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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08G |
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管理番号 | 1324848 |
異議申立番号 | 異議2016-700299 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-04-12 |
確定日 | 2017-01-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5795112号発明「ポリウレタン樹脂組成物、封止材及び電気電子部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5795112号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5795112号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯等 特許第5795112号(設定登録時の請求項の数は5。以下、「本件特許」という。)は、平成26年11月21日を出願日とする特願2014-236692号に係るものであって、平成27年8月21日に設定登録された。 特許異議申立人 安田愛美(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成28年4月12日、本件特許の請求項1ないし5に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。 当審において、平成28年7月26日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、同年9月16日付けで、訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)及び意見書を提出したので、異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、異議申立人は、同年11月4日付けで意見書を提出した。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。なお、下線については訂正箇所に合議体が付したものである。 訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物とが反応してなるポリウレタン樹脂、及びリン酸エステル系難燃剤を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、 前記イソシアネート基含有化合物は、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体を含み、 前記水酸基含有化合物は、ひまし油系ポリオールを含み、 前記イソシアネート基含有化合物と、前記水酸基含有化合物とのNCO/OH比が0.7?1.0であり、 前記リン酸エステル系難燃剤の含有量は、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して15?35質量%である、 ことを特徴とするポリウレタン樹脂組成物。」 とあるのを 「イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物とが反応してなるポリウレタン樹脂、及びリン酸エステル系難燃剤を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、 前記イソシアネート基含有化合物は、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体を含み、 前記水酸基含有化合物は、ひまし油系ポリオールを含み、 前記イソシアネート基含有化合物と、前記水酸基含有化合物とのNCO/OH比が0.7?1.0であり、 前記リン酸エステル系難燃剤の含有量は、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して15?35質量%であり、且つ 無機充填材の含有量が、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して0?0.3質量%である、ことを特徴とするポリウレタン樹脂組成物。」 に訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正の目的について ア この訂正は、訂正前の請求項1では、「無機充填材の含有量」について特定されていなかったものを、訂正後の請求項1において「無機充填材の含有量が、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して0?0.3質量%である」との記載により、訂正後の請求項1に係る発明における「無機充填材の含有量」を具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。 イ 異議申立人は、上記の訂正に関し、「無機充填材の含有量が、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して0質量%である」の部分については、実質的に無機充填材の含有量が特定されているものではなく、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない旨主張する。 エ 上記主張について検討する。 訂正前の請求項1においては、無機充填材についての特定はないことから、無機充填材を配合するものと配合しないものを含むものであったのに対して、訂正後の請求項1では、少量の無機充填材を配合するものと無機充填材を配合しないものに限定されたといえるから、異議申立人の主張は採用できない。 (2) 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 無機充填材を0?0.3質量%含む点については、例えば願書に添付した明細書の【0037】【0038】及び実施例に記載がある。