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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1328447
審判番号 不服2016-8433  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-08 
確定日 2017-05-18 
事件の表示 特願2011-285014「コモンモードノイズフィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 8日出願公開、特開2013-135109〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年12月27日の出願であって、平成26年11月14日付けで手続補正がなされ、平成27年9月30日付けで拒絶理由通知がされ、同年11月20日付けで手続補正がなされたが、平成28年4月22日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年6月8日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成28年6月8日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成28年6月8日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
平成28年6月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書について補正するものであって、請求項1については、本件補正前(すなわち、平成27年11月20日付け手続補正による補正後)に、

「 【請求項1】
複数の絶縁体層と、前記複数の絶縁体層を積層することによって設けられた積層体と、前記積層体の外部に形成された第1?第4の外部電極と、前記積層体の内部に形成された第1、第2の渦巻状導体、第1?第4の引出導体と、前記第1の渦巻状導体の両端部と第1、第2の引出導体とをそれぞれ第1、第2のビア電極を介して接続して形成された第1のコイルと、前記第2の渦巻状導体の両端部と第3、第4の引出導体とをそれぞれ第3、第4のビア電極を介して接続して形成された第2のコイルとを備え、前記第1の渦巻状導体と前記第2の渦巻状導体とを磁気結合させ、前記第1?第4の外部電極をそれぞれ前記第1?第4の引出導体と接続し、かつ前記第1、第2の渦巻状導体と前記第1?第4の引出導体とは異なる絶縁体層に形成するとともに、前記第1、第2の渦巻状導体の厚みより前記第1?第4の引出導体の厚みを厚くし、さらに、前記第1の渦巻状導体の両端部と前記第2の渦巻状導体の両端部を上面視にて同じ位置とし、前記第1の渦巻状導体と前記第2の渦巻状導体とを上面視にて重なるように対向させかつ同じ形状にしたコモンモードノイズフィルタ。」

とあったところを、

「 【請求項1】
複数の絶縁体層と、前記複数の絶縁体層を積層することによって設けられた積層体と、前記積層体の外部に形成された第1?第4の外部電極と、前記積層体の内部に形成された第1、第2の渦巻状導体、第1?第4の引出導体と、前記第1の渦巻状導体の両端部と第1、第2の引出導体とをそれぞれ第1、第2のビア電極を介して接続して形成された第1のコイルと、前記第2の渦巻状導体の両端部と第3、第4の引出導体とをそれぞれ第3、第4のビア電極を介して接続して形成された第2のコイルとを備え、前記第1の渦巻状導体と前記第2の渦巻状導体とを磁気結合させ、前記第1?第4の外部電極をそれぞれ前記第1?第4の引出導体と接続し、かつ前記第1、第2の渦巻状導体と前記第1?第4の引出導体とは異なる絶縁体層に形成するとともに、前記第1、第2の渦巻状導体の厚みより前記第1?第4の引出導体の厚みを厚くし、さらに、前記第1の渦巻状導体の両端部と前記第2の渦巻状導体の両端部を上面視にて同じ位置とし、前記第1の渦巻状導体と前記第2の渦巻状導体とを上面視にて重なるように対向させかつ同じ形状にし、前記第1?第4の引出導体をガラスセラミックで構成された前記絶縁体層で挟むようにしたコモンモードノイズフィルタ。」

とするものである。なお、下線は請求人が補正箇所を明示するために付したものである。

2.新規事項の有無、特別な技術的特徴の変更の有無及び補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものと認められ、特許法第17条の2第3項(新規事項)の規定に適合している。
また、特許法17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反するものでもない。

補正された請求項1に係る発明は、補正前の請求項1の「第1?第4の引出導体」について、「ガラスセラミックで構成された絶縁体層で挟むようにした」との限定を付加したものであり、特許請求の範囲を減縮するものである。

よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項および第4項の規定に適合するものであり、また、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下検討する。

