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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16H
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 F16H
管理番号 1326175
審判番号 不服2016-7751  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-26 
確定日 2017-04-07 
事件の表示 特願2011-286360「トランスミッションオイルの温度制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 8日出願公開、特開2013-133922、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成23年12月27日の出願であって、平成27年8月20日付けで拒絶理由が通知され、同年10月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月5日付けで却下理由が通知され、平成28年2月9日付けで平成27年10月28日付けの手続補正書に係る手続却下の処分がなされ、平成28年2月26日付け(発送日:同年3月4日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月26日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、同年8月25日に前置報告がされた後、当審において同年12月21日付けで拒絶理由が通知され、平成29年2月3日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年2月3日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項を踏まえ、以下のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
トランスミッションオイルの昇温・冷却を行うトランスミッションウォーマをヒータ回路に組み込んだトランスミッションオイルの温度制御装置であって、
該ヒータ回路はトランスミッションウォーマを通過する通常のヒータ回路とトランスミッションウォーマを通過しないバイパス切替回路とを有し、
車内温度及び車外温度を検知し、検知された車内温度及び車外温度がそれぞれ所定温度以上である場合には前記通常のヒータ回路に切り替え、前記車内温度が所定温度未満、又は前記車内温度が所定温度以上であって前記車外温度が所定温度未満である場合には前記バイパス切替回路に切り替える制御を行うことを特徴とするトランスミッションオイルの温度制御装置。」
(平成29年2月3日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、「車内温度及びは車外温度を検知し、」とあるが、この「車内温度及びは車外温度」は、「車内温度及び車外温度」の誤記と認められるので、上記のように認定した。)

第3.原査定の拒絶理由の概要
(理由1)本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(理由2)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


刊行物1:特開2005-83225号公報
刊行物2:特開2002-310270号公報

(理由1)進歩性について:
刊行物1には、特に、段落[0017]-[0030],[図1]-[図5]を参照して次の発明が記載されている。
「トランスミッションオイルの昇温・冷却を行うトランスミッションウォーマ(6)をヒータ回路に組み込んだトランスミッションオイルの温度制御装置であって、ヒータ回路はトランスミッションウォーマを通過する通常のヒータ回路とトランスミッションウォーマを通過しないバイパス切替回路とを有し、エンジン水温を検知し、この検知された温度が所定条件を満足する場合には通常のヒータ回路とバイパス切替回路とを切り替える制御を行うトランスミッションオイルの温度制御装置。」
本願の請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、検知対象について、本願の請求項1に係る発明では、「車内温度及び/又は車外温度、並びにエンジン水温」であるのに対し、刊行物1に記載された発明では、「エンジン水温」のみ特定されている点で相違する(以下、「相違点1」という。)。
上記相違点1について検討する。
刊行物2には、特に、段落[0005]-[0008],[0021]-[0024],[図1],[図5]を参照して次の発明が記載されている。 「トランスミッションオイルの昇温・冷却を行うトランスミッションウォーマ(10)をヒータ回路に組み込んだトランスミッションオイルの温度制御装置であって、ヒータ回路はトランスミッションウォーマを通過する回路(27bと27c)とトランスミッションウォーマを通過しない回路(27bのみ)とを有し、車内温度(T_(A))又は車外温度、並びにエンジン水温(T_(W))を検知し、これらの検知された温度がそれぞれ所定条件を満足する場合には回路(27bと27c)と回路(27bのみ)とを切り替える制御を行うトランスミッションオイルの温度制御装置。」
そして、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明とは、冷却水の低温時に、ヒータの暖房要求を考慮して、トランスミッションウォーマへの当該冷却水の循環を遮断するという点で同一の制御構成を有する。
してみると、刊行物1に記載された発明に対し、ヒータの暖房要求を考慮して、刊行物2に記載された発明を適用して、上記相違点1のようにすることは当業者が容易になし得るものである。

(理由2)サポート要件について
発明の詳細な説明には、車内温度が低い場合に、トランスミッションを暖めることを止めてヒータを優先して暖めることでヒータの暖房性能を向上させる(段落[0006]を参照。)という課題を解決するために、車内温度及び/又は車外温度、並びにエンジン水温を検知し、これらの検知された温度が所定温度以下である場合には、トランスミッションウォーマを通過しないバイパス切替回路に切り替える制御を行う(段落[0017]-[0024]を参照。)ことが発明として記載されている。
しかしながら、請求項1には「車内温度及び/又は車外温度、並びにエンジン水温を検知し、これらの検知された温度がそれぞれ所定条件を満足する場合には前記通常のヒータ回路と前記バイパス切替回路とを切り替える制御を行う」とのみ記載されており、文言上、これらの検知された温度が所定温度以上である場合に、バイパス切替回路に切り替える制御を行う発明も含まれることとなる。そして、当該発明の場合、上記課題を解決できないのは明らかである。
したがって、請求項1には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。

