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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C23C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1323533
異議申立番号 異議2016-701017  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-26 
確定日 2017-01-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第5912559号発明「FePt-C系スパッタリングターゲットの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5912559号の請求項1ないし19に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5912559号は、平成24年1月13日(優先権主張 平成23年3月30日)に出願された特願2012-5696号について、平成28年4月8日に設定登録がされたものであり、その後、その請求項1-19に係る特許に対し、特許異議申立人 特許業務法人 藤央特許事務所により特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件発明の認定
上記特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1-19に記載された次の事項により特定されるとおりのもの(以下、「本件発明1」などといい、全体をまとめて「本件発明」という。)と認められる。

【請求項1】
「Ptを40?60at%含有して残部がFeおよび不可避的不純物からなるFePt系合金粉末に不可避的不純物を含むC粉末を添加し、酸素の存在する雰囲気下で混合して混合粉末を作製した後、作製した該混合粉末を加圧下で加熱して成形することを特徴とするFePt-C系スパッタリングターゲットの製造方法。」

【請求項2】
「Ptを40at%以上60at%未満、Fe、Pt以外の1種以上の金属元素を0at%よりも多く20at%以下含有し、かつ、Ptと前記1種以上の金属元素の合計が60at%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなるFePt系合金粉末に不可避的不純物を含むC粉末を添加し、酸素の存在する雰囲気下で混合して混合粉末を作製した後、作製した該混合粉末を加圧下で加熱して成形することを特徴とするFePt-C系スパッタリングターゲットの製造方法。」

【請求項3】-【請求項19】略

第3.申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として下記甲第1-8号証(以下、「甲1-8」という。)を提出し、下記申立理由1)-4)により、本件発明1-19は、特許法第113条第2号又は第4号に該当し、取り消すべきものである旨、主張している。

1)本件発明1、6-12、14、19は、本件特許の優先日前に出願され、特許法第184条の15第2項の規定により読み替えた同法第41条第3項の規定により、甲2によって出願公開されたものとみなされる特願2010-283567号(以下「先願2」という。)の願書に最初に添付された明細書、請求の範囲又は図面(以下、「先願2明細書」という。)に記載された発明と実質的に同一であって、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
2)本件発明2-19は、本件特許の優先日前に出願され、特許法第41条第3項の規定により、甲3によって出願公開されたものとみなされる特願2011-19179号(以下「先願3」という。)の願書に最初に添付された明細書、請求の範囲又は図面(以下、「先願3明細書」という。)に記載された発明、又は、甲4によって出願公開されたものとみなされる特願2011-19178号(以下「先願4」という。)の願書に最初に添付された明細書、請求の範囲又は図面(以下、「先願4明細書」という。)に記載された発明と実質的に同一であって、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
3)本件発明1、6-12、14、17-19は、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
4)本件発明1-19に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。



甲1:J.F.Hu,”Exchange coupling assisted FePtC perpendicular recording media”,Applied Physics Letters,2008年 8月オンライン公開、Vol.93,Issue 7,072504
甲2:国際公開第2012/86335号
甲3:特開2012-178210号公報
甲4:特開2012-178211号公報
甲5:特公平8-6174号公報
甲6:特開昭58-190826号公報
甲7:田代 襄 他、石炭の破砕性と自然発火性との関係、日本鉱業会誌 90(1033)、186、1974年3月
甲8:板垣 晴彦、粉砕機における石炭の自然発火特性について、産業安全研究所研究報告 RIIS-RR 第92号 第135?147頁、1993年

