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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61M
管理番号 1329073
異議申立番号 異議2016-700088  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-03 
確定日 2017-04-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5759736号発明「バルーンカテーテル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5759736号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第5759736号の請求項4ないし6に係る特許を取り消す。 特許第5759736号の請求項7に係る特許を維持する。 特許第5759736号の請求項1ないし3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第5759736号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年6月12日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人伊藤範子より特許異議の申立てがなされ、平成28年3月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年6月6日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、平成28年7月14日付けで特許異議申立人より意見書の提出がなされ、平成28年10月5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年11月30日に意見書の提出がなされ、さらに、平成28年12月19日付けで取消理由が通知され、特許権者に期間を指定して意見書を提出する機会が与えられたが応答がなされなかったものである。なお、平成28年10月5日付けの上記取消理由は決定の予告として通知されたものである。

2 平成28年6月6日にされた訂正の請求について
2-1 訂正の内容
ア 訂正事項1
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1を削除する訂正を請求する。

イ 訂正事項2
特許権者は、特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正を請求する。

ウ 訂正事項3
特許権者は、特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正を請求する。

エ 訂正事項4
特許権者は、特許請求の範囲の請求項4に「 前記中間チューブと前記遠位側チューブとの接合箇所は、前記遠位側チューブが前記チューブ体の外周面を生じさせるように、これら中間チューブ及び遠位側チューブをラジアル方向に積層させて形成されていることを特徴とする請求項3に記載のバルーンカテーテル。」と記載されているのを、「 流体を利用して膨張又は収縮されるバルーンが、チューブ体の遠位端側を覆うようにして設けられたバルーンカテーテルにおいて、
前記バルーンは、
前記チューブ体に対する遠位側の接合箇所を構成する遠位側接合領域と、
前記バルーンの膨張時において最も外側に張り出す部分を構成する膨張用領域と、
前記遠位側接合領域と前記膨張用領域との間に設けられた遷移領域と、
を備え、
前記チューブ体は、
当該チューブ体の遠位側を構成する遠位側チューブと、
当該遠位側チューブよりも近位側に設けられ、当該遠位側チューブよりも剛性が高くなるように形成された近位側チューブと、
これら遠位側チューブ及び近位側チューブの間に設けられ、近位端部が前記近位側チューブに接合されているとともに、遠位端部が前記遠位側チューブに接合された中間チューブと、を備え、
前記中間チューブは、前記近位側チューブよりも剛性が低く且つ前記遠位側チューブよりも剛性が高くなるように形成されており、その少なくとも一部が前記遷移領域により外側から覆われており、
前記中間チューブと前記遠位側チューブとの接合箇所は、前記遠位側接合領域により外側から覆われているとともに、前記遠位側チューブが前記チューブ体の外周面を生じさせるように、これら中間チューブ及び遠位側チューブをラジアル方向に積層させて形成されていることを特徴とするバルーンカテーテル。」と訂正することを請求する。

オ 訂正事項5
特許権者は、請求項5に「・・・請求項1乃至4のいずれか1に記載のバルーンカテーテル」と記載されているのを「・・・請求項4に記載のバルーンカテーテル」と訂正することを請求する。

カ 訂正事項6
特許権者は、請求項6に「・・・請求項1乃至5のいずれか1に記載のバルーンカテーテル」と記載されているのを「・・・請求項4又は5に記載のバルーンカテーテル」と訂正することを請求する。

2-2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1?3は、それぞれ請求項1?3の記載を削除しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)訂正事項4は、請求項4が請求項3の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項3を引用しないものとし、独立形式請求項へ改める訂正であるから、同条同項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
(3)訂正事項5は、請求項5が請求項1?4の記載を引用する記載であるところ、請求項1?3を引用しない記載とする訂正であるから、同条同項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
(4)訂正事項6は、請求項6が請求項1?5の記載を引用する記載であるところ、請求項1?3を引用しない記載とする訂正であるから、同条同項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

(5)よって、訂正事項1?6に係る訂正は、同条同項ただし書第1号又は第4号に掲げる特許請求の範囲の減縮と他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることとの何れかを目的とするものである。
そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3 むすび
したがって、上記訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正されたものとして、以後の審理を進める。

3 本件特許発明についての判断
3-1 本件特許発明
上記訂正請求により訂正された訂正請求項1?7に係る発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明7」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
流体を利用して膨張又は収縮されるバルーンが、チューブ体の遠位端側を覆うようにして設けられたバルーンカテーテルにおいて、
前記バルーンは、
前記チューブ体に対する遠位側の接合箇所を構成する遠位側接合領域と、
前記バルーンの膨張時において最も外側に張り出す部分を構成する膨張用領域と、
前記遠位側接合領域と前記膨張用領域との間に設けられた遷移領域と、
を備え、
前記チューブ体は、
当該チューブ体の遠位側を構成する遠位側チューブと、
当該遠位側チューブよりも近位側に設けられ、当該遠位側チューブよりも剛性が高くなるように形成された近位側チューブと、
これら遠位側チューブ及び近位側チューブの間に設けられ、近位端部が前記近位側チューブに接合されているとともに、遠位端部が前記遠位側チューブに接合された中間チューブと、を備え、
前記中間チューブは、前記近位側チューブよりも剛性が低く且つ前記遠位側チューブよりも剛性が高くなるように形成されており、その少なくとも一部が前記遷移領域により外側から覆われており、
前記中間チューブと前記遠位側チューブとの接合箇所は、前記遠位側接合領域により外側から覆われているとともに、前記遠位側チューブが前記チューブ体の外周面を生じさせるように、これら中間チューブ及び遠位側チューブをラジアル方向に積層させて形成されていることを特徴とするバルーンカテーテル。
【請求項5】
前記中間チューブの近位端部は、前記膨張用領域と前記遷移領域との境界又はそれよりも近位側に存在していることを特徴とする請求項4に記載のバルーンカテーテル。
【請求項6】
前記チューブ体には、前記バルーンの軸線方向の所定位置を確認容易とするために確認用手段が取り付けられており、
前記中間チューブの近位端部は、前記確認用手段よりも遠位側に存在していることを特徴とする請求項4又は5に記載のバルーンカテーテル。
【請求項7】
前記中間チューブと前記近位側チューブとの接合箇所は、前記中間チューブが前記近位側チューブに対して外側となるように形成されていることにより、近位側に向けた段差面を有しており、
前記確認用手段は、筒状をなしており且つ遠位側の端面が前記段差面に近位側から当接するようにして設けられていることを特徴とする請求項6に記載のバルーンカテーテル。」

