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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1324662
審判番号 不服2015-21589  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-04 
確定日 2017-02-08 
事件の表示 特願2013-219007「熱管理システムを有する建設機械」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月24日出願公開、特開2014-134195〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、特許法第36条の2第1項の規定による平成25年10月22日(パリ条約による優先権主張 2013年1月11日 欧州特許庁)の特許出願であって、平成26年2月3日に明細書、特許請求の範囲、要約書及び図面の翻訳文が提出された後、平成26年11月21日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年7月30日付けで拒絶査定されたのに対し、平成27年12月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2.平成27年12月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年12月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成27年12月4日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正前の(すなわち、平成27年2月27日提出の手続補正書によって補正された)特許請求の範囲の請求項1の下記(ア)の記載を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の下記(イ)の記載へと補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
建設機械(1)であって、該建設機械(1)の排気ガスの処理のため、所定の分解温度を有する添加剤(9)を受入れるタンク(8)と、
前記添加剤(9)を前記タンク(8)側から及び/又は前記タンク(8)側に導くように構成される、少なくとも1つの接続ライン(10)と、
前記少なくとも1つの接続ライン(10)に接続され、前記タンク(8)から前記少なくとも1つの接続ライン(10)へ及び/又は前記接続ライン(10)から前記タンク(8)の中へ前記添加剤(9)を輸送するように構成される回収ユニット(16)と、を備え、
前記建設機械(1)は、前記添加剤(9)の分解温度を超えないように、前記タンク(8)内の前記添加剤(9)の温度に影響を及ぼすように設計されている熱管理システム(13)を更に含んで構成され、
前記タンク(8)は、断熱ハウジング(15)によって囲まれており、前記断熱ハウジング(15)は、液体または周辺空気が流れることができる導管(18)を含んで構成されることを特徴とする建設機械(1)。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
建設機械(1)であって、該建設機械(1)の排気ガスの処理のため、所定の分解温度を有する添加剤(9)を受入れるタンク(8)と、
前記添加剤(9)を前記タンク(8)側から及び/又は前記タンク(8)側に導くように構成される、少なくとも1つの接続ライン(10)と、
前記少なくとも1つの接続ライン(10)に接続され、前記タンク(8)から前記少なくとも1つの接続ライン(10)へ及び/又は前記接続ライン(10)から前記タンク(8)の中へ前記添加剤(9)を輸送するように構成される回収ユニット(16)と、を備え、
前記建設機械(1)は、前記添加剤(9)の分解温度を超えないように、前記タンク(8)内の前記添加剤(9)の温度に影響を及ぼすように設計されている熱管理システム(13)を更に含んで構成され、
前記タンク(8)は、断熱ハウジング(15)によって囲まれており、前記断熱ハウジング(15)へ周辺空気を導入する一方の通気ライン(19)及び前記断熱ハウジング(15)から前記周辺空気を導出する他方の通気ライン(19)が接続された導管(18)を含んで構成されることを特徴とする建設機械(1)。」(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「液体または周辺空気が流れることができる導管(18)」を、「周辺空気を導入する一方の通気ライン(19)及び前記断熱ハウジング(15)から前記周辺空気を導出する他方の通気ライン(19)が接続された」ものであると限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.独立特許要件についての判断
本件補正における特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.-1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2005-83223号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「エンジンの排気浄化装置」に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【0001】
本発明は、移動車両搭載のディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等から排出される窒素酸化物(NOx)を、還元剤を用いて還元除去する排気浄化装置に関し、特に還元剤の供給系を改良して排気浄化装置が有する本来機能の維持・適正化を図る技術に関する。
…(後略)…」(段落【0001】)

