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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01L |
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管理番号 | 1328202 |
審判番号 | 不服2016-2248 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-02-15 |
確定日 | 2017-05-10 |
事件の表示 | 特願2012-543494「組み立てられたカム軸のためのカムユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月23日国際公開、WO2011/072782、平成25年 4月25日国内公表、特表2013-514477〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、2010年11月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年12月18日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成24年6月18日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出された後、平成24年8月16日に特許法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出された後、平成26年6月27日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成26年9月19日に意見書が提出され、平成27年3月23日付けで再度拒絶理由が通知されたのに対し、平成27年6月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年12月28日付けで拒絶査定がされ、平成28年2月15日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、さらに、平成28年6月2日に上申書が提出されたものである。 第2.平成28年2月15日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成28年2月15日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正 (1)本件補正の内容 平成28年2月15日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正前の(すなわち、平成27年6月19日提出の手続補正書によって補正された)特許請求の範囲の請求項1の下記(ア)の記載を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の下記(イ)の記載へと補正するものである。 (ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1 「【請求項1】 カム軸モジュールであって、 組み立てられたカム軸を回転可能に支承するための少なくとも1つの軸受受容部(LA)を備えた軸受装置が設けられていて、 駆動可能なカム軸ベース体(2)と、カム軸ベース体(2)に相対回動不能ではあるが軸方向移動可能に配置される少なくとも1つのカムユニット(1)とを備えた、組み立てられたカム軸が設けられていて、 該カムユニット(1)が、管形状のスリーブベース体(11)と、 該スリーブベース体(11)に相対回動不能でかつ移動不能に配置された少なくとも1つのカムエレメント(12)とを有しており、 スリーブベース体(11)と少なくとも1つのカムエレメント(12)とが、別個に製造されて後から組み立てられる個別部材として形成されており、 カム軸の支承のために、少なくとも1つのカムユニット(1)のスリーブベース体(11)が、少なくとも1つの軸受受容部(LA)によって取り囲まれており、 軸受受容部(LA)は、全周の一部に亘って又は全周に亘って閉鎖された軸受受容部(LA)として形成されていて、カム軸ベース体(2)もしくはカム軸の組付けが、軸受受容部(LA)内へのカム軸ベース体(2)の軸方向かつ側方からの挿入によってだけ可能であることを特徴とするカム軸モジュール。」 (イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1 「【請求項1】 カム軸モジュールであって、 組み立てられたカム軸を回転可能に支承するための少なくとも1つの軸受受容部(LA)を備えた軸受装置が設けられていて、 駆動可能なカム軸ベース体(2)と、カム軸ベース体(2)に相対回動不能ではあるが軸方向移動可能に配置される少なくとも1つのカムユニット(1)とを備えた、組み立てられたカム軸が設けられていて、 該カムユニット(1)が、管形状のスリーブベース体(11)と、 該スリーブベース体(11)に相対回動不能でかつ移動不能に配置された少なくとも1つのカムエレメント(12)とを有しており、 スリーブベース体(11)と少なくとも1つのカムエレメント(12)とが、別個に製造されて後から組み立てられる個別部材として形成されており、 カム軸の支承のために、少なくとも1つのカムユニット(1)のスリーブベース体(11)が、少なくとも1つの軸受受容部(LA)によって取り囲まれており、 軸受受容部(LA)は、全周の一部に亘って又は全周に亘って閉鎖された軸受受容部(LA)として形成されていて、カム軸ベース体(2)もしくはカム軸の組付けが、軸受受容部(LA)内へのカム軸ベース体(2)の軸方向かつ軸方向に沿って軸受受容部(LA)に隣接した側方からの挿入によってだけ可能であることを特徴とするカム軸モジュール。」(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。) (2)本件補正の目的 本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「カム軸ベース体(2)もしくはカム軸の組付け」に関し、「軸方向に沿って軸受受容部(LA)に隣接した側方からの挿入によってだけ可能である」旨を限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。 したがって、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 2.独立特許要件についての判断 本件補正における特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。 2.-1 引用文献 2.-1-1 引用文献1 (1)引用文献1の記載 本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表2006-520869号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「シリンダーヘッドを備えた内燃機関のバルブ機構」に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。 (ア)「【請求項1】 回転方向に固定され軸方向に移動可能な少なくとも1つのカムキャリア(3)が配置された少なくとも1つのカム軸(1)を備えたシリンダーヘッドのある内燃機関のバルブ機構であって、 少なくとも1つのカムキャリア(3)は、少なくとも2つの異なるカム軌道(5.1.5.2,6.1.6.2)が形成された少なくとも1つのカム(5,6)を備え、 シリンダーヘッドに固定された少なくとも1つのカム軸受け(3)で少なくとも1つのカム軸(1,16)を支持するため、少なくとも1つのカムキャリア(2)が含まれ、 1つの第1の軸方向位置と少なくとも1つの第2の軸方向位置との間で、少なくとも1つのカム軸(1)に対して少なくとも1つのカムキャリア(2)を軸方向に移動させる手段が備わる内燃機関において、 カムキャリアの第1の軸方向位置において、カムキャリアに固定された第1の停止面(17)がシリンダーヘッドに固定された第1の停止面に当接し、 カムキャリアの第2の軸方向位置において、カムキャリアに固定された第2の停止面(18)がシリンダーヘッドに固定された第2の停止面に当接し、かつ カム軸(1)とカムキャリア(2)の間において、軸方向の張力を伝達するための手段が形成され、軸方向張力によりカムキャリアが第1の軸方向位置の領域において第1の軸方向位置の方向に移動し、第2の軸方向位置の領域において第2の軸方向位置の方向に移動する ことを特徴とするバルブ機構。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】) (イ)「【0001】 本発明は請求項1の前提部分に記載されたシリンダーヘッドを備えた内燃機関に関する。」(段落【0001】) (ウ)「【0017】 図1から図3に周知の従来の方法で構成され、シリンダークランクケース30、上部に固定されたシリンダーヘッド31およびシリンダーヘッドカバー33を備え外部点火式4シリンダーが一列になった一般的な内燃機関を示す。図示しないが周知の方法で1シリンダー当たり2つの吸気バルブおよび排気バルブが備わり、吸気バルブは吸気カム軸で、排気バルブは排気カム軸16で周知の方法で制御操作される。このため、吸気カム軸および排気カム軸16は機関の縦軸に平行に配置され、シリンダー列の両側で回転可能にシリンダーヘッド31に支持される。 【0018】 1つのカム主軸1と4つのカムキャリア2で構成された排気カム軸16および吸気カム軸は、詳細は示さないが、周知の方法で駆動される。 図4に吸気カム軸を示すが、そのカム主軸1に中空軸で形成された4つのカムキャリア2が軸方向に間隔をおいて配置される。この場合、カム部品2はカム主軸1上で軸方向に移動可能であるが回転方向には固定して支持される。