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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E06B
管理番号 1324876
異議申立番号 異議2016-701022  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-27 
確定日 2017-02-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第5911691号発明「サッシ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5911691号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯
特許第5911691号の請求項1に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成23年9月30日に特許出願され、平成28年4月8日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人古藤弘一郎(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第5911691号の請求項1の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下「本件発明」という。)。

「【請求項1】
障子と、枠とを備え、障子はガラスとガラスを保持する框とを備え、障子の下框はガラス保持溝と中空部と中空部内に設けた補強材とを有し、中空部の上壁がガラス保持溝の底壁を形成しており、中空部の上壁及び下壁に水抜き孔が形成してあり、補強材には、中空部の上壁及び下壁の少なくとも一方の水抜き孔に対向又は隣接する位置に、火災の熱により膨張して水抜き孔を塞ぐ熱膨張耐火材が設けてあることを特徴とするサッシ。」


第3 申立された取消理由の概要
申立人が主張する取消理由の概要は以下のとおりである。

1 特開平5-209484号公報(甲第1号証)を主引用例とする進歩性欠如(特許法第29条第2項)(以下「取消理由1」という。)
申立人は、本件発明は、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物(特開平5-209484号公報(甲第1号証))に記載された発明および技術常識(特開2011-6874号公報(甲第5号証)及び特開2010-248837号公報(甲第6号証))に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当して無効にすべきものである旨主張し、その理由として概ね以下(1)?(6)のとおり主張している。

(1)甲第1号証記載の発明(並びに、甲第2、3及び4号証記載の技術常識)について
甲第1号証には、以下の発明が記載されている(以下「引用発明1」という。)
「障子と、下枠8を含む窓枠とを備え、障子は二重ガラス2と二重ガラス2を保持する下框7を含む建具枠とを備え、二重ガラスの下框7はガラス保持溝と中空部とを有し、中空部の上面がガラス保持溝の底面を形成しており、中空部の上面に連通穴76がその下面に水抜き穴74が形成してあるサッシ建具。」

ここで、下框中空部の上壁及び下壁に水抜き孔を有する構成は、甲第1号証のほか、例えば、甲第2、3及び4号証に記載されているように、本件特許出願前の技術常識である。

(2)本件発明と引用発明1との相違点について
本件発明と引用発明1は、以下の点で相違している。
(相違点1) 障子の下框が、本件発明では「中空部内に設けた補強材」を有しているのに対し、引用発明1ではそのような補強材を有していない点。
(相違点2) 本件発明は、「補強材には、中空部の上壁及び下壁の少なくとも一方の水抜き孔に対向又は隣接する位置に、火災の熱により膨張して水抜き孔を塞ぐ熱膨張耐火材が設けてある」のに対し、引用発明1ではそのような構成を備えていない点。

(3)甲第5号証及び甲第6号証記載の技術常識について
甲第5号証には、図2とともに、サッシ建具に関する発明であって、枠本体2Aの内部空間4(申立人による注:本件発明の「障子の下框の中空部」に相当)内に金属製補強材5が設けられているとともに、内部空間4内において、金属製補強材5と枠本体2Aとの間の縦方向または横方向の間隙内に、火災時の高温加熱により発泡してこの間隙を閉塞する発泡性遮炎材22、23を介在させてあることが記載されている。
また、甲第6号証には、サッシ建具に関する発明であって、図2、4とともに、框部材22の内部(申立人による注:本件発明の「障子の下框の中空部」に相当)に金属製で断面「コ」字状の補強部材7を有し、補強部材7の上下壁部7a、7aは框本体部23の中空部23bにおける外周側面のほぼ半分の領域23c、内周側面23d、及び屋外側面23eと僅かに間隔を隔てて対向するとともにこれらとの間に熱膨張性黒鉛9が介在されていることが記載されている。
なお、甲第6号証の図4は、図2に示された框における上框の断面図であるが、図2には、上框と下框の双方に、枠本体部13及び補強部材7について同じ符号が付されていることから、下框も図4の上框と同じ構造を有していると考えるのが相当である。
したがって、例えば甲第5号証及び甲第6号証に記載されているように、本件発明と引用発明1との相違点1にかかる本件発明の構成である「(障子の下框の)中空部内に設けた補強材」を有すること、及び、上記相違点2にかかる本件発明の構成のうち「補強材には、火災の熱により膨張する熱膨張耐火材が設けてある」ことは、いずれも本件特許出願前の技術常識(以下「本件技術常識」という。)である。

