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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1326473 |
審判番号 | 不服2016-3153 |
総通号数 | 209 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-05-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-03-01 |
確定日 | 2017-03-21 |
事件の表示 | 特願2013-150789「バルクヘテロ接合を有する光電子装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月17日出願公開、特開2013-214777〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2005年4月13日(優先権主張2004年4月13日、米国、2004年11月30日、米国)を国際出願日とする出願である特願2007-508585号の一部を、平成25年7月19日に新たな特許出願としたものであって、平成26年5月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月9日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、平成27年3月31日付けで拒絶理由が通知され、同年9月25日付けで意見書が提出されたが、同年10月27日付けで拒絶査定がなされた。 本件は、これに対して、平成28年3月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後、平成28年5月30日付けで前置報告がなされた。 第2 平成28年3月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成28年3月1日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成28年3月1日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本願の特許請求の範囲の請求項1は、本件補正前の(平成26年12月9日付けの手続補正により補正された)特許請求の範囲の請求項1である、 「 【請求項1】 有機蒸気相堆積又は真空熱蒸着プロセスによって第1層を堆積すること; 第2層が前記第1層に物理的に接触するように、前記第1層上に前記第2層を堆積すること; 光電子装置を形成するために前記第2層上に第2電極を堆積すること;の処理を含み、 前記第1層は、基板上に形成された第1電極上に突出部を有しており、 前記第1層は第1有機小分子材料を含み、 前記第1層と前記第2層との間の物理的な接触による界面は、前記第1電極と前記第2電極との間に位置すると共に前記第1電極及び前記第2電極に対して離間しているバルクヘテロ接合を形成しており、 前記基板の平面に平行な方向における前記突出部の最小の寸法は、前記第1有機小分子材料の励起子拡散長の1倍から5倍の間である、 光電子装置の製造方法。」 から、次のように補正されたものと認める。 「 【請求項1】 有機蒸気相堆積又は真空熱蒸着プロセスによって第1層を堆積すること; 第2層が前記第1層に物理的に接触するように、前記第1層上に前記第2層を堆積すること; 光電子装置を形成するために前記第2層上に第2電極を堆積すること;の処理を含み、 前記第1層は、基板上に形成された第1電極上に突出部を有しており、 前記第1層は第1有機小分子材料を含み、 前記第1層と前記第2層との間の物理的な接触による界面は、前記第1電極と前記第2電極との間に位置すると共に前記第1電極及び前記第2電極に対して離間しているバルクヘテロ接合を形成しており、 前記基板の平面に平行な方向における前記突出部の最小の寸法は、前記第1有機小分子材料の励起子拡散長の1倍から5倍の間であり、 前記突出部間の間隔は、前記第2層の励起子拡散長の1倍から5倍の間である、光電子装置の製造方法。」 (下線は、請求人が付したものである。) 2 補正の目的 本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1に、「前記突出部間の間隔は、前記第2層の励起子拡散長の1倍から5倍の間である」構成を限定する記載が追加されたものであるから、本件補正の請求項1についての補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するか否か)について、以下に検討する。 3 本願補正発明 本願補正発明は、本件補正後の請求項1に記載された事項(上記「1」で、本件補正後の請求項1として記載した事項)により特定されるものと認められる。 