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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1327847
異議申立番号 異議2016-700779  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-26 
確定日 2017-03-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5870800号発明「化粧板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5870800号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲とおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第5870800号の請求項1、3、5に係る特許を維持する。 特許第5870800号の請求項2、4、6、7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許5870800号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成24年3月23日に特許出願され、平成28年1月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成28年8月26日に特許異議申立人関口みどり(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年10月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年12月19日(受付日)に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を、「本件訂正」という。)があり、本件訂正請求に対して、平成28年12月22日に訂正請求があった旨の通知をしたが、その指定期間内に、申立人から応答がなかったものである。

第2 本件訂正の適否についての判断

1.訂正の内容
本件訂正の内容は、以下の訂正事項1ないし7からなるもので、訂正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。

(1)訂正事項1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1について、以下の訂正事項1-1ないし1-4からなる訂正をする。

ア.訂正事項1-1
「金属基材上に、接着剤層及び化粧シートが順に積層された化粧板」とあるのを、「金属基材上に、ポリエステル系接着剤、アクリル系接着剤及びウレタン系接着剤の1種又は2種以上からなる接着剤層のみを介して化粧シートが積層された化粧板」と、訂正する。

イ.訂正事項1-2
「(4)前記化粧シートの・・・」の後に、改行して、「(5)前記化粧シートは、基材シート上に絵柄模様層、透明性樹脂層及びアクリレート樹脂を含む表面保護層を順に有し、前記基材シート及び前記透明性樹脂層が、ポリオレフィンを含有し、」を挿入する。

ウ.訂正事項1-3
上記訂正事項1-2に係る挿入後に、さらに改行して、「(6)前記接着剤層及び前記化粧シートは、難燃剤を含有せず、」を挿入する。

エ.訂正事項1-4
「(5)ISO5660-1に準拠する・・・」とあるのを、「(7)ISO5660-1に準拠する・・・」と、訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許の特許請求の範囲の請求項2、4、6及び7を削除する。

(3)訂正事項3
本件特許の特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載の」とあるのを、「請求項1に記載の」に訂正する。

(5)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれかに記載の」とあるのを、「請求項1又は3に記載の」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項

(1)訂正事項2について
まず、訂正事項2について検討する。訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、新規事項の追加しないものであり、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。

(2)訂正事項3及び4について
訂正事項3及び4は、請求項を削除する訂正に対応して、削除されない請求項のみを引用するように訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、新規事項の追加しないものであり、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。

(3)訂正事項1について

ア.訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、「接着剤層」を構成する接着剤を、「ポリエステル系接着剤、アクリル系接着剤及びウレタン系接着剤の1種又は2種以上からなる」ものに限定し、かつ、「金属基材」と「化粧シート」との間に「接着剤層」のみが介するものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件特許明細書の段落【0059】及び【0060】には、金属基材上に、接着剤層のみを介して化粧シートが積層されたものが記載されており、段落【0019】には、上記接着剤を使用できることが記載されているから、訂正事項1-1は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更するするものでもないことは明らかである。

イ.訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、「化粧シート」が、「基材シート上に絵柄模様層、透明性樹脂層及びアクリレート樹脂を含む表面保護層を順に有し、前記基材シート及び前記透明性樹脂層が、ポリオレフィンを含有」するものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件特許明細書の段落【0008】、【0025】、【0026】及び【0034】には、基材シート状に絵柄模様層、透明性樹脂層及び表面保護層の順位有し、基材シート及び透明性樹脂層がポリオレフィンを含有することが記載され、段落【0044】には、表面保護層の材料物質アクリレート樹脂が記載されているから、訂正事項1-2は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更するするものでもないことは明らかである。

ウ.訂正事項1-3について
訂正事項1-3は、「接着剤層」及び「化粧シート」のそれぞれが、「難燃剤」を含有しないものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、本件特許明細書の段落【0008】並びに実施例1ないし9には、難燃剤を含有しない接着剤層及び化粧シートが記載されているから、訂正事項1-3は、新規事項追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更するするものでもないことは明らかである。

エ.訂正事項1-4について
訂正事項1-4は、訂正事項1-2及び1-3に係る訂正事項の挿入に伴って、訂正前の構成要件「(5)ISO5660-1に準拠する・・・」の項番「(5)」を「(7)」に繰り下げるものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当する。そして、新規事項追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更するするものでもないことは明らかである。

