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審決分類 審判 一部申し立て 発明同一  C09J
管理番号 1324837
異議申立番号 異議2016-700103  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-09 
確定日 2016-12-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5794356号発明「ウレタン系接着剤組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5794356号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。 特許第5794356号の請求項2ないし4に係る特許を維持する。 特許第5794356号の請求項1に係る本件異議申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第5794356号に係る出願(特願2014-135182号、以下「本願」という。)は、平成26年6月30日に出願人横浜ゴム株式会社(以下「特許権者」という。)によりなされた特許出願であり、早期審査の結果、平成27年8月21日に特許権の設定登録がなされたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成28年2月9日付けで異議申立人駒井佳子(以下「申立人」という。)により「特許第5794356号の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。
(なお、本件特許に係る請求項数は5であるが、請求項5については、本件異議申立に係る取消の対象となっていない。)

3.以降の手続の経緯
平成28年 3月 7日付け 異議申立書副本送付(特許権者あて)
平成28年 7月 7日付け 取消理由通知
平成28年 9月 9日 訂正請求書・意見書(特許権者)
平成28年 9月13日付け 通知書(申立人あて)

第2 平成28年9月9日付け訂正請求書による訂正について
平成28年9月9日付けで特許権者から訂正請求書が提出されたので、同書による訂正の適否につき以下検討する。(以下、同書による訂正を「本件訂正」という。)

1.本件訂正の内容
本件訂正は、以下の(1)ないし(5)の訂正事項を含むものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
(a)特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2を独立形式に改め、モノスルフィド化合物の量の上限を0.47重量部に限定し、
「イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物とを含有し、前記モノスルフィド化合物の量が、前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01?0.47質量部である、ウレタン系接着剤組成物。
【化1】


(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)」
と訂正する。
(b)特許請求の範囲の請求項3及び4において引用する請求項から請求項1を除く。

(3)訂正事項3

(a)段落【0006】について
本件特許に係る明細書の段落【0006】に記載された
「[3] 上記モノスルフィド化合物の量が、上記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01?10質量部である、[1]又は[2]に記載のウレタン系接着剤組成物。
[4] 上記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールと芳香族イソシアネート化合物を反応させてなるウレタンプレポリマーである、[1]?[3]のいずれかに記載のウレタン系接着剤組成物。
[5] 更に、カーボンブラック及び/又は炭酸カルシウムを含有する、[1]?[4]のいずれかに記載のウレタン系接着剤組成物。」を、
「[3] イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物とを含有し、
上記モノスルフィド化合物の量が、上記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01?0.47質量部である、ウレタン系接着剤組成物。
【化6】


(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)
[4] 上記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールと芳香族イソシアネート化合物を反応させてなるウレタンプレポリマーである、上記[3]に記載のウレタン系接着剤組成物。
[5] 更に、カーボンブラック及び/又は炭酸カルシウムを含有する、上記[3]又は[4]に記載のウレタン系接着剤組成物。」
と訂正する。

(b)段落【0008】について
本件特許に係る明細書の段落【0008】に記載された
「本発明のウレタン系接着剤組成物(本発明の組成物)は、
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
モノスルフィド結合と加水分解性シリル基とを有し、上記モノスルフィド結合と上記加水分解性シリル基が有するケイ素原子とが結合するモノスルフィド化合物とを含有する、ウレタン系接着剤組成物である。」を、
「本発明のウレタン系接着剤組成物(本発明の第1の組成物)は、
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物とを含有し、
上記モノスルフィド化合物の量が、上記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01?0.47質量部である、ウレタン系接着剤組成物。
【化8】


(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)」
と訂正する。

(c)段落【0028】について
本件特許に係る明細書の【0028】に記載された
「モノスルフィド化合物は、接着性により優れるという観点から、下記式(1)で表される化合物であるのが好ましい。」を、
「モノスルフィド化合物は、接着性により優れるという観点から、下記式(1)で表される化合物である。」
と訂正する。

(d)段落【0032】について
本件特許に係る明細書の【0032】に、
「本発明の第1の組成物において、モノスルフィド化合物の量は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01?0.47質量部である。本発明の第1の組成物におけるモノスルフィド化合物の量は、接着性により優れるという観点から、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.02?0.47質量部が好ましい。」
を加える。

(e)段落【0037】について
本件特許に係る明細書の【0037】に記載された
「本発明の組成物は、接着性により優れるという観点から、更に、脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物(この反応物を以下反応物Aということがある。)、及び/又は、脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリルアミドとの反応物(この反応物を以下反応物Bということがある。)を含有するのが好ましい。」を、
「本発明の第1の組成物は、接着性により優れるという観点から、更に、脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物(この反応物を以下反応物Aということがある。以下同様。)、及び/又は、脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリルアミドとの反応物(この反応物を以下反応物Bということがある。以下同様。)を含有するのが好ましい。」
と訂正する。

(f)段落【0054】について
本件特許に係る明細書の【0054】に、
「第1表における実施例1?6が、本発明の第1の組成物の実施例に該当する。」
を加える。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に
「更に、脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物、及び/又は、脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリルアミドとの反応物を含有する、請求項1?4のいずれか1項に記載のウレタン系接着剤組成物。」
とあるうち、請求項1を引用するものにつき、独立形式に改め、
「イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物と、脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物、及び/又は、脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリルアミドとの反応物を含有する、ウレタン系接着剤組成物。
【化2】


(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)」
と訂正する。

(5)訂正事項5

(a)段落【0006】について
本件特許に係る明細書の段落【0006】に記載された
「[6] 更に、脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物、及び/又は、脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリルアミドとの反応物を含有する、[1]?[5]のいずれかに記載のウレタン系接着剤組成物。」を、
「[6] イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物と、
脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物、及び/又は、脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリルアミドとの反応物を含有する、ウレタン系接着剤組成物。
【化7】


(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)」
と訂正する。

(b)段落【0008】について
本件特許に係る明細書の段落【0008】に、
「本発明のウレタン系接着剤組成物(本発明の第2の組成物)は、
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物と、
脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物、及び/又は、脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリルアミドとの反応物を含有する、ウレタン系接着剤組成物である。
【化9】


(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)
本発明の第1及び第2の組成物をまとめて本発明の組成物と称する場合がある。」
を加える。

(c)段落【0028】について
本件特許に係る明細書の【0028】に記載された
「モノスルフィド化合物は、接着性により優れるという観点から、下記式(1)で表される化合物であるのが好ましい。」を、
「モノスルフィド化合物は、接着性により優れるという観点から、下記式(1)で表される化合物である。」
と訂正する。
(なお、この訂正事項は、上記(3)訂正事項3の(c)と同一の事項である。)

(d)段落【0032】について
本件特許に係る明細書の【0032】に記載された
「モノスルフィド化合物の量は、接着性により優れるという観点から、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01?10質量部であるのが好ましく、0.02?1.0質量部であるのがより好ましい。」を
「本発明の第2の組成物において、モノスルフィド化合物の量は、接着性により優れるという観点から、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01?10質量部であるのが好ましく、0.02?1.0質量部であるのがより好ましい。」
と訂正する。

