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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 D06N |
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管理番号 | 1327866 |
異議申立番号 | 異議2016-700717 |
総通号数 | 210 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-06-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-08-10 |
確定日 | 2017-04-04 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5860737号発明「伸縮性人工皮革」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5860737号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第5860737号の請求項1?4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5860737号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成24年3月15日に特許出願され、平成27年12月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求項1?4に係る特許について、特許異議申立人久門享(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年10月6日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成28年12月12日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、それに対して申立人から本件訂正請求についての意見書は提出されなかったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「伸縮性を有する人工皮革において、JIS L 1096(1999)8.14.1 A法に記載された方法で測定されるタテ方向の強力伸度曲線で、」とあるのを、 「伸縮性を有する人工皮革において、JIS L 1096(1999)8.14.1 A法に記載された方法で測定され、試験片の幅を2.5cm、つかみ間隔を20cmとして測定されるタテ方向の強力伸度曲線で、」に訂正する(下線は、訂正箇所。)。 2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正前の請求項1は、試験片の幅及びつかみ間隔について特定されていなかったものを、訂正事項1は、「伸縮性を有する人工皮革において、JIS L 1096(1999)8.14.1 A法に記載された方法で測定され、試験片の幅を2.5cm、つかみ間隔を20cmとして測定されるタテ方向の強力伸度曲線で、」と試験片の幅及びつかみ間隔について特定するものであるから、訂正事項1の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項1に関連する記載として、願書に添付した本件特許明細書の段落【0077】に「(3)強力伸度曲線 JIS L 1096(1999)8.14.1 A法記載された方法で測定した。幅2.5cmの試験片をつかみ間隔20cmのチャックに固定し、一定速度で試験片を引っ張り、伸度と強力を求めた。その結果から、横軸が伸度(%)、縦軸が試験片2.5cm幅あたりの強力(N/2.5cm)である強力伸度曲線を作成した。」と記載されており、訂正事項1の訂正は、願書に添付した本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。 そして、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 (2)一群の請求項について そして、本件訂正は、請求項1と、請求項1を直接あるいは間接に引用する全ての請求項である請求項2?4を対象とするものであるから、上記訂正事項1に係る訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。 3.小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1?本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。 「【請求項1】 伸縮性を有する人工皮革において、JIS L 1096(1999)8.14.1 A法に記載された方法で測定され、試験片の幅を2.5cm、つかみ間隔を20cmとして測定されるタテ方向の強力伸度曲線で、下記(1)、(2)及び(5)の条件を具備する伸縮性人工皮革。 (1)伸度5%における強力F_(5%)が0.1?20N/2.5cmである。 (2)伸度20%における強力F_(20%)と上記F_(5%)の関係において、F_(20%)/F_(5%)が8以上である。 (5)F_(20%)が50?190N/2.5cmである。 【請求項2】 下記(3)の条件を更に具備する、請求項1に記載の伸縮性人工皮革。 (3)伸度5%における曲線の接線の傾きS_(5%)と伸度20%における曲線の接線の傾きS_(20%)との傾きにおいて、S_(20%)/S_(5%)が1.2以上である。 【請求項3】 下記(4)の条件を更に具備する、請求項1又は2に記載の伸縮性人工皮革。 (4)伸度0?5%までの曲線の接線の傾き最大値S_(0)?_(5%)maxが、8以下である。 【請求項4】 下記(6)の条件を更に具備する、請求項1?3のいずれかに記載の伸縮性人工皮革。 (6)伸度10%における強力F_(10%)が5?60N/2.5cmである。」 第4 取消理由の概要 訂正前の請求項1?4に係る特許に対して、特許権者に通知した平成28年10月6日付けの取消理由の概要は以下のとおりである。以下の取消理由は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由を全て含むものである。 1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。 2)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 甲第1号証:特許第3727181号公報 甲第2号証:特許第4048160号公報 甲第3号証:特許第4266630号公報 甲第4号証:特許第3187357号公報 (理由1)及び(理由2) ・請求項1に係る発明について 本件特許請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、又は甲第3号証に記載された発明である。 また、本件特許請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、あるいは甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ・請求項2?4に係る発明について 本件特許請求項2?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、又は甲第3号証に記載された発明である。 また、本件特許請求項2?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、あるいは甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 甲号証の記載、甲号証記載の発明 1.甲第1号証 甲第1号証には、以下の記載がある。 (1-1) 「【請求項1】 単繊度が0.01?0.5デニールの極細連続フィラメントからなる不織布の製造方法において、95℃の温水における熱収縮率が5%以上異なる少なくとも2種の極細連続フィラメントからなる極細連続フィラメントの集束体を含み、且つ絡合処理を施された見掛け密度が0.20?0.42g/cm^(3)のウェッブに、リラックス状態で60℃?90℃の温水中および/または80?120℃の乾熱で、少なくとも20秒以上収縮処理して、該集束体の集束形態を破壊し、該ウェッブを面積収縮率で5?50%収縮させ、下記要件(a)を満足させることを特徴とする人工皮革用不織布の製造方法。 (a)不織布の見掛け密度が0.25?0.45g/cm^(3)であること。」 (1-2) 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、人工皮革用の不織布に関する。さらに詳しくは、本発明は折り曲げ皺が発生しない銀付き調の人工皮革を与える均一で緻密な構造を有する不織布素材の製造方法に関する。」 (1-3) 「【0008】 【発明が解決しようとする課題】 したがって、本発明の課題は、極細FYを用いた不織布において、特に銀付き調の人工皮革とした場合に折り曲げ皺のない人工皮革用不織布の製造方法を提供することにある。」 (1-4) 「【0069】 (2)引張応力、引張強力および破断伸度:JIS L-1096法に準じ、幅5cm、長さ15cmの試料片をつかみ間隔10cmで把持し、定速伸長型引張試験機を用いて引張速度30cm/分で伸長し、5%と20%伸長時の応力を引張応力、切断時の荷重値および伸長率をそれぞれ引張強力、破断伸度とする。」 (1-5) 「【0074】 (7)伸び止め感:20%引張り応力を、5%引張り応力で割った場合の比が大きいものほど良く、経方向の該引張り応力の比と横方向の該引張り応力の比との平均値が6以上のものが良い。」 (1-6) 「【0088】 [実施例4] (人工皮革-1の作成) 実施例1で作成した不織布-1にジフェニルメタンジイソシアネート、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリブチレンアジペートジオール、およびトリメチレングリコールから合成された100%伸長応力110kg/cm^(3)のポリウレタンの16%メチルエチルケトンスラリー液100部に水を35部分散させたW/O型エマルジョンを含浸させ、表面の余分なエマルジョン液を掻き落として温度45℃、相対湿度70%の雰囲気中で凝固させた後、乾燥して人工皮革-1を得た。 【0089】 [実施例5] (人工皮革-2の作成) 不織布を実施例2で作成した不織布-2に変えた以外は、実施例4と同様な操作を繰り返し、人工皮革-2を得た。 【0090】 [実施例6] (人工皮革-3の作成) 実施例3で作成した不織布-3に、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレンアジペートジオール、およびエチレングリコールから合成された100%伸長応力105kg/cm^(3)ポリウレタンの10%ジメチルホルムアミド溶液を含浸させ、表面の余分な溶液を掻き落として水中にて浸漬凝固させた後、洗浄、乾燥して人工皮革-3を得た。」 (1-7) 「【0093】 【表2】 【0094】 以下、表2の結果について考察する。本発明の実施例4?6は、すべての要件を満足しており、得られた人工皮革の断面は、緻密で均一な構造であった。また均一で緻密な構造を有するため、5%応力に比べ20%応力が非常に大きく、伸び止め感をも有するものであった。比較例1は、見掛け密度および空隙の平均面積は満足しているものの、部分的に400μm^(2)を越える大きな空隙があり、緻密ではあるが均一な構造ではなかった。比較例3は、高温の乾熱で収縮処理したため、見掛け密度は満足しているものの、フィラメントの集束形態の破壊が十分に進行せず、400μm^(2)以上の大きな空隙が多数存在し、均一で緻密な構造のものではなかった。比較例2および4は、収縮処理が十分に施されてなく、得られた不織布の断面には、1000μm^(2)を越える極めて大きな空隙があり、均一で緻密な構造のものではなかった。特に構造が粗密な比較例6は、20%応力が低く、引張った際に伸び易く、伸び止め感を有するものではなかった。」 甲第1号証の上記(1-1)?(1-7)の記載事項から、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「折り曲げ皺が発生しない人工皮革用不織布において、JIS L-1096法に準じて測定され、試験片の幅を5cm、つかみ間隔を10cmとして引張速度30cm/分で伸長し測定された、縦5%応力が、それぞれ、0.48kg/cm(11.8N/2.5cm実施例4)、0.48kg/cm(11.8N/2.5cm実施例5)、0.47kg/cm(11.5N/2.5cm実施例6)であり、縦20%応力が、それぞれ、4.3kg/cm(105.4N/2.5cm実施例4)、4.2kg/cm(102.9N/2.5cm実施例5)、4.0kg/cm(98.0N/2.5cm実施例6)であり、縦20%応力/縦5%応力が、それぞれ、8.93(実施例4)、8.72(実施例5)、8.52(実施例6)である、人工皮革用不織布。」 2.甲第2号証 甲第2号証には、以下の記載がある。 (2-1) 「【請求項1】 極細繊維を含む基体上に表皮層が存在するシート状物であって、表皮層内には基体を構成する極細繊維が繊維束状態で侵入し、表皮層を構成する高分子弾性体が該繊維束の外周を包囲しているが、繊維束の内部には高分子弾性体が存在していないことを特徴とする皮革様シート状物。」 (2-2) 「【0001】 本発明は、皮革様シート状物およびその製造方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、高品位外観を有しながら突っ張り感がないソフトな皮革様シート状物であり、天然皮革に類似した表面のあまり感と、折り曲げ時の小皺外観を有する皮革様シート状物およびその製造方法に関するものである。」 (2-3) 「【0006】 本発明の目的は、これら従来の皮革様シート状物では持ち得なかった高品位外観を有しながら表面の突っ張り感がないソフトな皮革様シート状物であり、天然皮革に類似した表面のあまり感と、折り曲げ時の小皺外観を有する皮革様シート状物およびその製造方法を提供することである。」 (2-4) 「【0010】 本発明によれば、天然皮革に類似した表面のあまり感と、折り曲げ時の小皺外観を有する皮革様シート状物であり、かつ、そのような高品位外観を有しながら表面の突っ張り感がないソフトな皮革様シート状物およびその製造方法を提供する。」 (2-5) 「【0055】 (6)5%伸長応力(σ5)/20%伸長応力(σ20)/引張強力/伸び 皮革様シート状物から採取したテストピースを、恒速伸長試験器で伸長試験し5%、20%伸長時と破断時の荷重の値で示す。また、破断時の伸びも測定する。テストピースはJIS-K-6550 5-2-1に準拠する。」 (2-6) 「【0110】 [実施例7] 実施例5と同じ、ナイロン-6と低密度ポリエチレンとの海島型の複合繊維を用い、目付けを高くし、ニードルパンチングを1400本/cm^(2)に変更した以外は同様にして、目付け870g/m^(2)、厚さ2.8mm、見かけ密度0.31g/cm^(3)の不織布(シート)を得た。」 (2-7) 「【0115】 得られたシート状物はその厚みに比して縦横斜めのどの方向にも伸びにくく、低応力で変形しやすいが、少し伸びると伸びの止まるソフトな天然皮革特有の特徴がみられた。物性を表3に併せて示す。 【0116】 [実施例8] 実施例6と同様の加工を行い繊維が極細化された皮革様シート状物を得た。 さらに得られた皮革様シート状物の表面を立毛化処理しスウェード調とする替わりに、銀面調とするために高分子弾性体層を表面に付与した。」 (2-8) 「【0120】 また、この皮革様シート状物は、挫屈感が良好であり、持った時に高級で柔らかな天然皮革に類似した非常に柔らかで低反発な素材であった。物性を表3に併せて示す。 【0121】 【表3】 」 甲第2号証の上記(2-1)?(2-8)の記載事項から、甲第2号証には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。 「皮革様シート状物において、JIS-K-6550 5-2-1に準拠するテストピースを恒速伸長試験器で伸長試験した、縦5%伸長応力が、それぞれ、2.7N/cm(6.75N/2.5cm実施例7)、3.5N/cm(8.75N/2.5cm実施例8)であり、縦20%伸長応力が、それぞれ、21.7N/cm(54.25N/2.5cm実施例7)、29.4N/cm(73.5N/2.5cm実施例8)であり、縦20%伸長応力/縦5%伸長応力が、それぞれ、8.0(実施例7)、8.4(実施例8)である、皮革様シート状物。」 3.甲第3号証 甲第3号証には、以下の記載がある。 (3-1) 「【請求項1】 溶剤溶解性の異なる2つ以上の成分からなる極細繊維形成性の海島繊維からなり、不織布であるシート上に、中心部に未含浸層が発生するように高分子弾性体溶液を両方の表面からそれぞれ120?300μm塗布し凝固させ含浸層とし、次いで海島繊維の海成分を溶解する溶剤を用いて繊維の海成分を除去し、その後未含浸層部分でスライスして2分割することを特徴とする皮革様シート状物の製造方法。」 (3-2) 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、皮革様シート状物およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは伸び止め感が強いにもかかわらず、ソフトでかつ低反発である天然皮革の物性に類似した人工の皮革様シート状物およびその製造方法に関するものである。」 (3-3) 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、これら従来の皮革様シート状物では持ち得なかった伸び止め感が強いにもかかわらず、ソフトでかつ低反発である天然皮革の物性に類似した人工の皮革様シート状物の製造方法を提供することである。」 (3-4) 「【0049】 (5)σ5/σ20/引張強力/伸び 皮革様シート状物から採取したテストピースを、恒速伸長試験器で伸長試験し5%、20%伸長時と破断時の荷重の値で示す。また、破断時の伸びも測定する。テストピースはJIS-K-6550 5-2-1に準拠する。」 (3-5) 「【0072】 [実施例1] 参考例1と同じく、ナイロン-6と低密度ポリエチレンとが50/50である繊度9.0dtexの海島型の複合繊維を用い、目付けを高くし、ニードルパンチングを1400本/cm^(2)に変更した以外は同様にして、目付け870g/m^(2)、厚さ2.8mm、見かけ密度0.31/cm^(3)の不織布を得た。」 (3-6) 「【0077】 得られたシート状物は縦横斜めのどの方向にも伸びにくく、折り曲げ方向の柔らかな素材の特徴がみられた。また、低応力で変形しやすいが、少し伸びると伸びの止まるソフトな天然皮革特有の特徴がみられた。さらに折り曲げ回復率が4%とほとんど反発力が無い値となった。このシート状物は、持った時に高級で柔らかな天然皮革に類似した非常に柔らかで低反発なシート状物であった。物性を表1に併せて示す。」 (3-7) 「【0100】 【表1】 」 甲第3号証の上記(3-1)?(3-7)の記載事項から、甲第3号証には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。 「皮革様シート状物において、JIS-K-6550 5-2-1に準拠するテストピースを恒速伸長試験器で伸長試験した、縦5%伸長応力が、2.7N/cm(6.75N/2.5cm実施例1)、縦20%伸長応力が、21.7N/cm(54.25N/2.5cm実施例1)であり、縦20%伸長応力/縦5%伸長応力が、8.0(実施例1)である、皮革様シート状物。」 4.甲第4号証 甲第4号証には、以下の記載がある。 「【0014】・・・更に、本発明の皮革様シート状物は、皮革様シート状物のタテおよびヨコの20%伸長荷重(σ20)/5%伸長荷重(σ5)の比が、5以上20以下であることが必要である。