3.引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された文献である特開2006-319009号公報(平成18年11月24日公開。以下、「引用例1」という。)には、「コモンモードノイズフィルタ」に関して図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【0001】
本発明は、各種電子機器のノイズ対策に用いるコモンモードノイズフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のコモンモードノイズフィルタは、コモンモードノイズを除去するためにコモンモードのインピーダンスを大きくし、同時に信号波形を歪ませないためにディファレンシャルモードのインピーダンスをできるだけ小さくすることが望ましく、そのために図11に示すような構成を有していた。
【0003】
図11において、110A,110Bは磁性体基板であり、120A?120Dは磁性体以外の絶縁体層である。そして、前記絶縁体層120A?120Dに二つのスパイラル状のコイルパターン130,140,150,160が形成されている。このような構成によって、二つのコイルが磁性体以外の絶縁体層120A?120Dの内部に埋没され、前記絶縁体層を磁性体基板110A,110Bで挟む構造を有するコモンモードノイズフィルタとしている。
【0004】
そして、前記二つのコイルのそれぞれの端子は外部端面電極に電気的に接続された構成となっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002-203718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の構成では、部品サイズの小型化による外部端面電極の占有面積の減少による接着強度の低下と、幅広い携帯型電子機器へ搭載するための部品実装強度の向上に対する要望に対しては外部端面電極の単位面積あたりの接着強度が不十分であるという問題点を有していた。
【0006】
本発明は前記従来の問題点を解決するもので、外部端面電極と積層構造体との接着強度の大きなコモンモードノイズフィルタを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明は、非磁性層と、前記非磁性層を挟み込んだ磁性層と、前記非磁性層に埋設した二つの対向する平面コイルと、前記平面コイルと電気的に接続される四つの外部端面電極を備え、前記磁性層が酸化物磁性体層とガラス成分を含む絶縁体層の積層構造とするものである。」

イ.「【0010】
図1は本実施の形態1におけるコモンモードノイズフィルタの斜視図であり、図2はその積層構造を説明するための分解図であり、図3は図1のA-A部における断面図である。さらに、図4は平面コイルを他の位置に設けた例を示す断面図である。また、図5は平行二重螺旋状の平面コイルを設けたコモンモードコイルを説明するための分解図であり、図6はその断面図である。さらに、図7は平行二重螺旋状の平面コイルを他の位置に設けた例を示す断面図である。
【0011】
図1?図3において、本実施の形態1におけるコモンモードノイズフィルタは、ガラスセラミック材料などによる非磁性層20と、この非磁性層20を挟み込むように設けた磁性層21a,21bと、前記非磁性層20に埋設して対向配置した平面コイル22a,22bと、この平面コイル22a,22bのそれぞれの端部に接続した四つの外部端面電極25を形成しており、且つ前記磁性層21a,21bは酸化物磁性体層23とガラス成分を含む絶縁体層24の積層構造を有していることを特徴としている。ここで、図1?図3ではガラス成分を含む絶縁体層23を4層としているが、コモンモードノイズフィルタの形状に応じて増減することは可能である。このような構成を有するコモンモードノイズフィルタは、以下の製造プロセスによって作製することができる。
【0012】
まず始めに、非磁性層20の原材料となるZn-Cuフェライト粉末を、溶剤やバインダ成分と混合してセラミックスラリを作製し、得られたセラミックスラリをドクターブレード法などにより25μm程度の所定の厚みになるようにグリーンシート成形して非磁性層20に用いるセラミックグリーンシートを作製する。
【0013】
次に、前記と同様の方法によって、920℃以下で焼成可能な無ホウケイ酸ガラス(SiO_(2)-CaO-ZnO-MgO系ガラス)に9wt%のNi-Zn-Cuフェライトを混合した粉末から、磁性層21a,21b中のガラス成分を含む絶縁体層24に用いる50μm程度の厚みのセラミックグリーンシートを作製する。
【0014】
また、Ni-Zn-Cuフェライト酸化物磁性体からなる磁性粉末を用いて、磁性層21a,21b中の酸化物磁性体層23に用いる100μm程度の厚みのセラミックグリーンシートを作製する。
【0015】
その後、これらのセラミックグリーンシートに所定のコイルパターンになるように平面コイル導体と、層間の電気的接続のためのビア電極を形成し、図2の積層構成となるように順次、それぞれのセラミックグリーンシートを積層し、所定の温度で焼成することによって所定の積層焼成体を作製することができる。
【0016】
次に、非磁性層20の内部に対向配置して埋設した平面コイルの22a,22bの構成について説明する。図2において、引出電極22dを形成した酸化物磁性体層23を磁性層21bの最上層に積層配置し、その上に平面コイル22bを形成したコイル形成層20aを積層する。このとき、引出電極22dと平面コイル22bはビア電極によって接続する。さらに、平面コイル22aを形成したコイル形成層20bをコイル形成層20aの上に積層し、引出電極22cを形成したコイル形成層20cをコイル形成層20bの上に積層する。このとき、引出電極22cと平面コイル22aはビア電極によって接続する。
【0017】
次に、酸化物磁性体層23とガラス成分を含む絶縁体層24を順次上下に積層する。
【0018】
以上のような構成を有するグリーンシート積層体は、平面コイル導体を形成する電極材料の融点以下で一体焼成することによって、二つの対向する平面コイル22a,22bを埋設した積層焼成体とすることができる。
【0019】
このようにして得られた積層焼成体の外部側面に表出した引出電極22c,22dの端面に電気的に接続するように、例えばAgペーストを積層焼成体の端面に塗布形成してAgメタライズ層を形成することによって外部端面電極25を形成する下地電極層を形成し、さらに、このAgメタライズ層からなる下地電極層の上にNiめっきによってNi層を形成し、さらにそのNi層の上にSnめっき層を積層形成して外部端面電極25を形成している。この外部端面電極25の構成はセラミック電子部品の端子電極に用いる通常の方法によって作製することができる。
【0020】
図3に示すように、このようにして得られたコモンモードノイズフィルタの断面は二つの平面コイル22a,22bを非磁性層20に埋設するように形成するとともに、平面コイル22aと平面コイル22bを対向するように配置し、引出電極22c,22d(図示せず)を介して前記平面コイル22a,22bと電気的に接続される外部端面電極25を備え、さらに磁性層21a,21bは酸化物磁性体層23とガラス成分を含む絶縁体層24の積層構造を形成している。このような構成とすることによって外部端面電極25とガラス成分を含む絶縁体層24とが強固に接合することによって接着強度に優れるとともに、酸化物磁性体層23には磁気特性に優れた磁性材料を用いることによって、二つの平面コイル22a,22b間の磁気的結合に優れたコモンモードノイズフィルタを実現することができる。」

