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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
管理番号 1327938
異議申立番号 異議2017-700111  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-07 
確定日 2017-05-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第5970749号発明「ノンアスベスト摩擦材組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5970749号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5970749号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成23年6月7日に特許出願され、平成28年7月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人山本哲夫(以下、単に「申立人」ということがある。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第5970749号の請求項1?4の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、項番号に対応して、「本件特許発明1」などという。)。
「【請求項1】
結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、
該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、
銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、
形状が燐片状、柱状又は板状であり、比表面積が0.5?2.5m^(2)/gであるチタン酸塩を13?24質量%含有するとともに、
酸化ジルコニウムを5?30質量%含有し、かつ、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が1.0質量%以下であるノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項2】
前記チタン酸塩が、チタン酸リチウムカリウム又はチタン酸マグネシウムカリウムである請求項1に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
【請求項4】
請求項1または2に記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。」

3.申立理由の概要
申立人は、証拠として特開2000-144104号公報(甲第1号証、以下、単に「甲1」という。以下、同様。)、特開2008-189791号公報(甲2)、『「化学・それは人類の明日」(大塚化学株式会社製品カタログ):2002年10月発行、6頁』(甲3)、「Proceedings of the 25th Annual BRAKE Colloquium Exhibition(申立人仮訳:第25回年次SAEブレーキに関する討論会とエキシビション):2007年発行、99?103頁」(甲4)、特開平5-247441号公報(甲5)、特開平10-195420号公報(甲6)、特開2008-174705号公報(甲7)及び特開2010-24429号公報(甲8)を提出し、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2項に該当し、取り消すべきものである旨主張している。

4.甲各号証の記載
(1)甲1について
(ア-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 繊維基材と、摩擦摩耗調整剤と、結合剤と、からなる摩擦材であって、繊維状タルクを含有することを特徴とする摩擦材。」
(ア-2)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は自動車やオートバイ、鉄道車両等のブレーキ用パッドやライニング、クラッチ用フェーシング等に使用される摩擦材に関し、特に、耐フェード性に優れた摩擦材に関する。」
(ア-3)「【0005】そこで従来は、耐フェード性を向上させるために、気孔率をアップした摩擦材が用いられてきた。しかし、気孔率をアップした摩擦材は強度が低下するといった課題を有していた。特に、分解ガスの発生源である有機物(有機繊維、樹脂結合剤、有機質の摩擦摩耗調整剤)の配合割合を減らして気孔率をアップした摩擦材は、有機繊維や樹脂結合剤の減少により強度が低下するといった課題があった。
【0006】
【本発明が解決しようとする課題】本発明は従来の課題を解決するもので、強度を低下させずに耐フェード性を向上した摩擦材を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者等は様々な繊維基材、摩擦摩耗調整剤、結合剤の組み合わせについて実験した結果、タルクを添加すると、強度を低下させずに耐フェード性を向上させることができることを見い出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の摩擦材は、繊維基材と、摩擦摩耗調整剤と、結合剤と、からなる摩擦材であって、繊維状タルクを含有することを特徴とする。」
(ア-4)「【0012】
【実施例】本発明を自動車のブレーキパッドに具体化した実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。摩擦材の配合割合(重量%)は表1に示す通りであり、繊維状タルクの添加量を変えることによって3種類の実施例のブレーキパッドを製作した。ここで使用した繊維状タルクは平均粒径が5μm、平均長さが30μmのものである。また、繊維状タルクを添加しないで有機物の配合割合を変化させた2種類の比較例のブレーキパッドを製作した。」
(ア-5)「【0013】本実施例では繊維基材として、アラミド繊維とチタン酸カリウム繊維を使用した。摩擦摩耗調整剤としては、グラファイト、酸化ジルコニウム、カシューダスト、および硫酸バリウムを使用した。結合剤としては、フェノール樹脂を使用した。」
(ア-6)「【0015】
【表1】

これらの実施例および比較例のブレーキパッドをモールド法で製作した。まず、表1に従って配合した混合材料を常温で加圧して予備成形し、次いで、160℃に保持された金型に投入して面圧300Kg/cm^(2)のプレス圧を加え、ガス抜きを行いながら10分間保持して成形体を得た。そして、この成形体を200℃で3時間加熱してフェノール樹脂結合剤の硬化を行い、所定の厚さに研磨してブレーキパッドを得た。なお、実施例、比較例のパッド共、摩擦摩耗試験と剪断強度、気孔率の測定のため、それぞれ複数個製作した。」

