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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65H
管理番号 1327211
審判番号 不服2015-10554  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-18 
確定日 2017-04-06 
事件の表示 特願2014-239303「トイレットロールの芯、及び、トイレットロール」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年11月10日(優先権主張平成26年7月4日)の出願であって、平成27年2月4日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年3月23日に意見書が提出されたが、同年4月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「周方向のいずれか一方の向きを特定する識別子が内側面に設けられている、トイレットロールの芯。」

第3 引用刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物は、次のとおりである。

実願昭56-93081号(実開昭58-1394号)のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)
特開2009-34467号公報(以下「周知例1」という。)
特開2009-268535号公報(以下「周知例2」という。)
実願昭53-31128号(実開昭54-134637号)のマイクロフィルム(以下「周知例3」という。)

1 引用例
(1)引用例に記載の事項
引用例には、次の事項が記載されている(下線は、審決で付した。以下、同様である。)。

ア 実用新案登録請求の範囲
「筒状の芯Sに一定の方向を示めす印Mを入れ、それによって、トイレ内等においてぺーパーホルダーにそう入する際に、より簡単に上下の判別ができ得るように成したトイレットペーパー。」

イ 考案の詳細な説明
「この考案はトイレットペーパーに関するものである。
在来のトイレットペーパーにおいては、トイレットペーパーをトイレ内等においてペーパーホルダーにそう入する際に、その上下の確認はロ一ル状に巻かれているペーパーの最表部のノリづけされていない最先端の余白の部分の向きを調べて判別していた。ところが製作上のミス等によりこのノリづけされていない余白の部分の無いものや始めから余白が無いように形成されているものもあり、
そのようなトイレットペーパーにおいては、トイレ等内のペーパーホルダーにそう入する際にはキチンと巻かれている最表部辺のペーパーをはがしてみないと上下の確認をすることができなかった。
この考案のトイレットペーパーにおいては、このようにペーパーの最表部辺をはがしてみなくても、又は始めから最表部の最先端にあるノリづけされていない余白の部分を確認しなくても、トイレ等内でペーパホルダーにトイレットペーパーをそう入する際により簡単にトイレットペーパ?の上下の確認ができ得るように成したものである。
図面について説明すると、この考案は第1図に示めすようにトイレットペーパーPの筒状の芯Sに一定の方向を示めした無数の印Mをつけたものである。この印Mの形成にあっては第2図に示めすようにトイレットペ一パ一Pの筒状の芯Sを形成するボール紙Bが丸められたり、丸めるために、細断される前の大判である時に無数の主に矢印の形状をした穴をあけることによって、そのボール紙が第2図に示めすように筒状の芯Sとなった時に一定方向を示めす印Mとなるようになす。
筒状の芯Sは通状それを形成するボール紙の地色であり、この色は白色ではないのでトイレットペーパーPの実際に使用するペーパ?は白色であるので単にボール紙Bに無数の穴を一定方向を示めしてあければ、このボール紙Bが筒状のトイレットペーパーの芯Sとなった時にその穴すなわち一定方向を示めす印Mとなって、この考案のトイレットペーパーの筒状の芯Sの内側をのぞきこめば一目でトイレットペーパーの左右が判り、それ故に上下の確認がとれ、トイレ等内においてペーパーホルダーにそう入する際に簡単に上下の判別がつく。
トイレットペーパーをこのように形成したことによりトイレ等内においてペーパーホルダーにトイレットペーパーをそう入する際の上下の判別をきわめて簡単になし得るようなさしめる上、トイレットペーパーの製作時においても在来のトイレットペーパーのようにペーパ?の最表部の最先端にノリづけしない余白の部分を形成する必要がなくなりノリづけの際の手間の省力化もできる。」

(2)引用例に記載の発明の認定
上記(1)に摘記された記載事項からみて、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「トイレットペーパーの筒状の芯Sの内側をのぞきこめば一目でトイレットペーパーの左右が判り、それ故に上下の確認がとれ、トイレ等内においてペーパーホルダーにそう入する際に簡単に上下の判別ができ得るように、トイレットペーパーの筒状の芯Sに、一定の方向を示めす無数の印Mを入れた、トイレットペーパーの筒状の芯S。」

