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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E04B
審判 一部無効 特29条の2  E04B
審判 一部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  E04B
審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  E04B
管理番号 1328106
審判番号 無効2014-800021  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-02-03 
確定日 2017-03-28 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5177826号「建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材及びその製造方法並びに建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法」の特許無効審判事件についてされた平成26年9月29日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成26年(行ケ)第10241号、平成27年6月30日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第5177826号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第5177826号(以下「本件特許」という。平成24年3月6日出願、平成25年1月18日登録、請求項の数は6である。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許を無効とすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
本件審判の経緯は、以下のとおりである。

平成26年 2月 3日 審判請求
平成26年 3月28日 審判事件答弁書
平成26年 3月28日 訂正請求書
平成26年 5月 9日 審判事件弁駁書
平成26年 7月18日 上申書(請求人)
平成26年 8月12日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成26年 8月13日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成26年 8月27日 第1回口頭審理
平成26年 9月29日 一次審決(請求不成立)
平成26年11月 7日 審決取消訴訟提起(請求人)(平成26年(行ケ)第10241号)
平成27年 6月30日 判決言渡(審決取消)
平成27年 8月11日 訂正請求書
平成27年 9月30日 審判事件弁駁書
平成27年11月 9日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成27年11月20日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成27年12月 8日 第2回口頭審理
平成27年12月14日 上申書(被請求人)
平成27年12月21日 上申書(被請求人)
平成27年12月21日 手続補正書(被請求人)(平成27年8月11日付けの訂正請求書を補正。)
平成27年12月22日 上申書(請求人)
平成27年12月22日 証拠説明書(請求人)
平成28年 1月 7日 審決の予告
平成28年 2月26日 訂正請求書
平成28年 2月26日 上申書(被請求人)
平成28年 3月 8日 訂正拒絶理由通知書
平成28年 3月 8日 職権審理結果通知書
平成28年 3月 8日 訂正請求書副本の送付通知
平成28年 3月25日 手続補正書(平成28年2月26日付けの訂正請求書を補正。)
平成28年 3月25日 意見書
平成28年 3月25日 上申書(被請求人)

第3 訂正請求
1 平成28年3月25日付けの手続補正書
平成28年3月25日付けの手続補正書による平成28年2月26日付けの訂正請求書の補正は、訂正請求の趣旨の減縮的変更であって、訂正請求書の要旨を変更するものではない。

2 訂正請求の内容
被請求人が平成28年2月26日に提出し、同年3月25日付けの手続補正書により補正された訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲について、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲(以下「訂正特許請求の範囲」という。)のとおりに訂正することを請求するものであって、次の事項をその訂正内容とするものである(下線は、訂正箇所を示す。)。
なお、平成26年3月28日付け訂正請求、及び平成27年8月11日付け訂正請求は、特許法第134条の2第6項の規定によりみなし取下げとなった。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材であって、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材は、」とあるのを、「建物の構造躯体室外側に敷設される連続敷設用の建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材であって、前記連続敷設用のモルタル塗り外壁通気層形成部材は、」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「底面が平面とされ、」とあるのを、「前記断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブ底面が、ステープルを打ち付けられる平面とされ、」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「逆台形型の凹溝条をなす通気胴縁部が、」とあるのを、「逆台形型の凹溝条をなし、該凹溝条の各隅部には、前記溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止すべくプレスストレスを分散出来る様プレス成形時にRをつけてプレスストレスベクトルを多数の角度に分散して形成されてなる通気胴縁部が、」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の連続敷設時には、前記通気胴縁部同士及び前記溝条リブ同士が重ね合わせられ、前記逆台形型凹溝条をなす通気胴縁部の形状及び断面形状が略凹溝条をなす溝条リブの形状が重ね合わせ敷設の目印形状となるよう形成された、」とあるのを、「前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の連続敷設時には、前記通気胴縁部同士及び前記溝条リブ同士が重ね合わせられ、前記逆台形型凹溝条をなす通気胴縁部の形状及び断面形状が略凹溝条をなす溝条リブの形状が重ね合わせ敷設の目印形状となり、前記通気胴縁部の上面の幅が、該通気胴縁部の底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形とされて、重ね合わせ時に作業性を損なわない様形成された、」に訂正する。

(5)訂正事項5
本件特許明細書の段落【0009】に記載された「本発明による建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材及びその製造方法並びに建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法は、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材は、」を、「本発明による建物の構造躯体室外側に敷設される連続敷設用の建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材及びその製造方法並びに建物の構造躯体室外側に敷設される連続敷設用の建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法は、前記連続敷設用のモルタル塗り外壁通気層形成部材は、」に訂正する。

(6)訂正事項6
本件特許明細書の段落【0009】に記載された「底面が平面とされ、上方に向かって拡開し、」を、「前記断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブ底面が、ステープルを打ち付けられる平面とされ、上方に向かって斜めに拡開し、」に訂正する。

(7)訂正事項7
本件特許明細書の段落【0009】に記載された「逆台形型の凹溝条をなす通気胴縁部が、」を、「逆台形型の凹溝条をなし、該凹溝条の各隅部には、前記溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止すべくプレスストレスを分散出来る様プレス成形時にRをつけてプレスストレスベクトルを多数の角度に分散して形成されてなる通気胴縁部が、」に訂正する。

(8)訂正事項8
本件特許明細書の段落【0009】に記載された「前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の連続敷設時には、前記通気胴縁部同士及び前記溝条リブ同士が重ね合わせられ、前記逆台形型凹溝条をなす通気胴縁部の形状及び断面形状が略凹溝条をなす溝条リブの形状が重ね合わせ敷設の目印形状となるよう形成された、」を、「前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の連続敷設時には、前記通気胴縁部同士及び前記溝条リブ同士が重ね合わせられ、前記逆台形型凹溝条をなす通気胴縁部の形状及び断面形状が略凹溝条をなす溝条リブの形状が重ね合わせ敷設の目印形状となり、前記通気胴縁部の上面の幅が、該通気胴縁部の底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形とされて、重ね合わせ時に作業性を損なわない様形成された、」に訂正する。

(9)訂正事項9
本件特許明細書の段落【0027】に記載された「構造躯体5への取り付け」を、「構造躯体6への取り付け」に訂正する。

(10)訂正事項10
本件特許明細書の段落【0031】に記載された「自由な高さすること」を、「自由な高さにすること」に訂正する。

3 訂正の適否
(1)訂正事項1について
本訂正事項は、建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材の用途が「建物の構造躯体室外側に敷設される連続敷設用」であることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書には、建物の構造躯体室外側への敷設に関し、「図2及び図3から理解されるように、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材1を防水シート4側に向かって突出した凸部分側、すなわち、防水シート4貼着面側を建物の構造躯体6室外側に添接する。」(段落【0026】)との記載があり、連続敷設に関しては、「モルタル塗り外壁通気層形成部材1を連続敷設する建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法について説明する。」(段落【0040】)との記載があるから、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
本訂正事項は、通気胴縁部において溝条リブの底面が「ステープルを打ち付けられる平面」であることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書には、「なお、モルタル塗り外壁通気層形成部材1の構造躯体6への取り付ける際に接する溝条リブ2の底面は、ラス固定用の例えばステープルガンの銃口が容易に入り、しかもステープルを打ち付けられるようになるべく平面になるよう設定されている。」(段落【0028】)との記載があるから、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
本訂正事項は、通気胴縁部の凹溝条の形状について、「各隅部には、溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止すべくプレスストレスを分散出来る様プレス成形時にRをつけてプレスストレスベクトルを多数の角度に分散して形成されてなる」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書には、「図2に示したとおり、モルタル塗り外壁通気層形成部材1は、水平方向に向かって略凹凸状をなす断面形状に形成されているが、凹凸状にする際に、各々の隅部にRをつけることにより主に、リブ部の切れ防止を企図できる。」(段落【0019】)、「このプレス成形時には、前記略凹溝条をなす通気胴縁部5の開口側隅角部分17、17にプレスストレスを分散出来る様にRをつけてプレス成形するものとし、プレスストレスベクトルを多数の角度に分散するのが好ましい。これにより通気胴縁部5の開口側隅角部分17、17がプレスストレスにより破断してしまうのを防止出来る。」(段落【0023】)及び「上記通気胴縁部5の上面と底面の各隅部には、若干の丸み、すなわちRを設けてあり、溝条リブ2の亀裂や引きちぎれを防止できるように工夫が施されている。」(段落【0030】)との記載があるから、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4について
本訂正事項は、通気胴縁部の形状について、「上面の幅」が「底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形」であることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書には、「また、通気胴縁部5の上面の幅はその底面の幅のおよそ1.3倍以上を有す逆台形の形状をしており、複数枚のモルタル塗り外壁通気層形成部材1の重ね合わせ時に作業性を損なわないように工夫されている。」(段落【0029】)との記載があるから、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5ないし8について
本訂正事項は、発明の詳細な説明の記載について、訂正事項1ないし4との整合を図り、記載を明瞭にするために行うものと認められるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、上記(1)ないし(4)における訂正事項1ないし4についての検討と同様の理由により、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項9について
本件特許明細書の段落【0050】には、符号の説明として、「5 通気胴縁部」及び「6 建物の構造躯体」と記載されており、図2ないし図4を参酌しても「構造躯体」を指す符号は「6」であることは明らかであるから、本件特許明細書の段落【0027】に記載された「構造躯体5への取り付け」は、「構造躯体6への取り付け」の誤記であることは明らかである。
そして、本訂正事項は、上記誤記を訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものである。
また、本訂正事項は、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
さらに、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、特許請求の範囲に記載された事項により特定される請求項2ないし6に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かにつき検討すると、当該発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。

(7)訂正事項10について
本件特許明細書の段落【0031】に記載された「自由な高さすること」は、助詞を欠いており、「自由な高さにすること」の誤記であることは明らかである。
そして、本訂正事項は、上記誤記を訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものである。
また、本訂正事項は、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
さらに、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、特許請求の範囲に記載された事項により特定される請求項2ないし6に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かにつき検討すると、当該発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。

4 本件訂正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同法第134条の2第9項の規定によって準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。
よって、本件訂正を認める。

第4 本件訂正発明
上記第3のとおり、本件訂正を認めるので、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

「建物の構造躯体室外側に敷設される連続敷設用の建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材であって、
前記連続敷設用のモルタル塗り外壁通気層形成部材は、
水平方向に延びる、断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブが間隔をあけて複数設けられ、前記溝条リブ間には網目部が形成されたラス材と、該ラス材の一面側に貼着された防水シートとを有し、
前記溝条リブの長手方向に向かっては、該溝条リブの長手方向と略直交し、前記貼着された防水シート側に向けて略台形山状に突出させて形成された、前記断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブ底面が、ステープルを打ち付けられる平面とされ、上方に向かって斜めに拡開し、逆台形型の凹溝条をなし、該凹溝条の各隅部には、前記溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止すべくプレスストレスを分散出来る様プレス成形時にRをつけてプレスストレスベクトルを多数の角度に分散して形成されてなる通気胴縁部が、間隔をあけて複数設けられ、隣り合う前記通気胴縁部間の谷部は、通気層用空間とされ、
前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の連続敷設時には、前記通気胴縁部同士及び前記溝条リブ同士が重ね合わせられ、前記逆台形型凹溝条をなす通気胴縁部の形状及び断面形状が略凹溝条をなす溝条リブの形状が重ね合わせ敷設の目印形状となり、前記通気胴縁部の上面の幅が、該通気胴縁部の底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形とされて、重ね合わせ時に作業性を損なわない様形成された、
ことを特徴とする建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材。」

第5 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、本件訂正発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第12号証を提出している。
なお、請求人は、平成28年2月26日付けの訂正請求に対し、意見を提出していない。

(1)無効理由1
本件訂正発明は、本件特許の出願日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報(甲第5号証の1)の発行がされた特許第4990409号(特願2011-217382号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(甲第5号証の3)に記載された発明と実質同一であり、本件特許の出願時の発明者が、その出願前の特許出願に係る上記特許の発明をした者と同一でなく、また、本件特許の出願時の出願人が、上記特許出願の出願人と同一でもないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号の規定により、その特許は無効とされるべきものである。

