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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04W
審判 査定不服 特39条先願 取り消して特許、登録 H04W
管理番号 1324723
審判番号 不服2016-4971  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-05 
確定日 2017-02-28 
事件の表示 特願2014-140396「無線通信システム、通信装置、設定情報提供方法、設定情報取得方法、およびコンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月 6日出願公開、特開2014-209786、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、2005年11月30日に出願した特願2005-345468号の一部を2010年1月25日に出願した特願2010-013296号の一部を2012年7月3日に出願した特願2012-149457号の一部を2014年7月8日に出願した出願であって、平成27年3月16日付けで手続補正がされ、平成27年3月16日付けで拒絶理由が通知され、平成27年7月29日付けで拒絶理由が通知され、平成27年10月5日付けで手続補正がされ、平成27年12月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年4月5日に拒絶査定不服審判が請求され、平成28年10月26日付けで当審から拒絶理由が通知され、平成28年12月26日付けで手続補正がされたものである。


第2 原査定の理由の概要及び当審の拒絶理由

1.原査定の理由の概要

●理由(特許法第29条第2項)について

・請求項 1
・引用文献 1ないし4
引用文献1(特開2002-291067号公報)には、次のことが記載されている。
1)第13ないし16段落に「オーディオ再生機…の構成としては、…再生したデータを、…オーディオ処理部…に供給し、このオーディオ処理部…で所定のフォーマットのデジタルオーディオデータを得る。得られたオーディオデータは、…所定のチャンネルを使用して無線伝送させる。…オーディオ再生機…は、機器の動作状況を、…AVCTPのコマンドとして…無線送信させるようにしてある。この動作状況を示すコマンドには、再生中のオーディオ(曲)のトラック番号やタイトル,歌詞などのテキストのデータが含まれる場合もある。…オーディオ再生機…側から、再生機…の動作状況を示すコマンドを…受信したとき、…コマンドで指示された動作状況を…判別するようにしてある。この動作状況を判別したとき、…接続された表示部…に、判別した動作状況に関する表示を行うようにしてある。受信した動作状況を示すコマンドに、再生中のオーディオ(曲)のトラック番号やタイトル,歌詞などのテキストのデータが含まれる場合には、そのトラック番号などの数字や、テキストデータにより文字などを、…表示部…に表示させる場合もある。…この2台の間でブルートゥースによる無線伝送を行う場合には、オーディオ再生機…からオーディオ受信機…に対して、オーディオストリームデータが、所定の無線伝送チャンネルを使用して無線伝送される。また、再生機…のリモートコントロール装置であるオーディオ受信機…からは、再生機…の動作を指示するコマンドが無線伝送される。このとき使用される無線伝送チャンネルは、ストリームデータの伝送に使用されるチャンネルとは別のチャンネルである。さらに、オーディオ再生機…からオーディオ受信機…に対して、再生機…の動作状況を示すコマンドが無線伝送される。このコマンドの伝送チャンネルは、基本的に受信機…からコマンドが伝送されるチャンネルと同じチャンネルが使用される。」こと
2)第120段落に「基本的にマスタとスレーブの間で接続認証と暗号化の処理を完了しなければ、データ転送へ移行することはできない。」こと
3)第152ないし155段落に「表示させるためのデータとしては、…インフォメーションタイプのデータ…で構成される。インフォメーションタイプとしては、…トランスポートステートと、トラックナンバーと、カウンタ値と…がここでは規定されている。…トランスポートステートとしては、例えばオーディオ再生機…の場合には、再生状態,停止状態などの機器の動作モード情報に相当する。…ラックナンバーは、再生中のプログラム(曲)の番号であるトラック番号に相当し、…トラック番号を指示する。…カウンタ値は再生中の曲の再生時間を示す値に相当し、…再生時間を指示する。」こと
4)第161ないし164段落に「この表示指令データを受信した側…では、この表示指令データを受信すると、表示指令データで指示された内容を判別し、その判別した内容に基づいて、この受信機…の表示部…で表示できる形式の表示データを生成させて、オーディオ再生機の動作状態などを表示させる。…再生中のトラック番号を受信したとき、そのトラック番号を数字で表示させる。また、再生中のカウンタ値のデータを受信したとき、そのカウンタ値としての時分秒フレーム数を数字で表示させる。…カウンタ値のように随時値が変化する…。…動作状態のデータ等については、オーディオ再生機での動作状態に変化があったときに伝送するようにしても良い。…再生中のプログラムの番号であるトラック番号に変化があったときに、このトラック番号のデータや、そのトラック番号の曲に関連したテキストデータ等を伝送するようにしても良い。このようにすることで、トラック番号やテキスト表示が、実際の再生中の曲に対応した表示となる。」こと
5)第167段落に「機器が備えるサブユニットについても、オーディオ機器の例について説明したが、ビデオ機器など他の機器構成としても良い。」こと
よって、引用文献1には、端末は再生したデータ及び該データの番号情報を他の端末に近接通信で送信し、該他の端末は受信した該データを出力し、認証処理及び暗号化処理を前提とし、扱うデータの種類が異なる多様な機器に対応することが記載されていると認められる。
本願の請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、本願の請求項1に係る発明は、通信装置において「他の通信装置に無線通信を介してアクセスするためのアクセス情報を、…他の無線装置から…無線通信と異なる近接通信により受信する」構成を有する点で相違する。
しかしながら、例えば、引用文献2(特開2004-040528号公報)、特に、第30ないし33段落参照、引用文献3(特開2004-104653号公報)、特に、第74ないし78段落参照、引用文献4(特開2004-0336538号公報)、特に、第52、60段落参照、に記載されるように、無線局間において、近接通信で識別情報を交換し、該近接通信ではない無線通信を介し、該識別情報を用いて通信接続を行うことは周知の事項と認められる。
よって、本願発明は引用文献1ないし4に記載された発明により、当業者が容易に想到し得たものである。

