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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01D
審判 一部申し立て 発明同一  A01D
審判 一部申し立て 2項進歩性  A01D
審判 一部申し立て 1項2号公然実施  A01D
審判 一部申し立て 特174条1項  A01D
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01D
管理番号 1324858
異議申立番号 異議2016-700495  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-01 
確定日 2017-01-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第5825750号発明「電動作業機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5825750号の請求項11に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯
特許第5825750号の請求項11に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成21年3月3日に特許出願され、平成27年10月23日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人株式会社マキタにより特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第5825750号の請求項11の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項11に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下「本件発明」という。)。

「【請求項11】
長尺状の操作棹の一端に接続されたハウジングと、
前記操作棹の他端に接続される作業部と、
電力供給を受けて前記作業部を動作させる電動モータと、
前記操作棹に設けられた把持部と、
前記把持部に設けられ、前記電動モータへの電力の供給を操作する操作部と、を備えた電動作業機において、
前記電動モータは、着脱可能に構成されたバッテリからの電力供給によって動作し、
前記ハウジングの前記操作棹と接続される側と反対側には、前記操作棹の軸方向と略直交する方向に延びるガイド部が形成され、
前記バッテリは、前記ガイド部に沿って、上方から挿入されることで取り付けられるとともに、前記ハウジングの上面には、凹部が形成されていると共に、前記凹部には前記バッテリから前記電動モータへの電源供給を可能とする電源スイッチと、前記バッテリの残量を表示する残量表示部が設けられていることを特徴とする電動作業機。」


第3 申立された取消理由の概要
申立人が主張する取消理由の概要は以下のとおりである。

1 特許法第17条の2第3項「新規事項追加」(「取消理由1」という。以下同様。)
申立人は、本件特許に係る出願の平成27年6月29日付の手続補正書による補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである旨主張し、その理由として概ね以下のとおり主張している。

平成27年6月29日付の手続補正書で補正された本件発明には、電動モータが配置されている位置に関する限定がなく、ハウジングが電動モータを収容する旨の限定もなく、操作棹の内部に動力伝達軸を備える点も限定されていない。したがって、操作棹の前端に作業部と電動モータが配置され、操作棹の後端にハウジングとバッテリが配置された電動作業機を含むものとなっている。本件特許に係る出願の出願当初の明細書等にはそのような電動作業機は開示されていないから、新規事項を追加したものである。

2 特許法第36条第4項第1号実施可能要件」(「取消理由2」)
申立人は、本件発明について、本件特許に係る出願の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである旨主張し、その理由として概ね以下のとおり主張している。

取消理由1で述べたとおり、本件発明は、操作棹の前端に作業部と電動モータが配置され、操作棹の後端にハウジングとバッテリが配置された電動作業機(とくに、操作棹の前端に電動モータが配置される点)を含むものであるが、本件特許に係る出願の発明の詳細な説明には、そのような電動作業機は開示されておらず、よって本件発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

3 特許法第36条第6項第1号「サポート要件」(「取消理由3」)
申立人は、本件発明は、本件特許に係る出願の発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである旨主張し、その理由として概ね以下のとおり主張している。

取消理由1で述べたとおり、本件発明は、操作棹の前端に作業部と電動モータが配置され、操作棹の後端にハウジングとバッテリが配置された電動作業機を含むものであるが、本件特許に係る出願の発明の詳細な説明には、操作棹の前端に電動モータを配置しながら、操作棹の前端に作業部を接続する技術は開示されておらず、よって本件発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。

4 特許法第29条第1項(第2号)「公然実施発明に対する新規性」(「取消理由4」)
申立人は、本件発明は、本件特許に係る出願の出願前に公然と販売されたコードレス刈払機FCG18DL(公然実施発明)と同一であるから、特許法第29条第1項第2号の発明に該当する。従って、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである旨主張し、その理由として概ね以下のとおり主張している。

コードレス刈払機FCG18DLは甲第5号証に示されるように本件特許の出願前に発売され、そして甲第6号証に示されるように本件発明1の構成を全て備えているから、本件発明は公然実施発明と同一である。

5 特許法第29条第2項進歩性」(「取消理由5」)
申立人は、本件発明は、本件特許に係る出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、公然実施発明(上記コードレス刈払機FCG18DL)と周知技術に基づいて、あるいはその出願前に頒布された刊行物(特開平10-56845号公報(甲第7号証)または実開昭49-1429号公報(甲第19号証))に記載された発明と周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものである。従って、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張し、その理由として概ね以下(1)ないし(3)のとおり主張している。

(1) 公然実施発明(コードレス刈払機FCG18DL)を主引例とした理由
取消理由4で述べたとおり本件発明は公然実施発明と同一であるが、仮に両者間に相違点があったにしても微差に過ぎず、出願時の公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) 特開平10-56845号公報(甲第7号証)を主引例とした理由
本件発明と甲第7号証記載の発明は、以下の点で相違している。
(相違点1)本件発明では、ハウジングの操作棹と接続される側と反対側には、操作棹の軸方向と略直行する方向に延びるガイド部が形成され、バッテリは、ガイド部に沿って、上から挿入されることで取り付けられるのに対して、甲7号証記載の発明では、ハウジングの上面の操作棹と接続される側と反対側には、操作棹の軸方向に延びるガイド部が形成され、バッテリは、ガイド部に沿って、後方から取り付けられる点。
(相違点2)本件発明では、ハウジングの上面には、凹部が形成されていると共に、凹部に電源スイッチと残量表示部が設けられているのに対して、甲第7号証記載の発明では、ハウジングの上面に凹部は形成されておらず、電源スイッチと残量表示部も設けられていない点。

相違点1については、バッテリをいわゆる差込式(甲第7号証記載の発明)で取り付ける構成とするか、いわゆるスライド式(本件発明)で取り付ける構成とするかは、当業者が適宜選択する設計的事項に過ぎない。甲第8、9号証のそれぞれには、スライド式の形態と差込式の形態がともに記載されている。
そして、バッテリを差込式で取り付ける構成からスライド式で取り付ける構成とすることは、動機付けが存在する。甲第10号証には、差込式からスライド式に変更することで、ハンドグリップの形状に関する設計の自由度が高まるということが記載されている。甲第11ないし13号証には、差込式からスライド式への置き換えが進められていることが示されている。
そして、バッテリをスライド式で取り付ける構成において、ハウジングにガイド部が形成され、バッテリがガイド部に沿って上方から挿入されることで取り付けられるものは、甲第14ないし16号証に記載されているように、当業者には広く知られたものである。
相違点2については、電動作業機の使用時、及びバッテリの着脱時に、使用者から見やすい位置に、電源スイッチや残量表示部を配置すること、及び電源スイッチや残量表示部をハウジングに形成された凹部に配置することは、周知技術である。
甲第8号証には、バッテリの着脱時に使用者から見やすい位置に、残量表示部を配置する構成が開示されている。
甲第17号証には、電動工具の使用時に使用者から見やすい位置に、凹部が形成され、凹部にはバッテリから電動モータへの電源供給を可能とする電源スイッチと、バッテリの残量を表示する残量表示部が配置された構成が開示されている。
甲第18号証には、電動作業機の使用時に使用者から見やすい位置に、電源スイッチと残量表示部がそれぞれ配置された構成が開示されている。

(3) 実開昭49-1429号公報(甲第19号証)を主引例とした理由
本件発明と甲第19号証記載の発明は、以下の点で相違している。
(相違点1)本件発明では、ハウジングの操作棹と接続される側と反対側には、操作棹の軸方向と略直行する方向に延びるガイド部が形成され、バッテリは、ガイド部に沿って、上から挿入されることで取り付けられるのに対して、甲19号証記載の発明では、ハウジングには、断面L字状のバッテリ取付台が形成され、バッテリは、バッテリ取付台に上方から挿入されることで取り付けられる点。
(相違点2)本件発明では、ハウジングの上面には、凹部が形成されていると共に、凹部に電源スイッチと残量表示部が設けられているのに対して、甲第1号証記載の発明では、ハウジングの上面に凹部は形成されておらず、電源スイッチと残量表示部も設けられていない点。

相違点1については、バッテリ取付部にガイド部を設けて、バッテリがガイド部に沿って上方から挿入されることで取り付けられるものは、甲第14ないし16号証に記載されているように、当業者には広く知られたものである。
相違点2については、電動作業機の使用時、及びバッテリの着脱時に、使用者から見やすい位置に、電源スイッチや残量表示部を配置すること、及び電源スイッチや残量表示部をハウジングに形成された凹部に配置することは、周知技術である。
甲第8号証には、バッテリの着脱時に使用者から見やすい位置に、残量表示部を配置する構成が開示されている。
甲第17号証には、電動工具の使用時に使用者から見やすい位置に、凹部が形成され、凹部にはバッテリから電動モータへの電源供給を可能とする電源スイッチと、バッテリの残量を表示する残量表示部が配置された構成が開示されている。
甲第18号証には、電動作業機の使用時に使用者から見やすい位置に、電源スイッチと残量表示部がそれぞれ配置された構成が開示されている。

