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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
審判 全部申し立て 特39条先願  H05K
管理番号 1323540
異議申立番号 異議2016-700557  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-22 
確定日 2017-01-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第5835370号発明「多層プリント配線板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5835370号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5835370号の請求項1?13に係る特許についての出願は、2008年9月11日(優先権主張2007年9月11日、日本国、2007年9月14日、日本国)を国際出願日とする特願2009-532204号の一部を、平成25年9月3日に新たな特許出願とした特願2013-182505号の一部を、平成26年1月30日に新たな特許出願としたものであって、平成27年11月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1?13に係る特許について、特許異議申立人大石朋子(以下「異議申立人」という。)により特許異議申立てがされ、当審において平成28年10月4日付けで取消理由を通知し、平成28年12月5日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
特許第5835370号の請求項1?13の特許に係る発明は、それぞれ特許請求の範囲1?13に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下「本件発明1」?「本件発明13」という。)
「【請求項1】
(1)支持体フィルム上にプリプレグが形成された接着シートがロール状に巻き取られたロール状接着シートから接着シートを搬送し、プリプレグ面が回路基板の両面又は片面に接するように接着シートを配置する、仮付け準備工程、
(2)プリプレグ面が回路基板の両面又は片面に接するように配置された接着シートの一部を支持体フィルム側から加熱および加圧することで部分的に接着シートを回路基板に接着し、回路基板とともに搬送される接着シートを回路基板のサイズに応じてカッターでカットすることにより、接着シートを回路基板に仮付けする、仮付け工程、
(3)回路基板に仮付けされた接着シートを減圧下で加熱および加圧し、回路基板に接着シートをラミネートする、ラミネート工程、
(4)回路基板にラミネートされた接着シートのプリプレグを熱硬化し、絶縁層を形成する、熱硬化工程、および
(5)熱硬化工程の後に絶縁層から支持体フィルムを剥離する、剥離工程
を含み、
前記接着シートは、支持体フィルムがプリプレグと接する面側に離型層を有し、熱硬化前のプリプレグからの支持体フィルムの剥離強度が180度ピール強度で1.5gf/50mm以上であることを特徴とする、多層プリント配線板の製造方法。
【請求項2】
接着シートにおいて、支持体フィルムの厚みが20?50μmおよびプリプレグの厚みが20?100μmである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
仮付け準備工程および仮付け工程が、オートカッターにより行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ラミネート工程が、真空ラミネーターにより行われる、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ラミネート工程において、加熱および加圧が弾性材を介して行われる、請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ラミネート工程の後に、常圧下で、金属板により、接着シートを加熱および加圧する平滑化工程をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
絶縁層に穴あけする穴あけ工程、該絶縁層を粗化処理する粗化工程、粗化された絶縁層表面にメッキにより導体層を形成するメッキ工程、及び導体層に回路を形成する回路形成工程をさらに含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
絶縁層に穴あけする穴あけ工程が、熱硬化工程と剥離工程の間に行われる、請求項1?7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
穴あけ工程において、ビアホール形成が、支持体フィルム上から炭酸ガスレーザーを照射して行われる、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
炭酸ガスレーザーのエネルギーが1mJ以上である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
炭酸ガスレーザーのエネルギーが1?5mJである、請求項9記載の方法。
【請求項12】
支持体フィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項1?11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
プリプレグが、ガラスクロスに熱硬化性樹脂組成物を含浸したプリプレグである、請求項1?12のいずれか1項に記載の方法。」

第3 取消理由の概要
当審において、請求項1?13に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

本件特許の請求項1?13に係る発明について
甲第1号証:特開2005-340594号公報
甲第2号証:特開2002-164651号公報
甲第3号証:特開平9-314785号公報
甲第4号証:特開2002-171061号公報
甲第5号証:特開2000-332375号公報
甲第6号証:特開2007-169454号公報
甲第7号証:特開2005-154727号公報
甲第8号証:特開2005-45150号公報
甲第9号証:特開2006-37083号公報
甲第10号証:特開2001-15913号公報
甲第11号証:特開2003-23222号公報
甲第12号証:特開2006-173638号公報

