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審決分類 審判 全部申し立て 産業上利用性  A63B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A63B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A63B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A63B
管理番号 1329062
異議申立番号 異議2015-700264  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-03 
確定日 2017-04-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5756731号発明「ゴルフクラブ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5756731号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項[1ないし4]について」)訂正することを認める。 特許第5756731号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 特許第5756731号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第5756731号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年6月5日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人佐々木靖より請求項1?4に対して特許異議の申立てがされ、平成28年7月6日付けで取消理由が通知され、同年9月5日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年11月10日に特許異議申立人佐々木靖から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否

1.訂正の内容(下線部は、当審で付した。以下同じ。)

(1)訂正事項1
請求項1の「クラブ重量が265g以下であり」を、「クラブ重量が240g以上265g以下であり」と、訂正する。

(2)訂正事項2
請求項2の「クラブ長さが46インチ以下である」を、「クラブ長さが42インチ以上46インチ以下である」と、訂正する。

(3)訂正事項3
請求項4を削除する。

(4)訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0008】の「クラブ重量が265g以下であり」を、「クラブ重量が240g以上265g以下であり」と、訂正する。

(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0013】の「クラブ長さが46インチ以下であってもよい」を、「クラブ長さが42インチ以上46インチ以下であってもよい」と、訂正する。

(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0015】を削除する。

(7)訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0096】に記載された「実施例1?11及び比較例1?6に係るゴルフクラブ(クラブ重量を282gに設定している)の仕様及び評価を表3に示す。また、実施例12?20及び比較例7?12に係るゴルフクラブ(クラブ重量を289gに設定している)の仕様及び評価を表4に示す。さらに、比較例13?25に係るゴルフクラブ(クラブ重量を292gに設定している)の仕様及び評価を表5に示す。なお、表3?5において、「クラブ重心」の測定基準はグリップ端であり、このグリップ端からクラブ重心までの距離(mm)が表中の「クラブ重心」の値となる。」を、「実施例1?11及び比較例1?6に係るゴルフクラブ(クラブ重量を250gに設定している)の仕様及び評価を表3に示す。また、実施例12?20及び比較例7?12に係るゴルフクラブ(クラブ重量を263gに設定している)の仕様及び評価を表4に示す。さらに、比較例13?25に係るゴルフクラブ(クラブ重量を270gに設定している)の仕様及び評価を表5に示す。なお、表3?5において、「クラブ重心」の測定基準はグリップ端であり、このグリップ端からクラブ重心までの距離(mm)が表中の「クラブ重心」の値となる。」

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1は、訂正前の「クラブ重量が265g以下」という、数値範囲の下限を定めない不明瞭な記載を、「クラブ重量が240g以上265g以下」と下限を限定したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の段落【0019】に「本発明において、ゴルフクラブ1の重量は265g以下に設定されており、好ましくは240?265gの範囲内に設定される。」と記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2は、訂正前の「クラブ長さが46インチ以下」という、数値範囲の下限を定めない不明瞭な記載を、「クラブ長さが42インチ以上46インチ以下」と下限を限定し、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の段落【0020】に「また、ゴルフクラブ1の長さ自体は、本発明において特に限定されるものではないが、通常、42.0?46.0インチである。」と記載され、小数点以下まで記載されているが、数値自体は訂正事項2の数値と同じものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3は、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4?6は、訂正事項1?3による訂正等によって訂正された請求項1の記載と整合性を取るために、願書に添付した明細書のうち関連する発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1?3と同じ理由により、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項7は、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の段落【0097】表3、表4、表5にはそれぞれ、「クラブ重量:250g」、「クラブ重量:263g」、「クラブ重量:270g」と記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

また、訂正前の請求項1?4は、請求項2?4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

3.小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1?7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号乃至第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1、2、3、4について訂正を認める。

第3 当審の判断

1 取消理由通知に記載した取消理由のうち特許法第29条第2項について

(1)訂正後の請求項に係る発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1?3に係る発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明3」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
シャフトの先端にヘッドが設けられ、当該シャフトの後端にグリップが設けられてなるゴルフクラブであって、
クラブ重量が240g以上265g以下であり、
ヘッド重量とクラブ重量との比(ヘッド重量/クラブ重量)が0.67以上0.72以下であり、
シャフトの先端からシャフト重心までの距離をLGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、0.52≦LG/LS≦0.65であり、且つ、
クラブの曲げ振動の振動数をFとすると、180cpm≦F≦210cpmであることを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項2】
クラブ長さが42インチ以上46インチ以下である、請求項1に記載のゴルフクラブ。
【請求項3】
グリップ重量が27g以上45g以下である、請求項1又は2に記載のゴルフクラブ。

(2)甲号各証の記載

ア.取消理由通知において引用した甲1号証(特開2005-230054号公報)には以下の事項が記載されている。

A.「【0007】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るウッド型のゴルフクラブ1がスイングされる様子を示すものである。このゴルフクラブ1は、棒状のシャフト2の一端側にウッド型のヘッド3が装着され、他端側にはグリップ4が装着されてなる。」

B.段落【0030】【表1】の実施例3は、ヘッド重量が185.0g、クラブ総重量が263.0g、クラブ長さが46.5インチのゴルフクラブが記載されている。

甲1号証の上記記載事項を含め,甲1号証の全記載を総合すると,甲1号証には,次の発明(以下「甲1発明」という。)が開示されていると認められる。

「ゴルフクラブ1は、棒状のシャフト2の一端側にウッド型のヘッド3が装着され、他端側にはグリップ4が装着されてなり、ヘッド重量が185.0g、クラブ総重量が263.0g、クラブ長さが46.5インチのゴルフクラブ。」

イ.取消理由通知において引用した甲2号証(特開2009-240627号公報)には以下の事項が記載されている。

A 「【0017】
本発明に係るゴルフクラブは、他の局面では、ヘッド部とシャフト部とグリップ部とを備え、硬さの異なる3種類以上のシャフトフレックス展開をしたウッド型のゴルフクラブであって、シャフトフレックスが硬くなるに従って1段階ずつ各ゴルフクラブのスイングバランスが増加し、シャフトフレックスが硬くなるに従って3g以上7.2g未満の量ずつシャフト部の質量が増加し、かつシャフトフレックスが硬くなるに従ってシャフト部の重心率が増加するように、スイングバランスとシャフト部の質量とシャフト部の重心率とをシャフトフレックスに応じて調整したものである。ここで、「シャフト重心率」とは、シャフト部全長に対する、シャフト部のグリップエンド側から重心位置までの距離の割合を、%表示したものである。」

B 段落【0037】の【表1】記載の各ゴルフクラブのシャフト重心率は、48(%)であり、段落【0043】の【表2】記載の各ゴルフクラブのシャフト重心率はそれぞれ、最小の46.7%(モデル7のFlex1)から最大の49.8%(モデル12のFlex1)までの範囲にあり、段落【0049】の【表3】記載の各ゴルフクラブのシャフト重心率はそれぞれ、最小の45.75%(モデル16のFlex1)から最大の50.34%(モデル14のFlex3)までの範囲にある。
前記表1、2、3記載の各ゴルフクラブのシャフト重心率について総合すると、それぞれ最小の45.75%から最大の50.34%までの範囲にある。

また、甲2号証では、シャフト部全長に対する、シャフト部のグリップエンド側から重心位置までの距離の割合を「シャフト重心率」とし、重心までの距離の原点は、「グリップエンド側」つまり「シャフト後端」となっており、本件特許発明1のように、重心までの距離の原点をシャフトの先端(LG)として、前記最小の45.75%、最大の50.34%を換算(LG/LS)して、「%」表示から「小数」表示に改めると、0.5425、0.4966となる。
甲2号証の上記記載事項を含め,甲2号証の全記載を総合すると,甲2号証には,次の発明(以下「甲2発明」という。)が開示されていると認められる。
「シャフト先端からシャフト重心までの距離LGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、LG/LSが、0.4966から0.5425の範囲にあるゴルフシャフト。」

ウ.取消理由通知において引用した甲3号証(特開2005-198816号公報)には以下の事項が記載されている。

段落【0030】の【表1】の各実験例に各ゴルフクラブのクラブ振動数は、200?260cpmの範囲にあり、クラブ長さは42?46インチの範囲にあることが記載されている。

甲3号証の上記記載事項を含め,甲3号証の全記載を総合すると,甲3号証には,次の発明(以下「甲3発明」という。)が開示されていると認められる。

「クラブ振動数は、200?260cpmの範囲にあり、クラブ長さは41?46インチの範囲にあるゴルフクラブ。」

エ.取消理由通知において引用した甲4号証(特開平7-59884号公報)には以下の事項が記載されている。

A.「【0015】しかも、本発明のゴルフシャフトにおいては、該低融点金属層が、シャフトのチップからバットへ向けて大きくなる形で重量勾配を有するように被覆されているのが、振り抜き感を改善する上から好ましい。さらに重量勾配の両端の比率、すなわち、好ましくはチップ1に対してバット4、さらに好ましくはチップ1に対してバット3、特に好ましくはチップ1に対してバット2の割合に重量勾配を有するものが、より優れた振り抜き感改善効果を達成するのでよい。」

B.「【0024】これら3つの実施例と比較するため、比較例1として、実施例1と同じ芯材に、同じ要領で一方向炭素繊維プリプレグを積層し、チップ外径が8.4mmとなるよう芯材に巻き付け、130℃、1時間で加熱成形した。同様に、成形後、脱芯、ポリエステルテープ研磨を行ない、長さ1145mmに切断した結果、カーボンシャフトの重さは66グラムであった。これらのシャフトのシャフトバランスを比較するため、シャフト長手方向の重心距離について、チップ先端から重心までの距離A(mm)とシャフト全長B(mm)との比A/Bを測定した。
【0025】その結果、表1に示すように、亜鉛溶射していない比較例1のシャフトバランスが52%程度であるのに対し、亜鉛溶射することにより、シャフトバランスを38.4?62.9%の範囲で自由にコントロールできることができた。」