6 特許法第29条の2「拡大先願」(「取消理由6」)
申立人は、本件発明は、本件特許に係る出願の出願日前に出願され、本件特許に係る出願の出願日後に出願公開された特許出願である特願2008-206927号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載された発明(甲第20号証)と同一である。従って、本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである旨主張し、その理由として概ね以下のとおり主張している。

本件発明と甲第20号証の発明は、本件発明では、ハウジングの上面に凹部が形成され、凹部にはバッテリから電動モータへの電源供給を可能とする電源スイッチと、バッテリの残量を表示する残量表示部が設けられているのに対し、甲第20号証の発明では、ハウジングの上面に凹部は形成されておらず、ハウジングの上面に電源スイッチや残量表示部が設けられているか否かが不明である点で一応は相違している。
上記一応の相違点に関して、電動工具の使用時、及びバッテリの着脱時に、使用者から見やすい位置に、電源スイッチや残量表示部を配置すること、及び電源スイッチや残量表示部をハウジングに形成された凹部に配置することは、周知技術である。
甲第8号証には、バッテリの着脱時に使用者から見やすい位置に、残量表示部を配置する構成が開示されている。
甲第17号証には、電動工具の使用時に使用者から見やすい位置に、凹部が形成され、凹部にはバッテリから電動モータへの電源供給を可能とする電源スイッチと、バッテリの残量を表示する残量表示部が配置された構成が開示されている。
甲第18号証には、電動作業機の使用時に使用者から見やすい位置に、電源スイッチと残量表示部がそれぞれ配置された構成が開示されている。

[証拠方法]
甲第1号証:特許第5825750号公報(本件特許公報)

甲第2号証:平成27年6月29日付け手続補正書(本件特許に係る出願での補正)

甲第3号証:特開2010-200673号公報(本件特許に係る出願の公開公報)

甲第4号証:実願平3-48218号(実開平5-2620号)のCD-ROM
(特許異議申立書の「実開平5-2620号公報」は「実願平3-48218号(実開平5-2620号)のCD-ROM」の誤記と認める。)

甲第5号証:コードレス刈払機FCG18DLの環境データシートの写し

甲第6号証:コードレス刈払機FCG18DLの取扱説明書の写し

甲第7号証:特開平10-56845号公報

甲第8号証:特開2008-229740号公報

甲第9号証:特開2007-118098号公報

甲第10号証:特開2006-218583号公報

甲第11号証:株式会社マキタの2000年4月版の総合カタログの表紙、第6頁及び第7頁の写し

甲第12号証:株式会社マキタの2000年10月版の総合カタログの表紙、第6頁及び第7頁の写し

甲第13号証:株式会社マキタの2008年10月版の総合カタログの表紙、第8頁及び第9頁の写し

甲第14号証:米国特許第6181032号明細書
(注;申立人による抄訳添付)

甲第15号証:株式会社マキタの2007年12月4日付けプレスリリースの写し

甲第16号証:充電式チェーンソーUC121DRFの取扱説明書の写し

甲第17号証:特開2008-68355号公報

甲第18号証:特開平10-191750号公報

甲第19号証:実願昭47-42027号(実開昭49-1429号)のマイクロフィルム
(特許異議申立書の「実開昭49-1429号公報」は「実願昭47-42027号(実開昭49-1429号)のマイクロフィルム」の誤記と認める。)

甲第20号証:特開2010-41943号公報(特願2008-206927号の公開公報)


第4 当審の判断
1 取消理由1(新規事項追加)について
(1) 平成27年6月29日付の手続補正書による補正について
申立書では「本件特許に係る出願の平成27年6月29日付の手続補正書による補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではない」(申立書2頁下から5行?下から3行。)と申し立てられていることに従い、平成27年6月29日付の手続補正書による補正について検討する。
該補正の内容は、該補正と同日付けの意見書に「2.補正について (1)本願請求項1、4、7?11について 本願請求項1、4、7?11の「操作桿」の記載を「操作棹」に修正致しました。本修正は単なる誤記の修正であり、明細書の段落0023「電動作業機は、操作棹4の先端に刈刃29、及び刈刃カバー31、後端にモータハウジング1に収容された電動モータ2を備えている」との記載に基づくものです。」と記載されているとおり、「操作棹」について「操作桿」と誤記されていたものを訂正する「誤記の訂正」である。
より具体的には、補正前の特許請求の範囲(平成26年9月3日付け手続補正書により全文補正された特許請求の範囲)の
「【請求項11】
長尺状の操作桿の一端に接続されたハウジングと、
前記操作桿の他端に接続される作業部と、
電力供給を受けて前記作業部を動作させる電動モータと、
前記操作棹に設けられた把持部と、
前記把持部に設けられ、前記電動モータへの電力の供給を操作する操作部と、を備えた電動作業機において、
前記電動モータは、着脱可能に構成されたバッテリからの電力供給によって動作し、
前記ハウジングの前記操作棹と接続される側と反対側には、前記操作棹の軸方向と略直交する方向に延びるガイド部が形成され、
前記バッテリは、前記ガイド部に沿って、上方から挿入されることで取り付けられるとともに、前記ハウジングの上面には、凹部が形成されていると共に、前記凹部には前記バッテリから前記電動モータへの電源供給を可能とする電源スイッチと、前記バッテリの残量を表示する残量表示部が設けられていることを特徴とする電動作業機。」
という記載中、2箇所(決定にて下線を付加した。)のみ「操作桿」との誤記を「操作棹」に訂正するものである。
以上のように、平成27年6月29日付の手続補正書による補正は誤記の訂正であり、本件特許に係る出願の出願当初の明細書等(以下「当初明細書等」という。)から見て新規事項を追加する補正内容ではない。

(2) 申立人の主張について
上記第3の1に記載したように、申立人は、本件発明は電動モータ等の配置構成に関する限定がなく、操作棹の前端に作業部と電動モータが配置され、操作棹の後端にハウジングとバッテリが配置された電動作業機を含むものとなっており、当初明細書等にはそのような電動作業機は開示されていないから、新規事項を追加したものであるとも主張している。この主張について検討する。
当初明細書等には、発明の課題について、
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】このようなバッテリ駆動式の作業機においては、バッテリの着脱時に草や地面が邪魔となることがあり、また、電動モータとバッテリ等の重量物がハンドルに対してそれぞれ離間した位置にあるため、作業時の取り回しに負担となっていた。
【0006】本発明の目的は、上記した従来技術の欠点をなくし、作業時の取り回しを向上させながら、バッテリの着脱を容易にした電動作業機を提供することにある。」
と記載されている。
すなわち、「また、電動モータとバッテリ等の重量物がハンドルに対してそれぞれ離間した位置にあるため、作業時の取り回しに負担となっていた」という課題(以下「課題A」という。)のみが記載されていたのではなく、別の「バッテリの着脱時に草や地面が邪魔となることがあり」という課題(以下「課題B」という。)が記載され、また、課題Aが必須の課題である旨の記載、あるいは課題Aが課題Bと不可分である旨の記載もない。
であれば、「前記ハウジングの前記操作棹と接続される側と反対側には、前記操作棹の軸方向と略直交する方向に延びるガイド部が形成され、前記バッテリは、前記ガイド部に沿って、上方から挿入されることで取り付けられ」という当初明細書等に記載の課題Bに対応する構成(なお、この対応する構成自体は明らかに新規事項を追加するものではなく、またそのような申立もされていない。)を有している本件発明は、課題Aに対応する電動モータ等の配置構成が限定されていないとしても、当初明細書等から見て新規事項を追加するものということはできない。

