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審決分類 審判 全部無効 特174条1項  G01R
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  G01R
審判 全部無効 判示事項別分類コード:857  G01R
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  G01R
審判 全部無効 2項進歩性  G01R
管理番号 1328120
審判番号 無効2015-800030  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-02-19 
確定日 2017-05-02 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5449597号発明「接触端子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5449597号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1、2]について訂正することを認める。 特許第5449597号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
被請求人は,特許第5449597号(以下「本件特許」という。請求項の数は2である。)の特許権者である。本件は,請求人が,請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とすべきことを求める事案である。

第2 手続の経緯
本件特許に係る手続の経緯の概要は,以下のとおりである。
本件特許に係る出願 平成25年4月19日
(本件特許に係る出願は,平成23年12月13日(優先権主張:平成23年9月5日(以下,「優先日」という。))に出願した特願2011-271985号の一部を分割して,上記平成25年4月19日に新たな特許出願としたものである。)
早期審査に関する事情説明書 平成25年10月11日
手続補正書 平成25年10月11日
拒絶理由通知(起案日) 平成25年10月25日
意見書・手続補正書 平成25年11月8日
登録 平成26年1月10日
特許掲載公報発行 平成26年3月19日
(特許第5449597号公報)

無効審判の請求 平成27年2月19日
手続補正書(請求人) 平成27年3月11日
答弁書(被請求人) 平成27年5月25日
審理事項通知書 平成27年6月23日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成27年8月10日
口頭審理陳述要領書(被請求人)平成27年8月10日
上申書(請求人) 平成27年8月12日
上申書(被請求人) 平成27年8月24日
口頭審理 平成27年8月24日
上申書(請求人) 平成27年9月18日
上申書(被請求人) 平成27年9月18日
審決の予告 平成28年2月12日
訂正請求 平成28年4月18日
審理終結通知 平成28年7月27日

第3 訂正の適否についての当審の判断
1 訂正の内容
平成28年4月18日付けの訂正請求(以下,「本件訂正」という。)は,願書に添付した特許請求の範囲(設定登録時のもの。)を,同訂正請求の請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおりに,一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであって,具体的には,下記訂正事項1ないし3からなるものである。
なお,以下,願書に添付した明細書を「本件明細書」といい,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面を「本件明細書等」ということがある。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「押付部材」とあるのを,「球」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「収納したコイルバネ」とあるのを,「収容した絶縁体被膜を有するコイルバネ」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「前記押付部材は絶縁表面を有する絶縁球からなることを特徴とする請求項1記載の接触端子。」とあるのを,「管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって,
前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり,前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバネで付勢し,
前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,押付部材の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とし,
前記押付部材は絶縁表面を有する絶縁球からなることを特徴とする接触端子。」と訂正する。

2 訂正の適否に係る判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,本件訂正前の請求項1における「押付部材」との記載を「球」と訂正することで,本件訂正前の請求項1における「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,押付部材の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し」との記載を,「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,球の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し」と訂正するものである。
ア 本件訂正によって,「押付部材」との用語が削除されたが,本件訂正後においても,「球の球状面からなる球状部」は,依然として「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」に「コイルバネによって押圧」され,「プランジャーピン」の「大径部の外側面」を「本体ケースの管状内周面に押し付け」ていることがわかる。
よって,訂正事項1は,本件訂正前の「押付部材」の形状を限定するものであるといえるから,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的としているものと認められる。

イ 次に,願書に添付した特許請求の範囲の【請求項1】には,「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,押付部材の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とする接触端子。」と記載され,「コイルバネによって押圧」され,「前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付ける」部材について,「押付部材」と記載されている。

ウ さらに,本件明細書の段落【0028】には「また,コイルバネ31は圧縮バネであり,絶縁球30により一方の端部の位置を安定させられるものの,両端部から圧縮されるとその中心軸をわずかにゆがませる。そのため,プランジャーピン20は,絶縁球30を介して,コイルバネ31により本体ケース11の中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢される。これによってプランジャーピン20の大径部22を確実に長穴13の内面に接触させながらも,その接触圧力を過度に高めることもない。」と記載され,本件明細書の段落【0033】には「また,傾斜面24の中心軸は,プランジャーピン20の中心軸からオフセットされていると好ましい。本実施例においては,図3(b)に示すように傾斜面24の中心軸M2は凹穴23の中心軸とともにプランジャーピン20の中心軸M1からオフセットされている。これによれば,コイルバネ31によってプランジャーピン20を付勢する方向を,プランジャーピン20の中心軸に対して微小な角度を有する方向とすることをより確実にする。よって,プランジャーピン20と本体ケース11との摺動を妨げない程度に大径部22を長穴13の内面に押しつけることができる。」と記載されているから,本件明細書には,「絶縁球30」を介して,コイルバネ31により,プランジャーピン20の大径部22を長穴13の内面に押しつけることが記載されている。

エ 上記イ及びウを対比すると,願書に添付した特許請求の範囲の【請求項1】の記載は,「コイルバネによって押圧」され,「前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付ける」部材が,本件明細書に記載された「絶縁球30」に限られるものではなく,「絶縁球30」から電気的特性(絶縁)と形状(球)を共に捨象した「押付部材」であればよい,との技術的知見を開示しているものといえる。

オ そうであれば,願書に添付した特許請求の範囲の【請求項1】に記載された「押付部材」を,形状についてのみ「球」と限定することは,上記技術的知見の範囲内でなされた訂正であって,訂正事項1は,本件明細書等(願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面)に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

カ また,訂正事項1は,実質上,特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

キ よって,訂正事項1は,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の各規定に適合するものと認められる。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は,本件訂正前の請求項1に記載された「収納したコイルバネ」を,「収容した絶縁体被膜を有するコイルバネ」と限定するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的としているものと認められる。
また,願書に添付した明細書の段落【0025】には,「絶縁球30には,圧縮バネからなるコイルバネ31がその一端部を当接させている。・・・(中略)・・・なお,コイルバネ31には絶縁体被膜を与えられていても良い。」と記載されているから,訂正事項2は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
また,訂正事項2は,実質上,特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
よって,訂正事項2は,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の各規定に適合するものと認められる。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は,本件訂正前の請求項2について,本件補正前の請求項1を引用する記載から,請求項1を引用しない記載へと訂正するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる事項を目的とするものである。
また,訂正事項3は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであって,実質上,特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の各規定に適合するものと認められる。

(4)訂正に係るまとめ
以上のとおり,本件訂正は,一群の請求項ごとに請求された訂正であって,特許法第134条の2第1項ただし書第1号(訂正事項1,2),第4号(訂正事項3)に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の各規定に適合するものである。
よって,本件訂正を認める。

第4 本件特許に係る請求項に記載された事項
本件訂正後の本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1,2に係る発明(以下,「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明2」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
(1)本件訂正発明1(請求項1)
「管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって,
前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり,前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容した絶縁体被膜を有するコイルバネで付勢し,
前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,球の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とする接触端子。」

(2)本件訂正発明2(請求項2)
「管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって,
前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり,前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバネで付勢し,
前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,押付部材の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とし,
前記押付部材は絶縁表面を有する絶縁球からなることを特徴とする接触端子。」

第5 請求人の主張する無効理由の概要及び提出した証拠方法
1 無効理由1(進歩性欠如)
本件発明1及び本件発明2は,甲第1号証に記載された発明(以下,「甲1発明」という。)及び周知技術(甲第3号証?甲第9号証)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるか,または,甲第2号証に記載された発明(以下,「甲2発明」という。)及び周知技術(甲第3号証?甲第9号証)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。よって,本件発明1及び本件発明2は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件発明1及び本件発明2に係る本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

2 無効理由2(補正要件違反及び分割要件違反に基づく新規性の欠如)
本件発明1及び本件発明2に係る本件特許は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであるから,特許法第123条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。
また,本件特許に係る出願は,特許法第44条第1項に規定する要件を満たさないので,本件特許に係る出願は,もとの特許出願(特願2011-271985号,以下,「原出願」ということがある。)の時にしたものとみなされず,現実の出願日である平成25年4月19日になされたものであるから,本件発明1及び本件発明2は,甲第24号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号の発明に該当し,特許を受けることができないものであり,本件発明1及び本件発明2に係る本件特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

3 証拠方法
(審判請求書とともに提出された証拠)
甲第1号証(特開2004-179066号公報)
甲第2号証(特表2006-501475号公報)
甲第3号証(特開2002-40049号公報)
甲第4号証(実開昭58-72668号公報及びそのマイクロフィルム)
甲第5号証(実開昭62-76668号公報及びそのマイクロフィルム)
甲第6号証(特開平6-168756号公報)
甲第7号証(特開平6-61321号公報)
甲第8号証(実開平7-34375号公報及びそのCD-ROM)
甲第9号証(実開平5-43076号公報及びそのCD-ROM)
甲第10号証(早期審査に関する事情説明書(平成25年10月11日))
甲第11号証(手続補正書(平成25年10月11日))
甲第12号証(拒絶理由通知書(平成25年10月29日発行))
甲第13号証(意見書(平成25年11月8日))
甲第14号証(補正書(平成25年11月8日))
甲第15号証(訴状:平成26年(ワ)第20422号 特許権侵害差止請求事件)
甲第16号証(原告第1準備書面 平成26年12月16日)
甲第17号証(米国特許第8926376号公報)
甲第18号証(米国特許第6696850号公報)
甲第19号証(米国特許第4397519号公報)
甲第20号証(本件特許の対応米国特許出願の審査経過で発行された拒絶理由通知書(平成26年5月13日))
甲第21号証(本件特許の対応米国特許出願の審査経過で提出された補正書(平成26年8月8日))
甲第22号証(本件特許の対応米国特許出願の審査経過で提出された意見書(平成26年8月8日))
甲第23号証(被請求人従業員の森周飛氏による陳述書(平成26年12月2日))
甲第24号証(特開2013-68593号公報)

(口頭審理陳述要領書とともに提出された証拠)
甲第25号証(平成25年11月26日付け面接記録)
甲第26号証(特許技術用語集(第3版))
甲第27号証(平成15年10月16日東京地裁判決(平成14年(ワ)第15810号事件))
甲第28号証(平成19年9月12日知財高裁判決(平成18年(ネ)第10069号事件))
甲第29号証(平成19年4月19日大阪地裁判決(平成17年(ワ)第12207号事件))
甲第30号証(平成12年12月25日東京高裁判決(平成12年(行ケ)第86号事件))
甲第31号証(森周飛氏が平成23年8月24日に作成した図面の写し)
甲第32号証(デイヴィッド ドーンフェルド教授の専門家陳述書及びその訳文(平成27年8月12日付けの上申書(請求人)により差し替えられている。))

第6 被請求人の主張および提出した証拠方法
被請求人は「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め,次のように主張している。
1 無効理由1について
甲1発明または甲2発明に周知技術(甲第3号証?甲第9号証)を適用することはできないし,仮にこれを適用できたとしても本件訂正発明1及び本件訂正発明2を構成できない。
よって,本件訂正発明1及び本件訂正発明2に係る本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされてないから,同法123条第1項第2号に該当せず,無効とされるべきものではない。

2 無効理由2について
本件訂正発明1及び2に係る本件特許ついて,補正要件違反はないから,本件訂正発明1及び本件訂正発明2に係る本件特許は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものではない。よって,本件訂正発明1及び2に係る本件特許は,特許法第123条第1項第1号に該当し無効とされるべきものではない。
また,本件特許に係る出願は,特許法第44条第1項に規定する要件を満たしているので,本件特許に係る出願は,もとの特許出願の時にしたものとみなされる。よって,本件訂正発明1及び本件訂正発明2に係る本件特許は,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされてないから,特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものではない。

3 証拠方法
(答弁書とともに提出した証拠)
乙第1号証(被告準備書面(4)(平成26年(ワ)第20422号 特許権侵害差止等請求事件)(平成27年2月20日))
乙第2号証(被告準備書面(2)(平成26年(ワ)第20422号 特許権侵害差止等請求事件)(平成26年11月10日))

(口頭審理陳述要領書とともに提出した証拠)
乙第3号証(特許用語事典(係合))
乙第4号証(特許用語事典(係止))
乙第5号証(特開昭59-195164号公報)
乙第6号証(特開2002-202323号公報)

(訂正請求書とともに提出した証拠)
乙第9号証(平成26年(ワ)20422号判決文(閲覧制限付き))
乙第10号証(特開2011-27549号公報)
乙第11号証(特開2010-266373号公報)

なお,平成27年8月24日付け上申書の添付資料として参考資料1,参考資料2(口頭審理陳述要領書とともに「乙第7号証-1」,「乙第7号証-2」として提出した技術説明資料,及び,平成27年8月24日付け上申書とともに「乙第8号証」として提出した,技術説明資料の補足資料。)が提出された。

第7 無効理由についての判断
事案に鑑みて,無効理由2,無効理由1の順に判断する。
なお,本件特許に係る出願についての平成25年11月8日付けの手続補正書(甲14)による手続補正は,当該手続補正前の特許請求の範囲の請求項1における「少なくとも一部に球状面を有する押付部材の球状部」との記載を「押付部材の球状面からなる球状部」と補正するものであるが,当該補正箇所は,本件訂正における訂正事項1により,「球の球状面からなる球状部」と訂正された。
よって,請求人の主張する無効理由2のうち,本件特許が,特許法第123条第1項第1号に該当し,無効とすべきであるとする無効理由(新規事項の追加)については,理由のないものとなった。

1 無効理由2(分割要件違反に基づく新規性の欠如)について
1-1 請求人の主張(審判請求書第37頁第12行?第41頁第11行(審判請求書の記載箇所については,平成27年3月11日付け手続補正書にて補正された審判請求書に基づく。以下,同様である。),口頭審理陳述要領書第27頁第20行?第30頁第30行,平成27年9月18日付け上申書第10頁第19?30行及び同上申書の添付資料)
ア 被請求人は,「『少なくとも一部に球状面を有する押圧部材』までもが原出願に記載されていたとは認められない。」との拒絶理由(甲12)を解消するため,平成25年11月8日提出の手続補正書(甲14)において,請求項1の「少なくとも一部に球状面を有する押付部材」との記載を,「押付部材の球状面からなる球状部」と補正し,「少なくとも一部に球状面を有する押付部材」を,その技術的範囲から放棄した。
しかし,被請求人は,別件訴訟(甲15,甲16)において,球形状ではないコマの形状(次の参考図参照。)を有する押付部材が,本件発明1(本件訂正前)の「押付部材」の技術的範囲に含まれると主張している(甲15,甲16)。

そうであれば,本件発明1(本件訂正前)の技術的範囲には「少なくとも一部に球状面を有する押付部材」が包含されることになるから,本件特許に係る出願の原出願の出願当初の特許請求の範囲,明細書又は図面(以下,「原出願の当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲を超えるものである。

イ また,本件発明1(本件訂正前)について,被請求人は,傾斜凹部に対する「押付部材の球状面からなる球状部」の押圧状態として,次の参考図に示すとおり,「傾斜面24の断面の片側だけで接する」ような押圧状態を含むと主張している。

しかし,本件の出願当初明細書の段落【0032】及び【0033】の記載に鑑みれば,本件発明1(本件訂正前)が,円周状接触を前提とした上で,傾斜面24の中心軸24の中心軸をオフセットしたことにより,コイルバネ31によってプランジャーピン20を付勢する方向をプランジャーピン20の中心軸から確実にずらすという効果を得ようとしていることは明らかである。
よって,本件発明1(本件訂正前)が,傾斜凹部と押付部材の球状面からなる球状部との押圧状態として,請求人が主張するような「傾斜面24の断面の片側だけで接する」ような押圧状態を含み得るのであれば,それは明らかに,原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲を超えるものである。

ウ よって,本件発明1及び本件発明2は,原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲を超えるものである。
したがって,本件特許に係る出願は,特許法第44条第1項に規定する要件を満たさないので,もとの特許出願の時にしたものとみなされず,本件特許に係る出願の出願日は,現実の出願日である平成25年4月19日である。
そして,本件発明1及び本件発明2は,原出願の公開公報(甲第24号証)に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の発明に該当し,特許を受けることができないものであり,本件発明1及び本件発明2に係る本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

1-2 被請求人の主張
(1)本件訂正前の主張(答弁書第21頁第1行?第22頁第21行,口頭審理陳述要領書第6頁第12行?第11頁第29行,平成27年9月18日付け上申書第10頁第1?16行及び該上申書の添付資料)
ア 本件特許の請求項1(訂正前)の「押付部材の球状面からなる球状部」につき,通常の用語の意味に照らせば,「押付部材」は,その一部に球状面を有していれば足り,球体に限定されない。そして,本件明細書の【0009】,【0024】,【図2】,【図4】等には,「球体」が開示されている。「球体」が開示されているということは,その「球体」の一部を意味する「球状面」も開示されていることである(乙2第6頁の下図参照。)。

よって,本件特許に係る出願の当初明細書等に「球」が開示されている以上,その「球体」の一部を構成する「球状面」も明示的に開示されている事項であるといえるから,「押付部材の球状面からなる球状部」は明示的記載事項である。

イ 本件発明1(訂正前)は,押付部材が「球体」であることを本質的特徴とする発明ではない。すなわち,本件明細書【0033】の「コイルバネ31によってプランジャーピン20を付勢する方向を,プランジャーピン20の中心軸に対して微小な角度を有する方向とすることをより確実にする。よって,プランジャーピン20と本体ケース11との摺動を妨げない程度に大径部22を長穴13の内面に押しつけることができる。つまり,より確実にプランジャーピン20から本体ケース11へ電流を流すことができる。」という作用効果を達成するには,押付部材が「球状面」を備えさえすれば足り,「球体」である必要はない。つまり,コイルバネの弾性力の作用する方向を変更することによりプランジャーピンを傾かせるという本件発明1の技術思想を実現するには,球状面であれば足り,「球」に限定しなければならない理由もない。
このように,本件発明1は,オフセット傾斜凹部と球状面の組合せにより,プランジャーピンを確実に傾けるという作用効果を発揮する。
よって,「球状面」が球体でなくとも,この作用効果を発揮する以上,球体の開示をもって「球状面」が開示されていることは明らかである。