(2)無効理由2
本件訂正発明は明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、その特許は無効とされるべきものである。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証:特許第5177826号の特許原簿
甲第2号証:特許第5177826号公報(本件特許公報)
甲第3号証:特開2013-185300号公報(本件特許の出願書類)
甲第4号証の1:特願2012-48723に対する平成24年10月26日付け拒絶理由通知書
甲第4号証の2:甲第4号証の1に応答して提出された手続補正書
甲第4号証の3:甲第4号証の1に応答して提出された意見書
甲第5号証の1:特許第4990409号公報
甲第5号証の2:特許第4990409号公報の図2及び図3
甲第5号証の3:特願2011-217382号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面
甲第6号証の1:福原元一、「日本工業規格 メタルラス」、財団法人日本規格協会、平成7年2月1日発行、1頁ないし3頁
甲第6号証の2:「建築工事標準仕様書・同解説15 左官工事」、第5版、日本建築学会、2007年6月5日発行、147頁及び149頁
甲第7号証の1:建築施工用語研究会、「[図解]建築施工用語辞典」、株式会社井上書院、1991年10月25日発行、291頁右欄「リブラスしたじ」の項
甲第7号証の2:建築慣用語研究会、「建築現場実用語辞典」、株式会社井上書院、1992年5月10日発行、366頁右欄「リブラス」の項
甲第8号証の1:特公昭40-1115号公報
甲第8号証の2:特開2005-344403号公報
甲第9号証:「日本工業規格 YM式波形ラス YM式平ラス 下地モルタル壁 木造住宅左官工事耐震構法 施工要領」、株式会社山中製作所、1頁、2頁及び5頁
甲第10号証:「JISハンドブック8 建築I(材料)」、財団法人日本規格協会、2005年1月31日発行、10頁、11頁、892頁、893頁及び奥付欄
甲第11号証:「ダイヤモンド印 メタルラス」、大信鋼業株式会社、7頁3段目の「継目の重ね方」部分
甲第12号証:特開2010-275731号公報

3 請求人の具体的な主張
(1)無効理由1について
ア 突条部の形状が凹溝状であるか逆台形型であるかと言う両発明の差異点を、「モルタル外壁通気構造」の構築に使用する物品の用途及び機能に基づいて比較考量すると、両発明の前記差異点は、当業者が所有する製造機械や製造技術の差異点などに起因して生まれた形態ないし構成の差異点に過ぎない。
外壁パネルの内面とラス網との間に、適度な大きさの空気層を形成する手段として、先願発明では「凹溝状の突条部」を選択して形成し、訂正発明では逆台形型の突条部を形成したという差異点に過ぎない。突条部を形成することにこそ意義が有り、その形状、大きさなどの如何は、両発明を実施する上で、目的達成上に必要な設計事項の類であり、格別、差異点と言うに当たらない。
外壁パネルの内面とラス網との間に介在して、適度な奥行きの空気層を形成できれば、「突条部」の用は必要十分足りるのである。従前の木製胴縁に代わる手段を「複合ラス」の側に一体的に設けた突条部により達成している点では、両発明の考え(技術的思想)はぴったり一致しているのである。
建物のモルタル壁の施工に使用するラス網に「逆台形型の凹溝状突条部」を形成して用いる技術的思想としては、先願発明の出願日よりも更に約2年も早い平成23年9月30日の出願に係る、特開2010-275731号公報(甲第12号証)の例えば図1と図2及び図6と図8を参照し、更に同図6について説明した段落番号【0005】の記載を参照すると、当業者に既に公知、公用の技術的思想に基づく構成の一例にすぎない事実を理解されるであろう。
よって、被請求人が強調する「本件特許の逆台形型の通気胴縁部でなる突条部」は、その出願の当時既に、当業技術者らに公然知られ実施されていた構成態様の一つであり、本件発明の上記逆台形型の通気胴縁部は、格別新規な技術的思想の創作というに当たらないことは明らかである。
(平成27年11月9日付け口頭審理陳述要領書4頁31行ないし5頁23行を参照。)

イ 補強材付きのラス網を曲げ加工した場合に、補強材の隅部は、溝状リブや鋼線材の機械的性質として周知の所謂「スプリングバック」により、どうしてもR状の形態になってしまうことも、当業者が周知する事実である。
むしろ、きっちりと角が立つ形態に成形することの方が格別に困難であることは、当業技術者の周知するところである。
よって、本件発明の「隅部がRを設けて形成され」た点に、新規な技術的思想を見出すことは出来ない。
(平成27年11月9日付け口頭審理陳述要領書5頁34ないし40行を参照。)

ウ 本件発明のリブと、先願発明の横力骨32はともにリブと称呼されている様に、横断面は溝形である。その根拠として、先の特許無効審判及びその審決取り消し訴訟において挙証した甲第6号証の1に示した「メタルラス」のうち、右下段の「リブラス」のリブ形状が凹溝条であること。また、甲第8号証の1、2に示す「無端ラス」に付属するリブも「山形凹条部」であり、甲第11号証の上から3段目に示された「継目の重ね方」欄の右から2番目の下位に示されたリブラスも「V宇形リブ」を用いている構成が確認されるとおりである。このように、リブとは溝条リブであり、本件特許の出願当時には、溝形断面として公知、公用であったことは明白な事実である。
(平成27年11月9日付け口頭審理陳述要領書6頁1ないし8行を参照。)

エ 甲第9号証の5ページ下段の「(2)継ぎ目の重ね方」を例示したとおり、「連続敷設」を行うことが必然の物品で、その敷設の際に「重ね合わせ敷設」することが技術的常識であれば、誰が考えても(当業者でなくとも)、凹凸を重ね合わせて敷設するべきであることは、重ね状態の安定に必然と考える。つまり、当該物品の凹凸が利用者の注目を引く目印形状となることは必定と言える。
さらに、甲第11号証の7頁の上から3段目の「継目の重ね方」に記載が認められるように、凹凸部を目印として重ね合わせることは、当業者が本件特許の出願前に既に行っていたことである。
(平成26年5月9日付け審判事件弁駁書3頁28ないし35行を参照。)

オ 『上面の幅が底面の幅との比が、1.3倍以上』の逆台形は、特開2010-275731号公報(甲第12号証)の図3、6、8(各々に、上面の幅が底面の幅の比が、およそ1.7倍?2.5倍である。)に記載されている通り、当業者であれば一般的に想起する比率の逆台形である。
したがって、周知技術の転換等であって、新たな技術効果を奏する構成ではなく、課題解決のための具体的手段の微差でしかない。
(平成27年12月22日付け上申書3頁13ないし20行)

カ 本件明細書の段落番号「0029」に記載された『複数枚のモルタル塗り外壁通気層形成部材1の重ね合わせ時に作業性を損なわない。』との記載は、甲第12号証(特開2010-275731号公報)の図3、6、8の他、段落「0007」の記載等から出願時の技術常識として知られた事項である。つまり、『逆台形型の凹溝条』部を設けて、前記『逆台形型の凹溝条』部を複数重ね合わせる技術は、本件の出願前に周知である。
(平成27年12月22日付け上申書3頁34ないし末行)

(2)無効理由2について
ア 被請求人による今般の訂正請求事項中の要部である「前記通気胴縁部は、該通気胴縁部の上面の幅が、該通気胴縁部の底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形とされ」との記載に認められる「およそ」の語は、「ほぼ」或いは「多分」等の意味を表す、誠に意味が曖昧な用語である。また、「1.3倍以上」の記載中の「以上」の語は、「1.3倍を含んで、無限大まで」を意味する用語であり、上限の臨界値が示されていない。
よって、被請求人に依る今般の訂正請求事項を極論すれば、正に、特許法第36条第6項第2号に規定する「特許を受けようとする発明が明確であること。」という特許要件を満たさない不適法の訂正と言わねばならない。即ち、通気胴縁部の「逆台形状」という形状(構成)の特定が、当業者にとって全く意味不明ないし不明瞭な記載への訂正であり、特許法第36条第6項2号に規定された「特許を受けようとする発明が明確であること」の特許要件に違反する結果になる。
(平成27年11月9日付け口頭審理陳述要領書3頁5ないし16行を参照。)

イ 「およそ1.3倍以上」と記載した場合に、「およそ」が「1.3倍」にかかっているのか、「以上」にかかっているのかが曖昧である。
(平成27年12月22日付け上申書4頁9ないし10行)

第6 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件訂正を認める、本件無効審判の請求は認められない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張する無効理由にはいずれも理由がない旨主張し、証拠方法として乙第1号証ないし乙第17号証を提出している。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

乙第1号証:特開2007-247297号公報
乙第2号証:特開平5-321272号公報
乙第3号証:特許第5177826号(本件特許)の出願時に提出した図面の図1を拡大して新たに作成した図面
乙第4号証:各隅部にRが付けられた金型が用いられることを説明する説明図
乙第5号証:特許第5177826号(本件特許)の出願時に提出した図面の図1を拡大して新たに作成し、取付の状態を説明した図面
乙第6号証:断面係数Zの値を「半円」の場合と「台形」の場合とで比較した説明図
乙第7号証:「明細書及び特許請求の範囲の記載要件の改訂審査基準」の該当部分の抜粋
乙第8号証:特許第5668045号公報の特許請求の範囲の抜粋
乙第9号証:特許第5464944号公報の特許請求の範囲の抜粋
乙第10号証:特許第5301337号公報の特許請求の範囲の抜粋
乙第11号証:リブラスに通気胴縁部をプレス成形したときの亀裂状態を説明する説明図
乙第12号証:リブラス材に形成した「通気胴縁部」の継ぎ目における重ね合わせ状態を説明する説明図
乙第13号証:外壁通気層形成部材の重ね合わせ部分説明図
乙第14号証:乙第13号証の図における拡大部Aと拡大部Bの説明図
乙第15号証:プレスストレスの分散を説明する説明図
乙第16号証:溝条リブの底面を説明する説明図
乙第17号証:継ぎ目における重ね合わせの長さを説明する説明資料

3 被請求人の具体的な主張
(1)無効理由1について
ア 本発明の通気胴縁部は、「底面が平面とされ、上方に向かって斜めに拡開した逆台形型の凹溝条をなし、該凹溝条の各隅部(4つ)がRを設けて形成されてなり、上面の幅が底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形とされる」ものである。
特に、『逆台形型』の『凹溝条』をなす『通気胴縁部』の上面と底面の各幅の比率について、上記のような比率の逆台形とされる通気胴縁部であれば、『複数枚のモルタル塗り外壁通気層形成部材1の重ね合わせ時に作業性を損なわない。』(本特許明細書、段落0029)という特別の効果が発揮されるのである。
これは、審決取消訴訟における裁判官殿も指摘したところであり、「通気胴縁部の上面の幅が底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形」との比率の逆台形の形状とすることにより、「凹溝条」をなす「通気胴縁部」が「逆台形型」の形状を有することに係る特別の効果と言うことが出来る(平成26年(行ケ)第10241号判決第32頁(イ)参照)。
これに対し、先願発明では、係る構成は全く記載されておらず、示唆もされてはいない。よって本件特許発明と先願発明とは実質的に同一の発明と言うことは出来ない。
(平成27年11月20日付け口頭審理陳述要領書4頁1ないし23行)

イ 「通気胴縁部」の形成は、プレス成形にて、構造躯体への取り付けの際に接する溝条リブの底面が、ラス固定用ステープルガンの銃口が容易に入ってステープルを打ち付けられるよう、凹溝条をなす溝条リブの凹形状両側面をもプレスし、拡開するよう折り曲げての平面としてあり、通気胴縁部は、上方に向かって斜めに拡開し、逆台形型の凹溝条をなすように形成してある(乙第16号証参照)。
(平成28年3月25日付け上申書3頁10ないし15行)

ウ 本件訂正発明では、通気胴縁部となる凹溝条の各隅部に、前記溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止すべくプレス成形時でのプレスストレスを分散出来るRを、積極的につけるべく、所定の金型(金型の各隅部にRをつけ、丸みを持たせた金型:乙第4号証)を用い、プレス成形し、形成しているのである。
これに対し、先願発明では、半円形状をなす凹溝条の開口部両側隅部において、積極的に「R」を設けたものではない。凹溝条の各隅部に、前記溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止すべくプレスストレスを分散出来るRを、積極的につけるべく、所定の金型を用い、プレス成形して形成したのではない(乙第15号証参照)。
請求人も、凹溝条を形成する際に、必然的に「R」はつくのであるとこれまで何度も述べており、先願発明は、本件訂正発明とは異なり、凹溝条の各隅部に、前記溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止すべくプレス成形時でのプレスストレスを分散出来るRを、積極的につけるべく、所定の金型を用い、プレス成形し、形成したのではないことを認めている。
ところで、請求人が「R」がついていると主張する、先願発明の明細書に添付された図2及び図3を考察すると、図2は実施例1の図面である。すなわち、凹溝条の溝条リブを有する溝条ラス部材ではなく、平板状のラス網3に、このラス網とは別部材の横力骨2を取りつけたラス材をプレス成型し、半円状の凹溝条通気胴縁部を形成した例である。よって、網目部と横力骨とは別部材で構成されている。
本件訂正発明のように、横溝条リブを一体的に有した溝条リブラス部材を使用し、積極的に「R」を付けなければ、プレス加工した際、溝条リブの亀裂や引きちぎれ、あるいは溝条リブと網目部との連結部の引きちぎれを生じてしまい、それを防止すべくプレス成形時でのプレスストレスを分散させる必要があるのとは全く異なる。
(平成28年3月25日付け上申書5頁下から2行ないし6頁25行)