1.申立理由1)について
(1)先願2明細書の記載事項
本件特許の優先日前に出願され、特許法第184条の15第2項の規定により読み替えた同法第41条第3項の規定により、甲2によって出願公開されたものとみなされる先願2明細書には、「C粒子が分散したFe-Pt系スパッタリングターゲット」(発明の名称)について、次の記載がある。
(ア)「【0009】
本発明の課題は、高価な同時スパッタ装置を用いることなくグラニュラー構造磁性薄膜の作製を可能にする、C粒子が分散したFe-Pt系スパッタリングターゲットを提供することであり、さらには、スパッタリング時に発生するパーティクル量を低減した高密度なスパッタリングターゲットを提供することを課題とする。」
(イ)「【0011】
このような知見に基づき、本発明は、
1)原子数における組成比が式:(Fe_(100-X)-Pt_(X))_(100-A)-C_(A)(但し、Aは20≦A≦50、Xは35≦X≦55を満たす数)で表される焼結体スパッタリングターゲットであって、合金中に微細分散したC粒子を有し、かつ相対密度が90%以上であることを特徴とするスパッタリングターゲット
2)原子数における組成比が式:(Fe_(100-X-Y)-Pt_(X)-Cu_(XY))_(100-A)-C_(A)(但し、Aは20≦A≦50、Xは35≦X≦55、Yは0.5≦Y≦15を満たす数)で表される焼結体スパッタリングターゲットであって、合金中に微細分散したC粒子を有し、かつ相対密度が90%以上であることを特徴とするスパッタリングターゲット
・・・を提供する。」
(ウ)「【0023】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、酸素濃度が500wtppm以下であることが、特に有効である。これは、本発明のスパッタリングターゲットをスパッタして作製された磁性薄膜において、Fe-Pt磁性粒子中の酸素量が減少することになるので、作製された磁性薄膜は良好な磁気特性が得られるからである。」
(エ)「【0024】
本発明のスパッタリングターゲットは、粉末焼結法によって作製する。作製にあたり、各原料粉末(Fe粉末、Pt粉末、Cu粉末、C粉末)を用意する。・・・
さらに原料粉末として、合金粉末(Fe-Pt粉、Fe-Cu粉、Pt-Cu粉、Fe-Pt-Cu粉)を用いてもよい。特にPtを含む合金粉末はその組成にもよるが、原料粉末中の酸素量を少なくするために有効である。合金粉末を用いる場合も、粒径が0.5μm以上10μm以下のものを用いることが望ましい。
【0025】
そして、上記の粉末を所望の組成になるように秤量し、ボールミル等の公知の手法を用いて粉砕を兼ねて混合する。
【0026】
こうして得られた混合粉末をホットプレスで成型・焼結する。ホットプレス以外にも、プラズマ放電焼結法、熱間静水圧焼結法を使用することもできる。焼結時の保持温度は、スパッタリングターゲットの組成にもよるが、多くの場合、1200?1400℃の温度範囲とする。
【0027】
次に、ホットプレスから取り出した焼結体に等方熱間加圧加工を施す。等方熱間加圧加工は焼結体の密度向上に有効である。等方熱間加圧加工時の保持温度は焼結体の組成にもよるが、多くの場合、1200?1400℃の温度範囲である。また加圧力は100Mpa以上に設定する。
このようにして得られた焼結体を旋盤で所望の形状に加工することにより、本発明のスパッタリングターゲットは作製できる。
【0028】
以上により、合金中にC粒子が均一に微細分散し、且つ高密度なC粒子が分散したFe-Pt系スパッタリングターゲットを作製することができる。このようにして製造した本発明のスパッタリングターゲットは、グラニュラー構造磁性薄膜の成膜に使用するスパッタリングターゲットとして有用である。」
(オ)「【0030】
(実施例1)
・・・
【0031】
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、4時間回転させて混合・粉砕した。そしてボールミルから取り出した混合粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。
ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度1200℃、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
次にホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工を施した。熱間等方加圧加工の条件は、昇温速度300℃/時間、保持温度1350℃、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、1350℃保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
こうして作製された焼結体の密度をアルキメデス法で測定し、相対密度を計算したところ96.6%であった。」
(カ)「【0059】
(実施例5)
原料粉末として平均粒径10μmのFe-Pt合金粉末、平均粒径1μmのC粉末を用意した。C粉末は市販の無定形炭素を用いた。
これらの粉末を以下の原子数比で、合計重量が2600gとなるように秤量した。
原子数比:(Fe_(50)-Pt_(50))_(60)-C_(40)
【0060】
次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、8時間回転させて混合・粉砕した。そしてボールミルから取り出した混合粉末をカーボン製の型に充填しホットプレスした。
ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度1200℃、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
次にホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工を施した。熱間等方加圧加工の条件は、昇温速度300℃/時間、保持温度1350℃、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、1350℃保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
こうして作製された焼結体の密度をアルキメデス法で測定し、相対密度を計算したところ97.1%であった。」
(キ)「【0064】【表1】



(2)甲2の記載事項
甲2の段落[0009]、[0011]、[0023]-[0029]、[0031]、[0032]、[0060]、[0061]および[0083][表1]には、先願2明細書の前記記載事項(ア)-(カ)と同様の事項が記載されている。

(3)引用発明(甲2発明)の認定
「(1)」「(2)」によれば、先願2明細書には、
「Fe-Pt合金粉末にC粉末を添加し、ボールミルポットに封入して混合・粉砕した混合粉末を、カーボン製の型に充填し、ホットプレスにより1200℃、30MPaで2時間加圧保持した後、熱間等方加圧加工により1350℃、150MPaで2時間加圧保持してなる、(Fe_(50)-Pt_(50))_(60)-C_(40)スパッタリングターゲットの製造方法。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

(3)本件発明1と引用発明との対比・判断
本件発明1と甲2発明とを対比すると、少なくとも下記(相違点1)で相違している。

(相違点1)
FePt系合金粉末とC粉末との混合粉末を、本件発明1では、酸素の存在する雰囲気下で混合することにより作製しているのに対し、甲2発明では、混合を行う雰囲気が不明である点。