(e)段落【0037】について
本件特許に係る明細書の【0037】に
「本発明の第2の組成物は、脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物、及び/又は、脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリルアミドとの反応物を含有する。」
を加える。

(f)段落【0054】について
本件特許に係る明細書の【0054】に、
「第1表における実施例2?6が、本発明の第2の組成物の実施例に該当する。」
を加える。

2.本件訂正の適否に係る検討
なお、以下の訂正の適否に係る検討において、本件訂正前の請求項1ないし5を、項番に従い「旧請求項1」ないし「旧請求項5」といい、本件訂正後の請求項1ないし5を、項番に従い「新請求項1」ないし「新請求項5」という。

(1)各訂正事項による訂正の目的について

ア.訂正事項1ないし3に係る訂正
訂正事項1は、旧請求項1について内容を削除して新請求項1とするものであり、また、訂正事項2は、旧請求項1を引用する旧請求項2について、旧請求項1の記載事項を書き下して独立形式にするとともに、モノスルフィド化合物の使用量の上限を旧請求項2の「10質量部」から本件特許に係る本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明の記載(特に実施例に係る記載)に基づき「0.47質量部」に引き下げてモノスルフィド化合物の使用量の範囲を減縮して新請求項2とするものと認められ、旧請求項3及び4について、訂正事項1で内容を削除した(旧)請求項1を引用する請求項から除外して新請求項3及び4としているものと認められる。
また、訂正事項3は、訂正事項1及び2の請求項に係る訂正により不整合となる明細書の発明の詳細な説明の各記載を、それぞれ、訂正後の請求項の記載に整合するように単に正すものと認められる。
してみると、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮及び独立形式に改めること(請求項2)並びに特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明(請求項3及び4)を目的とし、また、訂正事項3に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
したがって、訂正事項1ないし3に係る訂正は、それぞれ、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に規定の目的要件を満たすものと認められる。

イ.訂正事項4及び5に係る訂正
訂正事項4は、旧請求項1を引用する旧請求項5について、旧請求項1の記載事項を書き下して単に独立形式にし新請求項5とするものと認められ、また、訂正事項5は、訂正事項4の請求項5に係る訂正により不整合となる明細書の発明の詳細な説明の各記載を、それぞれ、訂正後の請求項5の記載に整合するように単に正すものと認められる。
してみると、訂正事項4に係る訂正は、独立形式に改めることを目的とし、また、訂正事項5に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
したがって、訂正事項4及び5に係る訂正は、それぞれ、特許法第120条の5第2項ただし書第3号又は第4号に規定の目的要件を満たすものと認められる。

ウ.小括
よって、上記訂正事項1ないし5に係る本件訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に規定の目的要件を満たすものである。

(2)特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定について

ア.特許法第126条第5項及び第6項の規定に対する適否
上記(1)で説示したとおり、上記訂正事項1ないし5に係る本件訂正は、いずれも、請求項の記載を独立形式に単に書き改めたものか、本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき特許請求の範囲を実質的に減縮したものであるか、訂正後の請求項の記載に整合するように明細書の発明の詳細な説明の記載を単に正したものである。
してみると、訂正事項1ないし5に係る本件訂正は、本件特許に係る出願の願書に添付した本件訂正前の明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかであって、また、訂正事項1ないし5に係る本件訂正は、本件特許に係る特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではないことも明らかである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の各規定に適合する。

イ.特許法第126条第7項の規定について
上記第1の2.で示したとおり、本件異議申立において請求項5は対象とされていないところ、上記(1)で説示したとおり、請求項5に係る訂正事項4及び5は、いずれも請求項の記載を独立形式に改めること及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定(いわゆる「独立特許要件」)に対する適否を検討することを要しない。

ウ.小括
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項ないし第7項の各規定に適合する。

(3)検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に規定の目的要件を満たすものであるとともに、同法同条第9項で読み替えて準用する同法第126条第5項ないし第7項の各規定に適合するものであるから、適法なものである。

第3 本件特許に係る請求項に記載された事項
上記第2で説示したとおり、平成28年9月9日付け訂正請求書による訂正は適法なものであるから、同訂正後の本件特許に係る請求項1ないし5には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物とを含有し、
前記モノスルフィド化合物の量が、前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01?0.47質量部である、ウレタン系接着剤組成物。
【化1】


(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)
【請求項3】
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールと芳香族イソシアネート化合物を反応させてなるウレタンプレポリマーである、請求項2に記載のウレタン系接着剤組成物。
【請求項4】
更に、カーボンブラック及び/又は炭酸カルシウムを含有する、請求項2又は3に記載のウレタン系接着剤組成物。
【請求項5】
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物と、
脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物、及び/又は、脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリルアミドとの反応物を含有する、ウレタン系接着剤組成物。
【化2】


(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)」
(以下、上記請求項1ないし5に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明5」という。また、以上をまとめて「本件発明」ということがある。)

第4 取消理由の概要

1.申立人が主張する取消理由
申立人は、本件異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証を提示し、具体的な取消理由として、
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、いずれも、本願の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第1号証に係る特許出願(以下「甲1出願」という。)の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲(以下「甲1明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者が甲1出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本願の出願時において、その出願人が甲1出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、請求項1ないし4に係る発明についての本件特許は、同法第113条第1項第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由」という。)
とするものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特願2014-117189号(特開2015-229738号公報)
(出願日:平成26年6月6日)

2.当審が通知した取消理由
当審は、上記平成28年7月7日付けで上記1.で申立人が主張するとおりの取消理由を特許権者に対して通知した。

第5 当審の判断
当審は、
・上記取消理由につきいずれも理由がないから、本件発明2ないし4についての特許はいずれも取り消すことができないものであり、また、
・請求項1に係る特許についての異議申立は、上記第2で示した適法な訂正請求により、同請求項の記載が削除されたことにより不適法なものとなったから、却下すべきもの、
と判断する。
以下、本件発明2ないし4につき詳述する。

1.甲1出願の出願人及びその発明者
甲1出願の出願人及び同出願に係る発明者につき確認すると、本願の出願時における出願人及び本願に係る発明者と同一でないことが明らかである。

2.甲1明細書等の記載事項及び記載された発明

(1)甲1明細書等の記載事項
甲1明細書等には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審が付したものである。)

(a)
「【請求項1】
(A)ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応により得られる活性イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー、及び
(B)下式(1)で表される有機ケイ素化合物
を含有することを特徴とするウレタン接着剤組成物。
【化1】


(式中、R^(1)は置換もしくは無置換の炭素数1?10のアルキル基、又は置換もしくは無置換の炭素数6?10のアリール基であり、R^(2)はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1?20のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数6?10のアリール基、炭素数7?10のアラルキル基、置換もしくは無置換の炭素数2?10のアルケニル基、又は置換もしくは無置換の炭素数1?20のアルコキシ基であり、R^(3)は置換もしくは無置換の炭素数1?10のアルキル基、又は置換もしくは無置換の炭素数6?10のアリール基であり、nは1?3の整数であり、mは1?12の整数である。)
・・(中略)・・
【請求項4】
前記有機ケイ素化合物の含有量が、(A)成分のウレタンプレポリマー100質量部に対し1?10質量部であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項記載のウレタン接着剤組成物。
【請求項5】
一液型ウレタン接着剤組成物であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項記載のウレタン接着剤組成物。」

