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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1329517
審判番号 不服2015-14319  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-30 
確定日 2017-06-14 
事件の表示 特願2012-545149「有機電子(OE)素子製造のための組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月30日国際公開,WO2011/076380,平成25年 5月 9日国内公表,特表2013-516054〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2010年(平成22年)12月22日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2009年12月23日,欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成24年 8月16日 特許法184条の4第1項の規定による翻訳文提出
平成25年12月24日 審査請求
平成26年11月13日 拒絶理由通知
平成27年 2月16日 意見書・誤訳訂正書
平成27年 3月24日 拒絶査定
平成27年 7月30日 審判請求・手続補正書
平成27年12月 4日 上申書


第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成27年7月30日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,本願の特許請求の範囲を補正するものであって,本願の特許請求の範囲の請求項1は,本件補正の前後で以下のとおりである。
・補正前
「【請求項1】
5000g/mol以下の分子量を有する一以上の有機半導体化合物(OSC)と一以上の有機溶媒を含む組成物であって,前記有機溶媒は,少なくとも60重量%の3,4-ジメチルアニソールを含むことを特徴とする,組成物。」
・補正後
「【請求項1】
5000g/mol以下の分子量を有する一以上の有機半導体化合物(OSC)と一以上の有機溶媒を含む組成物であって,前記有機溶媒は,3,4-ジメチルアニソールから成ることを特徴とする,組成物。」

2 補正事項の整理
本件補正による,補正前の特許請求の範囲の請求項1についての補正を整理すると次のとおりとなる。(当審注.補正箇所に下線を付した。)
・補正事項
補正前の請求項1の「前記有機溶媒は,少なくとも60重量%の3,4-ジメチルアニソールを含む」を,「前記有機溶媒は,3,4-ジメチルアニソールから成る」と補正すること。

3 補正の適否について
本願の願書に最初に添付した明細書の「本発明の非常に,好ましい具体例では,溶媒は,3,4-ジメチルアニソールから成る。」(【0149】)との記載,及び「例4 本質的に,比較例1が繰り返された。しかしながら,3,4-ジメチルアニソールが溶媒として使用された。」(【0249】)との記載から,上記補正事項は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるので,上記補正事項は,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして,上記補正事項は,補正前の請求項1に記載された「有機溶媒」の構成を,「少なくとも60重量%の3,4-ジメチルアニソールを含む」から「3,4-ジメチルアニソールから成る」に限定的に減縮するから,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,同法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかである。

4 独立特許要件についての検討
(1)検討の前提
上記3で検討したとおり,本件補正による補正前の請求項1についての補正事項は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから,本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かにつき,更に検討する。

(2)本願補正発明
本件補正により補正された,本願特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「【請求項1】
5000g/mol以下の分子量を有する一以上の有機半導体化合物(OSC)と一以上の有機溶媒を含む組成物であって,前記有機溶媒は,3,4-ジメチルアニソールから成ることを特徴とする,組成物。」
ここで,本件補正後の請求項1における「一以上の有機溶媒を含む組成物であって」との記載は,「組成物」には複数の「有機溶媒」が含まれ得ると解されるので,本件補正後の請求項1の「前記有機溶媒は,3,4-ジメチルアニソールから成る」との記載と矛盾する。
しかし,本願明細書の記載(【0149】及び【0249】,上記3参照。)を参酌すれば,本件補正後の請求項1における「一以上の有機溶媒を含む組成物であって」との記載は,「有機溶媒を含む組成物であって」の誤記ということができる。
以上より,本件補正後の請求項1における上記の誤記を認め,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は,以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
5000g/mol以下の分子量を有する一以上の有機半導体化合物(OSC)と有機溶媒を含む組成物であって,前記有機溶媒は,3,4-ジメチルアニソールから成ることを特徴とする,組成物。」

(3)引用文献の記載と引用発明
ア 引用文献
平成27年3月24日付け拒絶査定において,引用文献2として引用された,本願の優先権主張日(以下「本願優先日」という。)前に外国において頒布された刊行物である,国際公開第2009/151978号(以下「引用文献」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(当審注.訳は,対応する日本出願の公表公報(特表2011-525044号公報)による。また,下線は当審において付加した。以下同じ。)
(ア)「Background
・・・
A variety of organic semiconductor materials have been considered, the most common being fused aromatic ring compounds as exemplified by acenes. At least some of these organic semiconductor materials have performance characteristics such as charge- carrier mobility, on/off current ratios, and sub-threshold voltages that are comparable or superior to those of amorphous silicon-based devices. Typically, these materials have been vapor deposited since they are not very soluble in most organic solvents. When organic semiconductors have been deposited from solution (such as a solution of the organic semiconductor dissolved in an organic solvent), good or optimum performance characteristics have been difficult to achieve.
Summary
There is a need for compositions that contain an organic semiconductor material dissolved in organic solvents for use in the preparation of semiconductor devices such as, for example, thin film transistors. There is a need for such compositions to provide semiconductor devices having performance characteristics (such as high saturation field effect mobility (μ)) that have not typically been achieved using known compositions and preparation methods.」(1頁19行ないし2頁3行)
(訳:背景技術
・・・
様々な有機半導体材料が検討されており,最も一般的なのはアセン類に代表される縮合芳香族環化合物である。これらの有機半導体材料の少なくとも幾つかは,電荷キャリア移動度,オン/オフ電流比,及びサブ閾値電圧などの性能特性を有し,それらはアモルファスシリコン系デバイスと同等であるかあるいはそれより優れている。典型的にはこれらの材料は,多くの有機溶媒に対してあまり溶解度が高くないため,蒸着されている。有機半導体が溶液(例えば有機溶媒中に溶解した有機半導体溶液など)から堆積されると,良好又は最適な性能特性は達成が難しくなっている。
発明の概要
例えば薄膜トランジスタなどの半導体デバイスの作製に使用するための,有機溶媒に溶ける有機半導体材料を含む組成物のニーズが存在する。既知の組成物及び作製方法の使用では通常達成されないような性能特性(例えば高い飽和電界効果移動度(μ)など)を有する半導体デバイスを提供するための,そのような組成物のニーズが存在する。)
(イ)「A composition is provided that includes (a) a solvent mixture and (b) an organic semiconductor dissolved in the solvent mixture. The solvent mixture contains (i) an alkane having 6 to 16 carbon atoms and (ii) an aromatic compound of Formula (I).