(相違点1)につき、特許異議申立人は、混合時の雰囲気について、先願2明細書に特段の言及もないことから、雰囲気の条件に関しては特に制限していないと解され、通常の雰囲気、即ち大気に開放された雰囲気等で混合することも暗に含んでいると認められ、そうすると、先願2明細書には、Fe-Pt合金粉末とC粉末との混合粉末を、酸素の存在する雰囲気下で混合することが、実質的に記載されているといえると主張している。
しかしながら、混合粉末を作製するための混合時の雰囲気は、使用する材料粉末や作製する混合粉末に応じて選択されるものであって、甲2発明で、混合粉末を作製する雰囲気の条件に関して「特に制限していない」ことをもって、当該雰囲気を「酸素の存在する雰囲気」に該当する「大気に開放された雰囲気」とすることを暗に含んでいるとはいえない。
また、先願2明細書の記載事項(ウ)には、製造するスパッタリングターゲットを、酸素含有量の小さいものとすることも記載されており、当該記載からは、混合時の雰囲気において酸素が存在しない方がよいことがむしろ示唆されるものであって、この点からも、甲2発明で混合粉末を作製する雰囲気が「酸素の存在する雰囲気」であるとはいえない。
よって、本件発明1と甲2発明とは、(相違点1)で実質的に相違するから、両者が実質的に同一であるとはいえない。

(4)小括
したがって、本件発明1は、先願2明細書に記載され、甲2により出願公開されたものとみなされる発明と実質的に同一であるとはいえないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
また、本件発明6-12、14、19は、本件発明1を引用し、本件発明1をさらに限定する発明であるから、先願2明細書に記載され、甲2により出願公開されたものとみなされる発明と実質的に同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

2.申立理由2)について
(1)先願3明細書の記載事項
本件特許の優先日前に出願され、特許法第41条第3項の規定により、甲3によって出願公開されたものとみなされる先願3明細書には、「磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(ア)「【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、規則化温度を低下させたFePt(Au/Cu)-C膜を成膜することができると共にパーティクルの発生が抑制可能な磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供することを目的とする。」
(イ)「【0009】
この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットでは、一般式:{(Fe_(X)Pt_(100-X))_((100-y))A_(y)}_((100-z))C_(z)、ここでAがAuおよびCuの少なくとも一方からなる金属であり、原子比により30≦x≦80、1≦y≦30、3≦z≦63で表される組成を有した焼結体からなるので、1つのターゲットでA(AuおよびCuの少なくとも一方)により規則化温度を低下させたFePtA-C膜を成膜できると共に、Fe,Pt,Aの金属マトリックス中に介在してC単体のパーティクルが発生し難くなることで、スパッタリング時の異常放電の発生を抑制することができる。」
(ウ)「【0022】
この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法は、図1に示すように、AuPt合金粉と、CuPt合金粉と、AgPt合金粉と、FePt合金粉と、Pt粉と、グラファイト粉またはカーボンブラック粉と、の混合粉末を、真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程を有している。
特に、カーボンブラック粉としては、アセチレンガスの発熱分解により生成された、いわゆるアセチレンブラックを使用することが好ましい。
【0023】
上記AuPt合金粉は、Au:10?90原子%を含有するAuPt合金粉であることが好ましい。また、上記CuPt合金粉は、Cu:10?90原子%を含有するCuPt合金粉であることが好ましい。また、上記AgPt合金粉は、Ag:5?50原子%を含有するAgPt合金粉であることが好ましい。また、上記FePt合金粉は、Fe:80?95原子%を含有するFePt合金粉であることが好ましい。さらに、上記Pt粉は、平均粒径が1?5μmのものを用い、さらにグラファイト粉またはカーボンブラック粉は、平均粒径が0.02?20μmのものを用いるとよい。
【0024】
なお、AuPt合金粉およびCuPt合金粉、AgPt合金粉、FePt合金粉は、平均粒径が10?30μmのものを用いることが好ましい。これらの平均粒径を上記範囲とした理由は、10μm未満であると、収率よく回収することが困難となるためであり、30μmを超えると、ターゲットの十分高い密度が得られずパーティクルが発生しやすくなるためである。
【0025】
この製法の一例について詳述すれば、例えば、まず上記所定組成割合となるAuPt合金粉、CuPt合金粉、AgPt合金粉、FePt合金粉をそれぞれガスアトマイズ法により作製し、平均粒径が10?30μmとなるように篩分して粉末を回収する。
Pt粉については市販のものを用いればよく、例えばPt粉については純度が3N?4Nで平均粒径1?5μmの粉末を用意すればよい。
【0026】
カーボンブラック粉は、アセチレンガスを原料として燃焼と熱分解とを周期的に繰り返すことによりアセチレンガスの発熱分解により生成された、いわゆるアセチレンブラックを使用する。このカーボンブラック粉としては、例えば平均粒径35nm、比表面積(BET値)70m^(2)/gの粉末を用いる。
【0027】
次に、このAuPt合金粉とCuPt合金粉とAgPt合金粉とFePt合金粉とPt粉とグラファイト粉またはカーボンブラック粉とを上記所定のターゲット組成となるように秤量し、これらをボールミル混合用の容器に混合用の粉砕媒体となる5mmφのジルコニアボール等と共に投入し、容器内をArガスで置換した後蓋を閉める。さらに、この容器を、2?16時間回転させ、原料を混合して混合粉末とする。
【0028】
次に、得られた混合粉末を真空中にてホットプレスにより成型焼結し、得られた焼結体を機械加工により所定のターゲット寸法に加工する。なお、十分高い密度の焼結体を得るためには、200kgf/cm^(2)以上の加圧力でホットプレスする必要があるが、モールドの機械強度とプレス装置の最大荷重による制限を受ける。このためホットプレスは、1100?1600℃の範囲で保持時間:3?12時間、加圧力:350kgf/cm^(2)にて行うことが好ましい。
こうして得られた焼結体を、バッキングプレートに接合してターゲットとする。」
(エ)「【0040】【表1】




