• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G01L
管理番号 1325641
審判番号 不服2016-7385  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-20 
確定日 2017-03-22 
事件の表示 特願2014-560291「微小機械測定素子」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月12日国際公開、WO2013/131711、平成27年 4月23日国内公表、特表2015-512046、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)2月8日(パリ条約による優先権主張2012年(平成24年)3月9日(以下、「優先日」という。)、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする国際出願であって、平成27年8月24日付けの拒絶理由の通知に対し同年12月1日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年2月1日付けで拒絶査定(同年同月3日謄本送達)(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対して、同年5月20日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出された。。
その後、当審において平成28年10月14日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、平成29年1月17日付けで意見書及び手続補正書(同手続補正書でした補正を、以下、「本件補正」という。)が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれを「本願発明1」等という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定された、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
下面(211)と上面(212)とを有するメンブレン(21)を備えた検知素子(2)と、
前記検知素子(2)に直接接続されたキャップ(3)と、
前記検知素子(2)の電気的接続のための少なくとも1つのコンタクト面(9)と、
を備えた微小機械測定素子(1)であって、
前記検知素子(2)および前記キャップ(3)は、第1の小室(4)を形成し、
前記第1の小室(4)は、第1の開口部(5)を備え、
前記第1の開口部(5)は、前記キャップ(3)に形成され、
前記検知素子(2)は、前記キャップ(3)に向いていない面が直接担体(6)と接続されており、
前記検知素子(2)および前記担体(6)によって、第2の小室(7)が形成されており、
前記第2の小室(7)は、第2の開口部(8)を備え、
前記第2の開口部(8)は、前記検知素子(2)において、前記第2の開口部(8)が当該検知素子(2)を貫通し、他の通路を介さず直接的に外部と連通しており、
前記少なくとも1つのコンタクト面(9)は、前記検知素子(2)の前記キャップ(3)に向いた面で、前記検知素子(2)上に配設されており、
前記少なくとも1つのコンタクト面(9)は、少なくとも部分的に前記キャップ(3)の外側に配設されている、
ことを特徴とする、微小機械測定素子。
【請求項2】
前記メンブレン(21)の前記上面(212)は、前記第1の開口部(5)によって第1の媒体が到達可能となっており、
前記メンブレン(21)の前記下面(211)は、前記第2の開口部(8)によって第2の媒体が到達可能となっている、
ことを特徴とする、請求項1に記載の微小機械測定素子。
【請求項3】
前記微小機械測定素子(1)は、複数の外面を備え、
前記第1の開口部(5)および前記第2の開口部(8)は、同じ外面に配設されている、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の微小機械測定素子。
【請求項4】
前記微小機械測定素子(1)は、相対圧センサおよび/または差圧センサとして形成されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の微小機械測定素子。
【請求項5】
前記微小機械測定素子(1)は、体積流量センサおよび/または流量センサとして形成されていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の微小機械測定素子。
【請求項6】
前記検知素子(2)は、圧力測定および/または流量測定のための圧電抵抗性測定ブリッジを形成する、抵抗パターン(22)と導電部(23)とを備える、ことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の微小機械測定素子。
【請求項7】
前記測定ブリッジは、機能層(複数)によって形成されていることを特徴とする、請求項6に記載の微小機械測定素子。
【請求項8】
前記担体(6)および/または前記キャップ(3)は、ガラスを備えるか、またはガラスから成ることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の微小機械測定素子。
【請求項9】
前記担体(6)および/または前記キャップ(3)は、シリコンを備えるか、またはシリコンから成ることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の微小機械測定素子。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、(1)この出願の請求項1?4、6?8、10?13に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特表平1-503326号公報(以下、「引用例1」という。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、(2)この出願の請求項1?13に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用例1に記載された発明、並びに、特開平7-103840号公報(以下、「引用例2」という。)、特開昭64-27275号公報(以下、「引用例3」という。)、特開平1-92634号公報(以下、「引用例4」という。)、特開2005-91166号公報(以下、「引用例5」という。)、及び特開平8-247873号公報(以下、「引用例6」という。)に記載された周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

