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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1326475
審判番号 不服2015-20367  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-13 
確定日 2017-03-24 
事件の表示 特願2012-510770号「誘導電力伝達装置および同装置を備えた電気オートサイクル充電装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月18日国際公開、WO2010/131983、平成24年11月1日国内公表、特表2012-527214号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年5月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年5月12日、ニュージーランド)を国際出願日とする出願であって、平成26年3月3日付けで拒絶理由が通知がされ、平成26年9月25日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年10月23日付けで最後の拒絶理由が通知がされ、平成27年4月28日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年6月19日付けで平成27年4月28日の手続補正書の補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定がされ、この査定に対し、平成27年11月13日に本件審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年11月13日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年11月13日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正の目的に関して
(1)請求人は、補正前の
(a)「【請求項1】
一次側導線路から誘導的に電力を受け取り、電力を誘導充電のための誘導的に利用可能にする共振回路、及び、
前記共振回路から誘導充電のために利用可能とされた電力を制御する制御手段、
を備えてなる誘導充電装置。」を、
本件補正で
(b)「【請求項1】
一次側導線路から誘導的に電力を受け取る第一のコイルと、電力を誘導充電のために誘導的に利用可能にする第二のコイルとを備えてなる共振回路、及び、
前記共振回路を制御することにより誘導充電のために前記第二のコイルで利用可能とされる電力を制御する制御手段、
を備えてなる誘導充電装置。」
と補正している。

(2)本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「一次側導線路から誘導的に電力を受け取り、電力を誘導充電のための誘導的に利用可能にする共振回路」について、「一次側導線路から誘導的に電力を受け取る第一のコイルと、電力を誘導充電のために誘導的に利用可能にする第二のコイルとを備えてなる共振回路」と、限定するものであり、また、補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「前記共振回路から誘導充電のために利用可能とされた電力を制御する制御手段」について「前記共振回路を制御することにより誘導充電のために前記第二のコイルで利用可能とされる電力を制御する制御手段」と、限定するものであって、この限定事項は願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載されており、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「1.(1)(b)」に記載したとおりのものである。