(b)
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、高い密着性を有するウレタン接着剤組成物を提供することを目的とする。」

(c)
「【0010】
本発明に用いられる活性イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(A)とは、水酸基(OH)を2個以上有するポリオールとイソシアネート基(NCO)を2個以上有するポリイソシアネート化合物とをイソシアネート基が過剰となるように、即ちNCO/OH当量比が、1より大となるように反応させることにより得られる。その反応条件としては、例えばNCO/OH当量比2.0?15.0の割合、より好ましくは2.0?8.0の割合にて、窒素又はドライエアー気流中で70?100℃で数時間反応させることにより製造される。得られたNCO含有プレポリマーの通常のNCO含有量としては5?25質量%の範囲である。
【0011】
ウレタンプレポリマーを作製する際に使用されるポリイソシアネート化合物は、分子内にイソシアネート基を2個以上有するものであれば特に限定されない。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4′-MDI)、2,2′-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,2′-MDI)、2,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4′-MDI)、1,4-フェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリフェニルメタントリイソシアネートのような芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)のような脂肪族ポリイソシアネート;トランスシクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(H_(6)XDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H_(12)MDI)のような脂環式ポリイソシアネート;ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートなどのポリイソシアネート化合物;これらのイソシアネート化合物のカルボジイミド変性ポリイソシアネート;これらのイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性ポリイソシアネート;これらのイソシアネート化合物と後述するポリオール化合物とを反応させて得られるウレタンプレポリマー;などが挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0012】
ウレタンプレポリマーを作製する際に使用されるポリオール化合物は、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、その他のポリオールのいずれであってもよい。また、これらのポリオールはそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。ポリオール化合物として、具体的には、ポリプロピレンエーテルジオール、ポリエチレンエーテルジオール、ポリプロピレンエーテルトリオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、ポリオキシブチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、ポリマーポリオール、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(ジエチレンアジペート)、ポリ(プロピレンアジペート)、ポリ(テトラメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ(ネオペンチレンアジペート)、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)等が挙げられる。また、ヒマシ油などの天然系のポリオール化合物を使用してもよい。」

(d)
「【0023】
前記有機ケイ素化合物の含有量は、主剤であるウレタンプレポリマー100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であり、好ましくは1.5質量部以上8質量部以下である。有機ケイ素化合物の含有量が1質量部以上の場合には接着性能を向上させる効果が得られる。また、前記有機ケイ素化合物の含有量が10質量部以下の場合には本実施形態の組成物の硬化物は硬くなると共に発泡が生じることが抑制されると共に、コストが高くなることを抑制することができる。そのため、前記有機ケイ素化合物の含有量が上記範囲内である場合には、本実施形態の組成物は、ガラスやポリプロピレン樹脂などのオレフィン系樹脂などの材料からなる被着体に対してプライマー組成物を用いることなく安定して優れた接着性を有する。
・・(中略)・・
【0025】
本発明のウレタン接着剤組成物には、上記した成分に加えて、必要に応じて、硬化触媒、接着付与剤、物性調整剤、充填剤、可塑剤、揺変剤、脱水剤(保存安定性改良剤)、粘着付与剤、垂れ防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤、ラジカル重合開始剤などの各種添加剤やトルエンやアルコール等の各種溶剤を配合してもよい。
【0026】
充填剤は、特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、カーボンブラック、ホワイトカーボン、シリカ、ガラス、カオリン、タルク(ケイ酸マグネシウム)、フュームドシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸、クレー、焼成クレー、ベントナイト、ガラス繊維、石綿、ガラスフィラメント、粉砕石英、ケイソウ土、ケイ酸アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、あるいはこれらの表面処理品等の無機質充填剤・・(中略)・・等が挙げられる。中でも、所望の特性を付与するために、カーボンブラックと炭酸カルシウムを用いることが好ましい。これらのカーボンブラック及び炭酸カルシウムとしては、特に限定されず、通常市販されているものを用いることができる。・・(中略)・・これらの充填剤は、1種単独でも2種以上を併用しても使用することができる。その配合量は、ウレタンプレポリマー100質量部に対し0?100質量部、特に0?70質量部であることが好ましい。」

(e)
「【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
(A)ウレタンプレポリマー合成
【0031】
数平均分子量5000のポリプロピレンエーテルトリオール600g(G-5000、商品名「EXCENOL5030」、旭硝子株式会社製)と、数平均分子量2000のポリプロピレンエーテルジオール300g(D-2000、商品名「EXCENOL2020」、旭硝子株式会社製)とをフラスコに投入して、100?130℃に加熱し、脱気しながら攪拌して水分率が0.01%以下になるまで脱水した。その後、90℃まで冷却し、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI、商品名「スミジュール44S」、住友バイエルジャパン株式会社製)をNCO基/OH基の当量比(NCOmol/OHmol)が1.70となる量を添加した後、約24時間、窒素雰囲気下で反応を進め、ウレタンプレポリマーを作製した。
【0032】
[実施例1?5、比較例1,2]
下記表1に示す各組成成分を、下記表1に示す質量部となるように混合し、ウレタン接着剤組成物を調製した。
次いで、調製した各接着剤組成物を、被着体であるフロートガラス(50mm×50mm×5mm厚)上に塗布した後、120℃で10分間の条件で加熱乾燥させ、被着体上に接着剤層が形成された複合材料を作製した。
また、同様の条件で、調製した各接着剤組成物を、陽極酸化アルミニウム板(50mm×50mm×3mm厚)、アクリル樹脂板(50mm×50mm×3mm厚)及びポリエステル板(50mm×50mm×3mm厚)上に塗布し、乾燥させ、被着体上に接着剤層が形成された複合材料を作製した。なお、接着剤層の厚さは3mmであった。
【0033】
得られた各複合材料について、以下の方法により接着性を測定した。その結果を表1に示す。
【0034】
<接着性>
各被着体に対する接着剤層の接着性の評価は、作製した各複合材料を23℃、55%RHの条件下で3日間放置して養生した後、接着剤層をナイフでカットし、該カット部を手で引き剥がす手剥離試験を行い、被着体と接着剤層との界面の状態を目視で観察した。
【0035】
【表1】


・・(中略)・・
有機ケイ素化合物(10)・・・下式(10)で表される有機ケイ素化合物
【化19】


・・(中略)・・
硬化触媒(A)・・・ジブチルスズジラウレート
【0037】
上記の実施例及び比較例の結果は、本発明のウレタン接着剤組成物は高い接着性を有することを実証するものである。」

