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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1327879
異議申立番号 異議2016-700104  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-10 
確定日 2017-04-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5760388号発明「偏光素子とその製造方法、プロジェクター、液晶装置、電子機器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5760388号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5、9-11〕、6、〔7、12〕、8について、訂正することを認める。 特許第5760388号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5760388号の請求項1ないし12に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成22年11月1日に特許出願され、平成27年6月19日に特許の設定登録がされ、同年8月12日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年 2月10日:特許異議申立書(特許異議申立人小松一枝)
平成28年 3月31日:取消理由通知書
平成28年 6月 2日:意見書及び訂正請求書
平成28年 9月30日:訂正拒絶理由通知書
平成28年11月 2日:意見書
平成28年11月15日:取消理由通知書(決定の予告)
平成29年 1月17日:意見書及び訂正請求書
なお、平成28年6月10日付け及び平成29年1月23日付けで、それぞれ、特許法第120条の5第5項の規定に基づき、特許異議申立人に対し、特許の取消しの理由を記載した書面(取消理由通知書の写し)とともに、取消理由通知への応答として特許権者から提出された訂正請求書副本及びこれに添付された訂正した特許請求の範囲副本を送付し、相当の期間を指定し、意見書を提出する機会を与えたが、いずれも指定期間内に応答がなかった。

第2 訂正の適否
平成29年1月17日付け訂正請求書によりなされた訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求によりなされた訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲について、以下のとおり訂正することを求めるものである。
なお、平成28年6月2日付け訂正請求書によりなされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に、
「【請求項1】
基板と、
前記基板上に平面視ストライプ状に形成され、前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層と、
前記金属層の表面に形成され、前記金属層を構成する金属の酸化物からなる第1の誘電体層と、
前記吸収材層の表面に形成され、前記吸収材層を形成する材料の酸化物からなる第2の誘電体層と、
を有し、
前記基板は、前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げた領域である溝が形成され、
前記溝は、前記基板よりも屈折率が低いことを特徴とする偏光素子。」とあったものを、

「【請求項1】
基板と、
前記基板上に平面視ストライプ状に形成され、前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層と、
前記金属層の表面に形成され、前記金属層を酸化した酸化物(自然酸化膜を除く)からなる第1の誘電体層と、
前記吸収材層の表面に形成され、前記吸収材層を酸化した酸化物(自然酸化膜を除く)からなる第2の誘電体層と、
を有し、
前記基板は、前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げた領域である溝が形成され、
前記溝は、前記基板よりも屈折率が低いことを特徴とする偏光素子。」(下線は当審合議体が付した。以下同じ。)とする訂正。

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項6に、
「【請求項6】
基板の一面側に、平面視ストライプ状を成して前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層を形成する工程と、
酸素含有雰囲気中で前記金属層及び前記吸収材層の表面を酸化させることで、前記金属層の表面に第1の誘電体層を形成するとともに前記吸収材層の表面に第2の誘電体層を形成する工程と、
前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げることによって、前記基板よりも屈折率の低い領域を形成する工程と、
を有することを特徴とする偏光素子の製造方法。」とあったものを、

「【請求項6】
基板の一面側に、平面視ストライプ状を成して前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層を形成する工程と、
酸素含有雰囲気中で前記金属層及び前記吸収材層の表面を一括して酸化(自然酸化を除く)させることで、前記金属層の表面に第1の誘電体層を形成するとともに前記吸収材層の表面に第2の誘電体層を形成する工程と、
前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げることによって、前記基板よりも屈折率の低い領域を形成する工程と、
を有することを特徴とする偏光素子の製造方法。」とする訂正。

(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項7に、
「【請求項7】
前記酸素含有雰囲気がオゾンガス雰囲気であることを特徴とする請求項6に記載の偏光素子の製造方法。」とあったものを、

「【請求項7】
基板の一面側に、平面視ストライプ状を成して前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層を形成する工程と、
酸素含有雰囲気中で前記金属層及び前記吸収材層の表面を酸化(自然酸化を除く)させることで、前記金属層の表面に第1の誘電体層を形成するとともに前記吸収材層の表面に第2の誘電体層を形成する工程と、
前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げることによって、前記基板よりも屈折率の低い領域を形成する工程と、
を有し、
前記酸素含有雰囲気がオゾンガス雰囲気であることを特徴とする偏光素子の製造方法。」とする訂正。

(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項8に、
「【請求項8】
前記第1及び第2の誘電体層を形成する工程において、前記基板に紫外光を照射することを特徴とする請求項6又は7に記載の偏光素子の製造方法。」とあったものを、

「【請求項8】
基板の一面側に、平面視ストライプ状を成して前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層を形成する工程と、
酸素含有雰囲気中で前記金属層及び前記吸収材層の表面を酸化(自然酸化を除く)させることで、前記金属層の表面に第1の誘電体層を形成するとともに前記吸収材層の表面に第2の誘電体層を形成する工程と、
前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げることによって、前記基板よりも屈折率の低い領域を形成する工程と、
を有し、
前記第1及び第2の誘電体層を形成する工程において、前記基板に紫外光を照射することを特徴とする偏光素子の製造方法。」及び
「【請求項12】
前記第1及び第2の誘電体層を形成する工程において、前記基板に紫外光を照射することを特徴とする請求項7に記載の偏光素子の製造方法。」とする訂正。