2 原査定の理由についての判断
(1)引用例1
ア 記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には、次の(a)ないし(d)の記載がある(下線は当審で付与した。)。

(a)
「第1図および第2図の、10で全体的に示されている圧力感知セルは、11で部分的に示されているハウジング構成部分に取り付けられて、第1の入力開口12および第2の入力開口13を持っており、それらの各々は、圧力P1およびP2のそれぞれ別々の流体を通過させる。圧力P1とP2の差が感知される。
感知セル10は、ガラスまたはシリコンのような剛体材料から構成されているベース15を含んでおり、ベース15は、開口すなわち通路12および13のそれぞれと整列して貫通している通路16および19を、それぞれ持っている。
感知セル10はさらに、図示するように、リム21を持つダイヤフラム構成部分20を含んでおり、より薄い中央偏向ダイヤフラム構成部分22が、凹部またはチャンバ(室)23を形成するように、エッチングやその他の方法によって製作される。リム21は、他の部分よりもより大きい側面幅である側面21Aを持っており、通路24が、このリムを通ってダイヤフラムの表面25に通じている。
カバー構成部分26は、その中に小さい凹部27を持つようにエッチングされており、偏向ダイヤフラム構成部材22の領域内の表面25に重なっており、チャンバすなわち室を形成している。第3図の表面25は、図から明らかに分かるように、その上に配置した圧電抵抗素子30A-30Dを持っており、歪ゲージブリッヂを形成している。
31A-31Dで示されている導電体は、表面25(第3図参照)上に配置されて、表面25の片側に配置されている結合用または接触用のパッド32A-32Dに接続されている。これらのパッドはリム21の側面21Aの部分と重なっている。空洞またはチャンバ23は、例示の目的のために、第3図には点線で示している。
カバー構成部分26は、圧電抵抗歪ゲージ素子30A-30Dの周囲のラインに沿って、表面25に結合(フリットシールによって行なうことが好ましい)されている周辺表面28Aを持つリム部分28を持っている。表面28Aの結合は、室27を外部から密封シールしており、表面25にリム表面28Aを密封し、接続すなわち結合パッド32A-32Dに近接したリム21の側面21A上で、リード31A-31Dと交さした部分を含んでいる。
抵抗体30A-30D、リード31A-31Dおよび結合パッド32A-32Dは、例えば、ダイヤフラム構成部材22およびリム21の上層に、それらを拡散または沈着することによって、または、望むならば、真空蒸着やスパッタリングなどによって、既知の方法で形成することができる。パッド32A-32Dは、34A-34D(第1図)で示されている外部結合配線を溶接できるように、高くもり上っている。
このように、取付け層15を使用することによって、圧力感知セル10は、それぞれの室23および27に導く通路16および19によって示されている共通面(coplanar)の圧力入口(ポート)を持っている。表面35は、センサを取り付けるのに便利な平面になっている。流体媒体が室23および27内に存在するが、それは、金属結合または接触パッド32A-32D、およびリード34A-34Dとはそれぞれ分離、絶縁されている。」(第3頁左下欄第8行?第4頁左上欄第20行)

(b)


(c)


(d)


・上記記載(a)より、
(ア)「圧力感知セル10は、第1の入力開口12および第2の入力開口13を持ち、それらの各々は、圧力P1およびP2のそれぞれ別々の流体を通過させられ、圧力P1とP2の差が感知される」との技術的事項が読み取れる。

・上記記載(a)より、
(イ)「感知セル10は、ベース15を含み、ベース15は、開口すなわち通路12および13のそれぞれと整列して貫通している通路16および19を持っている」との技術的事項が読み取れる。