(4)一群の請求項について
本件訂正は、本件訂正前の請求項1と、請求項1を引用する請求項2ないし7を対象とするものであるから、一群の請求項について訂正を求めるものである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号あるいは第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1-7〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1.本件訂正発明1、3及び5
本件訂正請求により訂正された請求項1、3、5に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3、5にそれぞれ記載された以下の事項により特定されるとおりのものであると認める。

「【請求項1】
金属基材上に、ポリエステル系接着剤、アクリル系接着剤及びウレタン系接着剤の1種又は2種以上からなる接着剤層のみを介して化粧シートが積層された化粧板であって、
(1)前記金属基材の厚みが1.5?50mmであり、
(2)前記接着剤層の厚みが80μm以下であり、
(3)前記化粧シートの厚みが40?150μmであり、
(4)前記化粧シートの重ね押さえ部分の幅が0?12mmであり、
(5)前記化粧シートは、基材シート上に絵柄模様層、透明性樹脂層及びアクリレート樹脂を含む表面保護層を順に有し、前記基材シート及び前記透明性樹脂層が、ポリオレフィンを含有し、
(6)前記接着剤層及び前記化粧シートは、難燃剤を含有せず、
(7)ISO5660-1に準拠する発熱性試験にて不燃認定取得可能要件を満たす、
ことを特徴とする、化粧板。
【請求項3】
前記金属基材がアルミニウムを含む、請求項1に記載の化粧板。
【請求項5】
前記接着剤層を形成する接着剤が、ポリエステル系接着剤層である、請求項1又は3に記載の化粧板。」

2.取消理由の概要
当審が平成28年10月13日付で通知した取消理由は、以下の【理由1】ないし【理由4】のとおりである。なお、当該通知によって、特許異議申立理由のすべてが通知された。また、以下、本件特許の請求項各項に記載された発明を、本件特許発明1等という。
さらに、申立人は、以下の書証を提出した。(以下、甲第●号証を、「甲●」といい、「甲●」に記載された発明あるいは事項を、それぞれ、「甲●発明」あるいは「甲●事項」という。)
・甲1:特開2009-83269号公報
・甲2:特開2012-56146号公報
・甲3:特開2008-62452号公報
・甲4:特開2009-226724号公報
・甲5:「PROEX タカショープロガーデンエクステリア総合カタログ」、株式会社タカショー、2011?2012年上期、254ないし257、294及び295ページ
・甲6:「本件特許発明の実施例から作成したグラフ」

【理由1】(特許法29条第1項第3号)
本件特許発明1、2、4、6及び7は、甲1発明であるから、理由1により、その特許を取り消すべきである。

【理由2】(特許法第29条第2項)
本件特許発明1ないし7は、甲1発明あるいは甲2発明と、甲1ないし5事項を組み合わせることで、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、理由2により、その特許を取り消すべきである。

【理由3】(特許法第36条第6項第1号)
(1)本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された化粧シート、接着剤層、金属基材、絵柄模様層、透明性樹脂層について、各請求項には材料物質が全く記載されていない。よって、当業者は、材料物質の特定がない本件特許1ないし7のそれぞれが、本件特許発明の課題を解決できると認識することができない。
よって、本件特許発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(2)本件特許のすべての請求項に係る発明は、「化粧シート」あるいは「接着剤層」のいずれかに難燃剤を含有するものを、包含し得るものであると解される。
しかし、本件特許明細書の段落【0066】【表1】を見ると、「化粧シート」に難燃剤添加の「比較例5」、及び「接着剤」に難燃剤添加の「比較例6」は、いずれも、本件特許発明の課題を解決しないものである。
よって、「化粧シート」や「接着剤層」に難燃剤を含有する本件特許の請求項1ないし7にそれぞれ係る発明が、本件特許発明の課題を解決できると認識することができないから、これら発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲に記載されたものではない。

【理由4】(特許法第36条第2項)
(1)本件特許の請求項1には、「(5)ISO5660-1に準拠する発熱性試験にて不燃認定取得可能要件を満たす、」との記載があるが、化粧シートを構成する樹脂層や接着剤層の順番、材料物質等を規定することで、発明を明確に記載することが可能であるにもかかわらず、複雑な特性パラメーターによる規定を行っているから、当該記載は明確ではない。また、請求項1を引用する請求項2ないし7の記載も明確ではない。

(2)本件特許の請求項6及び7は、それぞれ「接着剤層」及び「化粧シート」が「難燃剤を含有しない」ことが記載されている。しかし、「難燃剤を含有しない」との記載では、難燃剤としても用いられる物質が、他の用途、例えば「受酸剤」として含有することを許容するのか否かが明確ではない。