(4)引用発明1への本件技術常識の適用について
引用発明1と、甲第5、6号証記載の発明とは、いずれもサッシに関するものであり、その主たる構造も共通している。したがって、引用発明1に、本件技術常識、すなわち「(障子の下框の)中空部内に設けた補強材」を有すること、及び、「補強材には、火災の熱により膨張する熱膨張耐火材が設けてある」ことを適用することは、単なる設計的事項である。
そして、甲第5号証における発泡性遮炎材22、23は金属製補強材5と枠本体2Aとの間の縦方向の間隙内に位置し、甲第6号証における熱膨張性黒鉛9は、補強部材7の上壁部7aは框本体部23の中空部23bにおける内周側面23dと僅かに間隔を隔てて対向するとともにこれらとの間に位置している。
したがって、甲第1号証に記載された下框7の中空部に、記載された補強材の構成を適用すると、甲第5号証における発泡性遮炎材22、23または甲第6号証における熱膨張性黒鉛9は、甲第1号証の下框7の上面に形成された連通穴76の下方に対向して配置されることになる。上記配置関係において、火災の熱によりこれらが膨張するときには、甲第1号証の「連通穴76」が閉塞されることは自明である。
この点、火災の熱により膨張して、障子の下框に形成された水抜き孔を塞ぐ熱膨張耐火材は、甲第7号証にも記載されている。したがって、甲第1号証に記載された下框の中空部に、甲第5、6号証の補強材の構成を適用する際、甲第5号証の発泡性遮炎材22、23ないしは甲第6号証における熱膨張性黒鉛9を、これらが火災の熱により膨張するときに甲第1号証の下框7の上面に形成された連通穴76を塞ぐ位置、すなわち甲第1号証の下框7の上面に形成された連通穴76の下方と対向する位置に配置することは、当業者が容易になし得た単なる設計的事項に過ぎない。
よって、引用発明1に本件技術常識を適用することにより、相違点1、2に係るすべての構成を得ることができる。

(5)中空部に形成されて内外が連通する孔を加熱発泡材で塞ぐことについて
中空部に形成されて内外が連通する孔を加熱発泡材で塞ぐことは、例えば、甲第8ないし11号証に記載されているように、本件特許出願前の技術常識である。本件発明は、本件明細書の記載から明らかなように、水抜き孔が内外連通する孔であるが故に火災時に炎や外気が水抜き孔をとおることが課題の前提とされており、内外の連通を阻止する役割として加熱発泡材が存在している。その点からいえば、上記甲第8ないし11号証に記載された発明においても、本件発明と共通の課題があり、本件発明と同じく、連通孔を加熱発泡材で塞ぐことでその課題を解決している。

(6)材質についての補足
甲第5号証の窓枠は樹脂製であり、甲第6号証の框部材は樹脂製であるが、この事情は引用発明1への甲第5、6号証記載の技術常識の適用を妨げるものではない。
また、サッシ建具において、框の材質が金属であるものは、本件特許出願前の技術常識である。例えば甲第12号証には、アルミニウムの召合せ框に鉄製の補強材3を挿入することが示され、甲第13号証には金属製及び樹脂製の二部材からなる框が補強材を有することが示され、甲第14号証にも金属製及び樹脂製の複合サッシが補強材を有することが示されている。

2 実開昭60-23582号公報(甲第2号証)を主引用例とする進歩性欠如(特許法第29条第2項)(以下「取消理由2」という。)
申立人は、本件発明は、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物(実開昭60-23582号公報(甲第2号証))に記載された発明および技術常識(特開2011-6874号公報(甲第5号証)及び特開2010-248837号公報(甲第6号証))に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当して無効にすべきものである旨主張し、その理由として概ね以下(1)?(3)のとおり主張している。

(1)甲第2号証記載の発明について
甲第2号証には、以下の発明が記載されている(以下「引用発明2」という。)
「障子と、額縁材6とを備え、障子は板ガラス13と板ガラス13を保持する窓枠材1とを備え、板ガラス13の窓枠材1は溝部5と中空部とを有し、中空部の上面が溝部5の底面を形成しており、中空部の上壁及び下壁に排水孔4、4が形成してある防火枠材。」

(2)本件発明と引用発明2との相違点について
本件発明と引用発明2は、以下の点で相違している。
(相違点3) 障子の下框が、本件発明では「中空部内に設けた補強材」を有しているのに対し、引用発明2ではそのような補強材を有していない点。
(相違点4) 本件発明は、「補強材には、中空部の上壁及び下壁の少なくとも一方の水抜き孔に対向又は隣接する位置に、火災の熱により膨張して水抜き孔を塞ぐ熱膨張耐火材が設けてある」のに対し、引用発明2ではそのような構成を備えていない点。

(3)相違点についての検討
相違点3、4に係る本件発明の構成は、上述した相違点1、2(上記1(2))に係る本件発明の構成と同じである。
したがって、上記1と同様に、引用発明2に本件技術常識を適用することにより、相違点3、4に係るすべての構成を得ることができる。

3 特開2011-6874号公報(甲第5号証)または特開2010-248837号公報(甲第6号証)を主引用例とする進歩性欠如(特許法第29条第2項)(以下「取消理由3」という。)
申立人は、本件発明は、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物(特開2011-6874号公報(甲第5号証)または特開2010-248837号公報(甲第6号証))に記載された発明及び技術常識(甲第1から4号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当して無効にすべきものである旨主張し、その理由として概ね以下(1)、(2)のとおり主張している。

(1)甲第5号証または甲第6号証記載の発明について
上述したように(上記1(3))、甲第5号証及び甲第6号証には、中空部内に設けた補強材5の上壁または補強部材7の上壁部に発泡性遮炎材22、23または熱膨張性黒鉛9を有し、膨張する発泡性遮炎材22、23や熱膨張性黒鉛9により中空部の上壁と補強部材との間を閉塞することが記載されている。