(2)引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特表2002-508916号公報(以下「刊行物1」という。)には、「拡大ギャップを横切る誘導電力伝達」に関し、図面とともに、次の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与。)。
(ア)「7.システム全体の周波数で共振し、かつ誘導電力伝達システム内に位置されることが可能な中問共振ループをさらに含み、誘導電力を、一次誘導導線から、前記中間共振ループを経て、二次共振ピックアップ回路に、誘導的に結合できるようにしていることを特徴とする請求項6記載の電源。」(第2頁第27行?第3頁第2行)
(イ)「【発明の詳細な説明】拡大ギャップを横切る誘導電力伝達
発明の技術分野
本発明は、原動力、バッテリー充電、エレクトロルミネセント・パネルを用いた発光を含む照明を含め、ある範囲の目的で、一次誘導軌道と二次ピックアップ装置との間の拡大ギャップを横切って電力を提供する誘導電力伝達の用途に関するものである。」(第4頁第1?7行)
(ウ)「発明の記述
第1の一般的な態様において、本発明は、一次導線と、二次共振ピックアップ回路との間の拡大ギャップを横切る誘導電力伝達のための手段であって、システム全体の共振周波数で共振し、かつ誘導電力伝達システム内に位置することができる中間共振ループを備えて、誘導電力を、一次誘導導線から、前述の中間共振ループを経て、誘導電力を集めることのできる少なくとも1つの二次共振ピックアップ回路に、誘導的に結合できるようにする手段を提供する。
好ましくは、本発明は、前述の中間共振ループが、システム全体の共振周波数でいっしょに共振するキャパシタンスとインダクタンスから成っている、このセクションに記述される通りの誘導電力を結合するための手段を提供する。」(第5頁第25行?第6頁第6行)
(エ)「好ましくは、本発明は、少なくとも1つの集中インダクタが、一次導線から誘導電力を受け取ることのできる、このセクションの他の個所に記述される通りの誘導電力を結合するための手段を提供する。」(第6頁第15?17行)
(オ)「好ましくは、本発明は、前述の中間共振ループが、共振電流の流れる量を制限する手段を含んでいる、このセクションの他の個所に記述される通りの誘導電力を結合するための手段を提供する。
好ましくは、本発明は、前述の共振電流の流れる量を制限する手段が、少なくとも部分的に一次導線から中間ループを減結合する手段を含んでいる、このセクションの他の個所に記述される通りの誘導電力を結合するための手段を提供する。
好ましくは、本発明は、二次共振回路が、電動車両に原動力を供給する、このセクションの他の個所に記述される通りの誘導電力を結合するための手段を提供する。」(第6頁第22行?第7頁第3行)
(カ)「好ましくは、本発明は、車両が、バス停留所などにある中間共振回路の位置の近くにくると、中間共振回路が、その車両内の1個または複数個のバッテリーユニットに充電電流を供給する、このセクションの他の個所に記述される通りの誘導電力を結合するための手段を提供する。」(第7頁第9?12行)
(キ)「 応用例2B:2つの道路スタッド
一次導線に近い1個の道路スタッドは、別の道路スタッド向けの中間共振回路の働きをすることができる。ここでの中間共振回路は、単なる受動インダクタンス/コンデンサ回路ではなくて、循環電圧が高すぎる場合に回路を減結合するための短絡スイッチ構成により、制御される。これは、電流制限の特徴を織り込んだ中間ループの使用を例示している。このような特徴は、一次電流を無負荷時の中間ループに流し、従って、さらに他の消費装置に到達できるようにする時に役立つ。」(第19頁第12?19行)
(ク)「応用例3A:道路に取り付けられた中間ループを経て電力が供給される車両
図5は、コンデンサ506と、好ましくは、供給源からの磁束を効果的に途中で捕らえるように強磁性コアを配置しているインダクタンス507とから成る共振ピックアップ回路から交流電力を受け取る1組の電動機制御回路508から給電される電動機509が、少なくとも1つの車輪を駆動する車両500(例えばレール装置501に沿って走行できる)を示している。軌道にほぼ平行に走っている一次導線503は、随意に1個、または複数個の個別インダクタンス504と同調コンデンサ505を含む電線ループ(大きい共振電流を流すことができるという理由で、好ましくはリッツ線)を、中間結合装置として備えている。インダクタンス504は、次の2つの機能を持っている。すなわち、このインダクタンスは、そのループをシステム全体の共振周波数にて電気的に共振させるのに役立ち、また、このインダクタンスは、車両が受け取る誘導磁界の集中した源の働きをする。ある輸送システムにおいて、いくつかの地点では、さらに高い電力レベルが望まれる(例えば、加速のため)配置構成がある。あるいは、車両は、通常、定まった路線に沿って『バス停留所』などの、ある指定された地点で充電される充電可能バッテリー510から電力が供給される。図5は、実際上、充電設備のあるバス停留所の断面図と見なすことができよう。この中間ループのおかげで、実際の休止位置の許容範囲を広げて、効果的な充電を行うことができる。
本発明の利点は、電力伝達が、さらに長い距離にわたって行えるという点を含んでいる。従って、運転手は、バッテリーを充電するために、バスを充電用導線の真上に正確に位置付けする必要がなくなる。鉛直方向の位置付けの制約が緩和されることにより、車両は、さらにソフトなサスペンションを有するようにできる。製品運搬用コンベヤ装置は、レールが上り坂となる場所では、大きい電力を供給することができる。ちなみに、ギャップ距離の拡大が利点となるような単なるバッテリー充電器の応用例もあるが、もちろん、疎結合誘導電力伝達の定電流の性質は、バッテリーを充電するのに際して、望ましいものである。このような中間ループにより、一次導線から、大きい電力を得ることができる場台がある。」(第19頁第20行?第20頁第19行)
(ケ)「 応用例3B:車内中間ループを経て電力が供給される車両
本発明のこの型は、図5に示される配置構成と同様であるが、ただし、中問ループ(共振コンデンサ603、変圧器の一部604、およびピックアップ・インダクタンス507を含む)は、ここでは、車両内(または車両上)に搭載され、異なる働きをする。コンデンサ506と部分インダクタンス601は、もとの二次ピックアップ・コイルと共振コンデンサを表している。我々は、さらに経済的な変圧器を製作するための都合の良いやり方として、強磁性コア602を含めている。」(第20頁第20?27行)
(コ)「 変形例
車両では、中間ループは、ギャップを広げる目的で、路面内の固定一次軌道の真上に装架されるか、あるいは、二次ピックアップコイル(1つ、または複数)との関係で車両内に搭載される(これは、安定性を高める働きをする)。
我々は、大電力動作条件のもと、または、いくつかの中間回路が、一本の一次導線から同時に駆動されるような場合、中間回路の動作をまだ調査していない。
中間共振ループ回路は、全循環電力を制限するために、制御回路を含める必要もある。制御「回路」の1つの可能な例は、同調インダタタンス内の可飽和フェライトコアである。別の例は、循環電圧が所定の限度を超える時に、ブレータダウンするように選定された、同調コンデンサの両端に接続された逆並列接続ツェナーダイオードである。」(第23頁第6?16行)
(サ)図5には、記載事項(ク)の「一次導線503」「複数個の個別インダクタンス504と同調コンデンサ505を含む電線ループ」「車両500」が記載されている。
そして、記載事項(ク)で「図5は、実際上、充電設備のあるバス停留所の断面図と見なすことができよう。」とされたものであるので、図5は、充電設備といえる。
また、図5の「複数個の個別インダクタンス504と同調コンデンサ505を含む電線ループ」は、記載事項(ウ)の「システム全体の共振周波数で共振し、かつ誘導電力伝達システム内に位置することができる中間共振ループ」や、記載事項(オ)の「中間ループ」や、記載事項(カ)の「中間共振回路」に対応するものであるので、「複数個の個別インダクタンス504と同調コンデンサ505を含む中間共振ループ」ともいえる。
そうすると、図5には、一次導線503、複数個の個別インダクタンス504と同調コンデンサ505を含む中間共振ループ、及び、車両500からなる充電設備が図示されているといえる。
(シ)図5には、記載事項(ク)の「車両500」が、「コンデンサ506と、好ましくは、供給源からの磁束を効果的に途中で捕らえるように強磁性コアを配置しているインダクタンス507とから成る共振ピックアップ回路」「共振ピックアップ回路から交流電力を受け取る1組の電動機制御回路508」「電動機制御回路508から給電される電動機509」、及び、電動機制御回路508に接続されたバッテリ510とを備えてなるものとして記載されている。

