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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2016700046 審決 特許
異議2016700047 審決 特許
異議2016700048 審決 特許
異議2016700264 審決 特許
異議2016701033 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1325901
異議申立番号 異議2016-701146  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-15 
確定日 2017-03-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第5934079号発明「ダイを基板に取付けた装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5934079号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5934079号の請求項1?18に係る特許についての出願は,2008年7月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年7月19日,アメリカ合衆国,2008年7月17日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願である特願2010-517186号の一部が,平成24年11月26日に新たな特許出願(特願2012-257469号)とされたものであって,平成28年5月13日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人 山崎 達彦 により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5934079号の請求項1?18の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下「請求項1」ないし「請求項18」の特許に係る発明を「本件特許発明1」ないし「本件特許発明18」という。また,これらを合わせて「本件特許発明」ということがある。)

【請求項1】
基板と,
前記基板上に配置されたダイと,
前記ダイと前記基板との間に,前記基板と前記ダイとの間の電気的カップリングを与える電気的ジョイントとを備え,前記電気的ジョイントは,キャッピング剤でキャップされたナノ材料粒子を含むナノ材料ペーストを300℃以下で焼結することによって形成され,前記キャッピング剤は,前記キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含まれており,
前記ダイは前記電気的ジョイントによって前記基板に取り付けられる,装置。
【請求項2】
前記ナノ材料粒子は,ナノ金属粒子を含む,請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ナノ金属粒子の金属は,金,銀,銅,ニッケル,プラチナ,パラジウム,鉄,およびこれらの合金からなる群より選ばれる,請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記基板は,プリント回路基板を含む,請求項1?3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
キャッピング剤でキャップされたナノ材料粒子を含むナノ材料ペーストを基板上に配置するステップと,
前記ナノ材料ペーストの上にダイを配置するステップと,
前記基板に前記ダイを取付けるとともに前記ダイと前記基板との間に電気的ジョイントを形成するために,前記ナノ材料ペーストを300℃以下で焼結するステップとを備え, 前記キャッピング剤は,前記キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含まれている,
ダイを基板に取付ける方法。
【請求項6】
前記ナノ材料粒子から前記キャッピング剤を取り除くステップを備える,請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記キャッピング剤は,前記焼結ステップにおいて取り除かれる,請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記キャッピング剤は,前記キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,1.0重量パーセント以上2.5重量パーセント以下含まれている,請求項5?7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記キャッピング剤は,アミン基,チオール基,または,ピリジン基を有する,請求項5?8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記焼結ステップは,20MPa以下の圧力で行われる,請求項5?9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記焼結ステップは,大気圧以下の圧力で行われる,請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記焼結ステップは,窒素雰囲気で行われる,請求項5?11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ナノ材料粒子は,ナノ金属粒子を含む,請求項5?12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノ金属粒子の金属は,金,銀,銅,ニッケル,プラチナ,パラジウム,鉄,およびこれらの合金からなる群より選ばれる,請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ材料ペーストを乾燥させるステップを備える,請求項5?14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記基板は,プリント回路基板を含む,請求項5?15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記電気的ジョイントはボイドを含まない,請求項1?4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
前記電気的ジョイントはボイドを含まない,請求項5?16のいずれか1項に記載の方法。

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は,証拠として,以下の甲第1号証ないし甲第30号証を提出し,以下の取消し理由1-1ないし取消し理由9によって,請求項1ないし18に係る特許は取り消すべきものである旨主張する。

・甲第 1号証:WO2006/126614号公報
・甲第 2号証:WO2007/034833号公報
・甲第 3号証:特開2007-95510号公報
・甲第 4号証:特開2006-352080号公報
・甲第 5号証:特表2004-525503号公報
・甲第 6号証:特開2007-63580号公報
・甲第 7号証:特開2007-109833号公報
・甲第 8号証:特開平9-22883号公報
・甲第 9号証:特開2006-202938号公報
・甲第10号証:特開2007-39718号公報
・甲第11号証:特開2005-136375号公報
・甲第12号証:特開2005-197334号公報
・甲第13号証:特開2005-302877号公報
・甲第14号証:特開2002-203428号公報
・甲第15号証:特開2001-203459号公報
・甲第16号証:特開2002-334618号公報
・甲第17号証:特開2004-107728号公報
・甲第18号証:特開平9-326416号公報
・甲第19号証:特開2005-19028号公報
・甲第20号証:エレクトロニクス実装学会誌号公報vol.5 No.6(2002),p523-529,発行:社団法人エレクトロニクス実装学会
・甲第21号証:溶接学会誌vol.76 No.3(2007),p8-12,発行:社団法人溶接学会
・甲第22号証:博士論文 Low-Temperature Sintering of Nanoscale Silver Paste for Semiconductor Device Interconnection; 著者Guofeng Bai; https//theses.lib.vt.edu/theses/available/etd-10312005-163634/unrestricted/Dissertation-GBai05.pdf p45,p101-102
・甲第23号証:特開2007-134239号公報
・甲第24号証:特開平7-252460号公報
・甲第25号証:特開2006-63414号公報
・甲第26号証:新版一般化学概説,p32(昭和37年5月15日初版,発行:槇書店)
・甲第27号証:特開2007-180477号公報
・甲第28号証:本件特許の基の特許出願において提出された意見書(平成28年1月21日提出)
・甲第29号証:堀場製作所ホームページを印刷したもの http://www.horiba.com/jp/scientific/products-jp/elemental-analyzers/carbonsulfur/
・甲第30号証:米国出願No.60/950,797明細書

[取消理由1-1]
請求項 1?8,10,11,13?16
条文 特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)
証拠 甲第1号証

[取消理由1-2]
請求項 1?18
条文 特許法第2条第2項(同法第113条第2号)
証拠 甲第1号証ないし甲第19号証(主引例は甲1)

[取消理由2-1]
請求項 1?8,10,11,13?16
条文 特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)
証拠 甲第2号証

[取消理由2-2]
請求項 1?18
条文 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
証拠 甲第1号証ないし甲第19号証(主引例は甲2)

[取消理由3]
請求項 1?18
条文 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
証拠 甲第1号証ないし甲第19号証(主引例は甲3)

[取消理由4]
請求項 1?18
条文 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
証拠 甲第1号証ないし甲第19号証(主引例は甲6)

[取消理由5]
請求項 1?18
条文 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
証拠 甲第1号証ないし甲第19号証(主引例は甲19)

[取消理由6]
請求項 1?18
条文 特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)
証拠 甲第20号証ないし甲第26号証

[取消理由7]
請求項 1?18
条文 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)(同法第113条第4号)
証拠 甲第20号証ないし甲第26号証

[取消理由8]
請求項 1?18
条文 特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)(同法第113条第4号)
証拠 甲第22号証および甲第27号証

[取消理由9]
請求項 1?18
条文 特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)
証拠 甲第28号証および甲第29号証

第4 申立理由についての判断
・取消理由1-1について
1 本件特許発明1
本件特許発明1は,以下のとおりである。(再掲)
「【請求項1】
基板と,
前記基板上に配置されたダイと,
前記ダイと前記基板との間に,前記基板と前記ダイとの間の電気的カップリングを与える電気的ジョイントとを備え,前記電気的ジョイントは,キャッピング剤でキャップされたナノ材料粒子を含むナノ材料ペーストを300℃以下で焼結することによって形成され,前記キャッピング剤は,前記キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含まれており,
前記ダイは前記電気的ジョイントによって前記基板に取り付けられる,装置。」

2 甲1発明
異議申立人は,甲第1号証に,以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると主張する。
「プリント回路基板上の導電性回路の形成,演算素子(CPU)等のチップ部品の基板への接着等に使用可能であって,アンモニアと有機還元剤(ヒドロキノン,アスコルビン酸またはグルコース)が付着した銀粒子(実施例2:平均粒径0.4μm=400nm(実施例1より),炭素含有量0.21重量%)を含有するペースト状銀組成物を,ガラス繊維強化エポキシ樹脂基板上に塗布し,強制循環式オーブン内で200℃で30分間加熱することによって加熱焼結物である固形状銀が形成される。」

