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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1329500
審判番号 不服2014-21146  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-17 
確定日 2017-06-14 
事件の表示 特願2011-543770「給電および充電に共用される電気装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月27日国際公開、WO2010/057892、平成24年 4月19日国内公表、特表2012-509656〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2009年11月17日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理、2008年11月18日:仏国)を国際出願日とする出願であって、平成26年6月13日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成26年6月17日)、これに対し、平成26年10月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出され、当審により平成27年8月5日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成27年8月11日)、これに対し、平成28年2月12日付で意見書及び手続補正書が提出され、当審により平成28年5月18日付で最後の拒絶の理由が通知され(発送日:平成28年5月24日)、これに対し、平成28年8月24日付で意見書及び手続補正書が提出されたものである。


2.平成28年8月24日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年8月24日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
(1)補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
1つの交流モータ(6)、前記交流モータ(6)に接続されたインバータ(2)、およびインバータに接続された蓄電手段(5)を有し、さらに、前記交流モータ(6)への給電と、外部配電網(11)が巻線(7)に接続されたとき、インダクタとして前記交流モータ(6)の巻線(7)を用いることによって、前記外部配電網(11)から前記インバータ(2)を介する前記蓄電手段(5)への充電との両方を可能にするスイッチング手段(4)を有する、給電および充電に共用される電気装置であって、
前記スイッチング手段(4)は、前記インバータ(2)内に組み込まれており、かつ前記交流モータ(6)の各相当たり、少なくとも1つのHブリッジ構造(3、3’、3’’)を備えていることを特徴とする電気装置。
【請求項2】
前記蓄電手段(5)の特性に、インバータを介して供給される前記外部配電網(11)の電圧を適合させることを可能にするDC/DCコンバータ(10)を、前記Hブリッジ構造(3、3’、3’’)と前記蓄電手段(5)との間に備えている、請求項1に記載の電気装置。
【請求項3】
前記交流モータ(6)は三相モータであり、前記スイッチング手段(4)は3つのHブリッジ構造を有する、請求項1または2に記載の電気装置。
【請求項4】
前記電気装置への通電時に、前記外部配電網(11)への接続のための差し込み口への接触を防止することができるロック手段を備えている、請求項1?3のいずれか1項に記載の電気装置。
【請求項5】
前記外部配電網(11)への接続のための差し込み口は、前記電気装置の接地手段を備えている、請求項1?4のいずれか1項に記載の電気装置。
【請求項6】
少なくとも1つのHブリッジ構造(3)を有するスイッチング手段を、交流モータ(6)に給電するモードから、蓄電手段(5)を充電するモードへのスイッチング、またその逆のスイッチングを可能にするように制御するステップを含んでいる、請求項1?5のいずれか1項に記載の電気装置に適用される、給電および充電に共用する方法。
【請求項7】
三相モータ(6)を有する前記電気装置に適用され、該三相モータ(6)の一相が損傷した際に、一定振幅の単一の回転磁界を発生させることができるように、他の二相のうちの一方の位相反転を制御するステップを含んでいる、請求項6に記載の方法。」

