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審決分類 |
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) G02B 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 G02B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G02B 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857 G02B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G02B 審判 全部申し立て 2項進歩性 G02B |
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管理番号 | 1325865 |
異議申立番号 | 異議2016-700566 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-06-24 |
確定日 | 2017-02-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5834403号発明「位相差フィルム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5834403号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし13〕について訂正することを認める。 特許第5834403号の請求項1,4,6,9ないし13に係る特許を維持する。 特許第5834403号の請求項2,3,5,7及び8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5834403号(請求項の数13。以下,「本件特許」という。)は,平成22年12月21日(優先権主張平成21年12月22日)に出願され,平成27年11月13日に特許権の設定登録がされたものである。 これに対し,平成28年6月24日に特許異議申立人星正美により請求項1ないし13に係る特許について特許異議の申立てがされ,同年9月23日付けで特許権者に取消理由が通知され,特許権者により同年11月28日に意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下,当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がされ,同年12月21日に異議申立人より意見書が提出された。 第2 本件訂正の適否についての判断 1 本件訂正の内容 (1)訂正前後の記載 本件訂正請求は,明細書及び特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし13について訂正することを求めるものであるところ,一群の請求項〔1ないし13〕ごとに請求するものであるから,特許法120条の5第4項の規定に適合して請求されたものである。 しかるに,本件訂正前後の明細書及び特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。) ア 本件訂正前の記載 (ア)明細書中の本件訂正に係る記載 「【0016】 ・・・(中略)・・・[10]第2モノマー単位が,炭素数4から22の鎖状または環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状または環状構造であることを特徴とする[3]乃至[9]のいずれか1つに記載の位相差フィルム。」 「【0049】 ・・・(中略)・・・具体的には,例えば,9,9-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン,1,8-ビス(ヒドロキシエチルオキシ)アントラセンなどがあげられる。」 「【0083】 ・・・(中略)・・・得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO_(2),ヘキサン/酢酸エチル=50/50)で精製し,目的とする9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン4.2gを得た。」 「【0085】 9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン7.93gとジフェニルカーボネートを11.63g,及び触媒として,炭酸セシウム(0.2重量%水溶液)を0.066mLをそれぞれを反応容器に投入し,」 「【0090】 9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを得られたBHEACF20.28gに,DPCの使用量を8.48gに変えた以外は,製造例3と同様にしてホモポリカーボネートを得た。」 「【0092】 ・・・(中略)・・・9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを得られたBCHDMCF28.99gに,DPCの使用量を8.48gに変えた以外は,製造例3と同様にしてホモポリカーボネートを得た。」 「【0099】 ・・・(中略)・・・9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを,製造例6で得られたBCHDMCF20.05gとイソソルバイド5.67gに,DPCの使用量を17.61gに変えた以外は製造例3と同様にして重合を行い,ポリマーを得た。」 (イ)特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 一枚の高分子(セルロース系高分子を除く)配向フィルムからなる位相差フィルムであって,前記高分子が正又は負の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第1モノマー単位と記す。)と,少なくとも1種類以上の第1モノマー単位と同じ符号の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第2モノマー単位と記す。第2モノマー単位は第1モノマー単位と同一でもよい。)を含有し,第1モノマー単位のホモポリマーが下記式(1)を満足することを特徴とする位相差フィルム。 R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < 1 (1) (式中,R^(1)_(450)は,波長450nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R^(1)_(550)は,波長550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R^(1)_(450)とR^(1)_(550)は,同一サンプルを測定したものである。) 【請求項2】 第2モノマー単位と第1モノマー単位とが同一である請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項3】 下記式(3)を満足することを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。 R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < R^(2)_(450)/R^(2)_(550) (3) (式中,R^(1)_(450)は,波長450nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R^(1)_(550)は,波長550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R^(2)_(450)は,波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R^(2)_(550)は,波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R^(1)_(450)とR^(1)_(550)は,同一サンプルを測定したものであり,R^(2)_(450)とR^(2)_(550)は,同一サンプルを測定したものである。) 【請求項4】 下記式(4)を満足することを特徴とする請求項3に記載の位相差フィルム。 R^(2)_(450)/R^(2)_(550) > 1 (4) (式中,R^(2)_(450)は,波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R^(2)_(550)は,波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R^(2)_(450)とR^(2)_(550)は,同一サンプルを測定したものである。) 【請求項5】 下記式(2-1)を満足することを特徴とする請求項3または4に記載の位相差フィルム。 |Δn^(1)_(0)|> |Δn^(2)_(0)| (2-1) (式中,|Δn^(1)_(0)|及び|Δn^(2)_(0)|は,それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折の絶対値及び第2モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折の絶対値を表す。) 【請求項6】 下記式(2-2)を満足することを特徴とする請求項5に記載の位相差フィルム。 Δn^(1)_(0) > Δn^(2)_(0) > 0 (2-2) (式中,Δn^(1)_(0)及びΔn^(2)_(0)は,それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折及び第2モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折を表す。) 【請求項7】 下記式(2-3)を満足することを特徴とする請求項3に記載の位相差フィルム。 |Δn^(1)_(0)|< |Δn^(2)_(0)| (2-3) (式中,|Δn^(1)_(0)|及び|Δn^(2)_(0)|は,それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折の絶対値及び第2モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折の絶対値を表す。) 【請求項8】 下記式(2-4)を満足することを特徴とする請求項3または7に記載の位相差フィルム。 0 < Δn^(1)_(0) < Δn^(2)_(0) (2-4) (式中,Δn^(1)_(0)及びΔn^(2)_(0)は,それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折及び第2モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折を表す。) 【請求項9】 第2モノマー単位からなるホモポリマーが,下記式(5)を満足することを特徴とする請求項3乃至8のいずれか1項に記載の位相差フィルム。 1 < R^(2)_(450)/R^(2)_(550) < 1.1 (5) (式中,R^(2)_(450)は,波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R^(2)_(550)は,波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R^(2)_(450)とR^(2)_(550)は,同一サンプルを測定したものである。) 【請求項10】 第2モノマー単位が,炭素数4から22の鎖状または環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状または環状構造であることを特徴とする請求項3乃至9のいずれか1項に記載の位相差フィルム。 【請求項11】 高分子が,ポリエステル,ポリエステルカーボネート及びポリカーボネートのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の位相差フィルム。 【請求項12】 請求項1乃至11のいずれか1項に記載の位相差フィルムを用いたことを特徴とする液晶パネル。 【請求項13】 請求項12に記載の液晶パネルを備えることを特徴とする画像表示装置。」 イ 本件訂正後の記載 (ア)明細書中の本件訂正に係る記載 「【0016】 ・・・(中略)・・・[10]第2モノマー単位が,炭素数4から22の環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の環状構造であることを特徴とする[3]乃至[9]のいずれか1つに記載の位相差フィルム。」 「【0049】 ・・・(中略)・・・具体的には,例えば,9,9-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン,1,8-ビス(ヒドロキシエチルオキシ)アントラセンなどがあげられる。」 「【0083】 ・・・(中略)・・・得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO_(2),ヘキサン/酢酸エチル=50/50)で精製し,目的とする9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン4.2gを得た。」 「【0085】 9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン7.93gとジフェニルカーボネートを11.63g,及び触媒として,炭酸セシウム(0.2重量%水溶液)を0.066mLをそれぞれを反応容器に投入し,」 「【0090】 9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを得られたBHEACF20.28gに,DPCの使用量を8.48gに変えた以外は,製造例3と同様にしてホモポリカーボネートを得た。」 「【0092】 ・・・(中略)・・・9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを得られたBCHDMCF28.99gに,DPCの使用量を8.48gに変えた以外は,製造例3と同様にしてホモポリカーボネートを得た。」 「【0099】 ・・・(中略)・・・9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを,製造例6で得られたBCHDMCF20.05gとイソソルバイド5.67gに,DPCの使用量を17.61gに変えた以外は製造例3と同様にして重合を行い,ポリマーを得た。」 (イ)特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 一枚の高分子(セルロース系高分子を除く)配向フィルムからなる位相差フィルムであって,前記高分子が正又は負の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第1モノマー単位と記す。)と,少なくとも1種類以上の第1モノマー単位と同じ符号の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第2モノマー単位と記す。第2モノマー単位は第1モノマー単位と同一でもよい。)を含有し,第1モノマー単位のホモポリマーが下記式(1)を満足し,下記の式(3)を満足し,下記の式(2-1)を満足することを特徴とする位相差フィルム。 R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < 1 (1) (式中,R^(1)_(450)は,波長450nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R^(1)_(550)は,波長550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R^(1)_(450)とR^(1)_(550)は,同一サンプルを測定したものである。) R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < R^(2)_(450)/R^(2)_(550) (3) (式中,R^(1)_(450)は,波長450nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R^(1)_(550)は,波長550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R^(2)_(450)は,波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R^(2)_(550)は,波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R^(1)_(450)とR^(1)_(550)は,同一サンプルを測定したものであり,R^(2)_(450)とR^(2)_(550)は,同一サンプルを測定したものである。) |Δn^(1)_(0)|> |Δn^(2)_(0)| (2-1) (式中,|Δn^(1)_(0)|及び|Δn^(2)_(0)|は,それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折の絶対値及び第2モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折の絶対値を表す。) 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】 下記式(4)を満足することを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。 R^(2)_(450)/R^(2)_(550) > 1 (4) (式中,R^(2)_(450)は,波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R^(2)_(550)は,波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R^(2)_(450)とR^(2)_(550)は,同一サンプルを測定したものである。) 【請求項5】(削除) 【請求項6】 下記式(2-2)を満足することを特徴とする請求項1又は4に記載の位相差フィルム。 Δn^(1)_(0) > Δn^(2)_(0) > 0 (2-2) (式中,Δn^(1)_(0)及びΔn^(2)_(0)は,それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折及び第2モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折を表す。) 