甲4号証では、チップ先端から重心までの距離A(mm)とシャフト全長B(mm)との比A/Bを「シャフトバランス」とし、重心までの距離の原点は、「チップ先端」つまり「シャフト先端」であるから、前記「シャフトバランス」は、本件特許発明1の「LG/LS」と同じものであり、前記38.4?62.9%を、「%」表示から「小数」表示に改めると、0.384?0.629となる。
甲4号証の上記記載事項を含め,甲4号証の全記載を総合すると,甲4号証には,次の発明(以下「甲4発明」という。)が開示されていると認められる。
「シャフト先端からシャフト重心までの距離LGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、LG/LSが、0.384?0.629の範囲にあるゴルフシャフト。」

オ.取消理由通知において引用した甲5号証(特開平2002-35184号公報)には以下の事項が記載されている。

A.「【0004】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明のゴルフクラブシャフトは、シャフトをチップ端側からバット端側に向けて先端部、中央部、手元部に区分したとき、シャフト長さに対する曲げ剛性の分布曲線が前記中央部に極大値を有し、かつ前記バット端に最大値を有することを特徴とするものである。」

B.「【0024】チップ端Tからシャフト重心位置までの距離はシャフト長さの53%以上に設定されている。シャフト重心位置までの距離がシャフト長さの53%未満であるとシャフトに装着するヘッドの質量が制限され、その結果、飛距離の増大効果が不十分になる。」

C.甲5号証記載の「チップ端Tからシャフト重心位置までの距離はシャフト長さの53%以上」は、本件特許発明1の「LG/LS」が53%以上であるのと同じものであり、前記53%を、「%」表示から「小数」表示に改めると、「0.53」となる。
甲5号証の上記記載事項を含め,甲5号証の全記載を総合すると,甲5号証には,次の発明(以下「甲5発明」という。)が開示されていると認められる。
「シャフト先端からシャフト重心までの距離LGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、LG/LSが、0.53以上であるゴルフシャフト。」

ウ.対比・判断

(ア)本件特許発明1と、甲1発明とを比較する。
後者の「一端側」は、前者の「先端」に相当し、同様に「他端側」は「後端」に、「クラブ総重量」は、前者の「クラブ重量」に相当する。
後者のゴルフクラブにおいて、ヘッド重量が185.0g、クラブ総重量が263.0gであるから、ヘッド重量とクラブ重量との比(ヘッド重量/クラブ重量)は、0.703である。
したがって、本件特許発明1と甲1発明は、
「シャフトの先端にヘッドが設けられ、当該シャフトの後端にグリップが設けられてなるゴルフクラブであって、
クラブ重量が240g以上265g以下であり、
ヘッド重量とクラブ重量との比(ヘッド重量/クラブ重量)が0.67以上0.72以下であるゴルフクラブ。」
で、一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1は、「シャフトの先端からシャフト重心までの距離をLGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、0.52≦LG/LS≦0.65であ」るのに対して、甲1発明では、シャフト重心の位置が不明である点。

<相違点2>
本件特許発明1は、「クラブの曲げ振動の振動数をFとすると、180cpm≦F≦210cpmである」のに対して、甲1発明では、クラブ曲げ振動の振動数が不明である点。

上記相違点1について検討する。
「LG/LS」に関して、甲2、4、5発明ではそれぞれ「0.497から0.543の範囲」、「0.384?0.629の範囲」、「0.53以上」であるから、本件特許発明1の「LG/LS」の数値範囲と、一部重複する数値を有するゴルフクラブが記載されていることになる。
しかしながら、本件特許の明細書の段落【0034】に「一方、LG/LSが0.65を超える場合、シャフトの手元側の重量を大きくすることになり、同一シャフト重量とした場合に、シャフトの先端側の重量が小さくなり、その結果、シャフト先端側の強度が弱くなる惧れがある。また、シャフト先端側の強度低下を防ぎつつ前記比を0.65よりも大きくすることは、シャフトの先端側の重量を維持しつつ手元側重量を大きくすることを意味し、この場合は、クラブの全重量が大きくなりすぎて、クラブが振りにくくなる」と記載されているとおり、本件特許発明1においては、「LG/LS」の数値範囲を特定することによって、上記の作用効果を奏するものであるところ、甲2、4、5発明には、当該作用効果や当該作用効果に対する課題について何ら記載も示唆もなく、単に本件特許発明1の数値範囲と一部重複する数値が記載されているにとどまり、元々「LG/LS」について記載も示唆もない甲1発明に適用することに対して、動機付けがあるとは認められない。
また、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は、当業者にとって設計的事項とする根拠もない。
したがって、本件特許発明1は、甲1?5発明から当業者が容易に想到し得たものではない。

上記相違点2について検討する。
本件の明細書の段落【0105】の特に測定方法に関する「【0105】 <クラブ振動数(cpm)>
ゴルフクラブの曲げ振動の振動数Fは、図6に示されるゴルフクラブ曲げ振動計(フジクラゴム工業株式会社製のGOLF CLUB TIMING HARMONIZER(商品名))を用いて測定した。具体的に、クランプ10によってグリップ4の一部(グリップエンドからL=7インチ(≒178mm)をクランプした後にヘッド2に対して下方に向けて任意の負荷を加えてシャフト3を振動させ、1分間当たりの振動数を測定した」と、甲3号証の「【0025】また、ゴルフクラブの振動数は、210cpm?260cpmであることが好ましい。本発明における振動数は、ゴルフクラブのグリップ側端部を固定した状態で測定されるものであり、振動数測定器としては、例えば、藤倉ゴム工業株式会社製のクラブタイミングハーモナイザー等が挙げられる。なお、基本的な操作手順は、社団法人日本ゴルフ用品協会が定めるゴルフ曲げ振動計の操作手順に準拠すればよい。また、グリップ側の固定長さは、178mmに設定すればよい」の記載を参酌すると、甲3発明の「クラブ振動数」は、本件特許発明1の「クラブの曲げ振動の振動数」に相当するものであるといえる。
甲3発明には、クラブの曲げ振動の振動数として、本件特許発明1に特定された「180cpm≦F≦210cpm」に一部重複する数値を有するゴルフクラブが記載されている。
甲3号証には、段落【0034】に「表1から3より実験例2?14は、ゴルフクラブ質量およびモーメントが本発明の請求項1の範囲(ゴルフクラブ質量270g以下、回転モーメント20,500?21,500g・cm)を満たし、実験例15?27と比較して合計点が高い(324以上)ことが分かる。
ヘッドスピードと飛距離に関しては、クラブ長さは長いほうがよく、クラブ質量は軽い方がよく、170mm位置を支点としたモーメントは小さい方がよく、振動数は小さいほうがよいことが分かる。
また、方向性に関しては、クラブ長さは短いほうがよく、170mm位置を支点としたモーメントは大きいほうがよく、振動数は大きいほうがよいことが分かる。
さらに、フィーリングに関しては、クラブ長さは適度な長さ、すなわち一般的に45インチ以下のものがよく、クラブ質量は適度な質量、すなわち240?270gのものがよく、170mm位置を支点としたモーメントは20500?21500g・cmのものがよく、振動数は適度なもの210?260cpmのものがよいことが分かる。
特に好ましいゴルフクラブの物性としては、実験例3、4、5、及び10が挙げられる。したがって、クラブ質量は250?270gの範囲であり、170mm位置を支点としたモーメントは20500?20850g・cmの範囲であるゴルフクラブが特に好ましい。」と記載されているが、甲3号証の表1記載の実験例1?27で、本件特許発明1に特定された「180cpm≦F≦210cpm」に一致しているのは、実験例13、14(200cpm)であり、表3をみると、その飛距離はそれぞれ、113、110(実験例1を100とした場合)であり、前記段落【0034】の「特に好ましいゴルフクラブの物性としては、実験例3、4、5、及び10が挙げられる」とされている、実験例3(242cpm)、同4(240cpm)、同5(241cpm)、同10(245cpm)の飛距離がそれぞれ、119、116、118、117に対して、前記実験例13、14(200cpm)のゴルフクラブは飛距離の点で劣っているから、一概に「飛距離に関しては」、「振動数は小さいほうがよい」(前記段落【0034】)とはいえず、前記実験例13、14のクラブ振動数の200cpmは、単に甲3号証記載の実験例1?27の各クラブ振動数の一例に過ぎない。
これに対して、本件特許の明細書の段落【0011】「本発明では、クラブ重量が軽い割にはヘッド重量が重くなっているが、クラブ重量が265g以下とかなり軽量であるため、ヘッドの重量自体も軽くなっている。ヘッド重量が軽い場合、重い場合に比べて、スイング時にシャフトがしなり難い。そこで、クラブの曲げ振動の振動数Fを180cpm≦F≦210cpmと比較的低く設定することで、スイング時にシャフトが適度にしなるようにしている。これにより、非力なゴルファーであってもスイング時にシャフトを十分にしならせることができ、インパクト時のヘッドスピードを増大させることができる。」、同段落【0021】「本実施の形態に係るゴルフクラブ1では、クラブの曲げ振動の振動数が180?210cpmの範囲内に設定されている。この振動数が低すぎると、スイング中にシャフト3が撓み過ぎるようになり、うまくタイミングを合わせることができないのでヘッドスピードを上げることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない。したがって、クラブの曲げ振動の振動数は、185cpm以上であることが好ましく、さらには190cpm以上であることが好ましい。一方、クラブの曲げ振動の振動数が高すぎると、シャフト3が硬くなり、非力なゴルファーではシャフトを十分にしならせることができなくなり、十分なボールスピードを得ることができなくなる。したがって、クラブの曲げ振動の振動数は、205cpm以下であることが好ましく、さらには200cpm以下であることが好ましい。」と記載されているとおり、本件特許発明1においては、「クラブの曲げ振動の振動数」の数値範囲を特定することによって、上記の作用効果を奏するものであるところ、甲3発明には、単に本件特許発明1の数値範囲と一部重複する数値が記載されているにとどまり、元々「クラブの曲げ振動の振動数」について記載も示唆もない甲1発明に適用することに対して、動機付けがあるとは認められない。
また、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は、当業者にとって設計的事項とする根拠もない。
したがって、本件特許発明1は、甲1?5発明から当業者が容易に想到し得たものではない。