ウ.「【0035】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2におけるコモンモードノイズフィルタについて説明する。
【0036】
本実施の形態2における本発明のコモンモードノイズフィルタの基本構成は図1および図2に示したコモンモードノイズフィルタとほぼ同様の構成を有しており、実施の形態1と同様の構成については説明を省略する。
【0037】
特に、本実施の形態2におけるコモンモードノイズフィルタが実施の形態1の構成と大きく異なる点は、非磁性層20にガラス成分を含ませている点である。
【0038】
具体的には、920℃以下で焼成可能であり、線膨張係数が約100×10^(-7)/℃である水晶をフィラとした無ホウケイ酸ガラス粉末(SiO_(2)-CaO-ZnO-MgO系ガラス)を非磁性層20の出発材料に用いた50μm程度のセラミックグリーンシートを作製し、これを積層して非磁性層20を形成した(実施例2)。これらの試料について実施の形態1と同様の評価方法によって評価した外部端面電極25の接着強度の評価結果を(表2)に示す。
【0039】
【表2】
・・・(中略)・・・
【0040】
(表2)の結果より、ガラス材料を含んだ絶縁体材料を非磁性層20に用いることにより、非磁性層20と外部端面電極25との接着強度が大きくなり、接着強度のばらつきも小さくなることによって、さらに実装信頼性の優れたコモンモードノイズフィルタを実現することができる。
【0041】
加えて、前記絶縁材料を用いた非磁性層20を構成することによって非磁性層20の誘電率が低下し、高周波帯域まで利用可能なコモンモードノイズフィルタを実現できるという作用も有している。
【0042】
なお、920℃以下で焼成可能であり、かつ線膨張係数が約80?110×10^(-7)/℃であればガラス-水晶系、ガラス-アルミナ系、ガラス-フォルステライト系誘電体のようなガラスセラミック材料等を非磁性層20に用いることによって、非磁性層20の誘電率を低く設計できることから高周波帯域まで優れた電気特性を有するコモンモードノイズフィルタを実現することができる。」