第4 当審の判断
事案に鑑み、理由1ないし4のうち、特許法第36条の理由である理由3及び4について、まず、検討する。

1. 理由3について

(1)材料物質が特定されていない点について
本件訂正発明1と、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明3及び5には、本件訂正によって、「接着剤層」、「基材シート」、「透明樹脂層」及び「表面保護層」のそれぞれについて、以下のとおり、材料物質が特定されている。
・「接着剤層」が、ポリエステル系接着剤、アクリル系接着剤及びウレタン系接着剤の1種又は2種以上からなること、
・「基材シート」及び「透明樹脂層」が、ポリオレフィンを含有すること、
・「表面保護層」が、アクリレート樹脂を含むこと、
そして、本件特許明細書記載の実施例1ないし9(段落【0059】及び【0060】)をみると、「基材シート」及び「透明樹脂層」として、ポリプロピレン樹脂、「表面保護層」として、アクリレート樹脂であるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、及び、「接着剤層」として、ポリエステル系樹脂を用いたものが記載されているから、本件訂正に係る上記事項は、いずれも本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえる。

次に、「金属基材」及び「絵柄模様層」について検討する。
本件訂正発明1の「金属基材」及び「絵柄模様層」は、「化粧板」を構成する一部として用いた場合に、「(7)ISO5660-1に準拠する発熱性試験にて不燃認定取得可能要件を満たす」ものに限定されると解される。そして、そのようなものの例として、本件明細書の段落【0015】及び【0059】には、「金属基材」として、アルミニウムを用いるものが記載されている。同段落【0019】及び【0059】には、「接着剤層」を形成する接着剤としてポリエステル系接着剤を用いることが記載されている。したがって、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項3及び5にそれぞれ記載された発明も、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

(2)難燃剤を含有するものも含まれ得る点について
本件訂正によって、本件訂正発明1、3及び5は、「(6)前記接着剤層及び前記化粧シートは、難燃剤を含有せず」となった。したがって、理由3は本件訂正によって解消した。

(3)小括
上記(1)及び(2)に示したとおりであるから、理由3によって、本件訂正発明1、3及び5に、それぞれ係る特許を取り消すことはできない。

2. 理由4について

(1)本件特許の請求項1の「(5)ISO5660-1に準拠する発熱性試験にて不燃認定取得可能要件を満たす、」との記載について。
ISO5660-1は、国際標準化機構による発熱性試験に関する国際標準規格であるから「ISO5660-1に準拠する発熱性試験」自体は明確である。さらに、「不燃認定取得可能要件」については、本件特許明細書段落【0010】に、「(i)?(iii)の要件」として記載されているから、明確ではないということはできない。
そうすると、上記記載によって、本件訂正後の請求項1の記載が、不明確なものであるということはできない。

(2)本件特許の請求項6及び7の、「難燃剤を含有しない」との記載について
上記第2において示した本件訂正の訂正事項6及び7により、本件特許の請求項6及び7は、本件訂正により削除された。しかし、同訂正事項1-3により、本件訂正後の請求項1には、「前記接着剤層及び前記化粧シートは、難燃剤を含有せず、」との事項が追加されたから、当該追加によって本件訂正発明1が不明確となったか否か検討する。
本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0002】
・・・化粧板は、日本の建築基準法第2条第9号では、ISO5660-1に準拠する発熱性試験にて不燃認定取得可能要件を満たすこと、即ち、・・・
【0003】
上記要件を満たすための化粧シートとして、引用文献1には有機臭素系の難燃剤をポリオレフィン系樹脂層に添加することにより自己消火性をもたせた、難燃性化粧シートが記載されている。また、上記要件を満たすための別の化粧シートとして、引用文献2には水酸化アルミニウムなどの難燃剤を、アクリル系粘着基剤を含む接着剤層に含有する化粧シートが記載されている。
【0004】
しかしながら、有機臭素系難燃剤を含む化粧シート(ひいては化粧板)は、製造、加工等が困難であり、耐候性が低下するという問題がある。また、水酸化アルミニウムなどの難燃剤を含む化粧シートを有する化粧板は、化粧シートと金属基材の接着強度が低いという問題がある。一方、難燃剤を添加しない化粧シートを貼り合わせた化粧板は、上記不燃認定取得可能要件を満たすことが困難である。」
「【0061】
比較例5
≪化粧シートの作製≫
60μm厚さのポリプロピレン樹脂中に、樹脂成分100質量部に対して60質量部となるように有機臭素系難燃剤(商品名「フレームカット110R」東ソー株式会社製)を添加して、これを基材シートとする以外は、実施例1?5及び比較例1?3と同様にして、化粧シートを作製した。」
【0062】
比較例6
・・・
≪化粧板の作製≫
ポリエステル系接着剤中に、当該接着剤100質量部に対して30質量部となるように、水酸化アルミニウム含有難燃剤(商品名「マルチナル」アルベマール日本株式会社製)を添加して、これを接着剤とする以外は、実施例1?5及び比較例1?3と同様にして、化粧板を作製した。」