(2)甲3の記載事項
甲3の段落【0007】、【0009】、【0026】、【0027】、【0029】、【0030】、【0032】、【0033】および【0047】【表1】には、先願3明細書の前記記載事項(ア)-(エ)と同様の事項が記載されている。

(3)先願4明細書の記載事項
本件特許の優先日前に出願され、特許法第41条第3項の規定により、甲4によって出願公開されたものとみなされる先願4明細書には、「磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(オ)「【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、規則化温度を低下させたFePtAg-C膜を成膜することができると共にパーティクルの発生が抑制可能な磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供することを目的とする。」
(カ)「【0009】
この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットでは、一般式:{(Fe_(X)Pt_(100-X))_((100-y))Ag_(y)}_((100-z))C_(z)、ここで原子比により30≦x≦80、1≦y≦30、3≦z≦63で表される組成を有した焼結体からなるので、1つのターゲットでAgにより規則化温度を低下させたFePtAg-C膜を成膜できると共に、CがFe,Pt,Agの金属マトリックス中に介在してC単体のパーティクルが発生し難くなることで、スパッタリング時の異常放電の発生を抑制することができる。」
(キ)「【0020】
この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法は、図1に示すように、AgPt合金粉と、AuPt合金粉と、CuPt合金粉と、FePt合金粉と、Pt粉と、グラファイト粉またはカーボンブラック粉と、の混合粉末を、真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程を有している。
特に、カーボンブラック粉としては、アセチレンガスの発熱分解により生成された、いわゆるアセチレンブラックを使用することが好ましい。
【0021】
上記AgPt合金粉は、Ag:5?95原子%を含有するAgPt合金粉であることが好ましい。また、上記AuPt合金粉は、Au:10?90原子%を含有するAuPt合金粉であることが好ましい。また、上記CuPt合金粉は、Cu:10?90原子%を含有するCuPt合金粉であることが好ましい。また、上記FePt合金粉は、Fe:80?95原子%を含有するFePt合金粉であることが好ましい。さらに、上記Pt粉は、平均粒径が1?5μmのものを用い、さらにグラファイト粉またはカーボンブラック粉は、平均粒径が0.02?20μmのものを用いるとよい。
【0022】
なお、AgPt合金粉およびAuPt合金粉、CuPt合金粉、FePt合金粉は、平均粒径が10?30μmのものを用いることが好ましい。これらの平均粒径を上記範囲とした理由は、10μm未満であると、収率よく回収することが困難となるためであり、30μmを超えると、ターゲットの十分高い密度が得られずパーティクルが発生しやすくなるためである。
【0023】
この製法の一例について詳述すれば、例えば、まず上記所定組成割合となるAgPt合金粉およびAuPt合金粉、CuPt合金粉、FePt合金粉をそれぞれガスアトマイズ法により作製し、平均粒径が10?30μmとなるように篩分して粉末を回収する。
Pt粉については市販のものを用いればよく、例えばPt粉については純度が3N?4Nで平均粒径1?5μmの粉末を用意すればよい。
【0024】
カーボンブラック粉は、アセチレンガスを原料として燃焼と熱分解とを周期的に繰り返すことによりアセチレンガスの発熱分解により生成された、いわゆるアセチレンブラックを使用する。このカーボンブラック粉としては、例えば平均粒径35nm、比表面積(BET値)70m^(2)/gの粉末を用いる。
【0025】
次に、このAgPt合金粉とAuPt合金粉とCuPt合金粉とFePt合金粉とPt粉とグラファイト粉またはカーボンブラック粉とを上記所定のターゲット組成となるように秤量し、これらをボールミル混合用の容器に混合用の粉砕媒体となる5mmφのジルコニアボール等と共に投入し、容器内をArガスで置換した後蓋を閉める。さらに、この容器を、2?16時間回転させ、原料を混合して混合粉末とする。
【0026】
次に、得られた混合粉末を真空中にてホットプレスにより成型焼結し、得られた焼結体を機械加工により所定のターゲット寸法に加工する。なお、十分高い密度の焼結体を得るためには、200kgf/cm^(2)以上の加圧力でホットプレスする必要があるが、モールドの機械強度とプレス装置の最大荷重による制限を受ける。このためホットプレスは、950?1300℃の範囲で保持時間:3?12時間、加圧力:350kgf/cm^(2)にて行うことが好ましい。
こうして得られた焼結体を、バッキングプレートに接合してターゲットとする。」
(ク)「【0038】【表1】



