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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1324373
審判番号 不服2016-1175  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-27 
確定日 2017-01-25 
事件の表示 特願2012-520978「還元剤を供給するための注入ノズルおよび排気ガスを処理するための装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月27日国際公開、WO2011/009685、平成24年12月27日国内公表、特表2012-533704〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年6月22日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2009年7月22日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成24年1月17日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成24年3月19日に特許法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の日本語による翻訳文が提出され、平成26年6月2日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成26年9月10日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年2月10日付けで最後の拒絶理由が通知されたのに対し、平成27年4月30日に意見書が提出されたが、平成27年9月16日付けで拒絶査定がされ、平成28年1月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成28年3月9日に審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 平成28年1月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年1月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
(1)本件補正の内容
平成28年1月27日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正前の(すなわち、出願当初の)特許請求の範囲の請求項1の下記(ア)の記載を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の下記(イ)の記載へと補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
複数の出口開口部(4、5)を有する、還元剤(2)を排気ガスシステム(3)に供給するための注入ノズル(1)であって、前記出口開口部(4、5)によって、各々の場合、前記還元剤(2)の異なる液滴(6、7)が生成され得る、前記出口開口部(4、5)が設けられ、
前記出口開口部(4、5)は、前記還元剤の流れ方向において、異なる幅広状または先細状の断面を有する、注入ノズル(1)。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
複数の出口開口部(4、5)を有する、還元剤(2)を排気ガスシステム(3)に供給するための注入ノズル(1)であって、前記出口開口部(4、5)によって、各々の場合、前記還元剤(2)の異なる液滴(6、7)が生成され得る、前記出口開口部(4、5)が設けられ、
前記出口開口部(4、5)は、前記還元剤の流れ方向において、異なる幅広状または先細状の断面(8、9)を有し、
一方の前記出口開口部(4)の前記断面(8)の底面と高さとの比は、他方の前記出口開口部(5)の前記断面(9)の底面と高さとの比と異なる、注入ノズル(1)。」
(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「出口開口部」について、本件補正前の「前記出口開口部(4、5)は、前記還元剤の流れ方向において、異なる幅広状または先細状の断面を有する」を「前記出口開口部(4、5)は、前記還元剤の流れ方向において、異なる幅広状または先細状の断面(8、9)を有し、 一方の前記出口開口部(4)の前記断面(8)の底面と高さとの比は、他方の前記出口開口部(5)の前記断面(9)の底面と高さとの比と異なる」と限定することにより、請求項1に記載される発明を限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2 独立特許要件についての判断
本件補正における特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2-1 引用文献
(1)引用文献の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2008-151087号公報(以下、「引用文献」という。)には、「排気浄化装置」に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。

(ア)「【要約】
【課題】排気通路の通路壁に設けた添加剤噴射弁から噴射される添加剤噴霧が、噴射弁が設けられた側の反対側の排気通路領域まで確実に到達可能な排気浄化装置を提供する。
【解決手段】エンジンの排気管12には触媒が設けられるとともに、その触媒に対して尿素水溶液を噴射する添加剤噴射弁16が設けられている。かかる構成において、触媒の上流側にて排気管12内の排気中へ添加剤噴射弁16により尿素水溶液を噴射供給する際、噴霧到達距離が小さい第1噴霧311と、第1噴霧311の噴霧到達距離よりも大きい第2噴霧321とを、噴射弁16より噴射可能とした。」(第1ページ【要約】)

