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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特174条1項  H01L
管理番号 1325854
異議申立番号 異議2015-700257  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-03 
確定日 2017-02-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5727977号発明「光半導体装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5727977号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-18〕について訂正することを認める。 特許第5727977号の請求項10ないし18に係る特許を維持する。 特許第5727977号の請求項1ないし9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5727977号(以下「本件特許」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成19年11月28日に特許出願された特願2007-307292号(以下「原出願」という。)の一部を分割して平成24年8月29日に、特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願として出願(優先権主張平成19年3月13日)したものであって、平成27年4月10日付けでその特許権の設定登録がなされ、平成27年6月3日に特許掲載公報が発行され、その後、平成27年12月3日に、その特許に対し、特許異議申立人小松一枝により請求項1?10に対して特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年 2月 3日:取消理由通知書(同年2月5日発送)
平成28年 3月29日:訂正請求書、意見書(特許権者)
平成28年 4月26日:訂正拒絶理由通知書(同年5月6日発送)
平成28年 6月 6日:手続補正書(平成28年3月29日付け訂正請 求書の補正)、意見書(特許権者)
平成28年 7月19日:意見書(特許異議申立人)
平成28年 8月26日:取消理由通知書
(決定の予告 同年8月31日発送)
平成28年10月18日:訂正請求書、意見書(特許権者)

合議体は、平成28年8月26日付け取消理由通知書並びに平成28年10月18日付け訂正請求書、これに添付された訂正された特許請求の範囲及び平成28年10月18日付け意見書の副本を特許異議申立人に送付し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人から意見書の提出はなかった。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成28年10月18日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は、特許請求の範囲を訂正後の請求項1?18について訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項からなる。なお、上記訂正請求より先にした平成28年3月29日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1?9を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項10に「少なくとも前記凹部が光反射用熱硬化性樹脂組成物を用いたトランスファー成型により形成されたことを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の光半導体装置。」とあるうち、
ア 請求項1を引用するものについて独立形式に改め、
イ 「吸油性を有する化合物」を「比表面積が100?1000m^(2)/gであって吸油量が50m1/100g以上の吸油性を有する化合物」に訂正し、
ウ 「吸油性を有するシリカ」を「比表面積が100?1000m^(2)/gであって吸油量が50ml/100g以上の吸油性を有するシリカ」に訂正し、
エ 「前記無機充填剤および前記白色顔料の少なくとも一方の成分として」を「前記無機充填剤として」に訂正し、
オ 「少なくとも前記凹部が光反射用熱硬化性樹脂組成物を用いたトランスファー成型により形成された…光半導体装置。」という、製造方法により特定された物の発明を、「少なくとも前記凹部を光反射用熱硬化性樹脂組成物…を用いたトランスファー成型により形成する工程を含む、光半導体装置の製造方法。」という方法の発明に訂正し、
カ 上記オのトランスファー成型に用いる「光反射用熱硬化性樹脂組成物」を「光反射用熱硬化性樹脂組成物からなり加圧成形により作製されるタブレット」にする訂正をして、
「光半導体素子搭載領域となる凹部が1つ以上形成され、少なくとも前記凹部の内周側面が光反射用熱硬化性樹脂組成物からなる光半導体素子搭載用基板と、
前記光半導体素子搭載用基板の凹部底面に搭載された光半導体素子と、
前記光半導体素子を覆うように前記凹部内に形成された蛍光体含有透明封止樹脂層と、
を少なくとも備える光半導体装置の製造方法であって、
前記光反射用熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤、および白色顔料を含み、前記無機充填剤として、多孔質充填剤または比表面積が100?1000m^(2)/gであって吸油量が50ml/100g以上の吸油性を有する化合物を含み、前記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物が多孔質構造または比表面積が100?1000m^(2)/gであって吸油量が50ml/100g以上の吸油性を有するシリカを含むことを特徴とし、
少なくとも前記凹部を光反射用熱硬化性樹脂組成物からなり加圧成型により作製されるタブレットを用いたトランスファー成型により形成する工程を含む、光半導体装置の製造方法。」
に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項10に「少なくとも前記凹部が光反射用熱硬化性樹脂組成物を用いたトランスファー成型により形成されたことを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の光半導体装置。」とあるうち、請求項2を引用するものについて引用関係を解消して、訂正事項2により訂正された請求項10に従属する新たな請求項11とする。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10に「少なくとも前記凹部が光反射用熱硬化性樹脂組成物を用いたトランスファー成型により形成されたことを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の光半導体装置。」とあるうち、請求項3を引用するものについて引用関係を解消して、訂正事項2、3により訂正された請求項10又は11に従属する新たな請求項12とする。