【請求項7】(削除) 【請求項8】(削除) 【請求項9】 第2モノマー単位からなるホモポリマーが,下記式(5)を満足することを特徴とする請求項1,4,又は6に記載の位相差フィルム。 1 < R^(2)_(450)/R^(2)_(550) < 1.1 (5) (式中,R^(2)_(450)は,波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R^(2)_(550)は,波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R^(2)_(450)とR^(2)_(550)は,同一サンプルを測定したものである。) 【請求項10】 第2モノマー単位が,炭素数4から22の環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の環状構造であることを特徴とする請求項1,4,6,又は9に記載の位相差フィルム。 【請求項11】 高分子が,ポリエステル,ポリエステルカーボネート及びポリカーボネートのいずれかであることを特徴とする請求項1,4,6,9,又は10に記載の位相差フィルム。 【請求項12】 請求項1,4,6,9,10,又は11に記載の位相差フィルムを用いたことを特徴とする液晶パネル。 【請求項13】 請求項12に記載の液晶パネルを備えることを特徴とする画像表示装置。」 (2)訂正事項 本件訂正は,次の訂正事項からなる。 ア 訂正事項1 請求項1に「下記式(1)を満足する」とあるのを,「下記式(1)を満足し,下記の式(3)を満足し,下記の式(2-1)を満足する」に訂正し,請求項1の末尾に式(3)及びその定義,並びに式(2-1)及びその定義を追加する訂正を行うとともに,請求項2,3,5,7及び8を削除し,さらに,請求項4が引用する請求項を「請求項3」から「請求項1」に,請求項6が引用する請求項を「請求項5」から「請求項1又は4」に,請求項9が引用する請求項を「請求項3乃至8のいずれか1項」から「請求項1,4,又は6」に,請求項10が引用する請求項を「請求項3乃至9のいずれか1項」から「請求項1,4,6,又は9」に,請求項11が引用する請求項を「請求項1乃至10のいずれか1項」から「請求項1,4,6,9,又は10」に,請求項12が引用する請求項を「請求項1乃至11のいずれか1項」から「請求項1,4,6,9,10,又は11」に訂正する。 イ 訂正事項2 請求項10に「炭素数4から22の鎖状または環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状または環状構造」とあるのを,「炭素数4から22の環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の環状構造」に訂正するとともに,明細書の【0016】に「炭素数4から22の鎖状または環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状または環状構造」とあるのを,「炭素数4から22の環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の環状構造」に訂正する。 ウ 訂正事項3 明細書の【0049】,【0083】,【0085】,【0090】,【0092】及び【0099】にそれぞれ「9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」とあるのを,「9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」に訂正する。 2 訂正の目的の適否について 訂正事項1は,訂正前の請求項2,3,5,7及び8を削除する訂正と,訂正前の請求項3及び5に記載されていた事項を請求項1に繰り入れるとともに請求項6が引用する請求項の項番を1又は4とすることによって,削除しない請求項のうちの請求項1,4,9ないし13を限定する訂正と,これらの訂正に伴って各請求項が引用する請求項の項番を整合させる訂正とからなる訂正事項であるから,特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものに該当する。 また,訂正事項2は,請求項10に記載された発明特定事項における第2モノマーの構造についての選択肢から「炭素数4から22の鎖状構造」及び「ヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状構造」という選択肢を削除する訂正であり,当該訂正事項2によって,請求項10及び当該請求項10の記載を引用する形式で記載された請求項11ないし13に係る発明において,第2モノマーの構造が限定されることとなるから,特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 さらに,訂正事項3は,明細書の【0084】に示された構造式等からみて「9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」であることが明らかな「9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」という誤記を,正しい記載にする訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書き2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。 したがって,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書き1,2及び4号に掲げる事項を目的とするものである。 3 新規事項の追加の有無について (1) 前記2で述べたとおり,訂正事項1は,訂正前の請求項3及び5に記載されていた事項を請求項1に繰り入れるとともに請求項6が引用する請求項の項番を1又は4とすることによって,削除しない請求項のうちの請求項1,4,9ないし13を限定する訂正と,これらの訂正に伴って各請求項が引用する請求項の項番を整合させる訂正とからなるから,本件訂正前の願書に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面(特許された時点での明細書,特許請求の範囲及び図面である。以下,本件訂正前の願書に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面を総称して「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。 (2) また,訂正事項2は,請求項10に記載された発明特定事項における第2モノマーの構造についての選択肢から「炭素数4から22の鎖状構造」及び「ヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状構造」という選択肢を削除する訂正であるから,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。 (3) さらに,訂正事項3は誤記の訂正を目的とするものであるから,当該訂正事項3による新規事項の追加の有無の判断の基準明細書は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(以下,願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」といい,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面を総称して「当初明細書等」という。)となるところ,訂正事項3による訂正後の「9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」については,当初明細書の【0084】に構造式によって示されているから,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (4) したがって,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。 4 特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否について 訂正事項1ないし3が,いずれも,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかであるから,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。 5 小括 前記2ないし4のとおりであって,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書き1,2及び4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1ないし13〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件特許の請求項1,4,6,9ないし13に係る発明 前記第2 5で述べたとおり,本件訂正は適法になされたものであるから,本件特許の請求項1,4,6,9ないし13に係る発明(以下,それぞれを「本件特許発明1」,「本件特許発明4」,「本件特許発明6」,「本件特許発明9」ないし「本件特許発明13」という。)は,それぞれ,前記第2 1(1)イ(イ)において,本件訂正後の特許請求の範囲の記載として示した請求項1,4,6,9ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。 2 平成28年9月23日付けで通知された取消理由の概要 本件訂正前の請求項1ないし13に係る特許に対して平成28年9月23日付けで通知された取消理由は,概略次のとおりである。なお,取消理由1ないし3で引用された甲第1号証及び甲第2号証は,それぞれ中国特許出願公開第101470212号明細書及び特開2002-14234号公報である。 (1)取消理由1 本件特許の請求項1ないし4,7ないし9,12,13に係る発明は,甲第1号証に記載された発明と同一であるか,又は当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条1項又は2項の規定に違反してされたものであって,同法113条2号に該当する。 (2)取消理由2 本件特許の請求項1ないし4,7ないし13に係る発明は,甲第2号証に記載された発明と同一であるか,又は当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条1項又は2項の規定に違反してされたものであって,同法113条2号に該当する。 (3)取消理由3 本件特許の請求項1ないし4,7ないし9,12,13に係る発明は,甲1及び甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであって,同法113条2号に該当する。 (4)取消理由4 本件特許の請求項1ないし13に係る特許は,次のアないしウの点で,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって,同法113条4号に該当する。 ア 「第1モノマー単位」に関する明確性要件違反 特許明細書の【0049】には,請求項1に記載された「第1モノマー単位」として「9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」を例示しているが,当該化合物は反応性のヒドロキシ基を持たないので,モノマーとして機能し得ないと考えられるところ,当該特許明細書の記載を参酌すると,請求項1に記載された「モノマー単位」なる用語が如何なるものを包含する概念であるのか,明確に特定できない。 したがって,本件特許の請求項1に係る発明,及び当該請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2ないし13に係る発明は明確でない。 イ 請求項10ないし13に係る発明に関するサポート要件違反 本件特許の請求項10には,「第2モノマー単位が,炭素数4から22の鎖状または環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状または環状構造である」との発明特定事項が記載されているが,第2モノマー単位がヘテロ原子を含む鎖状構造である場合に,当該鎖状構造の炭素数の上限が20である点は,特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。 したがって,本件特許の請求項10に係る発明,及び当該請求項10の記載を引用する形式で記載された請求項11ないし13に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。 ウ 請求項10ないし13に係る発明に関する明確性要件違反 本件特許の請求項10には,「第2モノマー単位が,炭素数4から22の鎖状または環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の鎖状または環状構造である」と記載されているが,「または」と「もしくは」の使い方が不自然であるため,当該記載が指し示す内容を明確に特定し難い。 したがって,本件特許の請求項10に係る発明,及び当該請求項10の記載を引用する形式で記載された請求項11ないし13に係る発明は明確でない。 3 引用例 (1)甲第1号証 ア 甲第1号証の記載 甲第1号証(中国特許出願公開第101470212号明細書。以下,「甲1」という。)は,本件特許の優先権主張の日(以下,「本件特許の優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲1には次の記載がある。(日本語訳に付した下線は,後述する「甲1発明」の認定に特に関連する箇所を示す。) (ア) 「 ・・・(中略)・・・ 」(2ページ1行ないし5ページ14行) [日本語訳] 「請求項1.式(A)で表される基及び重合性基を含む化合物を重合してなる光学フィルム。 -G_(a)-D_(a)-Ar-D_(b)-G_(b)- (A) 式中,Arは芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する2価の基を表し,該2価の基中の芳香環に含まれるπ電子の数N_(π)は,12以上である;D_(a)及びD_(b)は,それぞれ独立に,単結合,-CO-O-,-O-CO-,-C(=S)-O-,-O-C(=S)-,-CR^(1)R^(2)-,-CR^(1)R^(2)-CR^(3)R^(4)-,-O-CR^(1)R^(2)-,-CR^(1)R^(2)-O-,-CR^(1)R^(2)-O-CR^(3)R^(4)-,-CR^(1)R^(2)-O-CO-,-O-CO-CR^(1)R^(2)-,-CR^(1)R^(2)-O-CO-CR^(3)R^(4)-,-CR^(1)R^(2)-CO-O-CR^(3)R^(4)-,-NR^(1)-CR^(2)R^(3)-,-CR^(2)R^(3)-NR^(1)-,-CO-NR^(1)-,又はNR^(1)-CO-を表し,R^(1),R^(2),R^(3)及びR^(4)は,それぞれ独立に,水素原子,フッ素原子又は炭素数1?4のアルキル基を表す;G_(a)及びG_(b)は,それぞれ独立に,2価の脂環式炭化水素基を表し,該脂環式炭化水素基は,ハロゲン原子,炭素数1?4のアルキル基,炭素数1?4のフルオロアルキル基,炭素数1?4のアルコキシ基,シアノ基又はニトロ基で置換されていてもよく,該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は,-O-,-S-又は-NH-に置換されていてもよい。 ・・・(中略)・・・ 請求項12.波長550nmにおける位相差値Re(550)が113?163nmである請求項1記載の光学フィルム。」 (イ) 「 」(11ページ1ないし末行。なお,イメージは1行として数える。以下同様。) [日本語訳] 「光学フィルム 技術分野 本発明は,光学フィルムに関するものである。 背景技術 フラットパネルディスプレイ(FPD)中に使用されている偏光板,位相差板などの光学フィルムの部品。光学フィルムとして,溶剤中に重合性化合物を溶解して得た溶液を支持基材上に塗布した後,重合して得た光学フィルムを列挙できる。 他方で,提供された波長λnmの光の光学フィルムの位相差(Re(λ))は,複屈折率△nとフィルムの厚みdの積によって決定(Re(λ)= △n×d)されることは既に知られている。このほか,波長分散特性は通常,波長λnmのところの位相差値Re(λ)で550nmのところの位相差値Re(550)を除した値(Re(λ)/Re(550))で表示され,(Re(λ)/Re(550))が1に近い波長の範囲,[Re(450)/Re(550)]<1かつ,[Re(650)/Re(550)]>1の示す逆波長分散性の波長範囲において,同様の偏光変換を行い得ることが知られている。 SID Sysposium Digest of Technical Papers,2006年37巻1673ページにおいて,重合性化合物として,下記の式が示す化合物(LC242)が公開されている。 発明の内容 本発明は以下の内容を提供する。 [1]式(A)で表される基及び重合性基を含む化合物を重合してなる光学フィルム。 -G_(a)-D_(a)-Ar-D_(b)-G_(b)- (A)」 (ウ) 「 」(21ページ22行ないし22ページ16行) [日本語訳] 「発明を実施するための最良の形態 本発明の光学フィルムは下記の化合物(以下,化合物(A)という。)を重合して得られるものであり,下記の式(A)に示される基及び少なくとも1つの重合性基を含有する化合物である。 -G_(a)-D_(a)-Ar-D_(b)-G_(b)- (A) (式中,Arは芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する2価の基を表し,該2価の基中の芳香環に含まれるπ電子の数N_(π)は12以上である。D_(a)及びD_(b)は,それぞれ独立に,単結合,-CO-O-,-O-CO-,-C(=S)-O-,-O-C(=S)-,-CR^(1)R^(2)-,-CR^(1)R^(2)-CR^(3)R^(4)-,-O-CR^(1)R^(2)-,-CR^(1)R^(2)-O-,-CR^(1)R^(2)-O-CR^(3)R^(4)-,-CR^(1)R^(2)-O-CO-,-O-CO-CR^(1)R^(2)-,-CR^(1)R^(2)-O-CO-CR^(3)R^(4)-,-CR^(1)R^(2)-CO-O-CR^(3)R^(4)-,-NR^(1)-CR^(2)R^(3)-,-CR^(2)R^(3)-NR^(1)-,-CO-NR^(1)-,又はNR^(1)-CO-を表し,R^(1),R^(2),R^(3)及びR^(4)は,それぞれ独立に,水素原子,フッ素原子又は炭素数1?4のアルキル基を表す。G_(a)及びG_(b)は,それぞれ独立に,2価の脂環式炭化水素基を表し,該脂環式炭化水素基は,ハロゲン原子,炭素数1?4のアルキル基,炭素数1?4のフルオロアルキル基,炭素数1?4のアルコキシ基,シアノ基又はニトロ基で置換されていてもよく,該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は,-O-,-S-又は-NH-に置換されていてもよい。) 