(イ)本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1をさらに限定したものであるので、本件特許発明2、3も本件特許発明1と同様に、甲1?5発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

2 取消理由通知に記載した取消理由のうち特許法第36条第4項1号及び第36条第6項第1号違反について

(1)請求項1?4について

ア.本件特許の明細書の「実施例1?11及び比較例1?6に係るゴルフクラブ(クラブ重量を282gに設定している)の仕様及び評価を表3に示す。また、実施例12?20及び比較例7?12に係るゴルフクラブ(クラブ重量を289gに設定している)の仕様及び評価を表4に示す。さらに、比較例13?25に係るゴルフクラブ(クラブ重量を292gに設定している)の仕様及び評価を表5に示す。なお、表3?5において、「クラブ重心」の測定基準はグリップ端であり、このグリップ端からクラブ重心までの距離(mm)が表中の「クラブ重心」の値となる。」(段落【0096】)の記載は、全ての実施例のクラブ重量を263gを超えているとされ、本件請求項1の発明がクラブ重量を265g以下に限定したことでどのように課題が解決されたのか一切示されていないので、特許法第36条第4項1号及び第36条第6項第1号の規定に違反しているとの取消理由通知は、前記訂正事項7によって解消した。

イ.本件特許の明細書段落【0098】表4記載の実施例15と、本件特許の請求項1の要件をクラブ重量以外は満たす本件特許の明細書段落【0099】表5記載の比較例20を比較すると、後者のシャフト重量は前者より大きく、前者のヘッド重量と運動エネルギは後者より大きいのに、シャフト耐久性は前者が劣るというのは非合理であり(特許異議申立書12頁18行?14頁8行)(以下「理由1」という。)、本件特許の明細書段落【0098】表4記載の実施例18と、前記比較例20を比較すると、本件特許の請求項1の要件の、ヘッド重量/クラブ重量、LG/LS、クラブ振動数は等しく、後者のシャフト重量は前者より大きく、前者のヘッド重量は後者より小さいが、その分ヘッドスピードと運動エネルギーも大きいのに、シャフト耐久性は前者が劣るというのは非合理である(特許異議申立書14頁9行?15頁14行)(以下「理由2」という。)との取消理由通知について検討する。

前記理由1について。
本件特許の明細書段落【0036】には「シャフト3は、かかるプリプレグを巻回して硬化させたものである。プリプレグの硬化は加熱により行なわれ、シャフト3の製造工程には、加熱工程が含まれる。」、同段落【0079】「シャフト3の重心位置を調整する手段としては、例えば、以下の(A)?(H)を挙げることができる。本発明では、これらの手段のうち1つ又は2つ以上を適宜採用することによって、シャフト3の重心位置を手元側に寄せることができる。
(A)バット部分層の巻回数の増減
(B)バット部分層の厚さの増減
(C)バット部分層の長さL1(後述)の増減
(D)バット部分層の長さL2(後述)の増減
(E)チップ部分層の巻回数の増減
(F)チップ部分層の厚さの増減
(G)チップ部分層の軸方向長さの増減
(H)シャフトのテーパー率の増減」と記載されている。
実施例15と比較例20について、それぞれ本件特許の明細書段落【0098】の表4と、段落【0099】の表5をみると、LG/LS(シャフト重心)について前者が0.59であるのに対し後者は0.64であり、クラブ振動数(cpm)はどちらも195である。
比較例20は、前記LG/LSを0.64とするために、前記(A)?(H)の手段で調整することで、実施例15よりシャフト3のグリップ側の剛性が大きくなるので、クラブ振動数(cpm)を実施例15と同じ195にするためには、比較例20のシャフト3の先端側の剛性は実施例15よりも小さくしなければならず、その結果、シャフト3の先端側の強度が弱くなって比較例20の耐久性が劣ることは、当業者であれば容易に理解し得るものであって、本件発明1が明細書に記載されているといえる。
よって、理由1により、本件特許発明1?4は、特許法第36条第4項1号及び第36条第6項第1号に違反しているものではない。

前記理由2について
前記ヘッドスピードと運動エネルギーは、「ハンディキャップが10?20のテスター5名にそれぞれ10球ずつ試打してもらい、得られた50個のヘッドスピードの平均値を採用し」(本件明細書段落【0100】)、「運動エネルギー(J) 運動エネルギーE=(mh×v^(2))/2で求めた。ここで、mhはヘッド重量であり、vはヘッドスピードである」(同段落【0100】)との方法で求めたものであるが、本件特許の明細書記載の「耐久性」とは「株式会社ミヤマエ製のスイングロボットにゴルフクラブを装着し、ヘッドスピード52m/sにてゴルフボールを繰り返し打球した。ゴルフボールは、SRIスポーツ株式会社製の「DDH ツアースペシャル」を用いた。フェースセンターから20mmヒール側へ離れた位置で打球し、500発打球するごとにシャフトの破損状況を確認した。10000発で破損がなかった場合を「A」、10000発に達する前に破損があった場合を「B」とし」(本件特許の明細書段落【0103】)て、評価したものであり、前記ヘッドスピードと運動エネルギーは、耐久性の評価とは関連性がないことは当業者であれば容易に理解し得るものである。
実施例18のヘッド重量は、263g(クラブ重量)×0.71(ヘッド重量/クラブ重量)=187gであるのに対して、比較例20のヘッド重量は、270g(クラブ重量)×0.71(ヘッド重量/クラブ重量)=192gであり、両者のグリップ端での慣性モーメントはそれぞれ、2730Kg・cm^(2)、2800Kg・cm^(2)であるから、実施例20の方が同一ヘッドスピードではシャフトの負担が多く、比較例20の耐久性が実施例18の耐久性より悪くなったことは、当業者であれば容易に理解し得るものであって、本件発明1が明細書に記載されているといえる。
よって、理由2により、本件特許発明1?4は、特許法第36条第4項1号及び第36条第6項第1号に違反しているものではない。

(2)請求項2について
本件特許発明2は、ゴルフクラブの長さが短すぎると、スイングの回転半径が小さくなり、十分なヘッドスピードを得ることが難しくなり、ボールスピードを速くすることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない、ゴルフクラブの長さが長すぎると、グリップ端における慣性モーメントが大きくなり、非力なゴルファーでは力負けし易くなる(本件明細書段落【0020】)という当業者が容易に理解できる技術事項に基づいて、前記の技術事項を両立させるため「クラブ長さが42インチ以上46インチ以下」という長さを特定したことは、当業者であれば容易に理解し得るものであって、本件発明1が明細書に記載されているといえる。
よって、本件特許発明1?4は、特許法第36条第4項1号及び第36条第6項第1号に違反しているものではない。

(3)請求項3について
本件特許発明3は、グリップの重量が軽すぎると、当該グリップの強度が低くなり、その耐久性が低下する惧れがあり、グリップの重量が重すぎると、ゴルフクラブが重くなって、振りにくくなる(本件明細書段落【0027】)という当業者が容易に理解できる技術事項に基づいて、前記の技術事項を両立させるため「グリップ重量が27g以上45g以下」という長さを特定したことは、当業者であれば容易に理解し得るものであって、本件発明1が明細書に記載されているといえる。
よって、本件特許発明1?4は、特許法第36条第4項1号及び第36条第6項第1号に違反しているものではない。

3.取消理由通知において、採用しなかった特許異議申し立て理由について
特許異議の申立てには、本件特許の請求項1?4について、シャフト耐久性の向上の効果が合理的に否定され、産業上利用できる発明に該当しないので特許法第29条第1項の規定に違反するとの主張がされている。
しかし、前記2(1)イで示したとおり、本件特許発明1、2、3についてシャフト耐久性の向上の効果が否定されるとはいえないし、本件特許発明1、2、3はそれぞれ、ゴルフクラブのクラブ重量、ヘッド重量とクラブ重量との比、シャフトの先端からシャフト重心までの距離をLGとし、シャフトの全長をLSとしたときに、LG/LSの値、クラブの曲げ振動の振動数、クラブ長さ、グリップ重量の各発明特定事項を特定したものであるから、産業上利用できる発明に該当しないとはいえず、特許法第29条第1項の規定に違反するものではない。

