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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01R
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01R
管理番号 1326455
審判番号 不服2016-1951  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-08 
確定日 2017-03-22 
事件の表示 特願2011-87273「試験測定機器」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月24日出願公開、特開2011-237413〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年4月11日(パリ条約による優先権主張、2010年(平成22年)5月5日(以下、「優先日」という。)、アメリカ合衆国)の出願であって、平成26年12月22日付けの拒絶理由の通知に対し平成27年7月3日に意見書及び手続補正書が提出された(同手続補正書でした補正を、以下、「補正1」という。)が、同年9月30日付けで拒絶査定(同年10月6日謄本送達)がなされ、これに対して平成28年2月8日に拒絶査定不服審判が請求され同時に手続補正書が提出された(同手続補正書でした補正を、以下、「本件補正」という。)ものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正事項を含むものである。
(1)本件補正前の請求項1の記載
本件補正前の、補正1により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「入力信号を受けてデジタル信号を発生する入力プロセッサと、
周波数マスクの2つ以上の領域の違反状況のユーザ特定の論理的組合せに基づいてトリガ信号を発生するトリガ発生器と、
上記トリガ信号に応答して上記デジタル信号からデジタル・データのシームレスなブロックを蓄積する取込みメモリと
を具えた試験測定機器。」

(2)本件補正後の請求項1の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(なお、下線は、補正箇所を示す。)。
「入力信号を受けてデジタル信号を発生する入力プロセッサと、
周波数マスクの2つ以上の領域の違反状況のユーザが特定する任意の論理的組合せに基づいてトリガ信号を発生するトリガ発生器と、
上記トリガ信号に応答して上記デジタル信号からデジタル・データのシームレスなブロックを蓄積する取込みメモリと
を具え、上記論理的組合せが論理和を含まないことを特徴とする試験測定機器。」

2 新規事項
本件補正後の請求項1の記載により特定されるところの「周波数マスクの2つ以上の領域の違反状況のユーザが特定する任意の論理的組合せに基づいてトリガ信号を発生するトリガ発生器」にあって、「上記論理的組合せが論理和を含まないこと」について、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、直接的な記載が見あたらない。
そして、当初明細書等には、「マスク領域の違反状態のユーザ定義論理的組合せを満足するとき、ロジック・クオリファイア52がトリガ信号を発生する。論理的組合せは、論理積(AND)、論理和(OR)、排他的論理和(XOR)、否定(NOT)、反転論理積(NAND)、反転論理和(NOR)、反転排他的論理和(XNOR)などのロジック関数の任意の組合せで構成できる。」(【0013】)、「動作において、トリガ信号を発生するために満足すべきマスク領域の違反状態の論理的組合せをユーザが特定できる。例えば、2つのユーザ定義マスク領域A及びBを有する図3の周波数マスクの場合、入力信号がマスク領域の論理的組合せであるA_AND_B、A_OR_B、A_XORB、A_NOT_Bなどに違反したとき、トリガ信号が発生するようにユーザが特定できる。」(【0015】)及び「例えば、4つのユーザ定義マスク領域A、B、C及びDを有する図4の周波数マスクの場合、入力信号がマスク領域の論理的組合せである(A_AND_B)OR(C_AND_D)に違反したときにトリガ信号を発生するようにユーザが特定できる。多くの他の論理的組合せも可能なことが明らかである。例えば、入力信号がマスク領域の論理的組合せである(A_OR_(B_AND_C_AND_D))、((A_AND_B_AND_NOT_C)_OR_D)、(A_XOR_(B_XOR_(C_XOR_D)))などに違反したときにトリガ信号を発生するようにユーザが特定できる。」(【0016】)との記載があり、これらの記載によれば、「トリガ信号を発生する」ために満足すべき「周波数マスクの2つ以上の領域の違反状況」に関する「論理的組合せ」は、「論理和(OR)」も含めた多数の「ロジック関数」の任意の組合せによって「ユーザ」が任意に特定できるものと解されるものの、そのようにして「ユーザ」が任意に特定する「論理的組合せ」にあって、「論理和(OR)」を含まないとする技術的事項が、当初明細書等の記載から自明であるということはできない。
してみると、「周波数マスクの2つ以上の領域の違反状況のユーザが特定する任意の論理的組合せに基づいてトリガ信号を発生するトリガ発生器」に関し「上記論理的組合せが論理和を含まないこと」との事項が追加された、本件補正の上記補正事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものといえる。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3 補正の目的
上記2において検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるが、仮に、本件補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとして、本件補正が、特許法第17条の2第5項の規定に適合するか否かについて、以下に検討する。
本件補正の上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ユーザ特定の論理的組合せ」について、「任意」である点を限定するために「ユーザが特定する任意の論理的組合せ」と補正するとともに、「上記論理的組合せが論理和を含まない」との限定事項をさらに付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

