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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1326945
異議申立番号 異議2016-700474  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-23 
確定日 2017-02-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5822992号発明「積層ポリエステルフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5822992号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項[1-4]について訂正することを認める。 特許第5822992号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5822992号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成26年1月7日を優先日とする平成26年7月19日の特許出願であり、平成27年10月16日にその特許権の設定登録がされた。その後、その特許について、特許異議申立人馬場智理により本件特許異議の申立てがされ、当審において平成28年9月8日付けで取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成28年10月4日(受付日)に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成28年12月19日(受付日)に意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のア、イのとおりである。
ア 請求項1に係る「平均粒径が0.01?1.0μmの範囲」を「平
均粒径が0.05?1.0μmの範囲」に訂正する。
イ 発明の詳細な説明の段落0009の「平均粒径が0.01?1.0
μmの範囲」を「平均粒径が0.05?1.0μmの範囲」に訂正
する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項
上記アの訂正事項に関連する記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明には「塗布層に用いる粒子の平均粒径」の範囲の具体例として「一般的には0.01?1.0μm、好ましくは0.05?0.8μm、」が列挙されていることから、本件発明の上記「平均粒径」の範囲の上限としての「1.0μm」、及び、その下限としての「0.05μm」なる数値は明細書に記載されているから、「塗布層」が「平均粒径が0.05?1.0μmの範囲である粒子を含有」することは、本件特許明細書に記載されているものと認められる。
上記アの訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内において平均粒径の範囲を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、上記イの訂正は、訂正後の請求項1との整合性を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、上記アの訂正と同様に、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、これらの訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項[1?4]について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
本件発明1
「ウレタン樹脂および平均粒径が0.05?1.0μmの範囲である粒子を含有し、膜厚が0.001?1μmの範囲である塗布層を少なくとも片面に有する、ヘーズが5.0%を超える積層ポリエステルフィルムであり、前記塗布層中の粒子の含有量が3?70重量%の範囲であり、当該塗布層上にハードコート層を形成した際に、ヘーズ値が1.0%以上低下することを特徴とする積層ポリエステルフィルム。」
本件発明2
「ハードコート層のヘーズが8.0%以下である請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。」
本件発明3
「ハードコート層が無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層である請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。」
本件発明4
「無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層の屈折率が1.56?1.65である請求項3に記載の積層ポリエステルフィルム。」
(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1?4に係る特許に対して平成28年9月8日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、請求項1及び2に係る特許は、取り消されるべきものである。
イ 請求項1?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に示される周知技術に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?4に係る特許は、取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開2008-169277号公報
甲第2号証:特開2010-284943号公報
甲第3号証:特開2003-48245号公報
甲第4号証:国際公開第2008/146935号の再公表特許
甲第5号証:特開2008-247755号公報
(3)甲号証の記載
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
ポリエステルフィルムおよびそのうえに設けられた塗布層からなる光学用易接着性ポリエステルフィルムであって、塗布層が高分子バインダーおよび酸化チタン微粒子を含有し、該酸化チタン微粒子の平均一次粒子径が4?25nm、塗布層における酸化チタン微粒子の含有量が0.5?55重量%であり、塗布層の塗膜厚さが8?220nmであることを特徴とする、光学用易接着性ポリエステルフィルム。」
「【0006】
これら従来の易接着層は、ハードコート層との接着性という観点の考慮はされているものの、用いられるハードコート層との屈折率との組み合わせによっては干渉ムラが悪化し、反射防止能の性能が制限されることがある。本発明は、かかる従来技術の問題点を解消し、透明性、易滑性に優れ、種々の光学用途に用いられる層との接着力に優れながら、さらに反射防止加工後の干渉ムラが実用上問題ないレベルにある光学用易接着性ポリエステルフィルムを提供することを目的とする。」
「【0013】
[高分子バインダー]
塗布層を構成する高分子バインダーは、高分子からなるバインダーであり、好ましくは、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂およびこれら樹脂同士の変性体のいずれか一種以上から構成される。・・・」
「【0018】
酸化チタン微粒子の平均一次粒子径は4?25nm、好ましくは5?25nmである。平均一次粒子径が25nmを超えると光学散乱が発生し塗布層の透明性が悪くなり、他方、4nm未満であると微粒子同士の凝集が多くなり二次粒子径が大きくなり、光学散乱が発生し、塗布層の透明性が悪くなる。なお、本発明における微粒子の平均一次粒子径は、数平均一次粒子径である。」
「【0038】
(4)ヘーズ
JIS K7136に準じ、日本電色工業社製のヘイズ測定器(NDH-2000)を使用してフィルムのヘイズ値を測定した。なお、フィルムのヘイズを下記の基準で評価した。
◎: ヘイズ値≦2.0% ・・・フィルムのヘイズ極めて良好
○:2.0%<ヘイズ値≦4.0% ・・・フィルムのヘイズ良好
×:4.0%<ヘイズ値 ・・・フィルムのヘイズ不良」
「【0046】
【表1】


「【0048】
酸化チタン微粒子1:
平均一次粒子径:10nm、屈折率:2.2 (触媒化成工業株式会社製 NEOSUNVEIL PW-1010)
・・・
酸化チタン微粒子3:
平均一次粒子径:20nm、屈折率:2.4 (石原産業株式会社製 商品名TTO-51(A))
・・・」
「【0049】
・・・
有機微粒子2:
アクリルフィラー(平均一次粒子径:250nm、屈折率:1.50) (日本触媒社製 商品名エポスターMX-200W)」

以上の記載(特に、上記「表1」の「実施例9?11,18」)によれば、甲第1号証には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
引用発明
「ポリエステル樹脂および平均粒径が0.01μm(「実施例9?11」)又は0.02μm(「実施例18」)の酸化チタン微粒子と平均粒径が0.25μmの有機微粒子(「実施例9?11,18」)とを含有し、膜厚が0.1(実施例9)、0.15(実施例10)、又は0.2μm(実施例11,18)である塗布層を少なくとも片面に有する、ヘーズが4.0%を超える積層ポリエステルフィルムであり、前記塗布層中の酸化チタン微粒子の含有量が40重量%(「実施例9?11」)又は50重量%(「実施例18」)であり、前記塗布層中の有機微粒子の含有量が0.5重量%(「実施例9?11,18」)であり、当該塗布層上にハードコート層を形成した際に、ヘーズ値が2.0%?4.0%の範囲となる積層ポリエステルフィルム。」

(4)判断
ア.特許法第29条第1項3号について
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点1