(2)甲第1ないし4号証記載の技術常識とその適用について
上述したように(上記1(1))、下框中空部の上壁および下壁に水抜き孔を有することは、例えば甲1ないし4号証に記載されたように技術常識である。
そうであれば、甲第5号証または甲第6号証に記載された発明に、上記技術常識を適用することによって、下框中空部の上壁に形成された水抜き穴を発泡性遮炎材や熱膨張性黒鉛により閉塞する構成を容易に得ることができる。
よって、甲第5号証または甲第6号証に記載された発明に上記技術常識(甲第1ないし4号証)を適用することにより、本件発明のすべての構成を得ることができる。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平5-209484号公報

甲第2号証:実願昭58-116044号(実開昭60-23582号)のマイクロフィルム
(特許異議申立書の「実開昭60-23582号公報」は「実願昭58-116044号(実開昭60-23582号)のマイクロフィルム」の誤記と認める。)

甲第3号証:実願平2-122140号(実開平4-79197号)のマイクロフィルム
(注;特許異議申立書の「実開平4-79197号公報」は「実願平2-122140号(実開平4-79197号)のマイクロフィルム」の誤記と認める。)

甲第4号証:特開2002-303082号公報

甲第5号証:特開2011-6874号公報

甲第6号証:特開2010-248837公報

甲第7号証:特開2000-282762号公報

甲第8号証:特開平11-217978号公報

甲第9号証:特開平11-36471号公報

甲第10号証:特開2007-225136号公報

甲第11号証:特開2004-239001号公報

甲第12号証:特開昭51-113320号公報

甲第13号証:特開2001-164835号公報

甲第14号証:特開2004-169453号公報


第4 当審の判断
1 各甲号証の記載事項
(1) 甲第1号証
本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 建具枠に、面材と、その面材を建具枠に固定する押縁が嵌め込まれている建具において、前記建具枠の下框の室外側側面には、水抜き穴が形成され、前記押縁の下縁の上面には、長手方向に連続する凹部が形成されていると共にこの凹部の底に排水穴が形成され、前記水抜き穴と排水穴が、前記下框と押縁の間の隙間に連通されていることを特徴とする建具。
【請求項2】 窓枠に建具が嵌め込まれ、前記建具が、建具枠に、面材と、その面材を建具枠に固定する押縁が嵌め込まれて構成されている窓において、前記建具枠の下框の下面には、建具枠の下框と窓枠の下枠との間の隙間に開口する水抜き穴が形成され、前記押縁の下縁の上面には、長手方向に連続する凹部が形成されていると共にこの凹部の底に排水穴が形成され、前記窓枠の下枠の室外側側面には、水抜き穴が形成され、前記下框の水抜き穴と押縁の排水穴が前記下框と押縁の間の隙間に連通されており、前記下枠の水抜き穴が前記下枠と下框の間の隙間に連通されていることを特徴とする窓。」

イ 「【0009】【実施例】以下、本発明の第1実施例を図1及び図2に基づき詳述する。図1は第1実施例の建具の下部断面図、図2は該建具の要部拡大図で、図中1は建具枠の下框、2は二層ガラス、3は押縁、4は室外側ビード、5は室内側ビードである。
【0010】前記下框1は、上面に立ち上がり壁11と突条12が平行に形成されており、前記立ち上がり壁11の室内側側面には室外側ビード4が嵌合により取り付けられたアリ溝13が形成されている。なお、前記室外側ビード4は、建具枠の全周にわたって設けられている。また、前記下框1の室外側側面には、水抜き穴14が形成されており、この水抜き穴14は、下框1の上面とリブに形成された連通穴15,16を介して下框1と二層ガラス2の間の隙間17に連通されていると共に、連通穴18を介して下框1と押縁3の間の隙間18に連通されている。なお、前記水抜き穴14にはカバー19が設けられている。つまり、二層ガラス2の表面に付着した雨水が室外側ビード4によって止められず、下框1と二層ガラス2の間の隙間17に浸入したとしても、浸入した雨水を水抜き穴14から室外へ排水することができるようになっている。なお、前記水抜き穴14及び連通穴15,16は、1箇所に限らず、所定の間隔置きに複数設けてもよい。
【0011】前記二層ガラス2は、建具枠に嵌め込まれており、セッティングブロック6を介して前記下框1の突条12の上に設置されている。なお、セッティングブロック6は、下框1の長手方向に所定の間隔を置いて設けられている。
【0012】押縁3は、二層ガラス2を建具枠に固定するためのもので、室内側側面には室内側ビード5が取り付けられている。そして、この押縁3は、この室内側ビード5を前記二層ガラス2の縁部とセッティングブロック6と下框1の突条12に押し当てて建具枠に嵌め込まれている。なお、前記室内側ビード5は、軟質塩化ビニル樹脂等の軟質樹脂を材料にして形成されており、建具枠の全周にわたって設けられている。また、この押縁3の下縁の上面には長手方向に連続するV字形の凹部32が形成されており、この凹部32の底には、排水穴33が形成されている。そして、この排水穴33は、押縁3の底に形成された連通穴34を介して下框1と押縁3の間の隙間18に連通されている。更に、押縁3の下縁の上面には室内側縁部に突条35が形成されている。なお、前記排水穴33及び連通穴34は、1箇所に限らず、所定の間隔置きに複数設けてもよい。また、突条35は、押縁3の長手方向全長に設けるのが好ましい。」