2 周知例1
(1)周知例1には、次の事項が記載されている。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレットペーパーの引き出し口の符号に関するものである。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そのため、次のような問題点があった。
(イ)トイレットペーパーを取り付けホルダーに装着しても目がわるいと裏側になっていることがある。
(ロ)トイレットペーパーを取りはずして引き出し口を表側にしなければならず大変だった。
本発明は、これらの問題点を解決するためになされたものである。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0004】
トイレットペーパーの表側の引き出し口の方向を確認できる符号を設ける。
以上を特徴とするトイレットペーパー符号である。」

エ 「【発明の効果】
【0005】
トイレットペーパーの引き出し口を確認できる符号により間違いなくホルダーに取り付けられるので大変便利である。」

オ 図1から、符号4は、トイレットペーパー2の周方向に向く矢印であることが把握できる。

3 周知例2
(1)周知例2には、次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の帯状の連続薄葉紙が積層一体化された連続シートが円筒状に巻きとられた衛生薄葉紙ロールであって、
前記積層一体化は、前記連続シートの側縁から離間した位置で連続シートの長手方向に沿って配されたエッジエンボスによってなされ、
そのエッジエンボスは、一方端に向かって狭窄する狭窄部を有する形状の単位エッジエンボスが、その狭窄部の狭部側がテール端縁側に位置されるようにして、連続的又は断続的に配された形状をなしている、
こと特徴とする衛生薄葉紙ロール。
【請求項2】
前記エッジエンボスは、矢印、三角形、台形が連続シートの長手方向に沿って、連続的に又は断続的に配された形状である請求項1記載の衛生薄葉紙ロール。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の衛生薄葉紙ロールは、テール端部のペーパー全幅に亘って線状の糊を付するテール端部の止着形態をとるがゆえに、接着位置対してテール端縁側の自由部分がいずれに位置しているのが視認し難く、直感的に自由部分を摘む操作をし難かった。
また、この種の衛生薄葉紙ロールは、テール端部が止着されている衛生薄葉紙ロールの形状は単純な円筒形であるため、従来の衛生薄葉紙ロールの止着形態であると、テール端部の引き出し方向が理解できず、例えば、当該衛生薄葉紙ロールを回動自在に保持する既知のペーパーホルダーにセットする際に、回転方向を誤ってセットしてしまうセットミスを誘発することがあった。
さらに、従来の止着形態では、テール端部を剥離する際に接着部分の全ての範囲に亘って完全に剥離せずに、一部が剥離せずに長さ方向に裂けてしまうことがあった。
このような裂けは、トイレットペーパーのように、非常に薄く、しかも水解性を必要とするペーパーで特に顕著であり、かかるペーパーでは、テール端部をロール部外表面から剥がす作業を極めて慎重に行う煩雑な操作を要している。
そこで、本発明の主たる課題は、回転方向や自由部分の位置を視認しやすく、しかもテール端部の剥離性に優れる衛生薄葉紙ロールを提供することにある。」

ウ 「【発明の効果】
【0006】
以上のとおり、本発明によれば、回転方向や自由部分の位置を視認しやすく、しかもテール端部の剥離性に優れるロールペーパーが提供される。」

4 周知例3
(1)周知例3には、次の事項が記載されている。

ア 実用新案登録請求の範囲(明細書第1頁)
「図面に示す通り、トイレットペーパーの表面に表方向と、上下を表わす、文字や印を印刷したトイレットペーパー。」

イ 考案の詳細な説明
「本案は図面に示す通り、トイレットペーパーの表面に、表方向を表わす矢印や、上下方向を表わす文字や印しを印刷したもので、誰にでも、ほどいて確かめずに、トイレットペーパー保持器にセットが出来る、便利で使いやすいトイレットペーパーである。」(明細書第1頁下から2行?第2頁第4行)