3 対比
ア 異議申立人は,特許異議申立書の第125ページにおいて,本件特許発明の発明特定事項である「ダイ」について,以下のように主張する。
「本件発明1で言う『ダイ』については,本件特許明細書の[0038]に以下のように記載されている。
『【0038】・・・ここで開示される工程およびキットにおいて用いられるダイは典型的には,基板の選択された部分に配置されてもよい半導体材料(または他の導電材料)を含む。ダイ,たとえば,ウエハ搭載,各々が一つ以上の集積回路を含む複数のダイを提供するための半導体ダイ切断を含む適切なウエハ製造工程を用いて製造されるが,これに限られない。ここで開示される材料および装置を用いて取付けられるかもしれない例示的な他の電子部品は,銅ヒートスプレッダ-,銀または金ワイヤ,LED,MEMSの電子部品およびその他の電子部品を含むが,それらに限られない。』
そのため本件発明1で言う『ダイ』とは基板に取り付けられる電子部品のことを指す。」

イ ところで,本件特許明細書の発明の詳細な説明には以下の記載がある。(下線は当審で付与した。以下同じ。)
・「【0003】
背景
ダイを基板に取付けるに際しては,ダイと基板との間にジョイントまたは電気カップリングが用いられる。ジョイントを作るときには,300℃を越える高い温度を用いてもよい。そのような高い温度は,傷つきやすいダイに損傷を与えて,装置の性能を劣化させ,あるいは寿命を限られたものにする可能性がある。」

・「【0006】
第1の局面において,基板に電子部品を取付ける方法が開示される。ある実施例においては,この方法は,基板にキャップされたナノ材料を配置する工程と,配置後のキャップされたナノ材料上に電子部品を配置する工程と,配置後のキャップされたナノ材料および配置された電子部品を乾燥させる工程と,乾燥後の配置された電子部品および乾燥後のキャップされたナノ材料を300℃以下の温度で焼結して,電子部品を基板に取付ける工程とを備える。いくつかの実施例では,電子部品はダイであってもよい。」

・「【0017】
詳細な説明
ここで述べられるある実施形態は,ダイを含むがそれに限定されない電子部品を,プレプレッグ,プリント回路基板または電子デバイスの製造に一般に用いられるその他の基板を含むがそれらに限定されない,選択された基板(またはその領域)に取付けるために使用される材料および装置に向けられる。」

・「【0018】
典型的なダイ取付け工程においては,シリコンダイが基板に取付けられ,保護のために被覆包囲され封止される前に,電気的に接続される。装置の損傷を避けるため,取付け温度は一般的には300℃未満である。」

ウ そうすると,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から,「電子部品」は,「ダイ」を含む上位概念であること,「ダイ」は,「傷つきやすい」ものであって,「300℃を越える高い温度」は,ダイに損傷を与えて,装置の性能を劣化させ,あるいは寿命を限られたものにする可能性があること,いくつかの実施例では,電子部品はダイであってもよいこと,及び,発明の詳細な説明には,「ダイを含むがそれに限定されない電子部品」を,基板(またはその領域)に取付けるために使用される材料および装置に向けられる実施形態が述べられていることが理解できる。
すなわち,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,「ダイを含むがそれに限定されない電子部品」を,基板(またはその領域)に取付けるために使用される材料および装置に向けられる実施形態と,電子部品がダイである,いくつかの実施例とが記載されているところ,特許請求の範囲には,このうち,電子部品がダイであるものが,本件特許発明として特定されており,これによって,本件特許発明は,300℃を越える高い温度が,傷つきやすいダイに損傷を与えて,装置の性能を劣化させ,あるいは寿命を限られたものにする可能性を避けることができるという効果を奏するものと認められる。
仮に,異議申立人の主張するように,「本件発明1で言う『ダイ』とは基板に取り付けられる電子部品のことを指す。」と解すると,本件特許発明1で言う「ダイ」は,「銅ヒートスプレッダ-,銀または金ワイヤ,LED,MEMSの電子部品」である場合を含むこととなるが,このような電子部品において,300℃を越える高い温度が,傷つきやすいダイに損傷を与えて,装置の性能を劣化させ,あるいは寿命を限られたものとするという課題が生じるとは認められない。
したがって,「本件発明1で言う『ダイ』とは基板に取り付けられる電子部品のことを指す。」のであって,「本件発明1で言う『ダイ』」が,「銅ヒートスプレッダ-,銀または金ワイヤ,LED,MEMSの電子部品」をも指すとする異議申立人の主張は採用することはできない。

エ さらに,本件特許明細書の「【0018】典型的なダイ取付け工程においては,シリコンダイが基板に取付けられ,保護のために被覆包囲され封止される前に,電気的に接続される。」との記載,甲第17号証の【0002】の「裸の素子と呼ばれている外装されていない能動,受動素子である,チップ(chip),ペレット(pellet),ダイ(die)等と呼ばれている半導体素子を回路基板上に接続する場合」との記載,甲第18号証の【0002】の「裸の素子と呼ばれている外装されていない能動,受動素子である,チップ(chip),ペレット(pellet),ダイ(die)等と呼ばれている半導体素子を回路基板上に接続する場合」等の記載,及び,「半導体用語大辞典」日刊工業新聞社,1999年3月20日第1版第1刷発行第881ページの「半導体チップ・・・半導体素子としての機能を発生させるべく一連の製造プロセスを経たウェーハから切り出された半導体片をチップという。・・・ダイ(die)なども同じ意味で用いられる。」等の記載に基づく技術常識に照らしても,本件特許の「ダイ」は,外装されていない(保護のために被覆包囲され封止される前の)裸の半導体片のことを指すものと認められる。

オ 異議申立人は,本件特許明細書の【0038】の「ダイは,たとえば,・・・を用いて製造されるが,これに限られない。」の箇所を,申立ての根拠として主張するが,当該記載は,ダイが,「・・・を用いて製造され」たものに限られないこと,すなわち,製造方法等が特定されないことを説明しているのであって,「本件発明1で言う『ダイ』とは基板に取り付けられる電子部品のことを指す。」ことを説明するものとは認められない。
また,前記記載に続く「ここで開示される・・・他の電子部品は,・・・限られない。」との記載は,「電子部品」についての説明であって,「ダイ」についての説明ではない。
したがって,「本件発明1で言う『ダイ』とは基板に取り付けられる電子部品のことを指す。」ことを前提とした異議申立人の取消理由は,その主張の前提を誤っており,採用することはできない。

カ さらに,異議申立人は,特許異議申立書の第125ページにおいて,本件特許発明の発明特定事項である「キャッピング剤」について,以下のように主張する。
「また,本件発明1で言う『キャッピング剤』については,本件特許明細書の[0023]に以下のように記載されている。
『【0023】
ある実施例によれば,金属粒子はキャッピング剤と混合させてもよい。キャッピング剤は,粒子を分離し,その成長の大きさを制限するのに効果的であってもよい。ある実施例では,キャッピング剤は,高分子量のキャッピング剤であってもよく,たとえば,約100g/mol以上の分子量を有する。例示的なキャッピング剤は,12以上の炭素原子を有する有機アミンを含むが,それに限られない。ある実施例では,有機アミンは少なくとも16の炭素原子を有し,そのような有機アミンとしてたとえば,ヘキサデシルアミンアミンが挙げられる。アミンの有機質部分は,飽和されていても,飽和されていなくてもよく,また,チオール,カルボン酸,ポリマー,およびアミドなどのような他の機能物質を選択的に含んでもよい。ここで開示された,材料の金属とともに用いる例示的なキャッピング剤の他のグループは,12以上の炭素原子を有するチオールである。ある実施例では,チオールは6以上の炭素原子を有する。チオールの有機質部分は,飽和されていても,飽和されていなくてもよく,また,ピロールなどのような他の機能物質を選択的に含んでもよい。使用に適した他のグループのキャッピング剤として,たとえばトリアゾロピリジン,テルピリジンなどのような,ピリジン基を有するキャッピング剤がある。適切なキャッピング剤はさらに,当業者であれば,この開示を利用すれば容易に選択されるであろう。』
そのため本件発明1で言う『キヤツピング剤』とは粒子に付着するものであればよく,その中でも好ましくは粒子を分離し,その成長の大きさを制限する機能を有するものことを指す。」