本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
1つの三相交流モータ(6)と、前記三相交流モータ(6)に接続されたインバータ(2)と、および前記インバータ(2)に接続された蓄電手段(5)と、スイッチング手段(4)とを備える給電および充電に共用される電気装置であって、
前記スイッチング手段(4)は、前記交流モータ(6)への給電と、外部三相配電網(11)が巻線(7)に接続されたとき、インダクタとして前記交流モータ(6)の巻線(7)を用いることによって、前記外部三相配電網(11)から前記インバータ(2)を介する前記蓄電手段(5)への充電との両方を可能にし、
前記スイッチング手段(4)は、前記インバータ(2)内に組み込まれており、かつ前記交流モータ(6)の各相当たり、少なくとも1つのHブリッジ構造(3、3’、3’’)を備えており、
前記各Hブリッジ(3、3’、3’’)は、4つのスイッチ(12)を備え、前記スイッチ(12)は、ブリッジアーム(A、B、C、D、E、F)に配置され、
充電モードにおいて、
-前記モータ(6)の第1の相の前記巻線(7)と第1の相のHブリッジ(3)に対応する第1のブリッジアーム(A)との接続点は、前記外部三相配電網(11)の第1の端子に接続されるように構成され、
-前記モータ(6)の第2の相の前記巻線(7)と第2の相のHブリッジ(3’)に対応する第1のブリッジアーム(C)との接続点は、前記外部三相配電網(11)の第2の端子に接続されるように構成され、
-前記モータ(6)の第3の相の前記巻線(7)と第3の相のHブリッジ(3’’)に対応する第1のブリッジアーム(E)との接続点は、前記外部三相配電網(11)の第3の端子に接続されるように構成され、
-前記第1のブリッジアーム(A、C、E)のそれぞれに接続されている2つのスイッチ(4)は開かれ、一方、他のブリッジアーム(B、D、F)のそれぞれに接続されているスイッチ(4)は交流制御にしたがって駆動され、その結果、前記巻線(7)には交流電流が流れ、PFC(力率補正)機能が全相で遂行されることを特徴とする電気装置。
【請求項2】
前記蓄電手段(5)の特性に、前記外部三相配電網(11)からインバータを介して供給される電圧を適合させることを可能にするDC/DCコンバータ(10)を、前記Hブリッジ構造(3、3’、3’’)と前記蓄電手段(5)との間に備えている、請求項1に記載の電気装置。
【請求項3】
前記電気装置への通電時に、前記外部三相配電網(11)への接続のための差し込み口への接触を防止することができるロック手段を備えている、請求項1又は2に記載の電気装置。
【請求項4】
前記外部三相配電網(11)への接続のための差し込み口は、前記電気装置の接地手段を備えている、請求項1?3のいずれか1項に記載の電気装置。
【請求項5】
-1つの三相交流モータ(6)と、前記三相交流モータ(6)に接続されたインバータ(2)と、および前記インバータ(2)に接続された蓄電手段(5)と、スイッチング手段(4)とを備える給電および充電に共用される電気装置であって、前記スイッチング手段(4)は、前記インバータ(2)内に組み込まれており、かつ前記交流モータ(6)の各相当たり、少なくとも1つのHブリッジ構造(3、3’、3’’)を備えており、前記各Hブリッジ(3、3’、3’’)は、4つのスイッチ(12)を備え、前記スイッチ(12)は、ブリッジアーム(A、B、C、D、E、F)に配置される、給電および充電に共用される電気装置を提供するステップと、
-スイッチング手段(4)を、交流モータ(6)に給電するモードから、前記蓄電手段(5)を充電するモードへのスイッチング、またその逆のスイッチングを可能にするように制御するステップと、
-インダクタとして前記交流モータ(6)の巻線(7)を用いることによって、前記インバータ(2)を介して前記外部三相配電網(11)から前記蓄電手段(5)へ充電するステップとを含み、
-前記外部三相配電網(11)の第1の端子は、前記モータ(6)の第1の相の前記巻線(7)と第1の相のHブリッジ(3)に対応する第1のブリッジアーム(A)との接続点に接続され、
-前記外部三相配電網(11)の第2の端子は、前記モータ(6)の第2の相の前記巻線(7)と第2の相のHブリッジ(3’)に対応する第1のブリッジアーム(C)との接続点に接続され、
-前記外部三相配電網(11)の第3の端子は、前記モータ(6)の第3の相の前記巻線(7)と第3の相のHブリッジ(3’’)に対応する第1のブリッジアーム(E)との接続点に接続され、
-前記第1のブリッジアーム(A、C、E)のそれぞれに接続されている2つのスイッチ(4)は開かれ、一方、他のブリッジアーム(B、D、F)のそれぞれに接続されているスイッチ(4)は交流制御にしたがって駆動され、その結果、前記巻線(7)には交流電流が流れ、PFC(力率補正)機能が全相で遂行されることを特徴とする給電および充電に共用する方法。
【請求項6】
前記三相交流モータ(6)の一相が損傷した際に、一定振幅の単一の回転磁界を発生させることができるように、他の二相のうちの一方の位相反転を制御するステップを含んでいる、請求項5に記載の方法。」


