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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1328190
審判番号 不服2015-19489  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-29 
確定日 2017-05-10 
事件の表示 特願2013-120358「微生物プロテアーゼ変異種を含有する組成物と方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 5日出願公開、特開2013-240327〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成21(2009)年6月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年6月6日 米国(US))を国際出願日とする特願2011-512603号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成25年6月7日に新たな特許出願として分割したものであって、平成27年7月1日付けで拒絶査定がされたところ、同年10月29日に拒絶査定不服審判の請求がされ、当審による平成28年9月6日付け拒絶理由(以下、単に「拒絶理由」という)に応答して、同年11月30日に意見書および手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願請求項1?9に係る発明は、平成28年11月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という)は、以下のとおりのものと認める。

「【請求項2】
配列番号1のアミノ酸配列をもつ成熟スブチリシンプロテアーゼと少なくとも90%の配列同一性を有し、少なくとも置換G97A-G128A-Y217Qを含む1以上のプロテアーゼを含む布地または食器類の洗浄剤組成物であって、当該置換が配列番号第1に記載されたBPN’スブチリシンの位置と等価の位置で行われ、
以下の置換の組み合わせのうち1以上をさらに含み、当該置換の位置が配列番号1のBPN’スブチリシンの位置に相当するものであることを特徴とする、洗浄剤組成物。
S53G-S78N、
S53G-I111V、
S53G-A114G、
S53G-N117S、
S53G-S125A、
S53G-S132N、
S78N-I111V、
S78N-A114G、
S78N-N117S、
S78N-S125A、
S78N-S132N、
S53G-F58G-S78N、
S53G-S78N-Y104N、
S53G-S78N-I111V、
S53G-S78N-A114G、
S53G-S78N-N117S、
S53G-S78N-S125A、
S53G-S78N-S132N、
S53G-Y104N-S132N、および
S53G-I111V-S132N。」

第3 特許法第29条第2項について

1.引用例
(1)引用例1
拒絶理由で引用された、本願の優先日前である2003年4月2日に頒布された刊行物である、特表2003-512012号公報(以下「引用例1」という)には、次の事項が記載されている。なお、下線は強調のため当審で付与したものである。

(1-a)「洗剤組成物に用いられるプロテアーゼ変異体のスクリーニング法」(発明の名称)

(1-b)「好ましい態様では、本発明の方法で用いられるプロテアーゼ酵素であるプロテアーゼ変異体は、アミノ酸残基のBacillus amyloliquefaciensズブチリシンの103位に相当するアミノ酸残基位置における別の天然に存在するアミノ酸残基による置換を、アミノ酸残基をBacillus amyloliquefaciensズブチリシンの1、3、4、8、9、10、12、13、16、17、18、19、20、21、22、24、27、33、37、38、42、43、48、55、57、58、61、62、68、72、75、76、77、78、79、86、87、89、97、98、99、101、102、104、106、107、109、111、114、116、117、119、121、123、126、128、130、131、133、134、137、140、141、142、146、147、158、159、160、166、167、170、173、174、177、181、182、183、184、185、188、192、194、198、203、204、205、206、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、222、224、227、228、230、232、236、237、238、240、242、243、244、245、246、247、248、249、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、265、268、269、270、271、272、274および275位に相当する1個以上のアミノ酸残基位置における別の天然に存在するアミノ酸残基による置換と、組み合わせて含むプロテアーゼ変異体を含んでなり、ここで、上記プロテアーゼ変異体が103および76位に相当する位置のアミノ酸残基の置換を含むときには、Bacillus amylokiquefaciensズブチリシンの27、99、101、104、107、109、123、128、166、204、206、210、216、217、218、222、260、265および274位に相当するアミノ酸残基以外の1個以上のアミノ酸残基位置におけるアミノ酸残基の置換、および1種類以上のクリーニング添加物材料も存在する。」(【0051】)

(1-c)「例I
1個以上の置換を有する数種類のプロテアーゼ変異体を、本発明による真電荷法(net charge method)を用いてスクリーニングする。プロテアーゼ変異体を、pHが約7?約12の範囲の洗剤系(A=洗剤濃度が約975ppm?1050ppmである北米の洗剤系;B=洗剤濃度が約4500ppm?5100ppmである欧州の洗剤系;C=洗剤濃度が約1500ppm?2000ppmであるラテンアメリカの洗剤系;およびD=洗剤濃度が約650ppm?700ppmである日本の洗剤系)に加える。プロテアーゼ変異体の1個以上の置換の正味の電荷を、Subtilisin 309に対して測定する。所定の洗剤系での、BMI汚れのような汚れを効果的にクリーニングするプロテアーゼ変異体を、表IIIに示す。

」(【0091】)

