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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1328317
審判番号 不服2016-1503  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-02 
確定日 2017-06-06 
事件の表示 特願2012-263790「電子写真感光体及び画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月12日出願公開,特開2014-109683,請求項の数(2)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,平成24年11月30日の出願であって,平成27年8月14日付けで拒絶理由が通知され,同年10月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年同月27日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成28年2月2日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成29年2月15日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,同年4月18日に意見書及び手続補正書が提出された。


第2 原査定の拒絶の理由
1 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,概略次のとおりである。

理由1:この出願の請求項1及び2(審決注:平成27年10月14日提出の手続補正書による補正後の請求項1及び2である。後述する理由2における請求項1についても同様。)に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献5に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。(以下,「査定理由1」という。)
理由2:この出願の請求項1に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献6ないし8のいずれにも記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないか,前記引用文献6又は7に記載された発明及び引用文献9に記載された事項に基づいて,あるいは引用文献8に記載された発明及び引用文献10に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。(以下,「査定理由2」という。)

2 引用例
査定理由1及び2で引用された引用文献5ないし10は次のとおりである。

引用文献5:特開平7-271062号公報
引用文献6:特開2005-43881号公報
引用文献7:特開2006-284678号公報
引用文献8:特開2010-237555号公報
引用文献9:特開2006-89702号公報
引用文献10:特開2006-99099号公報


第3 当審拒絶理由
1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は,概略次のとおりである。

理由1:平成28年2月2日提出の手続補正書による補正は,下記の点で願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。(以下,「当審拒絶理由1」という。)

請求項1(審決注:平成28年2月2日提出の手続補正書による補正後の請求項1である。後述する理由2における請求項1及び2についても同様。)に記載の「前記結着樹脂が下記一般式(1)で表される繰り返し単位のみ有するポリカーボネート樹脂と,一般式(4)で表される繰り返し単位のみ有するポリカーボネート樹脂とのみを含み,前記一般式(1)で表される繰り返し単位のみを有する1種類のポリカーボネート樹脂を少なくとも30質量%以上含有し,前記一般式(4)で表される繰り返し単位のみを有するポリカーボネート樹脂を前記結着樹脂中50質量%含有し」との発明特定事項が指し示す結着樹脂は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「出願当初明細書等」という。)には記載されておらず,かつ,出願当初明細書等の記載から自明のものでもないから,前記手続補正は,出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。

理由2:本件出願の請求項1及び2に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないか,当該引用文献1に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。(以下,「当審拒絶理由2」という。)

2 引用例
当審拒絶理由2で引用された引用文献1は,次のとおりである。

引用文献1:特開2003-66630号公報


第4 本件出願の請求項1及び2に係る発明
本件出願の請求項1及び2に係る発明は,平成29年4月18日提出の手続補正書によって補正された請求項1及び2に記載された事項によって特定されたとおりのものと認められるところ,請求項1及び2の記載は次のとおりである。(以下,請求項1及び2に係る発明をそれぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。)

「【請求項1】
支持基体上に少なくとも電荷発生材料,電荷輸送材料,及び結着樹脂からなる単層型の感光層を備える電子写真感光体であって,前記電荷発生材料がフタロシアニン系顔料であり,前記感光層中における電荷輸送材料は正孔輸送材と電子輸送材からなり,その総量が前記結着樹脂100質量部に対して40?90質量部であるとともに,前記結着樹脂が下記R4もしくはR9で表されるポリカーボネート樹脂であり,
ローラークリーニングシステムを用いない乾式現像に適用することを特徴とする電子写真感光体。
R4:BisE単位からなるポリカーボネート樹脂と,BisZ単位からなるポリカーボネート樹脂との混合物であり,混合比(質量比)はBisE/BisZ=60/40である。
【化1】

R9:以下の構造単位からなるポリカーボネート樹脂/BP単位からなるポリカーボネート樹脂=80/20(質量比)。
【化2】


【請求項2】
像担持体と,
前記像担持体の表面を帯電するための帯電部と,
帯電された前記像担持体の表面を露光して前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と,
前記静電潜像をトナー像として現像するためのローラークリーニングシステムを用いない乾式現像を行う現像部と,
前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写部と,を備え,
前記感光体が請求項1に記載の感光体であり,前記帯電手段が正帯電方式であることを特徴とする画像形成装置。」