本発明のうち,いわゆる「光学フィルム」とは,光を透過でき,光学的機能を持つフィルムをいう。いわゆる「光学的機能」とは,屈折,複屈折などを意味する。光学フィルムの一種である位相差フィルムは,直線偏光を円偏光や楕円偏光に変換したり,逆に円偏光又は楕円偏光を直線偏光に変換したりするために用いられる。 本発明の光学フィルムは,上記の式(A)で表される基を持つことにより,広い波長の範囲において,同様の偏光変換を行うことができる。このほか,光学フィルムの中の式(A)で表される基の含有量を調整することで,光学フィルムの波長分散特性を調整することができる。」 (エ) 「 」(39ページ12ないし14行) [日本語訳] 「上記の式(A)が示す基以外に,化合物(A)には更に少なくとも1つの重合性基がある。化合物(A)は好ましくは2?4個の重合性基を持ち,得られる光学膜の膜の硬度の観点から,好ましくは2個の重合性基を持つ。」 (オ) 「 」(81ページ1ないし4行) [日本語訳] 「本発明の光学フィルムの波長分散特性は,光学フィルムにおける化合物(A)に由来する構造単位の含有量によって,任意に決定することができる。光学フィルムにおける構造単位の中で化合物(A)に由来する構造単位の含有量を増加させると,よりフラットな波長分散特性,さらには逆波長分散特性を示す。」 (カ) 「 」(83ページ8ないし20行) [日本語訳] 「支持基材の上に,化合物(A)を含有する混合溶液を塗布し,乾燥すると,未重合フィルムが得られる。未重合フィルムがネマチック相などの液晶相を示す場合,得られる光学フィルムは,モノドメイン配向による複屈折性を有する。未重合フィルムは0?120℃程度,好ましくは,25?80℃の低温で配向することから,配向膜として上記に例示したような耐熱性に関して必ずしも十分ではない支持基材を用いることができる。また,配向後さらに30?10℃程度に冷却しても結晶化することがないため,取扱いが容易である。 混合溶液の塗布量や濃度を適宜調整することにより,所望の位相差を与えるように膜厚を調製することができる。化合物(A)の量が一定である混合溶液の場合,得られる光学フィルムの位相差値(リタデーション値,Re(λ))は,式(7)のように決定されることから,所望のRe(λ)を得るためには,膜厚dを調整すればよい。 Re(λ)=d×Δn(λ) (7) (式中,Re(λ)は,波長λnmにおける位相差値を表し,dは膜厚を表し,Δn(λ)は波長λnmにおける複屈折率を表す。)」 (キ) 「 ・・・(中略)・・・ 」(85ページ22行ないし87ページ4行) [日本語訳] 「未重合フィルムを重合し,硬化させることにより化合物(A)の配向性が固定化されたフィルム,すなわち重合フィルムとなる。したがってフィルムの平面方向に屈折率変化が小さく,フィルムの法線方向に屈折率変化が大きい重合フィルムを製造することができる。 ・・・(中略)・・・ 支持基材を剥離して,配向膜と光学フィルムとからなるフィルムを得ることができる。さらに,配向膜を剥離して,光学フィルムを得ることができる。 かくして得られた光学フィルムは,透明性に優れ,様々なディスプレイ用フィルムとして使用される。形成される層の厚みは,上記のとおり,得られる光学フィルムの位相差値によって,異なるものである。本発明では,上記厚みは,0.1?10μmであることが好ましく,光弾性を小さくする点で0.5?3μmであることがさらに好ましい。 配向膜を用いて複屈折性を有する場合には,位相差値としては,通常50?500nm程度であり,好ましくは100?300nmである。 このような薄膜でより広い波長域において一様の偏光変換が可能なフィルムは,すべての液晶パネルや有機ELなどのFPDにおいて,光学補償フィルムとして用いることができる。 本発明の光学フィルムを広帯域λ/4板又はλ/2板として使用するためには,化合物(A)に由来する構造単位の含有量を適宜選択する。λ/4板の場合には,得られる光学フィルムのRe(550)を113?163nm,好ましくは135?140nm,特に好ましくは約137.5nm程度に膜厚を調整すればよく,λ/2板の場合には,得られる光学フィルムのRe(550)を250?300nm,好ましくは273?277nm,特に好ましくは約275nm程度となるように,膜厚を調整すればよい。 本発明の光学フィルムをVA(Vertical Alingment)モード用光学フィルムとして使用するためには,化合物(A)に由来する構造単位の含有量を適宜,選択する。Re(550)を好ましくは40?100nm,より好ましくは60?80nm程度となるように膜厚を調整すればよい。 本発明の光学フィルムは,アンチリフレクション(AR)フィルムなどの反射防止フィルム,偏光フィルム,位相差フィルム,楕円偏光フィルム,視野角拡大フィルム又は透過型液晶ディスプレイの視野角補償用光学補償フィルムなどに利用することができる。」 (ク) 「 」(99ページ17及び18行。日本語訳省略。) (ケ) 「 ・・・(中略)・・・ ・・・(中略)・・・ 」(139ページ15行ないし143ページ11行) [日本語訳] 「さらに,表3中,「%」は溶液中の含有量を示している。「L1」はBASF社から市販されているLC242を示し,「Irg907」はチバ・スペシャルティケミカルズ社製のIRGACURE907を示し,「Irg819」はチバ・スペシャルティケミカルズ社製のIRGACURE819を示す。さらに,「L2」はBYK-Chemie Japan社製のBYK361Nを示す。 [表3] ・・・(中略)・・・ 実施例37 ガラス基板にポリビニルアルコール(ポリビニルアルコール1000完全ケン化型,和光純薬工業株式会社製)の2重量%水溶液を塗布した後,加熱乾燥後,厚さ89nmの膜を得た。得られた膜の表面にラビング処理を施した後,ラビング処理を施した面に,上記表3中に記載の組成の塗布液をスピンコート法により塗布した。80℃ホットプレート上で1分間乾燥した後,さらに210℃で1分間乾燥させた。得られた未重合フィルムを190℃に加熱しながら1200mJ/cm^(2)の紫外線を照射して,膜厚2.43μmの光学フィルムを作製した。 ・・・(中略)・・・ <光学特性の測定> 作製した光学フィルムの位相差値を,測定機(KOBRA-WR,王子計測機器社製)を用いて450nm?700nmの波長範囲で測定し,装置に付随するプログラムを用いて,波長450nmの位相差値Re(450),波長550nmの位相差値Re(550),及び650nmの位相差値Re(650)を算出した。結果を表4に示す。 [表4] 」 イ 甲1に記載された発明 前記ア(ケ)の表3から,実施例37に係る光学フィルムの製造に用いる塗布液が,化合物(A)として,前記ア(ク)に示された式(v-1)で表される化合物を30%と,光重合開始剤としてチバ・スペシャルティケミカルズ社製のIRGACURE819を3%と,レベリング剤としてBYK-Chemie Japan社製のBYK361Nを1%と,残部が溶剤であるクロロホルムとからなるものであることを把握でき,前記ア(ケ)の表4から,実施例37に係る光学フィルムのRe(550),Re(450)/Re(550),Re(650)/Re(550)及び複屈折率がそれぞれ124.7nm,0.848,1.033及び0.056であることを看取できるから,前記ア(ア)ないし(ケ)の記載から,甲1に,実施例37に対応する発明として,次の発明が記載されていると認められる。 「ガラス基板にポリビニルアルコール(ポリビニルアルコール1000完全ケン化型,和光純薬工業株式会社製)の2重量%水溶液を塗布した後,加熱乾燥して,得られた厚さ89nmの膜の表面にラビング処理を施した後,ラビング処理を施した面に,下記組成の塗布液をスピンコート法により塗布し,80℃ホットプレート上で1分間乾燥した後,さらに210℃で1分間乾燥して,得られた未重合フィルムを190℃に加熱しながら1200mJ/cm^(2)の紫外線を照射することにより得られた,膜厚2.43μmの光学フィルムであって, Re(550)が124.7nmであり,Re(450)/Re(550)が0.848であり,Re(650)/Re(550)が1.033であり,複屈折率が0.056である, 光学フィルム。 [塗布液の組成] 下記式(v-1)で表される化合物 30% IRGACURE819 3% (チバ・スペシャルティケミカルズ社製光重合開始剤) BYK361N 1% (BYK-Chemie Japan社製レベリング剤) クロロホルム 残部 [式(v-1)] 」(以下,「甲1発明」という。) (2)甲第2号証 ア 甲第2号証の記載 甲第2号証(特開2002-14234号公報。以下,「甲2」という。)は,本件特許の優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲2には次の記載がある。(下線部は,後述する「甲2発明」の認定に特に関連する箇所を示す。) (ア) 「【請求項1】 互いに相溶しうる少なくとも2種類のポリマーA及びポリマーBの混合比を調整し該混合物をフィルムに成形する位相差フィルムの製造方法であって,ポリマーAを位相差フィルムとしたときのR(450)/R(550)と,ポリマーBを位相差フィルムとしたときのR(450)/R(550)との差が0.05以上であるポリマーAとポリマーBを用いることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。(ただし,R(450)及びR(550)はそれぞれ測定光波長450nm,550nmで測定した位相差フィルムの該フィルム面内における位相差である)。 【請求項2】 ポリマーAは,該ポリマーA単独で位相差フィルムを成形したとき,下記式(1)を満足するものである,請求項1記載の位相差フィルムの製造方法。 R(450)/R(550)<1 (1) (ただし,R(450)及びR(550)の定義は上記に同じである。) 【請求項3】 ポリマーBは,該ポリマーB単独で位相差フィルムを成形したとき,下記式(2)を満足することを特徴とする請求項1または2記載の位相差フィルムの製造方法。 R(450)/R(550)≧1 (2) (ただし,R(450)及びR(550)の定義は上記に同じである。) 【請求項4】 ポリマーA及びBが芳香族ポリエステルポリマーであることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。」 (イ) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,位相差フィルムの製造方法に関する。さらに詳しくは,位相差が所望の波長分散特性(波長依存性)をもつような位相差フィルムを生産性よく製造する方法に関する。かかる位相差フィルムは,例えば液晶表示装置,記録装置に用いられる光ピックアップ,光記録媒体等の光学装置,発光素子,光演算素子,光通信素子,タッチパネルに好適に用いられる。 【0002】 【従来の技術】一般に,位相差フィルムは,液晶表示装置等の表示装置に用いられ,色補償,視野角拡大,反射防止等の機能を有している。この位相差フィルムの材料としては,一般にビスフェノールAを重縮合したポリカーボネートや,ポリエーテルサルフォン,ポリサルフォン,ポリビニールアルコール,ノルボルネン樹脂の熱可塑性ポリマーが用いられている。 ・・・(中略)・・・ 【0016】 【発明が解決しようとする課題】本発明の主たる目的は,位相差の波長分散特性を容易に,かつ高度に制御する位相差フィルムの製造方法を提供することにある。 ・・・(中略)・・・ 【0019】 【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために鋭意検討したところ,少なくとも2種類の位相差波長分散の大きく異なる相溶性の高分子を混合し,その混合比率を制御することにより,位相差波長分散を制御し,生産性良く,所望の位相差波長分散特性を有する位相差フィルムを製造する方法を見出した。 【0020】すなわち本発明は,次の通りのものである。 1.互いに相溶しうる少なくとも2種類のポリマーA及びポリマーBの混合比を調整し該混合物をフィルムに成形する位相差フィルムの製造方法であって,ポリマーAを位相差フィルムとしたときのR(450)/R(550)と,ポリマーBを位相差フィルムとしたときのR(450)/R(550)との差が0.05以上であるポリマーAとポリマーBを用いることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。(ただし,R(450)及びR(550)はそれぞれ測定光波長450nm,550nmで測定した位相差フィルムの該フィルム面内における位相差である)。」 (ウ) 「【0024】 【発明の実施の形態】本発明においては,互いに相溶するものであって,かつ位相差フィルムとしたときの位相差波長分散が異なる少なくとも2種類のポリマーA及びポリマーBを混合することを特徴とする位相差フィルムの製造方法に関し,ポリマーA及びBをそれぞれ位相差フィルムとしたときのR(450)/R(550)の差が0.05以上であるとする。つまり,ポリマーA単独で形成された位相差フィルム(位相差フィルムA)における位相差の波長分散と,ポリマーB単独で形成された位相差フィルム(位相差フィルムB)における位相差の波長分散特性は異なり,位相差フィルムAのR(450)/R(550)の値と位相差フィルムBのR(450)/R(550)の値との差が少なくとも0.05である。例えば,2種類のポリマーを混合する場合,一方のポリマーからなる位相差フィルムと他方のポリマーからなる位相差フィルムの位相差波長分散が異なっており,実施例でも詳細述べるが,例えば,両者の光学異方性が同じで前者のR(450)/R(550)が1.05で後者がR(450)/R(550)が0.25であった場合,それらを混ぜることによりその混合比に応じて0.25?1.05まで任意の位相差波長分散を有する位相差フィルムを得ることが出来る。通常の位相差フィルムを製造する方法ではこのような方法は取られておらず,任意の位相差波長分散を得ようとした場合には,先述したように異なる位相差波長分散を有するポリマーを多数保有するという極めて生産性の悪い方法を取らざるを得ない。しかし,本発明の方法によれば,例えばわずか2種類のポリマーを保有し製造工程でそれらの量を制御して混合する工程を有するだけで多数の位相差波長分散を有する位相差フィルムを得ることが出来るのである。上記具体例は2種類のポリマーを混合させる例であったが,2種類以上であっても良い。 ・・・(中略)・・・ 【0032】ポリマーAとBは光学異方性が異なっていても(つまり正と負の組み合わせ)よく,同じであってもよい。この場合は,例えば,両者が正,または両者負である場合を指す。 ・・・(中略)・・・ 【0039】特に,ポリマーA,Bの光学異方性が同じ場合には,両者の位相差波長分散R(450)/R(550)のそれぞれの差は0.1以上が好ましく0.15以上であることがより好ましく,0.2以上であることがさらにより好ましい。先に述べたように,これはこの差が大きいほど位相差フィルムの位相差波長分散を制御する範囲が広がることを意味しているからである。ポリマーAとBの光学異方性が正と負の場合には符号が異なるのでこの限りではない。正と負の場合には,両者の位相差波長分散の差を広く取らなくても,両者の混合比により広い範囲の波長分散を有する位相差フィルムを製造することが可能である。 ・・・(中略)・・・ 【0042】本発明に用いられる具体的なポリマーとしては,お互いに相溶するものであって,上記条件を満足していれば特に限定はないが,耐熱性に優れ,光学性能が良好で,フィルム形成能を有し,溶融押し出し法や溶液キャスト法により製膜ができる熱可塑性ポリマーから選択するのが好ましい。かかる熱可塑性ポリマーとしては,例えば芳香族ポリエステルポリマー,ポリオレフィン,ポリエーテル,ポリスルホン,ポリエーテルスルホンを挙げることができる。この中で,ポリアリレート,ポリエステル,ポリカーボネート等の芳香族ポリエステルポリマーが耐熱性,フィルム形成性,光学特性が良好である。中でもポリカーボネートは透明性,耐熱性,製膜性,生産性の点でより優れており好ましい。ポリマーA,Bは,上記熱可塑性ポリマーの中で同種のポリマーの組み合わせが,特に相溶性に優れるので好都合である。」 (エ) 「【0096】 【化9】 【0097】[合成例1,2(ポリマーボネート(注:誤記であり,正しくは「ポリカーボネート」と認められる。)共重合体の製造)]攪拌機,温度計及び還流冷却器を備えた反応槽に,水酸化ナトリウム水溶液及びイオン交換水を仕込んだ。これに上記構造を有するモノマー[A]と[B]を表1に示す所定のモル比で溶解させ,少量のハイドロサルファイトを加え反応液とした。次にこれにメチレンクロライドを加えた。反応液の温度は20℃であった。この中にホスゲンを約60分かけて吹き込んだ。さらに,p-tert-ブチルフェノールを加えて乳化させた後,トリエチルアミンを加えて30℃で約3時間攪拌して反応を終了させた。得られた反応液から有機相を分取した。分取液より塩化メチレンを蒸発させることによりポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比はモノマー仕込み量比とほぼ同様であった。 【0098】得られた2つの共重合体(共重合体1,2)をそれぞれメチレンクロライドに溶解させ,固形分濃度20重量%の溶液組成物を調整した。この溶液組成物をステンレス上に流延し,ついで15℃から除々に昇温させながら加熱し,ステンレスから剥がしさらに乾燥させてキャストフィルムを作製した。このとき得られたフィルムは,R値が10nm以下であった。また該フィルムはメチレンクロライドを0.9重量%含んでいた。 【0099】つづいて,このフィルムを,コポリマーのガラス転移点温度付近で1.3倍に一軸延伸して位相差フィルムを得た。これらの位相差フィルムの特性を表1にまとめた。 【0100】 【表1】 【0101】[実施例1?5(位相差フィルムの製造)]上記合成例で製造したコポリマー1,2を,表2に記載の所定の混合比率(重量部)でメチレンクロライドに溶解させ,固形分濃度20重量%の溶液組成物を調製した。この溶液組成物をステンレス上に流延し,15℃から除々に昇温させながら加熱し,ステンレスから剥がしさらに乾燥させてキャストフィルムを作製した。このとき得られたフィルムは,R値が10nm以下であった。また該フィルムはメチレンクロライドを1重量%含んでいた。 【0102】つづいて,このフィルムをコポリマーのガラス転移点温度付近で1.8倍に一軸延伸することにより位相差フィルム1?5を得た。これらの位相差フィルムの特性を表2にまとめた。表2中のB含有比率は,コポリマー1と2の混合物全体に占めるモノマー単位Bの割合(モル%)である。 【0103】 【表2】 」 イ 甲2に記載された発明 前記ア(ア)ないし(エ)の記載から,甲2に,実施例2に対応する発明として,次の発明が記載されていると認められる。 