第4.刊行物の記載について
1.刊行物1(特開2005-83225号公報)
原査定において引用された刊行物1には、「トランスミッション油温制御装置」に関し、次の事項が図面(特に、図1ないし図4)と共に記載されている。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの冷却水の温度を利用してトランスミッションオイルの油温を制御するトランスミッション油温制御装置に関する。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トランスミッションにおけるフリクションロスを低減して切り換え操作性の向上および燃費の向上を図ると共に、オイルの過温によるシール部材やオイルの劣化を防止するためには、オイルウオーマーとオイルクーラとをそれぞれ別々に組み込む必要があり、このため、車両搭載性に劣ると共に、コスト高になるという問題があった。
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、車両搭載性を悪化させることなく、かつ、コストの上昇を抑えつつ、トランスミッションオイルの加温と冷却を共に行うことができ、これによりトランスミッションにおけるフリクションロスを低減して切り換え操作性の向上および燃費の向上を図ると共に、オイルの過温によるシール部材やオイルの劣化を防止することができるトランスミッション油温制御装置を提供することにある。」

(3)「【0017】
図1はこの実施例のトランスミッション油温制御装置を示す図であり、この図において、1はエンジン、2はラジエータ、3は冷却ファン、4はヒータコア、5はウォータポンプ、6は油温調整手段、7は電気制御流路切換バルブ(電気制御バイパス流路開閉バルブ)、8は水温センサ(冷却水温検出手段)、9はエンジン回転数センサ(エンジン回転数検出手段)、10はコントローラ(油温調整バルブ切換制御手段、バイパスバルブ切換制御手段)、Iはラジエータ循環経路、IIはヒータ循環経路、 IIIはバイパス流路を示す。
【0018】
さらに詳述すると、前記ラジエータ循環経路Iは、エンジン1を通過した冷却水をラジエータ2に循環させて冷却するための経路であり、エンジン1を通過した冷却水を、ラジエータ2、電気制御流路切換バルブ7、ウォータポンプ5の順に経由してエンジン1に戻す経路で構成されている。
【0019】
前記ヒータ循環経路IIは、エンジン1を通過した冷却水を空調装置用ヒータコア4に循環させて暖房を行うための経路であり、エンジン1を通過した冷却水を、ヒータコア4、電気制御流路切換バルブ7、ウォータポンプ5の順に経由してエンジン1に戻す経路で構成されている。
【0020】
前記バイパス流路III は、エンジン1を通過した冷却水がラジエータ2に向かうラジエータ循環経路Iの途中にエンジン1を通過した冷却水をエンジン1に戻すための流路であり、エンジン1を通過してラジエータ2に向かう冷却水を、電気制御流路切換バルブ(電気制御バイパス流路開閉バルブ)7、ウォータポンプ5の順に経由してエンジン1に戻す流路で構成されている。
【0021】
前記油温調整手段6は、エンジン1を通過した冷却水の温度によってトランスミッションオイルの温度の調整が可能な手段であり、電気制御流路切換バルブ7を介して冷却水の流通および停止の切り換えが行われる。
【0022】
前記電気制御流路切換バルブ7は、ヒータ循環経路IIを流れる冷却水を油温調整手段6に流す第1切換パターンと、ラジエータ循環経路Iにおけるラジエータ2を通過した冷却水を油温調整手段6に流通させる第2切換パターンと、油温調整手段6への冷却水の流通を停止させる第3切換パターンと、ラジエータ循環経路Iを閉じる第4切換パターンと、バイパス流路 を開く第5切換パターンとを備えた構造となっており、この電気制御流路切換バルブ7は、コントローラ9からの切換制御信号により切換パターンの切換制御が行われるようになっている。」