第5 引用例
1 引用文献1の記載
当審拒絶理由1で引用された引用文献1は,本件出願の出願前に頒布された刊行物であって,当該引用文献1には,次の記載がある。
(1) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は高耐久性を有する電子写真感光体に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から,電子写真感光体(以下,単に「感光体」とも称す)の光導電性素材としては,Se,CdSおよびZnOなどの無機材料が用いられていたが,耐刷性が低く,毒性や温度特性などに問題を有していることから,近年では無公害で成膜性に優れ,かつ材料の選択範囲の広い有機光導電性材料が用いられるようになり,これを用いた電子写真感光体の開発が盛んに行われている。該有機光導電性材料を用いた有機感光体としては,機能分離型および単層型などの様々な感光層構成の感光体が提案されている。
【0003】・・・(中略)・・・単層型感光体は,支持体上の感光層が,バインダ樹脂中に電荷発生材料および電荷輸送材料を分散させた単層構造の構成である。・・・(中略)・・・
【0006】このような感光体に使用されるバインダ樹脂としては,ビスフェノールA型のポリカーボネート樹脂が用いられている。しかし,ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂は結晶性が高いので,その溶液はゲル化を起こしやすく,短期間で感光体塗布液が使用不可能となるという欠点を有している。また,塗布により膜形成を行った場合,膜表面に結晶性ポリカーボネート樹脂が析出して生産効率が低下したり,作製した感光体を複写機中で使用したときに,結晶性ポリカーボネート樹脂が析出して生じた凸部にトナーが付着し,その部分のトナーがクリーニングによって除去されずに残り,クリーニング不良による画像欠陥を生じるという欠点を有している。さらに,このビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂をバインダ樹脂として用いた電子写真感光体を電子写真複写機に用いた場合には,現像工程やクリーニング工程で擦られることによって感光層表面に傷が付きやすく,感光層が摩耗しやすいという欠点を有している。
【0007】また,前記問題を解決するために,複写機内部でコロナ放電により発生するオゾン量を低減する手段として,感光体表面に当接する帯電部材を用いることが提案され,発生するオゾン量の低減に効果を発揮している。しかし,この手法では,感光体を擦過する部材が増加するので,繰返し使用時の膜削れが大きくなるという欠点を有している。
【0008】また,ビスフェノールAと他の分子とのコポリマーをバインダ樹脂として用いることが検討されているが,まだ充分な成果は得られていない。また,特開平3-20768号公報には,感光層表面にバインダ樹脂としてビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂を用いることにより,耐久性を改良する技術が提案されている。このビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂をバインダ樹脂として用いた感光体は,耐刷性や耐摩耗性は良好であるが,初期感度が悪く,高温高湿下で繰返し使用すると残留電位が上昇するという欠点を有している。また,特許番号第2531852号明細書には,新規な特定構造のポリカーボネート樹脂が提案されている。
【0009】さらに,用いる樹脂の欠点を補うために,2種以上の樹脂を混合することが検討されている。たとえば,特許番号第1735655号明細書には,ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂とを混合することが開示され,特開平6-317917号公報には,対称性ジオールより合成されたポリカーボネート樹脂と非対称性ジオールより合成されたポリカーボネート樹脂とを混合することが開示されている。しかし,近年のドラムの小径化およびプロセスの高速化に伴って,電子写真感光体の電気的,化学的および機械的な耐久性のさらなる向上が必要である。
・・・(中略)・・・
【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,実用上充分な電気的,化学的および機械的な性能を有するとともに,これらの性能における耐久性の高い電子写真感光体を提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明は,導電性基体上に,少なくとも,電荷発生材料,電荷輸送材料およびバインダ樹脂を含有する感光層を有する電子写真感光体であって,前記バインダ樹脂は,下記一般式(1)で表される構造単位を有する重合体化合物を含み,前記感光層は,酸化防止剤として,ヒンダードフェノール構造単位およびヒンダードアミン構造単位のうちの少なくとも一方の構造単位を有する化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体である。
【0015】
【化2】

【0016】(式中,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6),R^(7)およびR^(8)は,各々水素原子,ハロゲン原子,置換基を有してもよい炭素数1?6のアルキル基,置換基を有してもよい炭素数4?10の環状炭化水素基または置換基を有してもよいアリール基を表す。)
【0017】本発明に従えば,感光層中に,前記一般式(1)で示される構造単位を有する重合体化合物を含むことによって,構造が非対称であるので,結晶化しにくくて生産効率がよく,嵩張る基がないので,溶液から乾固させる際には密に充填して強固に成膜して膜の機械的強度を向上させることで良好な耐摩耗性を得ることができる。また,電荷輸送材料との相溶性に優れているので,繰返し使用時の表面電位の低下および残留電位の上昇などの電気特性の変動を小さくでき,酸化防止剤として,ヒンダードフェノール構造単位やヒンダードアミン構造単位を有する化合物を含むことによって,電荷輸送材料の酸化を抑制し,長期の繰返し使用に対してハーフトーン(HT)白抜けなどの画像劣化を防ぐことができる。これによって,繰返して像を形成する過程において疲労劣化が少なく,高濃度で鮮明な画像を安定して得ることができ,電気的,化学的および機械的に高い耐久性を有する電子写真感光体を提供することができる。
・・・(中略)・・・
【0019】本発明に従えば,電荷発生層上に積層した電荷輸送層に,前記重合体化合物および前記酸化防止剤を含有させることによって,電気的,化学的および機械的に耐久性の高い層を感光体表面に形成して,実用上充分な性能を有する電子写真感光体を提供することができる。」