エ 本件訂正発明は、溝条リブ、しかも凹溝条をなす溝条リブを一体的に有するリブラスを用い、これを溝条リブの長手方向と略直交し、前記貼着された防水シート側に向けて略台形山状に突出させて通気胴縁部を形成するのである。
しかもこの「通気胴縁部」の形成は、プレス成形にて、構造躯体が取り付けの際に接する溝条リブの底面が、ラス固定用ステープルガンの銃口が容易に入ってステープルを打ち付けられる程溝条リブの凹形状が平たくされて平面とされ、上方に向かって斜めに拡開し、逆台形型の凹溝条をなすように形成するのである。
この様に、構造躯体が取り付けの際に接する溝条リブの底面につき、前記凹溝条を形成する両側側面をも押しつぶして平面とすることは極めて重要なのである。
プレス成形する際、凹溝条をなす溝条リブにつき、この溝条リブと略直交する方向に、金型の長手方向が一致するように設置し、該金型で形成する通気胴縁部の底面が、ラス固定用ステープルガンの銃口が容易に入ってステープルを打ち付けられる程の平面となる様、すなわち凹溝条をなす溝条リブを構成する両側面さえも押しつぶし折り曲げて凹形状を平面状にする様押圧する必要があるからである。
しかし、その様なプレス成形をすると、通常であれば溝条リブの亀裂や引きちぎれを生じさせたり、溝条リブと網目部との連結部から引きちぎれたりする可能性が高い(乙第11号証参照)。
そのため、本件訂正発明では、凹溝条の各隅部に、前記溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止すべくプレス成形時でのプレスストレスを分散出来るRを、積極的につけるべく、所定の金型を用い、プレス成形し、形成しているのである。
(平成28年3月25日付け上申書7頁10行ないし同頁下から2行)

オ 本発明の通気胴縁部は、「底面が平面とされ、」上方に向かって斜めに拡開した逆台形型の凹溝条をなして形成されている。
本件明細書の段落番号【0028】には、「なお、モルタル塗り外壁通気層形成部材1の構造躯体6への取り付ける際に接する溝条リブ2の底面は、ラス固定用の例えばステープルガンの銃口が容易に入り、しかもステープルを打ち付けられるようになるべく平面になるよう設定されている。」との記載がある。
前記記載から理解されるように、前記ステープルは、前記ステープルガンによって、「逆台形型の凹溝条」をなしている「通気胴縁部」の底面で、しかもこの「通気胴縁部」の底面と、前記溝条リブの底面とが略十字状に重なる部分(乙第5号証において符号Z)を目印にして打ち付けられる(乙第5号証参照)。
従って、このステープルが打ち付けられる部分は平面で、しかもその平面が広く形成されていることが望ましい。なぜなら、ステープルを打ち付ける箇所が平面状をなし、かつそれが広く形成されていれば、少しくらい打ち付け箇所がずれてステープルを打ち付けたとしても、問題なく構造躯体に固定することができるからである。
しかし、柱や間柱の面の幅方向中央部と通気胴縁部の平面とされた底面の略中心部分とが正確に一致しなくとも、通気胴縁部の底面が平面であれば、ある程度の誤差を吸収して、すなわち前記底面の中心部分を外してもステープルを前記の柱や間柱に確実に打ち込むことが出来るものとなる(乙第5号証参照)。
さらに、構造躯体に対しモルタル塗り外壁通気層形成部材を取り付けのために添設させたとき、その通気胴縁部の底面が平面になっていると、構造躯体の外面には、前記通気胴縁部の底面が面で接触するため、摩擦抵抗が大きくなって、取り付けのための作業安定性が格段に優れるとの効果がある。
(平成27年11月20日付け口頭審理陳述要領書5頁24行ないし6頁21行)

カ 請求人は、リブについては、「本件発明のリブと、先願発明の横力骨32はともにリブと称呼されている様に、横断面は溝形である。」と主張する。
しかしながら、リブの形状について、先願発明では全く特定されていない。「横断面が溝形をなすリブ」であると、先願発明では明細書の中で特定されていないのである。
すると、先願発明において、ラス材に単に「リブラス」を使用したとのことで、先願発明と本件特許の発明との「リブラス」が実質的に同一とは決して言えるものではない。
この様に、「リブ」の形状を「断面形状が略凹溝条になるよう」構成することにより、本件特許の「連続敷設用のモルタル塗り外壁通気層形成部材」を連続敷設するとき、「通気胴縁部同士」の重ね合わせ、及び「溝条リブ同士」の重ね合わせの際に、逆台形型凹溝条をなす通気胴縁部の形状と共に、この「断面形状が略凹溝条をなす溝条リブ」の形状が重ね合わせ敷設の目印形状となるのである(甲第2号証、本件特許の特許公報第9頁、段落番号【0049】参照)。
これに対し、先願発明の「複合ラス」は、本件特許の「連続敷設用のモルタル塗り外壁通気層形成部材」のように、「重ね合わせ敷設」を全く前提にしたものではなく、その「重ね合わせ敷設」の示唆すらも全くされていない。
(平成27年11月20日付け口頭審理陳述要領書6頁30行ないし8頁9行)

キ 先願発明の「複合ラス」は、本件特許の「連続敷設用のモルタル塗り外壁通気層形成部材」のように、「重ね合わせ敷設」を全く前提にしたものではなく、その「重ね合わせ敷設」の示唆すらも全くされていない。記載されているのは、「断点(隙間)を生じさせないように隣接する複合ラス10相互間の継ぎ足し処理を順次に繰り返して行う。」と言う文言のみなのである。
(平成27年11月20日付け口頭審理陳述要領書9頁6ないし12行)

ク 請求人が提出した甲第12号証は、審理事項通知書における「上記相違点1にかかる構成の違いが設計上の微差であると主張する場合は、その根拠(凹溝状として逆台形型が技術常識である証拠等)を提示してください。」との問いに正しく答えた文献ではない。
請求人が提出したのは、溝条リブを有するラス網において前記リブの溝が凹溝条として逆台形型になっている例で、問いに対し当を得た先行技術文献ではない。
(平成27年11月20日付け口頭審理陳述要領書10頁22ないし末行)

(2)無効理由2について
ア 通気胴縁部の形状などが「逆台形型をなす凹溝条」、「その上面の幅が、該通気胴縁部の底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形とされ、」という文言によって、たとえ「およそ1.3倍以上」という文言があったとしても、発明の範囲が不明確にはならないのである。
なぜかなれば、「逆台形型をなす凹溝条」「逆台形」という文言で形状が決定されているからである。すなわち、1.3倍以上の比率にした結果、「逆台形型をなす凹溝条」から外れた形状になったり、「逆台形」の形状から外れた場合には、「逆台形型をなす凹溝条」「逆台形」という構成要件から外れたものとなるからである。
すなわち、「およそ1.3倍以上」という文言があったとしても、「およそ1.3倍以上」の比率にした結果、「逆台形型をなす凹溝条」の形状でなくなったり、あるいは「逆台形」という形状でなくなった場合まで含むものではないのである。
(平成27年11月20日付け口頭審理陳述要領書3頁10ないし23行)

イ 「およそ」の文言の意味であるが広辞苑第三版によると「およそ」とは「だいたい」との意味であると記載されている。
よって、「およそ1.3」倍以上」に使用されている「およそ」を「だいたい」に置き換えてみると、「だいたい1.3倍以上」ということになる。
従って、この「だいたい」の意味からすると、「だいたい1.3倍以上」というのは、「1.3倍」よりあまり遠くない倍率までを含むと判断できるのである。
(平成27年12月14日付け上申書2頁17ないし25行)

第7 当審の判断
1 甲各号証の記載
(1)甲第5号証の3
ア 甲第5号証の3は、特願2011-217382号(以下「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「先願当初明細書等」という。)の写しである。
先願の出願の日は、平成23年9月30日であって、本件特許の出願の日である平成24年3月6日よりも前である。また、先願の特許掲載公報(甲第5号証の1)の発行日は、平成25年4月10日であって、本件特許の出願の日よりも後である。
そして、本件特許の発明者は、先願の発明者と同一ではなく、本件特許の出願時の出願人と先願の出願人も同一ではない。

イ 先願当初明細書等には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】
縦方向の間隔をあけて横向き方向へ配置された複数本の横力骨を備えたラス網と、及び前記ラス網の背面に裏打ちされた防水紙とから成り、
前記横力骨を備えたラス網と防水紙を表面側から背面側へ凹溝状に突出させた突条部が、前記横力骨と同方向に一定の間隔をあけて、同横力骨とは直交する縦向き方向に複数本形成されている構成を特徴とする、複合ラス。
【請求項2】
当該複合ラスを構成する前記横力骨を備えたラス網と防水紙は止着材により結合して一体化されている構成を特徴とする、請求項1に記載した複合ラス。
【請求項3】
前記突条部には、横力骨と同方向のへ通気路を確保するため、表面側へ押し戻した凹部が断続的に設けられている構成を特徴とする、請求項1又は2に記載した複合ラス。
【請求項4】
前記凹部は、隣接する横力骨と横力骨との間の中央部位に設けられていることを特徴とする、請求項3に記載した複合ラス。
【請求項5】
縦方向の間隔をあけて横向き方向に配置された複数本の横力骨を備えたラス網の背面に防水紙を裏打ちして平板状の複合ラス素材を製造し、しかる後に前記複合ラス素材の横力骨2とラス網3及び防止紙5を合一に、裏面側へ凹溝状に突出させた突条部を、横力骨と同方向へ一定の間隔をあけて縦向き方向に複数形成し、
しかる後に、隣接する横力骨と横力骨の間の突条部の一部を、前記の如く突出させた方向とは反対側へ押し戻した通気路を形成することを特徴とする、複合ラスの製造方法。
【請求項6】
複合ラスの突条部の頂部を、建築物の躯体を構成する柱及び間柱へ取り付けた外壁パネルへ当接させ、その当接箇所を固定具で固定することにより、外壁パネルと複合ラスとの間に通気層を形成した複合ラスの張設を行い、
前記のように張設した複合ラスの表面側へモルタルを塗着してモルタル壁を形成することを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載した複合ラスを用いた外壁通気構造。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
この発明は、建築物のモルタル外壁を構築する目的で使用する複合ラスと、同複合ラスの製造方法、並びに前記複合ラスを用いて構築するモルタル外壁通気構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
建築物の外壁構造は、外壁の中に雨水や湿気などの水分が浸入すると、該水分が滞留し、……耐久性に悪影響を及ぼすという問題点が指摘されている。また、近年、建築物の高気密化および高断熱化が進み、建築物外壁の内外に大きい温度差が生じることに起因して、外壁内部で結露が生じる問題も指摘されている。
そのため、前記水分や結露の問題を解消するべく、モルタル外壁の内部には通気層を形成する施工法(外壁通気工法)の需要が増大している。」

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
……建築物の外壁パネルの内側に縦方向の胴縁を所定間隔をあけて取り付け、この胴縁にラスを貼って通気層を形成する構成がこれまでの一般的な通気工法であった。
【0007】
上記特許文献2(審決注:特開2008-9544号公報、【0005】)の図1?図3には、胴縁を用いない発明が開示されている。具体的には、防水シートとラスと通気部材とを一体化した建築物外壁用下地材を提案し、建築物の躯体を組み立てた後に、前記外壁用下地材(ラス)の取り付け工程を行うと通気層を形成できる構成が開示されている。
この特許文献2に係る建築物外壁用下地材によれば、胴縁の取り付け工程を省略できるので、工期の短縮化を図ることはできる。しかしながら、通気層を形成するためには別途通気部材を必要とする。
【0008】
本発明の目的は、……複合ラスを更に改良して、通気層を形成するために胴縁や通気部材等を用いる必要を一切なくし、複合ラスの取り付け工程を行うことのみで通気層を形成することができ、経済性と作業性(施工性)に優れた複合ラスを提供し、更に同複合ラスの製造方法、並びに前記複合ラスを用いたモルタル外壁通気構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る複合ラス10は、縦方向へ間隔をあけて横向き方向へ配置された複数本の横力骨2を備えたラス網3と、及び前記ラス網3の背面に裏打ちされた防水紙5とから成り、前記横力骨2を備えたラス網3と防水紙5を表面側から背面側へ凹溝状に突出させた突条部10aが、前記横力骨2と同方向に一定の間隔をあけて、同横力骨2とは直交する縦向き方向に複数本形成されている構成を特徴とする。」

(エ)「【発明の効果】
【0015】
請求項1?4に記載した発明に係る複合ラス10若しくは20又は30は、縦方向に間隔をあけて配置された横力骨2を備えたラス網3と、該ラス網3の背面に裏打ちされた防水紙5とで構成し、前記横力骨2とラス網3及び防水紙5を合一に表面側から裏面側へ凹溝状に突出(又は膨出)させた突条部10aを、前記横力骨2と同方向に一定の間隔をあけて、同横力骨2とは直交する縦向き方向に形成しているので、この複合ラス10を請求項6に記載した発明のように、各突条部10aの頂部を、建築物の躯体を構成する柱11及び間柱12へ取り付けた外壁パネル13と当接させ、その当接箇所を固定具6で固定することにより、外壁パネル13と複合ラス10(の防水紙5)との間に通気層7を形成できる。よって、同複合ラス10の表面側へモルタル9を塗着することにより、前記通気層7を通気構造に形成したモルタル外壁を構築できる。つまり、胴縁を必要とせず、また、複合ラスに特別な棒状の通気部材を取り付ける必要もない。従って、経済性および作業性に優れた複合ラスを提供できる。要するに、本発明の複合ラス10を用いると、モルタル外壁に一定の通気構造(通気層7)を確実に十分に形成することができる。
また、モルタル外壁に通気層7を形成するための胴縁や通気部材等の部材を用いる必要がない分だけ、建築物の躯体を組み立てる手間と材料を省ける。その上、本発明の複合ラスは、外壁パネル13へ取り付ける工程を行うだけで、同時に通気層7を形成できる便利さが在る。」