(イ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路の通路壁に設けられ、この排気通路内へ添加剤を噴射する添加剤噴射弁と、
該添加剤噴射弁の排気下流側に設けられ、少なくとも前記添加剤に基づく特定の排気浄化反応を促進する触媒とを備え、
前記触媒の上流側にて浄化対象とする排気の中へ前記添加剤噴射弁により添加剤を噴射供給し、排気流を利用してその排気共々前記添加剤を下流の前記触媒へ供給するとともに、該触媒上で前記排気浄化反応を行うことによってその排気を浄化する排気浄化装置において、
前記添加剤噴射弁は、
前記排気通路内へ所定の噴霧到達距離にて第1噴霧を噴射する第1噴霧噴射部と、
前記第1噴霧の前記所定の噴霧到達距離よりも大きな到達距離にて、前記排気通路内へ第2噴霧を噴射する第2噴霧噴射部と
を備えることを特徴とする排気浄化装置。
【請求項2】
前記第2噴霧噴射部は、前記第1噴霧噴射部よりも、前記排気流の流れ方向において上流側に位置し、前記第1噴霧と前記第2噴霧の前記排気通路内への噴射方向は同一方向であることを特徴とする請求項1記載の排気浄化装置。
【請求項3】
前記第2噴霧噴射部は、前記第1噴霧噴射部よりも、前記排気流の流れ方向において上流側に位置し、前記第2噴霧の前記排気通路内への噴射方向は、前記第1噴霧の噴射方向に比べ、排気上流側に向くよう設定されることを特徴とする請求項1記載の排気浄化装置。
【請求項4】
前記第2噴霧の前記排気通路内への噴射方向は、前記排気流に直交する方向よりも排気上流側へ向くよう設定されることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の排気浄化装置。
【請求項5】
前記添加剤噴射弁は、前記排気通路内へ前記添加剤を噴射する出口開口部を備え、
この出口開口部には、前記第1の噴霧を形成する前記第1噴霧噴射部としての第1噴孔と、前記第1噴孔よりも噴孔径が大きく、前記第2噴霧を形成する前記第2噴霧噴射部としての第2噴孔とが設けられることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の排気浄化装置。
【請求項6】
前記添加剤噴射弁は、前記出口開口部に板状部材を備えており、
前記板状部材に前記第1噴孔と前記第2噴孔とが形成されていることを特徴とする請求項5記載の排気浄化装置。
【請求項7】
前記添加剤噴射弁は、
前記排気通路内へ前記添加剤を噴射する出口開口部と、
この出口開口部には設けられ、前記第1の噴霧を形成する前記第1噴霧噴射部としての第1噴孔と、前記第1噴孔よりも噴孔径が大きく、前記第2噴霧を形成する前記第2噴霧噴射部としての第2噴孔とを形成する板状部材とを備え、
前記第1噴孔と前記第2噴孔とは、前記板状部材に対して、垂直に形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の排気浄化装置。
【請求項8】
前記添加剤噴射弁は、
前記排気通路内へ前記添加剤を噴射する出口開口部と、
この出口開口部には設けられ、前記第1の噴霧を形成する前記第1噴霧噴射部としての第1噴孔と、前記第1噴孔よりも噴孔径が大きく、前記第2噴霧を形成する前記第2噴霧噴射部としての第2噴孔とを形成する板状部材とを備え、
前記第1噴孔と前記第2噴孔とは、前記板状部材に対して、互いに異なる方向にて形成されることを特徴とする請求項1、3、4のいずれか一項に記載の排気浄化装置。
【請求項9】
前記添加剤噴射弁は、その軸心が、前記排気流に直交する方向に向くよう前記排気通路壁に設けられることを特徴とする請求項1?8のいずれか一項に記載の排気浄化装置。
【請求項10】
前記添加剤噴射弁は、その軸心が、前記排気流に直交する方向よりも排気下流側に向くよう前記排気通路壁に設けられることを特徴とする請求項1?8のいずれか一項に記載の排気浄化装置。
【請求項11】
前記添加剤噴射弁は、その軸心が、前記排気流に直交する方向よりも排気上流側に向くよう前記排気通路壁に設けられることを特徴とする請求項1?8のいずれか一項に記載の排気浄化装置。
【請求項12】
排気通路の通路壁に設けられ、この排気通路内へ添加剤を噴射する添加剤噴射弁と、
該添加剤噴射弁の排気下流側に設けられ、少なくとも前記添加剤に基づく特定の排気浄化反応を促進する触媒とを備え、
前記触媒の上流側にて浄化対象とする排気の中へ前記添加剤噴射弁により添加剤を噴射供給し、排気流を利用してその排気共々前記添加剤を下流の前記触媒へ供給するとともに、該触媒上で前記排気浄化反応を行うことによってその排気を浄化する排気浄化装置において、
前記添加剤噴射弁は、
前記排気通路内へ前記添加剤を噴射する出口開口部と、
この出口開口部に設けられる第1噴孔と、前記第1噴孔よりも噴孔径が大きい第2噴孔とを備えることを特徴とする排気浄化装置。
【請求項13】
前記第1噴孔と前記第2噴孔とは、前記出口開口部に設けられる板状部材に形成されることを特徴とする請求項12記載の排気浄化装置。
【請求項14】
前記第1噴孔は、前記排気通路内へ所定の噴霧到達距離にて第1噴霧を形成し、前記第2噴孔は、前記第1噴霧の前記所定の噴射到達距離よりも大きな到達距離の第2噴霧を形成するものであり、
前記第2噴孔は、前記第1噴孔よりも、前記排気流の排気上流側に位置するよう前記出口開口部に設けられることを特徴とする請求項12または13に記載の排気浄化装置。
【請求項15】
排気通路の通路壁に設けられ、この排気通路内へ添加剤を噴射する添加剤噴射手段と、
該添加剤噴射手段の排気下流側に設けられ、少なくとも前記添加剤に基づく特定の排気浄化反応を促進する触媒とを備え、
前記触媒の上流側にて浄化対象とする排気の中へ前記添加剤噴射手段により添加剤を噴射供給し、排気流を利用してその排気共々前記添加剤を下流の前記触媒へ供給するとともに、該触媒上で前記排気浄化反応を行うことによってその排気を浄化する排気浄化装置において、
前記添加剤噴射手段は、
前記排気通路の前記通路壁に設けられ、前記排気通路内へ所定の噴霧到達距離にて第1噴霧を噴射する第1添加剤噴射弁と、
前記第1添加剤噴射弁とは別個に、前記排気通路の前記通路壁に設けられ、前記第1噴霧の前記所定の噴霧到達距離よりも大きな到達距離にて、前記排気通路内へ第2噴霧を噴射する第2添加剤噴射弁と
を備えることを特徴とする排気浄化装置。
【請求項16】
前記第2添加剤噴射弁は、前記第1添加剤噴射弁よりも、前記排気流の排気上流側で、前記排気通路の前記通路壁に設けられることを特徴する請求項15記載の排気浄化装置。
【請求項17】
前記添加剤は尿素水溶液であり、前記触媒は、該尿素水溶液の加水分解により生成されるアンモニアを通じてNOx(窒素酸化物)を還元するNOx還元反応を前記排気浄化反応として促進するものである請求項1?16のいずれか一項に記載の排気浄化装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項17】)