これらの記載から、本件訂正発明1における「難燃剤」とは、「有機臭素系難燃剤」及び「水酸化アルミニウム」で例示される「難燃剤」を意味しており、また、本件訂正発明1における「前記接着剤及び前記化粧シートは、難燃剤を含有せず」とは、その文言どおり、前記「難燃剤」を、「前記接着剤及び前記化粧シート」が含んでいないことを規定するものであることは明らかである。

したがって、本件訂正発明1は、「前記接着剤及び前記化粧シートは、難燃剤を含有せず」との事項が追加されたことによって、不明確になったとはいえない。

なお、「難燃剤」及び「他の用途(例えば「受酸剤」)の剤」のどちらの剤としても機能し得る「剤」は、難燃剤としての機能を有する剤である以上、本件訂正発明1における「難燃剤」に該当することは、明白である。

(3)小括
上記(1)及び(2)に示したとおりであるから、本件訂正発明1に係る特許を、理由4によって取り消すことはできない。

3. 理由1について

ア. 甲1発明
甲1には、段落【請求項1】、【請求項3】ないし【請求項5】、【0010】、【0011】、【0048】、【0050】、【0066】ないし【0068】の記載があり、以下の甲1発明が記載されている。

「無機基板2の表面上に無機シーラー層が積層され、該無機シーラー層の上に接着剤層4及び化粧シート5が順に積層された不燃化粧板1であって、
前記無機基板2の厚みが2?15mmであり、、
前記接着剤層4の接着剤の分量が20?30g/m^(2)であり、
前記化粧シート5の厚みが40?140μmであり、
前記無機基板2の側面及び裏面の端部まで前記化粧シート5が巻き込まれてなり、
建築基準法第68条の26第1項の規定に基づき、同法第2条第9号及び同法施行令第108条の2第1?3号の規定に適する、
不燃化化粧板1」

イ. 対比・判断
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、以下の点で少なくとも相違する。
<相違点>
本件訂正発明1は、「金属基材」の上に「化粧シート」を積層するにあたり、「ポリエステル系接着剤、アクリル系接着剤及びウレタン系接着剤の1種又は2種以上からなる接着剤層のみ」を介するものであるのに対し、甲1発明は、「無機基板2」の表面上に「化粧シート5」を積層するにあたり、「接着剤層4」に加え、「無機シーラー層」をも介するようにした点。

ウ. 判断
上記相違点によって、甲1発明は、「無機基板の表面上に無機シーラー層が積層され、該無機シーラー層の上に接着剤層と化粧シートとが順に積層されたことで、「無機シーラーの塗布量や無機基板の表面状態に関係なく無機シーラー層と化粧シートとの密着性に優れた不燃化粧板を提供することができる」(甲1、段落【0008】)との効果を発揮し、甲1発明において「無機シーラー層」は必須の事項であるから、当該相違点は実質的な相違点である。
よって、本件訂正発明1は、甲1発明と同一であるとはいえず、本件訂正発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当しない。
また、本件訂正発明したがって、本件訂正発明1に係る特許は、上記理由1によって、取り消すことはできない。

4. 理由2について

(1) 甲1発明を主とする理由1
甲1には、上記3.ア.に示した甲1発明が記載され、同イ.に示した点で、少なくとも相違する。
そして、甲1発明は、「接着剤層4」に加え、「無機シーラー層」をも介することで、上記2.ウ.記載の効果を発揮するから、甲1発明において、「無機シーラー層」を設けずに、「接着剤層4」のみとすることの動機付けに欠けるといえる。そして、「無機シーラー層」を設けずに接着剤層4のみとすることを阻害する事由が存在するともいえる。
よって、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲1ないし5事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件訂正発明3及び5は、本件訂正発明1を引用する請求項であって、本件訂正発明1の特定事項すべてを包含し、さらに技術的に限定されたものであるから、本件訂正発明3及び5も、甲1発明及び甲1ないし5事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 甲2発明を主とする理由2