第4 むすび
以上のとおり、本件特許発明1、2及び3は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件特許発明1、2及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許発明4は、訂正により削除されたため、本件特許発明4に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立については、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ゴルフクラブ
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルファーにとってボールの飛距離は、ゴルフクラブを選定する際の重要なファクターの1つである。そこで、ボールの飛距離を延ばすために、従来、ゴルフクラブを構成する要素の材質や形状などに対して種々の工夫がなされてきた。
【0003】
例えば、ヘッド重量は、重い方が打球時においてボールに与える運動エネルギーが大きくなるため、ボールスピードを速くすることができ、その結果、大きな飛距離を得ることができる。そこで、ゴルフクラブの総重量に占めるヘッド重量の割合を大きくして当該ヘッド重量を重くする手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-201911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘッド重量を重くすることでボールに与える運動エネルギーを大きくすることが可能となるが、一方において、単にヘッド重量だけを重くすると、クラブ重量が重くなってしまい、非力なゴルファーでは力負けし易くなり、ヘッドスピードをあげることができず、その結果、ボールスピードを速くすることができない。
【0006】
そこで、ゴルフクラブの総重量を軽くし、かかる軽量のゴルフクラブにおいてヘッド重量の占める割合を大きくすることが考えられる。しかし、このような軽量のゴルフクラブでは、クラブ重量が軽い割にはヘッド重量が重くなっているが、クラブ重量が軽量であるため、ヘッド重量自体も軽くなっている。ヘッド重量が軽い場合、重い場合に比べて、スイング時にシャフトがしなり難い。このため、非力なゴルファーはスイング時にシャフトを十分にしならせることができず、インパクト時のヘッドスピードを上げることができない。その結果、ボールスピードを速くすることができないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ボールスピードを速くするためにヘッドの重量割合を大きくした軽量のゴルフクラブにおいて、スイング時におけるシャフトの適度なしなりを確保してヘッドスピードを上げることができるゴルフクラブを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明のゴルフクラブは、シャフトの先端にヘッドが設けられ、当該シャフトの後端にグリップが設けられてなるゴルフクラブであって、
クラブ重量が240g以上265g以下であり、
ヘッド重量とクラブ重量との比(ヘッド重量/クラブ重量)が0.67以上0.75以下であり、
シャフトの先端からシャフト重心までの距離をL_(G)とし、シャフトの全長をL_(S)としたときに、0.52≦L_(G)/L_(S)≦0.65であり、且つ、
クラブの曲げ振動の振動数をFとすると、180cpm≦F≦210cpmであることを特徴としている。
【0009】
本発明のゴルフクラブでは、クラブ重量を一定の値(265g)以下に抑えてクラブ重量を軽くしつつ、クラブ重量に対するヘッド重量の割合を大きくしている。クラブ重量が265g以下とかなり軽いため、非力なゴルファーであっても力負けすることがなく、スイングがし易くなっている。その結果、ヘッドスピードを増大させ、ボールスピードを速くすることができる。また、クラブ重量に対するヘッド重量の割合を大きくしているので、ヘッドの運動エネルギーを大きくすることができる。これにより、打球時においてボールに与える運動エネルギーが大きくなり、ボールスピードを速くすることができる。
【0010】
また、本発明のゴルフクラブでは、L_(G)/L_(S)が0.52?0.65にされており、シャフトの重心が手元側に位置している。このため、ボールスピードを速くするためにヘッドの重量を大きくしても、クラブ全体の重心がヘッド側に移動するのを抑制するか、又は手元側に移動させることができる。これにより、グリップ端におけるクラブの慣性モーメントが増大するのを抑制するか、又は低減させることができ、スイングがし易くなっている。その結果、ヘッドスピードを増大させ、ボールスピードを速くすることができ、もってボールの飛距離を延ばすことができる。
【0011】
本発明では、クラブ重量が軽い割にはヘッド重量が重くなっているが、クラブ重量が265g以下とかなり軽量であるため、ヘッドの重量自体も軽くなっている。ヘッド重量が軽い場合、重い場合に比べて、スイング時にシャフトがしなり難い。そこで、クラブの曲げ振動の振動数Fを180cpm≦F≦210cpmと比較的低く設定することで、スイング時にシャフトが適度にしなるようにしている。これにより、非力なゴルファーであってもスイング時にシャフトを十分にしならせることができ、インパクト時のヘッドスピードを増大させることができる。
【0012】
さらに、本発明では、クラブ重量に対するヘッド重量の割合を大きくしつつも、ヘッド重量/クラブ重量の範囲を0.67?0.75と設定することで、ある程度のシャフト重量を確保している。これにより、シャフト重心(L_(G)/L_(S))を0.52?0.65としてシャフト重心を手元側に寄せた場合であっても、シャフトのヘッド側の肉厚を十分に確保することができ、シャフトの耐久性を確保することができる。
【0013】
(2)前記(1)のゴルフクラブにおいて、クラブ長さが42インチ以上46インチ以下であってもよい。なお、本明細書において「クラブ長さ」とは、R&G(Royal and Ancient Golf Club of Saint Andrews:全英ゴルフ協会)が定めるゴルフ規則「付属規則II クラブのデザイン」の「1 クラブ」における「1c 長さ」の記載に基づいて測定される長さである。
【0014】
(3)前記(1)又は(2)のゴルフクラブにおいて、グリップ重量が27g以上45g以下であってもよい。
【0015】(削除)
【発明の効果】
【0016】
本発明のゴルフクラブによれば、ボールスピードを速くするためにヘッドの重量割合を大きくした軽量のゴルフクラブにおいて、スイング時におけるシャフトの適度なしなりを確保してヘッドスピードを上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】 本発明のゴルフクラブの一実施の形態の説明図である。
【図2】 図1に示されるゴルフクラブにおけるシャフトの展開図である。
【図3】 図2に示されるシャフトにおける第1の合体シートの平面図である。
【図4】 図2に示されるシャフトにおける第2の合体シートの平面図である。
【図5】 グリップ端での慣性モーメントの測定方法を説明する図である。
【図6】 クラブの曲げ振動の振動数の測定方法を説明する図である。
【図7】 本発明におけるシャフトの変形例を構成するプリプレグシートの展開図である。
【図8】 図7に示されるシャフトにおける第1の合体シートの平面図である。
【図9】 図7に示されるシャフトにおける第2の合体シートの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明のゴルフクラブの実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るゴルフクラブ1の全体を示す説明図である。本実施の形態におけるゴルフクラブ1は、所定のロフト角を有するウッド型ゴルフクラブヘッド2と、シャフト3と、グリップ4とを有している。ヘッド2は、シャフト3の先端側のチップ端3aを挿入して固着するためのシャフト穴5を備えたホーゼル6を有している。シャフト3の後端側のバット端3bは、グリップ4のグリップ穴7内に挿入されて固着される。チップ端3aはヘッド2の内部に位置しており、バット端3bはグリップ4の内部に位置している。なお、図1において、符号Gで示されるのは、シャフト3の重心である。この重心Gは、シャフト3の内部であって、シャフト軸線上に位置している。
【0019】
本発明において、ゴルフクラブ1の重量は265g以下に設定されており、好ましくは240?265gの範囲内に設定される。ゴルフクラブ1の重量が軽すぎると、当該ゴルフクラブ1を構成する各要素(パーツ)の強度が低くなり、耐久性が低下する惧れがある。したがって、ゴルフクラブ1の重量は、243g以上であることがさらに好ましく、245g以上であることが特に好ましい。一方、ゴルフクラブ1の重量が重すぎると、振りにくくなり、ヘッドスピードを上げることが難しくなる。したがって、ゴルフクラブ1の重量は、263g以下であることがさらに好ましく、260g以下であることが特に好ましい。
【0020】
また、ゴルフクラブ1の長さ自体は、本発明において特に限定されるものではないが、通常、42.0?46.0インチである。ゴルフクラブ1の長さが短すぎると、スイングの回転半径が小さくなり、十分なヘッドスピードを得ることが難しくなる。このため、ボールスピードを速くすることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない。したがって、ゴルフクラブ1の長さは、42.5インチ以上であることが好ましく、さらには43.0インチ以上であることが好ましい。一方、ゴルフクラブ1の長さが長すぎると、グリップ端における慣性モーメントが大きくなり、非力なゴルファーでは力負けし易くなる。このため、ボールスピードを速くすることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない。したがって、ゴルフクラブ1の長さは、45.7インチ以下であることが好ましく、さらには45.5インチ以下であることが好ましい。