・・・
・・・In some embodiments, the aromatic compound of Formula (I) is selected from anisole, 2-methylanisole, 3-methylanisole, 4-methylanisole, 2,3-dimethylanisole, 2,4-dimethylanisole, 2,5-dimethylanisole, 2,6-dimethylanisole, 3,4-dimethylanisole, 3,5-dimethylanisole, 2-chloroanisole, 3-chloroanisole, 4-chloroanisole, and 1,2- dimethoxybenzene. ・・・
・・・
In addition to the aromatic compound of Formula (I), the solvent mixture includes at least one alkane. Some solvent mixtures include more than one alkane. ・・・Non- limiting examples of alkanes include octane, iso-octane, cyclooctane, nonane, 2-methyloctane, 3-methyloctane, decane, 2-methylnonane, 3- methylnonane, 4-methylnonane, undecane, 2-methyldecane, 4-methyldecane, 5- methyldecane, dodecane, 2-methylundecane, tridecane, 3-methyldodecane, tetradecane, pentadecane, and hexadecane. ・・・
・・・
The solvent mixture typically includes 1 to 20 weight percent of the alkane having 6 to 16 carbon atoms and 80 to 99 weight percent of the aromatic compound of Formula (I) based on the weight of the solvent mixture. ・・・
Some exemplary solvent mixtures include 1 to 12 weight percent decane, undecane, dodecane, or a mixture thereof and 88 to 99 weight percent anisole, 3,5- dimethylanisole, n-butylbenzene, or a mixture thereof, 2 to 10 weight percent decane, undecane, dodecane, or a mixture thereof and 90 to 98 weight percent anisole, 3,5- dimethyl anisole, n-butylbenzene, or a mixture thereof, 3 to 10 weight percent decane, undecane, dodecane, or a mixture thereof and 90 to 97 weight percent anisole, 3,5- dimethyl anisole, n-butylbenzene, or a mixture thereof, 4 to 10 weight percent weight percent decane, undecane, dodecane, or a mixture thereof and 90 to 96 weight percent anisole, 3,5-dimethyl anisole, n-butylbenzene, or a mixture thereof, or 4 to 8 weight percent weight percent decane, undecane, dodecane, or a mixture thereof and 92 to 96 weight percent anisole, 3,5-dimethyl anisole, n-butylbenzene.」(5頁21行ないし9頁26行)
(訳:(a)溶媒混合物,及び(b)その溶媒混合物に溶解した有機半導体,を含む組成物が提供される。この溶媒混合物は(i)6?16個の炭素原子を有するアルカン,及び(ii)式(I)の芳香族化合物を含む。