キ 本件特許明細書の記載より,本件特許発明1は,ダイを基板に取付けるためにダイと基板との間にジョイントを作る際に,300℃を越える高い温度を用いると,傷つきやすいダイに損傷を与えて,装置の性能を劣化させ,あるいは寿命を限られたものにする可能性がある(【0003】)との課題に鑑み,300℃よりも低い温度で,ある量のキャッピング剤とともに銀ナノ粉末を焼結する工程を用い,選択された量のキャッピングは高密度の銀ジョイントをもたらし,圧力焼結の間にシリコンダイに亀裂が入ることを防止することができる(【0005】)との作用効果を奏するようにしたものと認められ,そして,上記1のとおり,本件特許発明1において,「キャッピング剤」は,「キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含まれて」いると特定されている。
さらに,本件特許明細書には,本件特許発明1の「キャッピング剤」について,「キャッピング剤は,粒子を分離し,その成長の大きさを制限するのに効果的であってもよい。ある実施例では,キャッピング剤は,高分子量のキャッピング剤であってもよく,たとえば,約100g/mol以上の分子量を有する。例示的なキャッピング剤は,12以上の炭素原子を有する有機アミンを含むが,それに限られない。ある実施例では,有機アミンは少なくとも16の炭素原子を有し,そのような有機アミンとしてたとえば,ヘキサデシルアミンアミンが挙げられる。アミンの有機質部分は,飽和されていても,飽和されていなくてもよく,また,チオール,カルボン酸,ポリマー,およびアミドなどのような他の機能物質を選択的に含んでもよい。ここで開示された,材料の金属とともに用いる例示的なキャッピング剤の他のグループは,12以上の炭素原子を有するチオールである。ある実施例では,チオールは6以上の炭素原子を有する。チオールの有機質部分は,飽和されていても,飽和されていなくてもよく,また,ピロールなどのような他の機能物質を選択的に含んでもよい。使用に適した他のグループのキャッピング剤として,たとえばトリアゾロピリジン,テルピリジンなどのような,ピリジン基を有するキャッピング剤がある。」(【0023】)と記載されている。
そうすると,本件特許明細書の記載を参酌すれば,本件特許発明1における「キャッピング剤」は,「キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含まれて」いることで,本件特許発明1における上記の課題を解決し,上記の作用効果を奏する材料により構成されるものと認められ,異議申立人が主張する「粒子に付着するものであればよ」いとまでは理解することはできない。
したがって,異議申立人の主張は採用することができないから,当該主張を前提とした取消理由は採用することはできない。

ク さらに,異議申立人は,特許異議申立書の第125ページにおいて,本件特許発明の発明特定事項である「ナノ材料粒子」について,以下のように主張する。
「なお,銀粒子がナノサイズであることについては,甲1の[0030]の実施例2で使用した銀粒子の粒径が0.4μm=400nmであることが[0029]に記載されている。」

ケ ところで,本件特許明細書には「ナノ材料粒子」の定義は,明記されていない。
そうすると,本件特許発明の「ナノ材料粒子」は,本件特許の出願時の技術常識に照らして理解することとなる。
本件特許の出願前に頒布された各甲号証には,以下の記載がある。
・甲第1号証:「いわゆるナノサイズとなる0.1μm未満」([0011])
・甲第2号証:「平均粒径がいわゆるナノサイズとなる0.1μm未満」([0011])
・甲第6号証:「銀ナノ粒子の平均粒子径は,通常は1?100nm程度の範囲内で適宜設定できる」(【0027】)
・甲第8号証:「本願発明において金属超微粒子とは,粒径が100nm以下の金属粒子をいう。」(【0016】
・甲第9号証:「従来のはんだに代えて,金属ナノ粒子を加熱・焼成して2つの部材を接合する電極配設基体とその接合方法に関する技術が下記特許文献1に記載されている。この技術では,平均直径100nm以下の金属超微粒子の周囲を有機化合物で被覆することによって生成された金属ナノ粒子を,2つの部材の接合部に介在させて加熱・焼成して接合させる。」(【0002】),「〈金属ナノ粒子の接合原理〉その基本的な原理は,材料によって違いはあるが,ナノレベルの粒子になるとその表面のエネルギーによってバルクの融点より低温で凝集し,焼結することが一般的に知られており,関連の文献に詳細が記載されている。従って,銀ナノペーストは,通常,銀の超微粒子が互いに結合することはなく溶媒中で安定であり,熱処理によって有機物が揮発することによって銀が焼結することを利用した接着剤である。」(【0008】)
・甲第17号証:「金属粒子の溶融開始温度は,粒径が小さくなると低下することが知られているが,その効果が現れはじめるのは100nm以下であり」(【0011】)
・甲第20号証:「サイズが百ナノメータ以下のナノ粒子」(第523ページ左欄)

以上の記載を参酌すれば,「ナノ材料粒子」とは,寸法の単位が「nm」で表記される粒子,すなわち,粒径が1μm未満の粒子を指すという技術用語ではなく,より大きなものからは外挿できない性質(例えば,その表面のエネルギーによってバルクの融点より低温で凝集し,焼結する等の性質)が,このサイズのみではないにしろ,特徴的に発現するサイズを有する粒子を指すものであって,粒径が,0.1μm未満程度である粒子を指す技術用語として用いられていたことが,本件特許の出願時において技術常識であったと認められる。

コ 本件特許発明1における「ダイ」,「キャッピング剤」及び「ナノ材料粒子」は上記アないしケのとおりに解されるから,本件特許発明1と,甲1発明とを対比すると両者は,以下の点で相違し,その余の点で一致すると認められる。
・相違点1:本件特許発明1の取付けが,「ダイ」,すなわち,「外装されていない(保護のために被覆包囲され封止される前の)裸の半導体片」と基板との間であるのに対して,甲1発明の接着が,「演算素子(CPU)等のチップ部品」と基板との間である点。

・相違点2:本件特許発明1の粒子が,「キャッピング剤」でキャップされたものであり,キャッピング剤が,「キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含まれて」いるのに対して,甲1発明の銀粒子は,「アンモニアと有機還元剤(ヒドロキノン,アスコルビン酸またはグルコース)が付着した」ものであり,「炭素含有量0.21重量%」である点。

・相違点3:本件特許発明1の粒子が,「ナノ材料粒子」,すなわち,粒径が,0.1μm未満程度である粒子であるのに対して,甲1発明の銀粒子が,「平均粒径0.4μm=400nm」である点。

サ そうすると,本件特許発明1と甲1発明とは,相違点1ないし3において相違する。
したがって,本件特許発明1は特許法第29条第1項第3号に該当しない。

シ 請求項2ないし8,10,11,13ないし16についても,同様の理由によって特許法第29条第1項第3号に該当しない。
したがって,取消理由1-1は理由がない。

・取消理由1-2について
ア 相違点1について
「取消理由1-1について」の3アないしオのとおり,本件特許発明1における「ダイ」は,外装されていない裸の半導体片のことを指すものと認められ,基板に取り付けられる電子部品を指すとは認められないから,甲1発明の「演算素子(CPU)等のチップ部品」は,本件特許発明1の「ダイ」に相当しない。
そして,甲第1号証ないし甲第19号証の記載を参酌しても,甲1発明において,「演算素子(CPU)等のチップ部品」を,「ダイ」とする動機を見いだすことができない。
したがって,相違点1について,本件特許発明1の構成を採用することが容易であったとは認められない。

イ 相違点2について
「取消理由1-1について」の3キのとおり,本件特許明細書の記載より,本件特許発明1は,ダイを基板に取付けるためにダイと基板との間にジョイントを作る際に,300℃を越える高い温度を用いると,傷つきやすいダイに損傷を与えて,装置の性能を劣化させ,あるいは寿命を限られたものにする可能性がある(【0003】)との課題に鑑み,300℃よりも低い温度で,ある量のキャッピング剤とともに銀ナノ粉末を焼結する工程を用い,選択された量のキャッピングは高密度の銀ジョイントをもたらし,圧力焼結の間にシリコンダイに亀裂が入ることを防止することができる(【0005】)との作用効果を奏するようにしたものと認められることから,本件特許発明1における「キャッピング剤」は,「キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含まれて」いることで,本件特許発明1における上記の課題を解決し,上記の作用効果を奏する材料により構成されるものと認められ,異議申立人が主張する「粒子に付着するものであればよ」いとまでは理解することはできない。
さらに,異議申立書の記載からは,甲1発明の「アンモニアと有機還元剤(ヒドロキノン,アスコルビン酸またはグルコース)」が,本件特許発明に係る課題を解決し得るものとして選択する材料である上記「キャッピング剤」に相当する材料であると認めることはできない。
また,甲第1号証ないし甲第19号証の記載を参酌しても,甲1発明の「アンモニアと有機還元剤(ヒドロキノン,アスコルビン酸またはグルコース)」に替えて,あるいは,甲1発明の「アンモニアと有機還元剤(ヒドロキノン,アスコルビン酸またはグルコース)」に加えて,本件特許発明1の「キャッピング剤」を「キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含」むようにする動機を見いだすことができない。
したがって,相違点2について,本件特許発明1の構成を採用することが容易であったとは認められない。