甲第1号証には、図面とともに、特許異議申立書6ページ26行?11ページ9行に記載のとおりの事項が記載されており、本件特許の請求項1に係る発明の記載ぶりに則って整理し、本件特許の請求項1に係る発明の用語を使って表すと、特許異議申立書11ページ10行?27行に記載のとおりの発明が記載されている。
そして、本件特許の請求項1?13に係る発明は、特許異議申立書11ページ28行?26ページ13行に記載の理由により、上記甲第1?12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1?13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第4 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証(特開2005-340594号公報。特に、段落【0002】?【0007】、【0014】、【0017】、【0023】?【0031】、及び図1?図8を参照。)には、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、プリント配線板用絶縁樹脂フィルム及びこれを用いた絶縁層の形成方法に関して、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「(1)支持ベースフィルム11上に、支持ベースフィルム11の一方の面に樹脂溶液をロールコート等により塗布するか、樹脂フィルムを貼付する等の方法による絶縁樹脂層12が形成されたプリント配線板用絶縁樹脂フィルム10がロール状に巻き取られたプリント配線板用絶縁樹脂フィルム10の巻取りロール111からプリント配線板用絶縁樹脂フィルム10を搬送し、絶縁樹脂層12面が配線回路基板20の両面に接するようにプリント配線板用絶縁樹脂フィルム10を配置する、仮付け準備工程、
(2)絶縁樹脂層12面が配線回路基板20の両面に接するように配置されたプリント配線板用絶縁樹脂フィルム10の一部を支持ベースフィルム11側から加熱および加圧することで部分的にプリント配線板用絶縁樹脂フィルム10を配線回路基板20に接着し、配線回路基板20とともに搬送されるプリント配線板用絶縁樹脂フィルム10を配線回路基板20のサイズに応じてオートカットラミネータユニット110でカットすることにより、プリント配線板用絶縁樹脂フィルム10を配線回路基板20に仮貼りする、仮貼りする工程、
(3)配線回路基板20に仮貼りされたプリント配線板用絶縁樹脂フィルム10を減圧下で加熱および加圧し、配線回路基板20にプリント配線板用絶縁樹脂フィルム10をラミネートする、ラミネート工程、
(4)配線回路基板20にラミネートされたプリント配線板用絶縁樹脂フィルム10の絶縁樹脂層12を熱硬化し、絶縁樹脂層12を熱硬化した絶縁層12aを形成する、熱硬化工程、および
(5)熱硬化工程の後に絶縁樹脂層12を熱硬化した絶縁層12aから支持ベースフィルム11を剥離する、剥離工程
を含む、
多層プリント配線板の製造方法。」

第5 判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1) 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「支持ベースフィルム11」は、本件発明1の「支持体フィルム」に相当する。
以下同様に、「プリント配線板用絶縁樹脂フィルム10」は、「接着シート」に、
「配線回路基板20」は、「回路基板」に、
「オートカットラミネータユニット110」は、「カッター」に、
「仮貼り」は、「仮付け」に、それぞれ相当する。

甲1発明の「支持ベースフィルム11の一方の面に樹脂溶液をロールコート等により塗布するか、樹脂フィルムを貼付する等の方法による絶縁樹脂層12」と、本件発明1の「プリプレグ」とは、「絶縁材」である点で共通する。
そして、甲1発明の「支持ベースフィルム11上に、支持ベースフィルム11の一方の面に樹脂溶液をロールコート等により塗布するか、樹脂フィルムを貼付する等の方法による絶縁樹脂層12が形成されたプリント配線板用絶縁樹脂フィルム10がロール状に巻き取られたプリント配線板用絶縁樹脂フィルム10の巻取りロール111」と、本件発明1の「支持体フィルム上にプリプレグが形成された接着シートがロール状に巻き取られたロール状接着シート」とは、「支持体フィルム上に絶縁材が形成された接着シートがロール状に巻き取られたロール状接着シート」である点で共通する。