(2) 「【0024】
【発明の実施の形態】本発明による電子写真感光体は,導電性支持体の上に感光層を設けた構成であり,種々の実施形態がある。以下,図を参照して詳細に説明する。
・・・(中略)・・・
【0028】図4は,図2の電子写真感光体において中間層8を有する例を模式的に示す断面図である。導電性支持体1と図2と同様の感光層14との間に中間層8を設けた単層型感光体である。
・・・(中略)・・・
【0030】導電性支持体1の材料としては,たとえば,アルミニウム・・・(中略)・・・を用いることができる。・・・(中略)・・・
【0031】導電性支持体1と感光層4または14との間には,中間層8を導入してもよい。中間層8は,無機層または有機層として形成される。・・・(中略)・・・この有機層には,無機顔料として,・・・(中略)・・・酸化チタンなどの金属酸化物などの導電性または半導電性微粒子を含有させてもよい。・・・(中略)・・・
【0032】中間層8に含有されるバインダ樹脂としては,・・・(中略)・・・好ましくはポリアミド樹脂が用いられる。・・・(中略)・・・ポリアミド樹脂のうち,より好ましくはアルコール可溶性ナイロン樹脂を用いることができる。たとえば,6-ナイロン,66-ナイロン,610-ナイロン,11-ナイロンおよび12-ナイロンなどを共重合させた,いわゆる共重合ナイロン・・・(中略)・・・などがある。
・・・(中略)・・・
【0035】電荷発生層5は,光照射により電荷を発生する電荷発生材料2を主成分として含有する。電荷発生材料2としては,・・・(中略)・・・金属フタロシアニン,無金属フタロシアニンおよびハロゲン化無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料・・・(中略)・・・などが挙げられる。
【0036】このうち,特に高い電荷発生能を有する顔料としては,・・・(中略)・・・オキソチタニルフタロシアニン顔料・・・(中略)・・・が挙げられる。これらの顔料を用いることで,高い感度を有する感光体を提供することができる。さらに,オキソチタニルフタロシアニン顔料のうち,CuKα特性X線によるX線回折スペクトルにおいて,ブラッグ角(2θ±0.2°)で27.3°に回折ピークを示す結晶型のものは,さらに高感度であるのでより好ましい。
・・・(中略)・・・
【0039】電荷発生層5は,前述の電荷発生材料2の微粒子またはこれに必要な場合にはバインダ樹脂などを添加したものを適当な有機溶剤に加え,ボールミル,サンドグラインダ,ペイントシェーカおよび超音波分散機などによって粉砕,分散して調製した塗布液を,導電性支持体1または中間層8の上に塗布することにより形成される。塗布方法としては,導電性支持体1がシートの場合にはベーカーアプリケータ,バーコータ,キャスティングおよびスピンコートなどが,ドラムの場合にはスプレイ法,垂直リング法および浸漬塗布法などが用いられる。
【0040】電荷発生層5の膜厚は,0.05?5μmが好ましく,より好ましくは0.1?1μmである。
【0041】電荷輸送層6は,電荷発生層5の上に設けられ,電荷発生材料2で発生した電荷を受け入れ,これを輸送する能力を有する電荷輸送材料3,特定のバインダ樹脂7および特定の酸化防止剤を必須成分として含有する。
【0042】特定のバインダ樹脂7は,下記一般式(1)で示される構造単位を有する重合体化合物であるポリカーボネート樹脂Cである。
【0043】
【化3】

