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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04M
管理番号 1329468
審判番号 不服2016-12422  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-17 
確定日 2017-06-15 
事件の表示 特願2011-252931「携帯電子機器、制御方法及び制御プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月 6日出願公開、特開2013-110519〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月18日の出願であって、平成27年1月16日付けで拒絶理由が通知され、同年3月10日付けで手続補正がされ、同年10月2日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年12月10日付けで手続補正がされたが、当該手続補正は平成28年5月6日付けで補正の却下の決定がされるとともに同日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年8月17日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに同時に手続補正がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[結論]
平成28年8月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正前発明、補正後発明
本件補正は、本件補正前の平成27年3月10日付けの手続補正により補正された本願の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項7に係る発明(以下、「補正前発明1」ないし「補正前発明7」という。)を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明(以下、「補正後発明1」ないし「補正後発明7」という。)に変更することを含むものである。

補正前発明1ないし補正前発明7は、以下のとおりである。
「【請求項1】
第1の通信方式に準拠する第1の通信処理部と、
第2の通信方式に準拠する第2の通信処理部と、
第3の通信方式に準拠する第3の通信処理部と、
データ通信を行う際に、優先的に使用する順序を、前記第1の通信処理部、前記第2の通信処理部及び前記第3の通信処理部として各処理部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第2の通信処理部によりデータ通信を行っているときに、ネットワークとの接続が切断した場合、当該ネットワークとの接続が切断する前から既にデータ通信を行える状態であって、間欠的に信号を受信している間欠受信状態である前記第3の通信処理部により当該データ通信を継続するように制御する携帯電子機器。
【請求項2】
前記第1の通信方式は、IEEE802.11に準拠する通信規格であり、
前記第2の通信方式は、IEEE802.16に準拠する通信規格であり、
前記第3の通信方式は、IMT-2000標準に準拠する通信方式である請求項1記載の携帯電子機器。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1の通信処理部によりデータ通信を行っているときに、ネットワークとの接続が切断した場合、前記第2の通信処理部により当該データ通信を継続できるか否かを判断し、継続できると判断した場合には、前記第2の通信処理部により当該データ通信を継続し、かつ前記第1の通信処理部によりデータ通信が可能であるか否かを所定の周期で判断する請求項1記載の携帯電子機器。
【請求項4】
前記制御部は、前記第2の通信処理部によりデータ通信を継続している状態において、前記第1の通信処理部によりデータ通信が可能であると判断した場合には、前記第1の通信処理部により当該データ通信を継続するように制御する請求項3記載の携帯電子機器。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1の通信処理部によってデータ通信を行っているときに、前記第3の通信処理部を、前記間欠受信状態に制御する請求項1に記載の携帯電子機器。
【請求項6】
データ通信を行う際に、優先的に使用する順序を、第1の通信方式に準拠する第1の通信処理部、第2の通信方式に準拠する第2の通信処理部及び第3の通信方式に準拠する第3の通信処理部として各処理部を制御する制御方法において、
制御部により、前記第2の通信処理部によりデータ通信を行っているときに、ネットワークとの接続が切断した場合、当該ネットワークとの接続が切断する前から既にデータ通信を行える状態であって、間欠的に信号を受信している間欠受信状態である前記第3の通信処理部により当該データ通信を継続するように制御する接続工程を有する制御方法。
【請求項7】
データ通信を行う際に、優先的に使用する順序を、第1の通信方式に準拠する第1の通信処理部、第2の通信方式に準拠する第2の通信処理部及び第3の通信方式に準拠する第3の通信処理部として各処理部を制御する制御プログラムにおいて、
制御部により、前記第2の通信処理部によりデータ通信を行っているときに、ネットワークとの接続が切断した場合、当該ネットワークとの接続が切断する前から既にデータ通信を行える状態であって、間欠的に信号を受信している間欠受信状態である前記第3の通信処理部により当該データ通信を継続するように制御する接続工程をコンピュータによって実現するための制御プログラム。」