(5)訂正事項5
特許求の範囲の請求項10に「少なくとも前記凹部が光反射用熱硬化性樹脂組成物を用いたトランスファー成型により形成されたことを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の光半導体装置。」とあるうち、請求項4を引用するものについて引用関係を解消して、訂正事項2?4により訂正された請求項10?12のいずれか1項に従属する新たな請求項13とする。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10に「少なくとも前記凹部が光反射用熱硬化性樹脂組成物を用いたトランスファー成型により形成されたことを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の光半導体装置。」とあるうち、請求項5を引用するものについて引用関係を解消して、訂正事項2?5により訂正された請求項10?13のいずれか1項に従属する新たな請求項14とする。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に「少なくとも前記凹部が光反射用熱硬化性樹脂組成物を用いたトランスファー成型により形成されたことを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の光半導体装置。」とあるうち、請求項6を引用するものについて引用関係を解消して、訂正事項2?6により訂正された請求項10?14のいずれか1項に従属する新たな請求項15とする。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10に「少なくとも前記凹部が光反射用熱硬化性樹脂組成物を用いたトランスファー成型により形成されたことを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の光半導体装置。」とあるうち、請求項7を引用するものについて引用関係を解消して、訂正事項2?7により訂正された請求項10?15のいずれか1項に従属する新たな請求項16とする。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に「少なくとも前記凹部が光反射用熱硬化性樹脂組成物を用いたトランスファー成型により形成されたことを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の光半導体装置。」とあるうち、請求項8を引用するものについて引用関係を解消して、訂正事項2?8により訂正された請求項10?16のいずれか1項に従属する新たな請求項17とする。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10に「少なくとも前記凹部が光反射用熱硬化性樹脂組成物を用いたトランスファー成型により形成されたことを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の光半導体装置。」とあるうち、請求項9を引用するものについて引用関係を解消して、訂正事項2?9により訂正された請求項10?17のいずれか1項に従属する新たな請求項18とする。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
特許請求の範囲の請求項1?9を削除する訂正の目的は、「特許請求の範囲の減縮」である。そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2のアについて
請求項1を引用するものについて独立形式に改める訂正の目的は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」である。そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項2のイについて
「吸油性を有する化合物」を「比表面積が100?1000m^(2)/gであって吸油量が50m1/100g以上の吸油性を有する化合物」にする訂正の目的は、「特許請求の範囲の減縮」である。そして、発明の詳細な説明には、
「【0030】…上記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の比表面積は、100?1000m^(2)/gであることが好ましく…」(当審注:下線は当審が付加した。以下同様である。)
「【0027】…上記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物は、その表面が物理的または化学的に親水化処理または疎水化処理されていてもよい。好ましくは表面が疎水化処理されたものであり、吸油量(JIS K5101に準ずる規定量)が50ml/100g以上となるように化学的に疎水化処理されたものであることがより好ましい。…」
との記載があるから、新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項2のウについて
「吸油性を有するシリカ」を「比表面積が100?1000m^(2)/gであって吸油量が50ml/100g以上の吸油性を有するシリカ」にする訂正の目的は、「特許請求の範囲の減縮」である。そして、上記イと同様の理由により、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 訂正事項2のエについて
「前記無機充填剤および前記白色顔料の少なくとも一方の成分として」を「前記無機充填剤として」にする訂正は、択一的記載の要素である「前記白材料」を削除するものであるから、前記訂正の目的は、「特許請求の範囲の減縮」である。そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

オ 訂正事項2のオについて
(ア) 訂正の目的
「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である」(最高裁第二小法廷判決平成27年6月5日(平成24年(受)第1204号))と判示されている。
そこで、上記判示事項を踏まえて検討すると、訂正前の請求項10には、「トランスファー成型により形成された」との「凹部」の形成方法(製造方法)が記載されているから、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがあるものである。
そして、訂正事項2のオは、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある訂正前の請求項10を、「少なくとも前記凹部を光反射用熱硬化性樹脂組成物…を用いたトランスファー成型により形成する工程を含む、光半導体装置の製造方法」に訂正するものであって、訂正後の請求項10は「発明が明確であること」という要件を満たすものである。
したがって、当該訂正は、特許法第120条の5第2項第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ) 新規事項の有無
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0043】、【0044】には、訂正後の請求項10に対応する、「本発明の光半導体素子搭載用基板は、本発明の熱硬化性光反射用樹脂組成物を用いてなるものであり、例えば、光半導体素子搭載領域となる凹部が1つ以上形成されて…」いること、「本発明の光半導体素子搭載用基板の製造方法は、…、例えば、本発明の熱硬化性光反射用樹脂組成物をトランスファー成型によって製造することが好ましい」ことが記載されているから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
したがって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