(1-d)「4種類のズブチリシンのアミノ酸配列。最上列はBacillus amyloliquefaciens (BPN'と表されることもある)由来のズブチリシンのアミノ酸配列を表す。」(74頁下から7?6行目、図3Aの説明)

(2)引用例2
拒絶理由で引用された、本願の優先日前である2000年に頒布された刊行物である、Biochim.Biophys.Acta,2000,Vol.1543,p.203-222(以下「引用例2」という)には、次の事項が記載されている。なお、翻訳は当審によるもののである。

(2-a)「総説
ズブチリシンのタンパク質工学」(タイトル)

(2-b)「ズブチリシンの275アミノ酸のうち50%を優に超える変異が科学文献に報告されている(テーブル1)。より多くの例が特許文献に存在し、明らかに、バイオテクノロジー企業の冷凍庫の中にまだ計り知れない程度に潜在する。」(203頁右欄下から3行目?204頁左欄3行目)

(2-c)「

」(テーブル1)

上記摘記事項(1-a)?(1-b)及び(1-d)の下線部分より、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。

「Bacillus amyloliquefaciensズブチリシン(BPN') の103位に相当するアミノ酸残基位置における別の天然に存在するアミノ酸残基による置換を、アミノ酸残基をBacillus amyloliquefaciensズブチリシンの1、3、4、8、9、10、12、13、16、17、18、19、20、21、22、24、27、33、37、38、42、43、48、55、57、58、61、62、68、72、75、76、77、78、79、86、87、89、97、98、99、101、102、104、106、107、109、111、114、116、117、119、121、123、126、128、130、131、133、134、137、140、141、142、146、147、158、159、160、166、167、170、173、174、177、181、182、183、184、185、188、192、194、198、203、204、205、206、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、222、224、227、228、230、232、236、237、238、240、242、243、244、245、246、247、248、249、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、265、268、269、270、271、272、274および275位に相当する1個以上のアミノ酸残基位置における別の天然に存在するアミノ酸残基による置換と、組み合わせて含むプロテアーゼ変異体を含む、洗剤組成物。」

2.対比
本願発明2と引用発明を対比すると、引用発明における「Bacillus amyloliquefaciensズブチリシン(BPN')」は、同じくBPN’と称されている本願発明2における「配列番号1のアミノ酸配列をもつ成熟スブチリシンプロテアーゼ」に相当することから、両者は
「配列番号1のアミノ酸配列をもつ成熟スブチリシンプロテアーゼを有し、少なくとも置換を含む1以上のプロテアーゼを含む洗浄剤組成物」である点で一致し、以下の2点で相違する。

相違点1:
本願発明2は「布地または食器類の洗浄剤組成物」であるのに対して、引用発明は洗剤組成物の用途の特定を有しない点。

相違点2:
本願発明2は、配列番号1のアミノ酸配列をもつ成熟スブチリシンプロテアーゼと少なくとも90%の配列同一性を有し、少なくとも置換G97A-G128A-Y217Qを含み、当該置換が配列番号第1に記載されたBPN’スブチリシンの位置と等価の位置で行われ、
以下の置換の組み合わせ
S53G-S78N、
S53G-I111V、
S53G-A114G、
S53G-N117S、
S53G-S125A、
S53G-S132N、
S78N-I111V、
S78N-A114G、
S78N-N117S、
S78N-S125A、
S78N-S132N、
S53G-F58G-S78N、
S53G-S78N-Y104N、
S53G-S78N-I111V、
S53G-S78N-A114G、
S53G-S78N-N117S、
S53G-S78N-S125A、
S53G-S78N-S132N、
S53G-Y104N-S132N、および
S53G-I111V-S132N。」
の1以上をさらに含み、当該置換の位置が配列番号1のBPN’スブチリシンの位置に相当するものであるのに対して、
引用発明は、「103位に相当するアミノ酸残基位置における別の天然に存在するアミノ酸残基による置換を、1、3、4、8、9、10、12、13、16、17、18、19、20、21、22、24、27、33、37、38、42、43、48、55、57、58、61、62、68、72、75、76、77、78、79、86、87、89、97、98、99、101、102、104、106、107、109、111、114、116、117、119、121、123、126、128、130、131、133、134、137、140、141、142、146、147、158、159、160、166、167、170、173、174、177、181、182、183、184、185、188、192、194、198、203、204、205、206、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、222、224、227、228、230、232、236、237、238、240、242、243、244、245、246、247、248、249、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、265、268、269、270、271、272、274および275位に相当する1個以上のアミノ酸残基位置における別の天然に存在するアミノ酸残基による置換と、組み合わせて含む」点。