「ポリカーボネート共重合体1とポリカーボネート共重合体2とを78.3:21.7という混合比率(重量部)でメチレンクロライドに溶解させることで,固形分濃度20重量%の溶液組成物を調製し,当該溶液組成物をステンレス上に流延し,15℃から除々に昇温させながら加熱し,ステンレスから剥がしさらに乾燥させてキャストフィルムを作製し,当該キャストフィルムをガラス転移点温度付近で1.8倍に一軸延伸することにより得られた位相差フィルム2であって, R(450)が308.6nmであり,R(550)が321.5nmであり,R(650)が324.7nmであり,R(450)/R(550)は0.96であり,R(650)/R(550)は1.01であり,光学異方性が正であり, 前記ポリカーボネート共重合体1は,攪拌機,温度計及び還流冷却器を備えた反応槽に,水酸化ナトリウム水溶液及びイオン交換水を仕込み,これに下記構造を有するモノマーAとモノマーBを30:70というモル比で溶解させ,少量のハイドロサルファイトを加え反応液とし,次にこれにメチレンクロライドを加え,この中にホスゲンを約60分かけて吹き込み,さらに,p-tert-ブチルフェノールを加えて乳化させた後,トリエチルアミンを加えて30℃で約3時間攪拌して反応を終了させ,得られた反応液から有機相を分取し,分取液より塩化メチレンを蒸発させることにより得られる共重合体であり,当該ポリカーボネート共重合体1からなるキャストフィルムを1.3倍に一軸延伸することにより得られる位相差フィルムのR(450)は12.5nmであり,R(550)は50.1nmであり,R(650)は63.1nmであり,R(450)/R(550)は0.25であり,R(650)/R(550)は1.26であり,光学異方性が正であり, 前記ポリカーボネート共重合体2は,前記モノマーAと前記モノマーBのモル比を70:30に変更する以外は前記ポリカーボネート共重合体1と同様にして得られる共重合体であり,当該ポリカーボネート共重合体2からなる1.3倍に一軸延伸することにより得られた位相差フィルムのR(450)は377.7nmであり,R(550)は356.3nmであり,R(650)は342.0nmであり,R(450)/R(550)は1.06であり,R(650)/R(550)は0.96であり,光学異方性が正である, 位相差フィルム2。 [モノマーA及びモノマーBの構造] 」(以下,「甲2発明」という。) 4 取消理由1についての判断 取消理由1の対象とされたのは,本件訂正前の請求項1ないし4,7ないし9,12,13に係る発明であるところ(特許異議申立人が,取消理由1に対応する理由(特許異議申立書11ページ4行ないし14ページ4行。)で特許異議の申し立てをした請求項も同じである。),請求項2,3,7及び8については,本件訂正により削除されたから,取消理由1の対象となる本件訂正後の請求項は,請求項1,4,9,12及び13である。 そこで,本件特許発明1,4,9,12及び13について,取消理由1の成否を検討する。 (1)本件特許発明1について ア 対比 (ア) 甲1発明は,Re(550)が124.7nmである光学フィルムであるところ,甲1の「本発明の光学フィルムを広帯域λ/4板・・・(中略)・・・として使用するためには,化合物(A)に由来する構造単位の含有量を適宜選択する。λ/4板の場合には,得られる光学フィルムのRe(550)を113?163nm・・・(中略)・・・程度に膜厚を調整すればよく,」(86ページ19ないし23行。前記3(1)ア(キ)を参照。)という記載から,甲1発明が位相差フィルムの一種であるλ/4板として使用するよう設計されたものであることは明らかであるから,甲1発明を「位相差フィルム」ということができる。 また,甲1発明は,ラビング処理を施した厚さ89nmの膜すなわち配向膜によって,「式(v-1)で表される化合物」を配向させ,紫外線の照射によって当該「式(v-1)で表される化合物」を重合させたものであるところ,「式(v-1)で表される化合物」を重合させたものはセルロース系高分子には該当しないから,甲1発明を「高分子(セルロース系高分子を除く)配向フィルム」ということができる。 さらに,甲1発明において,支持基材であるガラス基板と,配向膜である厚さ89nmの膜とを剥離して,光学フィルム単独のフィルムとすることは,甲1の「支持基材を剥離して,・・・(中略)・・・さらに,配向膜を剥離して,光学フィルムを得ることができる。」(86ページ10及び11行。前記3(1)ア(キ)を参照。)という記載からみて,甲1に記載されたも同然の事項であるから,甲1発明を「一枚」の光学フィルムということができる。 以上によれば,甲1発明は,「一枚の高分子(セルロース系高分子を除く)配向フィルムからなる位相差フィルム」であるという本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成を具備している。 (イ) 甲1発明は,「式(v-1)で表される化合物」を重合させたもの(以下,「液晶ポリマー」という。)からなるところ,当該「液晶ポリマー」が本件特許発明1の「高分子」に,「式(v-1)で表される化合物」が本件特許発明1の「第1モノマー単位」及び「第2モノマー単位」にそれぞれ相当する。 そして,「式(v-1)で表される化合物」の固有複屈折がゼロでないこと,すなわち,正又は負の値を有することは,式(v-1)が示す構造が棒状液晶化合物であることから,自明である。 したがって,甲1発明の「液晶ポリマー」は,「正又は負の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第1モノマー単位と記す。)と,少なくとも1種類以上の第1モノマー単位と同じ符号の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第2モノマー単位と記す。第2モノマー単位は第1モノマー単位と同一でもよい。)を含有」するという本件特許発明1の「高分子」に係る発明特定事項に相当する構成を具備している。 (ウ) 甲1発明は,「式(v-1)で表される化合物」単独の重合体すなわちホモポリマーからなるところ,甲1発明のRe(450)/Re(550)が0.848であるから,「式(v-1)で表される化合物」のホモポリマーのRe(450)/Re(550)は0.848であり,本件特許発明1の「R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < 1」なる式(1)を満足する。 したがって,甲1発明の「式(v-1)で表される化合物」は,「ホモポリマーが式(1)を満足」するという本件特許発明1の「第1モノマー単位」に係る発明特定事項に相当する構成を具備している。 (エ) 前記(ア)ないし(ウ)に照らせば,本件特許発明1と甲1発明は, 「一枚の高分子(セルロース系高分子を除く)配向フィルムからなる位相差フィルムであって,前記高分子が正又は負の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第1モノマー単位と記す。)と,少なくとも1種類以上の第1モノマー単位と同じ符号の固有複屈折を有するモノマー単位(以下,第2モノマー単位と記す。第2モノマー単位は第1モノマー単位と同一でもよい。)を含有し,第1モノマー単位のホモポリマーが下記式(1)を満足することを特徴とする位相差フィルム。 R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < 1 (1) (式中,R^(1)_(450)は,波長450nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し,R^(1)_(550)は,波長550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし,R^(1)_(450)とR^(1)_(550)は,同一サンプルを測定したものである。)」 である点で一致し,次の点で相違する。 相違点1: 本件特許発明1の「高分子」を構成する「第1モノマー単位」及び「第2モノマー単位」は,それらのホモポリマーが,「R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < R^(2)_(450)/R^(2)_(550)」なる「式(3)」と,「|Δn^(1)_(0)|> |Δn^(2)_(0)|」なる「式(2-1)」とを満足するような関係にあるのに対して, 甲1発明の「液晶ポリマー」は「式(v-1)で表される化合物」のホモポリマーであることから,甲1発明における「第1モノマー単位」及び「第2モノマー単位」は,ホモポリマーが「R^(1)_(450)/R^(1)_(550) = R^(2)_(450)/R^(2)_(550)」及び「|Δn^(1)_(0)|= |Δn^(2)_(0)|」の関係にあり,「式(3)」及び「式(2-1)」のいずれも満足しない点。 イ 判断 (ア)新規性欠如について 本件特許発明1と甲1発明の間に,相違点1がある以上,本件特許発明1は甲1発明と同一発明とはいえない。 (イ)進歩性欠如について 甲1には,甲1発明の材質として,各ホモポリマーが「式(3)」及び「式(2-1)」を満足する関係にある「第1のモノマー単位」及び「第2のモノマー単位」を含む高分子を用いること(相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項)については,記載も示唆もない。 したがって,本件特許発明1は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (2)本件特許発明4,9,12及び13について 本件特許発明4,9,12及び13と甲1発明とを対比すると,少なくとも,前記(1)ア(エ)で認定した相違点1で相違する。 したがって,前記(1)イ(ア)及び(イ)で述べたのと同様の理由で,本件特許発明4,9,12及び13は,いずれも,甲1発明と同一発明ではなく,かつ,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)小括 前記(1)及び(2)のとおりであるから,取消理由1によって,本件特許の請求項1,4,9,12及び13に係る特許を取り消すことはできない。 5 取消理由2についての判断 取消理由2の対象とされたのは,本件訂正前の請求項1ないし4,7ないし13に係る発明であるところ(特許異議申立人が,取消理由2に対応する理由(特許異議申立書14ページ5行ないし17ページ4行。)で特許異議の申し立てをした請求項も同じである。),請求項2,3,7及び8については,本件訂正により削除されたから,取消理由2の対象となる本件訂正後の請求項は,請求項1,4,9ないし13である。 そこで,本件特許発明1,4,9ないし13について,取消理由2の成否を検討する。 (1)本件特許発明1について ア 甲2発明の「モノマーA」(いわゆる「ビスフェノールA」)は,当該モノマーAからなるホモポリマーが正の屈折率異方性を有し,R_(450)/R_(550)が1.08となるものであり,「モノマーB」(いわゆる「ビスクレゾールフルオレン」)は,当該モノマーBからなるホモポリマーが負の屈折率異方性を有し,R_(450)/R_(550)が1.14となるものであるところ(各モノマーの屈折率異方性及びR_(450)/R_(550)については,本件特許の訂正明細書の【0005】に「特許文献4」として記載された国際公開第00/26705号の明細書38ページの〔A〕の構造式,39ページの〔G〕の構造式,及び40ページの表3を参照。),本件特許の訂正明細書の「上記説明は二成分に関するが,三成分以上でも上記の考え方は成立する。例えば,第1モノマー単位の規定に該当する成分が複数ある場合には,複数成分の複屈折率値及び複屈折分散値等を体積分率等で補正して複数成分を一成分と見なし,第2モノマー単位も同様に補正して一成分と見なして最終的に第1モノマー単位と第2モノマー単位との組み合わせに変換し,上記式(a)以下の考察の考え方を適用することが可能である。・・・(中略)・・・共重合体どうしの高分子ブレンドでも,上述した考察の考え方を同様に適用することができる。即ち,この場合には,高分子ブレンドの成分高分子を構成するモノマー単位に分けて,その高分子ブレンドをそれぞれのモノマー単位からなる単独重合体の集合体と見なし,この集合体を第1モノマーの規定を満足する単独重合体の群からなる成分Aと負の異方性を有する単独重合体の群からなる成分Bとの組合せと見なして,上記の考察を適用すればよい。」(【0044】,【0045】)との記載に照らせば,甲2発明の「モノマーA」及び「モノマーB」のうちの一方が,本件特許発明1の「第1のモノマー単位」に相当し,他方が本件特許発明1の「第2のモノマー単位」に相当するから,本件特許発明1と甲2発明とは,次の点で相違し,その余の点で一致する。 相違点2: 本件特許発明1の「第1モノマー単位」及び「第2モノマー単位」は,同じ符号の固有複屈折を有するのに対して, 甲2発明の「モノマーA」及び「モノマーB」は,異なる符号の固有複屈折を有する点。 相違点3: 本件特許発明1の「第1モノマー単位」は,そのホモポリマーが「R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < 1」なる「式(1)」を満足するのに対して, 甲2発明の「モノマーA」及び「モノマーB」は,それらのホモポリマーの「R^(1)_(450)/R^(1)_(550)」がそれぞれ1.08及び1.14であって,いずれも「式(1)」を満足しない点。 イ 判断 (ア)新規性欠如について 本件特許発明1と甲2発明の間に,相違点2及び相違点3がある以上,本件特許発明1は甲2発明と同一発明とはいえない。 (イ)進歩性欠如について 甲2には,甲2発明の材質として,モノマーA及びモノマーBの一方に代えて,他方のモノマーと同じ符号の固有複屈折を有するとともに,そのホモポリマーが「R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < 1」なる「式(1)」を満足するようなモノマーを用いること(相違点2及び相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項)については,記載も示唆もない。 したがって,本件特許発明1は,甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (2)本件特許発明4,9ないし13について 本件特許発明4,9ないし13と甲2発明とを対比すると,少なくとも,前記(1)アで認定した相違点2及び3で相違する。 したがって,前記(1)イ(ア)及び(イ)で述べたのと同様の理由で,本件特許発明4,9ないし13は,いずれも,甲2発明と同一発明ではなく,かつ,甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)小括 前記(1)及び(2)のとおりであるから,取消理由2によって,本件特許の請求項1,4,9ないし13に係る特許を取り消すことはできない。 6 取消理由3についての判断 取消理由3の対象とされたのは,本件訂正前の請求項1ないし4,7ないし9,12,13に係る発明であるところ(特許異議申立人が,取消理由2に対応する理由(特許異議申立書17ページ5行ないし18ページ23行。)で特許異議の申し立てをした請求項も同じである。),請求項2,3,7及び8については,本件訂正により削除されたから,取消理由3の対象となる本件訂正後の請求項は,請求項1,4,9,12及び13である。 そこで,本件特許発明1,4,9,12及び13について,取消理由3の成否を検討すると,甲1及び甲2のいずれにも,本件特許発明1,4,9,12及び13の発明特定事項である「正又は負の固有複屈折を有する第1モノマー単位と,少なくとも1種類以上の第1モノマー単位と同じ符号の固有複屈折を有するとともに第1モノマー単位とは異なる第2モノマー単位を含有し,第1モノマー単位のホモポリマーが『R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < 1』なる式(1)を満足する」点については記載も示唆もない。 したがって,本件特許発明1,4,9,12及び13は,いずれも,甲1発明及び甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。 よって,取消理由3によって,本件特許の請求項1,4,9,12及び13に係る特許を取り消すことはできない。 7 取消理由4についての判断 (1)「第1モノマー単位」に関する明確性要件違反について 本件訂正によって,特許明細書中の「9,9’-ビス[2-(3-エトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」との記載は,反応性のヒドロキシ基を有する「9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン」に訂正されたから,本件特許の明細書(訂正明細書)を参酌しても,本件訂正後の各請求項に記載された「モノマー単位」なる用語がモノマーとして機能し得ないものを包含しているとはいえなくなった。 したがって,この点において,本件特許の請求項1,4,6,9ないし13が,明確性要件に違反するとはいえない。 (2)請求項10ないし13に係る発明に関するサポート要件違反について 本件特許の明細書(訂正明細書)の【0056】には,「これらの中でも,炭素数4から22の環状構造,またはヘテロ原子を含む炭素数4から22の環状構造を有するものが好ましく,特には複数の環を有するものが好ましい。」との記載が存在し,当該記載中の「ヘテロ原子を含む環状構造」の好ましい炭素数についての説明は,「ヘテロ原子を含む環状構造」の炭素数が「4ないし22」という範囲内のいずれの値であっても好ましいことを説明するものと解するのが相当である。 しかるに,本件訂正後の請求項10には,「ヘテロ原子を含む炭素数4から20の環状構造」と記載されているが,前記明細書中の記載に照らせば,当該請求項10記載の「4から20」という範囲内の炭素数はいずれの値も,好ましい炭素数として,明細書に開示されているということになる。 したがって,この点において,本件特許の請求項10ないし13が,サポート要件に違反するとはいえない。 (3)請求項10ないし13に係る発明に関する明確性要件違反について 本件訂正によって,請求項10中には「または」及び「もしくは」が混在する記載が存在しなくなったため,請求項10の記載が指し示す内容が明確に特定し難いとはいえなくなった。 したがって,この点において,本件特許の請求項10ないし13が,明確性要件に違反するとはいえない。 (4)小括 前記(1)ないし(3)のとおりであるから,取消理由4によって,本件特許の請求項1,4,6,9ないし13に係る特許を取り消すことはできない。 8 特許異議申立人の主張について 特許異議申立書に記載された特許異議申立理由のうち,取消理由通知で取り上げなかった理由はない。 なお,特許異議申立人は,平成28年12月21日に提出した意見書において,本件訂正後の請求項1には,式(3)及び式(2-1)についての要件が記載されており,当該要件は,第1モノマー単位と第2モノマー単位とが異なるものである必要があるにもかかわらず,「第2モノマー単位は第1モノマー単位と同一でもよい。」とも記載されていることから,明確性要件に違反する旨主張する。 