そうすると、刊行物1には次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているといえる。
「一次導線503、複数個の個別インダクタンス504と同調コンデンサ505を含む中間共振ループ、及び、車両500からなる充電設備であって、
中間共振ループは、
システム全体の共振周波数で共振し、かつ誘導電力伝達システム内に位置することができる中間共振ループであって、誘導電力を、一次誘導導線から、前述の中間共振ループを経て、誘導電力を集めることのできる少なくとも1つの共振ピックアップ回路に、誘導的に結合できるようにするものであり、
車両内のバッテリ510に充電電流を供給し、
そのインダクタンス504は、そのループをシステム全体の共振周波数にて電気的に共振させるのに役立ち、また、車両が受け取る誘導磁界の集中した源の働きをし、
車両500は、
コンデンサ506と、好ましくは、供給源からの磁束を効果的に途中で捕らえるように強磁性コアを配置しているインダクタンス507とから成る共振ピックアップ回路、
共振ピックアップ回路から交流電力を受け取る1組の電動機制御回路508、
電動機制御回路508から給電される電動機509、
電動機制御回路508に接続されたバッテリ510、
とを備えてなる
充電設備。」

(3)本願補正発明と引用発明との対比
ア.両発明の対応関係
(a)引用発明の「一次導線503」は、本願補正発明の「一次側導線路」に相当する。
(b)引用発明の「充電設備」は、「誘導電力を、一次誘導導線から、前述の中間共振ループを経て、誘導電力を集めることのできる少なくとも1つの共振ピックアップ回路に、誘導的に結合できる」ようにして、「車両内のバッテリ510に充電電流を供給」するものであるので、本願補正発明の「誘導充電装置」に相当する。
(c)引用発明の「中間共振ループ」は、「システム全体の共振周波数で共振し、かつ誘導電力伝達システム内に位置することができる中間共振ループであって、誘導電力を、一次誘導導線から、前述の中間共振ループを経て、誘導電力を集めることのできる少なくとも1つの共振ピックアップ回路に、誘導的に結合できるようにするもの」であるので、中間共振ループが、一次導線から誘導的に電力を受け取る手段を備えていることは自明である。
また、引用発明の「中間共振ループ」は、「車両内のバッテリ510に充電電流を供給」するものであるので、中間共振ループの「車両が受け取る誘導磁界の集中した源の働きをする」「インダクタンス504」は、本願補正発明の「電力を誘導充電のために誘導的に利用可能にする第二のコイル」に相当する。
そうすると、引用発明の「一次導線503、複数個の個別インダクタンス504と同調コンデンサ505を含む中間共振ループ」と、本願補正発明の「一次側導線路から誘導的に電力を受け取る第一のコイルと、電力を誘導充電のために誘導的に利用可能にする第二のコイルとを備えてなる共振回路」とは、「一次側導線路から誘導的に電力を受け取る手段と、電力を誘導充電のために誘導的に利用可能にする第二のコイルとを備えてなる共振回路」である点で共通する。

