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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60N
管理番号 1324626
審判番号 不服2016-7186  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-17 
確定日 2017-02-06 
事件の表示 特願2014- 88967「コンパクトな座席装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月24日出願公開、特開2014-133563〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、2008年3月14日(パリ条約による優先権主張、2007年3月15日、英国)に国際出願した特願2009-553211号の一部を、平成26年4月23日に特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(分割出願)としたもので、平成27年8月26日付け及び同年12月15日付けで手続補正書が提出され、平成28年1月25日付けで拒絶の査定がなされ(同査定の謄本の送達(発送)日 同年2月1日)、これに対し、同年5月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願の発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成27年12月15日に提出された手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
車両用の座席装置であって、
前記座席装置は、横方向に整列された2つの後方乗客用シートと、中央にかつ前記乗客用シートの前方に配置された運転手用シートと、を具備してなる少なくとも3つのシートを有しており、
前記運転手用シートは、後方乗客が前記後方乗客用シートに着席した際に後方乗客の脚の前端を超えて後方に位置しており、
後方乗客のひざが、横方向と長手方向との双方において、運転手の体および前記運転手用シートとオーバーラップするものとされ、
前記3つのシートが、(i)前記後方乗客用シートの後方に収容スペースが設けられた3席構成と、(ii)前記後方乗客用シートの一方が折り曲げられて前記収容スペースが拡張された2席構成と、(iii)前記後方乗客用シートの両方が折り曲げられて前記収容スペースがさらに拡張された1席構成と、という複数の構成とすることができ、
前記運転手用シートと前記後方乗客用シートとが、互いに同じ高さ位置とされ、
車両エンジンが、前記後方乗客用シートの後方の前記収容スペースの下方のスペース内に、および/または、前記後方乗客用シートの下方のスペース内に、取り付けられ、
燃料タンク、バッテリー、または、他のエネルギー源が、前記運転手用シートの下方に取り付けられていることを特徴とする座席装置。」

3.引用例
(1)原査定に係る拒絶理由で引用された、本件出願の優先日前の平成10年1月13日に頒布された刊行物である特開平10-7018号公報(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両のシート構成、キャビン構体、及び車両に関するものである。」
イ.「【0004】本発明の目的は、ドライバーのために良好なエルゴノミクスを与える車両のシート構成又は車両構体を得るにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するため、本発明は、横方向にほぼ整列して互いに離れる2個の後部パッセンジャーシート及びほぼ中央かつ前記2個の後部パッセンジャーシートの前方に配置したドライバーズシートとよりなり、前記前方のドライバーズシートを各後部パッセンジャーシートの一部にオーバーラップするよう横方向に突出させた少なくとも3個のシートを有する車両のシート構成にすることを特徴とする。」
ウ.「【0007】いずれの場合でも、2個の後部パッセンジャーシートは、パッセンジャー(乗員)の胴体又は人体が脚よりも大きい幅を有する、特に、脚幅よりも肩幅のほうが広いという事実を利用できるように離す。このことにより、パッセンジャーは、フロントのドライバーズシートがオーバーラップするそれぞれの後部シートで快適に着席できる。このオーバーラップする構成により、車両のキャビンを比較的狭くすることができ、しかもドライバー及び少なくとも2名のパッセンジャーを側方に並ばせて収容することができる。更に、このシート構成によりパッセンジャーシートに対するアクセスを比較的容易にすることができるようになる。」
エ.「【0009】好適な実施例においては、この中央に位置決めしたドライバーズシートは各後部パッセンジャーシートの前部よりも後方に突出させる。
【0010】ドライバーズシートのパッセンジャーシートに対するオーバーラップ構成により、コンパクトでありながら、快適であり、かつアクセス性のよいパッセンジャーキャビンを得ることができる。
【0011】更に、本発明は、横方向にほぼ整列して互いに離れる2個の後部パッセンジャーシート及びほぼ中央かつ前記2個の後部パッセンジャーシートの前方に配置したドライバーズシートとよりなり、前記前方のドライバーズシートを各後部パッセンジャーシートの前部よりも後方に突出させた少なくとも3個のシートを有する車両のシート構成を特徴とする。」
オ.「【0026】この本発明の車両の好適な実施例においては、車両長さのほぼ中央に配置したエンジンを設ける。
【0027】好適な実施例においては、車両の長さのほぼ中間に燃料タンクを配置する。更に好適な実施例においては、前記燃料タンクをドライバーズシートの後方に配置する。」
カ.「【0029】
【発明の実施の形態】以下に添付図面につき、本発明の好適な実施例を説明する。
【0030】図1には、車両例えばスポーツカーのキャビン2のシート構成を上方から見た線図的平面図を示す。図面から明らかなように、中央に配置した一個のドライバーズシート4と、互いに離れてほぼ横方向に整列する2個の後部パッセンジャーシート6を設ける。ドライバーズシート4は2個の後部パッセンジャーシート6のほぼ前方に配置するが、このドライバーズシート4は各後部パッセンジャーシート6の前部よりも後方に突出する。更に、ドライバーズシート4は横方向にも突出し、各後部パッセンジャーシート6の一部とオーバーラップする。
【0031】図1に示す3個のシート構成快適であり、着席者の全員はシート4、6に容易にアクセスすることができる。また、このシート構成によれば、シートが占める全体幅及び全体長さを、できるだけ小さく抑えることができること明らかである。」