しかしながら,本件訂正後の請求項1において,たとえ,第2モノマー単位について「第2モノマー単位は第1モノマー単位と同一でもよい。」と規定されているとしても,式(3)及び式(2-1)を満足するとの要件によって,第2モノマー単位が第1モノマー単位と同一のものは,本件特許発明1の技術的範囲から除外されていることは明らかなのであって,この点に関して本件特許発明1が不明確であるとはいえない。 このような事情は,本件訂正後の請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項4,6,9ないし13についても同様である。 したがって,当該特許異議申立人の主張は採用できない。 第4 むすび 以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許の請求項1,4,6,9ないし13に係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許の請求項1,4,6,9ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項2,3,5,7及び8に係る特許は,訂正により削除されたため,本件特許の請求項2,3,5,7及び8に対して,特許異議申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 位相差フィルム 【技術分野】 【0001】 本発明は、正の屈折率異方性をもつモノマー単位と、該モノマー単位と同じ符号の固有複屈折を有するモノマー単位とを含有する、波長400nm?700nmにおいて、負の波長分散性を発現する位相差フィルムに関し、特に配向性に優れ、位相差フィルムを薄くすることができる。 本発明はまた、この位相差フィルムを用いた液晶パネルと画像表示装置に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、家庭用TVの分野においても、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイに代表される薄型の平面パネルディスプレイ(FPD)の普及が顕著である。 ところで、液晶ディスプレイは、画像の表示に偏光を用いた表示が利用されており、必ず偏光板が必要とされる。また、偏光板と併せて、視野角拡大や色つきや色むら抑制等の表示品質を向上させる目的で、各種の光学フィルムが開発され、利用されている。 【0003】 この目的で種々の光学フィルムが開発、利用されているが、その中でも透明性、耐熱性、吸湿性に優れた脂環式ポリオレフィンを用いた光学フィルムが一般的に用いられている。しかし、脂環式ポリオレフィンからなる位相差フィルムは、位相差の波長依存性(波長分散特性)がフラットであるため、例えば脂環式ポリオレフィンで1/4波長板(入射した光と出射する光の位相が1/4波長ずれるフィルム)を作製した場合、入射した波長400nmと800nmの光では、400nmでは100nm、800nmでは200nmの位相ずれが起こる。この位相のずれは、色つきや色むら等の画像むらの原因となる。 【0004】 そこで波長の広帯域において位相差が1/4波長となるような広帯域1/4波長板が求められている。これに相当するものとして、例えば、(1)複屈折の波長分散の異なる2種類の位相差フィルムを各々の遅相軸が直交するように積層することにより、広帯域の位相差フィルムが得られることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、(2)1/2波長板と1/4波長板をそれぞれの遅相軸がある特定の配置を取るように積層することによって得られる方法も開示されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、(3)特定のアセチル化度を有するセルロースアセテートからなる広帯域位相差フィルム(例えば、特許文献3参照)や、(4)フルオレン環を側鎖に有するビスフェノール構造を含むポリカーボネート共重合体及び負の波長分散性を示す位相差フィルムが開示されている(例えば、特許文献4参照)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】特開平2-285304号公報 【特許文献2】特開平10-68816号公報 【特許文献3】特開2000-137116号公報 【特許文献4】国際公開第2000/26706号パンフレット 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、(1)や(2)のような波長板を積層する方法は、表示機器の厚みを極力薄くしようとする動向に反するものであり、また遅相軸を特定の配置になるように組み付けなければならず、非常に煩雑な作業を要するという問題点がある。 また、(3)?(4)においては一枚で広帯域において位相差が負の波長分散特性を有するフィルムが記載されている。しかし(3)の特定のアセチル化度を有するセルロースアセテートは(4)の明細書中に記載されている通り「位相差波長分散の制御が困難であり、例えば、位相差波長分散を制御し様々な用途によって異なる最適な位相差波長分散を有する位相差フィルム(例えば反射型液晶表示装置におけるλ/4板)を提供することが困難である。その理由は、酢酸セルロースはアセチル化度にもよるが吸水率が4?10%程度有する材料であり、これが原因となって加水分解、寸法変形、配向緩和等の問題が生じ、位相差及びその位相差波長分散を実用的なレベルで長期間保持することが困難であるからである。すなわち材料固有に依存する問題であって、酢酸セルロースフィルムは光学的な耐久性に問題があり不都合なのである。」(特許文献4、第0096段落)といった問題があった。 【0007】 (4)のフルオレン環を側鎖にもつビスフェノール構造を含むポリカーボネート共重合体を用いた場合、ポリマー中に正の屈折率異方性を有するモノマー単位と負の屈折率異方性を有するモノマー単位を有する必要がある。これにより、1)負の波長分散性を発現するためには共重合の組成(正の屈折率異方性を有するモノマー単位と負の屈折率異方性を有するモノマー単位との比率)が限られるため、共重合体の設計自由度が低い。2)正の屈折率異方性を有するモノマーと負の屈折率異方性を有するモノマーの両方を含むため、これらが干渉しあうことからフィルムの屈折率異方性が上がりづらく、配向性を上げるためにはフィルムを厚くする必要があり薄型の機器には適さないといった問題があった。 【0008】 本発明の目的は、上記従来の問題点を解消するものであって、配向性に優れ、光学的な耐久性を有する位相差フィルムを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者は、上記課題を解決するべく、鋭意検討を重ねた結果、特定の固有副屈折と波長分散性を有する二種類以上のモノマーを用いる場合、広い組成比で負の波長分散性を有する高分子配向フィルムが得られることを見出して本発明に到達した。 即ち、本発明の要旨は下記[1]?[13]に存する。 [1]一枚の高分子(セルロース系高分子を除く)配向フィルムからなる位相差フィルムであって、前記高分子が正又は負の固有複屈折を有するモノマー単位(以下、第1モノマー単位と記す。)と、少なくとも1種類以上の第1モノマー単位と同じ符号の固有複屈折を有するモノマー単位(以下、第2モノマー単位と記す。第2モノマー単位は第1モノマー単位と同一でもよい。)を含有し、第1モノマー単位のホモポリマーが下記式(1)を満足することを特徴とする位相差フィルム。 【0010】 R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < 1 (1) (式中、R^(1)_(450)は、波長450nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し、R^(1)_(550)は、波長550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。) [2]第2モノマー単位と第1モノマー単位とが同一である[1]に記載の位相差フィルム。 [3]下記式(3)を満足することを特徴とする[1]に記載の位相差フィルム。 【0011】 R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < R^(2)_(450)/R^(2)_(550) (3) (式中、R^(1)_(450)は、波長450nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し、R^(1)_(550)は、波長550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し、R^(2)_(450)は、波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し、R^(2)_(550)は、波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。) [4]下記式(4)を満足することを特徴とする[3]に記載の位相差フィルム。 【0012】 R^(2)_(450)/R^(2)_(550) > 1 (4) (式中、R^(2)_(450)は、波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し、R^(2)_(550)は、波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。) [5]下記式(2-1)を満足することを特徴とする[3]または[4]に記載の位相差フィルム。 【0013】 |Δn^(1)_(0)|> |Δn^(2)_(0)| (2-1) (式中、|Δn^(1)_(0)|及び|Δn^(2)_(0)|は、それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折の絶対値及び第2モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折の絶対値を表す。) [6]下記式(2-2)を満足することを特徴とする[5]に記載の位相差フィルム。 【0014】 Δn^(1)_(0) > Δn^(2)_(0) > 0 (2-2) (式中、Δn^(1)_(0)及びΔn^(2)_(0)は、それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折及び第2モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折を表す。) [7]下記式(2-3)を満足することを特徴とする[3]に記載の位相差フィルム。 |Δn^(1)_(0)|< |Δn^(2)_(0)| (2-3) (式中、|Δn^(1)_(0)|及び|Δn^(2)_(0)|は、それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折の絶対値及び第2モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折の絶対値を表す。) [8]下記式(2-4)を満足することを特徴とする[3]または[7]に記載の位相差フィルム。 【0015】 0 < Δn^(1)_(0) < Δn^(2)_(0) (2-4) (式中、Δn^(1)_(0)及びΔn^(2)_(0)は、それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折及び第2モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折を表す。) [9]第2モノマー単位からなるホモポリマーが、下記式(5)を満足することを特徴とする[3]乃至[8]のいずれか1つに記載の位相差フィルム。 【0016】 1 < R^(2)_(450)/R^(2)_(550) < 1.1 (5) (式中、R^(2)_(450)は、波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し、R^(2)_(550)は、波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。) [10]第2モノマー単位が、炭素数4から22の環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の環状構造であることを特徴とする[3]乃至[9]のいずれか1つに記載の位相差フィルム。 [11]高分子が、ポリエステル、ポリエステルカーボネート及びポリカーボネートのいずれかであることを特徴とする[1]乃至[10]のいずれか1つに記載の位相差フィルム。 [12][1]乃至[11]のいずれか1つに記載の位相差フィルムを用いたことを特徴とする液晶パネル。 [13][12]に記載の液晶パネルを備えることを特徴とする画像表示装置。 【発明の効果】 【0017】 本発明の位相差フィルムは、光学的な耐久性を有し薄型の機器に適する配向性に優れた位相差フィルムである。 【図面の簡単な説明】 【0018】 【図1】高分子Bの体積分率φに対する(Δn_(450)/Δn_(550))-βの値(γ>0の場合) 【図2】高分子Bの体積分率φに対する(Δn_(450)/Δn_(550))-βの値(γ<0の場合) 【発明を実施するための形態】 【0019】 以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。 本発明においては、波長450、550nmにおける高分子配向フィルムの位相差をR_(450)、R_(550)と表記する。高分子配向フィルムの位相差は、光が厚さdのフィルムを透過したときにフィルムの配向方向とそれに垂直な方向の光の進行速度(屈折率)の差にもとづく位相の差をいい、配向方向とそれに垂直な方向の屈折率の差Δnとフィルムの厚さdとの積Δn・dで表わされることは知られている。 【0020】 本発明における高分子配向フィルムの配向とは、高分子分子鎖が主として特定の方向に並んだ状態を指しており、この状態はフィルムの位相差(Δn・d)測定により測定し得るが、ここでいう配向とは測定波長550nmで位相差R_(550)が20nm以上を指す。 配向は、通常フィルムの延伸によって生ずる。 位相差は高分子配向フィルムが同一であれば複屈折Δnに比例するので、位相差の波長分散(波長依存性)は複屈折Δnの波長分散(波長依存性)で表わすことができる。高分子配向フィルムの面内における配向方向の屈折率がそれと垂直な方向の屈折率より大きい場合を、光学的異方性が正といい、逆の場合を光学的異方性が負という。ここで高分子配向フィルムの配向方向は、例えば、フィルムを公知の位相差フィルム製造条件であるガラス転移点温度Tg近傍(Tg±20℃)の条件で一軸延伸した場合には、その延伸方向になる。二軸延伸の場合には配向が高くなるように延伸した方向をいう。本発明において、光学異方性の正負を判断するのに用いる測定光学波長は550nmとする。 【0021】 以下、本発明の第1モノマー単位からなる高分子を高分子B、第2モノマー単位からなる高分子を高分子Aとして、本発明の原理を説明する。 一般に、高分子Aと高分子Bの二成分からなる高分子ブレンドの複屈折Δnは、以下のように表されることが知られている。(H.Saito and T.Inoue,Jouranal Polymer Science.PartB,25,1629(1987) Δn=Δn^(A)_(0)×f^(A)×φ^(A)+Δn^(B)_(0)×f^(B)×φ^(B)+Δn_(f) (a) (ここでΔn^(A)_(0)、Δn^(B)_(0)は高分子A及びBの固有複屈折、f^(A)、f^(B)は高分子A及びBの配向関数、φ^(A)、φ^(B)は高分子A及びBのブレンド高分子中の高分子A及びBの体積分率を、Δn_(F)は構造性複屈折を表す。) 一般に、複屈折Δnは、Δn=f×Δn_(0)で表される。 【0022】 前記式(a)は、高分子Aと高分子B間の電子的な相互作用による分極率の変化は完全に無視しているが、以下でもこの仮定を採用する。また、本発明のような位相差フィルム用途では、光学的に透明であることが要求されることより、ブレンドは相溶ブレンドであることが好ましく、この場合には、Δn_(f)は非常に小さく、無視することができる。 次に、波長450nmと550nmの位相差R_(450)/R_(550)の比が1より小さくなる位相差フィルムについて、位相差はΔn×dで表されるので、R_(450)/R_(550)は、Δn_(450)/Δn_(550)と置き換えることができる。これを式(a)を用いて表すと、 Δn_(450)/Δn_(550)=(Δn^(A)_(0-450)×f^(A)×φ^(A)+Δn^(B)_(0-450)×f^(B)×φ^(B))/(Δn^(A)_(0-550)×f^(A)×φ^(A)+Δn^(B)_(0-550)×f^(B)×φ^(B)) (b) となり、相溶ブレンドであるので、f^(A)=f^(B)と仮定すると、次の様に表せる。 【0023】 Δn_(450)/Δn_(550)=(Δn^(A)_(0-450)×φ^(A)+Δn^(B)_(0-450)×φ^(B))/(Δn^(A)_(0-550)×φ^(A)+Δn^(B)_(0-550)×φ^(B)) (c) 高分子AとBの二成分を考えているので、高分子Bの体積分率φ^(B)をφと置くと、高分子Aの体積分率φ^(A)は(1-φ)とおくことができるので、式(c)は次のように表すことができる。 【0024】 Δn_(450)/Δn_(550)={Δn^(A)_(0-450)×(1-φ)+Δn^(B)_(0-450)×φ}/{Δn^(A)_(0-550)×(1-φ)+Δn^(B)_(0-550)×φ} (d) 式(d)を見ると、Δn_(450)/Δn_(550)は、Δn^(A)_(0-550)とΔn^(B)_(0-550)が等しい場合には、高分子Bの体積分率φに対して直線になるが、通常は双曲線になることが判る。 ここで、双曲線が発散する高分子Bの体積分率を特異点と呼び、φ_(s)と表記する。φ_(s)は式(d)の分母が0になる条件として与えられる。即ち式(e)を満たす。 【0025】 Δn^(A)_(0-550)×(1-φ_(s))+Δn^(B)_(0-550)×φ_(s)=0 (e) 式(e)をさらに変形すると、式(f)が得られる。 φ_(s)=1/{1-(Δn^(B)_(0-550)/Δn^(A)_(0-550))} (f) 高分子Bの体積分率φは実際には0以上1以下の範囲でしか変化できないが、Δn^(B)_(0-550)/Δn^(A)_(0-550)によって定まる特異点φ_(s)は、この範囲をはずれてもよい。 【0026】 一方、式(d)は、y(φ)=(cφ+d)/(aφ+b)と見ることができるので、これをさらに、y(φ)-β=γ/(φ-α)の形に変形する。 (Δn_(450)/Δn_(550))-β=γ/(φ-φ_(s)) (g) 但し、β=(Δn^(B)_(0-450)/Δn^(B)_(0-550))×(1-φ_(s))+(Δn^(A)_(0-450)/Δn^(A)_(0-550))×φ_(s) (h) γ=(1-φ_(s))×φ_(s)×{Δn^(B)_(0-450)/Δn^(B)_(0-550)-Δn^(A)_(0-450)/Δn^(A)_(0-550)} (i) である。 