ウ 「【0015】次に、図3に基づき第2実施例の窓を説明する。図3は第2実施例の窓の下部断面図で、図中7は建具枠の下框、8は窓枠の下枠である。なお、第1実施例と同一の構成には図面に第1実施例と同一の符号を付して説明を省略する。
【0016】前記下框7は、上面に立ち上がり壁71と突条72が平行に形成されており、前記立ち上がり壁71の室内側側面には室外側ビード4が嵌合により取り付けられたアリ溝73が形成されている。また、前記下框7の下面には、室外に開口した水抜き穴74と、下框7と下枠8との間の隙間81に開口した水抜き孔75とが形成されている。そして、前記水抜き穴74は、下框1の上面とリブに形成された連通穴76,77を介して下框1と二層ガラス2の間の隙間17に連通されており、前記水抜き孔75は、下框1の上面とリブに形成された連通穴78,79を介して下框1と押縁3の間の隙間18に連通されている。つまり、二層ガラス2の表面に付着した雨水が室外側ビード4によって止められず、下框7と二層ガラス2の間の隙間17に浸入したとしても、浸入した雨水を水抜き穴74から室外へ排水することができるようになっている。なお、前記水抜き穴74及び連通穴78,79は、1箇所に限らず、所定の間隔置きに複数設けてもよい。」
(注;図面番号に関する上記ウの「【0009】【実施例】以下、本発明の第1実施例を図1及び図2に基づき詳述する。図1は第1実施例の建具の下部断面図、図2は該建具の要部拡大図で」及び「【0015】次に、図3に基づき第2実施例の窓を説明する。図3は第2実施例の窓の下部断面図で、」なる記載は誤りであり、実際に本刊行物に記載されている図面は下記ウのとおりの図1、2のみで、「要部拡大図」なる図は無い。
また、「下框」の番号について、上記ウの「下框1」という記載は「下框7」の誤記である。)

ウ 「【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例の建具の下部断面図である。
【図2】第2実施例の窓の下部断面図である。」

エ 図2は次のものである。



オ 図2をみると、
連通穴76が形成される下框7上面は二重ガラス2が嵌め込まれる部位の底壁を形成しており、また下框7の上面下面間は中空であることがわかる。

カ 上記アないしオより、甲第1号証には、下記発明が記載されているといえる(以下「甲1発明」という。)
「建具と、窓枠とを備え、
建具は二層ガラス2と、二層ガラスが嵌め込まれる建具枠とを備え、
建具枠の下框7は二重ガラス2が嵌め込まれる部位を有し、
下框7は上面及び下面と上下面間にあるリブを有し、上面には下框7と二層ガラス2の間の隙間17下に連通穴76が、リブには連通穴77が、下面には水抜き穴74が形成されて、連通穴76は下框7と二層ガラス2の間に連通され、
下框7上面は二重ガラス2が嵌め込まれる部位の底壁を形成しており、
下框7の上下面間は中空である、
窓。」

(2) 甲第2号証
本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。

ア 明細書1頁4から11行
「【実用新案登録請求の範囲】
中空の合成樹脂製枠材の屋外及び屋内に面する外壁内面上にその長手方向にわたり無機質の耐火層を設けてなる防火枠材。
【考案の詳細な説明】
本考案は窓、戸等を構成するための窓枠、戸枠或いはこれらが取付けられる額縁として使用される防火性のある枠材に関するものである。」

イ 明細書2頁15行から3頁13行
「次に本考案の一実施例を図面を参照し乍ら説明する。
図は本考案を外開き窓の窓枠及び額縁に実施した例を示す。
第一図に於いて、lは異型押出成形により得られた硬質塩化ビニル樹脂製の窓枠材で、屋外側中空部1a、lb、1cの屋外側内面11a、llb、11cには長手方向に沿って無機質よりなる耐火層3、3、3が設けられている。
同様に屋内側中空部2a、2bの屋内側内面21a、21bにも長手方向に沿って無機質よりなる耐火層3、3が設けられている。4、4、・・は窓枠材lの溝部5に入った雨水を屋外に排水するための排水孔である。
第2図に於いて、6は額縁材で屋外側中空部6aの屋外側内面61aと上壁内面611a、及び屋内側中空部7aの屋内側内面71a、屋内側中空部71bの屋内側内面71bと上壁内面711bには長手方向に沿って無機質の耐火層3’、3’が設けられている。」