・請求項 2ないし15
・引用文献 1ないし4
引用文献1、特に、第13ないし16、120、152ないし155、161ないし164、167段落、には、端末は再生したデータ及び該データの番号情報を他の端末に近接通信で送信し、該他の端末は受信した該データを出力し、認証処理及び暗号化処理を前提とし、扱うデータの種類が異なる多様な機器に対応することが記載されている。
そして、例えば、引用文献2(特開2004-040528号公報)、特に、第30ないし33段落参照、引用文献3(特開2004-104653号公報)、特に、第74ないし78段落参照、引用文献4(特開2004-0336538号公報)、特に、第52、60段落参照、に記載されるように、無線局間において、近接通信で識別情報を交換し、該近接通信ではない無線通信を介し、該識別情報を用いて通信接続を行うことは周知の事項と認められる。
よって、本願発明は引用文献1ないし4に記載された発明により、当業者が容易に想到し得たものである。

<引用文献等一覧>
1.特開2002-291067号公報
2.特開2004-040528号公報(新たに引用された文献;周知技術を示す文献)
3.特開2004-104653号公報(新たに引用された文献;周知技術を示す文献)
4.特開2004-336538号公報(新たに引用された文献;周知技術を示す文献)


2.当審の拒絶理由

(同日出願)この出願の下記の請求項に係る発明は、同日出願された下記の出願に係る発明と同一と認められ、かつ、下記の出願に係る発明は特許されており協議を行うことができないから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.特願2012-149457号(特許第5837462号)

請求項2について

請求項2に係る発明は、先願1の請求項3に係る発明と同一である。

請求項4について

請求項4に係る発明(請求項2を引用する場合)は、先願1の請求項5に係る発明(請求項3を引用する場合)と同一である。

請求項5について

請求項5に係る発明(請求項2を引用する場合)は、先願1の請求項6に係る発明(請求項3を引用する場合)と同一である。

請求項10について

請求項10に係る発明(請求項8を引用する場合)は、先願1の請求項10および11に係る発明と同一である。
請求項10に係る発明(請求項9を引用する場合)は、先願1の請求項12に係る発明と同一である。