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明においては、本願の明細書段落【0002】に「従来、紙管にトイレットペーパーが巻回されてなるトイレットロールが知られている。当該紙管は、一般に「芯」と呼ばれている。」と記載されているように、「芯」に「トイレットペーパー」を巻回したものを「トイレットロール」と称している。これに対して、引用発明においては、上記1(1)アで摘記したように「筒状の芯Sに一定の方向を示めす印Mを入れ、それによって、トイレ内等においてぺーパーホルダーにそう入する際に、より簡単に上下の判別ができ得るように成したトイレットペーパー。」と、また、上記1(1)イで摘記したように「在来のトイレットペーパーにおいては、トイレットペーパーをトイレ内等においてペーパーホルダーにそう入する際に、その上下の確認はロ一ル状に巻かれているペーパーの最表部のノリづけされていない最先端の余白の部分の向きを調べて判別していた。」と記載されているように、「芯S」にペーパーを巻回したものを「トイレットペーパー」と称している。そうすると、引用発明の「芯S」及び「トイレットペーパー」は、本願発明の「芯」及び「トイレットロール」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「トイレットペーパーの筒状の芯S」に入れた「一定の方向を示めす無数の印M」は、「トイレットペーパーの筒状の芯Sの内側をのぞきこめば一目でトイレットペーパーの左右が判り、それ故に上下の確認がとれ、トイレ等内においてペーパーホルダーにそう入する際に簡単に上下の判別ができ得る」るものであるから、方向(向き)を特定する(識別する)ものであって、トイレットペーパーの芯の内側面に設けられていると解することができるので、本願発明の「トイレットロールの芯」の「内側面に設けられている」「向きを特定する識別子」に相当する。

したがって、両者は、次の一致点で一致し、相違点で相違する。

(一致点)
「向きを特定する識別子が内側面に設けられている、トイレットロールの芯。」

(相違点)
識別子について、本願発明は、「周方向のいずれか一方の向きを特定する」に対し、引用発明は、「トイレットペーパーの左右が判り、それ故に上下の確認がとれ、トイレ等内においてペーパーホルダーにそう入する際に簡単に上下の判別ができ得る」点。