(2)新規事項
(ア)本件補正後の請求項1には、「1つの三相交流モータ(6)」、「前記交流モータ(6)の各相当たり、少なくとも1つのHブリッジ構造(3、3’、3’’)を備えており」と記載されており、少なくとも1つとあるから、三相交流モータは各相当たり複数のHブリッジ構造を備えてもよいこととなる。

そこで、当該補正が、国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては、当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く)(以下、翻訳文等という)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

翻訳文等には、
a「【請求項3】
前記交流モータ(6)は三相モータであり、前記スイッチング手段(4)は3つのHブリッジ構造を有する、請求項1または2に記載の電気装置。」

b「交流モータが三相モータである場合には、スイッチング手段は、3つのHブリッジ構造を有していると有利である。」(【0013】)

c「図1には、インバータ2と、インバータ2内に組み込まれており、3つのHブリッジ3、3’、3’’を有するスイッチング手段4とを備える、本発明による装置1が示されている。」(【0020】)

d「各Hブリッジ3、3’、3’’は、それぞれの2本のブリッジアーム(符号AおよびB、CおよびD、EおよびFを付されている)に、4つのスイッチ12を配置されている。従来の三相ブリッジに優るHブリッジの1つの利点は、それを用いることによって、同一の電圧から、モータの各相に印加される電圧が2倍になるということである。その結果、スイッチ12の数が2倍になるが、用いられるシリコンの面積は、Hブリッジの場合と、従来の三相ブリッジの場合とでほとんど同一である。これは、相電流が2分割されるからである。」(【0022】)

e「給電モードから充電モードへの移行は、ブリッジアームA?Fのスイッチを駆動する制御回路9によって管理される(図1においては、図面の読み出しを簡単にするために、制御回路9とスイッチとの関の接続は示されていない)。給電モードにおいては、制御回路9は、標準的制御と同様に、三相電流を発生させるブリッジアームA?Fの全てを制御する。充電モードにおいては、電気機械のモータ6の巻線7(インダクタを構成する)とともに、昇圧器を実現するブリッジアームB、D、Fだけが制御される。
より詳細には、この例においては、制御回路9は、次のようにブリッジアームA?Fを駆動する。
- 給電モードにおいては、各Hブリッジは、モータの対応する相に交流電流を流すように制御される。モータの三相を流れる交流電流は、従来どおりに、モータが回転するように調和させられる。制御回路9は、従来の正弦波PWM(パルス幅変調)制御にしたがって、ブリッジアームAおよびBのスイッチ12(この例では、パワートランジスタである)を駆動することができる。他の2つのHブリッジも、三相モータの場合には、好ましくは互いに120°だけ位相がずれた状態で、同じ正弦波PWM制御にしたがって駆動される。
- 三相の充電モードにおいては、インダクタを構成する各巻線7に交流電流が流れ、PFC(力率補正)機能が全相で遂行されるように、ブリッジアームA、C、Eの各々の2つのスイッチは開かれ、一方、ブリッジアームB、D、Fの各々の2つのスイッチは、三相チャージャのための従来の交流制御にしたがって駆動される。」(【0026】-【0027】)

f「図2は、単相チャージャを構成する三相のインバータ2を示している。
この例においては、制御回路9は、ブリッジアームA?Fを、次のように駆動することができる。
- 給電モードにおいては、図1の装置の給電モードにおける制御(上記参照)と同じ制御がなされる。
- 充電モードにおいては、インダクタを構成する各巻線7に整流された交流電流が流れ、PFC機能が関連する相において遂行されるように、ブリッジアームB、C、E、Fは制御されず、すなわち、これらのブリッジアームのスイッチ12は全て開かれ、ブリッジアームAおよびDのスイッチは、単相チャージャのための従来の交流制御にしたがって駆動される。
図3も、単相チャージャを構成する三相のインバータを示している。単相配電網に対するこの第2の解法においては、配電網11は、ブリッジ整流器を介して、インバータ2に接続されている。配電網11の電流は、単相のダイオードブリッジ13によって整流される。
この例においては、制御回路9は、ブリッジアームA?Fを、次のように駆動することができる。
- 給電モードにおいては、図1の装置の給電モードにおける制御(上記参照)と同じ制御がなされる。
- 充電モードにおいては、インダクタを構成する各巻線7に整流された交流電流が流れ、PFC機能が関連する相において遂行されるように、ブリッジアームB?Fは制御されず、一方、ブリッジアームAのスイッチ12は、単相チャージャのための従来の交流制御にしたがって駆動される。」(【0030】-【0033】)

