び電源V_(E)を介して電極340bに接続され」ており、「非反転入力」は「電極340aに接続され」ている「制御回路」は、本件訂正発明1の「少なくとも1つの制御器(36)を有し、前記制御器の入力量は測定されたセンサ電圧(Vs)であり、前記測定されたセンサ電圧は、基準空洞部内の酸素濃度に依存しており、前記制御器の別の入力量は基準電圧であ」る「装置」に相当する。 そうすると、両者は、 (一致点) 「排ガスセンサの駆動制御のための装置であって、 前記排ガスセンサは限界電流式プローブ(10)として構成されており、 前記プローブは排ガスを受け入れる少なくとも1つの基準空洞部と酸素イオン導電性材料からなるセルとを有しており、 前記装置は、少なくとも1つの制御器(36)を有し、前記制御器の入力量は測定されたセンサ電圧(Vs)であり、 前記測定されたセンサ電圧は、基準空洞部内の酸素濃度に依存しており、前記制御器の別の入力量は基準電圧である、装置。」 である点で一致し、以下の相違点において相違するものといえる。 (相違点1) 制御器の出力について、本件訂正発明1では、「出力量は排ガスセンサのセルに供給される電流(Ip)であり、該電流によって前記センサ電圧(Vs)が所定の値に制御可能であ」るのに対し、甲1発明のオペアンプの出力が、そのようなものであるのか不明である点。 (相違点2) 制御器の入力について、本件訂正発明1では「入力量の1つが、供給された電流(Ip)に基づき前記限界電流式プローブ(10)の内部抵抗における電圧降下分だけ補正されるように構成され、前記供給された電流(Ip)がラムダ値に対する尺度となるようにし、尚、前記内部抵抗の抵抗値は周期的に測定される」ものであるのに対し、甲1発明のオペアンプの入力が、そのようなものであるのか不明である点。 (2) 判断 ア (相違点1)について 甲1発明は、「オペアンプ350はセンサに加わる電圧をV_(E)となるように制御し」たものであり、甲1の摘記(甲1イ)に「抵抗r+電源V_(E)はセンサの等価回路とみることもできる」と記載されてることからも、甲1発明の「制御回路」は、あくまでもセンサに加わる電圧を直接、電圧として制御するものである。 そして、甲1発明には「帰還抵抗R1はポンプ電流に応じた電流を取出し、一方帰還抵抗R2はポンプ電流に応じた電流を抵抗rに印加し、これにより電源V_(E)により設定される電圧をr×電流だけ増加」させるという記載があるものの、これは「オペアンプ350はセンサに加わる電圧をV_(E)となるように制御」するために行うものであり、本件訂正発明1のように、「制御器の出力量」を「排ガスセンサのセルに供給される電流(Ip)」とすることは記載されておらず、「該電流によって前記センサ電圧(Vs)が所定の値に制御可能であ」ることも記載されていない。さらに、甲1発明は、「オペアンプ350はセンサに加わる電圧をV_(E)となるように制御し」たものであることに鑑みるに、オペアンプ350の出力量を酸素センサのセルに供給される電流とし、その電流によりセンサに加わる電圧を制御することが示唆されているものともいえない。 また、上記甲2、甲3の記載事項をみても、限界電流式プローブ(すなわち1セル式プローブ)として構成されている排ガスセンサの駆動制御のための装置において、電流(Ip)によってセンサ電圧を制御することが示されていないことから、上記相違点1である「出力量は排ガスセンサのセルに供給される電流(Ip)であり、該電流によって前記センサ電圧(Vs)が所定の値に制御可能であ」るとすることは、上記甲2、甲3の記載事項からも当業者が容易になし得たものとはいえない。 したがって、相違点1は、甲1発明及び甲1?3の記載事項から当業者が容易になし得たものともいえない。 (3) 小括 以上、本件訂正発明1は、相違点2について検討をするまでもなく、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得た発明でもない。 3 本件訂正発明3に対して 本件訂正発明3は、本件訂正発明1の装置の発明を方法の発明に書き代えたカテゴリーが相違するだけの発明であるから、上記2の本件訂正発明1と判断と同様に、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得た発明でもない。 4 本件訂正発明2及び4?8について 本件訂正発明2は本件訂正発明1を引用し、本件訂正発明4?8は本件訂正発明3を引用する発明で、それぞれ本件訂正発明1又は本件訂正発明3をさらに限定したものであり、本件訂正発明1及び3が、上記のとおり甲1発明に基づいて当業者が容易になし得た発明でもない以上、さらに限定した事項のみが仮に甲2に記載されているからといって、本件訂正発明2及び4?8が、甲1発明及び甲2に記載されている事項に基づいて当業者が容易になし得た発明とはいえない。 