そして、上記訂正は、ポリウレタン樹脂組成物の組成について無機充填材の配合量を特定することで減縮しているのであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3) 一群の請求項について 上記訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?5]について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、平成28年9月16日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下に記載のとおりのものである。 「【請求項1】 イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物とが反応してなるポリウレタン樹脂、及びリン酸エステル系難燃剤を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、 前記イソシアネート基含有化合物は、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体を含み、 前記水酸基含有化合物は、ひまし油系ポリオールを含み、 前記イソシアネート基含有化合物と、前記水酸基含有化合物とのNCO/OH比が0.7?1.0であり、 前記リン酸エステル系難燃剤の含有量は、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して15?35質量%であり、且つ 無機充填材の含有量が、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して0?0.3質量%である、ことを特徴とするポリウレタン樹脂組成物。 【請求項2】 前記イソシアネート基含有化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体を含む、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。 【請求項3】 前記リン酸エステル系難燃剤の含有量は、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して20?35質量%である、請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂組成物 【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載のポリウレタン樹脂組成物からなる封止材。 【請求項5】 請求項4に記載の封止材を用いて樹脂封止された電気電子部品。」 第4 取消理由の概要 平成28年7月26日付けで通知した取消理由は、本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明であって特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない(以下、「取消理由1」という。)、又は本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(以下、「取消理由2」という。)というものである。 刊行物:特許第5550161号公報(異議申立人の証拠方法である甲第3号証) 第5 合議体の判断 当合議体は、以下述べるように、上記取消理由1及び2には理由はないと判断する。 1 刊行物 特許第5550161号公報(特許異議申立書に添付された甲第3号証) 2 刊行物の記載事項 本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である特許第5550161号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線については当審において付与した。 ア 「【請求項1】 水酸基含有化合物、イソシアネート基含有化合物および無機充填材(D)を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、 前記水酸基含有化合物が、ポリブタジエンポリオール(A)を含有し、 前記イソシアネート基含有化合物が、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(B)およびポリイソシアネート化合物のアロファネート変性体(C)を含有し、 前記無機充填材(D)が、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化マグネシウムおよび酸化マグネシウムからなる群より選ばれる1種以上であり、無機充填材(D)の配合量は、ポリウレタン樹脂組成物に対して、50?95質量%である、 ポリウレタン樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項1) イ 「無機充填材(D)の配合量は、ポリウレタン樹脂組成物に対して、50?95質量%であり、50?90質量%が好ましく、60?85質量%がより好ましい。無機充填材(D)の配合量が上記範囲より少ないと、放熱効果が小さくなる傾向があり、上記範囲より多いとポリウレタン樹脂組成物の製造時の混合粘度が高くなり、作業性が低下する傾向がある。」(段落【0034】) ウ 「本発明のポリウレタン樹脂組成物から得られるポリウレタン樹脂は、冷熱サイクル下における熱的耐久性を有していることから、発熱を伴う電気電子部品に好適に使用することができる。このような電気電子部品としては、トランスコイル、チョークコイルおよびリアクトルコイルなどの変圧器や機器制御基盤が挙げられる。本発明のポリウレタン樹脂を使用した電気電子部品は、電気洗濯機、便座、湯沸し器、浄水器、風呂、食器洗浄機、電動工具、自動車、バイクなどにできる。」(段落【0041】) エ 「【実施例】 以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明のポリウレタン樹脂組成物および本発明のポリウレタン樹脂用原料組成物について詳細に説明する。なお、本明細書中に於ける「部」、「%」は、特に明示した場合を除き、「質量部」、「質量%」をそれぞれ表している。 実施例及び比較例において使用する原料を以下に示す。 (ポリブタジエンポリオール(A)) A1:平均水酸基価103mgKOH/gのポリブタジエンポリオール (商品名:Poly bd R-15HT、出光興産社製) A2:平均水酸基価47mgKOH/gのポリブタジエンポリオール (商品名:Poly bd R-45HT、出光興産社製) (ひまし油系ポリオール(E)) E1: ひまし油 (商品名:ひまし油、伊藤製油社製) E2: ひまし油脂肪酸-多価アルコールエステル (商品名:URIC Y-403、伊藤製油社製) E3:ひまし油脂肪酸-多価アルコールエステル (商品名:HS 2G 160R、豊国製油社製) (ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(B)) B1:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体 (商品名:デュラネートTPA-100、旭化成ケミカルズ社製) B2:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体 (商品名:デュラネートTLA-100、旭化成ケミカルズ社製) (ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(C)) C:ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート変性体 (商品名:デュラネートA201H、旭化成ケミカルズ社製) (無機充填材(D)) D1:水酸化アルミニウム (商品名:ハイジライトH-32、昭和電工社製) D2:水酸化アルミニウム (商品名:水酸化アルミC-305、住友化学社製) (可塑剤(F)) F1:トリキシレニルホスフェート (商品名:TXP、大八化学工業社製) F2:トリクレジルホスフェート (商品名:TCP、大八化学工業社製) F3:ジウンデシルフタレート (商品名:サンソサイザー DUP、新日本理化社製) (シランカップリング剤(G)) G1:デシルトリメトキシシラン (商品名:KBM-3103、信越化学工業社製) G2:ビニルトリメトキシシラン (商品名:KBM-1003、信越化学工業社製) G3:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン (商品名:KBM-403、信越化学工業社製) G4:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン (商品名:KBM-503、信越化学工業社製) (触媒(H)) H:ジオクチル錫 ジラウレート (商品名:ネオスタンU-810、日東化成社製) (酸化防止剤(I)) I:ペンタエリスリトール テトラキス[3-(3、5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート] (商品名:イルガノックス1010、チバスペシャリティーケミカルズ社製) <実施例1?22及び比較例1?3> 表1に示す配合により、各実施例及び各比較例のポリウレタン樹脂組成物を調製した。調製に際しては、表1に示す成分のうち、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(B)、ポリイソシアネート化合物のアロファネート変性体(C) および触媒(H)を除く成分を混合機(商品名:あわとり練太郎、シンキー社製)を用いて2000rpmで1分間混合した後、25℃に調整した。続いて、この混合物に25℃に調整したポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(B)、ポリイソシアネート化合物のアロファネート変性体(C)を加え、同上の混合機を用いて2000rpmで30秒間混合することにより、各実施例のポリウレタン樹脂組成物を得た。 【表1】 」(段落【0042】?【0045】) 3 引用文献に記載された発明 引用文献の上記摘示ア?エの記載から、引用文献には、実施例1として記載されたポリウレタン樹脂組成物として、 「ポリブタジエンポリオールA1を7質量部、ひまし油E1を3質量部、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体B1を2質量部、ポリイソシアネート化合物のアロファネート変性体Cを1.5質量部、水酸化アルミニウムD1を62.5質量部、トリキシレニルホスフェートF1を4質量部、ジウンデシルフタレートF3を20質量部、ジオクチル錫ジラウレートHを0.005質量部、ペンタエリスリトール テトラキス[3-(3、5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]Iを0.3質量部を配合し、トリキシレニルホスフェートF1の配合量は、ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して4質量%(4/(7+3+2+1.5+62.5+4+20+0.005+0.3))、水酸化アルミニウムD1の配合量は、ポリウレタン樹脂100質量部に対して62.5質量%((62.5/(7+3+2+1.5+62.5+4+20+0.005+0.3))であり、NCO/OH比が0.8である、ポリウレタン樹脂組成物。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。 また、摘示エの実施例1?22を総合してみれば、引用文献には、ポリウレタン樹脂組成物として、 「ポリブタジエンポリオール、ひまし油、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体、ポリイソシアネート化合物のアロファネート変性体、水酸化アルミニウム、トリキシレニルホスフェート、ジウンデシルフタレート、ジオクチル錫ジラウレートを配合し、NCO/OH比が0.70?1.01であり、トリキシレニルホスフェート(F1成分)のポリウレタン樹脂組成物100質量部(A成分+E成分+B成分+C成分+D成分+F成分+H成分+I成分)に対して4?12質量%(4/100.3(実施例11、12)?12/100.3(実施例21、22))であり、無機充填材である水酸化アルミニウムの配合量はポリウレタン樹脂組成物に対して50?95質量%である、ポリウレタン樹脂組成物。」(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。 4 本件発明1と引用発明1との対比・判断 本件発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体B1」、「ひまし油E1」、「水酸化アルミニウムD1」は、それぞれ、本件発明1における「ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体」、「ひまし油系ポリオール」、「無機充填材」に相当する。 引用発明1の「トリキシレニルホスフェートF1」は、本件特許明細書の段落【0034】の記載から、本件発明1の「リン酸エステル系難燃剤」に相当する。 また、引用発明1の「NCO/OH比が0.8」は、本件発明1の「NCO/OH比が0.7?1.0」と重複一致する。 