先願1の請求項10には、文言上、再生位置の情報をコンテンツデータと「ともに」受信する記載は無いが、先願の請求項10が引用する請求項9には「コンテンツデータ及び前記コンテンツデータの再生位置の情報」を無線通信を解して受信することが記載されているから、実質的な違いは無い。

請求項12について

請求項12に係る発明(請求項8を引用する請求項10を引用する場合)は、先願1の請求項14に係る発明(請求項10または11を引用する場合)と同一である。
請求項12に係る発明(請求項9を引用する請求項10を引用する場合)は、先願1の請求項14に係る発明(請求項12を引用する場合)と同一である。

請求項13について

請求項13に係る発明(請求項8を引用する請求項10を引用する場合)は、先願1の請求項15に係る発明(請求項10または11を引用する場合)と同一である。
請求項13に係る発明(請求項9を引用する請求項10を引用する場合)は、先願1の請求項15に係る発明(請求項12を引用する場合)と同一である。


<拒絶の理由を発見しない請求項>
請求項1、3、6-9、11、14-15に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。

引 用 文 献 等 一 覧

1.特願2012-149457号(特許第5837462号)


第3 本願発明

本願の請求項1-13に係る発明は、平成28年12月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-13に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
コンテンツデータを再生するコンテンツ再生部と、
前記コンテンツ再生部が再生している前記コンテンツデータを他の通信装置に送信する送信コンテンツデータとして指定するコンテンツ指定部と、
前記他の通信装置に無線通信を介してアクセスするためのアクセス情報を、前記他の通信装置から前記無線通信と異なる近距離通信により受信する近距離通信部と、
前記コンテンツ指定部により指定された前記コンテンツデータの再生位置の情報を前記コンテンツデータとともに前記アクセス情報に基づき前記無線通信を介して前記他の通信装置に送信する無線通信部と、
を備える、通信装置。
【請求項2】
前記近距離通信部は、前記無線通信を行うための設定情報を、前記他の通信装置から前記近距離通信により受信し、
前記無線通信部は、前記設定情報に基づき前記無線通信を行い、
前記設定情報は鍵情報を含み、
前記無線通信は前記鍵情報に基づいて暗号化される、請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記コンテンツデータは、音楽コンテンツのコンテンツデータである、請求項1または2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記コンテンツデータは、音声コンテンツ、映像コンテンツ、電子図書、ゲーム、ソフトウェアまたは撮影された画像コンテンツのコンテンツデータである、請求項1または2に記載の通信装置。
【請求項5】
コンテンツを再生する通信装置が他の通信装置との間で行う通信方法であって、
コンテンツデータを再生するコンテンツ再生ステップと、
前記コンテンツ再生ステップで再生されている前記コンテンツデータを他の通信装置に送信する送信コンテンツデータとして指定するコンテンツ指定ステップと、
前記他の通信装置に無線通信を介してアクセスするためのアクセス情報を、前記他の通信装置から前記無線通信と異なる近距離通信により受信する近距離通信ステップと、
前記コンテンツ指定ステップにより指定された前記コンテンツデータの再生位置の情報を前記コンテンツデータとともに前記アクセス情報に基づき前記無線通信を介して前記他の通信装置に送信する無線通信ステップと、
