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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B64D
管理番号 1324231
審判番号 不服2015-21611  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-04 
確定日 2017-01-24 
事件の表示 特願2014-517046号「緊急視認装置を装備したグレアシールド」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月27日国際公開、WO2012/177538、平成26年 8月21日国内公表、特表2014-520038号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)6月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年6月22日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続きの経緯は以下のとおりである。
平成26年1月15日 :翻訳文提出
平成26年12月25日付け :拒絶理由の通知
平成27年3月27日 :意見書、手続補正書の提出
平成27年8月7日付け :拒絶査定
平成27年12月4日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成27年12月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年12月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成27年12月4日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正を含むものであって、請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。

(補正前の請求項1)
「操縦室内に配置され、緊急視認装置を装備したグレアシールドであって:
a)前記グレアシールド内に嵌め込まれたコンパートメント;
b)前記コンパートメント内の送風機;
c)気密性材料から形成され、展開時は拡張形態で、非使用時は収縮形態である膨張式第1筺体であって、前記収縮形態時の前記第1筺体は前記コンパートメント内に保管されている第1筺体;
d)前記筺体のそれぞれ第1及び第2端部に配置され、煙又は他の粒状物質が周囲にあるときに使用者が拡張時の前記第1筺体を介して視認し、前記第1筺体の遠位端にある情報源を観測することを可能にする第1及び第2クリア部材;
e)前記送風機と操作可能に接続し、前記第1筺体を展開すべきときに前記送風機を作動し、それにより前記第1筺体を前記拡張形態へと膨張させるスイッチ;
f)前記送風機と前記第1筺体を接続する管状空気通路:
を備えるグレアシールド。」

(補正後の請求項1)
「操縦室内に配置され、緊急視認装置を装備したグレアシールドであって:
a)前記グレアシールド内に嵌め込まれたコンパートメント;
b)前記コンパートメント内の送風機;
c)気密性材料から形成され、展開時は拡張形態で、非使用時は収縮形態である膨張式第1筺体であって、前記収縮形態時の前記第1筺体は前記コンパートメント内に保管されている第1筺体;
d)前記筺体のそれぞれ第1及び第2端部に配置され、煙又は他の粒状物質が周囲にあるときに使用者が拡張時の前記第1筺体を介して視認し、前記第1筺体の遠位端にある情報源を観測することを可能にする第1及び第2クリア部材;
e)前記送風機と操作可能に接続し、前記第1筺体を展開すべきときに前記送風機を作動し、それにより前記第1筺体を前記拡張形態へと膨張させるスイッチ;
f)前記送風機と前記第1筺体を第1及び第2区分を介して接続する管状空気通路:
を備えるグレアシールド。」

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無、シフト補正の有無、及び補正の目的の適否について
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「管状空気通路」について、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の【請求項12】の記載を根拠に、「(前記送風機と前記第1筺体を)第1及び第2区分を介して接続する」構成であることを限定するものであり、補正前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であって、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとともに、特許法第17条の2第3項に適合するものである。
また、上記補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものである。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

(2)独立特許要件
ア 刊行物の記載事項
(ア)刊行物1の記載事項及び刊行物発明
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示された特表平2-504250号公報(以下「刊行物1」という。)には、「操縦ステーション緊急視界保証方法および装置」に関し、以下の事項が記載されている(下線部は当審で付与した。以下同様。)。

