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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1329396 |
審判番号 | 不服2015-13799 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-07-22 |
確定日 | 2017-06-27 |
事件の表示 | 特願2010- 29249「スクロースエステルとポリグリセロールエステルとを含む組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月 2日出願公開、特開2010-189388〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年2月12日(パリ条約による優先権主張 2009年2月13日)を出願日とする特許出願(特願2010-29249号)であって、平成26年5月21日付けで拒絶理由が通知され、同年8月20日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正されたが、平成27年3月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に特許請求の範囲が補正され、さらに手続補足書が提出されたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成27年7月22日付け手続補正書による補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 平成27年7月22日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項ただし書第4号の場合の補正であって、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前(平成26年8月20日付け手続補正書)の、 「水性相、少なくとも一つの親油性化合物、及び組成物の主たる非イオン性界面活性剤システムとして、少なくとも一つのスクロースの脂肪酸エステルと少なくとも一つのポリグリセロールの脂肪酸エステルとの組み合わせを含む界面活性剤システムを含み、ポリグリセロールの脂肪酸エステルに対するスクロースの脂肪酸エステルの比が0.5以上である、ケラチン物質からメイクアップをクレンジングまたは除去するための化粧品組成物。」 を、 「水性相、少なくとも一つの親油性化合物、及び組成物の主たる非イオン性界面活性剤システムとして、少なくとも一つのスクロースの脂肪酸エステルと少なくとも一つのポリグリセロールの脂肪酸エステルとの組み合わせを含む界面活性剤システムを含み、ポリグリセロールの脂肪酸エステルに対するスクロースの脂肪酸エステルの比が0.5以上である、ケラチン物質からメイクアップをクレンジングまたは除去するための化粧品組成物であって、前記親油性化合物が、香油及び植物起源のオイルから成る群から選択され、組成物の全重量に対して0.001から1重量%の範囲の含量で存在することを特徴とする、組成物。」(なお、下線は原文のとおりである。) とするものである。 2.補正の目的 本件補正は、補正前の請求項1の「少なくとも一つの親油性化合物」を、「前記親油性組成物が、香油及び植物起源のオイルから成る群から選択され、組成物の全重量に対して0.001から1重量%の範囲の含量で存在する」とするものである。 上記補正は、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「親油性化合物」について、その種類を具体的に「香油及び植物起源のオイルから成る群から選択され」るものに限定すると共に、その含有量を具体的に「0.001から1重量%の範囲の含量で存在する」と特定することで減縮するものである。 また、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項である「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 3.独立特許要件 本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当するから、同法同条第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合しているか否かを検討する。 (1)本件補正後の請求項に係る発明 本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「補正発明」という。)は次のとおりである。 