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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1328277
審判番号 不服2016-1144  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-27 
確定日 2017-05-12 
事件の表示 特願2013-547262「ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂を含有する難燃性樹脂組成物およびその成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月 6日国際公開、WO2013/081161〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、2012年11月27日(優先権主張平成23年12月2日)を国際出願日とする特許出願であって、以降の主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 3月31日付け 拒絶理由通知
平成27年 6月 2日 意見書、手続補正書
平成27年10月22日付け 拒絶査定
平成28年 1月27日 審判請求書、手続補正書
平成28年 3月30日付け 前置報告書

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明は、平成28年1月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、次のとおりである。なお、平成28年1月27日付けの手続補正は、補正前の請求項2の削除を目的とするものであり、適法なものである。

「【請求項1】
(A)ポリカーボネート系樹脂および(B)下記式(1)で表される二価フェノールおよび下記式(3)で表されるヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサンを共重合させることにより得られるポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂からなる樹脂成分100重量部、(C)有機リン系難燃剤3?35重量部または有機金属塩系難燃剤0.005?5重量部、(D)ケイ酸塩鉱物0.1?30重量部、および(E)ドリップ防止剤0.1?3重量部を含有し、かつ組成物中の上記(B)成分中のポリジオルガノシロキサン含有量が0.2?0.41重量%であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【化1】

ここで、R^(1)及びR^(2)は夫々独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1?18のアルキル基、炭素原子数1?18のアルコキシ基、炭素原子数6?20のシクロアルキル基、炭素原子数6?20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2?10のアルケニル基、炭素原子数3?14のアリール基、炭素原子数3?14のアリールオキシ基、炭素原子数7?20のアラルキル基、炭素原子数7?20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる基を表し、それぞれ複数ある場合はそれらは同一でも異なっていてもよく、e及びfは夫々1?4の整数であり、Wは単結合もしくは下記式(2)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。
【化2】

ここで、R^(11),R^(12),R^(13),R^(14),R^(15),R^(16),R^(17)及びR^(18)は夫々独立して水素原子、炭素原子数1?18のアルキル基、炭素原子数3?14のアリール基及び炭素原子数7?20のアラルキル基からなる群から選ばれる基を表し、R^(19)及びR^(20)は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1?18のアルキル基、炭素原子数1?10のアルコキシ基、炭素原子数6?20のシクロアルキル基、炭素原子数6?20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2?10のアルケニル基、炭素原子数3?14のアリール基、炭素原子数6?10のアリールオキシ基、炭素原子数7?20のアラルキル基、炭素原子数7?20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる基を表し、R^(11)、R^(12)、R^(17)およびR^(18)が複数ある場合はそれらは同一でも異なっていてもよく、gは1?10の整数、hは4?7の整数である。
【化3】

ここで、R^(3)、R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(7)及びR^(8)は、各々独立に水素原子、炭素原子数1?12のアルキル基又は炭素原子数6?12の置換若しくは無置換のアリール基であり、R^(9)及びR^(10)は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1?10のアルキル基、炭素原子数1?10のアルコキシ基であり、pは自然数であり、qは0又は自然数であり、p+qは10?120の自然数であり、2つのXは炭素原子数2?8の二価脂肪族基である。

【請求項2】
(F)スチレン樹脂3?45重量部をさらに含有する請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

「3.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・・・(中略)・・・

●理由3(サポート要件)について

・請求項1-9

実施例において、比較例7、比較例13乃至比較例16、比較例20、比較例22、比較例28及び比較例29は、請求項1に係る発明特定事項を全て満たしているにもかかわらず、比較例として好ましくない試験結果を示している。してみると、請求項1に係る発明特定事項と実施例(比較例)の記載とに整合性がないものである。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
また、請求項1を引用する請求項についても同様である。」

第4 当審の判断
1 特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について
ア 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ そこで、本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。