補正後発明1ないし補正後発明7は、以下のとおりである。
「【請求項1】
第1の通信方式による通信を行う第1の通信処理部と、
第2の通信方式による通信を行う第2の通信処理部と、
第3の通信方式による通信を行う第3の通信処理部と、
データ通信を行う際に、優先的に使用する順序を、前記第1の通信処理部、前記第2の通信処理部及び前記第3の通信処理部として各処理部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記第2の通信処理部によりネットワークとの接続を確立した後にデータ通信を行い、
前記第2の通信処理部により前記データ通信を行っているときに前記ネットワークとの接続が切断された場合には、前記順序に依らず、当該ネットワークとの接続が切断する前から既にデータ通信を行える状態であって、間欠的に信号を受信している間欠受信状態である前記第3の通信処理部により当該データ通信を継続するように制御する携帯電子機器。
【請求項2】
前記第1の通信方式は、IEEE802.11に準拠する通信方式であり、
前記第2の通信方式は、IEEE802.16に準拠する通信方式であり、
前記第3の通信方式は、IMT-2000標準に準拠する通信方式である請求項1に記載の携帯電子機器。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1の通信処理部によりデータ通信を行っているときにネットワークとの接続が切断した場合、前記第2の通信処理部により当該データ通信を継続できるか否かを判断し、継続できると判断した場合には、前記第2の通信処理部により当該データ通信を継続し、かつ前記第1の通信処理部によりデータ通信が可能であるか否かを所定の周期で判断する請求項1に記載の携帯電子機器。
【請求項4】
前記制御部は、前記第2の通信処理部によりデータ通信を継続している状態において、前記第1の通信処理部によりデータ通信が可能であると判断した場合には、前記第1の通信処理部により当該データ通信を継続するように制御する請求項3に記載の携帯電子機器。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1の通信処理部によってデータ通信を行っているときに、前記第3の通信処理部を前記間欠受信状態に制御する請求項1に記載の携帯電子機器。
【請求項6】
データ通信を行う際に、優先的に使用する順序を、第1の通信方式による通信を行う第1の通信処理部、第2の通信方式による通信を行う第2の通信処理部及び第3の通信方式による通信を行う第3の通信処理部として各処理部を制御する制御方法であって、
前記第2の通信処理部によりネットワークとの接続を確立した後にデータ通信を行い、前記第2の通信処理部により前記データ通信を行っているときに前記ネットワークとの接続が切断された場合には、前記順序に依らず、当該ネットワークとの接続が切断する前から既にデータ通信を行える状態であって、間欠的に信号を受信している間欠受信状態である前記第3の通信処理部により当該データ通信を継続するように制御する接続工程を有する制御方法。
【請求項7】
データ通信を行う際に、優先的に使用する順序を、第1の通信方式による通信を行う第1の通信処理部、第2の通信方式による通信を行う第2の通信処理部及び第3の通信方式による通信を行う第3の通信処理部として各処理部を制御する制御プログラムであって、
前記第2の通信処理部によりネットワークとの接続を確立した後にデータ通信を行い、前記第2の通信処理部により前記データ通信を行っているときに前記ネットワークとの接続が切断された場合には、前記順序に依らず、当該ネットワークとの接続が切断する前から既にデータ通信を行える状態であって、間欠的に信号を受信している間欠受信状態である前記第3の通信処理部により当該データ通信を継続するように制御する接続工程をコンピュータによって実現するための制御プログラム。」

2.本件補正による補正事項
本件補正は、本願の特許請求の範囲に関して、以下の補正事項ア.?カ.を含む。

ア.補正前発明1の「第1の通信方式に準拠する第1の通信処理部」と、「第2の通信方式に準拠する第2の通信処理部」と、「第3の通信方式に準拠する第3の通信処理部」と、同じく補正前発明6および補正前発明7の「第1の通信方式に準拠する第1の通信処理部、第2の通信方式に準拠する第2の通信処理部及び第3の通信方式に準拠する第3の通信処理部」の「に準拠する」(計9箇所)を、それぞれ、「による通信を行う」とする補正。(以下、「補正事項1」という。)