3-2 甲各号証の記載
(1)刊行物1
平成28年12月19日付けの取消理由において引用した米国特許出願公開2009/0156998号明細書(異議申立人の提出した甲第1号証。以下、「刊行物1」という。)には、次のとおり記載されている(和文は異議申立書に添付された甲第1号証の部分翻訳文に準じて作成したものである。)。
(1-1)「[0022]FIG.1 illustrates an elevational view, partially in section, of a balloon catheter 10 embodying features of the invention, generally comprising an elongated shaft 11 having a proximal end, a distal end, an inflation lumen 12 , a guidewire receiving lumen 13 , and a balloon 14 on a distal shaft section having an inflatable working length between an inflatable proximal cone section and an inflatable distal cone section 15 , and a proximal skirt section and distal skirt section 16 sealingly secured to the shaft, such that an interior of the balloon is in fluid communication with the inflation lumen 12 . In the illustrated embodiment the shaft 11 comprises an outer tubular member 17 with the inflation lumen 12 therein, and an inner tubular member 18 with the guidewire lumen 13 therein, and a distal tip member 19 is secured to a distal end of the inner tubular member 18 to define a distal end section of the guidewire lumen. A radiopaque marker band 40 of metal or radiopaque loaded polymer is on the inner tubular member at about the center of the working length of the balloon, although radiopaque markers can be provided at a variety of locations including at the ends of the working length section.・・・」(図1は、本発明の特徴を具現化するバルーンカテーテル10の部分的な領域における立面図を表しており、一般にバルーンカテーテル10は、近位端と、遠位端と、膨張腔12と、ガイドワイヤ受取りルーメン13と、を有する長尺シャフト11と、遠位側シャフト領域上であって、膨張可能な近位側コーン領域と遠位側コーン領域の間に膨張可能な作動長さと、バルーンの内部が膨張腔12と流体が連通するようにシャフトに密着固定されている近位側スカート領域と、遠位側スカート領域16とを有するバルーン14と、を含む。図示された実施態様において、シャフト11は、内側に膨張腔12がある外筒部材17と、内側にガイドワイヤルーメンがある内筒部材18と、を含み、遠位先端部材19が、ガイドワイヤルーメンの遠位端領域で規定される内筒部材18の遠位端に固定されている。金属又はX線不透過性物質を含むポリマーのX線不透過マーカーバンド40は、内筒部材上であって、バルーンの作動長さの略中心に配置されるが、X線不透過マーカーは、作動長さ領域の両端を含む様々な場所に配置することができる。・・・)
(1-2)「[0023] In the embodiment of FIG. 1 , the inner tubular member 18 comprises a proximal member 26 , and a distal member 27 which has a proximal end bonded to a distal end of the proximal member 26 , and which forms the distal end of the inner tubular member bonded to the distal tip member 19 . Typically, the distal member 27 of the inner tubular member is more flexible than the proximal member 26 , to improve the ability of the catheter to track along the guidewire 20 and be advanced within a patient's tortuous anatomy. The distal tip member 19 is typically formed of a relatively soft polymeric material providing an atraumatic distal leading end, and in one embodiment, is formed at least in part of a softer polymeric material than the distal end section of the inner tubular member immediately proximally adjacent to the soft distal tip member 19 . The soft distal tip member 19 can be formed of a variety of suitable polymeric materials, although at least the outer surface is preferably fusion bond compatible with the material of the balloon 14 .・・・In the embodiment of FIG. 1 , a proximal end of the distal tip member 19 is located in the balloon inflatable interior proximal to the distal skirt section 16 , and the distal skirt section 16 is sealingly secured to an outer surface of (only) the distal tip member 19 .」(図1の実施態様において、内筒部材18は、近位部材26と、近位部材26の遠位端に接合されている近位端を有し、遠位先端部材19に接合されている内筒部材の遠位端を形成する遠位部材27と、を含む。典型的には、ガイドワイヤ20に沿って追従するカテーテルの能力を向上させて、患者の屈曲した人体構造内を進むために、典型的には、内筒部材の遠位部材27は、近位部材26よりも柔軟性を有している。遠位先端部材19は、典型的には、非侵襲性の遠位先端をもたらす比較的柔軟性のあるポリマー材料から形成され、一実施態様としては、遠位先端部材19は、少なくとも一部が、柔軟な遠位先端部材19に近接している内筒部材の遠位端領域よりも柔軟なポリマー材料から形成される。柔軟な遠位先端部材19は、様々な適切なポリマー材料から形成することができるが、少なくとも、外表面がバルーン14の材料とより接合に適していることが好ましい。・・・図1の実施態様において、遠位先端部材19の近位端は、バルーンの膨張可能な内部であって遠位側スカート領域16の近位側に配置されており、遠位側スカート領域16は、遠位先端部材19(のみ)の外表面に密着固定されている。)
(1-3)「[0038]・・・FIG. 10 illustrates an alternative embodiment of the invention in which the shaft 111 has a first diagonal seam 120 which is between the inner tubular member 118 and tip member 119 and which is located under the distal skirt of the balloon 114 , and a second diagonal seam 120 between two segments 124 , 125 of the inner tubular member 118 located proximal to the soft tip member 119 .」(図10は、本発明の他の実施態様を表し、シャフト111は、内筒部材118と先端部材119の間であって、バルーン114の遠位側スカートの下に配置されている第1の斜めの継ぎ目120と、柔軟な先端部材119の近位側に配置されている内筒部材118の2つのセグメント124と125の間の第2の斜めの継ぎ目120と、を有する。)

(1-4)Fig.10の記載から、次の構造が窺える。
(1-4-1)カテーテルのバルーン(114)が、「内筒部材(118)及び遠位先端部材(119)」の遠位端側を覆うようにして設けられていること。
(1-4-2)バルーン(114)は、「内筒部材(118)及び遠位先端部材(119)」に対する遠位側の接合箇所を構成する遠位側スカート領域と、バルーン(114)の膨張時において最も外側に張り出す部分を構成する遠位側コーン領域と近位側コーン領域との間の領域(以下、当該領域を「作動長さ領域」という。)と、遠位側スカート領域と作動長さ領域との間に設けられた遠位側コーン領域を備えていること。
(1-4-3)「内筒部材(118)及び遠位先端部材(119)」は、遠位側を構成する遠位先端部材(119)と、遠位先端部材(119)よりも近位側に設けられる「内筒部材(118)の近位セグメント(124)」と、遠位先端部材(119)及び近位セグメント(124)の間に設けられる、「内筒部材(118)の遠位セグメント(125)」とを備えていること。
(1-4-4)遠位セグメント(125)の近位端部が、近位セグメント(124)と接合されているとともに、遠位セグメント(125)の遠位端部が遠位先端部材(119)と接合されていること。
(1-4-5)「内筒部材118の遠位セグメント(125)」の遠位側が、バルーン(114)の遠位側コーン領域により外側から覆われていること。
(1-4-6)「内筒部材(118)の遠位セグメント(125)」と遠位先端部材(119)との接合箇所である斜めの継ぎ目(120)が、遠位側スカート領域により外側から覆われていること。
(1-4-7)「内筒部材(118)の遠位セグメント(125)」の近位端部が、作動長さ領域と遠位側コーン領域との境界よりも近位側に存在していること。

(1-5)Fig.1の記載から、X線不透過性マーカーバンド(40)が、近位部材(26)上に配置され、遠位部材(27)の近位端部から所定距離だけ離れていることが窺える。

上記の記載事項(1-1)?(1-3)及び図示内容(1-4-1)?(1-4-7)によれば、刊行物1にはFig.10に係るものについて次の発明が記載されている(以下、「刊行物1発明」という。)。