ウ 相違点3について
「取消理由1-1について」の3ケのとおり,本件特許発明1における「ナノ材料粒子」は,粒径が,0.1μm未満程度の粒子と解される。
他方,甲第1号証の[0011]には,以下の記載がある。
「いわゆるナノサイズとなる0.1μm未満の場合,球状銀粒子の表面活性が強すぎてペースト状銀組成物の保存安定性が低下する恐れがあるため,0.1μm以上である。」
そうすると,甲第1号証には,甲1発明の銀粒子を,いわゆるナノサイズとすることを排除することが明確に記載されているのであるから,甲1発明において,「平均粒径0.4μm=400nm」の銀粒子を,「ナノ材料粒子」とすることには阻害事由がある。
したがって,甲第1号証ないし甲第19号証の記載を参酌しても,相違点3について,本願特許発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たこととは認められない。

エ 以上から,本件特許発明1は,甲1発明及び甲第1号証ないし甲第19号証の記載から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 請求項2ないし18についても,同様の理由によって当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,取消理由1-2は理由がない。

・取消理由2-1について
ア 異議申立人は,甲第2号証に,以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると主張する。
「プリント回路基板上の導電性回路の形成,演算素子(CPU)等のチップ部品の基板への接着等に使用可能であって,アンモニアと有機還元剤(ヒドロキノン,アスコルビン酸またはグルコース)が付着し且つ高級脂肪酸またはその誘導体により被覆された銀粒子(平均粒径0.1μm?18μm,炭素含有量1.0重量%以下)を含有するペースト状銀粒子組成物を,複数の金属製部材の接合用途に使用するのに有用である。なお,焼結の際の温度は通常100℃以上であり150℃以上がより好ましい。また,好ましくは300℃以下である。」

イ 本件特許発明1と,甲2発明とを対比すると両者は,以下の点で相違し,その余の点で一致すると認められる。
・相違点1:本件特許発明1の取付けが,「ダイ」,すなわち,「外装されていない(保護のために被覆包囲され封止される前の)裸の半導体片」と基板との間であるのに対して,甲2発明の接着が,「演算素子(CPU)等のチップ部品」と基板との間である点。

・相違点2:本件特許発明1の粒子が,「キャッピング剤」でキャップされたものであり,キャッピング剤が,「キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含まれて」いるのに対して,甲2発明の銀粒子は,「アンモニアと有機還元剤(ヒドロキノン,アスコルビン酸またはグルコース)が付着し且つ高級脂肪酸またはその誘導体により被覆された」ものであり,「炭素含有量1.0重量%以下」である点。

・相違点3:本件特許発明1の粒子が,「ナノ材料粒子」,すなわち,粒径が,0.1μm未満程度である粒子であるのに対して,甲2発明の銀粒子が,「平均粒径0.1μm?18μm」である点。

ウ そうすると,本件特許発明1と甲2発明とは,相違点1ないし3において相違する。
したがって,本件特許発明1は特許法第29条第1項第3号に該当しない。

エ 請求項2ないし8,10,11,13ないし16についても,同様の理由によって特許法第29条第1項第3号に該当しない。
したがって,取消理由2-1は理由がない。

・取消理由2-2について
ア 相違点1について
「取消理由1-1について」の3アないしオのとおり,本件特許発明1における「ダイ」は,外装されていない裸の半導体片のことを指すものと認められ,基板に取り付けられる電子部品を指すとは認められないから,甲2発明の「演算素子(CPU)等のチップ部品」は,本件特許発明1の「ダイ」に相当しない。
そして,甲第1号証ないし甲第19号証の記載を参酌しても,甲2発明において,「演算素子(CPU)等のチップ部品」を,「ダイ」とする動機を見いだすことができない。
したがって,相違点1について,本件特許発明1の構成を採用することが容易であったとは認められない。

イ 相違点2について
「取消理由1-1について」の3キのとおり,本件特許明細書の記載より,本件特許発明1は,ダイを基板に取付けるためにダイと基板との間にジョイントを作る際に,300℃を越える高い温度を用いると,傷つきやすいダイに損傷を与えて,装置の性能を劣化させ,あるいは寿命を限られたものにする可能性がある(【0003】)との課題に鑑み,300℃よりも低い温度で,ある量のキャッピング剤とともに銀ナノ粉末を焼結する工程を用い,選択された量のキャッピングは高密度の銀ジョイントをもたらし,圧力焼結の間にシリコンダイに亀裂が入ることを防止することができる(【0005】)との作用効果を奏するようにしたものと認められることから,本件特許発明1における「キャッピング剤」は,「キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含まれて」いることで,本件特許発明1における上記の課題を解決し,上記の作用効果を奏する材料により構成されるものと認められ,異議申立人が主張する「粒子に付着するものであればよ」いとまでは理解することはできない。
さらに,異議申立書の記載からは,甲2発明の「『アンモニアと有機還元剤(ヒドロキノン,アスコルビン酸またはグルコース)』『高級脂肪酸またはその誘導体』」が,本件特許発明に係る課題を解決し得るものとして選択する材料である上記「キャッピング剤」に相当する材料であると認めることはできない。
また,甲第1号証ないし甲第19号証の記載を参酌しても,甲2発明の「『アンモニアと有機還元剤(ヒドロキノン,アスコルビン酸またはグルコース)』『高級脂肪酸またはその誘導体』」に替えて,あるいは,甲2発明の「『アンモニアと有機還元剤(ヒドロキノン,アスコルビン酸またはグルコース)』『高級脂肪酸またはその誘導体』」に加えて,本件特許発明1の「キャッピング剤」を「キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含」むようにする動機を見いだすことができない。
したがって,相違点2について,本件特許発明1の構成を採用することが容易であったとは認められない。

ウ 相違点3について
「取消理由1-1について」の3ケのとおり,本件特許発明1における「ナノ材料粒子」は,粒径が,0.1μm未満程度の粒子と解される。
他方,甲第2号証の[0011]には,以下の記載がある。
「平均粒子径がいわゆるナノサイズとなる0.1μm未満の場合,表面活性が強すぎてペースト状銀組成物の保存安定性が低下する恐れがあるため,平均粒径は0.1μm以上である。」
そうすると,甲第2号証には,甲2発明の銀粒子を,いわゆるナノサイズとすることを排除することが明確に記載されているのであるから,甲2発明において,「平均粒径0.1μm?18μm」の銀粒子を,「ナノ材料粒子」とすることには阻害事由がある。
したがって,甲第1号証ないし甲第19号証の記載を参酌しても,相違点3について,本願特許発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たこととは認められない。

エ 以上から,本件特許発明1は,甲1発明及び甲第1号証ないし甲第19号証の記載から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 請求項2ないし18についても,同様の理由によって当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,取消理由2-2は理由がない。

・取消理由3ないし取消理由5について
ア 異議申立人は,甲第3号証に,以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると主張する。
「プリント基板における電極,配線などの回路形成,層間接合を形成可能であってカプロン酸基またはカプリル酸基で被覆されたナノサイズの銀粒子を含有する銀ペーストを,ガラス基板上にバーコード法により塗工し,100℃で60分間乾燥してテルピネオールを揮発させた後,大気雰囲気中にて150℃で30分間焼結することによって焼成膜が形成される際,銀ペーストにおける銀コアの周囲を覆う有機成分の含有量は2.4重量%(実施例1:カプロン酸),8重量%(実施例5:カプリル酸),1.8重量%(実施例9:カプロン酸)または7.4重量%(実施例10:カプリル酸)である。」