イ.補正前発明1の「前記制御部は、前記第2の通信処理部によりデータ通信を行っているときに、ネットワークとの接続が切断した場合、」を、「前記制御部は、前記第2の通信処理部によりネットワークとの接続を確立した後にデータ通信を行い、前記第2の通信処理部により前記データ通信を行っているときに前記ネットワークとの接続が切断された場合には、前記順序に依らず、(・・前記第3の通信処理部により当該データ通信を継続する)」とする補正(以下、「補正事項2」という。)。同様に、補正前発明6および補正前発明7の「制御部により、前記第2の通信処理部によりデータ通信を行っているときに、ネットワークとの接続が切断した場合、」を、それぞれ、「前記第2の通信処理部によりネットワークとの接続を確立した後にデータ通信を行い、前記第2の通信処理部により前記データ通信を行っているときに前記ネットワークとの接続が切断された場合には、前記順序に依らず、(・・前記第3の通信処理部により当該データ通信を継続する)」とする補正。(以下、「補正事項3」という。)

ウ.補正前発明2の「前記第1の通信方式は、IEEE802.11に準拠する通信規格であり、前記第2の通信方式は、IEEE802.16に準拠する通信規格であり、」の「通信規格」を「通信方式」と補正することにより、「前記第1の通信方式は、IEEE802.11に準拠する通信方式であり、前記第2の通信方式は、IEEE802.16に準拠する通信方式であり、」とする補正。(以下、「補正事項4」という。)

エ.補正前発明3の「データ通信を行っているときに、ネットワークとの接続が切断した場合」と、補正前発明5の「前記第3の通信処理部を、前記間欠受信状態に制御する」の「、」を削除し、それぞれ「データ通信を行っているときにネットワークとの接続が切断した場合」と、「前記第3の通信処理部を、前記間欠受信状態に制御する」とする補正。(以下、「補正事項5」という。)

オ.補正前発明3の「請求項1記載の携帯電子機器」及び補正前発明4の「請求項3記載の携帯電子機器」を、それぞれ、他の請求項の記載にならって「に」を挿入し、「請求項1に記載の携帯電子機器」、「請求項3に記載の携帯電子機器」とする補正。(以下、「補正事項6」という。)

カ.補正前発明6の「制御方法において、」と、補正前発明7の「制御プログラムにおいて、」との「において」を「であって」とする補正。(以下、「補正事項7」という。)

3.新規事項の有無,シフト補正の有無,補正の目的要件
補正事項1、補正事項4?7は、特許法第17条の2第4項第3号の誤記の訂正に該当する。
補正事項2及び補正事項3は、「データ通信を行っているときに前記ネットワークとの接続が切断された場合」が、「ネットワークとの接続を確立した後に」である点を限定し、「前記第3の通信処理部により当該データ通信を継続する」ことが、「前記順序に依らず」である点を限定するものであるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限定的減縮に該当する。

いずれの補正事項も、出願時の図面または詳細な説明の記載の範囲内のものであり、新規事項ではない。
よって、これらの補正は,特許法第17条の2第3項,第4項に違反するところはない。

4.独立特許要件について
補正後発明1は特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるから、補正後発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうか(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。

(1)補正後発明1
補正後発明1を再掲する。
「第1の通信方式による通信を行う第1の通信処理部と、
第2の通信方式による通信を行う第2の通信処理部と、
第3の通信方式による通信を行う第3の通信処理部と、
データ通信を行う際に、優先的に使用する順序を、前記第1の通信処理部、前記第2の通信処理部及び前記第3の通信処理部として各処理部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記第2の通信処理部によりネットワークとの接続を確立した後にデータ通信を行い、
前記第2の通信処理部により前記データ通信を行っているときに前記ネットワークとの接続が切断された場合には、前記順序に依らず、当該ネットワークとの接続が切断する前から既にデータ通信を行える状態であって、間欠的に信号を受信している間欠受信状態である前記第3の通信処理部により当該データ通信を継続するように制御する携帯電子機器。」