(4)甲4の記載事項
甲4の段落【0007】、【0009】、【0024】、【0025】、【0027】-【0031】および【0045】【表1】には、先願4明細書の前記記載事項(オ)-(ク)と同様の事項が記載されている。

(5)甲5の記載事項
甲5には、「酸化物薄膜製造用スパツタリングタ-ゲツトの原料粉末調製法及びその製造法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(ケ)「【請求項1】II A族元素、III B族元素及び銅を主成分とし、各成分のうちの少なくとも1つの成分が金属粉末であり、他の成分が酸化物又は加熱により酸化物となる化合物の粉末である酸化物薄膜製造用スパツタリングターゲツトの原料粉末の調製法において、
各成分を酸素又は空気雰囲気下で不活性溶媒中で混合し、該混合物を酸素又は空気雰囲気下で乾燥することにより、金属粉末を徐々に表面酸化しながら他の成分と混合することを特徴とするII A族-III B族-銅系酸化物薄膜製造用スパツタリングターゲツトの原料粉末調製法。」
(コ)「従来の上記混合法により出発原料を混合し、これを焼結してスパツタリングターゲツトを製造すると、原料の混合中、成形中又は焼結中に金属粉末が急激に酸化され、激しい発熱が生じるとともに、その体積が変化し、このため出発原料を成形して得られた成形物及び焼結して得られたスパツタリングターゲツトが自壊するという問題点を有していた。
本発明は、金属粉末表面の酸化物形成を他の原料との混合工程にて行うことにより、金属粉末の表面を酸化物の被膜で覆い、金属粉末の急激な酸化による成形品及びスパツタリングターゲツト用焼結品の自壊作用を防止しうる原料粉末の調製法及びスパツタリングターゲツトの製造法を提供する。」(第2頁左欄第28行-第40行)
(サ)「本発明は、原料粉末を酸素又は空気雰囲気下で混合及び乾燥することにより金属粉末の表面を酸化し、金属粉末の急激な酸化による成形物及びスパツタリングターゲツトの自壊を防止しえた点に特徴を有するものである。」(第2頁右欄第19行-第22行)

(6)甲6の記載事項
甲6には、「強磁性酸化物及び製造法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(シ)「1. フェロマンガン合金粉末と、Fe、Ni、Cu、Mg、Co、Zn等の酸化物、又は塩、又はその溶液又はスラリー等容物質の一種又は二種以上を、Feの酸化物成分として36?60モル%、Mn、Ni、Cu、Mg、Co、Znの酸化物成分の一種又は二種以上で40?64モル%の範囲に調整秤取し、これに酸素、又は酸根を含む液を加え粉砕混合することによって該混和物中の合金粉末の一次粒子の表面及び微粉末の大部分を酸化することによって該粒子内部のFeイオンの均一性を保ち、該混和物を800℃?1450℃に加熱してなる軟磁性酸化物。」(特許請求の範囲)
(ス)「もしもこの粉体が爆発範囲内の空気と混合されると爆発する。したがって実際の作業上不十分に酸化した合金の粗粒を乾式粉砕すると、爆発の危険のあることは当然である。」(第2頁右下欄第5行-第7行)

(7)甲7の記載事項
甲7には、次の記載がある。
(セ)「粉化した石炭が自然発火しやすい理由は、主として、粉化のため酸素と反応する表面積が増加するためであるが、このほか、伝熱性が悪くなるとか、酸素の供給がよくなることなどが理由とされている。」(186頁中欄第3行-第7行)

(8)甲8の記載事項
甲8には、次の記載がある。
(ソ)「炭じん(微粉炭)の発火や爆発の問題は、石炭が利用されて以来の問題であり、古くから研究がなされてきた。」(136頁左欄第3行-第5行)
(タ)「中心の最高到達温度の低減にあたっては、雰囲気の酸素濃度が高い場合には堆積面の温度を下げるよりも堆積厚を薄くした方が効果的であったが、酸素濃度が低い場合には堆積厚を薄くしても中心温度の上昇はあまり抑制されなかった。」(147頁右欄第9行-第13行)