(2)甲1明細書等に記載された発明
上記甲1明細書等には、上記記載事項からみて、
「(A)ポリエーテルポリオールなどのポリオール化合物とMDIなどの芳香族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート化合物との反応により得られる活性イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー100質量部、及び
(B)下式(10)で表されるものを含む下式(1)で表される有機ケイ素化合物1?10質量部
を含有し、必要に応じてカーボンブラック及び/又は炭酸カルシウムなどの充填剤を更に含有するウレタン接着剤組成物。
【化1】


(式中、R^(1)は置換もしくは無置換の炭素数1?10のアルキル基、又は置換もしくは無置換の炭素数6?10のアリール基であり、R^(2)はそれぞれ独立に置換もしくは無置換の炭素数1?20のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数6?10のアリール基、炭素数7?10のアラルキル基、置換もしくは無置換の炭素数2?10のアルケニル基、又は置換もしくは無置換の炭素数1?20のアルコキシ基であり、R^(3)は置換もしくは無置換の炭素数1?10のアルキル基、又は置換もしくは無置換の炭素数6?10のアリール基であり、nは1?3の整数であり、mは1?12の整数である。)



に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものといえる。

3.対比・検討

(1)本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「ポリエーテルポリオールなどのポリオール化合物とMDIなどの芳香族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート化合物との反応により得られる活性イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー」は、本件発明2における「イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー」に相当する。
また、甲1発明における「下式(10)で表されるものを含む下式(1)で表される有機ケイ素化合物」は、チオアルキレン基の両端にトリアルコキシシリル基を2個有する化合物である点で、本件発明2における「式(1)で表されるモノスルフィド化合物」に相当し、甲1発明における「(A)・・、及び(B)・・を含有するウレタン接着剤組成物」は、本件発明2における「・・ウレタンプレポリマーと、・・モノスルフィド化合物とを含有する、ウレタン系接着剤組成物」に相当する。
してみると、本件発明2と甲1発明とは、
「イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物とを含有する、ウレタン系接着剤組成物。
【化1】


(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)」
の点で一致し、下記の点で相違するものといえる。

相違点:本件発明2では「モノスルフィド化合物の量が、・・ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01?0.47質量部である」のに対して、甲1発明では「ウレタンプレポリマー100質量部、及び(B)・・式(1)で表される有機ケイ素化合物1?10質量部を含有」する点

しかるに、上記相違点につき検討すると、甲1には、甲1発明の接着剤組成物において、「有機ケイ素化合物の含有量が1質量部以上の場合には接着性能を向上させる効果が得られる。」と記載されているから、ウレタンプレポリマー100質量部に対して有機ケイ素化合物(本件発明でいう「モノスルフィド化合物」)を1質量部未満で使用することが開示されていないことが明らかであって、上記相違点は、実質的なものであると認められる。
してみると、本件発明2と甲1発明とが、(実質)同一であるということはできない。

(2)本件発明3及び4について
本件発明2を引用する本件発明3及び4と甲1発明とを対比すると、上記(1)で示した相違点以外に新たに相違するところはないところ、上記相違点については、依然として実質的なものであるから、本件発明3又は4と甲1発明とが、(実質)同一であるということはできない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明2ないし4は、いずれも、甲1発明と同一であるということはできないから、特許法第29条の2第1項の規定により、特許を受けることができないものではない。
結局、本件請求項2ないし4に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の2の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第1項第2号に該当するものではなく、取り消すべきものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2ないし4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項2ないし4に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項1に係る異議申立は、不適法なものであり、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ウレタン系接着剤組成物
【技術分野】
【0001】
本発明はウレタン系接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シーリング材、接着剤等としてウレタン系の組成物が知られている。
例えば、優れた硬化性、貯蔵安定性を損なうことなく、ポリ塩化ビニル、特に硬質ポリ塩化ビニルに対する接着性に優れる硬化性樹脂組成物の提供を目的として、1級炭素原子、2級炭素原子または芳香環を構成する炭素原子に結合したイソシアネート基のみを1分子中に平均2個以上有するポリイソシアネート化合物と、2級アミノ基またはメルカプト基および加水分解性シリル基を有するシラン化合物とを付加させて得られる、イソシアネート基および加水分解性シリル基をそれぞれ1分子当たり平均1個以上有するイソシアネートシラン化合物(A)と;
エポキシ樹脂(B)および/または3級炭素原子に結合したイソシアネート基を1分子中に平均2個以上有するウレタンプレポリマー(C)と;
湿気潜在性硬化剤(D)と;を含有する硬化性樹脂組成物が提案されている(例えば特許文献1)。
一方、近年、自動車のボディーには、軽量化の観点から、鋼板に代えて、樹脂材料(例えば、オレフィン系樹脂や繊維強化プラスチック(FRP)のマトリックス樹脂など)が使用されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 特開2005-139319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らは、接着付着剤として従来のイソシアネートシランを含有する組成物について、基材(例えば、樹脂基材、特にオレフィン樹脂)に対する接着性(具体的に例えば、初期接着性、耐水接着性が挙げられる。以下同様。)が昨今の要求レベルに達しない場合があることを見出した。
そこで、本発明は基材(主に樹脂基材、特にオレフィン樹脂)との接着性に優れたウレタン系接着剤組成物を提供することを目的とする。
なお、基材との接着性に優れることを、以下、接着性に優れるということがある。また、当該接着性は例えば、初期接着性及び/又は耐水接着性(例えば、耐温水接着性)を含むことができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、モノスルフィド結合と加水分解性シリル基とを有し、前記モノスルフィド結合と前記加水分解性シリル基が有するケイ素原子とが結合するモノスルフィド化合物とを含有する、ウレタン系接着剤組成物が、基材との接着性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0006】
[1] イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
モノスルフィド結合と加水分解性シリル基とを有し、上記モノスルフィド結合と上記加水分解性シリル基が有するケイ素原子とが結合するモノスルフィド化合物とを含有する、ウレタン系接着剤組成物。
[2] 上記モノスルフィド化合物が、下記式(1)で表される化合物である、[1]に記載のウレタン系接着剤組成物。
【化1】

(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)
[3] イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物とを含有し、
上記モノスルフィド化合物の量が、上記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01?0.47質量部である、ウレタン系接着剤組成物。
【化6】

(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)
[4] 上記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールと芳香族イソシアネート化合物を反応させてなるウレタンプレポリマーである、上記[3]に記載のウレタン系接着剤組成物。
[5] 更に、カーボンブラック及び/又は炭酸カルシウムを含有する、上記[3]又は[4]に記載のウレタン系接着剤組成物。
[6] イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物と、
脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物、及び/又は、脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリルアミドとの反応物とを含有する、ウレタン系接着剤組成物。
【化7】

(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)
【発明の効果】
【0007】
本発明のウレタン系接着剤組成物は、基材との接着性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明について以下詳細に説明する。
本発明のウレタン系接着剤組成物(本発明の第1の組成物)は、
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物とを含有し、
前記モノスルフィド化合物の量が、前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01?0.47質量部である、ウレタン系接着剤組成物である。
【化8】

(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)
本発明のウレタン系接着剤組成物(本発明の第2の組成物)は、
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物と、
脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物、及び/又は、脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリルアミドとの反応物とを含有する、ウレタン系接着剤組成物である。
【化9】