上記の記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「横方向にほぼ整列して互いに離れる2個の後部パッセンジャーシート及びキャビン2のほぼ中央かつ前記2個の後部パッセンジャーシートの前方に配置したドライバーズシートとよりなり、前記前方のドライバーズシートを各後部パッセンジャーシートの前部よりも後方に突出させて一部にオーバーラップする、少なくとも3個のシートを有し、車両長さのほぼ中央にエンジンを配置し、燃料タンクをドライバーズシートの後方に配置した車両のシート構成であって、
上記のオーバーラップする構成により、車両のキャビンを比較的狭くすることができ、コンパクトでありながら、快適であり、かつアクセス性のよいパッセンジャーキャビンを得ることができ、また、このシート構成によれば、シートが占める全体幅及び全体長さを、できるだけ小さく抑えることができる車両のシート構成。」

(2)同じく原査定に係る拒絶理由で引用された、本件出願の優先日前の平成17年4月21日に頒布された刊行物である特開2005-104262号公報(以下「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア.「【0004】
本発明は、前後にシートを備えた車両において、後部シートに複数の後部乗員が座ることができるようにするとともに、後部乗員の居住性を確保することができ、しかも、車両の小型化を図ることができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、運転者が座る前部シートの後方に、後部乗員が座る左右の着座部を有した幅広の後部シートを設け、この後部シートが、左右の着座部に対応するバックレストを備え、このバックレストが、車両の進行方向に対し車幅方向外側の斜め前方へ向けて傾斜していることを特徴とする車両のシート構造である。」
イ.「【0017】
車両10は、車体(車体フレーム)11に左右2つの前輪12、12並びに左右2つの後輪13、13を備え、車体11の前部にバーハンドル21式の操舵機構20を備え、車体11の中央部に前部シート30並びに後部シート40を備え、車体11の後下部にパワーユニット51を備え、さらに、車体11前部の周囲を覆うフロントカバー60、フロントカバー60の上部に取付けたウインドスクリーン71、ウインドスクリーン71の上端から後方へ連続して延びて前部・後部シート30、40の上を覆うルーフ72、車体11の後部を覆うリヤカバー73を備えた、小型の自動4輪車である。」
ウ.「【0025】
図5に示すように、車両10は、運転者が座る前部シート30の後方に、後部乗員が座る後部シート40を接近させて設け、この後部シート40の後方に支持部材85、85を設け、乗員用バックレスト32並びに支持部材85、85の後方にリヤトランク100を設け、前部シート30の下方に前部収納ボックス111を設け、さらに前部収納ボックス111の下方に燃料タンク112を設けたものである。113は給油口である。」
エ.図1、5から、パワーユニット51が、後部シート40の下方に備えられていることが看取できる。

上記の記載事項を総合すると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「運転者が座る前部シートの後方に、後部乗員が座る左右の着座部を有した幅広の後部シートを設け、
車体11の後下部の後部シート40の下方にパワーユニット51を備え、前部シート30の下方に前部収納ボックス111を設け、さらに前部収納ボックス111の下方に燃料タンク112を設けた、
後部乗員の居住性を確保することができ、しかも、車両の小型化を図ることができる車両のシート構造。」

4.対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
後者の「ドライバーズシート」は、その構造及び機能等からみて、前者の「運転手用シート」に相当し、以下同様に、「後部パッセンジャーシート」は「後方乗客用シート」に、相当する。
また、後者の「シート構成」は、運転手用シート及び後部パッセンジャーシートの配置や構造、並びにエンジン及び燃料タンクの配置を特定しており、この点において前者の「座席装置」と変わるものではないから、前者の「座席装置」に相当する。
また、後者において、「横方向にほぼ整列して」としているのは「横方向に整列された」ことを意味しており、「ほぼ中央かつ2個の後部パッセンジャーシートの前方に配置した」としているのは「中央にかつ乗客用シートの前方に配置された」ことを意味しているといえる。
また、後者で「前方のドライバーズシートを各後部パッセンジャーシートの前部よりも後方に突出させて一部にオーバーラップする」としているのは、「運転手用シートは、後方乗客が後方乗客用シートに着席した際に後方乗客の脚の前端を超えて後方に位置して」いることを意味しているといえる。