(2)引用発明及び周知技術
ア.引用例及び引用発明
原審の平成27年10月2日付け最後の拒絶理由に引用された、特開2011-188395号公報(以下、「引用例」という。)には、「無線通信装置」(発明の名称)に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【0014】
図1は本発明の実施の形態1における無線通信手段を用いて行われる無線通信のイメージ図である。無線通信装置10は、無線MAN通信(通信手段A)、無線LAN通信(通信手段B)、携帯電話通信(通信手段C)の3種類の無線通信手段を備えており、いずれの無線通信手段を用いても基地局や中継機器を通じてInternetへのアクセスが可能となっている。
【0015】
図2は本発明の実施の形態1における無線通信装置のブロック図である。
【0016】
図2において、無線通信装置10は、複数の無線通信手段を有した無線通信部11と、複数の無線通信手段のいずれかを選択する通信手段選択部12と、複数の無線通信手段の優先度テーブル14と、優先度テーブル14の情報に基づいて無線通信手段を選択し、選択した無線通信手段の情報を通信手段選択部12に伝える通信制御部13と、通信手段選択部12が選択した通信手段を利用して送受信したデータの処理を行うデータ処理部15と、ユーザが無線通信装置10の利用場所を、高速移動を伴わない場所での使用とするか高速移動を伴う場所での使用とするかを選択するためのユーザ操作部16とを有したものである。」(4頁)

(イ)「【0022】
図3は、本実施の形態において利用する優先度テーブル14の一例を示しており、通信手段Aは無線WAN通信、通信手段Bは無線LAN通信、通信手段Cは携帯電話通信としている。
【0023】
この優先度テーブルでは優先度の数値が小さいほど優先度が高いことを示しており、この数値を示す情報があらかじめ無線通信装置10内に記憶されている。
【0024】
また、この優先度テーブルは、無線通信装置10の利用場所が高速移動を伴わない場所である場合(車外モード)には、無線LAN通信、無線MAN通信、携帯電話通信の順に無線通信の接続が行われるよう優先順位が決められており、無線通信装置10の利用場所が高速移動を伴う場所である場合(車内モード)には、高速移動では通信速度が大きく低下してしまう無線LAN通信の優先度が最も低く設定されている。」(5頁)

(ウ)「【0027】
両者の処理は個別に動作しているが、図4(a)の処理中に図4(b)の処理が発生した場合には、図4(a)の処理を停止し、ユーザに停止した旨を通知するか、図4(a)の処理を自動的に最初からやり直す。
【0028】
まず、初期状態として、無線通信装置10の利用場所が車外モードに設定されているとする。
【0029】
この状態において、ユーザが無線通信を必要とするアプリケーションを起動するなどにより、無線通信の接続処理が開始されると、図4(a)に示すように、通信制御部13は図3に示した優先度テーブル14を参照し、優先度の最も高い無線通信手段の情報を取得する(ステップS101)。
【0030】
無線通信装置10の動作モードは車外モードに設定されているため、最も優先度の高い通信手段は通信手段B(無線LAN通信)となる。
【0031】
通信制御部13は無線通信部11に含まれる通信手段Bに対し基地局との通信が可能かどうか確認し(ステップS102)、通信可能であれば(ステップS102がYesの場合)、通信手段選択部12に無線通信部11が持つ複数の通信手段の中から通信手段Bを選択するよう通信手段選択信号を送信する(ステップS103)。
【0032】
通信手段選択部12は通信手段選択信号を受信すると(ステップS104)、無線通信部11に含まれる複数の通信手段の中から、通信手段Bとデータ処理部15を接続する(ステップS105)。
【0033】
通信手段Bと基地局との通信が不可能であった場合(ステップS102がNoの場合)には、全ての通信手段が不可能だったか判定する(ステップS106)。
【0034】
この場合、まだ通信手段Aと通信手段Cが判定すべき通信手段として残っているので、ステップS106での判定結果はNoとなり、通信制御部13は優先度テーブル14を参照し、次に優先度の高い無線通信手段の情報を取得する(ステップS107)。
【0035】
ステップS107においては、無線通信装置10の動作モードは車外モードに設定されているため、次に優先度が高い通信手段は通信手段A(無線MAN通信)となる。
【0036】
通信制御部13は無線通信部11に含まれる通信手段Aに対し、基地局との通信が可能かどうか確認し(ステップS102)、通信可能であれば(ステップS102がYesの場合)、通信手段選択部12に無線通信部11が持つ複数の通信手段の中から通信手段Aを選択するよう通信選択信号を送信する(ステップS103)。
【0037】
通信手段選択部12は通信手段選択信号を受信すると(ステップS104)、無線通信部11に含まれる複数の通信手段の中から、通信手段Aとデータ処理部15を接続する(ステップS105)。
【0038】
通信手段Aと基地局との通信も不可能であった場合には、最も優先度の低い通信手段である通信手段C(携帯電話通信)に対して、同様の処理を進める。
【0039】
全ての通信手段で基地局との通信が不可能であった場合には、ステップS106でYesとなり、画面表示や音声案内などにより、ユーザに無線通信の接続が失敗した旨を通知する(ステップS108)。
【0040】
次に、ユーザがユーザ操作部16を操作して無線通信装置10の動作モードとして車内モードを選択すると、図4(b)に示すように、ユーザ操作部16は通信制御部13に無線通信装置10の動作モードを車内モードに変更するよう優先度切換信号を送信する(ステップS111)。
【0041】
通信制御部13は優先度切換信号を受信すると(ステップS112)、無線通信装置10の動作モードを車内モードに変更する(ステップS113)。
【0042】
通信制御部13が無線通信装置10の動作モードを変更した後、ユーザが無線通信を必要とするアプリケーションを起動するなどにより、無線通信の接続処理が開始されると、前述した図4(a)に従って無線通信の接続が行われる。」(5?6頁)