4 引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特表平6-511603号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(引用文献1中で付されているもの以外の下線は、当審で付したものである。) (1)「発明の目的 従って本発明の主目的は上記の従来技術の欠点を、単位面積当たりの入射光のエネルギの電気エネルギへの変換効率が高く、さらに製造である光電池を提供することによって克服することにある。 発明の簡単な要約 従って本発明の目的は、第1の電極がその上に形成される支持表面を有する基板と、その接続面において能動接合面を有する半導体性材料の少なくとも第1の層を有する複数の層によって第1の電極から絶縁された第2の電極とを具備する光電池であって、前記能動接合面が投射面積よりも大である展開面積を有する光電池である。 発明の簡単な説明 この性質は従来技術の光電池に関して入射する光子の捕獲効率を大きく増加する。この増加は大きな能動接合面に付随する半導電性層中で光が多重拡散することに本質的に起因している。従って、本発明にかかる電池の構造は単位表面積当たりの改善された出力を提供する。 本発明の有利な特徴によれば、前記の能動接合面は20以上の粗さ係数を有している。 この接合において粗さ係数は実際の面積と投射面積との間の比によって定義される。 本発明の最初の実施例によれば、前記支持表面は投射面積よりも大である展開面積を有し、前記他の層は前記支持表面上に連続的に配置される。この実施例は、この実施例が単に基板に対する1回の機械的あるいは化学的な処理を必要とするために簡単であるという顕著な利点を有してる。 本発明の第2の実施例によれば、第1の電極はその平面投射面積よりも大である展開面積を有しており、前記他の層は前記電極上に連続的に配置されている。 本発明の第3の実施例によれば、半導電性の第1の層はその投射面積よりも大である展開面積を有し、他の全ての層は前記半導電性の第1の層上に連続的に配置されている。 第2および第3の実施例と共通である本発明の他の有利な特徴によれば、前記電極あるいはそれぞれの半導電性材料の第1の層はコロイド粒子で形成される層を有している。 この特徴は非常に高効率の表面を具備する能動接合面を付与し、そして2000程度にまで到達する非常に大きな効果面積と投射面積との比を付与する。 この層は、これらのキャリアのいかなる再結合が発生し、従って入射光から光子によって供給されるエネルギの最良の使用を作り出す光電池を生み出す。」(公報第3頁右下欄第4行?第4頁左上欄第18行) (2)「本発明の望ましい実施例の詳細な説明 本発明は、図1から6にショットキ型金属-半導体接合光電池(MS)、または半導体-半導体の異種接合あるいは同種接合の光電池の応用として記述されており、図7から図12に金属-絶縁体一絶縁体一半導体(MIS)接合の光電池あるいは半導体-絶縁体一半導体(SIS)の光電池の応用として説明される。 光電池のこれらの大きな区分の動作の原理は当該技術分野において通常の知識を有する者にとって公知であり、従って参照文献はこの原理と本発明との間に関係のある以下の記述においてのみなされる。参照文献は、光電池において使用される物理現象の説明に対してエドワード エス ヤング(Edward S Yang )著「マイクロエレクトロニック素子」が特に参照される。 まず図1を参照すると、一般的な参照番号1によって示される本発明にかかる第1の形式の光電池が示されている。 この光電池lは、その大きな表面4の一方の全表面上に、術語化された支持面、第1の導体8に接続される第1の電極6を有する基板2から構成される。電池1は、半導電性材料の第1の層14と異なる材料の層16とによって、第1の電極6から絶縁された第2の導体12に接続される第2の電極10を有する。以下の記述に描かれ明らかにされる光電池の形式に応じて、この層16の材料は電気的導体(MS電池)か半導体(同種接合あるいは異種接合型電池)のいずれかである。この層は以下説明の対象である電池の形式に応じて導電性層あるいは半導電性材料の第2の層を表す。 電気的導電層という術語は有機的電気的導電材料で形成された層を表し、半導電性材料という術語は有機的でない半導電性材料および有機的な半導電性材料の両方を表す。 半導電性材料の第1の層14は、第1の電極6に直接接触し、層16とともに図2から5、および図8から10においてJで示される能動接合面を構成する。 第1の電極6は厚さが10から500ナノメートル程度の薄層で形成されることが望ましい。電極6は、フッ素、アンチモンあるいはヒ素によりドープされた酸化スズ、酸化スズによってドープされた酸化インジウム、アルミニュームスズ酸塩およびアルミニウムによってドープされた酸化亜鉛から構成されるグループから選択された材料で製造されることが望ましい。 この技術分野において通常の知識を有する者はもちろん他の等価な透明な電気的導電性層を選択するかもしれない。 第2の電極10の性質は層16の性質に依存し、後者が電気的導体であれば省略することが可能である。もし層16が導電体でなければ、第2の電極は金あるいはアルミニュームのような材料あるいは同様の電気的導電的性質を有する材料の薄層で形成されることが望ましい。 基板2および第1の電極あるいは第2の電極10のいずれかは、もちろん適当なスペクトル領域に光子に対して透明である。 