2 発明の詳細な説明の記載
平成27年6月2日付けの手続補正により補正された明細書、及び国際出願日における国際特許出願の明細書(以下、それぞれ、「本件補正明細書」、及び「本件当初明細書」といい、それらを併せて「本願明細書」ということがある。)には、次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。

ア 本件補正明細書の記載
(ア)背景技術、及び発明が解決しようとする課題についての記載
「【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、優れた機械特性、熱的性質を有しているため工業的に広く利用されている。しかしながら芳香族ポリカーボネート樹脂は、溶融粘度が高いため、流動性が悪く成形性に劣る欠点がある。芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性を改良するため、芳香族ポリカーボネートと他の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイも数多く開発されている。その中でもABS樹脂を代表とするスチレン系樹脂とのポリマーアロイは、OA機器分野、電子電気機器分野、および自動車分野などに広く利用されている。なかでもOA機器、家電製品等の用途を中心に使用する樹脂材料の難燃化の要望が強く、これらの要望に応えるために芳香族ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのポリマーアロイにおいて、特に最近大型製品に必要な安全規格であるUL94でグレード5VBなどの薄肉難燃化の要求に対応する検討がなされてきた。
従来、かかるポリマーアロイにおける難燃化はブロムを有するハロゲン系難燃剤と三酸化アンチモン等の難燃助剤の併用が一般的に用いられてきた。例えば5VB難燃化に関しては、芳香族ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのブレンドに難燃剤、難燃助剤を添加し、更にフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンおよびタルクなどの特定のL/Dを有する無機充填材を添加する方法などが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、近年では、燃焼時の有害性物質の発生問題からブロムを有するハロゲン系化合物を含まない有機リン系難燃剤による難燃化の検討が盛んになってきた。例えば芳香族ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのポリマーアロイに有機リン系難燃剤、さらにフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンを添加する組成が数多く提案がなされ、その関連する知見が広く知られている(特許文献2参照)。
【0004】
芳香族ポリカーボネート樹脂に、ポリカーボネート-オルガノポリシロキサン共重合樹脂を配合することによる難燃性の改良処方は、特許文献3に開示されているが、難燃剤を全く含有しないポリカーボネート樹脂組成物は、熱安定性、長期耐熱性等に優れるものの、OA機器をはじめとする大型機器に要求される薄肉でのUL94 5VB規格を満足するほどの難燃性を達成するには不十分であった。また、特定量のケイ素を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート-オルガノポリシロキサン共重合樹脂に対してリン酸エステルを配合することによる難燃性改良処方が特許文献4に開示されているが、少量のリン酸エステルでかつケイ酸塩鉱物が添加されていないため、薄肉においてUL94 5VB規格を達成するには至らない。さらに有機スルホン酸金属塩を配合することによる難燃性の改良処方についても、特許文献5に開示されているが、これらも一定の難燃効果の向上は見られるものの、OA機器をはじめとする大型機器に要求される薄肉でのUL94 5VB規格を満足するほどの難燃性を達成するには不十分であった。他にも、ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂とスチレン系樹脂に対して、官能基含有シリコーン系難燃剤と無機充填材を配合することによるノンハロ・ノンリンでの難燃効果が開示されている(特許文献6参照)が、シリコーン系難燃剤では、耐熱性を維持したまま、難燃性を付与できるものの、薄肉での5VBといった高難燃性を満足するには不十分である。
【0005】
また、特許文献7にも、芳香族ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩、官能基含有シリコーン化合物、無機充填剤およびポリテトラフルオロエチレン樹脂を配合してなる樹脂組成物が開示されている。しかしながら、この公報にも薄肉で5VBの高難燃性を達成できることは何ら開示されていない。
かかるように、ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂の配合により一定の難燃性を有する樹脂組成物は開示されているものの、薄肉においてUL94 5VBを達成するような高いレベルの難燃性を有する樹脂組成物が求められているが得られていないのが現状である。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に鑑み、本発明の目的は、薄肉ながらUL94 5VBを取得できるような優れた難燃性を有する難燃性樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することにある。
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂および特定量のポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂にABS樹脂を代表とするスチレン系樹脂、リン系難燃剤、ケイ酸塩鉱物、およびドリップ防止剤を配合することにより、薄肉成形品においても難燃性、耐衝撃性、流動性のバランスを高次元で満足する難燃性樹脂組成物を形成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0002】ないし段落【0007】)