ウ 上記「ア」,「イ」で述べたとおり,「押付部材の球状面からなる球状部」が明示的記載事項であるが,仮にそうでないとしても,乙5(「円錐又は球形の丸味をおびた形状を備えた突起13」を備えた「中間部4」が,本件発明の「押付部材」に相当する。),

乙6(先端部が「半球状」の「回転支持手段15」が,本件発明の「押付部材」に相当する。)に記載されているとおり,押付部材として「球体」ではなく「球状面」を採用することは技術常識であるから,本件発明においても,押付部材として「球状面」を採用することは,原出願の当初明細書等の記載から自明な事項である。

エ よって,本件発明1及び2につき,分割要件違反はない。

(2)本件訂正後の主張(訂正請求書第3頁第12行?第8頁第31行)
ア 本出願の当初明細書の段落【0024】には,「絶縁球30は導電性を有する金属などの球体に絶縁被膜を与えたものであってもよい。」と記載されていることから,本出願の当初明細書等では,「押付部材」として,絶縁球のみならず「導電性を有する金属などの球体」(=導電球)を用いることが示唆されている。さらに,同段落【0005】には,従来技術の説明で,「特許文献2では,・・・・特許文献1で開示されたような絶縁球とともに導電球をプランジャーピンとコイルバネとの間に介在させた接触端子としてのコンタクトプローブを開示している。」と記載されており,従来技術として「押付部材」に「導電球」を用いることが開示されている。
これらのことからすると,本件発明1において,「押付部材」として「導電球」を用いることは,少なくとも,本出願の当初明細書において示唆されている事項であるといえる。そして,本件発明がプランジャーピンを本体ケースとの摺動を妨げない程度にプランジャーピンと本体ケースを押し付けることで,より確実にプランジャーピンからの大電流を本体ケースに流すという効果を実現することを課題とし(本出願の当初明細書【0033】【0008】),この課題を解決するためには,押付部材のプランジャーとの接触部に球状面が備わっていることが必須であるものの絶縁性の有無を全く問わない。したがって,本出願の当初明細書に接した当業者は,本件発明の課題を解決する「押付部材」のプランジャーピンとの接触部分が「球」状のものであれば足りるとの認識を持つのが自然かつ合理的である。よって,「押付部材」として「球」を用いることは,本出願の出願当初明細書に記載された技術的事項との関係において,新たな技術的事項ではない。」(訂正請求書第4頁第16行?第5頁第9行)

イ 「押付部材」として「導電球」又は材質に特に限定のない形状としての「球」を用いる技術は,従来から多数存在するため(甲4の2頁,甲5の3頁11行,甲6【0012】,甲8【0024】。ちなみに,乙10【0058】,乙11【0057】【0060】【0066】【0068】【0072】【0074】には,球体ではないが,材質に特に限定のない「押付部材」が開示されている。),技術常識である。したがって,上記本出願の当初明細書等の記載から「押付部材」として「球」を用いることが新たな技術的事項ではないと結論付けることは,技術常識にも合致することであり,きわめて合理的である。」(訂正請求書第5頁第10行?19行)

ウ よって,本件訂正に係る「球の球状面からなる球状部」は,原出願の当初明細書等から導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではない

1-3 無効理由2(分割要件違反に基づく新規性の欠如)についての当審の判断
無効理由2のうち,本件特許に係る出願が特許法第44条第1項に規定する要件(分割要件)を満たさないことを前提に,本件発明が新規性を欠如するというもの(以下,「無効理由2-1」という。)を以下に判断する。
なお,特に断らない限り,「請求項1」及び「請求項2」は,それぞれ,本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載された請求項1及び請求項2をいう。

(1)本件特許の請求項1に記載された「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,球の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧」する点について
本件特許の請求項1には「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,球の球状面からなる球状部を前記コイルバネ(当審注:絶縁体被膜を有するコイルバネ)によって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とする」と記載されているから,本件訂正発明1における「球の球状面からなる球状部」は,「コイルバネによって押圧」され「前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付ける」ためのものである。
そして,本件特許の請求項1には,上記「球の球状面からなる球状部」との記載の他に,「球の球状面からなる球状部」の性状を特定し得る記載はない。
よって,「球の球状面からなる球状部」との記載によって特定される性状は,「絶縁球」の球状面からなる球状部のみならず,絶縁被膜を与えない「導電性を有する金属球」の球状面からなる球状部を特段排除するものでないことは,明らかなことである。
したがって,本件訂正発明1を特定するために請求項1に記載された「球の球状面からなる球状部」とは,絶縁被膜を与えない「導電性を有する金属球」等,「絶縁球」以外の球の球状面からなる球状部を許容するものであるといえる。

(2)原出願の当初明細書等に記載された事項について
次に,本件特許に係る出願が,特許法第44条第1項に規定する要件(分割要件)を満たすものであるか否かを検討するために,原出願の出願当初明細書の記載を検討する。
ア 原出願の出願当初明細書には,本件訂正発明1及び2に関して,次の事項が記載されている(下線は,当審で付与したものである。)。
(ア)「【0003】
ところで,接点等からプランジャーピンを介して本体ケースへと比較的大なる電流が流れる場合,コイルバネにも電流が流れると,抵抗加熱によりコイルバネが焼き切れてしまうことがある。例えば,電流の一部がコイルバネにも流れているとき,コイルバネが収縮してコイルのターンとターンとが側面で接触している場合に比べ,コイルバネが復元した場合にかかる接触が無くなって電流の流れる電流路の断面積が減少してしまうのである。故に,急激に抵抗が上がって加熱しコイルバネが焼き切れてしまうのである。そこで,コイルバネに電流を流さないような機構を与えた接触端子が開発されている。」

(イ)「【0008】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであって,その目的とするところは,比較的大なる電流を流し得る接触端子を提供することにある。」

(ウ)「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による接触端子は,本体ケースに設けられた非貫通長穴に挿入したプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって,前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記非貫通長穴の内面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり,前記大径部の端部からその長手方向に沿って前記大径部の少なくとも側面部の一部を残すように切削部を与えて前記切削部内に少なくとも絶縁表面を有する絶縁球を収容し,前記非貫通長穴と前記絶縁球との間にコイルバネを介在させて前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように付勢していることを特徴とする。
【0010】
かかる発明によれば,プランジャーピンの突出端部を本体ケースから突出するように付勢するコイルバネに電流を流すことなく,プランジャーピンから本体ケースへと確実に電流を流すことが出来て,接触端子に比較的大なる電流を流し得るのである。」

(エ)「【0013】
上記した発明において,前記切削部は袋孔であることを特徴としても良い。かかる発明によれば,絶縁球の位置を袋孔の内部に収容して安定させ得て,コイルバネに電流を流すことなく,プランジャーピンから本体ケースへと確実に電流を流すことが出来て,接触端子に比較的大なる電流を流し得るのである。
【0014】
上記した発明において,前記切削部としての前記袋孔の底面は円錐面であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば,絶縁球を円錐面の中心軸上に安定して位置させ得るので,コイルバネに電流を流すことなく,プランジャーピンから本体ケースへと確実に電流を流すことが出来て,接触端子に比較的大なる電流を流し得るのである。
【0015】
上記した発明において,前記切削部としての前記袋穴の前記円錐面の中心軸は前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされていることを特徴としてもよい。かかる発明によれば,プランジャーピンの大径部の外側面を本体ケースの内周面により強く押しつけて,プランジャーピンから本体ケースへと確実に電流を流すことが出来て,接触端子に比較的大なる電流を流し得るのである。」

(オ)「【0023】
長穴13に収容されたプランジャーピン20は,段付き丸棒形状となっており,その小径部側を構成するピン部21と大径部22とその境界部となる段部22aとを有している。ピン部21はこの形状に限定されないが,1つの例として,略半球状の先端部21aを有している。大径部22は本体ケース11の長穴13の内面と接触しながら移動でき,すなわち長穴13に対して摺動自在であり,プランジャーピン20を本体ケース11の中心軸に沿って移動自在とさせる。大径部22は,その端部から中心軸に沿って削孔された略円柱形状で袋状の凹穴23を有し,すなわち凹穴23を画定する大径部22の一部である側周部25を残存させた切削部を設けており,凹穴23の底部に略円錐面形状の傾斜面24を有している(特に,図3(b)参照)。
【0024】
凹穴23の内部には,セラミックスなどの絶縁体からなる絶縁球30が収容されている。絶縁球30は導電性を有する金属などの球体に絶縁被膜を与えたものであってもよい。絶縁球30の直径は,凹穴23に収容されるよう,凹穴23の内径よりも小であるとともに,本体ケース11のバネ収容穴14の直径よりも大である。すなわち,本体ケース11のバネ収容穴14は絶縁球30の直径よりも小となる内径で削孔されており,絶縁球30をその内部に収容することがない。
【0025】
絶縁球30には,圧縮バネからなるコイルバネ31がその一端部を当接させている。コイルバネ31は,さらに他端部をバネ収容穴14の傾斜面15に当接させてその近傍をバネ収容穴14に収容させている。コイルバネ31はバネ収容穴14の傾斜面15に支えられて,絶縁球30を介してプランジャーピン20を本体ケース11から突出させる方向に付勢している。ここで,本体ケース11の開口端部16は,その内径をプランジャーピン20の大径部22より小さくするように絞られており,プランジャーピン20の段部22aに当接することで大径部22を長穴13内にとどめている。なお,コイルバネ31には絶縁体被膜を与えられていても良い。」

(カ)「【0026】
すなわち,図4に示すように,接触端子10の組み立てにおいては,まず,プランジャーピン20の凹穴23に絶縁球30を収容させて,本体ケース11のバネ収容穴14にはコイルバネ31の一方の端部近傍を収容させる。次いで,コイルバネ31のもう一方の端部に絶縁球30を押しつけてコイルバネ31を圧縮させつつプランジャーピン20の大径部22側を本体ケース11の長穴13に収容させる。さらに,本体ケース11の開口端部16aの径を絞るように加工を与えて,開口端部16を形成するのである。ここで,開口端部16の内径は,大径部22の外径より小であり,小径部21の外径より大である。これにより,プランジャーピン20は本体ケース11から脱落することがない。その結果,プランジャーピン20は,その段部22aを開口端部16に当接させる位置から,絶縁球30をバネ収容穴14の開口部に当接させる位置まで,もしくは,コイルバネ31を全縮長とさせる位置までのストロークを得ることが可能となる。
【0027】
本実施例によれば,コイルバネ31は,バネ収容穴14に収容されていることからわかるように,その外径をバネ収容穴14の内径より小としている。すなわち,絶縁球30はその外径をコイルバネ31の内径よりも大としており,コイルバネ31の内部に入り込むことはない。よって,コイルバネ31は,絶縁被膜を与えられてこれが剥がれ落ちたとしても,介在する絶縁球30に確実に阻まれてプランジャーピン20に接触し得ず,プランジャーピン20に対して確実に絶縁される。つまり,プランジャーピン20に比較的大なる電流を流しても,コイルバネ31の焼き切れを確実に防止できる。
【0028】
また,コイルバネ31は圧縮バネであり,絶縁球30により一方の端部の位置を安定させられるものの,両端部から圧縮されるとその中心軸をわずかにゆがませる。そのため,プランジャーピン20は,絶縁球30を介して,コイルバネ31により本体ケース11の中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢される。これによってプランジャーピン20の大径部22を確実に長穴13の内面に接触させながらも,その接触圧力を過度に高めることもない。また,プランジャーピン20は,絶縁球30を凹穴23に収容したので,凹穴23の外周側において大径部22を軸方向に延長させた側周部25を有し,その表面積をより大きくさせている。よって,大径部22をより確実に長穴13の内面に接触させ得る。つまり,プランジャーピン20に比較的大なる電流を流しても,プランジャーピン20から本体ケース11に確実に電流を流すことができる。
【0029】
加えて,絶縁球30を凹穴23に収容したので,絶縁球30が本体ケース11の長穴13と接触せず,長穴13に対して摺動することがない。また,絶縁球30は,凹穴23に接触するが,その内部において微小な摺動や微小な回転をし得るに過ぎない。例えば,絶縁球30がプランジャーピン20に比べて硬度の高い材質であった場合などでも,その摺動や転動による凹穴23からの摩耗粉等の発生を抑制できる。これにより,摩耗粉等によるプランジャーピン20の摺動不良を防ぐことができる。」

(キ)「【0031】
また,バネ収容穴14の底部には略円錐面形状の傾斜面15を有するので,コイルバネ31は,その圧縮力の高いときにその端部の中心位置を傾斜面15の中心位置に一致させやすく,圧縮力の低いときにその端部の中心位置を傾斜面15の中心に対して偏心させやすい。つまり,プランジャーピン20を押圧する方向は,圧縮力の高いときには本体ケース11の中心軸に対して小さめの角度を有し,圧縮力の低いときには大きめの角度を有することとなりやすい。これにより,より容易に,接触圧力を過度に高めることなく,プランジャーピン20を本体ケース11に確実に接触させることができる。
【0032】
さらに,プランジャーピン20の凹穴23の底部には略円錐面形状の傾斜面24を有するので,絶縁球30は傾斜面24の中心軸上にその中心を安定して位置させ得る。これにより,コイルバネ31の絶縁球30に対する接触位置を安定させ得て,コイルバネ31の絶縁をより確実にできる。また,凹穴23に対する絶縁球30の位置を安定させることで,上記したような絶縁球30の微小な摺動や回転をより減じて,摩耗粉等の発生をより抑制する。
【0033】
また,傾斜面24の中心軸は,プランジャーピン20の中心軸からオフセットされていると好ましい。本実施例においては,図3(b)に示すように傾斜面24の中心軸M2は凹穴23の中心軸とともにプランジャーピン20の中心軸M1からオフセットされている。これによれば,コイルバネ31によってプランジャーピン20を付勢する方向を,プランジャーピン20の中心軸に対して微小な角度を有する方向とすることをより確実にする。よって,プランジャーピン20と本体ケース11との摺動を妨げない程度に大径部22を長穴13の内面に押しつけることができる。つまり,より確実にプランジャーピン20から本体ケース11へ電流を流すことができる。」

イ そこで,原出願の当初明細書等に,本件訂正発明1における「球の球状面からなる球状部」についての開示がなされていたか否かを検討する。
(ア)まず,原出願の当初明細書等には段落【0003】に「ところで,接点等からプランジャーピンを介して本体ケースへと比較的大なる電流が流れる場合,コイルバネにも電流が流れると,抵抗加熱によりコイルバネが焼き切れてしまうことがある。」との問題点が示され,段落【0008】では,発明の目的について,「本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであって,その目的とするところは,比較的大なる電流を流し得る接触端子を提供することにある。」と記載されている。そして,段落【0010】では,「かかる発明によれば,プランジャーピンの突出端部を本体ケースから突出するように付勢するコイルバネに電流を流すことなく,プランジャーピンから本体ケースへと確実に電流を流すことが出来て,接触端子に比較的大なる電流を流し得るのである」と記載されているから,原出願の当初明細書等に記載された発明は,「比較的大なる電流を流し得る接触端子を提供する」ため「コイルバネに電流を流すことなく,プランジャーピンから本体ケースへと確実に電流を流すこと」を解決課題としてなされた発明であるといえる。

(イ)次に,原出願の当初明細書等には,本件訂正発明1の「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」に,「前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付ける」部材に関しては,一貫して「絶縁球」としてのみ記載されており,「球の球状面からなる球状部」との用語は用いられていない。よって,原出願の当初明細書等には,上記(ア)で述べた解決課題を達成するため,つまり,「コイルバネに電流を流すことなく,プランジャーピンから本体ケースへと確実に電流を流す」ために,プランジャーピンとコイルバネとを「絶縁球」により絶縁することが,発明の前提条件とされているのであって,「絶縁球」に代え,例えば,絶縁被膜を与えない「導電性を有する金属球」を用い,コイルバネに電流を流すことは,想定されていないことである。

(ウ)よって,原出願の出願当初明細書等には,「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」に,「前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付ける」部材として「球の球状面からなる球状部」を用いることは,開示されていない。

(エ)次に,本件訂正発明1において,「コイルバネ」を「絶縁体被膜を有するコイルバネ」と特定しているので,この点についてさらに検討する。
原出願の当初明細書には,段落【0025】に「絶縁球30には,圧縮バネからなるコイルバネ31がその一端部を当接させている。・・・コイルバネ31はバネ収容穴14の傾斜面15に支えられて,絶縁球30を介してプランジャーピン20を本体ケース11から突出させる方向に付勢している。・・・なお,コイルバネ31には絶縁体被膜を与えられていても良い。」と記載され,段落【0027】に「本実施例によれば,コイルバネ31は,バネ収容穴14に収容されていることからわかるように,その外径をバネ収容穴14の内径より小としている。すなわち,絶縁球30はその外径をコイルバネ31の内径よりも大としており,コイルバネ31の内部に入り込むことはない。よって,コイルバネ31は,絶縁被膜を与えられてこれが剥がれ落ちたとしても,介在する絶縁球30に確実に阻まれてプランジャーピン20に接触し得ず,プランジャーピン20に対して確実に絶縁される。つまり,プランジャーピン20に比較的大なる電流を流しても,コイルバネ31の焼き切れを確実に防止できる。」と記載されている。これらの記載は,コイルバネとプランジャーピンとの間にコイルバネの内径よりも大きな「絶縁球」が介在していれば,「絶縁球」が両者の電気的な接触を確実に防止し,両者の絶縁を確実にするので,コイルバネ31の絶縁被膜が剥がれ落ちたとしても,コイルバネとプランジャーピンとが電気的に接触することがなく,すなわち,コイルバネ31に電流が流れることがなく,コイルバネ31の焼き切れを確実に防止できるという,「絶縁球」の効用を述べているのであって,コイルバネに絶縁被膜を与えれば,「絶縁球」に代え,絶縁被膜を与えない「導電性の金属球」を用いてよいことを教示するものではない。むしろ,これらの記載は,原出願の当初明細書等の記載が「絶縁球」を用いることを前提としていることを裏付ける記載であるといえる。
よって,本件訂正発明1において,「コイルバネ」を「絶縁体被膜を有するコイルバネ」とし,「前記コイルバネ」(絶縁体被膜を有するコイルバネ)によって「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」に押圧され,「前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付ける」ための部材の部分を「球の球状面からなる球状部」とすることが,原出願の当初明細書等に記載されていたということはできない。