(3) 小括
以上のとおり、取消理由1によっては、請求項11に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由2(実施可能要件)について
(1) 検討
ア 発明の詳細な説明に記載されている実施の形態について
本件発明にかかる発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)に、本件発明に含まれる実施の形態が実施可能に記載されているかどうかについて、検討する。
発明の詳細な説明には、実施の形態について、以下の記載がされている。
「【発明を実施するための最良の形態】
【0021】 以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。・・・
【0023】 図1に示すように、電動作業機は、操作棹4の先端に刈刃29、及び刈刃カバー31、後端にモータハウジング1に収容された電動モータ2を備えている。電動モータ2の出力は、電動モータ2の駆動軸36から操作棹4内に挿通させた動力伝達軸12及びギヤケース19内部に設けられた図示しないベベルギヤを介して刈刃29に供給される。操作者は操作棹4に取り付けられたループハンドル26と操作棹4の外周に沿って設けられたハンドル6把持して操作する。(以下、本明細書中においては、刈払機におけるモータハウジング1側を後側、刈刃側を前側とし、電動モータ2の軸芯aと直交する平面上で、上下方向を定義する。)
モータハウジング1は、筒状の収容部によって電動モータ2を内部で保持すると共に、電動モータ2を駆動させるためのバッテリ3を電動モータ2より後側に担持している。・・・
【0025】 また、モータハウジング1の上部には、周囲より一段低く形成された凹状の平坦部が設けられており、平坦部には電子回路部品に電力を供給可能とするための電源スイッチ14及び電池残量を表示するための電池残量表示部21が設けられている。
【0026】 ハンドル6は、モータハウジング1と一体に形成され、モータハウジング1の前端部から操作棹4に沿って延出すると共に、操作棹4を挟持する形で保持している。・・・
【0028】 操作レバー5は、回転軸15を中心に回転し、一端に操作者が指で操作するための操作部を形成していると共に、他端に連結部材であるワイヤ8が接続されている。ワイヤ8は、モータハウジング1の内部に両端が固定された中空のチューブ28に挿通されると共に、ワイヤ端部18が、ボタン27と接続されたスイッチ側フック部17に連結されている。操作者は、セフティレバー25を握った状態で操作レバー5をハンドル6に押し込む方向に操作することで、操作レバー5の他端に接続されたワイヤ8が連動し、ワイヤ端部18とフック部17を介してボタン27を押し込むように動作し、これにより操作レバー5の引き量に応じた電動モータ2の無負荷回転数の制御を行うことが可能となっている。
【0029】 図4を用いて着脱可能に構成されたバッテリ3について説明する。バッテリ3は、バッテリ3側に設けられた端子38と、モータハウジング1設けられた端子と接続されることで、電源供給を可能とすることができる。モータハウジング1には、バッテリ3の挿入をガイドするためのガイド部33が、バッテリ3を挟み込む両端位置に上下方向に延びるように設けられており、バッテリ3をモータハウジング1の後端に上方から下方に挿入させ(挿入方向35)、ガイド部33に沿ってスライドさせることで、所定の位置でラッチ部23によって係止されるようになっている。また、操作者がバッテリ3側面の両側に設けられているラッチ部23を押圧すると、係止が解除され、バッテリ3を上方に引き抜くことで取り外すことができる。・・・
【0034】 次に、以上のように構成された刈払機の動作を説明する。
【0035】 草刈作業時、ハンドル6と操作用ループハンドル26を握り、ハンドル6に設けられた操作レバー5を引くことにより、バッテリ3から電動モータ2に電力が供給されて電動モータ2が起動され、その回転は操作棹4先端の刈刃16を回転駆動し、草刈り等の作業を行うことが出来る。・・・
【0037】 このような構成によれば、電動モータ2を、着脱可能に構成されたバッテリ3からの電力供給によって動作するようにし、モータハウジング1に、駆動軸36の軸方向と略直交する方向に延びるガイド部33を形成し、バッテリ3を、ガイド部33に沿って、上方から挿入して取り付けるようにしたことで、バッテリ3の着脱時に草や地面が邪魔となることを抑制し、良好な取付作業を行うことができる。更に、電動モータとバッテリを何れもハンドル後端に配置することにより、作業時の取り回しを向上させることができる。・・・
【0044】 また、電動モータ2への電力供給を制御するスイッチ部7がモータハウジング1内に設けられ、操作者が電動作業機を保持して作業を行うためのハンドル6が、操作桿の外周に、操作桿の延びる方向に沿って形成されていると共に、ハンドル6には、スイッチ部7を操作するための操作レバー5が設けられ、操作レバー5の操作に連動して、スイッチ部7が操作されるようにしたことにより、握り径を小さくすることができ、手の握り部に加わる荷重バランスが良く操作時が向上させることができる。・・・
【0046】 また、モータハウジング1の上面には、凹部が形成されていると共に、凹部にはバッテリ3から電動モータ2への電源供給を可能とする電源スイッチ14と、バッテリ3の残量を表示する残量表示部21が設けられている。電源スイッチ14の入切がし易く、更にバッテリの残容量を目視により確認し易いため、作業を効率的に行うことができる。また、外部からの電源スイッチ14に外部から力が加わり、意図せず電源スイッチ14が入ってしまうことを抑制できる。」
上記摘記した「本発明を実施するための最良の形態」という実施の形態が本件発明に含まれるものであることは明らかであり、また、物の発明である本件発明について、「物の発明」を明確に説明し、当業者がその物を作りかつ使用できるように記載されていることも明らかであり、実施可能要件に反するところはない(申立においても、該実施の形態自体について実施可能でないとの主張はされていない。)。

イ 申立人の主張について
上記第3の2に記載したように、申立人は、本件発明は、操作棹の前端に作業部と電動モータが配置され、操作棹の後端にハウジングとバッテリが配置された電動作業機を含むものであるが、発明の詳細な説明にはそのような電動作業機は開示されておらず、よって本件発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張している。さらに要約すれば、上記アで摘記したように発明の詳細な説明には操作棹の後端に電動モータが配置される電動作業機の実施の形態のみが記載され、これに対し申立人は操作棹の前端に電動モータが配置される電動作業機が記載されていないと主張しているものである。しかしながら、発明の詳細な説明にある実施の形態のみが実施可能に記載されていること、逆にいえば他のある実施の形態は記載されていないことが、直ちに実施可能要件違反となるものではない。
これが実施可能要件違反にあたるかどうか検討すると、まず、本件発明は電動モータの配置位置について特定する発明ではないので、請求項に上位概念の発明が記載されており発明の詳細な説明にその上位概念に含まれる「一部の下位概念」についての実施の形態のみが実施可能に記載され、かつその上位概念に含まれる他の下位概念については、その「一部の下位概念」についての実施の形態のみでは当業者が出願時の技術常識を考慮しても実施できる程度に明確かつ十分に説明されていないという場合にはあたらない。
また、発明の詳細な説明に記載された実施の形態に、本件発明に含まれる特異点である等の格別の理由もみあたらないので、発明の詳細な説明に特定の実施の形態のみが実施可能に記載され、かつその特定の実施の形態が請求項に係る発明に含まれる特異点である等の理由によって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、その請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないという場合でもない。
このように、操作棹の前端に電動モータが配置される電動作業機が発明の詳細な説明に記載されていないことで実施可能要件違反となる理由はない。また他に、発明の詳細な説明に実施可能要件違反となる点もない。

(3) 小括
以上のとおり、取消理由2によっては、請求項11に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由3(サポート要件)について
(1) 検討
上記1(2)で検討したように、発明の詳細な説明の記載からは課題Aだけでなく課題Bも把握でき、また本件発明が課題Bを解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではないことは明らかである。
よって、操作棹の前端に電動モータを配置しながら、操作棹の前端に作業部を接続する技術は開示されていないとしても、サポート要件違反にはあたらない。また他に、サポート要件違反となる点もない。

(2) 小括
以上のとおり、取消理由3によっては、請求項11に係る特許を取り消すことはできない。

4 取消理由4(公然実施発明に対する新規性)について
(1) コードレス刈払機FCG18DLの発売日について
取消理由4は、コードレス刈払機FCG18DLの発売時期が、本件特許の出願前であることが甲第5号証により立証されることを前提とするものである。
甲第5号証は日立工機株式会社の「環境データシート」と題するウェブページの写しであり、該「環境データシート」の「製品名」欄には「18Vコードレス刈払機FCG18DL/DAL形」と記載され、「発売時期」欄には「単位」を「年、月」として「2009.01」と記載されている。
しかしながら、平成28年9月16日付け意見書に添付された宣誓書にて、その日立工機株式会社における甲第5号証「環境データシート」の直接の作成者である「林崎 利彦」は、上記「発売時期」欄の「2009.01」という記載は誤りであり、コードレス刈払機FCG18DLの実際の発売時期は本件発明に係る特許出願日より後で、当該ウェブページの「発売時期」欄を「2009.03」に修正した旨陳述している。
さらに、平成28年11月7日付け上申書に添付された陳述書にて、日立工機株式会社の営業及びサービスの企画・推進、営業管理を行う営業企画部の責任者である「菊地 義徳」は、コードレス刈払機FCG18DLの発売時期は2009年3月30日と設定され、2009年4月2日に同社国内工場から出荷が開始されたものである旨陳述している。
これら宣誓書及び陳述書には、自署と推認される記名、及び押印がなされ、陳述内容に矛盾する点あるいは通常の社会的常識に反する内容もないから、これら陳述内容は、信用性が高いといえる。
よって、甲第5号証により申立人が立証しようとする「本件特許出願の出願前にコードレス刈払機FCG18DLが販売したこと」には疑義があり、事実であるとは認められない。