(1a)第8頁左上欄12行目から同頁同欄17行目
「この発明は、激しい煙および/または粒子物質が、視覚情報源と操縦者との間の空間内および/またはその方向に累進的に侵入するような緊急状態において、操縦者に対して操縦上必要な視覚情報を実質的に中断することなく提供する操縦ステーション緊急視界保証システムに関する。」
(1b)第11頁左下欄5行目から同頁同欄6行目
「第1図は、この発明を利用する航空機のコクピットCの概略図である。」
(1c)第11頁右下欄4行目から同頁同欄9行目
「フード4が位置決めされるのと同時あるいはほぼ同時に、透明で膨張可能な視界保証ユニット8が、グレアシールドGの保管室10から自動的に展開および膨張されるか、あるいはパイロットが保管室10を手で開放し、透明で膨張可能な視界保証ユニット8が清浄な膨張ガスの供給源に連結されて、ユニット8が膨張される。」
(1d)第11頁右下欄10行目から第12頁左上欄9行目
「保管室10内には視界保証ユニット8に加えて、ヘッドアップ表示ユニット(通常、HUDと呼ばれる)が取付けられ、そこには通常の方法で、最少の補助操縦インジケータ、たとえば、a)回転/バンクインジケータ;b)高度計;およびc)ピッチおよびヨーインジケータ、が電子表示され得る。このHUDは、保管室10から視界保証ユニット8と共に自動または手動により展開されるように形成でき、あるいは保管室10に剛性をもって取付けられて、ユニット8の保管および展開状態の両方において、そこから起立するようにすることができる。後者の場合、視界保証ユニット8の保管状態においては、視界保証ユニット8の膜体の上部の内面の小部分が、直立状HUD12を緊密に包囲している。したがって、HUD12が保管位置において固定直立位置に取付けられるか、あるいは視界保証ユニット8と共に保管室10からポップアップ展開を行なうように取付けられるかにかかわらず、HUDは、前記視界保証ユニット8の保管および展開の両位置において、煙および/または粒子物質からなる緊急状態から、視界保証ユニット8内に完全に封入されると共に、それにより保護されている。」
(1e)第12頁左上欄10行目から同頁右上欄5行目
「この発明において、静圧ガス不透過性透明フィルム、またはガスの低漏出を許容する圧力強制システムが、清浄な非汚染ガスを包含する視界保証ユニットを構成するために利用される。消火能力を有するハロン、CO_(2)、または他のガスが利用できる。これらのフィルムは広範な材料、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン・テレフタレート、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、弗素重合体およびポリイミドのようなポリマーフィルムとすることができる。実質的に光学的に透明で、かつ湾曲していないフィルムが利用されなければならない。さらに、利用される材料は強力で耐久性を有し、しかも折りたたみ可能であり、クラックを生じることなくしわを発生させず、折りたたみおよびコンパクトな保管のために薄肉であり、かつ容易な取扱いのために軽量であり、かつ航空機に対して実質的な重量を付加するものではならない。」
(1f)第12頁右下欄3行目から同頁同欄12行目
「第2図は、完全に展開された第1図の緊急視界保証ユニット8を示している。視界保証ユニット8は視界保証フード4に対して、緊密な密閉接触状態にあり、この2つのユニットは共働して煙および/または粒子物質を、風防WおよびHUDユニット12へ、およびそれを通すパイロットの視覚経路VV′-VV′から先取りおよび/または排除して、フードユニット4とグレアシールドユニットGとが、パイロットと、操縦のために必要な緊急視覚情報源との間の、この発明における保証された明瞭な視覚経路を形成するようになっている。」

以上の記載事項から次の事項が認定できる。
(1g)上記(1b)には、「第1図は、この発明を利用する航空機のコクピットCの概略図である。」と記載され、上記(1c)には、「グレアシールドG」と記載されており、併せて第1図を参照すると、グレアシールドGは航空機のコックピットC内に配置されていると認められる。
(1h)上記(1c)には、「フード4が位置決めされるのと同時あるいはほぼ同時に、透明で膨張可能な視界保証ユニット8が、グレアシールドGの保管室10から自動的に展開および膨張される」と記載されており、併せて第1、2図を参照すると、グレアシールドGは視界保証ユニット8を装備しているものと認められる。
(1i)上記(1c)には、「透明で膨張可能な視界保証ユニット8が、グレアシールドGの保管室10から自動的に展開および膨張される」と記載されており、併せて第1、2図を参照すると、視界保証ユニット8は、展開時は膨張形態をとるものと認められる。
(1j)上記(1d)には、「ユニット8の保管」と記載され、上記(1e)には、「折りたたみおよびコンパクトな保管」と記載されており、併せて第1図を参照すると、視界保証ユニット8は、保管時は折りたたみ形態をとるものと認められる。そして、上記(1c)には、「透明で膨張可能な視界保証ユニット8が、グレアシールドGの保管室10から自動的に展開および膨張される」と記載されていることから、折りたたみ時(保管時)の視界保証ユニット8は保管室10内に保管されているものと認められる。