2 訂正要件についての判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正事項1は、本件特許の請求項1に係る発明が、「金属の酸化物からなる第1の誘電体層」及び「吸収材層を形成する材料の酸化物からなる第2の誘電体層」を有する偏光素子であることについては変更しないが、前記「酸化物」が自然酸化膜である偏光素子を除くことによって、訂正後の偏光素子を「酸化物」が自然酸化膜である偏光素子を含まないものにしようとするものであると認められる。
(イ)平成29年1月17日に特許権者が提出した意見書の2頁19行ないし3頁下から3行には、AlグリッドとSi吸収層を有したワイヤグリッドに関して、酸素雰囲気下、300℃で8時間又は16時間アニール処理したものと通常品(自然酸化膜あり)について、Ts(黒表示透過率)、コントラスト(白表示透過率/黒表示透過率)、Rs(黒表示反射率)の250℃又は300℃での時間変化を計測する実験を行った結果が示されている。当該実験結果によれば、自然酸化物(通常品)と人工的な酸化物(8時間又は16時間アニール処理したもの)とでは、Ts、コントラスト、Rsの時間変化特性に明確な差異があり、総じて、人工的な酸化物の時間変化特性は、自然酸化物と比べて安定していることがみてとれる。そうすると、当該実験結果は、自然酸化物と人工的な酸化物とが「物」の特性において異なる、すなわち、両者が「物」として異なることを示しているといえる。
(ウ)上記(イ)のとおり、自然酸化物と人工的な酸化物とが「物」として異なるものであり、相互に区別できるのであるから、訂正事項1によって除かれる「物」と除かれた後の「物」とは区別できるといえる。そうすると、訂正事項1によって除かれる「物」は明確であるから、訂正事項1は「酸化物」が「自然酸化膜」である態様を除く限定をするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項1は、本件特許の請求項1に記載されていた事項に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正における一群の請求項の存否
本件特許の請求項2ないし5、9ないし11は請求項1の記載を引用するから、請求項1ないし5、9ないし11は一群の請求項である。
訂正事項1は、上記1(1)のとおり、本件訂正前の請求項1の記載を訂正するものであるから、請求項1ないし5、9ないし11からなる一群の請求項に係る訂正である。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

ウ 小括
上記ア及びイのとおり、本件訂正請求による訂正事項1は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5、9-11〕について訂正を認める。

(2)訂正事項2ないし4
ア 訂正事項2
訂正事項2は、本件特許の請求項6において、「第1の誘電体層」及び「第2の誘電体層」を形成する工程における、金属層及び吸収材層の表面の「酸化」を「一括して酸化」と限定し、また、前記工程における「酸化させる」態様のうち、「自然酸化」によって酸化させる態様を除いた限定をするものであり、当該限定に係る訂正事項2は、本件特許の請求項6に記載されていた事項及び【0047】に記載されていた事項に基づくものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項3
訂正事項3は、本件特許の請求項7が「請求項6」の記載を引用していたものから、請求項6の記載を引用しない独立形式とするとともに、訂正事項2と同様に、「第1の誘電体層」及び「第2の誘電体層」を形成する工程における「酸化させる」態様のうち、「自然酸化」によって酸化させる態様を除いた限定をするものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項4
訂正事項4は、本件特許の請求項8が「請求項6」の記載を引用していたものについては、請求項6又は7の記載を引用しない独立形式とするとともに、訂正事項2と同様に、「第1の誘電体層」及び「第2の誘電体層」を形成する工程における「酸化させる」態様のうち、「自然酸化」によって酸化させる態様を除いた限定をするものであり、本件特許の請求項8が「請求項7」の記載を引用していたものについては、請求項6の記載を引用しない新たな請求項12とするものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 訂正における一群の請求項の存否
本件特許の請求項7、8及び12は訂正前の請求項6の記載を直接的又は間接的に引用するから、請求項6ないし8、12は一群の請求項である。ただし、請求項6の訂正が認められる場合には、訂正後の請求項7、8、12を請求項6とは別途訂正することを特許権者は求めているとともに、請求項12が訂正後の請求項7の記載を引用しているから、訂正後の請求項7、12は一群の請求項である。
よって、訂正事項3及び4は、請求項7、12からなる一群の請求項に係る訂正である。
したがって、訂正事項3及び4に係る訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

オ 小括
上記アないしエのとおり、本件訂正請求による訂正事項2ないし4は、特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項6、〔7、12〕、8について訂正を認める。


第3 平成28年11月15日付け取消理由通知(決定の予告)の概要
1 理由1(特許法第36条第6項第1号)について
本件発明1(当審合議体注:平成28年6月2日付け訂正請求書によりなされた訂正のもの)では、「前記金属層の表面に形成され、前記金属層を構成する金属の酸化物からなる第1の誘電体層と、前記吸収材層の表面に形成され、前記吸収材層を形成する材料の酸化物からなる第2の誘電体層と、を有し、」とされ、「酸化物」については、自然酸化膜も含むと解される。
しかしながら、発明の詳細な説明には、酸化物が自然酸化膜を含むことについては記載もなく、第1及び/又は第2の誘電体層が自然酸化膜である場合に本件の発明の課題が解決できる根拠も示されていないところ、出願時の技術常識を考慮しても、発明の詳細な説明に開示された所定の厚さの酸化膜(誘電体層)を、「酸化物」が「自然酸化膜」を含む前記各誘電体層を特定事項とする請求項1の範囲にまで拡張又は一般化することはできない。

2 理由2(特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項)について
本件発明1ないし6、9ないし11(当審合議体注:平成28年6月2日付け訂正請求書によりなされた訂正のもの)は、引用例1に記載された発明であるか、または、本件発明1ないし6、9ないし11は引用例1に記載された発明、引用例2の記載事項及び引用例3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明1ないし6、9ないし11の特許は特許法第29条の規定に違反してされたものである。


引用例1:特開2008-216957号公報(甲第3号証)
引用例2:特開2007-178763号公報(甲第4号証)
引用例3:特表2003-502708号公報(甲第5号証)

第4 当審の判断
1 本件発明
上記第2のとおり訂正が認められたので、本件特許は、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項によりそれぞれ特定されるとおりの次のとおりのものである(以下、本件訂正請求により訂正された本件特許の請求項1ないし12に係る発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明12」といい、「本件発明1」ないし「本件発明12」を総称して「本件発明」という。)。