(2)甲2について
(イ-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材、摩擦調整材、充填材、及びバインダーとして添加されるフェノール樹脂を主成分とする原料組成物を成形、硬化してなる摩擦材において、原料組成物中に硫化タングステンとチタン酸カリウムをそれぞれ添加したことを特徴とする摩擦材。」
(イ-2)「【0009】
この発明は、自動車用ブレーキなどに利用されるNAO材に代表される摩擦材について、環境保全の面で好ましくない鉛化合物やアンチモン化合物を使用せずに高温域での耐摩耗性と対面攻撃性の抑制効果を得られるようにすることを課題としている。」
(イ-3)「【0010】
上記の課題を解決するため、この発明においては、硫化タングステンとチタン酸カリウムを併用し、これを、繊維基材、摩擦調整材、充填材、及びバインダーとして添加されるフェノール樹脂を主成分とする原料組成物を成形、硬化してなる摩擦材の原料組成物中に添加した。」
(イ-4)「【0011】
チタン酸カリウムは、板状、或いはフレーク状のものに限定されず、ウイスカータイプのものも利用できる」
(イ-5)「【0012】
なお、硫化タングステンはその添加量を0.1?10.0体積%に、また、チタン酸カリウムはその添加量を5.0?25.0体積%の範囲にそれぞれ収めると好ましい。」
(イ-6)「【0020】
このように、硫化タングステンとチタン酸カリウムを併用することで、鉛化合物やアンチモン化合物を用いずにメタルキャッチを減少させることができ、環境問題の解決とメタルキャッチによる対面攻撃性の抑制を同時に実現することが可能になる。」

(3)甲3について
(ウ-1)「レピドクロサイト型 テラセス 鱗片状チタン酸マグネシウムカリウム 鱗片状チタン酸リチウムカリウム」(6頁左上欄)について、次の記載がある。
(ウ-2)「大塚化学は、鱗片状のチタン酸塩系新素材を開発致しました。」
(ウ-3)「「テラセス」はチタン酸マグネシウムカリウムとチタン酸リチウムカリウムの2種類あります。」
(ウ-4)「平均径は4?20μmの鱗片状であります。」
「●「テラセス」シリーズの用途 摩擦材用としての専用グレードです。」
(ウ-5)「テラセス」を使用したブレーキパッドのダイナモ試験結果(JASO C-406P1)(審決注:グラフは省略)及びテラセスシリーズの一般物性(審決注:表は省略))

(4)甲4について
(エ-1)「The Brake Abrasion Properties in Two Kinds of Platelet Titanate Compound Formulations, and the Swift Brake Property Evaluation by Using the Thrust Test Method(申立人仮訳:2種の板状チタン酸化合物組成物のブレーキ摩耗特性と、押し付け試験法を使用することによる迅速なブレーキ特性評価)」)(標題)について、次の記載がある。
(エ-2)「EXPERIMENTCompounding and JASO test
We used five kinds of platelet titanate compounds: TERRACESS PS, PM, L, TF-S and TF-L, all different in powder character, formula, melting point, etc (Table 1)[1].
And they were mixed at a particular ratio with other frictional materials(Table 2).
(申立人仮訳:実験
<調合とJASOテスト>
我々は、粉体特徴、組成、融点等が異なるテラセスPS、PM、L、TF-S及びTF-Lの5種の板状チタン酸化合物を使用した(表1)[1]。そして、それらは特定の比率で他の摩擦材料と混合された(表2)。)」)(99頁右欄下から4行?100頁左欄3行)
(エ-3)「General properties and Crystal structure of TERRACESS(申立人仮訳:テラセスの一般特性と結晶構造)」について、表1(審決注:省略)が記載されている(100頁左欄)。

(5)甲5について
(オ-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材繊維と、結合剤と、充填剤とからなる摩擦材において、前記充填剤の中に、平均粒子径が0.5?20μmの酸化ジルコニウムを前記摩擦材料総量に対して1?25重量%添加したことを特徴とする摩擦材。」
(オ-2)「【0007】そこで、本発明は、所要の摩擦係数を保持しつつ、相手材の摩耗量を低減できる摩擦材の提供を課題とするものである。」
(オ-3)「【0025】したがって、上記実施例によれば、酸化ジルコニウムの平均粒子径を0.5?20μmと小さくし、かつ、添加量を1?25重量%に限定したことによって、摩擦材の所要の材料強度、対摩耗性及び摩擦特性を確保できる一方、相手材の摩耗量を著しく小さくできるので、長寿命化でき、自動車のブレーキパッドとして使用した場合の安全性を向上できる。」