イ.両発明の一致点
「一次側導線路から誘導的に電力を受け取る手段と、電力を誘導充電のために誘導的に利用可能にする第二のコイルとを備えてなる共振回路を備えてなる誘導充電装置。」

ウ.両発明の相違点
相違点1:一次側導線路から誘導的に電力を受け取る手段が、本願補正発明は「第一のコイル」であるのに対して、引用発明は「コイル」と特定されていない点。
相違点2:本願補正発明は「前記共振回路を制御することにより誘導充電のために前記第二のコイルで利用可能とされる電力を制御する制御手段」を備えてなるのに対して、引用発明は、そのような特定はなされていない点。

(4)容易想到性の検討
ア.相違点1について
(a)一般的に、一次側導線路から誘導的に電力を受け取る手段として、コイルは、広く用いられているものであって、引用発明のごとき誘導電力伝達においてもそのことは変わらない(例えば、刊行物1記載事項(ケ)では、「中問ループ(共振コンデンサ603、変圧器の一部604、およびピックアップ・インダクタンス507を含む)」と記載され、ピックアップ・インダクタンス507は図6でコイルとして記載されている。また、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である、特開2005-110131号公報(平成27年6月19日付け補正の却下の決定で周知技術を示す文献として提示されたもの)には「【0004】電磁結合方式によるRFIDシステムにおいて、非接触情報媒体は、リーダライタから送信された電波を受信し、受信した電波から電磁誘導によって動作電力を得ると共に、この電波を利用してリーダライタとの間でデータ通信を行う。非接触情報媒体と、リーダライタとは、この電波を送受信するためのアンテナコイルをそれぞれ内蔵している。」と記載され、同じく特開2004-29873号公報(平成27年6月19日付け補正の却下の決定で周知技術を示す文献として提示されたもの)には「【0033】・・・RW5からICカードモジュール4へ送られる情報は、搬送波を変調してアンテナコイル51から送出される。これはブースターコイル3のアンテナコイル32Aで受信される。」と記載されている。)。
(b)そうすると、引用発明の一次側導線路から誘導的に電力を受け取る手段を、一次側導線路から誘導的に電力を受け取る手段の一態様として周知である、コイルで構成して、本願補正発明の相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