(イ)「【0024】
図1に本発明のエンジン排気浄化装置を概念的に示す。ガソリンあるいはディーゼルを燃料とするエンジン1の排気は、排気マニフォ-ルド2からNOxの還元触媒3が配設された排気管4を経由して大気中に排出される。詳細には、排気管4には排気上流側から順に一酸化窒素(NO)の酸化触媒、NOxの還元触媒、スリップ式アンモニア酸化触媒の3つの触媒が配設され、その前後に温度センサ、酸素センサ等が配設され排気系が構成されるが、詳細には図示していない。
【0025】
NOx還元触媒の排気上流には、還元剤供給装置10から噴射ノズル11を介して還元剤が空気と共に噴射供給される。本実施形態では還元剤として尿素水を用いる。他にアンモニア水溶液等を用いてよい。
噴射供給された尿素水は、排気管4内の排気熱により加水分解してアンモニアを容易に発生する。得られたアンモニアは、NOx還元触媒3において排気中のNOxと反応し、水及び無害なガスに浄化されることは知られたことである。尿素水は、固体もしくは粉体の尿素の水溶液で、貯蔵タンク20に貯蔵され、貯蔵タンク20のほぼ中央底部近くの下部位置に開口する吸込口12から吸込まれて、供給配管13を通じ還元剤供給装置10に供給される。ここで噴射に預からずに戻る尿素水は、戻り配管14を介して貯蔵タンク20内の上部位置に開口する戻り口15から貯蔵タンク20内に戻される。
【0026】
エンジン1の図示しない冷却水循環通路から平行通路として分岐した冷却水循環通路30には、三方向コック31、冷却水循環ポンプ32、電磁バルブ33、貯蔵タンク20内の尿素水と熱交換する熱交換パイプ41を備えた熱交換装置40、三方向コック34が順に配設されている。三方向コック31、34及び電磁バルブ33が冷却水循環通路30を開通する方向に切り換わる場合には、冷却水循環通路30は、エンジン1により加熱された熱媒体としての冷却水の循環により、熱交換パイプ41を介し貯蔵タンク20内を熱交換加熱する加熱回路として機能する。
【0027】
また、上記2つの三方向コック31,34に接続し、冷却水循環通路30に対して平行回路となる冷却用循環通路50が設けられ、該通路に、循環する冷却水を放熱する放熱装置51が介装される。三方向コック31、34及び電磁バルブ33が、冷却水循環ポンプ32及び放熱装置51を含む冷却用循環通路50を開通する方向に切り換わる場合には、冷却水循環通路30は、放熱装置51によるエンジン1の冷却水の循環放熱により、貯蔵タンク20内の熱交換パイプ41から尿素水を冷却する冷却回路として機能する。」(段落【0024】ないし【0027】)

(ウ)「【0031】
熱交換装置40の熱交換パイプ41は下に凸のU字状に湾曲され、濃度検出装置60及び検出部61の下方空間部を囲む形状となっている。そして、熱交換パイプ41の鉛直部は、供給配管13及び戻り配管14の鉛直部と一体に溶接され、相互の伝熱による熱交換が良好になる構成となっている。このため、この熱交換装置40を流通する熱媒体のエンジン冷却水が貯蔵タンク20内の尿素水よりも高温である場合には、熱交換装置40は尿素水の加熱装置として機能し、低温である場合は冷却装置として機能する。
…(中略)…
【0033】
酷暑期には、逆に貯蔵タンク20が大気、地面、エンジン、排気系などの加熱を受けて高温に上昇し、アンモニアを発生するおそれがある。この場合は、三方向コック31、34を切り替えて冷却用循環通路50を開通し、冷却水循環ポンプ32を駆動すれば、冷却水が放熱装置51で放熱されるから、熱交換装置40を循環する冷却水が高温となる尿素水と熱交換を行い、適温に維持され、もって貯蔵タンク20内にアンモニアを発生することを抑制することが出来る。」(段落【0031】ないし【0033】)

(エ)「【0037】
図10及び図11には、貯蔵タンク20の変形態様を示す。図10に示すものは、タンク外壁に断熱材例えば発泡断熱材81を吹き付けて、タンク内の尿素水を保温するものである。また、図11に示すものは、タンク外壁を二重構造にし、その間に発泡断熱材82を充填して、タンク内の尿素水を保温する。共に寒冷期の尿素水の放熱を防止して、その凍結を回避する補助材として有効であり、また、酷暑期には、外部からの加熱を防止して、タンク内の尿素水の過熱を抑制する効果がある。」(段落【0037】)

(2)引用文献1記載の事項
上記(1)(ア)ないし(エ)並びに図1、2及び11の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていることが分かる。

(カ)上記(1)(ア)ないし(エ)並びに図1、2及び11の記載から、引用文献1には、移動車両が記載されていることが分かる。

(キ)上記(1)(ア)及び(イ)並びに図1及び2の記載から、引用文献1に記載された移動車両は、移動車両搭載のディーゼルエンジン等の排気の浄化のため、排気熱により加水分解してアンモニアを発生する尿素水を貯蔵する貯蔵タンク20と、前記尿素水を前記貯蔵タンク20から還元剤供給装置10に供給する供給配管13と、前記供給配管13に接続され、前記供給配管13から前記貯蔵タンク20の中へ前記尿素水を戻す前記還元剤供給装置10及び戻り配管14と、を備えることが分かる。