ウ 明細書4頁7行から5頁11行
「このように構成された窓枠材1及び額縁材6は第3図に示すように、額縁材6の屋外側中空部6aを屋外側にして基部10を建物の開口部8周縁のモルタル層9に埋設固定して額縁となし、窓枠材lが組み合わされた窓枠が屋外側中空部1a、1b、1cを屋外側にして額縁材6に蝶番I4で取着されて外開き窓となされている。12、12はパッキング材、13、13は板ガラスである。
本考案による防火枠材は屋外側及び屋内側の中空部の外壁の内面に長手方向に互って耐火層が設けられているため、隣接した火災の高熱を受けて最外層の合成樹脂製の枠材が燃焼しても枠材の他の部分は燃焼することなく屋内への延焼が免れ、逆に屋内の火災の場合にも屋外の隣接建物への延燃も防ぎ得るものである。
また、耐火層は枠材の中空部全体に充填されているのでなく、枠材の最外壁内面、即ち高熱を受ける面の裏側にのみ設けられているので、枠材全体は軽量で、運搬や組立て、施工が非常に楽にでき、中空部には空間が残されているので切断し易く、組立てに於て接続用の継手等を挿入して固定することも容易であり、雨水の排水孔を設け易く、レール溝等に入った雨水の排水も阻害されず、枠材内面の耐火層で補強されて撓みが少なくなるという利点も得られる。」

エ 明細書5頁12?15行
「【図面の簡単な説明】
第1図、第2図は夫々本考案防火枠材の異なる例を示す斜視図、第3図は第1図、第2図に示す枠材の使用態様を示す断面図である。」

オ 第1、3図は次のものである。



カ 第1、3図を見ると、窓下側の窓枠材1は、溝部5と、屋外側中空部1a、lb、1cと、屋内側中空部2a、2bとを有し、
板ガラス13は溝部5に保持され、
屋外側中空部lbと屋内側中空部2bの上壁が溝部5の底壁を形成し、屋外側中空部lbの上壁、屋外側中空部lbの下壁かつ屋外側中空部lcの上壁、及び屋外側中空部lcの屋外側の側壁の下部に、排水孔4が形成してあることがわかる。また、屋外側中空部lb上壁の排水孔4は窓枠材lの溝部5に連通していることがわかる。

キ 上記アないしカより、甲第2号証には、下記発明が記載されているといえる(以下「甲2発明」という。)
「額縁材6と、窓枠材1と、板ガラス13とを備え、
窓下側の窓枠材1は、板ガラス13を保持する溝部5と、屋外側中空部1a、lb、1cと、屋内側中空部2a、2bとを有し、
屋外側中空部lbと屋内側中空部2bの上壁が溝部5の底壁を形成し、屋外側中空部lbの上壁、屋外側中空部lbの下壁かつ屋外側中空部lcの上壁、及び屋外側中空部lcの屋外側側壁下部に、それぞれ排水孔4が形成され、
屋外側中空部lb上壁の排水孔4は窓枠材1の溝部5に連通する、
窓。」

(3)甲第5号証
本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。

ア 「【0001】 本発明は、住宅や事務所等の建物の火災時に、建物の開口部に設けられた複層ガラス窓の室外側または室内側からの加熱によって複層ガラスの周囲に発生する火炎抜けを防止するようにした複層ガラス窓の防火構造に関する。」

イ 「【発明を実施するための形態】【0028】 以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の複層ガラス窓の防火構造の一実施形態を一部破断して示す斜視図、図2は、金属製ガラス外れ止め部材が配置されていない個所を示す要部拡大縦断面図、図3は、図1におけるIII-III線の金属製ガラス外れ止め部材が配置された個所を示す要部拡大縦断面図である。
なお、本実施形態では、複層ガラス窓として、嵌殺し窓の窓枠に複層ガラスを装着した場合を例にして説明するが、開閉窓の窓框に複層ガラスを装着した場合にも同様に適用されるものである。」

ウ 「【0039】 枠本体2Aの内部空間4内には、金属製補強材5が設けられているとともに、前記内部空間4内において、金属製補強材5と枠本体2Aとの間の縦方向または横方向の間隙内に、発泡性黒鉛を主成分とする発泡性遮炎材22,23を介在させてある。
これらの発泡性遮炎材22,23は、火災時の高温加熱により発泡して、前記内部空間
4内における金属製補強材5と枠本体2Aとの間の間隙を閉塞することにより、室内外間の酸素の流通を遮断し、窓枠2としての防火性能を向上させる作用をなす。」

エ 図2は次のものである。



(4)甲第6号証
本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の記載がある。

ア 「【0001】 本発明は、ガラスを備えた樹脂製建具に関する。」

イ 「【図面の簡単な説明】【0012】・・・
【図2】本実施形態に係る樹脂製建具の縦断面図である。・・・
【図4】障子上部の構成を説明するための縦断面図である。・・・
【発明を実施するための形態】【0013】 以下、本発明の一実施形態に係る樹脂製建具について図面を参照して説明する。 ・・・」

ウ 「【0021】 補強部材7は、框部材22の長手方向に沿って設けられる棒状の部材であり、断面が「コ」字状をなしている。「コ」字状をなす補強部材7の対面する2つの壁部7aと、2つの壁部7aを繋ぐ底部7bは、框本体部23の中空部23bにおける外周側面のほぼ半分の領域23c、内周側面23d、及び屋外側面23eと僅かに間隔を隔てて対向するとともに外周側面のほぼ半分の領域23c、内周側面23d、及び屋外側面23eとの間に、シート状の熱膨張性部材としての熱膨張性黒鉛9が介在されており、外周側面の残りほぼ半分の領域23fは壁部7aに当接され、対面する2つの壁部7aと外周側面の当接されたほぼ半分の領域23f及び内周側面23dがビス止めされている。ここで、熱膨張性黒鉛9は、加熱されると膨張するが、膨張した後の熱膨張性黒鉛9は他の部材を支持するような剛性及び強度を有していない部材である。」