(ウ)「【0001】
本発明は、尿素SCR(選択還元)システムに代表されるような、所定の添加剤に基づく排気浄化反応を触媒上で行うことによって排気を浄化する排気浄化装置に関し、詳しくは添加剤噴射弁から噴射される尿素水溶液等の添加剤に基づく排気浄化反応を触媒を通じて促進しつつ、その排気浄化反応によって排気を浄化する排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発電所、各種工場、及び自動車(特にディーゼルエンジン搭載の自動車)等に適用されて、排気中のNOx(窒素酸化物)を高い浄化率で浄化する排気浄化装置として、尿素SCR(選択還元)システムの開発が進められており、一部実用化に至っている。そして、この尿素SCRシステムとしては従来、例えば特許文献1に記載される装置(システム)が知られている。以下、図14を参照して、この特許文献1に記載の装置をはじめ、従来一般の尿素SCRシステムに採用されている構成の一例についてその概略を説明する。
【0003】
同図14に示されるように、この装置(システム)は、大きくは、排気浄化反応を促進する触媒51と、排気発生源(例えばエンジン)から排出される排気を触媒51へ導く排気管52と、この排気管52の中途に設けられ、同排気管52内を流れる排気に対して尿素水溶液(添加剤)を噴射供給する添加剤噴射弁53とを有して構成されている。ここで、触媒51は、NOxの還元反応(排気浄化反応)を促進するものである。
【0004】
こうした構成のもと、この装置では、排気管52内を流れる排気中へ添加剤噴射弁53により尿素水溶液を噴射供給し、排気の流れ(排気流)を利用してその排気共々尿素水溶液を下流の触媒51へ供給するとともに、該触媒51上でNOxの還元反応を行うことによってその排気を浄化する。NOxの還元に際しては、尿素水溶液が排気熱で加水分解されることによりアンモニア(NH_(3))が生成され、触媒51にて、排気中のNOxが上記アンモニアに基づく還元反応が行われることによって、還元、浄化されることになる。
【0005】
なお、図14に示したような、添加剤噴射弁53を、排気管52に設けた、すなわち排気通路の通路壁に設けたものとして、特許文献2が挙げられる。この特許文献2においては、図14と同様、触媒へ尿素水溶液を供給するために、尿素添加弁を、その出口開口が触媒に向け、排気管に対して傾けて配設する構成が開示されている。
【特許文献1】特開2003-293739号公報
【特許文献2】特表2001-516635号公報」(段落【0001】ないし【0005】)

(エ)「【0006】
ところで、こうした尿素SCR(選択還元)システムでは一般に、尿素水溶液の加水分解により生成されるアンモニアガスが、触媒51にて排気を十分に浄化するためには、そのアンモニアガスが、触媒51の上流側端面全域に分布することが望ましい。こうすれば、触媒51全域でNOxを還元、浄化できるからである。そして、アンモニアガスを触媒51の上流側端面全体に、なるべく分布させるためには、添加剤噴射弁53から排気通路内に噴射される添加剤(尿素水溶液)が、排気通路の通路断面の全域に極力分布されることが望まれる。
【0007】
特に、直管状の排気通路である排気管52に、添加剤噴射弁53を装着した場合、図15にて示すように、噴射直後の噴霧は、エンジンからの排気にその大半が流されてしまい、噴射弁53の排気管52の装着位置とは反対側の通路部分60まで到達しない場合がある。そうすると、尿素水溶液の加水分解により生成されるアンモニアガスが、触媒51の上流側端面の一部にしか到達しないことになる。そのため、触媒51の上流側端面で、アンモニアガスが流入しない部分においては触媒として機能しない。これでは、触媒51全体を使って、NOxを還元、浄化することができないため、触媒51本来の浄化性能を十分に発揮できない恐れがある。
【0008】
なお、特許文献2に記載の発明では、添加剤噴射弁の出口開口部に、尿素水溶液を、排気通路内に均一に分散させるための網(その公報図3の参照番号56)を設けたり、噴射弁から噴射された尿素水溶液の方向を変化させるためにデフレクタ(公報図2の参照番号28)を排気通路中に設ける点が開示されている。
【0009】
しかしながら、この特許文献2の従来装置でも、添加剤噴射弁から噴射された尿素水溶液の噴霧は、排気の流れの影響をどうしても受けざるを得ない。このため、特に、排気管の噴射弁が設けられた側の反対側の領域まで、尿素水溶液の噴霧が到達できない可能性がある。
【0010】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、排気通路の通路壁に設けた添加剤噴射弁から噴射される添加剤噴霧が、噴射弁が設けられた側の反対側の排気通路領域まで確実に到達可能な排気浄化装置を提供することを主たる目的とするものである。」(段落【0006】ないし【0010】)