【請求項1】
基板と、
前記基板上に平面視ストライプ状に形成され、前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層と、
前記金属層の表面に形成され、前記金属層を酸化した酸化物(自然酸化膜を除く)からなる第1の誘電体層と、
前記吸収材層の表面に形成され、前記吸収材層を酸化した酸化物(自然酸化膜を除く)からなる第2の誘電体層と、
を有し、
前記基板は、前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げた領域である溝が形成され、
前記溝は、前記基板よりも屈折率が低いことを特徴とする偏光素子。
【請求項2】
前記金属層と前記吸収材層との間に、第3の誘電体層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の偏光素子。
【請求項3】
前記金属層と前記吸収材層とを含む積層体の上層に、第4の誘電体層が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の偏光素子。
【請求項4】
前記吸収材層が、シリコン、ゲルマニウム、クロムからなる群より選ばれる1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項5】
前記金属層が、アルミニウム、銀、銅、クロム、チタン、ニッケル、タングステン、鉄からなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項6】
基板の一面側に、平面視ストライプ状を成して前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層を形成する工程と、
酸素含有雰囲気中で前記金属層及び前記吸収材層の表面を一括して酸化(自然酸化を除く)させることで、前記金属層の表面に第1の誘電体層を形成するとともに前記吸収材層の表面に第2の誘電体層を形成する工程と、
前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げることによって、前記基板よりも屈折率の低い領域を形成する工程と、
を有することを特徴とする偏光素子の製造方法。
【請求項7】
基板の一面側に、平面視ストライプ状を成して前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層を形成する工程と、
酸素含有雰囲気中で前記金属層及び前記吸収材層の表面を酸化(自然酸化を除く)させることで、前記金属層の表面に第1の誘電体層を形成するとともに前記吸収材層の表面に第2の誘電体層を形成する工程と、
前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げることによって、前記基板よりも屈折率の低い領域を形成する工程と、
を有し、
前記酸素含有雰囲気がオゾンガス雰囲気であることを特徴とする偏光素子の製造方法。
【請求項8】
基板の一面側に、平面視ストライプ状を成して前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層を形成する工程と、
酸素含有雰囲気中で前記金属層及び前記吸収材層の表面を酸化(自然酸化を除く)させることで、前記金属層の表面に第1の誘電体層を形成するとともに前記吸収材層の表面に第2の誘電体層を形成する工程と、
前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げることによって、前記基板よりも屈折率の低い領域を形成する工程と、
を有し、
前記第1及び第2の誘電体層を形成する工程において、前記基板に紫外光を照射することを特徴とする偏光素子の製造方法。
【請求項9】
光を射出する照明光学系と、前記光を変調する液晶ライトバルブと、前記液晶ライトバルブで変調された光を被投射面に投射する投射光学系と、を備え、
前記液晶ライトバルブと前記照明光学系との間、及び前記液晶ライトバルブと前記投射光学系との間のうち少なくとも一方に、請求項1から5のいずれか1項に記載の偏光素子が設けられていることを特徴とするプロジェクター。
【請求項10】
一対の基板間に液晶層を挟持してなり、少なくとも一方の前記基板の前記液晶層側に、請求項1から5のいずれか1項に記載の偏光素子が形成されていることを特徴とする液晶装置。
【請求項11】
請求項10に記載の液晶装置を備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項12】
前記第1及び第2の誘電体層を形成する工程において、前記基板に紫外光を照射することを特徴とする請求項7に記載の偏光素子の製造方法。

2 理由1(上記第3の2(1):特許法第36条第6項第1号)について
本件発明1では、「前記金属層の表面に形成され、前記金属層を酸化した酸化物(自然酸化膜を除く)からなる第1の誘電体層と、前記吸収材層の表面に形成され、前記吸収材層を形成する材料の酸化物からなる第2の誘電体層と、を有し、」とされ、「酸化物」については、「自然酸化膜」である態様を除いたものとなった。
してみると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものとなり、理由1は、請求項1に係る特許を取り消すべき理由ではなくなった。