ウ なお,訂正請求書第5頁第4?7行に「したがって,本出願の当初明細書に接した当業者は,本件発明の課題を解決する「押付部材」のプランジャーピンとの接触部分が「球」状のものであれば足りるとの認識を持つのが自然かつ合理的である。」と記載されていることに鑑み,念のため,本件訂正発明1における「球の球状面からなる球状部」を,「球の球状面」からなる「球状部」と解釈した場合(つまり,「球の」とは,「球」それ自体を用いることを特定する記載ではなく,プランジャーを押圧する部分(接触部分)の形状が「球」状のものであれば足りることを意味していると解釈した場合)について,以下に判断を示す。
(ア)まず,原出願の当初明細書等に,本件訂正発明1の「球の球状面」からなる「球状部」を有する部材に対応する部材として,「絶縁球」以外のものを示唆する記載があるか否か検討する。
まず,原出願の出願当初明細書の段落【0024】には,「凹穴23の内部には,セラミックスなどの絶縁体からなる絶縁球30が収容されている。・・・絶縁球30の直径は,凹穴23に収容されるよう,凹穴23の内径よりも小であるとともに,本体ケース11のバネ収容穴14の直径よりも大である。すなわち,本体ケース11のバネ収容穴14は絶縁球30の直径よりも小となる内径で削孔されており,絶縁球30をその内部に収容することがない。」と記載されているから,原出願の当初明細書等では,凹穴23の内部に収納され,本体ケース11のバネ収容穴14に収容されることがない部材は,「直径」という1つの尺度によって最大寸法及び最小寸法を特定できる形状,すなわち「球」を用いることが前提とされており,それ以外の形状を採用することは全く想定されていない。
また,原出願の出願当初明細書の段落【0026】には,「すなわち,図4に示すように,接触端子10の組み立てにおいては,まず,プランジャーピン20の凹穴23に絶縁球30を収容させて,本体ケース11のバネ収容穴14にはコイルバネ31の一方の端部近傍を収容させる。次いで,コイルバネ31のもう一方の端部に絶縁球30を押しつけてコイルバネ31を圧縮させつつプランジャーピン20の大径部22側を本体ケース11の長穴13に収容させる。」と記載されているから,その部材の形状が,仮に方向依存性を有している形状であれば,接触端子10を上記のように組み立てるに際し,その部材が転動せず所定の方向を保持しうるような特別の工夫が必要となることは明らかであるところ,原出願の当初明細書等にはそのような特別の工夫を用いることを示唆するような記載は見いだせないから,上記段落【0026】の記載からも,原出願の当初明細書等には,部材の形状としてそのような特別な工夫を必要としない「3次元的に回転不変」な形状,すなわち「球体」を用いることが前提とされているのであって,それ以外の形状を用いることは全く想定されていないことがわかる。
さらに,原出願の当初明細書等の他の記載箇所を精査しても,本件訂正発明1の「球の球状面からなる球状部」を有する部材に対応する部材として,「絶縁球」以外の部材を用いることを示唆する記載は見いだせない。
以上のとおり,原出願の当初明細書等には,本件訂正発明1の「球の球状面」からなる「球状部」を有する部材に対応する部材として,「絶縁球」以外のものを示唆する記載は存在しない。

(イ)そして,本体ケース内に収納されたプランジャーピンと,プランジャーピンを押圧するコイルバネを備えた接触端子において,コイルバネとプランジャーピンとの間に介在させ,プランジャーピンの大径部を本体ケースの長穴の内面に押付ける部材として,「絶縁球」以外の「球状面からなる球状部」を有する「押付部材」を用いること,ならびに「球状面からなる球状部」を有する「押付部材」を用いることにより,コイルバネの弾性力により付勢される方向を「本体ケースの中心軸に対して微小な角度」とすることによって,プランジャーピンを傾かせることが,原出願の出願時において,当業者の技術水準であったとも認められない。
むしろ,原出願の出願当初明細書の【課題を解決するための手段】の項目における段落【0010】には,「かかる発明によれば・・・プランジャーピンから本体ケースへと確実に電流を流すことが出来て,接触端子に比較的大なる電流を流し得るのである。」と記載されるとともに,[実施例1]の説明における段落【0028】には,「・・・両端部から圧縮されるとその中心軸をわずかにゆがませる。そのため,プランジャーピン20は,絶縁球30を介して,コイルバネ31により本体ケース11の中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢される。これによってプランジャーピン20の大径部22を確実に長穴13の内面に接触させながらも,その接触圧力を過度に高めることもない。」と記載されていることからみて,原出願の当初明細書等においては,コイルバネが両端部から圧縮されてその中心軸をわずかにゆがませ,コイルバネの弾性力により付勢される方向を「本体ケースの中心軸に対して微小な角度」とすることによって,プランジャーピンを傾かせて,プランジャーピンの大径部を確実に本体ケースの長穴の内面に接触させることが,当業者の技術水準とはいえないことを前提として記載されているのである。

したがって,コイルバネ31の弾性力により付勢される方向を「本体ケース11の中心軸に対して微小な角度」とすることによって,プランジャーピン20を傾かせるために,「絶縁球」以外の「球の球状面」からなる「球状部」を有する部材を用いることは,原出願の当初明細書等に記載されているに等しい事項ということもできない。

(ウ)よって,原出願の当初明細書等には,プランジャーピン20の大径部22を本体ケース11の長穴13の内面に押しつけることができる部材が,「絶縁球30」に限られず,「球の球状面」からなる「球状部」を有している部材でありさえすればよいことが記載されている(あるいは,記載されているに等しい)とはいえない。

(エ)したがって,仮に,本件訂正発明1における「球の球状面からなる球状部」を「球の球状面」からなる「球状部」と解釈した場合には,上記(ア)?(ウ)に述べた点からも,本件訂正発明1は,原出願の当初明細書等に記載された発明ではないといえる。

エ まとめ
以上のとおり,本件訂正発明1は,「プランジャーピン20と本体ケース11との摺動を妨げない程度に大径部22を長穴13の内面に押しつける」(原出願の出願当初明細書の段落【0033】)ために用いられる部材の部分は,「絶縁球」から構成されるものに限定されず,「球の球状面からなる球状部」であればよいとの新たな技術的知見に基づいて,原出願の当初明細書等に記載された発明に新たな技術的事項を含めて拡張した発明であるといえる。

よって,本件訂正発明1は,当業者にとって,原出願の当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入してなされた発明であるから,本件特許に係る出願は,特許法第44条第1項に規定する要件を満たしていない。

(3)本件訂正発明1,本件訂正発明2の新規性について
以上のことから,本件訂正発明1及び本件訂正発明2に係る特許の出願日は,現実の出願日である平成25年4月19日であって,本件訂正発明1及び本件訂正発明2に係る特許の優先権の主張も認められない。
また,原出願の当初明細書等は,本件特許に係る出願の現実の出願日前の平成25年4月18日発行の公開公報に掲載され,出願公開されている(甲24)。
上記の点を踏まえて,本件訂正発明1及び本件訂正発明2の新規性について,以下に判断する。
ア 本件訂正発明1について
本件訂正発明1における「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,球の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けること」との要件は,「球の球状面からなる球状部」として,「絶縁球」の「球状面からなる球状部」を用いることを特段排除するものではない。
そして,甲第24号証には,「絶縁球30」が記載されているだけでなく,段落【0025】に「絶縁球30には,圧縮バネからなるコイルバネ31がその一端部を当接させている。・・・(中略)・・・なお,コイルバネ31には絶縁体被膜を与えられていても良い。」と記載され,段落【0027】に,「よって,コイルバネ31は,絶縁被膜を与えられてこれが剥がれ落ちたとしても,介在する絶縁球30に確実に阻まれてプランジャーピン20に接触し得ず,プランジャーピン20に対して確実に絶縁される。つまり,プランジャーピン20に比較的大なる電流を流しても,コイルバネ31の焼き切れを確実に防止できる。」と記載されているとおり,「絶縁球30」とともに「絶縁体被膜を与えられ」た「コイルバネ」を用いることも記載されている。
よって,本件訂正発明1は,甲第24号証に記載された発明である。

イ 本件訂正発明2について
本件訂正発明2は,「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,押付部材の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とし,前記押付部材は絶縁表面を有する絶縁球からなることを特徴とする」との発明特定事項を備える発明であるが,甲第24号証に記載された発明も「絶縁球30」を用いているから,本件訂正発明2は,甲第24号証に記載された発明であり,新規性を有しない。
よって,本件訂正発明1及び本件訂正発明2は,特許法第29条第1項第3号の発明に該当し,特許を受けることができないものである。

(4)無効理由2(分割要件違反に基づく新規性の欠如)のまとめ
以上のとおり,本件特許に係る出願は,適法な分割出願とはいえず,その出願日は,現実の出願日である。そして,本件訂正発明1及び本件訂正発明2は,本件特許に係る出願の現実の出願日前に公開された甲第24号証に記載された発明であるから,新規な発明ではなく,特許法第29条第1項第3号の発明に該当し,特許を受けることができないものである。
よって,本件訂正発明1及び本件訂正発明2に係る本件特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

1-4 無効理由2についての被請求人の主張に対する,当審の判断
(1)「1-2 被請求人の主張」「(2)」「ア」について
原出願の当初明細書等には,「絶縁球」に代え,例えば,絶縁被膜を与えない「導電性を有する金属球」を用いることは,何ら記載されていない。さらに,上記「1-3 無効理由2(分割要件違反に基づく新規性の欠如)についての当審の判断」「(2)」「イ」で述べたとおり,原出願の当初明細書等には,原出願の当初明細書等に記載された解決課題を達成するため,つまり,「コイルバネに電流を流すことなく,プランジャーピンから本体ケースへと確実に電流を流す」ために,プランジャーピンとコイルバネとを「絶縁球」により絶縁することが発明の要件であるとされているのであって,「絶縁球」に代え,例えば,絶縁被膜を与えない「導電性を有する金属球」を用い,コイルバネに電流を流すことは,想定されていないことである。
よって,被請求人の主張は,原出願の当初明細書等の記載に基づくものではなく,採用できない。

(2)「1-2 被請求人の主張」「(2)」「イ」について
原出願の当初明細書等には,プランジャーピンとコイルバネとの間に絶縁球を介在させ,プランジャーピンとコイルバネとを絶縁球により絶縁し,コイルバネに電流を流さないようにした先行技術が,背景技術として記載されている(段落【0004】?【0006】)。そして,原出願の当初明細書等の記載は,「絶縁球」を用いる上記背景技術を前提とした上で,「コイルバネに電流を流すことなく,プランジャーピンから本体ケースへと確実に電流を流す」ことを解決課題とした発明を記載したものであるから,仮に,プランジャーピンとコイルバネとの間に介在させ,プランジャーピンを本体ケースに押し付ける部材として「導電球」又は材質に特に限定のない形状としての「球」を用いる技術が,従来から多数存在したとしても(甲4の第2頁(「球体(ボール)」),甲5の第3頁第11行(「金属製の球体」),甲6の段落【0012】(「金属救」(当審注:「金属球」の誤記)と認められる。),甲8の段落【0024】(「ボール部材」),乙10の段落【0058】(「中継部材」),乙11の段落【0057】(「コマ28の材質はガラスとしたが導電性材料を用いても良い」),【0060】(「コマ28の材質を導電性の合金材料とした場合」),【0066】(「コマ38の材質はシンコンの焼結材としたが導電性材料とすることもできる。」),【0068】(「コマ38の材質を導電性の合金材料とした場合」),【0072】(「コマ48の材質はガラスとしたが,導電性の金属合金を用いても良い」),【0074】(「コマ48の材質を導電性の合金材料とした場合」)),原出願の当初明細書等に首尾一貫して記載された「絶縁球」を,例えば,(絶縁被膜を与えない)「導電球」と読み替えるべき合理的理由はないものといえる。
よって,被請求人の主張は,採用できない。

なお,上記「1-3 無効理由2(分割要件違反に基づく新規性の欠如)についての当審の判断」(2)「ウ」で述べた事情に鑑み,本件訂正発明1における「球の球状面からなる球状部」を,「球の球状面」からなる「球状部」と解釈した場合(つまり,「球の」とは,「球」それ自体を用いることを特定する記載ではなく,プランジャーを押圧する部分(接触部分)の形状が「球」状のものであれば足りることを意味していると解釈した場合)について,上記「1-2 被請求人の主張」「(1)」「ア」?「ウ」の被請求人の主張について,さらに検討する。
(ア)「1-2 被請求人の主張」「(1)」「ア」について
原出願の当初明細書等に「絶縁球」が記載されているからといって,これを「球の球状面」からなる「球状部」と表現することが,新たな技術的事項を導入することにあたるものであることは,上記「1-3 無効理由2(分割要件違反に基づく新規性の欠如)についての当審の判断」「(2)」「ウ」で述べたとおりである。

(イ)「1-2 被請求人の主張」「(1)」「イ」について
原出願の当初明細書等(甲24)では,「プランジャーピン20」の「大径部22」の「端部」と,「コイルバネ31」との間に介在させる部材について,一貫して「絶縁球」と記載されている。
そして,上記「1-3 無効理由2(分割要件違反に基づく新規性の欠如)についての当審の判断」「(2)」「ウ」,「エ」で述べたとおり,原出願の出願当初明細書における段落【0033】の記載は,「絶縁球30」を用いることを前提とした記載であって,「球状面」であれば足りるとの認識は何ら示されていないのであるから,原出願の出願当初明細書の段落【0033】の記載を根拠に,被請求人の上記主張を採用することはできない。
よって,被請求人の上記主張は,原出願の出願当初明細書における段落【0033】の記載に関する新たな技術的知見に基づいてなされた主張であるから,本件特許に係る出願が分割要件を満たすことの根拠として採用することはできない。

(ウ)「1-2 被請求人の主張」「(1)」「ウ」について
乙第5号証及び乙第6号証の記載について検討すると,乙第5号証に記載された,「中間部4」(例えば,乙第5号証第2頁左上欄第19行)は,「プローブコンタクト1が,プリント基板25上の本来の位置から幾分ズレた中心線26をもつスルーホール27に適用された場合,プローブコンタクト1の胴部5及び中間部4はプリント基板25の面に対しほぼ垂直な位置を保ち,先端部2のみが,スルーホール27の幾分ズレた位置に対応して,プリント基板25の面に対して幾分傾斜してスルーホール27に係合」(乙5第3頁左上欄第2?10行)するための部材であって,「プローブコンタクト1」(「プランジャーピン」)を傾かせてその大径部を「パイプ状の胴部5」(「本体ケース」)の管状内周面に接触させるための部材ではない。
また,乙第6号証に記載された「回転支持手段5」(例えば,乙第6号証第4頁第5欄第26行)は,「接触子2がばね4の付勢力を受けて,収納部3から突出する向きに移動し,突起部6cが溝部6aに沿って上方にスライドし,接触子2が軸回りに回転しながら上昇する。」(乙6第4頁第6欄第26?29行)ために必要な部材であって,「接触子2」(「プランジャーピン」)を傾かせてその大径部を「収納体3」(「本体ケース」)の管状内周面に接触させるための部材ではない。
よって,乙第5号証及び乙6号証に記載された技術事項を参酌しても,原出願の当初明細書等に,一部に「球の球状面」を有する(「球の球状面」からなる)「球状部」を用いさえすれば,原出願の当初明細書等に記載された作用効果,つまり「コイルバネ31によってプランジャーピン20を付勢する方向を,プランジャーピン20の中心軸に対して微小な角度を有する方向とすることをより確実に」し,「よって,プランジャーピン20と本体ケース11との摺動を妨げない程度に大径部22を長穴13の内面に押しつける」(原出願の出願当初明細書の段落【0033】)ことが達成できる,との技術的知見が記載されている(記載されているに等しい)と認めることはできない。

(エ)よって,本件訂正発明1における「球の球状面からなる球状部」との記載を「球の球状面」からなる「球状部」と解釈した場合には,上記(ア)?(ウ)の点からも,被請求人の主張は採用できない。

(3)まとめ
以上のとおり,被請求人が主張する,分割要件に係る(あるいは,分割要件に読み替えた)被請求人の主張は,何れも採用できない。

1-5 無効理由2についてのまとめ
本件特許に係る出願は,適法な分割出願とはいえず,その出願日は,現実の出願日である。そして,本件訂正発明1及び本件訂正発明2は,本件特許に係る出願の現実の出願日前に公開された甲第24号証に記載された発明であるから,新規な発明ではなく,特許法第29条第1項第3号の発明に該当し,特許を受けることができないものである。
よって,本件訂正発明1及び本件訂正発明2に係る本件特許は,特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,無効とすべきものである(無効理由2-1)。
従って,無効理由2は理由がある。

2 無効理由1について
次に,無効理由1について判断する。
なお,事案に鑑み,無効理由1の判断にあたり,本件訂正発明1及び本件訂正発明2の進歩性の有無を,本件特許に係る出願の原出願の優先日(平成23年9月5日,以下,「本件の優先日」ということがある。)を基準として判断する。

2-1 甲第1号証ないし甲第9号証について
2-1-1 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
本件特許に係る出願の原出願の優先日前に頒布された甲第1号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている(下線は,当審で付加したものである。)。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,ICパッケージのバーインテストのような各種テストのために,テストボード等のプリント基板に接続されるコンタクトを有するコネクタ装置に関するもので,特に,プローブ・タイプのコンタクトを有するコネクタ装置に係わるものである。」(段落【0001】)