第7 申立理由について 1 申立理由1及び2について 上記第5でも述べたように、申立書における甲1AB発明は、甲1号証の「第1図」に基づいて認定した発明であるが、第1図の酸素センサは、センサセル18とポンプセル20を有する2セル式プローブを前提とした技術であるのに対し、本件訂正発明1?8は「限界電流式プローブ(10)として構成され」る「排ガスセンサ」についての発明で、例えば本件特許明細書の【0023】に「限界電流式プローブ10(これは1セル式プローブとも称される)」と記載されているように、1セル方式プローブを前提としているものである。 してみれば、両者はその前提において技術的に異なるものであり、甲1AB発明の2セル式を1セル式にその前提を変えることはないから、申立書における甲1AB発明は主引例の発明とはなりえない発明である。 よって、申立理由1及び2によっては、本件訂正発明1?8について当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 申立理由3及び4について 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そして、平成23年(行ケ)10235号判決によると「発明の課題は,必ずしも明細書の特定の欄に記載されていなければならないとはいえないから,本件特許明細書につき,段落【0007】ないし【0009】に記載された課題を解決する手段を備えていないことを理由に,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求したものであるということはできない。」とされている。 申立理由3について、申立人は、本件特許の請求項に係る発明の課題が「【0009】それ故本発明の課題は、一方の排ガスセンサと他方の排ガスセンサの間で択一的な作動が可能な、排ガスセンサの駆動制御のための装置並びに方法を提供することにある。」という記載をもって、タイプの異なる複数の排ガスセンサ(例えば1セル方式プローブと2セル式プローブ)を備え、それらの排ガスセンサを択一的に作動可能であることを前提とすると主張するが、そのように本件特許の請求項に係る発明の課題を認識する根拠が具体的に異議申立書に示されていない。 むしろ、特許請求の範囲に1セル方式プローブであるところの、「限界電流式プローブ」のみが記載されていることに照らせば、上記申立人の主張する課題は、本件特許の請求項に係る発明に包含される特定の実施例に関する作用効果あるいは課題であると理解するのが自然であって、申立人の主張は根拠がない。 また、申立理由4について検討する。 本件請求項2に係る発明の解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の記載からみて、既に「計算によって求められたネルンストセル電圧」を用いた「排ガスセンサの駆動制御のための装置」を提供することである。 発明の詳細な説明には、【0028】に「ネルンストセル電圧」を計算によって求めることが記載されており、課題解決のための出発点である「計算によって求められたネルンストセル電圧」についての記載は発明の詳細な説明になされているといえる。 そして、図1及び図1に関する記載に照らし、既に「計算によって求められたネルンストセル電圧」を用いて、排ガスセンサの駆動制御ができることが分かるから、前記発明の課題を解決できることを当業者が認識できるものである。 よって、本件訂正発明1?8は、発明の詳細な説明に記載したものといえることから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえる。 3 申立理由5について 本件訂正発明1は、「前記制御器の入力量は測定されたセンサ電圧(Vs)であり、前記測定されたセンサ電圧は、基準空洞部内の酸素濃度に依存しており、前記制御器の別の入力量は基準電圧であり、」と特定され、本件訂正発明2には、「前記限界電流式プローブ(10)の駆動制御のための制御器の入力量は、計算によって求められたネルンストセル電圧である、請求項1記載の装置。」と特定されており、本件訂正発明2の「計算によって求められたネルンストセル電圧」は、限界電流式プローブ(10)では「センサ電圧」であるといえることから、制御器の入力量は「計算によって求められたネルンストセル電圧」である「センサ電圧」と「基準電圧」の2つであるといえる。してみれば、本件訂正発明2は不明確とはいえない。 本件訂正発明4?8も同様であり、本件訂正発明2及び4?8は、不明確であるとはいないことから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているといえる。 