【0027】 式(g)は、φ_(s)、Δn^(A)_(0-450)/Δn^(A)_(0-550)及びΔn^(B)_(0-450)/Δn^(B)_(0-550)が定まれば、双曲線が定まることを示している。 x軸をφ、y軸を(Δn_(450)/Δn_(550))-βとして、式(g)をプロットすると、γの符号により2種類の双曲線を描くことができる。 図1にはγ>0の場合を、図2にはγ<0の場合を示した。 【0028】 式(g)は、φ_(s)、Δn^(A)_(0-450)/Δn^(A)_(0-550)及びΔn^(B)_(0-450)/Δn^(B)_(0-550)が定まれば、双曲線が定まることを示している。 x軸をφ、y軸を(Δn_(450)/Δn_(550))-βとして、式(g)をプロットすると、γの符号により2種類の双曲線を描くことができる。 図1にはγ>0の場合を、図2にはγ<0の場合を示した。 【0029】 特異点φ_(s)の位置により、双曲線の種類をさらに分類できる。図1及び図2において、 (I)φ_(s)<0の場合を実線、(II)0<φ_(s)<1の場合を粗点線、(III)φ_(s)>1の場合を細点線で示している。 尚、図1の高分子Aと高分子Bを入れ替えれば図2になるので、両図に本質的な差異はない。以下、図1、即ちγ>0の場合を説明する。 【0030】 式(f)を用いれば、特異点φ_(s)による分類を、波長550nmにおける高分子Aの固有複屈折Δn^(A)_(0-550)と高分子Bの固有複屈折Δn^(B)_(0-550)を用いた表記に変換できる。 (I)φ_(s)<0の場合は Δn^(A)_(0-550) < Δn^(B)_(0-550)かつΔn^(A)_(0-550)、Δn^(B)_(0-550)が共に正 または Δn^(A)_(0-550) > Δn^(B)_(0-550)かつΔn^(A)_(0-550)、Δn^(B)_(0-550)が共に負 を表す。 【0031】 (II)0<φ_(s)<1の場合は Δn^(A)_(0-550)が正かつΔn^(B)_(0-550)が負 または Δn^(A)_(0-550)が負かつΔn^(B)_(0-550)が正 を表す。 【0032】 (III)φ_(s)>1の場合は Δn^(A)_(0-550) > Δn^(B)_(0-550)かつΔn^(A)_(0-550)、Δn^(B)_(0-550)が共に正 または Δn^(A)_(0-550) < Δn^(B)_(0-550)かつΔn^(A)_(0-550)、Δn^(B)_(0-550)が共に負 を表す。 【0033】 ここで、φ_(s)=0やφ_(s)=1となる可能性もあるが、特殊な場合であり、分類から除外している。φ_(s)=0の場合はΔn^(A)_(0-550)=0、φ_(s)=1の場合はΔn^(B)_(0-550)=0であることを表している。 特許文献4に記載の発明が規定する双曲線は、(II)0<φ_(s)<1の場合(図1に粗点線で示した双曲線に相当)であり、正の屈折率異方性と負の屈折率異方性を有する高分子を組み合わせることが必須である。位相差フィルムにはフィルムの厚みを厚くすること無く高い位相差が求められるが、特許文献4に記載の発明の場合、正の屈折率異方性の高分子と負の屈折率異方性の高分子が打ち消し合い、大きな複屈折が得られない場合が多い。 【0034】 本発明が規定する双曲線は(I)φ_(s)<0の場合(図1に実線で示した双曲線に相当)および(III)φ_(s)>1の場合(図1に細点線で示した双曲線に相当)を規定したものである。本発明においては同符号の屈折率異方性を有する高分子を組み合わせることを条件としているため、屈折率異方性が打ち消し合わず、比較的大きな複屈折が得られる。 まず、(I)φ_(s)<0の場合について説明する。 【0035】 ここで、実際に変化させ得る高分子Bの体積分率φの範囲は0以上1以下である。この範囲内でΔn_(450)/Δn_(550)<1となるφの値が存在するためには、以下の不等式(l)を満たす必要がある。 Δn^(B)_(0-450)/Δn^(B)_(0-550)<1 (l) つまり本発明では、図1に実線で示した双曲線に関して、高分子Bの体積分率φが0以上1以下の範囲を規定の対象としている。この範囲で双曲線は下凸の形状をしている。そのため、Δn_(450)/Δn_(550)を小さくするためには、φを大きくする、即ち特異点φ_(s)から離す必要がある。φがφ_(s)から離れれば、Δn_(450)/Δn_(550)の変化は小さくなるため、実際に製造する時の制御が容易になる。また、φが0以上1以下の範囲に特異点を含まないので、Δn_(450)/Δn_(550)<1を満たすφの範囲が広い利点もある。 【0036】 高分子Bは第1モノマー単位のホモポリマーであることから、上記式(l)から以下の式(1)が導かれる。 R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < 1 (1) (式中、R^(1)_(450)およびR^(1)_(550)は、波長450nmと550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。) 本発明の式(2-1)は、第1モノマー単位を高分子Bの構成単位、第2モノマー単位を高分子Aの構成単位とした場合に、(I)φ_(s)<0の場合の条件(Δn^(A)_(0-550) < Δn^(B)_(0-550)かつΔn^(A)_(0-550)、Δn^(B)_(0-550)が共に正、またはΔn^(A)_(0-550) > Δn^(B)_(0-550)かつΔn^(A)_(0-550)、Δn^(B)_(0-550)が共に負)を要約したものである。 【0037】 |Δn^(1)_(0)| > |Δn^(2)_(0)| (2-1) (式中、|Δn^(1)_(0)|及び|Δn^(2)_(0)|は、それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折の絶対値及び第2モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折の絶対値を表す。) モノマーの合成のしやすさから、式(2-1)の中でも以下の式(2-2)を満たすものが好ましい。 【0038】 Δn^(1)_(0)> Δn^(2)_(0) >0 (2-2) (式中、Δn^(1)_(0)及びΔn^(2)_(0)は、それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折及び第2モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折を表す。) また、上記の(I)?(III)の分類はγ>0を前提としたものであることから、式(i)を用いて式(m)が導かれる。 【0039】 Δn^(A)_(0-450)/Δn^(A)_(0-550) > Δn^(B)_(0-450)/Δn^(B)_(0-550) (m) 本発明の式(3)は式(m)と同義である。 R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < R^(2)_(450)/R^(2)_(550) (3) (式中、R^(1)_(450)/R^(1)_(550)及びR^(2)_(450)/R^(2)_(550)は、それぞれ波長450nmと550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマー及び第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差R_(450)とR_(550)の比を表す。) 次に、(III)φ_(s)>1の場合について説明する。 【0040】 この場合でも、実際に変化させ得る高分子Bの体積分率φの範囲は0以上1以下である。この範囲内でΔn_(450)/Δn_(550)<1となるφの値が存在するためには、以下の不等式(l)を満たす必要がある。 Δn^(B)_(0-450)/Δn^(B)_(0-550)<1 (l) つまり本発明は、図1に細点線で示した双曲線に関して、高分子Bの体積分率φが0以上1以下の範囲を規定の対象としている。この範囲で双曲線は上凸の形状をしている。そのため、Δn_(450)/Δn_(550)を小さくするためには、φを大きくする、即ち特異点φ_(s)に近づける必要がある。この場合、φが0以上1以下の範囲に特異点を含まないので、Δn_(450)/Δn_(550)<1を満たすφの範囲が広い利点がある。 【0041】 高分子Bは第1モノマー単位のホモポリマーであることから、上記式(l)から以下の式(1)が導かれる。 R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < 1 (1) (式中、R^(1)_(450)およびR^(1)_(550)は、波長450nmと550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。) 本発明の式(2-3)は、第1モノマー単位を高分子Bの構成単位、第2モノマー単位を高分子Aの構成単位とした場合に、(III)φ_(s)>1の場合の条件(Δn^(A)_(0-550) < Δn^(B)_(0-550)かつΔn^(A)_(0-550)、Δn^(B)_(0-550)が共に正、またはΔn^(A)_(0-550) > Δn^(B)_(0-550)かつΔn^(A)_(0-550)、Δn^(B)_(0-550)が共に負)を要約したものである。 【0042】 |Δn^(1)_(0)| < |Δn^(2)_(0)| (2-3) (式中、|Δn^(1)_(0)|及び|Δn^(2)_(0)|は、それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折の絶対値及び第2モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折の絶対値を表す。) モノマーの合成のしやすさから、式(2-3)の中でも以下の式(2-4)を満たすものが好ましい。 【0043】 0 < Δn^(1)_(0) < Δn^(2)_(0) (2-4) (式中、Δn^(1)_(0)及びΔn^(2)_(0)は、それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折及び第2モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折を表す。) また、上記の(I)?(III)の分類はγ>0を前提としたものであることから、(III)の場合も(I)の場合と同じく、式(i)を用いて式(m)が導かれる。 【0044】 Δn^(A)_(0-450)/Δn^(A)_(0-550) > Δn^(B)_(0-450)/Δn^(B)_(0-550) (m) 本発明の式(3)は、式(m)と同義である。 R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < R^(2)_(450)/R^(2)_(550) (3) (式中、R^(1)_(450)/R^(1)_(550)及びR^(2)_(450)/R^(2)_(550)は、それぞれ波長450nmと550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマー及び第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差R_(450)とR_(550)の比を表す。) 上記説明は二成分に関するが、三成分以上でも上記の考え方は成立する。例えば、第1モノマー単位の規定に該当する成分が複数ある場合には、複数成分の複屈折率値及び複屈折分散値等を体積分率等で補正して複数成分を一成分と見なし、第2モノマー単位も同様に補正して一成分と見なして最終的に第1モノマー単位と第2モノマー単位との組み合わせに変換し、上記式(a)以下の考察の考え方を適用することが可能である。 【0045】 上記式(a)に基づく説明は高分子A,Bのブレンドとして説明したが、高分子が異なるモノマー単位を含む共重合体の場合にも上述した考察の考え方は同様に成立し、第1モノマー単位に基づく単独重合体(高分子B)と第2モノマー単位に基づく単独重合体(高分子A)とから成ると見なして上記の考え方を適用すればよい。 さらに、単独重合体と共重合体との高分子ブレンドあるいは共重合体どうしの高分子ブレンドでも、上述した考察の考え方を同様に適用することができる。即ち、この場合には、高分子ブレンドの成分高分子を構成するモノマー単位に分けて、その高分子ブレンドをそれぞれのモノマー単位からなる単独重合体の集合体と見なし、この集合体を第1モノマーの規定を満足する単独重合体の群からなる成分Aと負の異方性を有する単独重合体の群からなる成分Bとの組合せと見なして、上記の考察を適用すればよい。 【0046】 なお、本発明のモノマー単位とは、重合が行われる際の基質となる物質のことであり、高分子の基本構造の構成単位となるものである。例えば、ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂の場合、モノマー単位は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)である。一般に、ポリカーボネート樹脂は、溶融重合ではビスフェノールAに代表されるジヒドロキシ化合物と、ジフェニルカーボネートに代表される炭酸ジエステルとの重縮合反応により得られるので、重合の観点からは、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルがモノマーになるが、本発明におけるモノマー単位とは、ジヒドロキシ化合物に由来する部分をいい、炭酸ジエステルに由来する部分は含まない。 【0047】 本発明に用いられる高分子の種類は、セルロース系高分子を除いて特に限定されるものではない。上記の条件を満たすブレンド又は共重合体であればよく、光学性能が良好で、溶融製膜や溶液キャスト製膜ができる熱可塑性樹脂が好ましい。より具体的には例えば、重縮合系ポリマー類、オレフィン系ポリマー類、付加重合系ポリマー類があげられ、重縮合系ポリマー類が好ましい。重縮合系ポリマーとしては、ポリエステル、ポリアミド、ポリエステルカーボネート、ポリエステルアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエステルイミド等があげられ、中でもポリエステル、ポリエステルカーボネート及びポリカーボネートが好ましい。 【0048】 本発明の位相差フィルムが、ブレンドによるポリマーからなるものである場合、光学的に透明である必要があることから、相溶ブレンド又は各々の高分子の屈折率が略等しくなるように選択するのが好ましい。 高分子配向フィルムの吸水率が3重量%以下でないと位相差フィルムとして実用する上で好ましくないため、高分子はフィルムの吸水率が3重量%以下、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1重量%以下、更に好ましくは0.5重量%以下となるように選択することが重要である。 【0049】 第1モノマー単位は、そのホモポリマーの固有複屈折が正又は負であり、R^(1)_(450)/R^(1)_(550) <1を満足する必要がある。従って、第1モノマー単位はホモポリマーの主鎖方向に対して、垂直方向に共役構造を有するものが望ましい。例えば、ナフタレン化合物やフルオレン化合物なら主鎖方向に対して垂直方向にナフタレン環やフルオレン環を配置する、アントラセン化合物なら主鎖方向に対して平行に配置することが望ましい。ナフタレン化合物やフルオレン化合物を主鎖方向に対して垂直に配置する場合は、固有複屈折が負になりやすいので、主鎖方向に化合物全体として固有複屈折が正となるように設計する必要がある。具体的には、例えば、9,9-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン、1,8-ビス(ヒドロキシエチルオキシ)アントラセンなどがあげられる。 【0050】 第2モノマー単位は、第1モノマー単位との組み合わせにより決定されるものであり、そのホモポリマーが第1モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折の符号と同じものであれば限定されない。即ち、第1モノマー単位のホモポリマーの固有複屈折が正の場合、第2モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折も正であって、第1モノマー単位のホモポリマーの固有複屈折が負の場合、第2モノマー単位からなるホモポリマーの固有複屈折も負である。更には先の式(2-1)または式(2-3)と、式(3)とを満足するものが好ましい。 【0051】 第2モノマー単位はそのホモポリマーの波長による位相差の比R^(2)_(450)/R^(2)_(550)は、1より大きくても良いし、1未満であっても良いが、下記式(4)を満たすことが好ましい。 R^(2)_(450)/R^(2)_(550) > 1 (4) (式中、R^(2)_(450)/R^(2)_(550)は、それぞれ波長450nmと550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマー及び第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差R_(450)とR_(550)の比を表す。) これは、高分子の所望の位相差比にする場合、第2モノマー単位のホモポリマーの波長による位相差比が1より大きいと、第1モノマー単位をより多く添加しなければならないためである。 【0052】 第2モノマー単位としては、ジヒドロキシ化合物が好ましく用いられるが、ジヒドロキシ化合物としては、例えば、脂環式ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物、オキシアルキレングリコール類、芳香族ジヒドロキシ化合物、環状エーテル構造のようなヘテロ原子を含む構造を有するジヒドロキシ化合物、などがあげられる。 脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、デカリンジメタノール、トリシクロテトラデカンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、アダマンタンジメタノール、シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジオール、ペンタシクロペンタデカンジオール、ノルボルナンジオール、アダマンタンジオール等があげられ、上述した脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例のうち、特に、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、アダマンタンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類が好ましく、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさという観点から、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが好ましい。 