ア. 甲2発明
甲2には、段落【請求項1】、【請求項6】、【0012】、【0031】、【0032】、【0049】、【0052】、【0053】、【0054】、【0055】、【0061】及び【0062】の記載があり、以下の甲2発明が記載されている。

「鋼板上に、接着剤及び不燃性化粧シートが順に積層された不燃性化粧鋼板であって、
不燃性化粧シートは、基材上に接着層、アクリル樹脂層、及びフッ素樹脂層をこの順に有し、該アクリル樹脂層がアクリルゴム及びアクリル樹脂を含み、該アクリルゴムと該アクリル樹脂との質量比が20:80?85:15であり、
前記接着層の接着剤の塗布量が30?300g/m^(2)であり、
前記不燃性化粧シートの総厚が200μm以下であり、
ISO5660-1の規定に基づき、不燃材料の規定に適合する、
不燃性化粧鋼板」

イ. 対比・判断
本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると、以下の点で少なくとも相違する。

<相違点>
本件訂正発明1の「化粧シート」は、「基材シート上に絵柄模様層、透明性樹脂層及びアクリレート樹脂を含む表面保護層を順に有し、前記基材シート及び前記透明性樹脂層が、ポリオレフィンを含有」するものであるのに対し、甲2発明の「不燃性化粧シート」は、「基材」や、その上に積層される「接着層」、「アクリル樹脂層」及び「フッ素樹脂層」が、「ポリオレフィン」を含有するものであるか、明らかではない点。

他の甲号証には、本件訂正発明1の構成要件(1)ないし(4)、(6)をすべて備えた化粧シートが、さらに、上記相違点に係る構成を備えたものは記載されていない。
そして、本件特許明細書には、「基材シートは、ポリオレフィンを含有することが好ましい。」(段落【0026】)との記載、及び、「透明樹脂層は、透明性の樹脂層であれば特に限定されず、例えば、・・・。上記の中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。」との記載がある。
そうすると、本件訂正発明1は、不燃認定取得可能要件を満たしつつも、接着強度及び耐候性に優れた化粧板が提供することを課題とするものであるが、当該相違点に係る構成を備えることで、これらの課題を解決するものである。
以上のとおりであるから、甲2発明において、上記相違点に係る構成を備えたものとすることは、甲2発明及び甲1ないし5事項を組み合わせることで、当業者が容易になし得たものであるとすることはできない。

また、本件訂正発明3及び5は、本件訂正発明1を引用する請求項であって、本件訂正発明1の特定事項すべてを包含し、さらに限定が付されたものであるから、本件訂正発明3及び5も、甲1発明及び甲1ないし5事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 小括
上記(1)及び(2)に示したとおり、本件訂正発明1、3及び5のそれぞれは、甲1発明あるいは甲2発明と、甲1ないし5事項を組み合わせることで、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第
29条第2項の規定に該当するとはいえない。
したがって、本件訂正発明1,3及び5は、上記理由2によって取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1、3及び5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項2、4、6及び7に係る特許は、本件訂正により削除された。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材上に、ポリエステル系接着剤、アクリル系接着剤及びウレタン系接着剤の1種又は2種以上からなる接着剤層のみを介して化粧シートが積層された化粧板であって、
(1)前記金属基材の厚みが1.5?50mmであり、
(2)前記接着剤層の厚みが80μm以下であり、
(3)前記化粧シートの厚みが40?150μmであり、
(4)前記化粧シートの重ね押さえ部分の幅が0?12mmであり、
(5)前記化粧シートは、基材シート上に絵柄模様層、透明性樹脂層及びアクリレート樹脂を含む表面保護層を順に有し、前記基材シート及び前記透明性樹脂層が、ポリオレフィンを含有し、
(6)前記接着剤層及び前記化粧シートは、難燃剤を含有せず、
(7)ISO5660-1に準拠する発熱性試験にて不燃認定取得可能要件を満たす、ことを特徴とする、化粧板。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記金属基材がアルミニウムを含む、請求項1に記載の化粧板。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記接着剤層を形成する接着剤が、ポリエステル系接着剤である、請求項1又は3に記載の化粧板。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-08 
出願番号 特願2012-68166(P2012-68166)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 536- YAA (B32B)
P 1 651・ 113- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岸 進  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 久保 克彦
井上 茂夫
登録日 2016-01-22 
登録番号 特許第5870800号(P5870800)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 化粧板  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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