「A 流体を利用して膨張又は収縮されるバルーン(114)が、内筒部材(118)及び遠位先端部材(119)の遠位端側を覆うようにして設けられたバルーンカテーテルにおいて、
B バルーン(114)は、
内筒部材(118)及び遠位先端部材(119)に対する遠位側の接合箇所を構成する遠位側スカート領域と、
バルーン(114)の膨張時において最も外側に張り出す部分を構成する作動長さ領域と、
遠位側スカート領域と作動長さ領域との間に設けられた遠位側コーン領域と、
を備え、
C 内筒部材(118)及び遠位先端部材(119)は、
当該内筒部材(118)及び遠位先端部材(119)の遠位側を構成する遠位先端部材(119)と、
当該遠位先端部材(119)よりも近位側に設けられた内筒部材(118)の近位セグメント(124)と、
これら遠位先端部材(119)及び内筒部材(118)の近位セグメント(124)の間に設けられ、近位端部が内筒部材(118)の近位セグメント(124)に接合されているとともに、遠位端部が遠位先端部材(119)に接合された内筒部材(118)の遠位セグメント(125)と、を備え、
D 内筒部材118の遠位セグメント(125)は、その少なくとも一部が遠位側コーン領域により外側から覆われており、内筒部材(118)の遠位セグメント(125)と遠位先端部材(119)との接合箇所である斜めの継ぎ目(120)が、遠位側スカート領域により外側から覆われており、内筒部材(118)の遠位セグメント(125)の近位端部が、作動長さ領域と遠位側コーン領域との境界よりも近位側に存在しているバルーンカテーテル。」

(2)刊行物2
同じく平成28年12月19日付けの取消理由において引用した特開2008-200317号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次のとおり記載されている。
(2-1)「【0007】
本発明のバルーンカテーテル(バルーンカテーテル10)は、内腔(内腔13a)に流体が流通される外側チューブ(ディスタールシャフト13)と、当該外側チューブの内腔を通るようにして設けられるとともに、外側チューブよりも先端側に延長させて設けられ、内腔(内腔14a)にガイドワイヤ(ガイドワイヤG)が挿通される内側チューブ(インナーシャフト14)と、前記外側チューブの先端領域及び前記内側チューブの延長領域に保持され、前記外側チューブの内腔を流体が流通することにより膨張又は収縮する中空のバルーン(バルーン16,61,91)と、を備えており、前記内側チューブにおける前記バルーンに覆われた被覆領域(延長領域36)は、基端側から先端側に向けて連続的に又は段階的に剛性が低くなるようにして形成されていることを特徴とする。
【0008】
本構成によれば、バルーンにより被覆された領域において基端側よりも先端側の剛性が低くなり、結果的にバルーンカテーテルのバルーンが設けられた領域において基端側よりも先端側の剛性が低くなる。これにより、バルーンカテーテルの屈曲血管(又はガイドワイヤ)への追随性と、体内へバルーンカテーテルを挿入する際の力の伝達性とを、バルーンが設けられた領域において高めることができる。」
(2-2)「【0012】
前記被覆領域を基端側から先端側に向けて連続的に又は段階的に外径が小さくなるようにして形成することで、当該被覆領域の前記断面積を基端側から先端側に向けて連続的に又は段階的に小さくすると良い。この場合、被覆領域の外径を変化させる(又は肉厚を薄肉化させる)という比較的簡素な手法により、上記の優れた効果を奏することができる。・・・
【0013】
上記のように被覆領域の先端側の外径を基端側よりも小さくすることは、前記内側チューブの被覆領域における長さ方向の途中位置に段差部(段差部37,71,105)を形成することで実現できる。
【0014】
なお、前記バルーンが、先端側固定領域(先端側レッグ領域45,96)、先端に向けて縮径された先端側テーパ領域(先端側コーン領域44,62,95)、膨張時においてバルーンの最大径部位となる直管領域(直管領域43,64,94)、基端に向けて縮径された基端側テーパ領域(基端側コーン領域42,63,93)及び基端側固定領域(基端側レッグ領域41,65,92)を先端側からこの順で有している構成においては、前記段差部の位置を、前記バルーンの先端側テーパ領域に覆われた領域よりも基端側であって、前記バルーンと前記外側チューブとの固定部位よりも先端側とすると良い。この場合、バルーンが収縮状態となった際に当該バルーンの内側チューブ周りの巻きつきにより剛性が周囲よりも高くなる領域において、基端側から先端側に向けて段階的に剛性を低くすることができる。」
(2-3)「【0037】
なお、「内側チューブ体」は、単一の部材で構成されているものに限定されることはなく、複数部材で構成されていてもよい。例えば、内側チューブ体は、ガイドワイヤが挿通される内腔(内腔14a)を有する内側チューブ(インナーシャフト14)と、前記ガイドワイヤが挿通される内腔(内腔18a)を有するとともに当該内腔が前記内側チューブの内腔に連通されるようにして当該内側チューブの先端側に固定され、且つ当該内側チューブよりも剛性が低い先端チップ体(先端チップ体18)とを備えた構成としてもよい。」
(2-4)「【0072】
インナーシャフト14の延長領域36について詳細に説明する。
【0073】
インナーシャフト14の延長領域36は、上記のとおりバルーン16によりその外周面が覆われている。延長領域36は、図4(b)に示すように、基端側から先端側に向けて外径が段階的に小さくなるように、長さ方向の途中位置にて肉厚が薄肉化されており、この肉厚が変化する部分において段差状となっている(この段差状となった部位を、段差部37という)。但し、上記のように外径を変化させた構成において、内径は同一となっている。これにより、延長領域36における軸線方向に対して垂直方向の断面積が先端側に向けて段階的に小さくなり、結果的に延長領域36の剛性(曲げこわさ又は曲げモーメント)が先端側に向けて段階的に低くなっている。そして、これに伴って、バルーンカテーテル10のバルーン16が設けられた領域において、先端側が低くなるように剛性を変化させることができる。よって、バルーンカテーテル10の追随性及び伝達性をバルーン16が設けられた領域においても高めることができる。また、上記段差部37の位置は、延長領域36においてバルーン16の直管領域43に覆われた部位となっている。これにより、バルーン16が設けられた領域の中間寄りの位置にて剛性を変化させることができる。
【0074】
延長領域36には、X線投影下でのバルーン16の視認性を向上させ、且つ目的とする治療箇所へのバルーン16の位置決めを容易に行うために、金属製の造影環(造影マーカ部材又は造影体)47が設けられている。
【0075】
造影環47は基端側の端面47aを段差部37に当接させて設置されている。これにより、バルーンカテーテル10の体内への挿入時や、血管の狭窄部位をバルーン16周辺が通過する際に、造影環47に対して基端側に向けて負荷が掛かったとしてもその負荷が段差部37にて受けられ、造影環47の位置がずれてしまうことが防止される。また、造影環47をインナーシャフト14に取り付ける際の位置決めの容易化が図られる。さらにまた、剛性がバルーン16などより高い造影環47を、インナーシャフト14において段差部37よりも先端側の剛性が低下された領域に配置することで、造影環47による剛性の変化の影響が低減される。ちなみに、造影環47は造影機能を果たすのであれば、金属製に限定されることはなく合成樹脂製であってもよい。」
(2-5)「【0091】
(第2の実施形態)
本実施形態では、バルーン周辺の構成が上記第1の実施形態と異なっている。・・・
【0093】
インナーシャフト14の延長領域36は、上記第1の実施形態と同様に、その外周面がバルーン61により覆われており、長さ方向の途中位置には、基端側から先端側に向けて外径が段階的に小さくなるように段差部71が形成されている。この場合に、段差部71の位置が上記第1の実施形態と異なっている。つまり、段差部71は、図5(a)に示すように、延長領域36の途中位置であって、バルーン61における基端側コーン領域63と直管領域64との境界線上に位置している。そして、図5(b)に示すように、段差部71に基端側の端面72aを当接させて造影環72が取り付けられている。
【0094】
また、延長領域36のシャフト先端部38には、上記第1の実施形態と同様に、シャフト先端部38を外側から覆うように先端チップ体18が接合されている。この場合に、シャフト先端部38とチップ基端部51との接合部位は、その基端側に比べ肉厚となっており、段差状となっている。つまり、接合部位は、延長領域36及び先端チップ体18の周囲の領域に比して拡径されている。この段差状を形成する段差部73は、図5(a)に示すように、延長領域36の途中位置であって、バルーン61における直管領域64と先端側コーン領域62との境界線上に位置するように形成されている。そして、図5(c)に示すように、段差部73に先端側の端面74aを当接させて造影環74が取り付けられている。」