(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)
本発明の第1及び第2の組成物をまとめて本発明の組成物と称する場合がある。
【0009】
本発明の組成物は、ウレタンプレポリマーに対してモノスルフィド化合物を用いることによって基材との接着性に優れる。
これは、モノスルフィド化合物が有する、モノスルフィド結合とケイ素原子との結合(S-Si)が、加水分解することによって、メルカプト基を有するメルカプト基含有化合物とヒドロキシ基及びアルコキシ基を有するシラン化合物とを生成し、このように生成したメルカプト基含有化合物及び/又はシラン化合物が基材との接着に寄与すると考えられるからである。
【0010】
モノスルフィド化合物が例えば下記式(2)で表される化合物である場合、当該化合物が加水分解することによってメルカプト基含有化合物(3)とシラン化合物(4)が生成すると考えられる。
【0011】
【化2】

なお上記メカニズムは本発明者の推測であり、メカニズムが異なっても本発明の範囲内である。
【0012】
一般的に、ウレタンプレポリマーを含有する組成物に密着性能の付与目的でメルカプト基含有シランカップリング剤(メルカプトシラン)を添加すると、ウレタンプレポリマーの末端のイソシアネート基とメルカプトシランのメルカプト基が貯蔵中に反応していまい、配合直後と比べて貯蔵後(例えば40℃10日間)の粘度が上昇してしまうという問題があった。
このように、メルカプトシランは経時でウレタンプレポリマーと反応して高分子化するため、ウレタンプレポリマーと結合したメルカプトシランは、そのモビリティ(接着剤が固まる前に、被着体表面と接着層との界面へ、メルカプトシランのような接着付与剤が到達する機動性(駆動能力)を意味する。)が損なわれ、接着剤塗工後に、界面(接着剤層/被着体)へ速やかに移行しにくくなると考えられる。
その結果、ウレタンプレポリマーとメルカプトシランとを含有する組成物は、貯蔵後では必ずしも十分な密着性(接着強度)を発現できなかった。
このため、ウレタンプレポリマーとメルカプトシランとを分けて保存する場合、作業現場で混合する必要があり作業性が悪かった。
また、従来メルカプトシランは通常臭気がきつく、メルカプトシランを使用することによって作業環境が悪くなった。
このように、従来、貯蔵安定性等を考慮するとメルカプトシランをウレタンプレポリマーに使用することは困難であった。
【0013】
これに対して、本発明の組成物に含有されるモノスルフィド化合物は、加水分解を受ける前は、メルカプト基が保護されているため、イソシアネート基を有する化合物(ウレタンプレポリマー)に対して安定であり、貯蔵安定性に優れ、モビリティも良好であり、作業性に優れる。
また、本発明の組成物に含有されるモノスルフィド化合物は、メルカプト基が保護されているため、臭気がほとんどなく当該化合物を使用しても作業環境を悪くすることがない。
【0014】
ウレタンプレポリマーについて以下に説明する。本発明の組成物に含有されるウレタンプレポリマーは、1分子内に複数のイソシアネート基を有するポリマーである。
ウレタンプレポリマーは、イソシアネート基を分子末端に有するのが好ましい。
ウレタンプレポリマーとしては、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリイソシアネート化合物と1分子中に2個以上の活性水素含有基を有する化合物(以下、「活性水素化合物」と略す。)とを、活性水素含有基に対してイソシアネート基が過剰となるように反応させることにより得られる反応生成物等を用いることができる。
本発明において、活性水素含有基は活性水素を含有する基を意味する。活性水素含有基としては例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基が挙げられる。
【0015】
(ポリイソシアネート化合物)
ウレタンプレポリマーの製造の際に使用されるポリイソシアネート化合物は、分子内にイソシアネート基を2個以上有するものであれば特に限定されない。
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI。例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI。例えば、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート)、1,4-フェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネートのような芳香族ポリイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、トランスシクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(H_(6)XDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H_(12)MDI)のような、脂肪族及び/又は脂環式のポリイソシアネート;これらのカルボジイミド変性ポリイソシアネート;これらのイソシアヌレート変性ポリイソシアネートが挙げられる。
【0016】
ポリイソシアネート化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらのうち、硬化性に優れる理由から、芳香族ポリイソシアネートが好ましく、MDIがより好ましい。
【0017】
(活性水素化合物)
ウレタンプレポリマーの製造の際に使用される1分子中に2個以上の活性水素含有基を有する化合物(活性水素化合物)は特に限定されない。活性水素含有基としては、例えば、水酸(OH)基、アミノ基、イミノ基が挙げられる。
【0018】
上記活性水素化合物としては、例えば、1分子中に2個以上の水酸(OH)基を有するポリオール化合物、1分子中に2個以上のアミノ基および/またはイミノ基を有するポリアミン化合物等が好適に挙げられ、中でも、ポリオール化合物であるのが好ましい。
【0019】
上記ポリオール化合物は、OH基を2個以上有する化合物であれば、その分子量および骨格などは特に限定されず、その具体例としては、ポリエーテルポリオール;ポリエステルポリオール;アクリルポリオール、ポリブタジエンジオール、水素添加されたポリブタジエンポリオールなどの炭素-炭素結合を主鎖骨格に有するポリマーポリオール;低分子多価アルコール類;これらの混合ポリオールが挙げられる。なかでも、ポリエーテルポリオールが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0020】
ポリエーテルポリオールは、主鎖としてポリエーテルを有し、ヒドロキシ基を2個以上有する化合物であれば特に制限されない。ポリエーテルとは、エーテル結合を2以上有する基であり、その具体例としては、例えば、構造単位-R^(a)-O-R^(b)-を合計して2個以上有する基が挙げられる。ここで、上記構造単位中、R^(a)およびR^(b)は、それぞれ独立して、炭化水素基を表す。炭化水素基は特に制限されない。例えば、炭素数1?10の直鎖状のアルキレン基が挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレンジオール(ポリエチレングリコール)、ポリオキシプロピレンジオール(ポリプロピレングリコール:PPG)、ポリオキシプロピレントリオール、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、ポリテトラエチレングリコール、ソルビトール系ポリオール等が挙げられる。
ポリエーテルポリオールは、ポリイソアネート化合物との相溶性に優れるという観点から、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオールが好ましい。
ポリエーテルポリオールの重量平均分子量は、イソシアネート化合物との反応によって得られるウレタンプレポリマーの粘度が常温において適度な流動性を有するという観点から、500?20,000であるのが好ましい。本発明において上記重量平均分子量は、GPC法(溶媒:テトラヒドロフラン(THF))により得られたポリスチレン換算値である。
活性水素化合物はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
ウレタンプレポリマーは、接着性により優れ、硬化性に優れるという観点から、ポリエーテルポリオールと芳香族ポリイソシアネート化合物とを反応させてなるウレタンプレポリマーであるのが好ましい。
ウレタンプレポリマーはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
ウレタンプレポリマーの製造方法は特に制限されない。例えば、活性水素化合物が有する活性水素含有基(例えばヒドロキシ基)1モルに対し、1.5?2.5モルのイソシアネート基が反応するようにポリイソシアネート化合物を使用し、これらを混合して反応させることによってウレタンプレポリマーを製造することができる。
ウレタンプレポリマーはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
モノスルフィド化合物について以下に説明する。
本発明の組成物に含有されるモノスルフィド化合物は、モノスルフィド結合と加水分解性シリル基とを有し、上記モノスルフィド結合と上記加水分解性シリル基が有するケイ素原子とが結合する化合物である。
【0023】
加水分解性シリル基が有する加水分解性基(加水分解性基はケイ素原子に結合する。)「は特に制限されない。加水分解性基としては例えば、R-O-で表される基(Rはヘテロ原子を有してもよい炭化水素基である。)が挙げられる。Rで表される炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基(例えば炭素数6?10のアリール基)、これらの組合せが挙げられる。炭化水素基は例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有してもよい。
Rはアルキル基が好ましく、炭素数1?10のアルキル基がより好ましい。
1個の加水分解性シリル基が有する加水分解性基の数は1?3個とすることができる。接着性により優れるという観点から、1個の加水分解性シリル基が有する加水分解性基の数は3個であるのが好ましい。
加水分解性シリル基はアルコキシシリル基が好ましい。
【0024】
1個の加水分解性シリル基が有する加水分解性基の数は1?2個である場合、当該加水分解性シリル基のケイ素原子に結合することができる基は特に制限されない。例えば、ヘテロ原子を有してもよい炭化水素基が挙げられる。炭化水素基としては、例えば、アルキル基(例えば炭素数1?20のアルキル基)、シクロアルキル基、アリール基(例えば炭素数6?10のアリール基)、アラルキル基(例えば炭素数7?10のアラルキル基)、アルケニル基(炭素数2?10のアルケニル基)、これらの組合せが挙げられる。
【0025】
炭化水素基がヘテロ原子を有する場合、例えば、炭素数2以上の場合炭化水素基の中の炭素原子の少なくとも1つがヘテロ原子若しくはヘテロ原子を有する官能基(例えば、2価以上の官能基)に置換されてもよく、及び/又は、炭化水素基(この場合炭素数は制限されない)の中の水素原子の少なくとも1つがヘテロ原子を含む官能基(例えば、1価の官能基)に置換されてもよい。
【0026】
モノスルフィド結合において、上記の加水分解性シリル基以外に当該モノスルフィド結合に結合する基は特に制限されない。
【0027】
モノスルフィド化合物は、接着性により優れるという観点から、モノスルフィド結合に結合する加水分解性シリル基とは別に、更に、第2の加水分解性シリル基を有するのが、好ましい態様の1つとして挙げられる。
第2の加水分解性シリル基は、モノスルフィド結合に結合する加水分解性シリル基と同様である。
第2の加水分解性シリル基は、モノスルフィド結合と、炭化水素基を介して結合することができる。炭化水素基は特に制限されない。炭化水素基としては、例えば、アルキル基(例えば炭素数1?10のアルキル基)、シクロアルキル基、アリール基、これらの組合せが挙げられる。炭化水素基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。
【0028】
モノスルフィド化合物は、接着性により優れるという観点から、下記式(1)で表される化合物である。
【化3】