4 独立特許要件
そこで、本件補正が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、すなわち本件補正による補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、について、以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用例
ア 引用例1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-26188号公報(平成20年2月7日出願公開。以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(なお、下線は当審で付与した。以下同じ。)。
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、信号分析装置におけるマスク設定に関し、特にマスクを自動的に設定する機能を有する信号分析装置及びその機能を実現するプログラムに関する。」

b 「【0003】
図1は、信号分析装置10の機能ブロック図である。信号分析装置10は、図1に示す機能ブロックに加えて、図示せずも、パソコンと同等の機能及びハードウェアを有しており、パソコンで汎用のCPUを採用し、キーボード及びマウスを用いたグラフィカル・ユーザ・インターフェースによる各種設定、ハードディスクドライブ(HDD)を用いた大量のデータやプログラムの記憶などが可能である。
【0004】
被測定信号は、入力減衰回路12で適切なレベルに調整され、アナログ・ダウン・コンバータ20に供給される。ダウン・コンバータ20は、ミキサ14、局部発振器16及びバンドパス・フィルタ18から構成され、入力信号の周波数をアナログ的に周波数変換(ダウン・コンバート)し、中間周波数(IF)信号に変換する。アナログ・デジタル変換回路(ADC)22は、アナログのIF信号をデジタル・データ(時間領域データ)に変換する。IF信号のデジタル・データは、メモリ24に記憶される。デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)26は、メモリ24からIF信号データを読み出して、デジタル的にダウン・コンバートを行い、高速フーリエ変換(FFT)演算を行って周波数領域データであるスペクトラム・データを生成する。スペクトラム・データは、メモリ24に記憶され、表示装置30で波形や数値として表示される。DSP26は、この他にもHDDに記憶されたプログラムに従って種々の演算に利用される。トリガ検出回路28は、ADC22からの時間領域データ及びDSP26からのスペクトラム・データを受けて、ユーザが設定したトリガ条件を満たすデータを特定し、ユーザ所望の時間領域データ又はスペクトラム・データをメモリ24に保持させる制御を行う。
【0005】
なお、メモリ24は、RAMなどで実現され、HDDに比較して高速なデータの読み書きが可能であるため、高速に生成される時間領域データ又はスペクトラム・データを一時的に保持するのに適している。一方、HDDは大容量であるが、データの読み書きが遅いため、高速に生成される時間領域データ又はスペクトラム・データを連続して記録するのは難しい。そこで、トリガ条件を設定し、条件を満たしたデータはメモリ24に一時的に保持され、必要なデータだけがHDDに記録される。」

c 「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明による信号分析装置は、ハードウェア的には図1に示した従来のものと同じものを利用できる。本発明による信号分析装置が実現する種々の機能は、最も典型的には、新たに開発したプログラムを、現存する信号分析装置にインストールすることで実現できる。ただし、専用のハードウェアを作成することで実現しても良い。現在の典型的な信号分析装置では、全体の制御にパソコンと同様のハードウェアを使用し、OS(基本ソフト)にもパソコンと同じものを利用している。そこで、本発明による機能を実現するプログラム自身はパソコン上で作成し、その後、信号分析装置にインストールしても良い。」