(ウ) 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
a 発明が解決しようとする課題とその解決手段について
特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項は、第120条の5第2項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものである。
また、特許法第36条第4項第1号の規定により委任された特許法施行規則の第24条の2には、「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されているから、訂正前の請求項10に係る発明と訂正後の請求項10に係る発明において、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が、実質的に変更されたものか否かにより、訂正後の請求項10に係る発明の技術的意義が、訂正前の請求項10に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更されたものであるか否かについて検討する。
本件特許の明細書の段落【0004】の記載によれば、「熱硬化性光反射用樹脂組成物を成型する場合は、例えば、当該樹脂組成物を、臼型と杵型の成型金型を用いて、円筒状のタブレットに加圧成型した後、当該タブレットをトランスファー成型により所望の形状に成型する」ところ、本件特許の明細書に記載した発明は、「従来の熱硬化性光反射用樹脂組成物」が有する「タブレット成型時に用いる臼型や杵型の表面に付着し易く、それによってタブレットの破壊が生じ易い」という問題を解決することを目的とするものであって、「タブレット成型時に成形金型の杵型や臼型の表面に付着することがなく、優れた機械的強度を有するタブレット成型体を得ることが可能な熱硬化性光反射用樹脂組成物」を用いた「光半導体装置を提供すること」を課題とするものである。
そして、本件特許の明細書の段落【0005】?【0007】の記載によれば、上記課題の解決手段は、「タブレットに加圧成型」する「熱硬化性光反射用樹脂組成物」として、「(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化触媒、(D)無機充填剤、(E)白色顔料、および(F)カップリング剤を含む樹脂組成物において、上記(D)無機充填剤および上記(E)白色顔料の少なくとも一方の成分として、多孔質充填剤または吸油性を有する化合物を含む」ことである。
してみると、訂正前の請求項10に係る発明と訂正後の請求項10に係る発明は、何れも、「多孔質充填剤」または「吸油性を有する化合物」を発明特定事項として備えており、熱硬化性光反射用樹脂組成物をタブレットに加圧成型する場合に生じるであろう課題と課題解決手段に、実質的な変更はない。
したがって、訂正後の請求項10に係る発明の技術的意義は、訂正前の請求項10に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではない。

b 訂正による第三者の不測の不利益について
特許請求の範囲は、「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」が記載されたもの(特許法第36条第5項)である。
また、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項は、第120条の5第2項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものであって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、言い換えれば、訂正前の発明の「実施」に該当しないとされた行為が訂正後の発明の「実施」に該当する行為となる場合、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため、そうした事態が生じないことを担保したものである。
以上を踏まえ、訂正前の請求項10に係る発明と訂正後の請求項10に係る発明において、それぞれの発明の「実施」に該当する行為の異同により、訂正後の請求項10に係る発明の「実施」に該当する行為が、訂正前の請求項10に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討する。
ここで、特許法第2条第3項第1号に規定された「物の発明」(訂正前請求項10発明)及び第3号に規定された「物を生産する方法の発明」(訂正後請求項10発明)の実施について比較する。
「物の発明」の実施(第1号)とは、「その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」であり、「物を生産する方法」の実施(第3号)とは、「その方法の使用をする行為」(第2号)のほか、その方法により生産した「物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」である。ここで、「物を生産する方法」の実施における「その方法の使用をする行為」とは、「その方法の使用により生産される物の生産をする行為」と解されることから、「物の発明」の実施における「その物の生産」をする行為に相当する。
すると、「物の発明」の実施においては、物の生産方法を特定するものではないのに対して、「物を生産する方法の発明」の実施においては、物の生産方法を「その方法」に特定している点で相違するが、その実施行為の各態様については、全て対応するものである。
そして、訂正前の請求項10に係る発明は、「光反射用熱硬化性樹脂組成物を用いたトランスファー成型により形成された」という製造方法(以下「特定の製造方法」という。)により「光半導体素子搭載領域となる凹部が1つ以上形成され、少なくとも前記凹部の内周側面が光反射用熱硬化性樹脂組成物からなる光半導体素子搭載用基板」という物が特定された「物の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「光半導体素子搭載領域となる凹部が1つ以上形成され、少なくとも前記凹部の内周側面が光反射用熱硬化性樹脂組成物からなる光半導体素子搭載用基板」に加え、前記特定の製造方法により製造された「光半導体素子搭載領域となる凹部が1つ以上形成され、少なくとも前記凹部の内周側面が光反射用熱硬化性樹脂組成物からなる光半導体素子搭載用基板」と同一の構造・特性を有する物も、特許発明の実施に含むものである。
一方、訂正後の請求項10に係る発明は、上記特定の製造方法により「光半導体装置の製造方法」という方法が特定された「物を生産する方法の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「光半導体素子搭載領域となる凹部が1つ以上形成され、少なくとも前記凹部の内周側面が光反射用熱硬化性樹脂組成物からなる光半導体素子搭載用基板」を、特許発明の実施に含むものである。
したがって、訂正後の請求項10発明の「実施」に該当する行為は、訂正前請求項10発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはないから、訂正前の請求項10に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。

c 小括
訂正後の請求項10に係る発明の技術的意義は、訂正前の請求項10に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではなく、訂正後の請求項10に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項10に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえないから、訂正事項2のオは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(エ)訂正事項2のオのまとめ
以上のとおり、訂正事項2のオは、「明瞭でない記載の釈明」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

カ 訂正事項2のカについて
トランスファー成形に用いる「光反射用熱硬化性樹脂組成物」を「光反射用熱硬化性樹脂組成物からなり加圧成形により作製されるタブレット」にする訂正の目的は、「特許請求の範囲の減縮」である。そして、発明の詳細な説明には、
「【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、タブレット成型時に使用する金型の杵型や臼型の表面に付着することがなく、優れた機械的強度を有するタブレット成型体を得ることが可能な熱硬化性光反射用樹脂組成物、ならびに当該樹脂組成物を用いた光半導体素子搭載用基板とその製造方法および光半導体装置を提供することが可能となる。」
「【0041】
以上のような成分を含有する本発明の熱硬化性光反射用樹脂組成物は、熱硬化前、室温(0?30℃)において加圧成型(タブレット成型)可能であることが望ましく、」
との記載があるから、新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