3 理由2(上記第3の2(2):特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項)について
(1)引用例の記載事項
ア 引用例1
本件特許の出願前に頒布され上記取消理由通知(決定の予告)で引用された刊行物である引用例1には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0031】
以下に、本発明に係る偏光素子の第1の実施の形態における構成について説明する。なお、本発明を図面に示した実施形態をもって説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、実施の態様に応じて適宜変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
・・・略・・・
【0046】
ここで、無機微粒子層15に用いられる材料(無機微粒子を構成する材料)としては、偏光素子10として使用帯域に応じて適切な材料が選択される必要がある。すなわち、金属材料や半導体材料がこれを満たす材料であり、具体的には金属材料として、Al,Ag,Cu,Au,Mo,Cr,Ti,W,Ni,Fe,Si,Ge,Te,Sn単体もしくはこれらを含む合金が挙げられる。また半導体材料としては、Si,Ge,Te,ZnOが挙げられる。さらに、FeSi_(2)(特にβ-FeSi_(2)),MgSi_(2),NiSi_(2),BaSi_(2),CrSi_(2),CoSi_(2)などのシリサイド系材料が適している。」
(イ)「【0051】
図5は、本発明に係る偏光素子の第2の実施の形態における構成例を示す概略図である。図5(a)は偏光素子20の断面図、図5(b)は偏光素子20の正面図である。
図5に示すように、可視光に対し透明な基板21の表面に設けられた反射層22を構成する薄膜22aと誘電体層23の積層構造の上に無機微粒子層25を選択的に形成することにより、該無機微粒子層25を基板21上で一定間隔に並べられたワイヤグリッド構造としたものである。
【0052】
ここで、基板21は、第1の実施の形態における基板11と同じ材料から構成されるものである。
【0053】
反射層22は、金属からなり基板21の主面と平行な一方向(吸収軸Y方向)に帯状に延びた薄膜22aが基板21上に配列されてなるものである。反射層22の構成材料には、種々の材料を用いることができ、例えばAl,Ag,Cu,Mo,Cr,Ti,Ni,W,Fe,Si,Ge,Teなどの金属あるいは半導体材料を用いることができる。なお、金属材料以外にも、例えば着色等により表面の反射率が高く形成された金属以外の無機膜や樹脂膜で構成されていてもよい。」
(ウ)「【0058】
無機微粒子層25は、薄膜22aに対応する位置であって誘電体層23上に無機微粒子を付着させることにより、基板21の主面と平行な一方向(吸収軸Y方向)に該無機微粒子が線状に配列されてなるものである。また、一定間隔で規則的に設けられた複数の薄膜22aそれぞれの上に無機微粒子層25が形成されることにより、無機微粒子層25の形成パターンが縞状となりワイヤグリッド構造を呈する。
【0059】
図5では、無機微粒子層25は、薄膜22aの長手方向(Y軸方向)に平行に長軸方向を有するとともに長手方向に直交する方向(X軸方向)に短軸方向を有する長楕円形状の島状の無機微粒子25aがY軸方向に配列された構成となっている。また、無機微粒子25aは使用帯域の波長以下のサイズであって、個々の粒子が完全に孤立化していることが望ましい。
【0060】
本発明では無機微粒子層25の光学定数として、吸収軸Y方向(前記無機微粒子の配列方向)の光学定数が透過軸X方向(該無機微粒子の配列方向と直交する方向)の光学定数よりも大であることを特徴とする。詳しくは、無機微粒子層25の吸収軸Y方向の屈折率が透過軸X方向の屈折率よりも大であり、吸収軸Y方向の消耗係数が透過軸X方向の消耗係数よりも大であることを特徴とする。この特性を得るためには、無機微粒子層25を、斜めスパッタ法により成膜する。その詳細は第1の実施の形態で示した方法と同じである。また、無機微粒子層25に用いる材料も第1の実施の形態における無機微粒子層15で用いる材料と同じである。
【0061】
以上のように構成される本実施形態の偏光素子20は、基板21の表面側、即ち、帯状の薄膜22a、誘電体層23及び無機微粒子層25の形成面側が光入射面とされる。そして、偏光素子20は、光の透過、反射、干渉、光学異方性による偏光波の選択的光吸収の4つの作用を利用することで、反射層12のワイヤグリッド長手方向に平行な電界成分(Y軸方向)をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させるとともに、ワイヤグリッド長手方向に垂直な電界成分(X軸方向)をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。
【0062】
すなわち、図6(a)に示すように、TE波は、形状異方性を有する無機微粒子25aからなる無機微粒子層25の光学異方性による偏光波の選択的光吸収作用によって減衰される。薄膜22aはワイヤグリッドとして機能し、図6(b)に示すように、無機微粒子層25及び誘電体層23を透過したTE波を反射する。このとき、無機微粒子層25を透過し薄膜22aで反射したTE波の位相が半波長ずれるように誘電体層23を構成することによって、薄膜22aで反射したTE波は無機微粒子層25で反射したTE波と干渉により打ち消し合って減衰される。以上のようにしてTE波の選択的減衰を行うことができる。前記のように半波長ずれる膜厚が望ましいが、無機微粒子層が吸収効果を有するので、誘電層の膜厚が最適化されていなくてもコントラストの向上は実現でき、実用上は、所望の偏光特性と実際の作製工程における経済的効率から決定されてかまわない。」
(エ)「【0064】
偏光素子20は、例えば以下のようにして製造することができる。即ち、基板21に金属膜及び誘電膜を積層し、フォトリソグラフィなどにより金属膜及び誘電膜の格子パターンを形成した後、斜めスパッタ成膜法により無機微粒子層25を形成する。斜めスパッタ成膜時の入射角度を調節することで、帯状薄膜22a及び誘電体層23からなる凸部の頂点付近に集中的に微粒子を堆積させることが可能となる。
【0065】
上記以外にも、透明基板上に透明材料を一次元格子状に形成し、この格子の凸部上に金属層、誘電体層及び無機微粒子層を順次斜め成膜により積層する方法も適用可能である。
更には、基板上に金属膜、誘電膜、微粒子膜を順次積層した後、これらを一括して一次元格子状にエッチングする方法を用いてもよい。
【0066】
更に、図7に示すように、基板21上に反射層22を一次元格子状に形成した後、誘電体層23を基板21の表面全域に形成する。これにより、誘電体層23は、反射層22の帯状薄膜22aの直上で凸部、帯状薄膜22a間で凹部となる凹凸形状を有する。その後、斜めスパッタ成膜法により、誘電体層23の凸部の頂部の側面部に無機微粒子層25を形成することで、図5の例と同様な作用効果を有する偏光素子を作製することができる。無機微粒子層25の形成領域は図示する誘電体層23の頂部の一側面部に限らず、両側面部であってもよい。」
(オ)「【0085】
また、第2の実施形態においても必要に応じて、基板表面、裏面に反射防止膜をコートすることで、空気と基板面からの反射を防止し、透過軸透過率を向上させることができる。反射防止膜としては、一般的に用いられるMgF_(2)などの低屈折率膜や、低屈折率膜と高屈折率膜で構成される多層膜などで構わない。なお、図5あるいは図7に示す構成とした後、その表面にSiO_(2)などの使用帯域で透明な物質を保護膜として偏光特性に影響を与えない範囲の膜厚でコートすることは、耐湿性の向上など信頼性向上に有効である。但し、無機微粒子の光学的特性は周囲の屈折率によっても影響を受けるため、保護膜の形成により偏光特性の変化が生じる場合がある。また入射光に対する反射率は保護膜の光学厚さ
(屈折率×保護膜の膜厚)によっても変化するので、保護膜材料とその膜厚は、これらを考慮して選択されるべきである。
・・・略・・・」
(カ)「【0097】
(実施例5)
つぎに、本発明の偏光素子における光学異方性発現と無機微粒子との関係について調査を行った。
・・・略・・・
【0102】
(3)偏光素子20
つぎに、図5に示す構成の偏光素子のサンプルを作製した。ここでは、ガラス(コーニング1737)製の基板21上に、反射層22としてピッチ150nm、格子深さ200nmのアルミニウム格子を作製し、その上に誘電体層23としてSiO_(2 )を30nmを形成し、ついで本実施例の偏光素子10と同じ条件で斜めスパッタ成膜を行って無機微粒子層25としてGe微粒子層を30nm積層し、最表層に保護膜として膜厚30nmのSiO_(2) を形成して、図5に示す偏光素子サンプルを作製した。図28に、その偏光素子サンプルの偏光特性を示す。吸収軸の透過率がほぼゼロとなり、また反射率も低い値になっている。また、図29に、この場合の透過率の比をコントラストとして示すが、透過コントラストが550nm域を中心とする緑域では3000以上、450nm付近の青域を含む可視光全域では1500以上となっており、偏光素子として良好な特性を示していた。
【0103】
この偏光素子サンプルについて、断面より観察したところ、図30(a)のスケッチに示すように、基板21上に設けられた一次格子状の反射層22及び誘電体層23それぞれの頂部から側壁にかけてGeからなる無機粒子層25が形成されていることがわかった。
【0104】
また、図30(b)及び図31に、この偏光素子サンプルを上から観察した結果を示す。図30(b)はスケッチであり、図31はその基となるSEM像である。
一次格子状の誘電体層23それぞれの頂部から側壁部にかけて誘電体層23の長手方向に沿う態様で、無機微粒子層25が形成されており、また無機微粒子層25は形状異方性を有する無機微粒子25aが連なって配列して構成された線あるいは帯として観察された。また無機微粒子25aは、該無機微粒子の長軸方向が配列方向となり、短軸方向が配列方向と直交する方向となっている状態が観察された。」