【0044】(式中,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6),R^(7)およびR^(8)は,各々水素原子,ハロゲン原子,置換基を有してもよい炭素数1?6のアルキル基,置換基を有してもよい炭素数4?10の環状炭化水素基または置換基を有してもよいアリール基を表す。)
前記一般式(1)で示される構造単位の具体例を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】ポリカーボネート樹脂Cは,構造が非対称であるので,結晶化しにくく,生産効率がよい。また,嵩張る基がないので,溶液から乾固させる際には密に充填して強固に成膜して膜の機械的強度を向上させて良好な耐摩耗性を得ることができる。さらに,電荷輸送材料3との相溶性に優れているので,電気特性を悪化させることがなく,繰返し使用時の表面電位の低下および残留電位の上昇などの電気特性の変動が小さい。
【0047】ポリカーボネート樹脂Cの分子量としては,感光体の電気特性,繰返し安定性および耐刷性の面から,粘度平均分子量が30,000?70,000であることが好ましい。粘度平均分子量が30,000未満の場合,電荷輸送材料3との相溶性が高く,電気特性の繰返し安定性に優れるが,耐刷性の低下が著しくなる。70,000より大きい場合,耐刷性は向上するが,電荷輸送層用塗布液の粘度が上昇し,電荷輸送材料3との混合に長時間を要したり,塗布膜のムラが発生しやすくなり,生産性が低下する。
【0048】また,ポリカーボネート樹脂Cは,下記一般式(2)で示される構造単位を有する重合体化合物であるポリカーボネート樹脂Dと混合して用いてもよい。
【0049】
【化4】

【0050】(式中,R^(9),R^(10),R^(11),R^(12),R^(13),R^(14),R^(15)およびR^(16)は,各々水素原子,ハロゲン原子,置換基を有してもよい炭素数1?6のアルキル基,置換基を有してもよい炭素数4?10の環状炭化水素基または置換基を有してもよいアリール基を表す。Zは,置換基を有してもよい炭素環または置換基を有してもよい複素環を形成するために必要な原子群である。)
前記一般式(2)で示される構造単位の具体例を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】ポリカーボネート樹脂Dは,ガス透過率が小さいので,オゾンおよびNO_(x)などの感光体特性を劣化させるガスの浸透を防ぐことができる。また,電荷輸送材料3との相溶性に優れ,耐久性にも優れている。
【0053】ポリカーボネート樹脂Dの分子量としては,粘度平均分子量が15,000?35,000であることが好ましい。粘度平均分子量が15,000未満の場合,帯電プロセスにて発生されるオゾンやNO_(x)などによるHT白抜けや黒帯が抑えられて画像安定性は向上するが,耐刷性の低下が著しくなり,35,000より大きい場合,耐刷性は向上するが,初期感度の低下,繰返し使用時の残留電位の上昇および画像安定性の低下が大きくなる。
【0054】ポリカーボネート樹脂CおよびDを混合したものは電荷輸送材料3との相溶性に優れ,耐久性にも優れている。ポリカーボネート樹脂Dを加えることによって,帯電プロセスにて発生されるオゾンおよびNO_(x)などの活性種による画像不良の発生が抑えられる。
【0055】ポリカーボネート樹脂Cとポリカーボネート樹脂Dとの混合比率C/Dとしては,重量比でC/Dが2/8?8/2の範囲であることが好ましい。C/Dが2/8より小さい,すなわちポリカーボネート樹脂Cの比率が低い場合には,所望の機械的強度が得られず,感光体表面に傷が発生しやすくなる。逆に,C/Dが8/2より大きい,すなわちポリカーボネート樹脂Dの比率が低い場合には,オゾンやNO_(x)などによって感光体特性が劣化し,画像にHT白抜けや黒帯が発生しやすくなる。
【0056】前記特定の酸化防止剤は,ヒンダードフェノール構造単位およびヒンダードアミン構造単位のうちの少なくとも一方の構造単位を有する化合物である。その具体例を表3?6に示す。
【0057】
【表3】

・・・(中略)・・・
【0062】これらの化合物の作用機構は明らかではないが,おそらく自己酸化することによって電荷輸送材料3の酸化を抑制し,長期の繰返し使用に対してHT白抜けなどの画像劣化などを防ぐことができるものと考えられる。
【0063】前記ポリカーボネート樹脂Cおよび前記特定の酸化防止剤を用いることによって,繰返して像を形成する過程において疲労劣化が少なく,高濃度で鮮明な画像を安定して得ることができ,電気的,化学的および機械的に高い耐久性を有する電子写真感光体を提供することができる。
・・・(中略)・・・
【0065】電荷輸送材料3としては,電子供与性物質または電子受容性物質が用いられる。・・・(中略)・・・電子受容性物質としては,・・・(中略)・・・,特に,下記一般式(3)で示されるブタジエン系化合物・・・(中略)・・・は,電荷輸送能力が高いので,バインダ樹脂7の比率が高い状態でも高感度を維持でき,より好適である。
【0066】
【化5】

【0067】(式中,Ar^(1),Ar^(2),Ar^(3)およびAr^(4)は,各々置換基を有してもよいアリール基を表し,Ar^(1)?Ar^(4)のうちの少なくとも1つは置換基として置換アミノ基を有するアリール基である。nは0または1を表す。)
・・・(中略)・・・
【0072】前記一般式(3)で示されるブタジエン系化合物の具体例を表7および8に示す。
【0073】
【表7】