これらの記載事項(1a)?(1f)、認定事項(1g)?(1j)及び図面内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「刊行物1発明」という。)。
「航空機のコックピットC内に配置され、視界保証ユニット8を装備したグレアシールドGであって:
前記グレアシールドGの保管室10;
静圧ガス不透過性フィルムから構成され、展開時は膨張形態で、保管時は折りたたみ形態である視界保証ユニット8であって、前記折りたたみ形態時の前記視界保証ユニット8は前記保管室10内に保管されている視界保証ユニット8を備え、
前記視界保証ユニット8は、透明であり、かつ、完全に展開されると、視界保証フード4に対して緊密な密閉接触状態になり、煙および/または粒子物質を、風防Wへのパイロットの視覚経路VV′-VV′から排除して、パイロットと操縦のために必要な緊急視覚情報源との間の明瞭な視覚経路を形成する、
グレアシールドG。」

(イ)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献2として示された米国特許第5947415号公報(以下「刊行物2」という。)には、「EMERGENCY VISION DEVICE(緊急視界装置)」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている(下線部は当審で付与した。以下同様。)。

(2a)第2欄35行目から同欄39行目(当該箇所の当審仮訳も合わせて掲載する。以下同様。)
「An emergency vision device R made in accordance with the present invention is disclosed in FIG. 1, as deployed in an aircraft cockpit during a smoke emergency. The device R includes an inflatable enclosure 4 connected to a power unit 6 with a hose 8, as best shown in FIG. 1.」
「図1で示されているのは、当発明に沿って製造された緊急視界装置Rが航空機のコクピット内に配備されているところである。装置Rはホース8で電源箱6に接続された空気注入式筐体4を含んでおり、図1で最もよく示されている。」
(2b)第2欄49行目から同欄61行目
「The emergency vision device R is contained in a housing 20 when it is stored and not in use. The housing 20 has a removable cover 22 for access into the inflatable enclosure 4 stowed within. A test switch 24, which is accessible from the outside of the housing 20, is provided for testing the operation of a blower 26 disposed within the housing 20. Another test switch 28, also accessible from outside the housing 20, is provided as a means for testing the condition of a battery 30 disposed within the housing 20. A green indicator light 32, an orange indicator light 34 and a red indicator light 36 provide indication to the user when the test switch 28 is depressed if the battery 30 is in good condition, needs to be replaced, or inoperative, respectively.」
「未使用時、緊急視界装置Rはハウジング20内に格納されている。ハウジング20は取り外し可能なカバー22を有し、内部の空気注入式筐体4を取り出せるようになっている。ハウジング20の外から操作可能なテストスイッチ24は、ハウジング20内の送風装置26の作動テストのためのものである。同様にハウジング20外部から操作可能なテストスイッチ28は、ハウジング20内のバッテリー30の状態テスト用である。緑の表示灯32、オレンジの表示灯34及び赤の表示灯36は、バッテリー30がそれぞれ良好、要交換、動作不能な時のテストスイッチ28が押された際のバッテリー状態を示す。」
(2c)第3欄21行目から同欄29行目
「The hose 8 is advantageously flexible in order to fit within the housing 20 in a compact manner without collapsing, as best shown in FIG. 5. The hose 8 is made from a thin plastic material supported on its outside surface by a plastic spiral wire 56, such that the hose 8 can be compressed longitudinally and bent on a radius without collapsing. Rotatable connectors 58 and 60 connect the hose 8 to the blower 26 and the inflatable enclosure 4, respectively, as best shown in FIG. 5.」
「図5に示すようにホース8は、ハウジング20内に潰れることなくコンパクトに収納されるよう柔軟性がある。ホース8はプラスチック製のスパイラルワイヤー56で覆われた薄いプラスチック素材でできており、崩れることなく縦方向に圧縮され半径上に曲げられるようになっている。図5に示される通り、送風装置26と空気注入式筐体4は回転コネクタ58及び60でそれぞれホース8に接続されている。」
(2d)第3欄38行目から同欄48行目
「A longitudinal plastic member 62 has one end operably secured to the hose 8 and another end operably engaged with a microswitch 64 such that when the inflatable enclosure 4 is withdrawn from the housing 2, the member 62 is disengaged from the micro switch 64, causing the motor 52 to be energized and the blower 26 to operate, as best shown in FIGS. 5 and 6. Filtered air is then introduced into the inflatable enclosure 4, thereby inflating the enclosure. A bypass switch 66 maybe used by the operator to turn off the blower 26, as appropriate, such as when the emergency is over.」
「図5、6に示されるように、縦のプラスチック部品62の一方の端はホース8に固定され他方はマイクロスイッチ64に接続されており、図5、6に示されている通り、空気注入式筐体4がハウジング2から引き出された際、部品62はマイクロスイッチ64から切り離され、モーター52を発動し送風装置26を駆動させる。そして濾過空気が取り込まれることにより、筐体4が膨らむ。バイパススイッチ66は、緊急時が終了したような際、操作者により適宜送風装置26を落とすために用いられる。」