を備える、通信方法。
【請求項6】
コンピュータに、
コンテンツデータを再生するコンテンツ再生ステップと、
前記コンテンツ再生ステップで再生されている前記コンテンツデータを他の通信装置に送信する送信コンテンツデータとして指定するコンテンツ指定ステップと、
前記他の通信装置に無線通信を介してアクセスするためのアクセス情報を、前記他の通信装置から前記無線通信と異なる近距離通信により受信する近距離通信ステップと、
前記コンテンツ指定ステップにより指定された前記コンテンツデータの再生位置の情報を前記コンテンツデータとともに前記アクセス情報に基づき前記無線通信を介して前記他の通信装置に送信する無線通信ステップと、
を実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項7】
他の通信装置が無線通信を介して自装置にアクセスするためのアクセス情報を、前記他の通信装置に前記無線通信と異なる近距離通信により送信する近距離通信部と、
前記他の通信装置が再生しているコンテンツデータを、前記アクセス情報に基づく前記無線通信を介して前記他の通信装置から受信する無線通信部と、
前記コンテンツデータを再生するコンテンツ再生部と、
を備え、
前記無線通信部は、前記コンテンツ再生部が再生する前記コンテンツデータの再生位置の情報を前記コンテンツデータとともに前記他の通信装置から受信する、通信装置。
【請求項8】
前記コンテンツ再生部は、前記コンテンツデータを、前記無線通信部が受信した前記再生位置の情報に対応する位置から再生する、請求項7に記載の通信装置。
【請求項9】
前記近距離通信部は、前記無線通信を行うための設定情報を、前記他の通信装置へ前記近距離通信により送信し、
前記無線通信部は、前記設定情報に基づく前記無線通信を行い、
前記設定情報は鍵情報を含み、
前記無線通信は前記鍵情報に基づいて暗号化される、請求項7または8に記載の通信装置。
【請求項10】
前記コンテンツデータは、音楽コンテンツのコンテンツデータである、請求項7?9のいずれかに記載の通信装置。
【請求項11】
前記コンテンツデータは、音声コンテンツ、映像コンテンツ、電子図書、ゲーム、ソフトウェアまたは撮影された画像コンテンツのコンテンツデータである、請求項7?9のいずれかに記載の通信装置。
【請求項12】
コンテンツを再生する通信装置が他の通信装置との間で行う通信方法であって、
他の通信装置が無線通信を介して自装置にアクセスするためのアクセス情報を、前記他の通信装置に前記無線通信と異なる近距離通信により送信する近距離通信ステップと、
前記他の通信装置が再生しているコンテンツデータを、前記アクセス情報に基づく前記無線通信を介して前記他の通信装置から受信する無線通信ステップと、
前記コンテンツデータを再生するコンテンツ再生ステップと、
を含み、
前記無線通信ステップでは、前記コンテンツ再生ステップで再生される前記コンテンツデータの再生位置の情報を前記コンテンツデータとともに前記他の通信装置から受信する、通信方法。
【請求項13】
コンピュータに、
他の通信装置が無線通信を介して自装置にアクセスするためのアクセス情報を、前記他の通信装置に前記無線通信と異なる近距離通信により送信する近距離通信ステップと、
前記他の通信装置が再生しているコンテンツデータを、前記アクセス情報に基づく前記無線通信を介して前記他の通信装置から受信する無線通信ステップと、
前記コンテンツデータを再生するコンテンツ再生ステップと、
を実行させ、
前記無線通信ステップでは、前記コンテンツ再生ステップで再生される前記コンテンツデータの再生位置の情報を前記コンテンツデータとともに前記他の通信装置から受信する、コンピュータプログラム。」