・・・(中略)・・・
【0082】電荷輸送層6は,これらの電荷輸送材料3が,前記バインダ樹脂7に結着し,前記酸化防止剤が添加されて形成される。
【0083】電荷輸送層6において,前記電荷輸送材料3(A)と前記バインダ樹脂7(B)との比率A/Bは,重量比で,一般的に用いられる10/5?10/25程度とするが,耐摩耗性向上の観点からは10/15?10/24が好適である。A/Bが10/15より大きい,すなわち電荷輸送材料3の比率が高い場合には,光感度特性は良好であるが,帯電特性および膜の機械的強度が低下したり,帯電プロセスにて発生されるオゾンやNO_(x)などによってHT白抜けや黒帯が発生し,画像安定性が低下する。A/Bが10/24より小さい,すなわちバインダ樹脂7の比率が高い場合には,逆に,帯電特性,機械的強度および画像安定性は良好であるが,光感度特性が著しく低下する。
【0084】電荷輸送層6において,表3?6に示した構造式(I)?(V)で示されるヒンダードフェノール構造単位を有する化合物Eと前記電荷輸送材料3(A)との比率E/Aとしては,重量比で2.5/97.5?20/80の範囲であることが好ましい。E/Aが2.5/97.5より小さく,化合物Eの添加量が少ないと画像劣化の防止に対して効果がなく,逆にE/Aが20/80より大きく,化合物Eの添加量が多いと繰返し使用時の残留電位の上昇が大きくなり,実際に使用する上で問題となる。
・・・(中略)・・・
【0088】電荷輸送層6は,前述の電荷輸送材料3,バインダ樹脂7,酸化防止剤および添加剤を適当な溶剤に溶解または分散させて塗布液を調製し,該塗布液を前述の中間層8および電荷発生層5と同様の方法を用いて,電荷発生層5の上に塗布することにより形成される。溶剤としては,・・・(中略)・・・特に好ましい溶剤は,テトラヒドロフランである。
【0089】電荷輸送層用の塗布液は,電荷輸送材料3,バインダ樹脂7,酸化防止剤および添加剤を計量し,所定量の前記溶剤に同時に溶解させる一般的な方法によって調製してもよいが,バインダ樹脂7を溶剤中に溶解させた後に電荷輸送材料3,酸化防止剤および添加剤を投入して溶解させる方法が特に好ましい。この方法によれば,バインダ樹脂7への電荷輸送材料3の分子分散性が向上し,膜中での潜在的かつ局所的な電荷輸送材料3の結晶化が抑制されることにより,初期感度の向上,繰返し使用時の電位安定性,良好な画像特性などが付与される。
【0090】電荷輸送層6の膜厚は,約10?50μmが好ましく,より好ましくは約10?35μmである。
【0091】単層型感光体の場合には,前述の電荷発生材料2,電荷輸送材料3,バインダ樹脂7および酸化防止剤を,前述の適当な溶剤に溶解または分散させて塗布液を調製し,該塗布液を前述の中間層8などと同様の方法を用いて塗布することにより単層型の感光層14を形成する。前記電荷輸送材料3とバインダ樹脂7との比率,前記特定の酸化防止剤と電荷輸送材料3との比率および感光層14の膜厚は,前述の積層型感光体の場合と同様である。なお,感光層14にも感光層4と同様の添加剤を加えることができる。」

(3) 「【0113】(実施例19)酸化チタン(石原産業社製TTO55A)7重量部と共重合ナイロン樹脂(東レ社製CM8000)13重量部とを,メチルアルコール159重量部と1,3-ジオキソラン106重量部との混合溶剤に加え,ペイントシェーカにて8時間分散処理し,中間層用塗布液を調製した。調製した中間層用塗布液を塗布槽に満たし,導電性支持体として直径30mm,全長322.3mmのアルミニウム製のドラム状支持体を浸漬し,引き上げて自然乾燥して膜厚1μmの中間層を形成した。
【0114】次いで,電荷発生材料としてオキソチタニルフタロシアニン8重量部をテトラヒドロフラン100重量部に混合し,ペイントシェーカにて分散処理した後,表7に示した構造式(3-2)で示されるブタジエン化合物(アナン社製T405)100重量部と,表1に示した構造式(1-1)で示される構造単位を有する粘度平均分子量50,000のポリカーボネート樹脂80重量部と,表2に示した構造式(2-1)で示される構造単位を有する粘度平均分子量21,500のポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学社製PCZ200)80重量部と,表3に示した構造式(I)の2,6-ビス-tert-ブチル-4-メチルフェノール(住友化学社製スミライザーBHT)5重量部と,テトラヒドロフラン1170重量部とを混合し,攪拌して感光層用塗布液を調製した。調製した感光層用塗布液を前述の中間層と同様の方法で先に設けた中間層上に塗布した後,110℃で1時間乾燥して膜厚20μmの感光層を形成した。
【0115】このようにして図4に示した層構成を有する単層型の電子写真感光体を作製した。
・・・(中略)・・・
【0119】(評価)以上の実施例1?19および比較例1?3で作製した電子写真感光体を,評価用複写機として市販の複写機(シャープ社製AR-255FP)に搭載し,ハーフトーン画像を確認して,初期の画像特性を評価した。
【0120】また,評価用複写機の現像部位から現像槽を取出し,代わりに表面電位計(Trek社製Model344)をセットし,白ベタ原稿複写時の表面電位V0,ハーフトーン原稿複写時の表面電位VH,黒ベタ原稿複写時の表面電位VLを測定し,電気特性を評価した。なお,実施例19の電子写真感光体については,帯電および転写の極性を正帯電に改造して測定した。
【0121】さらに,A4用紙3万枚のコピーを行った後,初期と同様にハーフトーン画像の確認および表面電位の測定を行い,繰返し使用による変化から耐久性を評価した。また,繰返し使用後の感光層の膜厚を測定して摩耗量を求めた。これらの結果を表16に示す。
【0122】
【表16】