この比が5未満の場合、柔軟性に欠け、伸び易い性質を有するようになり、上限は、高ければ高い程良いが、現技術レベルにおいては20を越えることは困難である。この特定の範囲内とすることにより、得られた皮革様シート状物は、風合いが柔らかく、かつ、大きな変形力が加わった場合においても伸びすぎず、一定の伸び止め感を有するものとなる。」 第6 判断 1.本件発明1について (1)理由1(新規性)について 本件発明1と甲1発明と対比する。 甲1発明の「縦5%応力」及び「縦20%応力」は、「JIS L-1096法に準じて測定され、試験片の幅を5cm、つかみ間隔を10cmとして引張速度30cm/分で伸長し測定された」ものである。 これに対して、本件発明1の「伸度5%における強力F_(5%)」及び「伸度20%における強力F_(20%)」は、「JIS L 1096(1999)8.14.1 A法に記載された方法で測定され、試験片の幅を2.5cm、つかみ間隔を20cmとして測定され」たものである。その「JIS L 1096(1999)8.14.1 A法」には、引張速度に関して、「1分間当たりつかみ間隔の100%の引張速度」と規定されてされているから、本件発明1において、強力の測定方法の引張速度は、20cm/分である。 そうすると、甲1発明の「縦5%応力」及び「縦20%応力」を測定する測定方法と、本件発明1の「伸度5%における強力F_(5%)」及び「伸度20%における強力F_(20%)」を測定する測定方法とは、試験片の幅、つかみ間隔、引張速度において異なる。 そして、試験片の幅、つかみ間隔、引張速度が異なると、試験片において変形される部分の形状や、引張りによる繊維自体の伸長や繊維同士の摩擦などにより総合的に生じる試験片の引張り応力が大きく相違し、測定の結果が違ってくることは、当業者にとって、明らかである。 したがって、甲1発明の「縦5%応力」、「縦20%応力」は、それぞれ、本件発明1の「伸度5%における強力F_(5%)」、「伸度20%における強力F_(20%)」に相当するとはいえないから、本件発明1は、甲1発明ではない。 本件発明1と甲2発明と対比する。 甲2発明の「縦5%伸長応力」及び「縦20%伸長応力」は、「JIS-K-6550 5-2-1に準拠するテストピースを恒速伸長試験器で伸長試験した」ものである。「JIS-K-6550 5-2-1に準拠するテストピース」は、当該JISによれば、ダンベル状のテストピースである。 これに対して、本件発明1の「伸度5%における強力F_(5%)」及び「伸度20%における強力F_(20%)」は、「JIS L 1096(1999)8.14.1 A法に記載された方法で測定され、試験片の幅を2.5cm、つかみ間隔を20cmとして測定され」たものである。当該JISによれば、試験片は、幅2.5cmの短冊状である。そうすると、甲2発明の「縦5%伸長応力」及び「縦20%伸長応力」を測定する測定方法に用いるダンベル状のテストピースと、本件発明1の「伸度5%における強力F_(5%)」及び「伸度20%における強力F_(20%)」を測定する測定方法に用いる短冊状の試験片とは、試験片(テストピース)の形状が異なる。 そして、このような試験片の形状の相違によって、短冊状のものは、引張られる箇所の幅が全て均一の大きさであるのに対して、ダンベル状では、引っ張られる部分の中央部では均一であるものの、つかみ箇所の付近に向けて幅が拡がっており、応力のかかり方は、短冊状の場合と大きく異なるものとなり、測定の結果が違ってくることは、当業者にとって、明らかである。 したがって、甲2発明の「縦5%伸長応力」、「縦20%伸長応力」は、それぞれ、本件発明1の「伸度5%における強力F_(5%)」、「伸度20%における強力F_(20%)」に相当するとはいえないから、本件発明1は、甲2発明ではない。 本件発明1と甲3発明については、甲3発明の「縦5%伸長応力」及び「縦20%伸長応力」は、甲2発明と同様に、「JIS-K-6550 5-2-1に準拠するテストピースを恒速伸長試験器で伸長試験した」ものであるから、本件発明1と甲2発明との対比で述べた同様の理由により、甲3発明の「縦5%伸長応力」、「縦20%伸長応力」は、それぞれ、本件発明1の「伸度5%における強力F_(5%)」、「伸度20%における強力F_(20%)」に相当するとはいえないから、本件発明1は、甲3発明ではない。 よって、本件発明1は、甲1発明、甲2発明、又は甲3発明ではない。 (2)理由2(進歩性)について 本件発明1と甲1発明と対比すると、上記第6 1.(1)で述べたように、甲1発明の「縦5%応力」、「縦20%応力」は、それぞれ、本件発明1の「伸度5%における強力F_(5%)」、「伸度20%における強力F_(20%)」に相当するとはいえない。また、甲1発明の「縦5%応力」、「縦20%応力」と、本件発明1の「伸度5%における強力F_(5%)」、「伸度20%における強力F_(20%)」との間に、一定の関係があるという証拠は、示されていない。 