イ 発明の対比
(ア)本願補正発明と刊行物1発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、刊行物1発明の「航空機のコックピットC」は本願補正発明の「操縦室」に相当し、以下同様に、「グレアシールドG」は「グレアシールド」に、「保管室10」は「コンパートメント」に、「視界保証ユニット8」は「第1筺体」に、それぞれ相当する。
(イ)刊行物1発明の「視界保証ユニット8」は、刊行物1(上記ア(ア)(1a))に記載の「操縦ステーション緊急視界保証システム」の一部であり、当該「操縦ステーション緊急視界保証システム」は本願補正発明の「緊急視認装置」に相当する。したがって、刊行物1発明の「視界保証ユニット8を装備したグレアシールドG」は、本願補正発明の「緊急視認装置を装備したグレアシールド」に相当する。
(ウ)刊行物1発明の「前記グレアシールドGの保管室10」と本願補正発明の「前記グレアシールド内に嵌め込まれたコンパートメント」は、「前記グレアシールドのコンパートメント」という限度で一致する。
(エ)刊行物1発明の「静圧ガス不透過性フィルム」は本願補正発明の「気密性材料」に相当し、以下同様に、「膨張形態」は「拡張形態」に、「保管時」は「非使用時」に、「折りたたみ形態」は「収縮形態」に、それぞれ相当する。
また、上記(ウ)で述べたとおり、刊行物1発明の「前記保管室10(前記グレアシールドGの保管室10)」と本願補正発明の「前記コンパートメント(前記グレアシールド内に嵌め込まれたコンパートメント)」は、「前記グレアシールドのコンパートメント」という限度で一致する。
したがって、刊行物1発明の「静圧ガス不透過性フィルムから構成され、展開時は膨張形態で、保管時は折りたたみ形態である視界保証ユニット8であって、前記折りたたみ形態時の前記視界保証ユニット8は前記保管室10内に保管されている視界保証ユニット8」と刊行物1発明の「気密性材料から形成され、展開時は拡張形態で、非使用時は収縮形態である膨張式第1筺体であって、前記収縮形態時の前記第1筺体は前記コンパートメント内に保管されている第1筺体」は、「気密性材料から形成され、展開時は拡張形態で、非使用時は収縮形態である膨張式第1筺体であって、前記収縮形態時の前記第1筺体は前記コンパートメント内に保管されている第1筺体」という限度で一致する。
(オ)刊行物1発明の「視界保証ユニット8」は、「透明であり、かつ、完全に展開されると、視界保証フード4に対して緊密な密閉接触状態になり、煙および/または粒子物質を、風防Wへのパイロットの視覚経路VV′-VV′から排除して、パイロットと操縦のために必要な緊急視覚情報源との間の明瞭な視覚経路を形成する」ものであり、併せて第2図も参照すると、視界保証ユニット8の風防W側の端部及び視界保証ユニット8の視界保証フード4側の端部は透明になっているものであるから、本願補正発明の第1及び第2クリア部材に相当する部材が当該両端部に配置されているものといえる。
そして、上記「視界保証ユニット8の風防W側の端部」、「視界保証ユニット8の視界保証フード4側の端部」は、本願補正発明の「第1筐体の第1端部」、「第1筐体の第2端部」に、それぞれ相当する。
したがって、刊行物1発明の「前記視界保証ユニット8は、透明であり、かつ、完全に展開されると、視界保証フード4に対して緊密な密閉接触状態になり、煙および/または粒子物質を、風防Wへのパイロットの視覚経路VV′-VV′から排除して、パイロットと操縦のために必要な緊急視覚情報源との間の明瞭な視覚経路を形成する」は、本願補正発明の「前記筺体のそれぞれ第1及び第2端部に配置され、煙又は他の粒状物質が周囲にあるときに使用者が拡張時の前記第1筺体を介して視認し、前記第1筺体の遠位端にある情報源を観測することを可能にする第1及び第2クリア部材(を備える)」に相当する。