第4 当審の判断

1.原査定の理由について

(1)引用発明

原査定の理由に用いられた特開2002-291067号公報(以下「引用例1」という。下線は当審が付与。)には、

「【0011】本発明においては、ブルートゥース(Bluetooth:商標)と称される無線伝送方式で、複数台の機器間で無線ネットワークを組んだものに適用するようにしたものである。ブルートゥース規格の無線伝送方式については後述する。
【0012】図1は、本例の無線ネットワークを構成する機器である2台の機器100,200の構成を示したものである。ここでは、機器100としてはオーディオ再生機としてあり、機器200としてはオーディオ受信機としてある。オーディオ再生機100は、所定の記録媒体(ここではディスク)からオーディオデータを再生して、その再生したオーディオデータを近距離無線処理部10で無線送信させるようにしてある。オーディオ受信機200は、近距離無線処理部10で受信したオーディオデータを、接続されたヘッドホン装置から出力させる処理を行うようにしてあり、オーディオ再生機100での再生を制御するリモートコントロール装置としても機能するようにしてある。
【0013】オーディオ再生機100の構成としては、ディスク再生部101で記録媒体から再生したデータを、システム制御部102の制御により、オーディオ処理部103に供給し、このオーディオ処理部103で所定のフォーマットのデジタルオーディオデータを得る。得られたオーディオデータは、オーディオ再生機100内の無線処理部10に供給して、所定のチャンネルを使用して無線伝送させる。また、無線処理部10で、このオーディオ再生機100の動作を制御するコマンドを受信したとき、システム制御部102に受信したコマンドを送り、システム制御部102はそのコマンドで指示された動作を実行する。ここでは、AVCTPのコマンドを受信するようにしてある。AVCTPのコマンドの詳細については後述する。また本例のオーディオ再生機100は、機器の動作状況を、システム制御部102の制御で、AVCTPのコマンドとして無線処理部10で無線送信させるようにしてある。この動作状況を示すコマンドには、再生中のオーディオ(曲)のトラック番号やタイトル,歌詞などのテキストのデータが含まれる場合もある。」

「【0142】オーディオ受信機200は、この受信機200の動作を制御するパネルサブユニット230を備え、このパネルサブユニット230がAVDCPのコマンドの送受信を行う。無線伝送路990としては、例えばチャンネルCHa?CHn(nは任意の数)のチャンネルが用意されている。オーディオ処理部201は、受信機200のプラグ211及びサブユニットプラグ221を介して無線伝送路990の所定のチャンネルCHaで通信を行い、ストリームデータであるオーディオデータをチャンネルCHaで得る。
【0143】パネルサブユニット230は、キー操作に基づいてコマンドを発行する操作指示部231と、受信したコマンドに基づいて表示を行う表示処理部232とに機能的に分けることができる。パネルサブユニット230内の操作指示部231が発行したコマンドは、サブユニットプラグ222及びプラグ212を介して、無線伝送路990の所定のチャンネルCHbに送出される。また、チャンネルCHbを介してサブユニットプラグ222が受信したコマンドは、パネルサブユニット230内の表示処理部232に送り、コマンドに基づいた表示処理が行われる。」

「【0148】図39は、パネルサブユニットに対して伝送される本例のパススルー(PASSTHROUGH )コマンドの構成を示した図である。パススルーコマンドは、本来は機器の動作を制御するコマンドを送るためのものであるが、本例の場合には、オーディオ再生機100からオーディオ受信機200に対して、パススルーコマンドを使用して表示指令コマンドを送ることができるようにしてある。図39はこの表示指令としてのパススルーコマンドの構成例を示したものである。
【0149】まず、図39のAに示すように、コマンドタイプとして、相手の状態を制御するデータであるコントロール(Control )とされ、コマンドの宛先として、相手の機器のパネルサブユニット(Panel Subunit )が指定される。なお、サブユニットの代わりにユニット(機器)を指定するようにしても良い。オペコードの区間には、特定のベンダー(機器メーカー)で規定されたデータであることを示すベンダーディペンドのデータが配置される。
【0150】オペランドのデータとしては、最初にカンパニーIDでブルートゥース(Bluetooth SIG)用のIDが配置される。その後のオペランドの区間に、ベンダーで規定されたデータが配置される。本例の場合には、このオペランドの区間に、表示を指示するデータが配置される。
【0151】図39のBは、このオペランドの区間の表示を指示するデータの詳細を示す図で、最初に、AVCTPのプロトコルであることを示すカテゴリーのコードが配置され、続いてファンクションタイプとして、表示指示用のデータであることを示すディスプレイデータが配置され、最後に表示させるためのデータ(ファンクションタイプに特有のデータ)が配置される。
【0152】表示させるためのデータとしては、図39のCに示すように、インフォメーションタイプのデータと、そのインフォメーションタイプに特有のデータで構成される。インフォメーションタイプとしては、例えば図40に示すように、トランスポートステートと、トラックナンバーと、カウンタ値と、テキストの4つのタイプがここでは規定されている。」