d 「【0020】
続いて、信号分析装置は、周知の方法でピークのある周波数及びレベルを検出する(ステップ50)。なお、波形データが時間領域データの場合では、周波数の代わりにトリガ基準点からの時間とすれば良い。信号分析装置は、ピーク頻度条件を満たすピークそれぞれについて、ピークレベルからマスク基準レベル設定で定めた値だけ低いレベルにおける波形の幅をマスク基準幅として算出し(ステップ52)、これらを用いてマスクを設定する(ステップ54)。図6の例では、ピーク頻度条件の設定がないので、ピークP1?P6の全てにマスクが設定されている。図7の例では、ピーク頻度条件を6%としたので、これを満たすピークP6に関してのみマスクM6が設定されている。
【0021】
マスクを設定する場合、図6及び図7のように、マスク基準レベル及びマスク基準幅の値をそのまま使ってマスクとしても良いが、マスク基準レベルに所定オフセットを加えたレベルと、マスク基準幅に所定の調整(例えば+10%)を加えた幅を用いてマスクを設定しても良い。図8のマスクAは、マスク幅はマスク基準幅と同じであるが、マスク基準レベルに比較してマスクの底辺レベルが調整された例である。マスクBは、マスク幅及び底辺レベルの両方が調整された例である。これら調整値は、ユーザが信号分析装置に設定するか、前回のユーザ設定値を信号分析装置が再利用するなどで設定される。
【0022】
図6及び図7に示すように、ピーク情報(ピーク周波数及びレベル)と、マスク情報(周波数幅及びマスクのオン・オフ情報)は、表形式で表示しても良い(ステップ56)。ユーザは、これら表の情報を参照しながら、必要のないマスクの設定を外すことができる(ステップ58及び60)。これは、例えば、マウス・カーソル74で必要のないマスクを指定し、キーボード上の所定キー(例えば、Deleteキー)を押すことで実行される。別の方法としては、表上で、所望のピークに対応するマスクのオン・オフ(ON/OFF)欄をクリックする度に、マスクのオンとオフが切り換わるようにし、これを利用しても良い。
【0023】
本発明によるマスク設定と、設定されたマスクによる被測定信号の測定方法の一例は次のようなものである。最初にマスク設定に適切な時間(例えば、1時間)だけ被測定信号を受ける。すると、マスクが自動的に設定される。もしユーザが1時間に一回程度しか生じない異常現象をだけを捉えたいのであれば、被測定信号の受信を始める前にピーク頻度条件を適切しておけば良い。別の方法としては、1時間後にマスクが設定されたとき、正常な信号のピークに設定されたマスクは全て外し、異常なピークによって設定されたと思われるマスクのみ残しても良い。
【0024】
マスク設定が完了した後に被測定信号を更に受信し、次に被測定信号の波形データがマスク内に侵入すると、トリガ条件が満たされたと判断され、その時点を中心とする前後の波形データがメモリ24に保持され、その後、必要に応じてHDDに記録される。よって、マスクに侵入した波形データは、後からでも読み出せる。もし周波数領域でマスクを設定した場合であれば、波形データは周波数領域データであるが、これに対応する時間領域データを同時に保持するようにし、後から読み出せるようにしても良い。この技術の実現には、例えば、上述の米国特許第6377617号明細書に開示された技術を利用すれば良い。」

e 引用例1の図6からは、ピークP1?P6に対応する複数の周波数領域に、複数のマスクM1?M6がそれぞれ設定されている点が読み取れる。

(イ)上記記載から、引用例1には、次の技術的事項が記載されている(括弧内は、関連する記載箇所を示す。)。
a 引用例1に記載された発明は、信号分析装置に関するものであって、ハードウェア的には図1に示したものと同じものを利用できる(【0001】、【0014】)。