図3,4,5,6および7に示すように、各カムキャリア2の両端に、カムキャリア軸の回りに螺旋状に溝で形成された軸方向曲線部10または11を有する螺旋駆動部が配設される。 【0019】 カムキャリア2上に2つのカムが配置され、各カムにおける軸方向にずれた2つの異なるカム軌道6,7または8,9は同一基本円から生じる。2つのカムの間にある各カム部品2の外面の円筒状領域はカム軸受け3に支持される面として形成される。 図3,5,6および7に示すように、各カムキャリア2はこの円筒状面でシリンダーヘッド31のカム軸受け台3に回転可能にかつ軸方向に移動可能に支持される。 【0020】 両カム軸受け台3に対向するカムの端面は位置決め面18,19として形成される。これに対応して、カムに対向するカム軸受け台3の端面は位置決め面17または20として形成される。この場合、カムの両位置決め面17,18間の距離はカム軸受け台3の位置決め面19および20間の距離よりも大きい。」(段落【0017】ないし【0020】) (2)引用文献1記載の事項 上記(1)(ア)ないし(ウ)及び図1ないし7の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていることが分かる。 (カ)上記(1)(ウ)及び図1ないし5から、カム軸受け台3が、カム主軸1とカムキャリア2で構成された吸気カム軸を回転可能に支承することが分かる。また、図5ないし7において、カム軸受け台3は、カムキャリア2を囲繞する部位を有していることが看取できる。ここで、便宜上、カム軸受け台3がカムキャリア2を囲繞する部位を「囲繞部」と呼ぶとともに、吸気カム軸とカム軸受け台3とを合わせて「吸気カム軸組立体」と呼ぶこととすれば、引用文献1には、吸気カム軸組立体であって、カム主軸とカムキャリア2で構成された吸気カム軸を回転可能に支承する囲繞部を備えたカム軸受け台3が設けられたものが記載されていることが分かる。 (キ)上記(1)(ア)及び(ウ)並びに図4ないし7の記載から、引用文献1に記載された吸気カム軸組立体には、周知の方法で駆動されるカム主軸1と、カム主軸1上で軸方向に移動可能であるが回転方向には固定して支持されるカムキャリア2とを備えた吸気カム軸が設けられていることが分かる。 (ク)上記(1)(ア)及び(ウ)並びに図4ないし7の記載から、引用文献1に記載された吸気カム軸組立体において、カムキャリア2は管形状に形成され、カムキャリア2上には、2つのカムが配置されていることが分かる。 (ケ)上記(カ)及び図5ないし7の記載から、引用文献1に記載された吸気カム軸組立体において、吸気カム軸の支承のために、カムキャリア2が囲繞部に取り囲まれていることが分かる。 (3)引用発明 上記(1)及び(2)並びに図1ないし7の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「吸気カム軸組立体であって、 カム主軸1とカムキャリア2で構成された吸気カム軸を回転可能に支承する囲繞部を備えたカム軸受け台3が設けられていて、 周知の方法で駆動されるカム主軸1と、カム主軸1上で軸方向に移動可能であるが回転方向には固定して支持されるカムキャリア2とを備えた吸気カム軸が設けられていて、 カムキャリアは管形状に形成され、カムキャリア2上には2つのカムが配置されており、 吸気カム軸の支承のために、カムキャリア2が囲繞部に取り囲まれている吸気カム軸組立体。」 2.-1-2 引用文献2 本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である実願昭56-135446号(実開昭58-40508号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献2」という。)には、「カムシヤフト」に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。 (サ)「焼結合金製カムロブをステムに組付けてなるカムシヤフトにおいて、カムロブ3を外周側に固着したカラー2を備え、ジヤーナル4、カラー2及びギア5の軸方向端面をそれぞれ当接させ、ジヤーナル4、カラー2及びギア5をステム1外周側に固着させてなるカムシヤフト。」(明細書第1ページ第5ないし10行) (シ)「本考案はカムシヤフトに関するものである。 近年、内燃機関においては、省エネルギーの観点から軽量化が要請される一方では、高速化と高出力化が要請されている。それに件ない、カムシヤフトにおいても、軽量で且つ強度、耐摩耗性に優れ、更に生産性にも優れたカムシヤフトが要求されているのが現状である。 従来のカムシヤフトは比較的低負荷のものでは鍛造カムシヤフトも使用されていたが、内燃機関の性能向上により、一般に耐摩耗性の優れた焼入れまたはチルド化された鋳鉄カムシヤフトが使用されている。 ところが、鋳鉄カムシヤフトは一般的に重量が重く、且つ強度的にも特別優れたものではなく、さらには大型のカムシヤフトを鋳造する場合、曲りや鋳造欠陥が生じ易く、その上チルド層、焼入れの管理に特別の技術を要する等、製造上技術的に困難な場合が多い。 