(6)甲6について
(カ-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 繊維基材と、樹脂結合剤と、アブレッシブ剤等の充填剤とを含む摩擦材において、
前記アブレッシブ剤として、平均粒子径が0.7?4.0μmであり、かつ、粒子径が平均粒子径の2倍を超える粒子を35重量%以下の割合で含む酸化ジルコニウムを摩擦材全体に対し0.5?5.0体積%の割合で含むことを特徴とする摩擦材。」
(カ-2)「【0017】ここで、その酸化ジルコニウムの粒子径は、相手材の摩耗を抑えるために、より小さいことが好ましく、試験結果からも、上記のように平均粒子径で4.0μmより小さいことが好ましい。ただし、平均粒子径が余り小さく、特に0.5μm未満ともなると、十分な摩擦係数を比較的少ない配合割合で確保することが困難となり、また一般に、平均粒子径を0.7μm未満とすることは、製造上困難を伴ない、合せてコストの増大を招く傾向にある。そのため、使用する酸化ジルコニウムの平均粒子径は実用上0.7μmを下限とする0.7?4.0μmが好ましい。また、より好ましいその平均粒子径は1.0?4.0μmである。」
(カ-3)「【0018】また、この酸化ジルコニウムの粒度分布は、相手材の摩耗をより抑えるために、特に大径側のその範囲が狭いことが好ましく、平均粒子径の2倍を超える粒子径の粒子の分量が35重量%以下であることが好ましい。・・・〈中略〉・・・粗大な粒子は相手材の摩耗または損傷の原因となる可能性があるため、粒子径が10μm以上の粒子は、できるだけ含まれないことが好ましい。」
(カ-4)「【0045】そして、これらの実施例及び比較例の摩擦材(ディスクブレーキパッド)の作製は、通常の熱成形による方法によって、具体的には次のように行った。即ち、各種の酸化ジルコニウムを種々の割合で含む上記の配合の摩擦材原料をブレンダで十分均一に混合し、次いで、この粉状混合物を予備成形金型に投入し、常温下、圧力200kg/cm^(2)で1分間加圧して、パッドの形状の摩擦材の予備成形物を形成した。次いで、この摩擦材の予備成形物を、予め表面にフェノール樹脂系接着剤を塗布した裏金と共に熱成形金型にセットし、加圧圧力400kg/cm^(2)、温度160℃で10分間熱成形した。そして、これを更に250℃120分間熱処理して、裏金と一体になった摩擦材、即ち、ディスクブレーキパッドを得た。」

(7)甲7について
(キ-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基質、結合材、有機充填材及び無機粉を含む摩擦材組成物において、モース硬度5以上7未満の無機粉を摩擦材組成物全重量に対して7?30重量%、モース硬度7以上の無機粉を摩擦材組成物全重量に対して0.5?4重量%及び硫化錫を摩擦材組成物全重量に対して2?10重量%含むことを特徴とする摩擦材組成物。」
(キ-2)「【請求項2】
前記モース硬度5以上7未満の無機粉が、酸化ジルコニウム、四三酸化鉄の少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1記載の摩擦材組成物。」
(キ-3)「【0022】
モース硬度5以上7未満の無機粉としては、酸化ジルコニウム(モース硬度:6)、四三酸化鉄(モース硬度:6.5)、酸化マグネシウム(モース硬度:6.5)、酸化チタン(モース硬度:6.5)などが例示される。これらのなかでも、酸化ジルコニウム及び/又は四三酸化鉄は、メタルキャッチ発生の防止及び対面材の荒れの防止を向上し、良好な摩擦係数を示すという点でより好ましい。また、メタルキャッチ発生の防止及び対面材の荒れの防止を向上する点で、酸化ジルコニウムの平均粒径は7μm以下であることが好ましい。」

(8)甲8について
(ク-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基質、無機充填材、結合材、有機充填材及び研削材を含む摩擦材組成物において、前記研削材として50%粒径が0.1?5.0μmの範囲の酸化ジルコニウムを15?35質量%含有し、かつ酸化ジルコニウム以外のモース硬度が7以上の研削材を2.0質量%以下含有した摩擦材組成物。」
(ク-2)「【0030】
本発明の摩擦材組成物は、摩擦面となる摩擦部材そのものとして用いて摩擦材を得ることができる。それを用いた摩擦材としては、例えば、(1)摩擦部材のみの構成、(2)裏金と、この裏金の上に形成させ、摩擦面となる本発明の摩擦材組成物からなる摩擦部材とを有する構成や、(3)上記(2)の構成において、裏金と摩擦部材との間に、裏金の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層、裏金と摩擦部材の接着を目的とした接着層をさらに介在させた構成、等が挙げられる。
裏金、プライマー層、接着剤層は、摩擦材に通常用いられるものを使用できる。」

