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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G11C
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 取り消して特許、登録 G11C
管理番号 1324032
審判番号 不服2016-2139  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-12 
確定日 2017-02-09 
事件の表示 特願2015-504651「フラッシュメモリブロックの適応的なプログラミングまたは消去」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月10日国際公開、WO2013/151919、平成27年 4月27日国内公表、特表2015-512552、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年4月1日(パリ条約による優先権主張2012年4月2日,米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年4月14日付けで拒絶理由が通知され、平成27年9月7日付けで意見書が提出されると共に手続補正がされ、平成27年10月16日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という)がされ、これに対し、平成28年2月12日に拒絶査定不服審判が請求されると共に手続補正がされ、平成28年3月4日付けで審査官により特許法第164条第3項に基づく報告がされたものである。

第2 平成28年2月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1.補正の内容
本件補正後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(下線は、補正に係り請求人が付与したものである。)
「【請求項1】
不揮発性メモリのブロックの古さを、前記ブロックに出力される試験電圧パルスの結果に少なくとも基づいて決定することと、
前記ブロックの前記古さに基づき、同一パルス列内の複数のパルスの電圧および数を決定することと、
前記ブロックの少なくとも一部分をプログラムするために、前記ブロックの少なくとも一部分に前記パルスを出力し、または、前記ブロックを消去するために、前記ブロックの全体に前記パルスを出力することと、を含む、
方法。
【請求項2】
前記ブロックの前記古さを決定することは、前記試験電圧パルスを前記ブロックに出力することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ブロックの前記古さを決定することは、さらに、前記ブロックのセルの閾値電圧を複数の所定電圧と比較することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ブロックの前記古さを決定することは、さらに、前記複数の所定電圧のうちのいずれが、全ての前記閾値電圧以下であるかを決定することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ブロックの前記古さを決定することは、さらに、所定の閾値電圧よりも大きい閾値電圧を有する前記ブロックのセルの数を含むカウント数を決定することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記出力することは、前記パルスを生成するように電圧発生器を制御することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記出力することは、前記パルスを含む複数のパルスを出力することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
フラッシュメモリのブロックの内容をプログラムまたは消去するように動作可能なモジュールを備えるシステムであって、
プロセッサと、
前記プロセッサと通信するメモリと、を備え、
前記メモリは、前記プロセッサが、
前記ブロックの古さを、前記ブロックに出力される試験電圧パルスの結果に少なくとも基づいて決定し、
前記ブロックの前記古さに基づき、同一パルス列内の複数のパルスの電圧および数を決定し、かつ、
前記ブロックの少なくとも一部分をプログラムするために、前記ブロックの少なくとも一部分に前記パルスを出力し、または、前記ブロックを消去するために、前記ブロックの全体に前記パルスを出力するように指示するための複数の処理命令を記憶する、
システム。
【請求項9】
前記モジュールはマイクロコントローラを備え、前記マイクロコントローラが前記プロセッサおよび前記メモリを含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記メモリは指定された複数のセルを備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記プロセッサは、さらに、前記ブロックに前記試験電圧パルスを出力するように動作可能である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記プロセッサは、さらに、前記ブロックのセルの閾値電圧を、複数の所定電圧と比較するように動作可能である、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
方法を実行するために1つ以上のプロセッサによって実行される1つ以上のシーケンスの1つ以上の命令を記憶したコンピュータ可読媒体であって、前記方法は、
不揮発性メモリのブロックの古さを、前記ブロックに出力される試験電圧パルスの結果に少なくとも基づいて決定することと、
前記ブロックの前記古さに基づき、同一パルス列内の複数のパルスの電圧および数を決定することと、
前記ブロックの少なくとも一部分をプログラムするために、前記ブロックの少なくとも一部分に前記パルスを出力し、または、前記ブロックを消去するために、前記ブロックの全体に前記パルスを出力することと、を含む、
コンピュータ可読媒体。
【請求項14】
前記方法は、前記試験電圧パルスを前記ブロックに出力することを含む、請求項13に記載のコンピュータ可読媒体。」