(ク)上記(1)(イ)及び(ウ)並びに図1及び2の記載から、引用文献1に記載された移動車両は、尿素水を適温に維持することにより、貯蔵タンク20内にアンモニアが発生することを抑制することが出来るように、貯蔵タンク20内の尿素水と冷却水の熱交換を行う熱交換装置40を更に含んで構成されることが分かる。

(ケ)上記(1)(エ)及び図11の記載から、引用文献1に記載された移動車両において、貯蔵タンク20は、外壁が二重構造とされ、その間に発泡断熱材82を充填されていることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図1、2及び11の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「移動車両であって、該移動車両搭載のディーゼルエンジン等の排気の浄化のため、排気熱により加水分解してアンモニアを発生する尿素水を貯蔵する貯蔵タンク20と、
前記尿素水を前記貯蔵タンク20から還元剤供給装置10に供給する供給配管13と、
前記供給配管13に接続され、前記供給配管13から前記貯蔵タンク20の中へ前記尿素水を戻す前記還元剤供給装置10及び戻り配管14と、を備え、
前記移動車両は、前記尿素水を適温に維持することにより、貯蔵タンク20内にアンモニアが発生することを抑制することが出来るように、前記貯蔵タンク20内の尿素水と冷却水の熱交換を行う熱交換装置40を更に含んで構成され、
前記貯蔵タンク20は、外壁が二重構造とされ、その間に発泡断熱材82を充填されている移動車両。」

2.-2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2010-138849号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「作業機械」に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。

(サ)「【0001】
本発明は、排気ガス浄化触媒用還元剤供給装置を備えた作業機械に関する。」(段落【0001】)

(シ)「【0013】
以下、本発明を、図1乃至図3に示された一実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1および図2に示されるように、作業機械としての油圧ショベル10は、下部走行体11に機体としての上部旋回体12が旋回可能に設けられ、この上部旋回体12にキャブ13、作業装置14およびエンジン15などが搭載されている。エンジン15は、エンジン本体16と、このエンジン本体16を冷却するためのウォータジャケット(図示せず)とを備えている。
【0015】
エンジン15には、エンジン本体16の一側部から突設された回転軸に冷却ファン17が設けられ、この冷却ファン17に対向して冷却器としてのラジエータ18が配置されている。エンジン本体16の他側部上には、エンジン15から排出された排気ガスを消音・浄化処理する排気装置19が配置されている。
【0016】
上部旋回体12の後端部には、カウンタウエイト21が取付けられ、このカウンタウエイト21には、エンジン冷却水の熱を利用して保温した排気ガス浄化触媒用還元剤としての尿素水などの液体還元剤を排気装置19に供給する排気ガス浄化触媒用還元剤供給装置22の主要部分が内蔵されている。
【0017】
図3に示されるように、エンジン15の出力軸には、下部走行体11および上部旋回体12の油圧モータや作業装置14の油圧シリンダに対して作動油を供給する油圧ポンプ23,24が接続されている。エンジン15の排気装置19は、エンジン本体16に排気管25を介してマフラ本体26が接続され、このマフラ本体26の内部に排気ガス浄化触媒27と、この排気ガス浄化触媒27に対して液体還元剤を噴射するノズル28とが設けられている。
【0018】
エンジン15の排気ガス浄化触媒用還元剤供給装置22は、蓄熱タンク31の内部にパラフィン、エマルジョン(乳化液)などの蓄熱流体32が充填され、この蓄熱流体32中に、エンジン15の排気装置19に供給される液体還元剤を収容した還元剤タンク33が内蔵され、また、蓄熱タンク31の外表面は、蓄熱流体32の保温のためのタンク断熱材34により覆われている。還元剤タンク33の上端部に設けられた液体還元剤を注入する注入口33aは、タンク断熱材34の上面に開口され、キャップ33bにより閉じられている。
【0019】
蓄熱タンク31の蓄熱流体32中には、エンジン15との熱交換により加熱されたエンジン冷却水の供給を受けて蓄熱流体32を温めることで還元剤タンク33内の液体還元剤を温める熱交換器35が配置されている。」(段落【0013】ないし【0019】)