(4)「【0023】
次に、前記コントローラ9における電気制御流路切換バルブ7の切換制御作動の内容を、図2の制御フローチャートに基づいて説明する。
まず、図2のステップS101では、水温センサ8で検出されたエンジン1を通過した冷却水の温度を読み込み、ステップS102では、エンジン回転数センサで検出されたエンジン回転数を読み込む。
【0024】
続くステップS103では、エンジン回転数が所定の回転数しきい値_(α)未満であるか否かを判定し、YES(エンジン回転数<_(α))である時は、ステップS104に進んで電気制御流路切換バルブ7をバイパス流路III を閉じた状態に維持させ、NO(エンジン回転数≧_(α))である時は、ステップS105に進んで電気制御流路切換バルブ7をバイパス流路III を開く第5切換パターンに切り換えた後、ステップS106に進む。
【0025】
このステップS106では、水温が第1温度T1未満(低温)であるか否かを判定し、YES(水温 また、NO(水温≧T1)である時は、ステップS108に進む。
【0026】
このステップS108では、水温が第1温度T1以上から第2温度T2未満の範囲内にある否かを判定し、YES(T1≦水温
(5)「【0027】
次に、前記コントローラ9における水温による電気制御流路切換バルブ7の切換制御作動の内容を、図3?5の切換状態説明図に基づいて説明する。
【0028】
(イ)冷却水の低温時
エンジン1を通過した冷却水の温度が低温(第1水温T1未満)である時は、図3に示すように、ラジエータ循環経路Iが閉じられると共に、油温調整手段6への冷却水の流通が停止された状態となる。
即ち、コールドスタート時等のように冷却水の温度が低温である時は、ラジエータの冷却作用および油温調整手段6の働きを停止させることによってエンジン1の温度上昇を早めることができる。
【0029】
(ロ)冷却水の適温時
エンジン1を通過して加温された冷却水の温度が適温(第1温度T1以上から第2温度T2未満)である時は、図4に示すように、ラジエータ循環経路Iが閉じられると共に、ヒータ循環経路IIを流れる適温の冷却水を油温調整手段6に流すことにより油温調整手段6をオイルウオーマーとして作動させた状態となる。 即ち、車両が一定距離走行してエンジン1が適温に暖まった時は、ラジエータの冷却作用を停止させることによって冷却水が適温未満に低下することが防止されると共に、適温に暖められた冷却水の温度によってトランスミッションオイルを暖めることにより、トランスミッションにおけるフリクションロスを低減して切り換え操作性の向上および燃費の向上を図ることができるようになる。」

(6)「【0034】
以上詳細に説明してきたように、この実施例のトランスミッション油温制御装置によれば、トランスミッションに油温調整手段6を1つ備えるだけでトランスミッションオイルの加熱と冷却を共に行うことができるため、車両搭載性を悪化させることなく、かつ、コストの上昇を抑えつつ、トランスミッションオイルを適温に制御し、これによりトランスミッションにおけるフリクションロスを低減して切り換え操作性の向上および燃費の向上がを図れると共に、オイルの過温によるシール部材やオイルの劣化を防止することができるようになるという効果が得られる。」

上記記載事項を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「トランスミッションオイルの昇温・冷却を行う油温調整手段6をヒータ循環経路IIに組み込んだトランスミッション油温制御装置であって、
該ヒータ循環経路IIは電気制御流路切換バルブ7による油温調整手段6を通過する第1切替パターン及びラジエータ循環経路Iを閉じる第4切替パターンによる回路及び電気制御流路切換バルブ7による油温制御手段6への冷却水の流通を停止させる第3切替パターン及びラジエータ循環経路Iを閉じる第4切替パターンによる回路とを有し、
エンジン1を通過した冷却水の温度を検知し、当該水温が第1温度T1以上から第2温度T2未満(適温)である時は、電気制御流路切換バルブ7をラジエータ循環経路Iを閉じる第4切換パターンおよびヒータ循環経路IIを流れる冷却水を油温調整手段6に流す第1切換パターンに切り換え、前記水温が第1温度T1未満(低温)である時は、電気制御流路切換バルブ7を油温調整手段6への冷却水の流通を停止させる第3切換パターンおよびラジエータ循環経路Iを閉じる第4切換パターンに切り換える制御を行うトランスミッション油温制御装置。」

2.刊行物2(特開2002-310270号公報)
原審査において引用された刊行物2には、「油温制御装置」に関し、次の事項が図面(特に図1及び図5)と共に記載されている。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、トランスミッションの潤滑油の油温制御に用いて好適の、油温制御装置に関する。」

(2)「【0006】このため、水温が低い時はオイルの加熱は行わないようにするだけでは、トランスミッションオイルの昇温が遅れやすくなり燃費向上効果を十分に得ることができないという課題が生じる。本発明は、上述の課題に鑑み創案されたもので、要求に応じて速やかにヒータ性能を高めることができるようにしつつ、可能な限りトランスミッション等のオイルの昇温を早めて燃費向上効果を十分に得ることができるようにした、油温制御装置を提供することを目的とする。」