(イ)スチレン樹脂についての記載
「【0075】
(F成分:スチレン樹脂)
本発明の難燃性樹脂組成物はF成分としてスチレン樹脂を含有することができる。このスチレン樹脂は良好な成形加工性と、適度な耐熱性および難燃性を有しているため、これら特性のバランスを保つために好ましい熱可塑性樹脂である。
かかるスチレン樹脂は、芳香族ビニル化合物の重合体または共重合体、またこれと必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル単量体およびゴム質重合体より選ばれる1種以上を共重合して得られる重合体である。
・・・(中略)・・・
【0078】
上記スチレン系樹脂として具体的には、例えば、ポリスチレン樹脂、HIPS樹脂、MS樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂、MAS樹脂、およびSMA樹脂などのスチレン系樹脂、並びに(水添)スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、(水添)スチレン-イソプレン-スチレン共重合体樹脂などを挙げることができる。尚、(水添)の表記は水添していない樹脂および水添した樹脂のいずれをも含むことを意味する。ここでMS樹脂はメチルメタクリートとスチレンから主としてなる共重合体樹脂、AES樹脂はアクリロニトリル、エチレン-プロピレンゴム、およびスチレンから主としてなる共重合体樹脂、ASA樹脂はアクリロニトリル、スチレン、およびアクリルゴムから主としてなる共重合体樹脂、MABS樹脂はメチルメタクリレート、アクリロニトリル、ブタジエン、およびスチレンから主としてなる共重合体樹脂、MAS樹脂はメチルメタクリレート、アクリルゴム、およびスチレンから主としてなる共重合体樹脂、SMA樹脂はスチレンと無水マレイン酸(MA)から主としてなる共重合体樹脂を示す。
・・・(中略)・・・
【0084】
スチレン樹脂の含有量は(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して、3?45重量部であり、4?42.5重量部が好ましく、5?40重量部がより好ましい。含有量が3重量部未満の場合、十分な流動性が得られず、45重量部を超えた場合、難燃性が維持できない。(F)成分のスチレン樹脂は、(C)成分として有機リン系難燃剤が用いられる場合、好ましく用いられる。」(段落【0075】ないし段落【0084】)