上記(2-1)?(2-3)の記載から、刊行物2には「内側チューブと外側チューブとを有するバルーンカテーテルにおいて、バルーンカテーテルの屈曲血管への追随性と、体内へバルーンカテーテルを挿入する際の力の伝達性とを、バルーンが設けられた領域において高めるために、内側チューブのバルーンに覆われた被覆領域について、先端側から基端側に向けて剛性が高くなるようにして形成する発明」(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されている。

(3)刊行物3
同じく平成28年12月19日付けの取消理由において引用した米国特許6575934号明細書(以下、「刊行物3」という。)には、次のとおり記載されている(和文は当審による訳文。)。
(3-1)「FIELD OF INVENTION
The invention relates to the field of intravascular delivery systems, and more particularly to dilatation balloon catheters. 」(1欄2?5行)(発明の分野
本発明は、血管内のデリバリーシステムの分野、そして特にバルーンカテーテルの拡張に関するものである。)
(3-2)「In the design of catheter balloons, balloon characteristics such as strength, flexibility and compliance must be tailored to provide optimal performance for a particular application. An important consideration in the design of the dilatation catheter assemblies is the flexibility of the distal tip of the catheter at the distal end of the balloon while maintaining the strength of the bond between the catheter and the balloon material. 」(1欄下から17?10行)(バルーンカテーテルの設計では、強度、柔軟性および適合性のようなバルーンの特徴は、特定の適用のために最適の性能を提供できるよう調整されなければならない。拡張カテーテルアセンブリの設計における重要な考慮事項は、カテーテルとバルーン素材の結合強度を保ちながらのバルーンの遠位端におけるカテーテル遠位先端の柔軟性である。)
(3-3)「In the embodiment features of which are illustrated in FIG. 1 , the catheter 10 of the present invention is a balloon catheter having an elongated catheter shaft 13 having a proximal section 16 and a distal section 19 with an inflatable balloon 22 on the distal section 19 of the shaft 13 and in surrounding relationship thereto. 」(3欄20?25行)(図1に描かれている実施形態の特徴では、本発明のカテーテル10は、近位部分16と、シャフト13の遠位部分19にあって、その遠位部分に取り巻く関係にある拡張可能なバルーン22を伴う遠位部分19を有する、細長いカテーテルシャフト13を持つバルーンカテーテルである。)
(3-4)「In the embodiment features of which are illustrated in FIGS. 1 through 4 , the catheter shaft 13 comprises an outer tubular member 68 , an inner tubular member 71 having a distal portion 74 with a distal end 77 , and a soft distal tip 80 having a distal end 83 ; the inner tubular member 71 defining, with the outer tubular member 68 , an inflation lumen 84 , in fluid communication with a balloon interior chamber 85 . ・・・The balloon 22 is bonded, preferably fusion bonded, to the outer tubular member 68 by the proximal fusion bond 63 , and to the inner tubular member 71 and the distal soft tip 80 by the distal fusion bond 65 . ・・・
Preferably, at least one marker 88 , is located on a portion 89 of the inner member 71 extending within the interior 85 of the balloon 82 . In a preferred embodiment, a distal edge 92 of the marker 88 is radially lined up with the first end 43 of the balloon distal taper 34 .
As best can bee seen in FIG. 4 , an overlap portion 95 is formed between a proximal portion 98 of the soft distal tip 80 , the distal portion 74 of the inner tubular member 71 , and the distal balloon shaft 55 . 」(3欄40行?4欄2行)(図1から4に描かれている実施形態の特徴では、カテーテルシャフト13は、外部管状部材68と遠位端77を有する遠位部分74を持つ内部管状部材71、そして遠位端83を持つ柔らかい遠位先端80を含む。内部管状部材71は、外部管状部材68を伴い、バルーン内部室85と流体連通する拡張内腔84を確定する。・・・バルーン22は、近位融合結合63に外部管状部材68、また、遠位融合結合65により内部管状部材71及び遠位軟性先端80へ、望ましくは融合結合により結合される。・・・
望ましくは、少なくとも1つのマーカー88は、バルーン82の内部85の中で伸びている内部部材71の部分89に位置される。望ましい実施形態では、マーカー88の遠位縁92は、バルーン遠位テーパー34の第一端部43に放射状に並ぶ。
図4で最もよく見られるとおり、重複部分95は軟性遠位先端80の近位部分98と、内部管状部材71の遠位部分74と、そして遠位バルーンシャフト55の間で形成される。)

(3-5)Fig.4の記載から、内部管状部材71と遠位先端80は、重複部分95において遠位先端80が外周面を生じさせるように内部管状部材71に対してラジアル方向に積層されて1本のチューブ体の形状をなしていることが窺える。

上記(3-1)?(3-4)の記載と(3-5)の図示内容とを併せてみて、刊行物3には「バルーン22と内部管状部材71と軟性遠位先端80とを有するバルーンカテーテル10について、内部管状部材71、軟性遠位先端80及びバルーン22の遠位バルーンシャフト55との結合性の強度と柔軟性を保つために、内部管状部材71と軟性遠位先端80との接合箇所を、遠位バルーンシャフト55により外側から覆われたものとするとともに、軟性遠位先端80がチューブ体の外周面を生じさせるように、これら内部管状部材71及び軟性遠位先端80をラジアル方向に積層させて形成する発明」(以下、「刊行物3発明」という。)が記載されている。

(4)刊行物4
平成28年3月31日付けの取消理由において引用した特開平08-289934号公報(以下、「刊行物4」という。)には、次のとおり記載されている。
(4-1)「【0001】・・・さらに詳しくは、拡張バルーンの内部にある内管の外周面上にX線不透過マーカーを有する医療用バルーン拡張カテーテルの改良に関するものである。」
(4-2)「【0002】・・・これらのバルーン拡張カテーテルでは、バルーン内の、外径が一定の内管外周面上にX線不透過マーカーリングを嵌め込み、またその固定のため、マーカーリングを覆うように熱収縮チューブが被着されている。・・・」
(4-3)「【0008】本発明の拡張カテーテルは、図1に示すように、バルーン1内部の内管2の外周面上のX線不透過マーカー3が取り付けられる位置に、凹溝6を設け、該凹溝6内にX線不透過マーカー3を嵌め込み、その上に熱収縮チューブ4を被覆してなる。・・・」
(4-4)「【0010】本発明において、X線不透過マーカー3としては従来のマーカーリングを用いることができる・・・」