(オ)「【0012】
請求項1に記載の発明では、排気通路の通路壁に設けられ、この排気通路内へ添加剤を噴射する添加剤噴射弁と、該添加剤噴射弁の排気下流側に設けられ、少なくとも前記添加剤に基づく特定の排気浄化反応を促進する触媒とを備え、前記触媒の上流側にて浄化対象とする排気の中へ前記添加剤噴射弁により添加剤を噴射供給し、排気流を利用してその排気共々前記添加剤を下流の前記触媒へ供給するとともに、該触媒上で前記排気浄化反応を行うことによってその排気を浄化する排気浄化装置において、前記添加剤噴射弁は、前記排気通路内へ所定の噴霧到達距離にて第1噴霧を噴射する第1噴霧噴射部と、前記第1噴霧の前記所定の噴霧到達距離よりも大きな到達距離にて、前記排気通路内へ第2噴霧を噴射する第2噴霧噴射部とを備えることを特徴とする。
【0013】
こうした構成によれば、上記第2噴霧噴射部によって、排気通路内へ第1噴霧より噴霧到達距離が大きな第2の噴霧を得ることができる。すなわち、第1噴霧の噴霧到達距離よりも大きくなるよう、貫徹力(ペネトレーション)が大きな噴霧を第2噴霧噴射部より噴射できる。このため、上記第2噴霧によって、排気流の流れに対しても、確実に、排気通路の添加剤噴射弁が設けられた側とは反対側の排気通路領域まで添加剤を到達させることが可能である。従って、この通路領域に到達した添加剤は、最終的に、排気流れに乗り、確実に、この通路領域下流側の触媒端面へ到達するため、触媒の浄化性能を十分に発揮させることができる。
【0014】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記第2噴霧噴射部は、前記第1噴霧噴射部よりも、前記排気流の流れ方向において上流側に位置し、前記第1噴霧と前記第2噴霧の前記排気通路内への噴射方向は同一方向としてもよい。第2噴霧噴射部が第1噴霧噴射部よりも排気流の流れ方向から見て、上流側に位置されることで、第1、第2噴霧の噴射方向を同一としたとしても、第2噴霧が排気流の主流流れを克服して、添加剤噴射弁とは反対側の排気通路領域へ到達するための、添加剤噴射弁から触媒に至るまでの距離の確保が能である。よって、確実に、第2噴霧を、所望の通路領域へ到達させるとともに所望の触媒上流端面領域に到達させることが可能である。
【0015】
さらに、請求項3に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記第2噴霧噴射部は、前記第1噴霧噴射部よりも、前記排気流の流れ方向において上流側に位置し、前記第2噴霧の前記排気通路内への噴射方向は、前記第1噴霧の噴射方向に比べ、排気上流側に向くよう設定されるようにしてもよい。この構成により、請求項2に比べてさらに、第2噴霧が排気流の主流流れを克服して、添加剤噴射弁とは反対側の排気通路領域へ到達するための、添加剤噴射弁から触媒までの距離を確保できる。よって、より確実に第2噴霧を所望の通路領域へ到達させるとともに所望の触媒上流端面領域に到達させることが可能である。
【0016】
第2噴霧の、添加剤噴射弁とは反対側の排気通路への到達のさらなる確実化のために、請求項4に記載の発明の如く、前記第2噴霧の前記排気通路内への噴射方向は、前記排気流に直交する方向よりも排気上流側へ向くよう設定してもよい。この構成により、第2噴霧は、一旦、添加剤噴射弁よりも排気流上流側へ噴射されることとなる。よって、第2噴霧が排気流の主流流れを克服して、添加剤噴射弁とは反対側の排気通路領域へ到達するための、触媒までの距離を確保できる。このため、第2噴霧を所望の通路領域へ到達させるとともに所望の触媒上流端面領域に到達させることが可能である。
【0017】
なお、第1噴霧と第2噴霧との噴霧到達距離(すなわち貫徹力)を第2噴霧の方を大きくさせる具体的構成として、請求項5の発明に記載の如く、前記添加剤噴射弁は、前記排気通路内へ前記添加剤を噴射する出口開口部を備え、この出口開口部には、前記第1の噴霧を形成する前記第1噴霧噴射部としての第1噴孔と、前記第1噴孔よりも噴孔径が大きく、前記第2噴霧を形成する前記第2噴霧噴射部としての第2噴孔とが設けられるようにする。
【0018】
このように第1噴孔よりも噴孔径が大きい第2噴孔を、添加剤噴射弁の出口開口部に設けることによって、排気通路内への第1・第2噴霧の噴霧到達距離を異ならせることができる。
【0019】
また、より具体的な、第1・第2噴霧の噴霧到達距離(すなわち貫徹力)を第2噴霧の方を大きくさせる構成として、請求項6に記載の発明の如く、前記添加剤噴射弁は、前記出口開口部に板状部材を備えており、前記板状部材に前記第1噴孔と前記第2噴孔とが形成されているようにする。すなわち、添加剤噴射弁の出口開口部に、第1噴孔、第2噴孔を形成した板状部材を設ける。この構成により、板状部材への第1、第2噴孔の噴孔径の調整が簡単化できるようになるため、第1・第2噴霧の噴霧到達距離の制御が容易となる。
(中略)
【0025】
次に、請求項12の発明は、排気通路の通路壁に設けられ、この排気通路内へ添加剤を噴射する添加剤噴射弁と、該添加剤噴射弁の排気下流側に設けられ、少なくとも前記添加剤に基づく特定の排気浄化反応を促進する触媒とを備え、前記触媒の上流側にて浄化対象とする排気の中へ前記添加剤噴射弁により添加剤を噴射供給し、排気流を利用してその排気共々前記添加剤を下流の前記触媒へ供給するとともに、該触媒上で前記排気浄化反応を行うことによってその排気を浄化する排気浄化装置において、前記添加剤噴射弁は、前記排気通路内へ前記添加剤を噴射する出口開口部と、この出口開口部に設けられる第1噴孔と、前記第1噴孔よりも噴孔径が大きい第2噴孔とを備えることを特徴とする。
【0026】
こうした構成によれば、添加剤噴射弁の出口開口部に噴孔径の異なる第1・第2噴孔を備えたので、排気通路内へ異なる噴霧到達距離となる2つの噴霧を得ることができる。すなわち、第1噴孔からの噴霧の噴霧到達距離よりも大きくなるよう、貫徹力(ペネトレーション)が大きな噴霧を、第2噴孔から噴射可能となる。このため、上記第2噴孔からの噴霧によって、排気流の流れに対しても、確実に、排気通路の添加剤噴射弁が設けられた側とは反対側の排気通路領域まで添加剤を到達させることが可能である。従って、この通路領域に到達した添加剤は、最終的に、排気流れに乗り、確実に、この通路領域下流側の触媒端面へ到達するため、触媒の浄化性能を十分に発揮させることができる。
【0027】
上記請求項12において、請求項13の如く、前記第1噴孔と前記第2噴孔とは、前記出口開口部に設けられる板状部材に形成されるようにすれば、各噴孔の噴孔径の調整、制御が簡便となり、様々な内燃機関(排気流が大きな機関や小さな機関等)への対応も容易になる。
【0028】
さらに、請求項12または13において、前記第1噴孔は、前記排気通路内へ所定の噴霧到達距離にて第1噴霧を形成し、前記第2噴孔は、前記第1噴霧の前記所定の噴射到達距離よりも大きな到達距離の第2噴霧を形成するものであり、前記第2噴孔は、前記第1噴孔よりも、前記排気流の排気上流側に位置するよう前記出口開口部に設けられるようしてもよい。上記構成によれば、第2噴霧が排気流の主流流れを克服して、添加剤噴射弁とは反対側の排気通路領域へ到達するための、添加剤噴射弁から触媒に至るまでの距離の確保が能である。よって、確実に、第2噴霧を、所望の通路領域へ到達させるとともに所望の触媒上流端面領域に到達させることが可能である。
(中略)
【0032】
請求項17の発明は、請求項1?16のいずれかにおいて、前記添加剤は尿素水溶液であり、前記触媒は、該尿素水溶液の加水分解により生成されるアンモニアを通じてNOx(窒素酸化物)を還元するNOx還元反応を前記排気浄化反応として促進するものである。
【0033】
上述の尿素SCR(選択還元)システムに代表されるように、尿素水溶液を添加剤にしたNOx浄化装置は、排気中のNOx(窒素酸化物)を高い浄化率で浄化する排気浄化装置として期待されている。したがって本発明は、こうした尿素SCRシステムに適用して特に有益である。そして、こうしたシステムに本発明を適用した場合にも、上述の如く、添加剤噴射弁の取り付けられた側とは反対側の排気通路領域への添加剤到達が可能となり、触媒の浄化性能を十分に発揮することができ、ひいては排気浄化装置としてより高い浄化性を得ることが可能になる。また、例えば自動車の分野でこの排気浄化装置を採用し、ディーゼルエンジン搭載の車両等にこの装置を装着した場合には、燃焼過程でNOxの発生を許容して燃費及びPMを改善することなども可能になり、ひいては自動車の性能向上や排気クリーン化に大きく貢献することができるようになる。
【0034】
なお、上記各種請求項において記載された、添加剤噴射弁の第1、第2噴孔は、多数の微噴孔の集合体(群噴孔)によって構成されるものであっても、ただ1つの噴孔によって構成されるものであってもよい。特定の方向に対する噴射(特定の方向の噴霧密度が高い場合、すなわち噴霧に拡がりのある場合も含む)を多数の噴孔にて共同で行う場合には、それらの噴孔をまとめて1つの噴孔とする。」(段落【0012】ないし【0034】)