・・・
・・・幾つかの実施形態では,式(I)の芳香族化合物は,アニソール,2-メチルアニソール,3-メチルアニソール,4-メチルアニソール,2,3-ジメチルアニソール,2,4-ジメチルアニソール,2,5-ジメチルアニソール,2,6-ジメチルアニソール,3,4-ジメチルアニソール,3,5-ジメチルアニソール,2-クロロアニソール,3-クロロアニソール,4-クロロアニソール,及び1,2-ジメトキシベンゼンから選択される。・・・
・・・
式(I)の芳香族化合物に加え,この溶媒混合物には少なくとも1つのアルカンが含まれる。・・・非限定的なアルカンの例には,オクタン,イソ-オクタン,シクロオクタン,ノナン,2-メチルオクタン,3-メチルオクタン,デカン,2-メチルノナン,3-メチルノナン,4-メチルノナン,ウンデカン,2-メチルデカン,4-メチルデカン,5-メチルデカン,ドデカン,2-メチルウンデカン,トリデカン,3-メチルドデカン,テトラデカン,ペンタデカン,及びヘキサデカンが挙げられる。・・・
・・・
この溶媒混合物は典型的に,溶媒混合物の重量に対し,6?16個の炭素原子を有するアルカンが1?20重量パーセント,式(I)の芳香族化合物が80?99重量パーセントを含む。・・・
幾つかの代表的な溶媒混合物には,デカン,ウンデカン,ドデカン,若しくはそれらの混合物1?12重量パーセントと,アニソール,3,5-ジメチルアニソール,n-ブチルベンゼン,若しくはそれらの混合物88?99パーセント,デカン,ウンデカン,ドデカン,若しくはそれらの混合物2?10パーセントとアニソール,3,5-ジメチルアニ
ソール,n-ブチルベンゼン,若しくはそれらの混合物90?98重量パーセント,デカン,ウンデカン,ドデカン,若しくはそれらの混合物3?10重量パーセントとアニソール,3,5-ジメチルアニソール,n-ブチルベンゼン,若しくはそれらの混合物90?97重量パーセント,デカン,ウンデカン,ドデカン,若しくはそれらの混合物4?10重量パーセントとアニソール,3,5-ジメチルアニソール,n-ブチルベンゼン,若しくはそれらの混合物90?96重量パーセント,又は,デカン,ウンデカン,ドデカン,若しくはそれらの混合物4?8重量パーセントとアニソール,3,5-ジメチルアニソール,n-ブチルベンゼン92?96重量パーセントが含まれる。)
(ウ)「The composition includes at least one organic semiconductor material dissolved in the solvent mixture. ・・・
・・・
In some embodiments, the organic semiconductor includes a substituted pentacene. ・・・
・・・
In addition to the semiconductor material dissolved in the solvent mixture, the composition can further include a polymer. The polymer can be a homopolymer, copolymer, terpolymer, or the like. The polymer is often added to modify the rheology of the composition or to improve the mechanical properties of a semiconductor layer formed from the composition.
・・・
The polymer can be an amorphous polymer (i.e., the polymer exhibits no crystalline melting point when analyzed, for example, by differential scanning calorimetry). Exemplary polymers include, but are not limited to, polystyrene, poly(α- methylstyrene), poly(4-methylstyrene), poly(methyl methacrylate), polyvinylphenol, poly( vinyl alcohol), poly(vinyl acetate), poly( vinyl chloride), polyvinylidene fluoride, cyanoethylpullulan, poly(divinyltetramethyldisiloxane-bis(benzocyclobutene)), styrene- butadiene block copolymers, hydrogenated styrene-butadiene block copolymers, partially hydrogenated styrene-butadiene block copolymers, styrene-isoprene block copolymers, hydrogenated styrene-isoprene block copolymers, partially hydrogenated styrene-isoprene block copolymers, and the like. 」(10頁23行ないし19頁19行)
(訳:この組成物には,溶媒混合物に溶解した有機半導体材料が少なくとも1つ含まれる。・・・
・・・
幾つかの実施形態では,この有機半導体には置換ペンタセンが含まれる。・・・
・・・
溶媒混合物に溶解した半導体材料に加え,この組成物は更にポリマーを含み得る。このポリマーはホモポリマー,コポリマー,ターポリマー,又は同様物であり得る。このポリマーはしばしば,組成物のレオロジーを改変するため,又は,この組成物から形成される半導体層の機械的特性を改善するために加えられる。
・・・
ポリマーは非晶質ポリマーであり得る(すなわち,このポリマーは例えば,示差走査熱量測定法によって分析しても,結晶融点を示さない)。代表的なポリマーには,ポリスチレン,ポリ(α-メチルスチレン),ポリ(4-メチルスチレン),ポリ(メチルメタクリレート),ポリビニルフェノール,ポリ(ビニルアルコール),ポリ(酢酸ビニル),ポリ(塩化ビニル),ポリフッ化ビニリデン,シアノエチルプルラン,ポリ(ジビニルテトラメチルジシロキサン-ビス(ベンゾシクロブテン)),スチレン-ブタジエンブロックコポリマー,水素化スチレン-ブタジエンブロックコポリマー,部分的水素化スチレン-ブタジエンブロックコポリマー,スチレン-イソプレンブロックコポリマー,水素化スチレン-イソプレンブロックコポリマー,部分的水素化スチレン-イソプレンブロックコポリマー,及び同様物が挙げられるがこれらに限定されない。)
(エ)「Although not wishing to be bound by theory, the addition of the alkane to the solvent mixture tends to lower the contact angle of the composition on the substrate and may help reduce pinning of the contact line between the composition and the substrate. The alkane typically has a lower surface tension than the aromatic compound of Formula (I). The alkanes often have a surface tension less than 28 dynes/cm, less than 26 dynes/cm, less than 25 dynes/cm, or less than 24 dynes/cm at 20℃. After nucleation of the organic semiconductor at or near the contact line, the lower contact angle and perhaps the reduced pinning may help the organic semiconductor to crystallize and grow along the substrate or on the plane of the substrate rather than up off the plane of the substrate while the solvent evaporates. This is particularly important when charge transport in the organic semiconductor adjacent to the substrate is critical to the performance of the semiconductor device, such as when the composition is deposited onto a gate dielectric in the fabrication of a thin film transistor.
More particularly, when small features are desired (e.g., on the order of 1 mm or less), the aromatic compound of Formula (I) often is selected to have a relatively low vapor pressure such as less than 10 mm mercury, less than 5 mm mercury, or less than 2 mm mercury at 20℃. If the only solvent included in the composition is the aromatic compound of Formula (I), however, the resulting semiconductor layer tends to be nonuniform. Nucleation tends to occur at the perimeter of the deposited layer and crystals of the semiconductor often form predominately at this perimeter. Additionally, if the aromatic compound of Formula (I) has a relatively high surface tension such as greater than 30 dynes/cm, greater than 32 dynes/cm, or greater than 34 dynes/cm at 20℃, crystal growth of the semiconductor material tends to be off the plane of many substrates. Mixing the aromatic compound of Formula (I) with an alkane having 9 to 16 carbon atoms or 10 to 12 carbon atoms tends to result in the formation of crystals over the entire deposited layer and growth along the substrate surface. These alkanes often have a surface tension less than 28 dynes/cm, less than 26 dynes/cm, less than 25 dynes/cm, or less than 24 dynes/cm at 20℃.