(3)「【0018】このようなオイルウォーマ(ATFウォーマ)10は、図1に示すような冷却水の循環系に設けられている。つまり、エンジン20のシリンダブロック21及びシリンダヘッド22内のウォータジャケット23内は、ポンプ24を通じて導入される冷却水によって冷却されるようになっている。エンジン20を冷却して高温になった冷却水は、流路27aを通じてラジエータ25に、流路(第1冷却水経路)27bを通じて空調装置用ヒータ26に、流路(第2冷却水経路)27cを通じてオイルウォーマ10にそれぞれ送られ、各熱関連機器25,26,10を経た後戻ってくるようになっている。
【0019】ラジエータ25への流路27aにはサーモスタットバルブ28が介装されており、冷却水の水温が所定温度以上に高まると流路27aが開通するようになっている。したがって、冷却水温が低い(所定温度未満)場合には冷却水はラジエータ25には送られず速やかに昇温されエンジン20の暖気を促進し、冷却水温が高い(所定温度以上)場合には冷却水はラジエータ25に送られて冷却されエンジン20を所定の温度域に保持するようになっている。
【0020】また、ヒータ26へ送られた冷却水は、その熱をヒータの熱源に適宜利用されて、その分だけ冷却されてエンジン20に戻ってくるようになっている。オイルウォーマ10に送られた冷却水は、少なくともトランスミッションの冷態時には、その熱をオイル(ATFオイル)の加熱(ATの暖機)に利用されて、その分だけ冷却されてエンジン20に戻ってくるようになっている。
【0021】そして、オイルウォーマ10に冷却水を送る流路(第2冷却水経路)27cには、電磁弁(制御弁)30が介装されており、電磁弁30の開閉或いは開度調整によって、オイルウォーマ10への冷却水の供給を遮断又は制限できるようになっている。この電磁弁30を制御するために、コントロ?ラ(制御手段)31と、外気温あるいは車室温TAを検出する温度センサ(温度検出手段)32と、エンジンの冷却水の温度TWを検出する水温センサ(水温検出手段)33と、空調装置用ヒータ26が作動中か否かを検出するヒータスイッチ34がそなえられている。」

(4)「【0022】
コントロ?ラ31は、(丸1:当審注:丸の中に1。以下同様)水温センサ33により検出された冷却水の温度T_(W)が所定値T_(W)0未満で、且つ、(丸2)温度センサ32により検出された外気温あるいは車室温T_(A)が所定値T_(A)0未満で、且つ、(丸3)ヒータスイッチ34がヒータ26作動中の場合には、オイルウォーマ10ヘの冷却水の循環を遮断あるいは制限するよう、電磁弁30を制御するようになっている。
【0023】
一方、(丸1)水温センサ33により検出された冷却水の温度T_(W)が所定値T_(W)0以上、又は、(丸2)温度センサ32により検出された外気温あるいは車室温T_(A)が所定値T_(A)0以上、又は、(丸3)ヒータ26が停止中の場合には、コントロ?ラ31は、オイルウォーマ10ヘの冷却水の循環の遮断あるいは制限を解除するよう、電磁弁30を制御するようになっている。
【0024】
このような制御は、暖房要求が高い場合には、エンジン20を通過した冷却水が空調装置用ヒータ26に優先的に供給されるようにして、暖房要求時に速やかに暖房できるようにするとともに、暖房要求が低い(又はない)場合には、エンジン20を通過した冷却水がヒータ26に対して不必要に優先供給されないようにして、ヒータ性能を犠牲にしない範囲で、オイルウォーマ10ヘの供給熱量を確保しようとするものである。」

(5)「【0027】
つまり、水温センサ33により検出された冷却水の温度T_(W)が所定値T_(W)0未満か否かを判定し(ステップS10)、冷却水の温度TWが所定値T_(W)0未満なら、温度センサ32により検出された外気温あるいは車室温T_(A)が所定値T_(A)0未満か否かを判定する(ステップS20)。ここで、外気温あるいは車室温T_(A)が所定値T_(A)0未満なら、ヒータスイッチ34がヒータ作動中となっているか否かを判定し(ステップS30)。ここで、ヒータ作動中なら、電磁弁30を閉じて冷却水の流通を遮断する(ステップS40)。あるいは、これに代えて、電磁弁30の開度を縮小して冷却水の流通を制限しても良い。
【0028】
このように、冷却水の温度T_(W)が所定値T_(W)0未満で、且つ、外気温あるいは車室温T_(A)が所定値T_(A)0未満で、且つ、ヒータ作動中なら、暖房要求が高いのに対して冷却水の温度TWが低い状況にあるため、暖房要求を満たすために、電磁弁30を閉じて冷却水の流通を遮断するか、あるいは、電磁弁30の開度を縮小して冷却水の流通を制限して、エンジン20を通過した冷却水が空調装置用ヒータ26に優先的に供給されるようにするのである。
【0029】
これによって、暖房要求時に速やかに暖房できるようにすることができる。一方、冷却水の温度T_(W)が所定値T_(W)0以上の場合、又は、外気温あるいは車室温T_(A)が所定値T_(A)0以上の場合、又は、ヒータ停止中なら、電磁弁30を開いて(ステップS50)、オイルウォーマ10ヘの供給熱量を確保する。
これによって、暖房要求が低い(又はない)場合には、エンジン20を通過した冷却水がヒータ26に対して不必要に優先供給されないようにして、ヒータ性能を犠牲にしない範囲で、オイルウォーマ10ヘの供給熱量を確保することができるのである。」