(イ)「【0020】
従って,本発明の目的は,上に述べた従来における問題点を解決するために,コンタクトのバレルとしての筒状本体と可動プランジャーとの間の接触を常に安定して確保して電気特性の変動を防止することができるように,可動プランジャーの加工を,偏心加工をもって好適に行って,追加工程を不必要として,一工程分だけ工程数を少なくして,コストアップを避けるようにしたコネクタ装置を提供することにある。」

(ウ)「【0031】
図1および図2に示されるように,本発明の実施例1におけるコネクタ装置は,ICパッケージと電気的接続を形成するプローブタイプのコンタクトを有するコネクタ装置である。」(段落【0031】)

(エ)「【0067】
(実施例3)
図10ないし図12には,本発明のコネクタ装置の実施例3におけるコンタクトが示されており,図10は,本発明の実施例3におけるのコンタクトの可動プランジャーの斜視図で,図11は,図10のコンタクトの可動プランジャーと筒状本体の端部との力の作用状態を示す断面部分説明図で,図12は,図10のコンタクトの可動プランジャーとICパッケージの外部端子との接触状態を示す断面部分説明図である。
【0068】
図示されるように,本発明の実施例3におけるコンタクト40は,上述の実施例1および実施例2と同じように,筒状本体42と,この筒状本体42の両端部に滑動可能に設けられた上方側の可動プランジャー43と,下方側の別の可動プランジャー(図示しない)とを有し,上方の可動プランジャー43と下方のプランジャーとの間にばね部材45が設けられいて,可動プランジャー43等を外方に向って押圧している。
【0069】
図示されるように,本発明のコンタクト40において,筒状本体42は,実施例1と実施例2の筒状本体2,22と同様に,両端部が開口した中空の円筒状をなした筒状部材46から形成されている。このような筒状本体42は,開口した両端部が,例えば絞り加工やカシメ等によって僅かに絞られていて,内側を向いたフランジ状の縁部47が形成されており,この縁部47によって小径の開口48が設けられていて,内部に一定の内径をもった空間49が形成されている。
【0070】
このような本発明の実施例3におけるコンタクト40は,筒状本体42の筒状部材46内に,上方の可動プランジャー43と下方の可動プランジャー(図示しない)とが対向するように装入されており,間にばね部材45が配置されている。また,上方の可動プランジャー43と下方の可動プランジャーとは,共に段付き形状をなしており,大径部52と小径部53とを有している。さらに,このような大径部52と小径部53との間が段付部54によって連結されていて,小径部53が,筒状本体46の両端の開口48からそれぞれ外方に突出するように対向して配置されている。また,上方の可動プランジャー43の大径部52の内側の端面52aの窪み部55と,下方の可動プランジャーの大径部の端面との間にばね部材45が設置されており,このばね部材45によって上方の可動プランジャー43と下方の可動プランジャーとがそれぞれ外方に向って弾性附勢されている。
【0071】
また,これら上方の可動プランジャー43と下方の可動プランジャーは,上述の実施例1および実施例2におけると同様に小径部53の先端の形状が,複数個の突起部56を有するか,あるいは1つの突起部を有するように円錐形状に形成されていることだけが異なっているだけで,他の構成は実質的に両部材とも同じである。
【0072】
図示されるように,可動プランジャー43は,プランジャー本体を形成する大径部52と小径部53との接続部分が,所要のテーパーが付けられた段付部54を介して段付き形状に一体的に形成されている。さらに,可動プランジャー43の大径部52は,筒状本体42の筒状部材46内に余裕をもって滑動可能に嵌合されており,これによって筒状本体42内を余裕をもって可動できるように形成されている。従って,可動プランジャー43は,筒状部材46内において傾動できるように設けられている。
【0073】
さらに,これら可動プランジャー43は,小径部53が開口48から外方に突出するように筒状部材46内に装入されており,内側の端面52aの円錐形状の窪み部55に係合しているコイルスプリング等のようなばね部材45の押圧力によって外方に向って弾性附勢されている。
【0074】
特に,本発明のこの実施例3のコンタクト40においては,図10ないし図12に示されるように,可動プランジャー43の大径部52の端面52aに,円錐形状の窪み部55が偏心量Eだけ偏心して設けられていて,この窪み部55に,ばね部材45の一端部が係止されている。これによって,ばね部材45は,可動プランジャー43の端部において偏心して作用して,上方の可動プランジャー43と下方の可動プランジャー(図示しない)とに偏荷重を作用するようにしている。
【0075】
すなわち,可動プランジャー43の端面52aに,偏心量Eだけ偏心した円錐形状の窪み部55が設けられていて,この窪み部55内に,ばね部材45の端部が係止されている。
【0076】
図11および図12に示されるように,可動プランジャー43は,ばね部材45によって押圧され,筒状本体42の端部の開口48から外方に突出している。さらに,可動プランジャー43は,肩部としての段付部54が開口48部分に係止されており,底面としての端面52a部分に偏心して設けられた円錐形状の窪み部55によってばね部材45の押圧力が偏荷重として作用されている。これによって,可動プランジャー43の軸心が,偏心した軸心C_(F)上に,図示されるように傾斜した状態に位置されている。
【0077】
このような図11に示される状態において,可動プランジャー43には,ばね部材45の反力Fが作用されており,しかも,この反力Fが傾斜した軸心C_(F)に沿って作用されている。従って,ばね部材45の反力Fは,偏荷重としてコンタクト40の中心線C_(R)に沿った垂直方向の力F1と,横方向の力F2とに分解されて,横方向の力F2が可動プランジャー43を筒状部材46に押し当て,接触させるように接触力として作用している。これによって,筒状本体42と可動プランジャー43との間には,分力F2が発生して接触力が作用し,筒状本体42に可動プランジャー43が当接して接触するようになる。
【0078】
この時の力の関係は,実施例1および実施例2におけると同じように,次のように表わされる。
F2=Fsinθ
但し,Fはばね部材の反力で,F2は接触力,θは偏荷重角度である。
【0079】
このような図11における状態が,図12に示されるように,ICパッケージ50の外部端子51に対するコンタクト20の可動プランジャー43の接触において得られる。
【0080】
すなわち,図12に示されるように,ICパッケージ50の外部端子51に対して,可動プランジャー43の先端の突起部56が接触して可動プランジャー43が筒状部材46内に押圧されており,可動プランジャー43にばね部材45の反力Fが,コンタクト40の中心線C_(R)に対して傾斜した軸心C_(F)に沿って作用されている。従って,ばね部材45の反力Fは,偏荷重としてコンタクト40の中心線C_(R)に沿った垂直方向の力F1と,横方向の力F2とに分解され,横方向の力F2が可動プランジャー43を筒状部材46に押し当て,接触力として作用している。このように,筒状本体42と可動プランジャー43との間には,上述したように,分力F2が発生して接触力が作用して,筒状本体42に可動プランジャー43が接触されるようになる。
【0081】
従って,本発明においては,コンタクト40が,バレルとしての筒状本体42に対して可動プランジャー43が接触して横方向の分力F2により常に安定して確保できるためにコンタクト40における電気特性の変動を防止することができる。」

(オ)「【0119】
本発明の請求項5記載のコネクタ装置は,前記可動プランジャーの端部が,円錐形状に偏心して座ぐり加工されているので,コンタクトの筒状本体と可動プランジャーとの間の接触を常に安定して確保して電気特性の変動を防止することができ,可動プランジャーの加工を,偏心加工をもって好適に行って追加工を不必要とし,コストアップを避けるようにする。」

(カ)図10には,可動プランジャー43が,大径部52と小径部53と,肩部としての段付部54とを有する丸棒であることが記載されている。

(キ)図12には,ICパッケージ50の外部端子51に対して,可動プランジャー43の先端の突起部56が接触して可動プランジャー43が筒状部材46内に押圧されていることが記載されている。

上記記載事項より,甲第1号証には,次の技術事項が記載されているものと認められる。
ア 段落【0001】,【0069】,【0070】の記載より,「テストボード等のプリント基板に接続されるコンタクト40において,筒状本体42は,両端部が開口した中空の円筒状をなした筒状部材46から形成され,筒状本体42は,開口した両端部に,縁部47によって小径の開口48が設けられ,筒状本体42の筒状部材46内に,上方の可動プランジャー43と下方の可動プランジャーとが対向するように装入されており,上方の可動プランジャー43と下方の可動プランジャーとは,共に段付き形状をなしており,大径部52と小径部53とを有し,さらに,このような大径部52と小径部53との間が段付部54によって連結されていて,小径部53が,筒状本体46の両端の開口48からそれぞれ外方に突出するように対向して配置され」ているとの技術事項を読み取ることができる。

イ 図10の記載より,「可動プランジャー43は,大径部52と小径部53と,肩部としての段付部54とを有する丸棒である」ことを見て取れる。

ウ 段落【0070】,【0072】,【0073】,【0074】及び【0076】の記載より,「上方の可動プランジャー43の大径部52の内側の端面52aの窪み部55と,下方の可動プランジャーの大径部の端面との間にばね部材45が設置されており,このばね部材45によって上方の可動プランジャー43と下方の可動プランジャーとがそれぞれ外方に向って弾性附勢され,さらに,可動プランジャー43の大径部52は,筒状本体42の筒状部材46内に余裕をもって滑動可能に嵌合され,従って,可動プランジャー43は,筒状部材46内において傾動できるように設けられており,さらに,これら可動プランジャー43は,小径部53が開口48から外方に突出するように筒状部材46内に装入されており,内側の端面52aの円錐形状の窪み部55に係合しているコイルスプリング等のようなばね部材45の押圧力によって外方に向って弾性附勢されて」いるとの技術事項を読み取ることができる。

エ 段落【0074】,【0076】の記載より,「可動プランジャー43の大径部52の端面52aに,円錐形状の窪み部55が偏心量Eだけ偏心して設けられていて,この窪み部55に,ばね部材45の一端部が係止され,これによって,ばね部材45は,可動プランジャー43の端部において偏心して作用して,上方の可動プランジャー43と下方の可動プランジャーとに偏荷重を作用するようにし,可動プランジャー43には,底面としての端面52a部分に偏心して設けられた円錐形状の窪み部55によってばね部材45の押圧力が偏荷重として作用されており,これによって,可動プランジャー43の軸心が,偏心した軸心C_(F)上に,傾斜した状態に位置され」ているとの技術事項を読み取ることができる。

オ 段落【0079】に「このような図11における状態が,図12に示されるように,ICパッケージ50の外部端子51に対するコンタクト20の可動プランジャー43の接触において得られる。」と記載されている。
そして,図12では,「ICパッケージ50の外部端子51に対して,可動プランジャー43の先端の突起部56が接触して可動プランジャー43が筒状部材46内に押圧されて」いることが見て取れるから,段落【0077】,【0079】,【0080】及び図12の記載より,「可動プランジャー43には,ばね部材45の反力Fが作用されており,しかも,この反力Fが傾斜した軸心C_(F)に沿って作用されており,従って,ばね部材45の反力Fは,偏荷重としてコンタクト40の中心線C_(R)に沿った垂直方向の力F1と,横方向の力F2とに分解されて,横方向の力F2が可動プランジャー43を筒状部材46に押し当て,接触させるように接触力として作用し,これによって,筒状本体42と可動プランジャー43との間には,分力F2が発生して接触力が作用し,筒状本体42に可動プランジャー43が当接して接触するようになり,ICパッケージ50の外部端子51に対して,可動プランジャー43の先端の突起部56が接触して可動プランジャー43が筒状部材46内に押圧されても,同じ状態が得られ」るとの技術事項を読み取ることができる。

カ 段落【0081】の記載より,「バレルとしての筒状本体42に対して可動プランジャー43が接触して横方向の分力F2により常に安定して確保できるため,電気特性の変動を防止することができる,コンタクト40。」との技術事項を読み取ることができる。

上記ア?カより,甲第1号証には,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「テストボード等のプリント基板に接続されるコンタクト40において,筒状本体42は,両端部が開口した中空の円筒状をなした筒状部材46から形成され,筒状本体42は,開口した両端部に,縁部47によって小径の開口48が設けられ,筒状本体42の筒状部材46内に,上方の可動プランジャー43と下方の可動プランジャーとが対向するように装入されており,上方の可動プランジャー43と下方の可動プランジャーとは,共に段付き形状をなしており,大径部52と小径部53とを有し,さらに,このような大径部52と小径部53との間が段付部54によって連結されていて,小径部53が,筒状本体46の両端の開口48からそれぞれ外方に突出するように対向して配置され,
可動プランジャー43は,大径部52と小径部53と,肩部としての段付部54とを有する丸棒であり,
上方の可動プランジャー43の大径部52の内側の端面52aの窪み部55と,下方の可動プランジャーの大径部の端面との間にばね部材45が設置されており,このばね部材45によって上方の可動プランジャー43と下方の可動プランジャーとがそれぞれ外方に向って弾性附勢され,さらに,可動プランジャー43の大径部52は,筒状本体42の筒状部材46内に余裕をもって滑動可能に嵌合され,従って,可動プランジャー43は,筒状部材46内において傾動できるように設けられており,さらに,これら可動プランジャー43は,小径部53が開口48から外方に突出するように筒状部材46内に装入されており,内側の端面52aの円錐形状の窪み部55に係合しているコイルスプリング等のようなばね部材45の押圧力によって外方に向って弾性附勢されており,
可動プランジャー43の大径部52の端面52aに,円錐形状の窪み部55が偏心量Eだけ偏心して設けられていて,この窪み部55に,ばね部材45の一端部が係止され,これによって,ばね部材45は,可動プランジャー43の端部において偏心して作用して,上方の可動プランジャー43と下方の可動プランジャーとに偏荷重を作用するようにし,
可動プランジャー43には,底面としての端面52a部分に偏心して設けられた円錐形状の窪み部55によってばね部材45の押圧力が偏荷重として作用されており,これによって,可動プランジャー43の軸心が,偏心した軸心C_(F)上に,傾斜した状態に位置され,
可動プランジャー43には,ばね部材45の反力Fが作用されており,しかも,この反力Fが傾斜した軸心C_(F)に沿って作用されており,従って,ばね部材45の反力Fは,偏荷重としてコンタクト40の中心線C_(R)に沿った垂直方向の力F1と,横方向の力F2とに分解されて,横方向の力F2が可動プランジャー43を筒状部材46に押し当て,接触させるように接触力として作用し,これによって,筒状本体42と可動プランジャー43との間には,分力F2が発生して接触力が作用し,筒状本体42に可動プランジャー43が当接して接触するようになり,ICパッケージ50の外部端子51に対して,可動プランジャー43の先端の突起部56が接触して可動プランジャー43が筒状部材46内に押圧されても,同じ状態が得られ,
バレルとしての筒状本体42に対して可動プランジャー43が接触して横方向の分力F2により常に安定して確保できるため,電気特性の変動を防止することができる,コンタクト40。」

2-1-2 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
本件特許に係る出願の原出願の優先日前に頒布された甲第2号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気構成要素と通電するための電気接触スプリングプローブアッセンブリであって,
接触頂部と,前記接触頂部と反対の位置にある端部とを有するプランジャーと,
前記頂部がバレルから突出する伸張位置と,前記頂部がバレル内に部分的に引き込む引き込み位置との間で前記プランジャーを縦軸線に沿って移動するための,前記端部を受け入れるための管状バレルとを備え,
前記プランジャーは,前記縦軸線から離れた第2の軸線を定める縦方向に伸びる開口を有しており,
さらに,前記電気接触スプリングプローブアッセンブリは,
前記プランジャーに縦方向の圧力をかけるスプリングを備え,
前記スプリングは,前記バレルと係合する第1端部と,前記開口内に受け入れられた第2端部とを有し,前記縦方向の圧力の一部分を横の圧力に変えて,前記プランジャーを前記バレルに対して偏倚することを特徴とする電気接触スプリングプローブアッセンブリ。」

(イ)「【請求項4】
請求項1に記載の電気接触スプリングプローブアッセンブリにおいて,
前記第2の軸線は,前記縦軸線に概ね平行であることを特徴とする電気接触スプリングプローブアッセンブリ。」

(ウ)「【技術分野】
【0001】
本発明は,概ね,バッテリー型接触子及び相互接続プローブに関し,特に,電気検査装置やバッテリー接触装置で使用される,ばね負荷された接触プローブ及びそのプローブを偏倚する方法に関する。」

(エ)「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
バッテリー型接触子及び相互接続プローブの設計は,概ね,最良の性能ために最適にされた回路を有する,コンパクトで耐久性があり信頼性が高い設計を必要とする。これらの接触子は,例えばエレクトロニクス,プリント回路基板,コンピューターチップを検査するための装置に利用される。他に,典型的に,バッテリーチャージ装置,移動電気通信装置,連結装置,他の移動可能な電気装置に利用される。接触子は,電力導線かまたは信号搬送手段として使用され,様々な環境状件に依存する。
【0004】
製品は,電流の大きさを維持しながら,サイズを小さくし続け,あるいは性能を高め続けるので,より小さい接触子の必要性が増し続ける。しかし,プローブ接触子の順応性は,アッセンブリの多くの部品の許容誤差を受け入れるのに重要であり続ける。多くの場合,この順応性は,割り当てられた空間内でスプリングが供給できるよりずっと長いプランジャー行程を有するプローブを必要とする。これは,スプリングに対する追加的な空間を供給するためにプランジャーの背部を刳り貫くことによって補われる。その結果生じるプローブの性能は機械的に良好であるが,ある場合には電気性能は,スプリング及び検査中の装置の機能によって妥協される。具体的に述べると,検査での装置がプランジャーの頂部を直接下方に押して,スプリングがプランジャーとバレルとの間に所望の接触を直ちに強める力を発生する場合,その力は,最適な電気性能に対して必要とされるが,非常に小さいか存在しないことがある。その結果,不良で信頼性のないプローブの電気性能が生じる。」