塗布層が含有する粒子に関し、本件発明1では、「平均粒径が0.05?1.0μmの範囲である粒子」を「3?70重量%の範囲」で含有するのに対し、引用発明では、平均粒径が0.01μmの酸化チタン微粒子を40重量%又は平均粒径が0.02μmの酸化チタン微粒子を50重量%と、平均粒径が0.25μmの有機微粒子を0.5重量%含有する点
相違点2
塗布層を少なくとも片面に有する積層ポリエステルフィルムであって、塗布層上にハードコート層を形成した際にヘーズ値が低下する点に関し、本件発明1は、「ヘーズが5.0%を超える積層ポリエステルフィルム」であり、「塗布層上にハードコート層を形成した際に、ヘーズ値が1.0%以上低下する」のに対し、引用発明は、「ヘーズが4.0%を超える積層ポリエステルフィルム」であって、塗布層上にハードコート層を形成した際に、ヘーズ値が2.0%?4.0%の範囲となるものであって、低下するヘーズ値が不明な点
上記相違点1及び2は実質的な相違点であるから、本件発明は引用発明と同一のものではなく、甲第1号証に記載されたものではない。

イ.特許法第29条第2項について
相違点1に関し、甲2?5には、塗布層において「平均粒径が0.05?1.0μmの範囲である粒子」を「3?70重量%の範囲」で含有するものとすることの開示又は示唆がなく、引用発明の塗布層が含有する粒子を「平均粒径が0.05?1.0μmの範囲」としてその含有量を「3?70重量%の範囲」と変更すべき事由を示す他の証拠もない。
また、相違点2に関し、甲第2?4号証には、積層ポリエステルフィルムに機能層を積層した場合にヘーズが低下する現象が記載されているが、甲第2、3号証には、ハードコート層を形成する前の積層ポリエステルフィルムのヘーズを高くすることの記載はなく、むしろ、低くすることについて記載されており(甲第2号証の段落0010、甲第3号証の段落0065等を参照。)、甲第4号証には、塗布層及びハードコート層についての記載がない。
すなわち、甲第2?4号証には、「塗布層を少なくとも片面に有する、ヘーズが5.0%を超える積層ポリエステルフィルム」において、「塗布層上にハードコート層を形成した際に、ヘーズ値が1.0%以上低下する」という技術的事項の開示や示唆がない。
そして、当該事項により、本件発明1は、ヘーズが大きく下がり、機能層の加工・未加工の区別を付けやすくすることができる基材フィルムを提供することができる(本件特許明細書段落0010)という顕著な効果を奏するものであり、本件発明1は、引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件発明2?4について
本件請求項2?4に記載された発明は、本件発明1をさらに限定したものであるので、本件発明1と同様に、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

エ.特許異議申立人の意見について
相違点1に関し、特許異議申立人は、本件発明1の「平均粒径が0.05?1.0μmの範囲である粒子」なる事項における平均粒径の規定は、引用発明の「有機微粒子」の平均粒径と一致すること、本件発明1の「塗布層中の粒子の含有量が3?70重量%の範囲」なる事項の含有量の規定は、引用発明の上記「有機微粒子」と「酸化チタン微粒子」の含有量と一致すること、及び、上記本件発明1の「平均粒径が0.05?1.0μmの範囲である」粒子と「塗布層中の含有量が3?70重量%の範囲」の粒子が同一のものを指すとは記載されていないことから、本件発明1は甲第1号証に記載されていると主張する。
しかしながら、例えば、本件特許明細書の段落0098?段落0126に記載の実施例において、各実施例の塗布層には、本件発明1に規定される平均粒径を有する「粒子IIA,IIB,IIC,IID」(段落0115)の中からいずれか1種類の粒子を、本件発明1に規定される範囲の含有量で含有させることが記載されており、かかる記載のとおり、本件特許明細書全体を参酌すれば、本件発明1の「平均粒径が0.05?1.0μmの範囲である」粒子と「塗布層中の含有量が3?70重量%の範囲」の粒子が、同一の粒子を指すと解するのが相当である。

また、相違点2に関し、特許異議申立人は、甲第1号証に記載される上記実施例9?11,18の積層フィルムもハードコート層を形成することによって1.0%以上ヘーズが低下していた蓋然性があるから、甲第1号証に記載される積層フィルムも加工、未加工の区別をできていた蓋然性があること、及び、本件発明の「機能層の加工・未加工の区別をつけやすくする」という解決課題は、本件特許優先日時点において新規の課題ではなかった蓋然性があることを主張している。
しかしながら、かかる主張を裏付ける証拠がないため、上記主張は採用できない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
積層ポリエステルフィルム
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリエステルフィルムに関するものであり、例えば、液晶ディスプレイのバックライトユニット等、プリズム層やマイクロレンズ層等の機能層を形成する用途において、機能層の加工・未加工の区別を付けやすくするために好適な積層ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエステルフィルムは、液晶ディスプレイの各部材、例えば、プリズムシート、マイクロレンズシート、ハードコートフィルム、反射防止フィルム、光拡散シート、電磁波シールドフィルム等の各種の用途に用いられている。これらの部材に用いられるベースフィルムには優れた透明性、視認性が要求される。
【0003】
そのため、これらの用途に用いられるフィルムは高い透明性を有するものが一般的である。ところが、透明性が高いために、各種の機能層を形成した加工後のフィルムと、加工する前の未加工フィルムとの区別を容易に付けることができず、特に枚葉形態にしたときに加工品と未加工品を間違える可能性があった。
【0004】
例えば、プリズムシートは、バックライトの光学的な効率を改善して輝度を向上させるためのものである。透明基材フィルムとしては、透明性、機械特性を考慮してポリエステルフィルムが一般的に使用され、基材のポリエステルフィルムとプリズム層との密着性を向上させるために、これらの中間層として易接着性の塗布層が設けられる場合が一般的である(特許文献1)。
【0005】
プリズム層の形成方法としては、例えば、活性エネルギー線硬化性塗料をプリズム型に導入し、ポリエステルフィルムと挟み込んだ状態で活性エネルギー線を照射し、樹脂を硬化させ、プリズム型を取り除くことにより、ポリエステルフィルム上に形成する方法が挙げられる。このような手法の場合、プリズム型が精巧に形成されるためには、無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂を使用する必要がある。しかし、無溶剤系の樹脂は、溶剤系に比べて、ポリエステルフィルム上に積層された易接着層への浸透、膨潤効果が低く、密着性が不十分となりやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-229395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、例えば、プリズム層やマイクロレンズ層等の形成に用いられる、無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層等の機能層を形成する用途において、機能層の加工・未加工の区別を付けやすくするために優れた積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、特定の構成からなる積層ポリエステルフィルムを用いれば、上述の課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、ウレタン樹脂および平均粒径が0.05?1.0μmの範囲である粒子を含有し、膜厚が0.001?1μmの範囲である塗布層を少なくとも片面に有する、ヘーズが5.0%を超える積層ポリエステルフィルムであり、前記塗布層中の粒子の含有量が3?70重量%の範囲であり、当該塗布層上にハードコート層を形成した際に、ヘーズ値が1.0%以上低下することを特徴とする積層ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層ポリエステルフィルムによれば、プリズム層やマイクロレンズ層等の形成に用いられる、無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層等の種々の機能層を形成することにより、ヘーズが大きく下がり、機能層の加工・未加工の区別を付けやすくすることができる基材フィルムを提供することができ、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムは単層構成であっても多層構成であってもよく、2層、3層構成以外にも本発明の要旨を越えない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、特に限定されるものではない。
【0012】
本発明において使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p-オキシ安息香酸など)等の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。
【0013】
ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えば、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等が挙げられる。この中でも、チタン化合物やゲルマニウム化合物は触媒活性が高く、少量で重合を行うことが可能であり、フィルム中に残留する金属量が少ないことから、フィルムの輝度が高くなるため好ましい。さらに、ゲルマニウム化合物は高価であることから、チタン化合物を用いることがより好ましい。