3-3 対比・判断
(1)本件特許発明5について
最初に、本件特許発明5について検討する。
(1-1)対比
本件特許発明5と刊行物1発明とは、いずれもバルーンカテーテルに関するものであって、刊行物1発明の「バルーン(114)」は、その構造又は機能からみて、本件特許発明5の「バルーン」に相当し、以下、同様に、「内筒部材(118)及び遠位先端部材(119)」は「チューブ体」に、「遠位側スカート領域」は「遠位側接合領域」に、「作動長さ領域」は「膨張用領域」に、「遠位側コーン領域」は「遷移領域」に、「遠位先端部材(119)」は「遠位側チューブ」に、「内筒部材(118)の近位セグメント(124)」は「近位側チューブ」に、「内筒部材(118)の遠位セグメント(125)」は「中間チューブ」に、それぞれ相当する。
また、刊行物1発明の「内筒部材(118)の遠位セグメント(125)の近位端部が、作動長さ領域と遠位側コーン領域との境界よりも近位側に存在している」は、本件特許発明5の「(前記)中間チューブの近位端部は、(前記)膨張用領域と(前記)遷移領域との境界又はそれよりも近位側に存在している」に相当する。
さらに、本件特許発明5の「(前記)中間チューブと(前記)遠位側チューブとの接合箇所は、(前記)遠位側接合領域により外側から覆われているとともに、前記遠位側チューブが(前記)チューブ体の外周面を生じさせるように、これら中間チューブ及び遠位側チューブをラジアル方向に積層させて形成され」と刊行物1発明の「内筒部材118の遠位セグメント(125)は、その少なくとも一部が遠位側コーン領域により外側から覆われており、内筒部材(118)の遠位セグメント(125)と遠位先端部材(119)との接合箇所である斜めの継ぎ目(120)が、遠位側スカート領域により外側から覆われ」とは、「中間チューブと遠位側チューブとの接合箇所は、遠位側接合領域により外側から覆われ」である限りにおいて一致する。

以上から、両者は、
「流体を利用して膨張又は収縮されるバルーンが、チューブ体の遠位端側を覆うようにして設けられたバルーンカテーテルにおいて、
前記バルーンは、
前記チューブ体に対する遠位側の接合箇所を構成する遠位側接合領域と、
前記バルーンの膨張時において最も外側に張り出す部分を構成する膨張用領域と、
前記遠位側接合領域と前記膨張用領域との間に設けられた遷移領域と、
を備え、
前記チューブ体は、
当該チューブ体の遠位側を構成する遠位側チューブと、
当該遠位側チューブよりも近位側に設けられた近位側チューブと、
これら遠位側チューブ及び近位側チューブの間に設けられ、近位端部が前記近位側チューブに接合されているとともに、遠位端部が前記遠位側チューブに接合された中間チューブと、を備え、
前記中間チューブは、その少なくとも一部が前記遷移領域により外側から覆われており、
前記中間チューブと前記遠位側チューブとの接合箇所は、前記遠位側接合領域により外側から覆われており、
前記中間チューブの近位端部は、前記膨張用領域と前記遷移領域との境界又はそれよりも近位側に存在しているバルーンカテーテル。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
チューブ体に係る遠位側チューブ、中間チューブ及び近位側チューブの剛性について、本件特許発明5は、近位側チューブが遠位側チューブよりも剛性が高くなるように形成されたものであるとともに、中間チューブが近位側チューブよりも剛性が低く且つ遠位側チューブよりも剛性が高くなるように形成されたものであるのに対し、刊行物1発明は、近位側チューブと中間チューブとのいずれについてもどのような剛性に形成されているか不明である点。

(相違点2)
遠位側接合領域により外側から覆われている中間チューブと遠位側チューブとの接合箇所について、本件特許発明5は、遠位側チューブがチューブ体の外周面を生じさせるように、これら中間チューブ及び遠位側チューブをラジアル方向に積層させて形成されているのに対し、刊行物1発明は、斜めの継ぎ目であって、遠位側チューブがチューブ体の外周面を生じさせるように、これら中間チューブ及び遠位側チューブをラジアル方向に積層させて形成されているものではない点。

(1-2)判断
(相違点1について)
刊行物2には、刊行物1発明と同様のバルーンカテーテルに関し、刊行物2発明が記載されている。そして、刊行物2発明の「内側チューブのバルーンに覆われた被覆領域」、「先端側」及び「基端側」は、それぞれ刊行物1発明の「チューブ体」、「遠位側」及び「近位側」に対応する。
したがって、刊行物1発明に刊行物2発明を適用することにより、刊行物1発明の遠位側チューブ、中間チューブ及び近位側チューブの剛性について、近位側チューブが遠位側チューブよりも剛性が高くなるように形成されたものとするとともに、中間チューブが近位側チューブよりも剛性が低く且つ遠位側チューブよりも剛性が高くなるように形成されたものとすることは、当業者が容易になし得る程度の事項にすぎない。

(相違点2について)
刊行物3には、刊行物1発明と同様のバルーンカテーテルに関し、刊行物3発明が記載されている。そして、刊行物3発明の「内部管状部材71」、「軟性遠位先端80」及び「遠位バルーンシャフト55」は、それぞれ刊行物1発明の「中間チューブ」、「遠位側チューブ」及び「遠位側接合領域」に対応する。
したがって、刊行物1発明に刊行物3発明を適用することにより、遠位側接合領域により外側から覆われている中間チューブと遠位側チューブとの接合箇所について、中間チューブと遠位側チューブとの結合性の強度と柔軟性を保つために、刊行物1発明の斜めの継ぎ目にかえて、遠位側チューブがチューブ体の外周面を生じさせるように、これら中間チューブ及び遠位側チューブをラジアル方向に積層させて形成されているものとすることは、当業者が容易になし得る程度の事項にすぎない。

そして、本件特許発明5の効果は、刊行物1発明、刊行物2発明及び刊行物3発明から当業者が予測できた程度のものと認められる。

(1-3)特許権者の主張について
(a)特許権者は、平成28年11月30日に提出した意見書において、「特許法では、「通知した取消理由に対して訂正の請求があったときは、特許異議申立人が希望しない場合又はその機会を与える必要がないと認められる特別の事情がある場合を除き、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えなければならない」と規定されている(120条の5第5項)。
ここで、審判便覧67-05.4Pには、訂正の請求の内容が実質的な判断に影響を与えるものではない場合等、特許異議申立人に意見を聴くまでもないことが明らかなときは、「特別の事情」にあたるとして、特許異議申立人に提出する機会は与えないと記載されている。また、「特別の事情」にあたる場合として、同じく審判便覧67-05.4Pには、「訂正が一部の請求項の削除のみの場合」が挙げられている。
この点、本特許異議申立事件において、前回の取消理由通知の対応として行った訂正(平成28年6月6日付けの訂正)は、設定登録時の請求項1?3を削除するという訂正であった。つまり、前回の訂正は、一部の請求項の削除のみを行う訂正であった。そうすると、前回の訂正は、上述の「特別の事情」に該当するものと思われ、本来であれば、特許異議申立人に意見書を提出する機会が与えられるべきではなかったものと思われる。
つまり、前回の訂正は、設定登録時の請求項1?3を削除するだけで、現請求項4は設定登録時の請求項4そのものである。設定登録時の請求項4(現請求項4)には、特許異議の申立期間(特許掲載公報発行の日から6月以内)に特許異議申立人に十分意見を主張する機会が与えられており、そのような現請求項4に意見を主張する機会を再度、特許庁(審判長)は特許異議申立人に与えるべきでなかったと思われる。
よって、本来、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えるべきでなかったにもかかわらず、意見書を提出する機会を与えたことには手続上の瑕疵があると思われる。・・・特許異議申立人に対して意見書を提出する機会を与え・・・た特許庁の手続には違法性があると思われる。」と主張している(2?3頁)。
しかしながら、特許法第120条の5第5項には、特別の事情がある場合に特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えてはならないと規定されているのではない。
一方、特許法第120条の8第1項において準用する同法134条4項には、審判長は、審判に関し、当事者を審尋することができる旨規定されている。
たしかに、審判便覧67-05.4Pには請求人主張のとおり記載されてはいるが、そもそも審判便覧は法源ではなく、審判便覧の規定に抵触することをもって、ただちに「違法」となるものではない。また、行政庁として審判便覧の規定は十分尊重すべきものではあるが、特許法120条の5第5項の条文の規定及びその解釈は上記のとおりであり、紛争の一回的解決のために、特許法の解釈として個別具体的に妥当と考えられる合議体の手続を、審判便覧が一律に禁じているとは考え難い。