引用発明1は、ポリブタジエンポリオールA1、ポリイソシアネート化合物のアロファネート変性体C、水酸化アルミニウム、ジウンデシルフタレートF3、ジオクチル錫ジラウレートH、ペンタエリスリトール テトラキス[3-(3、5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]をさらに配合しているが、本件発明1も、本件特許明細書の段落【0030】、【0031】、【0037】?【0043】の記載から、これらを配合するものを包含しているから、これらを配合する点は相違点とはならない。 以上のことから、本件発明1と引用発明1とは、 「イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物とが反応してなるポリウレタン樹脂、及びリン酸エステル系難燃剤を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、 前記イソシアネート基含有化合物は、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体を含み、 前記水酸基含有化合物は、ひまし油系ポリオールを含み、 前記イソシアネート基含有化合物と、前記水酸基含有化合物とのNCO/OH比が0.7?1.0であり、無機充填材を含有する、ポリウレタン樹脂組成物。」の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> リン酸エステル系難燃剤及び無機充填材の配合量に関して、本件発明1においては「リン酸エステル系難燃剤がポリウレタン樹脂100質量部に対して15?35質量%」と特定し、さらに「無機充填材の含有量が、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して0?0.3質量%である」と特定するのに対して、引用発明1は、リン酸エステル系難燃剤の配合量は、ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して、4質量%であって、無機充填材の配合量が、ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して、62.5質量%である点。 以下、相違点1について検討する。 引用発明1は、無機充填材の配合量をポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して50?95質量%とする発明(引用文献の特許請求の範囲の請求項1)の一実施態様の発明であって、引用文献の上記摘示2イの記載に照らしても、放熱効果の観点から、ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対する無機充填材の配合量を「62.5質量%」からはるかに小さい「0?0.3質量%」とすることが容易であるとは到底いえない。 また、本件明細書において、当該相違点に係る範囲にポリウレタン樹脂組成物の配合を調整することにより、加熱後の難燃性が向上することが確認されており、当該効果について、異議申立人が提示しているいずれの甲号証に記載も示唆もされていない。 してみれば、上記相違点1について、当業者が容易に想到し得たこととは認められない。 そうすると、本件発明1は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 5 本件発明2ないし5と引用発明1との対比・判断 本件発明2ないし5は、直接又は間接的に本件発明1を引用する発明である。そして、請求項1に係る本件発明1が引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないのは上述のとおりであるから、請求項2ないし5に係る本件発明2ないし5についても同様に、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 6 本件発明1と引用発明2との対比・判断 本件発明1と引用発明2とを対比すると、上記4と同様であって、本件発明1と引用発明2とは、 「イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物とが反応してなるポリウレタン樹脂、及びリン酸エステル系難燃剤を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、 前記イソシアネート基含有化合物は、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体を含み、 前記水酸基含有化合物は、ひまし油系ポリオールを含み、 前記イソシアネート基含有化合物と、前記水酸基含有化合物とのNCO/OH比が0.7?1.0であり、無機充填材を含有する、ポリウレタン樹脂組成物。」の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点2> リン酸エステル系難燃剤及び無機充填材の配合量に関して、本件発明1においては「リン酸エステル系難燃剤がポリウレタン樹脂100質量部に対して15?35質量%」と特定し、さらに「無機充填材の含有量が、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して0?0.3質量%である」と特定するのに対して、引用発明2は、リン酸エステル系難燃剤の配合量は、ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して、4?12質量%であって、無機充填材の配合量が、ポリウレタン樹脂組成物に対して、50?95質量%である点。 以下、相違点2について検討する。 引用発明2は、無機充填材の配合量としてポリウレタン樹脂組成物に対して、50?95質量%と特定されている発明であって、引用文献の上記摘示2イの記載に照らしても、放熱効果の観点から、ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対する無機充填材の配合量を「50?95質量%」からはるかに小さい「0?0.3質量%」とすることが容易であるとは到底いえない。 また、本件明細書において、当該相違点2に係る範囲にポリウレタン樹脂組成物の配合を調整することにより、加熱後の難燃性が向上することが確認されており、当該効果について、異議申立人が提示しているいずれの甲号証に記載も示唆もされていない。 してみれば、上記相違点2について、当業者が容易に想到し得たこととは認められない。 