5.甲1に記載された発明(甲1発明)の認定
(1)(ア-1)の請求項1から、甲1には、「繊維基材と、摩擦摩耗調整剤と、結合剤と、からなる摩擦材であって、繊維状タルクを含有することを特徴とする摩擦材。」が記載されていることがわかる。
(2)(ア-6)の【0015】の【表1】に記載された実施例には、アラミド繊維、チタン酸カリ繊維、繊維状タルク、フェノール樹脂、グラファイト、酸化ジルコニウム、カシューダスト、及び硫酸バリウムからなる摩擦材組成物が記載され、この摩擦材組成物にはチタン酸カリ繊維が10重量%、酸化ジルコニウムが4重量%配合されていることがわかる。
そして、(ア-4)の【0012】及び(ア-5)の【0013】からみて、アラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、繊維状タルクは繊維基材、フェノール樹脂は結合剤、グラファイト、酸化ジルコニウム、カシューダスト及び硫酸バリウムは摩擦摩耗調整剤であることがわかる。
また、該実施例の摩擦材組成物には銅が含まれておらず、銅・銅合金以外の金属繊維も含まれておらず、アスベストも含まれていないといえる。
(3)以上のことから、甲1には、本件特許発明1の記載ぶりに則って整理すると、次の発明が記載されていると認められる。なお、甲1では「重量%」が、本件特許発明では「質量%」が用いられているが、両者は実質的に同一であるので、以下「質量%」に統一して記載する。
「結合材、摩擦摩耗調整剤及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、
摩擦材組成物中の銅の含有量が0質量%であり、
銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0質量%であり、
チタン酸カリウム繊維を10質量%含有するとともに、
酸化ジルコニウムを4質量%含有する、
ノンアスベスト摩擦材組成物。」(以下、「甲1発明」という。)

6.対比・判断
(1)本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
ア 本件特許明細書には、「有機充填材は、摩擦材の音振性能や耐摩耗性等を向上させるための摩擦調整剤として含まれるものである」(【0015】)、「無機充填材は、摩擦材の耐熱性の悪化を避けるための摩擦調整剤として含まれるものであり」(【0017】)という記載があることから、本件特許発明1の「有機充填材、無機充填材」は、摩擦調整剤を含むものであって、しかも、甲1発明の「摩擦摩耗調整剤」に、「有機充填材、無機充填材」を用いることは周知であるから、甲1発明の「摩擦摩耗調整剤」は、本件特許発明1の「有機充填材、無機充填材」に相当するということができる。
そうすると、甲1発明の「結合材、摩擦摩耗調整剤及び繊維基材を含む」構成は、本件特許発明1の「結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む」構成に相当する。
イ 甲1発明の「摩擦材組成物中の銅の含有量が0質量%であり、
銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0質量%であ」る構成は、本件特許発明1にの「摩擦材組成物中の銅の含有量は5質量%以下、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量は0.5質量%以下であ」る構成に含まれる。
ウ 甲1発明の「チタン酸カリウム繊維を10質量%含有する」構成は、本件特許発明1の「形状が燐片状、柱状又は板状であり、比表面積が0.5?2.5m^(2)/gであるチタン酸塩を13?24質量%含有する」構成と、「チタン酸塩を含有する」点で共通する。
エ 甲1発明の「酸化ジルコニウムを4質量%含有する」構成は、本件特許発明1の「酸化ジルコニウムを5?30質量%含有し、かつ、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が1.0質量%以下である」構成と、「酸化ジルコニウムを含有する」点で共通する。

オ そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、
該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、
銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、
チタン酸塩を含有し、
酸化ジルコニウムを含有する、
ノンアスベスト摩擦材組成物。」である点で一致し、次の相違点1、2で相違する。

(相違点1)
チタン酸塩について、
・形状が、本件特許発明1は、燐片状、柱状又は板状であるのに対し、甲1発明は繊維状である点。
・比表面積が、本件特許発明1は0.5?2.5m^(2)/gであるのに対し、甲1発明は不明な点。
・配合量が、本件特許発明1は、13?24質量%であるのに対し、甲1発明は、10質量%である点
(相違点2)
酸化ジルコニウムについて、
・配合量が、本件特許発明1は、5?30質量%であるのに対し、甲1発明では4質量%である点。
・粒子径とその含有量が、本件特許発明1は、30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が1.0質量%以下であるのに対し、甲1発明のものは不明な点。