したがって、審判便覧67-05.4Pに記載された「「特別の事情」にあたるとして、特許異議申立人に提出する機会は与えない」に該当する場合であっても、合議体が、異議申立人の意見を聴く必要があると認めるときは、意見書を提出する機会を与えることも、格段手続上の瑕疵とまではいえない。
以上から、異議申立人の意見を聴く必要があると認め、意見書を提出する機会を与えたことに違法性はなく、特許権者の当該主張は理由がない。

(b)また、特許権者は、「特許異議申立人は、意見書の提出に際し、新たな証拠として甲第5号証(米国特許第6575934号明細書)を提出している。そして、意見書提出後に審判官の合議体により行われた審理では、この新たな証拠である甲第5号証を刊行物3とし、その刊行物3に基づく審理が行われている。ただ、この刊行物3は、訂正の請求の内容に付随した証拠ではなく、特許異議の申立期間において本来提出することができた証拠である。なぜなら、前回の訂正では、上述したように、一部の請求項を削除しているだけであるため、訂正に付随して新たな理由や証拠が発生しているはずはないからである。そうすると、刊行物3は、特許異議の申立期間を超えて新たに提出された証拠であるといえ、そのような新たな証拠を採用したことには瑕疵があると考える。・・・意見書提出時に特許異議申立人より新たに提出された刊行物3(甲第5号証)に基づき取消理由を通知した特許庁の手続には違法性があると思われる。」と主張している(3頁)。
しかしながら、特許法に特許権者の主張する「新たな証拠」を採用することを禁ずる規定はない。
一方、特許法第120条の2第1項には、「特許異議の申立てについての審理においては、特許権者、特許異議申立人又は参加人が申し立てない理由についても、審理できる。」と規定され、職権審理が認められている。
したがって、平成28年10月5日付けの取消理由通知及び及び平成28年12月19日付け取消理由通知において、合議体が職権により刊行物3(米国特許第6575934号明細書)を採用している点に違法性はなく、特許権者の当該主張は理由がない。

(c)また、特許権者は、「刊行物1発明では、遠位セグメント125と遠位先端部材119との接合箇所(継ぎ目120)を斜めにすることで、当該接合箇所の長さを長くし、それによって、遠位セグメント125と遠位先端部材119とが互いの端面を突き合わせて接合される構成にあっても、接合強度を高めることができるとともに、段階的な柔軟性の遷移(移行)を実現することができるものとなっている。この点は、刊行物1発明の大きな特徴となっており、また、刊行物1の特許請求の範囲(請求項11)に「斜め接合」に関する構成が記載されていることからも明らかである。そうすると、かかる刊行物1発明において、当業者が、刊行物1発明の斜めの継ぎ目120に代えて、刊行物3発明の積層構造を適用しようと試みることはないと考えられる。」と主張している(5頁)。
しかしながら、平成28年10月5日付け取消理由通知及び平成28年12月19日付け取消理由通知に記載したとおり、刊行物3には「バルーン22と内部管状部材71と軟性遠位先端80とを有するバルーンカテーテル10について、内部管状部材71、軟性遠位先端80及びバルーン22の遠位バルーンシャフト55との結合性の強度と柔軟性を保つために、内部管状部材71と軟性遠位先端80との接合箇所を、遠位バルーンシャフト55により外側から覆われたものとするとともに、軟性遠位先端80がチューブ体の外周面を生じさせるように、これら内部管状部材71及び軟性遠位先端80をラジアル方向に積層させて形成する発明」(「刊行物3発明」の記載を参照。)が記載されている。そして、刊行物3発明の内部管状部材71と軟性遠位先端80との接合箇所の構造と、刊行物1発明の遠位セグメント125と遠位先端部材119との接合箇所箇所の構造とは、いずれも、2つの管状部材の接合箇所を斜めにすることで、当該接合箇所の長さを長くし、それによって、2つの部材が互いの端面を突き合わせて接合される構成にあっても、接合強度を高めることができるとともに、段階的な柔軟性の遷移(移行)を実現することができるという技術に関するものと認められる。
そうすると、刊行物1発明の遠位セグメント125と遠位先端部材119との接合箇所について、2つの管状部材の接合箇所を斜めにすることで、当該接合箇所の長さを長くし、それによって、2つの部材が互いの端面を突き合わせて接合される構成にあっても、接合強度を高めることができるとともに、段階的な柔軟性の遷移(移行)を実現する技術として、刊行物1発明のような斜めの継ぎ目120の構造とするかあるいは刊行物3発明のような2つの部材をラジアル方向に積層させた構造とするかは当業者が必要に応じて選択し得る程度の事項であると認められる。
よって、刊行物1発明において、当業者が、刊行物1発明の斜めの継ぎ目120に代えて、同様の技術についての刊行物3発明の積層構造を適用しようと試みることは想定し得るものと認められるから、特許権者の当該主張は理由がない。

(d)また、特許権者は、「取消理由通知では、中間チューブと遠位側チューブとの結合性の強度及び柔軟性を保つために、刊行物1発明の斜めの継ぎ目120に代えて、刊行物3発明の積層構造とすることは当業者にとって容易であるとの指摘がされている。しかしながら、刊行物1発明では、上述したように、斜めの継ぎ目120により接合強度を高めつつ段階的な柔軟性の移行を実現したものとなっている。そのため、当業者が、かかる継ぎ目120に代えて、わざわざ同じような機能を実現する目的で、刊行物3発明の積層構造を適用することはないと考えられる。
したがって、刊行物1発明に刊行物3発明を適用することで、刊行物1発明の斜めの継ぎ目120に代えて、遠位側チューブがチューブ体の外周面を生じさせるように、これら中間チューブ及び遠位側チューブをラジアル方向に積層させて形成されているものとすることは、当業者が容易になし得る程度のものではないといえる。」と主張している(6頁)。
しかしながら、上記(c)欄に記載したとおり、刊行物1発明の遠位セグメント125と遠位先端部材119との接合箇所について、2つの管状部材の接合箇所を斜めにすることで、当該接合箇所の長さを長くし、それによって、2つの部材が互いの端面を突き合わせて接合される構成にあっても、接合強度を高めることができるとともに、段階的な柔軟性の遷移(移行)を実現する技術として、刊行物1発明のような斜めの継ぎ目120の構造とするかあるいは刊行物3発明のような2つの部材をラジアル方向に積層させた構造とするかは当業者が必要に応じて選択し得る程度の事項であると認められる。
よって、刊行物1発明において、継ぎ目120に代えて、同様の技術についての刊行物3発明の積層構造を適用することは想定し得るものと認められるから、特許権者の当該主張は理由がない。