これに対して、強度と軽量化を向上させるために、カムロブを焼結合金とし、ステムを鋼管で形成した、即ち、各部材を異種材料で形成したカムシヤフトが知られている。」(明細書第1ページ第12行ないし第2ページ第13行) (ス)「以下本考案を具体化した実施例を図面に基づいて説明する。第1図は、本考案のカムシヤフトの一実施例を示したものであり、鋼パイプ製のステム1外周側にはジャーナル4.4…、ギア5、外周側にカムロブ3を固着したカラー2.2…がそれぞれの軸方向端面を当接した状態で結合されている。このジヤーナル4、ギア5、及びカラー2をステム1外周側に組付ける場合には、第1図の左右いずれか一方、例えば図中左端から、ジヤーナル4、カラー2、ギア5、カラー2…の順でステム1に組付ける。この組付け固定手段としては圧入、焼きばめのいずれでもよい。また、ステム1の一端にはキヤツプ8を、他端にはベルト車9を装着するためのブツシユ7を結合する。」(明細書第3ページ第20行ないし第4ページ第13行) 2.-1-3 引用文献3 本願の優先日前に頒布された刊行物である実願昭63-17127号(実開平1-124004号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献3」という。)には、「内燃機関の動弁装置」に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。 (タ)「(従来の技術) 従来の内燃機関の動弁装置としては、例えば第4図及び第5図に示すようなものがある。 第4図(a)動弁装置断面図、(b)軸受部を説明するための分解図、に図示したものは、カムシャフト1の軸受部2のベヤリング3を分割し、カムブラケット4をナット5によりシリンダヘッド6に固定する型式のものである。 この型式では、各軸受部2に対してカムブラケット4,ナット5が必要となり、かつそれらの締め付け作業が必要となるため部品点数および工数の両方からコスト高になるという問題点がある。 そこで第5図(a)動弁装置断面図、(b)軸受部を説明するための分解図、に示すような一体ベヤリング型式のものが考案された。これは軸受部2のベヤリング3を一体的に構成し、カムシャフト1はシリンダヘッド6の一方から挿入するものである、(実開昭55-92005号,実開昭60-167103号公報等参照)。」(明細書第1ページ第17行ないし第2ページ第15行) 2.-1-4 引用文献4 本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-8157号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「カム軸受け構造」に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。 (ナ)「【0001】 本発明は、内燃機関におけるカム軸受け構造に関する。 【背景技術】 【0002】 一般に、カムシャフトを回転可能に軸支する挿通孔を構成する部材は、軸心を含む平面によって上下に2分割されており、上面側のカムキャップと、下面側のカムキャリアとから構成されている。このように、カムキャップをカムキャリアに整合して組み付けることで挿通孔が構成されるカム軸受けの一般的構造として、下記特許文献1に記載のものが知られている。このものは、カムシャフトとの組み付け現場への搬送時には、カムキャップがボルト締めによりカムキャリアに仮止めされており、組み付け時には、ボルトを外して仮止め状態のカムキャップを取り外し、カムキャリアにカムシャフトを載せた後、再びカムキャップを被せてボルト締めすることで本止めされるようになっている。 【特許文献1】特開平6-146822号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 しかしながら、このものは、仮止めされたカムキャップを一旦取り外して再び組み付ける必要があるため、組み付け作業に手間がかかる。また、カムキャップのカムキャリアに対する組み付け精度が悪いと挿通孔の真円度が低下することになり、カムシャフトと挿通孔の内周面との間のフリクションが増加してしまう。本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、カムキャップの組み付け作業にかかる手間を軽減し、挿通孔の真円度を一定に保つことで挿通孔とカムシャフトとの間のフリクション増加を規制することを目的とする。 …(後略)…」(段落【0001】ないし【0003】) (ニ)「【0016】 <実施形態1> 本発明の実施形態1を図1ないし図3によって説明する。…(中略)… 【0018】 カム収容空間6には、図示左側の吸気側カムシャフト21と図示右側の排気側カムシャフト22と、両カムシャフト21,22を支持する複数の軸受けピース3とが配されている。両カムシャフト21,22は並列して一対配されている。