イ 異議申立人は,甲第6号証に,以下の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると主張する。
「銀ナノ粒子及びその製造方法であって,該銀ナノ粒子は,公知のペースト化剤に配合してペーストとして用いることができ,電子材料として,プリント配線,導電性材料,電極材料,接合材料等に適用可能である。銀ナノ粒子を用いて導電回路(導電膜)等を形成する場合は,例えば前記に例示した塗膜形成用組成物を用いて所定の回路パターンを基板上に形成した後,通常100?600℃,好ましくは150?350℃Cの範囲内で熱処理する。
なお,実施例12において,炭酸銀とグリシルリジン酸とモルホリン(アミン)によって作製された,有機物で保護された銀ナノ粒子が開示されており,1時間加熱還流した後に減圧下で乾燥させた際に,銀含有量が92%すなわち残りの8%が被覆成分(いわゆるキャッピング剤)であることが開示されている。
また,実施例13において,炭酸銀とアビエチン酸とN-メチルピロリドンによって作製された,有機物で保護された銀ナノ粒子が開示されており,90℃で4時間加熱した際に,銀含有量が96%すなわち残りの4 %が被覆成分(いわゆるキヤツピング剤)であることが開示されている。」

ウ 異議申立人は,甲第19号証に,以下の発明(以下「甲19発明」という。)が記載されていると主張する。
「フラットパネル,ガラス,樹脂等の基材に導電性被膜を形成するのに好適に用いられる金属コロイド液であって,銀コロイド水溶液(クエン酸三ナトリウム2水和物またはグリコール酸,タンニン酸含有)から得た金属コロイド液をスライドガラス上に刷毛塗りし,自然乾燥した後,ギヤオーブン中で120℃×1時間の条件で加熱処置して,導電性被膜を形成する。その際の残留有機分量は実施例1だと1.8重量%,実施例2だと3.2重量%である。
なお,導電性被膜を形成する際,以下の状態が好ましい。
・金属成分からなる粒子をコアとして,その表面を有機成分で被覆されているもの,金属成分と有機成分とが均一に混合されてなる粒子が好ましい。
・金属粒子の平均粒子径は,より好ましくは,1?70nmである。」

エ 本件特許発明1と,甲3発明,甲6発明,及び,甲19発明とを対比すると,甲3発明,甲6発明,及び,甲19発明は,いずれも,電極・配線等の導電性被膜の形成に係る発明であって,「ダイと基板との間に,前記基板と前記ダイとの間の電気的カップリングを与える電気的ジョイントとを備え」「前記ダイは前記電気的ジョイントによって前記基板に取り付けられる,装置」に係る発明ではない。
そして,甲第1号証ないし甲第19号証の記載を参酌しても,甲3発明,甲6発明,及び,甲19発明の電極・配線等の導電性被膜の形成に係る発明を,「ダイと基板との間に,前記基板と前記ダイとの間の電気的カップリングを与える電気的ジョイントとを備え」「前記ダイは前記電気的ジョイントによって前記基板に取り付けられる,装置」とする動機を見いだすことはできない。

オ 異議申立人は,以下のように主張する。
・「なお,本件発明1は装置の発明であり,請求項1に記載の「前記基板上に配置されたダイと,前記ダイと前記基板との間に,前記基板と前記ダイとの間の電気的カップリングを与える電気的ジョイントとを備え,」とあるように,ダイと基板との間において,通電可能な電気的ジョイントを備えるもので,電気的ジョイントとしての形態は特定されるものではない。そうしてみれば,電気的ジョイントは通電可能な状態であれば良く,例えば,単に重ね置きの着脱可能な接触のみによる接点の状況も含むと解される。」(特許異議申立書第166-167ページ,第184ページ,第201ページ)
しかしながら,上記主張は採用することができない。その理由は以下のとおりである。
本件特許明細書には,以下の記載がある。
・「【0052】
銀ジョイントの信頼性は,-50℃および+125℃の間の温度での熱衝撃試験において詳細に調べられた。ナノ銀ペーストとともに形成されたジョイントは700サイクル以上の熱衝撃試験に無事合格した。」
そうすると,本件特許明細書において,「ジョイント」は,「熱衝撃試験」で評価し得る特性を備えた構造,すなわち,ダイを基板に固定する機能を備えた構造であると認められる。
したがって,「電気的ジョイントは通電可能な状態であれば良く,例えば,単に重ね置きの着脱可能な接触のみによる接点の状況も含むと解される。」との異議申立人の主張は採用することはできない。

カ また,異議申立人は,以下のように主張する。
・「絶縁基板と銅板との接合(いわゆる層間接合の一種)」(特許異議申立書第167ページ,184ページ,第201ページ)
しかしながら,上記主張は採用することができない。その理由は以下のとおりである。
甲第15号証には,以下の記載がある。
・「【請求項1】導体層間の接続を導電性ぺーストで行うプリント配線板において,導電性ぺーストが充填されたビアホールに対応する内層板のランド上に,バンプ状の突起物が形成されていることを特徴とする多層プリント配線板。」
・「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし,上記公報に開示されている方法には,圧縮性の多孔質基材という特殊な材料を用いなければならず,穴あけの条件や取り扱いが通常のプリント配線板用材料と異なるので製造が効率的でなく,また,多孔質であるため接着剤にも特殊なものを使用しなければならないという問題点があった。本発明は,かかる状況に鑑みなされたもので,高密度で信頼性に優れた層間接続を有するプリント配線板と,その効率のよい製造方法を提供することを目的とする。」
そうすると,「層間接続」とは,多層配線における,上側の配線層と下側の配線層とをビア等で接続することを意味する技術用語と解されるから,甲3発明の「層間接合を形成可能」は,この意味で理解するとが自然である。
したがって,「絶縁基板と銅板との接合」が,いわゆる「層間接合」の一種であるとの異議申立人の主張は採用することができない。

キ 以上から,本件特許発明1は,甲3発明,甲6発明,及び,甲19発明,及び,甲第1号証ないし甲第19号証の記載から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ク 請求項2ないし18についても,同様の理由によって当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,取消理由3ないし5は理由がない。

・取消理由6について
i)「キャッピング剤としてはヘキサデジルアミンでしか本件発明はサポートされていないこと」について

ア 異議申立人は,概ね以下のように主張する。
・「本件発明の課題としては,先にも挙げたように,本件発明は,300℃を越える高い温度でジョイントを作製すると,傷つきやすいダイに損傷を与えて,装置の性能を劣化させ,あるいは寿命を限られたものにする可能性があるという課題に対し,キャッピング剤とともに銀ナノ粉末によって300℃よりも低い温度でジョイントを作製可能としたところに特徴があるものと思量される。」(異議申立書第219ページ)

・「そこで,本件特許明細書の実施例に記載のキャッピング剤である“ヘキサデシルアミン”以外の化合物をキャッピング剤として使用したときに,上記の課題を解決できることを,出願当時の当業者が,本件特許明細書や技術常識を考慮したうえで把握できるか否かが問題となる。」(異議申立書第219ページ)

・「このような状況下,本件発明1では単に『キヤツピング剤』と規定されているだけであり,これに該当するものを検討すると,本件特許明細書[0023]を参酌しても,例としては分子量が100以上のもの,炭素数12以上の有機アミン,チオール,カルボン酸,ポリマー,アミドが挙げられている程度で,これらのいずれかに該当する物質は無数に存在する。
そのような無数に存在する物質の全てが,まずナノ材料粒子の分離を維持するように適切に被覆し,続いて300℃以下の加熱によってナノ材料粒子から適切に外れ,本発明の課題を解決するように電気的ジョイントを形成して装置が製造されるとは,到底言えない。また,上記の通り焼結時の加熱(300℃以下)によってキャッピング剤がナノ材料粒子から外れるかは,キャッピング剤の金属粒子との親和性や,分解温度ないし蒸発温度などの諸般の要素の組み合わせによって総合的に決まり,それを予測することは困難であるため,さらにキャッピング剤の分子量によってその被覆割合は変動してナノ材料粒子の焼結挙動が変化することから,本件発明1の単なる『キャッピング剤』との規定と,本件特許明細書の開示からでは,ヘキサデシルアミン以外のキャッピング剤が本発明の課題を解決し得ると当業者が認識することはできない。」(異議申立書第222-223ページ)

・「上記の本件特許明細書における記載のように,キャッピング剤の種類により,含有させるべきキャッピング剤の重量パーセントが変化する。それにもかかわらず,本件特許明細書に明記がある化合物(例えばヘキサデシルアミン)そしてキャッピング剤としての機能を有しかつ本件特許明細書には明記が無い化合物を含む諸々のキャッピング剤を,十把一絡げにしたうえで,単に,キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとしたときに0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満という限定を設けただけの本件発明から,本件発明の課題を解決するための手段を認識することは,当業者であっても到底できるものではない。」(異議申立書第224-225ページ)