(キ)「【図5】

【図6】

【図7】

・・・略・・・
【図30】



(ク)上記(ア)ないし(キ)から、図5で示される第2の実施形態における無機微粒子層25に用いられる材料は、第1の実施の形態における無機微粒子層15で用いる材料と同じであり、【0064】及び【0065】(上記(エ))に記載の事項は第2の実施形態の製造方法を例示したものと認められるから、引用例1には、第2の実施形態の偏光素子、該偏光素子を用いた液晶プロジェクター及び液晶ディスプレイについて、それぞれ次の発明(以下「引用発明」という。引用発明の認定に関係する箇所の段落番号はそのまま併記する。)が記載されているものと認められる。
「【0051】可視光に対し透明な基板21の表面に設けられた反射層22を構成する薄膜22aと誘電体層23の積層構造の上に無機微粒子層25を選択的に形成することにより、該無機微粒子層25を基板21上で一定間隔に並べられたワイヤグリッド構造とした偏光素子であって、
【0053】反射層22は、金属からなり基板21の主面と平行な一方向(吸収軸Y方向)に帯状に延びた薄膜22aが基板21上に配列されてなるものであり、反射層22の構成材料には、種々の材料を用いることができ、例えばAl,Ag,Cu,Mo,Cr,Ti,Ni,W,Fe,Si,Ge,Teなどの金属材料を用い、
【0058】無機微粒子層25は、薄膜22aに対応する位置であって誘電体層23上に無機微粒子を付着させることにより、基板21の主面と平行な一方向(吸収軸Y方向)に該無機微粒子が線状に配列されてなるものであり、【0046】無機微粒子層25に用いられる材料として、金属材料である、Al,Ag,Cu,Au,Mo,Cr,Ti,W,Ni,Fe,Si,Ge,Te,Sn単体もしくはこれらを含む合金が挙げられ、
【0061】、【0062】反射層12のワイヤグリッド長手方向に平行な電界成分(Y軸方向)をもつ偏光波(TE波)は、形状異方性を有する無機微粒子25aからなる無機微粒子層25の光学異方性による偏光波の選択的光吸収作用によって減衰され、薄膜22aはワイヤグリッドとして機能し、無機微粒子層25及び誘電体層23を透過した、ワイヤグリッド長手方向に垂直な電界成分(X軸方向)をもつ偏光波(TE波)を反射し、
【0065】透明基板上に透明材料を一次元格子状に形成し、この格子の凸部上に金属層、誘電体層及び無機微粒子層を順次斜め成膜により積層することにより製造した、
偏光素子。」

