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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1324827
異議申立番号 異議2016-700292  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-11 
確定日 2016-12-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5792787号発明「タイヤトレッド用ゴム組成物及びこれを用いて製造したタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5792787号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。 特許第5792787号の請求項1及び4に係る特許を維持する。 特許第5792787号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 主な手続の経緯
特許第5792787号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成25年11月25日(パリ条約による優先権主張 平成24年12月14日(KR)大韓民国)に特許出願され、平成27年8月14日にその特許権の設定登録がされ、平成28年4月11日に特許異議申立人 星正美により特許異議の申立てがされ、同月14日に特許異議申立人 伊達俊二により特許異議の申立てがされ、当審において同年7月12日付けで取消理由(以下、単に「取消理由」という。)が通知され、同年10月12日付け(受理日:同月13日)で意見書が提出されるとともに訂正の請求がされたので、上記両特許異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、上記両特許異議申立人のいずれからも意見書が提出されなかったものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成28年10月12日付けでされた訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)による訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「スチレン含量が15?25重量%で、ブタジエン内のビニル含量が60?65重量%である、回分式方法によって製造された第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR1)20?80重量部を含む原料ゴム」とあるのを「スチレン含量が15?25重量%で、ブタジエン内のビニル含量が60?65重量%である、回分式方法によって製造された第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR1)40?80重量部、スチレン含量が30?40重量%で、ブタジエン内のビニル含量が20?30重量%である、連続式方法によって製造された第2溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR2)10?20重量部、およびブタジエンゴム10?60重量部を含む原料ゴム」と訂正する。なお、当該請求項1を引用する請求項4も併せて訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴムは、分子がケイ素(Si)またはスズ(Sn)によってカップリングされ、末端がヒドロキシル基またはアミン基に変性される」とあるのを「前記第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴムは、分子がケイ素(Si)によってカップリングされ、末端がヒドロキシル基に変性される」と訂正する。なお、当該請求項1を引用する請求項4も併せて訂正する。なお、当該請求項1を引用する請求項4も併せて訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項ごとか否か
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に「スチレン含量が15?25重量%で、ブタジエン内のビニル含量が60?65重量%である、回分式方法によって製造された第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR1)20?80重量部を含む原料ゴム」とあるのを「スチレン含量が15?25重量%で、ブタジエン内のビニル含量が60?65重量%である、回分式方法によって製造された第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR1)40?80重量部、スチレン含量が30?40重量%で、ブタジエン内のビニル含量が20?30重量%である、連続式方法によって製造された第2溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR2)10?20重量部、およびブタジエンゴム10?60重量部を含む原料ゴム」と訂正するものであり、訂正前の請求項1に記載された原料ゴムをさらに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、明細書の段落【0013】、【0014】、【0076】に基づくものであるから新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも、又は変更するものでもない。
さらに、訂正事項1は、訂正後の請求項1及び4についての訂正を含むものであるが、訂正前の請求項2ないし4は訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし4は、一群の請求項である。よって、訂正事項1は、一群の請求項に対して請求されたものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項1に「前記第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴムは、分子がケイ素(Si)またはスズ(Sn)によってカップリングされ、末端がヒドロキシル基またはアミン基に変性される」とあるのを「前記第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴムは、分子がケイ素(Si)によってカップリングされ、末端がヒドロキシル基に変性される」と訂正するものであり、訂正前の請求項1に記載された分子及び末端をさらに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも、又は変更するものでもない。
さらに、訂正事項2は、訂正後の請求項1及び4についての訂正を含むものであるが、訂正前の請求項2ないし4は訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし4は、一群の請求項である。よって、訂正事項2は、一群の請求項に対して請求されたものである。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3及び4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし4について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。)は、本件訂正の請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
スチレン含量が15?25重量%で、ブタジエン内のビニル含量が60?65重量%である、回分式方法によって製造された第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR1)40?80重量部、スチレン含量が30?40重量%で、ブタジエン内のビニル含量が20?30重量%である、連続式方法によって製造された第2溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR2)10?20重量部、およびブタジエンゴム10?60重量部を含む原料ゴム100重量部と、
窒素吸着比表面積が155?185m^(2)/g、CTAB値が150?170m^(2)/gであるシリカ60?90重量部と、
を含み、
前記第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴムは、分子がケイ素(Si)によってカップリングされ、末端がヒドロキシル基に変性されることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
削除
【請求項3】
削除
【請求項4】
請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物を用いて製造することを特徴とするタイヤ。」