(1)補正事項1
請求項1、8、13について
本件補正により、補正前の請求項1、8、13における「パルスの電圧および数を決定すること」、および、「プログラムまたは消去するために、前記ブロックの少なくとも一部分に前記パルスを出力すること」は、それぞれ「同一パルス列内の複数のパルスの電圧および数を決定すること」および「プログラムするために、前記ブロックの少なくとも一部分に前記パルスを出力し、または、前記ブロックを消去するために、前記ブロックの全体に前記パルスを出力すること」に補正された。
(2)補正事項2
請求項11、14について
本件補正により、補正前の請求項11、14における「前記ブロックの少なくとも一部分に前記試験電圧パルスを出力する」は、それぞれ「前記ブロックに前記試験電圧パルスを出力する」に補正された。

2.補正の適否
(1)補正事項1について
本件補正の補正事項1は、請求項1、8、13に記載した発明を特定するために必要な事項である「パルスの電圧および数を決定すること」について、「同一パルス列内の複数のパルスの電圧および数を決定すること」に限定すると共に、「プログラムまたは消去するために、前記ブロックの少なくとも一部分に前記パルスを出力すること」について「プログラムするために、前記ブロックの少なくとも一部分に前記パルスを出力し、または、前記ブロックを消去するために、前記ブロックの全体に前記パルスを出力すること」に限定するものであって、補正前の請求項に記載された発明と補正後の請求項に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(2)補正事項2
本件補正の補正事項2は、拒絶の理由における理由2に示す事項に対して、明りょうでない記載の釈明を目的としてされたものであり、特許法第17条の2第5項第4号の規定に適合する。
また、補正事項1、2は、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1、8、13に記載された発明(以下、請求項1を代表させて「補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(3)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2010/117807号(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。(訳は、パテントファミリーである特表2012-523646号公報を参酌した。下線は、参考のため当審が付与した。)
ア.1
「[0013] Techniques are disclosed herein for erasing non-volatile storage devices. In one implementation, the non-volatile storage devices are erased with a trial erase pulse. Then, a suitable magnitude for a second erase pulse is determined based on the magnitude of the trial erase pulse and data collected about the threshold voltage distribution after the trial erase. The second erase pulse is then used to erase the memory cells. In one implementation, the threshold voltages of the memory cells are not verified after the second erase. Soft programming after the second erase may be performed, but is not required. If soft programming is performed, the magnitude of the soft programming pulse may be determined based on the trial erase pulse. In one implementation, the threshold voltages of the memory cells are not verified after the soft programming. By limiting the number of erase pulses, time and power are saved. Moreover, by determining an appropriate magnitude for the second erase pulse, over-erasing is minimized or eliminated. Furthermore, by limiting the number of soft programming pulses, time and power are saved.

[0014] One embodiment includes performing a first erase of a group of non-volatile storage elements with a first erase voltage. After the first erase, the non-volatile storage elements have a threshold voltage distribution. A reference voltage on the threshold voltage distribution is determined. A second erase voltage is determined based on the first erase voltage and the reference voltage. A second erase of the group of non- volatile storage elements is performed with the second erase voltage.

[0015] In one embodiment, a soft program voltage is determined based on the second erase voltage. The soft program voltage is applied to the group of non- volatile storage elements after performing the second erase.」

訳;「【0013】
不揮発性記憶装置を消去する手法が本明細書中に開示される。一実施形態では、不揮発性記憶装置は、トライアル消去パルスを使って消去される。第2の消去パルスの大きさは、トライアル消去パルスの大きさと、トライアル消去後の閾値電圧分布に関して収集されたデータに基づいて、適切に決定することができる。第2の消去パルスは、メモリセル群の消去に使用される。一実施形態では、第2の消去後に、メモリセル群の閾値電圧を検証しない。第2の消去後は、ソフト書き込みを実行してもよいが、必ずしも必要とされない。ソフト書き込みを行う場合は、ソフト書き込みパルスの大きさを、トライアル消去パルスに基づいて決定することができる。一実施形態では、ソフト書き込み後に、メモリセル群の閾値電圧を検証しない。消去パルスの数を制限することにより、時間及び電力を削減することができる。さらに、第2の消去パルスの大きさを適切に決定することにより、過消去の発生を、最小限に抑え、あるいは排除することができる。さらに、ソフト書き込みパルスの数を制限して、時間及び電力を節約することができる。
【0014】
一実施形態では、第1の消去電圧を使用して、不揮発性記憶素子群に第1の消去を実行する。第1の消去後、不揮発性記憶素子群は、閾値電圧分布を有している。基準電圧は、閾値電圧分布の範囲内で決定する。第2の消去電圧は、第1の消去電圧及び基準電圧に基づいて決定する。そして、第2の消去電圧を使用して、不揮発性記憶素子群に第2の消去を実行する。
【0015】
一実施形態では、ソフト書き込み電圧は、第2の消去電圧に基づいて決定することができる。ソフト書き込み電圧は、第2の消去後に不揮発性記憶素子群に印加される。」