(カ)「【0035】
以下、本発明に係る排気浄化装置を具体化した一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態の装置も、先の図14に例示した装置と同様、排気中のNOx(窒素酸化物)を浄化するものであり、尿素SCR(選択還元)システムとして構築されている。まず、図1を参照して、このシステム(装置)の構成について詳述する。
【0036】
図1は、本実施形態に係る尿素SCRシステム(排気浄化装置)の概要を示す構成図である。なお、この図1において、図中の矢印Xは水平方向の1つ(X方向)を、また矢印Yは重力方向(Y方向)を指している。
【0037】
同図1に示されるように、このシステムは、自動車(図示略)に搭載されたディーゼルエンジン(排気発生源)により排出される排気を浄化対象として、大きくは、この排気を浄化するための各種アクチュエータ及び各種センサ、並びにECU(電子制御ユニット)40等を有して構築されている。
【0038】
具体的には、排気上流側から、DPF(Diesel Particulate Filter)11、排気管12(排気通路)、触媒13、排気管14(排気通路)、の順で配設されている。そして、排気管12の中途の通路壁面には、添加剤噴射弁16が設けられている。添加剤噴射弁16は、DPF11と触媒13との間の排気管12内を流れる排気に対して添加剤である尿素水溶液を噴射供給する、電気的に駆動される電磁弁であり、排気の流れ(排気流)を利用してその排気共々尿素水溶液を下流の触媒13へ供給するとともに、該触媒13上でNOxの還元反応を行うことによって、その排気が浄化されるようになっている。
(中略)
【0040】
触媒13は、NOxの還元反応(排気浄化反応)を促進するものであり、例えば、
4NO+4NH_(3)+O_(2)→4N_(2)+6H_(2)O …(式1)
6NO_(2)+8NH_(3)→7N_(2)+12H_(2)O …(式2)
NO+NO_(2)+2NH_(3)→2N_(2)+3H_(2)O …(式3)
のような反応を促進して排気中のNOxを還元する。これらの反応においてNOxの還元剤となるアンモニア(NH_(3))は尿素を加水分解することにより生成され、この尿素を溶解した液体、すなわち尿素水を噴射供給するものが、同触媒13の上流側の排気管12の中途に設けられた添加剤噴射弁16である。
【0041】
この添加剤噴射弁16は、燃料の噴射通路となるノズル部16a(細管)を先端に有し、そのノズル出口面には、出口開口16bが形成されている。同添加剤噴射弁16は、こうした出口開口16bを通じて、尿素水タンク17aから供給される尿素水溶液を噴射(霧化)するものであり、尿素水タンク17aから逐次尿素水溶液が供給されている。すなわち、尿素水タンク17aの内部に貯蔵されている尿素水溶液が、同タンク17a内に設置されたポンプ17bによって汲み上げられ、配管17cを通じて噴射弁16へ供給されている。
【0042】
ここで、配管17cの中途には、尿素水圧レギュレータ17d、尿素水圧センサ17e、及びフィルタ17fが設けられている。フィルタ17fは尿素水溶液を濾過するものであり、ポンプ17bからの尿素水溶液は、このフィルタ17fにより異物が取り除かれた後、噴射弁16へ供給される。また、尿素水圧センサ17eは、噴射弁16に対する尿素水溶液の供給圧力を検出するものであり、尿素水圧レギュレータ17dはその供給圧力を調圧するものである。すなわち、この供給圧力が設定値を超えた場合には、同レギュレータ17dにより、上記配管17c内の尿素水溶液が尿素水タンク17aへ戻されることになる。」(段落【0035】ないし【0042】)