【0014】
チタン化合物を用いたポリエステルの場合、チタン元素含有量は、好ましくは50ppm以下、より好ましくは1?20ppm、さらに好ましくは2?10ppmの範囲である。チタン化合物の含有量が多すぎる場合は、ポリエステルを溶融押出する工程でポリエステルの劣化が促進され黄色味が強いフィルムとなる場合があり、また、含有量が少なすぎる場合は、重合効率が悪くコストアップや十分な強度を有するフィルムが得られない場合がある。また、チタン化合物によるポリエステルを用いる場合、溶融押出する工程での劣化抑制の目的で、チタン化合物の活性を下げるためにリン化合物を使用することが好ましい。リン化合物としては、ポリエステルの生産性や熱安定性を考慮すると正リン酸が好ましい。リン元素含有量は、溶融押出するポリエステル量に対して、好ましくは1?300ppm、より好ましくは3?200ppm、さらに好ましくは5?100ppmの範囲である。リン化合物の含有量が多すぎる場合は、ゲル化や異物の原因となる可能性があり、また、含有量が少なすぎる場合は、チタン化合物の活性を十分に下げることができず、黄色味のあるフィルムとなる場合がある。
【0015】
本発明のポリエステルフィルム中にはフィルムの耐候性の向上、タッチパネル等に用いられる液晶ディスプレイの液晶等の劣化防止のために、紫外線吸収剤を含有させることも可能である。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する化合物で、ポリエステルフィルムの製造工程で付加される熱に耐えうるものであれば特に限定されない。
【0016】
紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤があるが、透明性の観点からは有機系紫外線吸収剤が好ましい。有機系紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系などが挙げられる。耐久性の観点からは環状イミノエステル系、ベンゾトリアゾール系がより好ましい。また、紫外線吸収剤を2種類以上併用して用いることも可能である。
【0017】
本発明のフィルムのポリエステル層中には、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合することも可能である。粒子を配合する場合、配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。これらの中でも特に少量で効果が出やすいという点でシリカ粒子が好ましい。
【0018】
また、粒子の平均粒径は、通常5μm以下、好ましくは0.01?3μmの範囲である。平均粒径が5μmを超える場合には、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎて、後工程において種々の機能層等を形成させる場合等に不具合が生じる場合がある。
【0019】
さらにポリエステル層中の粒子含有量は、通常5重量%未満、好ましくは0.0003?3重量%の範囲である。粒子が無い場合、あるいは少ない場合は、フィルムの透明性が高くなり、良好なフィルムとなるが、滑り性が不十分となる場合があるため、塗布層中に粒子を入れることにより、滑り性を向上させる等の工夫が必要な場合がある。また、粒子含有量が5重量%を超えて添加する場合には機能層を形成してもヘーズが十分に下がらず、フィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0020】
使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。
これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0021】
ポリエステル層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが良い。
【0022】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0023】
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10?350μm、好ましくは20?300μmの範囲である。
【0024】
本発明のフィルムの製膜方法としては、通常知られている製膜法を採用でき、特に制限はない。例えば、二軸延伸ポリエステルフィルムを製造する場合、まず先に述べたポリエステル原料を、押出機を用いてダイから溶融押し出しし、溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法や液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70?120℃、好ましくは80?110℃であり、延伸倍率は通常2.5?7倍、好ましくは3.0?6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に、通常70?170℃で、延伸倍率は通常2.5?7倍、好ましくは3.0?6倍で延伸する。引き続き180?270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る方法が挙げられる。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0025】
また、本発明においては積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70?120℃、好ましくは80?110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4?50倍、好ましくは7?35倍、さらに好ましくは10?25倍である。そして、引き続き、170?270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0026】
次に本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層の形成について説明する。塗布層に関しては、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、オフラインコーティングを採用してもよい。より好ましくはインラインコーティングにより形成されるものである。
【0027】
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押出ししてから延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融、急冷して得られる未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻上前のフィルムの何れかにコーティングする。以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に横方向に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、製膜と塗布層形成を同時に行うことができるため製造コスト上のメリットがあり、また、コーティング後に延伸を行うために、塗布層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングに比べ、薄膜コーティングをより容易に行うことができる。また、延伸前にフィルム上に塗布層を設けることにより、塗布層を基材フィルムと共に延伸することができ、それにより塗布層を基材フィルムに強固に密着させることができる。さらに、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造において、クリップ等によりフィルム端部を把持しつつ延伸することで、フィルムを縦および横方向に拘束することができ、熱固定工程において、しわ等が入らず平面性を維持したまま高温をかけることができる。それゆえ、塗布後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温とすることができるために、塗布層の造膜性が向上し、塗布層と基材フィルムをより強固に密着させることができ、さらには、強固な塗布層とすることができ、塗布層上に形成され得る各種の機能層との密着性や耐湿熱性等の性能を向上させることができる。
【0028】
本発明においては、ウレタン樹脂を含有する塗布層を有し、当該塗布層上に機能層を形成した際に、ヘーズが1.0%以上低下することを必須の要件とするものである。
【0029】
本発明のフィルムは、プリズム層やマイクロレンズ層等の形成に用いられる、無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層等の機能層を形成後にヘーズが低下することで、機能層の加工・未加工の区別を付けやすくする設計である。
【0030】
塗布層上に機能層を形成した際に、ヘーズを1.0%以上低下させるためには、機能層を形成する前の塗布層を有する積層ポリエステルフィルムのヘーズを高く設定することが好ましい。基材のポリエステルフィルムのヘーズおよび塗布層のヘーズの双方から調整することが可能である。ヘーズを高くするためには、例えば、基材や塗布層に粒子を含有させて、光を拡散させる方法が挙げられる。粒子の屈折率にも依存するので一概にはいえないが、一般的には、粒径が大きいほど、また、量が多いほど、ヘーズは高くなる傾向にある。そのため、目的に応じて、粒径や量を変更することで、ヘーズの調整が可能である。
【0031】
塗布層上に機能層を形成した際に、ヘーズを低下させるためには、基材のポリエステルフィルムや塗布層により形成された表面凹凸を、機能層の形成により低減させるという手法が効果的である。表面凹凸の形成は、前記、フィルムヘーズの調整と同様、基材のポリエステルフィルムの設計や塗布層の設計の双方から可能である。基材のポリエステルフィルムの設計で調整する場合は、例えば、多層構成にして、ポリエステルフィルムの中間層よりも塗布層側(機能層を形成する側)の最表ポリエステルフィルム層に粒子を含有させる方法が、表面凹凸を形成しやすいために好ましい。また、基材の設計による調整より、機能層と直接接触する、つまり本発明の積層ポリエステルフィルムの最表層となる塗布層の設計による調整を主として表面凹凸を形成する手法が、機能層を形成した際のヘーズ低下が効率的となるためにより好ましい。