ア.2
「[0053] Figure 4 depicts an exemplary structure of memory cell array 200. In one embodiment, the array of memory cells is divided into M blocks of memory cells. As is common for flash EEPROM systems, the block is the unit of erase. That is, each block contains the minimum number of memory cells that are erased together. Each block is typically divided into a number of pages. A page is a unit of programming. One or more pages of data are typically stored in one row of memory cells. A page can store one or more sectors. ・・・ 」
訳;「【0053】
図4は、メモリセルアレイ200の例示的な構造を示す。一実施形態においては、メモリセルのアレイは、メモリセル群のM個のブロックに分割される。フラッシュEEPROMシステムに一般的であるように、ブロックは消去の単位である。すなわち、各ブロックは共に消去される最小数のメモリセルを含む。各ブロックは、通常、複数のページに分割される。ページは書き込みの単位である。通常、1つ又は複数ページのデータが1列のメモリセルに記憶される。1つのページは、1つ又は複数のセクタを記憶できる。・・・」

ア.3 「[0071] Figure 8 depicts one embodiment of a process 800 of erasing memory cells. The process 800 of Figure 8 is one technique for implementing step 706 in Figure 7. In optional step 802, memory cells are programmed to some minimum threshold voltage. As an example, substantially all of the memory cells are programmed to a Vt of at least one volt above the measureable Vt window. The measurable Vt window is the range of Vts that are used to store valid data on the particular memory device. The bottom of the window varies depending upon factors such as whether or not negative Vt sensing is employed. In an implementation that does not use negative sensing of Vts, the beginning of the measurable Vt window is approximately OV. In an implementation that uses negative sensing, the beginning of the measurable Vt window can go almost as negative as to -Vdd. For example, using negative sensing, the beginning of the measurable Vt window is approximately -1.6 V with a Vdd of 2.2V. Negative sensing is performed as follows, in one implementation. The source and the Pwell are held at 1.6 V. The drain is held at 1.6 V + VbI, where VbI is the voltage to which the bit line is pre-charged. As an example, VbI is 0.4 V. In this type of negative sensing, there is no body effect as the source and Pwell are held at the same voltage. In one embodiment, negative Vt sensing is performed by applying a negative voltage to the control gates. 22

[0093] In optional step 812, a soft program voltage is determined based on the second erase voltage. There exists a correlation between the voltage needed to erase memory cells and the voltage need to program those memory cells as a block is cycled. In some implementations, erase becomes harder and programming becomes easier with more program/erase cycles. Therefore, knowledge of the value of the erase voltage that was required to erase the block to a deep enough level allows the calculation of the correct value of the soft program pulse that can tighten the erase distribution. In one implementation the soft programming voltage is determined based on the following equation:

[0094] Vsp = Vref - Ve2 * K Eq. 3

[0095] In Equation 3, Ve2 is the magnitude of the second erase voltage. The parameter Vref is a reference voltage and K is a constant. Suitable values for Vref and K may be determined based on tests performed on sample devices. In one embodiment, the soft program voltage is determined by applying an equation such as Equation 3. In one embodiment, a lookup table is used to obtain the value of the soft program pulse, based on the second erase voltage.