・上記記載(a)より、
(ウ)「感知セル10は、リム21を持つダイヤフラム構成部分20を含み、より薄い中央偏向ダイヤフラム構成部分22が、凹部またはチャンバ(室)23を形成し、通路24が、リム21を通ってダイヤフラムの表面25に通じている」との技術的事項が読み取れる。

・上記記載(c)より、
(エ)「より薄い中央偏向ダイヤフラム構成部分22は、下面と上面とを有する」
(オ)「ダイヤフラム構成部分20は、カバー構成部分26に向いていない面が直接ベース15と接続されている」
との技術的事項が見て取れる。

・上記記載(c)より、
(カ)「圧力感知セル10は、カバー構成部分26を含む」、
(キ)「カバー構成部分26は、ダイヤフラム構成部分20に直接接続されている」
との技術的事項が見て取れる。

・上記記載(a)より、
(ク)「カバー構成部分26は、その中に小さい凹部27を持ち、偏向ダイヤフラム構成部材22の領域内の表面25に重なっており、チャンバすなわち室を形成している」との技術的事項が読み取れる。

・上記記載(b)ないし(d)より、
(ケ)「圧力感知セル10は、導電体31A-31Dが接続される結合パッド32A-32Dを含む」、
(コ)「結合パッド32A-32Dは、ダイヤフラム構成部分20のカバー構成部分26に向いた面で、ダイヤフラム構成部分20上に配設されている」、
(サ)「結合パッド32A-32Dは、カバー構成部分26の外側に配置されている」
との技術的事項が見て取れる。

・上記記載(a)より、
(シ)「圧力感知セル10は、それぞれの室23および27に導く通路16および19によって示されている共通面の圧力入口(ポート)を持っている」との技術的事項が読み取れる。

イ 引用発明
以上の技術的事項(ア)ないし(シ)を総合勘案すると、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。

「第1の入力開口12および第2の入力開口13を持ち、それらの各々は、圧力P1およびP2のそれぞれ別々の流体を通過させられ、圧力P1とP2の差が感知され、
ベース15を含み、ベース15は、開口すなわち通路12および13のそれぞれと整列して貫通している通路16および19を持ち、
リム21を持つダイヤフラム構成部分20を含み、より薄い中央偏向ダイヤフラム構成部分22が、凹部またはチャンバ(室)23を形成し、通路24が、リム21を通ってダイヤフラムの表面25に通じていて、
より薄い中央偏向ダイヤフラム構成部分22は、下面と上面とを有し、
ダイヤフラム構成部分20は、カバー構成部分26に向いていない面が直接ベース15と接続され、
カバー構成部分26を含み、カバー構成部分26は、その中に小さい凹部27を持ち、偏向ダイヤフラム構成部材22の領域内の表面25に重なっており、チャンバすなわち室を形成し、
カバー構成部分26は、ダイヤフラム構成部分20に直接接続され、
導電体31A-31Dが接続される結合パッド32A-32Dを含み、
結合パッド32A-32Dは、ダイヤフラム構成部分20のカバー構成部分26に向いた面で、ダイヤフラム構成部分20上に配設され、
結合パッド32A-32Dは、カバー構成部分26の外側に配置され、
それぞれの室23および27に導く通路16および19によって示されている共通面の圧力入口(ポート)を持っている、
圧力感知セル」(以下、「引用発明」という。)