b 図1の機能ブロック図に示された信号分析装置において、被測定信号は、入力減衰回路で適切なレベルに調整され、アナログ・ダウン・コンバータに供給されて中間周波数(IF)信号に変換され、アナログ・デジタル変換回路(ADC)によりデジタル・データ(時間領域データ)に変換され、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)により周波数領域データであるスペクトラム・データが生成され、トリガ検出回路は、ADCからの時間領域データ及びDSPからのスペクトラム・データを受けて、ユーザが設定したトリガ条件を満たすデータを特定し、ユーザ所望の時間領域データ又はスペクトラム・データをメモリに保持させる制御を行う(【0003】、【0004】)。

c 図6の例では、ピークの全てにマスクが設定されているが、マスクを設定する場合、ユーザは、必要のないマスクの設定を外すことができ、マスク設定が完了した後に被測定信号の波形データがマスク内に侵入すると、トリガ条件が満たされたと判断され、その時点を中心とする前後の波形データがメモリに保持されるとともに、これに対応する時間領域データが後から読み出せるように同時に保持される(【0020】、【0021】、【0022】、【0024】)。

d 上記(ア)eから、上記cにおける「図6の例では、ピークの全てにマスクが設定されている」ことは、「ピークに対応する複数の周波数領域において、複数のマスクがそれぞれ設定される」ものということができる。

(ウ)よって、上記(イ)aないしdから、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「信号分析装置において、
被測定信号は、入力減衰回路で適切なレベルに調整され、アナログ・ダウン・コンバータに供給されて中間周波数(IF)信号に変換され、アナログ・デジタル変換回路(ADC)によりデジタル・データ(時間領域データ)に変換され、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)により周波数領域データであるスペクトラム・データが生成され、
トリガ検出回路は、ADCからの時間領域データ及びDSPからのスペクトラム・データを受けて、ユーザが設定したトリガ条件を満たすデータを特定し、ユーザ所望の時間領域データ又はスペクトラム・データをメモリに保持させる制御を行い、
ピークに対応する複数の周波数領域において、複数のマスクがそれぞれ設定されるが、マスクを設定する場合、ユーザは、必要のないマスクの設定を外すことができ、
マスク設定が完了した後に被測定信号の波形データがマスク内に侵入すると、トリガ条件が満たされたと判断され、その時点を中心とする前後の波形データがメモリに保持されるとともに、これに対応する時間領域データが後から読み出せるように同時に保持される、
信号分析装置。」

イ 引用例2
(ア)本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-162435号公報(平成18年6月22日出願公開。以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、論理処理を実行してトリガ信号を生成する論理処理回路を備えたトリガ信号生成回路、およびそのトリガ信号生成回路を備えた記録装置に関するものである。」

b 「【発明の効果】
【0009】
請求項1記載のトリガ信号生成回路によれば、複数の検出回路と、各検出回路からそれぞれ出力された各検出信号に対して論理処理を実行してトリガ信号を出力する論理処理回路と、入力データを指定された検出回路に出力する選択回路を備えたことにより、1種類の入力データを複数の検出回路に出力させることができる。このため、各検出回路に対してそれぞれ異なる比較範囲や比較値を設定することで、1種類の入力データの電気的パラメータが複数の比較範囲や比較値を満たしたか否かに基づいてトリガ信号を出力させることができるため、トリガ信号を出力させる条件を多様かつ任意に設定することができる。

c 「【0011】
また、請求項3記載のトリガ信号生成回路によれば、論理処理回路が指定された論理処理を実行することにより、例えば、論理処理回路をAND回路、OR回路、NOT回路、NAND回路、NOR回路およびこれらを組み合わせた回路などの任意の論理回路として機能させることができる。したがって、トリガ信号を出力させる条件をさらに多様かつ任意に設定することができる。


d 「【0016】
トリガ検出器23は、本発明における検出回路に相当し、セレクタ回路22から出力された記録対象データDiの電気的パラメータ(例えば、電圧、周波数、位相など)と、CPU18から出力された比較用データDsで規定される比較値や比較範囲との比較結果に基づいてトリガ検出信号Sd(本発明における検出信号)を出力する。論理処理回路24は、例えばFPGAで構成されて、CPU18から出力された制御信号Scに従い、AND回路、OR回路、NOT回路、NAND回路、NOR回路およびこれらを組み合わせた回路(例えば排他的論理和や排他的論理積)などとして機能し、トリガ検出器23から出力されたトリガ検出信号Sdに対して制御信号Scで指定された論理処理を実行してトリガ信号Stを出力する。」