とあるのみで、三相交流モータが3つのHブリッジを有することは記載はあるものの、三相交流モータが各相当たり複数のHブリッジ構造を備えてもよいことは記載も示唆もない。なお、請求項中の括弧書き内の図面の符号では発明の構成を特定したことにはならない。

したがって、本件補正後の請求項1に記載された「1つの三相交流モータ(6)」、「前記交流モータ(6)の各相当たり、少なくとも1つのHブリッジ構造(3、3’、3’’)を備えており」は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。請求項5も同様である。

(イ)本件補正後の請求項1には、「前記モータ(6)の第1の相の前記巻線(7)と第1の相のHブリッジ(3)に対応する第1のブリッジアーム(A)との接続点は、前記外部三相配電網(11)の第1の端子に接続されるように構成され」とあり、モータ巻線と第1のブリッジアームとの接続点が外部三相配電網の第1の端子に接続されることとなる。

そこで、当該補正が、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

翻訳文等には、
g「【請求項4】
前記電気装置への通電時に、前記外部配電網(11)への接続のための差し込み口への接触を防止することができるロック手段を備えている、請求項1?3のいずれか1項に記載の電気装置。」

h「電気装置への通電時に、外部配電網への接続のための差し込み口への接触を防止することができるロック手段を備えることもある。」(【0014】)

i「 装置1は、さらに、三相配電網の差し込み口に接続可能なコネクタ8を備えている。このコネクタ8は、充電モード時の装置1への通電中に、三相配電網の差し込み口への接触を防止することができるロック手段(図面には示されていない)を備えている。コネクタ8は、さらに、給電モード時に、ユーザが、(通電されている)導線に接触することを防止する第2のロック手段(図示せず)が組み合わされている。差し込み口は、さらに、装置1の接地手段(図示せず)を備えている。コネクタ8は、EMCフィルタ(電磁波による障害を防止するためのフィルタ)、および配電網への接続を目的として作られている任意の器具のための従来の保護手段(図示せず)を備えていると有利である。」(【0025】)

とあるのみで、モータ巻線と第1のブリッジアームとの接続点がコネクタを介して三相配電網の差し込み口に接続可能であることは記載はあるものの、モータ巻線と第1のブリッジアームとの接続点が外部三相配電網の第1の端子に接続されることは記載も示唆もない。

したがって、本件補正後の請求項1に記載された「前記モータ(6)の第1の相の前記巻線(7)と第1の相のHブリッジ(3)に対応する第1のブリッジアーム(A)との接続点は、前記外部三相配電網(11)の第1の端子に接続されるように構成され」は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。請求項5も同様である。


(3)目的要件
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。また、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。

本件補正前の請求項1に係る電気装置は、三相交流モータとインバータと蓄電手段とスイッチング手段と外部三相配電網と各相当たり少なくとも1つのHブリッジ構造とを備え、DC/DCコンバータと差し込み口を備えていないから、請求人も平成28年8月24日付意見書で主張するように、本件補正前の請求項1に対応するものとして検討する。

本件補正前の請求項1は、電気装置を構成する要素が記載されただけであったものが、本件補正後の請求項1は、「前記第1のブリッジアーム(A、C、E)のそれぞれに接続されている2つのスイッチ(4)は開かれ、一方、他のブリッジアーム(B、D、F)のそれぞれに接続されているスイッチ(4)は交流制御にしたがって駆動され、その結果、前記巻線(7)には交流電流が流れ、PFC(力率補正)機能が全相で遂行される」ので、電気装置が所望の動作をするようにHブリッジのスイッチを交流制御している。
そうすると、本件補正前の請求項1記載のどの構成を限定しても、本件補正後の請求項1に記載されたような制御動作にはならないから、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものには該当せず、特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。請求項5も同様である。

したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。


(3)むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


[理由II]
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項に記載されたものが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)特許法第36条第4項及び第6項について
(ア)本件補正後の請求項1には、「1つの三相交流モータ(6)」、「前記交流モータ(6)の各相当たり、少なくとも1つのHブリッジ構造(3、3’、3’’)を備えており」と記載されており、少なくとも1つとあるから、三相交流モータは各相当たり複数のHブリッジ構造を備えてもよいこととなる。
しかし、上述のように、三相交流モータが3つのHブリッジを有することは記載はあるものの、三相交流モータが各相当たり複数のHブリッジ構造を備えることは明細書等に何等開示が無く不明(なお、請求項中の括弧書き内の図面の符号では発明の構成を特定したことにはならない。)であり、又、例えば、第1の相に2つのHブリッジ構造を備え、第2及び第3の相に1つのHブリッジ構造を備えた場合、三相交流モータはどの様な構造になって、どの様な制御を行うのか明細書等に何ら記載が無く不明である。請求項5も同様である。

(イ)本件補正後の請求項1には、「前記モータ(6)の第1の相の前記巻線(7)と第1の相のHブリッジ(3)に対応する第1のブリッジアーム(A)との接続点は、前記外部三相配電網(11)の第1の端子に接続されるように構成され」とあり、モータ巻線と第1のブリッジアームとの接続点が外部三相配電網の第1の端子に接続されることとなる。
しかし、上述のように、モータ巻線と第1のブリッジアームとの接続点が外部三相配電網の第1の端子に接続されることは明細書等に何等記載が無く不明である。請求項5も同様である。

(ウ)本件補正後の請求項1には、「前記第1のブリッジアーム(A、C、E)のそれぞれに接続されている2つのスイッチ(4)は開かれ、一方、他のブリッジアーム(B、D、F)のそれぞれに接続されているスイッチ(4)は交流制御にしたがって駆動され、その結果、前記巻線(7)には交流電流が流れ、PFC(力率補正)機能が全相で遂行される」と記載されているが、交流制御とはどの様な制御方法であるのか一般的な用語ではないため構成が特定できず不明であるから、充電モードにおいて、Hブリッジの他のブリッジアームのそれぞれに接続されているスイッチをどの様に駆動するのか不明であり、ひいては何故巻線には交流電流が流れ、PFC(力率補正)機能が全相で遂行されるのか不明である。請求項5も同様である。

したがって、本件補正後の請求項1-6の記載は発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、かつ、本件補正後の請求項1-6の記載は明確ではないので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、かつ、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないので、特許出願の際独立して特許を受けることができない。