【0021】
本実施の形態に係るゴルフクラブ1では、クラブの曲げ振動の振動数が180?210cpmの範囲内に設定されている。この振動数が低すぎると、スイング中にシャフト3が撓み過ぎるようになり、うまくタイミングを合わせることができないのでヘッドスピードを上げることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない。したがって、クラブの曲げ振動の振動数は、185cpm以上であることが好ましく、さらには190cpm以上であることが好ましい。一方、クラブの曲げ振動の振動数が高すぎると、シャフト3が硬くなり、非力なゴルファーではシャフトを十分にしならせることができなくなり、十分なボールスピードを得ることができなくなる。したがって、クラブの曲げ振動の振動数は、205cpm以下であることが好ましく、さらには200cpm以下であることが好ましい。
【0022】
〔ヘッドの構成〕
本実施の形態におけるヘッド2は、中空のヘッドであり、慣性モーメントが大きい。ヘッド2の慣性モーメントが大きいクラブでは、飛距離向上の効果が安定的に得られるので、ヘッド2としては中空であることが好ましい。
【0023】
ヘッド2の材質は、本発明において特に限定されるものではなく、例えばチタン、チタン合金、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)、ステンレス鋼、マルエージング鋼、軟鉄などを用いることができる。また、単一の材質を用いて作製するだけでなく、複数の材質を適宜組み合わせてヘッド2を作製してもよい。例えば、CFRPとチタン合金とを組み合わせることができる。ヘッド2の重心を下げる観点から、クラウンの少なくとも一部がCFRP製であり、ソールの少なくとも一部がチタン合金製であるヘッドを採用することができる。また、強度の観点からは、フェース全体がチタン合金製であることが好ましい。
【0024】
本発明では、ヘッド2単体の重量は特に限定されないが、160?200gの範囲内であることが好ましい。ヘッド2が軽すぎると、当該ヘッド2の運動エネルギーをボールに十分に与えることができず、ボールスピードを増大させることが難しくなる。したがって、165g以上であることがさらに好ましく、特に170g以上であることが好ましい。一方、ヘッド2の重量が重くなりすぎると、ゴルフクラブ1が重くなって、振りにくくなる。したがって、198g以下であることがさらに好ましく、特に195g以下であることが好ましい。
【0025】
また、本発明のゴルフクラブ1では、ヘッド重量とクラブ重量との比(ヘッド重量/クラブ重量)が0.67以上0.75以下に設定されており、ヘッド重量の割合が大きくされている。この比が小さすぎると、ヘッド2の運動エネルギーが小さくなってしまい、十分なボールスピードを得ることが難しくなる。したがって、前記比は、0.675以上であることが好ましく、さらには0.68以上であることが好ましい。一方、前記比が大きすぎると、ヘッド2が重くなりすぎてクラブが振りにくくなる。したがって、前記比は、0.740以下であることが好ましく、さらには0.735以下であることが好ましい。
【0026】
〔グリップの構成〕
本発明において、グリップ4の材質や構造は特に限定されるものでなく、通常用いられているものを適宜採用することができる。例えば、天然ゴムに、オイル、カーボンブラック、硫黄及び酸化亜鉛を配合して混練した材料を所定形状に成形し且つ加硫することにより得られるものを用いることができる。
【0027】
本発明においてグリップ4単体の重量は、特に限定されないが、27g以上45g以下であるのが好ましい。グリップ4の重量が軽すぎると、当該グリップ4の強度が低くなり、その耐久性が低下する惧れがある。したがって、グリップ4の重量は、30g以上であることがさらに好ましく、33g以上であることが特に好ましい。一方、グリップ4の重量が重すぎると、ゴルフクラブ1が重くなって、振りにくくなる。したがって、グリップ4の重量は、41g以下であることがさらに好ましく、さらには38g以下であることが特に好ましい。
【0028】
〔シャフトの構成〕
本実施の形態におけるシャフト3はカーボンシャフトであり、プリプレグシートを材料として通常のシートワインディング製法により作製されている。より詳細には、シャフト3は、繊維強化樹脂層の積層体からなる管状体であり、中空構造を有している。シャフト3の全長はL_(S)であり、また、シャフト3のチップ端(先端)3aから前記シャフト3の重心Gまでの距離はL_(G)である。
【0029】
シャフト3の重量は、本発明において特に限定されるものではないが、通常、25?50gの範囲内である。シャフト3の重量が軽すぎると、当該シャフト3の強度が低くなり、その耐久性が低下する惧れがある。したがって、シャフト3の重量は、28g以上であることが好ましく、さらには30g以上であることが好ましい。一方、シャフト3の重量が重すぎると、ゴルフクラブ1が重くなって、振りにくくなる。したがって、シャフト3の重量は、48g以下であることが好ましく、さらには45g以下であることが好ましい。
【0030】
また、シャフト3の長さ自体は本発明において特に限定されるものではないが、通常、1050?1200mmである。シャフト3の長さが短すぎると、スイングの回転半径が小さくなり、十分なヘッドスピードを得ることが難しくなる。このため、ボールスピードを速くすることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない。したがって、シャフト3の長さは、1070mm以上であることが好ましく、さらには1100mm以上であることが好ましい。一方、シャフト3の長さが長すぎると、グリップ端における慣性モーメントが大きくなり、非力なゴルファーでは力負けし易くなる。このため、ヘッドスピードを速くすることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない。したがって、シャフト3の長さは、1180mm以下であることが好ましく、さらには1160mm以下であることが好ましい。
【0031】
また、シャフト3の重心位置自体は、本発明において特に限定されるものではないが、通常、当該シャフト3のチップ端3a(先端)から620?740mmの範囲内である。シャフト3の重心Gの位置が当該シャフト3の先端から620mm未満であると、ゴルフクラブ1の重心がヘッド側に寄ってしまうため、振りにくくなり、十分なヘッドスピードを得ることが難しくなる。したがって、シャフト3の重心位置は、当該シャフト3の先端から625mm以上であることが好ましく、さらには630mm以上であることが好ましい。一方、シャフト3の重心Gの位置が当該シャフト3の先端から740mmを超えると、シャフト先端側の強度が低くなり、その耐久性が低下してしまう。したがって、シャフト3の重心位置は、当該シャフト3の先端から735mm以下であることが好ましく、さらには730mm以下であることが好ましい。
【0032】
また、本発明では、シャフト3の先端からシャフト重心Gまでの距離をL_(G)とし、シャフト3の全長をL_(S)としたときに、0.52≦L_(G)/L_(S)≦0.65としている。
【0033】
L_(G)/L_(S)が0.52未満の場合、シャフト3の重心がシャフト3の先端側に近くなるので、スイングバランスを考慮すると、ヘッドの重量を大きくすることができない。したがって、L_(G)/L_(S)は0.53以上であることが好ましく、さらには0.54以上であることが好ましい。
【0034】
一方、L_(G)/L_(S)が0.65を超える場合、シャフトの手元側の重量を大きくすることになり、同一シャフト重量とした場合に、シャフトの先端側の重量が小さくなり、その結果、シャフト先端側の強度が弱くなる惧れがある。また、シャフト先端側の強度低下を防ぎつつ前記比を0.65よりも大きくすることは、シャフトの先端側の重量を維持しつつ手元側重量を大きくすることを意味し、この場合は、クラブの全重量が大きくなりすぎて、クラブが振りにくくなる。したがって、L_(G)/L_(S)は0.64以下であることが好ましく、さらには0.63以下であることが好ましい。
【0035】
シャフト3は、プリプレグシートを硬化させて作製することができ、このプリプレグシートでは、繊維は実質的に一方向に配向されている。このように繊維が実質的に一方向に配向されたプリプレグは、UD(ユニディレクション)プリプレグとも称されている。なお、本発明では、UDプリプレグ以外のプリプレグを用いることもでき、例えば、シートに含まれる繊維が編まれているプリプレグシートを用いることもできる。
【0036】
プリプレグシートは、熱硬化性樹脂などからなるマトリクス樹脂と、炭素繊維などの繊維とを有している。前述したように、シャフト3は、シートワインディング製法により作製することができるが、プリプレグの状態において前記マトリクス樹脂は、半硬化状態にある。シャフト3は、かかるプリプレグを巻回して硬化させたものである。プリプレグの硬化は加熱により行なわれ、シャフト3の製造工程には、加熱工程が含まれる。この加熱工程により、プリプレグシートのマトリクス樹脂が硬化する。
【0037】
プリプレグシートのマトリクス樹脂も、本発明において特に限定されるものではないが、例えばエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いることができる。シャフトの強度を高めるという点より、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
プリプレグとしては、市販されているものを適宜用いることができるが、以下の表1は、本発明のゴルフクラブのシャフトに用いることができるプリプレグの例を示している。
【0038】
【表1】