エ 図2、4は次のものである。





(5)甲第7号証
本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には、以下の記載がある。

ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、火災時にガラス板とその周囲の框との間を火炎が燃抜けるのを防止する防火サッシ用耐火部材に関するものである。」

イ 「【0007】【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係わる耐火部材を適用した防火サッシAを示し、図2は、同耐火部材を示す。防火サッシAは、上下左右の枠11、上下左右の框21、押縁31等のサッシバー1と、外側の網入りガラス板2及び内側のガラス板3と、耐火部材8とを備える二重ガラス構造の開き戸式開閉窓であり、建物の開口部10に固定される。
・・・
【0010】耐火部材8は、繊維部材18の外周を非通水性材28で被覆してなり、上下左右のそれぞれにおいて二枚のガラス板2,3の周端部と框21の内面との間に挿入してあり、火災時にビード7が炭化劣化して脱落したとしても火炎が通り抜けないようにしている。
・・・
【0013】非通水性材28は、水分を浸透させない樹脂製のシートからなる。・・・この非通水性材28は、内側に接着剤を介して繊維部材18の全外周面を覆うように接着してあり、外部から繊維部材18に水分が浸透するのを防止している。
・・・
【0015】次に、上記構成の耐火部材8についての作用を説明する。耐火部材8は、防火サッシAを建物の開口部10に固定した状態で、外側の網入りガラス板2及び内側のガラス板3とその周囲の框21との間の空間に、風雨や結露により侵入した水分が繊維部材18に吸収されるのを、非通水性材28により阻止する。尚、結露により発生する水分は、もともと微量であるため繊維部材18内に蓄積されることがなければ、自然蒸発したり、防火サッシAの部材間の微小な隙間から流れ落ちたり、あるいは、下側の框21に穿設した小孔aから排水されたり等、容易に消失するので、網入りガラス板2内の網2aを腐食に至らせることがない。・・・」

ウ 「【0017】次に、本発明に係わる他の実施の形態である耐火部材8’について説明する。この耐火部材8’を適用した防火サッシCは、図5に示すように、上記した防火サッシAの耐火部材8を耐火部材8’に置き換えて構成しており、他の箇所については防火サッシAと同一であるため、重複する説明を省略する。
・・・
【0020】而して、この耐火部材8’は、防火サッシCの通常使用時に、下側の框21の内部において、二枚のガラス板2,3との間に隙間Hを有するため、結露等で発生した水分が下方に流れ易く、よって、網入りガラス板2の網2aをより腐蝕させ難い。そして、下方に流れた水分は框21内底面の小孔aから放出される。また、火災時には、非通水性材28’が熱で溶けて繊維部材18’が膨張するため、網入りガラス板2とその周囲の框21との間の空間を隙間なく緊密に塞ぎ、火炎の燃え抜けをより確実に防止する。」

エ 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる耐火部材を適用した防火サッシの一例を示す縦断面図。
・・・
【図5】本発明に係わる耐火部材を適用した防火サッシの他例を示す縦断面図。

オ 図1、5は次のものである。



2 取消理由1(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如)について
(1) 対比
本件発明と甲1発明とを対比する。

ア 甲1発明の「建具と、窓枠とを備え、建具は二層ガラス2と、二層ガラスが嵌め込まれる建具枠とを備え」る「窓」は、本件発明の「障子と、枠とを備え、障子はガラスとガラスを保持する框とを備え」る「サッシ」に相当する。

イ 甲1発明において「建具枠の下框7は二重ガラス2が嵌め込まれる部位を有」することは、本件発明において「下框はガラス保持溝」「を有」することに相当する。

ウ 甲1発明において「下框7の上面下面間は中空である」ことは、本件発明において「下框は」「中空部」「を有」することに相当する。

エ 甲1発明において「下框7上面は二重ガラス2が嵌め込まれる部位の底壁を形成して」いることは、本件発明において「中空部の上壁がガラス保持溝の底壁を形成」することに相当する。

オ 甲1発明において「下框7は上面及び下面と上下面間にあるリブを有し、上面には下框7と二層ガラス2の間の隙間17下に連通穴76が、リブには連通穴77が、下面には水抜き穴74が形成されて、連通穴76は下框7と二層ガラス2の間に連通され」ることは、本件発明において「中空部の上壁及び下壁に水抜き孔が形成してある」ことに相当する。

カ 前記アないしオから、本件発明と甲1発明とは、

「障子と、枠とを備え、障子はガラスとガラスを保持する框とを備え、障子の下框はガラス保持溝と中空部とを有し、中空部の上壁がガラス保持溝の底壁を形成しており、中空部の上壁及び下壁に水抜き孔が形成してある、サッシ。」

の点で一致し、そして以下の点で相違する。

[相違点] 本件発明では、下框中空部の上壁及び下壁の少なくとも一方の水抜き孔に対向又は隣接する位置に、火災の熱により膨張して水抜き孔を塞ぐ熱膨張耐火材が設けてある補強材を下框中空部内に設けているのに対し、甲1発明では下框内に火災の熱により膨張して水抜き孔を塞ぐ熱膨張耐火材および補強材を有していない点。

(2) 判断
上記第3の1に記載したように、申立人は、甲第5、6号証を提示して、「引用発明1」に甲第5、6号証に記載された技術常識(上記第3の1(3)に記載したように、「(障子の下框の)中空部内に設けた補強材」を有すること、及び、「補強材には、火災の熱により膨張する熱膨張耐火材が設けてある」こと」。)を適用して相違点に係る構成を得る旨を主張している。
以下、甲1発明への甲第5、6号証記載事項の適用について検討する。

ア 「補強材」を適用する動機付けについて
甲1発明の「下框7」は、補強材のない形で必要な強度等を有するように、各面やリブの配置、厚さ、中空部の大きさ形状等が構成されているものであり(そうでなくては窓の下框として成立しない。)、この点において、甲第5号証記載の「金属製補強材5」を有する「枠本体2A」あるいは甲第6号証記載の「補強部材7」を有する「框部材22」とは構造が共通しない。
よって当業者にとり、甲1発明の「下框7」の中空部に、甲第5号証記載の「金属製補強材5」や甲第6号証の「補強部材7」を適用する動機はない。

イ 「補強材」を適用した場合の構成について
仮に、甲1発明の「下框7」に、甲第5号証記載の「発泡性遮炎材22、23」を有する「金属製補強材5」あるいは甲第6号証の「熱膨張性黒鉛9」を有する「補強部材7」を適用するとしても、上記相違点の「水抜き孔に対向又は隣接する位置に、火災の熱により膨張して水抜き孔を塞ぐ熱膨張耐火材が設けてある」構成が得られる理由がない。
すなわち、甲第5、6号証には、水抜き孔に相当する構成およびそれを塞ぐという技術思想は何ら記載されていないから、甲1発明の「水抜き穴74」や「連通穴76」を膨張時に塞ぐ位置に甲第5号証記載の「発泡性遮炎材22、23」あるいは甲第6号証の「熱膨張性黒鉛9」を配置することを、当業者が容易に着想し得るものではない。
また、甲第5号証記載の「発泡性遮炎材22、23」を有する「金属製補強材5」あるいは甲第6号証の「熱膨張性黒鉛9」を有する「補強部材7」を適用した甲1発明「下框7」において、「連通穴76」が「発泡性遮炎材22、23」あるいは「熱膨張性黒鉛9」に対し「対向(又は隣接)する位置」に必然的になるという理由もない。
すなわち、甲第5号証記載の「発泡性遮炎材22、23」あるいは甲第6号証は、上記1(3)エあるいは1(4)エに記載した図面を見ても、中空部の上面あるいは下面の一部分に対して対向して配置されているものであり(全面的に対向して配置されているものではない)、さらに二層ガラスに対しても、その一部分に対向して配置されているものである。
よって、甲第5号証記載の「発泡性遮炎材22、23」を有する「金属製補強材5」あるいは甲第6号証の「熱膨張性黒鉛9」を有する「補強部材7」を甲1発明に適用したとしても、甲1発明の「下框7と二層ガラス2の間の隙間17に連通され」る「連通穴76」に対し、「発泡性遮炎材22、23」あるいは「熱膨張性黒鉛9」が「対向(又は隣接)する位置」となる必然性はない。
加えて、甲1発明において「リブ」の「連通穴77」のさらに下に位置する下面の「水抜き穴74」についても、明らかに、「発泡性遮炎材22、23」あるいは「熱膨張性黒鉛9」と「対向(又は隣接)する位置」となる必然性はない。
(なお、甲第1号証には「リブ」が壁状に相当するかどうか記載がないが、仮に「リブ」が壁状であり「リブ」の「連通穴77」が本件発明の「下壁」の「水抜き孔」に相当し得たとしても、「連通穴77」に対し「発泡性遮炎材22、23」あるいは「熱膨張性黒鉛9」と「対向(又は隣接)する位置」となる必然性はやはりない。)

ウ 甲第7号証他について
申立人は、上記第3の1(4)に記載したように 「火災の熱により膨張して、障子の下框に形成された水抜き孔を塞ぐ熱膨張耐火材は、甲第7号証にも記載されている。したがって、甲第1号証に記載された下框の中空部に、甲第5、6号証の補強材の構成を適用する際、甲第5号証の発泡性遮炎材22、23ないしは甲第6号証における熱膨張性黒鉛9を、これらが火災の熱により膨張するときに甲第1号証の下框7の上面に形成された連通穴76を塞ぐ位置、すなわち甲第1号証の下框7の上面に形成された連通穴76の下方と対向する位置に配置することは、当業者が容易になし得た単なる設計的事項に過ぎない。」とも主張しているので、この主張について検討する。
甲第7号証には、水分を放出する「小孔a」という記載はあるが、とくに「小孔a」を塞ぐという技術思想が記載されているものではない。
よって、甲第7号証の記載事項に接したとしても、これより、甲第5号証や甲第6号証に記載されている中空部内の補強材上の熱膨張耐火材を、火災の熱により膨張して水抜き孔を塞ぐものとして水抜き孔に対向又は隣接する位置に配置することは、やはり当業者が容易に着想し得るものではない。
加えて、申立人が、中空部に形成されて内外が連通する孔を加熱発泡材で塞ぐことが記載されているとして提示している甲第8ないし11号証にも水抜き孔を塞ぐことについての記載はなく、甲第8ないし11号証を参照しても、中空部内の補強材上の熱膨張耐火材を、火災の熱により膨張して水抜き孔を塞ぐものとして、水抜き孔に対向又は隣接する位置に配置する、という示唆は得られない。また、その他申立人が提示している、甲第2ないし4号証、第12ないし14号証にも、加熱発泡材で水抜き孔を塞ぐことについての記載はない。