【0032】
機能層によりヘーズが低下する表面凹凸を形成する方法としては、例えば、粒子を含有させる方法や、塗布層自体に凹凸をつける方法が挙げられる。塗布層自体に凹凸をつける方法としては、安定性があまり良くないポリマー同士を混合させて塗布して塗布層を形成する方法や、延伸追従性があまり良くないポリマーを塗布して、フィルム延伸工程を経て塗布層を形成する方法が挙げられる。製造によるヘーズ値の安定性、塗布液の液安定性等を考慮すると、塗布層に粒子を含有させる方法が好ましい。特に塗布層に粒子を含有させる方法によれば、ブロッキングや滑り性改善を行うこともできて好ましい。また、塗布層の表面積が増えることで、機能層との密着性向上にも寄与できるという効果もある。
【0033】
塗布層中に含有させる粒子としては、従来公知の各種の粒子を使用することができ、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等が挙げられる。その中でも、硬さを付与できるという点において無機粒子が好ましく、塗布液の状態での安定性も考慮するとシリカ粒子がより好ましい。また、粒子を塗布層に保持するために使用するポリマーとの屈折率差が大きいために、光の散乱が大きくなり、ヘーズを高くしやすいという点においては金属酸化物も好ましい。
【0034】
塗布層に用いる粒子の平均粒径は、塗布層の膜厚にも依存するので一概には言えないが、一般的には0.01?1.0μm、好ましくは0.05?0.8μm、より好ましくは0.1?0.7μm、特に好ましくは0.2?0.5μmの範囲である。
【0035】
本発明においては、塗布層にウレタン樹脂を含有するものである。ウレタン樹脂の役割としては、上述した粒子を塗布層中に保持することと、塗布層の上に形成され得る各種の機能層との密着性を向上させることが挙げられる。
【0036】
ウレタン樹脂とは、ウレタン結合を分子内に有する高分子化合物のことであり、通常ポリオールとイソシアネートの反応により作成される。ポリオールとしては、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、アクリルポリオール類が挙げられ、これらの化合物は単独で用いても、複数種用いてもよい。
【0037】
ポリエステルポリオール類としては、多価カルボン酸(マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等)またはそれらの酸無水物と多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、ジメタノールベンゼン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、アルキルジアルカノールアミン、ラクトンジオール等)の反応から得られるもの、ポリカプロラクトン等のラクトン化合物の誘導体ユニットを有するもの等が挙げられる。
【0038】
ポリカーボネートポリオール類は、多価アルコール類とカーボネート化合物とから、脱アルコール反応によって得られる。多価アルコール類としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン等が挙げられる。カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等が挙げられ、これらの反応から得られるポリカーボネート系ポリオール類としては、例えば、ポリ(1,6-ヘキシレン)カーボネート、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレン)カーボネート等が挙げられる。
【0039】
ポリエーテルポリオール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
【0040】
各種の機能層との密着性を向上させるために、上記ポリオール類の中でもポリエステルポリオール類およびポリカーボネートポリオール類がより好適に用いられる。
【0041】
ウレタン樹脂を得るために使用されるポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が例示される。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。
【0042】
ウレタン樹脂を合成する際に鎖延長剤を使用しても良く、鎖延長剤としては、イソシアネート基と反応する活性基を2個以上有するものであれば特に制限はなく、一般的には、水酸基またはアミノ基を2個有する鎖延長剤を主に用いることができる。
【0043】
水酸基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等の脂肪族グリコール、キシリレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族グリコール、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート等のエステルグリコールといったグリコール類を挙げることができる。また、アミノ基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、2-ブチル-2-エチル-1,5-ペンタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン等の脂肪族ジアミン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、イソプロビリチンシクロヘキシル-4,4’-ジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環族ジアミン等が挙げられる。
【0044】
本発明におけるウレタン樹脂は、溶剤を媒体とするものであってもよいが、好ましくは水を媒体とするものである。ウレタン樹脂を水に分散または溶解させるには、乳化剤を用いる強制乳化型、ウレタン樹脂中に親水性基を導入する自己乳化型あるいは水溶型等がある。特に、ウレタン樹脂の構造中にイオン基を導入しアイオノマー化した自己乳化タイプが、液の貯蔵安定性や得られる塗布層の耐水性、透明性、密着性に優れており好ましい。
【0045】
また、導入するイオン基としては、カルボキシル基、スルホン酸、リン酸、ホスホン酸、第4級アンモニウム塩等、種々のものが挙げられるが、カルボキシル基が好ましい。ウレタン樹脂にカルボキシル基を導入する方法としては、重合反応の各段階の中で種々の方法が取り得る。例えば、プレポリマー合成時に、カルボキシル基を持つ樹脂を共重合成分として用いる方法や、ポリオールやポリイソシアネート、鎖延長剤などの一成分としてカルボキシル基を持つ成分を用いる方法がある。特に、カルボキシル基含有ジオールを用いて、この成分の仕込み量によって所望の量のカルボキシル基を導入する方法が好ましい。
例えば、ウレタン樹脂の重合に用いるジオールに対して、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ビス-(2-ヒドロキシエチル)プロピオン酸、ビス-(2-ヒドロキシエチル)ブタン酸等を共重合させることができる。またこのカルボキシル基はアンモニア、アミン、アルカリ金属類、無機アルカリ類等で中和した塩の形にするのが好ましい。特に好ましいものは、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミンである。かかるウレタン樹脂は、塗布後の乾燥工程において中和剤が外れたカルボキシル基を、他の架橋剤による架橋反応点として用いることが出来る。これにより、塗布前の液の状態での安定性に優れる上、得られる塗布層の耐久性、耐溶剤性、耐水性、耐ブロッキング性等をさらに改善することが可能となる。
【0046】
またウレタン樹脂には、密着性を向上させるために炭素-炭素二重結合を導入することが好ましい。塗布層に炭素-炭素二重結合を含有させ、当該二重結合と、プリズム層やマイクロレンズ層等、無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層等の形成に用いられる化合物の炭素-炭素二重結合とを活性エネルギー線照射時に反応させ、共有結合を形成し、それにより密着性を向上させることができる。
【0047】
炭素-炭素二重結合を含有するウレタン樹脂とは、ウレタン樹脂の中に炭素-炭素二重結合を有するものであり、プリズム層やマイクロレンズ層等、無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層等を形成する化合物中に含有する炭素-炭素二重結合と反応するものであれば従来公知の材料を使用することができる。例えば、ウレタン樹脂にアクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、アリル基等の形で導入することが挙げられる。
【0048】
炭素-炭素二重結合には各種の置換基を導入することができ、例えば、メチル基やエチル基等のアルキル基、フェニル基、ハロゲン基、エステル基、アミド基等やあるいは共役二重結合のような構造を有していても良い。また、置換基の量としては、特に制限はなく、1置換体、2置換体、3置換体、あるいは4置換体いずれも使用することが可能であり、反応性を考慮すると1置換体、あるいは2置換体が好ましく、さらには1置換体がより好ましい。
【0049】
ウレタン樹脂への導入の容易さとプリズム層やマイクロレンズ層等、無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層等を形成する化合物中に含有する炭素-炭素二重結合との反応性を考慮すると、アクリレート基やメタクリレート基が好ましく、置換基がないアクリレート基やメタクリレート基がより好ましく、置換基がないアクリレート基が特に好ましい。