上記アないしウの記載から、引用例1には以下の事項が記載されている。

・上記アによれば、各種電子機器のノイズ対策に用いるコモンモードノイズフィルタに関するものであり、外部端面電極と積層構造体との接着強度の大きなコモンモードノイズフィルタである。

・上記イ及び図2によれば、コモンモードノイズフィルタは、ガラスセラミック材料などによる非磁性層20と、この非磁性層20を挟み込むように設けた磁性層21a,21bと、前記非磁性層20に埋設して対向配置した平面コイル22a,22bと、この平面コイル22a,22bのそれぞれの端部に接続した四つの外部端面電極25を形成しており、且つ前記磁性層21a,21bは酸化物磁性体層23とガラス成分を含む絶縁体層24の積層構造を有するものである。また、コモンモードノイズフィルタは、平面コイル22aと平面コイル22bを対向するように配置し、引出電極22c,22dを介して前記平面コイル22a,22bと電気的に接続される外部端面電極25を備えているものである。さらに、コモンモードノイズフィルタは、引出電極22dを形成した酸化物磁性体層23を磁性層21bの最上層に積層配置し、その上に平面コイル22bを形成したコイル形成層20aを積層し、引出電極22dと平面コイル22bはビア電極によって接続され、平面コイル22aを形成したコイル形成層20bをコイル形成層20aの上に積層し、引出電極22cを形成したコイル形成層20cをコイル形成層20bの上に積層し、引出電極22cと平面コイル22aはビア電極によって接続されるものである。

・上記ウによれば、ガラスセラミック材料を非磁性層20に用いたコモンモードノイズフィルタである。

以上の点を踏まえて、上記記載事項及び図面を総合的に勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「ガラスセラミック材料による非磁性層20と、この非磁性層20を挟み込むように設けた磁性層21a,21bと、非磁性層20に埋設して対向配置した平面コイル22a,22bと、引出電極22c,22dと、引出電極22c,22dを介して平面コイル22a,22bと電気的に接続される四つの外部端面電極25を備え、引出電極22cと平面コイル22aはビア電極によって接続され、引出電極22dと平面コイル22bはビア電極によって接続されており、磁性層21a,21bは酸化物磁性体層23とガラス成分を含む絶縁体層24の積層構造を有するコモンモードノイズフィルタ。」

(2)引用例2
原査定の拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された文献である特開2002-343640号公報(平成14年11月29日公開。以下、「引用例2」という。)には、「積層セラミック型電子部品」に関して図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

カ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、積層チップ型インダクタ、積層チップ型コンデンサ等の積層セラミック型電子部品に係り、特に複数層の内部電極を形成した絶縁性セラミック層を積層し、前記複数の内部電極で回路素子を構成し、その引出電極を外部電極と接続した構造の積層セラミック型電子部品に関する。」

キ.「【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の積層セラミック型電子部品は、複数層の内部電極を形成した絶縁性セラミック層を積層し、前記複数の内部電極で回路素子を構成し、その引出電極の導体層を前記絶縁性セラミック層の端縁まで引き出し、前記絶縁性セラミック層の積層体の端面に形成した外部電極と接続した積層セラミック型電子部品において、前記外部電極と接続する引出電極の厚さを、外部電極と接続しない内部電極の厚さに対して大きくしたことを特徴とする。
【0009】本発明によれば、引出電極の導体層の厚さをその他の内部電極を構成する導体層よりも厚くすることを特徴としたものである。これによってセラミックグリーンシートの積層体をダイシングしたチップの焼成の段階で、引出電極の導体用ペースト中の銀粒子が蒸発したり収縮したりして、導体層が積層体内部に引き込まれることを緩和することができる。従って、焼成したチップの端面に外部電極を形成するに際して、外部電極と引出電極(内部電極)との接続を確実なものとすることができる。」