(2)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-7に係る発明は、上記した平成28年2月12日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(1)当審の最後の拒絶の理由
当審で平成28年5月18日付で通知した最後の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
「(1)この出願の発明の構成が不明である。例えば、図1において、外部配電網とモータの巻線が具体的にどの様に接続されているのか不明(平成28年2月12日付意見書図1aでは、三相外部配電網が存在しコネクタを介してモータに接続されることは解るが、両者が電気回路として具体的にどの様に接続されるのか不明である。図1a三相配電網電源出力の矢印の先の四角形のボックス内がどの様な回路構成となっているのか明示されたい。)である。
(2)図1において、DC/DCコンバータ10があるが、どの様な動作を行うことにより、バッテリへの充電、バッテリからの給電を行うのか、回路が示されていないため不明(平成28年2月12日付意見書図1bには、Hブリッジ側にコンデンサを有する昇降圧コンバータが記載されているが、昇降圧コンバータは必ずしも昇圧出力側にコンデンサを有していない。例えば特開2007-330020号公報図1昇降圧コンバータ(20)、特開2007-68290号公報図1昇降圧コンバータ(20)参照。意見書図1bを意図するならば新規事項ではないか。)である。
(3)図1において、外部電源網がコネクタに接続された後、Hブリッジの各スイッチング手段はどの様に動作することにより、バッテリへ充電ができるのか何ら開示が無く不明(Hブリッジの各スイッチング手段がオンオフしなければ充電動作ができないから、平成28年2月12日付意見書図1cに関する説明は無意味である。また、特開2007-97341号公報、特開平6-245327号公報は、Hブリッジではなく一般的なインバータであるから、本願の回路の動作の説明にはならない。本願の図1のHブリッジが外部電源網に接続されて充電時にどの様に動作するのか明示されたい。)である。
(4)図2において、Hブリッジの各スイッチング手段はどの様に動作することにより、バッテリへ充電ができるのか何ら開示が無く不明(外部電源網11のL1側が+のとき、外部電源網-L1-ダイオードHS1A-バッテリ-ダイオードLS2A-外部電源網の回路ができ、外部電源網11のL2側が+のとき、外部電源網-ダイオードHS2A-バッテリ-ダイオードLS1A-L1-外部電源網の回路ができるから、スイッチング素子のオンオフとは無関係に上記した回路に電流が流れるのではないか。また、コンデンサが無いにもかかわらず、何故所望の回路動作による効果を奏するのか不明である。上記した回路動作と動作が異なるならば、具体的に示されたい。)である。
(5)図3において、Hブリッジの各スイッチング手段はどの様に動作することにより、バッテリへ充電ができるのか何ら開示が無く不明(整流器があるので、整流器+側-L1-ダイオードHS1A-バッテリ-ダイオードLS1D-整流器-側の回路ができるから、スイッチング素子のオンオフとは無関係に上記した回路に電流が流れるのではないか。また、コンデンサが無いにもかかわらず、何故所望の回路動作による効果を奏するのか不明である。上記した回路動作と動作が異なるならば、具体的に示されたい。)である。
(6)請求項1には、「前記交流モータ(6)の各相当たり、少なくとも1つのHブリッジ構造」とあるから、各相に2つ以上のHブリッジを備えても良いこととなる。しかし、各相に2つ以上のHブリッジを備えた場合、どの様な回路となるのか何ら開示が無く不明であり、しかも、バッテリからの放電、バッテリへの充電をどの様に行うのか不明(交流モータの各相当たり1つのHブリッジ構造を備えることが示されているだけではないか)である。
(7)請求項6において、末尾が方法であるが、そのための構成が何等記載されておらず不明(方法について何等記載されていない。電気装置自体が、物として本来有している機能しか記載されていない。平成28年2月12日付意見書の審査基準の記載は、方法の発明において、物その他の表現形式を用いることができると記載しているだけで、記載全てが物の構成で末尾のみに方法と記載しても良いとしているものではない。また、他のカテゴリーの請求項を引用しないで記載されたい。)である。請求項7も同様である。」