【0053】 脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等があげられる。 オキシアルキレングリコール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール等があげられる。 【0054】 芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’-ジヒドロキシ-ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-2,5-ジエトキシジフェニルエーテル等があげられる。 【0055】 ヘテロ原子を含む構造を有するジヒドロキシ化合物としては、ビス(ヒドロキシアルコキシアリール)アルカン類、ビス(ヒドロキシアルコキシアリール)シクロアルカン類、ジヒドロキシアルコキシジアリールエーテル類、ビスヒドロキシアルコキシアリールスルフィド類、ビスヒドロキシアルコキシアリールスルホキシド類、ビスヒドロキシアルコキシアリールスルホン類、環状エーテル構造を有する化合物類などがあげられる。これらの中でも環状エーテル構造を有する化合物類が好ましい。環状エーテル構造を有する化合物としては、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットなどの無水糖アルコール類や、スピログリコール、ジオキサングルコールなどのアセタール環を有する化合物類があげられる。 【0056】 これらの中でも、炭素数4から22の環状構造、またはヘテロ原子を含む炭素数4から22の環状構造を有するものが好ましく、特には複数の環を有するものが好ましい。 なお、上記例示化合物は何らこれらに限定されるものではない。これらの化合物は、1種又は2種以上を用いることができる。 上記した高分子、すなわち共重合体及び/又はブレンドポリマーは公知の方法によって製造し得る。ポリカーボネートはモノマーの種類によりジヒドロキシ化合物とホスゲンとの重縮合による方法、溶融重縮合法等が好適に用いられる。ブレンドの場合は、相溶性ブレンドが好ましいが、完全に相溶しなくても成分間の屈折率を合わせれば成分間の光散乱を抑え、透明性を向上させることが可能である。 【0057】 本発明の位相差フィルムを構成する高分子配向フィルムの材料高分子の極限粘度は0.3?2.0dl/gであることが好ましい。これ以下では脆くなり機械的強度が保てないといった問題があり、これ以上では溶液粘度が高すぎるため、溶液製膜する際にはダイラインの発生等の問題や、重合終了時の精製が困難になるといった問題がある。 本発明の位相差フィルムは透明であることが好ましく、ヘーズ値は3%以下、全光線透過率は85%以上であることが好ましい。また、本発明における高分子のガラス転移温度は通常110℃以上150℃以下であり、好ましくは120℃以上140℃以下である。ガラス転移温度が過度に低いと耐熱性が悪くなる傾向にあり、フィルム成形後に寸法変化を起こす可能性があり、又、位相差フィルムとし、偏光板と張り合わせた場合にも画像品質を下げる場合がある。ガラス転移温度が過度に高いと、フィルム成形時の成形安定性が悪くなる場合があり、又フィルムの透明性を損なう場合がある。 【0058】 本発明の高分子は、光弾性係数が40×10^(-12)Pa^(-1)以下であることが好ましく、30×10^(-12)Pa^(-1)以下であることが更に好ましい。光弾性係数が過度に大きいと、位相差フィルムとした場合、偏光板と張り合わせると、画面の周囲が白くぼやけるような画像品質の低下が起きる可能性がある。さらに、フェニルサリチル酸、2-ヒドロキシベンゾフェノン、トリフェニルフォスフェート等の紫外線吸収剤や、色味を変えるためのブルーイング剤、酸化防止剤等を添加してもよい。 【0059】 本発明の位相差フィルムは上記ポリカーボネートなどのフィルムを延伸等により配向させたフィルムを用いるものである。かかるフィルムの製造方法としては、公知の溶融押し出し法、溶液キャスト法等が用いられるが、生産効率等の観点から溶融押し出し法がより好ましく用いられる。溶液キャスト法における溶剤としては、メチレンクロライド、ジオキソラン等が好適が用いられる。 【0060】 また、延伸方法も公知の延伸方法を使用し得るが、好ましくは縦一軸延伸である。フィルム中には延伸性を向上させる目的で、公知の可塑剤であるジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸エステル、トリブチルフォスフェート等のりん酸エステル、脂肪族二塩基エステル、グリセリン誘導体、グリコール誘導体等が含有してもよい。 【0061】 また、上記可塑剤や液晶等の添加剤は、本発明の位相差フィルムの位相差波長分散を変化させ得るが、添加量は、ポリマー固形分対比10wt%以下が好ましく、3wt%以下がより好ましい。位相差フィルムの膜厚としては限定するわけではないが、1μmから400μmであることが好ましい。なお、本発明では位相差フィルムと表現しているが、通常厚さにより呼称の変わる「フィルム」あるいは「シート」といわれるいずれのものも含んで、共通して「フィルム」という。 【0062】 本発明の位相差フィルムは各種ディスプレイ(液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED電界放出表示装置、SED表面電界表示装置)の視野角補償用、外光の反射防止用、色補償用、直線偏光の円偏光への変換用などに用いることができる。 液晶表示装置としては、反射型表示方式の液晶パネルを備える反射型液晶表示装置が好ましい。偏光フィルム、λ/4板、及び透明電極を有する2枚の基板間に液晶層を含む液晶セルをこの順で具備する反射型液晶表示装置であって、かかるλ/4板として、液晶表示装置特に偏光フィルム1枚型反射型液晶表示装置に用いることにより、画質に優れた表示装置を得ることが出来る。この反射型液晶表示装置とは、偏光フィルム、位相差フィルム、透明電極付基板、液晶層、散乱反射電極付基板の順に構成されているもの、偏光フィルム、散乱板、位相差フィルム、透明電極付基板、液晶層、鏡面反射電極付基板の順に構成されているもの、偏光フィルム、位相差フィルム、透明電極付基板、液晶層、透明電極付基板、反射層の順に構成されているもの等である。さらに、該λ/4板は透過型と反射型の両方を兼ね備えた液晶表示装置においても使用し得る。該液晶表示装置の構成としては例えば、偏光フィルム、位相差フィルム、透明電極付基板、液晶層、反射透過兼用電極付基板、位相差フィルム、偏光フィルム、バックライトシステム等である。さらに、例えばコレステリック液晶よりなる左右どちらかの円偏光のみ反射する反射型偏光フィルムにおいて、円偏光を直線偏光に変換する素子として使用すれば、広帯域で良好な直線偏光が得られる。 【0063】 液晶表示装置に備わっている液晶セルの表示モードは特に制限されず、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなどを挙げることができる。 【0064】 液晶表示装置には他の部材を備えていてもよい。例えばプリズムアレイシート、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトや輝度向上フィルム等の適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。バックライトとしては、冷陰極管、水銀平面ランプ、発光ダイオード、ELなどがあげられる。 発光素子である有機または無機エレクトロルミネッセンス素子は、発光層の裏側に金属電極を用いているが、この金属電極は光を反射するので、外光存在下ではコントラストが低下する等、著しく視認性が低下する。これを防ぐために、本発明の位相差フィルムと偏光フィルムを組み合わせて円偏光フィルムとし、これを反射防止フィルムとして用いてもよい。この円偏光フィルムは、可視光の広い波長範囲で位相差をλ/4とすることが可能な本発明の位相差フィルムを用いているので、広帯域の波長において反射を防止できるため、反射光に着色が少なく視認性に優れた素子を提供することが出来る。また、タッチパネルとして用いても良く、液晶表示装置、プラズマ表示装置に用いても良い。 【0065】 本発明の位相差フィルムを、透過型液晶表示装置の色調改善や視野角拡大等の画質向上フィルムとして用いることも出来る。液晶表示装置としては例えば、IPSモード、VAモード、MVAモード、OCBモード、TNモード等を挙げることが出来る。本発明の位相差フィルムを他の位相差フィルムや視野角拡大フィルムのような光学補償フィルムと同時に使用しても良い。位相差フィルムの要求特性として、位相差フィルムに入射する角度が正面角度から斜め入射に変化しても位相差が変化しないことが要求される場合がある。 【0066】 この場合には、三次元屈折率nx,ny,nzで表される下記式において、Nzが0.2?1.5の間であることが好ましい。特にNz=0.5のとき、位相差フィルムに入射する角度が正面入射から変化してもほとんど位相差が変化しない。また、位相差フィルム上に何らかの材料をコーティングして更なる光学補償効果や視野角拡大効果を付与したり、湿熱耐久性を向上させたり、耐溶剤性を改良したりしても良い。 【0067】 また、液晶プロジェクター等に於ける光学部材として、例えば、λ/4板、λ/2板等として偏光変換素子や偏光ビームスプリッター等に本発明の位相差フィルムを用いても良い。さらにまた、この位相差フィルムは、光記録装置の光ヘッドにおいて用いられるλ/4板としても用いることができる。特に、かかる位相差フィルムは、多波長に対してλ/4の位相差を与えることができるので、複数のレーザー光源を使う光ヘッドにおいて、位相差の数を減らすことに寄与することができる。 【実施例】 【0068】 以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。本発明において、高分子及び透明フィルムの特性評価は次の方法により行うものである。 (1)固有複屈折 <サンプル作製> 80℃で5時間真空乾燥をした高分子4.0gを、幅8cm、長さ8cm、厚さ0.5mmのスペーサーを用いて、熱プレスにて熱プレス温度200℃?250℃で、予熱1分?3分、圧力20MPaの条件で1分間加圧後、スペーサーごと取り出し、水管冷却式プレスにて圧力20MPaで3分間加圧冷却してシートを作製した。このシートから幅5mm、長さ20mmにサンプルを切り出した。 【0069】 <測定> He-Neレーザー、偏光子、補償板、検光子、及び光検出器からなる複屈折測定装置と振動型粘弾性測定装置(ユービーエム社製「Rheogel E-4000」)を組み合わせた装置を用いて測定した。(詳細は、日本レオロジー学会誌Vol.19,p93-97(1991)を参照。) 切り出したサンプルを粘弾性測定装置に固定し、室温からガラス転移温度近傍まで時間温度換算則を用いて合成曲線が作成できるように数条件で測定した。粘弾性測定装置より貯蔵弾性率E’(ω)及び損失弾性率E“(ω)を測定周波数を1Hzから133Hzまで変化させながら測定した。同時に、出射されたレーザー光を偏光子、試料、補償板、検光子の順に通し、光検出器(フォトダイオード)で拾い、ロックインアンプを通して角周波数ω又は2ωの波形について、その振幅とひずみに対する位相差を求め、これより複屈折Δn^(*)(ω)を求めた。このとき、偏光子と検光子の方向は直交し、またそれぞれ、試料の伸長方向に対してπ/4の角度をなすように調整した。 【0070】 複屈折Δn^(*)(ω)=Δn_(0)×cos(ωt+δ_(B)) 次に、複屈折Δn^(*)(ω)に対して、下式のようにひずみ光学比O^(*)(ω)を定義し、求めた。 ひずみ光学比O^(*)(ω)=Δn^(*)(ω)/ε^(*)(ω) ここで、複屈折と応力はそれぞれ二つの成分関数からなり、修正応力光学則が成立するものとして、それぞれを下式で表すことができる。 【0071】 E’(ω)=E’_(R)(ω)+E’_(G)(ω) O’(ω)=C_(R)×E’_(R)(ω)+C_(G)×E’_(G)(ω) E”(ω)=E”(ω)=E”_(R)(ω)+E”_(G)(ω) O”(ω)=C_(R)×E”_(R)(ω)+C_(G)×E”_(G)(ω) 測定により得られたE’(ω)、E”(ω)及びO*(ω)を用いて、上記4式を解くことができる。 【0072】 固有複屈折Δn_(0)は、 Δn_(0)=5/3×O’(ω=∞)=5/3×C_(R)×E’_(R)(ω=∞) として、求めた。 (測定の原理、測定方法については、高分子論文集Vol.53,No.10,p602-613(1996)を参照。) (2)位相差及び位相差の波長分散性 フィルムを幅4cm、長さ4cmに切り出したサンプルを、位相差測定装置(王子計測機器社製KOBRA-WPR)により測定波長450nmの位相差(R_(450))及び550nmの位相差(R_(550))を測定した。そして測定した位相差(R_(450))と位相差(R_(550)) の比を計算した。 【0073】 (3)複屈折 前記位相差測定装置により波長590nmの位相差(R_(590))を測定した。前記位相差(R_(590))を前記サンプルの厚み(t)で除し、下記式に従い、複屈折を求めた。 複屈折Δn=R_(590)/t (4)ガラス転移温度(Tg) 示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、DSC220)を用いて、高分子約10mgを10℃/minの昇温速度で加熱して測定し、JIS-K7121(1987)に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求め、それをガラス転移温度とした。 【0074】 (5)還元粘度 ポリカーボネート樹脂の還元粘度は森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、溶媒として、塩化メチレンを用い、温度20.0℃±0.1℃で測定した。濃度は0.6g/dLになるように、精密に調整した。 溶媒の通過時間t0、溶液の通過時間tから、下記式: ηrel=t/t0 より相対粘度ηrelを求め、相対粘度ηrelから、下記式: ηsp=(η-η0)/η0=ηrel-1 より比粘度ηspを求めた。 【0075】 比粘度ηspを濃度c(g/dL)で割って、下記式: ηred=ηsp/c より還元粘度(換算粘度)ηredを求めた。 この数値が高いほど分子量が大きい。 <製造例1>1,8-ビス(ヒドロキシエチルオキシ)アントラセンおよびそのホモポリカーボネート 窒素を通じた4つ口の500mL丸底フラスコに、1,8-ジヒドロキシアントラキノン30質量部、テトラブチルアンモニウムブロミド40質量部、エチレンカーボネート21.8質量部、溶媒としてジメチルホルムアミド(以下「DMF」と略記することがある)(180mL)を入れてこれらを溶解させた。フラスコを150℃に加熱したオイルバスに浸し反応を開始した。加熱反応の間の内溶液の温度は145℃であった。反応途中、1.5時間後にエチレンカーボネート21.8質量部、さらに4.0時間後にエチレンカーボネート10.9質量部を追加した。反応は8.0時間行い、その後フラスコをオイルバスからはずし内溶液が室温となるまで冷却した。内溶液を水1500mL中にあけ、ろ過により固形分を濾取後、この固形分をMeOH500mLに加温溶解し、再結晶を行なった。再結晶により得られた目的物(1,8-ビス(ヒドロキシエチル)アントラキノン)は、鶯色の粉末で重量は25.9質量部(収率64%)であった。 【0076】 次いで、窒素を通じた4つ口の500mL丸底フラスコに、上記反応で得られた1,8-ビス(ヒドロキシエチル)アントラキノン10質量部、亜鉛粉末19.9質量部、水(75mL)、28%アンモニア水75mLを入れ、100℃に加熱したオイルバスに浸し反応を行なった。反応の間、25分後に28%アンモニア水20mL、亜鉛粉末5質量部を追加した。反応は合計1時間35分行い、この間内溶液の色が黄土色から灰色がかった緑色に変化するのが観察された。反応終了後、フラスコを氷-水バスに浸し冷却しながら濃塩酸を35mL添加して中和、内溶液が酸性となったのを確認後、酢酸エチル300mLを添加して濾過した。ろ液は酢酸エチル層と水相とに分離し、水相をさらに酢酸エチル100mLで抽出し先の酢酸エチル層とあわせた。一方、濾取された灰色のペースト状物は、酢酸エチル50mLで3回洗浄し、得られた酢酸エチル溶液は同様に先の酢酸エチル相と合わせた。こうして得られた酢酸エチル溶液(550mL)は、飽和重曹水200mL、飽和食塩水200mLで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒をロータリーエバポレーターで留去した。得られた黄色粉末を酢酸エチル/メタノール混合溶媒系から再結晶し、目的物である1,8-ビス(ヒドロキシエチルオキシ)アントラセンを薄黄色の粉末として4.5質量部(収率49%)得た。 【0077】 【化1】 【0078】 こうして得られた1,8-ビス(ヒドロキシエチルオキシ)アントラセンを実施例1の記載の条件で重合することでR_(450)/R_(550)が0.59、固有複屈折率が+0.15のホモポリカーボネートが得られる。 <製造例2>1,4-CHDMのホモポリカーボネート 1,4-シクロヘキサンジメタノール(以下「1,4-CHDM」と略記することがある)186.4質量部、ジフェニルカーボネート(以下「DPC」と略記することがある)290.7質量部、及び触媒として、炭酸セシウム0.2重量%水溶液1.068質量部を反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、反応の第1段目の工程として、加熱槽温度を150℃に加熱し、必要に応じて攪拌しながら、原料を溶解させた(約15分)。 【0079】 次いで、圧力を常圧から13.3kPaにし、加熱槽温度を190℃まで1時間で上昇させながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。 反応容器全体を190℃で15分保持した後、第2段目の工程として、反応容器内の圧力を6.67kPaとし、加熱槽温度を230℃まで、15分で上昇させ、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。攪拌機の攪拌トルクが上昇してくるので、8分で250℃まで昇温し、さらに発生するフェノールを取り除くため、反応容器内の圧力を0.200kPa以下に到達させた。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を水中に押し出して、ポリカーボネートのペレットを得た。得られたホモポリカーボネートの還元粘度は1.007dl/g、R_(450)/R_(550)が1.02、固有複屈折率が+0.066であった。 