イ.相違点2について
(a)刊行物1記載事項(コ)には、「変形例」として、「中間共振ループ回路は、全循環電力を制限するために、制御回路を含める必要もある。」こと、「制御『回路』・・の例は、循環電圧が所定の限度を超える時に、ブレータダウンするように選定された、同調コンデンサの両端に接続された逆並列接続ツェナーダイオードである。」ことが記載されている。
(b)そして、当該「中間共振ループ回路」は、引用発明の「中間共振ループ」に対応するものであると共に、本願補正発明の「共振回路」に相当するものである。
(c)また、刊行物1記載事項(コ)の「循環電圧が所定の限度を超える時に、ブレータダウンするように選定された、同調コンデンサの両端に接続された逆並列接続ツェナーダイオード」である「制御回路」は、「中間共振ループ回路」に「含める」ものであるので、中間共振ループ回路の同調コンデンサの両端に接続された逆並列接続ツェナーダイオードを「循環電圧が所定の限度を超える時に、ブレータダウンする」ことは、中間共振ループ回路を制御することに他ならず、本願補正発明の「共振回路を制御すること」に相当する。
(d)また、「循環電圧が所定の限度を超える時に、ブレータダウンする」ことは、「中間共振ループ回路は、全循環電力を制限するため」になされるものであって、そのことにより、中間共振ループ回路のインダクタンス(本願補正発明の「第二のコイル」に相当するもの)で、利用可能とされる電力が変更される(すなわち、制御される)ことは自明である。
(e)そうすると、上記(a)の制御回路は、本願補正発明に倣うと、「共振回路を制御することにより第二のコイルで利用可能とされる電力を制御する制御手段」といえる。
(f)上記刊行物1記載事項(コ)の上記(a)前段には、「車両では、中間ループは、ギャップを広げる目的で、路面内の固定一次軌道の真上に装架されるか、あるいは、二次ピックアップコイル(1つ、または複数)との関係で車両内に搭載される(これは、安定性を高める働きをする)。」と記載されており、当該記載の「中間ループは、ギャップを広げる目的で、路面内の固定一次軌道の真上に装架される」ことは、引用発明を認定した刊行物1記載事項(ク)の「応用例3A」に対応するものであり、「二次ピックアップコイル(1つ、または複数)との関係で車両内に搭載される」ことは、刊行物1記載事項(ケ)の「応用例3B」に対応するものである。
そして、刊行物1記載事項(コ)の「全循環電力を制限するために、制御回路を含める」ことが、記載事項(キ)?(ケ)等記載の「応用例」に対して、「変形例」として記載されたものであり、さらに、直前に引用発明を認定した刊行物1記載事項(ク)に対応する記載が存在することからしても、引用発明を認定した刊行物1記載事項(ク)の「応用例3A」に対して、上記(a)の「全循環電力を制限するために、制御回路を含める」手法を適用することは、刊行物1において示唆されていると解するのが相当である。
(g)そうすると、引用発明に、刊行物1記載事項(コ)の上記(a)の制御回路(換言すると、上記(e)の制御手段)を設けて、本願補正発明の相違点2に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

ウ.総合判断
そして、本願補正発明の作用効果は、引用発明、刊行物1記載の事項、及び上記当業者に周知の事項から当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物1記載の事項、及び上記当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本件出願の請求項1?15に係る発明
平成27年11月13日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1?15に係る発明は、平成26年9月25日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その発明(以下「本願発明1」等という。なお、請求項1の「誘導充電のための」は「誘導充電のために」の誤記と認定した。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
一次側導線路から誘導的に電力を受け取り、電力を誘導充電のために誘導的に利用可能にする共振回路、及び、
前記共振回路から誘導充電のために利用可能とされた電力を制御する制御手段、
を備えてなる誘導充電装置。
【請求項2】
前記制御手段はスイッチを備え、前記スイッチの作動により前記共振回路が前記一次側導線路と誘導的に結合又は切り離されることにより前記一次側導線路から電力を誘導的に受け取るようにされている、請求項1に記載の誘導充電装置。
【請求項3】
前記制御手段は前記スイッチを周期的に作動させて、誘導充電のために利用可能にされた電力を制御する、請求項2に記載の誘導充電装置。
【請求項4】
前記スイッチは前記共振回路の同調コンデンサーと並列にされている、請求項3に記載の誘導充電装置。
【請求項5】
前記制御手段は前記共振回路によって誘導充電のために提供される磁界を短絡させる磁気的短絡を備えている、請求項1に記載の誘導充電装置。
【請求項6】
前記制御手段は前記一次側導線路から磁界を短絡させる磁気的短絡を備えている、請求項1に記載の誘導充電装置。
【請求項7】
前記誘導充電装置は電動車両に充電するためのものである、請求項1?6の何れか1項に記載の誘導充電装置。
【請求項8】
前記共振回路は、前記一次側導線路又は前記電動車両に対して可動なハウジング内に設けられており、前記制御手段は、前記一次側導線路又は前記電動車両に対する前記ハウジングの位置に応じて、磁界を前記電動車両の誘導充電に利用可能にする、請求項7に記載の誘導充電装置。
【請求項9】
請求項1?8の何れか1項に記載の共振回路を備えた電気オートサイクルの支持装置であって、
前記電気オートサイクルの支持装置はオートサイクルを支持するオートサイクル係合デバイスを備え、
前記オートサイクル係合デバイスは前記共振回路によって励起され得るコイルを有し、
前記コイルは前記支持装置によって支持されたオートサイクルに誘導的に充電するための磁界を供給する、電気オートサイクルの支持装置。
【請求項10】
前記電気オートサイクルの支持装置は支持部と支持部に取り付けられた係合部とを備え、
前記オートサイクル係合デバイスは係合部に備えられている請求項9記載の電気オートサイクルの支持装置。
【請求項11】
前記係合部は、前記支持部に取り外し可能に付属している請求項10記載の電気オートサイクルの支持装置。
【請求項12】
前記電気オートサイクルの支持装置は、前記オートサイクル係合デバイスがオートサイクルを支持する向きでない第1の位置とオートサイクルを支持する向きである第2の位置との間で移動可能である請求項9?11のいずれかに記載の電気オートサイクルの支持装置。
【請求項13】
前記電気オートサイクルの支持装置が第1の位置にある時に前記コイルは誘導充電のための磁界を供給しない請求項12記載の電気オートサイクルの支持装置。
【請求項14】
オートサイクルが前記支持装置に支持されていない時に前記コイルは誘導充電のための磁界を供給しない請求項9?13のいずれかに記載の電気オートサイクルの支持装置。
【請求項15】
複数の誘導充電コイルを備え、
各コイルは電気オートサイクルに誘導的に充電する磁界を供給し、各充電コイルは請求項1?8の何れか1項に記載の共振回路に接続されている、電気オートサイクルスタンド。」