(エ)「【0053】
また、データ処理部15で受信したデータの不良率を通信制御部13が計測し、データの不良率が高い場合には次に優先度の高い通信手段に切り換える構成にしても良い。この構成では、通信が不可能であった場合以外に、無線通信状況が不安定な場合にも、次に優先度の高い通信方式に切り換えることができる。」(7頁)

摘記事項(ア)?(エ)の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、

a.摘記事項(ア)の【0014】の「無線通信装置10は、無線MAN通信(通信手段A)、無線LAN通信(通信手段B)、携帯電話通信(通信手段C)の3種類の無線通信手段を備えており、いずれの無線通信手段を用いても基地局や中継機器を通じてInternetへのアクセスが可能となっている。」の記載より、引用例に記載されたものは、「無線通信装置」といえる。

b.摘記事項(ア)の【0016】の「無線通信装置10は、複数の無線通信手段を有した無線通信部11と、複数の無線通信手段のいずれかを選択する通信手段選択部12と、複数の無線通信手段の優先度テーブル14と、優先度テーブル14の情報に基づいて無線通信手段を選択し、選択した無線通信手段の情報を通信手段選択部12に伝える通信制御部13と、通信手段選択部12が選択した通信手段を利用して送受信したデータの処理を行うデータ処理部15と、」と、摘記事項(イ)の【0024】の「(車外モード)には、無線LAN通信、無線MAN通信、携帯電話通信の順に無線通信の接続が行われるよう優先順位が決められており、」との各記載より、「無線LAN通信を行う通信手段Bと、無線MAN通信を行う通信手段Aと、携帯電話通信を行う通信手段Cと、無線通信する際に、優先度の順序を、通信手段B、通信手段A、通信手段Cとして通信手段選択部に選択させる通信制御部と、を備え、」といえる。

c.摘記事項(ア)の【0014】の「無線通信装置10は、無線MAN通信(通信手段A)、無線LAN通信(通信手段B)、携帯電話通信(通信手段C)の3種類の無線通信手段を備えており、いずれの無線通信手段を用いても基地局や中継機器を通じてInternetへのアクセスが可能となっている。」と、摘記事項(ウ)の【0031】の「通信制御部13は無線通信部11に含まれる通信手段Bに対し基地局との通信が可能かどうか確認し(ステップS102)、」と、同【0037】の「通信手段選択部12は通信手段選択信号を受信すると(ステップS104)、無線通信部11に含まれる複数の通信手段の中から、通信手段Aとデータ処理部15を接続する(ステップS105)。」との各記載より、「前記通信制御部は、前記通信手段Aにより、基地局との通信が可能であることを確認した後に、無線通信を行い、」といえる。