(6)「【0030】
なお、本発明の実施形態は、上述のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
例えば、電磁弁30の制御[閉鎖(或いは開度縮小)するか否か]を、冷却水の温度T_(W)が所定値T_(W)0未満か否か(ステップS10)、外気温あるいは車室温T_(A)が所定値T_(A)0未満か否か(ステップS20)、ヒータ作動中か否か(ステップS20)の3条件から行っているが、単に、外気温あるいは車室温T_(A)が所定値T_(A)0未満か否かの条件のみに基づいて電磁弁30を制御したり、この条件に、冷却水の温度T_(W)が所定値T_(W)0未満か否かの条件又はヒータ作動中か否かの条件を加えたものに基づいて電磁弁30を制御したりしても良い。」

3.刊行物3(特開2001-263061号公報)
前置報告において引用された刊行物3には、「車両用水冷式内燃機関の冷却システム」に関し、図面と共に以下の記載がある。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両用水冷式内燃機関の冷却システムに関するものである。」

(2)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、電動ウォータポンプを備えた内燃機関の冷却水システムの冷却水経路上にトランスミッション用の作動油を加熱するオイルウォーマを設けるにあたっては、その最適な配置が考慮されていなかった。
【0005】本発明は、上記の問題点を解決する車両用水冷式内燃機関の冷却システムを提供することを目的とする。」

(3)「【0019】エンジン3の冷却システム4ではエンジン3によって直接的に駆動されるウォータポンプ6から排出される冷却水が水路10を通ってヒータコア11に導入される。ヒータコア11は冷却水を熱源として空気を暖める熱交換器であって、暖められた空気が車室内に導入されることで、暖房装置として機能する。
【0020】また冷却システム4には冷却水温が所定温度以上になった場合に冷却水を冷却するラジエータ12が備えられており、ラジエータ12は水路10をバイパスする水路13に設けられる。ラジエータ12の下流側の水路13に冷却水温を検出して水路13の開閉を制御するサーモスタット14が配置されており、冷却水温が所定値以上のときにサーモスタット14が作動して水路13を開放して、ラジエータ12によって冷却された冷却水を水路10に導入することで冷却システム4全体の冷却水温を低下させる。
【0021】ヒータコア11を流出した冷却水は水路15によって電動ウォータポンプ16に供給される。電動ウォータポンプ16は後述するような作動条件が設定されており、電動ウォータポンプ16が作動している場合には、冷却水の大部分が水路15に流入し、後述するバイパス水路18に流入する冷却水は極めて少なくなる。作動していない場合にはバイパス水路18にも充分な量の冷却水が流入する。電動ウォータポンプ16から排出された冷却水は水路17を通って、エンジン3内に導入される。
【0022】さらに電動ウォータポンプ16をバイパスするようにバイパス水路18が設けられており、バイパス水路18に逆止弁19と作動油加熱装置20が配置される。逆止弁19は作動油加熱装置20を冷却水が逆流するのを防止するために設けられており、作動油加熱装置20はCVT5の作動油を高温の冷却水によって昇温するために設けられる。作動油加熱装置20はヒータコア11の1/10程度の容量が有れば足りるものである。
【0023】CVT5の作動油を作動油加熱装置20に供給するために、CVT5と作動油加熱装置20との間に油路21と22が設けられる。
【0024】また電動ウォータポンプ16の作動を制御するコントローラ30が設けられており、図示しないがヒータスイッチのオンオフを検出する検出センサ、エンジンの作動状態を検出する回転数センサ、外気温度を検出する温度センサ、CVT5の作動油の油温を検出する温度センサおよびエンジン冷却水温を検出する温度センサが設けられ、これらの出力信号に基づいてコントローラ30により電動ウォータポンプ16の作動が制御される。」

(4)「【0028】ステップS2ではエンジンが作動しているかどうかを回転数センサで検出して、作動している場合にはステップS4に進み、アイドルストップの状態の場合やモータ1のみを駆動して走行している場合などエンジン3が停止している場合には、ステップS5に進む。ステップS5では冷却水温が所定値以下であるかどうかを温度センサの測定値によって判定し、所定値以下の時にはステップ9に進み、電動ウォータポンプ16の作動を停止して制御を終了する。所定値以上の場合にはステップS8に進む。」