イ 引用例2
本件特許の出願前に頒布され上記取消理由通知で引用された刊行物である引用例2には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性の誘電体基板上に金属層を形成する工程と、
前記金属層をパターニングしてグリッド状の金属膜を形成する工程と、
前記グリッド状の金属膜を気体雰囲気中で加熱処理して前記金属膜の表面部を改質する工程と
を有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理により前記気体雰囲気のガス成分と前記グリッド状の金属膜の金属成分とを反応させ、前記グリッド状の金属膜の表面部に前記金属成分と前記ガス成分との化合物を主成分とする誘電体膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記気体雰囲気を、酸素、窒素、炭化水素、フッ素、もしくはこれらの混合ガスにより形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記金属層を、銀、金、銅、パラジウム、白金、アルミニウム、ロジウム、シリコン、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、クロム、チタン、ルテニウム、ニオブ、ネオジウム、イッテルビウム、イットリウム、モリブデン、インジウム、ビスマスから選ばれる金属、ないしこれらの合金により形成することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理におけるグリッド状の金属膜の加熱温度が800℃以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法により得られた光学素子を偏光素子として備えたことを特徴とする液晶装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法により得られた光学素子を偏光素子として備えたことを特徴とする投射型表示装置。」
(イ)「【0020】
図2は偏光素子831?836(以下、これらを総称して偏光素子1ともいう)の概略構成を示す斜視図である。図3(a)は偏光素子1の平面模式図である。図3(b)は偏光素子1の断面模式図であり、偏光素子1を光が透過する際の作用も併せて示している。
【0021】
偏光素子1は、本発明の光学素子に係るもので、光源810から射出された各色光を偏光選択して直線偏光のみを透過させるものである。具体的には図2及び図3に示すように、ガラス等の誘電体材料からなる透光性の基板11A上に、酸化シリコン等からなる下地絶縁膜15と、該下地絶縁膜15上にストライプ状に配置された複数の金属膜からなるワイヤーグリッド12とを備えて構成されている。ワイヤーグリッド12上には各ワイヤーグリッド12を覆う保護膜が形成されていてもよく、この場合において当該保護膜の表面は平坦面とされることが好ましい。
【0022】
図3(a)に示すワイヤーグリッド12のピッチPは、当該偏光素子1への入射光の波長よりも小さい値であり、例えば140nm以下に設定されている。また、ワイヤーグリッド12の幅は、例えば80nm以下に設定されており、製造上の都合もあるが、入射光の波長の1/10程度にするとより好ましい。従って、ワイヤーグリッド12の隙間に形成される線状の溝13の幅(スペース幅)は60nm程度である。
【0023】
また、ワイヤーグリッド12の高さは100nm?200nm程度となっている。また、ワイヤーグリッド12を構成する金属材料としては、アルミニウムのほか、銀、金、銅、パラジウム、白金、ロジウム、シリコン、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、クロム、チタン、ルテニウム、ニオブ、ネオジウム、イッテルビウム、イットリウム、モリブデン、インジウム、ビスマス、又はこれらの合金などを用いることができる。
【0024】
ここで図9は、本実施形態に係るワイヤーグリッド12の断面構造をさらに詳細に示す図である。同図に示すように、本実施形態に係るワイヤーグリッド12は、線状の金属膜12Mとその表面を覆う誘電体膜12D2を有している。この誘電体膜12D2は、基板11A上に、例えばアルミニウム膜を形成してなる金属膜12Mの表面を酸化させて形成した金属酸化物膜(酸化アルミニウム膜)であり、その膜厚は金属膜12Mの表面に形成される自然酸化膜よりも厚いものとなっている。」
(ウ)上記(ア)及び(イ)からみて、引用例2には、以下の事項が記載されているものと認められる。
「透光性の誘電体基板上に金属層を形成する工程と、前記金属層をパターニングしてグリッド状の金属膜を形成する工程と、前記グリッド状の金属膜を気体雰囲気中で加熱処理して前記金属膜の表面部を改質する工程とを有する製造方法によって製造された偏光素子であって、
前記金属膜の表面部を改質する工程は、金属膜の表面を酸化させて金属酸化物膜である誘電体膜を形成する工程である、
偏光素子。」(以下「引用例2の記載事項」という。)

ウ 引用例3
本件特許の出願前に頒布され上記取消理由通知で引用された刊行物である引用例3には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0026】
図4では、本発明のワイヤグリッド偏光子の好ましい実施形態が全体として400として示されている。偏光子400は、透明基板410によって支持される複数の平行な細長い導電素子420からなる。基板410は、第1の表面414および屈折率n_(S)を有する。次に説明するように、基板はガラスである場合もあり、約1.5の屈折率n_(S)を有する場合もある。
・・・略・・・
【0033】
素子420の構成はスケール通りに描かれておらず、明確に表すために非常に誇張されている。事実、素子の構成は裸眼には見えず、極端に拡大しないで観察した時には、部分的に反映する表面として見える。素子420は金属など広いスペクトルの鏡に形成することのできる任意の材料で形成される。好ましくは、可視光で使用するために、材料は銀またはアルミニウムである。
【0034】
好ましい実施形態では、導電素子420は、有利には基板410または第1の表面414から伸びるリブ430の上で支持される。リブ430は、基板410と同じ材料である場合もあり、基板と一体として形成される場合もある。たとえば、次により詳細に論じるように、素子420をマスクとして使用して、素子420の間に露出した基板410の一部をエッチングして除くことによってリブ430を形成する場合がある。」
(イ)「【図4】


(ウ)上記(ア)及び(イ)からみて、引用例3には、以下の事項が記載されているものと認められる。
「透明基板410によって支持される複数の平行な細長い導電素子420からなるワイヤグリッド偏光子であって、
導電素子420は、基板410または第1の表面414から伸びるリブ430の上で支持され、
素子420をマスクとして使用して、素子420の間に露出した基板410の一部をエッチングして除くことによってリブ430を形成した、
ワイヤグリッド偏光子。」(以下「引用例3の記載事項」という。)

(2)対比
ア 本件発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「可視光に対し透明な基板21」及び「偏光素子」は、それぞれ本件発明1の「基板」及び「偏光素子」に相当する。
(イ)引用発明の「反射層22を構成する薄膜22a」は、構成材料としてAl,Ag,Cu,Mo,Cr,Ti,Ni,W,Fe,Si,Ge,Teなどの金属材料が用いられているから、本件発明1の「金属層」に相当する。
(ウ)引用発明の「無機微粒子層25」は、偏光波(TE波)をその光学異方性による偏光波の選択的光吸収作用によって減衰させるのであるから、本件発明1の「吸収材層」に相当する。
(エ)引用発明は、「可視光に対し透明な基板21」(本件発明1の「基板」に相当。以下、「」に続く()内の文言は対応する本件発明1の用語を表す。)の表面に設けられた「反射層22を構成する薄膜22a」(金属層)と誘電体層23の積層構造の上に「無機微粒子層25」(吸収材層)を選択的に形成することにより、該「無機微粒子層25」(吸収材層)を「基板21」(基板)上で一定間隔に並べられたワイヤグリッド構造としたものであり、「反射層22」(金属層)は、「基板21」(基板)の主面と平行な一方向(吸収軸Y方向)に帯状に延びた「薄膜22a」(金属層)が「基板21」(基板)上に配列されてなるものであり、「無機微粒子層25」(吸収材層)は、「薄膜22a」(金属層)に対応する位置であって誘電体層23上に無機微粒子を付着させることにより、基板21の主面と平行な一方向(吸収軸Y方向)に該無機微粒子が線状に配列されてなるものであるから、引用発明は、本件発明1の「基板と、基板上に平面視ストライプ状に形成され、前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層と、を有する」という構成を備える。
(オ)上記(ア)ないし(オ)からみて、本件発明1と引用発明とは、
「基板と、
前記基板上に平面視ストライプ状に形成され、前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層と、
を有する、
偏光素子。」である点(以下「一致点1」という。)で一致し、次の点で相違する。