d.摘記事項(エ)の【0053】の「また、データ処理部15で受信したデータの不良率を通信制御部13が計測し、データの不良率が高い場合には次に優先度の高い通信手段に切り換える構成にしても良い。この構成では、通信が不可能であった場合以外に、無線通信状況が不安定な場合にも、次に優先度の高い通信方式に切り換えることができる。」との記載と、摘記事項(ウ)の【0029】?【0040】の「車外モード」に設定されている実施の態様を照らし合わせると、「無線通信状況が不安定な場合」として、2番目の優先度の通信手段である「通信手段A」により「無線MAN通信」を行っている場合が含まれることは明らかである。この場合、「次に優先度の高い通信方式」として、「通信手段C」の「携帯電話通信」が選択されることは自明の事項であるから、「前記通信手段Aにより前記無線通信を行っているときに基地局との無線通信状況が不安定な場合には、前記通信手段Cに切り替えて無線通信を行うように制御する」といえる。

また、引用例には、無線通信が不安定なときに、優先度の最も高い通信方式から、スキャンすることを伺わせるような記載もない。

以上a.?d.を総合すると、引用例には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(引用発明)
「無線LAN通信を行う通信手段Bと、
無線MAN通信を行う通信手段Aと、
携帯電話通信を行う通信手段Cと、
無線通信する際に、優先度の順序を、通信手段B、通信手段A、通信手段Cとして通信手段選択部に選択させる通信制御部と、を備え、
前記通信制御部は、
前記通信手段Aにより、基地局との通信が可能であることを確認した後に、無線通信を行い、
前記通信手段Aにより前記無線通信を行っているときに基地局との無線通信状況が不安定な場合には、前記通信手段Cに切り替えて無線通信を行うように制御する無線通信装置。」

イ.周知技術
「携帯電話通信において、待ち受け状態で、間欠的に信号を受信する間欠受信状態とすること。」は、周知技術である。(例えば、特開2010-35062号公報(【0032】)、特開2005-260426号公報(【0013】))

ウ.対比
補正後発明1と引用発明とを対比すると、
(ア)引用発明の「無線通信装置」、「基地局」は、補正後発明1の「携帯電子機器」、「ネットワーク」に含まれる。
(イ)本願明細書段落【0050】の「また、第1の通信方式は、例えば、IEEE802.11に準拠する通信規格(無線LAN)である。第2の通信方式は、例えば、IEEE802.16に準拠する通信規格である。第3の通信方式は、例えば、IMT-2000標準に準拠する通信方式(例えば、CDMA2000 1xEV-DO Rev.A)である。」の記載より、補正後発明1の「第1の通信方式」は、「無線LAN」を含み、「第2の通信方式」は、「IEEE802.16」(無線MAN)を含み、「第3の通信方式」は、「CDMA2000 1xEV-DO」(携帯電話)を含むものであるから、引用発明の「無線LAN通信」、「無線MAN通信」、「携帯電話通信」は、それぞれ、補正後発明1の「第1の通信方式」、「第2の通信方式」、「第3の通信方式」に含まれる。
(ウ)上記(イ)より引用発明の「通信手段B」、「通信手段A」、「通信手段C」は、それぞれ、補正後発明1の「第1の通信処理手段」、「第2の通信処理手段」、「第3の通信処理手段」に含まれる。
(エ)補正後発明1の「各処理手段を制御する制御部」と、引用発明の「通信手段選択部に選択させる通信制御部」とは、「各処理部を制御する制御手段」で共通する。
(オ)引用発明の「無線通信」は、補正後発明1の「データの通信」に含まれる。
(カ)引用発明の「無線通信状況が不安定な場合」と、補正後発明1の「前記ネットワークとの接続が切断された場合」とは、「所定の通信状態となった場合」で共通する。
(キ)以上(ア)、(ウ)?(カ)より、引用発明の「前記通信手段Aにより、基地局との通信が可能であることを確認した後に、無線通信を行い、前記通信手段Aにより前記無線通信を行っているときに無線通信状況が不安定な場合には、前記通信手段Cに切り替えて無線通信を行うように制御する」と、補正後発明1の「前記第2の通信処理部によりネットワークとの接続を確立した後にデータ通信を行い、前記第2の通信処理部により前記データ通信を行っているときに前記ネットワークとの接続が切断された場合には、前記順序に依らず、当該ネットワークとの接続が切断する前から既にデータ通信を行える状態であって、間欠的に信号を受信している間欠受信状態である前記第3の通信処理部により当該データ通信を継続するように制御する」とは、「前記第2の通信処理手段によりネットワークとの接続を確立した後にデータ通信を行い、前記第2の通信処理手段により前記データ通信を行っているときに所定の通信状態となった場合には、前記順序で次の、携帯電話網の第3の通信処理手段により当該データ通信を継続するように制御する」で共通する。