したがって、本願補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「操縦室内に配置され、緊急視認装置を装備したグレアシールドであって:
a)前記グレアシールドのコンパートメント;
c)気密性材料から形成され、展開時は拡張形態で、非使用時は収縮形態である膨張式第1筺体であって、前記収縮形態時の前記第1筺体は前記コンパートメント内に保管されている第1筺体;
d)前記筺体のそれぞれ第1及び第2端部に配置され、煙又は他の粒状物質が周囲にあるときに使用者が拡張時の前記第1筺体を介して視認し、前記第1筺体の遠位端にある情報源を観測することを可能にする第1及び第2クリア部材;
を備えるグレアシールド。」

そして、本願補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で相違している。
<相違点1>
「コンパートメント」に関し、本願補正発明では、「前記グレアシールド内に嵌め込まれたコンパートメント」であるに対し、
刊行物1発明では、「前記グレアシールドGの保管室10」である点。

<相違点2>
本願補正発明では、「前記コンパートメント内の送風機」と、「前記送風機と操作可能に接続し、前記第1筺体を展開すべきときに前記送風機を作動し、それにより前記第1筺体を前記拡張形態へと膨張させるスイッチ」と、「前記送風機と前記第1筺体を第1及び第2区分を介して接続する管状空気通路」とを備えるのに対し、
刊行物1発明では、そのように特定されていない点。

ウ 相違点の検討
(ア)相違点1について
刊行物1の第1図を参照すると、保管室10はグレアシールドG内に配置されていると見てとれるので、保管室10はグレアシールドG内に嵌め込まれているものと認められる。
したがって、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項は、実質的な相違点ではない。
なお、仮に、保管室10がグレアシールドG内に嵌め込まれているものと認定し得ないとしても、刊行物1発明において、通常時及び緊急時(火災発生時)の双方において、より良好なパイロットの視界を確保すべく、保管室10がパイロットの視界を遮ることがないように、保管室10をグレアシールドG内に嵌め込むことは、当業者にとって格別の困難性を要するものではない。

(イ)相違点2について
上記ア(イ)(2a)?(2d)及び刊行物2に記載の図面内容を総合すると、刊行物2には、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「刊行物2に記載の技術的事項」という。)。
「ハウジング20内の送風装置26と、空気注入式筐体4がハウジング20から引き出された際に送風装置26を駆動し、それにより空気注入式筐体4を膨らませるマイクロスイッチ64と、を備え、送風装置26と空気注入式筐体4を、回転コネクタ58、ホース8及び回転コネクタ60で接続する、緊急視界装置R。」