図はこの方法で形成された電池の正確な寸法を反映してはおらず、寸法は明瞭とするために非常に誇張されている。 本発明によれば、能動接合Jはその投影面積より大である展開面積を有している。 本発明における第1の実施例において、基板2の支持面4はその投影面積より大である展開面積を有している。基板に近接して連続的に展開する以下の層は、基板2の表面4の木目が投影面積より大である展開面積を有する能動接合面Jとなるように支持面4の除去の中に構造を包含している。 第1の層14はもちろん電極6を構成する層は、能動接合面Jの展開面積が本質的に基板の支持表面4のそれと同じとなるような厚さが確保されるべきことに注意する必要がある。 支持表面4は20以上の、典型的には100程度の粗さ係数を有することが望ましく、これは従来技術の電池に対して光の多重拡散によって比較的高い光捕獲率を有する電池を得ることを可能とする。 この支持面4の適当な粗さ係数は単に、例えば削磨あるいは化学的な腐食によって得ることが可能である。もし基板2が有機的な材質によって作られているならば、支持面の粗さ係数は、例えば成形によって得ることができる。 他の層は連続的に従来の方法、例えば蒸気相化学的蒸着あるいは真空中の物理的蒸着によって蒸着される。 図3に示される本発明の第2の実施例および第1の実施例との対比によれば、支持面4は滑らかであり、この面4に対向する第1の電極6は粗い表面を有している。他の層、特に半導体材料の第1の層14は第1の電極6上に連続的に配置され、その凸凹を近接して取り囲んでいる。ここも粗さ係数は20以上であることが有利であり、100程度であることが望ましい。 この粗さ係数を得るために、例えば第1の電極6は真空中における接線蒸着(基板が蒸着方向に対して3°から20°傾けられる)によって蒸着されることができ、他の層はすでに上記したように連続的に蒸着される。 図4に示される第3の実施例によれば、基板2の支持面4および第1の電極は特定の粗さ係数を有していないが、能動接合面Jである層16に接触する半導体材料の第1の層14の表面は粗く、粗さ係数は20以上であることが有利であり、100程度であることが望ましい。 この実施例によれば、半導体材料の第1の層14は、例えば真空中における接線蒸着によって蒸着される。」(公報第4頁右上欄第6行?第5頁左上欄第7行) (3)「図6に示される第5の実施例によれば、基板2の支持面4および第1の電極6は特別の粗さを有していないが、半導体材質の第1の層14はコロイド状粒子20が形成された層であり、その上に引き続く層が蒸着される。 この場合には粒子20の寸法および粒子によって形成される層の厚さは入射光による励起に対する電池の応答に無視できない影響を与える。 この層の粒子は光子を吸収するが、このエネルギは粒子の材質の伝導帯と価電子帯の間のエネルギの相違と等しいあるいはそれを越える。この光の吸収は粒子中に電子-正孔対の生成をもたらす。例えば二酸化チタンのようなn型半導体材質で形成された層14によって、電子は多数キャリアであり、正孔は少数キャリアとなる。このようにこの種の半導体/金属接合電池あるいは半導体/半導体接合が吸収された光からの電力の発生に使用されたときには、正孔が電子と結合する前に、正孔がこの接合面に拡散可能であることが必要である。換言すれば、l_(pm)によって定義される少数キャリアの拡散長は接合面に到達する前に、これらのキャリアが被われなければならない距離より長でなければならない。 この拡散長は次式で定義される。 l_(pm)=(2Dτ)^(0.5) ここでτは正孔の寿命期間であり、Dは少数キャリアの拡散係数である。例えばl_(pm)の値は二酸化チタンに対しては100ナノメートルである。 これらのキャリアが半導体/金属接合あるいは半導体/半導体接合面に到達する大きな可能性があり、電荷のキャリアの効率的な分離を達成し、変換高出力を増加するために、このようにコロイド粒子20の直径は、好ましくは少数キャリアの拡散長よりも小であるべきである。」(公報第5頁左上欄第25行?同頁右上欄第25行) (4)「本発明の特別な実施例によれば、層14および/または16は有機半導体材料から製造することが可能である。 層14および/または16を構成する半導体材料はフタロシアニン(phthalocyanines )(以下Pcと記す)、2,9-ジメチルキナクリドン(2,9-dimethyl quinacridone )、1,1-ビス(4-ジ-p-ポリルアミノフェニール(1,1-bis(4-di-p-polylaminophenyl)) シクロヘキサン(cycrohexane )、フタロシアニン(phtalocyanine) ビスナフトハロシアニン(bisnaphthalocyanine )、・・・ポリフィリン(porphyrines )、ペリレン(perylene)およびその誘導体、・・・およびジアセチレン(diacetylenes)からなるグループの半導体材料から選択することができる。 