【0123】実施例1?19と比較例1?3とから,実施例の電子写真感光体は,感光層に,前記一般式(1)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂Cと,ヒンダードフェノール構造単位を有する化合物とを含有するので,比較例に比べ,画像特性および電気特性が良好であることが判った。具体的には,ポリカーボネート樹脂Cを用いていない比較例1の感光体では,ブレードや紙などとの摩擦によって感光体表面に傷が多発し,繰返し使用すると,画像特性が悪化することが判った。また,前記一般式(2)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂Dのみを用い,ポリカーボネート樹脂Cを用いていない比較例2の感光体は,低感度で,画像を調整しても良好な画像を得ることができなかった。また,ヒンダードフェノール構造単位やヒンダードアミン構造単位を有する化合物を添加していない比較例3の感光体では,オゾンやNO_(x)などの影響が大きく,強い画像ムラが発生した。」

(4) 「【図面の簡単な説明】
・・・(中略)・・・
【図4】図2の電子写真感光体において中間層8を有する例を模式的に示す断面図である。
・・・(中略)・・・
【図4】



2 引用文献1に記載された発明
前記1(1)ないし(4)を含む引用文献1の全記載から,引用文献1に,実施例19に対応する発明として,次の発明が記載されていると認められる。

「石原産業社製の酸化チタンTTO55A:7重量部と,東レ社製の共重合ナイロン樹脂CM8000:13重量部とを,メチルアルコール:159重量部と1,3-ジオキソラン:106重量部との混合溶剤に加え,ペイントシェーカにて8時間分散処理して,中間層用塗布液を調製し,当該中間層用塗布液を塗布槽に満たし,導電性支持体として直径30mm,全長322.3mmのアルミニウム製のドラム状支持体を浸漬し,引き上げて自然乾燥して膜厚1μmの中間層を形成し,次いで,電荷発生材料としてオキソチタニルフタロシアニン:8重量部をテトラヒドロフラン:100重量部に混合し,ペイントシェーカにて分散処理した後,電荷輸送材料として電子受容性物質である下記構造式(3-2)で示されるアナン社製のブタジエン化合物T405:100重量部と,バインダー樹脂として下記構造式(1-1)で示される構造単位を有する粘度平均分子量50,000のポリカーボネート樹脂:80重量部及び下記構造式(2-1)で示される構造単位を有する三菱ガス化学社製の粘度平均分子量21,500のポリカーボネート樹脂PCZ200:80重量部と,酸化防止剤として下記構造式(I)の2,6-ビス-tert-ブチル-4-メチルフェノールである住友化学社製のスミライザーBHT:5重量部と,溶剤としてテトラヒドロフラン:1170重量部とを混合し,攪拌して感光層用塗布液を調製し,当該感光層用塗布液を前記中間層と同様の方法で先に設けた中間層上に塗布した後,110℃で1時間乾燥して膜厚20μmの感光層を形成することにより得られる単層型の電子写真感光体であって,
シャープ社製の複写機AR-255FPに搭載することが可能な,
単層型の電子写真感光体。

【構造式(3-2)】

【構造式(1-1)】

【構造式(2-1)】

【構造式(I)】

」(以下,「引用発明」という。)

第6 当審拒絶理由についての判断
1 当審拒絶理由1について
当審拒絶理由1は,平成29年4月18日提出の手続補正書による補正により,本件発明1において,結着樹脂が,願書に最初に添付した明細書に記載された「実施例7」で用いている「R4」又は「実施例12」で用いている「R9」である旨の特定がされたことによって,解消した。