(イ)よって、引用例2には、次の技術が記載されている。
「複数の検出回路と、各検出回路からそれぞれ出力された各検出信号に対して論理処理を実行してトリガ信号を出力する論理処理回路とを備えたトリガ信号生成回路にあって、各検出回路に対してそれぞれ異なる比較範囲や比較値を設定し、1種類の入力データの電気的パラメータ(例えば、電圧、周波数、位相など)が複数の比較範囲や比較値を満たしたか否かに基づいてトリガ信号を出力させるとともに、論理処理回路をAND回路、OR回路、NOT回路、NAND回路、NOR回路およびこれらを組み合わせた回路などの任意の論理回路として機能させることで、トリガ信号を出力させる条件を多様かつ任意に設定することができる」技術。

(3)対比・判断
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「被測定信号」及び「デジタル・データ(時間領域データ)」は、本件補正発明の「入力信号」及び「デジタル信号」にそれぞれ相当する。そして、引用発明における、「入力減衰回路」、「アナログ・ダウン・コンバータ」及び「アナログ・デジタル変換回路(ADC)」からなる一連の構成は、「被測定信号」を受けてこれを処理し最終的に「デジタル・データ(時間領域データ)」を発生するものであるから、本件補正発明の「入力信号を受けてデジタル信号を発生する入力プロセッサ」に相当する。

(イ)引用発明の「マスク」は、「周波数領域に」「設定される」ものであるから、本件補正発明の「周波数マスク」に相当し、引用発明において、「被測定信号の波形データがマスク内に侵入する」ことは、本件補正発明の「周波数マスクの」「違反状況」に相当する。そして、引用発明は、「複数の周波数領域において、複数のマスクがそれぞれ設定されるが、マスクを設定する場合、ユーザは、必要のないマスクの設定を外すことができ」るものであるから、引用発明において、「複数の周波数領域において」「それぞれ設定される」「マスク」の組合せは、「ユーザ」が特定しているものといえる。
また、引用発明の「トリガ検出回路は、ADCからの時間領域データ及びDSPからのスペクトラム・データを受けて、ユーザが設定したトリガ条件を満たすデータを特定し、ユーザ所望の時間領域データ又はスペクトラム・データをメモリに保持させる制御を行」うものであって、「ピークに対応する複数の周波数領域において、複数のマスクがそれぞれ設定されるが、マスクを設定する場合、ユーザは、必要のないマスクの設定を外すことができ、マスク設定が完了した後に被測定信号の波形データがマスク内に侵入すると、トリガ条件が満たされたと判断され、その時点を中心とする前後の波形データがメモリに保持されるとともに、これに対応する時間領域データが後から読み出せるように同時に保持される」のであるから、引用発明において、「トリガ条件が満たされたと判断され」た場合には、「トリガ検出回路」から「メモリに」対し、「トリガ条件が満たされたと判断され」た「時点を中心とする前後の波形データ」及び「これに対応する時間領域データ」「を保持させる制御」のためのトリガ信号が送られているということができる。
したがって、引用発明の「トリガ検出回路」と、本件補正発明の「周波数マスクの2つ以上の領域の違反状況のユーザが特定する任意の論理的組合せに基づいてトリガ信号を発生するトリガ発生器」とは、「周波数マスクの2つ以上の領域の違反状況のユーザが特定する組合せに基づいてトリガ信号を発生するトリガ発生器」である点で共通する。