この半導体材料は、H_(2)Pc、酸素によりドープされたMgPc、CuPc、ZnPc、FePc、SiPc、NiPc、Al(Cl)Pc、Al(OH)Pc、ジクロロシアンキノン(dichlorocyanoquinone)によってドープされたLuPc_(2)、テトラ-4-ターブチルフタリシアニン(tetra-4-terbutylphthalocyanino) シリコン ジクロライド(silicon dichloride)、LuPc2:2,2’ 6,6’-テトラフェニル-4-4’((p-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(LuPc2:2,2'6,6'-tetraphenyl-4-4'((p-dimethylaminostyryl)-4H-pyrane )、および5,10,15,20-テトラ(3-ピリジル) ポルフィリン(5,10,15,20-tetra(3-piridyl)porphyrine)、LuPcおよびNiPc:I_(2)からなる半導体材料から選択されることが望ましい。 この半導体材料は、提案された電池の形式に応じてn型あるいははp型であることはいうまでもない。」(公報第5頁右下欄第18行?第6頁左上欄第26行) (5)「 」 上記記載事項の、「この光電池lは、その大きな表面4の一方の全表面上に、術語化された支持面、第1の導体8に接続される第1の電極6を有する基板2から構成される。電池1は、半導電性材料の第1の層14と異なる材料の層16とによって、第1の電極6から絶縁された第2の導体12に接続される第2の電極10を有する。」(上記記載事項(2):引用文献1第4頁右上欄第20?24行)、「半導電性材料の第1の層14は、第1の電極6に直接接触し、層16とともに図2から5、および図8から10においてJで示される能動接合面を構成する。」(上記記載事項(2):引用文献1第4頁左下欄第5?7行)、「他の層は連続的に従来の方法、例えば蒸気相化学的蒸着あるいは真空中の物理的蒸着によって蒸着される。」(上記記載事項(2):引用文献1第4頁右下欄第16?17行)、「他の層はすでに上記したように連続的に蒸着される。」(上記記載事項(2):引用文献1第4頁右下欄第26?27行)、「能動接合面Jである層16に接触する半導体材料の第1の層14の表面」(上記記載事項(2):引用文献1第5頁左上欄第2?3行)、「半導体材料の第1の層14は、例えば真空中における接線蒸着によって蒸着される」(上記記載事項(2):引用文献1第5頁左上欄第6?7行)、Fig.1?5を参照すれば、Fig.4に示される第3の実施例では、「光電池1」は、「基板2」上に「第1の電極6」を蒸着し、「第1の電極6」上に「半導体材料の第1の層14」を真空中における接線蒸着によって蒸着し、「第1の層14」上に「能動接合面J」で接触するように「層16」を蒸着し、「層16」上に「第2の電極10」を蒸着することにより製造されることは明らかである。 すると、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「基板2上に第1の電極6を蒸着し、第1の電極6上に半導体材料の第1の層14を真空中における接線蒸着によって蒸着し、第1の層14上に能動接合面Jで接触するように層16を蒸着し、層16上に第2の電極10を蒸着する、半導体-半導体異種接合光電池の製造方法であって、 第1の層14を構成する半導体材料として、H_(2)Pc、酸素によりドープされたMgPc、CuPc、ZnPc、FePc、SiPc、NiPc、Al(Cl)Pc、Al(OH)Pc、ジクロロシアンキノン(dichlorocyanoquinone)によってドープされたLuPc_(2)、テトラ-4-ターブチルフタリシアニン(tetra-4-terbutylphthalocyanino) シリコン ジクロライド(silicon dichloride)、LuPc2:2,2’ 6,6’-テトラフェニル-4-4’((p-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(LuPc2:2,2'6,6'-tetraphenyl-4-4'((p-dimethylaminostyryl)-4H-pyrane )、および5,10,15,20-テトラ(3-ピリジル) ポルフィリン(5,10,15,20-tetra(3-piridyl)porphyrine)、LuPcおよびNiPc:I_(2)からなる半導体材料から選択され、 第1の層14の表面は粗く、粗さ係数は20以上である、半導体-半導体異種接合光電池の製造方法。」 5 対比 (1)本願補正発明と引用発明との対比 ア 引用発明の「基板2」、「第1の電極6」、「第1の層14」、「層16」、「第2の電極10」、「能動接合面J」、「光電池」が、それぞれ、本願補正発明の「基板」、「第1電極」、「第1層」、「第2層」、「第2電極」、「前記第1層と前記第2層との間の物理的な接触による界面」、「光電子装置」に相当する。 イ 引用発明では、「基板2上に第1の電極6を蒸着し、第1の電極6上に半導体材料の第1の層14を真空中における接線蒸着によって蒸着」することにより、「第1の層14の表面は粗く、粗さ係数は20以上である」構成となるから、引用発明の「第1の層14の表面」は突出部を有することが明らかである。 すると、引用発明の「基板2上に第1の電極6を蒸着し、第1の電極6上に半導体材料の第1の層14を真空中における接線蒸着によって蒸着」することは、本願補正発明の「有機蒸気相堆積又は真空熱蒸着プロセスによって第1層を堆積すること;」「の処理を含み、」「前記第1層は、基板上に形成された第1電極上に突出部を有して」いることに相当する。 