・「このような状況下において,本件特許明細書から,本件発明の課題を解決するための手段を認識することは,当業者であっても到底できるものではない。」(異議申立書第225ページ)

イ 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である(知財高判平成17年11月11日(平成17年(行ケ)10042号)「偏光フィルムの製造法」大合議判決を参照。) 。
以下,上記の観点に立って,本件のサポート要件について検討する。

ウ 本願特許明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
・「【0023】
ある実施例によれば,金属粒子はキャッピング剤と混合させてもよい。キャッピング剤は,粒子を分離し,その成長の大きさを制限するのに効果的であってもよい。ある実施例では,キャッピング剤は,高分子量のキャッピング剤であってもよく,たとえば,約100g/mol以上の分子量を有する。例示的なキャッピング剤は,12以上の炭素原子を有する有機アミンを含むが,それに限られない。ある実施例では,有機アミンは少なくとも16の炭素原子を有し,そのような有機アミンとしてたとえば,ヘキサデシルアミンアミンが挙げられる。アミンの有機質部分は,飽和されていても,飽和されていなくてもよく,また,チオール,カルボン酸,ポリマー,およびアミドなどのような他の機能物質を選択的に含んでもよい。ここで開示された,材料の金属とともに用いる例示的なキャッピング剤の他のグループは,12以上の炭素原子を有するチオールである。ある実施例では,チオールは6以上の炭素原子を有する。チオールの有機質部分は,飽和されていても,飽和されていなくてもよく,また,ピロールなどのような他の機能物質を選択的に含んでもよい。使用に適した他のグループのキャッピング剤として,たとえばトリアゾロピリジン,テルピリジンなどのような,ピリジン基を有するキャッピング剤がある。適切なキャッピング剤はさらに,当業者であれば,この開示を利用すれば容易に選択されるであろう。」

・「【0024】
取付け工程で用いるための材料を提供するためにキャッピング剤が金属粒子とともに用いられるある実施例においては,キャッピング剤は,金属溶液に加えられる前に溶剤内に溶解されてもよい。たとえば,キャッピング剤が溶剤内に溶解されてもよく,またその溶液が金属溶液と混合されてもよい。他の実施例においては,溶剤に事前に溶解させることなく,キャッピング剤を固体または液体の状態で金属溶液に直接加えられてもよい。キャッピング材料は,たとえば,段階的に加えてもよく,また,単一のステップで加えてもよい。ある実施例では,金属溶液に加えられるキャッピング剤の正確な量を,結果として生じるキャップされた粒子に求められる特性に応じて変化させてもよい。ある実施例においては,適切な量のキャッピング剤がキャップされた粒子の重量による望ましい量のキャッピング剤を提供するために加えられる。取付け工程に有用な材料のためのそのような望ましい重量のキャッピング剤について,以下により詳細に論ずる。この開示を利用すれば,結果として生成される材料の望ましい特性にしたがって,より多くのまたはより少ないキャッピング剤を用いることが望ましいかもしれないことを,当業者によって認識されるであろう。たとえば,プリント配線板などのような基板上に配置される粒子の導電性を高めるために,導電性(または他の物理特性)が最適化されるかあるいは望ましい範囲になるまで,キャッピング剤の量を調節することが望ましいかもしれない。この開示を利用すれば,キャッピング剤の適切な量を選択することは,当業者の能力の範囲内であろう。」

・「【0033】
ここで用いられるキャップされた材料のある実施形態は,材料の加工が不完全に最終生成物または電子部品と基板との間の電気的ジョイントを生じないように,意図された量のキャッピング剤を含む。たとえば,キャッピング剤の量は,低ボイド,高導電性を有し,途切れが少ししか生じないか全く生じないジョイントまたは結合を提供するように選択されてもよい。ここで開示されるある実施形態は,たとえば200?300℃の温度で焼結する間,固体表面を湿らせ固体表面に付着する,選択された量のキャッピング剤を有するキャップされた材料の好都合な特徴を用いる。」

・「【0034】
取付け工程においてキャップされた材料が用いられるある実施例では,材料中のキャッピング剤の重量パーセントは,キャッピング剤の種類および/または望ましいジョイントにより,変わるかもしれない。たとえば,キャッピング剤を少ししか含まないか全く含まない材料は,シリコンのような基板材料に効果的に付着しないかもしれない。かなりの外圧を加えて,極めて低い比率のキャッピング剤を有するキャップされた材料から形成された構造を焼結することは,困難かもしれない。キャッピング剤が多すぎてもまた,結果として生じるジョイントに望ましくない影響を与える。たとえば,キャッピング剤の量が多すぎると,焼結中における有機物質の速い解離により,焼結後の構造が多孔質となって機械的に粗悪になるかもしれない。ヘキサデシルアミン(HDA)が用いられる実施例では,結果として生じる材料のキャッピング剤の比率は約10?14重量%であるかもしれない。他のキャッピング剤が用いられる場合,キャッピング剤の重量パーセントは,例示的には,ピリジン塩基のキャッピング剤では約1?10重量%,チオール系キャッピング剤では約1?15重量%の範囲で変化するかもしれない。」

・「【0047】
異なる量のヘキサデシルアミンキャッピング剤を有する銀ナノ粉末を用いて行なわれた実験は,キャッピング剤を含まないかごくわずかしか含まないナノ材料は,シリコンまたは他のいかなる材料にも付着しないことを示した。また,かなりの外圧を加えることなしには,焼結して緻密構造体にすることはできなかった。高いレベルのキャッピング剤(たとえば10重量%以上)と有する銀ナノ粉末を用いた実験によってもまた,予期したよりも望ましくない結果が得られた。高いキャッピング剤のレベルでは,焼結中に生じる有機物質の急速な放出が,焼結された構造体を多孔質または機械的に劣悪にする原因となるかもしれない。」

・「【0053】
キャップされた金粒子を含むナノ金ペーストは,米国特許出願第11/462,089号に記載されたようにして作ることができる。そのペーストは,約2重量%のキャッピング剤でキャップされた金粒子を含んでもよい。そのキャッピング剤は,ヘキサデシルアミン,ドデカンチオール,または,他のアミン基もしくはチオール基を有するキャッピング剤であってもよい。ナノ金ペーストを,ダイ(または他の電子部品)を基板に取付けるために用いることができる。」

エ そうすると,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,上記アの「300℃を越える高い温度でジョイントを作製すると,傷つきやすいダイに損傷を与えて,装置の性能を劣化させ,あるいは寿命を限られたものにする可能性がある」という課題を解決するため,たとえば200?300℃の温度で焼結する間,固体表面を湿らせ固体表面に付着する,選択された量のキャッピング剤を有するキャップされた材料の好都合な特徴を用いることによって,材料の加工が不完全に最終生成物または電子部品と基板との間の電気的ジョイントを生じないようにすることができる(【0033】)等の効果を奏することが記載されている。

オ すなわち,本件特許明細書の発明の詳細な説明においては,粒子を分離し,その成長の大きさを制限する(【0023】)キャッピング剤を,極めて低い比率で有するキャップされた材料から形成された構造を焼結することは困難であり,キャッピング剤が多すぎてもまた,焼結中における有機物質の速い解離により,焼結後の構造が多孔質となって機械的に粗悪になり,結果として生じるジョイントに望ましくない影響を与える(【0034】及び【0047】)との知見から,キャッピング剤の量を,低ボイド,高導電性を有し,途切れが少ししか生じないか全く生じないジョイントまたは結合を提供する(【0033】)ように選択することで,ダイと基板との間の電気的カップリングを与える電気的ジョイントを,300℃よりも低い温度において作製可能となしたことが記載されている。

カ してみると,これらの記載に接した当業者であれば,キャッピング剤については,粒子を分離し,その成長の大きさを制限するものであって,かつ,キャッピング剤の量が,極めて低い比率ではなく,また,多すぎない量,例えば,キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとしたときに0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満であれば,本件特許発明に係る上記課題を解決し得るものであることを理解するものといえる。