【0039】
図2は、シャフト3を構成するプリプレグシートの展開図(シート構成図)である。シャフト3は、複数枚のシートにより構成されており、図2に示される実施の形態では、シャフト3は、a1からa11までの11枚のシートにより構成されている。図2に示される展開図は、シャフトを構成するシートを、当該シャフトの半径方向内側から順に示している。展開図において、上側に位置しているシートから順に巻回される。また、図2に示される展開図において、図面の左右方向はシャフト軸方向と一致し、図面の右側はシャフト3のチップ端3a側であり、図面の左側はシャフト3のバット端3b側である。
【0040】
なお、本明細書では、「層」という文言と、「シート」という文言が用いられている。「シート」は、巻回される前における称呼であり、「層」は、かかるシートが巻回された後における称呼である。「層」は「シート」が巻回されることにより形成される。また、本明細書では、層とシートとで同じ符号が用いられている。例えば、シートa1を巻回することによって形成された層は、層a1とされる。
【0041】
また、シャフト軸方向に対する繊維の角度に関し、本明細書では、角度Af及び絶対角度θaが用いられる。角度Afは、プラス又はマイナスを伴う角度であり、絶対角度θaは、角度Afの絶対値である。絶対角度θaとは、シャフト軸方向と繊維方向とのなす角度の絶対値である。例えば、「絶対角度θaが10°以下」とは、「角度Afが-10°以上+10°以下」であることを意味する。
【0042】
図2に示される展開図は、各シートの巻き付け順序だけでなく、各シートのシャフト軸方向における位置も示している。例えば、シートa1の端はチップ端3aに位置しており、シートa4及びシートa5の端はバット端3bに位置している。
【0043】
シャフト3は、ストレート層、バイアス層及びフープ層を有している。図2に示される展開図では、プリプレグシートに含まれる繊維の配向角度が記載されており、「0°」と記載されているシートが、ストレート層を構成している。ストレート層用のシートは、本明細書においてストレートシートとも称される。また、バイアス層用のシートは、本明細書においてバイアスシートとも称される。
【0044】
ストレート層は、繊維の配向がシャフトの長手方向(シャフト軸方向)に対して実質的に0°とされた層である。ただし、巻き付け時の誤差などに起因して、繊維の方向はシャフト軸方向に対して完全に0°とはならない場合がある。通常、ストレート層では、前記絶対角度θaが10°以下である。
【0045】
図2に示される実施の形態において、ストレートシートは、シートa1、シートa4、シートa5、シートa6、シートa7、シートa9、シートa10、及びシートa11である。ストレート層は、シャフトの曲げ剛性及び曲げ強度との相関が高い。
【0046】
バイアス層は、繊維の配向がシャフトの長手方向に対して傾斜した層である。かかるバイアス層は、シャフトの捩れ剛性及び捩れ強度との相関が高い。バイアス層は、繊維の配向が互いに逆方向に傾斜した2枚のシートペアから構成されていることが好ましい。バイアス層の絶対角度θaは、捩れ剛性の観点から、好ましくは15°以上であり、より好ましくは25°以上であり、更に好ましくは40°以上である。一方、捩れ剛性及び捩れ強度の観点より、バイアス層の絶対角度θaは、好ましくは60°以下であり、より好ましくは50°以下である。
【0047】
図2に示される実施の形態において、バイアスシートは、シートa2及びシートa3である。図2では、シート毎に前記角度Afが記載されている。角度Afにおけるプラス(+)及びマイナス(-)は、バイアスシートの繊維が互いに逆方向に傾斜していることを示している。なお、図2に示される実施の形態では、シートa2が-45°であり、シートa3が+45°であるが、これとは逆に、シートa2が+45°であり、シートa3が-45°であってもよい。
【0048】
図2に示される実施の形態において、フープ層を構成するシートは、シートa8である。フープ層における前記絶対角度θaは、シャフト軸方向に対して実質的に90°とされることが好ましい。ただし、巻き付け時の誤差などに起因して、繊維の方向はシャフト軸方向に対して完全に90°とはならない場合がある。通常、フープ層では、前記絶対角度θaが80°以上90°以下である。
【0049】
フープ層は、シャフトのつぶし剛性及びつぶし強度を高めるのに寄与する。つぶし剛性とは、シャフトをその半径方向内側に向かって押し潰す力に対する剛性である。つぶし強度とは、シャフトをその半径方向内側に向かって押し潰す力に対する強度である。かかるつぶし強度は、曲げ強度とも関連しうる。また、曲げ変形に連動してつぶし変形が生じうる。特に肉厚の薄い軽量シャフトにおいては、この連動性が大きい。つぶし強度を向上させることで、曲げ強度を向上させることができる。
【0050】
図示していないが、使用される前のプリプレグシートは、カバーシートにより挟まれている。通常、カバーシートは、離型紙及び樹脂フィルムからなっており、プリプレグシートの一方の面に離型紙が貼着されており、他方の面に樹脂フィルムが貼着されている。以下の説明において、離型紙が貼着されている側の面を「離型紙側の面」、樹脂フィルムが貼着されている側の面を「フィルム側の面」とも称する。
【0051】
本明細書における展開図は、フィルム側の面が表側とされた図である。すなわち、本明細書における展開図において、図面の表側がフィルム側の面であり、図面の裏側が離型紙側の面である。図2に示される展開図では、シートa2の繊維方向とシートa3の繊維方向とは同じであるが、後述する貼り合わせの際にシートa3が裏返される。その結果、シートa2の繊維方向とシートa3の繊維方向とは互いに逆方向となり、従って、巻回された後の状態では、シートa2の繊維方向とシートa3の繊維方向は互いに逆方向となる。この点を考慮して、図2では、シートa2の繊維方向は「-45°」と表記され、シートa3の繊維方向は「+45°」と表記されている。
【0052】
前述したプリプレグシートを巻回するには、まず、樹脂フィルムが剥がされる。樹脂フィルムが剥がされることにより、フィルム側の面が露出する。この露出面は、マトリクス樹脂に起因するタック性(粘着性)を有している。巻回時におけるプリプレグのマトリクス樹脂が半硬化状態であるため、粘着性を発現する。次に、露出したフィルム側の面の縁部(巻き始め縁部)を、巻回対象物に貼り付ける。マトリクス樹脂の有する粘着性により、この巻き始め縁部の貼り付けを円滑に行なうことができる。巻回対象物とは、マンドレル、又はマンドレルに他のプリプレグシートが巻き付けられた巻回物である。
【0053】
ついで、プリプレグシートの離型紙が剥がされる。その後、巻回対象物が回転されて、プリプレグシートが当該巻回対象物に巻き付けられる。このように、まず樹脂フィルムが剥がされ、ついで巻き始め縁部が巻回対象物に貼り付けられ、その後離型紙が剥がされる。かかる手順により、プリプレグシートの皺や巻き付け不良の発生を抑制することができる。離型紙は、樹脂フィルムと比べて曲げ剛性が高く、このような離型紙が貼り付けられた状態のシートは、当該離型紙に支持されているため、皺になりにくい。
【0054】
図2に示される実施の形態では、2枚以上のシートを貼り合わせることにより形成される合体シートが採用されている。図2に示される実施の形態では、図3?4に示される二つの合体シートが採用されている。図3は、シートa2及びシートa3を貼り合わせることにより形成される第1の合体シートa23を示している。また、図4は、シートa8及びシートa9を貼り合わせることにより形成される第2の合体シートa89を示している。
【0055】
第1の合体シートa23を作製する手順は以下の通りである。まず、バイアスシートa3を裏返し、この裏返したバイアスシートa3をバイアスシートa2に貼り合わされる。その際、図3に示されるように、バイアスシートa3のバット端及びチップ端を、それぞれバイアスシートa2の長辺からずらした状態で貼り合わされる。
【0056】
これにより、合体シートa23のシートa2とシートa3とは、巻回後のシャフトにおいて約半周分ズレるようになっている。
【0057】
図4に示されるように、第2の合体シートa89において、シートa8の上端とシートa9の上端とが一致している。また、シートa89において、シートa8は、そのバット側端縁をシートa9のバット側端縁からずれた状態で、その全体がシートa9に貼着されている。その結果、巻回工程において、シートa8の巻回不良が抑制される。
【0058】
前述したように、本明細書では、プリプレグ中の繊維の配向角度によって、シート及び層を分類しているが、更に、シャフト軸方向の長さによって、シート及び層を分類することができる。
【0059】
本明細書では、シャフト軸方向の全体に亘り配置される層が、全長層と称され、また、シャフト軸方向の全体に亘り配置されるシートが、全長シートと称される。一方、本明細書では、シャフト軸方向において部分的に配置される層が、部分層と称され、シャフト軸方向において部分的に配置されるシートが、部分シートと称される。
【0060】
本明細書では、ストレート層である全長層が全長ストレート層と称される。図2に示される実施の形態では、シートa6及びシートa9が、巻回後において全長ストレート層を構成する。
【0061】
また、本明細書では、ストレート層である部分層が部分ストレート層と称される。図2に示される実施の形態では、シートa1、シートa4、シートa5、シートa7、シートa10及びシートa11が、巻回後において部分ストレート層を構成する。
【0062】
部分層を構成するシートであるシートa7は、巻回後において、シャフト軸方向全体の中間に位置する中間部分層を構成する。すなわち、中間部分層の先端はチップ端3aから離れており、中間部分層の後端はバット端3bから離れている。好ましくは、中間部分層は、シャフト軸方向中央位置Scを含む位置に配置される。また、好ましくは、中間部分層は、三点曲げ強度の測定方法(SG式三点曲げ強度試験の測定方法)において定義されるB点(チップ端から525mmの地点)を含む位置に配置される。中間部分層は、変形が大きい部分を選択的に補強することができ、また、シャフトの軽量化に寄与することができる。
【0063】
本明細書では、バット部分層という文言が用いられている。バット部分層は、部分層の一態様であり、バット端3b側に位置する部分層である。図2において、符号A1で示されているのは、バット部分層のチップ側の辺において最もバット側に位置する点である。好ましくは、点A1が、シャフト軸方向中央位置Scよりもバット側に位置する。図2において、符号B1で示されているのは、バット部分層のチップ側の辺の中点である。好ましくは、点B1が、シャフト軸方向中央位置Scよりもバット側に位置する。バット部分層として、バットストレート層、バットフープ層及びバットバイアス層を挙げることができる。
【0064】
また、本明細書では、バットストレート層という文言が用いられている。バットストレート層は部分ストレート層の一態様であり、バット端3b側に位置する部分ストレート層である。好ましくは、バットストレート層の全体が、シャフト軸方向中央位置Scよりもバット側に位置する。バットストレート層の後端は、シャフトのバット端3bに位置していてもよいし、位置していなくてもよい。クラブ重心の位置をバット端3bに近づける観点より、好ましくは、バットストレート層の配置範囲が、シャフトのバット端3bから100mm離間した位置P1を含む。クラブ重心の位置をバット端3bに近づける観点より、より好ましくは、バットストレート層の後端は、シャフトのバット端3bに位置している。図2に示される実施の形態において、バットストレート層は、シートa4及びシートa5である。
【0065】
図2に示されるプリプレグシートを用いたシートワインディング製法によりシャフト3が作製される。以下、かかるシャフト3の製造工程の概要を説明する。
【0066】
〔シャフト製造工程の概要〕
(1)裁断工程
裁断工程では、プリプレグシートが所定の形状に裁断され、図2に示される各シートが切り出される。