(オ)「【0006】 プローブの偏倚を改善する努力で,多くの設計が創作されている。最も一般的で好結果が得られるのは,プランジャーの後部に傾斜切断部を提供することである。大きな横方向の力が,傾斜切断部に対して押すスプリングから生じ,バレルとプランジャーとの間の安定した一定の接触力を生じる。この接触力は,スプリングを通らないで電流がプランジャーからバレルに流れるのを確実にし,また,最も低いバレルとプランジャー間の接触抵抗を提供する。このタイプの設計の不利な点は,機械的摩損でプローブの故障となる,プランジャーとバレルとの間に発生されるより高い摩擦である。
【0007】
背部が刳り貫かれたプランジャーに関しては,この偏倚を引き起こす角度が付いた面をつくることはできない。従って,偏倚を発生するのに他の方法を利用しなければならない。ある方法は,偏倚を促進するためにプランジャーの前端の設計の変更を伴うが,他の方法は,特別なバレルや中子などを必要とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は,背面に刳り貫かれた穴又は開口を有するプランジャーであり,開口は,プランジャーの縦軸線から離れている開口の中心線を有する。プランジャーに抗するスプリングの力は,プランジャーの縦軸線即ち中心線ともはや直接的に一致しない。例えば,検査中の装置又はバッテリー接触にプランジャーが相偶すると,直接の連結力又はモーメント力が生じる。このモーメントは,プランジャーに及ぼされた軸方向の力の一部分を,横方向の力に変換する。このモーメントは,プランジャーの軸受け面をバレルの内径に対して押しつけることにより必要とされる偏倚を発生する。その枢点は,プランジャーと検査中の装置との接触点である。スプリングの力が大きいほど,生じるモーメントは大きく,接触力が大きい。
【0009】
中心位置から外れた穴のために,スプリングの動き即ち“くねった動き”が生じる。スプリングの両端部自身は,それらのために作られた空洞内で中心に位置する傾向がある。二つの空洞が一直線に合っていないので,スプリングは,コイルの中心で撓まるを得ない。さらに,この撓みは,プランジャーの空洞がスプリングの中心に伸びていれば,プランジャーの偏倚を増大する。」

(カ)「【0013】
図3乃至図5は,参照符号50によって概ね示された本発明の電気的接触プローブを図示する。プローブ50は,プランジャー54を受け入れるための中空バレル52を有する。プランジャー54は,頂部56と,肩部又はフランジ58と,端部60とを有する。プランジャー54は,横断面が概ね円形であり,フランジ58を横切って端部60から頂部56まで縮小する径を有する。バレル52のクリンプ62は,プランジャー54をバレル52内に保持する。
【0014】
プランジャー54は,スプリング66を受け入れるための背面が刳り貫かれた穴又は開口64を有する。好適実施態様では,開口64の中心軸線68は,プランジャー54及び空洞53の縦軸線すなわち中心軸線と概ね平行である。開口64は,プランジャー54及び空洞53と共通の軸線を共有しないので,スプリング66は,その両端部自身が空洞53及び開口64の中で中心に位置すると僅かに撓む。スプリングの力は,プランジャーの中心線70と直線的に一致せず,従って,例えば,プランジャー54が検査中の装置又はバッテリーと接触すると,即座に連結力又はモーメント力が生じる。このモーメントは,スプリング66によってプランジャー54に及ぼされた軸方向の力の一部分を,プランジャー54の縦軸線70に概ね垂直な側方すなわち横軸方向の力に変換する。このモーメントすなわちトルクは,プランジャーの軸受け面(端部60の外面)をバレルの空洞53の内径55に対して押しつけて偏倚を発生する。モーメントの枢点は,プランジャー54の先端部56あるいはプランジャー54と検査中の装置又は電気装置と装置との接触点である。スプリングの力が大きいほど,生じるモーメントは大きく,そのモーメントはプランジャー54とバレル52とのより大きな接触力を発生する。
【0015】
上記偏倚すなわちバレル52とプランジャー54との接触は,バレル52とプランジャー54との良好な電気伝導のために必要である。」

(キ)図3には, スプリング66を受け入れるための,前記プランジャーの背面が刳り貫かれた穴又は開口64が,プランジャー54の頂部(先端部)56に,略円錐面形状を有する傾斜凹部を有していることが示されている。

上記記載事項より,甲第2号証には,次の技術事項が記載されているものと認められる。
ア 【請求項1】より,「電気構成要素と通電するための電気接触スプリングプローブアッセンブリ」との技術事項を読み取ることができる。

イ 【請求項1】,【0013】より,「電気接触スプリングプローブアッセンブリ」が,「接触頂部と,肩部又はフランジ58と,前記接触頂部と反対の位置にある端部とを有し,横断面が概ね円形であり,フランジ58を横切って端部60から頂部56まで縮小する径を有するプランジャーと,
前記頂部がバレルから突出する伸張位置と,前記頂部がバレル内に部分的に引き込む引き込み位置との間で前記プランジャーを縦軸線に沿って移動するための,前記ランジャー54を受け入れるための管状バレルと,
前記プランジャーに縦方向の圧力をかけるスプリングを備える」との技術事項を読み取ることができる。

ウ 【請求項1】,【0014】,図3より,「前記プランジャーは,スプリング66を受け入れるための背面が刳り貫かれた穴又は開口64を有し,開口64の中心軸線68は,プランジャー54及び空洞53の縦軸線すなわち中心軸線と概ね平行であり,前記縦軸線から離れた第2の軸線を定める縦方向に伸びる開口を有しており,スプリング66を受け入れるための,前記プランジャーの背面が刳り貫かれた穴又は開口64は,プランジャー54の頂部(先端部)56に,略円錐面形状を有する傾斜凹部を有している」との技術事項を読み取ることができる。

エ 【請求項1】,【0014】,【0015】より,「前記スプリングは,前記バレルと係合する第1端部と,前記開口内に受け入れられた第2端部とを有し,前記縦方向の圧力の一部分を横の圧力に変えて,プランジャーの軸受け面(端部60の外面)をバレルの空洞53の内径55に対して押しつけて偏倚を発生し,上記偏倚すなわちバレル52とプランジャー54との接触は,バレル52とプランジャー54との良好な電気伝導のために必要である」との技術事項を読み取ることができる。

上記ア?エより,甲第2号証には,次の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「電気構成要素と通電するための電気接触スプリングプローブアッセンブリであって,
接触頂部と,肩部又はフランジ58と,前記接触頂部と反対の位置にある端部とを有し,横断面が概ね円形であり,フランジ58を横切って端部60から頂部56まで縮小する径を有するプランジャーと,
前記頂部がバレルから突出する伸張位置と,前記頂部がバレル内に部分的に引き込む引き込み位置との間で前記プランジャーを縦軸線に沿って移動するための,前記プランジャー54を受け入れるための管状バレルと,
前記プランジャーに縦方向の圧力をかけるスプリングを備え,
前記プランジャーは,スプリング66を受け入れるための背面が刳り貫かれた穴又は開口64を有し,開口64の中心軸線68は,プランジャー54及び空洞53の縦軸線すなわち中心軸線と概ね平行であり,前記縦軸線から離れた第2の軸線を定める縦方向に伸びる開口を有しており,スプリング66を受け入れるための,前記プランジャーの背面が刳り貫かれた穴又は開口64は,プランジャー54の頂部(先端部)56に,略円錐面形状を有する傾斜凹部を有し,
前記スプリングは,前記バレルと係合する第1端部と,前記開口内に受け入れられた第2端部とを有し,前記縦方向の圧力の一部分を横の圧力に変えて,プランジャーの軸受け面(端部60の外面)をバレルの空洞53の内径55に対して押しつけて偏倚を発生し,上記偏倚すなわちバレル52とプランジャー54との接触は,バレル52とプランジャー54との良好な電気伝導のために必要である,電気接触スプリングプローブアッセンブリ。」

2-1-3 甲第3号証に記載された技術事項
甲第3号証には,図面とともに,次の事項が記載されている。
「 【特許請求の範囲】
【請求項1】 プローブテストに供するコンタクトプローブにおいて,
バレルと,バレルに進退自在に装着されたプランジャと,バレル内に装着されてプランジャを進出側へ弾性付勢する圧縮コイルスプリングとを備え,
前記バレルの内面に高導電性の導電性被膜を形成すると共に,圧縮コイルスプリングの全表面部に絶縁被膜を形成したことを特徴とするコンタクトプローブ。
【請求項2】 前記バレル内に且つプランジャの基端面と圧縮コイルスプリング間装着された球体を設け,この球体の少なくとも全表面部を絶縁材料で構成したことを特徴とする請求項1に記載のコンタクトプローブ。
【請求項3】 前記球体を絶縁材料で構成したことを特徴とする請求項2に記載のコンタクトプローブ。」

「【0009】請求項2のコンタクトプローブは,請求項1の発明において,前記バレル内に且つプランジャの基端面と圧縮コイルスプリング間装着された球体を設け,この球体の少なくとも全表面部を絶縁材料で構成したことを特徴とするものである。このように,球体の少なくとも全表面部を絶縁材料で構成するため,球体にも高周波信号が流れることがなく,球体の影響で電気抵抗が増すこともない。」

「【0014】前記プランジャ3は,例えばベリリウム銅製の中実体であり,例えば0.55mmの外径のプランジャ本体12と,バレル2内に摺動自在に装着された基端側の大径部13とを一体形成してある。プランジャ3はバレル2に対して進退自在に形成されている。プランジャ本体12の先端部には,例えば尖った4ツ割り部14が形成されている。但し,この先端部の形状はこの形状に限定されるものではない。プランジャ3の大径部13の基端面は軸心に対して直交する面から数度傾斜した傾斜面15に形成されている。これは球体4から大径部13に作用する押圧力により大径部13の外周面をバレル2の内面に強く接触させる為である。」

「【0017】次に,以上説明したコンタクトプローブ1の作用について説明する。プローブテストの際,プランジャ3を集積回路の端子に当接させた状態で,検査装置からプリント基板7のテスト回路7aを介してバレル2にテスト用の高周波信号を供給してテストする。このとき,高周波信号はバレル2の内面の高導電性の導電性被膜8とプランジャ3を通って流れるが,圧縮コイルスプリング5の全表面部に絶縁被膜17を形成してあるため,高周波信号が圧縮コイルスプリング5内を流れることはないから,この高周波信号に圧縮コイルスプリング5の自己インダクタンスの影響が表れることはない。バレル2の内面に高導電性の導電性被膜8を形成してあるため,プローブテストの高周波信号はその高導電性の導電性被膜8とプランジャ3を通って流れる。」

よって,甲第3号証には,次の技術事項が記載されている。
「バレルと,バレルに進退自在に装着されたプランジャと,バレル内に装着されてプランジャを進出側へ弾性付勢する圧縮コイルスプリングとを備え,前記バレル内に且つプランジャの基端側の大径部13の基端面と圧縮コイルスプリング間装着された球体を設け,圧縮コイルスプリングの全表面部に絶縁被膜を形成し,この球体の少なくとも全表面部を絶縁材料で構成し,プランジャ3の大径部13の基端面は軸心に対して直交する面から数度傾斜した傾斜面15に形成され,球体4から大径部13に作用する押圧力により大径部13の外周面をバレル2の内面に強く接触させ,信号はバレル2の内面とプランジャ3を通って流れ,圧縮コイルスプリング5内にも,球体にも高周波信号が流れることがない,コンタクトプローブ。」

2-1-4 甲第4号証に記載された技術事項
甲第4号証には,図面とともに,次の事項が記載されている。
「考案の技術的背景とその問題点。
既に提案されているこの種の導電接触針装置は,第1図に拡大して示されるように,導電性による保持筒体aの下部開口部a_(1)に触針子(プローブ)b_(1)を有する触針子本体bを上記保持筒体aの一部に形成された係止部cで抜け落ちないようにして摺動自在に嵌装し,上記触針子本体bの上部b_(2)に形成された傾斜面dに球体(ボール)eを,上記保持筒体a内に介装されたコイルばねfの弾力で圧接したものである。
従って,上述した導電接触針装置は,電気回路の試験器として使用する場合,例えば,プリント回路基板の半田部に接触子本体bの触針子b_(1)を接触させることにより,電気的な測定・調整や動作試験を行っている。この場合,上記触針子本体bの上部b_(2)は,コイルばねfの弾力で付勢された球体eの押圧力によって,傾斜面dを側方へ押動し,これによって導電性の保持筒aの内側壁に圧接して導通するようになっている。」(明細書第2頁第5行?第3頁第4行)

「一方,上記触針子本体2の上部2bには軸方向の摺割部4が設けられており,この摺割部4は上記上部2bを両側に開脚し得るようにしている。又,上記触針子本体2の上部頂面には傾斜面5が上記摺割部4の位置する軸心方向に向かって形成されており,この傾斜面5は円錐凹窩部を形成している。さらに,この傾斜面5には球体(ボール)6が載置されており,この球体6は上記保持筒体1内に設けられたコイルばね7による弾力によって圧接されるから,この球体6が上記触針子本体2の上部2bを両側に弾発的に開脚して上記保持筒体1の内周面に均等に接触するようにし,これにより,導電性の保持筒体1と上記触針子本体2とが,常に導通した状態で接触するようになっている。」明細書第6頁第2?16行)

よって,甲第4号証には,次のア,イの技術事項が記載されている。
ア 「導電性による保持筒体aの下部開口部a_(1)に触針子(プローブ)b_(1)を有する触針子本体bを摺動自在に嵌装し,上記触針子本体bの上部b_(2)に形成された傾斜面dに球体(ボール)eを,上記保持筒体a内に介装されたコイルばねfの弾力で圧接し,上記触針子本体bの上部b2は,コイルばねfの弾力で付勢された球体eの押圧力によって,傾斜面dを側方へ押動し,これによって導電性の保持筒aの内側壁に圧接して導通するようになっている,導電接触針装置。」
イ 「触針子本体2の上部2bには軸方向の摺割部4が設けられており,この摺割部4は上記上部2bを両側に開脚し得るようにしており,上記触針子本体2の上部頂面には傾斜面5が上記摺割部4の位置する軸心方向に向かって形成されており,この傾斜面5は円錐凹窩部を形成し,さらに,この傾斜面5には球体(ボール)6が載置されており,この球体6は上記保持筒体1内に設けられたコイルばね7による弾力によって圧接されるから,この球体6が上記触針子本体2の上部2bを両側に弾発的に開脚して上記保持筒体1の内周面に均等に接触するようにし,これにより,導電性の保持筒体1と上記触針子本体2とが,常に導通した状態で接触するようになっている,導電接触針装置。」

2-1-5 甲第5号証に記載された技術事項
甲第5号証には,図面とともに,次の事項が記載されている。
「2.実用新案登録請求の範囲
(1)すくなくとも内層が導電性を有する保持筒と,この保持筒の開口部に抜け落ちないように摺動自在で摺動方向に対して後端を斜めのバイアスカット面に形成されたプランジャーと,このプランジャーを前記保持筒から突出する方向に弾性付勢するコイルばねと,このコイルばねと前記プランジャーのバイアスカット面との間に介在された押圧部材と,からなるコンタクトプローブにおいて,前記押圧部材を絶縁体に構成したことを特徴とするコンタクトプローブ。
(2)前記押圧部材のすくなくとも前記バイアスカット面に当接する部材を摩擦係数の小さい絶縁材で構成したことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載のコンタクトプローブ。
(3)前記押圧部材を金属製球体の表面を絶縁材で被覆して球体に構成したことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項または第2項記載のコンタクトプローブ。」(明細書第1頁第4行?第2頁第2行)

「ところで,上記した従来のコンタクトプローブにあっては,・・・バイアスカット面に摺動方向と直交の分力を充分に作用させることができない場合が生じ易い。かかる場合には,プランジャーの後端を保持筒に確実に当接させることができず,保持筒に侵入した塵埃やプラスチック等がプランジャーと保護筒の当接部に介在し易く,プランジャーと保護筒の導電経路が遮断されてプランジャーから金属製球体さらにはコイルバネと電流が流れ易い。・・・この結果,・・・検査の信頼性に欠けるという問題点があった。・・・本考案の目的は,上記従来のコンタクトプローブの問題点を解決するためになされたもので,コンタクトプローブのバイアスカット面とコイルばねとの間に介在される押圧部材を絶縁体に構成して正常な導電経路以外の経路が構成されることなく,検査の信頼性の高いコンタクトプローブを提供することにある。」(明細書第3頁第10行?第4頁第18行)

「第1図において,コンタクトプローブ1は,一端に絞り部2aを形成した内層に金メッキ等の良導電層を形成した保護筒2の他端の開口部2bにプランジャー3が摺動自在に挿入配設されている。」(明細書第6頁第5?8行)

「また,押圧部材5の摩擦係数を小さくすることで,バイアスカット面3cとコイルばね4との間で円滑に回転でき,バイアスカット面3cによる摺動方向に直交する分力Fを充分にプランジャー3に与えることができ,プランジャー3を保護筒2に確実に当接させることができる。したがって,保護筒2へのプランジャー3の当接力を強くできるので,保護筒2内に侵入した塵埃やフラックス等を当接面から排除でき,正常な導電経路を確実に確保することができる。
押圧部材5は,テフロン等の摩擦係数の小さい絶縁材で全体を形成しても良いが,金属製球体の表面を絶縁材で被覆して球体を形成しても良い。」(明細書第7頁第20行?第8頁第13行)

「(作用)
プランジャー後端のバイアスカット面とコイルばねの間に介在される押圧部材を絶縁体に構成したので,プランジャーから押圧部材を介してコイルばねに電流が流れず,仮にプランジャーと保護筒との正常な導電経路が遮断されると直ちにコンタクトプローブの故障であることが判別でき,良品のプリント回路基板等に対して不良品であるがごとき検査結果とらず,検査の信頼性を向上させることができる。」(第5頁第11?20行)

よって,甲第5号証には,次の技術事項が記載されている。
「保持筒と,保持筒の開口部に摺動自在で摺動方向に対して後端を斜めのバイアスカット面に形成されたプランジャーと,このプランジャーを前記保持筒から突出する方向に弾性付勢するコイルばねと,このコイルばねと前記プランジャーのバイアスカット面との間に介在された押圧部材と,からなるコンタクトプローブにおいて,前記押圧部材を金属製球体の表面を摩擦係数の小さい絶縁材で被覆して球体に構成し,バイアスカット面による摺動方向に直交する分力Fを充分にプランジャーに与えることができ,プランジャーを保護筒に確実に当接させ,コイルばねに電流が流れず,正常な導電経路を確実に確保する,コンタクトプローブ。」