(5)「【0033】ステップS6では温度センサによって測定した外気温度が氷点下5℃以下の場合にはステップS7に進み、氷点下5℃以上の場合にはステップS3に進む。なお外気温度の設定値(本実施例では氷点下5℃)はヒータコア11の性能や車室内の容積によって変動する。
【0034】エンジン回転数が低くても、外気温度が氷点下5℃以上の場合には作動油加熱装置20が放熱してもヒータコア11から十分な放熱が得られ、暖房を行うことができる。よってステップS3で電動ウォータポンプ16を停止して、図示しないバッテリの負荷を低減する制御を行う。
【0035】ステップS7では温度センサによって検出したCVT6の作動油温が氷点下20℃より高い時にはステップS8に進み、氷点下20℃以下の時にはステップS3に進む。
【0036】ステップS7でCVT6の作動油温が氷点下20℃より高い時には、エンジンの回転数が低く、また外気温が低いので、この状態から作動油加熱装置20を作動させると作動油に熱を奪われることになり、ヒータコア11からの発熱量が減少し、暖房性能が低下することになる。よって作動油の受熱量を少なくするためにステップS8で電動ウォータポンプ16を作動し、暖房性能の低下を防止する。
【0037】一方、CVT6の作動油温が氷点下20℃以下の時には極めて作動油温が低い状態であり、作動油の油圧が確保できない状態である。よってCVT6の変速制御に支障が生じる(始動直後になかなか加速しない状態となる)恐れがある。そのためにステップS3で電動ウォータポンプ16を停止して、作動油加熱装置20に冷却水を導入し、速やかな作動油の昇温に寄与する。」

(6)「【0041】このようにヒータコア11とエンジン3とを接続する水路15、17をバイパスするバイパス水路18を設け、バイパス水路18に作動油加熱装置20を設置し、水路15とバイパス水路18への冷却水の切換を行う電動ウォータポンプ16を水路15と17の間に設けたので、CVT6の作動油の加熱が不要なときには電動ウォータポンプ16を作動して作動油加熱装置20への冷却水の導入を中止し、不要な放熱を防止することができる。よってヒータコア11へ十分な熱量を供給して、ヒータ性能を向上することができる。またCVT6の作動油の加熱が必要なときには、電動ウォータポンプ16を停止して、水路18を通して作動油加熱装置20に冷却水を供給して作動油に冷却水の熱を伝えて、速やかな作動油の昇温を行うことができる。」

(7)「【0043】また図3に示す第2実施形態は、水路15とバイパス水路18との上流側分岐点に水路切換弁24を設け、水路切換弁24とヒータコア11との間に電動ウォータポンプ16を配置し、コントローラ30によって電動ウォータポンプ16と水路切換弁24を用いて水路の切換制御をするようにしたものである。このように電動ウォータポンプ16と作動油加熱装置20を直列に配置することによって電動ウォータポンプ16の稼動効率を向上し、作動油加熱装置20での熱変換効率が向上する。」

第5.当審の判断
1.29条2項について
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明の「油温調整手段6」は、その機能・構成からみて、本願発明の「トランスミッションウォーマ」に相当し、同様に、「ヒータ循環経路II」は「ヒータ回路」に、「トランスミッション油温制御装置」は「トランスミッションオイルの温度制御装置」に、それぞれ相当する。

イ.引用発明は、電気制御流路切換バルブ7による油温調整手段6を通過する第1切替パターン及びラジエータ循環経路Iを閉じる第4切替パターンにより、ヒータ循環経路IIを流れる冷却水を油温調整手段6に流す回路を形成し、電気制御流路切換バルブ7による油温制御手段6への冷却水の流通を停止させる第3切替パターン及びラジエータ循環経路Iを閉じる第4切替パターンにより、ヒータ循環経路IIを流れる冷却水の油温調整手段6への流通を停止させる回路を形成するので、引用発明の「電気制御流路切換バルブ7による油温調整手段6を通過する第1切替パターン及びラジエータ循環経路Iを閉じる第4切替パターンによる回路」及び「電気制御流路切換バルブ7による油温制御手段6への冷却水の流通を停止させる第3切替パターン及びラジエータ循環経路Iを閉じる第4切替パターンによる回路」は、それぞれ本願発明の「トランスミッションウォーマを通過する通常のヒータ回路」及「トランスミッションウォーマを通過しないバイパス切替回路」に相当する。