以上より、補正後発明1と引用発明とは、以下の点で一致し、相違する。

(一致点)
「第1の通信方式による通信を行う第1の通信処理部と、
第2の通信方式による通信を行う第2の通信処理部と、
第3の通信方式による通信を行う第3の通信処理部と、
データ通信を行う際に、優先的に使用する順序を、前記第1の通信処理部、前記第2の通信処理部及び前記第3の通信処理部として第1の通信処理部、第2の通信処理部、及び第3の通信処理部を制御する制御手段と、を備え、
該制御手段は、
前記第2の通信処理部によりネットワークとの接続を確立した後にデータ通信を行い、
前記第2の通信処理部により前記データ通信を行っているときに所定の通信状態となった場合には、前記第3の通信処理部により当該データ通信を継続するように制御する携帯電子機器。」

(相違点1)一致点の「制御手段」による「前記第3の通信処理部により当該データ通信を継続するように制御する」が、補正後発明1では、「前記順序に依らずに」なされるのに対して、引用発明には、そのような特定がない点。

(相違点2)一致点の「第3の通信処理部」について、補正後発明1が、「当該ネットワークとの接続が切断する前から既にデータ通信を行える状態であって、間欠的に信号を受信している間欠受信状態である」のに対して、引用発明の「携帯電話通信」を行う「通信手段C」が、「通信手段A」で無線通信している状態(補正後発明1の「当該ネットワークとの接続が切断する前から」の状態に相当。)で、「既にデータ通信を行える状態であって、間欠的に信号を受信している間欠受信状態である」かについて明記されていない点。

(相違点3)一致点の「所定の通信状態になった場合」について、補正後発明1が「接続が切断された場合」であるのに対して、引用発明が「基地局との無線通信状態が不安定な場合」である点。

最初に(相違点3)について検討する。
無線通信の分野において、無線通信状況が不安定な場合の1つの態様として、無線通信が中断される場合が含まれることは、当業者に自明の事項である。
よって、(相違点3)について、実質的な差異はない。