Additionally, when small features are desired, the alkane included in the solvent mixture is often selected to have a boiling point that is 5℃ to 35 ℃ above the boiling point of the aromatic compound of Formula (I). This selection may result in an optimal recirculatory flow (i.e., Marangoni flow) in the composition as the solvent is removed and may lead to the formation of semiconductor layers with optimal electrical performance. The optimum amount of the alkane in the solvent mixture may allow the contact line between the composition and the substrate to be pinned initially for a short time. During this time, nucleation of the semiconductor material occurs. Upon further removal of the solvent mixture, the contact line often recedes inward and the semiconductor crystals grows from the nucleation sites inward. This growth pattern tends to result in a fairly uniform semiconductor layer.」(26頁11行ないし27頁17行)
(訳:理論に束縛されるものではないが,溶媒混合物にアルカンを加えることは,基材上の組成物の接触角を下げる傾向があり,組成物と基材との間の接触ラインのピン固定を低減するのに役立ち得る。アルカンは典型的に,式(I)の芳香族化合物よりも低い表面張力を有する。アルカン類はしばしば,20℃において,28ダイン/cm未満,26ダイン/cm未満,25ダイン/cm未満,又は24ダイン/cm未満の表面張力を有する。接触ライン上又はその近くで有機半導体の核生成が起こった後,そのより低い接触角と,おそらくは低減されたピン固定が,溶媒が蒸発する際に,基材の面から離れるのではなく,基材に沿って,又は基材の平面上で,有機半導体が結晶化し成長するのに役立ち得る。例えば,薄膜トランジスタの製造においてゲート絶縁体上にこの組成物を堆積させる場合など,基材に隣接する有機半導体の電荷輸送が半導体デバイスの性能に必須である場合,このことは特に重要である。
より具体的には,小型化(例えば1mm以下の規模)が望ましい場合,式(I)の芳香族化合物はしばしば,低蒸気圧(例えば20℃で10mmHg未満,5mmHg未満,又は2mmHg未満)を有するよう選択される。しかしながら,組成物に含まれる唯一の溶媒が式(I)の芳香族化合物である場合は,結果として得られる半導体層は不均一になる傾向がある。核生成が堆積層の周囲部分で起こりやすく,半導体結晶がしばしばこの周囲部分で優先的に形成される。加えて,式(I)の芳香族化合物が比較的高い表面張力(例えば20℃で30ダイン/cm超,32ダイン/cm超,又は34ダイン/cm超)を有する場合は,半導体材料の結晶成長は,多くの基材上で,面から離れる傾向がある。式(I)の芳香族化合物を,9?16個の炭素原子又は10?12個の炭素原子を有するアルカンと混合すると,堆積層全体にわたって結晶生成が生じ,基材表面に沿って成長する傾向がある。これらのアルカン類はしばしば,20℃において,28ダイン/cm未満,26ダイン/cm未満,25ダイン/cm未満,又は24ダイン/cm未満の表面張力を有する。
加えて,小型化が望ましい場合,溶媒混合物中に含まれるアルカンはしばしば,式(I)の芳香族化合物の沸点よりも5℃?35℃高い沸点を有するよう選択される。この選択により,溶媒が除去される際に組成物中の最適な再循環流(すなわちマランゴニ対流)を生じさせることができ,最適な電気的性能を備えた半導体層の形成をもたらし得る。溶媒混合物中のアルカンの最適量により,組成物と基材との間の接触ラインに当初短時間のピン固定が可能になり得る。この間に,半導体材料の核生成が起こる。溶媒混合物を更に除去すると,接触ラインはしばしば内側に後退し,半導体結晶が核生成部位から内側に成長する。この成長パターンにより,かなり均一な半導体層がもたらされる傾向がある。)
(オ)「Examples
Unless otherwise noted, all reagents and solvents were or can be obtained from Sigma Aldrich Co., St. Louis, MO.
Unless otherwise noted, percentages of components of compositions are weight percentages.
The term "DMA" refers to 3,5-dimethylanisole.
・・・
The term "PS" refers to atactic poly(styrene) having a number average molecular weight of 112,000 grams/mole and a polydispersity index of 1.05. This poly(styrene) was obtained from Polymer Source, Inc. (Dorval, Quebec, Canada).
・・・
The term "TIPS" refers to 6,13-bis(triisopropylsilylethynyl)pentacene, prepared essentially as described in U.S. Patent No. 6,690,029 (Anthony et al.). 」(29頁15行ないし29行)
(訳:実施例
別途注記のない限り,すべての試薬及び溶媒は,Sigma Aldrich Co.(ミズーリ州セントルイス)から得られたか,又は得ることができる。
別途注記のない限り,組成物の構成成分のパーセンテージは重量パーセントである。
用語「DMA」は,3,5-ジメチルアニソールを指す。
・・・
用語「PS」は,数平均分子量112,000グラム/モル,多分散指数1.05を有する,アタクチックポリ(スチレン)を指す。このポリ(スチレン)はPolymer Source,Inc.(カナダ・ケベック州ドーヴァル)から入手された。
・・・
用語「TIPS」は,6,13-ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセンを指し,主に米国特許第6,690,029号(Anthony et al.)の記述に従い調製される。)
(カ)「Preparation of Compositions with a Solvent and an Organic Semiconductor - Composition Preparation Method I
An amount of an organic semiconductor and an optional amount of polystyrene were weighed into a glass vial followed by the weighed addition of solvent(s) to prepare a composition of the desired concentrations of organic semiconductor and optional polystyrene in the composition and the desired weight ratio of solvents for compositions that contained more than one solvent. The vial was capped, and then wrapped with aluminum foil to shield the composition from light. The vial was placed on a IKA LABORTECHNIK HS501 shaker (IKA Werke GmbH & Co. KG, Staufen, Germany) and shaken for a minimum of 12 hours.」(35頁25行ないし36頁2行)
(訳:溶媒及び有機半導体の組成物の調製-組成物調製方法I
ある量の有機半導体と,ある所望量のポリスチレンを,ガラス製バイアル中に秤量し,重さを測定した追加の溶媒を加えて,複数の溶媒を含む組成物の構成及び望ましい溶媒重量比での,望ましい濃度の有機半導体及び所望によるポリスチレンの組成物を調製した。バイアルにキャップをし,アルミホイルで覆って化合物を光から遮断した。このバイアルを,IKA LABORTECHNIK HS501振盪器(IKA Werke GmbH & Co.KG(ドイツ・スタウフェン))に入れ,最低12時間振盪した。)」
(キ)「Substrate E was an n-type silicon wafer with thermal oxide (a silicon <100> wafer highly doped n+ (arsenic) with a resistivity of less than 0.005 ohm-cm, and supplied with a 1000 Angstrom thermal oxide (SiO_(2)) on the front surface and coated with 100 Angstrom titanium nitride and 5000 Angstrom aluminum on the back surface) from Noel Technologies, Inc. (Campbell, CA). 」(38頁11行ないし15行)