3.当審の判断
上記相違点1,2について検討する。

相違点1について:
上記摘記事項(1-c)の下線部分のとおり、引用例1には、プロテアーゼ変異体をスクリーニングした結果として、本願の実施例と同じBMI(血液、牛乳、インク)クリーニング試験をしたことが記載されている。また、「洗剤」が洗濯や食器洗いに用いるものであることは、文献を挙げるまでもなく本願優先日当時の当業者の技術常識である。
そうすると、引用例1には、布地や食器に対する洗剤組成物は記載されているに等しい事項であって、上記相違点1は実質的な相違点ではないか、仮に、実質的な相違点であるとしても、引用発明の洗剤組成物を布地や食器に対して用いることは当業者であれば適宜なし得ることに過ぎない。

相違点2について:
引用発明の下線部分にあるとおり、引用発明におけるプロテアーゼ変異体には、アミノ酸置換の組み合わせとして97,128,217位のアミノ酸の置換を含むものを包含している。
また、引用例2は、ズブチリシンのタンパク質工学に関する総説(上記摘記事項(2-a))であって、上記摘記事項(2-b)?(2-c)にも記載されているように、275アミノ酸で構成されるBPN’のアミノ酸を種々変異させることで、当該BPN’の特性を向上させようとする課題は、本願優先日当時、当業者に周知であったものと認められる。
そうすると、引用発明において、上述の周知の課題をもとに、97,128,217位のアミノ酸の置換、さらにはこれら以外の位置のアミノ酸の更なる置換を含むプロテアーゼ変異体を作製することは、当業者であれば容易になし得るものである。

そして、本願発明2の効果については、次の「第4 2.当審の判断」で詳述するとおり、少なくとも90%の配列同一性を有する任意の変異体の中には、変異のない野生型BPN’と比較して低下した活性しか示さない、あるいは活性を全く示さないといった、明らかに格別顕著な効果を奏さないものを包含すると認められることから、そのような格別顕著な効果を奏さない変異体については、引用例2に記載の周知の課題をもとに、引用発明を基にして作製し得たプロテアーゼ変異体に過ぎないものである。

よって、本願発明2は、引用例1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.小括
したがって、本願発明2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 特許法第36条第6項第1号について

1.本願の発明の詳細な説明の記載
本願発明2の解決しようとする課題に関して、本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「セリンプロテアーゼは広い範囲の特異性と生物学的機能を有する広い種類の酵素を含むカルボニルヒドロラーゼのサブグループである。主に洗浄と飼料用途で有用であるため多くの研究がこのスブチリシンについて行われた。さらに種々の用途でのこれらの酵素の機能に悪影響を及ぼすことのある悪条件(例えば、酸化剤、キレート剤、温度及び/又はpHの極端な条件への暴露)、について研究が集中された。しかし、依然、これらの悪条件に耐えかつ、本技術分野で現在知られている活性を保持し又は、これを上回る改善がされた活性を有することができる酵素系が、本技術分野で求められている。」(【0002】)

また、試験用洗剤溶液に関して、以下の記載がある。


」(【表2】)

そして、「実施例2 BPN’の多変異ライブラリー(MML)変異種の汚れ除去性能」に関して、以下の記載がある。
「BPN’多変異ライブラリー(又はコンビナトリアルライブラリー)が、BPN’を親タンパク質として使用して、Geneart又はDNA2.0により作られた。培養上澄み液のタンパク質濃度は実施例1で述べられたようにTCA沈殿により決定された。変異種の汚れ除去性能はEMPA116布見本(BMI汚れ、CFT)を、pH8/16℃、pH7/16℃及びpH8/32℃で、実施例1で述べられた方法を使用して、但し以下の改変を加えて洗濯して試験された。使用された試験洗剤は加熱不活性化されたTIDE(登録商標)2X Cold洗剤(Procter & Gamble)であり、実施例1で述べられたように調製された。市販の洗剤処方の加熱不活性化は、いずれかのタンパク質成分の固有の酵素活性を破壊するが、一方、非酵素成分の性質は保持する。

」(【0185】及び【表3】の冒頭部分)

さらに、「実施例4 変異種の追加のライブラリーデザインと汚れ除去性能」に関して、以下の記載がある。
「追加のBPN’多変異体ライブラリーは、親分子としてBPN’:G97A-G128A-Y217Qタンパク質を用いて、GeneartまたはGene Oracleにより製造された。汚れの除去活性を決定するために行われた実験結果(EMPA116布見本(BMI汚れ、CFT Vlaardingen)(BMI pH8、BMI pH7、BMI 32℃)を使用して、洗濯において汚れ除去性能を決定するための微小布見本試験)、TCA沈殿によるタンパク質量決定、及びBPN’変異種のLAS/EDTA安定性(目的とする性質の試験)は、表4-1、4-2、4-3及び4-4に示されている。
この結果は汚れ除去性能試験の以下の変更とともに、実施例1で述べられる方法を用いて得られた。この使用された試験洗剤は、加熱不活性化されたTIDE(登録商標)2X Cold 洗剤(Procter & Gamble, Cincinnati, OH, 米国)であった。