次に(相違点1)について検討する。
補正後発明1の「前記順序に依らず」に関して、「第2の通信処理部」において、「ネットワークとの接続が切断」された場合に、「第3の通信処理部」を選択することは、「データ通信を行う際に、優先的に使用する順序を、前記第1の通信処理部、前記第2の通信処理部及び前記第3の通信処理部として各処理部を制御する制御部」を備えていることからすると、「優先的に使用する順序」通りと解され、「前記順序に依らず」とは文言上矛盾する。
そこで、前記「前記順序に依らず」について、明細書を参酌すると、明細書段落【0061】には、「ここで、従来では、第2の通信処理部33によりデータ通信を行っているときに、ネットワークが切断した場合(図7中のt4)には、この切断したタイミングで、第1の通信処理部31による接続要求処理を行っていた。この場合には、第1の通信処理部31が利用できない場合が多いと考えられる。」とあり、ネットワークが切断された場合には、優先順位の高い「第1の通信処理部」に戻って、優先度順に接続処理を行うことを前提としており、この従来の手法が「順序に依」る手法と解釈できる。
そうすると「前記順序に依らず」とは、「ネットワークが切断された場合、最も優先順位の高い「第1の通信処理部」に戻って、優先度順に接続処理を行うことに依らない」と解され、明細書段落【0064】、【0065】の実施の態様とも整合する。
他方、引用発明は「前記通信手段Aにより前記無線通信を行っているときに基地局との無線通信状況が不安定な場合には、前記通信手段Cに切り替えて無線通信を行うように制御する」であるから、最も優先順位の高い「通信手段B」に戻って、優先度順に接続処理が行われないことは明らかである。
してみると、補正後発明1の「前記順序に依らず」において、引用発明と差異はない。
そして、上記(相違点3)についての検討の結果も踏まえると、補正後発明1の「制御部」と引用発明の「通信制御部」とに実質的な差異はない。
したがって、(相違点1)について実質的な差異はない。

最後に(相違点2)について検討する。
「4.独立特許要件について」の「(2)引用発明及び周知技術」の「イ.周知技術」の項で記載したように、「携帯電話通信において、待ち受け状態で間欠的に信号を受信する間欠受信状態とすること。」は、周知技術である。
そして、引用発明の「携帯電話通信」に周知の技術を適用し、「待ち受け状態で」、即ち、「通信手段Aによる基地局との無線通信状況が不安定になる前から」、「間欠的に信号を受信する間欠受信状態とすること」、上記検討の結果を踏まえて言い換えると、「当該ネットワークとの接続が切断する前から既にデータ通信を行える状態であって、間欠的に信号を受信する間欠受信状態とすること」は、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、補正後発明1の作用効果も、引用発明に基づいて周知技術を参酌することによって当業者が容易に予測できる範囲のものである。

以上のとおり、補正後発明1は引用発明に基づいて周知技術を参酌することにより容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.結語
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.補正前発明1
平成27年11月9日付けの手続補正(本件補正)は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「1.補正の概要」の項で「補正前発明1」として認定したものであり、再掲する。

(補正前発明1)
「第1の通信方式に準拠する第1の通信処理部と、
第2の通信方式に準拠する第2の通信処理部と、
第3の通信方式に準拠する第3の通信処理部と、
データ通信を行う際に、優先的に使用する順序を、前記第1の通信処理部、前記第2の通信処理部及び前記第3の通信処理部として各処理部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第2の通信処理部によりデータ通信を行っているときに、ネットワークとの接続が切断した場合、当該ネットワークとの接続が切断する前から既にデータ通信を行える状態であって、間欠的に信号を受信している間欠受信状態である前記第3の通信処理部により当該データ通信を継続するように制御する携帯電子機器。」

2.引用発明及び周知技術
引用発明及び周知技術は、上記「第2 補正却下の決定」の「4.独立特許要件について」の「(2)引用発明及び周知技術」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
補正後発明1は、最後の拒絶理由に対する手続補正により、補正前発明1を限定的に減縮し、誤記の訂正をしたものである。よって、補正後発明1についてした引用発明との対比・判断は、限定的に減縮し、誤記の訂正をした事項をのぞいて該当する。

補正前発明1は補正後発明1から本件補正に係る限定と誤記の訂正を省いたものであり、補正前発明と引用発明との対比、判断に影響を与えないことは明らかである。
そうすると、補正前発明1の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後発明1が、上記「第2 補正却下の決定」の「4.独立特許要件について」で検討したとおり、引用発明に基づいて周知技術を参酌することにより当業者が容易に想到し得たものであるから、補正前発明1も同様の理由により、当業者が容易に想到し得たものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて周知技術を参酌することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-30 
結審通知日 2017-04-04 
審決日 2017-04-26 
出願番号 特願2011-252931(P2011-252931)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04M)
P 1 8・ 121- Z (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松平 英  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 吉田 隆之
山中 実
発明の名称 携帯電子機器、制御方法及び制御プログラム  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  

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