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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09K |
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管理番号 | 1324840 |
異議申立番号 | 異議2015-700326 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-12-18 |
確定日 | 2017-01-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5738801号発明「摩擦材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5738801号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを認める。 特許第5738801号の請求項1に係る特許を維持する。 特許第5738801号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯等 1 本件特許異議申立に係る特許 本件特許異議申立に係る特許第5738801号(以下、「本件特許」という。)は、特許権者である日清紡ブレーキ株式会社より、平成24年5月29日、特願2012-122046号として出願され、平成27年5月1日、発明の名称を「摩擦材」、請求項の数を「3」として特許権の設定登録を受けたものである。 2 手続の経緯 本件特許に対して、平成27年12月18日に特許異議申立人である杉山猛より特許異議の申立てがなされ、平成28年3月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年6月1日に特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、これらに対して平成28年7月6日に特許異議申立人より意見書が提出され、さらに、平成28年7月28日付けで二度目の取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年9月30日に特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、これらに対して平成28年10月25日に特許異議申立人より意見書が提出されたものである。 なお、平成28年6月1日にした訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否について 1 訂正事項 上記平成28年9月30日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、一群の請求項を構成する請求項1ないし3、すなわち、特許請求の範囲の全体を訂正の対象とするところ、その具体的訂正事項は次のとおりである。 (1) 特許請求の範囲の請求項1に、「摩擦材組成物を成型した摩擦材において」とあるのを、「摩擦材組成物を成型した乗用車用ディスクブレーキパッドに使用される摩擦材において」に訂正する。 (2) 特許請求の範囲の請求項1に、「合金を含まず、」とあるのを、「合金を含まず、無機研削材として珪酸ジルコニウムと、無機充填材として板状または鱗片状のチタン酸塩を含み、」に訂正する。 (3) 特許請求の範囲の請求項1に、「潤滑剤として、硫化亜鉛を含有する」とあるのを、「潤滑剤として、硫化亜鉛を0.5?2.0重量%、黒鉛を摩擦材組成物全量に対し2.0?5.0重量%含有する」に訂正する。 (4) 特許請求の範囲の請求項2及び3を削除する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項(1)及び(2)は、摩擦材が乗用車用ディスクブレーキパッドに使用されることを直列的に付加するものであり、上記訂正事項(2)は、無機研削材として珪酸ジルコニウムと、無機充填材として板状または鱗片状のチタン酸塩を含むことを直列的に付加するものであり、上記訂正事項(3)は、硫化亜鉛の含有量を0.5?2.0重量%に限定するとともに、黒鉛を摩擦材組成物全量に対し2.0?5.0重量%含有することを直列的に付加するものであり、上記訂正事項(4)は、請求項を削除するものであるから、いずれの訂正事項も、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、これらの訂正事項は、本件特許明細書の段落【0044】、【0050】、【0056】の【表1】及び【0057】の【表2】の記載からみて、新たな技術的事項を導入するものではないから、新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 3 小括 上記のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第3項ただし書及び同条第4項の規定に従い、一群の請求項ごとに請求するものであって、同条第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし3について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、次の事項により特定されるものである(なお、請求項2、3は本件訂正により削除された。)。 「【請求項1】 銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した乗用車用ディスクブレーキパッドに使用される摩擦材において、上記摩擦材組成物は、銅以外の金属単体、合金を含まず、無機研削材として珪酸ジルコニウムと、無機充填材として板状または鱗片状のチタン酸塩を含み、潤滑剤として、硫化亜鉛を0.5?2.0重量%、黒鉛を摩擦材組成物全量に対し2.0?5.0重量%含有することを特徴とする摩擦材。」 