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1とその記載事項は、前記の「第2 2.(2)」に記載したとおりである。

3.本願発明1について、
(1)本願発明1と引用発明との対比
ア.両発明の対応関係
(a)引用発明の「一次導線503」は、「第2 2.(3)ア.(a)」と同様に、本願発明1の「一次側導線路」に相当する。
(b)引用発明の「充電設備」は、「第2 2.(3)ア.(b)」と同様に、本願発明1の「誘導充電装置」に相当する。
(c)「第2 2.(3)ア.(c)」と同様に、中間共振ループが、一次導線から誘導的に電力を受け取る手段を備えていることは自明である。
また、引用発明の「中間共振ループ」は、「車両内のバッテリ510に充電電流を供給」するものであるので、中間共振ループの「インダクタンス504」の「車両が受け取る誘導磁界の集中した源の働きをする」機能は、本願発明1の「電力を誘導充電のために誘導的に利用可能にする」機能に相当する。
そうすると、引用発明の「一次導線503、複数個の個別インダクタンス504と同調コンデンサ505を含む中間共振ループ」は、本願発明1の「一次側導線路から誘導的に電力を受け取り、電力を誘導充電のために誘導的に利用可能にする共振回路」に相当する。

イ.両発明の一致点
「一次側導線路から誘導的に電力を受け取り、電力を誘導充電のために誘導的に利用可能にする共振回路を備えてなる誘導充電装置。」

ウ.両発明の相違点
相違点a:制御手段が、本願発明1は「共振回路から誘導充電のために利用可能とされた電力を制御する制御手段」を備えてなるのに対して、引用発明は、そのような特定はなされていない点。

(3)容易想到性の検討
ア.相違点aについて
(a)「第2 2.(4)イ.(a)」に記載したように、刊行物1記載事項(コ)には、「変形例」として、「中間共振ループ回路は、全循環電力を制限するために、制御回路を含める必要もある。」こと、「制御『回路』・・の例は、循環電圧が所定の限度を超える時に、ブレータダウンするように選定された、同調コンデンサの両端に接続された逆並列接続ツェナーダイオードである。」ことが記載されている。
(b)そして、当該「中間共振ループ回路」は、「第2 2.(4)イ.(b)」と同様に、引用発明の「中間共振ループ」に対応するものであると共に、本願発明1の「共振回路」に相当するものである。
(c)また、「第2 2.(4)イ.(c)」に記載したように、刊行物1記載事項(コ)の「循環電圧が所定の限度を超える時に、ブレータダウンする」は、「中間共振ループ回路は、全循環電力を制限するため」になされるものであって、そのことにより、利用可能とされる電力が変更される(すなわち、制御される)ことは自明である。
(d)そうすると、上記(a)の制御回路は、本願発明1に倣うと、「共振回路の利用可能とされる電力を制御する制御手段」といえる。
(e)「第2 2.(4)イ.(f)」に記載したように、上記刊行物1記載事項(コ)の上記(a)前段には、「車両では、中間ループは、ギャップを広げる目的で、路面内の固定一次軌道の真上に装架されるか、あるいは、二次ピックアップコイル(1つ、または複数)との関係で車両内に搭載される(これは、安定性を高める働きをする)。」と記載されており、当該記載の「中間ループは、ギャップを広げる目的で、路面内の固定一次軌道の真上に装架される」ことは、引用発明を認定した刊行物1記載事項(ク)の「応用例3A」に対応するものであり、「二次ピックアップコイル(1つ、または複数)との関係で車両内に搭載される」ことは、刊行物1記載事項(ケ)の「応用例3B」に対応するものである。
そして、刊行物1記載事項(コ)の「全循環電力を制限するために、制御回路を含める」ことが、記載事項(キ)?(ケ)等記載の「応用例」に対して、「変形例」として記載されたものであり、さらに、直前に引用発明を認定した刊行物1記載事項(ク)に対応する記載が存在することからしても、引用発明を認定した刊行物1記載事項(ク)の「応用例3A」に対して、上記(a)の「全循環電力を制限するために、制御回路を含める」手法を適用することは、刊行物1において示唆されていると解するのが相当である。
(f)そうすると、引用発明に、刊行物1記載事項(コ)の上記(a)の制御回路(換言すると、上記(d)の制御手段)を設けて、本願発明1の相違点aに係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