第5 判断
1 相違点に係る当審の判断
(1)本願発明の識別子について
ア 本願の明細書には、以下のとおり記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トイレットロールを最後まで使い切ったら、ホルダーに残った芯を新品のトイレットロールに付け替える。このとき、トイレットペーパーの引き出し向きが自分好みの向きとなるようにトイレットロールを取り付けるためには、糊付けされた部分の周囲を注意深く観察したり、糊付けを剥がしたりして、トイレットペーパーの巻回の向きを把握しなければならない。
【0007】
しかしながら、トイレットペーパーは薄く柔らかいものであるため、糊付けされた部分の周囲を観察しても状況がよく分からなかったり、糊付けを剥がすにもうまく剥がれなかったりして、煩わしい思いをすることがある。挙句、ホルダーへの取り付け向きを間違えると、狭いトイレ内で地団太を踏む羽目になる。
【0008】
そこで本発明は、トイレットペーパーの引き出し向きが自分好みの向きとなるようにトイレットロールをホルダーに容易に取り付けることができるためのトイレットロールの芯、及び、当該芯を備えるトイレットロールを提供することを目的とする。」
「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のトイレットロールの芯は、周方向のいずれか一方の向きを特定する識別子が内側面に設けられている。この芯を備えるトイレットロールは、識別子が特定する向きと、この芯に巻回されるトイレットペーパーの引き出し向きとを揃えることができる。この場合、トイレットロールをホルダーに取り付ける際に、識別子が特定する向きを確認することにより、トイレットペーパーの引き出し向きが自分好みの向きとなるようにトイレットロールをホルダーに容易に取り付けることができる。」
「【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、トイレットペーパーの引き出し向きが自分好みの向きとなるようにトイレットロールをホルダーに容易に取り付けることができるためのトイレットロールの芯、及び、当該芯を備えるトイレットロールが提供される。」
イ 上記で摘記した事項からみて、本願発明の「周方向のいずれか一方の向きを特定する識別子」は、トイレットペーパーの引き出し向きが容易に把握できるように、また、トイレットペーパーをホルダーに(適切な向きで)容易に取り付けることができるようにするために設けるものであると解される。
(2)引用発明の印Mについて
ア 引用例には、上記1(1)イで摘記したように「この考案のトイレットペーパーにおいては、このようにペーパーの最表部辺をはがしてみなくても、又は始めから最表部の最先端にあるノリづけされていない余白の部分を確認しなくても、トイレ等内でペーパホルダーにトイレットペーパーをそう入する際により簡単にトイレットペーパ?の上下の確認ができ得るように成したものである。図面について説明すると,この考案は第1図に示めすようにトイレットペーパーPの筒状の芯Sに一定の方向を示めした無数の印Mをつけたものである。」、「この考案のトイレットペーパーの筒状の芯Sの内側をのぞきこめば一目でトイレットペーパーの左右が判り、それ故に上下の確認がとれ、トイレ等内においてペーパーホルダーにそう入する際に簡単に上下の判別がつく。トイレットペーパーをこのように形成したことによりトイレ等内においてペーパーホルダーにトイレットペーパーをそう入する際の上下の判別をきわめて簡単になし得る」と記載されていることから、引用発明における「トイレットペーパ?」の「上下の判別」は、ペーパホルダーにトイレットペーパーをそう入する際に(すなわち、取り付ける際に)、トイレットペーパーの引き出し向きが容易に把握できることを意味するものといえる。
イ また、トイレットペーパーの引き出し向きは、トイレットペーパー(トイレットロール)の周方向の向きといえる。
ウ そうすると、引用発明の「トイレットペーパーの筒状の芯Sの内側をのぞきこめば一目でトイレットペーパーの左右が判り、それ故に上下の確認がとれ、トイレ等内においてペーパーホルダーにそう入する際に簡単に上下の判別ができ得るように」設けた「印M」は、トイレットペーパー(トイレットロール)の周方向の向きを判別できるもの(言い換えると、特定するもの)と解することができる。
(3)検討
ア 上記(1)と(2)から、引用発明の「印M」は、本願発明の「識別子」と、トイレットペーパー(トイレットロール)の周方向の向きを判別できる(特定する)点で共通するものであるといえる。すなわち、上記相違点は、実質的なものではないといえる。
イ また、引用発明の「印M」が、トイレットペーパーの左右が判るもの、すなわち左右方向の向きを特定するものであり、トイレットペーパー(トイレットロール)の周方向の向きを(直接的に)特定するものでないとしても、トイレットペーパー(トイレットロール)に、その周方向の向きを特定する印を設けることは、上記第3の2ないし4で示した周知例1ないし3に記載があるように(それぞれの摘記事項を参照。)、本願優先日前において周知の技術であり、また、引用発明の「印M」においても、トイレットペーパーをペーパーホルダーに取り付ける際にその判別がより容易にできるようにするとの課題が内在しているから、引用発明の「印M」を周方向の向きを(直接的に)特定する印とすることは、当業者が適宜になし得た程度の設計的事項であるといえる。
(4)効果について
本願発明の作用効果は、引用発明及び周知技術の作用効果からみて、当業者が予測し得る程度のものである。
(5)まとめ
以上のとおりであるから、引用発明において、本願発明の相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

2 請求人の主張について
(1)請求人は、
「引用文献1の開示においては、「トイレットペーパーの左右」と「上下」との関係性は不明であると言わざるを得ない。図1及び図2に示された態様では、「印」が図示左向きを指していることを判断することはできるが、これによってトイレットペーパーの巻回の向きがどちらであるのかを判断することはできない。従って、引用文献1が述べている「上下の判断がつく」とは、何に基づいた判断であるのかが不明である。「印」が示している向きとトイレットペーパーの巻回の向きとを関係づけるためには、別の因子が必要であると考えられるが、それは引用文献1には示されていない。
要するに、引用文献1に記載された発明は、発明の効果を奏する仕組みが十分に開示されておらず、また、当業者の技術常識によってもそれを理解することができず、従って、発明として未完成であるといえるのである。
未完成な発明を開示するに過ぎない引用文献1は、引用文献としての適格性を有しない。」(審判請求書の「(3-3-2)容易想到性について (i)引用文献1について」)
と主張している(「引用文献1」は、審決の「引用例」である。)。