「水性相、少なくとも一つの親油性化合物、及び組成物の主たる非イオン性界面活性剤システムとして、少なくとも一つのスクロースの脂肪酸エステルと少なくとも一つのポリグリセロールの脂肪酸エステルとの組み合わせを含む界面活性剤システムを含み、ポリグリセロールの脂肪酸エステルに対するスクロースの脂肪酸エステルの比が0.5以上である、ケラチン物質からメイクアップをクレンジングまたは除去するための化粧品組成物であって、前記親油性化合物が、香油及び植物起源のオイルから成る群から選択され、組成物の全重量に対して0.001から1重量%の範囲の含量で存在することを特徴とする、組成物。」 (2)引用刊行物及びその記載事項 ア 本出願前(優先日)に頒布された特開2005-68083号公報(原査定の引用文献1。以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されているものと認められる。以下、下線は当審で付したものである。 (ア)「【請求項1】 皮膚用の洗浄剤であって、1)ポリグリセリンの脂肪酸エステルを20?40重量%と、2)ショ糖脂肪酸エステルを1?10重量%含有することを特徴とする、洗浄剤。 ・・・ 【請求項5】 1気圧25℃において、透明乃至は白濁の溶状を呈し使用時に泡立てて使用する形態のものであることを特徴とする、請求項1?4何れか1項に記載の洗浄料。 ・・・ 【請求項7】 エステティックの洗顔用であることを特徴とする、請求項1?6何れか1項に記載の洗浄料。」 (イ)「【0004】 更に、ポリグリセリンの脂肪酸エステルは、洗浄料の補助界面活性剤として使用されたり(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)、エアゾールの洗浄料の主洗浄剤として使用したり(例えば、特許文献1)、メーク落としなどの溶媒効果を利用した洗浄料として使用されたりしているが、(例えば、特許文献6、特許文献7、特許文献8を参照)刷毛などの小道具で泡立てて、塗布して使用するような洗浄料に使用することは全く知られていないし、皮膚用の洗浄剤であって、1)ポリグリセリンの脂肪酸エステルを20?40重量%と、ショ糖脂肪酸エステルを1?10重量%含有するものも全く知られていない。更にこの様な形態の洗浄料が、エステティックの洗浄料として好適なことも全く知られていない。」 (ウ)「【0009】 ・・・。かかるポリグリセリンの脂肪酸エステルの、本発明の化粧料組成物に於ける、好適な含有量は、総量で20?40重量%であり、更に好ましくは20?30重量%である。これは多すぎると、洗浄後にベタツキ、ぬるつきなどの感触的に好ましくない現象が現れる場合があり、少なすぎると洗浄力、気泡力を損なう場合があるからである。本発明の洗浄料において、かかるポリグリセリンの脂肪酸エステルは主たる洗浄剤として、且つ、気泡剤として働く。」 (エ)「【0010】 ・・・。本発明の洗浄料において、かかるショ糖脂肪酸エステルの好ましい含有量は、総量で、洗浄料全量に対して、1?10重量%含有することが好ましく、更に好ましくは3?8重量%含有することが好ましい。・・・。これは、ショ糖脂肪酸エステルが少なすぎると、泡のコシを改善する作用を発揮しない場合が存し、多すぎると気泡性を損なう場合が存するためである。」 (オ)「【0011】 (3)本発明の洗浄料 本発明の洗浄料は、前記必須成分である、1)ポリグリセリンの脂肪酸エステルを20?40重量%と、ショ糖脂肪酸エステルを1?10重量%含有することを特徴とする。本発明の洗浄料では、かかる必須成分以外に、通常洗浄料或いは化粧料で使用される任意の成分を含有することが出来る。この様な任意成分としては、例えば、マカデミアナッツ油、アボガド油、トウモロコシ油、オリーブ油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、ホホバ油、ヤシ油、パーム油、・・・などが好ましく例示できる。・・・。本発明の洗浄料としては、かかる性質を利用して、エステティックの洗顔時に、刷毛などの小道具で泡立てたものを、小道具を使って塗布し、ブラシなどの洗浄用の小道具を用いて、擦過して、毛穴などの汚れまで落とすのに使用するのに好適である。又、流水などでの洗浄によらずとも、拭き取り化粧料や蒸しタオル等での拭き取りで、洗浄料と汚れとのコンプレックスを容易に除去出来るので、この様な使用形態で使用することが好ましい。・・・。」 (カ)「【0012】 <実施例1> 以下に示す処方に従って、本発明の洗浄料を作成した。即ち、処方成分を80℃に加熱し、攪拌可溶化し、攪拌冷却して本発明の洗浄料を得た。 デカグリセリンモノラウレート 25 重量部 ショ糖モノラウリン酸エステル 5 重量部 ジメチコン 0.5重量部 ソルビトール 5 重量部 マルメロの1,3-ブタンジオール抽出物 10 重量部 水 54.5重量部」 (キ)「【0016】 <試験例1> 実施例1?4の洗浄料を用いて、洗顔試験を行った。(n=6)即ち、パネラーは5分ほどデコルテ、手のひら、足の裏に軽くマッサージを受け、リラクゼーションへ導入され、しかる後に、本発明の洗浄料を半径3cm毛足の長さ6cmで、先が円錐状に切りそろえられた刷毛(毛は馬毛)を用いて、泡立てて、塗布し、半径3cm、毛足の長さ3cmのブラシ(毛は猪毛)で擦過し、しかる後に、蒸しタオルで拭き取り除去した。この作業の前後に唾液を採取し、唾液中のプラステロン硫酸の濃度を測定し、洗顔行為による上昇率((洗顔後のプラステロン硫酸の濃度-洗顔前のプラステロン硫酸の濃度)/洗顔前のプラステロン硫酸の濃度×100)を求めた。同時に、従来の技術である、エアゾール洗浄料を吐出させて、ブラシ洗浄し、蒸しタオルで拭き取る工程でも確かめた。(比較例)結果を表1に示す。これより、本発明の洗浄料によれば、心地よさを持続、向上せしめる洗顔が可能であることが判る。又、ポリグリセリンの脂肪酸エステルは2種以上を組み合わせる方が好ましいことも判る。又、ビデオマイクロスコープでの観察結果では、何れのサンプルも汚れは充分に除去されていた。尚、プラステロン硫酸は、市販の抗体を用いて、サンドウィッチ抗体法により測定した。・・・。」 (3)刊行物1に記載された発明 上記摘示(ア)の記載からみて、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されていると認める。なお、上記摘示(ア)に記載されているように、請求項5は「・・・請求項1?4何れか1項に記載の洗浄料。」であり、請求項1の「洗浄剤」を引用するにもかかわらず、「洗浄料」と規定され、語句が統一されていないといえるところ、刊行物1のいずれの箇所にも「洗浄剤」と「洗浄料」に違いが示されていないこと、及び刊行物1には、上記(ウ)?(キ)のとおり、「本発明の洗浄料」と記載されていることに鑑みて、刊行物発明を「洗浄料」として認定した。 「1)ポリグリセリンの脂肪酸エステルを20?40重量%と、2)ショ糖脂肪酸エステルを1?10重量%含有し、1気圧25℃において、透明乃至は白濁の溶状を呈し使用時に泡立てて使用する形態のものである、エステティックの洗顔用である、洗浄料。」 (4)対比 補正発明と刊行物発明とを対比する。 ア ショ糖は別名「スクロース」と称される物質であること、及びポリグリセリンは別名「ポリグリセロール」と称される物質であることから、刊行物発明の「1)ポリグリセリンの脂肪酸エステルを20?40重量%と、2)ショ糖脂肪酸エステルを1?10重量%含有し」は、補正発明の「少なくとも一つのスクロースの脂肪酸エステルと少なくとも一つのポリグリセロールの脂肪酸エステルとの組み合わせを含む」ことに相当する。 また、刊行物発明のポリグリセリンの脂肪酸エステルに対するショ糖脂肪酸エステルの比を計算すると、0.025?0.5(=10/40?1/20)であるから、刊行物発明と補正発明とは、ポリグリセリンの脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルの比が所望の値であることでも共通する。 イ 「洗顔用である、洗浄料」、すなわち「洗顔料」は、一般的に「日常生活の中で、皮膚に付着する汚れを取り除き、清浄な肌を得る洗浄の過程に用いられる化粧品」と認識されていることを踏まえれば、刊行物発明の「洗顔用である、洗浄料」は、補正発明と「ケラチン物質から」「クレンジングまたは除去するための化粧品組成物」で共通する。 そうすると、補正発明と、刊行物発明とは、 「少なくとも一つのスクロースの脂肪酸エステルと少なくとも一つのポリグリセロールの脂肪酸エステルとの組み合わせを含み、ポリグリセロールの脂肪酸に対するスクロースの脂肪酸エステルの比が所望の値である、ケラチン物質からクレンジングまたは除去するための化粧品組成物。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1 補正発明は、水性相を含むのに対し、刊行物発明は、そのような特定がない点。 相違点2 ポリグリセロールの脂肪酸エステルに対するスクロースの脂肪酸エステルの比が、補正発明では、0.5以上であるのに対し、刊行物発明では、0.025?0.5である点。 相違点3 補正発明は、少なくとも一つの親油性化合物を含み、前記親油性化合物が、香油及び植物起源のオイルから成る群から選択され、組成物の全重量に対して0.001から1重量%の範囲の含量で存在するのに対し、刊行物発明は、そのような特定がない点。 相違点4 補正発明は、ケラチン物質からメイクアップをクレンジングまたは除去するための化粧品組成物であるのに対し、刊行物発明は、クレンジングまたは除去の対象が、メイクアップとの特定はない点。 