以上のことから、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。
「(1)支持体フィルム上に絶縁材が形成された接着シートがロール状に巻き取られたロール状接着シートから接着シートを搬送し、絶縁材面が回路基板の両面又は片面に接するように接着シートを配置する、仮付け準備工程、
(2)絶縁材面が回路基板の両面又は片面に接するように配置された接着シートの一部を支持体フィルム側から加熱および加圧することで部分的に接着シートを回路基板に接着し、回路基板とともに搬送される接着シートを回路基板のサイズに応じてカッターでカットすることにより、接着シートを回路基板に仮付けする、仮付け工程、
(3)回路基板に仮付けされた接着シートを減圧下で加熱および加圧し、回路基板に接着シートをラミネートする、ラミネート工程、
(4)回路基板にラミネートされた接着シートの絶縁材を熱硬化し、絶縁層を形成する、熱硬化工程、および
(5)熱硬化工程の後に絶縁層から支持体フィルムを剥離する、剥離工程
を含む、
多層プリント配線板の製造方法。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点]
本件発明1では、絶縁材は「プリプレグ」で、ロール状接着シートは「支持体フィルム上にプリプレグが形成された接着シートがロール状に巻き取られたロール状接着シート」であり、「接着シートは、支持体フィルムがプリプレグと接する面側に離型層を有し、熱硬化前のプリプレグからの支持体フィルムの剥離強度が180度ピール強度で1.5gf/50mm以上」であるのに対して、
甲1発明では、絶縁材は「絶縁樹脂層12」で、ロール状接着シートは「支持ベースフィルム11上に、支持ベースフィルム11の一方の面に樹脂溶液をロールコート等により塗布するか、樹脂フィルムを貼付する等の方法による絶縁樹脂層12が形成されたプリント配線板用絶縁樹脂フィルム10がロール状に巻き取られたプリント配線板用絶縁樹脂フィルム10の巻取りロール111」であり、支持ベースフィルム11が絶縁樹脂層12と接する面側に離型層を備えていない点。

上記相違点について検討する。
ア 絶縁材について
本件発明1の「プリプレグ」とは、「シート状繊維基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、加熱および乾燥させて得ることができる。」(本件特許明細書の段落【0013】を参照。)ものである。
他方、甲1発明は、従来、多層プリント配線板の製造方法に、プリプレグシートを用いていたが、製造工程が長くかかり、高コストとなっており、ファインパターンの形成が困難で、多層プリント配線板全体の極薄化も困難であったところ、
内層回路基板に絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱硬化後、粗化剤により表面に凹凸の粗化面を形成した絶縁層上にめっきにより配線層を形成する多層プリント配線板の製造法が提案されていたが、
上下搬送フィルムに挟まれた基板が正規の位置からずれ、基板の歩留まり或いは品質が低下すること等が起こるので、配線回路基板にプリント配線板用絶縁樹脂フィルムを積層し、支持ベースフィルムを剥離して配線回路基板上に絶縁層を形成する方法において、オートピーラー等の高価な設備を導入することなく、効率的かつ品質的に安定した支持ベースフィルムの剥離が可能とすることを目的とするものである(甲第1号証の段落【0002】?【0007】を参照。)。

そうすると、甲1発明は、多層プリント配線板の製造方法において、従来使用されていたプリプレグシートに代えて、絶縁樹脂フィルムを使用する方法に関する発明であるので、プリプレグシートを使用しないことを前提としているといえる。
したがって、甲1発明において、絶縁材として、「支持ベースフィルム11の一方の面に樹脂溶液をロールコート等により塗布するか、樹脂フィルムを貼付する等の方法による絶縁樹脂層12」に代えて、プリプレグを採用することには、阻害要因がある。

イ ロール状接着シートについて
甲第1号証(特に、段落【0023】、及び図2を参照。)には、支持ベースフィルム11に絶縁樹脂層12及び接着層13を設けた絶縁樹脂フィルムの巻取りロール111を用いることが記載されているが、絶縁樹脂層12は、樹脂溶液をロールコート等により塗布するか、樹脂フィルムを貼付する等の方法によって形成されるものであるから、本件発明1のプリプレグではない。

甲第2号証(特に、段落【0015】、【0017】、及び図1を参照。)には、ガラス布等の長尺のシート状基材に樹脂組成物を含浸した樹脂含浸基材(本件発明1のプリプレグに相当。)を単数又は複数枚連続して送っているものの一方の面に長尺の銅箔を、他方の面に長尺の離型フィルムを連続して送りつつ重ね、これらを加熱硬化炉に通して硬化させることによって、連続工法でシート状の基材と樹脂組成物の硬化物からなる絶縁材料の片面に銅箔が接着されている長尺の片面銅張り積層板を作製して、この片面銅張り積層板の絶縁材料面に接着剤層を形成している長尺材1であって、ロール状に巻いたものが記載されているが、プリプレグを加熱硬化炉に通して硬化させているから、ロール状に巻き取られた時には、樹脂含浸基材は、もはや本件発明1のプリプレグではない。

甲第3号証(特に、段落【0022】、【0027】、【0028】、及び図1を参照。)には、樹脂含浸基材1(本件発明1のプリプレグに相当。)として、コイル状に巻いたものが記載されているが、プリプレグ単体がそのままロール状に巻き取られたものにすぎない。