(オ) 「【実施例1】
【0019】
次に、先ず本発明による複合ラスの実施例を図面に基づいて説明する。
図1と図2は、本発明による複合ラス10の実施例1を示している。この複合ラス10は、モルタル外壁の通気構造を構築するに際し、モルタル塗着作業に先立って、建築物の躯体を構成する外壁パネル13へ取り付けて張設される。
実施例1の複合ラス10は、図5に主な構成要素を関係配置に分離して示した通り、縦方向(図5の上下方向)に間隔をあけて横向き方向(図の左右方向)に配設した複数本の横力骨2と、前記横力骨2へ接合されたラス網3と、該ラス網3の背面に裏打ちされた防水紙5とで、先ずは図4に示した平板状の複合ラス素材10’が構成される。
その上で、前記複合ラス素材10’を構成する横力骨2及びラス網3並びに防水紙5を合一に等しく裏面側へ凹溝状に突出させる加工を行って、図1A,Bに示すように、横力骨2と同一方向に一定の間隔をあけた配置で平行に並ぶ突条部10aが、横力骨2とは直交する縦向き方向に多数形成されている。……
【0020】
上記の突条部10aは、図1Bに示したように、建築物の躯体を構成する柱11及び間柱12の設置間隔(通常、455mmピッチ程度)と一致する間隔で設けられる。ちなみに本実施例では、図1(B)に示した前記柱11と間柱12の間の中央部位にも、さらに一つの突条部10aを設けた構成(即ち、227.5mmピッチ程度)の設置間隔で実施されている。
因みに、上記突条部10aの高さ寸法(図2の符号H参照)は、モルタル外壁内に通気層7を形成するのに適正な高さとし、図示の実施例ではH=15mm程度に形成されている。また、突条部10aの間口幅(図2,図3に示したD寸法)は20mm程度の大きさとされている。ただし、突条部10aの高さ寸法H、及び間口幅Dの大きさは、前記した寸法例には限定されない。モルタル外壁の構造設計に応じて適宜に変更して実施することが可能である。」

(カ)「【0023】
上記の横力骨2には、直径1?2mm程度の鋼線材、或いは腐食に強い亜鉛めっき材を使用している。ラス網3は、板厚が0.6?0.8mm程度の鋼板から製作されている。もっとも前記ラス網3には、鋼線材から成る斜め状又は格子状のワイヤラスを使用することもできる。
ちなみに、横力骨2を縦方向(図の上下方向)へ並列に配置する間隔としては、隣接する2本の横力骨2、2を150mm程度の間隔をあけている。但し、前記大きさの間隔には限定されず、モルタル外壁の構造設計に応じて適宜変更して実施可能である。
横力骨2、2を上記の間隔で実施する意義は、横力骨2に防水紙5の形状を保持させるためである。横力骨2がモルタル塗着時の押圧力に対して効果的に抵抗するので、防水紙5、ひいては突条部10aの不用意な変形を防止して、適正なモルタル塗着量でモルタル外壁を経済的に構築することを目的としている。」

(キ)「【0026】
次に、上記した構成に製造された複合ラス10を用いる外壁通気構造は、大要、下記する工程により実施される。……
……柱11と間柱12の配置間隔に対応するように、複合ラス10の突条部10aの位置合わせを、例えば図1Bのように行う。そして、図3に示したように、複合ラス10の各突条部10aの頂部を外壁パネル13へ当接させ、その各当接箇所を、ステープル等の固定具6で固定して複合ラス10を取り付け張設する。この複合、複合ラス10の張設作業は、後のモルタル塗着作業に必要な全範囲にわたり、特にラス網3の断点(隙間)を生じさせないように隣接する複合ラス10相互間の継ぎ足し処理を順次に繰り返して行う。
こうして複合ラス10の張設作業を完成した後に、外壁パネル13へ張設した前記複合ラス10の表面側へモルタル9を塗着してモルタル外壁が構築される。防水紙5で背面を遮断された複合ラス10と外壁パネル13との隙間が、通気層7として形成される。……」

(ク)「【実施例3】
【0031】
図9(A)、(B)は、本発明による複合ラスの実施例3を示している。
本実施例3の複合ラス30は、上記実施例1に説明した複合ラス10と対比した場合、構成の大部分は共通する。但し、本実施例3の特徴は、上記実施例1のラス網3に代えて、リブラス34を採用した点にある。リブラス34は、図9Aの上下方向に間隔を開けて横方向(図9Aの左右方向)に配置される横力骨32(リブ)と、前記横力骨32と32の間に形成された網目部33とで構成されている。
本実施例3の複合ラス30も、上記の各実施例と同様、横力骨32を備えたリブラス34の背面に防水紙5を裏打ちして先ずは平板状の複合ラス素材を構成する。防水紙5の裏打ちは、例えばホッチキス(登録商標)又はこれに類似の工具が打ち出す止め針により、若しくは接着剤等により止め付ける手段で行われる。
こうして製造した平板状の複合ラス素材について、前記横力骨32を備えたリブラス34と防水紙5を合一に等しく裏面側へ凹溝状に突出させるプレス加工等を行うことにより、図9A,Bに示した通り、横力骨32と同一方向に一定の間隔をあけて、横力骨32と直交する縦向き方向に平行に並ぶ突条部10aを多数形成された複合ラス30ができあがる。
【0032】
本実施例3の複合ラス30を用いたモルタル外壁の通気構造も、通気層7を形成するために胴縁や通気部材等の部材を用いる必要がなく、複合ラス30を単に外壁パネル13へ取り付けて張設する作業を行うだけで、外壁パネル13と複合ラス30との間に、横方向に隣接する縦向きの突条部10aによって通気層7を一定の形状、大きさに形成することができる。……
【0033】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではない。本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。」

(ケ)上記(ク)の「本実施例3の特徴は、上記実施例1のラス網3に代えて、リブラス34を採用した点にある。」及び「本実施例3の複合ラス30を用いたモルタル外壁の通気構造も、……複合ラス30を単に外壁パネル13へ取り付けて張設する作業を行うだけで、外壁パネル13と複合ラス30との間に、横方向に隣接する縦向きの突条部10aによって通気層7を……形成することができる。」の記載に照らせば、実施例3の複合ラス30は、実施例1の複合ラス10と同様のやり方で張設作業を行うものと認められる。

(コ)上記(ア)ないし(ク)によれば、先願当初明細書等には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

「建築物のモルタル外壁を構築する目的で使用する複合ラスであって、
水平方向に延びる、上下方向に間隔をあけて配置された複数本の横力骨32(リブ)と、前記横力骨32と32の間に形成された網目部33とで構成したリブラス34と、リブラス34の背面に防水紙5を裏打ちして平板状の複合ラス素材が構成されるとともに、防水紙5の裏打ちは、接着剤等により止め付ける手段で行われ、
複合ラス素材は、前記横力骨32を備えたリブラス34と防水紙5を合一に等しく裏面側へ凹溝状に突出させるプレス加工等を行うことにより、突条部10aが多数形成された複合ラス30ができあがり、突条部10aが、横力骨32(リブ)の長手方向と略直交しており、各突条部10aの頂部を、建築物の躯体を構成する柱11及び間柱12へ取り付けた外壁パネル13と当接させ、その当接箇所を固定具6で固定することにより、外壁パネル13と複合ラスとの間に通気層を形成でき、
複合ラスの張設作業は、後のモルタル塗着作業に必要な全範囲にわたり、隙間を生じさせないように隣接する複合ラス相互間の継ぎ足し処理を順次に繰り返して行う、複合ラス。」

(サ)そして、上記(ア)ないし(ケ)によれば、先願当初明細書等には、先願発明につき、以下のとおり開示されていることが認められる。
a 外壁内部の結露等を防ぐために、モルタル外壁の内部に通気層を形成する施工法(外壁通気工法)の需要が増大しているところ、従来の一般的な通気工法は、建築物の外壁パネルの内側に縦方向の胴縁を所定間隔をあけて取り付け、この胴縁にラスを貼って通気層を形成するというものである。胴縁を用いずに通気層を形成する構成も開示されていたが、同構成は、建築物の躯体を組み立てた後、防水シートとラスと通気部材とを一体化した建築物外壁用下地材(ラス)を取り付けることによって通気層を形成するというものであり、したがって、防水シートとラスのほか、通気層を形成するための通気部材を要した。先願発明は、これらの従来技術のように胴縁や通気部材等の別部材を用いることなく、通気層を形成する構成の提供を目的とするものである(【0002】、【0006】ないし【0008】)。
b 本件先願発明は、上下方向に間隔をあけて横方向に配置される横力骨32(リブ)と、前記横力骨32と32の間に形成された網目部33とでリブラス34を構成し、さらに、この背面に防水紙5を裏打ちして平板状の複合ラス素材を構成して、リブラス34と防水紙5を合一に等しく裏面側へ凹溝状に突出させるプレス加工等を行うことにより、横力骨32と同一方向に一定の間隔をあけて、横力骨32と直交する縦向き方向に平行に並ぶ突条部10aが多数形成された複合ラス30を構成した。そして、複合ラス30を建築物の躯体に取り付けるに当たり、各突条部10aの頂部を建築物の外壁パネル13と当接させてその当接箇所を固定具6で固定し、外壁パネル13と複合ラス10(の防水紙5)との間に、通気層7を形成するという構成を採用した(【請求項1】、【請求項6】、【0009】、【0015】、【0019】、【0031】、【0032】、図1から図5、図9)。
これにより、先願発明は、胴縁も、別途の通気部材も要することなく、通気層を形成できるという効果を奏する(【0032】)。

(2)甲第6号証の1
先願の出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証の1には、次の事項が記載されている。

ア 「1.適用範囲 この規格は,左官工事の塗下地及びコンクリートの下地に使用するメタルラスについて規定する。」(1頁4行)

イ 「2.種類 メタルラスは,平ラス・こぶラス・波形ラス及びリブラスの4種類に区分する。」(1頁8行)

ウ 「呼び方・形状・寸法及び質量 メタルラスの呼び方・形状・寸法及び質量は,次の図1及び表1による。」(1頁10行)

エ 図1右下の「リブラス」の図をみると、リブラスの両側に形成されたリブが、断面形状が略凹溝状の溝条リブであることがみてとれる。

(3)甲第6号証の2
先願の出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証の2には、次の事項が記載されている。

ア 「a.適用範囲
(1)木造および鉄鋼造建築物の内外壁を対象としたラス系下地を留め付ける工事に適用する。木造においては,直張り工法および通気工法,鉄骨造においては直張り工法とする。
……
(3)ラスと下地の組み合わせは,表4.5.1による。」(147頁「4.5ラス系下地」の項の枠囲み内1ないし7行)

イ 147頁の表4.5.1によると、リブラスが木造の直張り工法、通気工法二層下地工法、通気工法単層下地工法の外装下地に適用可能であることが理解できる。

ウ 149頁の「解説図4.5.1各種ラスの形状例」の「リブラス(異形ラス)」の図をみると、リブラスの両側及び中央に形成されたリブが、断面形状が略凹溝状の溝条リブであることがみてとれる。

(4)甲第7号証の1
先願の出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証の1には、次の事項が記載されている。

「山形のリブが付いているメタルラスで,鉄骨造などに塗下地として取り付けられる。」(291頁「リブラスしたじ」の項)

(5)甲第7号証の2
先願の出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証の2には、次の事項が記載されている。

「10cm前後の間隔で山形のリブが入ったメタルラス。リブラスも一枚の薄鋼板を加工してつくられる。JIS A 5505。」(366頁「リブラス」の項)。

(6)甲第8号証の1
先願の出願日前に頒布された刊行物である甲第8号証の1には、次の事項が記載されている。

「……第2ローラ7,8はそれぞれその周面に山形突条部9と山形凹条部10を設けてあり、互に喰込むように転動していて、これに送込まれた素材板の平坦部11を丁度この喰込部にて圧搾しつつ送出し、長手方向に山形隆起部12を形成する。第3ローラ13は周面に第2ローラと同じ形状の山形突条部と山形凹条部を設けたローラであるが、ローラの全長をこれより延長して、第2ローラで形成された隆起部12をこれに嵌合するごとくして誘導し、第2ローラ7,8と第3ローラ13間において上記切込溝を次第に横方向に展開して網状に形成する。しかして、第2ローラ7,8と第3ローラ13間には、第6図に示すごとく山形突条部14と山形凹条部15を設けた雄型16と雌型17の案内路を配置してこれに沿うて誘導するごとくし、網状板に無理な展開を起こさないようにしてある。かく18のごとく完成したラスを矢bの方向に巻込み連続して無端ラスを製出する。」(1頁右欄1ないし17行)