(2)最後の拒絶の理由についての判断
(ア)図1において、外部配電網とモータの巻線が具体的にどの様に接続されているのか不明である。なお、請求人は、平成28年2月12日付意見書で当該接続構成について図1aを示し縷々主張するが、当該図1aは三相外部配電網が存在しコネクタを介して三相モータに接続されることは理解できても、両者が電気回路として具体的にどの様に接続されるのか開示されておらず、当該図1a三相配電網電源出力の矢印の先の四角形のボックス内がどの様な回路構成となっているのか開示が無く不明であるから、請求人の上記主張は採用できない。
(イ)図1において、DC/DCコンバータ10があるが、どの様な動作を行うことにより、バッテリへの充電、バッテリからの給電を行うのか、回路が示されていないため不明であり、又、「公称345Vのバッテリ」(【0008】)とあって、「配電網の電圧レベルを、高電圧バッテリの電圧レベルに合致させるための直流-直流コンバータを備えている」(【0005】)とあるから、外部配電網の電圧を345Vまで昇圧しなければならないが、インバータとDC/DCコンバータはどの様に相互関連性をもって動作するのか不明である。なお、請求人は、平成28年2月12日付意見書で当該DC/DCコンバータについて図1bを示し縷々主張するが、当該図1bにはHブリッジ側にコンデンサを有する昇降圧コンバータが記載されてはいるが、昇降圧コンバータは必ずしも昇圧出力側にコンデンサを有しておらず(DC/DCコンバータが図1bの回路を意図するならば新規事項である)、しかも、当該昇降圧コンバータはHブリッジ側の電圧を降下させて蓄電手段5に供給するものであるから、上記記載と矛盾するものであり、請求人の上記主張は採用できない。
(ウ)図1において、外部電源網がコネクタに接続された後、Hブリッジの各スイッチング手段はどの様に動作することにより、バッテリへ充電ができるのか何ら開示が無く不明である。なお、請求人は、平成28年2月12日付意見書で図1cを示し縷々主張するが、Hブリッジの各スイッチング手段がどの様にオンオフして充電動作を行うかについては説明されておらず、又、従来技術として、特開2007-97341号公報、特開平6-245327号公報を挙げているが、当該公報に示されるのはHブリッジではなく一般的なインバータであるから、請求人の上記主張は採用できない。
(エ)図2において、Hブリッジの各スイッチング手段はどの様に動作することにより、バッテリへ充電ができるのか何ら開示が無く不明(請求項1は図2の回路も保護の対象である)である。外部電源網11のL1側(Hブリッジ構造3側)が+のとき、外部電源網-ダイオードHS1C-バッテリ-ダイオードLS2A-外部電源網の回路ができ、外部電源網11のL2側(Hブリッジ構造3’側)が+のとき、外部電源網-ダイオードHS2A-バッテリ-ダイオードLS1D-外部電源網の回路ができるから、スイッチング素子をオンオフさせても巻線に電流が流れることはないものと考えられ、どの様に蓄電手段に充電するのか何等開示が無く不明であり、又、巻線(インダクタ)のみを有しコンデンサを有していないにもかかわらず何故高圧の蓄電池に充電できるのか不明である。
(オ)図3において、Hブリッジの各スイッチング手段はどの様に動作することにより、バッテリへ充電ができるのか何ら開示が無く不明(請求項1は図3の回路も保護の対象である)である。整流器+側-ダイオードHS1C-バッテリ-整流器-側の回路ができるから、スイッチング素子をオンオフさせても巻線に電流が流れることはないものと考えられ、どの様に蓄電手段に充電するのか何等開示が無く不明であり、又、巻線(インダクタ)のみを有しコンデンサを有していないにもかかわらず何故高圧の蓄電池に充電できるのか不明である。
(カ)請求項1には、「前記交流モータ(6)の各相当たり、少なくとも1つのHブリッジ構造」とあるから、各相に2つ以上のHブリッジを備えても良いこととなる。しかし、各相に2つ以上のHブリッジを備えた場合、1つの相に2つのHブリッジ、残り2つの相に1つずつHブリッジを備えた場合、どの様な回路となるのか何ら開示が無く不明であり、しかも、バッテリからの放電、バッテリへの充電をどの様に行うのか不明である。
(キ)請求項6において、末尾が方法であるが、そのための構成が何等記載されておらず不明(電気装置自体が、物として本来有している機能しか記載されておらず、方法について何等記載されていない。方法の発明であるならば、方法が順に進行するための時間の概念が入らなければならないが、何等記載が無い。「交流モータ(6)に給電するモードから、蓄電手段(5)を充電するモードへのスイッチング、またその逆のスイッチングを可能にするように制御するステップ」との記載では、充電可能・給電可能を意味するだけで、制御のために必要な順に進行するステップが記載されていない。)である。請求項7も同様である。

したがって、請求項1-7の記載は発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、かつ、本件補正後の請求項1-7の記載は明確ではないので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、かつ、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


(3)むすび
したがって、請求項1-7の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
そうすると、本願を拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-28 
結審通知日 2017-01-10 
審決日 2017-01-27 
出願番号 特願2011-543770(P2011-543770)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H02J)
P 1 8・ 536- WZ (H02J)
P 1 8・ 537- WZ (H02J)
P 1 8・ 575- WZ (H02J)
P 1 8・ 537- WZ (H02J)
P 1 8・ 572- WZ (H02J)
P 1 8・ 561- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馬場 慎  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 堀川 一郎
矢島 伸一
発明の名称 給電および充電に共用される電気装置  
代理人 竹沢 荘一  
代理人 中馬 典嗣  

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