(2) 小括
以上のとおり、コードレス刈払機FCG18DLの構造に関し甲第6号証について検討するまでもなく、取消理由4によっては、請求項11に係る特許を取り消すことはできない。

5 取消理由5(進歩性)について
(1) 公然実施発明(コードレス刈払機FCG18DL)を主引例とした取消理由5について
ア 検討
上記取消理由4で検討したとおり、本件特許出願の出願前にコードレス刈払機FCG18DLが販売されたことが甲第5号証により立証されるとは認められない。

イ 小括
以上より、主引例発明(コードレス刈払機FCG18DL)が公然実施発明であることが前提である取消理由5によっては、請求項11に係る特許を取り消すことはできない。

(2) 特開平10-56845号公報(甲第7号証)を主引例とした取消理由5について
ア 甲第7号証
本理由において主引例とされる、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には、以下の記載がある。

(ア)「【請求項1】 長尺状の操作桿の先端部に刈刃を配置し、この刈刃を電動モータ及びバッテリーからなる駆動部によって駆動するようにした人力操作用の電動草刈機であって、前記駆動部を操作桿の基端側に配置し、前記刈刃と電動モータをドライブシャフトで連結することを特徴とする電動草刈機。
【請求項2】 請求項1に記載の電動草刈機において、前記操作桿の中間部の基端側寄りには、肩掛式ベルト装着用の懸吊部が設けられるとともに、この懸吊部の前方には、操作用の把手部が設けられ、この懸吊部と把手部の中間部に重心位置が設定されることを特徴とする電動草刈機。
【請求項3】 請求項1又は請求項2に記載の電動草刈機において、前記電動モータは駆動部の前方側上部に配設され、前記バッテリーは駆動部の後方側下部に配設されることを特徴とする電動草刈機。」

(イ)「【0012】本発明の電動草刈機1は、軽量で操作性に優れ、安全性が配慮された人力操作用の草刈機として構成され、図1に示すように、長尺状の操作桿としてのパイプ2と、このパイプ2の先端部に配置される刈刃3と、パイプ2の基端部に配設される駆動部4を備えている。そしてパイプ2の中間部の基端側寄りには、肩掛式ベルト装着用の懸吊部5が設けられ、この懸吊部5の前方寄りには、把手部6が設けられている。そして、この草刈機1の重心Wは、懸吊部5と把手部6の中間位置に設定されている。
【0013】また、懸吊部5と駆動部4の間には、スイッチ部7が設けられ、このスイッチ部7の後部側にはグリップ部8が設けられている。更に、パイプ3の前方寄り下方には、支持部材10が突設され、また基端側の駆動部4の下方には、脚部11を突設している。そして草刈機1を地上に置く際は、支持部材10と脚部11を地面に接触させて置くようにし、刈刃3と駆動部4を地上から離して保護し得るようにされている。
・・・
【0015】前記駆動部4は、図2に示すように、電動モータ14とバッテリー15を備えている。そして、電動モータ14は、駆動部4の前方上部に配置され、その駆動軸14aは、連結部材16を介して前記ドライブシャフト12の基端部に連結されている。また、バッテリー15は、電動モータ14の振動等の影響が少ない駆動部4の後方下部のバッテリーケース17内に収容され、このバッテリーケース17内の両側部には電極部材18、18(図3)が突設されている。そしてこの電極部材18、18はバッテリー15の両側面の凹部電極に係合可能とされている。
【0016】また、バッテリーケース17の後端部には、図2に示すようにピン軸21まわりに揺動自在な開閉蓋20が設けられ、締結ボルト22で係止出来るようにされている。そして、バッテリー15を充電、或いは交換する時は、締結ボルト22を外して開閉蓋20を開き、バッテリー15を取出し、又は挿入するようにしている。因みに、バッテリー15は、電動モータ14を駆動するため大電流を消費するとともに、15分?30分程度の短時間で充電し、また、年数回程度の使用による完全放電後の再充電等の点から、例えばニッケル-カドミウム電池を使用している。
【0017】前記懸吊部5は、図1に示すような肩掛式ベルト23を装着出来るようにされ、また前記把手部6は、図4に示すように、パイプ2に対して取付部材24を介して取付けられている。そして使用に際しては、肩掛式ベルト23を肩に掛け、把手部6とグリップ部8を両手で持って操作する。この際、前述のように重心位置が懸吊部5と把手部6の中間にくるように設定されているため、操作が楽であり、取り扱いやすい。
【0018】前記スイッチ部7は、図2に示すように、スイッチ本体25と、このスイッチ本体25から後方に向けて張出すスイッチレバー26を備え、このスイッチレバー26の張出先端部は上方に向けて揺動自在とされるとともに、張出先端部を上方に揺動させるとスイッチオンになるようにしている。
・・・
【0020】以上のような構成による電動草刈機1の作用等について説明する。草刈機1を使用して草等を刈る時は、懸吊部5に装着した肩掛式ベルト23を肩に掛け、例えば右手でグリップ部8を把持してスイッチ部7を操作し、左手で把手部6を握って刈刃3の位置を操作する。この際、スイッチ部7の操作は、安全レバー27を反時計方向に揺動させた後、スイッチレバー26を上方に倒すと、電動モータ14が作動してドライブシャフト12を通じて刈刃3が回転する。」

(ウ) 上記(ア)および(イ)を踏まえると、甲第7号証には、下記発明が記載されているといえる(以下「甲7発明」という。)。

「長尺状の操作棹としてのパイプ2の先端部に刈刃3を配置し、
刈刃3を電動モータ14及びバッテリー15からなる駆動部によって駆動するようにし、
駆動部4はパイプ2の基端部に設けられた電動草刈機1であって、
パイプ2の中間部の基端側寄りに設けられた懸吊部5と、懸吊部5の前方寄りに設けられた把手部6があり、
電動モータ14を作動させるスイッチ部7は懸吊部5と駆動部4の間に設けられ、スイッチ部7の後部側にグリップ部8が設けられ、
左手で把手部6を握り、右手でグリップ部8を把持してスイッチ部7を操作でき、
バッテリー15は駆動部4のバッテリーケース17内に収容され、
バッテリーケース17の後端部に開閉蓋20が設けられ、開閉蓋20を開けてバッテリー15の取出し、挿入を行う、電動草刈機1。」

イ 甲第8、17及び18号証
電源スイッチや残量表示部に関し申立人が提示する、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である甲第8、17及び18号証には、以下の記載がある。

(ア) 甲第8号証
a 「【請求項1】 ハウジングの端部に装着されたバッテリと、該バッテリを電源として駆動されるモータと、レバーの回動操作によって前記バッテリから前記モータへの給電をON/OFFするレバースイッチと、前記モータの動力を先端工具に伝達する動力伝達機構と、前記バッテリに接続された基板を備えた電動工具において、
前記基板を前記バッテリと前記レバーの間に配置するとともに、該基板と前記レバーとを隔離するリブを前記ハウジングに形成したことを特徴とする電動工具。・・・
【請求項4】 前記操作パネルを前記ハウジングのバッテリ装着部の前記レバーに対向する面に配置したことを特徴とする請求項1記載の電動工具。」

b 「【0015】 請求項4記載の発明によれば、操作パネルをハウジングのバッテリ装着部のレバーに対向する面、つまり作業中に作業者の手が触れる可能性がない箇所に配置したため、該操作パネルに設けられた操作ボタン等に作業者の手が誤って触れたために電動工具が誤作動する等の不具合の発生が防がれる。」

c 「【0018】 本実施の形態に係るアングルドライバ1は、バッテリ2を電源とし、モータ3を駆動源とするコードレスの手持ち式であって、モータ3によって回転打撃機構部を駆動し、アンビル4に回転と打撃を与えることによって先端工具(ビット)5に回転打撃力を間欠的に伝達してネジ締め等の作業を行うものである。
【0019】 具体的には、図1に示すように、アングルドライバ1の細長いハウジング6の一端にはスライド式の前記バッテリ2が装着されており、ハウジング6の長手方向略中央部には前記モータ3が内蔵され、このモータ3の前方(図1の上方を前方とする)には回転打撃機構部が収容されている。尚、ハウジング6は、互いに連結されたモータハウジング6Aとハンマケース6Bとで構成されている。
・・・・
【0027】 ・・・又、図3に示すように、ハウジング6のバッテリ装着部6Dのレバー23に対向する面には操作パネル27が設けられており、この操作パネル27は、基板26によって動作し、バッテリ2の残量を表示したり、LEDライト21の点灯/消灯を指示する。
【0035】 更に、本実施の形態では、操作パネル27をハウジング6のバッテリ装着部6Dのレバー23に対向する面、つまり作業中に作業者の手が触れる可能性がない箇所に配置したため、該操作パネル27に設けられたLEDライト21のON/OFFボタン等の操作ボタンに作業者の手が誤って触れたために当該アングルドライバ1が誤作動する等の不具合の発生が防がれる。」