(9)引用発明(甲3発明、甲4発明)の認定
「(1)」「(2)」によれば、先願3明細書の実施例1には、
「AgPt合金粉とAuPt合金粉とCuPt合金粉とFePt合金粉とPt粉とグラファイト粉またはカーボンブラック粉とを、ボールミル混合用の容器に投入し、容器内をArガスで置換した後、原料を混合して混合粉末とし、ホットプレスにより1100?1600℃、350kgf/cm^(2)で3?12時間加圧保持してなる、(Fe_(50.1)Pt_(39.5)Cu_(10.4))_(64.5)C_(35.5)スパッタリングターゲットの製造方法。」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
また、「(3)」「(4)」によれば、先願4明細書の実施例1には、
「AgPt合金粉とAuPt合金粉とCuPt合金粉とFePt合金粉とPt粉とグラファイト粉またはカーボンブラック粉とを、ボールミル混合用の容器に投入し、容器内をArガスで置換した後、原料を混合して混合粉末とし、ホットプレスにより950?1300℃、350kgf/cm^(2)で3?12時間加圧保持してなる、(Fe_(49.7)Pt_(40.1)Ag_(10.2))_(64.8)C_(35.2)スパッタリングターゲットの製造方法。」の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されている。

(10)本件発明2と甲3発明、甲4発明との対比・判断
本件発明2と甲3発明、甲4発明とを対比すると、少なくとも下記(相違点1)、(相違点2)で相違している。

(相違点1)
C粉末を添加して混合粉末を作製する原料が、本件発明2では、単一種の「FePt系合金粉末」であって、「Ptを40at%以上60at%未満、Fe、Pt以外の1種以上の金属元素を0at%よりも多く20at%以下含有」するのに対し、甲3発明および甲4発明では、Fe、Pt以外の原料を含まない「FePt合金粉」と、「AgPt合金粉」、「AuPt合金粉」、「CuPt合金粉」および「Pt粉」の少なくともいずれかとを組み合わせたものである点。

(相違点2)
FePt系合金粉末とC粉末との混合粉末を、本件発明2では、酸素の存在する雰囲気下で混合することにより作製しているのに対し、甲3発明および甲4発明では、Arガス雰囲気下で混合することにより作製している点。

まず(相違点2)について検討する。
特許異議申立人は、前記「(5)」「(6)」によれば、酸素、空気又は酸根を含む雰囲気下又は液中で混合や粉砕混合を行って、混合中に金属粉末を酸化させておくことにより、混合後に金属粉末が急激に酸化して激しい発熱や、爆発・発火が生じるのを抑制することは周知の技術であり、また、前記「(7)」「(8)」によれば、酸素を含む雰囲気内で炭素粉末を処理する際に、粉化した石炭の自然発火や微粉炭の発火・爆発の問題も、従来から知られている課題であるから、混合粉末の原料として「グラファイト粉」や「カーボンブラック粉」が用いられる甲3発明又は甲4発明においては、炭素粉末の発火・爆発という従来から知られている課題を考慮して、酸素を含む雰囲気下で混合を行うことは、単なる周知技術の転換にすぎないと主張している。
また、特許異議申立人は、C粉末は表面が活性であり、酸素を吸着すると酸か熱が発生して自然発火も発生しうることは技術常識であるから、C粉末を酸素の存在しない雰囲気下で混合し、その後これが大気に触れると急激な酸素の吸着および酸化により発火しうることは、極めて容易に認識できたことであるというべきことであり、FePt合金粉末とC粉末とを混合する場合には、金属粉末やC粉末の爆発や発火を防ぐ観点から、酸素の存在する雰囲気下で混合して混合粉末を作製することは至極当然のことであって、甲3発明又は甲4発明において、酸素を含む雰囲気下で混合を行うことは、発火防止という課題解決の具体化手段における微差にすぎないとも主張している。
しかしながら、前記「(5)」「(6)」によれば、混合後の大気暴露時における「酸化による発熱」や「発火」という課題が周知であるのは、「金属粉末」であって、「C粉末」にも同様の周知の課題があることは示されていないし、混合時の雰囲気を「酸素を含む雰囲気」とすることで、「C粉末」の「酸化による発熱」や「発火」を防止できることが示されているともいえない。
また、前記「(7)」「(8)」によれば、「C粉末」の「発火」は、「酸素を含む雰囲気内で炭素粉末を処理する際」の課題であるから、「C粉末」の「混合時」にも発火が生じうることを示していると解され、混合後の大気暴露時の発火を防止するため、混合時の雰囲気を「酸素を含む雰囲気」とすることを示すものではない。
そうすると、前記「(5)」-「(8)」からは、FePt合金粉末とC粉末との混合時の雰囲気を「酸素を含む雰囲気」とすることにより、混合後の大気暴露時における「発火」を防止することが、周知技術であることが示されているとはいえない。
さらに、甲3、先願3明細書、甲4および先願4明細書には、混合後の大気暴露時の発火を防止するという課題について、何ら記載されていないし、混合粉末の原料を「ボールミル混合用の容器に投入」した直後の、「大気雰囲気」である「容器」内を、あえて「Arガスで置換」してから混合することは、むしろ酸素を含む雰囲気である「大気雰囲気」での混合は行わないことを示すものであるといえるから、甲3発明又は甲4発明において、「C粉末」の「混合時」を「酸素を含む雰囲気」として、「混合後の大気暴露時」に発火が生じるのを防止することは、課題解決の具体化手段における微差にすぎないともいえない。
よって、(相違点1)について検討するまでもなく、本件発明2と甲3発明および甲4発明とは、(相違点2)で実質的に相違するから、本件発明2と甲3発明および甲4発明が実質的に同一であるとはいえない。