上記カ及びキの記載から、引用例2には以下の事項が記載されている。

・上記カによれば、複数層の内部電極を形成した絶縁性セラミック層を積層し、前記複数の内部電極で回路素子を構成し、その引出電極を外部電極と接続した構造の積層セラミック型電子部品である。

・上記キによれば、複数層の内部電極を形成した絶縁性セラミック層を積層し、複数の内部電極で回路素子を構成し、その引出電極の導体層を絶縁性セラミック層の端縁まで引き出し、絶縁性セラミック層の積層体の端面に形成した外部電極と接続した積層セラミック型電子部品において、外部電極と引出電極との接続を確実なものとするために、外部電極と接続する引出電極の厚さを、外部電極と接続しない内部電極の厚さに対して大きくするものである。

以上の点を踏まえて、上記記載事項及び図面を総合的に勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。

「複数層の内部電極を形成した絶縁性セラミック層を積層し、前記複数の内部電極で回路素子を構成し、その引出電極の導体層を絶縁性セラミック層の端縁まで引き出し、絶縁性セラミック層の積層体の端面に形成した外部電極と接続した積層セラミック型電子部品において、外部電極と引出電極との接続を確実なものとするために、外部電極と接続する引出電極の厚さを、外部電極と接続しない内部電極の厚さに対して大きく」すること。

4.対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「非磁性層20」は、ガラスセラミック材料を用いた絶縁材料で構成されており、「絶縁体層」といえる。また、引用発明の「磁性層21a,21b」のうち、「ガラス成分を含む絶縁体層24」は「絶縁体層」である。
したがって、引用発明の「非磁性層20」及び「磁性層21a,21bの一部」は、本願補正発明の「複数の絶縁体層」に相当する。そして、引用発明の「非磁性層20」及び「磁性層21a,21b」は、非磁性層20を挟み込むように設けた磁性層21a,21bであることから、本願補正発明と同様に、「複数の絶縁体層を積層することによって設けられた積層体」を構成しているといえる。

b.引用発明の「四つの外部端面電極25」は、本願補正発明の「第1?第4の外部電極」に相当する。そして、引用例1の図2を鑑みれば、「四つの外部端面電極25」は、本願補正発明と同様に、「積層体の外部に形成され」ているといえる。

c.引用発明の「平面コイル22a,22b」、「引出電極22c,22d」は、それぞれ、本願補正発明の「第1、第2の渦巻状導体」、「第1?第4の引出導体」に相当する。そして、引用発明の「平面コイル22a,22b」は、非磁性層20に埋設して対向配置されているので、本願補正発明と同様に、「前記積層体の内部に形成された」ものであるといえる。さらに、引用例1の図2を鑑みれば、引用発明の「引出電極22c,22d」も、本願補正発明と同様に、「前記積層体の内部に形成された」ものであるといえる。
したがって、引用発明の「非磁性層20に埋設して対向配置した平面コイル22a,22bと、引出電極22c,22d」は、本願補正発明の「前記積層体の内部に形成された第1、第2の渦巻状導体、第1?第4の引出導体」に相当する。