[0096] Note that if the soft program pulse is too weak it will not help to tighten the erase distribution and if the soft program pulse is too strong it can program the memory cells out of the erased state and into one or more of the programmed states. However, a soft program pulse with the proper amplitude will tighten the erase distribution. A possible reason for the foregoing is that memory cells with higher coupling ratios are both easier to erase and easier to program than cells with lower coupling ratios. Cells with higher coupling ratios will end up at the lower portion of the erase distribution after an erase pulse. A soft programming pulse with the proper amplitude will nudge the Vts of these cells before the rest of the memory cells start to program, thereby 30

tightening the erase distribution. But if the soft programming pulse is too strong, then all the memory cells will start to program, and the tightening effect is lost.」
訳;「【0071】
図8は、メモリセル群を消去するためのプロセス800の一実施形態を示す。図8のプロセス800は、図7におけるステップ706を実施する一つの手法である。ステップ802では、任意であるが、メモリセル群に対して、最小閾値電圧まで書き込みを実行する。一例として、実質的にすべてのメモリセルが、測定可能Vt範囲を1ボルト以上上回るVt(閾値電圧)を有するまで、書き込みを行うことができる。測定可能Vt範囲は、データを有効に記憶するために使用される閾値電圧Vtの範囲であって、個々のメモリデバイスに特有のものである。測定可能Vt範囲の下限は、負の閾値電圧Vtの検出が可能か否かのような要因に依存して変化する。負の閾値電圧Vtの検出が不可能な実施形態では、測定可能Vt範囲の下限は約0Vとなる。負の閾値電圧Vtの検出が可能な実施形態では、測定可能Vt範囲の下限は-Vddとほぼ同程度の負の値に達し得る。例えば、負の検出を可能とすれば、測定可能Vt範囲の下限は、2.2VのVddを用いた場合に約-1.6Vとなる。負の検出は、一例ではあるが、以下の通り実行される。ソース及びp型ウェルは、1.6Vに維持される。ドレインは、1.6V+Vblに維持され、ここで、Vblはビットラインが事前に充電される電圧である。一例として、Vblは0.4Vである。この種の負の検出では、ソース及びp型ウェルが同じ電圧に維持されるので、ボディ効果は存在しない。一実施形態では、負の閾値電圧Vtの検出は、負の電圧を制御ゲートに印加することによって実行される。
…(中略)…
【0093】
ステップ812では、任意であるが、ソフト書き込み電圧が第2の消去電圧に基づいて決定される。メモリセル群を消去するために必要な電圧と、これらのメモリセル群に書き込みを行うため必要とされる電圧との間には、ブロックの使用サイクルに応じた相関が存在する。一例ではあるが、書き込み/消去のサイクルが多くなるのにつれて、消去はより困難になり、書き込みはより容易になる。そのことから、ブロックを過消去した消去電圧の値についての知見は、消去分布を緊密化するためのソフト書き込みパルスの値の正確な計算を可能にする。一例ではあるが、ソフト書き込み電圧は、以下の式に基づいて決定される。
【0094】
【数3】
Vsp=Vref-Ve2*K 式3
【0095】
式3中、Ve2は、第2の消去電圧の絶対値である。パラメータVrefは、基準電圧であり、Kは定数である。Vref及びKの適当な値は、サンプル機で行われたテストに基づいて決定することができる。一実施形態では、ソフト書き込み電圧は、式3のような式を適用することにより決定される。一実施形態では、ルックアップテーブルを用い、第2の消去電圧に基づいて、ソフト書き込みパルスの値を決定してもよい。
【0096】
なお、ソフト書き込みパルスが非常に弱い場合は、消去分布を緊密化するために役に立たず、ソフト書き込みパルスが非常に強い場合は、消去状態から一つ以上の書き込み状態へメモリセル群に書き込みが実行されてしまう。しかし、適切な大きさをもつソフト書き込みパルスは、消去分布を緊密化することになる。上記について考えられる理由は、高い結合比をもつメモリセル群は、低い結合比をもつセル群よりも、容易に消去及び書き込みを行うことができる、ということである。高い結合比をもつセル群は、消去パルス後に消去分布の下側部分で終わることになる。適切な大きさをもつソフト書き込みパルスは、残りのメモリセルに書き込みを開始する前に、これらのセル群のVtを引き上げることになり、よって、消去分布を緊密化する。しかし、ソフト書き込みパルスが非常に強い場合、すべてのメモリセル群は、書き込みを始めることになり、緊密化効果が失われる。」