(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)
【0029】
R^(1)としてのヘテロ原子を有してもよい炭化水素基は、上記のアルコキシ基が有する炭化水素基と同様である。
R^(2)としてのヘテロ原子を有してもよい炭化水素基は、上記の、1個の加水分解性シリル基が有するアルコキシ基の数が1?2個である場合、加水分解性シリル基のケイ素原子に結合することができる基としてのヘテロ原子を有してもよい炭化水素基と同様である。
nは各々独立に3であるのが好ましい。
R^(3)としての炭化水素基は、上記の、第2の加水分解性シリル基とモノスルフィド結合とを介する炭化水素基と同様である。当該炭化水素基としては例えば、-C_(m)H_(2m)-が挙げられる。mは1?5の整数であるのが好ましい。
【0030】
モノスルフィド化合物は、接着性により優れるという観点から、下記式(2)で表される化合物であるのが好ましい。
【化4】

【0031】
モノスルフィド化合物はその製造について特に制限されない。例えば、メルカプトシランとテトラアルコキシシランをアミン系や金属系の触媒存在下で加温し、生じるアルコールを連続的または非連続的に留去するなどの従来公知のものが挙げられる。
モノスルフィド化合物はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
本発明の第1の組成物において、モノスルフィド化合物の量は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01?0.47質量部である。本発明の第1の組成物におけるモノスルフィド化合物の量は、接着性により優れるという観点から、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.02?0.47質量部が好ましい。
本発明の第2の組成物において、モノスルフィド化合物の量は、接着性により優れるという観点から、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01?10質量部であるのが好ましく、0.02?1.0質量部であるのがより好ましい。
【0033】
本発明の組成物は、接着性により優れ、得られる硬化物の硬度が高く、揺変性能に優れるという観点から、更に、カーボンブラック及び/又は炭酸カルシウムを含有するのが好ましい。
【0034】
本発明の組成物に使用することができるカーボンブラックは特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。カーボンブラックはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明において、カーボンブラックの量は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、20?80質量部であるのが好ましく、40?60質量部であるのがより好ましい。
【0035】
本発明の組成物に使用することができる炭酸カルシウムは特に制限されない。例えば、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム)、コロイダル炭酸カルシウムが挙げられる。炭酸カルシウムは、例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル等で表面処理がなされていてもよい。炭酸カルシウムはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
本発明において、炭酸カルシウムの量は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、20?80質量部であるのが好ましく、40?60質量部であるのがより好ましい。
【0037】
本発明の第1の組成物は、接着性により優れるという観点から、更に、脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物(この反応物を以下反応物Aということがある。以下同様。)、及び/又は、脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリルアミドとの反応物(この反応物を以下反応物Bということがある。以下同様。)を含有するのが好ましい。
本発明の第2の組成物は、脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物、及び/又は、脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリルアミドとの反応物を含有する。
【0038】
反応物A又は反応物Bの製造に使用される脂肪族イソシアネート化合物は、1分子中にイソシアネート基を1個以上有する脂肪族炭化水素化合物であれば特に制限されない。脂肪族イソシアネート化合物は1分子中にイソシアネート基を2個以上有する脂肪族ポリイソシアネート化合物が好ましい。
脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物、これらの変性体(例えば、ビウレット体、イソシアヌレート体、アロファネート体)が挙げられる。なかでも、ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート体、ビウレット体が好ましい。
【0039】
反応物Aの製造に使用される第2級アミノシランは、イミノ基(-NH-)及び加水分解性シリル基とを有する化合物であれば特に制限されない。
加水分解性シリル基は上記と同様である。
加水分解性シリル基としては例えば、アルコキシシリル基が挙げられる。
イミノ基(-NH-)と加水分解性シリル基とは炭化水素基を介して結合することができる。炭化水素基としては例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、これらの組合せが挙げられる。
第2級アミノシランは、1分子中に1個又は2個の加水分解性シリル基を有することができる。
【0040】
1分子中に1個の加水分解性シリル基を有する第2級アミノシランとしては、例えば、3-(n-ブチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
1分子中に2個の加水分解性シリル基を有する第2級アミノシランとしては、例えば、N,N-ビス[(3-トリメトキシシリル)プロピル]アミン、N,N-ビス[(3-トリエトキシシリル)プロピル]アミン、N,N-ビス[(3-トリプロポキシシリル)プロピル]アミンが挙げられる。
【0041】
反応物Aの製造は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
反応物Aはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
反応物Aの製造に使用される脂肪族イソシアネート化合物が脂肪族ポリイソシアネート化合物である場合、反応物Aは、脂肪族ポリイソシアネート化合物が有するイソシアネート基の一部が第2級アミノシランと反応した化合物及び当該イソシアネート基のすべてが第2級アミノシランと反応した化合物からなる群から選ばれる少なくとも2種を含む混合物であってもよい。
また、反応物Aは第2級アミノシランとは未反応の脂肪族イソシアネート化合物を更に含んでもよい。
【0042】
反応物Bの製造に使用される水酸基含有(メタ)アクリルアミドは、ヒドロキシ基と(メタ)アクリルアミド基とを有する(メタ)アクリルアミド化合物であれば特に制限されない。本発明において、(メタ)アクリルアミド基はCH_(2)=CR-CO-Nで表される基(Rは水素原子又はメチル基である。)である。
水酸基含有(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、ヒドロキシ基が、炭化水素基を介して、(メタ)アクリルアミド基における窒素原子と結合する化合物が挙げられる。炭化水素基としては例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、これらの組合せが挙げられる。
水酸基含有(メタ)アクリルアミドは、1分子中にヒドロキシ基を1個又は2個以上有することができる。
【0043】