」(【0188】?【0189】及び【表6】)

2.当審の判断
本願発明2の解決しようとする課題は、上記【0002】の下線部分より、本技術分野で現在知られている活性を保持し又は、これを上回る改善がされた活性を有することができる酵素系を開発することであり、このことはすなわち、従来以上の改善がされた活性を有する変異体を提供することであると認められる。

そして、上記【表3】には、BPN’の変異のない野生型を基準として、当該野生型に追加された種々の変異体についてTCA及びBMI(pH8/16℃, pH7/16℃)及びTCAを測定し、その結果として野生型BPN’の性能を1としたときの比率(性能指数)が記載されており、その中の変異種G97A-G128A-Y217Qの野生型に対する比率は以下のとおりである。
BMI(pH8/16℃):1.4
BMI(pH7/16℃):1.24
TCA :1.33

また、上記【表6】には、BPN’の変異種である G97A-G128A-Y217Q を基準として、当該変異種に追加されたさらなる変異体についてBMI(pH8, pH7における汚れ除去性能)及びTCA(培養上澄のタンパク質濃度)を測定し、その結果として変異種G97A-G128A-Y217Qの性能を1としたときの比率(性能指数)が記載されている。

ここで、上記【表3】と【表6】の評価する性能のうちBMIの温度について一見異なる記載がある(【表3】では「BMI(pH8/16℃)」であるのに対して【表6】では「BMI(pH8)」、【表3】では「BMI(pH7/16℃)」であるのに対して【表6】では「BMI(pH7)」)ものの、【表3】に関する上記実施例2及び【表6】に関する上記実施例4の記載より、双方とも実施例1で述べられた方法を使用していること、さらに、上記【表2】より、試験用洗剤溶液は、pH8/16℃、pH7/16℃及びpH8/32℃の3種類しか存在せず、温度の明示(32℃)がない場合は16℃であって、【表3】と【表6】においてBMIを評価する条件は同じ(pH8/16℃及びpH7/16℃)であると認められることから、両者を対比することは可能である。

そして、上記【表3】における変異種G97A-G128A-Y217Qの野生型BPN’に対する比率の数値から、逆に変異種G97A-G128A-Y217Qを1としたときの野生型の比率を計算すると、それぞれ以下のとおりになる。
BMI(pH8/16℃):1/1.4≒0.714
BMI(pH7/16℃):1/1.24≒0.806
TCA :1/1.33≒0.752

そうすると、上記【表6】において、BMI(pH8)が0.714以上、BMI(pH7)が0.806以上、又はTCAが0.752以上を示す、変異種G97A-G128A-Y217Qのさらなる変異体については、少なくとも変異のない野生型BPN’と比較して改善された活性を有するものと認められることから、上述した3つの条件のいずれかを満たせば、本願発明2の課題を解決することができるものと認められる。

以上のことを踏まえてさらに検討すると、本願発明2の洗浄剤組成物は、上述した3つの条件のいずれかを満たす特定のアミノ酸残基位置の置換を含むことに加えて、配列番号1のアミノ酸配列をもつ成熟スブチリシンプロテアーゼと少なくとも90%の配列同一性を有することが特定されており、このことは、本願発明2に規定される特定のアミノ酸残基位置の置換を除き、配列番号1に示す275アミノ酸のうち、最大で27個のアミノ酸を置換したプロテアーゼを含むことを意味している。

一方、例えば、上記【表6】の下線部分をみると、本願発明2が規定する2箇所の置換を有する変異種LHS15(S53G-A114G)と、LHS15にさらに1箇所の置換を有する変異種LHS82?85を比較すると、明らかに後者において汚れ除去性能が低下していることが分かる。
また、置換の数が多ければそれだけ元の酵素の構造も変化することから、基質特異性も変化し、それによって酵素活性が低下する方向に影響し得ることは、出願時の技術常識である。
そうすると、本願発明2に規定される特定のアミノ酸残基位置の置換を除き、最大で27個ものアミノ酸を置換したプロテアーゼを含む、少なくとも90%の配列同一性を有する任意の変異体が、変異のない野生型BPN’と比較して改善された活性を有すると当業者が認識することは当然にできないものと認められる。

よって、本願発明2には、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超える発明が記載されていることになる。

4.小括
したがって、本願発明2は、本願の発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


第5 結び

以上のとおりであるから、本願請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-14 
結審通知日 2016-12-16 
審決日 2016-12-27 
出願番号 特願2013-120358(P2013-120358)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
P 1 8・ 537- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 巌  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 中島 庸子
三原 健治
発明の名称 微生物プロテアーゼ変異種を含有する組成物と方法  
代理人 永井 浩之  
代理人 箱田 満  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 中村 行孝  
代理人 小島 一真  
代理人 出口 智也  

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