(7)甲第8号証の2
先願の出願日前に頒布された刊行物である甲第8号証の2には、次の事項が記載されている。

ア 「【0002】
建造物等の壁構造の外壁を施工する方法として,メタルラス(日本工業規格A5505)やエキスパンドメタル(日本工業規格G3351)等のラス材を用いたラスモルタル工法が従来から採用されている。……
【0003】
上記ラスモルタル工法においては,上記ラス材は壁構造に使用されるモルタル等の外装材の付着性,又は上記外壁若しくは壁構造の剛性を高めるために用いられる。このラス材の一例として,……図4に示されるリブラス110(日本工業規格A5505)が周知である。
ここで,図4を用いて,上記リブラス110について簡単に説明する。図4に示すように,上記リブラス110は,金属板等からなる複数の板金状の補強リブ111が所定間隔P2を隔てて平行に設けられた形状をしている。……」

イ 図4をみると、リブラスの補強リブ111が、断面形状が略V字状の溝条リブであることがみてとれる。

(8)甲第9号証
ア 甲第9号証の1頁右及び2頁には、「イ、JIS表示およびラベル」と記載され、当該記載の右方には、メタルラスに付けられるタグの図が記載されており、当該タグには、「日本工業規格品」、「規格番号 A5505」等の記載とともに、「製造年 昭和 年」の記載がある。そして、当該「製造年 昭和 年」との記載において、年号が「昭和」であることからみて、甲第9号証は少なくとも昭和年代、すなわち先願の出願日前に頒布されたものと推認できる。なお、被請求人は、甲第9号証の発行時期について争っていない。

イ 甲第9号証には、次の事項が記載されている。

(ア)「一 まえがき
……防火を目的とするラスモルタルも、単なる外壁材の意識のみで使用されている面があり、より耐震的な帳壁の実現のためにも実際の設計、施工にあたって十分な検討がなされることが必要であります。
この施工要領書は、このような木造下地外壁に最も相応しいラスモルタル工事の品質基準を確保するための、有効かつわかり易い手引きとなることを念願して作成しました。」(1頁1ないし10行)

(イ)「(2)継ぎ目の重ね方
イ、たて重ね
平ラスは長手方向の端部を、波形ラスは各波を50mm以上重ね、不陸のないように張って下さい。また重ね部分は必ず下地の上になるようにして下さい。」(5頁22ないし28行)

(イ)「ロ、よこ重ね
平ラスは50mm以上、波形ラスは波山を重ねて下さい」(5頁29ないし末行)

(ウ)5頁右最下段の図をみると、「波一つ重ねる」との記載とともに、波形ラスの継ぎ目において、端部の波一つが重ねられている様子がみてとれる。

(9)甲第10号証
先願の出願日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、次の事項が記載されている。

ア 「1.適用範囲 この規格は,左官工事の塗下地及びコンクリートの下地に使用するメタルラスについて規定する。」(892頁4行)

イ 「2.種類 メタルラスは,平ラス・こぶラス・波形ラス及びリブラスの4種類に区分する。」(892頁8行)

ウ 「呼び方・形状・寸法及び質量 メタルラスの呼び方・形状・寸法及び質量は,次の図1及び表1による。」(892頁10行)」

エ 図1右下の「リブラス」の図をみると、リブラスの両側に形成されたリブが、断面形状が略凹溝状の溝条リブであることがみてとれる。

(10)甲第11号証
甲第11号証には、次の事項が記載されている。

ア 「長手方向の継ぎ目の重ねは90?100mmとし、浮き上がりや、たるみのない様に張る。」(7頁「継目の重ね方」の欄)

イ 「波形ラスは各波毎に、リブラスは各リブ毎に50mm以上重ね不陸のない様に張る」(7頁「継目の重ね方」の欄)

ウ 7頁「継目の重ね方」の欄の「波形ラス」の断面図をみると、「波一つ重ねる」との記載とともに、波形ラスの継ぎ目において端部の波一つが重ねられている様子がみてとれる。

エ 7頁「継目の重ね方」の欄の「リブラス」の図をみると、「リブ1山重ねとする」との記載とともに、リブラスの継ぎ目において端部のリブ1山が重ねられている様子が記載されている。

(11)甲第12号証
先願の出願日前に頒布された刊行物である甲第12号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0005】
……従来、壁体内通気工法では、防水シート付ラス網60のラス網として、図6に示すように、縦方向の所定間隔ごとに網目を有さない板状の凸状リブ72を幅方向に沿って形成したラス網(リブラス)74が使用されている。このラス網74は、上記凸状リブ72によって強度を向上させ、モルタルの塗布時にラス網に加わる圧力によってラス網が変形することを防止するものである。上記凸状リブ72は、金属板の加工時に板状部分を残し、この板状部分を折り曲げ加工することによって形成されている。なお、図6において、76は網部を示す。……
【0007】
しかし、壁体内通気工法において、防水シート付ラス網のラス網として、図6に示した板状の凸状リブを有するラス網を用いた場合、下記(a)?(f)の問題が生じることがあった。
(a)板状の凸状リブを有するため、このリブの背面にモルタルが回り込まず、リブの背面にモルタルが十分に充填されない。特に、ラス網の重ね部ではこの不具合が顕著となる。すなわち、壁体内通気工法では、図7に示すように、防水シート付ラス網60の端部を重ね合わせた状態で防水シート付ラス網60を胴縁58に固定する。そのため、ラス網が2枚重なった部分78や、3枚重なった部分80が生じる。そうすると、図8に示すように、重なったリブ72の背面にモルタル62が回り込まない部分82が生じ、所定のモルタル塗り厚を満たさない部分84が生じる。図8ではリブが3枚重なった部分を示したが、2枚重なった部分および重なっていない部分でも、同様に所定のモルタル塗り厚を満たさない部分が生じる。」

イ 上記アの記載を踏まえて図6ないし図8をみると、リブラス74の凸状リブ72が逆台形型の凹溝条であること、及びリブラス74の重ね部では、凸状リブ72同士が重ね合わされて、ラス留め具(ステープル)92により胴縁58に固定されていることがみてとれる。

2 無効理由1について
(1)対比
本件訂正発明と先願発明とを対比する。

ア 先願発明の「建築物のモルタル外壁を構築する目的で使用する複合ラス」は、「複合ラスの各突条部10aの頂部を、建築物の躯体を構成する柱11及び間柱12へ取り付けた外壁パネル13と当接させ、その当接箇所を固定具6で固定することにより、外壁パネル13と複合ラスとの間に通気層を形成できる」ものであるから、本件訂正発明の「建物の構造躯体室外側に敷設される」「建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材」に相当する。
また、先願発明の「複合ラス」は、「張設作業」において、「後のモルタル塗着作業に必要な全範囲にわたり、隙間を生じさせないように隣接する複合ラス相互間の継ぎ足し処理を順次に繰り返して行う」ものであるから、「連続敷設用」のものといえる。

イ 先願発明の「水平方向に延びる、上下方向に間隔をあけて配置された複数本」の「横力骨32(リブ)」と、本件訂正発明の「水平方向に延びる」、「間隔をあけて複数設けられ」た「断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブ」とは、「水平方向に延びる、間隔をあけて複数設けられたリブ」である点で共通する。

ウ 先願発明の「前記横力骨32と32の間に形成された網目部33」は、本件訂正発明の「前記溝条リブ間」に「形成された」「網目部」に相当し、
以下同様に、「リブラス34」は、「ラス材」に、「『接着剤等により止め付ける手段』で『裏打ち』される『防水紙5』」は、「該ラス材の一面側に貼着された防水シート」に、「通気層」は、「通気層用空間」に、それぞれ相当する。

エ 本件訂正発明の「通気胴縁部」は、「隣り合う」「通気胴縁部間の谷部」が「通気層用空間」とされるものであるところ、先願発明の「突条部10a」は、「各突条部10aの頂部を、建築物の躯体を構成する柱11及び間柱12へ取り付けた外壁パネル13と当接させ、その当接箇所を固定具6で固定することにより、外壁パネル13と複合ラスとの間に通気層を形成」するものであって、「通気層」は隣り合う「突条部10a」の谷部に形成されるから、先願発明の「突条部10a」は、「通気胴縁部」であるといえる。
そして、先願発明の「リブラス34と防水紙5を合一に等しく裏面側へ凹溝状に突出させるプレス加工等を行うことにより」、「多数形成され」、「横力骨32(リブ)の長手方向と略直交」する「突条部10a」と、
本件訂正発明の「前記溝条リブの長手方向に向かって」、「間隔をあけて複数設けられ」た、「該溝条リブの長手方向と略直交し、前記貼着された防水シート側に向けて略台形山状に突出させて形成された、前記断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブ底面が、ステープルを打ち付けられる平面とされ、上方に向かって斜めに拡開し、逆台形型の凹溝条をなし、該凹溝条の各隅部には、前記溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止すべくプレスストレスを分散出来る様プレス成形時にRをつけてプレスストレスベクトルを多数の角度に分散して形成されてな」り、「上面の幅」が「底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形とされ」た「通気胴縁部」とは、
「リブの長手方向に向かって」、「間隔をあけて複数設けられ」、「該リブの長手方向と略直交し、前記貼着された防水シート側に向けて突出させて形成された」「凹溝条」をなす「通気胴縁部」である点で共通する。

オ 以上によれば、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「建物の構造躯体室外側に敷設される連続敷設用の建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材であって、
前記連続敷設用のモルタル塗り外壁通気層形成部材は、
水平方向に延びる、リブが間隔をあけて複数設けられ、前記リブ間には網目部が形成されたラス材と、該ラス材の一面側に貼着された防水シートとを有し、
前記リブの長手方向に向かっては、該リブの長手方向と略直交し、前記貼着された防水シート側に向けて突出させて形成された、凹溝条をなす通気胴縁部が、間隔をあけて複数設けられ、隣り合う前記通気胴縁部間の谷部は、通気層用空間とされた、建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材。」

カ 他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
「水平方向に延びるリブ」及び該リブの長手方向と略直交する「凹溝条をなす通気胴縁部」に関し、本件訂正発明では、「リブ」は、断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブであり、通気胴縁部において溝条リブ底面が、ステープルを打ち付けられる平面とされ、「通気胴縁部」は、略台形山状であって、上方に向かって斜めに拡開した逆台形型の凹溝条をなし、該凹溝条の各隅部には、溝状リブの亀裂や引きちぎれを防止すべくプレスストレスを分散出来る様プレス成形時にRをつけてプレスストレスベクトルを多数の角度に分散して形成されてなり、上面の幅が底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形とされて、重ね合わせ時に作業性を損なわない様形成されたのに対し、先願発明では、「リブ(横力骨32)」は、溝条リブとの特定がなく、「通気胴縁部(突条部10a)」は、凹溝条である以外の具体的な特定がない点。

<相違点2>
建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材の敷設に関し、本件訂正発明では、連続敷設時には、通気胴縁部同士及び溝条リブ同士が重ね合わせられ、逆台形型凹溝条をなす通気胴縁部の形状及び断面形状が略凹溝条をなす溝条リブの形状が重ね合わせ敷設の目印形状となるよう形成されるのに対して、先願発明では、複合ラスの張設作業は、隙間を生じさせないように隣接する複合ラス相互間の継ぎ足し処理を順次に繰り返して行うものの、通気胴縁部(突条部10a)及びリブ(横力骨32)の形状が重ね合わせ敷設の目印形状となるよう形成されているか否かが不明である点。

(2)判断
ア 相違点1について
(ア)通気胴縁部が逆台形型の凹溝条をなす点について
a 先願当初明細書等には、「凹溝条」をなす「通気胴縁部」、すなわち、「突条部10a」の具体的形状については、図1から図3及び図9において「半円形状」の「突条部10a」が描かれているのみであり、他に上記具体的形状を示す記載も図面もない。
先願発明の課題及びその解決の点からみると、上記1(1)イ(サ)によれば、モルタル塗り外壁通気工法につき、従来技術においては、建築物の外壁内に通気層を形成するに当たり、別部材を要したことから、先願発明は、別部材を用いずに通気層を形成することを課題とし、リブラスに防水シートを貼着した部材、すなわち、「平板状の複合ラス素材」において「貼着された防水シート側に向けて突出させて」「凹溝条」を形成し、「凹溝条」をなす「通気胴縁部」、すなわち、「突条部10a」を備え、その「通気胴縁部」の「凹溝条」の凸部分、すなわち、「突条部10a」の頂部を建物の外壁に当接させることによって通気層を形成することにより、別部材を用いずに通気層を形成し、前記課題を解決するものである。
この点に関し、通気層を形成するためには、「通気胴縁部」の「凹溝条」の凸部分、すなわち、「突条部10a」の頂部が建物の外壁に接することにより、「突条部10a」と「突条部10a」との間に通気層となるべき空間が形成されれば足りるといえる。このことから、従来技術の課題を解決するためには、「通気胴縁部」が凹凸部分を備えた「凹溝条」をなしていれば足り、その「凹溝条」の底が平面であるか否かなどという具体的形状は、上記課題解決の可否自体を左右する要因ではない。
そして、本件先願当初明細書等において、「半円形状」の「突条部10a」、すなわち、「半円形状」の「凹溝条」をなす「通気胴縁部」については、前記のとおり図示されているのみであり、「半円形状」とする意義については記載も示唆もされていない。
加えて、上記1(1)イ(ク)とおり、先願当細書の段落【0033】には、「以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではない。本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。」と記載されており、同記載によっても、「突条部10a」、すなわち、「凹溝条」をなす「通気胴縁部」が、先願当初明細書等に図示されている「半円形状」のものに限られないことは、明らかといえる。
以上によれば、先願当初明細書等においては、「凹溝条」をなす「通気胴縁部」、すなわち、「突条部10a」の具体的形状は限定されておらず、図示された「半円形状」のもののみならず、その他の形状のものも記載されているに等しいというべきである。
b そして、甲第12号証に記載されているように、壁体内通気工法に使用するリブラスにおいて、凸状リブを逆台形型の凹溝条とすることが先願出願日前において周知技術であり(上記1(11)を参照。)、甲第12号証の図6及び図8の記載に照らせば、上面の幅が底面の幅よりおよそ1.3倍以上との凹溝条の寸法比についても普通に採用されているものと認められることを踏まえると、先願発明において、突条部10aの形状として、略台形山状であって、底面が平面とされ、上方に向かって斜めに拡開した逆台形型の凹溝状をなし、上面の幅が底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形を採用することは、課題解決のための具体化手段における微差にすぎない。