(11)小括
したがって、本件発明2は、先願3明細書に記載され、甲3により出願公開されたものとみなされる発明、並びに、先願4明細書に記載され、甲4により出願公開されたものとみなされる発明と、実質的に同一であるとはいえないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
また、本件発明3-19は、本件発明2を引用し、本件発明2をさらに限定する発明であるから、先願3明細書に記載され、甲3により出願公開されたものとみなされる発明、並びに、先願4明細書に記載され、甲4により出願公開されたものとみなされる発明と実質的に同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

3.申立理由3)について
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。なお、「日本語訳」については、特許異議申立書に添付された「甲第1号証部分抄訳」を参酌した。
(ア)「In this work, ECA perpendicular media with the structure of glass/CrRu 30nm/MgO 2nm/L1_(0) FePtC/fcc FePtC were prepared by an ultrahigh vacuum magnetron sputtering system. The CrRu and MgO act as the underlayer and the buffer layer. The formation of the L1_(0) ordered FePt was achieved by heteroepitaxial growth by following the relationship of CrRu(002)<110>||MgO(100)<001>||FePt(001)×<100>.^(8-10) The substrate temperatures for the deposition of the CrRu underlayer and the MgO buffer layer were 350 and 80 ℃, respectively. Different deposition temperatures were used to control the FePtC phases with soft (room temperature) and hard magnetic properties (350℃). Three inch diameter composite targets were used, Cr_(90)Ru_(10) (99.9% purity), MgO (99.99% purity), (Fe_(50)Pt_(50))_(79)C_(21) (99.99% purity). The working pressure of the Ar gas used for film deposition was 3 mTorr for CrRu and MgO and 10 mTorr for FePtC. The substrate was held at the required temperature for 15 min prior to sputtering.」(072504-1頁右欄第15行-第32行)
(日本語訳:「本研究では、ガラス/CrRu 30nm/MgO 2nm/L1_(0) FePtC/fccとなる構造を有する交換結合補強型垂直媒体を超高真空マグネトロンスパッタリングシステムにより準備した。ここでCrRu及びMgOは下地及びバッファ層として働く。L1_(0)構造を有するFePtCはCrRu(002)<110>||MgO(100)<001>||FePt(001)×<100>^(8-10)の関係に従い、ヘテロエピタキシャル成長方法により得られた。CrRu下地層及びMgOバッファ層の堆積のための基板温度はそれぞれ350℃及び80℃であった。FePtC相は異なる堆積温度を用いることにより軟磁性(室温)又は硬磁性(350℃)に調整した。Cr_(90)Ru_(10)(純度99.9%)、MgO(純度99.99%)、(Fe_(50)Pt_(50))_(79)C_(21)(純度99.99%)の直径3インチの複合型ターゲットが用いられた。フィルム堆積に用いられるアルゴンガスの動作圧は、CrRu及びMgOについては3mTorr,FePtCについては10mTorrであった。基板はスパッタリングの前に15分間所定温度に保持した。」)

(2)引用発明(甲1発明)の認定
「(1)」によれば、甲1には複合型ターゲットが記載され、そのうち本件発明1の「FePt-C系」に相当する「(Fe_(50)Pt_(50))_(79)C_(21)(純度99.99%)」の部分に着目すると、
「(Fe_(50)Pt_(50))_(79)C_(21)(純度99.99%)からなるFePt-C系スパッタリングターゲット。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

(3)本件発明1と甲1発明との対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも下記(相違点1)で相違している。

(相違点1)
本件発明1は、「FePt-C系スパッタリングターゲット」の「製造方法」についての発明であって、「混合粉末」の原料につき、「Ptを40?60at%含有して残部がFeおよび不可避的不純物からなるFePt系合金粉末」と、「不可避的不純物を含むC粉末」とからなることが特定され、「混合粉末を作製する工程」につき、「酸素の存在する雰囲気下で混合」されることが特定され、「成形工程」につき、「作製した該混合粉末を加圧下で加熱して成形する」ことが特定されているのに対し、甲1発明は、スパッタリングターゲットの「製造方法」についての発明でなく、混合粉末の原料、混合工程、成形工程の特定がない点。