【0050】
また、炭素-炭素二重結合部(C=C部分であり、分子量24)のウレタン樹脂全体に対する割合は好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1.0重量%以上、さらに好ましくは1.5重量%以上である。炭素-炭素二重結合部の樹脂全体に対する割合が0.5重量%以上であると効果的にプリズム樹脂やマイクロレンズ樹脂等、無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層等への密着性、特に屈折率が高い樹脂との密着性も向上する。
【0051】
本発明のフィルムにおける塗布層形成には、塗布外観、ヘーズの調整、粒子の保持等のためにウレタン樹脂以外の各種のポリマーを併用することも可能である。
【0052】
ポリマーとしては従来公知のポリマーを使用することができ、具体例としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリビニル(ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等)、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、でんぷん類等が挙げられる。
【0053】
また、塗布層形成には、塗布層の塗膜を強固にし、プリズム層やマイクロレンズ層等、無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層等と十分な密着性、耐湿熱特性を向上させるために、架橋剤を併用することが好ましい。
【0054】
架橋剤とは従来公知の材料を使用することができ、例えば、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、メラミン化合物、シランカップリング化合物等が挙げられる。また、機能層との密着性をより向上させる等のために、2種類以上の架橋剤を併用することも可能である。密着性が良好であるという観点において、上記中でもオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物がより好ましく、特にオキサゾリン化合物とエポキシ化合物、オキサゾリン化合物とイソシアネート系化合物、オキサゾリン化合物とカルボジイミド系化合物の組み合わせで使用すると格段に密着性が向上することを見出した。
【0055】
オキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸およびその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα,β-不飽和モノマー類;スチレン、α-メチルスチレン、等のα,β-不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。
【0056】
オキサゾリン化合物に含有されるオキサゾリン基の含有量は、オキサゾリン基量で、通常0.5?10mmol/g、好ましくは1?9mmol/g、より好ましくは3?8mmol/g、さらに好ましくは4?6mmol/gの範囲である。上記範囲での使用が、各種の機能層への密着性が向上し好ましい。
【0057】
エポキシ化合物とは、分子内にエポキシ基を有する化合物であり、例えば、エピクロロヒドリンとエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物が挙げられ、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物、グリシジルアミン化合物等がある。ポリエポキシ化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエポキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、モノエポキシ化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0058】
イソシアネート系化合物とは、イソシアネート、あるいはブロックイソシアネートに代表されるイソシアネート誘導体構造を有する化合物のことである。イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族イソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族イソシアネート等が例示される。また、これらイソシアネートのビュレット化物、イソシアヌレート化物、ウレトジオン化物、カルボジイミド変性体等の重合体や誘導体も挙げられる。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。上記イソシアネートの中でも、紫外線による黄変を避けるために、芳香族イソシアネートよりも脂肪族イソシアネートまたは脂環族イソシアネートがより好ましい。
【0059】
ブロックイソシアネートの状態で使用する場合、そのブロック剤としては、例えば重亜硫酸塩類、フェノール、クレゾール、エチルフェノールなどのフェノール系化合物、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール、エタノールなどのアルコール系化合物、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系化合物、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系化合物、ε‐カプロラクタム、δ‐バレロラクタムなどのラクタム系化合物、ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミンなどのアミン系化合物、アセトアニリド、酢酸アミドの酸アミド化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物が挙げられ、これらは単独でも2種以上の併用であってもよい。これらの中でも特に機能層との密着性が向上しやすいという観点から活性メチレン系化合物であることが好ましい。
【0060】
また、本発明におけるイソシアネート系化合物は単体で用いてもよいし、各種ポリマーとの混合物や結合物として用いてもよい。イソシアネート系化合物の分散性や架橋性を向上させるという意味において、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂との混合物や結合物を使用することが好ましい。
【0061】
カルボジイミド系化合物とは、カルボジイミド構造を有する化合物のことであり、塗布層上に形成され得る各種の表面機能層との密着性の向上や、塗布層の耐湿熱性の向上のために用いられるものである。カルボジイミド系化合物は、分子内にカルボジイミド、あるいはカルボジイミド誘導体構造を1つ以上有する化合物であるが、より良好な密着性等のために、分子内に2つ以上有するポリカルボジイミド系化合物がより好ましい。
【0062】
カルボジイミド系化合物は従来公知の技術で合成することができ、一般的には、ジイソシアネート化合物の縮合反応が用いられる。ジイソシアネート化合物としては、特に限定されるものではなく、芳香族系、脂肪族系いずれも使用することができ、具体的には、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0063】
さらに本発明の効果を消失させない範囲において、ポリカルボジイミド系化合物の水溶性や水分散性を向上させるために、界面活性剤を添加することや、ポリアルキレンオキシド、ジアルキルアミノアルコールの四級アンモニウム塩、ヒドロキシアルキルスルホン酸塩などの親水性モノマーを添加して用いてもよい。
【0064】
カルボジイミド系化合物に含有されるカルボジイミド基の含有量は、カルボジイミド当量(カルボジイミド基1molを与えるためのカルボジイミド化合物の重さ[g])で、通常100?1000、好ましくは250?800、より好ましくは300?700、さらに好ましくは350?650の範囲である。上記範囲での使用が、各種の機能層への密着性が向上し好ましい。
【0065】
メラミン化合物とは、化合物中にメラミン骨格を有する化合物のことであり、例えば、アルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、およびこれらの混合物を用いることができる。エーテル化に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール等が好適に用いられる。また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
【0066】
なお、これら架橋剤は、乾燥過程や、製膜過程において、反応させて塗布層の性能を向上させる設計で用いている。できあがった塗布層中には、これら架橋剤の未反応物、反応後の化合物、あるいはそれらの混合物が存在しているものと推測できる。
【0067】
さらに本発明の主旨を損なわない範囲において、塗布層の形成には必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等を併用することも可能である。
【0068】
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層中の割合として、ウレタン樹脂は、通常20?90重量%、好ましくは30?85重量%、より好ましくは45?75重量%の範囲である。上記範囲で使用することにより、良好な密着性や粒子の脱落防止に効果がある。
【0069】
本発明における積層ポリエステルフィルムの構成する塗布層中の割合として、粒子は、通常3?70重量%、好ましくは10?60重量%、より好ましくは15?45重量%、さらに好ましくは20?40重量%の範囲である。上記範囲で使用することにより、効果的なヘーズの調整が可能となる。
【0070】