2 平成28年7月28日付け取消理由の概要 当審において通知した平成28年7月28日付け取消理由は、要するに、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第1項第2号に該当し、さらに、本件特許は、同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1項第4号に該当するため、取り消されるべきものである、というものである。 3 特許法第29条第2項の規定違反について (1) 甲第1号証(特開2006-257113号公報)に記載された事項 本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である甲第1号証、すなわち、特開2006-257113号公報には、以下の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該充填材として少なくとも硫化亜鉛(ZnS)を0.05体積%以上0.45体積%未満含有することを特徴とする摩擦材。」 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、繊維基材と、結合材と、充填材とを含有する摩擦材に関し、特に所謂カックンブレーキ現象の発生を防止でき、バス、トラック等の大型車用摩擦材として好適な摩擦材に関する。」 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は上記事情に鑑みなされたもので、特に大型車においてブレーキの効き(定積常用効力)が高く、かつME現象(空車ME効力)を低減するバランスのとれた摩擦材を提供することを課題とする。」 ・「【発明の効果】 【0008】 本発明の摩擦材は特に大型車において、ブレーキの効きが高く、かつME現象が発生しないバランスのとれた良好な結果を与えるものである。」 ・「【0012】 その他充填材としては摩擦材に通常用いられる充填材が使用出来る。充填材は有機充填材と無機充填材に分けられる。有機充填材として、たとえばタイヤリク、アクリルゴムダスト、メラミンダスト等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。一方無機充填材としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、バーミキュライト、黒鉛、四三酸化鉄、硫化鉄、コークス、マイカ等の他、青銅、銅、錫、亜鉛、アルミニウム等の金属粉が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。これらの充填材の添加量は、摩擦材組成物全量に対して好ましくは20?80体積%、より好ましくは30?60体積%である。」 ・「【実施例】 【0017】 以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に 制限されるものではない。 【0018】 実施例及び比較例において、硫化亜鉛(ZnS)としてSACHTLEBEN社のトリエタノールアミン表面処理品、粒径0.4μmのものを使用した。またカシューダストはカシュー社製のタール分7質量%、粒径150μmのものを使用した。なお平均粒径はレーザー回折粒度分布法により測定した50%粒径の数値を用いている。 【0019】 表1に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、加圧型内で10MPaにて20秒加圧して予備成形をした。この予備成形品を成形温度150℃、成形圧力40MPaの条件下で6分間成形した後、200℃で5時間熱処理(後硬化)を行ない、摩擦材を作成した。 得られた摩擦材について、定積常用効力、空車ME効力を評価した。結果を表1に、評価基準を表2に示す。 【0020】 表1 」 (2) 甲第1号証に記載された発明(甲1発明) 甲第1号証の上記表1には、「実施例2」として、硫化亜鉛(ZnS)、カシューダスト、アラミド繊維、ガラス繊維、フェノール繊維、タイヤリク、消石灰、炭酸カルシウム及び黒鉛からなり、硫化亜鉛及び黒鉛の含有量がそれぞれ0.4体積%及び7体積%である摩擦材組成物が記載されている。そして、上記段落【0019】には、最終的に、当該摩擦材組成物を予備成形及び本成形して摩擦材を得ることが記載されている。 そうすると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「摩擦材組成物を成形した摩擦材において、上記摩擦材組成物は、硫化亜鉛、カシューダスト、アラミド繊維、ガラス繊維、フェノール繊維、タイヤリク、消石灰、炭酸カルシウム及び黒鉛からなり、硫化亜鉛及び黒鉛の含有量がそれぞれ0.4体積%及び7体積%である、摩擦材。」 (3) 本件発明と甲1発明との対比 甲1発明の摩擦材組成物は、その組成から明らかなように、アスベスト及びスチール繊維を含まないものであるから、一般にNAO材と呼称される材料であるといえる。また、当該摩擦材組成物は、銅はもとより、銅以外の金属単体、合金をも含まないものである。 そうすると、本件発明と甲1発明とは、「銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、上記摩擦材組成物は、銅以外の金属単体、合金を含まず、硫化亜鉛を含有する摩擦材」である点で一致し、次の点で相違するといえる。 ・相違点1 本件発明の硫化亜鉛、黒鉛は、これを「潤滑剤として」含有するとしているのに対して、甲1発明にはこの点の明示がない点 ・相違点2 本件発明の摩擦材は、「乗用車用ディスクブレーキパッドに使用される」ものであるのに対して、甲1発明にはこの点の明示がない点 ・相違点3 本件発明は、「無機研削材として珪酸ジルコニウムと、無機充填材として板状または鱗片状のチタン酸塩を含」むのに対して、甲1発明はそれらを含まない点 ・相違点4 本件発明は、硫化亜鉛の含有量を「0.5?2.0重量%」と特定しているのに対して、甲1発明における硫化亜鉛の含有量は「0.4体積%」である点 ・相違点5 本件発明は、黒鉛の含有量を「2.0?5.0重量%」と特定しているのに対して、甲1発明における黒鉛の含有量は「7体積%」である点 (4) 相違点の検討 事案に鑑み、はじめに上記相違点3について検討する。 甲第1号証(【0012】、【0013】など)を仔細にみても、甲1発明に追加的に使用することが可能な充填材として、「珪酸ジルコニウム」や「板状または鱗片状のチタン酸塩」を開示若しくは示唆する記載は見当たらない。むしろ、甲第1号証の【0020】の表1をみると、「ケイ酸ジルコニウム」(珪酸ジルコニウム)を使用した比較例3は、定積常用効力及び空車ME効力において特性が劣るものとして評価されているから、当業者が、甲1発明、すなわち同表の実施例2において、わざわざ珪酸ジルコニウムをさらに含有させるとは考えにくい。 また、そのような技術常識も甲第1号証や異議申立人が提出した他の証拠において見当たらない。 してみると、異議申立人が提出した証拠から、上記相違点に係る本願発明の技術的事項が、当業者にとって容易想到のものであるとすることはできない。 この点につき、異議申立人は、平成28年10月25日付け意見書において、これに添付した参考資料2(国際公開第2012/056716号)の記載を根拠に、甲1発明に特定量の珪酸ジルコニウム及び特定量の板状チタン酸塩を添加することは、容易想到である旨主張するが、当該参考資料2記載のものは、その実施例からすると、スチール繊維を含有するものに着目したものであって、本件発明が対象とするNAO材を前提とするものとは認められないし、当該意見書には、上述した甲第1号証の比較例3の存在にかかわらず、甲1発明において当業者が珪酸ジルコニウムを採用することが容易想到であることを認めるに足りる根拠は示されていないことから、当該参考文献2及び主張を採用して本願発明を容易想到のものとすることもできない。 (5) 小括 以上検討のとおり、上記相違点3に係る本件発明の技術的事項は、当業者が容易に想到し得るものではないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 4 特許法第36条第6項第2号の規定違反について 平成28年7月28日付け取消理由における、特許法第36条第6項第2号所定の違反は、平成28年6月1日付け訂正後の請求項1には、「無機研削材を含み」との記載があったことに鑑み、当該「無機研削材」の範疇が不明確である旨を指摘したものであるが、この点については、上記本件訂正により、「無機研削材として珪酸ジルコニウム・・・を含み」と訂正されたことに解消された。 5 異議申立人のその他の主張について 異議申立人は、平成28年10月25日付け意見書において、本件発明は、「無機研削材として珪酸ジルコニウムと、無機充填材として板状または鱗片状のチタン酸塩を含」むものであるが、それらの含有量が特定されておらず、本件発明の目的とする「十分な耐摩耗性の確保」(【0015】)ができない範囲を含むものである旨主張し、その根拠として、上記の参考資料2を提示している。 しかしながら、当該参考資料2は、上記のとおりNAO材を前提とするものではない上、そこに記載された珪酸ジルコニウムの含有量は、摩耗材の耐摩耗性がより向上する、好ましいとされる数値範囲であって、当該数値範囲外のことについて言及するものではない。また、異議申立人が根拠とする、参考資料2に記載された「チタン酸カリウム繊維」の含有量は、本件発明が対象としている「板状または鱗片状のチタン酸塩」とは異なるものである。 したがって、当該異議申立人の主張も当を得たものとはいえず、採用することはできない。 第4 結び 以上のとおりであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとも、同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも認められないから、上記取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立の理由によっては、取り消すことはできない。 また、上記のとおり、本件訂正により、請求項2及び3は削除されたため、これらに対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した乗用車用ディスクブレーキパッドに使用される摩擦材において、上記摩擦材組成物は、銅以外の金属単体、合金を含まず、無機研削材として珪酸ジルコニウムと、無機充填材として板状または鱗片状のチタン酸塩を含み、潤滑剤として、硫化亜鉛を0.5?2.0重量%、黒鉛を摩擦材組成物全量に対し2.0?5.0重量%含有することを特徴とする摩擦材。 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-12-20 |
出願番号 | 特願2012-122046(P2012-122046) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C09K)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 井上 恵理 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
日比野 隆治 國島 明弘 |
登録日 | 2015-05-01 |
登録番号 | 特許第5738801号(P5738801) |
権利者 | 日清紡ブレーキ株式会社 |
発明の名称 | 摩擦材 |
代理人 | 船越 巧子 |
代理人 | 船越 巧子 |