(2)引用文献2記載技術
上記(1)及び図1ないし3の記載から、引用文献2には、次の発明(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されているといえる。

「排気ガス浄化触媒用還元剤供給装置を備えた作業機械において、液体還元剤を収容した還元剤タンク33を内蔵する蓄熱タンク31の外表面はタンク断熱材34により覆われ、蓄熱タンク31の内部に蓄熱流体32が充填され、蓄熱タンク31内の熱交換器35にエンジン冷却水を循環させるエンジン冷却水回路36を設けるという技術。」

2.-3 対比
本願補正発明に係る作業機械は、その発明特定事項からみて、排気処理システムを有することを前提としているといえるから、本願補正発明と引用発明とを対比すると、「排気処理システムを備える装置」という限りにおいて、引用発明における「移動車両」は、本願補正発明における「建設機械」に相当する。
また、引用発明における「移動車両搭載のディーゼルエンジン等の排気」は、その構成又は技術的意義からみて、本願補正発明における「排気ガス」に相当し、以下同様に、「浄化」は「処理」に、「貯蔵タンク20」は「タンク」に、「尿素水」は「添加剤」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明において「尿素水」が「排気熱により加水分解してアンモニアを発生する」ことは、その技術的意義からみて、本願補正発明において「添加剤」が「所定の分解温度を有する」ことに相当する。
さらに、引用発明における「供給配管13」は、その構成からみて本願補正発明における「接続ライン」に相当し、同様に、「還元剤供給装置10及び戻り配管14」は「回収ユニット」に相当し、引用発明において「尿素水を貯蔵タンク20から還元剤供給装置10に供給する」ことは、本願補正発明において「添加剤をタンク側から及び/又はタンク側に導くように構成される」ことに相当し、同様に、「供給配管13に接続され、供給配管13から貯蔵タンク20の中へ尿素水を戻す」ことは、「少なくとも1つの接続ラインに接続され、タンクから少なくとも1つの接続ラインへ及び/又は接続ラインからタンクの中へ添加剤を輸送するように構成される」ことに相当する。
また、引用発明において「前記尿素水を適温に維持することにより、貯蔵タンク20内にアンモニアが発生することを抑制することが出来る」ことは、その技術的意義からみて、本願補正発明において「添加剤の分解温度を超えない」ことに相当し、同様に「貯蔵タンク20内の尿素水と冷却水を熱交換を行う」ことは、「タンク内の前記添加剤の温度に影響を及ぼすように設計されている」ことに相当し、引用発明における「熱交換装置40」は、その機能からみて、本願補正発明における「熱管理システム」に相当する。
そして、引用発明における「発泡断熱材82」は、その構成及び機能からみて、本願補正発明における「断熱ハウジング」に相当し、引用発明において「貯蔵タンク20は、外壁が二重構造とされ、その間に発泡断熱材82を充填されている」ことは、その構成からみて、本願補正発明において「タンクは、断熱ハウジングによって囲まれ」ていることに相当する。

以上から、本願補正発明と引用発明は、
「 排気処理システムを備える装置であって、排気処理システムを備える該装置の排気ガスの処理のため、所定の分解温度を有する添加剤を受入れるタンクと、
前記添加剤を前記タンク側から及び/又は前記タンク側に導くように構成される、少なくとも1つの接続ラインと、
前記少なくとも1つの接続ラインに接続され、前記タンクから前記少なくとも1つの接続ラインへ及び/又は前記接続ラインから前記タンクの中へ前記添加剤を輸送するように構成される回収ユニットと、を備え、
前記排気処理システムを備える装置は、前記添加剤の分解温度を超えないように、前記タンク内の前記添加剤の温度に影響を及ぼすように設計されている熱管理システムを更に含んで構成され、
前記タンクは、断熱ハウジングによって囲まれている排気処理システムを備える装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

〈相違点〉
(a)「排気処理システムを備える装置」に関し、本願補正発明においては「建設機械」であるのに対し、引用発明においては「移動車両」である点(以下、「相違点1」という。)。
(b)本願補正発明においては、「断熱ハウジングへ周辺空気を導入する一方の通気ライン及び断熱ハウジングから前記周辺空気を導出する他方の通気ラインが接続された導管を含んで構成される」のに対し、引用発明においては、そのような構成を有しない点(以下、「相違点2」という。)。