以上の点からみて、本願発明と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有すると認められる。
[一致点]
「トランスミッションオイルの昇温・冷却を行うトランスミッションウォーマをヒータ回路に組み込んだトランスミッションオイルの温度制御装置であって、
該ヒータ回路はトランスミッションウォーマを通過する通常のヒータ回路とトランスミッションウォーマを通過しないバイパス切替回路とを有するトランスミッションオイルの温度制御装置。」
[相違点]
本願発明では、「車内温度及び車外温度を検知し、検知された車内温度及び車外温度がそれぞれ所定温度以上である場合には前記通常のヒータ回路に切り替え、前記車内温度が所定温度未満、又は前記車内温度が所定温度以上であって前記車外温度が所定温度未満である場合には前記バイパス切替回路に切り替える制御を行う」のに対して、引用発明は、エンジン1を通過した冷却水の温度を検知し、当該水温が第1温度T1以上から第2温度T2未満(適温)である時は、電気制御流路切換バルブ7をラジエータ循環経路Iを閉じる第4切換パターンおよびヒータ循環経路IIを流れる冷却水を油温調整手段6に流す第1切換パターンに切り換え、前記水温が第1温度T1未満(低温)である時は、電気制御流路切換バルブ7を油温調整手段6への冷却水の流通を停止させる第3切換パターンおよびラジエータ循環経路Iを閉じる第4切換パターンに切り換える制御を行う点。

(2)判断
相違点に係る本願発明の構成に関して、本願明細書には、「本発明のトランスミッションオイルの温度制御装置によれば、通常はヒータ回路水をトランスミッションウォーマに通過させることでトランスミッションオイルを昇温してトランスミッションを暖めるが、暖気過程において車内温度等が低い場合には、トランスミッションウォーマを通過しないバイパス切替回路に切り替えるように制御することでヒータを暖めることを優先する。とりわけ本トランスミッションオイルの温度制御装置は、車内温度を検知することでヒータの暖房性を優先させている点が大きな特徴である。したがって、軽自動車のようなエンジンの熱量が小さく熱量が小さい車両においても暖気過程でトランスミッションオイルに熱量が奪われてしまうことがなく、ヒータが効かないことを防止することができる。」(段落【0008】)、「次に、本トランスミッションオイルの温度制御装置においてバイパス回路9と通常のヒータ回路6とを切り替える条件について図3にその制御フローの一例が示されている。本実施形態の場合、バイパス回路9に切り換えるための条件は、車内温度を最優先にし、これに加えて車外温度やエンジン1の水温(すなわちヒータ回路水6の水温)についても切換条件にすることができる。図3のフロー図の場合、車内温度、車外温度、エンジン水温の全てを見ているケースである。なお、車内温度等の各種温度は、既存のオートエアコンやエンジンのECUからの信号を受信して切換弁10を作動させることとする。」(段落【0022】)、「S1に示すように、まず最初に車内温度t1を検出する。そして、t1が所定の温度a℃未満(t1<a)であると判断すると(S2参照)、切換弁10を作動し、バイパス回路9に切り換えられる(S7参照)。所定温度a℃は寒冷を判断される温度であり例えば5℃に設定される。次に、車外温度t2を検出し(S3参照)、車内温度t1の判断の場合と同様に車外温度t2が所定温度b℃未満(t2<b)であると判断すると(S4)、切換弁10を作動し、バイパス回路9に切り換えられる(S7参照)。車外温度t2の所定温度b℃は車内温度a℃よりも低い温度であり(a>b)、例えば3℃に設定される。本実施形態では車内温度t1をバイパス回路9に切り換える最優先の判断基準にしているが、車内温度t2が低温でない場合でも車外温度t2がそれ以上に低温であり、暖気過程でヒータ回路水6の昇温を優先させた方がいい場合も考えられるからである。例えば、寒冷地等で車庫から外出した直後などが考えられる。」(段落【0023】)と記載されている。
この記載によれば、本願発明は、バイパス回路9に切り換えるための条件は、車内温度を最優先にし、これに加えて車外温度を切換条件にしており、通常はヒータ回路水をトランスミッションウォーマに通過させることでトランスミッションオイルを昇温してトランスミッションを暖めるが、暖気過程において車内温度や車外温度が低い場合には、トランスミッションウォーマを通過しないバイパス切替回路に切り替えるように制御することでヒータを暖めることを優先して、軽自動車のようなエンジンの熱量が小さく熱量が小さい車両においても暖気過程でトランスミッションオイルに熱量が奪われてしまうことがなく、ヒータが効かないことを防止することができるようにしたものであると認められる。
これに対して、引用発明は、第4.1.(4)及び(5)によれば、エンジン1を通過した冷却水の温度を検知し、当該水温が第1温度T1以上から第2温度T2未満(適温)である時は、電気制御流路切換バルブ7をラジエータ循環経路Iを閉じる第4切換パターンおよびヒータ循環経路IIを流れる冷却水を油温調整手段6に流す第1切換パターンに切り換え、前記水温が第1温度T1未満(低温)である時は、電気制御流路切換バルブ7を油温調整手段6への冷却水の流通を停止させる第3切換パターンおよびラジエータ循環経路Iを閉じる第4切換パターンに切り換える制御を行うものであり、本願発明のトランスミッションウォ-マに相当する油温調整手段6へ冷却水を流通させるか否かは、「冷却水温度」により行っており、本願発明のように「車内温度及び車外温度」により行うものではない。
また、刊行物2に記載された事項は、第4.2.(3)ないし(6)によれば、本願発明のトランスミッションウォ-マに相当するオイルウォーマ10へ冷却水を流通させるか否かの制御条件に「外気温あるいは車室温」を含んでいるものの、本願発明のように「車内温度及び車外温度」の両方を制御条件とするものではなく、相違点に係る本願発明の構成を開示するものではない。
さらに、刊行物3に記載された事項は、第4.3.(3)ないし(7)によれば、本願発明のトランスミッションウォ-マに相当する作動油加熱装置20へ冷却水を流通させるか否かの制御条件に「外気温度」は含んでいるものの「車内温度」は含まれておらず、本願発明のように「車内温度及び車外温度」を制御条件とするものではなく、相違点に係る本願発明の構成を開示するものではない。
また、相違点に係る本願発明の構成が、周知の技術であるとも設計事項であるとも認められない。
したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2及び3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.36条6項1号について
本願発明は、請求項1に記載されているように、「車内温度及び車外温度を検知し、検知された車内温度及び車外温度がそれぞれ所定温度以上である場合には前記通常のヒータ回路に切り替え、前記車内温度が所定温度未満、又は前記車内温度が所定温度以上であって前記車外温度が所定温度未満である場合には前記バイパス切替回路に切り替える制御を行う」ものである。
一方、発明の詳細な説明には、前記第5.1.(2)で示したように、段落【0022】及び段落【0023】に「車内温度及び車外温度」を制御条件として通常のヒータ回路とバイパス回路とを切り替える態様が記載されている。
したがって、請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明の記載により充分裏付けられているものと認められ、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