吸気側カムシャフト21は、別体で形成された複数のカムピース21Aと丸棒状をなすシャフト21Bとを組み立てることで構成された組み立て式カムシャフトとされている。同様にして、排気側カムシャフト22は、別体で形成された複数のカムピース22Aと丸棒状をなすシャフト22Bとを組み立てることで構成された組み立て式カムシャフトとされている。両カムピース21A,22Aは、それぞれシリンダ7の並び方向に沿って配され、シャフト21B,22Bとの連結部から一方向に突出するカム作用部21C,22Cを有している。尚、両カムシャフト21,22の構成はいずれも同一であり、以下の構造説明において重複する場合は、吸気側カムシャフト21を代表として説明を行うこととし、以下単にカムシャフト21という。 【0019】 カムピース21Aには、シャフト21Bを内部に挿入可能とし、かつシャフト21Bの外周面と連結するための連結孔25が貫通して形成されている。シャフト21Bは、図1および図2においては図面の簡略化のため中実シャフトとされているものの、実際には中空シャフトとされており、その内部には潤滑油が流し込まれている。シャフト21Bにおいて軸受けピース3の挿通孔20の内周面Aと対向するところには、潤滑油の供給口が開口しており、挿通孔20の内周面Aと両シャフト21B,22Bとの間には油膜が形成されて、円滑な回転動作が実現されている。尚、カムピース21Aをシャフト21Bに組み付ける際には、カムピース21Aを高温に加熱して連結孔25を拡径させておき、この拡径された連結孔25にシャフト21Bを挿入した後に、カムピース21Aを冷却することで連結孔25を縮径させて、カムピース21Aがシャフト21Bの外周面に固定されるようになっている。」(段落【0016】ないし【0019】) (ヌ)「【0027】 <実施形態2> 図4は本発明の実施形態2を示す。本実施形態におけるカム軸受け構造は、実施形態1の軸受けピース3の挿通孔20の形状を一部変更したものであり、その他の重複する構造については説明を省略する。また、吸気側カムシャフト21と排気側カムシャフト22の構造説明において重複する部分については、吸気側カムシャフト21を代表として説明し、以下、単にカムシャフト21という。本実施形態における軸受けピース30は、挿通孔31を備えており、挿通孔31は、カムピース21Aとほぼ適合する孔形状とされており、カムピース21Aが挿通孔31の内部に挿通可能とされている。挿通孔31においてカム作用部21Cを通過させるための切り欠き部32は、その出っ張り方向が全て同一方向(バルブ10と対向する側)を向いており、挿通孔31の内周面31Aにおいて切り欠き部32と反対側の面がシャフト21Bに対する摺接面とされている。 【0028】 切り欠き部32の出っ張り方向が全て同一方向を向いているのは、次の事情に基づく。カムシャフト21を通すためだけであれば、切り欠き部32の出っ張り方向は他を向いていてもよいはずである。しかし、本願で敢えて切り欠き部32の出っ張り方向をバルブ10と対向する側に向けて摺接面が上を向くようにした理由は、バルブ10に組み込まれたバルブスプリング15によって押圧力をうける支持面が摺接面を兼ねるようにするためである。 【0029】 このような構成によると、カムシャフト21に対して、個別の軸受けピース30を回転させながら組み付けていき、全ての軸受けピース30がカムシャフト21に組み付けられた後、シリンダヘッド1上に固定することができる。したがって、カムシャフト21を摺接面に押し当てた状態に付勢しておくことで回転可能に軸支することができる。」(段落【0027】ないし【0029】) 2.-1-5 引用文献5 本願の優先日前に頒布された刊行物である実願昭63-18522号(実開平1-124005号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献5」という。)には、「内燃機関の動弁装置」に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。 (ハ)「産業上の利用分野 この考案は、内燃機関の動弁装置、特にそのカムシャフトの軸受構造の改良に関する。」(明細書第1ページ第14ないし16行) (ヒ)「 第4図は、従来におけるカムシャフト1の軸受構造の一例を示している(例えば実開昭55-9205号公報等)。これは、シリンダヘッド2に隔壁状の軸受部3を複数設けるとともに、この隔壁状の軸受部3に真円形の軸受面4を貫通形成し、ここにカムシャフト1のジャーナル部5をそれぞれ嵌合支持させた構成となっている。つまり、この例では、カムシャフト1のジャーナル部5はカム部6を包含するようにかなり大径に設定されており、カムシャフト1をシリンダヘッド2一端から挿入して組み付けるようになっている。」(明細書第2ページ第5ないし15行) (フ)「 また第6図は、従来におけるカムシャフト1の軸受構造の他の例を示している(実開昭60-167103号公報等)。