水酸基含有(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N-ヒドロキシ基含有アルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられ、具体的には例えば、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド(HEAA)が挙げられる。
【0044】
反応物Bの製造は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
反応物Bはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
反応物Bの製造に使用される脂肪族イソシアネート化合物が脂肪族ポリイソシアネート化合物である場合、反応物Bは、脂肪族ポリイソシアネート化合物が有するイソシアネート基の一部が水酸基含有(メタ)アクリルアミドと反応した化合物及び当該イソシアネート基のすべてが水酸基含有(メタ)アクリルアミドと反応した化合物からなる群から選ばれる少なくとも2種を含む混合物であってもよい。
また、反応物Bは水酸基含有(メタ)アクリルアミドとは未反応の脂肪族イソシアネート化合物を更に含んでもよい。
【0045】
反応物A及び/又は反応物Bの量(反応物A及び反応物Bの場合はその合計量)は、接着性により優れるという観点から、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.5?10質量部であるのが好ましく、2?6質量部であるのがより好ましい。
【0046】
本発明の組成物は、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、モノスルフィド化合物;反応物A又は反応物B以外の、接着付与剤、シランカップリング剤;カーボンブラック、炭酸カルシウム以外の充填剤;ジモルフォリノジエチルエーテルのような硬化触媒;ジイソノニルフタレートのような可塑剤;老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、接着付与剤、帯電防止剤などの各種添加剤等を含有することができる。添加剤の量は特に制限されない。例えば従来公知と同様とすることができる。
【0047】
本発明の組成物の製造方法は、特に限定されない。例えば、ウレタンプレポリマー、モノスルフィド化合物、必要に応じて使用することができる、カーボンブラック及び/又は炭酸カルシウム、反応物A及び/又は反応物B、添加剤を混合して攪拌機で混合して製造することができる。
【0048】
本発明の組成物を適用することができる基材としては、例えば、プラスチック、ガラス、ゴム、金属等が挙げられる。
プラスチックとしては、例えば、プロピレン、エチレンやシクロオレフィン系モノマーの重合体が挙げられる。上記の重合体は単独重合体、共重合体、水素添加物であってもよい。
具体的なプラスチックとしては例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、COP、COCのようなオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA樹脂)、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アセテート樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂のような難接着性樹脂が挙げられる。
ここで、COCは、例えば、テトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンとの共重合体のようなシクロオレフィンコポリマーを意味する。
また、COPは、例えば、ノルボルネン類を開環重合し、水素添加して得られる重合体のようなシクロオレフィンポリマーを意味する。
基材は表面処理がなされていてもよい。表面処理としては例えば、フレーム処理やコロナ処理やイトロ処理が挙げられる。これらの処理は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
本発明の組成物を基材に適用する方法は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
本発明の組成物を用いる場合、基材にプライマーを用いずとも優れた接着性を発現させることができる。
【0049】
本発明の組成物は、湿気によって硬化することができる。例えば、5?90℃、相対湿度5?95(%RH)の条件下で本発明の組成物を硬化させることができる。
【0050】
本発明の組成物の用途としては、例えば、ダイレクトグレージング剤、自動車用シーラント、建築部材用シーラントが挙げられる。
【0051】
また、本発明の組成物の使用方法として、例えば、本発明の組成物を主剤とし、これを硬化剤と組み合わせて2液型のセットとすることができる。
この場合に使用される硬化剤(広義の硬化剤)は、例えば、1分子中に2個以上の活性水素含有基を有する化合物(狭義の硬化剤)を含有するものとすることができる。
【0052】
<1分子中に2個以上の活性水素含有基を有する化合物>
硬化剤(広義の硬化剤)に含有される1分子中に2個以上の活性水素含有基を有する化合物(狭義の硬化剤)は、上述した主剤に含有する上記ウレタンプレポリマーを硬化させる成分である。
硬化剤に含有される1分子中に2個以上の活性水素含有基を有する化合物としては、上記ウレタンプレポリマーの製造に用いる活性水素化合物と同様の化合物が挙げられる。なかでも、ポリオール化合物であるのが好ましい。ポリオール化合物は上記と同様である。
特に、ポリオール化合物は、接着性がより優れ、硬化性に優れるという観点からポリエーテルポリオールが好ましい。ポリエーテルポリオールは上記と同様である。
硬化剤に含有される1分子中に2個以上の活性水素含有基を有する化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
ウレタンプレポリマーが有するイソシアネート基と、硬化剤に含有される1分子中に2個以上の活性水素含有基を有する化合物が有する活性水素含有基のモル比(イソシアネート基/活性水素含有基)は、接着性により優れ、硬化性に優れるという観点から、1.0?20であるのが好ましく、1.4?10であるのがより好ましい。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
<接着剤組成物の製造>
下記第1表の各成分を第1表に示す組成(質量部)で用いて、これらを撹拌機で混合し、接着剤組成物を製造した。
第1表における実施例1?6が、本発明の第1の組成物の実施例に該当する。
第1表における実施例2?6が、本発明の第2の組成物の実施例に該当する。
【0055】
<評価>
上記のとおり製造された接着剤組成物について、下記の方法により接着性を評価した。結果を第1表に示す。
・接着性(剪断強度)
ポリプロピレン樹脂(商品名ノーブレン、住友化学社製)からなる基板(幅:25mm、長さ:120mm、厚さ:3mm)の片面にフレーム処理を施した被着体を2枚用意した。
被着体をフレーム処理後、ぬれ張力試験用混合液(和光純薬工業社製)を用いて樹脂表面の濡れ性が45.0mN/m以上であることを確認した。
次いで、一方の被着体の表面(フレーム処理を施した面)に、調製(混合)直後の各接着剤組成物を幅25mm、長さ10mmとなるように塗布した後、他方の被着体の表面(フレーム処理を施した面)と張り合わせ、各接着剤組成物の厚さが5mmとなるように圧着して試験体を作製した。
【0056】
作製した試験体を以下の条件で置いた後に、23℃下でJIS K6850:1999に準じた引張試験(引っ張り速度50mm/分、20℃の環境下)を行い、剪断強度(MPa)を測定した。
・条件1:23℃、50%RHの条件下で3日間放置(初期)
・条件2:23℃、50%RHの条件下で3日間放置後、更にその後60℃の温水に3日間浸漬
剪断強度が2.0MPa以上である場合、接着強度が高く、接着性に優れるといえる。
【0057】
・接着性(破壊状態)
剪断強度を測定した試験体について、破壊状態を目視で確認し、接着剤が凝集破壊しているものを「CF」と評価し、被着体-接着剤間で界面剥離しているものを「AF」と評価した。「CF」「AF」の後ろの数値は、接着面において各破壊状態が占めるおおよその面積(%)である。
CFの面積が80%以上である場合、破壊状態が良好で、接着性に優れるといえる。
【0058】
【表1】