第8 結語 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠、並びに、当審の取消理由よっては、本件請求項1?請求項8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?請求項8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 排ガスセンサの駆動制御のための装置であって、 前記排ガスセンサは限界電流式プローブ(10)として構成されており、 前記プローブは排ガスを受け入れる少なくとも1つの基準空洞部と酸素イオン導電性材料からなるセルとを有しており、 前記装置は、少なくとも1つの制御器(36)を有し、前記制御器の入力量は測定されたセンサ電圧(Vs)であり、 前記測定されたセンサ電圧は、基準空洞部内の酸素濃度に依存しており、前記制御器の別の入力量は基準電圧であり、 前記制御器の出力量は排ガスセンサのセルに供給される電流(Ip)であり、該電流によって前記センサ電圧(Vs)が所定の値に制御可能であり、 限界電流式プローブ(10)として構成された排ガスセンサの駆動制御のための装置は、前記制御器(36)の入力量の1つが、供給された電流(Ip)に基づき前記限界電流式プローブ(10)の内部抵抗における電圧降下分だけ補正されるように構成され、前記供給された電流(Ip)がラムダ値に対する尺度となるようにし、 尚、前記内部抵抗の抵抗値は周期的に測定される、ことを特徴とする装置。 【請求項2】 前記限界電流式プローブ(10)の駆動制御のための制御器の入力量は、計算によって求められたネルンストセル電圧である、請求項1記載の装置。 【請求項3】 限界電流式プローブ(10)として構成され、少なくとも1つの基準空洞部と酸素イオン導電性材料からなるセルとを有している、排ガスセンサの駆動制御のための方法であって、 制御器に入力量としてセンサ電圧(Vs)が供給され、該センサ電圧(Vs)は基準空洞部内の酸素濃度に依存しており、 前記制御器に別の入力量として基準電圧が印加され、 前記制御器の出力量である電流(Ip)がセルに供給され、それによってセンサ電圧(Vs)が所定の値に制御され、 前記制御器(36)の入力量の1つが、供給された電流(Ip)に基づき前記限界電流式プローブ(10)の内部抵抗における電圧降下分だけ補正され、前記供給された電流(Ip)がラムダ値に対する尺度となるようにし、 尚、前記内部抵抗の抵抗値は周期的に測定される、ことを特徴とする方法。 【請求項4】 前記限界電流式プローブ(10)の駆動制御のための制御器の入力量として、計算によって求められたネルンストセル電圧が処理される、請求項3記載の方法。 【請求項5】 前記制御器(36)に供給される基準電圧が、出力量を求めるための後続処理の前に、前記限界電流式プローブ(10)の内部抵抗における電圧降下分だけ補正される、請求項3または4記載の方法。 【請求項6】 補正された基準電圧と、測定されたセンサ電圧(Vs)との偏差分から、出力量として用いられるべき電流(Ip)が求められる、請求項5記載の方法。 【請求項7】 測定されたセンサ電圧(Vs)が、出力量を求めるための後続処理の前に、前記限界電流式プローブ(10)の内部抵抗における電圧降下分だけ補正される、請求項3または4記載の方法。 【請求項8】 基準電圧と、補正されたセンサ電圧(Vs′)との偏差分から、出力量として用いられるべき電流(Ip)が求められる、請求項7記載の方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-11-30 |
出願番号 | 特願2012-534675(P2012-534675) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(G01N)
P 1 651・ 537- YAA (G01N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 黒田 浩一 |
特許庁審判長 |
三崎 仁 |
特許庁審判官 |
小川 亮 信田 昌男 |
登録日 | 2015-04-17 |
登録番号 | 特許第5730318号(P5730318) |
権利者 | コンチネンタル オートモーティヴ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング |
発明の名称 | 排ガスセンサの駆動制御のための装置及び方法 |
代理人 | 星 公弘 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | 星 公弘 |
代理人 | 久野 琢也 |