2-1-6 甲第6号証に記載された技術事項
甲第6号証には,図面とともに,次の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】従来のコンタクトピンの即断面図を図3に示す。上部から回路基板1を介してプランジャ2の頭部2aを押し下げることにより,先端にボール3を取付けたスプリング4が圧縮され,スプリングの反発力によりボール3を水平方向へ動かす力が働く。このボールと連動してプランジャ接触部2bがバレル5の内壁に押され,プランジャ2とバレル5が導通状態となる。さらにスプリング4の反発力によりプランジャ頭部2aが回路基板1の電極面1aと密着し,回路基板1とコンタクトピンを挿入したソケット6とを電気的に接続する。従って,下部に別の回路基板7のピン7aをソケット6に挿入することで取付け,最終的に上下の回路基板1と7を電気的に接続するというものであった。」

また,図3には,「有底筒状のバレル5内にスプリング4,ボール3,プランジャ2を順次挿入したコンタクトピン」が記載されている。

よって,甲第6号証には,次の技術事項が記載されている。
「有底筒状のバレル5内にスプリング4,ボール3,プランジャ2を順次挿入したコンタクトピンであって,プランジャ2の頭部2aを押し下げることにより,先端にボール3を取付けたスプリング4が圧縮され,スプリングの反発力によりボール3を水平方向へ動かす力が働き,このボールと連動してプランジャ接触部2bがバレル5の内壁に押され,プランジャ2とバレル5が導通状態となる,コンタクトピン。」

2-1-7 甲第7号証に記載された技術事項
甲第7号証には,図面とともに,次の事項が記載されている。
「【0005】【発明が解決しようとする課題】ところが,上記従来のコンタクトプローブピンにおいては,以下の問題があることを本発明者は見い出した。
【0006】すなわち,従来は,接触部の外周壁と,筒状体の内周壁とが長期間の使用により削れてしまい,実際には接触部と筒状体との直接の電気的接触状態が悪くなったとしても,接触部はボールおよびコイルばねを通じて筒状体と電気的に接続されるので,コンタクトプローブピンの電気的検査においては,その劣化不良を見い出すことが困難であるという問題があった。」

「【0022】コンタクトプローブピン6は,筒状体9と,一端が突出された状態で筒状体9の筒内に収容された接触部10と,筒状体9の筒内において接触部10の他端側に収容されたコイルばね(付勢手段)11aと,接触部10およびコイルばね11aの間に介在された球状のボール12aとから構成されている。」

「【0025】コイルばね11aは,接触部10を筒状体9の外方に付勢するための構成部であり,本実施例1においては,所定の金属によって構成されている。
【0026】ところで,本実施例1においてはボール12aが,例えば絶縁体によって構成されており,接触部10と,コイルばね11aとの導通経路を遮断する絶縁手段としての機能を備えている。
【0027】すなわち,本実施例1のコンタクトプローブピン6においては,接触部10が筒状体9と電気的に接続されるのは,筒状体9との直接の接触に限定される構造になっている。」

「【0033】【実施例2】図3は本発明の他の実施例であるコンタクトプローブピンの要部断面図である。
【0034】図3に示す本実施例2のコンタクトプローブ6においては,ボール12bが,金属導体によって構成されている代わりに,コイルばね11bが絶縁体によって構成されコイルばね11b自体が絶縁手段としての機能を備えている。なお,図3においては,絶縁手段としての機能を示すためにコイルばね11bに斜線が付してある。
【0035】したがって,本実施例2においても前記実施例1で得られた効果(1) ?(3) と同様の効果を得ることが可能となる上,コイルばね11bの材料選択の幅が広がり,コンタクトプローブピン6のコストを低減することができる,という効果も得られる。」

よって,甲第7号証には,次の技術事項が記載されている。
「筒状体9と,一端が突出された状態で筒状体9の筒内に収容された接触部10と,筒状体9の筒内において接触部10の他端側に収容されたコイルばね(付勢手段)11aと,接触部10およびコイルばね11aの間に介在された球状のボール12aとから構成されているコンタクトプローブピン6であって,ボール12aが,例えば絶縁体によって構成されており,接触部10と,コイルばね11aとの導通経路を遮断する絶縁手段としての機能を備え,接触部10が筒状体9と電気的に接続されるのは,筒状体9との直接の接触に限定される構造になっている,コンタクトプローブピン6。」
また,甲第7号証には,段落【0033】?【0035】に,「コイルばねを絶縁体で構成する」技術が記載されている。

2-1-8 甲第8号証に記載された技術事項
甲第8号証には,図面とともに,次の事項が記載されている。
「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 結線部を構成する筒状のハウジング部材と,該ハウジング部材に摺動可能に収納され接点部を有するプランジャ部材と,ハウジング部材の内部に配設されプランジャ部材をハウジング部材より突出する方向に常時付勢するスプリング部材を有するコンタクトプローブであって,
上記プランジャ部材とスプリング部材との間に,ハウジング部材の内径よりも小さい径を有する複数のボール部材が配設されていることを特徴とするコンタクトプローブ。
【請求項2】 スプリング部材は,その外径が,スプリング部材が付勢するボール部材の径よりも小さいところの請求項1記載のコンタクトプローブ。」

「【請求項7】 スプリング部材に接触するボール部材が,絶縁材質で形成されているところの請求項2,請求項4,請求項5又は請求項6記載のコンタクトプローブ。」

「【0002】
【従来の技術】 従来より,電子回路の基板テストに用いられるスプリング式コンタクトプローブが知られており,それを用いて通電や電圧のチェックが行われていた。ところで,近年,そのようなコンタクトプローブが自動脱着用コネクタとしても使用されつつある。
【0003】 そのようなコンタクトプローブとしては,・・・図9に示すように,結線部d1 を有するハウジング部材d内に,接点部e1 を有するプランジャ部材eが収納され,該プランジャ部材eがスプリング部材fにて突出方向に常時付勢され,接点部e1 と結線部d1 がスプリング部材fやプランジャ部材eとハウジング部材dの内周面との接触で通電されるタイプのコンタクトプローブBとに大きく分かれる。
【0004】 ところが,・・・
【0005】 また,後者のタイプでは,接点部e1 が押されても,結線部d1 が動かないので,結線し易く,断線の心配もなく,しかもソケットに入れることによりプローブの交換が容易にできるという利点がある反面,ハウジング部材d(結線部d1 )とプランジャ部材e(接点部e1 )とが別部材となっているため接点部e1 から結線部d1 までの接触が不安定で,即ち力のアンバランスによって初めて接触するものであり,また,電流がスプリング部材fを流れることで,スプリング部材fを焼くおそれがあるという欠点がある。
【0006】
そこで,図10に示すコンタクトプローブCのように,ハウジング部材gに収納されるプランジャ部材hの後端部,即ちスプリング部材kの当たる部分h1 を斜めにカットして,プランジャ部材hの力のバランスをくずすことによって,ハウジング部材gとプランジャ部材hとが確実に接触するようにしたものがあり,さらに,図11に示すコンタクトプローブDのように,ハウジング部材mに収納されるプランジャ部材nとスプリング部材oとの間にボール部材pを介装したものもある。」

「【0033】
【考案の効果】
請求項1の考案は,上記のように,スプリング部材とプランジャ部材との間に複数のボール部材を配設するようにしたから,複数のボール部材が,プランジャ部材の移動に伴って滑らかに移動することとなり,耐久性を損なうことなく,ボール部材を介して,接点部を有するプランジャ部材を結線部を構成するハウジング部材に確実に接触させることができ,確実な通電を得ることができる。」

「【0039】
請求項7の考案は,スプリング部材に接触するボール部材を,絶縁材質で形成しているので,スプリング部材に電流が流れるということがなく,それによってスプリング部材が焼けるのを防止することができる。」

よって,甲第8号証には,「従来の技術」として,
「ハウジング部材mに収納されるプランジャ部材nの後端部を斜めにカットして,ハウジング部材mに収納されるプランジャ部材nとスプリング部材oとの間にボール部材pを介装したコンタクトプローブ。」
が記載されているとともに,次の技術事項が記載されている。
「結線部を構成する筒状のハウジング部材と,該ハウジング部材に摺動可能に収納され接点部を有するプランジャ部材と,ハウジング部材の内部に配設されプランジャ部材をハウジング部材より突出する方向に常時付勢するスプリング部材を有するコンタクトプローブであって,
上記プランジャ部材とスプリング部材との間に,ハウジング部材の内径よりも小さい径を有する複数のボール部材が配設され,スプリング部材は,その外径が,スプリング部材が付勢するボール部材の径よりも小さく,スプリング部材に接触するボール部材が,絶縁材質で形成され,ボール部材を介して,接点部を有するプランジャ部材を結線部を構成するハウジング部材に確実に接触させることができ,確実な通電を得ることができるとともに,スプリング部材に接触するボール部材を,絶縁材質で形成しているので,スプリング部材に電流が流れるということがなく,それによってスプリング部材が焼けるのを防止することができる,
コンタクトプローブ。」

2-1-9 甲第9号証に記載された技術事項
甲第9号証には, 【従来の技術】として,図面とともに,次の事項が記載されている。
「 【0002】
【従来の技術】
従来から使用されているコンタクトプローブの一例を図5の断面図によって説明すると,導電性の材料で作られた細管1の右側の端部は開口2になっており,細管1の内部にはプランジャー3が設けられている。
【0003】
プランジャー3は,細管1内に摺動自在に挿入されている尾端部4と,細管1の開口2から突出している先端がとがっいてる先端部5と,尾端部4と先端部5とを結合している細径部6とを有しており,尾端部4の開口2とは反対側の端面は一方向に傾斜した傾斜面7になっている。そして細管1にはくびれた係止部8が形成されていて尾端4が通り抜けないようにし,プランジャー3が細管1から抜け出ないようにしている。細管1内の尾端部4の左側にはコイルばね9とボール10とが挿入されていて,コイルばね9はボール10を介して傾斜面7を開口2側に付勢し,プランジャー3の先端部5が細管1の開口2から突出するようにしている。
【0004】
細管1には図示しない導線が取り付けられていて,プランジャー3の先端部5をプリント回路基盤の半田付け部等の被測定部に接触させることにより電気的な測定を行うのであるが,この場合にプランジャー3の尾端部4には,コイルばね9の弾力で付勢されているボール10の押圧力によって傾斜面7を細管1の内壁に押し付けられる分力が作用し,尾端部4が導電性のある細管1の内壁に圧接して細管1とプランジャー3との間の電気的導通が確保されることになる。」

よって,甲第9号証には,次の技術事項が記載されている。
「導電性の材料で作られた細管1の右側の端部は開口2になっており,細管1の内部にはプランジャー3が設けられ,プランジャー3は,細管1内に摺動自在に挿入されている尾端部4と,細管1の開口2から突出している先端がとがっている先端部5と,尾端部4と先端部5とを結合している細径部6とを有しており,尾端部4の開口2とは反対側の端面は一方向に傾斜した傾斜面7になっており,細管1内の尾端部4の左側にはコイルばね9とボール10とが挿入されていて,コイルばね9はボール10を介して傾斜面7を開口2側に付勢し,プランジャー3の先端部5が細管1の開口2から突出するようにし,プランジャー3の尾端部4には,コイルばね9の弾力で付勢されているボール10の押圧力によって傾斜面7を細管1の内壁に押し付けられる分力が作用し,尾端部4が導電性のある細管1の内壁に圧接して細管1とプランジャー3との間の電気的導通が確保されることになる,コンタクトプローブ。」

2-1-10 周知技術
(1)周知技術1
以上の甲第3号証ないし甲第9号証に記載された技術事項によれば,本件の優先日前において,次の技術は周知技術であったものと認められる(以下,「周知技術1」という。)。
「コンタクトプローブにおいて,プランジャーピンの後端を,斜めのバイアスカット面(傾斜面)とし,球体を介してコイルばねにより押圧し,プランジャーピンの外周面を,筒状のバレルの内周面に接触させ,導通させる」技術。

(2)周知技術2
また,甲第3号証,甲第5号証,甲第7号証及び甲第8号証に記載された技術事項によれば,本件の優先日前において,次の技術は,周知技術であったものと認められる。(以下,「周知技術2」という。)
「コイルばねの押圧力を用いてプランジャーピンの外周面を筒状のバレルの内周面に接触させ,導通させる際,プランジャーピンとコイルばねとの間に,全表面部又は全体を絶縁材料で構成した球体を介在させ,コイルばねに電流が流れないようにする」技術。

以下,周知技術1と周知技術2とを総称して「周知技術」ということがある。

2-A 本件訂正発明1について
以下,本件訂正発明1の進歩性(無効理由1)について判断する。
2-A-1 甲1発明及び周知技術に基づく,進歩性欠如について(当審の判断)
(1)本件訂正発明1及び甲1発明
本件訂正発明1を分説すれば,以下のとおりである。
「A 管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって,
B 前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり,
C 前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容した絶縁体被膜を有するコイルバネで付勢し,
D 前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,球の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とする接触端子。」

次に,甲1発明は,前記「2-1-1」に記載したとおりのものである。

(2)対比
以下,分説された各構成要件ごとに,本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
(構成要件Aについて)
本件明細書には,段落【0034】に「なお,ピン部12について,本実施例においては本体ケース11と一体で成形されているが,プランジャーピン20と同様のプランジャーピンにより与えられていてもよい。」と記載されているから,甲1発明の「下方の可動プランジャー」及び「中空の円筒状をなした筒状部材46」からなる構成が,本件訂正発明1の「管状の本体ケース」に相当する。
次に,甲1発明における「上方の可動プランジャー43」は,「筒状本体42の筒状部材46内」に「装入されて」いるから,本件訂正発明1の「本体ケース内に収容されたプランジャーピン」に相当する。
次に,甲1発明における「上方の可動プランジャー43」の「小径部53」は,「筒状本体46の両端の開口48からそれぞれ外方に突出するように対向して配置され」ている。そして,甲1発明において「ICパッケージ50の外部端子51に対して,可動プランジャー43の先端の突起部56が接触」することは,コンタクト40を「テストボード等のプリント基板」に電気的に「接続」することである。
よって,甲1発明における「ICパッケージ50の外部端子51に対して,可動プランジャー43の先端の突起部56が接触」する「テストボード等のプリント基板に接続されるコンタクト40」が,本件訂正発明1における「本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子」に相当するといえる。

(構成要件Bについて)
甲1発明における「上方の可動プランジャー43」が,「段付き形状をなしており,大径部52と小径部53とを有し,さらに,このような大径部52と小径部53との間が段付部54によって連結されていて」,「可動プランジャー43の大径部52は,筒状本体42の筒状部材46内に余裕をもって滑動可能に嵌合され」,「可動プランジャー43は,大径部52と小径部53と,肩部としての段付部54とを有する丸棒であ」ることが,本件訂正発明1の「前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であ」ることに相当する。

(構成要件Cについて)
甲1発明における「ばね部材45」は,「コイルスプリング等」であるから,本件訂正発明1の「絶縁体被膜を有するコイルバネ」とは,「コイルバネ」の点で共通する。
次に,甲1発明における「可動プランジャー43は,小径部53が開口48から外方に突出するように筒状部材46内に装入されており,内側の端面52aの円錐形状の窪み部55に係合しているコイルスプリング等のようなばね部材45の押圧力によって外方に向って弾性附勢されて」いることと,本件訂正発明1の「前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容した絶縁体被膜を有するコイルバネで付勢」することは,「前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバネで付勢」する点で共通する。

(構成要件Dについて)
甲1発明では「可動プランジャー43の大径部52の端面52aに,円錐形状の窪み部55が偏心量Eだけ偏心して設けられて」いるから,甲1発明における該「円錐形状の窪み部55」が,本件訂正発明1における「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」に相当する。
次に,甲1発明における「可動プランジャー43は,筒状部材46内において傾動できるように設けられており」,「可動プランジャー43の大径部52の端面52aに,円錐形状の窪み部55が偏心量Eだけ偏心して設けられていて,この窪み部55に,ばね部材45の一端部が係止され,これによって,ばね部材45は,可動プランジャー43の端部において偏心して作用して」,「上方の可動プランジャー43」に「偏荷重を作用するようにし」,「これによって,可動プランジャー43の軸心が,偏心した軸心C_(F)上に,傾斜した状態に位置され」,「可動プランジャー43には,ばね部材45の反力Fが作用されており,しかも,この反力Fが傾斜した軸心C_(F)に沿って作用されており,従って,ばね部材45の反力Fは,偏荷重としてコンタクト40の中心線C_(R)に沿った垂直方向の力F1と,横方向の力F2とに分解されて,横方向の力F2が可動プランジャー43を筒状部材46に押し当て,接触させるように接触力として作用し,これによって,筒状本体42と可動プランジャー43との間には,分力F2が発生して接触力が作用し,筒状本体42に可動プランジャー43が当接して接触するようになり,ICパッケージ50の外部端子51に対して,可動プランジャー43の先端の突起部56が接触して可動プランジャー43が筒状部材46内に押圧されても,同じ状態が得られ」ることと,本件訂正発明1の「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,球の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付ける」こととは,「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,前記コイルバネによる押圧力を作用させ,前記プランジャーピンの外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付ける」点で共通する。
次に,甲1発明における「コンタクト40」が,次の相違点は除いて,本件訂正発明1の「接触端子」に相当する。

すると,本件訂正発明1と甲1発明との一致点,相違点は次のとおりである。
(一致点)
管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって,
前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり,前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバネで付勢し,
前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,前記コイルバネによる押圧力を作用させ,前記プランジャーピンの外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とする接触端子。」

(相違点1)
本件訂正発明1では,コイルバネが,「絶縁体被膜」を有しているのに対し,甲1発明では,コイルスプリング等が「絶縁体被膜」を有しているか,明らかでない点。