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層中の割合として、架橋剤由来の成分は、通常80重量%以下、好ましくは5?60重量%の範囲、より好ましくは10?40重量%の範囲である。上記範囲で使用することにより、良好な塗布外観や強固な塗布層となる。
【0071】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、上述した塗布層を設けた面と反対側の面にも塗布層を設けることも可能である。例えば、プリズム層やマイクロレンズ層を形成した反対側にスティッキング防止層、光拡散層、ハードコート層等の機能層を形成する場合に、当該機能層との密着性を向上させることが可能である。反対側の面に形成する塗布層の成分としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等のポリマー、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、メラミン化合物等の架橋剤等が挙げられ、これらの材料を単独で用いてもよいし、複数種を併用して用いてもよい。
【0072】
塗布層中の成分の分析は、例えば、TOF-SIMS、ESCA、蛍光X線等の分析によって行うことができる。
【0073】
塗布層の形成に関して、上述の一連の化合物を溶液または溶媒の分散体として、固形分濃度が0.1?80重量%程度を目安に調整した塗布液をポリエステルフィルム上に塗布する要領にて積層ポリエステルフィルムを製造するのが好ましい。特にインラインコーティングによって塗布層を設ける場合は、水溶液または水分散体であることがより好ましいが、水への分散性改良、造膜性改良等を目的として、塗布液中には少量の有機溶剤を含有していてもよい。また、有機溶剤は1種類のみでもよく、適宜、2種類以上を使用してもよい。
【0074】
本発明における積層ポリエステルフィルムに関して、ポリエステルフィルム上に設けられる塗布層の膜厚は、通常0.001?1μm、好ましくは0.01?0.5μm、より好ましくは0.02?0.2μmの範囲である。膜厚が上記範囲より外れる場合は、塗布外観の悪化や機能層との密着性が悪化する場合がある。
【0075】
また、粒子を用いて塗布層に表面凹凸を形成する手法の場合、粒子の平均粒径と塗布層の膜厚との関係は、平均粒径/塗布層の膜厚として、好ましくは1.0以上の範囲、より好ましくは1.2?20の範囲、さらに好ましくは1.5?15の範囲、特に好ましくは1.7?10の範囲である。上記範囲で使用することにより、塗布層を設けた積層ポリエステルフィルムとして高ヘーズ化でき、かつ機能層を設けた後のヘーズ低下を効果的に行うことができる。また粒子の塗布層からの脱落防止にも寄与することが可能となる。
【0076】
本発明のフィルムにおいて、塗布層を形成する方法としては、例えば、グラビアコート、リバースロールコート、ダイコート、エアドクターコート、ブレードコート、ロッドコート、バーコート、カーテンコート、ナイフコート、トランスファロールコート、スクイズコート、含浸コート、キスコート、スプレーコート、カレンダコート、押出コート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
【0077】
本発明において、ポリエステルフィルム上に塗布層を形成する際の乾燥および硬化条件に関しては特に限定されるわけではなく、例えば、オフラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、80?200℃で3?40秒間、好ましくは100?180℃で3?40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0078】
一方、インラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、70?270℃で3?200秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0079】
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングに係わらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本発明における積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムにはあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0080】
本発明のポリエステルフィルムの塗布層上に機能層を形成することによるヘーズの低下量は1.0%以上であることが必須であり、好ましくは2.0%以上、より好ましくは5.0%以上、さらに好ましくは8.0%以上、特に好ましくは10%以上の範囲である。上記範囲の設定とすることで、会議室、作業室、検査室等のさまざまな場所やフィルムの見方による機能層の加工・未加工の区別を付けやすくなる。
【0081】
本発明のポリエステルフィルムのヘーズは、特に限定されないが、好ましくは2.0%以上である。粒子によりヘーズを調整する場合、フィルムの見え方は、使用する粒子の種類や大きさにも依存するため一概には言えないが、機能層の加工・未加工の区別をより付けやすくするためには、好ましくは5.0%を超えること、より好ましくは8.0%を超えること、さらに好ましくは10%を超えること、特に好ましくは12%を超えることである。検討により、本発明の範囲においては、同じヘーズ値であっても、粒子の平均粒径が小さい方が、見た目のヘーズ値がより白っぽくなることが判明し、機能層の加工・未加工の区別がより付けやすいことを見出した。
【0082】
本発明の積層ポリエステルフィルムの塗布層上には、機能層を形成するのが一般的である。機能層としては、例えば、プリズム層、マイクロレンズ層、ハードコート層、光拡散層、インキ層、粘着剤層、接着剤層等、各種の機能を付与するために設けられる層のことである。これら機能層の中でも、本発明においては、特にプリズム層やマイクロレンズ層等の形成に用いられる、無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層に好適である。無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層とは、溶剤の含有量が5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは溶剤を含有しない、紫外線や電子線等の活性エネルギー線による硬化性を有する化合物から形成される機能層である。機能層としては、塗布層の上に形成した際にヘーズが下がれば特に限定はされないが、通常、ヘーズがあまり高くないことが好ましく、機能層のみのヘーズとして、好ましくは8.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下の範囲である。また機能層の厚みとしては、同様に、塗布層の上に形成した際にヘーズが下がれば特に限定はされないが、好ましくは0.1?500μm、より好ましくは1?100μm、さらに好ましくは1?50μmの範囲である。
【0083】
本発明のフィルムにおいては、特に密着性を確保することが難しい、高輝度化のために必要な屈折率の高い樹脂層を設けることができる。プリズム層は、近年、輝度を効率的に向上させるため、各種の形状が提案されているが、一般的には、断面三角形状のプリズム列を並列させたものである。また、マイクロレンズ層も同様に各種の形状が提案されているが、一般的には、多数の半球状凸レンズをフィルム上に設けたものである。いずれの層も従来公知の形状のものを設けることができる。
【0084】
プリズム層の形状としては、例えば、厚さ10?500μm、プリズム列のピッチ10?500μm、頂角40°?100°の断面三角形状のものが挙げられる。マイクロレンズ層の形状としては、例えば、厚さ10?500μm、直径10?500μmの半球状のものが挙げられるが、円錐、多角錘のような形状をしていても良い。
【0085】
活性エネルギー線硬化性樹脂層に使用される材料としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂からなるものが挙げられ、単官能(メタ)アクリレート、二官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、ポリエステル樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系樹脂等が挙げられる。
【0086】
活性エネルギー線硬化性の(メタ)アクリレートを含む組成物は特に限定されるものでない。例えば、公知の活性エネルギー線硬化性の単官能(メタ)アクリレート、二官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレートを一種類以上混合したもの、活性エネルギー線硬化性プリズム用やマイクロレンズ用樹脂材として市販されているもの、あるいはこれら以外に本実施形態の目的を損なわない範囲において、その他の成分をさらに添加したものを用いることができる。
【0087】
活性エネルギー線硬化性の単官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されるものではないが、例えばメチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート、ジアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリール(メタ)アクリレート、フェニルフェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート等のエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0088】