相違点5 補正発明は、組成物の主たる非イオン性界面活性剤システムとして、少なくとも一つのスクロースの脂肪酸エステルと少なくとも一つのポリグリセロールの脂肪酸エステルとの組み合わせを含む界面活性剤システムを含むのに対し、刊行物発明は、少なくとも一つのスクロースの脂肪酸エステルと少なくとも一つのポリグリセロールの脂肪酸エステルとの組み合わせを含むことのみが特定されている点。 (5)判断 ア 相違点について (ア) 相違点1について 証拠を挙げるまでもなく、洗顔料(洗顔用の、洗浄料)には水を含有する剤型のものが種々存在すること、及び刊行物1には上記(カ)(キ)に摘示するように、実施例には、水が含有されている、洗顔試験に用いられる洗浄料の組成が示されていることを考慮すれば、刊行物発明の「洗顔用である、洗浄料」に、水(水性相)を含ませることは、当業者が容易に想到し得るものである。 (イ) 相違点2について ポリグリセロールの脂肪酸エステルに対するスクロースの脂肪酸エステルの比に関して、補正発明と刊行物発明では、0.5である点において一致する。 また、刊行物1には上記摘示(ウ)(エ)に記載されているとおり、それぞれの配合量について好ましいとする範囲が記載されているが、それぞれの数値範囲の周辺の値についても検討し、ポリグリセロールの脂肪酸エステルに対するスクロースの脂肪酸エステルの比を0.5以上の数値とすることに格別な困難性はない。 (ウ) 相違点3について 刊行物1には上記(オ)に摘示するように、任意成分の好ましい例示として、マカデミアンナッツ油、アボガド油、トウモロコシ油、オリーブ油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、ホホバ油、ヤシ油、パーム油といった、明らかに植物起源のオイルといえるものが多数示されている。 そして、刊行物発明の洗顔用である、洗浄料において、刊行物1の任意成分の好ましい例示の記載に基づいて、植物起源のオイルを、適当な量で含有させること、例えば0.001から1重量%の範囲内で含有させることは、当業者が容易に想到し得るものである。 (エ) 相違点4について 刊行物1には、上記(イ)で摘示したように、ポリグリセリンの脂肪酸エステルは、メーク落としなどの溶媒効果を利用した洗浄料として使用されていることが示されている。 そして、刊行物発明の洗顔用である、洗浄料には、メーク落としの作用効果を有するポリグリセリンの脂肪酸エステルが含有されているのであるから、刊行物発明の洗顔用の洗浄料としても、メーク落としの作用効果があることは、当業者が容易に理解するところであり、そうであれば、洗浄料が有する当該作用効果を特定し、「ケラチン物質からメイクアップをクレンジングまたは除去するための化粧品組成物」とすることに格別な困難性はない。 (オ) 相違点5について 「組成物の主たる非イオン性界面活性剤システムとして、少なくとも一つのスクロースの脂肪酸エステルと少なくとも一つのポリグリセロールの脂肪酸エステルとの組み合わせを含む界面活性剤システム」との記載は、要するに「組成物に含まれる主な非イオン性界面活性剤は、少なくとも一つのスクロースの脂肪酸エステルと少なくとも一つのポリグリセロールの脂肪酸エステルとの組み合わせであって、それらの組み合わせを含む界面活性剤」といえるところ、刊行物発明の洗顔用である、洗浄料に含まれる界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である、ポリグリセリンの脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルのみであるから、相違点5は実質的な相違点ではない。 イ 補正発明の効果について (ア) 本願明細書の【0013】には「本発明に係る組成物は、透明または半透明な外観を有する一方で同時に、安定で適用時に快適である。」と組成物が奏する効果が記載されている。 まず、はじめに「透明または半透明な外観」について検討する。 実施例における外観についての効果は、実施例4の組成物が「視覚的に透明(非常にわずかな濁り)」、実施例5の組成物が「透明」であることが確認されているが、補正発明の実施例である実施例4が濁りがあるにもかかわらず透明と評価されていることからみて、「透明」「半透明」の各々の判断基準は判然とせず、「透明または半透明な外観」は、実際には「透明から濁りがある状態も含む外観」といったような、透明の程度に幅がある状態を意味していると解される。 そうであれば、刊行物発明の洗顔用である、洗浄料も、その外観は「透明乃至白濁の溶状」であり、任意成分として植物起源のオイルを入れたことで透明性に多少影響が生じるとしても、補正発明の効果である「透明から濁りがある状態も含む外観」と比較して、その外観が明確に区別できるほどの差異があるとはいえない。 したがって、補正発明の外観についての効果が、刊行物発明の効果に比して、格別顕著であるとまでいうことはできない。 