(イ)リブの構成について
a 甲第12号証に記載されているように、壁体内通気工法に使用するリブラスにおいて、凸状リブを逆台形型の凹溝条とすること、及びリブラスの重ね部では、凸状リブ同士が重ね合わされて、ラス留め具(ステープル)により固定されることが先願出願日前において周知技術である(上記1(11)を参照。)。
b 先願の出願日前に頒布された乙第1号証には、平板状のリブとラスを交互に配置したリブラスからなる軽量気泡コンクリートパネルの補強材が記載されている。また、先願の出願日前に頒布された乙第2号証には、平板状のリブを設けたリブラスから構成した住宅基礎用のベース型枠ユニットが記載されている。
c 一方、先願当初明細書等には、「横力骨32(リブ)」の具体的形状については、何ら記載されていない。
そして、先願発明において「横力骨32(リブ)」を設けることの意義の点からみると、上記1(1)イ(カ)によれば、横力骨32(リブ)は、モルタル塗着時の押圧力に対して抵抗することにより、防水紙5、ひいては突条部10aの不用意な変形を防止して、適正なモルタル塗着量でモルタル外壁を経済的に構築することを目的とするものである。
してみれば、先願当初明細書等においては、「横力骨32(リブ)」は、上記目的を達成し得る種々の形状のものが記載されているに等しいと一応いえる。
d しかしながら、先願当初明細書等には、複合ラスの外壁パネル13への固定具6による固定は、突条部10aで行うことは記載されているが、横力骨32(リブ)で行うことは記載されておらず、また、横力骨32(リブ)を重ね合わせて継ぎ足し張設することも記載されていない。すなわち、そのような固定や継ぎ足しを考慮して、横力骨32(リブ)を選択するとの技術思想は開示されていない。
さらに、先願発明は、横力骨32(リブ)を備えたリブラス34と防水紙5を合一に等しく裏面側へ凹溝状に突出させるプレス加工等を行うことにより、突条部10aが多数形成するものであるところ、横力骨32(リブ)として断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブを採用すると、リブラス34にプレス加工により突条部10aを形成する際に、溝条リブの亀裂や引きちぎれ、あるいは溝条リブと網目部との連結部の引きちぎれを生じてしまう虞があると認められること(上記第6、3(1)ウを参照。)、及び平板状のリブを設けたリブラスが、先願発明の出願時に知られており(上記bを参照。)、先願当初明細書等に記載された実施例1において、横力骨2として、直径1?2mm程度の鋼線材又は亜鉛めっき材を使用していること(上記1(1)イ(カ)を参照。)に照らせば、平板状のリブであってもモルタル塗着時の押圧力に対して抵抗可能であると認められることを踏まえると、先願発明において、横力骨32(リブ)として断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブを採用することまでは、そもそも想定されていないというべきである。
よって、上記周知技術に照らしても、先願当初明細書等には、横力骨32(リブ)として、突条部10a(通気胴縁部)において底面がステープルを打ち付けられる平面とされた、断面形状が略凹溝条のものを設けることが実質的に記載されているとすることはできない。

(ウ)通気胴縁部の凹溝条の各隅部にRをつける点について
a 本件訂正発明において、通気胴縁部の凹溝条の各隅部にRをつける目的は、プレス成形時にプレスストレスベクトルを多数の角度に分散することにより、断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止することであって、リブの形状として、断面略凹溝条を採用したことに起因する溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止するとの課題の解決を目的とするものと認められる。
b 一方、上記(ア)のとおり、先願当初明細書等には、図示された「半円形状」のもののみならず、その他の形状のものも記載されているに等しいというべきであるところ、先願当初明細書等の図2及び図3には、「半円形状」の「突条部10a」の各隅部にRを設けることが記載されていることに鑑みると、先願当初明細書等には、「突条部10a」がその具体的形状に応じて備える個数の隅部にRを設けることが、実質上、記載されているに等しいということができる。
c しかし、先願当初明細書等には、「半円形状」の「突条部10a」の各隅部にRを設けることの意義については、何ら記載されておらず、しかも、図2及び図3に記載されたものは、横力骨2としてラス網とは別部材の鋼線材又は亜鉛めっき材を使用したものであって(上記1(1)イ(カ)を参照。)、横力骨32(リブ)を備えたリブラスではない。加えて、先願当初明細書等には、「横力骨32(リブ)」の具体的形状については明記されておらず、上記(イ)のとおり、先願発明において、横力骨32(リブ)として断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブを採用することは、そもそも想定されていない。
してみると、先願当初明細書等には、通気胴縁部の凹溝条の各隅部に、断面形状が略凹溝条に形成された溝状リブの亀裂や引きちぎれを防止すべく、プレス成形時にRをつけてプレスストレスベクトルを多数の角度に分散することが実質的に記載されているとすることはできない。
なお、仮に先願発明において、横力骨32(リブ)の形状として、略凹溝条を採用することが、課題解決のための具体化手段における微差にすぎないとしても、先願当初明細書等に実質的に記載されている「突条部10a」の隅部に設けられたRは、断面略凹溝条の溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止するとの課題の解決を目的とするものとは認められないから、先願当初明細書等には、通気胴縁部の凹溝条の各隅部に、断面形状が略凹溝条に形成された溝状リブの亀裂や引きちぎれを防止すべく、プレス成形時にRをつけてプレスストレスベクトルを多数の角度に分散することまでもが実質的に記載されているとすることはできない。
d 請求人は、補強材付きのラス網を曲げ加工した場合に、補強材の隅部は、溝状リブや鋼線材の機械的性質として周知の所謂「スプリングバック」により、R状の形態になってしまうことは、周知の事項である旨主張するが(上記第5、3(1)イを参照。)、スプリングバックにより形成される隅部のRは、プレス成形時のプレスストレスを分散するものではないから、上記請求人の主張は採用できない。
なお、溝条リブラス部材を使用しているため、プレス加工の際に、溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止すべく積極的にRを付け、プレスストレスを分散させる必要がある本件訂正発明と、先願発明とは全く異なるとの被請求人の主張(上記第6、3(1)ウを参照。)に対し、請求人は何ら反論していない。

(エ)まとめ
以上のとおりであるから、上記相違点1に係る本件訂正発明に係る構成は、先願出願時の技術常識を参酌しても、先願当初明細書等に記載されているとすることはできない。

イ 相違点2について
(ア)甲第9号証は、「YM式波形ラス」及び「YM式平ラス」を使用した「下地モルタル壁」の施工要領書であって、平ラス及び波形ラスの継ぎ目の重ね方について、たて重ねの場合、平ラスは長手方向の端部を、波形ラスは各波を50mm以上重ね、不陸のないように張ること、よこ重ねの場合は、平ラスは50mm以上、波形ラスは波山を一つ重ねることが記載されており(上記1(8)を参照。)、甲第12号証には、壁体内通気工法において、防水シート付ラス網60の端部を重ね合わせた状態で胴縁に固定する際、重ね部では凸状リブ72同士が重ね合わされることが記載されている(上記1(11)を参照。)ことに照らせば、モルタル外壁の施工において、平ラスを敷設する際は、継ぎ目部において端部を所定長さ重ね合わせ、また、波形ラスやリブラスを敷設する際は、継ぎ目部において端部を所定長さ重ね合わせるとともに、波山やリブを重ね合わせ、不陸のないように張ることは、技術常識であると認められる。
(イ)しかし、先願発明の複合ラスは、横力骨32(リブ)を備えた複合ラス素材に、さらにプレス加工等を行うことにより、突条部10aを多数形成したものであって、平ラス、波形ラス及びリブラスとは剛性等の物理的特性が異なるから、平ラス、波形ラス及びリブラスを敷設する際に、継ぎ目部において端部を所定長さ重ね合わせることが技術常識であったとしても、先願発明において、隣接する複合ラス相互間の継ぎ足し処理として、複合ラス相互を重ね合わせることが自明の事項であるとまではいえない。
そして、先願当初明細書等には、横力骨32(リブ)の具体的形状については明記されておらず、上記ア(イ)のとおり、先願当初明細書等には、外壁パネル13への固定具6による固定や横力骨32(リブ)を重ね合わせて継ぎ足すことを考慮して、横力骨32(リブ)を選択するとの技術思想は開示されておらず、先願発明において、横力骨32(リブ)として断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブを採用することは、そもそも想定されていないことをも踏まえると、先願当初明細書等には、連続敷設時に、通気胴縁部同士及び溝条リブ同士が重ね合わせられることが、実質的に記載されているとすることはできない。
(ウ)よって、上記相違点2に係る本件訂正発明に係る構成は、先願出願時の技術常識を参酌しても、先願当初明細書等に記載されているとすることはできない。

(3)小括
以上によれば、本件訂正発明は、先願当初明細書等に記載された発明と実質的に同一であるとすることはできない。

3 無効理由2について
(1)請求人の主張
請求人は、本件訂正後の請求項1の「前記通気胴縁部は、該通気胴縁部の上面の幅が、該通気胴縁部の底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形とされ」との記載に認められる「およそ」の語は、「ほぼ」或いは「多分」等の意味を表す、意味が曖昧な用語である上、当該「およそ」の語が「1.3倍」にかかっているのか、「以上」にかかっているのかが曖昧であり、また、「1.3倍以上」の記載中の「以上」の語は、「1.3倍を含んで、無限大まで」を意味する用語であり、上限の臨界値が示されていないから、特許法第36条第6項第2号に規定する「特許を受けようとする発明が明確であること。」という要件を満たさない旨主張する。

(2)判断
本件訂正後の請求項1の「通気胴縁部の上面の幅が、該通気胴縁部の底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形とされ」との記載に関し、本件訂正明細書には、「通気胴縁部5の上面の幅はその底面の幅のおよそ1.3倍以上を有す逆台形の形状をしており、複数枚のモルタル塗り外壁通気層形成部材1の重ね合わせ時に作業性を損なわないように工夫されている。」(段落【0029】)との記載がある。
そして、本件訂正明細書の上記記載に照らせば、「およそ1.3倍以上」との記載が、複数枚のモルタル塗り外壁通気層形成部材を重ね合わせた時に作業性を損なわない程度の通気胴縁部の上面の幅と底面の幅の比を意味することは明確に把握できるから、本件訂正後の請求項1に「およそ」との記載があるからといって発明の範囲が直ちに不明確になるとはいえないし、本件訂正後の請求項1には、「通気胴縁部」が「逆台形」と記載されていること、及び通気用の空間を形成するという通気胴縁部の機能をも踏まえれば、通