(キ)「【0043】
図2に、添加剤噴射弁16の断面構成を示す。添加剤噴射弁16は、ガソリンエンジンに用いられる燃料噴射弁と同様な、電磁式開閉弁である。
【0044】
噴射弁16の先端側に位置するノズル部16aには、ボデー26内に軸方向移動可能にガイドされるニードル20が備えられ、ニードル20は、ボデー26に形成された弁座21に着座可能となっている。さらに、弁座21の下流側には、出口開口16bが設けられる。本実施形態では、出口開口16bとして、複数の噴孔を形成する円板状のプレート部材30が設けられている。
【0045】
ノズル部16aの上方には、電磁ソレノイド23が備えられ、ターミナル25から入力される通電信号により通電される。また、ニードル20とボデー26との間に形成される通路24と連通する入口22は、配管17cと接続される。この構成により、レギュレータ17dにて調圧された尿素水溶液は、入口22を介して、通路24に及び、ニードル20の弁座21への着座部に到達している。
【0046】
上記構成の添加剤噴射弁16では、ECU40からの通電信号に電磁ソレノイド23が通電されると、該通電に伴いニードル20が開弁方向に移動する。すると、上記着座部にまで到達しているレギュレータ17dにて調圧された尿素水溶液は、ニードル20と弁座21との間を通過し下流側に流れる。両部材20、21間を通過した尿素水溶液は、出口開口16b(すなわちプレート部材30に形成された複数の噴孔)を介して排気管12内に噴射される。
【0047】
本実施形態では、噴射弁16は、排気管12の軸中心の真上(鉛直方向上)に設けられた取付け口に、その先端が挿入される。噴射弁16は、直管状の排気管12の通路壁に、その通路中心に対して垂直な方向(図1のY方向)となるよう挿入される。すなわち、排気管12内を流れる排気の主流の流れ方向(図1のX方向)に対して垂直となる方向に挿入される。そして、このように設けられる噴射弁16から噴射される尿素水溶液の噴霧は、基本的に、Y方向に噴射されることとなる。
【0048】
一方、触媒13の下流側の排気管14には、NOxセンサと排気温センサとが共に内蔵された排気センサ18が設けられており、同触媒13の下流側にて、排気中のNOx量(ひいては触媒13によるNOxの浄化率)、及び排気の温度を検出することができるようになっている。そして、この排気管14のさらに下流には、余剰のアンモニア(NH_(3))を除去するためのアンモニア除去装置(例えば酸化触媒)や、排気中のアンモニア量を検出するためのアンモニアセンサ等が、必要に応じて設けられる。
【0049】
こうしたシステムの中で電子制御ユニットとして主体的に排気浄化に係る制御を行う部分がECU40である。このECU40は、周知のマイクロコンピュータ(図示略)を備え、各種センサの検出値に基づいて所望とされる態様で上記噴射弁16等をはじめとする各種アクチュエータを操作することにより、排気浄化に係る各種の制御を行うものである。具体的には、例えば添加剤噴射弁16の通電時間やポンプ17bの駆動量等を制御することにより、排気管12内を流れる排気に対し、適切な時期に適正な量の尿素水溶液(添加剤)を噴射供給する。
【0050】
こうした構成のもと、本実施形態に係る上記システム(装置)でも、先の図14に例示した装置と同様、排気管12の内側を流れる排気中へ噴射弁16により尿素水溶液を噴射供給し、排気の流れ(排気流)を利用してその排気共々尿素水溶液を下流の触媒13へ供給するとともに、該触媒13上でNOxの還元反応を行うことによってその排気を浄化する。NOxの還元に際しては、例えば、
(NH_(2))_(2)CO+H_(2)O→2NH_(3)+CO_(2) …(式4)
のような反応をもって、尿素水溶液が排気熱で加水分解されることによりアンモニア(NH_(3))が生成され、触媒13にて選択的に吸着された排気中のNOxに対し、このアンモニアが添加される。そして、同触媒13上で、そのアンモニアに基づく還元反応(上記反応式(式1)?(式3))が行われることによって、NOxが還元、浄化されることになる。」(段落【0043】ないし【0050】)

(ク)「【0051】
次に、図3及び図4を併せ参照して、本実施形態の装置による排気浄化態様について説明する。
【0052】
本実施形態のプレート部材30には、所定噴孔径rの第1噴孔310を複数備える第1噴孔群31が形成される。一方、プレート部材30には、第1噴孔の噴孔径rよりも大きな所定噴孔径Rの第2噴孔320を複数備える第2噴孔群32が形成される。これら第1噴孔310、第2噴孔320は、プレート部材30の軸方向に対して平行に孔が開けられている。そして、このプレート部材30が噴射弁16に取り付けられることによって、各噴孔群31,32から噴射される噴霧の噴射方向は、噴射弁16の軸心とほぼ平行となる。
【0053】
そして、上述した如く、第1噴孔310の噴孔径rに対して、第2噴孔320の噴孔径Rは大きくなるよう設定されている。このため、第2噴孔320から噴射される尿素水溶液の噴霧(第2噴霧321)は、第1噴孔310から噴射される尿素水溶液の噴霧(第1噴霧311)に比べて、貫徹力(ペネトレーション)が大きくなる。
【0054】
従って、図4に示す如く、第2噴霧321の排気管12への噴霧到達距離は、第1噴霧311のそれに比べて大きくなる。すると、第2噴霧321からの噴霧到達距離を、排気管12の噴射弁16が設けられる側とは反対側の通路領域60に届く程度の距離とすることが可能となる。
【0055】
一方、第1噴霧311からの噴霧到達距離を第2噴霧321のそれよりも短く、例えば、噴射弁16から排気管12の中心軸までの距離よりも短くすることで、排気管12の噴射弁16が設けられる側の排気管通路領域に対応する噴霧を確保することができる。
【0056】
このようにプレート部材30に、第1、第2噴孔群31,32を形成し、各噴孔群からの噴霧到達距離を、それぞれ変化させることにより、排気管12内へ噴射される還元剤すなわち尿素水溶液噴霧を、排気管12の管断面に対して、ほぼ全域に行き渡らせることが可能となる。そのため、各噴孔群から噴射された2つの噴霧が、排気管12内に管断面全域に行き渡った後は、最終的に、排気の流れに乗り、触媒13の上流側に到達する。従って、触媒13のほぼ全面に噴霧が散布されることとなるため、触媒13全体で、NOxの還元浄化反応をさせることができる。よって、触媒13の触媒浄化性能を十分発揮させることができる。
【0057】
特に、第2噴孔群32からの第2噴霧321の貫徹力を、第1噴孔群31からの第1噴霧311のそれよりも大きくしたことにより、排気流れの主流の影響を乗り越えて、排気管12の通路領域60へも噴霧を到達させることができる。このため、確実に通路領域60下流側の触媒端面へ到達するため、触媒の浄化性能を十分に発揮させることができる。
(中略)
【0066】
以上、第1噴霧、第2噴霧を形成するために、プレート部材に噴孔径の異なる、噴孔群を2つ準備する実施形態を詳述した。2つの噴霧を形成するために、プレート部材にて実現させることによって、噴射弁自体を変更することなく、プレート部材に形成する、噴孔の噴孔径や、プレートに対する噴孔の形成角度を調整可能となる。これにより、様々なエンジンや噴射弁の仕様(排気管への取り付け角度や、噴射自体の仕様)に対して、フレキシブルに対応可能である。」(段落【0051】ないし【0066】)