第4 取消理由の概要
1.本件特許の請求項1、3及び4に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された甲1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、本件特許の請求項1、3及び4に係る特許は取り消すべきものである。
2.本件特許の請求項1?4に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された上記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、本件特許の請求項1?4に係る特許は取り消すべきものである。
3.本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、本件特許の請求項1?4に係る特許は取り消すべきものである。
4.本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、本件特許の請求項1?4に係る特許は取り消すべきものである。

第5 取消理由についての判断
1 取消理由1(特許法第29条第1項第3号)
(1)刊行物
甲第1号証:韓国特許10-1132791号公報(以下、「甲1」という。また、特許異議申立人 星正美が提出したその機械翻訳文を「甲1機械翻訳文」という。)
甲第2号証:韓国特許10-1187248号公報(以下、「甲2」という。また、特許異議申立人 星正美が提出したその機械翻訳文を「甲2機械翻訳文」という。)
甲第3号証:国際公開第2012/086496号(以下、「甲3」という。)
甲第4号証:国際公開第2011/105362号(以下、「甲4」という。)
(甲1ないし4は、平成28年4月11日に、特許異議申立人 星正美が提出した特許異議申立書に添付されたものである。)

(2)甲1に記載された発明
甲1機械翻訳文の【請求項1】、【請求項6】、【17】の記載からみて、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「スチレン含量が15ないし25重量%で、ブタジエンが含むビニール含量が60ないし65重量%である回分式方法によって製造された第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(S-SBR)30ないし50重量部、スチレン含量が30ないし50重量%で、ブタジエンが含むビニール含量が20ないし30%であり、分子がケイ素(Si)によってカップリングされた第2溶液重合スチレン-ブタジエンゴム30ないし50重量部及びブタジエンゴム(BR)10ないし30重量部を含む原料ゴム100重量部、そして窒素吸着比表面積が155ないし185m^(2)/gで、CTAB吸着比表面積が150ないし170m^(2)/gであるシリカ60ないし90重量部を含んで、前記第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴムは分子の末端が親水性基に変性されて、分子がスズ(Sn)によってお互いにカップリングされたことで、前記親水性基はヒドロキシ基、炭素数3ないし5のアルコキシ基、アミン基、カルボキシ基、シラノール基、スルホニル基及びこれらの組合せで成り立った群で選択されるどれかひとつのことであるタイヤトレッド用ゴム組成物。」