(1-4)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明5は、刊行物1発明、刊行物2発明及び刊行物3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件特許発明4について
次に本件特許発明4について検討する。
本件特許発明5は、本件特許発明4を特定する事項を全て含むものであって、本件特許発明5が、刊行物1発明、刊行物2発明及び刊行物3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本件特許発明4も同様に、刊行物1発明、刊行物2発明及び刊行物3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件特許発明6について
(3-1)対比
本件特許発明6は、発明特定事項として、本件特許発明4又は5に、さらに「前記チューブ体には、前記バルーンの軸線方向の所定位置を確認容易とするために確認用手段が取り付けられており、前記中間チューブの近位端部は、前記確認用手段よりも遠位側に存在している」を有するものである。
一方、刊行物1発明は上記発明特定事項を有するといえない。
したがって、本件特許発明6と刊行物1発明とを対比すると、両者は、上記した相違点1、2に加えて、さらに次の点で相違する。
(相違点3)
本件特許発明6は、「チューブ体には、バルーンの軸線方向の所定位置を確認容易とするために確認用手段が取り付けられており、中間チューブの近位端部は、前記確認用手段よりも遠位側に存在している」との発明特定事項を有するものであるのに対し、刊行物1発明は当該発明特定事項を有しない点。

(3-2)判断
(相違点1、2について)
本件特許発明5と刊行物1発明との相違点についての判断と同様である。

(相違点3について)
刊行物1には、Fig.1に係るバルーンカテーテルに関し、内筒部材(18)が近位部材(26)とその遠位端に接合されている遠位部材(27)とからなること(「3-2(1)刊行物1」の(1-2)欄を参照。)、内筒部材(18)の遠位端に遠位先端部材(19)が固定されていること(「3-2(1)刊行物1」の(1-1)欄を参照。)、X線不透過性マーカーバンド(40)が、近位部材(26)上に配置され、遠位部材(27)の近位端部から所定距離だけ離れていること(「3-2(1)刊行物1」の(1-5)欄を参照。)が記載されている。そして、X線不透過性マーカーバンド40はバルーンの軸線方向の所定位置を確認容易とするものといえる。
したがって、刊行物1には、バルーンカテーテルに関し、「内筒部材(18)には、バルーンの軸線方向の所定位置を確認容易とするためにX線不透過性マーカーバンド(40)が取り付けられており、内筒部材(18)の遠位部材(27)の近位端部は、マーカーバンド(40)よりも遠位側に存在している」ものが記載されている(以下、「刊行物1記載事項」という。)。そして、上記の「内筒部材(18)」、「遠位部材(27)」は、それぞれ刊行物1発明の「チューブ体」、「中間チューブ」に対応する。
また、一般に、バルーンカテーテルにおいて、バルーンの軸線方向の所定位置を確認容易とするための確認用手段を設けることは広く行われている。
したがって、刊行物1発明に刊行物1記載事項を適用し、「チューブ体には、バルーンの軸線方向の所定位置を確認容易とするために確認用手段が取り付けられており、中間チューブの近位端部は、前記確認用手段よりも遠位側に存在している」ものとすることは当業者が容易になし得る程度の事項にすぎない。

そして、本件特許発明6の効果は、刊行物1発明、刊行物2発明、刊行物3発明及び刊行物1記載事項から当業者が予測できた程度のものと認められる。

(3-3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明6は、刊行物1発明、刊行物2発明、刊行物3発明及び刊行物1記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件特許発明7について
(4-1)対比
本件特許発明7は、発明特定事項として、本件特許発明6に、さらに「前記中間チューブと前記近位側チューブとの接合箇所は、前記中間チューブが前記近位側チューブに対して外側となるように形成されていることにより、近位側に向けた段差面を有しており、前記確認用手段は、筒状をなしており且つ遠位側の端面が前記段差面に近位側から当接するようにして設けられている」を有するものである。
一方、刊行物1発明は上記発明特定事項を有するといえない。
したがって、本件特許発明7と刊行物1発明とを対比すると、両者は、上記した相違点1?3に加えて、さらに次の点で相違する。
(相違点4)
本件特許発明7は、「中間チューブと近位側チューブとの接合箇所は、前記中間チューブが前記近位側チューブに対して外側となるように形成されていることにより、近位側に向けた段差面を有しており、前記確認用手段は、筒状をなしており且つ遠位側の端面が前記段差面に近位側から当接するようにして設けられている」との発明特定事項を有するものであるのに対し、刊行物1発明は当該発明特定事項を有しない点。

(4-2)判断
(相違点1?3について)
本件特許発明6と刊行物1発明との相違点についての判断と同様である。

(相違点4について)
刊行物1?4に、上記発明特定事項についての記載若しくは示唆があるかどうかについて検討する。
最初に、刊行物1について検討する。
刊行物1には、バルーンカテーテルのX線不透過性マーカーバンド(40)について、「金属又はX線不透過性物質を含むポリマーのX線不透過マーカーバンド40は、内筒部材上であって、バルーンの作動長さの略中心に配置されるが、X線不透過マーカーは、作動長さ領域の両端を含む様々な場所に配置することができる。」(「3-2(1)刊行物1」の(1-1)欄を参照。)との記載と、「X線不透過性マーカーバンド(40)が、近位部材(26)上に配置され、遠位部材(27)の近位端部から所定距離だけ離れていること」(「3-2(1)刊行物1」の(1-5)欄を参照。)との記載が認められるにすぎない。
そうすると、上記記載の「近位部材(26)」、「遠位部材(27)」及び「X線不透過性マーカーバンド(40)」が、それぞれ本件特許発明7に係る「近位側チューブ」、「中間チューブ」及び「確認用手段」に対応するものであるとしてみても、X線不透過性マーカーバンド(40)の端面が近位部材(26)と遠位部材(27)とからなる段差面に当接することについて記載も示唆もされていないから、上記発明特定事項の「前記確認用手段は、筒状をなしており且つ遠位側の端面が前記段差面に近位側から当接するようにして設けられている」について記載も示唆もあるといえない。