(2)引用文献の記載から分かること
上記(1)(ア)ないし(ク)及び図1ないし図15の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていることが分かる。

(サ)上記(1)(ア)ないし(ク)及び図1ないし図15の記載から、引用文献1には、エンジンの排気管12に設けられた触媒に対して尿素水溶液を噴射する添加剤噴射弁16が記載されていることが分かる。

(シ)上記(1)(ア)ないし(ク)(特に段落【0052】及び【0053】を参照。)及び図3の記載から、引用文献に記載された添加剤噴射弁16は、複数の噴孔310,320を有し、第一噴孔310の噴孔径rに対して、第2噴孔320の噴孔径Rが大きくなるように設定されており、このため、第2噴孔320から噴射される尿素水溶液の噴霧(第2噴霧321)は、第1噴孔310から噴射される尿素水溶液の噴霧(第1噴霧311)に比べて、貫徹力(ペネトレーション)が大きくなることが分かる。したがって、図4に示す如く、第2噴霧321の排気管12への噴霧到達距離は、第1噴霧311のそれに比べて大きくなることが分かる。

(ス)上記(1)(ア)ないし(ク)(特に段落【0056】を参照。)及び図3の記載から、引用文献に記載された添加剤噴射弁16は、このようにプレート部材30に、第1、第2噴孔群31,32を形成し、各噴孔群からの噴霧到達距離を、それぞれ変化させることにより、排気管12内へ噴射される還元剤すなわち尿素水溶液噴霧を、排気管12の管断面に対して、ほぼ全域に行き渡らせることが可能となり、各噴孔群から噴射された2つの噴霧が、排気管12内に管断面全域に行き渡った後は、最終的に、排気の流れに乗り、触媒13の上流側に到達するから、触媒13のほぼ全面に噴霧が散布されることとなるため、触媒13全体で、NOxの還元浄化反応をさせることができることが分かる。

(セ)上記(1)(ア)ないし(ク)(特に段落【0052】及び【0053】を参照。)及び図3の記載から、引用文献に記載された添加剤噴射弁16において、図3の例では、プレート部材30の板厚は一定であり、第一噴孔310の噴孔径rは小径であり、第2噴孔320の噴孔径Rが大径であるから、第2噴孔320の噴孔径Rと高さ(プレート部材30の板厚)との比は、第1噴孔310の噴孔径rと高さ(プレート部材30の板厚)との比と異なるといえる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図1ないし15の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「複数の噴孔310,320を有する、尿素水溶液を排気管12に供給するための添加剤噴射弁16であって、噴孔310,320によって、各々の場合、尿素水溶液の異なる噴霧311,321が生成され得る、噴孔310,320が設けられ、
噴孔310,320は、尿素水溶液の流れ方向において、異なる噴孔径r,Rの断面を有し、
一方の噴孔320の噴孔径Rと高さとの比は、他方の噴孔310の噴孔径rと高さとの比と異なる、添加剤噴射弁16。」

2-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「噴孔310,320」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願補正発明における「出口開口部」に相当し、以下同様に、「尿素水溶液」は「還元剤」に、「添加剤噴射弁16」は「注入ノズル」に、「噴霧311,321」は「液滴」に、「一方の噴孔320」は「一方の出口開口部」に、「噴孔径Rと高さとの比」は「断面(8)の底面と高さとの比」に、「他方の噴孔310」は「他方の出口開口部」に、「噴孔径rと高さとの比」は「断面(9)の底面と高さとの比」に、それぞれ、相当する。
また、引用発明における「排気管12に供給する」ことは、その技術的意義からみて、本願補正発明における「排気ガスシステムに供給する」ことに相当する。
また、引用発明における「異なる噴孔径r,Rを有し」は、その技術的意義からみて、「異なる断面を有し」という限りにおいて、本願補正発明における「異なる幅広状または先細状の断面を有し」に相当する。

以上から、本願補正発明と引用発明は、
「複数の出口開口部を有する、還元剤を排気ガスシステムに供給するための注入ノズルであって、出口開口部によって、各々の場合、還元剤の異なる液滴が生成され得る、出口開口部が設けられ、
出口開口部は、還元剤の流れ方向において、異なる断面を有し、
一方の前記出口開口部の断面の底面と高さとの比は、他方の出口開口部の断面の底面と高さとの比と異なる、注入ノズル。」
である点で一致し、次の点で相違する。

〈相違点〉
「出口開口部は、還元剤の流れ方向において、異なる断面を有し、一方の前記出口開口部の断面の底面と高さとの比は、他方の出口開口部の断面の底面と高さとの比と異なる」に関して、本願補正発明においては「出口開口部は、還元剤の流れ方向において、異なる幅広状または先細状の断面を有し、一方の出口開口部の断面の底面と高さとの比は、他方の出口開口部の断面の底面と高さとの比と異なる」のに対し、引用発明においては「噴孔は、尿素水溶液の流れ方向において、異なる噴孔径の断面を有し、一方の噴孔の噴孔径と高さとの比は、他方の噴孔の噴孔径と高さとの比と異なる」点(以下、「相違点」という。)。