これは、シリンダヘッド2の軸受部3を、カムシャフト1の軸心を通る面に沿って上下二分割に分割形成した例で、軸受部3の上半部を形成するカムブラケット9を一対のボルト10にてシリンダヘッド2に固定し、該カムブラケット9とシリンダヘッド2とで形成される軸受面4で、カムシャフト1のジャーナル部5を支持した構成となっている。」(明細書第3ページ第6ないし15行) 2.-2 対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「吸気カム軸組立体」は、その構造、機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「カム軸モジュール」に相当し、以下同様に、「吸気カム軸」は「カム軸」に、「囲繞部」は「少なくとも1つの軸受受容部」に、「カム軸受け台3」は「軸受装置」に、「カム主軸1」は「カム軸ベース体」に、「カムキャリア2」は「少なくとも1つのカムユニット」に、それぞれ相当する。 また、引用発明において「吸気カム軸」が「カム主軸とカムキャリア2で構成された」ことは、その構造、機能又は技術的意義からみて、本願補正発明において「カム軸」が「組み立てられた」ことに相当し、同様に、「囲繞部」が「回転可能に支承する」ことは、「少なくとも1つの軸受受容部」が「回転可能に支承する」ことに、「カム主軸1」が「周知の方法で駆動される」ことは、「カム軸ベース体」が「駆動可能」であることに、「カムキャリア2」が「カム主軸1上で軸方向に移動可能であるが回転方向には固定して支持される」ことは、「少なくとも1つのカムユニット」が「カム軸ベース体に相対回動不能ではあるが軸方向移動可能に配置される」ことに、それぞれ相当する。 そして、「カムユニットが、カムを有して」いるという限りにおいて、引用発明において「カムキャリアは管形状に形成され、カムキャリア2上には2つのカムが配置されて」いることは、本願補正発明において「カムユニットが、管形状のスリーブベース体と、該スリーブベース体に相対回動不能でかつ移動不能に配置された少なくとも1つのカムエレメントとを有しており、スリーブベース体と少なくとも1つのカムエレメントとが、別個に製造されて後から組み立てられる個別部材として形成されて」いることに相当する。 さらに、「カム軸の支承のために、少なくとも1つのカムユニットが少なくとも1つの軸受受容部に取り囲まれている」という限りにおいて、引用発明において「吸気カム軸の支承のために、カムキャリア2が囲繞部に取り囲まれている」ことは、本願補正発明において「カム軸の支承のために、少なくとも1つのカムユニットのスリーブベース体が、少なくとも1つの軸受受容部に取り囲まれており、軸受受容部は、全周の一部に亘って又は全周に亘って閉鎖された軸受受容部として形成されていて、カム軸ベース体もしくはカム軸の組付けが、軸受受容部内へのカム軸ベース体の軸方向かつ軸方向に沿って軸受受容部に隣接した側方からの挿入によってだけ可能である」ことに相当する。 以上から、本願補正発明と引用発明は、 「カム軸モジュールであって、 組み立てられたカム軸を回転可能に支承するための少なくとも1つの軸受受容部を備えた軸受装置が設けられていて、 駆動可能なカム軸ベース体と、カム軸ベース体に相対回動不能ではあるが軸方向移動可能に配置される少なくとも1つのカムユニットとを備えた、組み立てられたカム軸が設けられていて、 カムユニットが、カムを有しており、 カム軸の支承のために、少なくとも1つのカムユニットが少なくとも1つの軸受受容部に取り囲まれているカム軸モジュール。」 である点で一致し、次の点で相違する。 〈相違点〉 (a)「カムユニットが、カムを有して」いることに関し、本願補正発明においては「カムユニットが、管形状のスリーブベース体と、該スリーブベース体に相対回動不能でかつ移動不能に配置された少なくとも1つのカムエレメントとを有しており、スリーブベース体と少なくとも1つのカムエレメントとが、別個に製造されて後から組み立てられる個別部材として形成されて」いるのに対し、引用発明においては「カムキャリアは管形状に形成され、カムキャリア2上には2つのカムが配置されて」いる点(以下、「相違点1」という。)。 (b)「カム軸の支承のために、少なくとも1つのカムユニットが少なくとも1つの軸受受容部に取り囲まれている」ことに関し、本願補正発明においては「カム軸の支承のために、少なくとも1つのカムユニットのスリーブベース体が、少なくとも1つの軸受受容部に取り囲まれており、軸受受容部は、全周の一部に亘って又は全周に亘って閉鎖された軸受受容部として形成されていて、カム軸ベース体もしくはカム軸の組付けが、軸受受容部内へのカム軸ベース体の軸方向かつ軸方向に沿って軸受受容部に隣接した側方からの挿入によってだけ可能である」のに対し、引用発明においては「吸気カム軸の支承のために、カムキャリア2が囲繞部に取り囲まれている」点(以下、「相違点2」という。)。 2.-3 判断 まず、相違点1について検討する。 カムシャフトの製造において、強度と軽量化を向上させるために、カムロブとステムを別材料で形成することは、引用文献2(上記2.-1-2参照)に従来技術として記載されていることにみられるように、本願の優先日以前に周知であった技術である(以下、「周知技術1」という。)