次に、「安定で適用時に快適である」ことについて検討する。 本願明細書の【0003】には、「しかしながらそれらの親油性の性質のため、特定の化合物はこれらの製剤に溶解することが多かれ少なかれ困難であり、貯蔵の間で表面での浸出が生じ得る。そのような現象は、製剤の安定性の観点で所望されず、消費者の快適性の観点で、組成物を不安定化し、及び/または製品の美的外観に影響し(曇った外観)、及び/または皮膚及び/または毛髪に適用した際に不快な美容結果を生ずる限りにおいて所望されるものではない;」と記載されていることから、適用時の快適さが、貯蔵の間の安定性に由来しているものと解されるが、「貯蔵の間」の明確な期間の定義がないことや、本願明細書の実施例においても、どの時点の評価であるのか不明である、外観のみで組成物の効果をみていることから、「貯蔵の間の安定性」といっても、実際には、製剤後に安定性を有している期間が、「貯蔵の間の安定性」がある期間とされ、その期間内に製剤を適用すれば、快適であると考えるざるをえない。 そうであれば、刊行物発明の洗顔用である、洗浄料においても、少なくとも、製剤直後では安定性があって、安定性がある間の洗浄料を適用すれば、快適であるのは自明であるし、刊行物発明の洗顔用である、洗浄料は、実際には上記摘示(キ)に記載されているとおり、「心地よさを持続、向上」するものであって、すなわち「安定で適用時に快適」であるという効果を奏することも確認されている。 したがって、補正発明が奏する「安定で適用時に快適である」との効果も、刊行物発明の洗浄料においても奏される効果である。 (イ) 審判請求書においては「本願発明は、特定の種類と含量の界面活性剤と、特定の種類と含量の親油性化合物との組み合わせにより、「透明な外観を有する一方で同時に、安定で適用時に快適である」組成物を得るという本願発明の特有の効果(出願当初明細書[0013]段落参照)が得られる・・・」(審判請求書5頁最終行?6頁7行)旨主張している。 上記請求人の主張を、本願明細書の【0012】【0013】の記載と併せてみれば、請求人の主張の意味するところは、ポリグリセロールの脂肪酸エステルに対するスクロースの脂肪酸エステルの比が0.06以上であったものを、0.5以上とし、さらに特に限定のなかった親油性化合物について、親油性化合物が、香油及び植物起源のオイルから成る群から選択され、組成物の全重量に対して0.001から1重量%の範囲の含量で存在すると特定したことにより、半透明でなく、透明の外観を有する一方で、同時に、安定で適用時に快適である組成物が得られることであると解することができる。 しかしながら、そもそも、上記(ア)で述べたとおり、本願明細書における「透明」「半透明」の各々の判断基準は判然とはしないものであることに加え、本願明細書には、実施例を含めて、ポリグリセロールの脂肪酸エステルに対するスクロースの脂肪酸エステルの比が0.06以上で、特定のない親油性化合物を含有する場合であっては、組成物の外観は半透明を取り得るものの、ポリグリセロールの脂肪酸エステルに対するスクロースの脂肪酸エステルの比が0.5以上で、親油性化合物が、香油及び植物起源のオイルから成る群から選択され、組成物の全重量に対して0.001から1重量%の範囲の含量で存在する場合であっては、透明の組成物のみが選択して得られることは記載されていない。それどころか、本願明細書の実施例4は、ポリグリセロールの脂肪酸エステルに対するスクロースの脂肪酸エステルの比が1.0の場合には、濁りが生じていることを示している。 以上より、ポリグリセロールの脂肪酸エステルに対するスクロースの脂肪酸エステルの比を0.5以上とすること、及び香油及び植物起源のオイルから成る群から選択される親油性化合物が、組成物の全重量に対して0.001から1重量%の範囲の含量で存在することに、外観評価及び快適性評価での臨界的な意義を見いだすことはできない。 そうであれば、補正発明の組成物の外観及び快適性についての効果は、「ポリグリセロールの脂肪酸エステルに対するスクロースの脂肪酸エステルの比が0.06以上で、特定のない親油性化合物を含有する」という構成を有する組成物と同程度であり、具体的には上記(ア)でも検討した「透明または半透明な外観を有する一方で同時に、安定で適用時に快適である。」ものと理解するほかないが、刊行物発明の洗顔用の、洗浄料は、上記(ア)でも述べたように、「透明乃至は白濁の溶状」であり、「適用時に快適である」という効果を奏するものである。それに加えて、刊行物発明の洗顔用の、洗浄料は、明らかにポリグリセロールの脂肪酸エステルに対するスクロースの脂肪酸エステルの比が0.06以上を含む範囲でよいものであり、任意成分として、植物起源のオイルを含み得るものであって、組成物の構成からみても、補正発明と刊行物発明とは、その外観及び快適性の効果が明確に区別ができるほどの差異があるとはいえない。 