甲第4号証(特に、段落【0016】、及び図1を参照。)には、長尺のプリプレグ4をロール状に巻いたものが記載されているが、プリプレグ単体がそのままロール状に巻き取られたものにすぎない。

このように、「支持体フィルム上にプリプレグが形成された接着シートがロール状に巻き取られたロール状接着シート」を用いることについては、甲第1?4号証には記載も示唆もされていない。
また、その他の甲各号証にも、「支持体フィルム上にプリプレグが形成された接着シートがロール状に巻き取られたロール状接着シート」を用いることについて示唆する記載はない。

ウ 接着シートの離型層、及び離型層の剥離強度について
本件発明1は、特に、支持体フィルムを剥離することなくプリプレグを熱硬化した場合には、硬化後に支持体フィルムを剥離することが困難となるため、離型層付きの支持体フィルムを使用し、硬化後のプリプレグ(絶縁層)と支持体フィルム間で離型層を介して剥離可能とするものであるところ、
離型層を設けた場合に、オートカッターにおいて、接着シートを搬送する過程で、支持体フィルムとプリプレグ間に剥離が起こり、連続生産が困難となる現象があり、
そこで、硬化後においても支持体フィルムが硬化したプリプレグから剥離可能となる離型層付き支持体フィルムにおいて、熱硬化前のプリプレグからの支持体フィルムの剥離強度を一定値以上に設定することで、安定的に連続生産が可能となるようにしたものである(本件特許明細書の段落【0008】を参照。)。

甲第5号証には、ベース材の片面に、接着強度は180度ピール、測定速度60mm/minで約0.5g/10mm(剥離強度が180度ピール強度で2.5gf/50mm)の離型層が塗布形成された離型層部と、離型層が形成されていない非離型層部とで構成されたマスクフィルム22a、22b(厚さ約16μm)が、両面に接着されたプリプレグシート21(厚さ約150μm。本願発明1の「プリプレグ」に相当。)の所定の箇所に貫通孔23が形成され、
貫通孔23に導電ペースト24が充填され、このとき、上面のマスクフィルム22a、22bは印刷マスクの役割と、プリプレグシート21の表面の汚染防止の役割を果たしており、
次に、プリプレグシート21の両面からマスクフィルム22a、22bを剥離し、プリプレグシート21の両面にCuなどの金属箔25a、25bを重ね、熱プレスで加熱加圧することにより、プリプレグシート21の厚みが圧縮されるとともにプリプレグシート21と金属箔25a、25bとが接着され、両面の金属箔25a、25bは所定位置に設けた貫通孔23に充填された導電ペースト24により電気的に接続され、そして、両面の金属箔25a、25bを選択的にエッチングして回路パターンが形成した両面回路基板で、
離型層部で離型性能を有し、かつ非離型層部で接着補強によりマスクフィルムとプリプレグシートの剥がれを防止するという作用を有するものが記載されている(特に、【請求項1】、段落【0005】?【0009】、【0012】、【0039】、及び図1?9を参照。)。

しかし、甲第5号証に記載された上記事項では、プリプレグシート21の厚さは約150μmであるのに対して、マスクフィルム22a、22bの厚さは、約16μmであって、プリプレグシートに対して非常に薄いから、マスクフィルム22a、22bは、プリプレグシート21を支持する役割を果たしているとはいえない。
そして、マスクフィルム22a、22bは、プリプレグシート21が加熱加圧される前、すなわち熱硬化する前に剥がされるものであり、印刷マスクの役割と、プリプレグシート21の表面の汚染防止の役割を果たすものにすぎない。

一方、甲1発明では、支持ベースフィルム11上に、支持ベースフィルム11の一方の面に樹脂溶液をロールコート等により塗布するか、樹脂フィルムを貼付する等の方法による絶縁樹脂層12が形成され、仮貼りする工程、ラミネート工程、および熱硬化工程の後に絶縁樹脂層12を熱硬化した絶縁層12aから支持ベースフィルム11を剥離するものである。
すなわち、支持ベースフィルム11は、絶縁樹脂層12が熱硬化した後で剥がされるもので、絶縁樹脂層12を熱硬化工程の終了まで支持する役割を果たすものである。

したがって、甲第5号証に記載された上記事項のマスクフィルム22a、22bと、甲1発明の支持ベースフィルム11とは、剥離させる時期が熱硬化の前と後とで異なるとともに、その役割も異なるから、甲第5号証に記載された上記事項を甲1発明に適用する動機付けがあるとはいえない。
そして、甲第5号証には、「接着シートは、支持体フィルムがプリプレグと接する面側に離型層を有」することが記載されているともいえない。