キ これに対し,異議申立人は,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,「キャッピング剤」に相当するものとして,「ヘキサデジルアミン」を用いたものが実施例に記載されているだけであって,例えば,本件特許明細書の【0023】に例示される,分子量が100以上のもの,炭素数12以上の有機アミン,チオール,カルボン酸,ポリマー,アミドに該当する,無数に存在する物質の全てが,まずナノ材料粒子の分離を維持するように適切に被覆し,続いて300℃以下の加熱によってナノ材料粒子から適切に外れ,本発明の課題を解決するように電気的ジョイントを形成して装置が製造されるとは,到底言えないから,本件特許明細書の開示からでは,ヘキサデシルアミン以外のキャッピング剤が本発明の課題を解決し得ると当業者が認識することはできない旨を主張する。

ク しかし,本件特許発明における「キャッピング剤」は,300℃以下で焼結することで基板とダイとを結合するナノ材料粒子をキャップするものであるから,このようなキャッピング剤として用いられる物質は,自ずから限られるものといえる。
そして,当業者が本件特許発明における「キャッピング剤」として想起するのは,このような物質であると考えられるところ,甲第20号証(エレクトロニクス実装学会誌vol.5 No.6(2002),p523-528)の[金属ナノ粒子]図1,及び,甲第21号証(溶接学会誌Vol.76 No.3(2007),p8-12)の第8ページ右段から第9ページ左段によると,ナノ材料粒子に対するキャッピング剤の作用機序が,出願時の技術常識であったと認められるから,当業者であれば,上記技術常識に照らして,本件特許明細書の【0023】等の記載から,本件特許発明における「キャッピング剤」として,300℃以下で焼結することで基板とダイとを結合するナノ材料粒子をキャップする「キャッピング剤」を当然に想起するものといえる。

ケ すなわち,本件優先日当時の公知文献によれば,ナノ材料粒子に対するキャッピング剤の作用機序が,出願時の技術常識であったと認められるから,当該技術常識を知る本件優先日当時の当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された,「材料の加工が不完全に最終生成物または電子部品と基板との間の電気的ジョイントを生じないように,意図された量のキャッピング剤を含む。たとえば,キャッピング剤の量は,低ボイド,高導電性を有し,途切れが少ししか生じないか全く生じないジョイントまたは結合を提供するように選択されてもよい。ここで開示されるある実施形態は,たとえば200?300℃の温度で焼結する間,固体表面を湿らせ固体表面に付着する,選択された量のキャッピング剤を有するキャップされた材料の好都合な特徴を用いる。」との知見に接すれば,例えば,キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとしたときに0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満であれば,本件特許発明に係る上記課題を解決し得るものであることを理解するものといえる。

コ この点,異議申立人は,「焼結時の加熱(300℃以下)によってキャッピング剤がナノ材料粒子から外れるかは,キャッピング剤の金属粒子との親和性や,分解温度ないし蒸発温度などの諸般の要素の組み合わせによって総合的に決まり,それを予測することは困難であるため,さらにキャッピング剤の分子量によってその被覆割合は変動してナノ材料粒子の焼結挙動が変化することから,本件発明1の単なる『キャッピング剤』との規定と,本件特許明細書の開示からでは,ヘキサデシルアミン以外のキャッピング剤が本発明の課題を解決し得ると当業者が認識することはできない。」旨主張する。
しかし,本件特許の特許請求の範囲請求項1では,「装置」として,「前記ダイと前記基板との間に,前記基板と前記ダイとの間の電気的カップリングを与える電気的ジョイントとを備え」,「前記電気的ジョイントは,キャッピング剤でキャップされたナノ材料粒子を含むナノ材料ペーストを300℃以下で焼結することによって形成され」,「前記キャッピング剤は,前記キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含まれており」,「前記ダイは前記電気的ジョイントによって前記基板に取り付けられる」ことが,発明特定事項とされているのであるから,上記「キャッピング剤」とは,ダイに付着するあらゆる物質を含むものではなく,300℃以下での焼結によって,ダイと基板との間に,電気的カップリングを与えるとともにダイを基板に取り付ける電気的ジョイントを形成する物質に限られるものといえる。
以上によれば,本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例に,「キャッピング剤」の具体例としてヘキサデシルアミンしか記載されていないとしても,当業者であれば,本件特許の優先日当時の技術常識と本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,上記以外の「キャッピング剤」をも想起し,これらのキャッピング剤を用いてナノ材料粒子をキャップすることによって本件発明に係る課題を解決できることを理解し得るものといえるから,異議申立人の主張は理由がない。

ii)「ナノ材料粒子がいかなる粒径であっても構わない記載となっていること」について
「取消理由1-1について」の3ケのとおり,本件特許発明における「ナノ粒子材料」は粒径が0.1μm未満程度の粒子と解されるところ,キャッピング剤でキャップされた粒径が0.1μm未満程度の「ナノ材料粒子」を含む「ナノ材料ペースト」を300℃以下で焼結することにより,本件特許発明に係る課題を解決できることは,当業者であれば,本件特許の優先日当時の技術常識と本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて理解し得るものといえるから,異議申立人の主張は理由がない。

iii)「基板について何らの特定もなされていないこと」について
キャッピング剤でキャップされた粒径が0.1μm未満程度の「ナノ材料粒子」を含む「ナノ材料ペースト」を300℃以下で焼結することにより,基板によらず,本件特許発明に係る課題を解決できることは,当業者であれば,本件特許の優先日当時の技術常識と本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて理解し得るものといえるから,異議申立人の主張は理由がない。

iv)「ダイについて何らの特定もなされていないこと」について
キャッピング剤でキャップされた粒径が0.1μm未満程度の「ナノ材料粒子」を含む「ナノ材料ペースト」を300℃以下で焼結することにより,ダイによらず,本件特許発明に係る課題を解決できることは,当業者であれば,本件特許の優先日当時の技術常識と本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて理解し得るものといえるから,異議申立人の主張は理由がない。

以上の次第であるから,取消理由6は理由がない。

・取消理由7について
実施例1ないし実施例14には,キャッピング剤の化合物の種類の選択と,ナノ材料粒子の粒径の選択の具体的な例が示されているから,前記実施例の記載と,【0023】-【0044】の記載,並びに,発明の詳細な説明の,【0003】,【0005】,【0007】,【0034】,【0047】,【0051】,【0052】等の記載から理解することができる,発明が解決しようとする課題を参酌すれば,当業者であれば,過度の試行錯誤を要することなく,本件特許発明を実施することができると認められる。
したがって,取消理由7は理由がない。

・取消理由8について
本件特許明細書の,【0003】,【0005】,【0007】,【0034】,【0047】,【0051】,【0052】等の記載から,本件特許発明が,高い温度が傷つきやすいダイに損傷を与えることなく,高密度の電気的ジョイントによって,ダイと基板とを,高い信頼性で結合することができるとする技術的貢献をもたらすことが理解でき,また,発明が解決しようとする課題,その解決手段を,特許明細書から理解することができるから,本件特許発明は,委任省令要件を満たす。
本件特許明細書の図3及び図4におけるボイドの有無は,委任省令要件の判断の要件とは認められない。
仮に,異議申立人の前記主張を,実施可能要件(特許法第6条第4項第1号(同法第113条第4号)と解したとしても,本件特許明細書の【0051】には,「ボイドの発生は観察されなかった。」と明記しているのであるから,本件特許明細書の図3及び図4から,ボイドの有無を明確に特定することができなかったとしても,当該図面の不明りょうさをもって,実施可能要件に欠けるとは認められない。
したがって,取消理由8は理由がない。

・取消理由9について
i)「本件発明は発明として著しく不明確」について
特許法第36条第6項第2号で規定する,発明の明確性とは,請求項に係る発明の範囲が明確であること,すなわち,ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていることを要件とする。
そして,本件特許発明は,「キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとしたときに0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満」等と,発明特定事項のそれぞれが明確に特定されている。
したがって,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明を明確に記載したものと認められる。
異議申立人が主張する,「本件発明の各発明特定事項を組み合わせた際の技術的意義が全く不明」であることは,特許法第36条第6項第2号を判断する要件とはいえない。

ii)「キャッピング剤の含有量の規定」について
本件特許発明1および5における「キャッピング剤が,キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含まれている」のが,焼結前の状態における規定であることは,特許請求の範囲の文言解釈,及び,発明の詳細な説明の記載から明らかである。

iii)「プロダクトバイプロセスクレーム」について
ア 請求項1に係る発明は,「装置」という物の発明であるが,同請求項1中の「前記電気的ジョイントは,キャッピング剤でキャップされたナノ材料粒子を含むナノ材料ペーストを300℃以下で焼結することによって形成され」との記載は,製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため,当該請求項1にはその物の製造方法が記載されているといえる。
また,請求項2ないし4に係る発明も「装置」という物の発明であるが,請求項2ないし4は,直接または間接に請求項1を引用するから,いずれの請求項にも,請求項1と同様に,その物の製造方法が記載されているといえる。