2.-4 判断
まず、相違点1について検討する。
建設機械に用いられるエンジンに排気ガス処理システムを設けることは、慣用技術(以下、「慣用技術」という。例えば、引用文献2の上記2.-2(1)(シ)の段落【0014】及び【0015】、特開2008-297981号の【特許請求の範囲】の【請求項1】、特開2010-285814号公報の段落【0020】等参照。)であって、排気処理システムに係る技術は、移動車両におけるものと建設機械におけるものとで共通する技術であるといえる。してみると、引用発明における移動車両の排気処理システムに係る技術を、建設機械の排気処理システムに適用することは、当業者の通常の創作能力の発揮の域を出ない。
したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に相違点2について検討する。
本願補正発明と引用文献2記載技術は、排気ガス浄化触媒用還元剤供給装置を備えた作業機械という共通の技術分野に属する。そこで、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項と引用文献2記載技術とを対応させると、引用文献2記載技術における「液体還元剤」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「添加剤」に相当し、以下同様に、「還元剤タンク33」は「タンク」に、「タンク断熱材34」及び「蓄熱流体32」は「断熱ハウジング」に、それぞれ相当する。また、引用文献2記載技術における「蓄熱タンク31内の熱交換器35にエンジン冷却水を循環させるエンジン冷却水回路36」は、タンク断熱材34及び蓄熱流体32内にエンジン冷却水を導入・導出する管路が接続された流路を有するものであるから、「断熱ハウジングへ熱媒体を導入する管路と、断熱ハウジングから熱媒体を導出する管路が接続された流路」という限りにおいて、引用文献2記載技術における「蓄熱タンク31内の熱交換器35にエンジン冷却水を循環させるエンジン冷却水回路36」は、本願補正発明における「断熱ハウジングへ周辺空気を導入する一方の通気ライン及び断熱ハウジングから周辺空気を導出する他方の通気ラインが接続された導管」に相当する。
したがって、引用文献2記載技術を本願補正発明の用語を用いて表現すると、「排気ガス浄化触媒用還元剤供給装置を備えた作業機械において、添加剤を収容したタンクは、断熱ハウジングに囲まれ、断熱ハウジングへ熱媒体を導入する管路と、断熱ハウジングから熱媒体を導出する管路が接続された流路を設けるという技術。」であるといえる。
一方、建設機械の還元剤タンク内の還元剤を冷却するために、周辺空気を導入する管路を設けることは、周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開2008-297981号公報の段落【0024】及び図2の「第2送風経路30」、及び特開2010-285814号公報の【0051】の「補助ダクト部」等を参照。)である。
そして、引用発明は、「酷暑期には、外部からの加熱を防止して、タンク内の尿素水の過熱を抑制する」(上記2.-1(1)(エ)参照。)ものであるから、引用発明において、周知技術を参酌しつつ、引用文献2記載技術を適用することによって、貯蔵タンク20の二重構造の外壁の発泡断熱材82が充填されている部位に、周辺空気を導入する管路及び導出する管路が接続された流路を設けることによって、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願補正発明は、全体として検討しても、引用発明並びに引用文献2記載技術、慣用技術及び周知技術から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできず、本願補正発明は、引用発明並びに引用文献2記載技術、慣用技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
上記のとおり、平成27年12月4日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし13に係る発明は、平成27年2月27日提出の手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲、並びに平成26年2月3日提出の図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2.の[理由]1.(1)(ア)【請求項1】のとおりのものである。

2.引用発明
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2005-83223号公報)記載の発明(引用発明)は、前記第2.の[理由]2.-1の(3)に記載したとおりである。

3.対比・判断
前記第2.の[理由]1.(2)で検討したとおり、本件補正は、該補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、すなわち本願発明の発明特定事項をさらに限定するものであるから、本願発明は、実質的に本願補正発明における発明特定事項の一部を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の[理由]2.-3及び2.-4に記載したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様の理由によって、本願発明は、引用発明並びに引用文献2記載の技術、慣用技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4.むすび
上記第3.のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-01 
結審通知日 2016-09-06 
審決日 2016-09-26 
出願番号 特願2013-219007(P2013-219007)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
P 1 8・ 575- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 敏行  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 中村 達之
槙原 進
発明の名称 熱管理システムを有する建設機械  
代理人 西山 春之  
代理人 有原 幸一  
代理人 小川 護晃  
代理人 河村 英文  
代理人 奥山 尚一  
代理人 松島 鉄男  
代理人 関谷 充司  

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