(イ) 甲第17号証
a 「【請求項1】 フライホイールを回転させるモータと、前記フライホイールの回転駆動力を直線駆動力に変換して留め具を打撃するドライバブレードに伝達するための駆動子送り手段と、前記フライホイールの回転駆動力を前記駆動子送り手段に伝達または遮断するための動力伝達部と、前記動力伝達部を係合状態または離脱状態に制御する係合離脱手段と、前記モータおよび前記係合離脱手段への電力供給源として設けられた電池パックと、一方のスイッチ状態から他方のスイッチ状態に切替え操作可能なトリガスイッチおよびプッシュレバースイッチと、前記トリガスイッチおよび前記プッシュレバースイッチの切替え操作に基づいて前記電池パックから前記モータおよび前記係合離脱手段への電力の供給を制御して前記ドライバブレードの留め具打込み動作を実行するコントローラと、を具備する電動式打込機において、
前記コントローラは、前記トリガスイッチまたは前記プッシュレバースイッチが前記一方のスイッチ状態から前記他方のスイッチ状態に切替えられた時に、前記電池パックから前記モータへ電力を供給することによって前記モータを起動し、さらに、
前記トリガスイッチおよび前記プッシュレバースイッチが共に前記一方のスイッチ状態から前記他方のスイッチ状態に切替えられた状態にある場合において、前記モータの起動から所定の第1の加速時間を経過している時に、前記ドライバブレードの留め具打込み動作を実行することを特徴とする電動式打込機。」

b 「【0028】 図1の上面図および図2の側面図に示すように、電動式打込機100は、前端部に留め具打撃部(ノーズ部)1cを有する本体ハウジング部1aと、本体ハウジング部1aの留め具打撃部1cに設置され、この留め具打撃部1cの通路1eに釘等の留め具(図示なし)を連続的に供給するためのマガジン2と、本体ハウジング部1aから連結し垂下して延びるハンドルハウジング部1bと、ハンドルハウジング部1bの連結部(分岐部)に設けられた、留め具打込み時に操作するためのトリガスイッチ5と、留め具打撃部1cの先端部に設けられ、工作物に押し当てることによって留め具打込みタイミングを調整するプッシュレバースイッチ22と、ハンドルハウジング部1bの下端に接続したリチウムイオン電池等の蓄電池から構成される電池パック7とから構成されている。」

c 「【0030】 図3の拡大背面図に示されるように、打込機の本体ハウジング1aの背面には、・・・電池パック7の電池容量(放電残量)が少なくなると点灯する電池残量表示用LED242・・・が設置されている。さらに、その背面には、・・・動作可能モードまたは低電力消費モードに切替えるための電源スイッチ(押しボタンスイッチ)210とが設置されている。これらの表示部およびスイッチ部の機能については後述する。」

d 「【0048】 <電源制御回路408の構成と電源スイッチ210の機能>
電源制御回路408は・・・意図して電源スイッチ(動作可能モード/低電力消費モード切替スイッチ)210をオン操作することによって「動作可能モード」または「低電力消費モード」に制御する機能を持つ。」

e 「【0071】 <表示回路>・・・
【0072】 LED242は、マイコン228の出力端子OUT4と、レギレータ223の出力電圧Vccとの間に電流制限用抵抗器241を介して接続された電池残量表示器で、電池パック7の放電残量が少なくなると点灯する。例えば、電池パック7の電池残量が18V未満になると点灯する。」

(ウ) 甲第18号証
a 「【請求項1】 作動部材(27)を駆動する電動モータ(28)と、該電動モータ(28)に電力を供給するバッテリ(291,292)と、前記バッテリ(291,292)から電動モータ(28)への電力供給を可能とする第1の状態ならびに前記バッテリ(291,292)から電動モータ(28)への電力供給を不能とする第2の状態を切換可能なスイッチ(71)と、該スイッチ(71)を切換作動せしめるべく該スイッチ(71)にその第2の状態でのみ挿脱可能なキー部材(74)と、前記バッテリ(291 ,292 )に充電するための外部電源を接続可能な接続コネクタ(72)とを備える電動作業機において、スイッチ(71)に一端側を挿脱させ得るキー本体(74a)と、該キー本体(74a)の他端部に一体もしくは着脱可能に設けられてキー本体(74a)から側方に突出する操作部(74b)とでキー部材(74)が構成され、スイッチ(71)を第1の状態としたときの前記キー部材(74)の回動位置で該キー部材(74)の操作部(74b)で覆われて外部電源との接続が不能となる位置でスイッチ(71)の側方に接続コネクタ(72)が配置されることを特徴とする電動作業機。」

b 「【0009】先ず図1ないし図3において、電動作業機としての電動芝刈機Mは、車体フレームを兼用するカッターハウジング21を備えており、該カッターハウジング21の前部に左、右一対の前輪WF ,WF が、またカッターハウジング21の後部に左、右一対の後輪WR ,WR がそれぞれ設けられる。・・・
【0011】カッターハウジング21の後端部左、右両側にはハンドルステー25,25が固着されており、それらのハンドルステー25,25に、電動芝刈機Mを押して走行させるためのハンドル26が連結される。
【0012】カッターハウジング21内には、作動部材としてのカッター27が回転自在に収納されており、カッターハウジング21上に、カッター27に回転動力を与える電動モータ28と、該電動モータ28に電力を供給するための一対のバッテリ291,292とが搭載される。」

c 「【0028】図10および図11を併せて参照して、上述のように両バッテリ291 ,2922が前方側を広げた略「八」の字形でカッターハウジング21上に配置されることにより、カッターハウジング21上で両バッテリ291,292の後端部の両外側方には比較的広いスペースが生じることになり、そのスペースを活用すべく、一方のバッテリ291の後端部の外側方でスクロール部21b上には、スイッチ71および接続コネクタ72が固定的に配設され、他方のバッテリ292の後端部の外側方で隆起傾斜部21c上には、インジケータ73が固定的に配設される。
【0029】スイッチ71は、両バッテリ291 ,292 から電動モータ28への電力供給を可能とする第1の状態と、前記バッテリ291 ,292 から電動モータ28への電力供給を不能とする第2の状態とを切換可能なものであり、該スイッチ71が第1の状態に在るときに、ハンドル26に設けられている操作スイッチ75(図1参照)を操作することにより、電動モータ28に電力が供給されてカッター27が駆動されることになる・・・
【0031】スクロール部21bの上面には一対のブラケット77…が締結されており、それらのブラケット77…上に固定された支持板76に、前記スイッチ71が、その一端部を支持板76から突出させるようにして固定される。・・・
【0033】インジケータ73は、第1基板78と、第1基板78上に一列に並んで設けられる発光ダイオード等の第1?第3表示灯791?793と、第1基板78の下方に配置される第2基板80とを含むものであり、隆起傾斜部21c上に締結されたブラケット81上に固定される。第2基板80には、各表示灯791?793の駆動回路(図示せず)等が支持されており、各表示灯791?793は、両バッテリ291,292の残容量に応じて点灯される。」

イ 対比
本件発明と甲7発明とを対比する。
(ア) 甲7発明の「電動草刈機」は、本件発明の「電動作業機」に相当する。
そして甲7発明の「長尺状の操作棹としてのパイプ2」、「刈刃3」、「電動モータ14」及び「バッテリー15」は、それぞれ、本件発明の「長尺状の操作棹」、「作業部」、「電動モータ」及び「バッテリ」に相当する。

(イ) 甲7発明の「電動モータ14」と「バッテリー15」からなる「駆動部4」について、技術常識として「電動モータ14」はむき出しの状態で配置されるのではなく何らかのハウジングに収められるものであるから、甲7発明の「駆動部4」は、当然「ハウジング」を備えているものと認められる。