(相違点2)
本件訂正発明1では,「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,球の部材の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付ける」のに対し,甲1発明では,「可動プランジャー43の大径部52の端面52aに,円錐形状の窪み部55が偏心量Eだけ偏心して設けられていて,この窪み部55に,ばね部材45の一端部が係止され,これによって,ばね部材45は,可動プランジャー43の端部において偏心して作用して」,「上方の可動プランジャー43」に「偏荷重を作用するようにし」,偏荷重の「横方向の力F2が可動プランジャー43を筒状部材46に押し当て」,「筒状本体42に可動プランジャー43が当接して接触するよう」にしているものの,円錐形状の窪み部55(本件発明1の「略円錐面形状を有する傾斜凹部」に相当する。以下,本件訂正発明1において相当する構成を括弧内に記載する。)に,球の球状面からなる球状部を,コイルスプリング等のようなばね部材45(コイルバネ)によって押圧することにも,これによって,可動プランジャー43(プランジャーピン)の「大径部」の外側面を筒状本体42の「内周面」(本体ケースの管状内周面)に押し付けることにも,なっていない点。

(3)判断
まず,(相違点2)について判断する。
ア 甲第1号証の図11に示される状態において,「ばね部材45の反力F」は,「横方向の力F2」を分力として含んでいるから,可動プランジャー43の所要のテーパーが付けられた段付部54が筒状本体46と当接して接触していることは明らかである。

次に,ばね部材45の反力Fは,可動プランジャー43の軸心C_(F)に沿って作用しており(甲1段落【0077】),しかも,該軸線C_(F)は,上記段付部54の右側に位置しているから(甲1図11),可動プランジャー43に作用するばね部材45の反力Fは,筒状部材46と当接し接触する段付部54を中心とした反時計回りの回転モーメントを可動プランジャー43に与えていることがわかる。
すると,上記反時計回りの回転モーメントにより,可動プランジャー43は,上記段付部54を中心に反時計回りに回転しようとし,その大径部52が,端面52a側で,筒状部材46と当接し接触することになる。
よって,甲1発明において,ばね部材45の反力Fが,可動プランジャー43の大径部52を筒状部材42に押し付けていることは,少なくとも甲第1号証の図11に示された状態において,明らかである。

イ 次に,甲第3号証ないし甲第9号証に記載された技術事項に基づいて認定された周知技術1を再掲すれば,次のとおりである(上記「2-1-10」「(1)」)。
「コンタクトプローブにおいて,プランジャーピンの後端を,斜めのバイアスカット面(傾斜面)とし,球体を介してコイルばねにより押圧し,プランジャーピンの外周面を,筒状のバレルの内周面に接触させ,導通させる」技術。

上記周知技術1において,コイルばねとプランジャーピンとの間に「球体」を介することの技術的理由は,プランジャーピンの後端が斜めのバイアスカット面(傾斜面)によって傾斜しているため,球体がバイアスカット面とコイルばねとの間で回転し,バイアスカット面に作用する(摺動方向と直交する)分力をプランジャーに与えるためである(甲第5号証第2頁第16行?第3頁第3行の「そして,コイルばねの弾力によりプランジャーのバイアスカット面に球体を弾接させて,プランジャーを摺動方向に突出する方向に弾性付勢するとともに,バイアスカット面に作用する摺動方向と直交する分力によりプランジャー後端を保持筒の内壁に当接させてプランジャーと保持筒の電気的接続が確保されている。」,同第3頁第13?16行の「金属製球体がコイルばねとバイアスカット面との間で円滑な回転ができず,バイアスカット面に摺動方向と直交の成分を充分に作用させることができない場合が生じやすい。」,同第8頁第1?4行の「バイアスカット面3cとコイルばね4との間で円滑に回転ができ,バイアスカット面3cによる摺動方向に直交する分力Fを充分にプランジャー3に与えることができ,」及び同図面第1図参照。)。

ウ そこで,上記の点を踏まえて,甲1発明に上記周知技術1を適用することが容易になし得たことであるか否かを検討すると,甲1発明において,「可動プランジャー43の大径部52の端面52a」には「円錐形状の窪み部55が偏心量Eだけ偏心して設けられて」いるのであって,上記周知技術1のような「バイアスカット面(傾斜面)」は設けられていない。そして,上記周知技術1における「球体」は,プランジャーピンの後端にバイアスカット面(傾斜面)が形成されていることと相まって,初めてその機能(プランジャーピンを傾けるような分力をプランジャーに与える)を発揮できるものであるから,「球体」を,プランジャーにバイアスカット面(傾斜面)を設けることとは独立に,コイルばねとプランジャーピンとの間の単なる介在部品として把握することは,当業者といえども困難なことである。

エ よって,甲1発明において,上記周知技術1を適用し,甲1発明におけるコイルスプリング等のようなばね部材45と円錐形状の窪み部55(略円錐面形状を有する傾斜凹部)との間に「球体」を介在させ,「球体」を,コイルスプリング等のようなばね部材(コイルバネ)によって押圧するようにし,上記相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者といえども困難なことである。

オ 次に,甲第3号証,甲第5号証,甲第7号証及び甲第8号証に記載された技術事項に基づいて認定された周知技術2を再掲すれば,次のとおりである(上記「(2-1-10)」「(2)」)。
「コイルばねの押圧力を用いてプランジャーピンの外周面を筒状のバレルの内周面に接触させ,導通させる際,プランジャーピンとコイルばねとの間に,全表面部又は全体を絶縁材料で構成した球体を介在させ,コイルばねに電流が流れないようにする」技術。
そこで,甲1発明において,上記周知技術2を適用することが当業者にとって容易であったか否かについて検討する。
(ア)甲第1号証に示された発明の解決すべき課題は,甲第1号証の段落【0020】に「本発明の目的は,上に述べた従来における問題点を解決するために,コンタクトのバレルとしての筒状本体と可動プランジャーとの間の接触を常に安定して確保して電気特性の変動を防止することができるように,可動プランジャーの加工を,偏心加工をもって好適に行って,追加工程を不必要として,一工程分だけ工程数を少なくして,コストアップを避けるようにしたコネクタ装置を提供することにある。」と記載されているとおり,バレルとしての筒状本体と可動プランジャーとの間の接触を常に安定して確保するための機械的構成を改良すること,より具体的には,可動プランジャーの加工工程数を少なくすることにあり,ばね部材に電流が流れないように絶縁を施すといった電気的な改良を解決すべき課題とするものではない。
これに対し,周知技術2は,「高周波信号が圧縮コイルスプリング5内を流れる」ことによって検査に「圧縮コイルスプリング5の自己インダクタンスの影響が表れる」(甲第3号証段落【0017】),「プランジャーと保護筒の導電経路が遮断されてプランジャーから金属製球体さらにはコイルバネと電流が流れ易い。・・・この結果,・・・検査の信頼性に欠けるという問題点があった。」(甲第5号証明細書第3頁第20行?第4頁第7行),「従来は,接触部の外周壁と,筒状体の内周壁とが長期間の使用により削れてしまい,実際には接触部と筒状体との直接の電気的接触状態が悪くなったとしても,接触部はボールおよびコイルばねを通じて筒状体と電気的に接続されるので,コンタクトプローブピンの電気的検査においては,その劣化不良を見い出すことが困難であるという問題があった。」(甲第7号証段落【0006】),「電流がスプリング部材fを流れることで,スプリング部材fを焼くおそれがある」(甲第8号証段落【0005】)といった様々な理由から「コイルばねに電流が流れないようにする」ことを目的としているが,甲1発明には,高周波信号がバネ部材に流れることによって,ばね部材の自己インダクタンスが検査に影響を及ぼすものであることは示されておらず,また甲1発明は,ばね部材に電流が流れることによって検査の信頼性が低下したり,劣化不良の検出が困難になることを問題視するものでもなく,電流がばね部材を流れることで,ばね部材を焼くおそれがあることを回避することを解決課題とするものでもない。
よって,甲1発明は「コイルばねに電流が流れないようにする」ことを解決課題とはしていない。
したがって,甲1発明において,「コイルばねに電流が流れないようにする」ための上記周知技術2を適用することは,動機付けられておらず,当業者が容易になし得たこととはいえない。
(イ)仮に,甲1発明において,「コイルばねに電流が流れないようにする」ことの動機付けがあったとしても,甲第1号証には,実施例1(図2,図5,図6),実施例4(図13),実施例5(図15)等,ばね部材と可動プランジャーとの間に絶縁球を安定に介在させることがきわめて困難な実施例が複数記載されているのであるから,実施例3(図11,図12)の可動プランジャーの端部に「窪み部」が設けられていたとしても,該「窪み部」はあくまで「ばね部材45の一端部が係止され」(甲1段落【0074】)るための「窪み部」であって,これを「絶縁球」を安定に介在させるための「窪み部」として利用しようと想起することは,いわゆる後知恵であって,甲第1号証の記載からは当業者が予測し得ないことである。
また,(相違点1)についての判断はともかくとして,「コイルばねに電流が流れないようにする」ため解決手段としては,例えば,「圧縮スプリング5の全表面部に絶縁被膜17を形成」(甲3段落【0017】参照。)したり,「コイルばね11bが絶縁体によって構成され,コイルばね11b自体が絶縁手段としての機能を備えている」(甲7段落【0034】)ようにするなど,ばね部材(コイルばね)自体に絶縁の工夫を施しても良いのであるから,甲1発明において「コイルばねに電流が流れないようにする」ための構成として,敢えてコストアップを来す(甲1段落【0020】の「コストアップを避ける」参照。)ような「絶縁球」を採用することが必然であるともいえない。
よって,甲1発明において上記周知技術2を適用することは,当業者といえども,困難なことと言わざるを得ない。

(4)小括
よって,本件訂正発明1は,相違点1について判断するまでもなく,甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

2-A-2 請求人の主張
審判請求書,口頭審理陳述要領書,上申書の記載を総合すると請求人は,次の理由で,本件発明1(本件訂正前)は,甲1発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。
ア 「押付部材の球状面からなる球状部」でプランジャーの傾斜凹部を押圧することの技術的意義がない(審判請求書第18頁第11行?第21頁第26行,口頭審理陳述要領書第4頁第20行?第19頁第22行,第31頁第2行?第33頁第18行,上申書第3頁第10行?第7頁第17行,第9頁第9行?第10頁第18行)。
まず,被請求人は,本件発明1(本件訂正前)において「押付部材の球状面からなる球状部」が絶縁性を有することは必要なことではない,と主張している。
次に,本件発明における安定性,つまり,押付部材がプランジャーピン20の凹穴23の底部(略円錐面形状の傾斜面24)に安定して位置する機能については,「絶縁性の押付部材」を有しない甲1発明においても,本件発明1(本件訂正前)と同程度の安定性を実現しうるものであり(甲1図11),また,「プランジャーピン20と本体ケース11との摺動を妨げない程度に大径部22を長穴13の内面に押付けることができる。」(本件明細書段落【0033】)との作用効果も,「押付部材の球状面からなる球状部」を備えることによる作用効果ではない。
さらに,本件特許明細書(段落【0028】)では,バネを圧縮した際の中心軸からのゆがみ(非線形変形)を利用してプランジャーピンを付勢することを想定しているのは明らかであるから,本件発明1(本件訂正前)の作用原理(「前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押付ける」ための作用原理)と甲1発明の作用原理とは,オフセットを利用してコイルバネを強制的に曲げ(非線形変形,つまり,ゆがみを利用し),曲がったコイルバネが元に戻ろうとする力を「係止」によりプランジャーピンに伝達してプランジャーを筒状本体の内壁に押付ける点で,全く同一であり,作用原理の実現に際し,絶縁球の有無は問題とならない(甲31,甲32)。
よって,本件発明1(本件訂正前)において,「押付部材の球面状からなる球状部」でプランジャーの傾斜凹部を押圧することに技術的意義はない。

イ 「押付部材の球状面からなる球状部」でプランジャーの傾斜凹部を押圧することは,周知技術である(審判請求書第21頁第27行?第25頁第6行,口頭審理陳述要領書第33頁第19行?第34頁第15行,上申書第7頁第18?24行)
甲第3号証ないし甲第9号証に記載されているとおり,プランジャーピンをボールあるいは球で押圧すること,つまり,球をばね部材(コイルばね)とプランジャー底面との間に配置することは,周知技術である。
したがって,甲1発明のコンタクト40において,ばね部材45が窪み部55を直接押圧する代わりに,周知技術のボールあるいは球を介して窪み部55を押圧する構成とすることは,当業者であれば,容易に想到する事項に過ぎない。

ウ 周知技術の適用は,甲1の課題(コストアップを避けること)に反することではない(口頭審理陳述要領書第22頁第10行?第26頁第16行,上申書第10頁第30行?第12頁第11行)
甲1で問題とされているコストアップとは,可動プランジャーの加工において発生するコストアップの問題であり,上記周知技術の適用(ボールあるいは球を介して窪み部55を押圧すること)に際し,追加の加工は発生せず,絶縁球それ自体のコストは,コイルばね自体を絶縁することに比べ,微々たるものである。
また,甲5,甲7及び甲8に「コイルばね(ばね部材)に電流を流さないために絶縁体の押付部材をプローブ底面とコイルばねとの間に設けること」が記載されているとおり,「プローブとコイルばねとの間に絶縁球を追加すること」は,この技術分野における従来からの課題(コイルばねに電流を流さないようにする)を解決するために適用される周知技術に過ぎない。よって,甲1発明の構成において,当該従来からの課題を解決するために周知技術を適用することは,当業者にとって設計変更にすぎない。

2-A-3 請求人の主張に対する当審の判断
請求人の本件発明1(本件訂正前)の主張を踏まえて,本件訂正発明1について検討する。
ア 「2-A-2 請求人の主張」「ア」について
本件訂正発明1において,「球の球状面からなる球状部」でプランジャーの傾斜凹部を押圧することに技術的意義があることは,本件特許明細書の段落【0032】に「さらに,プランジャーピン20の凹穴23の底部には略円錐面形状の傾斜面24を有するので,絶縁球30は傾斜面24の中心軸上にその中心を安定して位置させ得る。」と記載されているとおりである。
次に,甲1発明では,甲第1号証の段落【0076】,【0077】の記載より,「偏心した軸心C_(F)上に,」「傾斜した状態に位置され」た「可動プランジャー43」の軸心に沿って「ばね部材45の反力Fが作用」し,その「ばね部材45の反力F」のうち「横方向の力F2」の分力が「可動プランジャー43を筒状部材46に押し当て,接触させる」ための「接触力として作用し」ていることがわかる。
そこで,甲1発明の反力Fの方向と,請求人が主張する甲1発明の作用原理(ばね部材45がオフセット方向に曲げられた場合に元に戻ろうとする力が働き,可動プランジャー43をオフセット方向とは逆方向において筒状部材に押し当てる。)に基づく反力Fの方向とを比較すると,請求人の主張する作用原理では,ばね部材45の反力Fのうちの横方向の成分F2の向きは,甲第1号証の図11に記載された成分F2の方向とは真逆な向きとなるから,両者は可動プランジャー43に作用する反力Fの方向が異っていることがわかる。
よって,甲1発明が,請求人の主張する作用原理に基づくものと認定することはできない。
さらに,本件訂正発明1において「プランジャーピン20」を傾かせる原理は,「コイルバネ31によってプランジャーピン20を付勢する方向を,プランジャーピン20の中心軸に対して微小な角度を有する方向」(本件特許明細書段落【0033】)としているのに対し,甲1発明では,「可動プランジャー43の軸心が,偏心した軸心C_(F)上に,図示されるように傾斜した状態に位置され」(段落【0076】),「ばね部材45の反力F」は,「傾斜した軸心C_(F)(当審注:可動プランジャーの軸心)に沿って作用」(段落【0077】)しているのであるから,両者の作用原理は,バネの力をプランジャーピンの中心部に与えるのではなく偏心させて与えている点で,上位概念的には同じであるものの,プランジャーピンの軸心に対する傾斜の有無の点で異なっているから,同一ではない。
また,甲第23号証,甲第31号証及び甲第32号証をみても,上記判断を覆すに足る合理的な説明は見いだせない。

よって,請求人の主張は採用できない。

イ 「2-A-2 請求人の主張」「イ」,「ウ」について
請求人は,甲第3号証ないし甲第9号証の記載より,プランジャーピンをボールあるいは球で押圧すること,つまり,球をばね部材(コイルばね)とプランジャー底面との間に配置することが周知技術であると主張するが,請求人の主張する該周知技術は,プランジャーピンの後端が斜めのバイアスカット面(傾斜面)であることを前提とした技術である(甲第3号証の「傾斜面15」,甲第4号証(技術事項ア)の「傾斜面d」,甲第5号証の「斜めのバイアスカット面」,甲第7号証の「接触部10の他端側」の端面についての図1の記載,甲第8号証(従来の技術)の「プランジャ部材nの後端部を斜めにカット」,甲第9号証の「傾斜面7」。なお,甲第6号証には「プランジャ2」の後端の具体的形状についての開示はないが,「スプリングの反発力によりボール3を水平方向へ動かす力が働き,このボールと連動してプランジャ接触部2bがバレル5の内壁に押され」る形状であることが前提とされている。)。
そして,本件訂正発明1が,甲1発明及びプランジャーピンの後端が斜めのバイアスカット面(傾斜面)であることを前提とした周知技術1に基づいて当業者が容易に発明し得たものといえないことは,前記「2-A-1」「(3)」「イ」ないし「エ」にて述べたとおりである。
また,甲1発明において,「絶縁球」を用い,コイルばねに電流を流さないようにすること(すなわち周知技術2を用いること)も,前記「2-A-1」「(3)」「オ」にて述べたとおり,当業者が容易になし得たことではない。