・相違点1
本件発明1では、金属層の表面に形成され、前記金属層を酸化した酸化物(自然酸化膜を除く)からなる第1の誘電体層と、吸収材層の表面に形成され、前記吸収材層を酸化した酸化物(自然酸化膜を除く)からなる第2の誘電体層とを有するのに対し、
引用発明では、前記第1の誘電体層と前記第2の誘電体層を有するのかどうかが明らかでない点。

・相違点2
本件発明1では、基板は、金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げた領域である溝が形成され、前記溝は、前記基板よりも屈折率が低いのに対し、
引用発明では、透明基板上に透明材料を一次元格子状に形成し、この格子の凸部上に金属層、誘電体層及び無機微粒子層を順次斜め成膜により積層している点。

イ 本件発明6と引用発明とを対比すると、本件発明6は実質的に本件発明1の「偏光素子」の製造方法の発明であるから、本件発明6と引用発明とは、
「基板の一面側に、平面視ストライプ状を成して前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層を形成する工程と、
を有することを特徴とする偏光素子の製造方法。」(以下「一致点2」という。)である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点3
本件発明6では、酸素含有雰囲気中で金属層及び吸収材層の表面を一括して酸化(自然酸化を除く)させることで、前記金属層の表面に第1の誘電体層を形成するとともに前記吸収材層の表面に第2の誘電体層を形成する工程を有するのに対し、
引用発明では、酸素含有雰囲気中で金属層及び吸収材層の表面を酸化(自然酸化を除く)させる工程を有していない点。

・相違点4
本件発明6では、前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げることによって、前記基板よりも屈折率の低い領域を形成する工程を有するのに対し、
引用発明では、透明基板上に透明材料を一次元格子状に形成し、この格子の凸部上に金属層、誘電体層及び無機微粒子層を順次斜め成膜により積層している点。

ウ 本件発明7と引用発明とを対比すると、本件発明7は、本件発明6の特定事項に加え、「酸素含有雰囲気がオゾンガス雰囲気である」という特定事項をさらに有するから、本件発明7と引用発明とは、上記一致点2で一致し、上記相違点3及び4に加え、以下の点でさらに相違する。

・相違点5
本件発明7では、「酸素含有雰囲気がオゾンガス雰囲気である」のに対し、
引用発明では、そもそも、酸素含有雰囲気中で金属層及び吸収材層の表面を酸化(自然酸化を除く)させる工程を有していない点。

エ 本件発明8と引用発明とを対比すると、本件発明8は、本件発明6の特定事項に加え、「前記第1及び第2の誘電体層を形成する工程において、前記基板に紫外光を照射する」という特定事項をさらに有するから、本件発明8と引用発明とは、上記一致点2で一致し、上記相違点3及び4に加え、以下の点でさらに相違する。

・相違点6
本件発明8では、「前記第1及び第2の誘電体層を形成する工程において、前記基板に紫外光を照射する」のに対し、
引用発明では、第1及び第2の誘電体層を形成する工程において、基板に紫外光を照射するかどうか明らかでない点。

(3)判断
ア 本件発明1について
(ア)上記相違点1について検討する。
引用例2の記載事項(上記(1)イ(ウ))は、基板上の金属膜を気体雰囲気中で加熱処理して当該金属膜の表面改質を行うこと、具体的には、金属膜の表面を酸化させて金属酸化物膜である誘電体膜を形成することである。しかしながら、引用例1には、例えば【0085】(上記(1)ア(オ))、【0102】(上記(1)ア(カ))、図30(a)(上記(1)ア(キ))に、偏光素子の最表層にSiO_(2)の保護膜を形成することが記載されているが、反射層22、誘電体層23及び無機微粒子層25の表面を自然酸化以外の手段で酸化させることについては記載がない。これらの引用例1及び2に記載されている事項を考慮すれば、当業者が引用発明において、金属層及び吸収材層の表面を保護しようとした際に、引用例1に具体的に記載されているSiO_(2)の保護膜ではなく、敢えて引用例2の記載事項のような金属層及び吸収材層の表面を酸化した酸化物からなる層を採用しようとする動機は存在しない。そうすると、引用発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成となすことは、当業者であっても容易に想到し得ないものである。
(イ)上記相違点2について検討する。
引用発明は、透明基板上に透明材料を一次元格子状に形成し、この格子の凸部上に金属層、誘電体層及び無機微粒子層を順次斜め成膜により積層しているものであるところ、前記凸部により光学性能に影響がないように、前記透明材料と前記透明基板を同じ屈折率の材料を用いて形成することにより、前記透明材料と前記透明基板との間に光学的な界面を設けないようになすことが技術常識である。当該技術常識を踏まえれば、前記透明材料と前記透明基板との実際の界面の位置に関わらず、前記凸部間の空間は本件発明1でいう「溝」に相当するといえ、当該「溝」は空気で満たされているから基板よりも屈折率が低いことは明らかである。そして、例えば引用例1の図30(上記(1)ア(カ))において、無機粒子層25が反射層22及び誘電層23の側壁間の空間を塞がないように成膜されているように、引用発明において、格子の凸部上に金属層、誘電体層及び無機微粒子層を順次斜め成膜により積層する際に、前記溝を塞がないように、誘電体層と無機微粒子層を積層させる態様とすることは、引用発明の偏光素子をワイヤグリッドとして十分に機能させるために、当業者が当然考慮すべき事項である。そうすると、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
仮に、上記相違点2が実質的な相違点であるとしても、引用例3の記載事項(上記(1)ウ(ウ))は、ワイヤグリッド偏光子において、平行な細長い素子のアレイをマスクとして使用して、素子の間に露出した基板の一部をエッチングして除くことでリブを形成することであり、当該事項を踏まえれば、引用発明において、透明材料により凸部を形成するのに換えて、基板の表面を掘り下げて形成するようになすことは当業者が引用例3の記載事項に基づいて適宜なし得た程度のことである。
(ウ)以上のとおり、本件発明1と引用発明とは相違し、本件発明1と引用発明とは同一ではないから、本件発明1は引用例1に記載された発明ではない。また、本件発明1は、引用例1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし5、9ないし11について
上記アのとおり、本件発明1が、引用例1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本件発明2ないし5、9ないし11も同様に、引用例1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