(ウ) 甲7発明の「グリップ部8」、「電動モータ14を作動させるスイッチ部7」は、それぞれ、本件発明の「把持部」、「電動モータへの電力の供給を操作する操作部」に相当する。
ここで、甲7発明の「スイッチ部7」の「グリップ部8」との位置関係をみると、「スイッチ部7」は「右手でグリップ部8を把持して」「操作できる」位置に設けられているものであるから、これは本件発明で「電動モータへの電力の供給を操作する操作部」が「把持部に設けられ」ていることに相当する。

(エ) 前記(ア)ないし(ウ)から、本件発明と甲7発明とは、

「長尺状の操作棹の一端に接続されたハウジングと、
前記操作棹の他端に接続される作業部と、
電力供給を受けて前記作業部を動作させる電動モータと、
前記操作棹に設けられた把持部と、
前記把持部に設けられ、前記電動モータへの電力の供給を操作する操作部と、を備えた電動作業機において、
前記電動モータは、着脱可能に構成されたバッテリからの電力供給によって動作する、電動作業機。」
の点で一致し、そして以下の点で相違する。

[相違点1A] 本件発明では、ハウジングの前記操作棹と接続される側と反対側には、操作棹の軸方向と略直交する方向に延びるガイド部が形成され、バッテリは、前記ガイド部に沿って、上方から挿入されることで取り付けられるのに対して、甲7発明では、バッテリー15は駆動部4のバッテリーケース17内に収容され、バッテリーケース17の後端部に開閉蓋20が設けられ、開閉蓋20を開けてバッテリー15の取出し、挿入を行う点。

[相違点2A] 本件発明では、長尺状の操作棹の一端に接続されたハウジングの上面に、凹部が形成されていると共に、前記凹部にバッテリから電動モータへの電源供給を可能とする電源スイッチと、前記バッテリの残量を表示する残量表示部が設けられるのに対して、甲7発明ではそのような特定はされていない点。

ウ 判断
まず、相違点2Aについて検討する。
上記第3の5(2)に記載したように、申立人は電源スイッチや残量表示部に関し、甲第8、17、及び18号証を提示する。
しかし、本件発明の相違点2Aに係る構成である「電源スイッチや残量表示部をハウジング上面に設けていること」について、甲第8、17号証にはその記載がない。すなわち、甲第8号証における「操作パネル27」、甲第17号証における「電池残量表示用LED242」及び「電源スイッチ210」は、それぞれ甲第8号証における「ハウジング6」、甲第17号証における「本体ハウジング部1a」(あるいは「ハンドルハウジング部1b」)の「上面」に設けることは記載されていない。
そして、甲第18号証における「スイッチ71」や「表示灯791?793」については、「ハンドル26」をはさんで作業者と反対側の「カッター27」側に位置する「カッターハウジング21」上に設けるもの、すなわち本件発明の構成に即すると、「ハウジング」側ではなく「作業部」側に設けるものである。
加えて、甲第8、17、及び18号証のいずれも、作業機の基本的な構造が「長尺状の操作棹」に接続される「ハウジング」を有するものではないから、このような甲第8、17及び18号証の記載事項を踏まえても、甲7発明において相違点2Aに係る本件発明の電源スイッチや残量表示部の配置位置とすることは当業者が容易になし得るものではない。
そして、本件発明は、相違点2Aに係る構成を備えることにより、「電源スイッチ14の入切がし易く、更にバッテリの残容量を目視により確認し易いため、作業を効率的に行うことができる。また、外部からの電源スイッチ14に外部から力が加わり、意図せず電源スイッチ14が入ってしまうことを抑制できる」(本件明細書段落[0046])との本件発明特有の効果を奏するものである。
よって、「凹部」の形成の容易想到性について検討するまでもなく、相違点2Aに係る本件発明の構成を得ることは、当業者が容易に想到できることではない。
以上のように、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は当業者が甲7発明および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明は、当業者が甲第7号証記載の発明および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、甲第7号証を主引例とする取消理由5によっては、請求項11に係る特許を取り消すことはできない。

(3) 実開昭49-1429号公報(甲第19号証)を主引例とした取消理由5について
ア 甲第19号証
本理由において主引例とされる、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である甲第19号証には、以下の記載がある。

(ア)明細書1頁3?17行
「2.実用新案登録請求の範囲
内部に小型モーターを収容したモーターケース(1)の下方に、モーター軸に円鋸状の刈払刃(2)の中心をとりつけ、モーターケース(1)から突出する長杆(3)に操作ハンドル(4)をとりつけ、且モーターを作動するだめのスイツチ機構(11)を設けてなる電動刈払機に於て、長杆(3)の後端にバツテリー取付台(5)を固定し、所要蓄電量を大小2個のバツテリーに分け、小バツテリー(A)は前記小型モーター、モーターケース(1)、刈払刃(2)の総合重量と釣合う重量の大きさとしてバツテリー取付台(5)にとりつけて重鍾を兼ね、大バツテリー(B)は背のう(8)に収納して携行し、大小両バツテリー(A)(B)を使用してモーターに必要量の電力を供給するようにしてなる電動刈払機の構造。」

(イ)明細書1頁18行?4頁15行
「3.考案の詳細な説明
この考案は、山野に育生する竹、葦を刈りとるための電動刈払機の改良に関するものであつて電動刈払機をコードレスにすることにより刈払作業がコードに制約されることなく行動目由であり刈払機のバランスがよく、且携行用バツテリーも比較的軽量とすることができる作業性を高めることかできる電動刈払機を提供しようとするものである。
図面に示す実施例について、この考案を詳細に説明すれば次の通りである。
(1)はモーターケースであつて内部に小型モーターを収容し、このモーター軸と同軸に円鋸状の刈払刃(2)が固定され、モーターの作動により回転するようになつている。(3)はパイプ状の長杆であつてモーターケース(1)から斜め上方に突設され、その中間より稍上方に二叉状の操作ハンドル(4)が設けられている。長杆(3)の先端には断面L状のバツテリー取付台(5)が固定されている。(6)(6)はバツテリー取付台(5)に設けた懸止爪であつて、このバツテリー取付台(5)には小バツテリー(A)をゴム紐(7)を懸止爪(6)にかけわたすことにより固定してある。上記小バツテリー(A)は、電動刈払機の小モ-ターを作動して刈払作業をするに必要な蓄電量を2分して大小2個のバツテリー(A)(B)を形成した、その小バツテリーであって、その重量はその操作ハンドル(4)を握持して刈払作業中、刈払機先端のモーターケース(1)小型モーター、刈払刃(2)の総重量とバランスがとれる重量を有する大きさとして、バランスウエイトを兼ねている。再余の蓄電量は大バツテリー(B)を使用しこの大バツテリー(B)は背のう(8)に収容して刈払作業員が背負う。大バツテリー(B)、小バツテリー(A)共にその接続コード(9)(10)をパイプ状長杆(3)内を経て小型モーターに連結する。
刈払作業員は大バツテリー(B)を収容した背のう(8)を背負い、電動刈払機の操作ハンドル(4)を握持して刈払作業をおこなうのである。従来の電動刈払機は第3図に示すように、長杆(3)の先端にバランスウエイト(W)を固定し大型の発動発電機(12)からコード(13)により刈払機の電源を供給していた。このためコード(13)が邪魔になり行動範囲に制約を受け、作業性が悪いのみならす、バランスウエイト(W)ははバランスウエイトとしての役割しか有せずモーター作動のための動力源とはなつていなかった。
この考案に於ては、刈払機に別体の発動発電機からコードにより電力を供給することを止め、バツテリ一方式を採用し、而もこのバツテリーも、2個に分け小バツテリーは、刈払機先端の重量と重量バランスのとれる容積のものを使用し、大バツテリーは刈払作業に必要な蓄電量のうち上記小バツテリーの蓄電量を差引いた蓄電量を有する容積、重量のものを用いることができるから、その背負い重量は所要全蓄電量のバツテリーを背負う場合に比し軽量であり且コードレスであるため自由な作業行動が許されるのみならす、従来と同様バランスのよい電動発電機を提供することができる。」

(ウ) 上記(ア)および(イ)より、甲第19号証には、下記発明が記載されているといえる(以下「甲19発明」という。)。

「内部に小型モーターを収容したモーターケース(1)の下方に、モーター軸に円鋸状の刈払刃(2)の中心をとりつけ、モーターケース(1)から突出する長杆(3)に操作ハンドル(4)をとりつけ、且モーターを作動するだめのスイツチ機構(11)を設けてなる電動刈払機に於て、長杆(3)の後端に断面L状のバツテリー取付台(5)を固定し、
所要蓄電量を大小2個のバツテリーに分け、小バツテリー(A)は前記小型モーター、モーターケース(1)、刈払刃(2)の総合重量と釣合う重量の大きさとしてバツテリー取付台(5)にとりつけて重鍾を兼ね、大バツテリー(B)は背のう(8)に収納して携行し、大小両バツテリー(A)(B)を使用してモーターに必要量の電力を供給するようにし、
バツテリー取付台(5)に懸止爪(6)(6)を設け、ゴム紐(7)を懸止爪(6)にかけわたすことにより小バツテリー(A)をバツテリー取付台(5)に固定する、電動刈払機。」