ウ 引用発明の「第1の層14上に能動接合面Jで接触するように層16を蒸着し、層16上に第2の電極10を蒸着する」ことは、本願補正発明の「第2層が前記第1層に物理的に接触するように、前記第1層上に前記第2層を堆積すること;光電子装置を形成するために前記第2層上に第2電極を堆積すること;の処理を含」むことに相当する。 エ 引用発明の「H_(2)Pc、酸素によりドープされたMgPc、CuPc、ZnPc、FePc、SiPc、NiPc、Al(Cl)Pc、Al(OH)Pc、ジクロロシアンキノン(dichlorocyanoquinone)によってドープされたLuPc_(2)、テトラ-4-ターブチルフタリシアニン(tetra-4-terbutylphthalocyanino) シリコン ジクロライド(silicon dichloride)、LuPc2:2,2’ 6,6’-テトラフェニル-4-4’((p-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(LuPc2:2,2'6,6'-tetraphenyl-4-4'((p-dimethylaminostyryl)-4H-pyrane )、および5,10,15,20-テトラ(3-ピリジル) ポルフィリン(5,10,15,20-tetra(3-piridyl)porphyrine)、LuPcおよびNiPc:I_(2)」が有機小分子材料であることは明らかであるから、引用発明の「第1の層14を構成する半導体材料として、H2Pc、酸素によりドープされたMgPc、CuPc、ZnPc、FePc、SiPc、NiPc、Al(Cl)Pc、Al(OH)Pc、ジクロロシアンキノン(dichlorocyanoquinone)によってドープされたLuPc2、テトラ-4-ターブチルフタリシアニン(tetra-4-terbutylphthalocyanino) シリコン ジクロライド(silicon dichloride)、LuPc2:2,2’ 6,6’-テトラフェニル-4-4’((p-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(LuPc2:2,2'6,6'-tetraphenyl-4-4'((p-dimethylaminostyryl)-4H-pyrane )、および5,10,15,20-テトラ(3-ピリジル) ポルフィリン(5,10,15,20-tetra(3-piridyl)porphyrine)、LuPcおよびNiPc:I2からなる半導体材料から選択される」ことは、本願補正発明の「前記第1層は第1有機小分子材料を含」むことに相当する。 オ 引用発明では、「基板2上に第1の電極6を蒸着し、第1の電極6上に半導体材料の第1の層14を真空中における接線蒸着によって蒸着し、第1の層14上に能動接合面Jで接触するように層16を蒸着し、層16上に第2の電極10を蒸着する」のであるから、「能動接合面J」は「第1の電極6」と「第2の電極10」の間に位置することは明らかである。 また、引用発明では、「第1の電極6上に半導体材料の第1の層14を真空中における接線蒸着によって蒸着」することにより、「能動接合面J」は、Fig.4に示されるように、「第1の電極6」から離間して形成され、「第1の層14上に能動接合面Jで接触するように層16を蒸着」することにより、「能動接合面J」は、Fig.4に示されるように、「第2の電極10」から離間していることは明らかである。 また、引用発明の「光電池」は「半導体-半導体異種接合光電池」であり、かつ、「第1の層14の表面」、すなわち、「能動接合面J」は「粗く、粗さ係数は20以上である」ことから、「能動接合面J」はバルクヘテロ接合であるといえる。 よって、引用発明の「能動接合面J」は、本願補正発明の「前記第1層と前記第2層との間の物理的な接触による界面は、前記第1電極と前記第2電極との間に位置すると共に前記第1電極及び前記第2電極に対して離間しているバルクヘテロ接合を形成して」いる構成と同様の構成を備えると認められる。 (2)一致点 してみると、両者は、 「有機蒸気相堆積又は真空熱蒸着プロセスによって第1層を堆積すること; 第2層が前記第1層に物理的に接触するように、前記第1層上に前記第2層を堆積すること; 光電子装置を形成するために前記第2層上に第2電極を堆積すること;の処理を含み、 前記第1層は、基板上に形成された第1電極上に突出部を有しており、 前記第1層は第1有機小分子材料を含み、 前記第1層と前記第2層との間の物理的な接触による界面は、前記第1電極と前記第2電極との間に位置すると共に前記第1電極及び前記第2電極に対して離間しているバルクヘテロ接合を形成している、光電子装置の製造方法。」 で一致し、次の点で相違する。 (3)相違点 本願補正発明は、「前記基板の平面に平行な方向における前記突出部の最小の寸法は、前記第1有機小分子材料の励起子拡散長の1倍から5倍の間であり、前記突出部間の間隔は、前記第2層の励起子拡散長の1倍から5倍の間である」のに対して、引用発明では、「第1の層14の表面は粗く、粗さ係数は20以上である」と特定されるのみで、突出部の最小の寸法及び突出部間の間隔が明らかでない点。 