イ.刊行物に記載された発明
(ア)前記ア.1の「一実施形態では、第1の消去電圧を使用して、不揮発性記憶素子群に第1の消去を実行する。第1の消去後、不揮発性記憶素子群は、閾値電圧分布を有している。基準電圧は、閾値電圧分布の範囲内で決定する」との記載、後記(イ)の「第1の消去電圧(トライアル消去パルス)」から、「基準電圧を、第1の消去電圧(トライアル消去パルス)を使用して、不揮発性記憶素子群に第1の消去を実行した後の不揮発性記憶素子群の有している閾値電圧分布の範囲内で決定する」ことをよみとることができる。

(イ)前記ア.1の「第2の消去パルスの大きさは、トライアル消去パルスの大きさと、トライアル消去後の閾値電圧分布に関して収集されたデータに基づいて、適切に決定することができる・・・第2の消去電圧は、第1の消去電圧及び基準電圧に基づいて決定する」との記載、図8のステップ804に「第1(トライアル)消去」と記載されていることから「トライアル消去」と「第1消去」とは別名とみれる点、および前記(ア)での言及とから、「前記基準電圧と第1の消去電圧(トライアル消去パルス)に基づいて第2の消去電圧を決定する」ことをよみとることができる。

(ウ)前記ア.1の「第2の消去パルスは、メモリセル群の消去に使用される・・・第2の消去後は、ソフト書き込みを実行してもよい・・・ソフト書き込みを行う場合は、ソフト書き込みパルスの大きさを、トライアル消去パルスに基づいて決定することができる・・・消去パルスの数を制限することにより、時間及び電力を削減することができる・・・ソフト書き込みパルスの数を制限して、時間及び電力を節約することができる・・・第2の消去電圧を使用して、不揮発性記憶素子群に第2の消去を実行する・・・一実施形態では、ソフト書き込み電圧は、第2の消去電圧に基づいて決定することができる。ソフト書き込み電圧は、第2の消去後に不揮発性記憶素子群に印加される」との記載において、消去に係る部分と、書き込みに係る部分を区分けすることにより、前記ア.1の記載から「第2の消去パルスは、メモリセル群の消去に使用され、消去パルスの数を制限することにより、時間及び電力を削減することができ、第2の消去電圧を使用して、不揮発性記憶素子群に第2の消去を実行することができ、第2の消去後は、ソフト書き込みを実行してもよく、ソフト書き込みを行う場合は、ソフト書き込みパルスの大きさを、トライアル消去パルスに基づいて決定することができ、ソフト書き込みパルスの数を制限して、時間及び電力を節約することができ、一実施形態では、ソフト書き込み電圧は、第2の消去電圧に基づいて決定することができ、ソフト書き込み電圧は、第2の消去後に不揮発性記憶素子群に印加される」ことをよみとることができる。

(エ)前記ア.2の「メモリセルのアレイは、メモリセル群のM個のブロックに分割される・・・ブロックは消去の単位である・・・各ブロックは共に消去される最小数のメモリセルを含む。各ブロックは、通常、複数のページに分割される。ページは書き込みの単位である」との記載から、「ブロックは消去の単位であり、各ブロックは、複数のページに分割され、ページは書き込みの単位である」ことをよみとることができる。

(ア)?(エ)によれば、前記ア.1の「消去パルスの数を制限することにより、時間及び電力を削減することができ、・・・第2の消去パルスの大きさを適切に決定することにより、過消去の発生を、最小限に抑え、あるいは排除することができ、・・・ソフト書き込みパルスの数を制限して、時間及び電力を節約することができる」との記載からよみとれる「時間及び電力を削減ないし節約することができ、過消去の発生を最小限に抑える」ことを目的とした次の発明(以下、「引用発明」という。)が示されている。