(ウ)上記(イ)で述べたとおり、引用発明において、「トリガ条件が満たされたと判断され」た場合に、「トリガ検出回路」から「メモリに」対し「制御」のためのトリガ信号が送られているといえるから、引用発明の「メモリ」が、「トリガ検出回路」から送られるそのようなトリガ信号に応答して制御されることによって、「トリガ条件が満たされたと判断され」た「時点を中心とする前後の波形データ」及び「これに対応する時間領域データ」を「後から読み出せるように保持」する動作を行っていることも、明らかであるといえる。
そして、引用発明の「時間領域データ」は、「アナログ・デジタル変換回路(ADC)によって「変換され」た「デジタル・データ」であるから、引用発明において、「メモリ」に「後から読み出せるように保持される」、「トリガ条件が満たされたと判断され」た「時点を中心とする前後の波形データ」「に対応する時間領域データ」が、デジタル・データのブロックであることも、明らかである。
したがって、引用発明の「メモリ」と、本件補正発明の「上記トリガ信号に応答して上記デジタル信号からデジタル・データのシームレスなブロックを蓄積する取込みメモリ」とは、「上記トリガ信号に応答して上記デジタル信号からデジタル・データのブロックを蓄積する取込みメモリ」である点で共通する。

(エ)引用発明の「信号分析装置」は、次の相違点は除いて、本件補正発明の「試験測定機器」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明とは、
「入力信号を受けてデジタル信号を発生する入力プロセッサと、
周波数マスクの2つ以上の領域の違反状況のユーザが特定する組合せに基づいてトリガ信号を発生するトリガ発生器と、
上記トリガ信号に応答して上記デジタル信号からデジタル・データのブロックを蓄積する取込みメモリと
を具えた、試験測定機器。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
周波数マスクの2つ以上の領域の違反状況のユーザが特定する組合せが、本件補正発明では、「任意の論理的組合せ」であって「上記論理的組合せが論理和を含まない」のに対し、
引用発明では、「複数の周波数領域において」「それぞれ設定される」「マスク」の組合せは、「ユーザ」が特定しているものの、そのように「ユーザ」が特定する組合せが、「任意の論理的組合せ」であって「上記論理的組合せが論理和を含まないこと」については、特定がない点。

(相違点2)
上記トリガ信号に応答して取込みメモリに蓄積されるデジタル・データのブロックが、本件補正発明では、「シームレスなブロック」であるのに対し、
引用発明では、「トリガ条件が満たされたと判断され」た「時点を中心とする前後の波形データ」「に対応する時間領域データ」が、「メモリに」「後から読み出せるように」「保持される」ものの、そのように「メモリに保持される」「時間領域データ」が、「シームレスなブロック」であるか否かについては、特定がない点。

相違点の判断
(ア)相違点1について
引用例2には、「複数の検出回路と、各検出回路からそれぞれ出力された各検出信号に対して論理処理を実行してトリガ信号を出力する論理処理回路とを備えたトリガ信号生成回路にあって、各検出回路に対してそれぞれ異なる比較範囲や比較値を設定し、1種類の入力データの電気的パラメータ(例えば、電圧、周波数、位相など)が複数の比較範囲や比較値を満たしたか否かに基づいてトリガ信号を出力させるとともに、論理処理回路をAND回路、OR回路、NOT回路、NAND回路、NOR回路およびこれらを組み合わせた回路などの任意の論理回路として機能させることで、トリガ信号を出力させる条件を多様かつ任意に設定することができる」技術が記載されている(上記(2)イ(イ))ところ、引用発明は、「複数の周波数領域において」「それぞれ設定された」「マスク」によって「被測定信号」を監視し「トリガ条件が満たされた」か否かを「判断」するものであり、一方で、引用例2に記載された技術も、「1種類の入力データの電気的パラメータ」に対し「複数の比較範囲や比較値を満たしたか否かに基づいてトリガ信号を出力させる」ものであるから、両者は、入力された信号の電気的パラメータを複数の範囲において監視してトリガをかける点で、作用、機能が共通する。
したがって、引用発明において、「トリガ条件が満たされた」か否かの「判断」に用いる、「複数の周波数領域において」「それぞれ設定される」「マスク」の組合せを「ユーザ」が特定するにあたり、その組合せを、引用例2に示されたように、任意の論理的組合せにより多様に特定可能とすることは、当業者が容易になし得たことであり、その際、任意の論理的組合せに、論理和(OR)が含まれないようにすることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎないものである。