【0067】
(2)貼り合わせ工程
貼り合わせ工程では、複数枚のシートが貼り合わされて、前述した合体シートa23及び合体シートa89が作製される。貼り合わせに際しては、加熱又はプレスを用いることができるが、後述する巻回工程における合体シートを構成するシート間のズレを抑制して巻き付け精度を向上させるという観点より、加熱及びプレスを併用することが好ましい。加熱温度及びプレス圧は、シート同士の接着力を高めるなどの観点より適宜選定すればよいが、通常、加熱温度は、30?60°の範囲内であり、プレス圧は、300?600g/cm^(2)の範囲内である。同様に、加熱時間及びプレス時間も、シート同士の接着力を高めるなどの観点より適宜選定すればよいが、通常、加熱時間は、20?300秒の範囲内であり、プレスの時間は、20?300秒の範囲内である。
【0068】
(3)巻回工程
巻回工程では、マンドレルが用いられる。典型的なマンドレルは金属製であり、このマンドレルの周面に離型剤が塗布される。更に、前記離型剤の上に粘着性を有する樹脂(タッキングレジン)が塗布される。こうして、樹脂を塗布したマンドレルに、裁断されたシートが巻回される。タッキングレジンによって、シート端部をマンドレルに容易に貼り付けることができる。複数枚のシートが貼り合わされたシートについては、合体シートの状態で巻回される。
【0069】
この巻回工程により、巻回体を得ることができる。巻回体は、マンドレルの外側にプリプレグシートが巻回されたものである。巻回は、例えば、平面上で巻回対象物を転がすことにより行なわれる。
【0070】
(4)テープラッピング工程
テープラッピング工程では、前記巻回体の外周面にラッピングテープと称されるテープが巻き付けられる。ラッピングテープは、張力を付与されつつ巻回体の外周面に巻き付けられる。かかるラッピングテープによって、巻回体に圧力が加えられ、当該巻回体におけるボイドを低減させる。
【0071】
(5)硬化工程
硬化工程では、テープラッピングがなされた後の巻回体が所定の温度に加熱される。この加熱により、プリプレグシートのマトリクス樹脂が硬化する。硬化の過程においてマトリクス樹脂が一時的に流動化するが、この流動化によって、シート間又はシート内の空気が排出される。ラッピングテープにより付与される圧力(締め付け力)により、この空気の排出が促進される。硬化工程によって、硬化積層体が得られる。
【0072】
(6)マンドレルの引抜工程及びラッピングテープの除去工程
硬化工程の後、マンドレルの引抜工程とラッピングテープの除去工程が行なわれる。両工程の順序は、本発明において特に限定されるものではないが、ラッピングテープ除去の能率を向上させる観点からは、マンドレルの引抜工程の後にラッピングテープの除去工程を行うことが好ましい。
【0073】
(7)両端カット工程
この両端カット工程では、前述した(1)?(6)の各工程を経た硬化積層体の両端部がカットされる。このカッティングにより、シャフトのチップ端3aの端面及びバット端3bの端面が平坦にされる。
【0074】
(8)研磨工程
研磨工程では、両端部がカットされた硬化積層体の表面が研磨される。硬化積層体の表面には、前記工程(4)において用いたラッピングテープの跡として螺旋状の凹凸が残っている。研磨することにより、このラッピングテープの跡としての螺旋状の凹凸が消滅し、硬化積層体の表面が平滑になる。
【0075】
(9)塗装工程
研磨工程後の硬化積層体に所定の塗装が施される。
【0076】
以上の工程によりシャフト3を製造することができる。そして、製造されたシャフト3のチップ端3aをゴルフクラブヘッド2のホーゼル6のシャフト穴5内に固着し、当該シャフト3のバット端3bをグリップ4のグリップ穴7内に固着することで、ゴルフクラブ1を得ることができる。
【0077】
本発明の特徴の1つは、前述したゴルフクラブ1において、シャフト3の先端3aからシャフト重心までの距離をL_(G)とし、シャフトの全長をL_(S)としたときに、0.52≦L_(G)/L_(S)≦0.65とし、シャフト3の重心Gを手元側に寄せたことである。
【0078】
クラブを振り易くするためには、クラブ重量を軽くすることが有効であるが、クラブを構成する要素のうちヘッドの重量は、ボールスピードのアップに影響を与えるファクターであるので、本発明では、このヘッド重量を小さくすることなくボールスピードを速くするアプローチを採用している。そして、シャフト重心位置をグリップ側に配置することで、クラブ慣性モーメントを小さくして、クラブを振り易くしている。
【0079】
シャフト3の重心位置を調整する手段としては、例えば、以下の(A)?(H)を挙げることができる。本発明では、これらの手段のうち1つ又は2つ以上を適宜採用することによって、シャフト3の重心位置を手元側に寄せることができる。
(A)バット部分層の巻回数の増減
(B)バット部分層の厚さの増減
(C)バット部分層の長さL1(後述)の増減
(D)バット部分層の長さL2(後述)の増減
(E)チップ部分層の巻回数の増減
(F)チップ部分層の厚さの増減
(G)チップ部分層の軸方向長さの増減
(H)シャフトのテーパー率の増減
【0080】
<バット部分層の重量比率>
シャフトの重心位置をグリップ側に配置する観点から、バット部分層の重量は、シャフト重量に対して、5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましい。一方、硬いフィーリングを抑制する観点から、バット部分層の重量は、シャフト重量に対して、50重量%以下が好ましく、45重量%以下がより好ましい。図2に示される実施の形態において、シートa4及びシートa5の合計重量が、バット部分層の重量である。
【0081】
<特定バット範囲におけるバット部分層の重量比率>
図1において、P2で示されているのは、バット端3bから250mm離間した地点である。この地点P2からバット端3bまでの範囲が、「特定バット範囲」と定義される。この特定バット範囲に存在するバット部分層の重量をWaとし、当該特定バット範囲におけるシャフトの重量をWbとすると、シャフトの重心位置をグリップ側に配置する観点から、比(Wa/Wb)は、0.4以上が好ましく、0.42以上がより好ましく、0.44以上が更に好ましい。一方、硬いフィーリングを抑制する観点から、比(Wa/Wb)は、0.7以下が好ましく、0.65以下がより好ましく、0.6以下が更に好ましい。
【0082】
<バット部分層の繊維弾性率>
バット部分層の強度確保の観点から、バット部分層の繊維弾性率は、5t/mm^(2)以上が好ましく、7t/mm^(2)以上がより好ましい。クラブ重心がバット端3bに近い場合、クラブ重心に作用する遠心力が低下しやすい。すなわち、シャフトの重心位置をグリップ側に配置する場合、クラブ重心に作用する遠心力が低下しやすい。この場合、シャフトのしなりが感じられにくいことがあり、硬いフィーリングが生じやすい。かかる硬いフィーリングを抑制する観点から、バット部分層の繊維弾性率は、20t/mm^(2)以下が好ましく、15t/mm^(2)以下がより好ましく、10t/mm^(2)以下が更に好ましい。
【0083】
<バット部分層の樹脂含有率>
シャフトの重心位置をグリップ側に配置し、且つ、硬いフィーリングを抑制する観点から、バット部分層の樹脂含有率は、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましい。一方、バット部分層の強度確保の観点から、バット部分層の樹脂含有率は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましい。
【0084】
<バットストレート層の重量>
シャフトの重心位置をグリップ側に配置する観点から、バットストレート層の重量は、2g以上が好ましく、4g以上がより好ましい。一方、硬いフィーリングを抑制する観点から、バットストレート層の重量は、30g以下が好ましく、20g以下がより好ましく、10g以下が更に好ましい。
【0085】
<バットストレート層の重量比率>
シャフトの重心位置をグリップ側に配置する観点から、バットストレート層の重量は、シャフト重量Wsに対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。一方、硬いフィーリングを抑制する観点から、バットストレート層の重量は、シャフト重量に対して、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましい。図3に示される実施の形態では、シートa4及びシートa5の合計重量が、バットストレート層の重量である。
【0086】
<バットストレート層の繊維弾性率>
バット部の強度確保の観点から、バットストレート層の繊維弾性率は、5t/mm^(2)以上が好ましく、7t/mm^(2)以上がより好ましい。一方、硬いフィーリングを抑制する観点から、バットストレート層の繊維弾性率は、20t/mm^(2)以下が好ましく、15t/mm^(2)以下がより好ましく、10t/mm^(2)以下が更に好ましい。
【0087】
<バットストレート層の樹脂含有率>
シャフトの重心位置をグリップ側に配置し、且つ、硬いフィーリングを抑制する観点から、バット部分層の樹脂含有率は、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましい。一方、バット部の強度確保の観点から、バットストレート層の樹脂含有率は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましい。
【0088】
<バット部分層の軸方向最大長さL1>
図2においてL1で示されているのは、バット部分層の軸方向最大長さである。この最大長さL1は、バット部分シートのそれぞれにおいて定まる。図2に示される実施の形態では、シートa4の長さL1と、シートa5の長さL1とは異なっている。
【0089】
バット部分層の重量を確保する観点から、長さL1は、100mm以上が好ましく、125mm以上がより好ましく、150mm以上が更に好ましい。一方、シャフトの重心位置をグリップ側に配置する観点から、長さL1は、700mm以下が好ましく、650mm以下がより好ましく、600mm以下が更に好ましい。
【0090】
<バット部分層の軸方向最小長さL2>
図2においてL2で示されているのは、バット部分層の軸方向最小長さである。この最大長さL2は、バット部分シートのそれぞれにおいて定まる。図2に示される実施の形態では、シートa4の長さL2と、シートa5の長さL2とは異なっている。
【0091】
バット部分層の重量を確保する観点から、長さL2は、50mm以上が好ましく、75mm以上がより好ましく、100mm以上が更に好ましい。一方、シャフトの重心位置をグリップ側に配置する観点から、長さL2は、650mm以下が好ましく、600mm以下がより好ましく、550mm以下が更に好ましい。
【0092】
〔実施例〕
次に、本発明のゴルフクラブを実施例に基づいて説明するが、本発明はもとよりかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【0093】
実施例1?20及び比較例1?25に係るゴルフクラブが常法にしたがって作製され、これらの性能ないし特性が評価された。全てのゴルフクラブに実質的に同一形状のヘッドが採用され、このヘッドの体積は460ccであり、材質はチタン合金であった。所望のスペックが得られるように、ヘッド重量、グリップ重量、シャフト重量、シャフト長さなどが調整された。
【0094】
実施例及び比較例におけるシャフトは、図2に示される展開図に基づいて作製された。製造方法は、前述したシャフト3と同様であり、前記(1)?(9)の工程にしたがってシャフトが製造された。各シートa1?a11において、巻回数、プリプレグの厚さ、プリプレグの繊維含有率、炭素繊維の引張弾性率などが適宜選択された。実施例及び比較例におけるシャフトに用いられたプリプレグの一例を表2に示す。シャフトの重心位置の調整には、前述した(A)?(H)のうち1つ又は2つ以上が用いられた。
【0095】
【表2】