「基準電圧を、第1の消去電圧(トライアル消去パルス)を使用して、不揮発性記憶素子群に第1の消去を実行した後の不揮発性記憶素子群の有している閾値電圧分布の範囲内で決定することと、
前記基準電圧と第1の消去電圧(トライアル消去パルス)に基づいて第2の消去電圧を決定することと、
第2の消去パルスは、メモリセル群の消去に使用され、消去パルスの数を制限することにより、時間及び電力を削減することができ、第2の消去電圧を使用して、不揮発性記憶素子群に第2の消去を実行することができ、第2の消去後は、ソフト書き込みを実行してもよく、ソフト書き込みを行う場合は、ソフト書き込みパルスの大きさを、トライアル消去パルスに基づいて決定することができ、ソフト書き込みパルスの数を制限して、時間及び電力を節約することができ、一実施形態では、ソフト書き込み電圧は、第2の消去電圧に基づいて決定することができ、ソフト書き込み電圧は、第2の消去後に不揮発性記憶素子群に印加されることと、
ブロックは消去の単位であり、各ブロックは、複数のページに分割され、ページは書き込みの単位であることと、を含む、
方法。」

(4)対比
本件補正後の請求項1に係る発明を、以下「補正発明1」という。
補正発明1と引用発明とを対比する。
(4.1)引用発明の「第1の消去電圧(トライアル消去パルス)」は補正発明1の「試験電圧パルス」に相当し、引用発明の「第1の消去を実行」する「不揮発性記憶素子群」は、「ブロックは消去の単位」であることから、補正発明1の「不揮発性メモリのブロック」に相当し、引用発明の「閾値電圧分布」は、「第1の消去を実行した」結果のものであるといえる。また、引用発明の「基準電圧」は電圧の尺度のものであり、補正発明1の「古さ」も古さにおける尺度とみれる。してみれば、引用発明の「基準電圧を、第1の消去電圧(トライアル消去パルス)を使用して、不揮発性記憶素子群に第1の消去を実行した後の不揮発性記憶素子群の有している閾値電圧分布の範囲内で決定すること」と補正発明1の「不揮発性メモリのブロックの古さを、前記ブロックに出力される試験電圧パルスの結果に少なくとも基づいて決定すること」とは、「不揮発性メモリのブロックの尺度を、前記ブロックに出力される試験電圧パルスの結果に少なくとも基づいて決定すること」で共通する。

(4.2)引用発明の「前記基準電圧と第1の消去電圧(トライアル消去パルス)に基づいて第2の消去電圧を決定すること」および「第2の消去パルスは、・・・消去パルスの数を制限する・・・第2の消去電圧を使用」することにおいて、当該「消去パルスの数」は補正発明1の「同一パルス列内の複数のパルスの数」に相当する。してみれば、引用発明の前記事項と補正発明1の「前記ブロックの前記古さに基づき、同一パルス列内の複数のパルスの電圧および数を決定すること」とは、後記のように「電圧および」の点で相違するものの、「前記ブロックの前記尺度に基づき、同一パルス列内の複数のパルスの数を決定すること」で共通する。

(4.3)引用発明の「ソフト書き込みを行う場合は、ソフト書き込みパルスの大きさを、トライアル消去パルスに基づいて決定することができ、ソフト書き込みパルスの数を制限して、時間及び電力を節約することができ、・・・ソフト書き込み電圧は、第2の消去後に不揮発性記憶素子群に印加されること」および「各ブロックは、複数のページに分割され、ページは書き込みの単位であること」とにおいて、当該「書き込み」は「プログラムする」ことであり、当該書き込みの単位である「ページ」は「ブロック」を複数分割したそのブロックの「少なくとも一部分」であることを意味することから、引用発明の前記事項と補正発明1の「前記ブロックの少なくとも一部分をプログラムするために、前記ブロックの少なくとも一部分に前記パルスを出力し」とに実質的な差異はない。また、引用発明の「第2の消去パルスは、メモリセル群の消去に使用され、消去パルスの数を制限することにより、時間及び電力を削減することができ、第2の消去電圧を使用して、不揮発性記憶素子群に第2の消去を実行することができ」および「ブロックは消去の単位であり」において、「消去パルス」は消去の単位に使用(出力)され、当該「消去の単位」である「ブロック」は「ブロックの全体」が消去の単位であることは自明である。この点をふまえれば、引用発明の前記事項と補正発明1の「前記ブロックを消去するために、前記ブロックの全体に前記パルスを出力すること」とに実質的な差異はない。