(イ)相違点2について
時間領域のデータをメモリに記憶させる際に、データが途切れることなく連続になるように、すなわちシームレスなブロックとして記憶させるのが、一般的なことであるから、引用発明においても、「トリガ条件が満たされたと判断され」た「時点を中心とする前後の波形データ」「に対応する時間領域データ」を、シームレスなブロックとして「メモリに保持させる」ようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(ウ)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用例2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 小括
本件補正は、上記2のとおり、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであり、また、仮に同項の規定に適合するものであったとしても、上記4のとおり、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、いずれにしても同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、補正1により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明であるか、又は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同条第2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。

3 引用例
引用例1及びその記載事項は、上記第2[理由]4(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「被測定信号」及び「デジタル・データ(時間領域データ)」は、本願発明の「入力信号」及び「デジタル信号」にそれぞれ相当する。そして、引用発明における、「入力減衰回路」、「アナログ・ダウン・コンバータ」及び「アナログ・デジタル変換回路(ADC)」からなる一連の構成は、「被測定信号」を受けてこれを処理し最終的に「デジタル・データ(時間領域データ)」を発生するものであるから、本願発明の「入力信号を受けてデジタル信号を発生する入力プロセッサ」に相当する。

イ 引用発明の「マスク」は、「周波数領域に」「設定される」ものであるから、本願発明の「周波数マスク」に相当し、引用発明において、「被測定信号の波形データがマスク内に侵入する」ことは、本願発明の「周波数マスクの」「違反状況」に相当する。そして、引用発明は、「複数の周波数領域において、複数のマスクがそれぞれ設定されるが、マスクを設定する場合、ユーザは、必要のないマスクの設定を外すことができ」るものであるから、引用発明において、「複数の周波数領域において」「それぞれ設定される」「マスク」の組合せは、「ユーザ」が特定しているものといえる。
また、引用発明の「トリガ検出回路は、ADCからの時間領域データ及びDSPからのスペクトラム・データを受けて、ユーザが設定したトリガ条件を満たすデータを特定し、ユーザ所望の時間領域データ又はスペクトラム・データをメモリに保持させる制御を行」うものであって、「ピークに対応する複数の周波数領域において、複数のマスクがそれぞれ設定されるが、マスクを設定する場合、ユーザは、必要のないマスクの設定を外すことができ、マスク設定が完了した後に被測定信号の波形データがマスク内に侵入すると、トリガ条件が満たされたと判断され、その時点を中心とする前後の波形データがメモリに保持されるとともに、これに対応する時間領域データが後から読み出せるように同時に保持される」のであるから、引用発明において、「トリガ条件が満たされたと判断され」た場合には、「トリガ検出回路」から「メモリに」対し、「トリガ条件が満たされたと判断され」た「時点を中心とする前後の波形データ」及び「これに対応する時間領域データ」「を保持させる制御」のためのトリガ信号が送られているということができる。
したがって、引用発明の「トリガ検出回路」と、本願発明の「周波数マスクの2つ以上の領域の違反状況のユーザ特定の論理的組合せに基づいてトリガ信号を発生するトリガ発生器」とは、「周波数マスクの2つ以上の領域の違反状況のユーザ特定の組合せに基づいてトリガ信号を発生するトリガ発生器」である点で共通する。

ウ 上記イで述べたとおり、引用発明において、「トリガ条件が満たされたと判断され」た場合に、「トリガ検出回路」から「メモリに」対し「制御」のためのトリガ信号が送られているといえるから、引用発明の「メモリ」が、「トリガ検出回路」から送られるそのようなトリガ信号に応答して制御されることによって、「トリガ条件が満たされたと判断され」た「時点を中心とする前後の波形データ」及び「これに対応する時間領域データ」を「後から読み出せるように保持」する動作を行っていることも、明らかであるといえる。
そして、引用発明の「時間領域データ」は、「アナログ・デジタル変換回路(ADC)によって「変換され」た「デジタル・データ」であるから、引用発明において、「メモリ」に「後から読み出せるように保持される」、「トリガ条件が満たされたと判断され」た「時点を中心とする前後の波形データ」「に対応する時間領域データ」が、デジタル・データのブロックであることも、明らかである。
したがって、引用発明の「メモリ」と、本願発明の「上記トリガ信号に応答して上記デジタル信号からデジタル・データのシームレスなブロックを蓄積する取込みメモリ」とは、「上記トリガ信号に応答して上記デジタル信号からデジタル・データのブロックを蓄積する取込みメモリ」である点で共通する。