キ 訂正事項2のまとめ
以上によれば、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明、特許請求の範囲の減縮、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とし、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3?10について
請求項2?9を引用するものについて、それぞれ、引用関係を解消する訂正の目的は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」である。そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、上記(2)イ?カと同様の理由により、明瞭でない記載の釈明、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1?10は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、当該一群の請求項毎に訂正を請求するものである。よって、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求に係る訂正事項1?10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第4項、及び第9項で準用する第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?18]について訂正を認める。

第3 特許異議申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項10?18(以下「本件請求項10」等という。)に係る発明(以下「本件発明10」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項10?18に記載された次の事項によ特定されるとおりのものである。なお、請求項1?9は、本件訂正請求により削除されている。

【請求項10】
光半導体素子搭載領域となる凹部が1つ以上形成され、少なくとも前記凹部の内周側面が光反射用熱硬化性樹脂組成物からなる光半導体素子搭載用基板と、
前記光半導体素子搭載用基板の凹部底面に搭載された光半導体素子と、
前記光半導体素子を覆うように前記凹部内に形成された蛍光体含有透明封止樹脂層と、
を少なくとも備える光半導体装置の製造方法であって、
前記光反射用熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤、および白色顔料を含み、前記無機充填剤として、多孔質充填剤または比表面積が100?1000m^(2)/gであって給油量が50ml/100g以上の吸油性を有する化合物を含み、前記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物が多孔質構造または比表面積が100?1000m^(2)/gであって給油量が50ml/100g以上の吸油性を有するシリカを含むことを特徴とし、
少なくとも前記凹部を光反射用熱硬化性樹脂組成物からなり加圧成型により作製されるタブレットを用いたトランスファー成型により形成する工程を含む、光半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の形状が、真球状、破砕状、円盤状、棒状、および繊維状からなる群の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項10に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の表面が、疎水化処理または親水化処理されていることを特徴とする請求項10又は11に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の見掛け密度が、0.4g/cm^(3)以上であることを特徴とする請求項10?12のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記無機充填剤および前記白色顔料の合計量を基準として、前記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の含有量が、0.1体積%?20体積%の範囲であることを特徴とする請求項10?13のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記無機充填剤が、多孔質構造または吸油性を持たない、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、および炭酸バリウムからなる群の中から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項10?14のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記白色顔料が、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、および無機中空粒子からなる群の中から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項10?15のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記白色顔料の平均粒径が、0.1?50μmの範囲にあることを特徴とする請求項10?16のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項18】
前記無機充填剤と前記白色顔料の合計含有量が、樹脂組成物全体に対して、10体積%?85体積%の範囲であることを特徴とする請求項10?17のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?10に係る特許に対して、平成28年2月3日付けで特許権者に通知した取消理由通知、及び、平成28年8月26日付けで特許権者に通知した取消理由通知(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
(1)理由1
訂正前の請求項1?10に係る発明は、「硬化触媒」及び「カップリング剤」を光反射用熱硬化性樹脂組成物の必須成分としていないから、本件特許についての出願は、適法になされた分割出願ではない。よって、訂正前の請求項1?10に係る発明は、甲第1号証(以下「甲1」という。特開2008-255327号公報)に記載された発明に該当する。また、少なくとも、訂正前の請求項1?10に係る発明は、甲1に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、訂正前の請求項1?10に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、または同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1?10に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)理由2
訂正前の請求項1?10に係る特許は、その特許請求の範囲が、下記ア?エの点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

ア サポート要件(その1)
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「熱硬化性光反射用樹脂組成物」が「(C)硬化触媒」と「(F)カップリング剤」を含む発明が記載されている。
一方、訂正前の請求項1?10には、「熱硬化性光反射用樹脂組成物」が「(C)硬化触媒」、「(F)カップリング剤」を含むことが記載されていない。
してみると、訂正前の請求項1?10に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。

イ サポート要件(その2)
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、タブレット成型時に、熱硬化性光反射用樹脂組成物が成形金型の杵型や臼型の表面に付着しないようにすること、優れた機械的強度を有するタブレット成型体を得ることを課題とする発明が記載されている。
一方、訂正前の請求項1?10に係る発明は、発明を特定する事項として「タブレット」を有しない。また、訂正前の請求項10に係る発明は、「少なくとも前記凹部が光反射用熱硬化性樹脂組成物を用いたトランスファー成型により形成されたこと」を特定事項として有するが、タブレットを用いるものに限られない(例えば、特開2003-3043号公報には、「【0042】…ここで樹脂封止を行うにあたっては、光半導体封止用エポキシ樹脂組成物が固体状である場合には粉末状又はタブレット状のエポキシ樹脂組成物をトランスファー成形等により金型成形することができ、…」と記載されている。)。
してみると、訂正前の請求項1?10に係る発明は、上記課題を認識し得ない構成を一般的に含むものであるから,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものである。