2 当審拒絶理由2について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と引用発明の対比
(ア) 引用発明の「ドラム状支持体」,「『電荷発生材料』としての『オキソチタニルフタロシアニン』」,「『電荷輸送材料』としての『構造式(3-2)で示されるアナン社製のブタジエン化合物T405』」,「『バインダー樹脂』としての『構造式(1-1)で示される構造単位を有する粘度平均分子量50,000のポリカーボネート樹脂』及び『構造式(2-1)で示される構造単位を有する三菱ガス化学社製の粘度平均分子量21,500のポリカーボネート樹脂PCZ200』」,「感光層」,「電子写真感光体」及び「『電子受容性物質』である『構造式(3-2)で示されるアナン社製のブタジエン化合物T405』」は,本件発明1の「支持基体」,「電荷発生材料」,「電荷輸送材料」,「結着樹脂」,「感光層」,「電子写真感光体」及び「正孔輸送材」にそれぞれ相当する。

(イ) 引用発明は,「ドラム状支持体」(本件発明1の「支持基体」に相当。以下,「ア 本件発明1と引用発明の対比」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に付した()内の文言は,当該引用発明の構成に相当する本件発明1の発明特定事項を表す。)上に中間層が形成され,当該中間層上に「感光層」(感光層)が形成された「単層型の電子写真感光体」であるところ,本件出願の明細書の【0017】の「本願発明の電子写真感光体は,図1に示すような,感光層支持体11上に単層型の感光層を備えるいわゆる単層型電子写真感光体である。・・・(中略)・・・ここで,単層型電子写真感光体20は,感光層支持体11と感光層21とを備えていれば,特に限定されない。具体的には,・・・(中略)・・・図1(b)に示すように単層型電子写真感光体20’は,感光層支持体11と感光層21との間に中間層14を備えていてもよい。」との記載に照らせば,引用発明の「単層型の電子写真感光体」は,本件発明1の「単層型の感光層を備える電子写真感光体」に相当する。

(ウ) 引用発明の「感光層」(感光層)中の「『電荷発生材料』としての『オキソチタニルフタロシアニン』」(電荷発生材料)は「フタロシアニン系顔料」に該当する化合物であるから,引用発明は,本件発明1の「電荷発生材料がフタロシアニン系顔料」であるという発明特定事項に相当する構成を具備している。

(エ) 引用発明の「電荷輸送材料」(電荷輸送材料)は,「電子受容性物質」(正孔輸送材)である「構造式(3-2)で示されるアナン社製のブタジエン化合物T405」のみからなるところ,「電荷輸送材料が正孔輸送材を含む」点で,本件発明1と共通する。
また,引用発明の感光層用塗布液において,「『電荷輸送材料』としての『構造式(3-2)で示されるアナン社製のブタジエン化合物T405』」(電荷輸送材料)は,「『バインダー樹脂』としての『構造式(1-1)で示される構造単位を有する粘度平均分子量50,000のポリカーボネート樹脂』及び『構造式(2-1)で示される構造単位を有する三菱ガス化学社製の粘度平均分子量21,500のポリカーボネート樹脂PCZ200』」(結着樹脂)の合計160(=80+80)重量部に対して,100重量部配合されているから,本件発明1の「結着樹脂100質量部に対して40?90質量部である」という電荷輸送材料の総量についての要件を満足している。
したがって,本件発明1と引用発明は,「感光層中における電荷輸送材料は正孔輸送材を含み,その総量が結着樹脂100質量部に対して40?90質量部である」点で共通する。

(オ) 引用発明の「バインダー樹脂」(結着樹脂)のうち「構造式(2-1)で示される構造単位を有する三菱ガス化学社製の粘度平均分子量21,500のポリカーボネート樹脂PCZ200」は,本件発明1の「R4」における「BisZ単位からなるポリカーボネート樹脂」及び「R9」における「BP単位からなるポリカーボネート樹脂」に相当し,「構造式(1-1)で示される構造単位を有する粘度平均分子量50,000のポリカーボネート樹脂」は,本件発明1の「R4」における「BisE単位からなるポリカーボネート樹脂」及び「R9」における「以下の構造単位からなるポリカーボネート樹脂」(以下,便宜上「CF_(3)基置換BisE単位からなるポリカーボネート樹脂」という。)と,BisZ単位からなるポリカーボネート樹脂とは異なる「ポリカーボネート樹脂」である点で共通するから,本件発明1と引用発明は,「結着樹脂がBisZ単位からなるポリカーボネート樹脂と他のポリカーボネート樹脂の混合物」である点で共通する。