「【0155】カウンタ値は再生中の曲の再生時間を示す値に相当し、例えば4バイトを割当てて、時分秒フレームの値で再生時間を指示する。」

の記載があるから、

「無線伝送方式で、複数台の機器間で無線ネットワークを組んだものに適用するようにしたものであり、
オーディオ再生機100は、所定の記録媒体からオーディオデータを再生して、その再生したオーディオデータを近距離無線処理部10で無線送信させるようにしてあり、
オーディオ受信機200は、近距離無線処理部10で受信したオーディオデータを、接続されたヘッドホン装置から出力させる処理を行うようにしてあり、オーディオ再生機100での再生を制御するリモートコントロール装置としても機能するようにしてあり、
オーディオ再生機100の構成としては、ディスク再生部101で記録媒体から再生したデータを、システム制御部102の制御により、オーディオ処理部103に供給し、このオーディオ処理部103で所定のフォーマットのデジタルオーディオデータを得て、得られたオーディオデータは、オーディオ再生機100内の無線処理部10に供給して、所定のチャンネルを使用して無線伝送させ、
オーディオ再生機100は、機器の動作状況を、システム制御部102の制御で、AVCTPのコマンドとして無線処理部10で無線送信させるようにしてあり、この動作状況を示すコマンドには、再生中の曲のトラック番号やタイトル,歌詞などのテキストのデータが含まれる場合もあり、
オーディオ受信機200は、この受信機200の動作を制御するパネルサブユニット230を備え、このパネルサブユニット230がAVDCPのコマンドの送受信を行い、
無線伝送路990としては、チャンネルCHa?CHnのチャンネルが用意されており、オーディオ処理部201は、受信機200のプラグ211及びサブユニットプラグ221を介して無線伝送路990の所定のチャンネルCHaで通信を行い、ストリームデータであるオーディオデータをチャンネルCHaで得て、
チャンネルCHbを介してサブユニットプラグ222が受信したコマンドは、パネルサブユニット230内の表示処理部232に送り、コマンドに基づいた表示処理が行われ、
オーディオ再生機100からオーディオ受信機200に対して、パススルーコマンドを使用して表示指令コマンドを送り、
パススルーコマンドは、
コマンドタイプとして、相手の状態を制御するデータであるコントロール(Control )とされ、コマンドの宛先として、相手の機器のパネルサブユニット(Panel Subunit )が指定され、オペコードの区間には、特定のベンダー(機器メーカー)で規定されたデータであることを示すベンダーディペンドのデータが配置され、オペランドのデータとしては、最初にカンパニーIDでブルートゥース(Bluetooth SIG)用のIDが配置され、その後のオペランドの区間に、表示を指示するデータが配置され、
表示を指示するデータは、最初に、AVCTPのプロトコルであることを示すカテゴリーのコードが配置され、続いてファンクションタイプとして、表示指示用のデータであることを示すディスプレイデータが配置され、最後に表示させるためのデータが配置され、
表示させるためのデータとしては、インフォメーションタイプのデータと、そのインフォメーションタイプに特有のデータで構成され、インフォメーションタイプとしては、トランスポートステートと、トラックナンバーと、カウンタ値と、テキストの4つのタイプが規定され、
カウンタ値は再生中の曲の再生時間を示す値に相当し、例えば4バイトを割当てて、時分秒フレームの値で再生時間を指示する
オーディオ再生機。」(以下「引用発明」という。)