しかしながら、請求人の主張は以下のとおり採用できない。
トイレットペーパーの「左右」と「上下」(すなわち、上記で説示したように「周方向」)との関係は、一義的に決まる関係にあり、「左右」が決まればと「上下」(「周方向」)が決まるので、トイレットペーパーの「左右」の向きを意識してホルダーに取り付ければ、使用者にとって望むとおりの「上下」(「周方向」)の向きとなることは、当業者(のみならず通常の社会生活をしている者)において自明である。
そして、トイレットペーパーの芯に設ける印Mについて、左右のどちらの向きを示すものであるかを、何らかの手段により使用者に知らせるようにすれば、トイレットペーパーをホルダーに適切な向きで(使用者にとって好みの向きで)取り付けできることは、明らかである。また、そのようなことは、当業者にとって容易に理解できることである。
引用例に記載された発明は、発明の効果を奏する仕組みが十分に開示されており、また、発明として未完成であるといえない。

(2)請求人は、
「審査官の上記見解は、明らかに、本願発明を把握した上での後知恵に基づいている。審査官は本願発明を意識しながら、引用文献1のトイレットロールの芯に設けられた「印」を「周方向を特定するように」構成したいと考えるあまりに、識別子がトイレットペーパー上に設けられた引用文献2?4を妥当な論理づけなく当てはめたに過ぎない。これは失当である。発明の容易想到性の判断においては、そうした後知恵は排除しなければならない。
後知恵でなく、引用文献2?4を参酌して得られる通常の発想に従えば、引用文献1のトイレットロールのトイレットペーパーの表面に、当該識別子を設けることになる。なぜなら、引用文献2?4に記載された発明ではいずれも、識別子といえるものがトイレットペーパーの表面に設けられているからである。引用文献2?4に記載された発明ではこの点が特徴点なのであるから、この特徴点を失わせることは通常は考えられない。
また、このとき、トイレットペーパーの表面に設けられている識別子を、その場所を変えて芯に設けようとするには、相応の動機づけ、必要性、必然性等が必要であるというべきところ、引用文献1?4にはこれらに関する何らの記載も示唆もない。また、どちらかといえば、識別子は芯に設けられるよりもトイレットペーパーに設けられるほうが目立つのであるから、引用文献2?4においてトイレットペーパー上に設けられた識別子に創発されてこれを芯に設けるように変更することは、不自然というべきであり、むしろ、避けるべきことである。
更に言えば、仮に、引用文献1に開示されている内容を信じるのであれば、引用文献1の芯の態様で既に「簡単に上下の判別がつく。」というのであるから、これ以上に引用文献2?4の技術を適用する必要はない。
以上によれば、当業者が引用文献2?4を参酌したとしても、引用文献1に記載された発明から本願発明が容易に導かれることはない。」(審判請求書の「(3-3-2)容易想到性について (ii)引用文献2?4に記載された発明を引用文献1に記載された発明に適用することについて」)
と主張している(「引用文献2?4」は、審決の「周知例1?3」である。)。

しかしながら、上記1(3)アで検討したように、引用発明の「印M」は、本願発明の「識別子」と、トイレットペーパー(トイレットロール)の周方向の向きを判別できる(特定する)点で共通するものであり、また、上記1(3)イで検討したように、引用発明の「印M」を周方向の向きを(直接的に)特定する印とすることは、当業者が適宜になし得た程度の設計的事項であるといえるので、請求人の主張は採用できない。
加えて言うと、周知例1ないし3に記載の技術(周知技術)は、トイレットペーパー(ペーパー自体)に印を設けたものであり、トイレットペーパーの芯に設けたものではないが、引用発明の芯に設けた「印M」において、引用発明と同じトイレットペーパーに関する上記周知技術(印を周方向の向きとすること)に知見を得て、周方向の向きを(直接的に)特定する印とすることは、当業者が容易に着想し得たことであるといえる。また、印(識別子)を付す際に、その目的や意味を理解し易いような印とすることは、当業者が当然に考慮することであり、実践されていたことである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-08 
結審通知日 2015-09-15 
審決日 2015-09-28 
出願番号 特願2014-239303(P2014-239303)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B65H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 湊 和也  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 小野 忠悦
住田 秀弘
発明の名称 トイレットロールの芯、及び、トイレットロール  

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