そうすると、本件発明1は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 7 本件発明2ないし5と引用発明2との対比・判断 本件発明2ないし5は、直接又は間接的に本件発明1を引用する発明である。そして,請求項1に係る本件発明1が引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないのは上述のとおりであるから,請求項2ないし5に係る本件発明2ないし5についても同様に,引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 8 小括 以上のとおり、本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、引用文献に記載された発明ではないし、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものともいえないから、上記取消理由1及び2には理由がない。 第6 異議申立人の主張するその他の取消理由について 1 その他の新規性及び進歩性について 異議申立人が提出した甲1、2、4ないし5のいずれの証拠においても、本件発明1の特定のポリウレタン樹脂組成物についての具体的な記載はなく、本件発明1の特定の配合量とすることで、耐加水分解性及び難燃性に優れ、且つ、高温環境下で用いられた場合であっても難燃性の低下が抑制されることは、記載も示唆もされていないから、特定の配合量とすることが想到容易とは認められず、当該証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。 2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 本件発明1の解決課題である「耐加水分解性及び難燃性に優れ、且つ、高温環境下で用いられた場合であっても難燃性の低下が抑制されたポリウレタン樹脂組成物を提供すること」(本件特許明細書の【0011】)は、本件発明1の発明特定事項で特定される配合のポリウレタン樹脂組成物により解決されることが、本件特許明細書の記載(具体的には、段落【0016】において、イソシアネート基含有化合物がポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体を含むことにより、ポリウレタン樹脂組成物が優れた耐熱性を示し、且つ、優れた難燃性を示すこと、段落【0029】において、ひまし油系ポリオールの含有量が多過ぎると、ポリウレタン樹脂組成物の難燃性が低下するおそれがあり、少な過ぎると、絶縁性が低下するおそれがあること、段落【0033】【0035】において、ポリウレタン系樹脂組成物のNCO/OH比を0.7?1.0とし、且つ、リン酸エステル系難燃剤の含有量を後述する特定の範囲とすることにより、本発明のポリウレタン樹脂組成物が耐加水分解性及び難燃性に優れ、且つ、高温環境下で用いられた場合であっても難燃性の低下が抑制されること)から、当業者に理解できるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足している。本件発明2ないし5も同様である。 3 特許法第36条第6項第2号(明確性)について 異議申立人は、本件発明1の「イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物とが反応してなるポリウレタン樹脂」の記載はプロダクトバイプロセスクレームであって、明確でない旨主張するが、ポリウレタン樹脂の技術分野において、当該記載は物の構造又は特性を明確に表しているといえるから、異議申立人の主張は採用できない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物とが反応してなるポリウレタン樹脂、及びリン酸エステル系難燃剤を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、 前記イソシアネート基含有化合物は、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体を含み、 前記水酸基含有化合物は、ひまし油系ポリオールを含み、 前記イソシアネート基含有化合物と、前記水酸基含有化合物とのNCO/OH比が0.7?1.0であり、 前記リン酸エステル系難燃剤の含有量は、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して15?35質量%であり、且つ 無機充填剤の含有量が、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して0?0.3質量%である、 ことを特徴とするポリウレタン樹脂組成物。 【請求項2】 前記イソシアネート基含有化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体を含む、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。 【請求項3】 前記リン酸エステル系難燃剤の含有量は、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して20?35質量%である、請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂組成物 【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載のポリウレタン樹脂組成物からなる封止材。 【請求項5】 請求項4に記載の封止材を用いて樹脂封止された電気電子部品。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-12-21 |
出願番号 | 特願2014-236692(P2014-236692) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C08G)
P 1 651・ 113- YAA (C08G) P 1 651・ 121- YAA (C08G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小森 勇 |
特許庁審判長 |
小柳 健悟 |
特許庁審判官 |
守安 智 大島 祥吾 |
登録日 | 2015-08-21 |
登録番号 | 特許第5795112号(P5795112) |
権利者 | サンユレック株式会社 |
発明の名称 | ポリウレタン樹脂組成物、封止材及び電気電子部品 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |