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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 C11D 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C11D |
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管理番号 | 1325335 |
審判番号 | 無効2014-800045 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2014-03-26 |
確定日 | 2017-02-15 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4114820号「洗浄剤組成物」の特許無効審判事件についてされた平成26年 9月16日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成26年(行ケ)第10235号、平成27年 8月26日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯等 1 本件特許 本件無効審判事件に係る特許第4114820号の特許(以下、「本件特許」という。)は、平成8年7月24日に特願平8-194727号(優先権主張 平成7年12月11日、特願平7-321895号)として出願され、平成20年4月25日、発明の名称を「洗浄剤組成物」、請求項の数を2として特許権の設定登録がなされたものである。 2 第一次審決に至る経緯 平成21年7月13日付けで、廣瀬 孝美より無効審判(無効2009-800152号事件、以下、「第一次審判」という。)の請求がなされ、同年10月5日付けで訂正請求がなされ、平成22年3月2日付けで審決がなされたが、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成22年(行ケ)第10104号、平成22年11月10日判決言渡)があったので、更に審理の結果、平成23年1月31日付けで、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下、「第一次審決」という。)がなされ、同審決は同年3月14日に確定し、同年4月20日に確定登録された。 3 第二次審決に至る経緯 平成23年8月25日付けで、アクゾノーベル株式会社より無効審判(無効2011-800147号事件)の請求がなされ、平成24年4月12日付けで、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下、「第二次審決」という。)がなされ、知的財産高等裁判所における請求棄却の判決(平成24年(行ケ)第10177号、平成25年2月27日判決言渡)の後、同審決は平成25年3月13日に確定し、同年4月4日に確定登録された。 4 本件審判の経緯 (1) 平成26年3月26日付けで、アクゾノーベル株式会社(以下、「請求人」という。)より無効審判(無効2014-800045号事件、以下、「本件審判」という。)の請求がなされ、同年6月16日付けで、昭和電工株式会社(以下、「被請求人」という。)より答弁書が提出された。 (2) 同年9月16日付けで、「本件審判の請求を却下する。」との審決がなされたところ、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成26年(行ケ)第10235号、平成27年8月26日判決言渡)(以下、「第三判決」という。)がなされ、同判決は確定した。 (3) 審決取消の判決を受け、更に審理を行い、平成28年9月1日付けで、審理事項通知書を、請求人及び被請求人に通知し、同年10月14日付けで請求人より口頭審理陳述要領書が、同年10月18日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同年11月1日に口頭審理を行った。 第2 本件明細書の特許請求の範囲の記載 第一次審判において認容された平成21年10月5日付け訂正後の本件特許に係る明細書(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。 『【請求項1】 水酸化ナトリウム、アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類、及びグリコール酸ナトリウムを含有し、水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1?40重量%であることを特徴とする洗浄剤組成物。 【請求項2】 水酸化ナトリウムを5?30重量%、アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類を1?20重量%、グリコール酸ナトリウムをアスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類1重量部に対して0.1?0.3重量部含有する請求項1記載の洗浄剤組成物。』 (以下、これらの請求項に係る発明を項番号に対応して、「本件発明1」、「本件発明2」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。また、これらの発明に対応する特許をそれぞれ「本件特許1」、「本件特許2」という。) 第3 当事者の主張の概要及び当事者が提出した証拠方法 1 請求人の主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法 請求人が主張する本件審判における請求の趣旨は、「特許第4114820号の請求項1?2に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」であり、大略以下の無効理由を主張している。 (1) 無効理由1 本件特許1及び2は、甲第1号証及び甲第2号証と甲第3号証に記載された発明に基づいて、あるいは、甲第1号証及び甲第2号証と甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許1及び2は、同条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 そして、請求人が審判請求時に提出した証拠方法は、以下のとおりである。(以下、証拠を「甲1」などと略して記載する。)。 甲第1号証 上野景平 著「入門キレート化学」株式会社南江堂 1988年9月15日 改訂第2版発行 甲第2号証 特開平7-238299号公報 甲第3号証 英国特許第1439518号明細書 甲第4号証 特開昭50-3979号公報 (2) 無効理由2 本件特許1及び2が発明の詳細な説明に記載されたものでなく、本件特許は特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してなされたので、本件特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 2 被請求人の主張の概要 被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」であり、請求人の主張する上記無効理由のいずれにも理由がない旨の主張をしている。 第4 主な証拠方法の内容 1 「入門キレート化学」(甲1)について 甲1は、1988年9月15日(昭和63年9月15日)に頒布されたものであって、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であることは明らかである。 そして、甲1には、以下の記載がある。 (1a)第244頁本文第12行?18行 「家庭用の洗剤には以前はキレート剤として重合りん酸塩が添加されていたが、使用量の増加とともに生活排水中のりん酸濃度が高くなり、藻類の異常繁殖や赤潮の原因と見なされるようになって来た。そのため現在では環境に悪影響を及ぼさないものとしてゼオライトなどの金属イオン捕捉剤が添加されるようになった。EDTAやNTAが家庭用石けん、洗剤に大量に使用されないのは、汚水処理場でEDTAやNTAが活性汚泥によって分解され難いからである。」 (1b)第245頁第24行?第246頁第4行 「金属の洗浄のほか、ガラス瓶の洗浄にも大量のキレート剤が消費されている。清涼飲料水やビール、酒類の容器に用いられるガラス瓶は、繰り返し回収使用されるのが普通であるが、その洗浄は自動的に行われ、2%以上のNaOH熱水溶液で処理される。しかしながら、熱アルカリによってガラスから溶出したカルシウムやマグネシウムが次第に蓄積し、それらの炭酸塩、りん酸塩、けい酸塩や水酸化物が沈殿して洗浄効果を妨げるようになる。このような場合、アルカリ洗浄液にキレート剤を添加すれば、洗浄後の寿命を長く保つことが出来る。このさい、重合りん酸塩は高いpH領域では効力が弱いので、主としてEDTAやNTAが常用されている。」 2 特開平7-238299号公報(甲2)について 甲2は、平成7年9月12日に頒布されたものであって、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であることは明らかである。 そして、甲2には、以下の事項が記載されている。 (2a)「【0001】 【技術分野】本発明は、洗浄力に優れ、かつ、微生物により分解され易い硬表面洗浄用組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、ガラス壜、食器等のガラス製品、什器あるいは各種工場のタンクや配管の洗浄、その他油類に汚染された金属製品やプラスチック製品等の洗浄に適し、かつ微生物により分解され易い強力な硬表面洗浄用組成物に関するものである。 【0002】 【背景技術】通常の作業方法では洗浄が困難な場所や形状の被洗浄物、たどえば、ビール壜、牛乳壜等の各種の罎類、食品工場のタンクや配管等の各種食品製造機器類、更には油汚れの激しいオーブンやグリル等の金属あるいはプラスチック製品の表面の洗浄に際しては、浸漬法あるいは被洗浄物の表面に洗浄液を吹きつける等の簡便な方法により洗浄することのできる洗浄力の強力な洗浄剤が望まれる。従来、この種の洗浄剤としては、水酸化ナトリウム1?5重量%を含むアルカリ性水溶液に、エチレンジアミンテトラ酢酸塩、あるいはグルコン酸ナトリウム等が配合された洗浄剤が、抑泡を目的として界面活性剤などが必要により添加されて用いられている。 【0003】しかし、エチレンジアミンテトラ酢酸塩(以下、EDTAと略記する)が配合された洗浄剤は、EDTAの強力なキレート生成能により、極めて洗浄力の強い洗浄剤ではあるが、EDTAおよびその金属錯体化合物が微生物により分解され難いものであるために、最近、特に使用後の洗浄液をそのまま廃棄することは、環境保全の面から問題となってきている。グルコン酸ナトリウムが配合された洗浄剤は、グルコン酸ナトリウムが微生物により分解され易く、その廃棄について環境保全上の問題はないものの、洗浄力に劣り、汚れの激しい被洗浄物の洗浄には適さないという欠点がある」 (2b)「【0005】 【発明の開示】本発明者らは、上記背景のもとで、微生物により分解され易く、かつ、洗浄力に優れた洗浄剤の開発研究を鋭意進めた結果、グルコン酸塩とヒドロキシエチルイミノジ酢酸塩との併用による洗浄力の強力な洗浄剤の開発に成功した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。本発明は、アルカリ金属水酸化物、グルコン酸塩およびヒドロキシエチルイミノジ酢酸塩を有効成分ヒして含有することを特徴とする硬表面洗浄用組成物を提供するものである。」 3 英国特許第1439518号明細書(甲3)について 甲3は、1976年6月16日(昭和51年6月16日)に頒布されたものであって、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であることは明らかである。 そして、甲3には、以下の事項が記載されている。ただし、甲3は英文の書証のため、記載事項の摘記については、請求人の提出した全訳(甲3の2)の記載により行う。 (3a)第2頁第19行?第3頁第6行(全訳第2頁下から2行?第4頁第6行) 「本発明に従い起きる反応は、水性媒体中かつアルカリの存在下で起きる置換反応であり、次の図式で表わされる。 ![]() グルタミン酸のα-アミノ基の2個の水素原子が、モノクロル酢酸から生ずる2個のカルボキシメチル基により置換される。 二置換誘導体を高収率で得ることが困難である主原因の一つは、モノクロル酢酸が加水分解することであり;この二次的反応によりグリコール酸ナトリウムが生成する[下記の反応式(2)参照]。この欠点を防止するためには、上記(1)式の反応に有利なようにかつ、下記(2)式の反応に不利なように、遊離のモノクロル酢酸の存在下で反応を行いかつアルカリを徐々にのみ添加することが必要である。実際に、この二つの反応の相対的な反応速度は、遊離のOH基の濃度により影響される。 ![]() 前記反応を弱アルカリ性pH値で行うことにより、(2)式の加水分解反応を最少に減少させ得ることが今見出された。従って前記したことを考慮して、pHを8?10好ましくは9?9.7の範囲で反応を行うことが必要である。これらの条件下において得られる収率は、使用したモノクロル酢酸に対して理論値の75%より良く、グルタミン酸塩に関しては100%に近い。 pHの調整は、アルカリ土類化合物を使用することによって有利には行われず、アルカリ金属化合物、特に濃厚なアルカリ溶液の形の苛性ソーダを使用して好ましく行われる。反応剤は水性媒体中で反応させ得る。この目的のために軟水または脱塩水または蒸留水でも使用し得る。 反応(1)の反応速度は、反応(2)の反応速度よりも、温度の上昇によりより有利に影響されるので、反応は50?100℃、好ましくは70?100℃、より好ましくは80?90℃の温度で行われる。 出発原料としては、廉価でかつ豊富に入手し得るグルタミン酸モノナトリウムを使用することが有利であるが、グルタミン酸自体およびジナトリウム塩も使用し得る。 起り得る加水分解(反応2)を補填するためにモノクロル酢酸を過剰に使用して反応を行うことが必要である。従ってグルタミン酸1モルに対し2.4?2.7モル、最も好ましくは2.7モル(理論モル比2/1の代わりに)のモノクロル酢酸を使用して反応を行う。 たとえばグルタミン酸ジナトリウム溶液に、モノクロル酢酸の溶液と、アルカリたとえば苛性ソーダの溶液を同時に添加することにより、カルボキシメチル基の移動を伴う置換反応が有利に行われる。 反応の終点は、下記の手段のいずれかにより検出されうる: (1) 形成された塩素イオンの測定により (2) 錯化力(complexing power)の電位測定により (3) ニンヒドリンによる-NH_(2)または-NHR基の判定により。」 (3b)第3頁第7行?第45行(全訳第4頁第7行?第22行) 「反応生成物を含有する溶液を金属イオン封鎖剤組成物として直接に使用することが可能である。あるいは、該溶液を噴霧乾燥して、不純なN,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸又はその塩を得てもよい。この粗生成物を慣用の手段で精製してもよく、好ましくは、したがってそれは少なくとも95%純度である。50%に近い乾燥物含有量を有するこの溶液を熱空気流中に噴霧し白色粉末を得ることができる。 本発明の金属イオン封鎖剤組成物の製造は連続的に行うことが有利であり、これによって比較的大きな規模で生産が行われるので設備費用が減少しまた金属イオン封鎖剤組成物販売価格が低下するというかなりな工業的利点が得られる。 噴霧乾燥操作により得られる粉末をつぎの二つの方法により精製することができる。 (1)濃塩酸によりpH3に酸性化し、次に噴霧乾燥し、アセトンにより乾燥製品を抽出し、ついで抽出物を乾燥まで蒸発させる。得られた油状物をメタノールで処理し、そしてこれは、金属イオン封鎖力の測定に従うと約95%の純度を有する最終生成物を晶出する。 (2)強酸性カチオン樹脂に吸着させ、苛性ソーダで溶出させ、ついで濃縮する。得られた油状物をメタノールで処理し、そしてこれは、その金属イオン封鎖力の測定に従うと96?98%の純度を有する最終生成物を晶出する。」 (3c)第3頁第46行?第81行(全訳第4頁第23行?第5頁第5行) 「本発明の組成物は、アルカリ性剤に関してばかりでなく重金属イオンに対しても顕著な金属イオン封鎖性を示し、この封鎖性は従来得られた金属イオン封鎖性よりもはるかに良好であり、その結果つぎに示す分野において極めてすぐれた工業的利点および用途が生じる。 -イオン交換塔での金属の分離、 -金属の処理および金属表面の脱脂、 -放射能を持った表面の浄化、 -織物の処理、 -洗浄剤、洗濯用水(lyes)、および陶器の洗浄に使用する製品の調製、 -香料および化粧品に関する利用、 -および牛乳工業での利用。 本発明の組成物は、その金属イオン封鎖機能を完全に発揮する。この組成物は、水溶液中、特に緩衝アルカリ性媒体中で通常沈澱を生ずる化学物質の存在下でカチオン(Ca,Mg,Li,Fe,等)の溶解する鎖体(当審注:「錯体」の誤記であると認める。)を形成する。 本発明の組成物は、沈澱反応以外の反応においてカチオンの化学的活性を封鎖しあるいは変性するのにも使用し得る。特に硬水中のナトリウム石鹸溶液に添加された場合に、本発明の組成物は、さもなくば洗浄作用を低下させるカルシウムと錯体を形成する。すなわち該金属イオン封鎖組成物は、カチオンを不活性化する作用を行う他に、石鹸の洗浄剤作用を可能にする。」 (3d)第3頁第89行?第126行(全訳第5頁第9行?第27行) 「市販されている液体の形または粉末の形の洗浄剤の多くは、実際に金属イオン封鎖剤を含有しており、これが、石灰を含有する水(すなわち硬水)中でカルシウム石鹸の沈殿を起こすことなく洗浄剤を使用することを可能にする。それにも拘わらず、現在使用されている金属イオン封鎖剤は、環境汚染または望ましくない生態学的作用という問題に関して明らかに欠点を有する。 すなわち、最も頻繁に使用されている金属イオン封鎖剤であるトリポリホスフェート(TPPと略称する)は相当量のリンを含有しており、河川あるいは湖への洗浄水の排出は河川や湖の富栄養に大きな役割を果たしている。対照的に、本発明の組成物は、リンを全く含有していないかあるいは少量しか含有していない洗浄剤媒体を調製することを可能にし、その結果、前記した問題を防ぐことができる。 洗浄剤において“TPP”に代わるものとして、他の有機化合物、特にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のナトリウム塩、またはニトリロトリ酢酸(NTA)のナトリウム塩あるいはジエチレントリアミン五酢酸のナトリウム塩のごとき第3級アミンの誘導体が提案されている。 これらの化合物の金属イオン封鎖力(金属イオン封鎖剤1モル当りの錯化されるカチオンの当量)は似ている。一方、これらの化合物は生物学的に分解することが困難であり、その分解時にしばしば水中の植物相および動物相に対して有毒な生成物を生ずる。従ってこの挙動により、その用途、あるいは微生物相に危険を及ぼすことなく都市水の浄化経路中に添加し得る量が制限される。」 (3e)第3頁第127行?第4頁第4行(全訳第5頁第28行?下から7行) 「更に、本発明の組成物は、広いpH領域、特に中性またはアルカリ性媒体中でその全ての性質を保持すること、特にその金属イオン封鎖作用は、通常の洗浄剤媒体のアルカリ性のレベルに相当するpH8?11において最大であることが確認された。」 (3f)第4頁第27行?第31行(全訳第6頁第5行?第7行) 「本発明の金属イオン封鎖剤組成物は好ましくは、洗浄剤組成物での使用のためには、少くとも40%のN,N-ジカルボキシメチル-2-アミノペンタン二酸のナトリウム塩を含有する。」 (3g)第4頁第66行?第79行(全訳第6頁第22行?第26行) 「洗浄剤組成物の約5%が該金属イオン封鎖剤組成物”OS_(1)”(下記の実施例2で製造された生成物”OS_(1)L”から得られる乾燥された固体)であり、洗浄剤組成物の約1%の珪酸マグネシウムを伴う組成物を使用することにより、重金属を封鎖すると同時に、酸化性媒体中で行われる一連の洗浄操作により生ずるセルロースの分解を抑制することができることにも注目すべきである。」 (3h)第4頁第91行?第98行(全訳第6頁第32行?下から2行) 「金属イオン封鎖剤としてN,N-ジカルボキシメチル化-2-アミノ-ペンタン二酸またはその塩を含有する全ての洗浄剤組成物の特徴は、リン酸イオンの含有量が低いかあるいは全く含有していないこと、生物学的に易分解性であること、および湖や河川の動植物相に対し毒性がないことである。」 (3i)第4頁第102行?第119行(全訳第7頁第1行?第11行) 「全ての試験において、モノクロル酢酸とグルタミン酸ナトリウム塩とを水性媒体中でかつアルカリの存在下でかつ前記したごとき条件下で反応させて得られた組成物が使用される。 かく得られた、表でOS_(1)と呼ばれる組成物は、次の成分を含む。 N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸、 ナトリウム塩として 60重量% グリコール酸ナトリウム 12〃 塩 全体が100重量%となる量 それは、見掛密度0.56の白色粉末の形である。 上記の生物学的易分解性の金属イオン封鎖組成物は無毒性であり、目や皮膚に有毒な刺激を与えない。」 (3j)第5頁第73行?第6頁第19行(全訳第8頁第15行?第9頁第14行) 「実施例2 68kg(364モル)のグルタミン酸モノナトリウムと74lの水を、ジャケット付タンクに装入した。ジャケットにより温度を50℃にし、ついで50.2%苛性ソーダ溶液4lを添加してpHを9.12に調節した。ついでモノクロル酢酸の溶液と50.2%苛性ソーダ溶液とを、つぎの2つのパラメーター:9.2?9.5のpHと70?75℃の温度、に注意しながら同時に添加開始した。78lのモノクロル酢酸溶液と93lの苛性ソーダ溶液を添加する14時間操作の後に、得られた溶液をタンクに保持して30分間撹絆し、ついで測定を行った。測定の結果、N-カルボキシメチル-LまたはDL-グルタミン酸の16%、即ち58モルが存在することが判った。5kgのモノクロル酢酸を4lの水に溶解した溶液を調製し、ついでこの溶液を55?60℃で前記反応混合物に添加し、かつ前記のpH値を保持するために50.2%苛性ソーダ溶液4lを同時に添加した。得られた溶液を21/2時間60℃で撹絆し、ついで以後の濃縮工程に移した。 この操作でつぎの量の原料が使用された:68kg(364モル)のグルタミン酸モノナトリウム、90kg(953モル)のモノクロル酢酸、97l+4lの苛性ソーダ溶液、154kgの50.2%苛性ソーダ、すなわち77.4kgの純苛性ソーダ(1930モル)、グルタミン酸モノナトリウムとモノクロル酢酸により提供された水を含めた水175.6l。 真空下で濃縮を行い、ついで濃縮物を遠心分離して、N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタンニ酸のトリナトリウム塩を46.2重量%の濃度で含有する本発明の液状組成物204kgを得た。 本発明に従って得られた、“OS_(1)L”と呼ばれる液状組成物はつぎの標準組成を有する液体である。 グルタミン酸 ≦0.2% 全窒素 2%±0.2 アンモニア性窒素 <100ppm 乾燥抽出物 64±1g/l 密度 20℃ 1.475±0.005 ナトリウム % 15%±1 鉄 <100ppm 塩素 2.5±0.5g/l pH(10%に稀釈) 9.2±0.3 粘度 20℃ 8ポイズ±2p 着色(10%に稀釈) ≦ヨード N 錯化力 52mgカルシウム/g 濃度 % ≧ 45%溶液 」 (3k)第6頁20行?58行(全訳第9頁第15行?下から2行) 「実施例3 実施例1および2に従う製造物の金属イオンの封鎖力に関する有効性を、石鹸水式硬度測定法(hydrotimetric liquor method)によって測定した。それは、金属イオン封鎖剤の添加量の関数としてハイドロチメーター硬度(hydrotimetric degree)の進行曲線を作ることよりなる。液体状または固体状の本発明の組成物による水の軟化力を、種々の金属イオン封鎖剤、すなわちE.D.T.A(エチレンジアミノ四酢酸)、N.T.A.(ニトリロ酢酸)およびT.P.P.(トリポリホスフェート)の水の軟化力と比較した。それは、硬度25(フランス標準硬度)の天然硬水を使用して、硬度を、pH10でアンモニア性緩衝液(25ml/l)中の金属イオン封鎖剤の添加量に対する関数として測定することにより求めた。 第1図は、液体状組成物での測定結果を示す。横軸に1l当りの金属イオン封鎖剤の添加量(g)をプロットし、縦軸に石灰硬度(lime hardness)の度Th(フランス標準硬度)をプロットする。曲線(1)はE.D.T.A.四Na塩の90%溶液、曲線(2)は、N.T.A.三Na塩、曲線(3)は液体状の本発明の組成物、曲線(4)はT.P.P.P.に対応する。 第2図は、固体状の本発明の組成物で得られた結果を示す。横軸に金属イオン封鎖剤の添加量(g/l)、縦軸に石灰硬度の度Thをプロットする。第1図と同様、曲線(1)はE.D.T.A.四Na塩の90%溶液、曲線(2)は、N.T.A.三Na塩、曲線(3)は固体状の該組成物、曲線(4)はT.P.P.に対応する。」 (3l)第6頁第59行?第7頁第11行(全訳第9頁最終行?第11頁下から11行) 「実施例4 TERG-O-TOMETER装置を使用して洗浄試験を行った。使用した水の硬度はフランス標準硬度で表わして22°であった。洗浄試験に供する布は、人為的に汚染しかつ標準化された亜麻布であった。下記の参照:EMPA101、KREFELD、ACH、TNO綿布およびTNOポリエステルに対応する標準汚染を一緒に行った。洗浄後、洗浄剤効果を測定し、その結果から、処理により得られた白色度の改善を%で求めた。この目的のために、次の式が用いられた。 白色度の改善% DBF-DBS ×100 DBI-DBS 上記の式において、 DBFは洗浄後の白色度、 DBSは洗浄前の汚染布の白色度 DBIは汚染前の当初の布の白色度 を表わす。 白色度は、緑色フィルターを備えたELREPHO型反射計を使用して反射光の量を測定することにより求めた。 試験結果の表中の夫々の値は、数回の有意な試験の平均値である。 洗浄操作は60℃と90℃で行い、これらの温度は現在使用されている極端な操作温度である。 洗浄剤媒体はつぎの組成を有する。 炭酸ナトリウム:3g/l 石鹸薄片:0.25g/l および 0.50g/l ナトリウムトリポリホスフェート(TPP): 0g/l および 3g/l 本発明の金属イオン封鎖剤組成物 (“OS_(1)”で表わされる):0、1.5、および2g/l 硬度22°の水:全体が1lとなる量 ![]() 炭酸ナトリウムと石鹸を含有する簡単な洗浄剤媒体において、組成物OS_(1)(実施例2で調製された組成物からの固形物)を1.5g/l添加することにより硬水中での洗浄が実質的に改善されたことが確認された。同じ結果を得るために、ナトリウムトリポリホスフェートの2倍重量すなわち3g/lを加えることが必要であった。」 (3m)第7頁第12行?第8頁第27行(全訳第11頁下から10行?第12頁下から4行) 「実施例5 直上の実施例と異なりかつより複雑な洗浄剤混合物を調製した。詳細には、これらの全ては、石鹸、非イオン界面活性剤、“ビルダー”、過酸化物型の漂白剤および充填剤を含有した。処方は、用いられた金属イオン封鎖剤または金属イオン封鎖混合物の点で異る。洗浄試験はTERGO-O-TOMETER型装置を使用してフランス標準硬度22°の水中で60℃で行った。各洗浄操作において、基本的洗濯水1lあたり8gの等価物、すなわち洗浄作用を意図される物質の6g/lとペルオクソホウ酸ナトリウムの2g/lを使用した。 用いられた布は、EMPA101、KREFELD、TNO綿布、TNOポリエステル布およびACHのごとき標準予備汚染布であった。洗浄後、直上の実施例で述べた方法で白色度の改善を測定した。 試験した組成物は、つぎの組成(g/溶液l)を有する。 ![]() CMCの添加量を僅かに増加させる、すなわち溶液l当り0.10?0.12gまで増加させると、組成物OS_(1)の1.6g/lによる汚染布試料の白色度の改善が、トリポリホスフェート40重量%を含有する溶液で得られるそれと同じであることが判る。 従って、トリポリホスフェートを含有せず、金属イオン封鎖剤がN,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸のナトリウム塩に基づく組成により構成される処方を使用することにより、良好な洗浄を行うことができる。この場合、同じ洗浄効果を達成するのに必要なトリポリホスフェートの重量の半分の重量を使用することが必要である。 上の表の中の数値は、2つの金属イオン封鎖剤、すなわちTPPおよび組成物OS_(1)が、それぞれの有する性質を失うことなく混合して使用され得ることを示す。従って、トリポリホスフェートをその半分重量の組成物OS_(1)により置き換えることにより、洗浄剤中のトリポリホスフェートの通常の量の1/2?3/4だけ減少させることができる。」 (3n)第8頁第28行?第9頁第10行(全訳第12頁下から3行?第14頁第4行) 「実施例6 本実施例の目的は、アルカリ性媒体中の重金属に対する、実施例2で得られた組成物OS_(1)の金属イオン封鎖特性を示すことである。 鉄および銅のごときある種の金属の存在は、過酸化物塩の分解を触媒し、その結果セルロースの化学的分解を起こすことが知られている。この弊害を防止するために、通常、洗浄媒体中に金属イオン封鎖剤が使用される:しばしば使用される処方は、珪酸マグネシウムと、NTAまたはEDTA型の有機酸のナトリウム塩との混合物を含有するが、後者は河川の動物相に対して毒性があると考えられている。 これらの試験は、漂白綿布(EMPA)または未漂白綿布(cretonne)からなる布をTERG-O-METER型装置中で90℃で継続的に洗浄することにより行った。セルロースの分解の測定はAFNOR規格No.12-005に従って行った。 使用した基本の洗浄剤はペルオクソホウ酸化合物を含まない市販の洗浄剤であり、この洗浄剤に溶液の各6gに2gのペルオクソホウ酸ナトリウム四水和物を添加した。 試験を行うにあたっては、更に、1%(上記ペルオクソホウ酸塩を含む全体洗浄剤に対して)の珪酸マグネシウムと、EDTAかまたは組成物OS_(1)のいずれかとを含有する混合物を使用した。また、操作を開始する際に、洗濯浴に触媒量の重金属、すなわち 銅、Cu++ として:0.5ppm 鉄、Fe+++として:1.5ppm を添加した。 結果を下記の第IV表に示す。 ![]() DP =重合度 EDTA=エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩 +OS_(1)=組成物“OS_(1)” 組成物OS_(1)の5%の添加は、EDTAまたはNTA型の誘導体を含有する慣用処方を使用する場合よりセルロースの保護が良好であることが見られ、これは、布の摩耗が少なくなることに加え、環境に対して有害な物質を含有しない洗浄廃水が得られるという利点を提供する。」 (3o)第9頁第12行?第10頁第46行(全訳第14頁第6行?第15頁第8行) 「1.N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸又はその塩を含有する、無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物であって、該酸又はその塩はモノクロル酢酸の溶液とアルカリの溶液をグルタミン酸またはグルタミン酸モノまたはジナトリウム塩の水溶液に同時に添加することにより得られ、ここで(a)該アルカリは反応媒体のpHが8?10に維持される量で使用され;(b)反応は50?100℃の範囲の温度で行われ、かつ;(c)グルタミン酸のモル当たり2.4?2.7モルのモノクロル酢酸が使用される、上記金属イオン封鎖剤組成物。 ・・・(中略)・・・ 14.N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸又はその塩を製造する方法において、請求項1記載の反応を行い、そして反応生成物を噴霧乾燥することを含む方法。 15.得られた粗生成物を、95%より高い純度を得るように慣用の方法により精製する請求項14記載の方法。」 (3p)図1、2(全訳第16頁図1、2) 「 ![]() 」 4 特開昭50-3979号公報(甲4)について 甲4は、昭和50年1月16日に頒布されたものであって、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であることは明らかである。 そして、甲4には、以下の事項が記載されている。 (4a)第2頁右上欄第6行?第15行 「本発明によれば、N,N-ジカルボキシメチルアミノ酸の誘導体を含有する生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物は、モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素原子にカルボキシメチル基を結合させることにより製造される。 本発明を実施するにあたつてはアミノジカルボン酸としてグルタミン酸とアスパラギン酸を使用することが特に好ましい。」 (4b)第2頁左下欄第3行?第3頁右上欄第10行 「本発明による反応はアルカリ性水性媒体中での置換反応であり、つぎの図式で表わされる。 ![]() グルタミン酸のα-アミノ基の2個の水素原子がモノクロル酢酸から生ずる2個のカルボキシメチル基により置換される。 アミノジカルボン酸のアミノ基を2個のカルボキシメチル基により置換した誘導体を高収率で得ることが困難である本質的原因の一つは、モノクロル酢酸が加水分解することである。すなわちこの二次的反応によりグリコール酸ナトリウムが生成する[反応式(2)参照]。従つてこの欠点を防止するためには(1)式の反応が行われ、(2)式の反応が起らないように、遊離のモノクロル酢酸の存在下で前記の置換反応を行いかつアルカリ性化合物のみを徐々に添加することが必要である。実際に、この二つの反応の相対的な反応速度は遊離のOH基の濃度により影響される。 ![]() 前記置換反応を弱アルカリ性pH値で行うことにより、(2)式の加水分解反応を最少に減少させ得ることを認めた。従つて前記した二次的反応を考慮した場合、反応時、pHを8?10好ましくは9?9.7に保持して反応を行うことが有利である。これらの条件下において得られる収率は、使用したモノクロル酢酸に対して理論値の75%以上であり、グルタミン酸塩に関してはほとんど100%に近い。 従来既知の方法と異り、pHの調整のためにアルカリ土金属化合物を使用することは有利でなく、アルカリ金属化合物、特に濃厚なアルカリ溶液(lye)の形のカセイソーダ(soda)を使用することが有利である。 反応剤は水性媒体中で反応させ得る。この目的のために軟水または脱塩水または場合により蒸溜水でも使用し得る。 式(1)の反応の反応速度は式(2)の反応の反応速度より温度の上昇により大きくなるので、反応は70?100℃好ましくは80?90℃の温度で行われる。 出発原料としては、廉価でかつ豊富に入手し得るグルタミン酸モノナトリウムを使用することが有利であるが、グルタミン酸自体も使用し得る。 起り得る加水分解[(2)式]で消費される量を補填するためにモノクロル酢酸を過剰に使用して反応を行うことが有利である。従つてグルタミン酸1モルに対し2.4?2.7モル、好ましくは2.7モルのモノクロル酢酸を使用して反応を行う(前者と後者の理論モル比は1/2である。) グルタミン酸ジナトリウム溶液にモノクロル酢酸の溶液とカセイソーダ(soda)の溶液を同時に添加することによりカルボキシメチル基の置換反応を行うことが有利である。 反応の終了はつぎの試験により判定する: (1) 金属と結合した塩素(mineralised chlorine)の定量 (2) 錯化力(complexing power)の電位的測定 (3) ニンヒドリンによる-NH_(2)または-NHR基の定量」 (4c)第3頁右上欄第11行?同頁左下欄第13行 「粗生成物を単離することが可能であり、このものは直接液体の形で、あるいは得られた溶液を噴霧することにより使用し得る。50%に近い乾燥物含有量を有するこの溶液を熱空気流中に噴霧し白色粉末を得ることができる。 本発明の方法は連続的に行うことが有利であり、これによつて比較的大きな規模で生産が行われるので設備費用が減少しまた原価が低下するという工業的に非常に大きな利点が得られる。 噴霧操作により得られる粉末をつぎの方法により精製することができる。 (1)濃塩酸により酸性化してpHを3とし、噴霧し、アセトンにより乾燥製品を抽出し、ついで抽出物を濃縮して乾燥する。得られる油状物をメタノールで処理し、ついで金属イオン封鎖力に応じて95%の純度を有する目的生成物を晶出させる。 (2)強酸性カチオン樹脂に吸着させ、カセイソーダ(soda)で溶出させ、ついで濃縮する。得られる油状物をエタノールで処理し、ついで目的生成物を晶出させる。 目的生成物の純度は、金属イオン封鎖力に応じて96?98%とする。」 (4d)第3頁左下欄第14行?右下欄第20行 「本発明の金属イオン封鎖剤組成物はアルカリ土金属イオンに対してばかりでなく重金属イオンに対しても顕著な封鎖性を示し、この封鎖性は従来得られた金属イオン封鎖性より良好であり、その結果つぎに示す分野において極めてすぐれた工業的利点が得られかつ広く利用し得る。 -イオン交換塔の金属の分離、 -金具の処理および金属表面の脱脂、 -放射性表面の浄化 -織物の処理 -洗浄剤、洗濯用水(lyes)および陶器の洗浄に使用する製品の調製 -香料および化粧品への利用 -牛乳製品製造工業への利用 本発明の金属イオン封鎖剤組成物はその封鎖機能を完全に発揮する。この組成物は、水溶液中、特にアルカリ性緩衝媒体中で通常沈澱を生ずる化学物質の存在下でカチオン(Ca,Mg,Li,Fe等)の可溶性鎖体を形成する。 本発明の封鎖剤組成物は沈殿反応以外の反応においてカチオンの化学的活性を封鎖しあるいは変性するのにも使用し得る。特に硬水中のナトリウム石鹸溶液に添加された本発明の封鎖剤組成物は洗浄作用を低下させるカルシウムイオンと錯体を形成する。すなわち本発明の封鎖剤組成物はカチオンを不活性化する作用を行う他に、石鹸の洗浄作用を向上(potentialise)させる。」 (4e)第4頁左上欄第7行?右下欄第14行 「市販されている液体の形または粉末の形の洗浄剤の多くは、実際に金属イオン封鎖剤を含有しており、この封鎖剤が存在するため石灰を含有する(硬水と呼ばれる)中でも使用することができ、カルシウム石鹸の塩類が生成しないのである。それにも拘わらず、現在使用されている金属イオン封鎖剤は汚染または生態学的変化(ecalogy change)という問題に関して明らかに欠点を有する。 すなわち、最も頻繁に使用されている金属イオン封鎖剤であるトリポリホスフエート(TPPと略称する)は相当量のりんを含有しており、河川あるいは湖に排出される洗浄水は河川や湖の生物の栄養源として大きな役割を果たしている。 本発明の金属イオン封鎖組成物を使用することによりりんを全く含有していないかあるいは少量しか含有していない洗浄剤媒体を調製することが可能であり、その結果前記した問題の発生を防ぐことができる。 洗浄剤中に使用する“TPP”に代るものとして、他の有機化合物、特にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のナトリウム塩、またはニトリロトリ酢酸(NTA)のナトリウム塩あるいは場合によりジエチレントリアミン五酢酸のナチリウム塩のごとき第3級アミンの誘導体が提案されている。 これらの化合物の金属イオン封鎖力は“TPP”と同様である(金属イオン1モル当たりの錯化されたカチオンの量に等しい)。一方、これらの化合物は生物学的に分解することが困難であり、その分解時にしばしば水中の動植物に対して有毒な生成物を生ずる。従ってこの性質によりその用途あるいは微生物に悪影響を及ぼすことなく都市用水の浄化系路中に添加し得る量が制限される。」 (4f)第4頁右上欄第15行?第19行 「更に、この種の洗浄剤組成物は広いpH領域、特に中性またはアルカリ性媒体中でその全ての性質を保持すること、特にその金属イオン封鎖作用は通常の洗浄剤媒体のアルカリ度に相当するpH8?11において最大であることが確認されている。」 (4g)第4頁左下欄第18行?右下欄第1行 「本発明により得られる洗浄剤用金属イオン封鎖剤組成物は少なくとも40%の、アミノ酸のN,N-ビス-カルボキシメチル誘導体のナトリウム塩を含有する。」 (4h)第5頁左上欄第4行?第10行 「約5%の金属イオン封鎖剤組成物”OS_(1)”と約1%の硅酸マグネシウムとから構成される金属イオン封鎖剤を含む洗浄剤組成物を使用することにより、重金属を封鎖すると同時に酸化性媒体中で行われる連続的洗浄操作により生ずるセルロースの分解を抑制することもできることに注目すべきである。」 (4i)第5頁左上欄第20行?同頁右上欄第5行 「金属イオン封鎖剤としてアミノ酸のN,N-ビス-ジカルボキシメチル化誘導体を含有する全ての洗浄剤の特徴は、りんの含有量が低いかあるいは全くりんを含有していないこと、生物学的に易分解性であることおよび湖や河川の動・植物に対し毒性がないことである。」 (4j)第5頁右上欄第8行?左下欄第1行 「全ての試験において、モノクロル酢酸とグルタミン酸のナトリウム塩とをアルカリ性媒体中でかつ前記したごとき条件下で反応させて得られた金属イオン封鎖剤組成物を使用した。 かく得られたOS_(1)と呼ばれる金属イオン封鎖剤組成物はつぎの成分からなる。 N,N-ビス-カルボキシメチルグルタメート、ナトリウム塩 60重量% グリコール酸ナトリウム 12重量〃 塩 全体が100%となる量 上記組成物は見掛密度0.56の白色粉末である。上記の生物学的易分解性組成物は無毒性であり、目や皮膚に有害な刺戟を与えない。」 (4k)第6頁右上欄第8行?右下欄第15行 「実施例2 68Kg(364モル)のグルタミン酸モノナトリウムと74lの水を、ジヤケツト付反応器に装入した。二重ジヤケツトにより温度を50℃に上昇させついで50.2%カセイソーダ溶液4lを添加してpHを9.12に調整した。ついでモノクロル酢酸の溶液と50.2%カセイソーダ溶液とを、つぎの2つのパラメーター;9.2?9.5のpHと70?75℃の温度に注意しながら同時に添加した。 14時間操作して78lのモノクロル酢酸溶液と93lのカセイソーダを添加した後、得られた反応溶液を30分間撹絆して混合しついで測定を行つた。測定の結果、N-カルボキシメチル-LまたはDL-グルタミン酸が存在することが判つた。5Kgのモノクロル酢酸を4lの水に溶解した溶液を調製し、ついでこの溶液を55?60℃で前記反応混合物に添加しついで前記のpH値を保持するため50.2%カセイソーダ溶液4lを同時に添加した。得られた溶液を21/2時間60℃で撹絆し、ついで以後の濃縮工程に移した。 この操作でつぎの量の原料が使用された。68Kg(364モル)のグルタミン酸モノナトリウム、90Kg(953モル)のモノクロル酢酸、97l+4lのカセイソーダ溶液、154Kgの50.2%カセイソーダ、すなわち77.4Kgの純カセイソーダ(1930モル)、グルタミン酸モノナトリウムとモノクロル酢酸により提供された水、175.6l。 真空下で濃縮を行い、ついで濃縮物を遠心分離して、N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のトリナトリウム塩を46.2重量%の濃度で含有する本発明の液状金属イオン封鎖剤組成物204Kgを得た。 本発明の方法に従つて得られる、“O-S_(1)L”と呼ばれる液状組成物はつぎの標準組成を有する。 未反応グルタミン酸 ≦0.2% 全窒素 2%±0.2 アンモニア性窒素 <100ppm 乾燥抽出物 64±1 密度 20℃ 1.475±0.005 ナトリウム % 15%±1 鉄 <100ppm 塩素 2.5±0.5 pH(10%に稀釈) 9.2±0.3 粘度 20℃ 8ホロイズ±2p 着色(10%に稀釈) ≦ヨード N 錯化力 52mgカルシウム/g 濃度”OS_(1)(トリナトリウム)”% ≧ 45%溶液」 (4l)第6頁右下欄第16行?第7頁右上欄第9行 「実施例3 実施例1および2で得られた金属イオン封鎖剤組成物の金属イオン封鎖力の効率を、石鹸水式硬度測定法(hydrotimetric Liquor metod)によつて測定した。この方法においてはハイドロチメーター硬度(hydrotimetric degree)は、金属イオン封鎖剤の添加量の関数として曲線で表わすことにより得られる。液体状または固体状の本発明の金属イオン封鎖剤組成物による水の軟化力を種々の金属イオン封鎖剤、すなわちE.D.T.A(ethylene diamine tetraacetic acid)、N.T.A.(nitrilotriacetic acid、およびT.P.P.(tripolyphospate)の水の軟化力と比較した。軟化力は、硬度25(フランス標準硬度)の天然硬水を使用して、硬度をpHが10のアンモニア性緩衝液(25ml/l)中の金属イオン封鎖剤の添加量に対する関数として表わすことにより求めた。 第1図は本発明の液体状金属イオン封鎖剤組成物と他の金属イオン封鎖剤の軟化力の測定結果を示す。第1図において横軸は水1l当りの金属イオン封鎖剤の添加量(g)を表わし、縦軸は石灰硬度(lime hardness)の度数(フランス標準硬度)を表わす。曲線(1)はE.D.T.A.四Na塩の90%溶液、曲線(2)は、N.T.A.三Na塩、曲線(3)は液体状の本発明の金属イオン封鎖剤組成物、曲線(4)はT.P.P.P.についての測定結果を表わす。 第2図は本発明の固体状金属イオン封鎖剤組成物と他の金属イオン封鎖剤の軟化力の測定結果を示す。横軸に金属イオン封鎖剤の添加量(g/l)、縦軸は石灰硬度の度数を表わす。第1図と同様、曲線(1)はE.D.T.A.四Na塩の90%溶液、曲線(2)は、N.T.A.三Na塩、曲線(3)は固体状の本発明の金属イオン封鎖剤該組成物、曲線(4)はT.P.P.についての測定結果を表わす。」 (4m)第7頁右上欄第10行?第8頁左上欄第7行 「実施例4 TERG-O-TOMETER装置を使用して洗浄試験を行つた。使用した水の硬度はフランス標準硬度で表わして22°であつた。洗浄試験に供する布として、人為的に汚染しかつ標準化された(standardised)亜麻布を使用した。標準汚染布(standard soilings)すなわちEMPA101、KREFELD、ACH、TNO綿布およびTNOポリエステル布を平行的に試験した。洗浄後洗浄効果を測定し、その結果から洗浄処理により得られる白色度の増加率を%で求めた。この白色度の増加率はつぎの式により求めた。 白色度の増加率% DBF-DBS ×100 DBI-DBS 上記の式において、 DBFは洗浄後の白色度、 DBSは洗浄前の汚染布の白色度 DBIは汚染前の布の元の白色度 を表わす。 白色度は、緑色フイルターを備えたELREPHO型回折計を使用して回折光の量を側定することにより求めた。 試験結果を示す表中の白色度の値はいずれも数回の試験結果の平均値である。 洗浄操作は60℃と90℃で行つたが、この温度は現在使用されている最も極端な洗浄温度である。 洗浄媒体としてはつぎの組成を有するものを使用した。 炭酸ナトリウム ・・・3g/l 石鹸片 ・・・0.25g/l,0.50g/l ナトリウムトリポリホスフエート(TPP) ・・・0,3g/l 本発明の金属イオン封鎖剤組成物 (“OS_(1)”で表わされる) ・・・0,1,1.5,2g/l 硬度22°の水 ・・・全体が1lとなる量 ![]() 上記の表から、炭酸ナトリウムと石鹸を含有する簡単な洗浄媒体の場合、”金属イオン封鎖剤組成物OS_(1)”を1.5g/l添加することにより硬水中での洗浄が実質的に改善されることが明らかである。同様の効果を得るためにナトリウムトリポリホスフエートは2倍量すなわち3g/lが必要である。」 (4n)第8頁左上欄第8行?第9頁左上欄第4行 「実施例5 ・・・(中略)・・・ 試験に使用した洗浄剤組成物はつぎの組成物有する。各成分の使用量は洗浄剤組成物溶液/1l当りのg数を表わす。 ![]() ・・・(中略)・・・ 従つて、トリポリホスフエートを全く含有しない、金属イオン封鎖剤がN,N-ビス-ジカルボキシメチルグルタミン酸のナトリウム塩からなる組成物である洗浄剤組成物を使用することにより非常に良好な洗浄を行うことができる。この場合、同様な漂白を行うのに必要なトリポリホスフエートの半量の本発明の組成物を使用することが必要である。 第III表の結果から、2つの金属イオン封鎖剤、すなわちTPPおよび”組成物OS_(1)”とを混合してそれぞれの有する性質を失うことなく使用し得ることも判る。従つて本発明の金属イオン封鎖剤組成物によりその半分を置換することにより洗浄剤組成物中のトリポリホスフエートの含有量をその通常の含有量の1/2?3/4まで減少させることができる。」 (4o)第9頁左上欄第5行?第9頁右下欄第10行 「実施例6 本実施例はアルカリ性媒体中の重金属に対する”組成物OS_(1)”の金属イオン封鎖力を示す。 ・・・(中略)・・・ 結果を第IV表に示す。 ![]() DP =重合度 EDTA=エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩 +OS =本発明の金属イオン封鎖剤組成物 第IV表の結果から、”組成物OS”を5%添加することにより、EDTAまたはNTA型の誘導体を含有する慣用組成物を使用する場合よりセルロースの保護が良好であり、従つてこの場合、布の摩耗が少なくなることの他に、河川、湖沼に対して有害な生成物を含有しない洗浄廃水が得られるという利点がある。」 (4p)第11頁図1、2 「 ![]() 」 第5 当審の判断 当審は、本件特許1及び本件特許2は、請求人の主張する無効理由1及び2のいずれによっても無効とすべきものであるとはいえない、と判断する。 その理由は、以下のとおりである。 1 無効理由1について (1) 甲1に記載された発明 甲1の上記(1b)の記載によれば、甲1には、ガラス瓶の洗浄に、アルカリ洗浄剤にEDTA等のキレート剤を添加した洗浄剤を用いることが記載されているといえる。また、このアルカリ洗浄剤は、2%以上のNaOH熱水溶液であるといえるし、さらに、NaOH、EDTA等のキレート剤等の複数の成分からなるものは、「組成物」であるといえる。 そうすると、甲1には、「第3判決」(「第4」、「3」、「(2)」)で判示されるとおりの次に示す発明が記載されているといえる。 「2%以上の水酸化ナトリウム熱水溶液及びEDTA等のキレート剤を含有するガラス瓶の洗浄剤組成物。」(以下、「甲1発明」という。) (2) 対比・判断 ア 本件発明1について (ア) 対比 本件発明1と甲1発明を対比すると、本件発明1と甲1発明とは、「洗浄剤組成物」である点で一致すると共に、洗浄剤組成物中に「水酸化ナトリウム」を含有する点でも一致している。また、その含有量でも、本件発明1と甲1発明とは、「2%(重量%)以上」の範囲で重複している。 また、本件特許明細書の段落【0008】の「これらの化合物の洗浄剤組成物としての配合量はアミノジカルボン酸二酢酸塩類は0.01?30重量%であり好ましくは1?20重量%である。このアミノジカルボン酸二酢酸塩類は各種工業のプロセスの硬表面に付着したアルカリ土類金属塩(例えば炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム)を主成分とする汚れ中のアルカリ土類金属を溶解しキレート錯体となり洗浄液中に安定的に溶解せしめることによる洗浄効果を発揮する成分として有用である。」との記載によれば、この「アミノジカルボン酸二酢酸塩類」の具体例である本件発明1の「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類」は、「キレート剤」であるといえる。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「水酸化ナトリウム、及びキレート剤を含有し、水酸化ナトリウムの配合量が組成物の2重量%以上である洗浄剤組成物。」という点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 (相違点) 洗浄剤組成物が、本件発明1では、「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類、及びグリコール酸ナトリウムを含有」するのに対し、甲1発明は、EDTA等を含有している点。 (イ) 相違点に関する判断 甲3には、上記(3g)及び(3i)の記載によれば、OS_(1)と呼ばれる「N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸ナトリウム塩(本件発明1の「グルタミン酸二酢酸塩類」に相当する。)を60重量%、グリコール酸ナトリウムを12重量%、塩を全体が100重量%となる量で含有し、見掛密度0.56の白色粉末の形である、生物学的易分解性の金属イオン封鎖組成物」(以下、「OS_(1)」という。)」が、記載されていると共に、この「OS_(1)」は、上記(3l)、(3m)、及び(3n)の記載によれば、上記(3l)の「洗浄剤媒体」、上記(3m)の「洗浄剤混合物」、及び上記(3n)の「洗浄剤」(それぞれ、「洗浄剤組成物」に相当する。)に添加されることが記載されている。 そして、「金属イオン封鎖」とは、上記(3c)の記載によれば、金属イオンと錯体(キレート)を形成することであるといえる。 また、「OS_(1)」に関し、上記(3f)及び(3h)の記載によれば、甲3において、「OS_(1)」の「N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸」及びその「塩」については、生物学的易分解性及び金属イオン封鎖性のある成分としての認識が示されている。 さらに、甲3には、上記(3d)の記載によれば、EDTA等は、生物学的に分解することが困難であることも記載されている。 一方、甲2には、上記(2a)及び(2b)の記載によれば、EDTAに生分解性が低いという問題があることから、それに代わり生分解性に優れるキレート剤(グルコン酸塩及びヒドロキシルエチルイミノジ酢酸塩)を、ガラス瓶、金属表面の洗浄に用いることが行われていることが記載されているといえる。 ここで、甲1発明は、「ガラス瓶」の洗浄剤組成物に「EDTA」等のキレート剤を使用するものである。 そして、甲2には、EDTAに生分解性が低いという問題があることから、それに代わり生分解性に優れるキレート剤を、ガラス瓶の洗浄に用いることが記載されているから、当業者であれば、甲1発明のEDTAに代えて、甲2に記載されるキレート剤を使用することは、所望の効果が得られるかは別にして、試みることであるかもしれない。 しかしながら、甲2には、甲1発明に対して、甲2に記載されるキレート剤ではなく、それ以外のキレート剤を使用する示唆があるものとは認められない。また、甲3には、甲3に記載されるキレート剤を、「ガラス瓶」の洗浄に使用することは記載されておらず、甲3に、EDTAは、生物学的に分解することが困難であることが記載されているとしても、キレート剤は、その洗浄対象や、どの様な成分と組み合わせられるか等の洗浄条件によりその発揮する能力が変化するものであるから、当業者が、「ガラス瓶」の洗浄に使用して所望の効果が得られるのか明らかでない甲3に記載されるキレート剤を、甲2のキレート剤と同様に、甲1発明のガラス瓶の洗浄に用いる洗浄剤組成物への使用を試みる動機があるとはいえない。 そうすると、甲2及び甲3の記載を考慮したとしても、そもそも、甲3に記載されるキレート剤を、甲1発明に適用することができるとはいえない。 また、仮に、甲1発明に、甲3に記載されるキレート剤を使用することができたとした場合、甲3の記載に接した当業者であれば、甲1発明の、EDTA等を、甲3の上記(3d)に記載されるように、生分解性の低いEDTAに対して、生物学的易分解性及び金属イオン封鎖(キレート)性のある成分とされている「N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸」又はその「塩」に代えることは、一応、試みることであるといえるかもしれない。 しかしながら、上記「OS_(1)」に関し、上記(3a)の記載によれば、「グリコール酸ナトリウム」は、グルタミン酸二置換誘導体(N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸)を合成する際の「欠点」である「二次的反応」により生ずる副生成物であり、グルタミン酸二置換誘導体を合成する際には、この「二次的反応」が「不利なよう」になる合成条件としているといえる。 また、上記(3b)及び(3o)の記載によれば、「グリコール酸ナトリウム」等が含まれた「不純なN,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸又はその塩」としての「粗生成物」は「少なくとも95%純度」にまで慣用の手段で精製してもよいものである。 さらに、上述したように、生物学的易分解性及び金属イオン封鎖性のある成分としての認識が示されているは、「N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸」又はその「塩」のみである。 まとめると、上記「OS_(1)」の「グリコール酸ナトリウム」とは、「OS_(1)」に不純物として含有されるものであり、これを含有したまま金属イオン封鎖剤組成物として使用してよい成分であるとしても、「OS_(1)」において金属イオン封鎖性のある成分として必須の成分ではなく、合成の際に減らされるべき副生物であり、かつ、精製により除去される成分としての認識しか示されていないものである。 そうすると、金属封鎖剤組成物である「OS_(1)」が、「グリコール酸ナトリウム」を含むものであるとしても、甲3の記載に接した当業者は、甲1発明のキレート剤であるEDTA等に代えて、金属イオン封鎖性の必須の成分だけではなく、「OS_(1)」製造の際に減らされるべき副生物であり、かつ、精製により除去される成分としての認識しか示されていない「グリコール酸ナトリウム」をも含む「OS_(1)」、つまり「グリコール酸ナトリウム」を、甲1発明の洗浄剤組成物に添加する動機があるとはいえない。 また、甲4は、上記(4a)に、「N,N-ジカルボキシメチルアミノ酸誘導体」を含有する生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物を製造するにあたり、アミノジカルボン酸として、甲3の「N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸」を生成する「グルタミン酸」を用いる他に、本件発明1の「アスパラギン酸二酢酸塩類」を生成する「アスパラギン酸」を用いることが記載されている他は、 甲4の上記(4b)?(4o)及び(4p)の記載内容は、甲3の上記(3a)?(3n)及び(3p)の記載内容にほぼ一致するものであるから、甲4を考慮したとしても、「グリコール酸ナトリウム」を、甲1発明の洗浄剤組成物に添加する動機があるとはいえない。 よって、そもそも甲1発明に、甲3に記載されるキレート剤を適用することができるとはいえないし、仮に、適用可能であったとしても、甲3の「OS_(1)」のごとき「グリコール酸ナトリウム」を含むキレート剤を、甲1発明の洗浄剤組成物に添加することができるとはいえないから、上記(相違点)は、甲2ないし甲4を考慮しても、当業者が容易に想到し得るものではなく、本件発明1は、本件特許出願の優先日前に頒布された甲1文献に記載された発明及び甲2ないし甲4の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ) 「グリコール酸ナトリウム」に関する請求人の主張 平成28年10月14日付口頭審理陳述要領書第3頁第8?11行において、請求人は、「OS_(1)を甲1発明に適用することが容易であり、その結果、OS_(1)に含有されているグリコール酸ナトリウムもN,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸の塩と共に2%以上の水酸化ナトリウムと組み合わされることになる」と主張している。 しかしながら、本件発明1を前提とすれば、「OS_(1)」をそのまま、甲1発明のEDTA等に代えて用いれば良いかもしれないが、甲1?甲4の記載のみに接すれば、甲1発明に、甲3に記載のキレート剤を適用することが、当業者にとり容易に想到し得るものでないことは、上記「(イ)」で述べたとおりである。 また、仮に、甲1発明に、甲3に記載のキレート剤を適用可能であったとしても、上記「(イ)」で述べたように、甲3の「OS_(1)」において、金属イオン封鎖性のある成分として必須の成分ではなく、合成の際に減らされるべき副生物であり、かつ、精製により除去される成分としての認識しか示されていない「グリコール酸ナトリウム」を含有しないものとし、「OS_(1)」での金属イオン封鎖における必須の成分である「N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸の塩」の含有量をより高め、これのみを、甲1発明のEDTA等に代えることは、当業者ならば考え得ることかも知れないが、上記の「グリコール酸ナトリウム」を含む「OS_(1)」を「そのまま」、甲1発明のEDTA等に代えて用いることができると、いうことはできない。 ここで、甲3及び甲4に、「OS_(1)」を洗浄剤組成物にそのまま用いる具体例が記載されているとしても、甲3の上記(3e)及び甲4の上記(4f)の記載によれば、「OS_(1)」には、pHの条件などの、金属イオン封鎖力を発揮する洗浄剤組成物における最適の条件があるといえるから、これらの具体例と、水酸化ナトリウムを2%以上含有する点で洗浄剤組成物における条件が異なる甲1発明の洗浄剤組成物に、甲3及び甲4に記載される上記具体例と同様に、「OS_(1)」を、適用することができるとはいえない。 そうすると、請求人の「OS_(1)を甲1発明に適用することが容易であり、その結果、OS_(1)に含有されているグリコール酸ナトリウムもN,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸の塩と共に2%以上の水酸化ナトリウムと組み合わされることになる」との主張は採用することはできない。 (エ) 本件発明1の効果について 上記「(イ)」で述べたように、甲2ないし甲4を考慮したとしても、「グリコール酸ナトリウム」を、甲1発明の洗浄剤組成物に添加することは、当業者が容易に想到し得るものではないが、仮に、甲1発明の洗浄剤組成物に「グリコール酸ナトリウム」を添加することが容易に想到し得るものと仮定して、本件発明1の効果が、甲1ないし甲4から、容易に予測し得るものであるか否かについて検討する。 a 本件発明1の洗浄剤組成物が「グリコール酸ナトリウム」を含むことによる効果 本件特許明細書の段落【0008】の「グリコール酸塩類はアミノジカルボン酸二酢酸塩類1重量部に対し0.025?0.6重量部で配合し、好ましくは0.1?0.3重量部である。これによってアミノジカルボン酸二酢酸塩類が汚れ中のアルカリ土類金属とキレート錯体を形成したときにその洗浄液中で安定的に存在出来るような補助的な効果を発揮すると考えられる。また、汚れ中のアルカリ土類金属を洗浄液中に溶解しやすくするような触媒的効果も有すると考えられる。」との記載によれば、「グリコール酸ナトリウム」は、本件発明1の洗浄剤組成物の洗浄作用を有意に高めるものであるといえる。 詳しく見ると、本件特許明細書の段落【0022】【表1】の「実施例6」の洗浄剤は、水酸化ナトリウムを5重量%、グルタミン酸二酢酸四ナトリウムを2.5重量%、さらにグリコール酸ナトリウムを含有し、グリコール酸ナトリウム/グルタミン酸二酢酸四ナトリウムの重量比は0.3である。他方、「比較例3」は、「実施例6」と同量の水酸化ナトリウム及びグルタミン酸二酢酸四ナトリウムを含むが、グリコール酸ナトリウムを含有しない点で、「実施例6」と異なる。そして、上記【表1】によれば、「実施例6」の洗浄剤の洗浄効率が、光沢度評価において91%(ガラス板)及び93%(SUS(ステンレス鋼)板)、目視評価においていずれも4であるのに対し、「比較例3」の洗浄剤の洗浄効率は、光沢度評価において71%(ガラス板)及び73%(SUS板)、目視評価においていずれも3であり、「グリコール酸ナトリウム」の配合が、その洗浄効果を有意に高めるものであって、そのような効果を奏するに当たり、グリコール酸ナトリウムの配合が寄与していると認めることができる。 しかしながら、甲1ないし甲4には、「グリコール酸ナトリウム」を洗浄組成物の有意な成分の一つ、すなわち洗浄性能に関与する成分と認識することについて記載も示唆もなく、グリコール酸ナトリウムを含む本件発明1の洗浄剤組成物の洗浄性能が、グリコール酸ナトリウムを含まない洗浄剤組成物の洗浄性能よりも「良い」ものであることについての記載も示唆もない。 b 洗浄剤組成物が、本件発明1の「三成分」から構成されることによる効果 本件発明1の「三成分」を含有する「実施例1」ないし「実施例7」の洗浄剤は、その洗浄効率が、光沢度評価において91?95%(ガラス板)及び93?97%(SUS板)、目視評価においていずれも4?5であり、水酸化ナトリウムを5重量%、EDTA四ナトリウムを5重量%含有する、高い洗浄効果を有する従来品である「比較例1」の洗浄剤も、光沢度評価において95%(ガラス板)及び97%(SUS板)、目視評価においていずれも5であることから、両者の洗浄効果はほぼ同等であると認められる。 そうすると、本件発明1は、上記「三成分」を含有することにより、高い洗浄効果を有する従来品であるEDTAを含有した洗浄剤と同等の洗浄効果を奏するという効果を認めることができる。 これに対し、甲3における金属イオン封鎖剤組成物「OS_(1)」は、N,N-ジカルボキシメチル-2-アミノ-ペンタン二酸ナトリウム塩(グルタミン酸二酢酸四ナチリウム)とグリコール酸ナトリウムを含み、「水酸化ナトリウムを含まない」ものであり、甲3の上記(3k)の記載及び(3p)のFig1及び2によると、この金属イオン封鎖剤組成物の金属イオン封鎖力(Fig1及び2の「3」)はトリポリホスフェート(Fig1及び2の「4」)よりは優れているものの、EDTA四ナトリウム塩(Fig1及び2の「1」)よりは劣っている。 そうすると、甲3には、本件発明1の「水酸化ナトリウム」と、「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類」と「グリコール酸ナトリウム」を組み合わせた「三成分」を含むことによる効果が記載されているとはいえない。そして、この効果は、甲1、甲2及び甲4にも記載されていない。 よって、洗浄剤組成物が、上記三成分を含むことにより、洗浄効果が高められる効果がある点は、甲1ないし甲4を考慮したとしても、当業者が予測し得ない格別の効果と認めることができるから、本件発明1は、効果の点を考慮することによっても、本件特許出願の優先日前に頒布された甲1文献に記載された発明及び甲2ないし甲4の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (オ) 本件発明1についてのまとめ したがって、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、無効理由1によっては、無効とすべきものではない。 イ 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の洗浄剤組成物において、その成分の含有量をさらに規定するものであるが、上記「ア」で述べたとおり、本件発明1は甲1に記載された発明及び甲2ないし甲4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、本件発明1を前提とする本件発明2もまた、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、無効理由1によっては、無効とすべきものではない。 (3) 無効理由1についてのまとめ 以上のとおりであるので、本件発明1及び本件発明2はいずれも、本件出願の優先日前に頒布された甲1に記載された発明及び甲2ないし甲4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件特許1及び本件特許2は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、無効理由1によっては、無効とすべきものではない。 2 無効理由2について (1) 請求人の主張 請求人は、審判請求書の第17頁「(オ)本件特許を無効にすべきである理由(記載不備)」において、無効理由2として、 「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類、及びグリコール酸ナトリウムが所定の効果を奏するためには、しかるべき濃度で存在することが必要であることは当然である(たとえば1分子のそれらが1リットルの洗浄剤組成物中に存在して効果を奏するとは考えられない)・・・中略・・・。にもかかわらず、濃度の限定を欠く請求項1は発明の効果を奏することが裏付けられていない範囲を包含している。 本件請求項2においてはこれら成分の濃度を限定しているが、実施例で裏付けられている範囲より著しく広く、発明の効果を奏することが裏付けられていない範囲を包含している。」ことを指摘し、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張する。 (2) 本件発明1について 上記の主張について検討するに、本件発明1は「洗浄剤組成物」の発明であるから、構成成分の含有量が微量で組成物が洗浄作用を有さないものが含まれないことは明らかである。また、本件発明1は単なる組成物ではなく、「洗浄剤組成物」という用途限定組成物の発明であり、組成物が洗浄剤として使われることが必須の要件である。そして、洗浄剤として使われていればその効果を有することは明らかであるから、アスパラギン酸二酢酸塩、グルタミン酸二酢酸塩、およびグリコール酸ナトリウムの濃度が特定されていなくても、当然その効果を奏する程度の濃度で存在するのである。 したがって、請求人の主張は採用することができない。 よって、本件発明1が発明の効果を奏しない範囲を包含している、とはいえない。 以上のとおりであるから、本件発明1は、発明の効果を奏しない範囲を包含しているとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、請求人の主張する無効理由2によっては、本件特許1を無効にすることはできない。 (3) 本件発明1に係る無効理由2と「第一次審決」との関係について 本件発明1に係る無効理由2は、要は、「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類、及びグリコール酸ナトリウムが所定の効果を奏するためには、しかるべき濃度で存在することが必要であるが、濃度の限定を欠く請求項1は発明の効果を奏することが裏付けられていない範囲を包含している。」というものであるが、この無効理由は、廣瀬 孝美により請求された「第一次審判」において、既に特許法第36条第6項第1号所定の無効理由として主張されたものである。 そして、「第一次審決」において、この無効理由は、上記「(2)」に述べた理由により、理由がないものとされ、この審決は、平成23年4月20日に確定登録されている。 そうすると、本件特許1に係る無効理由2は、既に審理対象とされた、第一次審判(その無効理由2に係るもの)と、同一の事実(及び同一の証拠)に基づいて請求されたものであるから、第一次審決の確定効たる一事不再理効に反するものである。 なお、一事不再理の原則を規定する特許法第167条は、平成23年6月8日法律第63号により改正され、確定審決の効力たる一事不再理効の及ぶ範囲が「何人」から「当事者及び参加人」とされたところ、第一次審決は、平成23年4月20日に確定登録されているから、改正前特許法第167条の規定が適用されることになる。 そうすると、本件審判の請求人(アクゾノーベル株式会社)は、第一次審判の請求人(廣瀬 孝美)とは相違するものの、第一次審決の確定効は、上記のとおり何人にも及ぶことになる。 (4) 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の洗浄剤組成物において、その成分の含有量をさらに規定するものであるが、上記「(2)」で述べたとおり、本件発明1は、発明の効果を奏しない範囲を包含しているとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件発明1を前提とする本件発明2もまた、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、請求人の主張する無効理由2によっては、本件特許2を無効にすることはできない。 (5) 無効理由2についてのまとめ 以上のとおりであるので、本件発明1及び本件発明2はいずれも、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、請求人の主張する無効理由2によっては、本件特許1及び本件特許2を無効にすることはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件特許1及び本件特許2は、請求人の主張する無効理由とその証拠方法によっては、無効とすることはできない。 また、他に本件特許1及び本件特許2を無効とすべき理由を発見しない。 本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-12-08 |
結審通知日 | 2016-12-12 |
審決日 | 2017-01-06 |
出願番号 | 特願平8-194727 |
審決分類 |
P
1
113・
537-
Y
(C11D)
P 1 113・ 121- Y (C11D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井上 典之、穴吹 智子 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
豊永 茂弘 原 賢一 |
登録日 | 2008-04-25 |
登録番号 | 特許第4114820号(P4114820) |
発明の名称 | 洗浄剤組成物 |
代理人 | 加藤 由加里 |
代理人 | 松井 光夫 |
代理人 | 大家 邦久 |
代理人 | 村上 博司 |
代理人 | 林 篤史 |