ウ 請求人の主張についてのまとめ
以上のとおり,請求人の主張は,いずれも採用できない。

2-A-4 甲2発明及び周知技術に基づく,進歩性欠如について(当審の判断)
(1)甲2発明
甲2発明は,前記「2-1-2」に記載したとおりのものである。

(2)対比
以下,各構成要件ごとに,本件訂正発明1と甲2発明とを対比する。
(構成要件Aについて)
甲2発明における「管状バレル」が本件訂正発明1の「管状の本体ケース」に相当する。
次に,甲2発明における「管状バレル」に「受け入れ」られた「プランジャー」が,本件訂正発明1の「管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピン」に相当する。
次に,甲2発明における「プランジャー54」の「バレルから突出する」「接触頂部」が,検査中の装置又はバッテリー(甲2段落【0014】)と「接触」して「電気接触」することが,本件訂正発明1の「該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得る」ことに相当する。
次に,甲2発明における「電気接触スプリングプローブアッセンブリ」が,次の相違点は除いて,本件訂正発明1の「接触端子」に相当する。

(構成要件Bについて)
甲2発明の「プランジャー」は,「横断面が概ね円形であ」り,「フランジ58を横切って端部60から頂部56まで縮小する径を有する」から,甲2発明の「プランジャー」の「接触頂部と反対の位置にある端部」の径は大きく,これに対して,「バレルから突出する」「接触頂部」は,縮小した径を有していることは明らかである。
また,甲2発明の「プランジャー」は,「前記頂部がバレルから突出する伸張位置と,前記頂部がバレル内に部分的に引き込む引き込み位置との間」で「縦軸線に沿って移動する」ものであって,プランジャー54が検査中の装置又はバッテリーと接触すると,「プランジャー」の「端部」は「プランジャーの軸受け面(端部60の外面)をバレルの空洞53の内径55に対して押しつけて偏倚を発生」している。
よって,甲2発明の「プランジャー」における「バレルから突出する」「頂部」,及び「端部60」が,それぞれ,本件訂正発明1の「前記突出端部を含む小径部」,及び「前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部」に相当するといえる。
以上より,甲2発明における「プランジャー」が「横断面が概ね円形であ」り,「フランジ58を横切って端部60から頂部56まで縮小する径を有する」ことが,本件訂正発明1の「前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であ」ることに相当するといえる。

(構成要件Cについて)
甲2発明の「スプリング」は,「前記バレルと係合する第1端部と,前記(プランジャーの背面が刳り貫かれた)開口内に受け入れられた第2端部とを有し」ているから,本件訂正発明1の「前記本体ケースの管状内部に収容した絶縁体被膜を有するコイルバネ」とは,「前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバネ」の点で共通する。
次に,甲2発明の「スプリング」により,「前記プランジャーに縦方向の圧力をかけ」,「プランジャー」の「頂部がバレルから突出」することと,本件訂正発明1の「前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容した絶縁体被膜を有するコイルバネで付勢」することとは,「前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバネで付勢」する点で共通する。

(構成要件Dについて)
甲2発明において,「開口64の中心軸線68」は,「プランジャー54及び空洞53の縦軸線すなわち中心軸線と概ね平行であり,前記縦軸線から離れた第2の軸線を定める縦方向に伸び」ているから,本件訂正発明1の「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸」に相当する。
次に,甲2発明において,「スプリング66を受け入れるための,前記プランジャーの背面が刳り貫かれた穴又は開口64は,プランジャー54の頂部(先端部)56に,略円錐面形状を有する傾斜凹部を有」することと,本件訂正発明1における「前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」とは,「略円錐面形状を有する傾斜凹部」の点で共通する。
次に,甲2発明において,「前記スプリングは,前記バレルと係合する第1端部と,前記開口内に受け入れられた第2端部とを有し,前記縦方向の圧力の一部分を横の圧力に変えて,プランジャーの軸受け面(端部60の外面)をバレルの空洞53の内径55に対して押しつけて偏倚を発生」することと,本件訂正発明1の「球の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付ける」こととは,「前記コイルバネによる圧力を作用させて,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付ける」点で共通する。

すると,本件訂正発明1と甲2発明とは,次の点で一致し,また,相違する。
(一致点)
管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって,
前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり,前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバネで付勢し,
前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する略円錐面形状を有する傾斜凹部に,前記コイルバネによる圧力を作用させ,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とする接触端子。」

(相違点1)
本件訂正発明1では,「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する略円錐面形状を有する傾斜凹部」が,プランジャーピンの「大径部」に設けられているのに対し,甲2発明では,「プランジャーの頂部(先端部)56」,つまり,径の小さい頂部(先端部)56に設けられている点。

(相違点2)
本件訂正発明では,コイルバネが「絶縁体被膜」を有しているのに対し,甲2発明では,スプリングが「絶縁体被膜」を有しているか,明らかでない点。

(相違点3)
本件訂正発明1では,「球の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付ける」のに対し,甲2発明では,「スプリング66」の「第2端部」と「略円錐面形状を有する傾斜凹部」との間に「球の球状面からなる球状部」が設けられておらず,プランジャー54が検査中の装置又はバッテリーと接触する(甲2段落【0014】)と,「スプリング」が,「前記縦方向の圧力の一部分を横の圧力に変えて,プランジャーの軸受け面(端部60の外面)をバレルの空洞53の内径55に対して押しつけて偏倚を発生」する点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
ア (相違点1)について
甲第2号証の段落【0003】に「バッテリー型接触子及び相互接続プローブの設計は,概ね,最良の性能ために最適にされた回路を有する,コンパクトで耐久性があり信頼性が高い設計を必要とする。」と記載され,同段落【0004】に「製品は,電流の大きさを維持しながら,サイズを小さくし続け,あるいは性能を高め続けるので,より小さい接触子の必要性が増し続ける。しかし,プローブ接触子の順応性は,アッセンブリの多くの部品の許容誤差を受け入れるのに重要であり続ける。多くの場合,この順応性は,割り当てられた空間内でスプリングが供給できるよりずっと長いプランジャー行程を有するプローブを必要とする。これは,スプリングに対する追加的な空間を供給するためにプランジャーの背部を刳り貫くことによって補われる。」と記載されているとおり,甲2発明が「前記プランジャーは,スプリング66を受け入れるための背面が刳り貫かれた穴又は開口64を有」する理由は,コンパクトな設計のもとで,「割り当てられた空間内でスプリングが供給できるよりずっと長いプランジャー行程」を実現するためであるから,プランジャーの背部の刳り貫きを敢えて短くし,刳り貫かれた穴又は開口64の先端に形成される「略円錐面形状を有する傾斜凹部」の位置を「端部60」,つまり「プランジャー54」の径の大きな部分に設けることは,当業者にとって動機付けられないことである。

イ (相違点3)について
甲第2号証の上記【0006】段落には,「このタイプの設計の不利な点は,機械的摩損でプローブの故障となる,プランジャーとバレルとの間に発生されるより高い摩擦である。」と記載され,「プランジャーの後部に傾斜切断部を提供すること」つまり,バイアスカット面(傾斜面)を形成する設計の不利な点を説明しているのであるから,周知技術1を甲2発明に適用して上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成とすることも,上記「2-A-1」「(3)」「イ」ないし「エ」で述べたのと同様の理由により,当業者が容易になし得たことではない。
次に,甲第2号証には,段落【0006】に「プローブの偏倚を改善する努力で,多くの設計が創作されている。最も一般的で好結果が得られるのは,プランジャーの後部に傾斜切断部を提供することである。大きな横方向の力が,傾斜切断部に対して押すスプリングから生じ,バレルとプランジャーとの間の安定した一定の接触力を生じる。この接触力は,スプリングを通らないで電流がプランジャーからバレルに流れるのを確実にし,また,最も低いバレルとプランジャー間の接触抵抗を提供する。このタイプの設計の不利な点は,機械的摩損でプローブの故障となる,プランジャーとバレルとの間に発生されるより高い摩擦である。」と記載されている。しかし,上記「スプリングを通らないで電流がプランジャーからバレルに流れるようにし」とは,電流がスプリングを流れることを防止する必要があることを説明する趣旨の記載ではなく,バレルとプランジャーとの接触力が低下しないようにすることの重要性を説明する趣旨の記載である。
そうであれば,甲1発明との(相違点1)について上記「2-A-1」「(3)」「オ」で述べたのと同様に,甲2発明において,周知技術2(「コイルばねの押圧力を用いてプランジャーピンの外周面を筒状のバレルの内周面に接触させ,導通させる際,プランジャーピンとコイルばねとの間に,全表面部又は全体を絶縁材料で構成した球体を介在させ,コイルばねに電流が流れないようにする」技術)を適用し,上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことではない。

(4)小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,相違点2について判断するまでもなく,甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-A-5 請求人の主張
請求人は,相違点について,次のように主張している。
ア 甲第2号証が開示する発明と本件発明1(本件補正前)は,共に,もっぱらプランジャーピンの中心軸からオフセットされた中心軸を有する円錐面形状を有することによって,同一の効果を達成している。このとき,甲第2号証の開示する電気的接触プローブ50では,開口部64の窪みが頂部56に設けられているが,これは,単にスプリング収容空間を長くしただけに過ぎない。
また,甲第2号証において,背面をどこまで刳り貫かなければならないかについての明確な限定は存在しない。
よって,甲2発明において,略円錐面形状を設ける位置をどこにするか,即ち,より浅い位置(端部60)に設けるか,或いは,深い位置(頂部56)に設けるかは,適宜調整し得る事項に過ぎない(審判請求書第31頁第1行?第32頁第8行,口頭審理陳述要領書第26頁第17行?第27頁第12行)。

イ 甲第1号証の場合と同様,甲2発明においても,本件発明1(本件補正前)と同程度の安定性を実現しうる(甲2図3)。甲2発明におけるスプリングが開口64の窪みを直接押圧することに代え,周知技術のボールあるいは球を介して開口64の窪みを押圧する構成とすることは,当業者が容易に想到しうることである(審判請求書第32頁第9?20行,口頭審理陳述要領書第27頁第13?18行)。

2-A-6 請求人の主張に対する当審の判断
ア 「2-A-5 請求人の主張」「ア」について
上記「2-A-4」「(3)」「ア」にて述べたとおり,甲2発明が,「前記プランジャーは,スプリング66を受け入れるための背面が刳り貫かれた穴又は開口64」を「プランジャーの端部(先端部)56」,つまり,径の小さい頂部(先端部)56に設けている理由は,「割り当てられた空間内でスプリングが供給できるよりずっと長いプランジャー行程を有する」プローブを提供するためである。
よって,甲2発明が「刳り貫かれた穴又は開口64」を「プランジャーの端部(先端部)56」に設けることには,技術的根拠があり,「単にスプリング収容空間を長くしただけ」とはいえないから,請求人の主張は採用できない。

イ 「2-A-5 請求人の主張」「イ」について
請求人の上記主張が採用できないことは,上記「2-A-4」「(3)」「イ」で述べたとおりである。

ウ なお,請求人は,本件特許の米国対応特許の審査経過から,本件発明1(本件補正前)は,甲2発明及び周知技術から特許性がない旨主張する(審判請求書第33頁第1行?第35頁第14行,甲17?甲22)が,パリ条約の各国特許独立の原則より,本件特許の米国対応特許の審査経過は,上記相違点についての当審の判断に影響を及ぼさない。

2-A-7 本件訂正発明1についてのまとめ
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲1発明及び周知技術,又は,甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,特許法第29条第2項の規定に違反しない。

2-B 本件訂正発明2について
本件訂正発明2の進歩性(無効理由1)について判断する。
(1)本件訂正発明2
本件訂正発明2を再掲すれば,次のとおりである。
「管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって,
前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり,前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバネで付勢し,
前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,押付部材の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とし,
前記押付部材は絶縁表面を有する絶縁球からなることを特徴とする接触端子。」

(2)甲1発明との対比・判断
本件訂正発明2は,
ア 本件訂正発明1における「球の球状面からなる球状部」との要件を,「押付部材の球状面からなる球状部」であって「前記押付部材は絶縁表面を有する絶縁球からなる」とし,
イ 本件訂正発明1における「コイルバネ」についての「絶縁体被膜を有する」との限定を省いたものに相当する。
すると,本件訂正発明2と甲1発明とは,次の点で相違する。
(相違点ア)
本件訂正発明2では,「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,押付部材の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付け」,「前記押付部材は絶縁表面を有する絶縁球からなる」のに対し,甲1発明では,「可動プランジャー43の大径部52の端面52aに,円錐形状の窪み部55が偏心量Eだけ偏心して設けられていて,この窪み部55に,ばね部材45の一端部が係止され,これによって,ばね部材45は,可動プランジャー43の端部において偏心して作用して」,「上方の可動プランジャー43」に「偏荷重を作用するようにし」,偏荷重の「横方向の力F2が可動プランジャー43を筒状部材46に押し当て」,「筒状本体42に可動プランジャー43が当接して接触するよう」にしているものの,円錐形状の窪み部55(本件訂正発明2の「略円錐面形状を有する傾斜凹部」に相当する。以下,本件訂正発明2において相当する構成を括弧内に記載する。)に,絶縁表面を有する絶縁球からなる押付部材の球状面からなる球状部を,コイルスプリング等のようなばね部材45(コイルバネ)によって押圧することにも,これによって,可動プランジャー43(プランジャーピン)の「大径部」の外側面を筒状本体42の「内周面」(本体ケースの管状内周面)に押し付けることにも,なっていない点。
そこで,上記相違点アについて検討すると,上記相違点アは,本件訂正発明1と甲1発明との相違点2(前記「2-A-1」「(2)」参照。)について,本件訂正発明1における「球の球状面からなる球状部」との要件をさらに限定し,「押付部材の球状面からなる球状部」であって,「押付部材は絶縁表面を有する絶縁球からなる」としたものに相当する。
そして,本件訂正発明1と甲1発明との相違点2が,当業者にとって容易になし得たものでないことは,前記「2-A-1」「(3)」で述べたとおりであるから,本件訂正発明1の該相違点2に係る構成にさらに限定を加えた上記相違点アについても,同様の理由により,当業者が容易になし得たものではない。
よって,本件訂正発明2についても,甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)甲2発明との対比・判断
次に,本件訂正発明2と甲2発明とは,次の点で相違する。
(相違点イ)
本件訂正発明2では,「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する略円錐面形状を有する傾斜凹部」が,プランジャーピンの「大径部」に設けられているのに対し,甲2発明では,「プランジャーの頂部(先端部)56」,つまり,径の小さい頂部(先端部)56に設けられている点。

(相違点ウ)
本件訂正発明2では,「押付部材の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付け」,「押付部材は絶縁表面を有する絶縁球からなる」のに対し,甲2発明では,「スプリング66」の「第2端部」と「略円錐面形状を有する傾斜凹部」との間に「押付部材」が設けられておらず,プランジャー54が検査中の装置又はバッテリーと接触する(甲2段落【0014】)と,「スプリング」が,「前記縦方向の圧力の一部分を横の圧力に変えて,プランジャーの軸受け面(端部60の外面)をバレルの空洞53の内径55に対して押しつけて偏倚を発生」する点。

まず,上記相違点イは,本件訂正発明1と甲2発明との相違点1(前記「2-A-4」「(2)」参照。)に対応する相違点であって,該相違点1が,当業者にとって容易になし得たことでないことは,前記「2-A-4」「(3)」「ア」にて述べたとおりである。
次に,上記相違点ウは,本件訂正発明1と甲2発明との相違点3(前記「2-A-4」「(2)」参照。)について,本件訂正発明1における「球の球状面からなる球状部」との要件をさらに限定し,「押付部材の球状面からなる球状部」であって,「押付部材は絶縁表面を有する絶縁球からなる」としたものに相当する。
そして,本件訂正発明1と甲2発明との相違点3が,当業者にとって容易になし得たものでないことは,前記「2-A-4」「(3)」「イ」で述べたとおりであるから,本件訂正発明1の該相違点3に係る構成にさらに限定を加えた上記相違点ウについても,同様の理由により,当業者が容易になし得たものではない。
したがって,本件訂正発明2は,甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)本件訂正発明2についてのまとめ
以上のとおり,本件訂正発明2は,甲1発明及び周知技術,又は,甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法第29条第2項の規定に違反しない。
請求人は,「押付部材を,絶縁表面を有する絶縁球として構成すること」は周知技術(甲3,甲5,甲7)に過ぎないとして,本件発明2は,甲1発明及び周知技術,又は,甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する(審判請求書第35頁第27行?第36頁第15行,第36頁第28行?第37頁第7行)が,上記理由により,請求人の主張は採用できない。

2-C 無効理由1についてのまとめ
以上のとおり,本件訂正発明1及び本件訂正発明2は,特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないから,本件訂正発明1及び本件訂正発明2に係る本件特許は,特許法第123条第1項第2号の規定に該当しない。
よって,無効理由1については,請求人の提出した証拠及び理由によって無効とすることはできないから,理由がない。

第8 むすび
本件特許に係る出願は特許法第44条第1項に規定する要件(分割要件)を満たすものとはいえず,本件訂正発明1及び本件訂正発明2は,特許法第29条第1項第3号の発明に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件訂正発明1及び本件訂正発明2に係る本件特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって、
前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり、前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容した絶縁体被膜を有するコイルバネで付勢し、
前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に、球の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し、前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とする接触端子。
【請求項2】
管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって、
前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり、前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバネで付勢し、
前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に、押付部材の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し、前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とし、
前記押付部材は絶縁表面を有する絶縁球からなることを特徴とする接触端子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-07-27 
結審通知日 2016-07-29 
審決日 2016-08-16 
出願番号 特願2013-88790(P2013-88790)
審決分類 P 1 113・ 55- ZAA (G01R)
P 1 113・ 857- ZAA (G01R)
P 1 113・ 121- ZAA (G01R)
P 1 113・ 113- ZAA (G01R)
P 1 113・ 851- ZAA (G01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 荒井 誠  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 清水 稔
関根 洋之
登録日 2014-01-10 
登録番号 特許第5449597号(P5449597)
発明の名称 接触端子  
代理人 大塚 康徳  
代理人 鮫島 正洋  
復代理人 蔵原 慎一朗  
代理人 大塚 康弘  
復代理人 江嶋 清仁  
代理人 大戸 隆広  
代理人 田中 泰彦  
代理人 金子 晋輔  
代理人 田中 泰彦  
代理人 溝田 宗司  
復代理人 雲居 寛隆  
代理人 長沢 幸男  
代理人 溝田 宗司  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 矢倉 千栄  
代理人 大出 純哉  

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