イ 対比
本件発明と甲19発明とを対比する。
(ア) 甲19発明の「電動刈払機」は、本件発明の「電動作業機」に相当する。
そして甲19発明の「長杆(3)」、「刈払刃(2)」、「小型モーター」、「操作ハンドル(4)」「スイツチ機構(11)」及び「小バツテリー(A)」は、それぞれ、本件発明の「長尺状の操作棹」、「作業部」、「電動モータ」、「把持部」、「操作部」及び「バッテリ」に相当する。

(イ) 甲19発明は長杆(3)の後端に「断面L状のバツテリー取付台(5)」を有し、本件発明は長尺状の操作棹の一端に「ハウジング」を有することについて、本件発明の「ハウジング」はそれに沿ってバッテリが挿入され取り付けられる「ガイド部」を有するものであるから、両者は長尺状の操作棹の一端に「バッテリ取付部」を有する点で共通する。

(ウ) 前記(ア)、(イ)から、本件発明と甲19発明とは、
「長尺状の操作棹の一端に接続されたバッテリ取付部と、
前記操作棹の他端に接続される作業部と、
電力供給を受けて前記作業部を動作させる電動モータと、
前記操作棹に設けられた把持部と、
前記把持部に設けられ、前記電動モータへの電力の供給を操作する操作部と、を備えた電動作業機において、
前記電動モータは、着脱可能に構成されたバッテリからの電力供給によって動作し、
前記バッテリ取付部の前記操作棹と接続される側と反対側には、バッテリの取付面が形成される、電動作業機。」
の点で一致し、そして以下の点で相違する。

[相違点1B] バッテリの取付構成について、本件発明では、長尺状の操作棹の一端にはハウジングが接続され、ハウジングの前記操作棹と接続される側と反対側には、操作棹の軸方向と略直交する方向に延びるガイド部が形成され、バッテリは、前記ガイド部に沿って、上方から挿入されることで取り付けられるのに対して、甲19発明では、長杆(3)の後端に断面L状のバツテリー取付台(5)を固定し、バツテリー取付台(5)に懸止爪(6)(6)を設け、ゴム紐(7)を懸止爪(6)にかけわたすことにより小バツテリー(A)をバツテリー取付台(5)に固定する点。

[相違点2B] 本件発明では、長尺状の操作棹の一端に接続されたハウジングの上面に、凹部が形成されていると共に、前記凹部にバッテリから電動モータへの電源供給を可能とする電源スイッチと、前記バッテリの残量を表示する残量表示部が設けられるのに対して、甲19発明ではそのような特定はされていない点。

ウ 判断
まず、相違点2Bについて検討する。
上記(2)での相違点2Aについての検討と同様に、本件発明の相違点2Bに係る構成である「電源スイッチや残量表示部をハウジング上面に設けていること」について甲第8、17号証にはその記載がない。すなわち、甲第8号証における「操作パネル27」、甲第17号証における「電池残量表示用LED242」及び「電源スイッチ210」は、それぞれ甲第8号証における「ハウジング6」、甲第17号証における「本体ハウジング部1a」(あるいは「ハンドルハウジング部1b」)の「上面」に設けることは記載されていない。
そして、甲第18号証における「スイッチ71」や「表示灯791?793」については、「ハンドル26」をはさんで作業者と反対側の「カッター27」側に位置する「カッターハウジング21」上に設けるもの、すなわち本件発明の構成に即すると、「ハウジング」側ではなく、「作業部」側に設けるものである。
加えて、甲第8、17、及び18号証のいずれも、作業機の基本的な構造が「長尺状の操作棹」に接続される「ハウジング」を有するものではないから、このような甲第8、17及び18号証の記載事項を踏まえても、甲19発明において相違点2Bに係る本件発明の電源スイッチや残量表示部の配置位置とすることは当業者が容易になし得るものではない。
そして、本件発明は、相違点2Bに係る構成を備えることにより、「電源スイッチ14の入切がし易く、更にバッテリの残容量を目視により確認し易いため、作業を効率的に行うことができる。また、外部からの電源スイッチ14に外部から力が加わり、意図せず電源スイッチ14が入ってしまうことを抑制できる」(本件明細書段落[0046])との本件発明特有の効果を奏するものである。
よって、「凹部」の形成の容易想到性について検討するまでもなく、相違点2Bに係る本件発明の構成を得ることは、当業者が容易に想到できることではない。
以上のように、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は当業者が甲19発明および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明は、当業者が甲第19号証記載の発明および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、甲第19号証を主引例とする取消理由5によっては、請求項11に係る特許を取り消すことはできない。

6 取消理由6(拡大先願)について
ア 甲第20号証
本理由において主引例とされる、本件特許に係る出願の出願日前に出願され、本件特許に係る出願の出願日後に出願公開された特許出願である特願2008-206927号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面(甲第20号証)には、以下の記載がある。

(ア)「【請求項1】 操作棹と、
前記操作棹の前端に設けられており、刈刃を回転可能に支持する刈込ユニットと、
前記操作棹の後端に設けられており、前記刈刃を駆動するモータを内蔵する本体ユニットと、
前記操作棹の内部に設けられており、前記本体ユニットから前記刈刃ユニットへ前記モータの出力トルクを伝達する伝達シャフトを備え、
前記操作棹の後端部分には、その外周面にアダプタ部材が固定されており、
前記本体ユニットには、前記アダプタ部材が固定された操作棹の後端部分を受け入れる棹挿入穴が形成されていることを特徴とする刈払機。」

(イ)「【実施例】【0015】 本発明を実施した実施例について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施例の刈払機10の外観を示している。刈払機10は、雑草等の刈り払い作業に用いられる電動工具である。
図1に示すように、刈払機10は、操作棹30と、操作棹30の前端30aに設けられている刈刃ユニット20と、操作棹30の後端30bに設けられている本体ユニット40を備えている。操作棹30は、中空のパイプ形状を有しており、直線状に伸びている。刈刃ユニット20には、刈刃12を回転可能に取り付けられている。本体ユニット40には、刈刃12を駆動するためのモータ46(図2参照)が収容されている。また、本体ユニット40には、モータ46に電力を供給する電池パック70が着脱可能に取り付けられている。・・・
【0016】 操作棹30には、利用者が把持するためのハンドル34が設けられている。ハンドル34は、右ハンドル34aと左ハンドル34bによって構成されている。右ハンドル34aには、トリガ式の起動スイッチ33が設けられている。起動スイッチ33は、電気コード36によって本体ユニット40と電気的に接続されている。電気コード36は、本体ユニット40から操作棹30に沿って右ハンドル34aまで配索されている。起動スイッチ33がオン操作されると、本体ユニット40のモータ46が回転し、起動スイッチ33がオフ操作されると、本体ユニット40のモータ46は停止する。」

(ウ)「【0018】 図2に示すように、本体ユニット40は、本体ハウジング42を備えている。本体ユニット40の前部40aには、操作棹30の後端30bが固定されている。本体ユニット40の後部40bには、電池パック70が着脱される電池パック装着部64が設けられている。本体ハウジング42の下部には、前述したスタンド66が着脱可能にボルト留めされている。スタンド66の先端部分には、地面等に当接するための接地面66aが形成されている。」