気胴縁部の上面の幅と底面の幅の比の妥当な上限値は自ずと定まるものと認められるから、「およそ1.3倍以上」の記載が上限値を特定していないとしても、必ずしも不明確ということにはならない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(3)小括
以上によれば、本件訂正発明は、明確でないとすることはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本件訂正発明に係る特許は、特許法第29条の2及び同法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものではなく、審判請求人の主張する無効理由によっては、本件訂正発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材及びその製造方法並びに建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラス材、特にリブラス材を用いての建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材及びその製造方法並びに建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば木造住宅のモルタル塗り外壁内には一般に所定の空間部が形成されている。そして、このモルタル塗り外壁空間部内の空気温度が、その周辺の温度との間の温度差などにより冷やされ、いわゆる露点温度以下になると、壁内の水蒸気が凝結してしまい水滴になる現象、すなわち、壁内結露を起こす可能性が高いとされている。
【0003】
この壁内結露は、カビ、腐食、錆などの原因となり、建物の耐久性を低下させたり、建物の寿命を縮めるなどの大きな影響を与えることがある。
このような状態を改善するために近年、壁体内の湿気を外部に放出する手段としていわゆるモルタル塗り外壁通気工法が開発されてきた。
【0004】
当該モルタル塗り外壁通気工法では、建物の壁体内の湿気を透湿防水シートという材料で壁を覆い、モルタル塗り外壁材との間に外気が流れる層をつくることによって、壁内の湿気を透湿防水シートから通気層を通して外部に放出する方法が採用されている。
【0005】
具体的には、例えば、前記透湿防水シートで壁を覆った後、通気胴縁を設け、該通気胴縁の上にラス網を布設して、モルタル外壁仕上げを行う。
これにより、内部結露を少なくすることができ、その結果、建物の耐久性を向上させられるとの効果が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-46361号公開公報
【特許文献2】特開2009-30232号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のモルタル塗り外壁通気工法によれば、壁内の通気層を形成するために、別部材としての通気胴縁を複数個用意し、かつそれらを順次取り付ける工事をしなければならず、もって、それによる作業コストの上昇と施工の作業手間を招来していた。
【0008】
かくして、本発明は前記従来の課題を解決するために創案されたものであって、建物壁内に通気層の形成を確実に行うことができるとともに、通気胴縁の役割を果たす通気胴縁部とリブラスが一体に形成されていることにより、別部材としての通気胴縁が不要になるため、通気胴縁の材料費及び通気胴縁を取り付ける施工手間を省くことができ、もって工期の短縮が図れ、しかも、施工が簡単にできる建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材及びその製造方法並びに建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による建物の構造躯体室外側に敷設される連続敷設用の建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材及びその製造方法並びに建物の構造躯体室外側に敷設される連続敷設用の建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法は、
前記連続敷設用のモルタル塗り外壁通気層形成部材は、
水平方向に延びる、断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブが間隔をあけて複数設けられ、前記溝条リブ間には網目部が形成されたラス材と、該ラス材の一面側に貼着された防水シートとを有し、
前記溝条リブの長手方向に向かっては、該溝条リブの長手方向と略直交し、前記貼着された防水シート側に向けて略台形山状に突出させて形成された、前記断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブ底面が、ステープルを打ち付けられる平面とされ、上方に向かって斜めに拡開し、逆台形型の凹溝条をなし、該凹溝条の各隅部には、前記溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止すべくプレスストレスを分散出来る様プレス成形時にRをつけてプレスストレスベクトルを多数の角度に分散して形成されてなる通気胴縁部が、間隔をあけて複数設けられ、隣り合う前記通気胴縁部間の谷部は、通気層用空間とされ、
前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の連続敷設時には、前記通気胴縁部同士及び前記溝条リブ同士が重ね合わせられ、前記逆台形型凹溝条をなす通気胴縁部の形状及び断面形状が略凹溝条をなす溝条リブの形状が重ね合わせ敷設の目印形状となり、前記通気胴縁部の上面の幅が、該通気胴縁部の底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形とされて、重ね合わせ時に作業性を損なわない様形成された、
ことを特徴とし、
または、
水平方向に延びる、断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブが間隔をあけて複数設けられ、前記溝条リブ間には網目部が形成されたラス材の一面側に防水シートを貼着し、各々伸び率の異なる金属鉄板材の溝条リブ、網目鉄板材の網目部からなるラス材およびシート材の防水シートを略平面状に重ねて形成素材を形成し、
形成した形成素材につき、前記防水シートが貼着されていない面から略台形山状をなす様にして、前記溝条リブと直交する略凹溝条の通気胴縁部を前記防水シート貼着面側に打ち出すべくプレス成形してなり、
前記プレス成形時には、前記略凹溝条をなす通気胴縁部の開口側隅角部分にはプレスストレスを分散出来る様にRをつけ、前記プレスストレスのベクトルを多数の角度に分散して通気胴縁部をプレス成形してなり、
前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の連続敷設時には、前記通気胴縁部同士及び前記溝条リブ同士を重ね合わせ、前記逆台形型凹溝条をなす通気胴縁部の形状及び断面形状が略凹溝条をなす溝条リブの形状が重ね合わせ敷設の目印形状となるよう形成した、
ことを特徴とし、
または、
建物の構造躯体室外側に、水平方向に延びる、断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブが間隔をあけて複数設けられ、前記溝条リブ間には網目部が形成されたラス材と、該ラス材の一面側に貼着された防水シートとを有し、前記溝条リブの長手方向に向かっては、該溝条リブの長手方向と略直交し、前記貼着された防水シート側に向けて略台形山状に突出させて形成された、底面が平面とされ、上方に向かって拡開し、逆台形型の凹溝条をなす通気胴縁部が、間隔をあけて複数設けられ、隣り合う前記通気胴縁部間の谷部は、通気層用空間とされる、モルタル塗り外壁通気層形成部材を、前記防水シート貼着面側から添接し、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材における通気胴縁部と建物躯体室外側とを止着すると共に、前記通気胴縁部間の谷部は通気層として機能させ、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の連続敷設時には、前記通気胴縁部同士及び前記溝条リブ同士を重ね合わせ、前記逆台形型凹溝条をなす通気胴縁部の形状及び断面形状が略凹溝条をなす溝条リブの形状を重ね合わせ敷設の目印形状とした、
ことを特徴とし、
または、
前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の敷設は、モルタル塗り外壁通気層形成部材の一枚目を建物のモルタル塗り外壁面下右端から敷設し、二枚目以降のモルタル塗り外壁通気層形成部材の敷設は、隣り合うモルタル塗り外壁通気層形成部材の前記通気胴縁部を重ね合わせながら左方向に連続敷設して前記モルタル塗り外壁面の一段目を形成し、
二段目形成の際には、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材を前記通気胴縁部の長さ方向に向かい、溝条リブの長手方向側の長さの半分の長さとなるように切断し、該切断したモルタル塗り外壁通気層形成部材を二段目敷設の一枚目とし、二枚目以降は、切断しないモルタル塗り外壁通気層形成部材を使用し、前記一段目におけるモルタル塗り外壁通気層形成部材のつなぎ目と二段目におけるモルタル塗り外壁通気層形成部材のつなぎ目が一直線状にならない千鳥張りとした、
ことを特徴とし、
または、
前記モルタル塗り外壁通気層形成部材を上下に敷設するときには、先に敷設された前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の通気胴縁部に、上方に敷設するモルタル塗り外壁通気層形成部材の通気胴縁部を重ね合わせて敷設する、
ことを特徴とし、
または、
建物構造躯体の室外側に貼着された透湿防水シート上に、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の前記通気胴縁部における防水シートが貼着された頂面を添接して、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材を取り付け、
前記取り付けたモルタル塗り外壁通気層形成部材の外側からモルタルを塗布して、建物のモルタル塗り外壁内に通気層を形成したモルタル塗り外壁部を形成してなり、
前記通気層が形成されたモルタル塗り外壁部の上下端面には、前記通気層の厚みを保持する機能を有すると共に、空気流入孔が設けられた通気端定木が各々取り付けられた、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明による建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材及びその製造方法並びに建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法であれば、建物壁内に通気層の形成を確実に行うことができるとともに、通気胴縁の役割を果たす通気胴縁部とリブラスが一体に形成されていることにより、通気胴縁が不要になるため、通気胴縁の材料費及び通気胴縁を取り付ける施工手間を省くことができ、工期の短縮が図れ、かつ、施工が簡単にできるとの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】
モルタル塗り外壁通気層形成部材の構成を説明する説明図である。
【図2】
本発明を適用した実施例の概略構成を説明する概略構成説明図(その1)である。
【図3】
本発明を適用した実施例の概略構成を説明する概略構成説明図(その2)である。
【図4】
本発明を適用した実施例の概略構成を説明する概略構成説明図(その3)である。
【図5】
本発明を適用した実施例の概略構成を説明する概略構成説明図(その4)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図に示す実施例に基づき説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本願発明に係るモルタル塗り外壁通気層形成部材1の構造を示す説明図である。
【0014】
モルタル塗り外壁通気層形成部材1は、間隔をあけて複数設けられた水平方向に延びる溝条リブ2と、前記溝条リブ2,2間に網目部が形成されたラス材3と、該ラス材3の一面側に貼着された防水シート4とを有して形成されている。
【0015】
ここで、防水シート4の種類について説明すると、主にポリミック紙とターポリン紙とが使用されている。ポリミック紙は、ポリエチレンシートの両面をクラフト紙でサンドイッチ状にしたもので、ターポリン紙は、アスファルト防水層の両面をクラフト紙でサンドイッチ状にして形成したものである。
双方の防水性能に違いは無いため、双方とも一般にラスの防水紙として汎用的に用いられている。
【0016】
そして、前記溝条リブ2の長手方向に向かっては、該溝条リブ2の長手方向と略直交し、前記貼着された防水シート4側に向けて略山状に突出させて形成された、例えば防水シート4側に向けて略山状に突出するよう折り曲げ加工することによって形成された凹溝条をなす通気胴縁部5が、間隔をあけて複数設けられている。
【0017】
すなわち、図2に示したとおり、モルタル塗り外壁通気層形成部材1は、水平方向に向かって略凹凸状をなす断面形状に形成されることになる。
【0018】
そして、図2から理解されるとおり、前記防水シート4側に向かって突出した略山状の凸部分が前記通気胴縁部5として機能するものとなり、本願発明におけるモルタル塗り外壁通気層形成部材1は、通気胴縁の役割を果たす通気胴縁部5とリブラスの部分が一体に形成されたものである。そして、隣り合う前記通気胴縁部5,5間に形成される谷部、換言すれば空間部は、通気層用の空間として形成されるものとなる。
【0019】
ところで、前記防水シート4側に向けて略山状に突出するよう折り曲げ加工することによって形成された凹溝条をなす通気胴縁部5が、間隔をあけて複数設けられ、図2に示したとおり、モルタル塗り外壁通気層形成部材1は、水平方向に向かって略凹凸状をなす断面形状に形成されているが、凹凸状にする際に、各々の隅部にRをつけることにより主に、リブ部の切れ防止を企図できる。
【0020】
このモルタル塗り外壁通気層形成部材1の製造方法につき説明すると、まず、水平方向に延びる溝条リブ2・・・が間隔をあけて複数設けられ、前記溝条リブ2、2間には網目部が形成されたラス材3の一面側に防水シート4を貼着し、各々伸び率の異なる金属鉄板材の溝条リブ2、網目鉄板材の網目部からなるラス材3およびシート材の防水シート4を略平面状に重ねて形成素材を形成する。
【0021】
ここで、前記防水シート4のラス材3への貼り付けは、まず、防水シート3に糊などの接着剤をつけてその上にラス材3をおき、その後一定の圧力を加えてラス材3と防水シート3の双方を一体化する。ラス材3と防水シート3を一緒に重ねた状態で所定の位置におき、ステッチングなどにより双方を縫合する方法もある。
【0022】
しかして、前記形成した形成素材につき、前記防水シート4が貼着されていない面側から前記溝条リブ2と直交する略凹溝条の通気胴縁部5を形成すべく、前記防水シート4が貼着された面側に向かって略台形突条に突出するよう打ち出しプレス成形する。
【0023】
このプレス成形時には、前記略凹溝条をなす通気胴縁部5の開口側隅角部分17、17にプレスストレスを分散出来る様にRをつけてプレス成形するものとし、プレスストレスベクトルを多数の角度に分散するのが好ましい。これにより通気胴縁部5の開口側隅角部分17、17がプレスストレスにより破断してしまうのを防止出来る。
【0024】
このようにして、通気胴縁部5をプレス成形するのであるが、該プレス成形作業を繰り返して行うことにより、前記通気胴縁部5・・・につき、間隔をあけて複数個形成することが出来る。
【0025】
次に、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材1を用いた建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法について説明する。
【0026】
図2及び図3から理解されるように、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材1を防水シート4側に向かって突出した凸部分側、すなわち、防水シート4貼着面側を建物の構造躯体6室外側に添接する。