したがって、両者は、
「車両用の座席装置であって、
前記座席装置は、横方向に整列された2つの後方乗客用シートと、中央にかつ前記乗客用シートの前方に配置された運転手用シートと、を具備してなる少なくとも3つのシートを有しており、
前記運転手用シートは、後方乗客が前記後方乗客用シートに着席した際に後方乗客の脚の前端を超えて後方に位置している、座席装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願発明では、「後方乗客のひざが、横方向と長手方向との双方において、運転手の体および前記運転手用シートとオーバーラップする」ものとされるのに対し、引用発明1では、その点につき明確ではない点。
[相違点2]
本願発明では、3つのシートが、「(i)前記後方乗客用シートの後方に収容スペースが設けられた3席構成と、(ii)前記後方乗客用シートの一方が折り曲げられて前記収容スペースが拡張された2席構成と、(iii)前記後方乗客用シートの両方が折り曲げられて前記収容スペースがさらに拡張された1席構成と、という複数の構成とすることができ、」「前記運転手用シートと前記後方乗客用シートとが、互いに同じ高さ位置とされ」るのに対し、引用発明1では、その点につき明確ではない点。
[相違点3]
本願発明では、「車両エンジンが、前記後方乗客用シートの後方の前記収容スペースの下方のスペース内に、および/または、前記後方乗客用シートの下方のスペース内に、取り付けられ、」「燃料タンク、バッテリー、または、他のエネルギー源が、前記運転手用シートの下方に取り付けられている」のに対し、引用発明1では、「車両長さのほぼ中央にエンジンを配置し、燃料タンクをドライバーズシートの後方に配置」している点。

5.当審の判断
上記の相違点について検討する。
(1)相違点1について
車両用の座席装置において、コンパクトでありながら、後方乗客を快適に着座できるようにするために、後方乗客のひざが、横方向と長手方向との双方において、運転手の体および前記運転手用シートとオーバーラップすることは、本願の優先日時点で周知の技術事項(例えば、実願昭59-130370号(実開昭61-44329号)のマイクロフィルムの第2頁第18行?第3頁第13行、第2図、実願昭59-90639号(実開昭61-5241号)のマイクロフィルムの第1頁第11?13行、第3頁第3?13行、第4頁第12?17行、第1?3図参照。以下「周知の技術事項1」という。)である。
そして、引用発明1と上記周知の技術事項1とは、共に「座席装置」という技術分野に属し、コンパクトでありながら、後方乗客を快適に着座できるようにするという共通の課題を有するものであるから、引用発明1に上記周知の技術事項1を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、引用発明1において、上記周知の技術事項1を適用することにより、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(2)相違点2について
車両用の座席装置において、フレキシブルな耐荷力をもたせるために、後方乗客用シートの一方が折り曲げられて収容スペースを拡張したり、前記後方乗客用シートの両方が折り曲げられて前記収容スペースをさらに拡張するものは、本願の優先日時点で周知の技術事項(例えば、実願昭58-32459号(実開昭59-137832号)のマイクロフィルムの第1頁第18行?第2頁第2行、第4頁第14行?第5頁第11行、第3、5図、特開昭55-4257号公報の第2頁左上欄第15?19行、第3頁左上欄第16行?同右上欄第4行参照。以下「周知の技術事項2」という。)である。
そして、引用発明1と上記周知の技術事項1とは、共に「座席装置」という技術分野に属するものである。また、車両用の座席装置において、フレキシブルな耐荷力をもたせることは、一般的な課題であるから、引用発明1においても、内在する自明の課題であり、上記周知の技術事項2における課題と共通するものである。
してみると、、引用発明1に上記周知の技術事項2を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、引用発明1において、上記周知の技術事項2を適用することにより、相違点2に係る本願発明の「(i)前記後方乗客用シートの後方に収容スペースが設けられた3席構成と、(ii)前記後方乗客用シートの一方が折り曲げられて前記収容スペースが拡張された2席構成と、(iii)前記後方乗客用シートの両方が折り曲げられて前記収容スペースがさらに拡張された1席構成と、という複数の構成とすることができ」との発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
また、運転手用シートと後方乗客用シートとを、互いに同じ高さとすることは、通常の車両で一般的に行われている事項であるから、引用発明1において、相違点2に係る本願発明の「運転手用シートと前記後方乗客用シートとが、互いに同じ高さ位置とされ」との発明特定事項とすることは、当業者が所望により適宜なし得る設計的事項である。

(3)相違点3について
引用発明2の「運転者が座る前部シート」は、本願発明の「運転手用シート」に相当し、以下同様に、「(後部乗員が座る)後部シート」は「後方乗客用シート」に、「パワーユニット51」は「車両エンジン」に、「燃料タンク112」は「燃料タンク」に、それぞれ相当する。
してみると、引用発明2には、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項が開示されている。
そして、引用発明1と引用発明2とは、共に「座席装置」という技術分野に属し、車両のコンパクト化という共通の課題を有するものであるから、引用発明1に引用発明2を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって,引用発明1に引用発明2を適用して、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得る程度の事項といえる。

(4)本願発明の発明特定事項の全体によって奏される効果も、引用発明1、2、及び上記周知の技術事項1、2から当業者が予測し得る範囲内のものといえる。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、2、及び上記周知の技術事項1、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-06 
結審通知日 2016-09-12 
審決日 2016-09-26 
出願番号 特願2014-88967(P2014-88967)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永安 真  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 畑井 順一
黒瀬 雅一
発明の名称 コンパクトな座席装置  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  

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