(エ)「【0022】 次に、図2、図5を参照して、本体ユニット40における電池パック70の取付構造について説明する。図2に示すように、本体ユニット40の後部40bには、電池パック装着部64が形成されている。電池パック装着部64は、電池パック70を着脱可能な構造を有している。図5に示すよう、電池パック装着部64は、電池パック70をスライド可能に受け入れる。図5中の矢印Z1、Z2は、電池パック装着部64における電池パック70のスライド方向を示している。電池パック装着部64における電池パック70のスライド方向は、操作棹30の中心軸Xと略直交している。なお、下向きの矢印Z1は、電池パック70の取り付け時のスライド方向を示しており、上向きの矢印Z2は、電池パック70の取り外し時のスライド方向を示している。このように、電池パック装着部64における電池パック70の取り付け時のスライド方向は下方を向いており、電池パック装着部64における電池パック70の取り外し時のスライド方向は上方を向いている。正確に言えば、刈刃12の回転軸Y及び操作棹30の中心軸Xを鉛直面内に位置させるとともに、操作棹30の中心軸Xを水平面内に位置させたときに、電池パック装着部64における電池パック70の取り付け時のスライド方向が鉛直下方を向き、電池パック装着部64における電池パック70の取り外し時のスライド方向が鉛直上方を向くように構成されている。
【0023】 上記したように、本実施例の刈払機10では、電池パック装着部64における電池パック70のスライド方向(Z1,Z2)が、操作棹30の中心軸Xに対して平行でなく、操作棹30の中心軸Xに対して角度を成すように構成されている。この構成によると、利用者が操作棹30を把持しながら電池パック70を着脱する際に、操作棹30を把持している手が滑りにくく、操作棹30及び電池パック70に力を加えやすい。それにより、電池パック70の着脱を容易に行うことができる。ここで、電池パック70のスライド方向(Z1,Z2)が、操作棹30の中心軸Xに対して必ずしも直交する必要はない。ただし、電池パック70のスライド方向(Z1,Z2)と操作棹30の中心軸Xとが成す角度は、大きいほど好ましく、特に45°以上とすると顕著な効果が得られることが確認されている。
また、本実施例の刈払機10では、電池パック装着部64における電池パック70の取り付け時のスライド方向が下方を向き、電池パック装着部64における電池パック70の取り外し時のスライド方向が上方を向くように構成されている。それにより、スタンド66を利用し、刈払機10を地面に載置した状態で電池パック70を着脱する際に、電池パック70やそれを把持する利用者の手が地面に干渉するようなことがない。」

(オ) 上記(ア)ないし(エ)より、甲第20号証には、下記発明が記載されているといえる(以下「甲20発明」という。)。
「直線状に伸びている操作棹30と、
操作棹30の前端に設けられており、刈刃12を回転可能に支持する刈込ユニット20と、
操作棹30の後端に設けられており、刈刃12を駆動するモータ46を内蔵する本体ユニット40とを備え、
操作棹30には、利用者が把持するためのハンドル34が設けられ、
ハンドル34には、オン操作されるとモータ46が回転し、オフ操作されると停止する起動スイッチ33が設けられ、
本体ユニット40の前部40aには、操作棹30の後端30bが固定され、本体ユニット40の後部40bには、モータ46に電力を供給する電池パック70が着脱される電池パック装着部64が設けられ、
操作棹30の中心軸Xを水平面内に位置させたときに電池パック装着部64における電池パック70の取り付け時のスライド方向は鉛直下方を向き、電池パック装着部64における電池パック70の取り外し時のスライド方向が鉛直上方を向く、
電動工具である刈払機10。」

イ 対比
本件発明と甲20発明とを対比する。
(ア) 甲20発明の「電動工具である刈払機10」は、本件発明の「電動作業機」に相当する。
そして甲20発明の「直線状に伸びている操作棹30」、「刈刃12を回転可能に支持する刈込ユニット20」、「モータ46」、「ハンドル34」「起動スイッチ33」及び「電池パック70」は、それぞれ、本件発明の「長尺状の操作棹」、「作業部」、「電動モータ」、「把持部」、「操作部」及び「バッテリ」に相当する。
また、甲20発明の「本体ユニット40」は「操作棹30の後端30bが固定され」るものであり、本件発明の「ハウジング」に相当する。

(イ) 甲20発明は、本体ユニット40の操作棹30の後端30bが固定される前部40aとは後部40bに電池パック装着部64が設けられ、操作棹30の中心軸Xを水平面内に位置させたときに電池パック装着部64における電池パック70の取り付け時のスライド方向が鉛直下方を向き、電池パック装着部64における電池パック70の取り外し時のスライド方向が鉛直上方を向くものであり、すなわち電池パック70のスライド方向は操作棹30の中心軸Xと直交する方向である。甲20発明では該方向のスライドが沿う「ガイド部」について特定されていないが、「電池パック装着部64」において「電池パック70」を「スライド」して取り付け取り外しする以上、その「スライド」が沿う部分が「電池パック装着部64」に存在することは明らかである(そうでなくては「スライド」にならない。)。
よって、甲20発明の「本体ユニット40の前部40aには、操作棹30の後端30bが固定され、本体ユニット40の後部40bには、モータ46に電力を供給する電池パック70が着脱される電池パック装着部64が設けられ、電池パック装着部64における電池パック70の取り付け時のスライド方向が鉛直下方を向き、電池パック装着部64における電池パック70の取り外し時のスライド方向が鉛直上方を向く」ことは、本件発明の「前記ハウジングの前記操作棹と接続される側と反対側には、前記操作棹の軸方向と略直交する方向に延びるガイド部が形成され、前記バッテリは、前記ガイド部に沿って、上方から挿入されることで取り付けられる」ことに相当する。

(ウ) 前記(ア)、(イ)から、本件発明と甲20発明とは、
「長尺状の操作棹の一端に接続されたハウジングと、
前記操作棹の他端に接続される作業部と、
電力供給を受けて前記作業部を動作させる電動モータと、
前記操作棹に設けられた把持部と、
前記把持部に設けられ、前記電動モータへの電力の供給を操作する操作部と、を備えた電動作業機において、
前記電動モータは、着脱可能に構成されたバッテリからの電力供給によって動作し、
前記ハウジングの前記操作棹と接続される側と反対側には、前記操作棹の軸方向と略直交する方向に延びるガイド部が形成され、
前記バッテリは、前記ガイド部に沿って、上方から挿入されることで取り付けられる電動作業機。」
の点で一致し、そして以下の点で相違する。

[相違点C] 本件発明では、長尺状の操作棹の一端に接続されたハウジングの上面に、凹部が形成されていると共に、前記凹部にバッテリから電動モータへの電源供給を可能とする電源スイッチと、前記バッテリの残量を表示する残量表示部が設けられるのに対して、甲20発明ではそのような特定はされていない点。

ウ 判断
(ア) 相違点Cについて
上記5(2)、(3)における相違点2A、2Bについての検討と同様に、本件発明の相違点Cに係る構成である「電源スイッチや残量表示部をハウジング上面に設けていること」について、甲第8、17号証にはその記載がない。すなわち、甲第8号証における「操作パネル27」、甲第17号証における「電池残量表示用LED242」及び「電源スイッチ210」は、それぞれ甲第8号証における「ハウジング6」、甲第17号証における「本体ハウジング部1a」(あるいは「ハンドルハウジング部1b」)の「上面」に設けることは記載されていない。
そして、甲第18号証における「スイッチ71」や「表示灯791?793」については、「ハンドル26」をはさんで作業者と反対側の「カッター27」側に位置する「カッターハウジング21」上に設けるもの、すなわち本件発明の構成に即すると、「ハウジング」側ではなく、「作業部」側に設けるものである。
加えて、甲第8、17、及び18号証のいずれも、作業機の基本的な構造が「長尺状の操作棹」に接続される「ハウジング」を有するものではないから、このような甲第8、17及び18号証を踏まえても、相違点Cに係る本件発明の電源スイッチや残量表示部の配置位置とすることを周知技術であるとはできない。
そして、本件発明は、相違点Cに係る構成を備えることにより、「電源スイッチ14の入切がし易く、更にバッテリの残容量を目視により確認し易いため、作業を効率的に行うことができる。また、外部からの電源スイッチ14に外部から力が加わり、意図せず電源スイッチ14が入ってしまうことを抑制できる」(本件明細書段落[0046])との本件発明特有の効果を奏するものである。
よって、「凹部」の形成について検討するまでもなく、相違点Cにおいて甲20発明と本件発明とは実質的に相違している。

エ 小括
以上のとおり、本件発明は、本件特許に係る出願の出願日前に出願され、本件特許に係る出願の出願日後に出願公開された特許出願である特願2008-206927号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載された発明(甲第20号証)と同一ではなく、取消理由6によっては、請求項11に係る特許を取り消すことはできない。


第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-01-17 
出願番号 特願2009-49740(P2009-49740)
審決分類 P 1 652・ 112- Y (A01D)
P 1 652・ 161- Y (A01D)
P 1 652・ 55- Y (A01D)
P 1 652・ 536- Y (A01D)
P 1 652・ 537- Y (A01D)
P 1 652・ 121- Y (A01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 圭伸  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 中田 誠
前川 慎喜
登録日 2015-10-23 
登録番号 特許第5825750号(P5825750)
権利者 日立工機株式会社
発明の名称 電動作業機  
代理人 特許業務法人快友国際特許事務所  
代理人 青稜特許業務法人  
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