活性エネルギー線硬化性の二官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されるものではないが、例えば1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート等のビスフェノール変性ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ウレタンジ(メタ)アクリレート、エポキシジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0089】
活性エネルギー線硬化性の多官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されるものではないが、例えばジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート等のイソシアヌル酸変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー等のウレタンアクリレート等が挙げられる。
【0090】
活性エネルギー線硬化性樹脂層の屈折率は、高い方が輝度が向上する傾向にあるため好ましく、通常1.56?1.65、好ましくは1.57?1.64、さらに好ましくは1.58?1.63の範囲である。上記範囲を外れる場合は、十分に輝度を高くすることができない場合がある。
【0091】
高輝度化のための高屈折率化の処方としては、上記の一般的な化合物に加え、芳香族構造を多く有する化合物、硫黄原子、ハロゲン原子、金属化合物を使用する方法が挙げられる。その中でも特に、プリズム層やマイクロレンズ層の屈折率が均一化でき、環境上の観点から、芳香族構造を多く有する化合物や硫黄原子を用いる方法が好ましい。
【0092】
芳香族構造を多く有する化合物としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[a]フェナントレン、ピレン、ベンゾ[c]フェナントレン、ペリレン等の縮合多環式芳香族構造を有する化合物、ビフェニル構造を有する化合物、フルオレン構造を有する化合物等が挙げられる。
【0093】
ビフェニル構造、フルオレン構造、縮合多環式芳香族構造には、各種の置換基が導入されていてもよく、特にフェニル基等、ベンゼン環を含有する置換基が導入されているものは屈折率をより高くすることができるため好ましい。また、硫黄原子やハロゲン原子等、屈折率を高くする原子を導入することも可能である。さらに、塗布層との密着性を向上させるために、エステル基、アミド基、水酸基、アミノ基、エーテル基等、各種の官能基を導入することも可能である。
【0094】
活性エネルギー線硬化性樹脂層中のビフェニル構造、フルオレン構造、縮合多環式芳香族構造およびそれらの構造に置換する芳香族化合物の合計は、他の構造の種類と量、あるいは硬化状況にも依存するため一概には言えないが、活性エネルギー線硬化性樹脂層全体に対して、好ましくは20?80重量%、より好ましくは25?70重量%、さらに好ましくは30?60重量%の範囲である。上記範囲より外れる場合は、輝度が低下する場合や、活性エネルギー線硬化性樹脂層の形成がうまくいかない場合がある。
【0095】
本発明のフィルムにおける活性エネルギー線硬化性樹脂層を形成するビフェニル構造、フルオレン構造、縮合多環式芳香族構造を有する化合物の割合は、活性エネルギー線硬化性樹脂層を形成する化合物組成の全不揮発成分に対する割合として、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10?90重量%、さらに好ましくは20?80重量%の範囲である。この範囲で用いることで、屈折率が高くなり、高い輝度を得ることが容易となる。
【0096】
活性エネルギー線硬化性の化合物を含む組成物に含まれるその他の成分は特に限定されるものではない。例えば、無機又は有機の微粒子、重合開始剤、重合禁止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、分散剤、界面活性剤、光安定剤及びレベリング剤等が挙げられる。また、ウェットコーティング法において成膜後乾燥させる場合には、任意の量の溶媒を添加することができる。
【0097】
活性エネルギー線硬化性樹脂層の成分の分析は、例えば、TOF-SIMS、ESCA、蛍光X線、NMR等の分析によって行うことができる。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法および評価方法は次のとおりである。
【0099】
(1)ポリエステルの極限粘度の測定方法
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0100】
(2)平均粒径の測定方法
TEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 H-7650、加速電圧100V)を使用して塗布層を観察し、粒子10個の粒径の平均値を平均粒径とした。
【0101】
(3)塗布層の膜厚測定方法
塗布層の表面をRuO_(4)で染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により作成した切片をRuO_(4)で染色し、塗布層断面をTEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 H-7650、加速電圧100V)を用いて測定した。なお、膜厚は粒子の部分を含まない箇所で測定した。
【0102】
(4)屈折率の測定方法
塗布層側に紫外線硬化性樹脂化合物を膜厚10μmで平坦に配置し、紫外線で硬化させ、平坦な紫外線硬化性樹脂層を形成した。紫外線硬化性樹脂層側の屈折率を屈折計(株式会社アタゴ製 SL-NA-B)を用いて測定した。
【0103】
(5)ヘーズの測定方法
株式会社村上色彩技術研究所製ヘーズメーター HM-150を使用して、JIS K 7136で測定した。
【0104】
(6)機能層を形成した際のヘーズの低下量の測定方法
機能層として、平らな金属板に、2-ビフェノキシエチルアクリレート30重量部、4,4’-(9-フルオレニリデン)ビス(2-フェノキシエチルアクリレート)17重量部、エチレングリコール変性ビスフェノールAアクリレート(エチレングリコール鎖=8)40重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート10重量部、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド3重量部からなる組成物を配置し、その上から塗布層が樹脂と接触する向きに積層ポリエステルフィルムを重ね、ローラーにより組成物を均一に引き伸ばし、紫外線照射装置から紫外線を照射し、樹脂を硬化させた。次いで、フィルムを金属板から剥がし、厚さ2μmの機能層(当該層の屈折率は1.59であり、ヘーズは0.1%である)が形成されたフィルムを得た。(4)による方法でヘーズを測定し、機能層を形成する前の積層ポリエステルフィルムのヘーズからの差を計算した。
【0105】
(7)機能層加工前後の判別性評価方法
前記(6)の機能層を形成する前と形成した後の20cm×20cmフィルムの差を観察した。観察の仕方としては、会議室、作業室、検査室を想定して、白色机上、緑色カッター用マット上、黒色机上の3か所において、それぞれ機能層が形成されていないフィルムと機能層が形成されたフィルムを置き、真上、および斜め30度で1m離れた箇所から観察した場合の両者の差を確認した。差が瞬時に判別できる場合を5点、3秒間の観察で容易に判別できる場合を4点、じっくり見ると判別できる場合を3点、判別しづらい場合を2点、判別できない場合を1点とした。点数が高い方が好ましく、3点以上が多くあることが理想である。
【0106】
(8)塗布層の密着性の評価方法
平らな金属板に、2-ビフェノキシエチルアクリレート30重量部、4,4’-(9-フルオレニリデン)ビス(2-フェノキシエチルアクリレート)17重量部、エチレングリコール変性ビスフェノールAアクリレート(エチレングリコール鎖=8)40重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート10重量部、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド3重量部からなる組成物を配置し、その上から塗布層が樹脂と接触する向きに積層ポリエステルフィルムを重ね、ローラーにより組成物を均一に引き伸ばし、紫外線照射装置から紫外線を照射し、樹脂を硬化させた。次いで、フィルムを金属板から剥がし、厚さ2μmの機能層(屈折率=1.59)が形成されたフィルムを得た。その後、60℃、90%RHの環境下で、24時間処理した後のフィルムの機能層にカッターナイフで5mm間隔にキズをつけ、18mm幅のテープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標)CT-18)を貼り付け、180度の剥離角度で急激にはがした。剥離面を観察し、剥離面積が5%未満ならば◎、5%以上20%未満なら○、20%以上50%未満なら△、50%以上ならば×とした。
【0107】
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
<ポリエステル(A)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エチルアシッドフォスフェートを生成ポリエステルに対して30ppm、触媒として酢酸マグネシウム・四水和物を生成ポリエステルに対して100ppmを窒素雰囲気下、260℃でエステル化反応をさせた。引き続いて、テトラブチルチタネートを生成ポリエステルに対して50ppm添加し、2時間30分かけて280℃まで昇温すると共に、絶対圧力0.3kPaまで減圧し、さらに80分、溶融重縮合させ、極限粘度0.63のポリエステル(A)を得た。
【0108】