また、その他の甲各号証に、「接着シートは、支持体フィルムがプリプレグと接する面側に離型層を有し、熱硬化前のプリプレグからの支持体フィルムの剥離強度が180度ピール強度で1.5gf/50mm以上」であることを示唆する記載はない。

エ まとめ
上記「ア」?「ウ」から、相違点に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1?12号証に記載された発明から、当業者が容易になし得るものではない。

(2) 本件発明2?13について
本件発明2?13は、本件発明1をさらに限定したものであるから、上記「(1)」と同様の理由により、甲第1?12号証に記載された発明から、当業者が容易になし得るものではない。

(3) 小括
以上のとおり、本件発明1?13は、甲第1?12号証に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
異議申立人は、特許異議申立書において、甲第13号証(特許第5465530号公報)の請求項2には、本件発明1の構成要件がすべて記載されており、甲第13号証の請求項2の発明では「前記接着シートが保護フィルム/プリプレグ/支持体フィルムの層構成を有し、前記仮付け準備工程における接着シートの搬送時に、保護フィルムが巻き取られながら剥離されること」を構成要件とするのに対して、本件発明1ではそのような構成要件がない点で相違しているが、本件発明1?13は、現実的に用いることができない方法を形式的に含んでいるだけであって、甲第13号証の請求項2?5及び7?15の各発明と同一であり、本件発明1?13は、特許法第39条第2項に規定する要件を満たしていないため、その特許は特許法第113条第2項の規定により、取り消されるべきものである旨主張している(特許異議申立書27ページ1行?32ページ14行)。

しかし、異議申立人が現実的に用いることができない方法であるとする、プリプレグと支持体フィルムからなる接着シートをロール状に巻き取るときに、保護フィルムを用いない方法については、それが本件特許明細書に具体的な説明がなされていないことが、保護フィルムを用いない方法が現実的に用いることができない方法であるという根拠にはならない。
また、異議申立人は、保護フィルムを用いない方法は当業者には想定できるものではなかったことの根拠として、甲第1号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第14号証(特開2007-119531号公報)、及び甲第15号証(特開2007-51225号公報)を挙げているが、これらの甲各号証は、保護フィルムを使用することを示しているにすぎず、保護フィルムを用いない方法が現実的に用いることができない方法であるということを示すものではない。

なお、甲第13号証の請求項2に係る発明における、接着シートの「保護フィルム/プリプレグ/支持体フィルム」の層構成において、
保護フィルムに代えて、支持体フィルムのプリプレグとは反対側の表面に離型層(ただし、この離型層は、プリプレグと支持体フィルムとの間の離型層よりも剥離強度を低くしたもの。)を設け、「プリプレグ/支持体フィルム及び離型層」の層構成とすること、
あるいは、保護フィルムを支持体フィルムのプリプレグとは反対側の表面に取付け、「プリプレグ/支持体フィルム/保護フィルム」の層構成とすることにより、
「前記接着シートが保護フィルム/プリプレグ/支持体フィルムの層構成を有し、前記仮付け準備工程における接着シートの搬送時に、保護フィルムが巻き取られながら剥離されること」(甲第13号証の請求項2)との構成を具備しない方法が可能である。

そして、甲第13号証の請求項2?5及び7?15の各発明は、「前記接着シートが保護フィルム/プリプレグ/支持体フィルムの層構成を有し、前記仮付け準備工程における接着シートの搬送時に、保護フィルムが巻き取られながら剥離されること」を発明を特定するための事項として含んでいるのに対して、本件発明1?13は、かかる事項を含んでいないから、甲第13号証の請求項2?5及び7?15の各発明と、本件発明1?13とは、同一とはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は理由がない。

第6 むすび
したがって、請求項1?13に係る特許は、取消理由に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-01-11 
出願番号 特願2014-15602(P2014-15602)
審決分類 P 1 651・ 4- Y (H05K)
P 1 651・ 121- Y (H05K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 悟史遠藤 秀明  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 中川 隆司
小関 峰夫
登録日 2015-11-13 
登録番号 特許第5835370号(P5835370)
権利者 味の素株式会社
発明の名称 多層プリント配線板の製造方法  
代理人 高島 一  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 高山 繁久  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 當麻 博文  
代理人 小池 順造  

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