エ まとめ
以上のように、本件発明は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び技術常識に基づいて容易になし得たものではない。

(3) 小括
以上のとおり、取消理由1によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない

3 取消理由2(甲第2号証を主引用例とする進歩性欠如)について
(1) 対比
本件発明と甲2発明とを対比する。

ア 甲2発明の「額縁材6と、窓枠材1と、板ガラス13とを備え」る「窓」は、本件発明の「障子と、枠とを備え、障子はガラスとガラスを保持する框とを備え」る「サッシ」に相当する。

イ 甲2発明において「窓下側の窓枠材1は、板ガラス13を保持する溝部5と、屋外側中空部1a、lb、1cと、屋内側中空部2a、2bとを有」することは、本件発明において「下框はガラス保持溝と中空部」「とを有」することに相当する。

ウ 甲2発明において「窓下側の窓枠材1は、板ガラス13を保持する溝部5と、屋外側中空部1a、lb、1cと、屋内側中空部2a、2bとを有し、屋外側中空部lbと屋内側中空部2bの上壁が溝部5の底壁を形成し、屋外側中空部lbの上壁、屋外側中空部lbの下壁かつ屋外側中空部lcの上壁、及び屋外側中空部lcの屋外側側壁下部に、排水孔4が形成してある」ことと、本件発明において「下框はガラス保持溝と中空部」「とを有し、中空部の上壁がガラス保持溝の底壁を形成しており、中空部の上壁及び下壁に水抜き孔が形成してあ」ることとを対比すると、まず甲2発明における「板ガラス13を保持する溝部5」は本件発明における「ガラス保持溝」に相当する。
そして、甲2発明における「排水孔4」は本件発明における「水抜き孔」に相当し、さらに甲2発明における「上壁が溝部5の底壁を形成し、」「上壁」及び「下壁」に「水抜き孔4が形成してある」「屋外側中空部lb」が本件発明における「上壁がガラス保持溝の底壁を形成しており、中空部の上壁及び下壁に水抜き孔が形成してあ」る「中空部」に相当する。

エ 前記アないしウから、本件発明と甲2発明とは、

「障子と、枠とを備え、障子はガラスとガラスを保持する框とを備え、障子の下框はガラス保持溝と中空部とを有し、中空部の上壁がガラス保持溝の底壁を形成しており、中空部の上壁及び下壁に水抜き孔が形成してある、サッシ。」

の点で一致し、そして以下の点で相違する。

[相違点] 本件発明では、下框中空部の上壁及び下壁の少なくとも一方の水抜き孔に対向又は隣接する位置に、火災の熱により膨張して水抜き孔を塞ぐ熱膨張耐火材が設けてある補強材を、下框中空部内に設けているのに対し、甲2発明では火災の熱により膨張して水抜き孔を塞ぐ熱膨張耐火材および中空部内の補強材を有していない点。

(2) 判断
相違点について検討する。
上記2における検討と同様に、本件発明の、「中空部の上壁及び下壁の少なくとも一方の水抜き孔に対向又は隣接する位置に、火災の熱により膨張して水抜き孔を塞ぐ熱膨張耐火材が設けてある」「補強材」を有することは、当業者が容易に想到し得ることではない。
よって、本件発明は、当業者が甲第2号証に記載された発明及び技術常識に基づいて容易になし得たものではない。

(3) 小括
以上のとおり、取消理由2によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない

4 取消理由3(甲第5号証または甲第6号証を主引用例とする進歩性欠如)について
(1) 検討
上記2、3における検討と同様に、本件発明の、「補強材」に、「火災の熱により膨張して水抜き孔を塞ぐ熱膨張耐火材」を、「中空部の上壁及び下壁の少なくとも一方の水抜き孔に対向又は隣接する位置に」設ける点について、甲第5号証または甲第6号証に記載された発明に甲第1ないし4号証に記載された事項を組み合わせても、またさらに甲第7号証の記載事項を参照しても、当業者が容易に想到できるものではない。加えて甲第8ないし14号証のいずれにも上記の点は記載されていない。
よって、本件発明は、当業者が甲第5号証または甲第6号証に記載された発明及び技術常識に基づいて容易になし得たものではない。

(2) 小括
以上のとおり、取消理由3によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。


第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-01-26 
出願番号 特願2011-217117(P2011-217117)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E06B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西村 直史  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 赤木 啓二
前川 慎喜
登録日 2016-04-08 
登録番号 特許第5911691号(P5911691)
権利者 三協立山株式会社
発明の名称 サッシ  
代理人 特許業務法人スズエ国際特許事務所  

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