2-3 判断
本願補正発明は、「可能な限り迅速かつ完全に蒸発させ、他方で、排気ガス中に広まっているそれぞれの状態を許容しながら、排気ガスストリーム中に均一な分布が存在しなければならないという問題」(段落【0009】)を課題とし、「本発明は、簡単な構造であり、排気ガスシステムにおける流れ状態に対して可変または適合した還元剤を供給することを可能にする、注入ノズルを特定する。さらに、本発明は、還元剤の変換または還元剤の蒸発を可能な限り完全にする排気ガスシステムにおける注入ノズルの特に好ましい配置を特定する。」(段落【0011】)ことを目的とし、本願補正発明の発明特定事項を備えることにより、「本明細書で提案されている注入ノズルの場合において、出口開口部によって、各々の場合、還元剤の異なる液滴が生成され得る、出口開口部がここで提供される。すなわち、このことは、特に、注入ノズルが作動している場合、例えば還元剤の所定の圧力で注入ノズルから異なるサイズの液滴が所定の期間、同時に出現することを意味する。この場合、少なくとも2つの異なる種類の液滴または液滴のサイズが生成される。原則として、出口開口部によって複数の異なる液滴が同時に形成できることが好ましい。同じ注入ノズルを用いて異なる液滴を供給することにより、特に排気ガスパラメータを考慮して、目的とする液滴の飛行経路が可能となる。」(段落【0015】)という作用効果が得られるものである。
それに対し、引用発明は、「尿素SCR(選択還元)システムでは一般に、尿素水溶液の加水分解により生成されるアンモニアガスが、触媒51にて排気を十分に浄化するためには、そのアンモニアガスが、触媒51の上流側端面全域に分布することが望ましい。こうすれば、触媒51全域でNOxを還元、浄化できるからである。そして、アンモニアガスを触媒51の上流側端面全体に、なるべく分布させるためには、添加剤噴射弁53から排気通路内に噴射される添加剤(尿素水溶液)が、排気通路の通路断面の全域に極力分布されることが望まれる。」(段落【0006】)ということを課題とし、「排気通路の通路壁に設けた添加剤噴射弁から噴射される添加剤噴霧が、噴射弁が設けられた側の反対側の排気通路領域まで確実に到達可能な排気浄化装置を提供すること」(段落【0010】)を目的とし、引用発明の発明特定事項を備えることにより、「添加剤噴射弁の取り付けられた側とは反対側の排気通路領域への添加剤到達が可能となり、触媒の浄化性能を十分に発揮することができ、ひいては排気浄化装置としてより高い浄化性を得ることが可能になる。」(段落【0033】)という作用効果が得られるものである。
すなわち、本願補正発明と、引用発明とは、排気ガス浄化システムにおいて、触媒全体へ均一に還元剤を供給するという課題において共通し、複数の種類の大きさの液滴を生成させるノズル(噴射弁)を使用することにより、触媒全体へ還元剤を均一に供給するという作用効果において軌を一にしている。
そこで、上記相違点について検討する。
本願補正発明において、「出口開口部の断面の底面」とは、底面の何を意味するか必ずしも明確ではないが、「出口開口部の断面の底面の面積」又は「出口開口部の断面の底面の直径」を意味していると認められる。
そうすると、「出口開口部」に関して、「一方の出口開口部の断面の底面と高さとの比は、他方の出口開口部の断面の底面と高さとの比と異なる」点は両者において共通しており、本願補正発明においては「異なる幅広状または先細状の断面を有」するのに対し、引用発明においては、断面がそのように限定されていない点で両者は実質的に相違している。
しかしながら、本願補正発明において「出口開口部」が「異なる幅広状または先細状の断面を有」することの技術的意義について、本願明細書を参照すると、「これに関して特に好ましい選択は、異なる断面の出口開口部を提供することである。例えば、出口開口部が穴の種類である場合を考慮すると、異なる出口開口部が異なる穴の断面で実現されてもよい。しかしながら、還元剤の流れ方向において先細状または幅広状である断面を有する少なくとも一部の出口開口部が設けられてもよい。それらの種類の断面の組み合わせも、もちろん可能である。」(段落【0016】。下線は当審で付した。)と記載されている。すなわち、「出口開口部」が「異なる幅広状または先細状の断面を有」することについて、特に技術的意義は記載されていない。
そして、ノズルの技術分野において、ノズルの「出口開口部」が「異なる幅広状または先細状の断面を有」するようにする技術は周知技術である(以下、「周知技術」という。例えば、平成27年2月10日付け拒絶理由通知書において引用された独国特許出願公開第102004029679号明細書を参照。)ことを考慮すれば、ノズルの「出口開口部」が「異なる幅広状または先細状の断面を有」するように設計することは、当業者が製造コスト等を勘案して必要に応じて選択する設計的事項というべきものであって、そのように設計変更することによる作用効果も、当業者が予測できる程度のものにすぎない。

したがって、引用発明において、必要に応じて、「出口開口部」が「異なる幅広状または先細状の断面を有」するように設計変更することにより、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到できたことである。

(3)まとめ
そして、本願補正発明は、全体として検討しても、引用発明及び周知技術から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできず、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、平成28年1月27日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成24年3月19日提出の日本語の翻訳文による明細書、平成26年9月10日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲及び国際出願された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)(ア)【請求項1】のとおりのものである。

2 引用文献及び引用発明
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特開2008-151087号公報)及び引用発明は、前記第2[理由]2-1に記載したとおりである。

3 対比・判断
前記第2[理由]1(2)で検討したとおり、本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、すなわち本願発明の発明特定事項をさらに限定するものであるから、本願発明は、実質的に本願補正発明における発明特定事項の一部を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2[理由]2-2及び2-3に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-23 
結審通知日 2016-08-30 
審決日 2016-09-12 
出願番号 特願2012-520978(P2012-520978)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
P 1 8・ 575- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅家 裕輔谷川 啓亮  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 松下 聡
金澤 俊郎
発明の名称 還元剤を供給するための注入ノズルおよび排気ガスを処理するための装置  
代理人 多田 繁範  

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