(3)本件特許発明1
本件特許発明1と甲1発明とを対比、判断する。
甲1発明の「スチレン含量が15ないし25重量%で、ブタジエンが含むビニール含量が60ないし65重量%である回分式方法によって製造された第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(S-SBR)30ないし50重量部を含む原料ゴム100重量部」は、本件特許発明1の「スチレン含量が15?25重量%で、ブタジエン内のビニル含量が60?65重量%である、回分式方法によって製造された第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR1)40?80重量部」「を含む原料ゴム100重量部」と、第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR1)40?50重量部の範囲において重複する。
甲1発明の「窒素吸着比表面積が155ないし185m^(2)/gで、CTAB吸着比表面積が150ないし170m^(2)/gであるシリカ60ないし90重量部」は、本件特許発明1の「窒素吸着比表面積が155?185m^(2)/g、CTAB値が150?170m^(2)/gであるシリカ60?90重量部」に相当する。
甲1発明の「第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム」は分子の末端が親水性基に変性されて、分子がスズ(Sn)によってお互いにカップリングされ、前記親水性基はヒドロキシ基、・・・で成り立った群から選択されるどれかひとつであるから、甲1発明の「第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム」は、「分子がスズ(Sn)によってカップリングされ、末端がヒドロキシル基に変性され」ていると認められる。
そうしてみると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「スチレン含量が15?25重量%で、ブタジエン内のビニル含量が60?65重量%である、回分式方法によって製造された第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR1)40?50重量部を含む原料ゴム100重量部と、
窒素吸着比表面積が155?185m^(2)/g、CTAB値が150?170m^(2)/gであるシリカ60?90重量部と、
を含み、
前記第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴムは、末端がヒドロキシル基に変性されるタイヤトレッド用ゴム組成物。」である点で一致し、以下の点で実質的に相違する。
(相違点1)第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴムは、本件特許発明1では、ケイ素(Si)によってカップリングされるのに対して、甲1発明では、スズ(Sn)によってカップリングされる点。
(相違点2)本件特許発明1では、「原料ゴム」が、スチレン含量が30?40重量%で、ブタジエン内のビニル含量が20?30重量%である、連続式方法によって製造された第2溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR2)を10?20重量部含むのに対して、甲1発明では、「原料ゴム」が、スチレン含量が30ないし50重量%で、ブタジエンが含むビニール含量が20ないし30%である第2溶液重合スチレン-ブタジエンゴムを30ないし50重量部含む点。
よって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(4)本件特許発明4
本件特許の訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項4に係る本件特許発明4は、本件特許発明1と同様に、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び4は、甲1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではないから、訂正後の請求項1及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当するものではない。

2 取消理由2(特許法第29条第2項)
(1)本件特許発明1
上記1(3)のとおり、本件特許発明1と甲1発明とは、
「スチレン含量が15?25重量%で、ブタジエン内のビニル含量が60?65重量%である、回分式方法によって製造された第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR1)40?50重量部を含む原料ゴム100重量部と、
窒素吸着比表面積が155?185m^(2)/g、CTAB値が150?170m^(2)/gであるシリカ60?90重量部と、
を含み、
前記第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴムは、末端がヒドロキシル基に変性されるタイヤトレッド用ゴム組成物。」である点で一致し、以下の点で実質的に相違する。
(相違点1)第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴムは、本件特許発明1では、ケイ素(Si)によってカップリングされるのに対して、甲1発明では、スズ(Sn)によってカップリングされる点。
(相違点2)本件特許発明1では、「原料ゴム」が、スチレン含量が30?40重量%で、ブタジエン内のビニル含量が20?30重量%である、連続式方法によって製造された第2溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR2)を10?20重量部含むのに対して、甲1発明では、「原料ゴム」が、スチレン含量が30ないし50重量%で、ブタジエンが含むビニール含量が20ないし30%である第2溶液重合スチレン-ブタジエンゴムを30ないし50重量部含む点。
上記相違点1について検討すると、タイヤ用の共役ジエン系ゴム組成物において、スチレン-ブタジエンゴムをケイ素(Si)でカップリングすることにより、タイヤの操縦安定性に優れることは周知の技術事項である(例えば、甲3の[0050]?[0058]、甲4の[0080]等参照)から、甲1発明において、タイヤの操縦安定性を良好にするために「第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム」をケイ素(Si)でカップリングすることは、当業者が容易になし得たことである。しかし、それにより60℃tanδの値が小さくなる、言い換えると回転抵抗特性に優れるという効果が奏される(本件特許の特許権者が平成28年10月12日に提出した意見書の5?7頁の表1及び表2、特に追加実施例1と追加比較例1参照)ことまでは、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が予測できるものであるとはいえない。
そうしてみると、上記相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明4
本件特許の訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項4に係る本件特許発明4は、本件特許発明1と同様に、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び4は、甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、訂正後の請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではない。