ウ 本件発明6について
相違点3は、上記ア(イ)の相違点1についての検討と同様に、引用発明において、相違点3に係る本件発明6の構成となすことは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

エ 本件発明7について
本件発明7も上記ア(イ)の相違点1についての検討と同様に、引用発明において、本件発明7の構成となすことは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
また、相違点5についても一応検討すると、引用例1ないし3には、酸素含有雰囲気がオゾンガス雰囲気であることの明示はなく、ワイヤグリッド偏光子の金属膜の表面を酸化するに際し、オゾンガス雰囲気で酸化させることが本件特許の出願前に周知であったともいえないから、相違点5に係る本件発明7の構成となすことは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

オ 本件発明8について
本件発明8も上記ア(イ)の相違点1についての検討と同様に、引用発明において、本件発明8の構成となすことは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
また、相違点6についても一応検討すると、引用例1ないし3には、基板に紫外光を照射することの明示はなく、ワイヤグリッド偏光子の金属膜の表面を酸化するに際し、基板に紫外光を照射することが本件特許の出願前に周知であったともいえないから、相違点6に係る本件発明8の構成となすことは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

カ 本件発明12について
上記エ及びオのとおり、本件発明7については、引用例1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではないから、本件発明7の特定事項を含む本件発明12についても同様に、引用例1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に平面視ストライプ状に形成され、前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層と、
前記金属層の表面に形成され、前記金属層を酸化した酸化物(自然酸化膜を除く)からなる第1の誘電体層と、
前記吸収材層の表面に形成され、前記吸収材層を酸化した酸化物(自然酸化膜を除く)からなる第2の誘電体層と、
を有し、
前記基板は、前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げた領域である溝が形成され、
前記溝は、前記基板よりも屈折率が低いことを特徴とする偏光素子。
【請求項2】
前記金属層と前記吸収材層との間に、第3の誘電体層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の偏光素子。
【請求項3】
前記金属層と前記吸収材層とを含む積層体の上層に、第4の誘電体層が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の偏光素子。
【請求項4】
前記吸収材層が、シリコン、ゲルマニウム、クロムからなる群より選ばれる1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項5】
前記金属層が、アルミニウム、銀、銅、クロム、チタン、ニッケル、タングステン、鉄からなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項6】
基板の一面側に、平面視ストライプ状を成して前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層を形成する工程と、
酸素含有雰囲気中で前記金属層及び前記吸収材層の表面を一括して酸化(自然酸化を除く)させることで、前記金属層の表面に第1の誘電体層を形成するとともに前記吸収材層の表面に第2の誘電体層を形成する工程と、
前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げることによって、前記基板よりも屈折率の低い領域を形成する工程と、
を有することを特徴とする偏光素子の製造方法。
【請求項7】
基板の一面側に、平面視ストライプ状を成して前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層を形成する工程と、
酸素含有雰囲気中で前記金属層及び前記吸収材層の表面を酸化(自然酸化を除く)させることで、前記金属層の表面に第1の誘電体層を形成するとともに前記吸収材層の表面に第2の誘電体層を形成する工程と、
前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げることによって、前記基板よりも屈折率の低い領域を形成する工程と、
を有し、
前記酸素含有雰囲気がオゾンガス雰囲気であることを特徴とする偏光素子の製造方法。
【請求項8】
基板の一面側に、平面視ストライプ状を成して前記基板の厚さ方向に積層された金属層及び吸収材層を形成する工程と、
酸素含有雰囲気中で前記金属層及び前記吸収材層の表面を酸化(自然酸化を除く)させることで、前記金属層の表面に第1の誘電体層を形成するとともに前記吸収材層の表面に第2の誘電体層を形成する工程と、
前記金属層の互いに隣り合う間に露出する前記基板の表面を掘り下げることによって、前記基板よりも屈折率の低い領域を形成する工程と、
を有し、
前記第1及び第2の誘電体層を形成する工程において、前記基板に紫外光を照射することを特徴とする偏光素子の製造方法。
【請求項9】
光を射出する照明光学系と、前記光を変調する液晶ライトバルブと、前記液晶ライトバルブで変調された光を被投射面に投射する投射光学系と、を備え、
前記液晶ライトバルブと前記照明光学系との間、及び前記液晶ライトバルブと前記投射光学系との間のうち少なくとも一方に、請求項1から5のいずれか1項に記載の偏光素子が設けられていることを特徴とするプロジェクター。
【請求項10】
一対の基板間に液晶層を挟持してなり、少なくとも一方の前記基板の前記液晶層側に、請求項1から5のいずれか1項に記載の偏光素子が形成されていることを特徴とする液晶装置。
【請求項11】
請求項10に記載の液晶装置を備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項12】
前記第1及び第2の誘電体層を形成する工程において、前記基板に紫外光を照射することを特徴とする請求項7に記載の偏光素子の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-27 
出願番号 特願2010-245493(P2010-245493)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B)
P 1 651・ 113- YAA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 西村 仁志
鉄 豊郎
登録日 2015-06-19 
登録番号 特許第5760388号(P5760388)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 偏光素子とその製造方法、プロジェクター、液晶装置、電子機器  
代理人 鈴野 幹夫  
代理人 鈴野 幹夫  

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