また、甲1発明の「縦5%応力」及び「縦20%応力」と、甲第2号証の「縦5%伸長応力」及び「縦20%伸長応力」あるいは甲第3号証の「縦5%伸長応力」及び「縦20%伸長応力」とは、それらの測定方法が、試験片(テストピース)の形状が相違するなど、異なるので、甲1発明に、甲第2号証に記載された事項あるいは甲第3号証に記載された事項を適用する動機付けがない。 また、甲第4号証には、伸び止め感についての示唆(【0014】)はあるが、本件発明1の「伸度5%における強力F_(5%)」及び「伸度20%における強力F_(20%)」に相当するものは、記載されていない。 本件発明1は、本件請求項1に記載される、「伸縮性を有する人工皮革において、JIS L 1096(1999)8.14.1 A法に記載された方法で測定され、試験片の幅を2.5cm、つかみ間隔を20cmとして測定されるタテ方向の強力伸度曲線で、下記(1)、(2)及び(5)の条件を具備する伸縮性人工皮革。(1)伸度5%における強力F_(5%)が0.1?20N/2.5cmである。(2)伸度20%における強力F_(20%)と上記F_(5%)の関係において、F_(20%)/F_(5%)が8以上である。(5)F_(20%)が50?190N/2.5cmである。」によって、本件特許明細書の段落【0010】記載の「本発明の人工皮革によれば、タテ方向の適度な伸び止まり感を有する伸縮性人工皮革を得ることができる」という格別の作用効果を奏するものである。 よって、本件発明1は、甲1発明、あるいは甲1発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2.本件発明2?4について 本件発明2?4は、直接あるいは間接に本件発明1を引用するものであるから、本件発明2?4は、本件発明1で特定された事項を包含し、さらに、限定された発明である。 そうすると、上記第6 1.(1)に示したとおり、本件発明1は、甲1発明、甲2発明、又は甲3発明ではないのだから、本件発明1の特定事項の全てを包含し、さらに限定された本件発明2?4も、同様に、甲1発明、甲2発明、又は甲3発明ではない。 また、上記第6 1.(2)に示したとおり、本件発明1は、甲1発明、あるいは甲1発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのだから、本件発明1の特定事項の全てを包含し、さらに限定された本件発明2?4も、同様に、甲1発明、あるいは甲1発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第7 むすび 上記第6に示したとおり、本件発明1?4に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由を全て含む、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 伸縮性を有する人工皮革において、JIS L 1096(1999)8.14.1A法に記載された方法で測定され、試験片の幅を2.5cm、つかみ間隔を20cmとして測定されるタテ方向の強力伸度曲線で、下記(1)、(2)及び(5)の条件を具備する伸縮性人工皮革。 (1)伸度5%における強力F_(5%)が0.1?20N/2.5cmである。 (2)伸度20%における強力F_(20%)と上記F_(5%)の関係において、F_(20%)/F_(5%)が8以上である。 (5)F_(20%)が50?190N/2.5cmである。 【請求項2】 下記(3)の条件を更に具備する、請求項1に記載の伸縮性人工皮革。 (3)伸度5%における曲線の接線の傾きS_(5%)と伸度20%における曲線の接線の傾きS_(20%)との傾きにおいて、S_(20%)/S_(5%)が1.2以上である。 【請求項3】 下記(4)の条件を更に具備する、請求項1又は2に記載の伸縮性人工皮革。 (4)伸度0?5%までの曲線の接線の傾き最大値S_(0)?_(5%max)が、8以下である。 【請求項4】 下記(6)の条件を更に具備する、請求項1?3のいずれかに記載の伸縮性人工皮革。 (6)伸度10%における強力F_(10%)が5?60N/2.5cmである。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-03-23 |
出願番号 | 特願2012-59386(P2012-59386) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(D06N)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中川 裕文、中村 勇介、増田 亮子 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
山田 由希子 蓮井 雅之 |
登録日 | 2015-12-25 |
登録番号 | 特許第5860737号(P5860737) |
権利者 | 株式会社クラレ |
発明の名称 | 伸縮性人工皮革 |
代理人 | 有永 俊 |
代理人 | 大谷 保 |
代理人 | 平澤 賢一 |
代理人 | 片岡 誠 |
代理人 | 有永 俊 |
代理人 | 平澤 賢一 |
代理人 | 大谷 保 |
代理人 | 片岡 誠 |