これにより、前記通気胴縁部5が、従来の縦の通気胴縁の役割を果たし、該通気胴縁部5,5間には、前記谷部により通気層7が形成される。
【0027】
ここで、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材1の構造躯体6への取り付けは、前記通気胴縁部5側から例えばステープルや釘などの止着部材16を構造躯体6側に打ち込むなどにより行うことが出来、もって非常に簡単な施工で行える様構成されている。
【0028】
なお、モルタル塗り外壁通気層形成部材1の構造躯体6への取り付ける際に接する溝条リブ2の底面は、ラス固定用の例えばステープルガンの銃口が容易に入り、しかもステープルを打ち付けられるようになるべく平面になるよう設定されている。
【0029】
また、通気胴縁部5の上面の幅はその底面の幅のおよそ1.3倍以上を有す逆台形の形状をしており、複数枚のモルタル塗り外壁通気層形成部材1の重ね合わせ時に作業性を損なわないように工夫されている。
【0030】
前述したように、上記通気胴縁部5の上面と底面の各隅部には、若干の丸み、すなわちRを設けてあり、溝条リブ2の亀裂や引きちぎれを防止できるように工夫が施されている。
【0031】
また、通気胴縁部5の高さは、通気胴縁部5、5間に造られる通気層7内で、充分に通気がなされる高さを有するよう、建物の設計寸法に応じて、例えば高さ16、18、20mmなど自由な高さにすることが可能とされている。
【0032】
このように、本願発明におけるモルタル塗り外壁通気層形成部材1は、通気胴縁の役割を果たす通気胴縁部5とリブラスが一体に形成されていることにより、従来の縦の通気胴縁が不要になるため、通気胴縁の材料費及び通気胴縁を取り付ける施工手間を省くことができると共に、確実にモルタル塗り外壁通気層の形成を行うことができる。
【0033】
建物の構造躯体6室外側に取り付けた前記モルタル塗り外壁通気層形成部材1の外側には、モルタル8が塗布されてモルタル塗り外壁施工の最終工程となる。
【0034】
モルタル塗り外壁通気層形成部材1に外部から塗りつけられたモルタル8は、該モルタル塗り外壁通気層形成部材1に貼着された防水シート4が受け止める形になり、前記通気胴縁部5とリブ材2及びラス部材3の外側部分にモルタル8が充填され、これによって強靱なラスモルタル9が得られ、もってモルタル塗り外壁が形成される。
【0035】
そして、前記建物の構造躯体6には室外側に透湿防水シート10が貼り付けられており、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材1に貼着された防水シート4と建物の構造躯体6室外側に貼着された透湿防水シート10との間にできた空間が、通気層7として形成され、その機能を果たすことになる。
なお、前記通気層7が形成された建物のモルタル塗り外壁部の上端と下端には、それぞれ空気流入孔が設けられた通気端定木11が取り付けられる。
【0036】
前記通気層7が形成された建物のモルタル塗り外壁部の上端と下端は開口されており、該開口部に各々通気端定木11を取り付けることで、通気層7の厚みを保持することができると共に、通気端定木11には複数の貫通する空気流入孔を設けることで、通気性も充分に確保することが出来る。
【0037】
特に、下端の通気端定木11は、水切り材と見切縁との双方の機能をも持ち合わせている。なお、通気端定木11の材質は特に限定されないが、樹脂製のものを用いてもよい。
【0038】
下端の通気端定木11の空気流入孔から流入した外気は、モルタル塗り外壁通気層形成部材1により形成された複数の通気層7・・・を通り、壁体内で上昇を続け、軒下や軒裏換気口、あるいは小屋裏換気口から大気中に流出される。
【0039】
なお、前記防水シート4と透湿防水シート10との間にできた通気層7に、水平方向に延びる空気流入孔が設けられた定木状の横通気胴縁12を設けてもよい。これにより、通気層7の厚みを保持することができると共に、横通気胴縁12には複数の貫通する空気流入孔を設けることで、通気性も充分に確保することが出来る。
【0040】
次に、モルタル塗り外壁通気層形成部材1を連続敷設する建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法について説明する。
【0041】
図5から理解されるように、モルタル塗り外壁通気層形成部材1の敷設は、まず、建物のモルタル塗り外壁面13下右端から敷設する。一枚目を敷設した後、二枚目のモルタル塗り外壁通気層形成部材1は、先に敷設した隣り合うモルタル塗り外壁通気層形成部材1の通気胴縁部5に、上から重ね合わせて左方向に敷設する。
【0042】
次いで、三枚目のモルタル塗り外壁通気層形成部材1も同様に、二枚目のモルタル塗り外壁通気層形成部材1の通気胴縁部5に上から重ね合わせて左方向に敷設する。これを繰り返して一段目を形成する。
【0043】
次に、二段目形成の際には、モルタル塗り外壁通気層形成部材1を縦半分、すなわち、通気胴縁部5の長さ方向に向かって、溝条リブ2の長手方向長さの半分となるよう切断し、該切断した通常のモルタル塗り外壁通気層形成部材1の半分の大きさのモルタル塗り外壁通気層形成部材1を二段目敷設の一枚目とする。
【0044】
そして、二枚目以降は切断しない通常の大きさのモルタル塗り外壁通気層形成部材1を、一段目の場合と同様、先に敷設した隣り合うモルタル塗り外壁通気層形成部材1の通気胴縁部5に上から重ね合わせて左方向に敷設する。
【0045】
上記の敷設によれば、一段目におけるモルタル塗り外壁通気層形成部材1のつなぎ目と二段目におけるモルタル塗り外壁通気層形成部材1のつなぎ目が一直線上にならない、つなぎ目が交互になった千鳥張りとなる。
一段目と二段目を千鳥張りではなく普通に敷設していった場合には、モルタル塗り外壁通気層形成部材1のつなぎ目は最大4枚分が重なることになる。
【0046】
一方、前記のような千鳥張りに敷設をした場合には、モルタル塗り外壁通気層形成部材1のつなぎ目は最大で3枚分と枚数を減らすことができ、重ね部分の厚さを低減することができる。
【0047】
図5を参照すると、符号14はモルタル塗り外壁通気層形成部材1が2枚重ねとなっている部分である。符号15はモルタル塗り外壁通気層形成部材1が最も多く重なっている部分であり、3枚重ねとなっている。
【0048】
以上のように、重ね部分の厚さを極力減らすことで、モルタルを該モルタル塗り外壁通気層形成部材1に塗布した際にも、モルタルの塗りつけ厚さを低減でき、重ね部分からのクラック防止を図ることもできる。
さらに、余分な材料を使用するなど無駄をなくすことが出来、ひいては壁面の軽量化も図ることができる。
【0049】
また、前記の通り、モルタル塗り外壁通気層形成部材1の連続敷設は、モルタル塗り外壁通気層形成部材1の通気胴縁部5同士、溝条リブ2同士を重ね合わせて行うため、該通気胴縁部5及び溝条リブ2が敷設の目印となり、敷設に際して高度な技術は必要なく、容易に行えるとの効果も期待できる。
【符号の説明】
【0050】
1 モルタル塗り外壁通気層形成部材
2 溝条リブ
3 ラス材
4 防水シート
5 通気胴縁部
6 建物の構造躯体
7 通気層
8 モルタル
9 ラスモルタル
10 透湿防水シート
11 通気端定木
12 横通気胴縁
13 モルタル塗り外壁面
14 モルタル塗り外壁通気層形成部材2枚重ね部分
15 モルタル塗り外壁通気層形成部材3枚重ね部分
16 止着部材
17 開口側隅角部分
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の構造躯体室外側に敷設される連続敷設用の建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材であって、
前記連続敷設用のモルタル塗り外壁通気層形成部材は、
水平方向に延びる、断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブが間隔をあけて複数設けられ、前記溝条リブ間には網目部が形成されたラス材と、該ラス材の一面側に貼着された防水シートとを有し、
前記溝条リブの長手方向に向かっては、該溝条リブの長手方向と略直交し、前記貼着された防水シート側に向けて略台形山状に突出させて形成された、前記断面形状が略凹溝条に成形された溝条リブ底面が、ステープルを打ち付けられる平面とされ、上方に向かって斜めに拡開し、逆台形型の凹溝条をなし、該凹溝条の各隅部には、前記溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止すべくプレスストレスを分散出来る様プレス成形時にRをつけてプレスストレスベクトルを多数の角度に分散して形成されてなる通気胴縁部が、間隔をあけて複数設けられ、隣り合う前記通気胴縁部間の谷部は、通気層用空間とされ、
前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の連続敷設時には、前記通気胴縁部同士及び前記溝条リブ同士が重ね合わせられ、前記逆台形型凹溝条をなす通気胴縁部の形状及び断面形状が略凹溝条をなす溝条リブの形状が重ね合わせ敷設の目印形状となり、前記通気胴縁部の上面の幅が、該通気胴縁部の底面の幅よりおよそ1.3倍以上を有する逆台形とされて、重ね合わせ時に作業性を損なわない様形成された、
ことを特徴とする建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材。
【請求項2】
建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材の製造方法であって、
水平方向に延びる、断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブが間隔をあけて複数設けられ、前記溝条リブ間には網目部が形成されたラス材の一面側に防水シートを貼着し、各々伸び率の異なる金属鉄板材の溝条リブ、網目鉄板材の網目部からなるラス材およびシート材の防水シートを略平面状に重ねて形成素材を形成し、
形成した形成素材につき、前記防水シートが貼着されていない面から略台形山状をなす様にして、前記溝条リブと直交する逆台形型の凹溝条の通気胴縁部を前記防水シート貼着面側に打ち出すべくプレス成形してなり、
前記プレス成形時には、前記略凹溝条をなす通気胴縁部の開口側隅角部分にはプレスストレスを分散出来る様にRをつけ、前記プレスストレスのベクトルを多数の角度に分散して通気胴縁部をプレス成形してなり、
前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の連続敷設時には、前記通気胴縁部同士及び前記溝条リブ同士を重ね合わせ、前記逆台形型凹溝条をなす通気胴縁部の形状及び断面形状が略凹溝条をなす溝条リブの形状が重ね合わせ敷設の目印形状となるよう形成した、
ことを特徴とする建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材の製造方法。
【請求項3】
建物の構造躯体室外側に、水平方向に延びる、断面形状が略凹溝条に形成された溝条リブが間隔をあけて複数設けられ、前記溝条リブ間には網目部が形成されたラス材と、該ラス材の一面側に貼着された防水シートとを有し、前記溝条リブの長手方向に向かっては、該溝条リブの長手方向と略直交し、前記貼着された防水シート側に向けて略台形山状に突出させて形成された、底面が平面とされ、上方に向かって斜めに拡開し、逆台形型の凹溝条をなす通気胴縁部が、間隔をあけて複数設けられ、隣り合う前記通気胴縁部間の谷部は、通気層用空間とされる、モルタル塗り外壁通気層形成部材を、前記防水シート貼着面側から添接し、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材における通気胴縁部と建物躯体室外側とを止着すると共に、前記通気胴縁部間の谷部は通気層として機能させ、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の連続敷設時には、前記通気胴縁部同士及び前記溝条リブ同士を重ね合わせ、前記逆台形型凹溝条をなす通気胴縁部の形状及び断面形状が略凹溝条をなす溝条リブの形状を重ね合わせ敷設の目印形状とした、
ことを特徴とする建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法。
【請求項4】
前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の敷設は、モルタル塗り外壁通気層形成部材の一枚目を建物のモルタル塗り外壁面下右端から敷設し、二枚目以降のモルタル塗り外壁通気層形成部材の敷設は、隣り合うモルタル塗り外壁通気層形成部材の前記通気胴縁部を重ね合わせながら左方向に連続敷設して前記モルタル塗り外壁面の一段目を形成し、
二段目形成の際には、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材を前記通気胴縁部の長さ方向に向かい、溝条リブの長手方向側の長さの半分の長さとなるように切断し、該切断したモルタル塗り外壁通気層形成部材を二段目敷設の一枚目とし、二枚目以降は、切断しないモルタル塗り外壁通気層形成部材を使用し、前記一段目におけるモルタル塗り外壁通気層形成部材のつなぎ目と二段目におけるモルタル塗り外壁通気層形成部材のつなぎ目が一直線状にならない千鳥張りとした、
ことを特徴とする請求項3記載の建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法。
【請求項5】
前記モルタル塗り外壁通気層形成部材を上下に敷設するときには、先に敷設された前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の通気胴縁部に、上方に敷設するモルタル塗り外壁通気層形成部材の通気胴縁部を重ね合わせて敷設する、
ことを特徴とした請求項3または請求項4記載の建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法。
【請求項6】
建物構造躯体の室外側に貼着された透湿防水シート上に、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材の前記通気胴縁部における防水シートが貼着された頂面を添接して、前記モルタル塗り外壁通気層形成部材を取り付け、
前記取り付けたモルタル塗り外壁通気層形成部材の外側からモルタルを塗布して、建物のモルタル塗り外壁内に通気層を形成したモルタル塗り外壁部を形成してなり、
前記通気層が形成されたモルタル塗り外壁部の上下端面には、前記通気層の厚みを保持する機能を有すると共に、空気流入孔が設けられた通気端定木が各々取り付けられた、
ことを特徴とする請求項3、請求項4または請求項5記載の建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-05-25 
結審通知日 2016-05-27 
審決日 2016-06-07 
出願番号 特願2012-48723(P2012-48723)
審決分類 P 1 123・ 537- YAA (E04B)
P 1 123・ 851- YAA (E04B)
P 1 123・ 853- YAA (E04B)
P 1 123・ 16- YAA (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新井 夕起子  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 中田 誠
小野 忠悦
登録日 2013-01-18 
登録番号 特許第5177826号(P5177826)
発明の名称 建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材及びその製造方法並びに建物のモルタル塗り外壁通気層形成工法  
代理人 伊藤 博昭  
代理人 山名 正彦  
代理人 伊藤 博昭  
代理人 伊藤 儀一郎  
代理人 伊藤 博昭  
代理人 伊藤 儀一郎  
代理人 山名 正彦  
代理人 筬島 孝夫  
代理人 筬島 孝夫  
代理人 伊藤 儀一郎  

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