。 そして、引用発明において、製造コストの削減や機能上の要求に応えるといった一般的な技術課題の解決のために周知技術1を用いて、別材料を用いて別個に製造されたカムロブを管状部材に相対回動不能でかつ移動不能に取り付けることによってカムキャリアを構成することにより、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 次に相違点2について検討する。 「カム軸の軸受けにおいて、組み付け作業の簡易化のために、カム軸を支承する軸受受容部を全周にわたって形成し、カム軸の組付けが、軸受受容部へのカム軸の軸方向かつ軸方向に沿って軸受受容部に隣接した側方からの挿入によってだけ可能とすること」は、引用文献3及び4(上記2.-1-3及び2.-1-4参照)に記載されているように、本願の優先日以前に周知であった技術である(以下、「周知技術2」という。)。 また、カムシャフトの軸受構造において、カムシャフトをシリンダヘッド一端から挿入して組み付けること、及びカムシャフトの軸受部をカムシャフトの軸心を通る面に沿って上下二分割に分割成型し、その間にカムシャフトを保持することは、引用文献5に従来技術として示されている(上記2.-1-5参照。)ことにみられるように、一般に選択的に実施されていることである。 そして、引用発明において、組み付け作業の簡易化という本願の優先日以前に一般的であった技術課題の解決のために周知技術2を用いて、囲繞部を全周の一部に亘って又は全周に亘って閉鎖された囲繞部として形成し、カムキャリアの組付けが、囲繞部内へのカム主軸の軸方向かつ軸方向に沿って囲繞部に隣接した側方からの挿入によってだけ可能であるようにすることにより、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、本願補正発明は、全体として検討しても、引用発明並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできず、本願補正発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3.本願発明について 1.本願発明 上記のとおり、平成28年2月15日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成27年6月19日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲、並びに平成24年8月16日提出の明細書の翻訳文及び国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2.の[理由]1.(1)(ア)【請求項1】のとおりのものである。 2.引用発明 本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特表2006-520869号公報)記載の発明(引用発明)は、前記第2.の[理由]2.-1-1の(3)に記載したとおりである。 3.対比・判断 前記第2.の[理由]1.(2)で検討したとおり、本件補正は、該補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、すなわち本願発明の発明特定事項をさらに限定するものであるから、本願発明は、実質的に本願補正発明における発明特定事項の一部を省いたものに相当する。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の[理由]2.-2及び2.-3に記載したとおり、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様の理由によって、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.まとめ 以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第4.むすび 上記第3.のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-11-22 |
結審通知日 | 2016-11-28 |
審決日 | 2016-12-12 |
出願番号 | 特願2012-543494(P2012-543494) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F01L)
P 1 8・ 575- Z (F01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 橋本 敏行 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
中村 達之 槙原 進 |
発明の名称 | 組み立てられたカム軸のためのカムユニット |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 二宮 浩康 |