が記載されている。


(2)本願発明1と引用発明の比較

引用発明の「ディスク再生部」は、本願発明1の「コンテンツ再生部」に相当する。

引用発明は、オーディオ受信機がチャンネルCHaでオーディオデータを得て、チャンネルCHbでコマンドを受信するから、オーディオ再生機の近距離無線処理部は、チャンネルCHaでオーディオデータを再生し、チャンネルCHbでコマンドを送信しているといえる。
引用発明の、オーディオ再生機がオーディオ受信機に対して送信するパススルーコマンドに含まれる「再生中の曲の再生時間を示す値に相当するカウンタ値」は、本願発明1の「コンテンツデータの再生位置の情報」に相当する。
そうすると、引用発明のオーディオ再生機は、近距離無線処理部から、チャンネルCHaでオーディオデータを送信し、コンテンツデータの再生位置の情報を含むコマンドをチャンネルCHbで送信しているから、「コンテンツデータの再生位置の情報を前記コンテンツデータとともに無線通信を介して前記他の通信装置に送信する無線通信部」を備えているといえる。

したがって、本願発明1と引用発明は、

「コンテンツデータを再生するコンテンツ再生部と、
前記コンテンツ指定部により指定された前記コンテンツデータの再生位置の情報を前記コンテンツデータとともに前記無線通信を介して前記他の通信装置に送信する無線通信部と、
を備える、通信装置。」

で一致し、下記の点で相違する。

相違点1

引用発明は、「再生したオーディオデータを近距離無線処理部10で無線送信」しているが、「前記コンテンツ再生部が再生している前記コンテンツデータを他の通信装置に送信する送信コンテンツデータとして指定するコンテンツ指定部」は記載されてない点。

相違点2

引用発明は、「前記他の通信装置に無線通信を介してアクセスするためのアクセス情報を、前記他の通信装置から前記無線通信と異なる近距離通信により受信する近距離通信部」を備え、コンテンツデータの再生位置の情報とコンテンツデータを送信する無線通信が「アクセス情報に基づ」いた無線通信である点。


(3)判断

相違点1について

本願発明1の「再生しているコンテンツ」については、本願の明細書(下線は当審が付与。)に

「【0089】
子側通信装置206が転送対象のコンテンツを指定する場合に、ユーザによる入力装置を介した入力のほか、子側通信装置206に備えられるコンテンツ再生部(図示なし)により再生中のコンテンツを転送対象として自動的に指定することもできる。再生中のコンテンツを転送対象として指定する場合に、子側通信装置206において再生が終了している位置(再生位置)の情報をコンテンツとともに親側通信装置204に送信すれば、親側通信装置204は、取得した位置の情報に従って、その位置からコンテンツを再生することができる。」

とあるから、ユーザが入力装置によってコンテンツを指定するのでなく、「再生中のコンテンツ」を自動的に指定するものである。

引用発明は、ディスク再生部が再生するオーディオデータを送信するだけであって、送信コンテンツデータを「指定」しない。

さらに、引用発明は、「オーディオ受信機」が「オーディオ再生機」のリモートコントロール装置として機能するから、「オーディオ再生機」は「オーディオ受信機」からの制御に基づいて動作しているに過ぎない。
すなわち、引用発明において、コンテンツデータの「指定」は「オーディオ再生機」でなく「オーディオ受信機」が行っているのであって、「オーディオ再生機」が「再生している」コンテンツデータを「指定」して送信コンテンツとして送信するのではないことを示している。

したがって、引用発明において、「オーディオ再生機」がコンテンツデータの「指定」を行うようことは容易に想到しうるとはいえない。

相違点2について

原査定において周知文献として用いられた特開2004-336538号公報(以下「引用例2」という。下線は当審が付与。)には、

「【0049】
図1に示される無線通信システムは、ノートPC1と、無線LANアクセスポイント2と、カラープリンタ3と、モノクロプリンタ4と、イーサネット(登録商標)LAN5とから構成される。
【0050】
ノートPC1は、後述する図2に示すように赤外線通信部19と無線通信部20とを両方備え、赤外線通信と無線通信とを行う。」