ウ サポート要件(その3)
訂正前の請求項1には、「多孔質充填剤または吸油性を有する化合物を含み、前記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物が多孔質構造または吸油性を有するシリカ」との発明特定事項が記載されているところ、該発明特定事項は、
(ア)吸油性を有しない多孔質構造を有するシリカ、
(イ)多孔質構造を有しないが吸油性を有するシリカ、
(ウ)多孔質構造を有しかつ吸油性を有するシリカ、
を含むものである。
一方、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、少なくとも多孔質構造を有しないが吸油性を有するシリカは記載されていない。
してみると、訂正前の請求項1に係る発明は、多孔質構造を有しないが吸油性を有するシリカを含む点で、発明の詳細な説明に記載された発明でない。訂正前の請求項2?10に係る発明も同様である。

エ サポート要件(その4)
訂正前の請求項1には、白色顔料の成分として、「多孔質構造または吸油性を有するシリカを含む」ことが記載されている。
一方、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、白色顔料として「シリカ」を用いることは記載されていないし、示唆もされていない。
してみると、訂正前の請求項1に係る発明は、白色顔料の成分として、「多孔質構造または吸油性を有するシリカ」を含む点で、発明の詳細な説明に記載された発明でない。訂正前の請求項2?10に係る発明も同様である。
(3)理由3
訂正前の請求項10は、「トランスファー成型により形成された」との記載を含むのであり、物の発明において、「その物の製造方法が記載されている場合」に相当する。そして、「不可能・非実際的事情」があるとの説明もされていない。したがって、訂正前の請求項10の記載は明確でない。
よって、訂正前の請求項10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

3 判断(取消理由通知に記載した取消理由について)
本件訂正請求により、訂正前の請求項1?9は削除されているので、訂正前の請求項1?9についての取消理由は、訂正後の請求項10?18についての取消理由として、以下判断する。
(1)理由1について
ア はじめに、本件特許に係る出願が、適法になされた分割出願であるか否か、検討する。
原出願の願書に最初に添付した明細書には、以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体素子と蛍光体等の波長変換手段とを組み合わせた光半導体装置に用いる熱硬化性光反射用樹脂組成物、ならびに当該樹脂組成物を用いた光半導体素子搭載用基板とその製造方法および光半導体装置に関する。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱硬化性光反射用樹脂組成物を成型する場合は、例えば、当該樹脂組成物を、臼型と杵型の成型金型を用いて、円筒状のタブレットに加圧成型した後、当該タブレットをトランスファー成型により所望の形状に成型する。しかし、従来の熱硬化性光反射用樹脂組成物は、タブレット成型時に用いる臼型や杵型の表面に付着し易く、それによってタブレットの破壊が生じ易いという問題がある。図1は、成型金型を使用して熱硬化性樹脂からなるタブレットを成型する際の金型に対する樹脂組成物の付着を説明する概略図である。図中、参照符号1は臼型、2は上杵型、3は下杵型、4は樹脂組成物(タブレット)、5は杵に付着した樹脂組成物であり、図では樹脂組成物が金型表面に付着し、タブレットが破壊した様子を示している。また、従来の熱硬化性光反射用樹脂組成物から成るタブレットは外力に対する機械的強度が低く、タブレット完成後のひび割れ等が生じ易いという問題がある。
【0005】
上記を鑑みて、本発明は、タブレット成型時に成形金型の杵型や臼型の表面に付着することがなく、優れた機械的強度を有するタブレット成型体を得ることが可能な熱硬化性光反射用樹脂組成物、ならびに当該樹脂組成物を用いた光半導体素子搭載用基板とその製造方法および光半導体装置を提供することを目的とする。」

(ウ)「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、光半導体用熱硬化性光反射用樹脂組成物の無機充填剤として、従来から用いられている無機充填剤の他に、微細孔を多数有する無機充填剤(以下、多孔質充填剤と呼ぶ。)または吸油性を有する化合物を用いることにより、上記目的が達成されることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下(1)?(14)に記載の事項をその特徴とするものである。
【0008】
(1)(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化触媒、(D)無機充填剤、(E)白色顔料、および(F)カップリング剤を含む樹脂組成物において、上記(D)無機充填剤および上記(E)白色顔料の少なくとも一方の成分として、多孔質充填剤または吸油性を有する化合物を含むことを特徴とする熱硬化性光反射用樹脂組成物。
…」