(ウ)実施例についての記載
「【実施例】
【0115】
以下に実施例をあげて本発明を更に説明する。なお、特に説明が無い限り実施例中の部は重量部、%は重量%である。また、実施例1、2、6、8、16および21は参考例であり、比較例15、16および20は欠番である。なお、評価は下記の方法によって実施した。
・・・(中略)・・・
【0118】
(A成分)
PC:芳香族ポリカーボネート樹脂[ビスフェノールAとホスゲンから常法によって作られた粘度平均分子量19,800のポリカーボネート樹脂粉末、帝人化成(株)製 パンライトL-1225WX]
(B成分)
PC-PDMS-1:ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(粘度平均分子量19,800、PDMS量4.2重量%、PDMS重合度37)
PC-PDMS-2:ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(粘度平均分子量19,800、PDMS量8.4重量%、PDMS重合度37)
PC-PDMS-3:ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(粘度平均分子量19,800、PDMS量4.2重量%、PDMS重合度8)
PC-PDMS-4:ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(粘度平均分子量19,800、PDMS量4.2重量%、PDMS重合度150)
(C成分)
FR-1:ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を主成分とするリン酸エステル(大八化学工業(株)製:CR-741(商品名))
FR-2:パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(大日本インキ化学工業(株)製 メガファックF-114P(商品名))
FR-3:Si-H基とメチル基およびフェニル基を含有する有機シロキサン系難燃剤(信越化学工業(株)製 X-40-2600J(商品名))
【0119】
(D成分)
Talc-1:タルク(林化成(株)製;HST0.8(商品名)、平均粒径3.5μm)
Talc-2:タルク(IMI Fabi S.p.A.(株)製;HTP ultra 5c(商品名)、平均粒径0.5μm)
Talc-3:タルク(勝光山鉱業所(株)製;ビクトリライト SG-A(商品名)、平均粒径15.2μm)
WSN:ワラストナイト(NYCO社製:NYGLOS4)
MICA:マイカ(キンセイマテック(株)製:マイカパウダー MT-200B)
(E成分)
PTFE-1:ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業(株)製 ポリフロンMP FA500B(商品名))
PTFE-2:SN3300B7(商品名)(Shine polymer社製、該ポリテトラフルオロエチレン系混合体は、懸濁重合にて製造された分岐状ポリテトラフルオロエチレン粒子とスチレン-アクリロニトリル共重合体粒子の混合物(ポリテトラフルオロエチレン含有量50重量%))
(F成分)
ABS-1:ABS樹脂[日本A&L(株)製 クララスチックSXH-330(商品名)、ブタジエンゴム成分約17.5重量%、重量平均ゴム粒子径が0.40μm、乳化重合にて製造、滑剤(EBS)を含まない]
ABS-2:ABS樹脂[日本A&L(株)製 クララスチックGA-704(商品名)、ブタジエンゴム成分約17.5重量%、重量平均ゴム粒子径が0.40μm、乳化重合にて製造、滑剤(EBS)を含む]
MBS:コア-シェル型グラフト共重合体[ロームアンドハース(株)製:パラロイド EXL-2678(商品名);コアがポリブタジエン60重量%、シェルがスチレンおよびメチルメタクリレート40重量%であるグラフト共重合体、重量平均粒子径が0.35μm、乳化重合にて製造]
【0120】
(その他の成分)
DC30M:α-オレフィンと無水マレイン酸との共重合によるオレフィン系ワックス(三菱化学(株)製;ダイヤカルナ30M(商品名))
SL900:脂肪酸エステル系離型剤(理研ビタミン(株)製;リケマールSL900(商品名))
IRGX:フェノール系熱安定剤(Ciba Specialty Chemicals K.K.製;IRGANOX1076(商品名))
・・・(中略)・・・
【0134】
【表13】

【0135】
【表14】

」(段落【0115】ないし段落【0135】)

イ 本件当初明細書の記載
(ア)実施例についての記載
「【表4】

」(国際特許出願の明細書が掲載されている国際公開第2013/81161号の第77ないし78ページ)

3 本願発明が解決しようとする課題について
上記ア(ア)によれば、背景技術として「芳香族ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのポリマーアロイにおいて、特に最近大型製品に必要な安全規格であるUL94でグレード5VBなどの薄肉難燃化の要求に対応する検討」がなされており(段落【0002】)、「有機リン系難燃剤」、「フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン」(段落【0003】)、「ポリカーボネート-オルガノポリシロキサン共重合樹脂」、「リン酸エステル」、「有機スルホン酸金属塩」、「官能基含有シリコーン系難燃剤と無機充填材」(段落【0004】)等の配合が検討されてきたが、「薄肉においてUL94 5VBを達成するような高いレベルの難燃性を有する樹脂組成物が求められているが得られていないのが現状」(段落【0005】)であった。
したがって、本願発明が解決しようとする課題(以下、「本願発明の課題」という。)は、「薄肉ながらUL94 5VBを取得できるような優れた難燃性を有する難燃性樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供すること」(段落【0007】)であると認められる。