(カ) 引用発明を搭載可能な「シャープ社製の複写機AR-255FP」が,クリーニングブレードを用いるものであって,「ローラークリーニングシステム」を用いるものでなく,かつ,「乾式現像」方式の複写機であることが,当業者に自明であるから,引用発明は,「ローラークリーニングシステムを用いない乾式現像に適用する」という本件発明1の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(キ) 前記(ア)ないし(カ)に照らせば,本件発明1と引用発明は,
「支持基体上に少なくとも電荷発生材料,電荷輸送材料,及び結着樹脂からなる単層型の感光層を備える電子写真感光体であって,前記電荷発生材料がフタロシアニン系顔料であり,前記感光層中における電荷輸送材料は正孔輸送材を含み,その総量が前記結着樹脂100質量部に対して40?90質量部であるとともに,前記結着樹脂がBisZ単位からなるポリカーボネート樹脂と他のポリカーボネート樹脂の混合物であり,
ローラークリーニングシステムを用いない乾式現像に適用する電子写真感光体。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本件発明1では,感光層中における電荷輸送材料が「正孔輸送材」と電子輸送材からなるのに対して,
引用発明では,感光層中における電荷輸送材料が「電子受容性物質」(正孔輸送材)のみからなる点。

相違点2:
本件発明1の「結着樹脂」が,BisE単位からなるポリカーボネート樹脂とBisZ単位からなるポリカーボネート樹脂との混合物であり,混合比(質量比)がBisE/BisZ=60/40であるR4であるか,もしくは,CF_(3)基置換BisE単位からなるポリカーボネート樹脂とBisZ単位からなるポリカーボネート樹脂との混合物であり,混合比(質量比)がCF_(3)基置換BisE/BisZ=80/20であるR9であるのに対して,
引用発明の「バインダー樹脂」は,R4でもR9でもない点。

相違点の判断
事案に鑑み,まず相違点2の容易想到性から判断する。
引用文献1の【0013】,【0014】等の記載から明らかなように,引用発明は,実用上充分な電気的,化学的および機械的な性能を有するとともに,これらの性能における耐久性の高い電子写真感光体を提供することを解決課題とし,感光層を形成する材料について,一般式(1)で表される構造単位を有するバインダー樹脂と,ヒンダードフェノール構造単位およびヒンダードアミン構造単位のうちの少なくとも一方の構造単位を有する酸化防止剤とを,必須の成分とすることによって,前記課題を解決できるという技術思想に基づくものであって,一般式(1)で表される構造単位として,構造式(1-1)で示される構造単位を有する粘度平均分子量50,000のポリカーボネート樹脂を用い,ヒンダードフェノール構造単位として酸化防止剤として,構造式(I)の2,6-ビス-tert-ブチル-4-メチルフェノールである住友化学社製のスミライザーBHTを選択したものである。
しかるに,本件発明1のR4及びR9のいずれも,引用文献1に記載された「一般式(1)で表される構造単位」を有する樹脂ではないから,引用発明においてバインダー樹脂としてR4又はR9を用いることで,引用発明が解決しようとする課題を解決できなくなってしまうことが明らかである。
したがって,引用発明において,相違点2に係る本件発明1の発明特定事項に相当する構成を採用することには,阻害要因が存在する。
よって,相違点1について検討するまでもなく,本件発明1は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
本件出願の請求項2は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件発明2は本件発明1の発明特定事項を全て含み,これに他の限定事項を付加したものに該当するところ,本件発明1が,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件発明2も,本件発明1と同様の理由で,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

3 小括
前記1及び2のとおりであるから,当審拒絶理由によって,本件出願を拒絶することはできない。


第7 原査定についての判断
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献5ないし10のいずれにも,単層型の感光層を形成するための結着樹脂として,BisE単位からなるポリカーボネート樹脂とBisZ単位からなるポリカーボネート樹脂との混合物であり,混合比(質量比)がBisE/BisZ=60/40であるR4か,もしくは,CF_(3)基置換BisE単位からなるポリカーボネート樹脂とBisZ単位からなるポリカーボネート樹脂との混合物であり,混合比(質量比)がCF_(3)基置換BisE/BisZ=80/20であるR9を用いることは,記載も示唆もされていない。
そして,本件発明1及び2は,当該発明特定事項を具備することにより,感光層の膜厚が薄い場合でも黒ポチやメモリー効果による画像不良の発生を抑制できるという本件出願の発明の詳細な説明に記載された効果を奏するものと認められる。
したがって,原査定を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-05-22 
出願番号 特願2012-263790(P2012-263790)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G03G)
P 1 8・ 55- WY (G03G)
P 1 8・ 121- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石附 直弥  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 鉄 豊郎
清水 康司
発明の名称 電子写真感光体及び画像形成装置  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  
代理人 岩池 満  

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