以上によれば、原出願の発明の詳細な説明には、光半導体装置を製造する際、熱硬化性光反射用樹脂組成物をタブレットに加圧成型した後、トランスファー成型により所望の形状に成型するところ、従来は、タブレット成形時に用いる臼型や杵型の表面に熱硬化性光反射用樹脂組成物が付着し易く、タブレットの破壊が生じやすいという課題があったこと、前記課題を解決するために、光半導体用熱硬化性光反射用樹脂組成物の無機充填剤として、従来から用いられている無機充填剤の他に、微細孔を多数有する無機充填剤(多孔質充填剤)または吸油性を有する化合物を用いる発明が記載されている。
そして、本件発明10?18は、発明特定事項として、光反射用熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤、および白色顔料を含み、前記無機充填剤として、多孔質充填剤または比表面積が100?1000m^(2)/gであって給油量が50ml/100g以上の吸油性を有する化合物を含むこと、また、前記光反射用熱硬化性樹脂組成物からなり加圧成型により作製されるタブレットを用いたトランスファー成型により形成する工程を含む、光半導体装置の製造方法であること、を備えている。
そうすると、本件発明10?18は、原出願の発明の詳細な説明に記載された発明であり、原出願が包含する複数の発明の一部であると認められる。
特許異議申立人は、「(C)硬化触媒」、「(F)カップリング剤」が「熱硬化性光反射用樹脂組成物」の必須成分である旨主張するので、以下、検討する。原出願の発明の詳細な説明には、上記のとおり、タブレット成形時に用いる臼型や杵型の表面に熱硬化性光反射用樹脂組成物が付着し易く、タブレットの破壊が生じやすいという課題を解決するために、従来から用いられている無機充填剤の他に、多孔質充填剤または吸油性を有する化合物を用いる発明が開示されている。ここで、特許異議申立人が必須成分であると主張する硬化触媒は硬化を促進する成分であること、そして、カップリング剤は異種材料との親和性を改善する添加剤であることを踏まえると、「(C)硬化触媒」、「(F)カップリング剤」が、前記課題を解決する成分として必須のものであるとは言えない。よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
したがって、本件特許に係る出願は適法になされた分割出願であり、その出願日は、平成19年11月28日に遡及する。

イ 特許法第29条について
本件特許の遡及出願日は、上記アのとおり、平成19年11月28日である。そうすると、甲1(平成20年10月23日公開)は、本件特許の出願前に頒布された刊行物に該当しない。よって、理由1により、本件請求項10?18に係る特許を取り消すことはできない。

(2)理由2について
ア サポート要件(その1)
上記(1)で検討したとおり、本件発明10?18は、原出願が包含する発明(原出願の発明の詳細な説明に記載された発明)である。ここで、原出願の発明の詳細な説明と、本件特許の発明の詳細な説明は、実質的に同一であることを踏まえると、本件発明10?18は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明である。
してみると、理由2のサポート要件(その1)は理由が無いから、本件請求項10?18に係る特許を取り消すことはできない。

イ サポート要件(その2)
本件発明10?18は、何れも、
「「光反射用熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤、および白色顔料を含み、前記無機充填剤として、多孔質充填剤または比表面積が100?1000m^(2)/gであって給油量が50ml/100g以上の吸油性を有する化合物を含」むこと、及び、
「少なくとも前記凹部を光反射用熱硬化性樹脂組成物からなり加圧成型により作製されるタブレットを用いたトランスファー成型により形成する工程を含む、光半導体装置の製造方法」であること、
を発明特定事項として有する。
してみると、本件発明10?18は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。よって、理由2のサポート要件(その2)は理由が無いから、本件請求項10?18に係る特許を取り消すことはできない。

ウ サポート要件(その3)
本件特許の発明の詳細な説明には、【発明を実施するための形態】として、以下の記載がある。
「【0027】
…表面が疎水化処理された多孔質充填剤または吸油性を有する化合物を用いることで、上記(A)エポキシ樹脂や上記(B)硬化剤との接着性が増加し、結果として熱硬化物の機械強度やトランスファー成型時の流動性が向上する。…
【0028】
また、上記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の見掛け密度は、特に限定されないが、0.4g/cm^(3)以上であることが好ましく、…。…見掛け密度が2.0g/cm^(3)を超える場合は、タブレット成型時に臼型と杵型の金型表面に樹脂組成物が付着し易くなる傾向にある。

【0030】
…。比表面積が100m^(2)/gよりも小さくなると充填剤による樹脂の吸油量が小さくなり、タブレット成型時に杵型に樹脂が付着し易くなる傾向にあり、比表面積が1000m^(2)/gよりも大きくなると、トランスファー成型する際の溶融時に樹脂組成物の流動性が悪くなる傾向にある。
【0031】
また、上記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の含有量は、特に限定されないが、(D)無機充填剤および(E)白色顔料の合計量を基準として、0.1体積%?20体積%の範囲であることが好ましい。…。この含有量が0.1体積%よりも小さい場合は、樹脂組成物の一部が臼型と杵型の成型金型表面に付着し易くなり、20体積%よりも大きい場合は、トランスファー成型する際の溶融時に樹脂組成物の流動性が低下する傾向にある。…」
上記記載によれば、吸油性を有する化合物を用いることで、エポキシ樹脂や硬化剤との接着性が増加し、タブレット成型時に金型表面に樹脂組成物が付着しにくくなること、すなわち、本件発明10?18の発明特定事項である「比表面積が100?1000m^(2)/gであって給油量が50ml/100g以上の吸油性を有するシリカを含むこと」により、本件発明の課題を解決できることが理解できる。してみると、理由2のサポート要件(その3)は理由が無いから、本件請求項10?18に係る特許を取り消すことはできない。