したがって、補正発明の効果が、刊行物発明の効果に比して、格別顕著であるとまでいうことはできない。 (ウ) 請求人は、審判請求書において、「更に、本願発明では、「親油性化合物」が「香油及び植物起源のオイルから成る群から選択され、組成物の全重量に対して0.001から1重量%の範囲の含量で存在する」ものに特定されております。このような特定の「親油性化合物」が本願発明に与える効果を検証するために、本書と同日に提出いたしました手続補足書に添付した参考資料1において、各種の「親油性化合物」を使用した比較実験の結果を示しました。この参考資料1では、本願発明に係る「化粧品組成物」が、上述の特定の「親油性化合物」を特定の含量で含んでいる場合に、「透明な外観を有する一方で同時に、安定で適用時に快適である」組成物を得るという本願発明の特有の効果(・・・)を得られることが明確に記載されております。」と主張している。 しかしながら、参考資料1には、親油性化合物として、トコフェロール、ココナッツオイル及びレシチンを含有する組成物は、安定で、透明なエマルジョンを生成し得ないことは記載されているものの、当該参考資料の開示に加えて、本願明細書のババスオイルを0.01重量%及びゼラニウムbioの香油を0.15重量%含有する組成物が視覚的に透明か、又は透明であるとの実施例を併せてみても、香油及び植物起源のオイルからなる群から選択される親油性化合物を、0.001から1重量%の含量で含んでいることで、「透明な外観を有する一方で同時に、安定で適用時に快適である」という効果を得ることを導き出すことはできない。 (6)まとめ 以上のとおり、補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づき、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 4.むすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成27年7月22日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成26年8月20日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる(以下、「本願発明」という。)。 「水性相、少なくとも一つの親油性化合物、及び組成物の主たる非イオン性界面活性剤システムとして、少なくとも一つのスクロースの脂肪酸エステルと少なくとも一つのポリグリセロールの脂肪酸エステルとの組み合わせを含む界面活性剤システムを含み、ポリグリセロールの脂肪酸エステルに対するスクロースの脂肪酸エステルの比が0.5以上である、ケラチン物質からメイクアップをクレンジングまたは除去するための化粧品組成物。」 2.原査定の拒絶の理由の概要 本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないという理由である。 引用文献1:特開2005-68083号公報 3.引用文献及びその記載事項、及び引用文献に記載の発明 拒絶査定の理由に引用された引用文献の記載事項及び引用文献に記載の発明は、前記「第2 3.(2)引用刊行物及びその記載事項」及び「第2 3.(3)刊行物1に記載された発明」に記載したとおりである。 4.対比・判断 本願発明は、補正発明との比較において、親油性化合物の種類及び含量の特定を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項と同様のものに相当することを含む補正発明は、前記「第2 3.(5)判断」に記載したとおり、引用文献1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に特許法第29条第2項の規定に基づき、特許を受けることができないものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づき、特許を受けることができない。 したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-01-25 |
結審通知日 | 2017-01-30 |
審決日 | 2017-02-13 |
出願番号 | 特願2010-29249(P2010-29249) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 片山 真紀 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
齊藤 光子 関 美祝 |
発明の名称 | スクロースエステルとポリグリセロールエステルとを含む組成物 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 村山 靖彦 |