第6.当審の拒絶理由の概要
1.本願は、平成28年5月26日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1において、「車内温度及び/又は車外温度を検知し、これらの検知された温度がそれぞれ所定温度以上である場合には前記通常のヒータ回路に切り替え、」とあるが、「及び/又は」と「これらの」、「それぞれ」の関係が不明瞭であり、請求項1に係る本願発明の構成が不明瞭である。

2.本願は、平成28年5月26日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求項1において、「車内温度及び/又は車外温度を検知し、・・・前記検知された温度がそれぞれ所定温度未満である場合には前記バイパス切替回路に切り替える制御を行う」とあるが、「車内温度及び/又は車外温度」を、前記1.のように、「車内温度及び車外温度」と解した場合、「前記検知された温度がそれぞれ所定温度未満である場合には前記バイパス切替回路に切り替える制御を行う」発明は、発明の詳細な発明に記載したものとは認められない。

第7.当審の拒絶理由の判断
1.36条6項2号について
平成29年2月3日付け手続補正により、請求項1は、「車内温度及び車外温度を検知し、検知された車内温度及び車外温度がそれぞれ所定温度以上である場合には前記通常のヒータ回路に切り替え、前記車内温度が所定温度未満、又は前記車内温度が所定温度以上であって前記車外温度が所定温度未満である場合には前記バイパス切替回路に切り替える制御を行う」との記載を含むものとなり、制御条件と回路の切替えの関係が明確となり、当該拒絶理由は解消した。

2.36条6項1号について
平成29年2月3日付け手続補正により、請求項1は、「車内温度及び車外温度を検知し、検知された車内温度及び車外温度がそれぞれ所定温度以上である場合には前記通常のヒータ回路に切り替え、前記車内温度が所定温度未満、又は前記車内温度が所定温度以上であって前記車外温度が所定温度未満である場合には前記バイパス切替回路に切り替える制御を行う」との記載を含むものとなり、当該記載と発明の詳細な説明の段落【0022】及び段落【0023】に記載された事項との対応関係が明確になり、当該拒絶理由は解消した。

第8.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1ないし3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、発明の詳細な説明に記載した発明でないとすることはできないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-22 
出願番号 特願2011-286360(P2011-286360)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (F16H)
P 1 8・ 121- WY (F16H)
P 1 8・ 113- WY (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 稲垣 彰彦岩本 薫塚本 英隆  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 阿部 利英
中川 隆司
発明の名称 トランスミッションオイルの温度制御装置  
代理人 山口 修之  

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