前記(4.1)-(4.3)の対比によれば、補正発明1と引用発明は、次の点で一致し、そして相違する。

〈一致点〉
「不揮発性メモリのブロックの尺度を、前記ブロックに出力される試験電圧パルスの結果に少なくとも基づいて決定することと、
前記ブロックの前記尺度に基づき、同一パルス列内の複数のパルスの数を決定することと、
前記ブロックの少なくとも一部分をプログラムするために、前記ブロックの少なくとも一部分に前記パルスを出力し、または、前記ブロックを消去するために、前記ブロックの全体に前記パルスを出力することと、を含む、
方法。」

〈相違点1〉
ブロックに出力される試験電圧パルスの結果に少なくとも基づいて決定する「尺度」が、補正発明1はブロックの「古さ」であるのに対し、引用発明は「基準電圧」である点。

〈相違点2〉
ブロックの尺度に基づき、同一パルス列内の複数のパルスの数を決定することに関し、補正発明1はブロックの「古さ」に基づき、同一パルス列内の複数のパルスの「電圧および」数を決定するのに対し、引用発明は「基準電圧」に基づき、同一パルス列内の複数のパルスの数を決定する点。

(5)判断
〈相違点2〉における同一パルス列内の複数のパルスの「電圧および」数を決定する点について
同一パルス列内の複数のパルスの「電圧および」数を決定することは本願出願前の慣用技術である(必要なら、特開2006-338863号【要約】及び図2参照)。そして、当該慣用技術は、不揮発性メモリにおけるプログラミング/消去に係るものであり、引用発明と共通する技術分野におけるものである。
してみれば、引用発明において、ブロックの尺度に基づき、同一パルス列内の複数のパルスの数を決定することに関し、同一パルス列内の複数のパルスの「電圧および」数を決定するとなすことは慣用技術を参酌することにより当業者が適宜になし得ることである。

〈相違点1〉及び〈相違点2〉におけるブロックの「古さ」の点について
引用発明の「基準電圧」に関し、段落【0093】?【0095】には、「ステップ812では、任意であるが、ソフト書き込み電圧が第2の消去電圧に基づいて決定される。メモリセル群を消去するために必要な電圧と、これらのメモリセル群に書き込みを行うため必要とされる電圧との間には、ブロックの使用サイクルに応じた相関が存在する。一例ではあるが、書き込み/消去のサイクルが多くなるのにつれて、消去はより困難になり、書き込みはより容易になる。そのことから、ブロックを過消去した消去電圧の値についての知見は、消去分布を緊密化するためのソフト書き込みパルスの値の正確な計算を可能にする。一例ではあるが、ソフト書き込み電圧は、以下の式に基づいて決定される。・・・【数3】Vsp=Vref-Ve2*K 式3・・・式3中、Ve2は、第2の消去電圧の絶対値である。パラメータVrefは、基準電圧であり、Kは定数である。Vref及びKの適当な値は、サンプル機で行われたテストに基づいて決定することができる。一実施形態では、ソフト書き込み電圧は、式3のような式を適用することにより決定される」と記載されているものの、前記「基準電圧」が「古さ」の尺度であることは記載されておらず、示唆されるものでもない。
また、他の文献等にも、ブロックに出力される試験電圧パルスの結果に少なくとも基づいて決定する「尺度」が、「古さ」であることを見いだすことはできない。

したがって、補正発明1は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

また、本件補正後の請求項1を直接的、間接的に引用する請求項2?請求項7に係る発明についても同様のことがいえる。
また、補正後請求項8、13に係る発明は、カテゴリが「システム」「コンピュータ可読媒体」に係る発明に係るが、補正発明1と同様の構成を有しており、補正発明1に関して言及したことと同様のことがいえるとともに、補正後請求項8を直接的、間接的に引用する請求項9?請求項12に係る発明、補正後請求項13を引用する請求項14に係る発明についても同様のことがいえる。

よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

3.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?14に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものである。

そして、本願請求項1?14に係る発明は、上記第2の2.のとおり、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-30 
出願番号 特願2015-504651(P2015-504651)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G11C)
P 1 8・ 573- WY (G11C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 滝谷 亮一  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 石井 茂和
高木 進
発明の名称 フラッシュメモリブロックの適応的なプログラミングまたは消去  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  

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