次に刊行物2について検討する。
刊行物2には、バルーンカテーテルのインナーシャフト14の延長領域に造影環47を設けることに関し、「【0073】・・・延長領域36は、図4(b)に示すように、基端側から先端側に向けて外径が段階的に小さくなるように、長さ方向の途中位置にて肉厚が薄肉化されており、この肉厚が変化する部分において段差状となっている(この段差状となった部位を、段差部37という)。・・・これにより、・・・延長領域36の剛性(曲げこわさ又は曲げモーメント)が先端側に向けて段階的に低くなっている。・・・
【0075】
造影環47は基端側の端面47aを段差部37に当接させて設置されている。これにより、バルーンカテーテル10の体内への挿入時や、血管の狭窄部位をバルーン16周辺が通過する際に、造影環47に対して基端側に向けて負荷が掛かったとしてもその負荷が段差部37にて受けられ、造影環47の位置がずれてしまうことが防止される。また、造影環47をインナーシャフト14に取り付ける際の位置決めの容易化が図られる。さらにまた、剛性がバルーン16などより高い造影環47を、インナーシャフト14において段差部37よりも先端側の剛性が低下された領域に配置することで、造影環47による剛性の変化の影響が低減される。・・・」(「3-2(2)刊行物2」の(2-4)欄を参照。)と記載されている。
しかしながら、上記記載の延長領域36のうち「段差部37の基端側部分」、「段差部37の先端側部分」及び「造影環47」が、それぞれ本件特許発明7に係る「近位側チューブ」、「中間チューブ」及び「確認用手段」に対応するものであるとしてみても、「段差部37の基端側部分」と「段差部37の先端側部分」とは段差部37で接合されたものではないから、上記発明特定事項の「中間チューブと近位側チューブとの接合箇所は、前記中間チューブが前記近位側チューブに対して外側となるように形成されていることにより、近位側に向けた段差面を有し」について記載も示唆もあるといえない。また、造影環47は段差部37の先端側部分に設けられるものであるから、「前記確認用手段は、筒状をなしており且つ遠位側の端面が前記段差面に近位側から当接するようにして設けられている」ことについても、記載も示唆もあるといえない。
また、刊行物2には、バルーンカテーテルのインナーシャフト14の延長領域に造影環74を設けることに関し、「シャフト先端部38を外側から覆うように先端チップ体18が接合されている。この場合に、シャフト先端部38とチップ基端部51との接合部位は、その基端側に比べ肉厚となっており、段差状となっている。・・・そして、図5(c)に示すように、段差部73に先端側の端面74aを当接させて造影環74が取り付けられている。」(「3-2(2)刊行物2」の(2-5)欄を参照。)と記載されている。しかしながら、当該記載の「先端チップ体18」と「シャフト先端部38」は、それぞれ、本件特許発明7の「遠位側チューブ」と「中間チューブ」が対応し、「中間チューブ」と「近位側チューブ」に対応するものではない。したがって、当該記載に基づき、「中間チューブと近位側チューブとの接合箇所は、前記中間チューブが前記近位側チューブに対して外側となるように形成されていることにより、近位側に向けた段差面を有し」ていることについて記載も示唆もあるといえない。

次に刊行物3について検討する。
刊行物3には、バルーンカテーテルの内部管状部材(71)にマーカー(88)を設けることが記載されているが、その構造については何ら記載されていない(「3-2(3)刊行物3」の(3-4)欄を参照。)。したがって、その詳細を検討するまでもなく、刊行物3に、本件特許発明7に係る上記発明特定事項についての記載も示唆もあるといえない。

次に刊行物4について検討する。
刊行物4には、バルーンカテーテルに確認用手段を設けるにあたり、外径が一定の内管外周上にX線不透過マーカーリングを嵌め込むこと(「3-2(4)刊行物4」の(4-2)欄を参照。)と、内管の外周面上に凹溝を設け、該凹溝内にX線不透過マーカーリングを嵌め込むこと(「3-2(4)刊行物4」の(4-3)及び(4-4)欄を参照。)とが記載されているにすぎない。
そうすると、上記記載の「内管」、「X線不透過マーカーリング」が、それぞれ本件特許発明7に係る「チューブ体」、「確認用手段」に対応するものであるとしてみても、「チューブ体」は、「X線不透過マーカーリング」が設けられているところで接合されたものではないから、上記発明特定事項の「中間チューブと近位側チューブとの接合箇所は、前記中間チューブが前記近位側チューブに対して外側となるように形成されていることにより、近位側に向けた段差面を有し」について記載も示唆もあるといえない。
また、外径が一定の内管外周上にX線不透過マーカーリングを嵌め込んだものは、内管に段差部がないから「前記確認用手段は、筒状をなしており且つ遠位側の端面が前記段差面に近位側から当接するようにして設けられている」ことについて、記載も示唆もあるといえない。
さらに、内管の凹溝内にX線不透過マーカーリングを嵌め込んだものは、凹溝により内管の近位側と遠位側との段差部が存在すると考えられるもののこれらの段差部部分とX線不透過マーカーリングとが当接するか記載も示唆もなく不明であるから「前記確認用手段は、筒状をなしており且つ遠位側の端面が前記段差面に近位側から当接するようにして設けられている」ことについて、記載も示唆もあるといえない。

したがって、刊行物1?4のいずれにも、本件特許発明7の上記発明特定事項についての記載も示唆もあるとすることはできない。
よって、刊行物1発明において、本件特許発明7に係る相違点4の発明特定事項を有するものとすることは当業者が容易になし得るものであるとすることはできない。

(4-3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明7は、刊行物1、刊行物2、刊行物3及び刊行物4に記載された発明から容易とはいえない。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明4?6は、刊行物1発明及び刊行物1、刊行物2及び刊行物3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件特許発明7は、刊行物1、刊行物2、刊行物3及び刊行物4に記載された発明によっては、取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許発明7を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1?3に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1?3に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
流体を利用して膨張又は収縮されるバルーンが、チューブ体の遠位端側を覆うようにして設けられたバルーンカテーテルにおいて、
前記バルーンは、
前記チューブ体に対する遠位側の接合箇所を構成する遠位側接合領域と、
前記バルーンの膨張時において最も外側に張り出す部分を構成する膨張用領域と、
前記遠位側接合領域と前記膨張用領域との間に設けられた遷移領域と、
を備え、
前記チューブ体は、
当該チューブ体の遠位側を構成する遠位側チューブと、
当該遠位側チューブよりも近位側に設けられ、当該遠位側チューブよりも剛性が高くなるように形成された近位側チューブと、
これら遠位側チューブ及び近位側チューブの間に設けられ、近位端部が前記近位側チューブに接合されているとともに、遠位端部が前記遠位側チューブに接合された中間チューブと、を備え、
前記中間チューブは、前記近位側チューブよりも剛性が低く且つ前記遠位側チューブよりも剛性が高くなるように形成されており、その少なくとも一部が前記遷移領域により外側から覆われており、
前記中間チューブと前記遠位側チューブとの接合箇所は、前記遠位側接合領域により外側から覆われているとともに、前記遠位側チューブが前記チューブ体の外周面を生じさせるように、これら中間チューブ及び遠位側チューブをラジアル方向に積層させて形成されていることを特徴とするバルーンカテーテル。
【請求項5】
前記中間チューブの近位端部は、前記膨張用領域と前記遷移領域との境界又はそれよりも近位側に存在していることを特徴とする請求項4に記載のバルーンカテーテル。
【請求項6】
前記チューブ体には、前記バルーンの軸線方向の所定位置を確認容易とするために確認用手段が取り付けられており、
前記中間チューブの近位端部は、前記確認用手段よりも遠位側に存在していることを特徴とする請求項4又は5に記載のバルーンカテーテル。
【請求項7】
前記中間チューブと前記近位側チューブとの接合箇所は、前記中間チューブが前記近位側チューブに対して外側となるように形成されていることにより、近位側に向けた段差面を有しており、
前記確認用手段は、筒状をなしており且つ遠位側の端面が前記段差面に近位側から当接するようにして設けられていることを特徴とする請求項6に記載のバルーンカテーテル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-17 
出願番号 特願2011-20876(P2011-20876)
審決分類 P 1 651・ 121- ZDA (A61M)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 安田 昌司  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 高木 彰
平瀬 知明
登録日 2015-06-12 
登録番号 特許第5759736号(P5759736)
権利者 株式会社グッドマン
発明の名称 バルーンカテーテル  
代理人 日野 京子  
代理人 安藤 悟  
代理人 日野 京子  
代理人 安藤 悟  
代理人 山田 強  
代理人 山田 強  

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