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された引用例2には、図面とともに、次の記載がある。

「【0020】21は、板状のシリコン基板である。22,23は、シリコン基板21を挟持する第1,第2ガラス基板である。この場合は、シリコン基板21と第1,第2ガラス基板22,23とは、陽極接合される。
【0021】24,25は、シリコン基板21の両面に対向して、それぞれ設けられ、シリコン基板21に測定ダイアフラム26を構成する第1,第2測定室である。この場合は、第1,第2測定室24,25は、間隔が極めて狭い隙間からなり、過大圧が印加された場合には、測定ダイアフラム26が、第1或いは,第2測定室24,25の壁に直接接して、測定ダイアフラム26が保護される、過大圧保護機構をセンサ部分自身が有する様に構成されている。
【0022】また、この場合は、図4に示す如く、測定ダイアフラム26の表面には、第1,第2ガラス基板22,23に陽極接合されないように、窒化シリコン膜261が1000オングストローム程度の厚さに設けられている。
【0023】27は、図2に示す如く、第1測定室24と外部とを連通する第1連通孔を構成し、シリコン基板21に形成され、複数の網の目状エッチング溝により構成された第1フィルター部である。複数の網の目状エッチング溝は、図4に示す如く、測定ダイアフラム26の中央部より放射状に設けられることが望ましい。図2においては、複数の網の目状エッチング溝は、碁盤の目状に示されているが、網の目状エッチング溝の分布状態図を分かり易くするために、簡略に示したためである。」

(3)引用例3
原査定の拒絶の理由に引用された引用例3には、図面とともに、次の記載がある。

「具体的に例えば、高圧流体の流速或いは流量を半導体圧力センサを用いて測定する場合の様子を第6図により説明する。高圧流体22が流れる配管21内に図示のように絞り部23を設けることにより、流速の変化による圧力の変化を生じさせ、上流側の圧力P1と下流側の圧力P2を圧力センサ24に導く。圧力センサ24のダイヤフラム25の一方の面には上流側の圧力P1が伝達され、他方の面には下流側の圧力P2が伝達されるようになっている。即ちこの圧力センサ24は差圧計測を行っているのであって、上流側の圧力P1と下流側の圧力P2の差ΔP=P1-P2に感応して出力を出す。この差圧ΔPが流速に依存することから、これを測定することにより流体22の流速或いは流量を求めることができる。」(第2頁右上欄第7行?左下欄第1行)

(4)引用例4
原査定の拒絶の理由に引用された引用例4には、図面とともに、次の記載がある。

「また、センサチップ25の上面には起歪部28を覆うようにセンサチップ25と対向する面に凹部32を持ち、かつ中心部に圧力P2を導入する導圧孔33を持つガラス基板34が接合されている。」(第3頁左上欄第11行?第15行)

(5)引用例5
原査定の拒絶の理由に引用された引用例5には、図面とともに、次の記載がある。

「【0021】
この半導体圧力センサは、圧力センサチップ200と、第1の台座1と、第2の台座2と、を主要構成要素としている。
【0022】
このうち、圧力センサチップ200は、背景技術のものと実質的に同一であるので、同一部材には同一の番号を付して説明を省略する。
【0023】
第1の台座1は、例えば耐熱ガラスにて形成しており、その大きさは圧力センサチップ200と略同等である。また、このものは、圧力センサチップ200のダイヤフラム210を形成した面に固着している。
【0024】
また、第1の台座1には圧力導入孔11を設けている。この圧力導入孔11は、被測定圧力をダイヤフラム210に導入するためのものであり、第1の台座1の他方の面(図1の上側)からダイヤフラム210に向かって台座の厚み方向に沿うように形成している。
(略)
【0035】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る半導体圧力センサを図2に基づいて説明する。図2は、その中央付近を切断したときの断面斜視図である。
【0036】
この実施形態の半導体圧力センサは、圧力導入孔12が第1の実施形態と異なるものであり、他の構成要素は第1の実施形態のものと実質的に同一であるので、同一部材には同一の番号を付して説明を省略する。
【0037】
本実施形態の圧力導入孔12は、その一端の開口部を側面(図2の左右方向の面)に形成したことが第1の実施形態と異なっている。この圧力導入孔12は、ダイヤフラム210から第1の台座1の厚み方向に沿って形成した第1導入孔12aと、その端部から第1の台座1の平面方向に沿って形成した第2導入孔12bとの2つの導入孔にて形成しており、その断面視における形状はL字状型としている。
【0038】
以上説明した本実施形態の半導体圧力センサによれば、圧力導入孔12をL字状に形成してダイヤフラム210の薄肉部212と外部との間に折曲部を設けているので、薄肉部212への異物の直接の進入を抑制することができ、薄肉部212が異物と接触することによる圧力検知特性の劣化や薄肉部212の破損を低減することができる。
【0039】
なお、本実施形態においても第1の実施形態と同様に圧力導入孔12を第1の台座1及び第2の台座2のどちらに設けてもよいし、両方に設けてもよい。」