(訳:基材Eは,Noel Technologies,Inc.(カリフォルニア州キャンベル)から入手された,熱酸化物を備えたn型シリコンウエハであった(シリコン<100>ウエハ,高度にドーピングされたn+(砒素),固有抵抗0.005ohm-cm未満,1000オングストロームの熱酸化物(SiO_(2))がフロント面に供給され,100オングストロームの窒化チタンと5000オングストロームのアルミニウムが裏面にコーティングされている)。)
(ク)「Preparation of Transistors by InkJet Printing - Semiconductor Deposition Method I
Compositions were deposited onto the layered transistor structures using an inkjet printer (commercially available under the trade designation DIMATIX 2800 series, available from Fujifilm Dimatix, Inc., Santa Clara, CA) in one of three print patterns, each with an individual drop volume of 10 pico liters. The compositions were passed through a 0.2 micrometer filter as they were loaded into inkjet cartridges (Model No. DMCLCP-11610, from Fujifilm Dimatix, Inc., Santa Clara, CA). The inkjet head and the platen on which the layered transistor structures were placed were held at a temperature of approximately 30℃. The distance from the inkjet head to the substrate was approximately 1 millimeter. For Print Pattern 1, 52 drops of a composition were deposited in a 13 x 4 drop matrix (the center-to-center spacing of the drops was 40 micrometers) onto each transistor. For Print Pattern 2, 99 drops of a composition were deposited in an 11 x 9 drop matrix (the center-to-center spacing of the drops was 40 micrometers) onto each transistor. For Print Pattern 3, 121 drops of a composition were deposited in an 11 x 11 drop matrix (the center-to-center spacing of the drops was 30 micrometers) onto each transistor. These various X x Y drop matrices were deposited such that the X drops ran in the same sense (e.g., direction) as the channel width and the Y drops ran in the same sense as the channel length. Each composition was allowed to dry at 30℃ while on the platen during printing of the substrate, and then at room temperature after printing was completed. The mobility was determined approximately 1 hour to 24 hours after the compositions were deposited.」(43頁10行ないし30行)
(訳:インクジェット印刷によるトランジスタの作製-半導体堆積方法I
組成物は,インクジェットプリンタ(Fujifilm Dimatix,Inc.(カリフォルニア州サンタクララ)から商標名DIMATIX 2800シリーズとして市販)を使用して,3つの印刷パターンのうち1つで層状トランジスタ構造に堆積され,このそれぞれが個々の液滴体積10ピコリットルであった。組成物は,インクジェットカートリッジ(Fujifilm Dimatix,Inc.(カリフォルニア州サンタクララ)から販売されているモデルNo.DMCLCP-11610)に搭載される際に,0.2マイクロメートルのフィルタを通過した。このインクジェットヘッドと,層状トランジスタ構造が置かれる圧盤は,約30℃の温度に維持された。インクジェットヘッドから基材までの距離は約1ミリメートルであった。プリントパターン1について,組成物52滴が,各トランジスタの13×4滴マトリックス内(液滴の中心間間隔は40マイクロメートル)に堆積された。プリントパターン2について,組成物99滴が,各トランジスタの11×9滴マトリックス内(液滴の中心間間隔は40マイクロメートル)に堆積された。プリントパターン3について,組成物121滴が,各トランジスタの11×11滴マトリックス内(液滴の中心間間隔は30マイクロメートル)に堆積された。X滴がチャネル幅と同じ意味(例えば方向)になり,Y滴がチャネル長さと同じ意味になるように,これらのさまざまなX×Y液滴マトリックスが堆積された。各組成物は,基材の印刷中に圧盤上で30℃で乾燥され,次に印刷が完了した後,室温で乾燥された。移動度は,組成物が堆積されてから約1?24時間後に測定された。)
(ケ)「Mobility Value Test Method I
The saturation field effect mobility (μ) was determined using two Source Measure Units (Model 2400 from Keithley Instruments, Inc. (Cleveland, OH)). The devices were placed on an S-1160 Series probe station and probes connected using S-725-PRM manipulators (both available from Signatone Corp., Gilroy, CA). The drain to source bias voltage (V_(DS)) was held at -40 V, while the gate to source bias (V_(GS)) was incremented over the range +10 V to -40 V in 1 V steps. The drain-source current (I_(DS)) was measured as a function of gate-source voltage bias (V _(GS)) from +10V to -40V at a constant drain- source voltage bias (V_(DS)) of -40V. The saturation field effect mobility (μ) was calculated from the slope of the linear portion of the plot of the square root of I_(DS) versus V_(GS) using the equation
I_(DS) = μWC(V_(GS) -V_(t))^(2)÷2L
where C is the specific capacitance of the gate dielectric, W is the channel width, and L is the channel length. For some transistor samples prepared using Substrate E, the gate to source bias (V_(GS)) was incremented over the range +20 V to -40 V in 1.2 V steps.」(45頁23行ないし46頁6行)
(訳:移動度試験方法I
2台のソースメジャーユニット(モデル2400,Keithley Instruments,Inc.(オハイオ州クリーブランド))を用いて空気中で飽和電界効果移動度(μ)が測定された。この装置はS-1160シリーズプローブステーション上に置かれ,S-725-PRMマニピュレーター(両方ともSignatone Corp.(カリフォルニア州ギルロイ)を使用してプローブが接続された。ドレイン・ソース間バイアス電圧(VDS)を-40Vに維持し,ゲート・ソース間バイアス(VGS)を+10V?-40Vの範囲で1V刻みで増加させた。ドレイン・ソース間電圧バイアス(VDS)を一定の-40Vに維持し,ゲート・ソース間電圧バイアス(VGS)の+10V?-40Vの範囲での関数として,ドレイン・ソース間電流(IDS)が測定された。飽和電界効果移動度(μ)は,次の式を使用し,IDSの平方根をVGSに対してプロットし,直線部分の傾きから算出された。
IDS=μWC(V_(GS)-V_(t))^(2)÷2L
式中,Cはゲート絶縁体の固有キャパシタンス,Wはチャネル幅,及びLはチャネル長さである。基材Eを使用して作製された一部のトランジスタ試料については,ゲート・ソース間バイアス(VGS)を,+20V?-40Vの範囲で1.2V刻みで変えた。)」
(コ)「Examples 23-27 and Comparative Example 11
For each of Examples 23-27 and Comparative Example 11, compositions containing 1.8 weight percent TIPS and 0.9 weight percent PS were prepared by Composition Preparation Method I. The solvent or solvent mixtures included in the compositions are indicated in Table 7. Transistors were prepared comprising depositing the compositions onto Substrate E in Print Pattern 3 using Semiconductor Deposition Method I. The average mobility was determined by Mobility Value Test Method I and the data are given in Table 7.