(相違点1)について、特許異議申立人は、「2.(10)本件発明2と甲3発明、甲4発明との対比・判断」の記載の中での主張と同様に、「FePt系合金粉末」と「C粉末」との混合工程を、「酸素の存在する雰囲気下」で行うようにすることは、当業者が極めて容易に想到できたことであり、また、「作製した該混合粉末を加圧下で加熱して成形する」ことにより、スパッタリングターゲットを「製造」することは、当該技術分野における周知技術にすぎないと主張している。
しかしながら、スパッタリングターゲットを製造するに際し、混合粉末を加圧下で加熱して成形することが周知技術であるとしても、スパッタリングターゲットの「製造」について特定のない甲1発明においては、「混合粉末を加圧下で加熱して成形する」方法を選択する動機づけもないし、当該方法を選択したとしても、混合粉末の原料に「FePt系合金粉末」と「C粉末」とを用いる動機づけはない。
また、「2.(10)本件発明2と甲3発明、甲4発明との対比・判断」で述べたように、「2.(5)甲5の記載事項」-「2.(8)甲8の記載事項」からは、「金属粉末」の混合後の大気暴露時における「酸化による発熱」や「発火」という課題が周知であることがいえるのみであって、「C粉末」の混合後の大気暴露時における「酸化による発熱」や「発火」という課題が周知であるとはいえず、混合時の雰囲気を「酸素の存在する雰囲気」とすることにより、前記「酸化による発熱」や「発火」を抑制することが周知の技術であるともいえないから、甲1発明のスパッタリングターゲットを製造する際に、「混合粉末を加圧下で加熱して成形する」方法を選択し、混合粉末の原料に「FePt系合金粉末」と「C粉末」とを用いたとしても、「C粉末」の混合後の大気暴露時における「発火」を抑制するため、混合時の雰囲気を「酸素の存在する雰囲気」とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明6-12、14、17-19は、本件発明1を引用し、本件発明1をさらに限定する発明であるから、甲1に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4.申立理由4)について
特許異議申立人は、本件明細書の実施例では、発火を防止するという課題を解決できることが確認されたのは、C粉末含有量については33.4at%、40at%、60at%の3点のみであって、C粉末含有量が33.4at%未満の場合に発火防止の課題が解決できるかどうかは明らかでなく、より具体的には、33.4at%未満という少ないC粉末含有量においては、混合時の雰囲気にかかわらず、酸素の吸着熱により発火が生じないと推測され、本件発明で解決しようとする課題がそもそも生じないといえるから、本件発明1-19は、課題を解決するに必要な構成が欠如しており、それにより、課題を解決できないものまで不当に広く含むものであると主張している。
また、同じく本件明細書の実施例においては、混合時雰囲気を大気か、Ar-20%O_(2)である場合が記載されているのみであって、雰囲気中の酸素含有量が極めて少量である場合には、混合時にC粉末表面にほとんど酸素が吸着せず、混合後の大気暴露時にC粉末が発火する可能性があるから、本件明細書の記載から、混合時の酸素含有量が20%未満の場合に、本件発明の課題を解決できることが裏付けられているとはいえないことも主張している。
しかしながら、本件発明におけるC粉末の「発火」は、C粉末に酸素が吸着して発生した吸着熱が原因であるから、「33.4at%未満」という少ない含有量のC粉末で、「発火」に至るかは明らかでなくとも、本件発明のように、混合時雰囲気を酸素を含む雰囲気とすれば、混合時にC粉末に酸素が予め吸着するため、発火の原因となる「混合後の大気暴露時」の「酸素の吸着」が減少することは明らかである。
混合時雰囲気についても同様に、酸素含有量が20%未満であっても、混合時にC粉末に酸素が吸着することで、混合後の大気暴露時に吸着する酸素の量は少なくなるといえる。
よって、本件発明においては、C粉末含有量や酸素含有量の多寡によらず、「酸素の存在する雰囲気下」で「混合粉末を作製」することにより、C粉末の「発火」の可能性に改善が図られることが、当業者であれば認識できるから、本件発明1-19の発明特定事項により、本件発明の課題を解決できることが裏付けられていないとはいえない。
したがって、本件発明1-19が、課題を解決するに必要な構成が欠如しており、それにより、課題を解決できないものまで不当に広く含むものであるとはいえないから、特許異議申立の理由によっては、本件特許の請求項1-19の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、異議申立人が主張する申立理由1)-4)によっては、請求項1-19に係る特許を取り消すことはできない。

したがって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-01-06 
出願番号 特願2012-5696(P2012-5696)
審決分類 P 1 651・ 161- Y (C23C)
P 1 651・ 537- Y (C23C)
P 1 651・ 121- Y (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 塩谷 領大山田 頼通  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 宮澤 尚之
萩原 周治
登録日 2016-04-08 
登録番号 特許第5912559号(P5912559)
権利者 田中貴金属工業株式会社
発明の名称 FePt-C系スパッタリングターゲットの製造方法  
代理人 牧野 剛博  
代理人 藤田 崇  
代理人 高矢 諭  
代理人 松山 圭佑  

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