(6)引用例6
原査定の拒絶の理由に引用された引用例6には、図面とともに、次の記載がある。

「【0016】
【実施例】以下、本発明の第1の実施例について図1および図2を参照して説明する。先端部を示す図1において、人体の患部に挿入可能な程度の管径(例えば1ミリ程度)を有する細管としてのカテーテル11は、先端部に検出用窓部11aが形成されている。このカテーテル11の検出用窓部11aに対応する位置の内部には、シリコン台座12に固定されたシリコン製のセンサチップ13が接着固定されている。この場合、センサチップ13は、シリコン台座12に後述する陽極接合(Anodic Bonding)により一体となるように接着固定されており、カテーテル11内に挿入された状態でその先端部から接着剤14を充填することにより実装されている。
【0017】センサチップ13は、圧力を受けるダイヤフラム13aが形成されており、そのダイヤフラム13a部分には受けた圧力で歪むと抵抗値が変化するピエゾ抵抗特性を有する拡散抵抗が形成されており、それらをブリッジ接続した状態で電極端子が導出されている。上述のダイヤフラム13aは、センサチップ13を形成しているシリコンを背面側から異方性エッチング処理などによりエッチング処理を行って薄膜状に形成したもので、ダイヤフラム13aの背面部には空間部Aが形成された状態となる。
【0018】また、シリコン台座12は、図2にも示すように、シリコン製のブロック状のもので、センサチップ13に対応する大きさに形成されており、センサチップ13のダイヤフラム13a背面部の空間部Aに対応する部分からカテーテル11の基端部側に沿って溝部12aが形成されている。そして、センサチップ13が陽極接合により接着されると、シリコン台座12の溝部12aにより背圧孔15が形成されるようになる。センサチップ13の電極端子には、カテーテル11内部に挿通されたフレキシブルプリント基板16に形成された信号を取り出すための多数のリード線がそれぞれ電気的に接続されており、カテーテル11の基端部から検出信号を得ることができるようになっている。」

(7)対比・判断
ア 本願発明1について
(ア)本願発明1と引用発明とを対比する。
a 一般に、ダイヤフラムを有する圧力センサは、膜状の薄いダイヤフラムの変形を検知して圧力を感知するし、また、引用発明の「より薄い中央偏向ダイヤフラム構成部分22は、下面と上面とを有する」から、引用発明における「下面と上面とを有」する「より薄い中央偏向ダイヤフラム構成部分22」を備えた「ダイヤフラム構成部分20」は、本願発明1における「下面(211)と上面(212)とを有するメンブレン(21)を備えた検知素子(2)」に相当する。

b 引用発明において、「カバー構成部分26は、ダイヤフラム構成部分20に直接接続され」、「偏向ダイヤフラム構成部材22の領域内の表面25に重な」り、かぶさっているといえるから、引用発明における「ダイヤフラム構成部分20に直接接続され」た「カバー構成部分26」は、本願発明1における「前記検知素子(2)に直接接続されたキャップ(3)」に相当する。

c 引用発明において、「ダイヤフラム構成部分20上に配設され」た「導電体31A-31Dが接続される結合パッド32A-32D」は、「ダイヤフラム構成部分20」の電気的接続のためのものであるといえるから、引用発明における「ダイヤフラム構成部分20」の電気的接続のための「結合パッド32A-32D」は、本願発明1における「前記検知素子(2)の電気的接続のための少なくとも1つのコンタクト面(9)」に相当する。