3 取消理由3(特許法第36条第6項第1号)
本件特許の訂正後の請求項1に係る発明は、「第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム」の「末端がヒドロキシル基に変性される」ものである。
他方、本件特許の明細書の段落【0076】では、実施例1?6で用いられる(1)S-SBRは、その末端が親水性基に変性されたと記載され、具体的にいかなる親水性基で変性されたものであるのか記載されていない。
しかしながら、特許請求の範囲の記載と本件特許の明細書の段落【0015】の記載によれば、当該親水性基はヒドロキシル基あるいはアミン基のいずれかであることは明らかであるところ、このうち、ヒドロキシル基は親水性基の代表的なものであり、また、本件特許の特許権者が平成28年10月12日に提出した意見書の【表1】には末端がヒドロキシル基に変性されたゴム組成物の性状が示されているところ、その結果は本件特許の明細書の【表1】と相違ないものとなっている。
そうしてみると、本件特許の実施例1?6で用いられる(1)S-SBRは、その末端がヒドロキシル基に変性されたものとすることが自然である。 よって、訂正後の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
したがって、訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしており、本件特許は同法第113条第4号に該当するものではない。

4 取消理由4(特許法第36条第6項第2号)
本件特許の訂正後の請求項1は「タイヤトレッド用ゴム組成物」という物の発明であるが、「回分式方法によって製造された」との記載及び「連続式方法によって製造された」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項1にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物を製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
そこで、本件特許に上記不可能・非実際的事情が存在するか否かについて検討すると、本件特許の特許権者が平成28年10月12日に提出した意見書において主張するように、本件特許の実施例で示すように、汎用されるムーニー粘度等の一部の特性によって、連続式方法によって製造されたものと回分式方法によって製造されたものを比べることは可能であるものの、連続式方法及び回分式方法の反応条件等は非常に多岐に渡るものであるから、連続式方法によって製造されたもの及び回分式方法によって製造されたものの構造又は特性をその全般にわたって特定する文言を見出すことまでは困難であり、かつ、かかる構造又は特性をその全般にわたって測定に基づき解析し特定することは「不可能」であるか、又はそのために膨大な時間及び労力をかけることは「非実際的」であるといえる。
よって、本件特許には上記不可能・非実際的事情が存在すると認められ、訂正後の請求項1の記載は特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえる。
したがって、本件特許の訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件に適合すると認められる。
以上のとおりであるから、訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしており、本件特許は同法第113条第4号に該当するものではない。

第6 結語
上記第5のとおりであるから、取消理由1ないし4によっては、訂正後の請求項1及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2及び3に係る特許は、本件訂正の請求により削除されたため、本件特許の請求項2及び3に対して、上記両特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン含量が15?25重量%で、ブタジエン内のビニル含量が60?65重量%である、回分式方法によって製造された第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR1)40?80重量部、スチレン含量が30?40重量%で、ブタジエン内のビニル含量が20?30重量%である、連続式方法によって製造された第2溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR2)10?20重量部、およびブタジエンゴム10?60重量部を含む原料ゴム100重量部と、
窒素吸着比表面積が155?185m^(2)/g、CTAB値が150?170m^(2)/gであるシリカ60?90重量部と、
を含み、
前記第1溶液重合スチレン-ブタジエンゴムは、分子がケイ素(Si)によってカップリングされ、末端がヒドロキシル基に変性されることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
削除
【請求項3】
削除
【請求項4】
請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物を用いて製造することを特徴とするタイヤ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-12-15 
出願番号 特願2013-242586(P2013-242586)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 米村 耕一上前 明梨  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 守安 智
前田 寛之
登録日 2015-08-14 
登録番号 特許第5792787号(P5792787)
権利者 ハンコック タイヤ カンパニー リミテッド
発明の名称 タイヤトレッド用ゴム組成物及びこれを用いて製造したタイヤ  
代理人 関口 正夫  
代理人 正林 真之  
代理人 新山 雄一  
代理人 正林 真之  
代理人 新山 雄一  
代理人 多田 繁範  
代理人 多田 繁範  
代理人 関口 正夫  

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