【0096】
実施例1?11及び比較例1?6に係るゴルフクラブ(クラブ重量を250gに設定している)の仕様及び評価を表3に示す。また、実施例12?20及び比較例7?12に係るゴルフクラブ(クラブ重量を263gに設定している)の仕様及び評価を表4に示す。さらに、比較例13?25に係るゴルフクラブ(クラブ重量を270gに設定している)の仕様及び評価を表5に示す。なお、表3?5において、「クラブ重心」の測定基準はグリップ端であり、このグリップ端からクラブ重心までの距離(mm)が表中の「クラブ重心」の値となる。
【0097】
【表3】

【0098】
【表4】

【0099】
【表5】

【0100】
〔評価方法〕
<ヘッドスピード(m/s)>
ハンディキャップが10?20のテスター5名にそれぞれ10球ずつ試打してもらい、得られた50個のヘッドスピードの平均値を採用した。
【0101】
<運動エネルギー(J)>
運動エネルギーE=(mh×v^(2))/2で求めた。ここで、mhはヘッド重量であり、vはヘッドスピードである。
【0102】
<ボール飛距離(yards)>
ハンディキャップが10?20のテスター5名にそれぞれ10球ずつ試打してもらい、ミスショットを除く上位8球の落下地点までの飛距離の平均値(8×5=40個の飛距離の平均値)を採用した。
【0103】
<シャフト耐久性>
株式会社ミヤマエ製のスイングロボットにゴルフクラブを装着し、ヘッドスピード52m/sにてゴルフボールを繰り返し打球した。ゴルフボールは、SRIスポーツ株式会社製の「DDH ツアースペシャル」を用いた。フェースセンターから20mmヒール側へ離れた位置で打球し、500発打球するごとにシャフトの破損状況を確認した。10000発で破損がなかった場合を「A」、10000発に達する前に破損があった場合を「B」とした。
【0104】
<グリップ端での慣性モーメント(kg・cm^(2))>
図5示されるように、シャフト3の軸中心線CLが水平となるように、慣性モーメント測定器20(イナーシャ ダイナミクス社製のMODEL NUNBER RK/005-002)の測定治具21上にゴルフクラブ1をバランスさせて載置した。このとき、測定治具21には、ゴルフクラブ1の重心Gが位置している。ついで、このゴルフクラブ1の重心G回り(回転軸はZである)の慣性モーメントIaを測定した。グリップの後端4eでの慣性モーメントI_(G)は、平行軸定理を用いて、以下の式にしたがって求めた。
I_(G)(kg・cm^(2))=Ia+m・R^(2)
ここで、mはゴルフクラブの重量(kg)、Rはグリップの後端4eからゴルフクラブ1の重心Gまでの軸方向距離(cm)、Iaはゴルフクラブ1の重心G回りの慣性モーメント(kg・cm^(2))である。
【0105】
<クラブ振動数(cpm)>
ゴルフクラブの曲げ振動の振動数Fは、図6に示されるゴルフクラブ曲げ振動計(フジクラゴム工業株式会社製のGOLF CLUB TIMING HARMONIZER(商品名))を用いて測定した。具体的に、クランプ10によってグリップ4の一部(グリップエンドからL=7インチ(≒178mm)をクランプした後にヘッド2に対して下方に向けて任意の負荷を加えてシャフト3を振動させ、1分間当たりの振動数を測定した。
【0106】
表3?5に示される結果より、実施例に係るゴルフクラブでは、ヘッドスピードを上げてボールの飛距離を延ばしつつ、シャフトの耐久性を向上させ得ることがわかる。これに対し、例えば比較例13?25に係るゴルフクラブでは、クラブ重量が重いため、スイングがし難く、ヘッドスピード及びミート率が低下することからボールの飛距離が低下したものと考えられる。また、比較例2及び比較例8では、シャフトが軽すぎて折れてしまった。比較例4では、シャフトの重心を手元側に寄せすぎていて、シャフト先端部の強度が不足して耐久性が不十分であった。比較例5及び比較例11では、振動数が小さすぎるためスイング時にヘッドがぶれてミート率が下がり、飛距離が延びなかった。また、振動数が小さすぎると強度を上げることが難しく、耐久性も不十分であった。比較例6及び比較例12では、シャフトが硬すぎるため、ヘッドを十分に走らせることができず、その結果、ヘッドスピードを上げることができず、飛距離が延びなかった。比較例13及び比較例22では、クラブ重量が重いためクラブが振りにくくなり、ヘッドスピードを上げることができなかった。
【0107】
〔その他の変形例〕
なお、今回開示された実施の形態はすべての点において単なる例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、前記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【0108】
例えば、前述した実施の形態では、ゴルフクラブのシャフトとして、図2に示される展開図を有するものを採用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば図7に示される展開図を有するシャフトを用いることもできる。図7に示される展開図を有するシャフトは、b1からb12までの12枚のシートにより構成されている。図7に示される展開図においても、図2と同様に、シャフトを構成するシートを当該シャフトの半径方向内側から順に示しており、展開図において上側に位置しているシートから順に巻回される。また、図7に示される展開図において、図面の左右方向はシャフト軸方向と一致し、図面の右側はシャフト3のチップ端3a側であり、図面の左側はシャフト3のバット端3b側である。
【0109】
図7に示される変形例において、シートb1、シートb5、シートb6、シートb7、シートb8、シートb10、シートb11及びシートb12がストレート層を構成するシートであり、シートb2及びシートb3がバイアス層を構成するシートであり、さらにシートb4及びシートb9がフープ層を構成するシートである。これらのシートb1?b12としては、例えば、表1に示した以下のプリプレグを用いることができる。
・シートb1 :TR350C-125S
・シートb2,b3 :HRX350C-075S
・シートb4 :805S-3
・シートb5,b6 :E1026A-09N
・シートb7,b8 :TR350C-100S
・シートb9 :805S-3
・シートb10 :MR350C-100S
・シートb11,b12 :TR350C-100S
【0110】
図7に示される変形例が、図2に示されるものと大きく異なる点は、バイアス層を構成するシートb2、b3と、部分ストレート層を構成するシートb5、b6との間に部分フープ層を構成するシートb4が配設されていることである。
【0111】
図7に示される変形例においても、2枚以上のシートを貼り合わせることにより形成される合体シートが採用されている。図7に示される変形例では、図8?9に示される二つの合体シートが採用されている。図8は、シートb2、シートb3及びシートb4を貼り合わせることにより形成される第1の合体シートb234を示している。また、図9は、シートb9及びシートb10を貼り合わせることにより形成される第2の合体シートb910を示している。
【0112】
第1の合体シートb234を作製する手順は以下の通りである。まず、2枚のシート(バイアスシートb3及びフープシートb4)が貼り合わされた予備合体シートb34が作製される。予備合体シートb34を作製する際には、バイアスシートb3が裏返されつつ、フープシートb4に貼り合わされる。予備合体シートb34では、シートb4の上端とシートb3の上端とが一致している。ついで、予備合体シートb34と、バイアスシートb2とが貼り合わされる。予備合体シートb34とバイアスシートb2とは、互いに半周分ずれた状態で貼り合わされる。
【0113】
合体シートb234において、シートb2とシートb3とは、半周分ずれている。すなわち、巻回後のシャフトにおいて、シートb2の周方向位置とシートb3の周方向位置とは、相違している。この相違角度は、好ましくは、180°(±15°)である。
【0114】
合体シートb234が用いられる結果、バイアス層b2とバイアス層b3とは、周方向において互いにズレている。このズレにより、バイアス層の端の位置が周方向に分散される。これにより、シャフトの周方向における均一性を向上させることができる。また、本変形例における合体シートb234では、フープシートb4の全体が、バイアスシートb2とバイアスシートb3との間に挟まれている。これにより、巻回工程におけるフープシートb4の巻回不良を抑制することができる。合体シートb234を使用することで巻回の精度を向上させることができる。なお、巻回不良とは、繊維の乱れ、皺の発生、繊維角度のズレなどを意味する。
【0115】
また、図9に示されるように、第2の合体シートb910において、シートb9の上端とシートb10の上端とが一致している。また、シートb910において、シートb9の全体がシートb10に貼着されている。その結果、巻回工程において、シートb9の巻回不良が抑制される。
【0116】
本変形例においても、前述した(A)?(H)の手段のうち1つ又は2つ以上を適宜採用することによって、シャフトの重心位置を調整して手元側に寄せることができる。
【符号の説明】
【0117】
1 ウッド型ゴルフクラブ
2 ヘッド
3 シャフト
3a チップ端
3b バット端
4 グリップ
4e グリップ端
5 シャフト穴
6 ホーゼル
7 グリップ穴
G シャフトの重心
L_(G) シャフトのチップ端からシャフトの重心までの距離
L_(s) シャフト全長
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの先端にヘッドが設けられ、当該シャフトの後端にグリップが設けられてなるゴルフクラブであって、
クラブ重量が240g以上265g以下であり、
ヘッド重量とクラブ重量との比(ヘッド重量/クラブ重量)が0.67以上0.75以下であり、
シャフトの先端からシャフト重心までの距離をL_(G)とし、シャフトの全長をL_(S)としたときに、0.52≦L_(G)/L_(S)≦0.65であり、且つ、
クラブの曲げ振動の振動数をFとすると、180cpm≦F≦210cpmであることを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項2】
クラブ長さが42インチ以上46インチ以下である、請求項1に記載のゴルフクラブ。
【請求項3】
グリップ重量が27g以上45g以下である、請求項1又は2に記載のゴルフクラブ。
【請求項4】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-04-20 
出願番号 特願2011-224535(P2011-224535)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A63B)
P 1 651・ 536- YAA (A63B)
P 1 651・ 537- YAA (A63B)
P 1 651・ 14- YAA (A63B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 古屋野 浩志  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 吉村 尚
畑井 順一
登録日 2015-06-05 
登録番号 特許第5756731号(P5756731)
権利者 ダンロップスポーツ株式会社
発明の名称 ゴルフクラブ  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  

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