」(53頁10行ないし54頁2行)
(訳:実施例23?27及び比較例11
実施例23?27及び比較例11については,1.8重量パーセントのTIPSと0.9重量パーセントのPSを,組成物調製方法Iに従って調製した。組成物中に含まれた溶媒又は溶媒混合物を,表7に示す。トランジスタは,半導体堆積方法Iを用いてプリントパターン3で基材E上に組成物を堆積させることによって作製された。移動度試験方法Iによって平均移動度が測定され,そのデータが表7に示されている。

)
イ 引用発明
上記ア(コ)の表7における比較例11の記載と,上記ア(ア)ないし(ケ)より,引用文献には,次の発明が記載されていると認められる。
「1.8重量パーセントの6,13-ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(TIPS)と0.9重量パーセントのアタクチックポリスチレン(PS)と溶媒を含む組成物であって,上記溶媒は,3,5-ジメチルアニソールから成る,組成物。」(以下「引用発明1」という。)

(4)本願補正発明と引用発明1との対比
ア 引用発明1における「6,13-ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(TIPS)」がの分子量が5000g/mol以下の分子量を有することは,その分子式(C_(44)H_(54)Si_(2))より明らかである。
そうすると,引用発明1における「1.8重量パーセントの6,13-ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(TIPS)と0.9重量パーセントのアタクチックポリスチレン(PS)と」を含むことは,本願補正発明の「5000g/mol以下の分子量を有する一以上の有機半導体化合物(OSC)」を含むことに相当するといえる。
イ 引用発明1における「溶媒」は「3,5-ジメチルアニソールから成る」から,「有機溶媒」ということができる。
そうすると,本願補正発明の「前記有機溶媒は,3,4-ジメチルアニソールから成ること」と,引用発明1における「上記溶媒は,3,5-ジメチルアニソールから成る」こととは,「前記有機溶媒は,ジメチルアニソールから成る」点で共通するといえる。
ウ 以上から,本願補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は,以下のとおりであると認める。
(ア)一致点
「5000g/mol以下の分子量を有する一以上の有機半導体化合物(OSC)と有機溶媒を含む組成物であって,前記有機溶媒は,ジメチルアニソールから成る,組成物。」
(イ)相違点
本願補正発明の「有機溶媒」は,「3,4-ジメチルアニソールから成る」のに対し,引用発明1における「溶媒」は,「3,5-ジメチルアニソールから成る」点。