d.引用発明の「ビア電極」は、本願補正発明の「第1、第2のビア電極」に相当する。そして、引用発明の「平面コイル22a,22b」及び「引出電極22c,22d」は、引出電極22cと平面コイル22aがビア電極によって接続され、引出電極22dと平面コイル22bがビア電極によって接続されていることを鑑みれば、本願補正発明と同様に、引用発明は「第1のコイル」、「第2のコイル」を有しているといえる。また、引用発明の「平面コイル22a,22b」は、対向して配置されていることから、二つの平面コイル22a,22b間に磁気的結合を有することは明らかであり、本願補正発明と同様に、「第1の渦巻状導体と第2の渦巻状導体とを磁気結合させ」ているものであるといえる。そして、上記a.及び引用例1の図2を鑑みれば、引用発明の「平面コイル22a,22b」及び「引出電極22c,22d」は、本願補正発明と同様に、「第1、第2の渦巻状導体と第1?第4の引出導体とは異なる層に形成」され、「第1、第2の渦巻状導体」は「絶縁層に形成され」ているといえる。
したがって、引用発明の「引出電極22c,22dを介して平面コイル22a,22bと電気的に接続される四つの外部端面電極25を備え、引出電極22cと平面コイル22aはビア電極によって接続され、引出電極22dと平面コイル22bはビア電極によって接続され」ることは、本願補正発明の「前記第1の渦巻状導体の両端部と第1、第2の引出導体とをそれぞれ第1、第2のビア電極を介して接続して形成された第1のコイルと、前記第2の渦巻状導体の両端部と第3、第4の引出導体とをそれぞれ第3、第4のビア電極を介して接続して形成された第2のコイルとを備え、前記第1の渦巻状導体と前記第2の渦巻状導体とを磁気結合させ、前記第1?第4の外部電極をそれぞれ前記第1?第4の引出導体と接続し、かつ前記第1、第2の渦巻状導体と前記第1?第4の引出導体とは異なる層に形成する」こと及び「前記第1、第2の渦巻状導体は絶縁層に形成する」ことに相当する。
ただし、コモンモードノイズフィルタの引出導体について、本件補正発明は、「絶縁体層」に形成すると特定するのに対して、引用発明は、そのような構成ではない。さらに、コモンモードノイズフィルタの引出導体について、本願補正発明は、「前記第1、第2の渦巻状導体の厚みより前記第1?第4の引出導体の厚みを厚くし」と特定するのに対して、引用発明には、そのような特定がなされていない。

e.引用発明の「平面コイル22a,22b」の両端部の位置及び形状について、本願補正発明は、「前記第1の渦巻状導体の両端部と前記第2の渦巻状導体の両端部を上面視にて同じ位置とし、前記第1の渦巻状導体と前記第2の渦巻状導体とを上面視にて重なるように対向させかつ同じ形状にし」と特定されているのに対して、引用発明は、そのような特定がなされていない。

f.引用例1の図2を鑑みると、引用発明の「引出電極22c,22d」は、「酸化物磁性体層23」と「ガラスセラミック材料による非磁性層20」によって挟まれている。
つまり、引出電極について、本願補正発明は、「前記第1?第4の引出導体をガラスセラミックで構成された前記絶縁体層で挟むようにした」と特定するのに対して、引用発明は、そのような構成ではない。

そうすると、補正発明と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「複数の絶縁体層と、前記複数の絶縁体層を積層することによって設けられた積層体と、前記積層体の外部に形成された第1?第4の外部電極と、前記積層体の内部に形成された第1、第2の渦巻状導体、第1?第4の引出導体と、前記第1の渦巻状導体の両端部と第1、第2の引出導体とをそれぞれ第1、第2のビア電極を介して接続して形成された第1のコイルと、前記第2の渦巻状導体の両端部と第3、第4の引出導体とをそれぞれ第3、第4のビア電極を介して接続して形成された第2のコイルとを備え、前記第1の渦巻状導体と前記第2の渦巻状導体とを磁気結合させ、前記第1?第4の外部電極をそれぞれ前記第1?第4の引出導体と接続し、かつ前記第1、第2の渦巻状導体は絶縁層に形成され、前記第1、第2の渦巻状導体と前記第1?第4の引出導体とは異なる層に形成したコモンモードノイズフィルタ。」

<相違点1>
コモンモードノイズフィルタの引出導体について、本件補正発明は、「前記第1、第2の渦巻状導体と前記第1?第4の引出導体とは異なる絶縁体層に形成する」と特定するのに対して、引用発明は、第1、第2の渦巻状導体は絶縁層に形成され、第1、第2の渦巻状導体と第1?第4の引出導体とは異なる層に形成されているものの、「第1?第4の引出導体」が「絶縁層に形成され」ていない点。

<相違点2>
コモンモードノイズフィルタの引出導体について、本願補正発明は、「前記第1、第2の渦巻状導体の厚みより前記第1?第4の引出導体の厚みを厚くし」と特定するのに対して、引用発明には、そのような特定がなされていない点。

<相違点3>
コモンモードノイズフィルタの渦巻状導体について、本願補正発明は、「前記第1の渦巻状導体の両端部と前記第2の渦巻状導体の両端部を上面視にて同じ位置とし、前記第1の渦巻状導体と前記第2の渦巻状導体とを上面視にて重なるように対向させかつ同じ形状にし」と特定するのに対して、引用発明には、そのような特定がなされていない点。