<ポリエステル(B)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、触媒として酢酸マグネシウム・四水和物を生成ポリエステルに対して900ppmを窒素雰囲気下、225℃でエステル化反応をさせた。引き続いて、正リン酸を生成ポリエステルに対して3500ppm、二酸化ゲルマニウムを生成ポリエステルに対して70ppm添加し、2時間30分かけて280℃まで昇温すると共に、絶対圧力0.4kPaまで減圧し、さらに85分、溶融重縮合させ、極限粘度0.64のポリエステル(B)を得た。
【0109】
<ポリエステル(C)の製造方法>
ポリエステル(A)の製造方法において、溶融重合前に平均粒径2μmのシリカ粒子を0.3重量部添加する以外はポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(C)を得た。
【0110】
塗布層を構成する化合物例は以下のとおりである。
(化合物例)
・炭素-炭素二重結合を有するウレタン樹脂:(IA)
ヒドロキシエチルアクリレートユニット:ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートユニット:ヘキサメチレンジイソシアネート3量体ユニット:カプロラクトンユニット:エチレングリコールユニット:ジメチロールプロパン酸ユニット=18:12:22:26:18:4(mol%)から形成される炭素-炭素二重結合部の重量が2.0重量%であるウレタン樹脂。
【0111】
・炭素-炭素二重結合部を有するウレタン樹脂:(IB)
ヒドロキシエチルアクリレートユニット:ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートユニット:ヘキサメチレンジイソシアネート3量体ユニット:カプロラクトンユニット:エチレングリコールユニット:ジメチロールプロパン酸ユニット=6:10:20:38:22:4(mol%)から形成される炭素-炭素二重結合部の重量が0.7重量%であるウレタン樹脂。
【0112】
・炭素-炭素二重結合部を有しないウレタン樹脂:(IC)
1,6-ヘキサンジオールとジエチルカーボネートからなる数平均分子量が2000のポリカーボネートポリオール80重量部、数平均分子量400のポリエチレングリコール4重量部、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)12重量部、ジメチロールブタン酸4重量部からなるウレタン樹脂をトリエチルアミンで中和した水分散体。
【0113】
・ポリエステル樹脂:(ID)
下記組成で共重合したポリエステル樹脂の水分散体
モノマー組成:(酸成分)テレフタル酸/イソフタル酸/5-ソジウムスルホイソフタル酸//(ジオール成分)エチレングリコール/1,4-ブタンジオール/ジエチレングリコール=56/40/4//70/20/10(mol%)
【0114】
・アクリル樹脂:(IE)下記組成で重合したアクリル樹脂の水分散体
エチルアクリレート/n-ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/N-メチロールアクリルアミド/アクリル酸=65/21/10/2/2(重量%)の乳化重合体(乳化剤:アニオン系界面活性剤)
【0115】
・粒子:(IIA) 平均粒径0.15μmのシリカ粒子
・粒子:(IIB) 平均粒径0.20μmのシリカ粒子
・粒子:(IIC) 平均粒径0.30μmのシリカ粒子
・粒子:(IID) 平均粒径0.45μmのシリカ粒子
【0116】
・オキサゾリン化合物:(IIIA)
オキサゾリン基及びポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリルポリマーエポクロス(オキサゾリン基量=4.5mmol/g、株式会社日本触媒製)
【0117】
・エポキシ化合物:(IIIB)ポリグリセロールポリグリシジルエーテル
【0118】
・イソシアネート系化合物:(IIIC)
ヘキサメチレンジイソシアネート1000部を60℃で攪拌し、触媒としてテトラメチルアンモニウム・カプリエート0.1部を加えた。4時間後、リン酸0.2部を添加して反応を停止させ、イソシアヌレート型ポリイソシアネート組成物を得た。得られたイソシアヌレート型ポリイソシアネート組成物100部、数平均分子量400のメトキシポリエチレングリコール42.3部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート29.5部を仕込み、80℃で7時間保持した。その後反応液温度を60℃に保持し、イソブタノイル酢酸メチル35.8部、マロン酸ジエチル32.2部、ナトリウムメトキシドの28%メタノール溶液0.88部を添加し、4時間保持した。n-ブタノール58.9部を添加し、反応液温度80℃で2時間保持し、その後、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート0.86部を添加して得られたブロックポリイソシアネート。
【0119】
・カルボジイミド系化合物:(IIID)
ポリカルボジイミド化合物 カルボジライト(カルボジイミド当量=600、日清紡株式会社製)
【0120】
実施例1:
ポリエステル(A)、(B)、(C)をそれぞれ91%、3%、6%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(A)、(B)をそれぞれ97%、3%の割合で混合した混合原料を中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層=1:18:1の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。
次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、下記表1に示す塗布液1を塗布し、テンターに導き、横方向に120℃で4.0倍延伸し、225℃で熱処理を行った後、横方向に2%弛緩し、塗布層の膜厚(乾燥後)が0.06μmの塗布層を有する厚さ125μmのポリエステルフィルムを得た。
【0121】
得られたポリエステルフィルムを評価したところ、ヘーズは2.0%、ヘーズ低下量は1.4%であり、機能層が形成されていないフィルムと機能層が形成されたフィルムとの判別は可能であった。また機能層との密着性も良好であった。このフィルムの特性を下記表2に示す。
【0122】
実施例2?24: 実施例1において、塗布剤組成を表1に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がったポリエステルフィルムは表2に示すとおり、機能層が形成されていないフィルムと機能層が形成されたフィルムの判別性は良好であった。また機能層との密着性も良好であった。
【0123】
比較例1:
実施例1において、塗布層を設けなかったこと以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がったポリエステルフィルムを評価したところ、下記表2に示すとおり、機能層が形成されていないフィルムと機能層が形成されたフィルムの判別性が劣る結果であり、密着性も劣るものであった。
【0124】
比較例2?8:
実施例1において、塗布剤組成を表1に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がったポリエステルフィルムを評価したところ、下記表2に示すとおり、機能層が形成されていないフィルムと機能層が形成されたフィルムの判別性が十分なものではない場合や、密着性が劣る場合であった。
【0125】
【表1】

【0126】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のフィルムは、例えば、プリズム層やマイクロレンズ層等の形成に用いられる、無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層等の機能層を形成する用途において、機能層の加工・未加工の区別を付けやすくしたい用途に好適に利用することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン樹脂および平均粒径が0.05?1.0μmの範囲である粒子を含有し、膜厚が0.001?1μmの範囲である塗布層を少なくとも片面に有する、ヘーズが5.0%を超える積層ポリエステルフィルムであり、前記塗布層中の粒子の含有量が3?70重量%の範囲であり、当該塗布層上にハードコート層を形成した際に、ヘーズ値が1.0%以上低下することを特徴とする積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
ハードコート層のヘーズが8.0%以下である請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
ハードコート層が無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層である請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
無溶剤系の活性エネルギー線硬化性樹脂層の屈折率が1.56?1.65である請求項3に記載の積層ポリエステルフィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-02-10 
出願番号 特願2014-148363(P2014-148363)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 113- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 井上 茂夫
高橋 祐介
登録日 2015-10-16 
登録番号 特許第5822992号(P5822992)
権利者 三菱樹脂株式会社
発明の名称 積層ポリエステルフィルム  
代理人 岡田 数彦  
代理人 岡田 数彦  

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