4 発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比
本件当初明細書及び本件補正明細書の発明の詳細な説明には、上記本願発明の課題を解決するための手段として、本願発明1及び2の構成を採用することが記載されており、その構成を有することの有効性を示すための具体例として実施例が記載され、難燃性に劣る難燃性樹脂組成物を得たことを示すための具体例として比較例が記載されている。
ここで、上記比較例のうち、比較例16及び20については、上記ア(ウ)の「比較例15、16および20は欠番である」(段落【0115】)と記載されるとおり、本件補正明細書では削除されている。しかし、当該比較例16及び20の評価結果は、それ自体に何らかの瑕疵があるものではなく、また単に削除したことで当該評価結果の解釈に変更を要するものではないことから、当該比較例16及び20に記載の組成物は、「難燃性」に劣る評価結果を有するものとして参酌できるものと認められる。
そこで、本願発明1及び2が、特に、比較例16及び20との関係でサポート要件に適合するか否かについて検討を進める。

ア 本願発明1及び比較例16との対比
本件当初明細書に記載の比較例16に記載の組成物は、上記イ(ア)の表4に示されるとおりの組成を有している。
ここで、本願発明1と上記比較例16に記載の組成物とを対比すると、本願発明1における、「(A)ポリカーボネート系樹脂および(B)下記式(1)で表される二価フェノールおよび下記式(3)で表されるヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサンを共重合させることにより得られるポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂からなる樹脂成分100重量部」は、比較例16における、「PC:芳香族ポリカーボネート樹脂」を87重量部、「PC-PDMS-1:ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂」を13重量部に相当し、以下同様に、「(C)有機リン系難燃剤3?35重量部」は「FR-1:ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を主成分とするリン酸エステル」を25重量部に相当し、「(D)ケイ酸塩鉱物0.1?30重量部」は「Talc-1:タルク」を8重量部に相当し、「(E)ドリップ防止剤0.1?3重量部」は「PTFE-1:ポリテトラフルオロエチレン」を0.6重量部に相当する。そして、本願発明1における、(A)ないし(E)を「含有」する「難燃性樹脂組成物」であることは、(A)ないし(E)以外の任意成分の含有を許容するものであるから、比較例16における、「ABS-1:ABS樹脂」を45重量部、「MBS:コア-シェル型グラフト共重合体」を5重量部有することも包含する。してみると、比較例16も、本願発明1の発明特定事項を全て満たすものと認められる。
しかしながら、当該比較例16に記載の組成物の評価結果は、「難燃性(0.8mm/5VB)」、「難燃性(1.0mm/5VB)」、「難燃性(1.2mm/5VB)」が各々「×」であり、難燃性に劣ることが示されており、比較例16は、本願発明1の発明特定事項を全て満たしていても、本願発明の課題である「難燃性」を改善することができていない例であると認められる。
この点、本件補正明細書の発明の詳細な説明には、上記ア(イ)にあるとおり、上記「ABS樹脂」や「MBS」である「スチレン樹脂」の含有量は、「(A)成分と(B)成分との合計100重量部に対して、3?45重量部であり、4?42.5重量部が好ましく、5?40重量部がより好ましい」ことが記載され(段落【0078】、段落【0084】)、当該含有量の範囲を外れると、「含有量が3重量部未満の場合、十分な流動性が得られず、45重量部を超えた場合、難燃性が維持できない」ことが示されている。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして、当業者が、本願発明の課題を解決できると認識できるのは、本願発明1において任意成分として「スチレン樹脂」を含む場合、「3?45重量部」の含有量に特定された難燃性樹脂組成物であると認められる。
したがって、上記「スチレン樹脂」を含む場合、その含有量が「3?45重量部」に特定されていない本願発明1は、当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えて、特許を請求するものである。

なお、本願発明2は、「(F)スチレン樹脂3?45重量部をさらに含有」する点が特定されていることから、スチレン樹脂を合計で50重量部含む比較例16は、本願発明2の発明特定事項を満たさないものであり、本願発明2の比較例として位置づけられるものではある。