「【0052】
例えば、ノートPC1は、当該ノートPC1の赤外線通信部19を用い、カラープリンタ3の赤外線通信部40と赤外線通信を行い、カラープリンタ3より無線LANアクセスポイント2の設定情報やイーサネット(登録商標)LAN5内のカラープリンタ3のIPアドレスを取得する。
【0053】
なお、ノートPC1は、カラープリンタ3のIPアドレスと共にカラープリンタ3のホスト名等の情報も取得するようにしてもよい。
【0054】
無線LANアクセスポイント2の設定情報としては例えば、無線通信規格の名称、無線LANアクセスポイント2で用いられている無線チャネル、変調方式及びESSIDの情報等である。」

「【0057】
ノートPC1は、当該ノートPC1の赤外線通信部19を用い、カラープリンタ3より無線LANアクセスポイント2の設定情報やイーサネット(登録商標)LAN5内のカラープリンタ3のIPアドレス及びホスト名等の情報を取得すると、前記確立したカラープリンタ3との赤外線リンクを切断し、赤外線通信を終了する。
【0058】
一方、ノートPC1は、当該ノートPC1の無線通信部20を用い、前記取得した無線LANアクセスポイント2の設定情報を基に、例えば、IEEEが定めた無線LANの規格であるIEEE802.11bに則り、無線LANアクセスポイント2と無線通信を行う。」

「【0060】
ノートPC1は、当該ノートPC1の無線通信部20を用い、前記取得したカラープリンタ3のIPアドレス等を基に、無線LANアクセスポイント2を介してカラープリンタ3と通信を行う。
【0061】
例えば、ノートPC1は、当該ノートPC1の無線通信部20を用い、ドキュメント等を、無線LANアクセスポイント2を介してカラープリンタ3に送信し、印刷を行ったりする。」

の記載がある。

ここで、無線LANは「無線通信」であり、赤外線通信は「無線通信と異なる近距離通信」であり、「無線LANアクセスポイントの設定情報」や「カラープリンタのIPアドレス」は、無線LANを介してカラープリンタにアクセスするための情報であるから「他の通信装置に無線通信を介してアクセスするためのアクセス情報」である。
また、「ドキュメント」は「コンテンツ」であるから、ノートPCは「コンテンツを送信する通信装置」である。

したがって、引用例2によれば、

「前記他の通信装置に無線通信を介してアクセスするためのアクセス情報を、前記他の通信装置から前記無線通信と異なる近距離通信により受信する近距離通信部」を有する、「コンテンツを無線通信により送信する通信装置」は周知である。

引用発明の「通信装置」はコンテンツを送信する装置であるから、引用発明においても、通信装置が「前記他の通信装置に無線通信を介してアクセスするためのアクセス情報を、前記他の通信装置から前記無線通信と異なる近距離通信により受信する近距離通信部」を備えるようにすることは当業者が容易に想到しうることである。

(4)まとめ

したがって、本願発明1は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とはいえない。

請求項2-6に係る発明は、(3)の「相違点1」の構成を有するから、同様に特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とはいえない。
請求項7-13に係る発明も、「再生されているコンテンツ」を受信することを構成要素としている一方、引用発明においては、指定したコンテンツを受信するだけであって、「再生しているコンテンツ」は受信しないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とはいえない。


2.当審の拒絶理由について

特許第5837462号(以下「先の特許」という。)について

本願の請求項2に係る発明は、

「前記設定情報は鍵情報を含み、
前記無線通信は前記鍵情報に基づいて暗号化される」

ことをその構成要件とするものである一方、設定情報に含まれる鍵情報に基づいて「無線通信が暗号化される」ことは、先の特許のいずれの請求項に係る発明についての構成要件にも存在しない。

したがって、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない、とはいえない。


第5 むすび

以上のとおり、本願の請求項1-13に係る発明は、いずれも、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-16 
出願番号 特願2014-140396(P2014-140396)
審決分類 P 1 8・ 4- WY (H04W)
P 1 8・ 121- WY (H04W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松野 吉宏  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 水野 恵雄
吉田 隆之
発明の名称 無線通信システム、通信装置、設定情報提供方法、設定情報取得方法、およびコンピュータプログラム  
代理人 亀谷 美明  

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