(5)本願補正発明と引用発明1との相違点の判断
上記(3)ア(イ)によれば,引用文献には,有機半導体を溶解し,インクジェット印刷により層状トランジスタ構造の堆積が可能な組成物を構成する有機溶媒として,3,5-ジメチルアニソールとともに,3,4-ジメチルアニソールも使用できることが記載されている。
そうすると,引用発明1において,「溶媒」を「3,5-ジメチルアニソールから成る」構成に代えて,「3,4-ジメチルアニソールから成る」構成としても,同様の作用効果が得られることは,引用文献の上記の記載に接した当業者であれば,容易に予測し得るものということができる。
以上から,引用発明1において,相違点に係る構成とすることは,引用文献の記載に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(6)本願補正発明の作用効果について
本願明細書には,本願に係る発明の実施例について,2,4-ジメチルアニソールが溶媒として使用された例1よりも,2,5-ジメチルアニソール,及び2,6-ジメチルアニソールが,それぞれ溶媒として使用された例2及び3の方が改善されている(【0246】ないし【0248】)と記載され,そのうえで,3,4-ジメチルアニソールが溶媒として使用された例4について,次の記載がある。
「例4
本質的に,比較例1が繰り返された。しかしながら,3,4-ジメチルアニソールが溶媒として使用された。HIL-012層は,20μ?100μdsに対して,受容可能に湿潤した。印刷品質は,印刷温度に依存して,40μ?80μdsに対して,良好であるか,少なくとも容可能(当審注.「受容可能」の誤記と認める。)であった。ジェット安定性は,良好であった。ノズル板湿潤は,良好であった。合体間隔は300μmであった。しかしながら,結果は,比較例2および3(当審注.「例2および3」の誤記と認める。)夫々と比べて改善されている。」(【0249】)
本願明細書における例4の記載では,インクジェット印刷時における「HIL-012層」の湿潤,印刷品質,ジェット安定性,及びノズル板湿潤といった指標について,「受容可能」や「良好」との判定結果が記載されているものの,上記指標が如何なる方法で検査又は測定され,上記判定結果が如何なる客観的基準に基づくものであるのかが不明であり,本願明細書における「例4」の記載からは,3,4-ジメチルアニソールが溶媒として使用された場合に,格別の作用効果を奏するとは認められない。
そして,仮に,本願明細書の「例4」に関する記載に,3,4-ジメチルアニソールが溶媒として使用された場合の作用効果が記載されているとしても,3,5-ジメチルアニソールが溶媒として使用された場合(【0135】)や,ドデカン等の7ないし14個の炭素原子を有するアルカンである湿潤剤が溶媒に含まれる場合(【0170】ないし【0175】)との作用効果上の比較は記載されていないので,本願明細書の「例4」に関する記載からは,これらの場合に比べて,格別の作用効果を奏するとは認められない。
さらに,引用文献には,有機半導体が溶解される溶媒混合物は,ドデカン等の6?16個の炭素原子を有するアルカン,及び3,4-ジメチルアニソールや3,5-ジメチルアニソール等の芳香族化合物を含み(上記(3)ア(イ)),溶媒混合物にアルカンを加えることで,基材上の組成物の接触角を下げ,組成物と基材との間の接触ラインのピン固定を低減するのに役立ち,その結果,堆積層全体にわたって結晶生成が生じ,基材表面に沿って成長する傾向があり,かなり均一な半導体層がもたらされる傾向がある(上記(3)ア(エ))旨の記載があり,当該記載を参酌すれば,本願補正発明のように,3,4-ジメチルアニソールから成る溶媒を用いた場合よりも,3,4-ジメチルアニソールにアルカンを加えた溶媒混合物を用いた場合の方が,インクジェット印刷時における印刷の品質は改善されると推認することもできる。
そうすると,本願補正発明は,「前記有機溶媒は,3,4-ジメチルアニソールから成る」との構成により,格別の作用効果を奏するとは認められない。
以上から,本願補正発明が奏する効果は,引用発明1において,引用文献の記載に基づいて,当業者が容易に予測し得るものと認める。