<相違点4>
コモンモードノイズフィルタの引出導体について、本願補正発明は、「前記第1?第4の引出導体をガラスセラミックで構成された前記絶縁体層で挟むようにした」と特定するのに対して、引用発明は、そのような構成ではない点。

5.判断
以下、相違点について検討する。
ア.相違点1及び4について
引出導体をガラスセラミックで構成された絶縁体層で挟むことは、例えば、本願の出願日前に頒布された文献である国際公開第2010/044213号(特に、[0013]、[0017]、[図1]、[図2] 参照)、特開2007-227611号公報(特に、【0009】ないし【0033】、【図2】、【図3】 参照)に記載のように、周知の技術事項である。
そして、引用例1の段落【0011】に、「図1?図3ではガラス成分を含む絶縁体層23を4層としているが、コモンモードノイズフィルタの形状に応じて増減することは可能である」ことも示唆されていることも勘案すれば(なお、「ガラス成分を含む絶縁体層23」は、前後の記載から「ガラス成分を含む絶縁体層24」の誤記と認められる。)、引用発明において、引出導体をガラスセラミックで構成された絶縁体層で挟む上記周知の技術事項を採用して相違点1及び4の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得たことにすぎない。

イ.相違点2について
原査定の拒絶理由に引用された引用例2(上記「3.(2)」 参照)には、外部電極と引出電極との接続を確実なものとするために、外部電極に接続する引出電極の厚さを外部電極に接続しない内部電極の厚さに対して大きくすることが記載されており、外部電極と積層構造体との接着強度を高くすることが目的である引用発明において、外部電極と引出電極との接続を確実なものとするために、引用例2に記載の技術事項を採用することは当業者であれば容易に想到し得たことである。
したがって、引用発明のコモンモードノイズフィルタの引出導体において、引用例2に記載された技術事項を採用して相違点2の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得たことにすぎない。

ウ.相違点3について
引用発明の「平面コイル22a,22b」の両端部に位置する「ビア電極」は、引用例1の図2及び図3における位置を鑑みれば、上面視にて同じ位置にあるといえる。また、引用発明の「平面コイル22a,22b」の形状及び配置についても、引用例1の図2及び図3を鑑みれば、同じ形状、同じ位置であることは明らかであり、さらに、二つの平面コイル22a,22b間の磁気的結合を上げるためには、上面視において重なるように対向させることは当業者にとって明らかであることを勘案すれば、引用発明の「平面コイル22a,22b」は、本願補正発明と同様、「前記第1の渦巻状導体の両端部と前記第2の渦巻状導体の両端部を上面視にて同じ位置とし、前記第1の渦巻状導体と前記第2の渦巻状導体とを上面視にて重なるように対向させかつ同じ形状にし」ているといえる。
したがって、相違点3について、引用発明と本願補正発明は実質的に相違しない。

してみれば、引用発明に引用例2に記載の技術事項及び周知の技術事項を採用することで相違点1ないし4の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得たことである。

したがって、本願補正発明は、引用発明並びに引用例2に記載された技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものである。そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明並びに引用例2に記載された技術事項及び周知の技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用例1に記載された発明並びに引用例2に記載された技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明
平成28年6月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成27年11月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されたものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 1.補正後の本願発明」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例およびその記載事項は、上記「第2 3.引用例」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明における「第1?第4の引出導体」について、「前記第1?第4の引出導体をガラスセラミックで構成された前記絶縁体層で挟むようにした」という限定事項を削除したものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の構成要件(「相違点4に係る構成」)を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 4.対比」および「第2 5.判断」に記載したとおり、引用例1に記載された発明並びに引用例2に記載された技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用例1に記載された発明並びに引用例2に記載された技術事項及び周知の技術事項により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明並びに引用例2に記載された技術事項及び周知の技術事項により当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について言及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-14 
結審通知日 2017-03-21 
審決日 2017-04-05 
出願番号 特願2011-285014(P2011-285014)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01F)
P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 酒井 朋広
安藤 一道
発明の名称 コモンモードノイズフィルタ  
代理人 前田 浩夫  
代理人 鎌田 健司  

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