(2)相違点についての検討
(相違点1について)
甲2に、摩擦材のチタン酸カリウムに、板状、フレーク状又はウイスカータイプが使用できると記載されているとしても、どのようなチタン酸カリウムを用いれば、摩擦材の特性が向上するかについては、甲2には、記載も示唆もない。
また、甲3、甲4に、本件特許発明におけるチタン酸塩に包含される「テラセス」というチタン酸塩が記載されているとしても、甲3、甲4からは、「テラセス」が、摩擦材に用いることができることは理解できても、甲1発明において、「テラセス」を用いた場合に、摩擦材がどのような特性となるのかは、明らかではない。
そして、甲1発明は、「強度を低下させずに耐フェード性を向上した摩擦材を提供することを目的」(【0006】)とし、「タルクを添加する」(【0007】)ことで、該目的を達成したものと解することができるところ、チタン酸カリウムについて、どのようなチタン酸カリウムを用いれば、摩擦材の特性が向上するかについては、記載も示唆もない。
そうすると、甲2?甲4の記載に基いて、甲1発明のチタン酸カリウムに替えて、本件特許発明1における上記相違点1に係るチタン酸塩とする、動機付けがあるということはできない。

また、本件特許明細書の、表1におけるチタン酸塩としてチタン酸カリウムを用いた例である、実施例5と参考例4とを比較すると、実施例5は、「チタン酸塩4」(形状:板状、比表面積:1.5m^(2)/g)を含有するのに対し、参考例4は、「チタン酸塩3」(形状:燐片状、比表面積:3.5m^(2)/g)を含有する点でのみ相違し、他の成分には相違はないところ、「メタルキャッチ生成」について、実施例5が参考例4より優れることがわかる。
そうすると、チタン酸塩の形状や比表面積を選択することで、「メタルキャッチ生成」といった、摩擦材組成物としての特性が向上することが理解でき、本件特許発明1は、上記相違点1に係るチタン酸塩を採用したことにより、格別顕著な作用効果を奏するものと認められる。

以上のことから、本件特許発明1の上記相違点1に係る発明特定事項は、当業者が容易になし得たものであるとすることはできない。

(相違点2について)
甲5?8には、摩擦材における、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量の割合をどのようにすればいいのかについては、記載も示唆もない。
また、甲1発明は、「強度を低下させずに耐フェード性を向上した摩擦材を提供することを目的」(【0006】)とし、「タルクを添加する」(【0007】)ことで、該目的を達成したものと解することができるところ、酸化ジルコニウムについて、どのような酸化ジルコニウムを用いれば、摩擦材の特性が向上するかについては、記載も示唆もない。
そうすると、甲5?甲8の記載に基いて、甲1発明の酸化ジルコニウムに替えて、本件特許発明1における上記相違点2に係る酸化ジルコニウムとする、動機付けがあるということはできない。

また、本件特許明細書の、表1における実施例11と比較例1とを比較すると、実施例11は、「酸化ジルコニウム2」(平均粒子径6.5μm、最大粒子径26μm)を含有するのに対し、比較例1は、「酸化ジルコニウム3」(平均粒子径8.5μm、最大粒子径45μm)を含有する点でのみ相違し、他の成分には相違はないところ、「500℃摩擦材摩耗量」や「メタルキャッチ生成」について、実施例11が比較例1より優れることがわかる。
そうすると、「酸化ジルコニウム2」と「酸化ジルコニウム3」とは、平均粒子径はそれほどの違いがなく、最大粒子径が大きく異なっていることから、摩擦材において、酸化ジルコニウムの特定の粒子径分布のものを選択することで、「500℃摩擦材摩耗量」や「メタルキャッチ生成」といった、摩擦材組成物としての特性が向上することが理解できることから、本件特許発明1は、上記相違点2に係る酸化ジルコニウムを採用したことにより、格別顕著な作用効果を奏するものと認められる。

以上のことから、本件特許発明1の上記相違点2に係る発明特定事項は、当業者が容易になし得たものであるとすることはできない。

(まとめ)
本件特許発明1は、甲1?甲8に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、ということはできない。

(3)本件特許発明2?4は、本件特許発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件特許発明1と同様な理由から、甲1?甲8に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、ということはできない。

7.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-05-08 
出願番号 特願2011-127572(P2011-127572)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平塚 政宏小久保 敦規  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
川端 修
登録日 2016-07-22 
登録番号 特許第5970749号(P5970749)
権利者 日立化成株式会社
発明の名称 ノンアスベスト摩擦材組成物  
代理人 平澤 賢一  
代理人 大谷 保  

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