d 引用発明における「カバー構成部分26は、その中に小さい凹部27を持ち、偏向ダイヤフラム構成部材22の領域内の表面25に重なっており、チャンバすなわち室を形成」することは、本願発明1における「前記検知素子(2)および前記キャップ(3)は、第1の小室(4)を形成」することに相当する。

e 引用発明において、「表面25」は「チャンバすなわち室」内にあり(上記(1)ア(c)参照)、「通路24が、リム21を通ってダイヤフラムの表面25に通じてい」るから、「チャンバすなわち室」は「通路24」という開口部を備えているといえる。そうすると、引用発明において、「チャンバすなわち室」は「通路24」を備えることは、本願発明1における「前記第1の小室(4)は、第1の開口部(5)を備え」ることに相当する。

f 引用発明における「ベース15」は、「ダイヤフラム構成部分20」の下にあり、「ダイヤフラム構成部分20」を担いでいるといえる(上記(1)ア(c)参照)から、担体であるといえる。そうすると、引用発明における「ダイヤフラム構成部分20は、カバー構成部分26に向いていない面が直接ベース15と接続され」ていることは、本願発明1における「前記検知素子(2)は、前記キャップ(3)に向いていない面が直接担体(6)と接続されて」いることに相当する。

g 引用発明において、「ダイヤフラム構成部分20」の「より薄い中央偏向ダイヤフラム構成部分22が、凹部またはチャンバ(室)23を形成し」、また、「ダイヤフラム構成部分20は、カバー構成部分26に向いていない面が直接ベース15と接続され」ているから、「ダイヤフラム構成部分20」と「ベース15」によって「チャンバ(室)23」が「形成」されているといえる(上記(1)ア(c)参照)。そうすると、引用発明において、「ダイヤフラム構成部分20」と「ベース15」によって「チャンバ(室)23」が「形成」されていることは、本願発明1における「前記検知素子(2)および前記担体(6)によって、第2の小室(7)が形成されて」いることに相当する。

h 引用発明において、「通路」19は、流体を「室23」に「導く」から、「室23」は「通路」19という開口部を備えているといえる。そうすると、引用発明において、「室23」は「通路」19を備えることは、本願発明1における「前記第2の小室(7)は、第2の開口部(8)を備え」ることに相当する。

i 引用発明における「結合パッド32A-32Dは、ダイヤフラム構成部分20のカバー構成部分26に向いた面で、ダイヤフラム構成部分20上に配設され」、「結合パッド32A-32Dは、カバー構成部分26の外側に配置され」ることは、本願発明1における「前記少なくとも1つのコンタクト面(9)は、前記検知素子(2)の前記キャップ(3)に向いた面で、前記検知素子(2)上に配設されており」、「前記少なくとも1つのコンタクト面(9)は、少なくとも部分的に前記キャップ(3)の外側に配設されている」ことに相当する。

j 引用発明の「圧力感知セル」においては、「圧力P1とP2の差が感知され」るから、差圧センサである。そして、本願明細書段落【0002】に「少なくとも企業内部では、たとえば圧力センサとして、差圧センサ,相対圧センサ,絶対圧センサ等の微小機械測定素子(mikromechanische Messelemente)が開発されていることが知られている。」と記載されており、本願発明1の「微小機械測定素子」には「差圧センサ」が含まれると認められる。そうすると、引用発明における「圧力感知セル」は、下記相違点1及び2を除いて、本願発明1における「微小機械測定素子」に相当する。