エ 引用発明の「信号分析装置」は、次の相違点は除いて、本願発明の「試験測定機器」に相当する。

(2)以上のことから、本願発明と引用発明とは、
「入力信号を受けてデジタル信号を発生する入力プロセッサと、
周波数マスクの2つ以上の領域の違反状況のユーザ特定の組合せに基づいてトリガ信号を発生するトリガ発生器と、
上記トリガ信号に応答して上記デジタル信号からデジタル・データのブロックを蓄積する取込みメモリと
を具えた、試験測定機器。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
周波数マスクの2つ以上の領域の違反状況のユーザ特定の組合せが、本願発明では、「論理的組合せ」であるのに対し、
引用発明では、「複数の周波数領域において」「それぞれ設定される」「マスク」の組合せは、「ユーザ」が特定しているものの、そのように「ユーザ」が特定する組合せが、「論理的組合せ」であることについては、特定がない点。

(相違点2)
上記トリガ信号に応答して取込みメモリに蓄積されるデジタル・データのブロックが、本願発明では、「シームレスなブロック」であるのに対し、
引用発明では、「トリガ条件が満たされたと判断され」た「時点を中心とする前後の波形データ」「に対応する時間領域データ」が、「メモリに」「後から読み出せるように」「保持される」ものの、そのように「メモリに保持される」「時間領域データ」が、「シームレスなブロック」であるか否かについては、特定がない点。

(3)相違点の判断
ア 相違点1について
引用発明は、「複数の周波数領域において、複数のマスクがそれぞれ設定され」たときに、「マスク設定が完了した後に被測定信号の波形データがマスク内に侵入すると、トリガ条件が満たされたと判断され」るものであるところ、引用例1には、「トリガ条件が満たされたと」の「判断」にあたっての、「被測定信号の波形データがマスク内に侵入する」ことと、「複数」「設定される」「マスク」との関係について、明示がない。
しかしながら、引用発明は、「ユーザ所望の時間領域データ又はスペクトラム・データをメモリに保持させる」ために、「ユーザ」が「必要」な「複数のマスク」を「設定」した上で「被測定信号の波形データがマスク内に侵入」したことを「判断」し、それにより「ユーザが設定したトリガ条件を満たすデータを特定」するものであるから、引用発明において、「被測定信号の波形データが」、「設定され」た「複数のマスク」のうちの、少なくとも1つの「マスク内に侵入」した場合に、「トリガ条件が満たされたと判断」すること、すなわち、「複数の周波数領域において」「それぞれ設定される」「マスク」の組合せを、論理和(OR)からなる論理的組合せとすることは、所望するトリガ条件に応じて当業者が適宜なし得る事項にすぎないものである。

イ 相違点2について
時間領域のデータをメモリに記憶させる際に、データが途切れることなく連続になるように、すなわちシームレスなブロックとして記憶させるのが、一般的なことであるから、引用発明においても、「トリガ条件が満たされたと判断され」た「時点を中心とする前後の波形データ」「に対応する時間領域データ」を、シームレスなブロックとして「メモリに保持させる」ようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。

ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(4)したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-21 
結審通知日 2016-10-25 
審決日 2016-11-08 
出願番号 特願2011-87273(P2011-87273)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01R)
P 1 8・ 561- Z (G01R)
P 1 8・ 121- Z (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荒井 誠  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 大和田 有軌
関根 洋之
発明の名称 試験測定機器  
代理人 特許業務法人山口国際特許事務所  

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