【0080】 <製造例3> 窒素雰囲気下で、3-(ベンジルオキシ)フェノール6.2gのメチルエチルケトン溶液(80mL)に炭酸カリウム26gと1,2-ジブロモエタン46.5gを添加して還流条件下で15時間かけて攪拌した。反応液は室温まで冷却し、液中の不溶性固体をろ過で取り除いてろ過後のろ液減圧下で濃縮した後、酢酸エチルに溶解させて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と脱塩水で洗浄した。酢酸エチル溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過して減圧下で濃縮し、3-(ベンジルオキシ)フェノールブロモエチルエチル9.0gを得た。収率は95%で、純度は96%であった。同様の操作を繰り返し行った。 【0081】 次いで、フルオレン2.5gと上記操作により得た3-(ベンジルオキシ)フェノールブロモエチルエチル10gをジメチルスルホキシド200mLに溶解し、これにテトラブチルアンモニウムブロミド480mgを加えた。その後、反応液を窒素下で脱気した後、氷-水浴で0℃に冷却し、50wt%の水酸化ナトリウム水溶液6.0mLを滴下した。反応は室温で2時間かけて攪拌して行い、その後1.0Mの塩酸水溶液を添加して反応を停止し、これに酢酸エチルを入れて抽出した。酢酸エチル溶液は脱塩水と飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。この酢酸エチル溶液は、ろ過した後、減圧下に濃縮した。得られた粗製物を減圧下に乾燥して9,9’-ビス[2-(3-ベンジルオキシ)エチル]フルオレン10.0gを得た。収率は96%、純度90%であった。 【0082】 次いで、得られた9,9’-ビス[2-(3-ベンジルオキシ)エチル]フルオレン8.3gを酢酸エチル70mLとエタノール180mLに溶解し、この溶液に5.0wt%のパラジウム-炭素(Pd/C)5.7gを添加した。この溶液を入れたフラスコに水素で満たしたバルーンを取り付け、水素雰囲気下(0.1MPa)で7時間攪拌して、水素化分解を行った。反応終了後、反応混合物をセライトでろ過し、パラジウム-炭素(Pd/C)を取り除いた。ろ過後の溶液は減圧下に濃縮した後、1.0wt%の水酸化ナトリウム水溶液200mLに溶解させた。このアルカリ水溶液をトルエンとヘキサンの混合溶液(1/1)で洗い、疎水性副生物を除去した後、濃塩酸を滴下して酸性に戻した。この酸性水溶液を酢酸エチルで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過、減圧下に濃縮した。得られた粗製物を減圧下に乾燥して、9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン5.0gを得た。収率は94%、純度は99%であった。 【0083】 上記操作で得られた9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン5.0gをN,N-ジメチルアセトアミド150mLに溶解し、炭酸カリウム78mgとエチレンカーボネート2.2gを加えて、150℃で加熱しながら30分間攪拌した。その後、反応生成物を0℃まで冷却した後、1.0Mの塩酸水溶液を加えて酸処理し、これを酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル相を分離した後、酢酸エチル溶液は脱塩水と飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、溶液を減圧下に濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO_(2)、ヘキサン/酢酸エチル=50/50)で精製し、目的とする9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン4.2gを得た。収率は70%であった。 【0084】 【化2】 【0085】 9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレン7.93gとジフェニルカーボネートを11.63g、及び触媒として、炭酸セシウム(0.2重量%水溶液)を0.066mLをそれぞれを反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、反応の第1段目の工程として、反応容器の熱媒温度を150℃にし、必要に応じて攪拌しながら、原料を溶解させた(約15分)。 【0086】 次いで、反応容器内の圧力を常圧から13.3kPaにし、反応容器の熱媒温度を190℃まで1時間で上昇させながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。 反応容器内温度を190℃で15分保持した後、第2段目の工程として、反応容器内の圧力を6.67kPaとし、反応容器の熱媒温度を230℃まで、15分で上昇させ、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。攪拌機の攪拌トルクが上昇してくるので、さらに発生するフェノールを取り除くため、反応容器内の圧力を0.200kPa以下に減圧した。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を水中に押し出した後に、ペレット化を行った。得られたホモポリカーボネートの還元粘度(ηsp/c)は0.462dl/g、ガラス転移温度Tgは、61.2℃であった。 R_(450)/R_(550)が0.988、固有複屈折率が+0.003であった。 【0087】 <製造例4> 9,9’-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン50.0gと炭酸カリウム47.5gにN,N-ジメチルアセトアミド200gを加え、攪拌しながら80℃まで昇温させた後、クロロ酢酸メチル37.3gを滴下し、更に80℃で4時間攪拌した。反応液を25℃まで冷却した後、400mlの水中に反応液を滴下し、白色固体を析出させた。得られた固体を濾過し、水でよく洗浄した。更に、テトラヒドロフラン80gを加え、加熱して溶解させた後、トルエン80gを加えて25℃まで放冷し、析出した白色結晶の9,9’-ビス(3-メチル-4-フェノキシ酢酸)フルオレン(以下、「BMACF」と略記することがある)を回収した。収率は64%であった。 【0088】 【化3】 【0089】 <製造例5> 9,9’-ビス(3-メチル-4-フェノキシ酢酸)フルオレン20.0gをテトラヒドロフラン170mLに溶解し、エチレングリコール82mL(40当量)とナトリウムメトキシド1.0gを加えた。この混合物を攪拌しながら加熱し、反応の進行とともに生成するメタノールをテトラヒドロフランと共沸させて留去した。2時間の間、留去されたテトラヒドロフラン/メタノール量は500mLであり、この留去量に合わせて合計500mLのテトラヒドロフランを追加しながら反応を行った。反応はLC分析で追跡し、原料が全て消費されたことを確認した時点で、反応液を室温まで冷却した。反応混合物は、飽和塩化アンモニウム水溶液にあけ、ジエチルエーテル200mLと酢酸エチル100mLで抽出し、分液して得られた有機相は脱塩水で3回洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、減圧下に濃縮し、室温まで冷却した。この間に析出した半固体状の化合物を分離して減圧下で乾燥することによって、下記化学式で示す化合物(以下「BHEACF」と略記することがある)を得た。収率は71%、LC純度は98%であった。 【0090】 9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを得られたBHEACF20.28gに、DPCの使用量を8.48gに変えた以外は、製造例3と同様にしてホモポリカーボネートを得た。 得られたホモポリカーボネートのTgは97.3℃であった。 【0091】 【化4】 【0092】 <製造例6> エチレングリコールを1,4-シクロヘキサンジメタノール220gに変えた以外は、製造例5と同様に反応を行い、下記化学式で表される化合物(以下「BCHDMCF」と略記することがある)22.9gを得た。収率は80%、LC純度98%であった。 9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを得られたBCHDMCF28.99gに、DPCの使用量を8.48gに変えた以外は、製造例3と同様にしてホモポリカーボネートを得た。 【0093】 【化5】 【0094】 <製造例7> 製造例2において、1,4-CHDMをイソソルバイド127.34質量部に、DPCの使用量を190.4質量部に変更した以外は、製造例2と同様にして、ポリカーボネートのペレットを得た。 下記表1に、製造例1?3、および製造例5?7で得られたモノマーから得られたポリマーの物性を示す。 【0095】 【表1】 【0096】 製造例1で得られたモノマーのホモポリマーがR_(450)/R_(550)<1を満たし、第1モノマー単位の原料に相当する。 <実施例1> 窒素を通じた50mL3つ口フラスコにトリホスゲン0.607質量部、乾燥テトラヒドロフラン(以下「THF」と略記することがある)(市販品 10mL)を入れ、氷-水浴で冷却した。この中に製造例1で得た1,8-ビス(ヒドロキシエチルオキシ)アントラセン0.5質量部と1,4-シクロヘキサンジメタノール0.725質量部とを乾燥ピリジン13.3質量部に溶解した溶液をシリンジで55分かけて滴下した。この間、薄いオレンジ色の塩が析出するのが観察された。滴下後さらに冷却を継続しながら1時間、温度を室温に戻してから1時間攪拌した。その後、トリホスゲン0.068質量部の乾燥THF(0.5mL)溶液を、さらにその1時間後にトリホスゲン0.033mgの乾燥THF(0.5mL)溶液を滴下して室温で15時間攪拌した。その後、反応液をメタノール250mL中にあけ、析出したごく薄い茶色のポリマーを回収した。乾燥後のポリマーの重量は1.25質量部(収率89%)であった。このポリマーをテトラクロロエタンに溶解し、ウベローデ粘度計にて粘度を測定したところ30℃での粘度は、0.36であった。また、ガラス転移温度は同様の操作を4回繰り返した。 【0097】 得られたポリマーを、真空乾燥器で50℃で、24時間乾燥した。乾燥したポリマーを、温度180℃の熱プレス法を用いてフィルムを得た。試験片として、幅20mm、長さ30mmのフィルムを切り出し、熱風乾燥機中で、試験片をクリップに挟んで、温度62℃で錘100gの荷重をかけて3時間延伸した。 延伸倍率は1.14倍であった。また、厚みは0.35mmであった。位相差は、R_(450)が146.7nm、R_(550)が196.7nmであった。R_(450)/R_(550)は0.746であった。また、複屈折は、0.000578であった。これらの結果を以下の表2に纏める。 【0098】 <実施例2> 製造例3で得られたポリマーを、実施例1と同様にしてフィルムを得た。また、試験片として、幅30mm、長さ65mmのフィルムを切り出し、バッチ式二軸延伸装置(東洋精機社製)で、延伸温度をガラス転移温度+10℃で、延伸速度720mm/分(ひずみ速度1200%/分)で、1×2.0倍の一軸延伸を行った。R_(450)が132.3nm、R_(550)が133.8nmであった。R_(450)/R_(550)は0.988であった。また、複屈折は、0.0015であった。これらの結果を以下の表2に纏める。 【0099】 <実施例3> 製造例5で得られたポリマーを、熱プレス法を用いてフィルムを得る際の温度を250℃に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたポリマーとフィルムの物性を、実施例1と同様にして測定した。結果を以下の表2に纏める。 <実施例4> 9,9’-ビス[2-(3-ヒドロキシエトキシフェニルオキシ)エチル]フルオレンを、製造例6で得られたBCHDMCF20.05gとイソソルバイド5.67gに、DPCの使用量を17.61gに変えた以外は製造例3と同様にして重合を行い、ポリマーを得た。得られたポリマーとフィルムの物性を、実施例1と同様にして測定した。結果を以下の表2に纏める。 【0100】 【表2】 【0101】 以上の結果から、1枚で負の波長分散性を有する高分子配向フィルムが得られたことがわかる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 一枚の高分子(セルロース系高分子を除く)配向フィルムからなる位相差フィルムであって、前記高分子が正又は負の固有複屈折を有するモノマー単位(以下、第1モノマー単位と記す。)と、少なくとも1種類以上の第1モノマー単位と同じ符号の固有複屈折を有するモノマー単位(以下、第2モノマー単位と記す。第2モノマー単位は第1モノマー単位と同一でもよい。)を含有し、第1モノマー単位のホモポリマーが下記式(1)を満足し、下記の式(3)を満足し、下記の式(2-1)を満足することを特徴とする位相差フィルム。 R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < 1 (1) (式中、R^(1)_(450)は、波長450nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し、R^(1)_(550)は、波長550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし、R^(1)_(450)とR^(1)_(550)は、同一サンプルを測定したものである。) R^(1)_(450)/R^(1)_(550) < R^(2)_(450)/R^(2)_(550) (3) (式中、R^(1)_(450)は、波長450nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し、R^(1)_(550)は、波長550nmで測定した第1モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し、R^(2)_(450)は、波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し、R^(2)_(550)は、波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし、R^(1)_(450)とR^(1)_(550)は、同一サンプルを測定したものであり、R^(2)_(450)とR^(2)_(550)は、同一サンプルを測定したものである。) |Δn^(1)_(0)|> |Δn^(2)_(0)| (2-1) (式中、|Δn^(1)_(0)|及び|Δn^(2)_(0)|は、それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折の絶対値及び第2モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折の絶対値を表す。) 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】 下記式(4)を満足することを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。 R^(2)_(450)/R^(2)_(550) > 1 (4) (式中、R^(2)_(450)は、波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し、R^(2)_(550)は、波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし、R^(2)_(450)とR^(2)_(550)は、同一サンプルを測定したものである。) 【請求項5】(削除) 【請求項6】 下記式(2-2)を満足することを特徴とする請求項1又は4に記載の位相差フィルム。 Δn^(1)_(0) > Δn^(2)_(0) > 0 (2-2) (式中、Δn^(1)_(0)及びΔn^(2)_(0)は、それぞれ第1モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折及び第2モノマー単位からなるホモポリマーのHe-Neレーザーで測定した固有複屈折を表す。) 【請求項7】(削除) 【請求項8】(削除) 【請求項9】 第2モノマー単位からなるホモポリマーが、下記式(5)を満足することを特徴とする請求項1、4、又は6に記載の位相差フィルム。 1 < R^(2)_(450)/R^(2)_(550) < 1.1 (5) (式中、R^(2)_(450)は、波長450nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表し、R^(2)_(550)は、波長550nmで測定した第2モノマー単位からなるホモポリマーの位相差を表す。ただし、R^(2)_(450)とR^(2)_(550)は、同一サンプルを測定したものである。) 【請求項10】 第2モノマー単位が、炭素数4から22の環状構造もしくはヘテロ原子を含む炭素数4から20の環状構造であることを特徴とする請求項1、4、6、又は9に記載の位相差フィルム。 【請求項11】 高分子が、ポリエステル、ポリエステルカーボネート及びポリカーボネートのいずれかであることを特徴とする請求項1、4、6、9、又は10に記載の位相差フィルム。 【請求項12】 請求項1、4、6、9、10、又は11に記載の位相差フィルムを用いたことを特徴とする液晶パネル。 【請求項13】 請求項12に記載の液晶パネルを備えることを特徴とする画像表示装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-01-26 |
出願番号 | 特願2010-284771(P2010-284771) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(G02B)
P 1 651・ 857- YAA (G02B) P 1 651・ 113- YAA (G02B) P 1 651・ 841- YAA (G02B) P 1 651・ 537- YAA (G02B) P 1 651・ 851- YAA (G02B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小西 隆、大隈 俊哉 |
特許庁審判長 |
西村 仁志 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 清水 康司 |
登録日 | 2015-11-13 |
登録番号 | 特許第5834403号(P5834403) |
権利者 | 三菱化学株式会社 |
発明の名称 | 位相差フィルム |
代理人 | 特許業務法人あいち国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人あいち国際特許事務所 |