(7)小括
本件補正後の請求項1に係る発明(本願補正発明)は,引用文献の記載に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 むすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明の容易想到性について

1 本願発明について
平成27年7月30日に提出された手続補正書による手続補正は前記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし27に係る発明は,平成27年2月16日に提出された誤訳訂正書に記載されたとおりのものであり,その請求項1の記載は,再掲すると次のとおりである。(以下,本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)
「【請求項1】
5000g/mol以下の分子量を有する一以上の有機半導体化合物(OSC)と一以上の有機溶媒を含む組成物であって,前記有機溶媒は,少なくとも60重量%の3,4-ジメチルアニソールを含むことを特徴とする,組成物。」

2 引用文献の記載と引用発明
引用文献の記載は,前記第2の4(3)アのとおりである。
そして,前記第2の4(3)ア(イ),及び前記第2の4(3)ア(コ)の表7における実施例23ないし26の記載と,前記第2の4(3)ア(ア)及び(ウ)ないし(ケ)より,引用文献には,次の発明が記載されていると認められる。
「1.8重量パーセントの6,13-ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(TIPS)と0.9重量パーセントのアタクチックポリスチレン(PS)と溶媒混合物を含む組成物であって,上記溶媒混合物は,88?97重量パーセントの3,5-ジメチルアニソールと3?12重量パーセントのドデカン,若しくはドデカンとデカンとの混合物とから成る,組成物。」(以下「引用発明2」という。)

3 本願発明と引用発明2との対比
ア 前記第2の4(4)アより,引用発明2における「1.8重量パーセントの6,13-ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(TIPS)と0.9重量パーセントのアタクチックポリスチレン(PS)と」を含むことは,本願発明の「5000g/mol以下の分子量を有する一以上の有機半導体化合物(OSC)」を含むことに相当するといえる。
イ 引用発明2における「溶媒化合物」は「88?97重量パーセントの3,5-ジメチルアニソールと3?12重量パーセントのドデカン,若しくはドデカンとデカンとの混合物とから成る」から,「有機溶媒」ということができる。
そうすると,本願発明の「前記有機溶媒は,少なくとも60重量%の3,4-ジメチルアニソールを含む」ことと,引用発明2における「上記溶媒混合物は,88?97重量パーセントの3,5-ジメチルアニソールと3?12重量パーセントのドデカン,若しくはドデカンとデカンとの混合物とから成る」こととは,「前記有機溶媒は,少なくとも60重量%のジメチルアニソールを含む」点で共通するといえる。
ウ 以上から,本願発明と引用発明2との一致点及び相違点は,以下のとおりであると認める。
(ア)一致点
「5000g/mol以下の分子量を有する一以上の有機半導体化合物(OSC)と有機溶媒を含む組成物であって,前記有機溶媒は,少なくとも60重量%のジメチルアニソールを含む,組成物。」
(イ)相違点
本願発明の「有機溶媒」は,「3,4-ジメチルアニソール」を含むのに対し,引用発明2における「溶媒化合物」は,「3,5-ジメチルアニソール」を含む点。

(5)本願発明と引用発明2との相違点の判断
前記第2の4(3)ア(イ)によれば,引用文献には,有機半導体を溶解し,インクジェット印刷により層状トランジスタ構造の堆積が可能な組成物を構成する有機溶媒として,3,5-ジメチルアニソールとともに,3,4-ジメチルアニソールも使用できることが記載されている。
そうすると,引用発明2において,「溶媒化合物」に「88?97重量パーセントの3,5-ジメチルアニソール」を含む構成に代えて,「88?97重量パーセントの3,4-ジメチルアニソール」を含む構成としても,同様の作用効果が得られることは,引用文献の上記の記載に接した当業者であれば,容易に予測し得るものということができる。
以上から,引用発明2において,少なくとも60重量%の3,4-ジメチルアニソールを含む構成(相違点に係る構成)とすることは,引用文献の記載に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(6)本願発明の作用効果について
前記第2の4(6)の理由により,本願発明は,「有機溶媒は,少なくとも60重量%の3,4-ジメチルアニソールを含む」との構成により,格別の作用効果を奏するとは認められず,本願発明が奏する効果は,引用発明2において,引用文献の記載に基づいて,当業者が容易に予測し得るものと認める。

4 小括
本願の請求項1に係る発明(本願発明)は,引用文献の記載に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


第4 結言

以上検討したとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項び規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-12 
結審通知日 2017-01-17 
審決日 2017-01-30 
出願番号 特願2012-545149(P2012-545149)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩本 勉鈴木 聡一郎  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 河口 雅英
加藤 浩一
発明の名称 有機電子(OE)素子製造のための組成物  
代理人 砂川 克  
代理人 野河 信久  
代理人 河野 直樹  
代理人 堀内 美保子  
代理人 佐藤 立志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 峰 隆司  
代理人 岡田 貴志  
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