イ.そして、本願発明1の作用効果は、引用発明、及び刊行物1記載の事項から当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本願発明1は、引用発明、及び刊行物1記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.平成26年9月25日付けでした手続補正について
(1)請求人は、平成26年9月25日の手続補正で、「【請求項3】前記制御手段は前記スイッチを周期的に作動させて、誘導充電のために利用可能にされた電力を制御する」との発明特定事項を追加している。(なお、下線は当審で付与。)

(2)国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては、当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、翻訳文等という。)(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあっては、翻訳文等又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)(以下、当初明細書等という)には、「制御手段」及び「スイッチ」に関して以下の記載が存在する。
・「【0043】・・・電気的な短絡はスイッチ54を閉じるかまたはスイッチ56を開くかいずれかを行えばよく、いずれかひとつまたは両方のスイッチを備えればよい。したがって、使用の際は、スイッチ54は通常閉じており、スイッチ56は通常開いている。これらのスイッチは、通常状態から変化するように、制御手段(通信リンク)や電気オートサイクルが充電を待つ間に負荷電流を検出することによって制御してもよい。」
・「【0044】他の実施形態において、いずれかひとつまたは両方のスイッチ54、56は、マニュアル動作をさせて、結合させるかまたは結合を切り離すようにしてもよい。」
・「【0045】・・・いずれかひとつまたは両方のスイッチ54、56は、クランプ手段が閉位置に動いたときに、係合デバイス3に電源30を結合するように動作させてもよい。」
・「【0055】・・・本装置は、また、アームの機械的回転またはスイッチの使用のいずれかによってシステムの結合または結合の切り離しをするためにコイル9への電流の流れを選択的に止めることができる。本システムは、また、電源から見てインダクタンスがわずかにまたはまったく変化しないことを確実にするもので、特に、充電アーム部2が接続または非接続の際やコイル9への電流の流れをアーム部2の回転またはスイッチ56を閉としスイッチ54を開とするスイッチングによって作動させる際である。」
しかし、当初明細書等に「周期的」なる記載は存在せず、「前記制御手段は前記スイッチを周期的に作動させ」ることは記載されていない。
また、上記【0043】、【0044】、【0045】、【0055】以外の記載を参酌しても、「前記制御手段は前記スイッチを周期的に作動させ」る記載はなく、しかも、このことは当初明細書等の記載から自明な事項でもない。
(3)そうすると、【請求項3】の「前記制御手段は前記スイッチを周期的に作動させて、」との事項を追加する補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてした補正とは、認められない。
(4)したがって、この補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、特許を受けることができない。

5.むすび
したがって、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、平成26年9月25日の手続補正は、特許法第17条の2第3項の規定を満たしておらず、本願発明は特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明、及び特許を受けることができない手続補正を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-01 
結審通知日 2016-10-04 
審決日 2016-10-17 
出願番号 特願2012-510770(P2012-510770)
審決分類 P 1 8・ 55- Z (H02J)
P 1 8・ 121- Z (H02J)
P 1 8・ 575- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 秀一  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 中川 真一
矢島 伸一
発明の名称 誘導電力伝達装置および同装置を備えた電気オートサイクル充電装置  
代理人 井出 正威  

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