(イ)以上の関係を整理すると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「下面(211)と上面(212)とを有するメンブレン(21)を備えた検知素子(2)と、
前記検知素子(2)に直接接続されたキャップ(3)と、
前記検知素子(2)の電気的接続のための少なくとも1つのコンタクト面(9)と、
を備えた微小機械測定素子(1)であって、
前記検知素子(2)および前記キャップ(3)は、第1の小室(4)を形成し、
前記第1の小室(4)は、第1の開口部(5)を備え、
前記検知素子(2)は、前記キャップ(3)に向いていない面が直接担体(6)と接続されており、
前記検知素子(2)および前記担体(6)によって、第2の小室(7)が形成されており、
前記第2の小室(7)は、第2の開口部(8)を備え、
前記少なくとも1つのコンタクト面(9)は、前記検知素子(2)の前記キャップ(3)に向いた面で、前記検知素子(2)上に配設されており、
前記少なくとも1つのコンタクト面(9)は、少なくとも部分的に前記キャップ(3)の外側に配設されている、
ことを特徴とする、微小機械測定素子。」

(相違点1)
本願発明1においては、「前記第1の開口部(5)は、前記キャップ(3)に形成され」るのに対し、引用発明においては、「通路24」が「ダイヤフラム構成部分20」の「リム21」を通っていて、「カバー構成部分26」に形成されていない点。

(相違点2)
本願発明1においては、「前記第2の開口部(8)は、前記検知素子(2)において、前記第2の開口部(8)が当該検知素子(2)を貫通し、他の通路を介さず直接的に外部と連通して」いるのに対し、引用発明においては、「通路」19が「ベース15」を貫通し、「ダイヤフラム構成部分20」を貫通せず、直接的に外部と連通していない点。

(ウ)相違点の判断
上記相違点1及び2は共に開口部に関するから、併せて判断する。
引用発明においては、「それぞれの室23および27に導く通路16および19によって示されている共通面の圧力入口(ポート)を持っている」ことが前提であるから、引用発明における「通路16」と連通する「通路24」及び「通路」19が形成される位置を変更しようとする動機付けを見い出すことはできず、また、引用例2ないし6のいずれにも、第1の開口部をキャップに形成し、第2の開口部が検知素子を貫通し、他の通路を介さず直接的に外部と連通するようにすることは記載されていないから、本願発明1の上記相違点1及び2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
なお、前置報告書で新たに引用された特開平7-167724号公報に記載された発明を考慮したとしても、本願発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)したがって、本願発明1は、相違点1及び2に係る構成を有するから、引用発明ではなく、また、本願発明1は、引用発明及び引用例2ないし6に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本願発明2ないし9について
請求項2ないし9は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本願発明2ないし9は、上記アで本願発明1について述べたのと同様の理由により、引用発明ではなく、また、引用発明及び引用例2ないし6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(8)小括
以上のとおりであるから、原査定の理由によって本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は、概略、以下のとおりである。

「本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



請求項1において、「検知素子(2)の電気的接続のための少なくとも1つのコンタクト面(9)」が微小機械測定素子のどこに設けられているのかが不明であり、設けられている位置によっては測定媒体に暴露され、「コストがかかる電気的コンタクトの保護装置を無くす」(段落【0006】)という課題を解決することができないから、請求項1に発明の詳細な説明に記載された課題を解決する手段が反映されているとはいえず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっている。
よって、請求項1、及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3、5ないし10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」

2 当審拒絶理由についての判断
本件補正により、請求項1に「前記少なくとも1つのコンタクト面(9)は、前記検知素子(2)の前記キャップ(3)に向いた面で、前記検知素子(2)上に配設されており、前記少なくとも1つのコンタクト面(9)は、少なくとも部分的に前記キャップ(3)の外側に配設されている」という記載が追加されたことにより、本件補正後の請求項1に上記課題を解決するための手段が反映されたため、請求項1、及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

3 小括
以上のとおりであるから、当審拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願については、原査定の拒絶理由及び当審拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-07 
出願番号 特願2014-560291(P2014-560291)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01L)
P 1 8・ 113- WY (G01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 公文代 康祐  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 酒井 伸芳
関根 洋之
発明の名称 微小機械測定素子  
代理人 長門 侃二  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