エ サポート要件(その4)
本件訂正請求により、訂正前の請求項1?10の特定事項である「前記無機充填剤および前記白色顔料の少なくとも一方の成分として」は、「前記無機充填剤として」に訂正された。よって、理由2のサポート要件(その4)は理由が無いから、本件請求項10?18に係る特許を取り消すことはできない。

(3)理由3について
本件訂正請求により、訂正前の請求項10は、「光半導体装置の製造方法」に訂正された。したがって、物の発明において「その物の製造方法が記載されている場合」には該たらないから、訂正前の請求項10の記載が明確でないということはできない。よって、理由3は理由が無いから、本件請求項10?18に係る特許を取り消すことはできない。

4 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立て理由の概要
(1)申立理由(その2の1)
訂正前の請求項1に係る発明と、甲第2号証(以下「甲2」という。特開2006-140207号公報)に記載された発明を対比すると、
光反射用熱硬化性樹脂組成物が、訂正前の請求項1に係る発明では、「エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤、および白色顔料を含み、前記無機充填剤および前記白色顔料の少なくとも一方の成分として、多孔質充填剤または吸油性を有する化合物を含み、前記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物が多孔質構造または吸油性を有するシリカを含む」のに対し、甲第2号証に記載された発明では、「(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化触媒、(D)無機充填剤、(E)白色顔料、および(F)カップリング剤を含有する」点、
で相違する。
甲2に記載された発明は、無機充填剤として溶融シリカを使用しているところ、
甲第4号証(以下「甲4」という。特開2005-23230号公報)の【0019】にはシリカ粉末は、結晶シリカ、溶融シリカのいずれであつてもよいことが、
甲第5号証(以下「甲5」という。特開2006-298973号公報)の【0023】にはシリカ粉末として、溶融シリカや結晶シリカ等を用いることができることが、
甲第6号証(以下「甲6」という。特開2007-238924号公報)の【0040】、【0071】には無機充填剤の少なくとも一部を、溶融シリカや結晶シリカ、合成シリカ等(実施例では、平均粒径3.5μm、比表面積600m^(2)/gのシリカゲル)とすることが好ましいことが、
それぞれ記載されているから、甲2に記載された発明の無機充填剤として、結晶シリカ、合成シリカを使用することは容易に想到しうることである。そしてその際、
甲6の【0071】には、使用するシリカは比表面積が600m^(2)/gであることが、
甲第7号証(以下「甲7」という。「新版プラスチック配合剤」(大成社:1984年発行)105?111頁)の108頁の表2には、シリカ粉末は給油量が42mlであることが、
甲第8号証(以下「甲8」という。「工業材料 1996年9月号」38?39頁)39頁の表2には半導体封止用フィラーについて「比表面積 一般に1?50m^(2)/g」であることが、
甲第9号証(以下「甲9」という。「フィラー活用辞典」(大成社 1994年5月31日発行)61?69頁)の62頁の図1には、フィラー形状として、「破砕形」と「円粒形」が、
それぞれ記載されており、合成シリカの一般的性質として、比表面積が25?1000m^(2)/g、密度は1.9?2.2g/cm^(2)であることが記載されているように、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカは多孔質構造を有するものであるか、または吸油性を有するものであるといえる。よって、相違点に係る構成を採用することは、甲4?甲9に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
さらに、訂正前の請求項2?10に係る発明は、甲2、甲4?9に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、訂正前の請求項1?10に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1?10に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)申立理由(その2の2)
甲第3号証(以下「甲3」という。特開2007-235085号公報)は、カテゴリーが異なるものの、甲2と同様の技術内容を開示する。したがって、上記(1)と同様の理由により、訂正前の請求項1?10に係る発明は、甲3?9に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、訂正前の請求項1?10に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1?10に係る特許は取り消されるべきものである。

(3)申立理由(その3)
平成25年11月11日付け手続補正により、
「【請求項7】
前記無機充填剤が、多孔質構造または吸油性を持たないシリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムからなる群の中から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の光半導体装置。」
は、
「【請求項6】
前記無機充填剤が、多孔質構造または吸油性を持たない、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、および炭酸バリウムからなる群の中から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の光半導体装置。」
に補正された。
上記補正により、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載されていなかった、多孔質構造または吸油性を持たない水酸化アルミニウム、多孔質構造または吸油性を持たない水酸化マグネシウム、多孔質構造または吸油性を持たない硫酸バリウム、多孔質構造または吸油性を持たない炭酸マグネシウム、多孔質構造または吸油性を持たない炭酸バリウムが新たに追加された。したがって、上記補正は、新規事項を追加するものである。
よって、訂正前の請求項6?10に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