(1a)刊行物1発明と刊行物2に記載の技術的事項とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、刊行物2に記載の技術的事項の「ハウジング20」は本願補正発明の「コンパートメント」の限度で相当し、以下同様に、「送風装置26」は「送風機」に、「空気注入式筐体4」は「第1筺体」に、「マイクロスイッチ64」は「スイッチ」に、それぞれ相当する。
(1b)刊行物2に記載の技術的事項の「マイクロスイッチ64」は、空気注入式筐体4がハウジング20から引き出された際に送風装置26を駆動するものであるから、送風装置26と操作可能に接続しているものと認められる。また、刊行物2に記載の技術的事項の「空気注入式筐体4がハウジング20から引き出された際」は、本願補正発明の「前記第1筺体を展開すべきとき」に相当する。
したがって、刊行物2に記載の技術的事項の「空気注入式筐体4がハウジング20から引き出された際に送風装置26を駆動し、それにより空気注入式筐体4を膨らませるマイクロスイッチ64」は、本願補正発明の「前記送風機と操作可能に接続し、前記第1筺体を展開すべきときに前記送風機を作動し、それにより前記第1筺体を前記拡張形態へと膨張させるスイッチ」に相当する。
(1c)刊行物2に記載の技術的事項の「回転コネクタ58、ホース8及び回転コネクタ60」は、上記ア(イ)(2d)の「図5、6に示されている通り、空気注入式筐体4がハウジング2から引き出された際、部品62はマイクロスイッチ64から切り離され、モーター52を発動し送風装置26を駆動させる。そして濾過空気が取り込まれることにより、筐体4が膨らむ。」との記載及び図3、5、6を併せて参照すると、送風装置26からの濾過空気を空気注入式筐体4に供給する通路を形成していると認められるので、本願補正発明の「管状空気通路」に相当する。そして、刊行物2に記載の技術的事項の「回転コネクタ58、ホース8及び回転コネクタ60」のうちの「回転コネクタ58」、又は、「回転コネクタ58」と「ホース8」は、本願補正発明の「第1区分」に相当し、「ホース8及び回転コネクタ60」、又は、「回転コネクタ60」は、本願補正発明の「第2区分」に相当する。
したがって、刊行物2に記載の技術的事項の「送風装置26と空気注入式筐体4を、回転コネクタ58、ホース8及び回転コネクタ60で接続する」は、本願補正発明の「前記送風機と前記第1筺体を第1及び第2区分を介して接続する管状空気通路(を備える)」に相当する。

以上から、刊行物2には、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項と同様な事項が記載されていると認められる。

ここで、刊行物1発明と刊行物2に記載の技術的事項は、ともに、火災発生時において、透明な筐体を拡張形態へと膨張させることで、煙および/または粒子物質を、風防へのパイロットの視覚経路から排除して、パイロットと操縦のために必要な緊急視覚情報源との間の明瞭な視覚経路を形成するという点で機能が共通するものであるから、刊行物2に記載の記載の技術的事項を、刊行物1発明に適用する動機付けは十分にあるといえる。
してみれば、刊行物2に記載の技術的事項を、刊行物1発明に適用し、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者にとって格別の困難性を要するものではない。

(ウ)そして、本願補正発明の奏する作用効果は、刊行物1発明、刊行物2に記載の技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。

エ まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物1発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成27年3月27日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、かかる請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1(補正前の請求項1)」に記載されたとおりのものである。

第4 引用刊行物とその記載事項等
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及び2、その記載事項及び刊行物1に記載された発明は、上記「第2 2(2)ア」に記載したとおりである。

第5 当審の判断
本願発明は、本願補正発明から、上記「第2 2(1)」で述べたとおりの限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2(2)ウ、エ」で述べたとおり、刊行物1発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、刊行物1発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-25 
結審通知日 2016-08-26 
審決日 2016-09-12 
出願番号 特願2014-517046(P2014-517046)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B64D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒田 暁子  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 森林 宏和
島田 信一
発明の名称 緊急視認装置を装備したグレアシールド  
代理人 小倉 正明  
代理人 小倉 正明  
代理人 小倉 正明  

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