イ ここで,物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という。)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号,平成24年(受)第2658号),とされている。
そこで,請求項1ないし4の記載が上記事情に該当するものであるかについて,以下検討する。

ウ 取消理由9iii)と同趣旨の拒絶理由(平成27年7月14日付け拒絶理由の理由1)に対して,出願人は,平成28年1月21日に提出した意見書において,以下のように,不可能・非実際的理由を説明する。
「ア 本件補正後の請求項1に係る発明は,上記3.(1)ア(ア)に記載致しました特徴を有し,このため,上記3.(1)ア(イ)に記載致しました効果を奏します。
イ 本願の優先日当時において,本件補正後の請求項1に係る発明の特徴を,物の構成又は特性により直接特定することが不可能または非実際的である理由を以下説明致します。
上記した特徴の「電気的ジョイント」には,上記3.(1)ア(イ)に記載致しました効果を妨げない程度に,キャッピング剤やボイドが残留していても構いません(本願明細書等の段落0033,0040,0044)。ナノ材料ペーストを焼結した後に「電気的ジョイント」に残留するキャッピング剤やボイドの量及び分布は,ナノ材料ペーストを焼結する際の複数のナノ材料粒子の配置,キャッピング剤の分解・除去の態様,キャッピング剤分解・除去後の複数のナノ材料粒子間の金属接合の態様等によって変動します。そのため,上記特徴を,物の構造又は特性により一概に特定することは不可能です。
また,X線回折のような分析機器を用いたとしても,X線を照射することによって,「電気的ジョイント」に残留していたキャッピング剤が分解されてしまうため,「電気的ジョイント」に残留するキャッピング剤の量及び分布について,正確なデータを取得することはできません。X線回折を用いて「電気的ジョイント」に残留するキャッピング剤やボイドの量及び分布を測定しようとすると,本件補正後の請求項1に係る発明のジョイントと比較例のジョイントとをそれぞれ統計上優位となる数だけ製造し,X線回折スペクトラムの数値的特徴を測定し,その統計的処理を施した上で,本件補正後の請求項1に係る発明のジョイントと比較例のジョイントとを区別する有意な指標とその値を見出さなければならず,膨大な時間とコストがかかります。したがって,上記のような指標とその値を見出し,もって本件補正後の請求項1に係る発明の特徴を物の構造又は特性により直接特定することは,およそ不可能または非実際的であります。
以上のとおり,本件補正後の請求項1に係る発明には,本願の優先日当時において本件補正後の請求項1に係る発明の上記特徴を構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在します。したがって,本件補正後の請求項1に係る発明は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすと思料致します。」

エ この点に関して,異議申立人は,以下の主張をする。
「本件特許明細書には,実施例で得られた電気的ジョイントのX線で観察した様子やSEM断面観察の様子が示されており(図3及び4),さらにジョイントの構成金属原子が明らかであることに加えて,熱衝撃試験の結果も記載されていることから([0052]),これらによって(あるいはさらに接合力やボイド割合などの実際的な検討により求められる特性によって)電気的ジョイントの構造を直接的に特定することができる。
なお特許権者は上記意見書(甲28のP5の上から8?9行の下線部分)において,『・・・,「電気的ジョイント」に残留するキャッピング剤の量及び分布について,正確なデータを取得することはできません。・・・』といった主張を行っているが,電気的ジョイントの構造を特定するにあたって必ずしもキャッピング剤の量及び分布が必須であるとは言えず,また必須とする根拠も上記意見書において説明されていない。さらに,キャッピング剤の量は例えば酸素気流中燃焼(高周波加熱炉方式)-赤外線吸収法により炭素量として近似的に求めることもできる(甲29:堀湯製作所のホームページhttp://www.horiba.com/jp/scientific/products-jp/elemental-analyzers/carbonsulfur/)。
以上から,本件発明に係る装置をその構造によって直接的に特定することがおよそ不可能・非実際的といった事情は存在しないので,本件発明1?4に係る発明は明確性(特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号))を満たさない。」

オ そこで,上記主張について検討すると,本件特許発明1は,上記のとおり,「前記電気的ジョイントは,キャッピング剤でキャップされたナノ材料粒子を含むナノ材料ペーストを300℃以下で焼結することによって形成され」という製造方法の限定のほか,「装置」について,前記「電気的ジョイント」が,「基板とダイとの間の電気的カップリングを与える」とともに,「ダイ」を「基板に取り付け」るものであって,さらに,「キャッピング剤」が,「キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含まれており」という限定を付して,当該「装置」を特定するものである。
そして,本件特許明細書(【0003】,【0005】,【0007】,【0034】,【0047】,【0051】,【0052】等)に示されるように,「装置」が,上記限定を有することによって,高い温度が傷つきやすいダイに損傷を与えることなく,高密度の電気的ジョイントによって,ダイと基板とを,高い信頼性で結合することができることからも分かるように,「装置」について,前記「『電気的ジョイント』が,『基板とダイとの間の電気的カップリングを与える』とともに,『ダイ』を『基板に取り付け』るものであって,さらに,『キャッピング剤』が,『キャップされたナノ材料粒子の重量をベースとして,0.2重量パーセント以上10重量パーセント未満含まれており』」という限定によるもののほか,「前記電気的ジョイントは,キャッピング剤でキャップされたナノ材料粒子を含むナノ材料ペーストを300℃以下で焼結することによって形成され」という限定が,「ダイ」,「電気的ジョイント」,「キャッピング剤」,「基板」の少なくとも一部の構造又は特性に何らかの影響を与えていることは明らかである。

カ しかしながら,本件特許明細書に,前記「前記電気的ジョイントは,キャッピング剤でキャップされたナノ材料粒子を含むナノ材料ペーストを300℃以下で焼結することによって形成され」という限定に起因する,従来技術との相違に係る構造又は特性に関する文言を見いだすことができず,かつ,かかる構造又は特性を測定に基づき解析し特定することも不可能又は非現実的であることが,意見書において具体的に説明されている。
すなわち,本願特許発明1について,「不可能・非実際的事情」の存在が認められる。

キ そうすると,「装置」という物の発明に係る請求項1の記載に「前記電気的ジョイントは,キャッピング剤でキャップされたナノ材料粒子を含むナノ材料ペーストを300℃以下で焼結することによって形成され」というその物の製造方法が記載されている場合において,上述のとおり「不可能・非実際的事情」が存在すると認められるから,請求項1の記載は,特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するものである。

ク また,請求項2ないし4に係る発明についても,上記と同様の理由があるといえるから,請求項2ないし4の記載は,特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえる。

ケ したがって,請求項1ないし4の記載は,特許法36条6項2号の要件に適合するものと認められる。

コ 異議申立人は,実施例で得られた電気的ジョイントのX線で観察した様子やSEM断面観察の様子,さらにジョイントの構成金属原子が明らかであること,熱衝撃試験の結果によって(あるいはさらに接合力やボイド割合などの実際的な検討により求められる特性によって)電気的ジョイントの構造を直接的に特定することができる旨主張する。
しかしながら,異議申立人は,これらの観察した様子等がどのようなものであることをもって,本件特許発明1等に係る構造又は特性を特定することができるかについて,具体的に主張していない。
したがって,上記観察した様子等によって,本件特許発明1等に係る構造又は特性を特定することができるかについて,出願人が意見書で主張する「不可能・非実際的事情」が存在しないとまでは,異議申立人の上記主張からは認めることはできない。

以上の次第であるから,取消理由9は理由がない。

第5 むすび
したがって,特許異議申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし18に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-03-16 
出願番号 特願2012-257469(P2012-257469)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01L)
P 1 651・ 536- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 和樹水野 浩之田代 吉成  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 鈴木 匡明
加藤 浩一
登録日 2016-05-13 
登録番号 特許第5934079号(P5934079)
権利者 アルファ・メタルズ・インコーポレイテッド
発明の名称 ダイを基板に取付けた装置  
代理人 佐々木 眞人  
代理人 堀井 豊  
代理人 深見 久郎  
代理人 荒川 伸夫  

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