(4)申立理由(その4)
訂正前の請求項1は、「多孔質構造または吸油性を有するシリカ」との発明特定事項を有するところ、発明の詳細な説明の記載によれば、多孔質とは比表面積が「10m^(2)/g」以上であり、吸油性を有する化合物とは、給油量が10mL/100g以上の化合物を意味する。しかしながら、発明の詳細な説明には、比表面積が10?100m^(2)/gの範囲は記載されておらず、また、給油量が10?50mL/100gの範囲は、記載されていない。
したがって、訂正前の請求項1?10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。また、本件特許の発明の詳細な説明は、訂正前の請求項1?10に係る発明を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
よって、訂正前の請求項1?10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号、第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立て理由についての判断
(1)申立理由(その2の1)について
甲2に記載された発明は、光反射用熱硬化性樹脂組成物が無機充填剤を含み、前記無機充填剤として溶融シリカを使用するものであるところ、前記無機充填剤として、甲4?甲6に記載の結晶シリカや合成シリカを使用する動機付けがあるとは認められない。
また、本件発明10?18は、「タブレット成型時に使用する金型の杵型や臼型の表面に付着することがなく、優れた機械的強度を有するタブレット成型体を得ることが可能」という作用効果を奏するものであるところ、前記作用効果は甲2、甲4?甲9に記載されておらず、また、技術常識を参酌しても当業者が前記作用効果を予測し得るものとも言えない。
したがって、本件発明10?18は、甲2、甲4?9に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。

(2)申立理由(その2の2)について
甲3は、甲2と同様の技術内容を開示するから、上記(1)と同様の理由により、本件発明10?18は、甲3?9に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。

(3)申立理由(その3)について
平成25年11月11日付け手続補正前の記載である「多孔質構造または吸油性を持たないシリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム」と、前記手続補正後の記載である「多孔質構造または吸油性を持たない、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、および炭酸バリウム」は、「多孔質構造または吸油性を持たない」が「シリカ」に係るのか、あるいは、「シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム」に係るのか、何れも、必ずしも明確であるとは言えない。そこで、発明の詳細な説明の記載を参酌すると、明細書には、以下の記載がある(なお、平成25年11月11日付け手続補正の前後で、明細書は補正されていない。)。
「【0037】
上記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物以外の上記(D)無機充填剤としては、特に限定されない。例えば、多孔質構造または吸油性を持たないシリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等を用いることができ…」
上記記載によると、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムは、何れも、多孔質充填剤または吸油性を有する化合物以外の無機充填剤として例示されている。そうすると、発明の詳細な説明を参酌すると、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムは、多孔質充填剤または吸油性を有する化合物以外の無機充填剤であると解され、この解釈は平成25年11月11日付け手続補正により変わるものではない。よって、上記補正は、新規事項を追加するものではない。

(4)申立理由(その4)について
本件訂正請求により、本件特許10?18は、何れも「比表面積が100?1000m^(2)/gであって給油量が50ml/100g以上の吸油性を有する化合物」との発明特定事項を有する。したがって、比表面積が10?100m^(2)/gの範囲、給油量が10?50mL/100gの範囲は、本件発明10?18の特定事項ではない。したがって、申立理由(その4)は理由が無い。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項10?18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項10?18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、訂正により請求項1?9が削除されたため、請求項1?9に係る特許に対して、特許異議申立人小松一枝がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項に係る特許が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
光半導体素子搭載領域となる凹部が1つ以上形成され、少なくとも前記凹部の内周側面が光反射用熱硬化性樹脂組成物からなる光半導体素子搭載用基板と、
前記光半導体素子搭載用基板の凹部底面に搭載された光半導体素子と、
前記光半導体素子を覆うように前記凹部内に形成された蛍光体含有透明封止樹脂層と、
を少なくとも備える光半導体装置の製造方法であって、
前記光反射用熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤、および白色顔料を含み、前記無機充填剤として、多孔質充填剤または比表面積が100?1000m^(2)/gであって吸油量が50ml/100g以上の吸油性を有する化合物を含み、前記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物が多孔質構造または比表面積が100?1000m^(2)/gであって吸油量が50ml/100g以上の吸油性を有するシリカを含むことを特徴とし、
少なくとも前記凹部を光反射用熱硬化性樹脂組成物からなり加圧成型により作製されるタブレットを用いたトランスファー成型により形成する工程を含む、光半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の形状が、真球状、破砕状、円盤状、棒状、および繊維状からなる群の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項10に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の表面が、疎水化処理または親水化処理されていることを特徴とする請求項10又は11に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の見掛け密度が、0.4g/cm^(3)以上であることを特徴とする請求項10?12のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記無機充填剤および前記白色顔料の合計量を基準として、前記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の含有量が、0.1体積%?20体積%の範囲であることを特徴とする請求項10?13のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記無機充填剤が、多孔質構造または吸油性を持たない、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、および炭酸バリウムからなる群の中から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項10?14のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記白色顔料が、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、および無機中空粒子からなる群の中から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項10?15のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記白色顔料の平均粒径が、0.1?50μmの範囲にあることを特徴とする請求項10?16のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項18】
前記無機充填剤と前記白色顔料の合計含有量が、樹脂組成物全体に対して、10体積%?85体積%の範囲であることを特徴とする請求項10?17のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-01-25 
出願番号 特願2012-188760(P2012-188760)
審決分類 P 1 651・ 55- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
P 1 651・ 536- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 金高 敏康  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 小松 徹三
近藤 幸浩
登録日 2015-04-10 
登録番号 特許第5727977号(P5727977)
権利者 日立化成株式会社
発明の名称 光半導体装置  
代理人 三好 秀和  
代理人 三好 秀和  

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