【0059】
第1表に示した各成分の詳細は以下のとおりである。
・ウレタンプレポリマー:ポリオキシプロピレンジオール(商品名サンニックスPP2000、三洋化成工業社製、重量平均分子量2,000)70質量部とポリオキシプロピレントリオール(商品名サンニックスGP3000、三洋化成工業社製、重量平均分子量3,000)とMDI(商品名スミジュール44S、住化バイエルウレタン社製)とをNCO/OH(モル比)が2.0となるように混合し、混合物を80℃の条件下で5時間反応させて製造したウレタンプレポリマー
【0060】
・カーボンブラック:商品名#200MP、新日化カーボン社製
・炭酸カルシウム:重質炭酸カルシウム、商品名スーパーS、丸尾カルシウム社製
・可塑剤 DINP:ジイソノニルフタレート、ジェイプラス社製
・触媒 DMDEE:ジモルフォリノジエチルエーテル、商品名UCAT-660M、サンアプロ社製
【0061】
・脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物(反応物A1)
第2級アミノシラン(3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン)47.2gとイソアネート化合物(ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のビウレット体、商品名タケネートD-165N(三井化学社製。1分子中にイソシアネート基を平均で3個有する。)100gとを混合し(このときNCO/NHはモル比で3であった。)、これらを窒素雰囲気下で80℃で6時間反応させ、反応生成物を得た。
得られた反応生成物は、上記イソシアネート化合物が有する3つのイソシアネート基のうち、1つのイソシアネート基が第2級アミノシランのNH基と反応して生成した化合物と、2つのイソシアネート基が第2級アミノシランのNH基と反応して生成した化合物と、3つのイソシアネート基が第2級アミノシランのNH基と反応して生成した化合物と、未反応のイソシアネート化合物とを少なくとも含む混合物である。
【0062】
・脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有アクリルアミドとの反応物(反応物B1)
HEAA(N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド)9.4gとイソアネート化合物(ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のアロファネート体、商品名タケネートD-178NL、三井化学社製。1分子中にイソシアネート基を平均で2個有する。)89.6gとを混合し(このときNCO/OHはモル比で5であった。)、これらを窒素雰囲気下で60℃で9時間反応させ、反応生成物を得た。
得られた反応生成物は、上記イソシアネート化合物が有する2つのイソシアネート基のうち1つのイソシアネート基がHEAAの水酸基と反応して生成した化合物(1分子中に、アクリルアミド基、アロファネート結合の他、ウレタン結合、イソシアネート基を有する。)と、上記イソシアネート化合物が有する2つのイソシアネート基の両方がHEAAの水酸基と反応して生成した化合物と、未反応のイソシアネート化合物とを少なくとも含む混合物である。
【0063】
・モノスルフィド化合物:下記式(2)で表される化合物。
【化5】

・ポリスルフィド化合物:ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド。商品名Si69、エボニック・デグサ社製。
・メルカプトシラン:3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン。商品名A-189、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製。
【0064】
第1表に示す結果から明らかなように、モノスルフィド化合物を含有しない比較例1は、接着性が低かった。
モノスルフィド化合物を含有せず、代わりにポリスルフィド化合物を含有する比較例2は、接着性が低かった。
モノスルフィド化合物を含有せず、代わりにメルカプトシランを含有する比較例3は、接着性が低かった。
【0065】
これらに対して、実施例1?6は、基材に対する接着性に優れた。また、実施例1?6はプライマーを用いずとも優れた接着性を示した。
実施例2?4を比較すると、モノスルフィド化合物の量が多くなるほど接着性により優れた。
実施例1と実施例2?6とを比較すると、反応物A及び/又は反応物Bを更に含有する実施例2?6のほうが実施例1よりも耐温水接着性に優れた。
実施例2と実施例5とを比較すると、実施例5(反応物Bは(メタ)アクリルアミド基を有する)のほうが、実施例2(反応物Aは加水分解性シリル基を有する)よりも破壊状態が良好で接着性により優れた。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (削除)
【請求項2】
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物とを含有し、
前記モノスルフィド化合物の量が、前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01?0.47質量部である、ウレタン系接着剤組成物。
【化1】

(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)
【請求項3】
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールと芳香族イソシアネート化合物を反応させてなるウレタンプレポリマーである、請求項2に記載のウレタン系接着剤組成物。
【請求項4】
更に、カーボンブラック及び/又は炭酸カルシウムを含有する、請求項2又は3に記載のウレタン系接着剤組成物。
【請求項5】
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
下記式(1)で表されるモノスルフィド化合物と、
脂肪族イソシアネート化合物と第2級アミノシランとの反応物、及び/又は、脂肪族イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリルアミドとの反応物とを含有する、ウレタン系接着剤組成物。
【化2】

(式中、R^(1)、R^(2)は各々独立にヘテロ原子を有してもよい炭化水素基であり、nは各々独立に1?3の整数であり、R^(3)は炭化水素基である。)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-12-15 
出願番号 特願2014-135182(P2014-135182)
審決分類 P 1 652・ 161- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 澤村 茂実佐藤 貴浩松原 宜史  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 橋本 栄和
日比野 隆治
登録日 2015-08-21 
登録番号 特許第5794356号(P5794356)
権利者 横浜ゴム株式会社
発明の名称 ウレタン系接着剤組成物  
代理人 伊東 秀明  
代理人 三橋 史生  
代理人 三和 晴子  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 三和 晴子  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 三橋 史生  
代理人 伊東 秀明  

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