6 判断 (1)相違点について まず、引用発明の「粗さ係数」について、引用文献1では、「粗さ係数」は能動接合面Jの面積と投射面積との比であると定義されている(上記「4」「(1)」参照)ことから、「粗さ係数」が大きいほど、突出部の基板の平面に平行な方向の寸法及び突出部間の間隔が小さくなることは明らかである。 次に、上記「4」「(1)」を参酌すると、引用発明は、能動接合面Jの面積を投射面積より大きくすることにより、光エネルギーから電気エネルギーへの変換効率を高くするものであるから、「粗さ係数」は大きい方がよく、「粗さ係数は20以上である」と特定されている。 また、引用文献1に、「半導体/半導体接合が吸収された光からの電力の発生に使用されたときには、正孔が電子と結合する前に、正孔がこの接合面に拡散可能であることが必要である。換言すれば、l_(pm)によって定義される少数キャリアの拡散長は接合面に到達する前に、これらのキャリアが被われなければならない距離より長でなければならない。」(上記「4」「(3)」参照)と記載されるように、電力を発生するには、光を吸収して励起子が発生した位置から能動接合面までの距離が励起子拡散長よりも短くなければならないことが当業者には周知である。(他にも、特開2003-2981523号公報(特に、段落【0021】)、特表2003-515933号公報(特に、段落【0019】)を参照) すると、引用発明において、「第1の層14」の「粗さ係数」を設定する際に、「第1の層14」の任意の位置から「能動接合面J」までの距離及び「層16」の任意の位置から「能動接合面J」までの距離が、それぞれ、できる限り、「第1の層14」を構成する半導体材料の励起子拡散長及び「層16」を構成する半導体材料の励起子拡散長よりも短くなるように考慮することは、当業者には当然のことであって、本願補正発明の「前記基板の平面に平行な方向における前記突出部の最小の寸法は、前記第1有機小分子材料の励起子拡散長の1倍から5倍の間であり、前記突出部間の間隔は、前記第2層の励起子拡散長の1倍から5倍の間である」構成における「1倍」、「5倍」という上下限値に格別な技術的意味(特に、臨界的意味)がないことも勘案すると、引用発明において、「第1の層14」の表面の「粗さ係数」を適宜設定して、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易になし得ることである。 (2)効果について 本願補正発明が奏し得る効果は、引用発明及び周知の技術事項から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。 (3)結論 以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 7 小括 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成28年3月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年12月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2」「[理由]」「1」の本件補正前の請求項1として記載した事項を参照。) 2 引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された引用文献1、その記載内容及び引用発明は、上記「第2」「[理由]」「4」に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願発明は、前記「第2」「[理由]」「5」及び「6」で検討した本願補正発明から、 「前記突出部間の間隔は、前記第2層の励起子拡散長の1倍から5倍の間である」 という事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、更に限定したものに相当する本願補正発明は、前記「第2」「[理由]」「5」及び「6」に記載したとおり、引用発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様に、本願発明も、引用発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 してみると、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-10-18 |
結審通知日 | 2016-10-24 |
審決日 | 2016-11-07 |
出願番号 | 特願2013-150789(P2013-150789) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山本 元彦 |
特許庁審判長 |
森林 克郎 |
特許庁審判官 |
松川 直樹 伊藤 昌哉 |
発明の名称 | バルクヘテロ接合を有する光電子装置の製造方法 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 村山 靖彦 |