イ 本願発明1及び比較例20との対比
本件当初明細書に記載の比較例20に記載の組成物は、上記イ(ア)の表4に示されるとおりの組成を有している。
ここで、本願発明1と比較例20に記載の組成物とを対比すると、本願発明1における、「(A)ポリカーボネート系樹脂および(B)下記式(1)で表される二価フェノールおよび下記式(3)で表されるヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサンを共重合させることにより得られるポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂からなる樹脂成分100重量部」は、比較例20における、「PC:芳香族ポリカーボネート樹脂」を87重量部、「PC-PDMS-1:ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂」を13重量部に相当し、以下同様に、「(C)・・・有機金属塩系難燃剤0.005?5重量部」は「FR-2:パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩」を1.5重量部に相当し、「(D)ケイ酸塩鉱物0.1?30重量部」は「Talc-1:タルク」を8重量部に相当し、「(E)ドリップ防止剤0.1?3重量部」は「PTFE-1:ポリテトラフルオロエチレン」を0.6重量部に相当する。そして、上記アで説示したとおり、本願発明1は、比較例20における「ABS-1:ABS樹脂」を20重量部、「MBS:コア-シェル型グラフト共重合体」を3重量部有することも包含する。してみると、比較例20も、本願発明1の発明特定事項を全て満たすものと認められる。
しかしながら、当該比較例20に記載の組成物の評価結果は、「難燃性(0.8mm/5VB)」、「難燃性(1.0mm/5VB)」、「難燃性(1.2mm/5VB)」が各々「×」であり、難燃性に劣ることが示されており、比較例20は、本願発明1の発明特定事項を全て満たしていても、本願発明の課題である「難燃性」を改善することができていない例であると認められる。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願出願当時の技術常識に照らして、当業者が、本願発明の課題を解決できると認識できるのは、比較例20に記載の組成物を含まない難燃性樹脂組成物であると認められる。
してみると、上記比較例20に記載の組成物を含まないことが特定されていない本願発明1は、当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えて、特許を請求するものである。

ウ 本願発明2及び比較例20との対比
本願発明2は、「(F)スチレン樹脂3?45重量部をさらに含有」する点が特定されており、比較例20における「ABS-1:ABS樹脂」を20重量部、「MBS:コア-シェル型グラフト共重合体」を3重量部に相当する。よって、比較例20は、本願発明1と同様に本願発明2の発明特定事項を全て満たすものと認められる。
してみると、上記イで説示したとおり、上記比較例20に記載の組成物を含まないことが特定されていない本願発明2は、当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えて、特許を請求するものである。

したがって、本願は、本願発明1及び2に関して、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

5 請求人の主張について
請求人は、平成28年1月27日提出の審判請求書において、上記理由3につき、概略、以下の点を主張する。

「これらの比較例1、2および6は、いずれも国際出願の請求項1に係る発明で特定する(C)成分の有機リン系難燃剤または有機金属塩系難燃剤の含有割合を充足する。従って、国際出願の明細書を作成するに当たって、これらの比較例1、2、6すなわち本願明細書の比較例16、17および20は削除されねばならなかったものである。それが本願明細書に誤って残されたことは、いわば誤記あるいは明瞭でない記載に該当するので、それらの削除は誤記の訂正あるいは明瞭でない記載の釈明として認められてしかるべきである。拒絶査定が撤回され解消されることを希望する次第である。」

しかし、上記4で説示したとおり、本件当初明細書に記載の比較例16及び20の評価結果は、それ自体に何らかの瑕疵が存するとも認められないことから、両比較例で示される組成の評価結果として参酌できるものである。そして、比較例16及び20が、優先権主張の基礎とされた特願2011-264668号に記載される上記比較例1、2及び6に対応するとの理由で削除されねばならなかったものであるとの点についても、何ら比較例16及び20の評価結果の解釈を変更する理由にもならない。したがって、請求人の上記主張は採用することはできない。

6 当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願は、本願発明1及び2、すなわち本願請求項1及び2に係る発明に関して、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、本願は、同法第49条第4号に該当するものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、その余につき検討するまでもなく、特許法第49条第4号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-08 
結審通知日 2017-03-15 
審決日 2017-03-28 
出願番号 特願2013-547262(P2013-547262)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 山本 英一
守安 智
発明の名称 ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂を含有する難燃性樹脂組成物およびその成形品  
代理人 白石 泰三  
代理人 大島 正孝  

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